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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01B
審判 全部無効 特174条1項  A01B
審判 全部無効 発明同一  A01B
審判 全部無効 2項進歩性  A01B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A01B
管理番号 1326167
審判番号 無効2016-800072  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-06-17 
確定日 2017-03-13 
事件の表示 上記当事者間の特許第5922695号発明「畦塗り機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
平成26年 4月 7日:出願(特願2014-78398号)
(特願2001-265939号(平成13年9月3日出願)の一部を新たな特許出願とした特願2012-25233号(平成24年2月8日出願)の一部を新たな特許出願としたもの。)
平成28年 4月22日:設定登録(特許第5922695号)
平成28年 6月17日:本件審判請求
平成28年 8月29日:被請求人より審判事件答弁書提出
平成28年 9月20日:審理事項通知書(起案日)
平成28年10月 7日:被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年10月21日:請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年11月 2日:被請求人より上申書提出
平成28年11月 4日:口頭審理


第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし4に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)は、特許明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される次のとおりのものと認める(1Aないし4Bの分説は請求人の主張に基づく)。

「 【請求項1】
1A 泥土を切削して畦に供給する土盛体と、
前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体と、
を有する畦塗り機であって、
1B 前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され、
1C 前記整畦体は、
上面修復体と、
複数の整畦板と、
連結部材とを有し、
1D 前記上面修復体は、前記整畦体の回転軸に設けられ、
1E 前記複数の整畦板は、同方向に配設され、
1F 隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、
1G 隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される
1H ことを特徴とする畦塗り機。

【請求項2】
2A 前記連結部材は、少なくとも前記整畦板の外周縁部に固着される
2B ことを特徴とする請求項1に記載の畦塗り機。

【請求項3】
3A 前記連結部材は、曲面を有している
3B ことを特徴とする請求項1に記載の畦塗り機。

【請求項4】
4 前記連結部材は、隣接する前記整畦板のうち境界部において整畦面側に突となる方の境界部が前記連結部材から突出されるように固着される
4B ことを特徴とする請求項1に記載の畦塗り機。」


第3 当事者の主張
1 請求人の主張及び提出した証拠の概要
請求人は、特許第5922695号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、審判請求書、平成28年10月21日付け口頭審理陳述要領書を提出するとともに、証拠方法として、甲第1ないし9号証を提示し、以下の無効理由を主張した。

<主張の概要>
(1) 無効理由1(拡大先願)
本件発明1ないし4は、本件特許の出願の日(審決注;本件出願の遡及日。下記「本件特許の出願後」についても同様。)の前の特許出願であって本件特許の出願後に公開された先願である特願2001-263896号(特開2003-70301号公報:甲第1号証)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許の発明者が先願の発明者と同一ではなく、また本件特許の出願時の出願人が先願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(2) 無効理由2(新規性及び進歩性)
本件発明1ないし4は、甲第9号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。
本件発明1ないし4は、甲第9号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
本件発明1ないし4は、甲第9号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された公知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

(3) 無効理由3(新規事項)
平成27年4月20日付け手続補正書による補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。
したがって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきものである。

(4) 無効理由4(明確性要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていないものである。
またこの請求項1を引用する請求項2ないし4の記載も、同様に不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件(明確性要件)を満たしていないものである。
したがって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(5) 無効理由5(サポート要件)
本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないものである。
またこの請求項1を引用する請求項2ないし4の記載も、同様に特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしていないものである。
したがって、本件発明1ないし4についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

<具体的理由>
(6) 無効理由1(拡大先願)について
ア 本件発明1について
(ア) 甲1発明について(請求書9頁4行?11頁最下行)
「甲第1号証(先願明細書)には、次の事項が記載されている・・・【図2】及び【図3】には、連結板部35が作用板21の各境界部に沿って設けられ、隣接する作用板21の間に段差が形成された構成が記載されている。
したがって、甲第1号証には、上記の記載事項等からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

<甲1発明>
「1A 泥土を切削して畦に供給する盛土手段11と、前記盛土手段11の後方に位置して、前記盛土手段11により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する畦塗り手段12と、を有する畦塗り機5であって、
1C 前記畦塗り手段12は、上面塗り体18と、複数の作用板21と、連結板部35とを有し、
1D 前記上面塗り体18は、前記畦塗り手段12の回転軸17に設けられ、
1E 前記複数の作用板21は、同方向に配設され、
1F 隣接する前記作用板21同士は、前記作用板21の各境界部に沿って設けられた前記連結板部35で連結され、
1G 隣接する前記作用板21の間に段差が形成される
1H 畦塗り機5。」

(イ) 一致点と相違点について(請求書23頁3行?24頁6行)
「本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「盛土手段11」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「畦塗り手段12」は、「整畦体」に、
「畦塗り機5」は、「畦塗り機」に、
「上面塗り体18」は、「上面修復体」に、
「作用板21」は、「整畦板」に、
「連結板部35」は、「連結部材」に、
「回転軸17」は、「回転軸」に、
「段差」は、「段差部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一致する。

<一致点>
「1A 泥土を切削して畦に供給する土盛体と、前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体と、を有する畦塗り機であって、
1C 前記整畦体は、上面修復体と、複数の整畦板と、連結部材とを有し、
1D 前記上面修復体は、前記整畦体の回転軸に設けられ、
1E 前記複数の整畦板は、同方向に配設され、
1F 隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、
1G 隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される
1H ことを特徴とする畦塗り機。」

他方、本件発明1と甲1発明とは、以下の点で一応相違する。

<相違点(一応の相違点)>
本件発明1では、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるのに対し、
甲1発明は、そのような発明特定事項(構成1B)を具備していない点。」

(ウ) 相違点に対する周知技術について(請求書24頁8行?26頁下から6行)
「a 甲第2号証には、上述したとおり、畦塗り機に関し、前処理体15及び整畦体16の作用深さは、畦塗り機が備えるゲージホイール24と該ゲージホイール24の上下移動を調節する上下調節ハンドル25と整畦体上下調整装置23とによって調節されることが記載されている。
そして、甲第2号証に記載された「前処理体15」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「整畦体16」は、「整畦体」に、
「ゲージホイール24」は、「接地輪」に、
「上下調節ハンドル25」は、「上下調節装置」に、
「整畦体上下調整装置23」は、「作業部回動装置」に相当する。
したがって、甲第2号証には、畦塗り機に関し、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されることが記載されているといえる。

b 甲第3号証には、上述したとおり、畦塗り機に関し、ロータリー66及び畦塗り体34の作用深さは、畦塗り機が備えるゲージ輪76と該ゲージ輪76の上下移動を調節する調節体77と畦塗り体用の調節体63とによって調節されることが記載されている。
そして、甲第3号証に記載された「ロータリー66」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「畦塗り体34」は、「整畦体」に、
「ゲージ輪76」は、「接地輪」に、
「調節体77」は、「上下調節装置」に、
「畦塗り体用の調節体63」は、「作業部回動装置」に相当する。
したがって、甲第3号証には、畦塗り機に関し、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されることが記載されているといえる。

c 甲第4号証には、上述したとおり、畦塗り機に関し、盛土ロータリー4及び畦塗り体5の作用深さは、畦塗り機が備える規制輪116と該規制輪116の上下移動を調節する支柱115と盛土ロータリー用の第1の調節手段78とによって調節されることが記載されている。
そして、甲第4号証に記載された「盛土ロータリー4」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「畦塗り体5」は、「整畦体」に、
「規制輪116」は、「接地輪」に、
「支柱115」は、「上下調節装置」に、
「盛土ロータリー用の第1の調節手段78」は、「作業部回動装置」に相当する。
したがって、甲第4号証には、畦塗り機に関し、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されることが記載されているといえる。

d 甲第5号証には、上述したとおり、畦塗り機に関し、前処理体6及び整畦体7の作用深さは、畦塗り機が備えるゲージホイール23と該ゲージホイール23の上下移動を調節する上下調節支持部24と整畦体用の回動ハンドル21とによって調節されることが記載されている。
そして、甲第5号証に記載された「前処理体6」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「整畦体7」は、「整畦体」に、
「ゲージホイール23」は、「接地輪」に、
「上下調節支持部24」は、「上下調節装置」に、
「整畦体用の回動ハンドル21」は、「作業部回動装置」に相当する。
したがって、甲第5号証には、畦塗り機に関し、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されることが記載されているといえる。

e 甲第6号証には、上述したとおり、畦塗り機に関し、土盛装置2及び畦形成装置3の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪9と該接地輪9の上下移動を調節するハンドル20と畦形成装置用の伸縮装置11とによって調節されることが記載されている。
そして、甲第6号証に記載された「土盛装置2」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「畦形成装置3」は、「整畦体」に、
「接地輪9」は、「接地輪」に、
「ハンドル20」は、「上下調節装置」に、
「畦形成装置用の伸縮装置11」は、「作業部回動装置」に相当する。
したがって、甲第6号証には、畦塗り機に関し、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されることが記載されているといえる。

f 上記の「a?e」から明らかなとおり、畦塗り機において、土盛体及び整畦体の作用深さが、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるように構成することは、本件特許の原出願日前において周知の技術である。」

(エ) 関連出願における補正の却下の決定(甲第7号証)について(請求書27頁2行?28頁13行)
「本件発明1と甲1発明との上記相違点が、周知技術の付加であって設計上の微差に過ぎないことは、本件特許の出願と関連する分割出願・・・の補正の却下の決定(甲第7号証)からも裏付けられる。
・・・当該相違点(2)に関して、補正の却下の決定の第2頁第12行ないし第20行には、
「次に、上記相違点(2)について検討する。
畦塗り機において、土盛体及び整畦体の作用深さが、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるように構成することは、引用文献6(特に、[0014]を参照)、引用文献8(特に、[0035]?[0036],[0041]を参照)、及び引用文献9(特に、[0095]?[0096],[0100]を参照)に記載されているように、従来周知の技術事項である。
そうすると、上記相違点(2)は、周知技術の付加に相当し、それによって本願請求項1に係る発明が新たな効果を奏するものでもないから、かかる相違点は設計上の微差に過ぎない。」
と記載されている。
そして、上記記載からしても、本件発明1と甲1発明との上記相違点が、周知技術の付加であって設計上の微差に過ぎないことは、明らかというべきである。
・・・なお、補正の却下の決定中の引用文献6が甲第2号証であり、引用文献8が甲第3号証であり、引用文献9が甲第4号証である。」

イ 本件発明2について(請求書28頁15?19行)
「本件発明2は、本件発明1に対して、「前記連結部材は、少なくとも前記整畦板の外周縁部に固着される」という構成2Aを付加したものである。
しかしながら、甲1発明の連結板部35(「連結部材」に相当)は、作用板21(「整畦板」に相当)の外周縁部に固着されているため、甲第1号証には本件発明2の構成2Aが記載されている。」

ウ 本件発明3について(請求書28頁22?25行)
「本件発明3は、本件発明1に対して、「前記連結部材は、曲面を有している」という構成3Aを付加したものである。
しかしながら、甲1発明の連結板部35(「連結部材」に相当)は、曲面を有していることから、甲第1号証には本件発明3の構成3Aが記載されている。」

エ 本件発明4について(請求書29頁2?8行)
「本件発明4は、本件発明1に対して、「前記連結部材は、隣接する前記整畦板のうち境界部において整畦面側に突となる方の境界部が前記連結部材から突出されるように固着される」という構成4Aを付加したものである。
しかしながら、甲1発明の連結板部35(「連結部材」に相当)は、隣接する作用板21(「整畦板」に相当)のうち境界部において整畦面側に突となる方の境界部が連結板部35から突出されるように固着されている。
このため、甲第1号証には、本件発明4の構成4Aが記載されている。」

オ 相違点についての付言(請求書29頁14行?30頁最下行)
「なお付言すると、本件特許の出願に係る平成27年9月17日起案の拒絶理由通知書(甲第8号証)の第7頁第17行ないし第29行には、以下の記載がある。
「したがって、本願請求項1と先願1(請求人注:甲第1号証)の開示とは、・・・
という点で一致し、相違点はない。」
・・・そして、上記記載からみて、本件発明1と甲第1号証記載の発明との相違が上記相違点に係る構成1Bのみであることは明らかである。

また、同拒絶理由通知書の第8頁第1行ないし第9行には、以下の記載がある。
「・・・すなわち、本願従属請求項2-4も、先端1(審決注;該拒絶理由通知書では「先願1」と記載されている。)の開示と一致する。・・・」
・・・そして、上記記載からみて、本件発明2?4の構成2A,3A,4Aが甲第1号証に記載されていることは明らかである。」

(7) 無効理由2(新規性及び進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 甲9発明について(請求書31頁3行?34頁14行)
「本件特許の原出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている。・・・
【図1】には、取付片73が泥土塗付け板67の各境界部に沿って設けられ、隣接する泥土塗付け板67の間に段差部81が形成された構成が記載されている。

したがって、甲第9号証には、上記の記載事項等からみて、次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されている。

<甲9発明>
「1A 泥土を切削して畦に供給するロータリー33と、前記ロータリー33の後方に位置して、前記ロータリー33により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する畦塗り体42と、を有する畦塗り機であって、
1C 前記畦塗り体42は、上面修復体44と、複数の泥土塗付け板67と、取付片73とを有し、
1D 前記上面修復体44は、前記畦塗り体42の回転軸40,63に設けられ、
1E 前記複数の泥土塗付け板67は、同方向に配設され、
1F 隣接する前記泥土塗付け板67同士は、前記泥土塗付け板67の各境界部に沿って設けられた前記取付片73で連結され、
1G 隣接する前記泥土塗付け板67の間に段差部81が形成される
1H 畦塗り機。」

(イ) 一致点と相違点について(請求書36頁3行?37頁6行)
「本件発明1と甲9発明とを対比すると、甲9発明の「ロータリー33」は、本件発明1の「土盛体」に相当し、以下同様に、
「畦塗り体42」は、「整畦体」に、
「畦塗り機5」は、「畦塗り機」に、
「上面修復体44」は、「上面修復体」に、
「泥土塗付け板67」は、「整畦板」に、
「取付片73」は、「連結部材」に、
「回転軸40,63」は、「回転軸」に、
「段差部81」は、「段差部」に相当する。
したがって、本件発明1と甲9発明とは、以下の点で一致する。

<一致点>
「1A 泥土を切削して畦に供給する土盛体と、前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体と、を有する畦塗り機であって、
1C 前記整畦体は、上面修復体と、複数の整畦板と、連結部材とを有し、
1D 前記上面修復体は、前記整畦体の回転軸に設けられ、
1E 前記複数の整畦板は、同方向に配設され、
1F 隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、
1G 隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される
1H ことを特徴とする畦塗り機。」

他方、本件発明1と甲9発明とは、以下の点で一応相違する。

<相違点(一応の相違点)>
本件発明1では、土盛体及び整畦体の作用深さは、畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるのに対し、
甲9発明は、そのような発明特定事項(構成1B)を具備していない点」

(ウ) 相違点の検討について(請求書37頁9行?最下行)
「前記無効理由1(拡大先願)で述べたとおり、畦塗り機において、土盛体及び整畦体の作用深さが、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるように構成することは、本件特許の原出願日前において周知の技術であり、当業者にとって技術常識である。
それゆえ、上記相違点に係る本件発明1の構成は、甲第9号証に記載されているに等しい事項であるから、上記相違点は両発明における実質的な相違ではない。
したがって、本件発明1は、甲9発明と実質的に同一である。
また、仮に同一でなくとも、甲9発明において、上記周知技術を採用して、上記相違点に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に想到し得ることである。
したがって、本件発明1は、甲9発明及び周知技術(甲第2号証ないし甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
なお、仮に周知でなかったとしても、本件発明1は、甲9発明及び公知技術(甲第2号証ないし甲第6号証)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。」

(エ) 甲9発明における「取付基板66」について(口頭審理陳述要領書7頁17?21行)
「・・・甲第9号証の【請求項2】及び【0011】等の記載からみて、甲9発明は、円錐形状のベース体である「取付基板66」を必須の構成とするものではないから、甲9発明の「取付片73」は本件発明1の「連結部材」に相当する。
それゆえ、甲9発明は構成要件1Fを具備しており、この構成要件1Fは一致点である。」

イ 本件発明2について(請求書38頁2?5行)
「本件発明2は、本件発明1に対して、「前記連結部材は、少なくとも前記整畦板の外周縁部に固着される」という構成2Aを付加したものである。
しかしながら、甲9発明の取付片73(「連結部材」に相当)は、その突片75が泥土塗付け板67(「整畦板」に相当)の外周縁部に固着されている。」

ウ 本件発明3について(請求書38頁14?18行)
「本件発明3は、本件発明1に対して、「前記連結部材は、曲面を有している」という構成3Aを付加したものである。
しかしながら、甲9発明の取付片73は、隣接する泥土塗付け板67の径小部68の一方の取付孔71に連通する連通孔74を形成した突片75を有したものであって、曲面を有している。」

エ 本件発明4について(請求書39頁2?7行)
「本件発明4は、本件発明1に対して、「前記連結部材は、隣接する前記整畦板のうち境界部において整畦面側に突となる方の境界部が前記連結部材から突出されるように固着される」という構成4Aを付加したものである。
しかしながら、甲9発明の取付片73は、隣接する泥土塗付け板67のうち境界部において、整畦面側に突となる方の境界部が取付片73から突出されるように固着されている。」

(8) 無効理由3(新規事項)について(請求書40頁2行?42頁9行)
「平成27年4月20日付け手続補正書(2回目)による補正(以下「本件補正」という。)は、以下のとおり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていないものである。
本件補正前における請求項1に「隣接する前記整畦板同士は前記連結部材で連結され、」とあったところ、
本件補正によって、「隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、」(以下「補正事項A」という。)と補正され、連結部材の構成が限定された。
しかし、・・・当初明細書等の【0024】には、「さらに、図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」と記載されているところ、当初明細書等には「重なり部分に沿って設けた連結片」しか記載されておらず、「境界部(重なり部分を有しない境界部)に沿って設けられた連結部材」は記載も示唆もされていない。
より具体的に説明すると、
補正事項Aにおける「前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材」という記載は、
「重なり部分を有する各境界部のうちその重なり部分に沿って設けられた連結部材(連結片)」・・・)に加え、
「重なり部分を有しない各境界部に沿って設けられた連結部材(連結片)」・・・をも含むものである。
しかしながら、当初明細書等には「重なり部分に沿って設けた連結片」しか記載されておらず、補正事項Aは、当初明細書等に開示がなかった新たな技術的事項・・・を追加導入するものである。・・・
また、次のことからも、本件補正が補正要件違反であることは明らかである。
本件発明は、「(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成したので、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」(【0031】)という作用効果を奏するものであるから、整畦板が重なり部分を有することは、当該作用効果を奏するために必須の構成である。
また、本件発明は、「所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」(【0003】)との課題を解決しようとするものであるから、整畦板が重なり部分を有することは、当該課題を解決するためにも必須の構成である。
つまり、整畦板が重なり部分を有しない構成では、泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するため、元畦に塗りつけられる泥土が不足し、その結果、所望の(十分な)元畦修復が行えず、当該課題を解決できない。

したがって、本件発明は、作用効果や課題からみて、整畦板が重なり部分を有することを前提としたもの・・・・であるから、整畦板が重なり部分(青色部分)を有しない構成は、もともと当初明細書等から排除されていたものであるといわざるを得ない。
よって、下の参考図2に示すような整畦板が重なり部分を有しない構成を追加する補正事項Aは、新規事項追加に該当する。」

(9) 無効理由4(明確性要件)について
ア 請求書における主張(請求書43頁4?15行)
「本件特許の請求項1には、「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され、」との記載があり、この記載中の「作業部回動装置」とは、その文言から「作業部を回動させる装置」という意味である。
しかしながら、まず、そもそも、「作業部」とは、具体的にどの部分を指すのか不明である。また、「作業部」を何に対してどこを中心としてどの方向に回動させるのかについても、何ら特定されておらず不明である。
上記のことから、「作業部回動装置」とは、その文言から「作業部を回動させる装置」という意味であるとしても、具体的にどのような装置であるのか理解できない。
それゆえ、本件発明1は不明確であり、またこの本件発明1を引用する本件発明2ないし4も不明確である。」

イ 口頭審理陳述要領書における主張(口頭審理陳述要領書8頁下から7行?9頁4行)
「・・・本件請求項1には、「・・・作業部回動装置とによって調節され・・・」と記載されているに過ぎず、「作業部回動装置」が土盛体及び整畦体の両方を回動させるという発明特定事項は何ら記載されていない。
しかも、本件明細書をみても、「作業部回動装置」中の「作業部」が、土盛体及び整畦体の両方を意味すると解すべき定義等の明確な根拠は見当たらない。・・・
また、被請求人は、本件明細書の【0013】、【0018】及び【0026】の記載を引用して「作業部回動装置」が明確である旨を主張しているが、「作業部回動装置」による作用深さの調節についての具体的な説明はなく、被請求人が引用した本件明細書の記載を考慮しても「作業部回動装置」の意味内容を理解できない。」

(10) 無効理由5(サポート要件)について(請求書43頁21?44頁6行)
「本件特許の請求項1における「前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材」との記載は、前記無効理由3(新規事項)でも述べたように、「重なり部分を有する各境界部のうちその重なり部分に沿って設けられた連結部材」に加え、「重なり部分を有しない各境界部に沿って設けられた連結部材」をも含むものであるから、本件発明1ないし4は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものではない。
すなわち、整畦板が「重なり部分」を有しない場合には、泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するため、元畦に塗りつけられる泥土が不足し、その結果、所望の(十分な)元畦修復が行えず、本件発明の課題を解決できないため、「重なり部分」は課題解決のために必須の構成である。
それゆえ、「重なり部分」を有しない本件発明1ないし4は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものではない。」

(11) 本件発明の構成等についての補足
ア 作業部回動装置が「一体的に調節」することについて(口頭審理陳述要領書4頁下から5行?5頁11行、10頁12行?15頁18行)
「・・・本件請求項1をみても、「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され、」(下線は請求人が付した。以下同様。)と記載されているに過ぎず、「作業部回動装置」が土盛体及び整畦体の作用深さを一体的に調整するものであるとの限定的な記載はない。・・・したがって、本件発明1の「作業部回動装置」には、土盛作業をする作業部である土盛体のみを回動させる装置や、整畦作業をする作業部である整畦体のみを回動させる装置が含まれるから、
・甲第2号証の「整畦体上下調整装置23」、
・甲第3号証の「畦塗り体用の調節体63」、
・甲第4号証の「盛土ロータリー用の第1の調節手段78」、
・甲第5号証の「整畦体用の回動ハンドル21」、
・甲第6号証の「畦形成装置用の伸縮装置11」は、
いずれも本件発明1の「作業部回動装置」に相当する。」

「・・・本件請求項1では、畦塗り機が備える3つの要素である、
○1「接地輪」
○2「(接地輪の上下移動を調節する)上下調節装置」
○3「作業部回動装置」
を用いて調節される対象が、土盛体及び整畦体の両方の作用深さであることが規定されている。・・・
したがって、○3「作業部回動装置」のみによって調節される対象は、土盛体及び整畦体の両方の作用深さである必要はなく、土盛体及び整畦体のうちいずれか一方の作用深さでもよい。
・・・つまり、作業部回動装置19は、土盛体5及び整畦体6を作業位置と非作業位置に回動させる際の調節装置であって、支持フレーム7の先端部に位置する連結軸13 ではなく機枠4の基端部に位置する回転軸14を中心として土盛体5及び整畦体6を上下に回動させるものである・・・作業部回動装置19は、回転軸14を中心として土盛体5及び整畦体6を上下に回動させるものであるから、作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、連結軸13を中心として機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等が上下に回動するものではない。
また、本件明細書の【0013】には「・・・畦塗り機1を揚上させたとき、・・・連結軸13を中心として機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等は上下に回動可能となり、」と記載されていることから、畦塗り機1を「非作業位置」まで揚上させた場合にのみ、機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等が連結軸13を中心として回動可能となる。
このため、畦塗り機1が「作業位置」に位置する状態においては、機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等は、連結軸13を中心として回動不可能である。・・・
・・・本件明細書の【0018】の「・・・機枠4の基端部を中心に回動させて・・・土盛体5及び整畦体6を作業位置と非作業位置に回動させる際、その回動作動により土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節可能とした回転ハンドル20を備えた作業部回動装置19・・・」との記載からみて、作業部回動装置19は、機枠4の基端部(回転軸14)を中心として土盛体5及び整畦体6を上下に回動させるものである。
換言すると、作業部回動装置19は、回転軸14を中心として土盛体5及び整畦体6を作業位置と非作業位置に回動させる際の調節装置であり、土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節するものである。
・・・また、作業者は、一方の手で作業部回動装置19の回転ハンドル20を持ち、他方の手で回動用取っ手18を持つことが可能であるから、畦塗り機1を作業位置と非作業位置に回動させる動作が回動用取っ手18を把持して行う動作であるという理由によって、作業部回動装置19が連結軸13を中心として土盛体5及び整畦体6を上下に回動させるものであるということはできない。・・・」

イ 「作業部回動装置」の具体的動作について(口頭審理陳述要領書16頁22行?18頁4行)
「・・・なお付言すると、本件明細書の【0018】の「土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節」及び【0026】の「畦塗り機1の前後作業姿勢を調節」という記載中の「前後(作業)姿勢」とは、そもそもどのような姿勢を意味するのか理解できない。
また、本件明細書のどこをみても「前後(作業)姿勢の調節」に関する説明文はなく、また、本件図面すべてをみても「前後(作業)姿勢の調節」を示す説明図もない。それゆえ、本件明細書及び図面には、「前後(作業)姿勢の調節」が「作用深さの調節」に対応することは、何ら記載されていない。
さらに、「土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節」([0018])と「畦塗り機1の前後作業姿勢を調節」([0026])とは、「作業」という文言の有無や調節の対象部材が異なるから、その意味内容や技術的意味がそもそも明らかに異なるものである。
また仮に、被請求人による要領書第10頁の動作図に基づく主張を前提とした場合であっても、当該動作図から明らかなように、作業部回動装置19の前後長さを調節しても土盛体5の作用深さは略一定であるから、作業部回動装置19によって、整畦体6の作用深さは調節できたとしても、土盛体5の作用深さは調節できない。
・・・なお付言すると、本件明細書の【0013】には「作業部回動装置19によりトラクタの後部に接近するのを防止する。」と記載されているに過ぎず、「作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、トラクタの後部に接近するのを防止する。」とは記載されていない。・・・」

ウ 作業部の「作用深さ」の調整と本件発明が解決しようとする課題との関係について(口頭審理陳述要領書18頁22行?19頁5行)
「・・・「土盛体及び整畦体の作用深さ」の調節(調整)は、主として「修復後の新畦の高さ調節」を行うためのものであるから、本件発明が解決しようとする課題、すなわち、○1泥土の状態によっては所望の(十分な)元畦修復が行えない場合があるという問題点、及び、○2整畦ドラム(整畦体)の形状や製造上、作用等において改良すべき点があるという問題点(本件明細書[0003])とは、全く関係がない。
仮に、被請求人による要領書第10頁の動作図に基づく主張を前提とした場合であっても、当該動作図(下図参照)から明らかなとおり、土盛体5の作用深さは略一定であるから、「土盛体及び整畦体の作用深さ」の調節(調整)が、「土盛体によって整畦体側に供給される泥土の量の調節」ではなく、「修復後の新畦の高さ調節」を行うためのものであることは明らかである。・・・」

[証拠方法]
甲第1号証:特開2003-70301号公報(先願明細書)
甲第2号証:特開2001-28902号公報
甲第3号証:特開平9-238503号公報
甲第4号証:特開2000-83407号公報
甲第5号証:特開平11-46503号公報
甲第6号証:特開平11-243705号公報
甲第7号証:補正の却下の決定(特願2015-38043号)
甲第8号証:拒絶理由通知書(特願2014-78398号)
甲第9号証:特開平10-313603号公報

2 被請求人の主張及び提出した証拠の概要
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、平成28年8月29日付け審判事件答弁書、平成28年10月7日付け口頭審理陳述要領書、平成28年11月2日付けの上申書を提出し、証拠方法として乙第1ないし9号証を提出して、以下の反論を行った。

[無効理由に対する反論]
(1) 無効理由1(拡大先願)について
ア 本件発明1について
(ア) 特許メモ(乙第5号証)について(答弁書6頁6行?7頁13行)
「本件特許の特許査定時に審査官が平成28年3月17日付けで作成した特許メモ(乙5)・・・のとおり、審査官は、相違点に係る構成が周知技術であるという上記平成27年12月8日付け刊行物等提出書の主張(乙6の1、乙6の2)を検討したうえで、本件特許発明1は甲1発明に基づく拡大先願の拒絶理由を解消していると判断した。
また、請求人が周知技術を基礎づける証拠として提出する甲2及び甲3は、上記平成27年12月8日付け刊行物等提出書において提出された資料8(特願2015-038043 平成27年9月18日(起案日)付け拒絶理由通知(最後))において、周知技術を示す文献として引用された引用文献6及び引用文献8と同じである(乙6の2第46頁)。
よって、請求人が無効理由1として主張する甲1発明に基づく拡大先願の主張は、本件特許発明1の審査段階において既に検討済みの主張である。」

(イ) 相違点とその作用効果等について(答弁書8頁7?25行)
「本件特許発明1と甲1発明との相違点は、本件特許発明1が「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され」るという発明特定事項を備えるにもかかわらず、甲1発明には、そもそも「当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置」がいずれも記載も示唆もされていないという点である。
また、本件特許発明1は、上記相違点に係る構成を備えることによって、作業部回動装置により作業位置を調整することができるとともに、接地輪を上下調整することができるので、作業部回動装置による作業位置の調整と接地輪の上下調節とが相まって、土盛体及び畦整形の作用深さを調節することができるという甲1発明とは異なる新たな作用効果を奏するものである 他方、甲1発明にかかる畦塗り機は、そもそも作業部回動装置、接地輪及び接地輪の上下調節装置のいずれも備えていない。したがって、甲1発明は、土盛体及び畦整形の作用深さを調節するという課題及び当該課題解決のための具体化手段について何ら開示するものではなく、甲1には上記相違点に係る構成の奏する作用効果についても何ら記載も示唆もされていない。」

(ウ) 相違点に対する周知技術について(答弁書10頁8行?14頁9行)
「・・・本件特許発明1の「作業部回動装置」は、整畦作業を行う作業部である「前記土盛体及び前記整畦体」の作用深さを一体的に調節するものであるところ、甲2の「整畦体上下調整装置23」は、「整畦体16」の作用深さを調節するものではあるが、「前処理体15」の作用深さを調節するものではない。・・・よって、甲2には、少なくとも、土盛体及び整畦体の作用深さを調節する「作業部回動装置」が記載されていない。
・・・甲3の畦塗り体用の「調節体63」は、「畦塗り体34」の作用深さを調節するものではあるが、「ロータリー66」の作用深さを調節するものではない。・・・
・・・甲4の「第1の調節手段78」は、「盛土ロータリー4」の作用深さを調節するものではあるが、「畦塗り体5」の作用深さを調節するものではない。・・・
・・・甲5の「回動ハンドル21」は、「整畦体7」の作用深さを調節するものではあるが、「前処理体6」の作用深さを調節するものではない。・・・
・・・甲6の「伸縮装置11」は、「畦形成装置3」の作用深さを調節するものではあるが、「土盛装置2」の作用深さを調節するものではない。
以上により、甲2?甲6には、いずれも、土盛体及び整畦体の作用深さを調節する「作業部回動装置」が記載されていないため、甲2?甲6には「畦塗り機において、土盛体及び整畦体の作用深さが、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるように構成すること」は記載されていない。」

(エ) 関連出願における補正の却下の決定(甲第7号証)について(上記1(6)ア(エ)参照)(答弁書15頁12?17行)
「・・・上記のとおり、甲2?甲6には、いずれも、土盛体及び整畦体の作用深さを調節する「作業部回動装置」が記載されていないため、甲2?甲6には「畦塗り機において、土盛体及び整畦体の作用深さが、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節されるように構成すること」は記載されておらず、周知技術ではない。」

(オ) 無効2016-800022号における判断について(上申書14頁最下行?15頁12行)
「・・・特許第5706569号(別件特許)にかかる無効審判(無効2016-800022)について、平成28年10月11日付けで、請求不成立の審決がなされた(乙第9号証:無効2016-800022 審決書)。当該審決書(乙第9号証)では、無効理由8(29条の2違反)に対する合議体の判断として、当該特許発明との相違点に係る先願発明の構成は、当該先願発明において必須のものであるから、仮に当該先願発明との相違点に係る構成が周知技術であるとしても、当該相違点に係る構成にすることが、当該先願発明に記載されているに等しいとすることはできない旨(乙第9号証 67頁1?5行)を判断している。
上記審決の判断は、先願発明との相違点に係る構成が周知技術であるか否かに関わらず、当該相違点を実質的な相違点であると評価して、発明の同一性を否定したものである。」

イ 本件発明2ないし4について(答弁書16頁1?3行)
「上述したとおり、本件特許発明1と甲1発明とが実質同一ではない以上、本件特許発明1の発明特定事項を全て含む本件特許発明2?4も、甲1発明と実質同一ではない。」

(2) 無効理由2(新規性及び進歩性)について
ア 本件発明1について
(ア) 構成要件「1F」について(答弁書16頁18行?18頁24行)
「請求人は、甲9の「取付片73」が本件特許発明1の「連結部材」に相当すると主張する(36頁9行等)。
しかし、甲9の隣接する「泥土塗付け板67」は、「取付片73」によって相互に連結されるものではないから、甲9の「取付片73」は本件特許発明1の「連結部材」に相当するものではない。
甲9発明は、図5、段落[0056]等に記載されているように、「取付基板66」の外周面に、一方の「泥土塗付け板67」の径小部68の端縁部70を当接し、この径小部68の端縁部70に、他方の「泥土塗付け板67」の径大部69に突設した取付片73を当接することで、「取付基板66」に形成された「挿通孔76」と、一方の「泥土塗付け板67」に形成された「取付孔71」と、他方の「泥土塗付け板67」の取付片73の「突片75」に形成された「連通孔74」とを重ねて配置し、二つの「泥土塗付け板67」を「取付基板66」にボルト77とナット78で締着して順次取り付けるものである。
このように、甲9発明は、「泥土塗付け板67」に一体的に形成された「取付片73」の「突片75」部分を「取付基板66」に締着することによって、順次「泥土塗付け板67」を「取付基板66」に取り付けるものであるから、隣接する「泥土塗付け板67」同士の取付けは「取付片73」のみではできず(「取付片73」は単なる「片」にすぎず、それ自体に「泥土塗付け板67」同士を連結する機能を有しない。)、「取付基板66」が必須の構成となる。
しかし、「取付基板66」は略円錐形状の部材であって、「前記整畦板の各境界部分に沿って設けられた」ものではないため、本件特許発明1の「連結部材」に該当しない。
また、「取付片73」に形成された「突片75」は、各「泥土塗付け板67」を「取付基板66」に連結するのに用いられる部材にすぎず、隣接する「泥土塗付け板67」同士を連結する部材ではないため、本件特許発明1の「連結部材」に該当しない。
本件特許発明1は、畦の側面を修復する整畦体の部分を、「複数の整畦板と、連結部材と」で構成し、「隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結」するという構成によって、甲9発明の「取付基板66」のような円錐形状のベース体を不要とするものである。
したがって、隣接する整畦板同士を取り付けるために「取付基板66」を必須の構成とする甲9発明は、本件特許発明1の「連結部材」を開示するものではない。
よって、請求人が一致点として主張する「1F 隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、」という構成は、甲9発明に記載されておらず、甲9発明は、上記構成要件1Fを具備していない点においても、本件特許発明1と相違する。・・・ 構成要件1Fに係る構成は、甲2?甲6のいずれにも記載も示唆もされていない。」

(イ) 構成要件「1B」について(答弁書18頁最下行?19頁8行)
「本件特許発明1と甲9発明とは、甲9発明が構成要件1Bを具備していない点においても相違する。
上述したとおり、甲2?甲6には、いずれも、土盛体及び整畦体の作用深さを調節する「作業部回動装置」が記載されていないため、甲2?甲6には構成要件1Bに係る「土盛体及び整畦体の作用深さが、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節される」という構成は記載されておらず、周知技術ではない。」

(ウ) 甲9発明において「取付基板66」を用いないことについて(上申書15頁下から2行?16頁8行)
「・・・甲第9号証の【請求項2】及び【0011】の記載をみても、泥土塗付け板の径大部の端縁部を折り曲げて形成した「取付片」に、隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部を取り付けるための具体的な取付方法は何ら記載されていない。甲第9号証に記載されている泥土塗付け板の「取付片」の取付方法は、「取付基板66」を用いる方法のみである。
よって、甲第9号証には、「取付基板66」を用いることなく、「取付片」を用いることによって、隣接する泥土塗付け板を相互に連結する際の具体的構成は記載も示唆もされていない。よって甲9発明は構成要件1Fを具備しない。・・・」

(3) 無効理由3(新規事項)および無効理由5(サポート要件)について
ア 異議2015-700001号及び無効2015-800151号における判断について(答弁書22頁2?23行)
「・・・別件特許(特許第5706569号)に対する別件異議決定(乙1)において、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」との記載に関する新規事項の追加及びサポート要件違反の主張について、「本件特許の当初明細書等には、‥(段落[0003]ないし[0008]、[0022]、[0024]、[0027])、隣接する整畦板27aの境界部分に沿って連結片27c、27cが設けられていること、‥が実質的に記載されているものと認められる。」(新規事項の追加、9頁8?20行)、「本件特許の発明の詳細な説明には、‥(段落[0003]ないし[0008]、[0022]、[0024]、[0027])、隣接する整畦板27aの境界部分に沿って連結片27c、27cが設けられていること、‥が実質的に記載されているものと認められる。」(サポート要件違反、11頁19?31行)と判断されている。
・・・また、原出願特許(特許第5000051号)に対する無効審判(無効2015-800151)の審決書(乙2)において、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材」との記載に関するサポート要件違反の主張について、「本件訂正明細書の発明の詳細な説明又は図面には、‥、本件特許の請求項1に記載された「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結部材で前記隣接する整畦板を相互に連結」し‥が実質的に記載されているものと認められる。」(40頁2?9行)と判断されている。」

イ 無効2016-800022号における判断について(上申書16頁17?25行)
「・・・特許第5706569号(別件特許)にかかる無効審判(無効2016-800022)について、請求不成立の審決がなされた(乙第9号証)。答弁書で主張したとおり、別件特許にかかる無効審判で請求人が主張する無効理由3及び5は、本件審判において請求人が主張する無効理由3及び5(「前記整畦板の境界部分に沿って設けられた」という記載に関する無効理由)を実質的に含むものである。
上記審決では、無効理由3及び5を含むすべての無効理由について理由がないと判断された。」

(4) 無効理由4(明確性要件)について(答弁書20頁6行?21頁16行)
「・・・特許請求の範囲に記載されているとおり、「作業部回動装置」は「畦塗り機」を構成する一部材であり、本件特許明細書段落[0026]等に記載されているように、「畦塗り機1」の「土盛体5及び整畦体6により整畦作業が行われる」のであるから、「作業部」とは、具体的には整畦作業を行う「土盛体」及び「整畦体」を指すことが明らかである。
また、本件特許明細書の段落[0013]に「トラクタのロアリンクをロアリンク連結部3に連結して畦塗り機1を揚上させたとき、ヒッチフレーム11と機枠4の基端部との間の連結軸13を中心として機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等は上下に回動可能となり、畦塗り機1を非作業位置に回動した状態で後述する作業部回動装置19によりトラクタの後部に接近するのを防止する。」、段落[0018]に「前記ヒッチフレーム11と機枠4との間には、畦塗り機1を機枠4の基端部を中心に回動させて機枠4を介して土盛体5及び整畦体6を作業位置と非作業位置に回動させる際、その回動作動により土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節可能とした回転ハンドル20を備えた作業部回動装置19が平面視で前後斜め方向に設けられている。機枠4には、接地輪(コールタ)21が上下調節装置21aを介して設けられている。」、段落[0026]に「回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、トラクタに対する畦塗り機1の前後作業姿勢を調節する。」との記載があり、図1?図3には、「作業部回動装置19」が「畦塗り機1」の進行方向前後(傾斜)方向に長い部材であって(図2等)、その前側が「ヒッチフレーム11」に接続されていること(図1等)、その後側が「機枠4」に接続されていること(図3等)、後方に「ハンドル20」を備えるとともに、「機枠4」を介して「土盛体5」及び「整畦ドラム6」が配置されること(図2等)が記載されている。
したがって、本件特許明細書には、「作業部回動装置19」は、「回転ハンドル20」によりその前後長さを調節することによって、「土盛体5」及び「整畦体6」を非作業位置に回動した状態において「トラクタの後部」に対する「土盛体5」及び「整畦ドラム6」の距離を調節することができるとともに、「土盛体5」及び「整畦体6」を作業位置に回動した状態において「土盛体5」及び「整畦ドラム6」の「前後作業姿勢を調節する」ことができるものであることが記載されている。
以上により、本件特許の請求項1の「作業部回動装置」という記載は、当業者にとって十分理解できる程度に明確であり、請求人の主張する無効理由4には理由がない。」

(5) 本件発明の構成等についての補足
ア 作業部回動装置が「一体的に調節」することについて(口頭審理陳述要領書4頁15行?8頁10行)
「・・・本件請求項1中には「一体的に」という文言自体は記載されていない。しかし、本件請求項1中における「作業部回動装置」は、「作業部」を「回動」する「装置」であるところ、この「作業部回動装置」によって調節される対象が、「作業部」である『土盛体「及び」整畦体』の作用深さであること(「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、‥作業部回動装置とによって調節され」という文言)が明記されている。
この「及び」という文言は、「土盛体」の作用深さ、又は「整畦体」の作用深さのいずれか一方が調節されるだけでは足りず、「作業部」である土盛体「及び」整畦体の作用深さが双方ともに「作業部回動装置」によって調節されることを規定するものである。
よって、本件請求項1中の「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、‥作業部回動装置とによって調節され」という文言、特に回動の対象である「作業部」が「前記土盛体及び前記整畦体」として示されていること、「及び」という文言が、「一体的に調節」に対応する記載である。
また、本件明細書中には、整畦作業を行う「作業部」を構成する「土盛体5」及び「整畦体6」が、「機枠4」により連結されて一体的に配設されていることが記載されており、上記請求項1中の「一体的に調節」に対応する記載を裏付けている。・・・
また、本件明細書中には、「作業部回動装置19」に備わる「回転ハンドル20」を回動することで、「作業部回動装置19」の前後長さが調節され、これにより、「機枠4」によって一体的に連結された「土盛体5」及び「整畦体6」の前後姿勢がともに調節可能であることが記載されている。・・・
また、「作業部回動装置19」の前後長さを調節することにより、トラクタに対する「畦塗り機1」全体の前後(作業)姿勢を調節する際の具体的動作については、本件明細書の段落[0013]に「ヒッチフレーム11と機枠4の基端部との間の連結軸13を中心として機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等は上下に回動可能となり、畦塗り機1を非作業位置に回動した状態で後述する作業部回動装置19によりトラクタの後部に接近するのを防止する。」と記載されている。
すなわち、「作業部回動装置19」の前後長さを調節することにより、「連結軸13」を中心として「機枠4」、「土盛体5」、「整畦ドラム6」等の作業部を含む「畦塗り機1」全体が上下に回動するため、この回動動作によって、「畦塗り機1」全体の前後(作業)姿勢が調節されるのである。
なお、「作業部回動装置19」の前後長さを調節することにより、「ヒッチフレーム11と機枠4の基端部との間の連結軸13を中心として機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等は上下に回動可能とな」るという具体的動作は、畦塗り機1が「非作業位置」に位置する場合のみならず、畦塗り機1が「作業位置」に位置する場合も同様である。
なお、本件明細書には、作業部(土盛体5及び整畦ドラム6)を含む畦塗り機1を「作業位置」と「非作業位置」に回動させる動作が記載されている・・・が、この回動動作は、作業者が「回動用取っ手18」を把持して、回転軸14を中心として、作業部を左右方向に回動させる動作であるから、上述した「作業部回動装置19」の前後長さを調節することにより、連結軸13を中心として、作業部を上下に回動する動作とは別の動作である。
以上により、本件明細書・・・には、「土盛体5」と「整畦体6」とが「機枠4」により連結されて「一体的」に設けられていること、「作業部回動装置19」に備わる「回転ハンドル20」を回動することで、「作業部回動装置19」の前後長さが調節され、これにより、一体的に連結された「土盛体5」及び「整畦体6」が、「連結軸13」を中心として上下に回動し、作業部全体の前後姿勢が調節可能であることが記載されており、これらが、「一体的に調節」に対応する記載である。」

イ 「作業部回動装置」の具体的動作について(口頭審理陳述要領書8頁14行?13頁5行)
「「土盛体5及び整畦体6」の「作用深さを調節」するための具体的な動作は、「土盛体5及び整畦体6」の「前後(作業)姿勢を調節」する(本件明細書[0018]、[0026])動作と同じである。
すなわち、畦塗り機1が「非作業位置」に位置する場合に、「土盛体5及び整畦体6」の「前後(作業)姿勢を調節」すると、作業部とトラクタとの間の距離を確保することができるので、作業部がトラクタの後部に接近するのを防止することができる。
また、畦塗り機1が「作業位置」にある場合に、「土盛体5及び整畦体6」の「前後(作業)姿勢を調節」すると、圃場表面に対する作業部の上下位置を調節することができるので、作業部の作用深さを調節することができる。・・・
また、「土盛体5及び整畦体6」の「作用深さを調節」する動作は、畦塗り機1が作業位置にある状態で行われるが、畦塗り機1が非作業位置にある状態で、同じ動作を行えば、本件明細書[0013]に記載されているとおり、「土盛体5及び整畦体6」が「トラクタの後部に接近するのを防止する」ことができる。・・・
以上のとおり、畦塗り機1を作業位置に回動した状態において、「作業部回動装置19」の前後長さを調節すると、作業部全体が、「連結軸13」を中心に、上方又は下方に回動するため、作業部の前後作業姿勢が調節されると同時に、作業部全体の上下位置も調節されるため、作業機の「作用深さ」を調節することもできる。」

ウ 作業部の「作用深さ」の調整と本件発明が解決しようとする課題との関係について(口頭審理陳述要領書13頁9?18行)
「作業部を構成する「前記土盛体及び前記整畦体」の作用深さが深い場合には、土盛体によって元畦から切削され、新畦を形成するために整畦体側に供給される泥土の量が増加するのに対して、「前記土盛体及び前記整畦体」の作用深さが浅い場合には、土盛体によって元畦から切削され、新畦を形成するために整畦体側に供給される泥土の量が減少する。
したがって、作業部の作用深さを調節することにより、整畦体側に供給される泥土の量を調節することができるので、「所望の(十分な)元畦修復」に寄与する「土盛体により切削されて元畦箇所に供給される泥土の状態」を適切な状態に調節することができるため、「所望の(十分な)元畦修復」を行うという本件発明の課題解決に寄与するものである。」

エ 作業部回動装置の回動中心等について(上申書5頁下から8行?11頁17行)
「・・・「作業部回動装置19」を用いて行う回動動作は、「作業部回動装置19」に設けられた「回転ハンドル20」を回転させることで「作業部回動装置19」の前後長さを調節することによって、「連結軸13」を回動中心として、土盛体及び整畦体が一体的に設けられた「機枠4」ごと、「畦塗り機1」全体をトラクタに対して上下方向に回動するものである・・・。
・・・他方で、・・・「回転軸14」を中心として土盛体及び整畦体を作業位置と非作業位置に回動させる動作は、作業者が「整畦ドラム15」の上側に設けられた「回動用取っ手18」を持ち、機枠4の基端部に位置する「回転軸14」を回動中心として、土盛体及び整畦体を左右方向に回動させる動作であるから、上述した「作業部回動装置19」を用いて行う回動動作とは異なる動作である・・・。
また、「連結軸13」を中心とする土盛体及び整畦体の回動動作と、「回転軸14」を中心とする土盛体及び整畦体の回動動作とが異なる動作であることは、本件特許明細書の【図2】から理解される両回動中心軸の位置及び向きの違いからも明らかである。
・・・段落【0013】には、「畦塗り機1を揚上させたときのみ」とは記載されておらず、畦塗り機1が「作業状態」に位置する場合に回動不可能であることも記載されていない。
他方で、段落【0026】には、「また、回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、トラクタに対する畦塗り機1の前後作業姿勢を調節する。」との記載がある。この記載はその直前の文に記載されているように「土盛体5及び整畦体6の作用深さを調節するとき」に関する記載であるから、畦塗り機1が「作業状態」に位置する場合の記載である。そして、「回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節する」動作とは、連結軸13を中心として機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等を上下に回動させる動作であるから、連結軸13を中心とする機枠4、土盛体5、整畦ドラム6等の回動動作は、畦塗り機1が「作業状態」に位置する場合も可能である。
・・・本件特許明細書中には「前後」という文言が複数個所で使われているところ、その前後の文脈を考慮したり、図面に記載された構成の位置関係を考慮したりすれば、いずれも「トラクタ」と「畦塗り機1」との接続位置関係を前提として、「トラクタ」から見て「畦塗り機1」が接続される方向を「後」(又は「後方」ないし「後部」)とし、「トラクタ」が前進走行する方向(「トラクタ」から見て「畦塗り機1」が接続されていない方向)を「前」(又は「前方」)として用いていることは明らかである。
よって、「土盛体5及び整畦体6の前後姿勢」、「畦塗り機1の前後作業姿勢」とは、いずれも、「トラクタ」から見て、「土盛体5及び整畦体6」ないし「畦塗り機1」が、トラクタの後部に近づく方向が「前」であり、トラクタの後部から遠ざかる方向(トラクタと畦塗り機1との間の距離が離れる方向)が「後」であると理解される。
また、段落【0026】中の「回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、トラクタに対する畦塗り機1の前後作業姿勢を調節する」との記載や、段落【0013】中の「作業部回動装置19によりトラクタの後部に接近するのを防止する」との記載・・・は、上述した「前後(作業)姿勢」の意味を裏付けるものである。
また、「前後姿勢」と「前後作業姿勢」という文言の違いは、後者は「土盛体5及び整畦体6」ないし「畦塗り機1」が特に「作業位置」にある場合の「前後姿勢」を示す文言であるという点のみであり、回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節するという調節方法は同じである。」

[証拠方法]
乙第1号証:異議の決定(異議2015-700001号 申立番号01)
乙第2号証:審決(無効2015-800151号)
乙第3号証:被告第3準備書面
(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第14711号事件)
乙第4号証:第6回弁論準備手続調書
(東京地方裁判所 平成27年(ワ)第14711号事件)
乙第5号証:特許メモ(特願2014-78398号)
乙第6号証の1:平成27年12月8日付刊行物等提出書
(特願2014-78398号)
乙第6号証の2:平成27年12月8日付刊行物等提出書による提出物件
資料1?資料9(特願2014-78398号)
乙第7号証:吉藤幸朔著・熊谷健一補訂、「特許法概説」、第13版、株式会社有斐閣、1998年12月10日 、p.218-219頁
乙第8号証:中山信弘・小泉直樹編、「新・注解 特許法【上巻】」、初版、株式会社青林書院、2011年4月26日 、p.320-321頁
乙第9号証:審決(無効2016-800022号)


第4 当審の判断
1 甲第1ないし6、及び9号証の記載事項
(1) 甲第1号証
本件特許の出願の遡及日前(以下「本件出願前」という。)の他の特許出願であってその後公開された特願2001-263896号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(特開2003-70301号公報:甲第1号証)(以下「先願明細書」という。)には、次の事項が記載されている(審決で下線を付加した。)。


「【請求項1】 畦に土を盛り上げる盛土手段と、
この盛土手段の後方位置に回転可能に配置され、前記盛土手段にて盛り上げられた土を回転中心軸線を中心とする回転により畦側面に塗り付ける略円錐台状の側面塗り体とを具備し、
前記側面塗り体は、前記回転中心軸線を中心として放射状に位置する複数枚の作用板を備え、
前記各作用板は、回転方向後端側で押し込むように土を畦側面に塗り付ける本体板部、および、この本体板部の回転方向後端から回転方向反対側および前記回転中心軸線側に向って突出した鋭利エッジ形成防止用の突出板部を有することを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】 作用板の本体板部は、回転中心軸線からの距離が回転方向前端から回転方向後端に向って徐々に増大するように配置され、
前記作用板の突出板部は、回転中心軸線からの距離が回転方向前端から回転方向後端に向って徐々に減少するように配置されていることを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】 互いに隣接する作用板は、一方の作用板の回転方向後端側と他方の作用板の回転方向前端側とが互いに対向した状態になっていることを特徴とする請求項1または2記載の畦塗り機。
【請求項4】 一方の作用板の突出板部の回転方向後端が、他方の作用板の本体板部の回転方向前端側における外面近傍位置に位置することを特徴とする請求項3記載の畦塗り機。」


「【0014】【発明の実施の形態】以下、本発明の畦塗り機の一実施の形態の構成を図面を参照して説明する。
【0015】図1において、5は畦塗り機で、この畦塗り機5は、例えば、図示しない走行車であるトラクタに脱着可能に取り付けられ、トラクタの走行によって畦Aに沿って移動しながら、畦修復作業等の畦塗り作業を行う牽引式の畦塗り機である。
【0016】畦塗り機5は、図1に示すように、機枠6を備え、この機枠6の前部には走行車取付部であるトラクタ取付部7が設けられ、このトラクタ取付部7は、図示しないトラクタ後部の作業機昇降用支持装置に脱着可能に取り付けられている。また、機枠6の前部には入力軸8が回転可能に設けられ、この入力軸8は、図示しないトラクタのPTO軸にユニバーサルジョイント等を介して連結されている。
【0017】さらに、機枠6の一側部前側には、所定方向に駆動回転することにより畦A上に所定量の土を供給して盛り上げる盛土手段11が回転可能に設けられている。
【0018】また、機枠6の一側部後側には、盛土手段11にて盛り上げられた土を、回転中心軸線Xを中心として所定方向(図示矢印方向)に駆動回転することにより畦Aに塗り付ける畦塗り手段12が回転可能に設けられている。この畦塗り手段12の回転速度は、トラクタの走行速度との関係で畦塗り手段12がスリップ回転するような値に設定されている。
【0019】盛土手段11は、例えば、図示しない伝動手段を介して入力軸8に連結された左右水平方向の回転軸14を有し、この回転軸14には盛土用の複数の切削爪15が回転軸14と一体となって回転するように取り付けられている。
【0020】畦塗り手段12は、例えば、中心軸線が回転中心軸線Xに一致し図示しない伝動手段を介して入力軸8に連結された左右水平方向の回転軸17を有し、この回転軸17には、上面塗り体18および側面塗り体19が回転軸17と同軸状でこの回転軸17と一体となって回転するように取り付けられている。
【0021】上面塗り体18は、図1および図2に示すように、盛土手段11にて水平面状の畦上面A1上に盛り上げられた土を回転中心軸線Xを中心とする所定方向(図示矢印方向)への回転により畦上面A1に塗り付けて平らにするもので、略円筒形状に形成されている。
【0022】側面塗り体19は、図1および図2に示すように、盛土手段11にて傾斜面状の畦側面(畦一方傾斜側面)A2上に盛り上げられた土を回転中心軸線Xを中心とする所定の回転方向(図示矢印方向)への回転により畦側面A2に塗り付けて平らにするもので、上面塗り体18側に向って縮径した略円錐台状に形成され、盛土手段11の後方位置に回転可能に配置されている。
【0023】そして、側面塗り体19は、畦側面A2を断続的に叩くような土塗り作業を行えるように段差を有して連設された状態で回転中心軸線Xを中心として放射状に位置する複数枚(例えば6枚)のウイングディスク等の分割羽根板である作用板21を備えている。
【0024】各作用板21は、例えば、ステンレス等の金属板或いは弾性変形可能な合成樹脂板等を用いて略扇形状等の所定形状をなすように一体に形成されたもので、円錐台形状の板支持体であるベース22にこのベース22の外周面に沿って位置するように取付具すなわち例えばボルト23およびナット(図示せず)によって着脱可能に取り付けられている。
【0025】ここで、各作用板21は、図2および図3に示すように、回転方向後端側で押し込むように土を畦側面A2に塗り付ける略扇板状の本体板部25を有している。この本体板部25の回転方向後端面全体からは、本体板部25と同じ厚さの略細長板状の鋭利エッジ形成防止用の突出板部26が、回転方向反対側および回転中心軸線X側、すなわち押し込み解除方向である逃げ方向(畦側面A2に対する離反方向成分を有する方向)に向って突出しており、この突出板部26の存在によって本体板部25の回転方向後端に磨耗により鋭利なエッジが形成されることが防止されるようになっている。
【0026】本体板部25は、回転方向に沿ってやや湾曲した曲面状でかつ略扇板状に形成されたもので、回転中心軸線Xからの離間距離が回転方向前端から回転方向後端に向ってゆるやかに徐々に増大するように配置されている。すなわち、この本体板部25は、土の押し込み力が徐々に強くなるように、回転方向後端ほどベース22の外周面(基準円錐面)からの離間距離が大きくなるように傾斜状に配置されている。なお、本体板部25の回転方向前端側を除く部分の外面にて、畦側面A2と当接する作用面である当接面27が構成されている。
【0027】鋭利エッジ形成防止用の突出板部26は、本体板部25と略同じ曲率半径をもって回転方向に沿ってやや湾曲した曲面状でかつ略細長板状に形成されたもので、回転中心軸線Xからの離間距離が回転方向前端から回転方向後端に向ってゆるやかに徐々に減少するように配置されている。すなわち、この突出板部26は、土の押し込み力が徐々に弱くなるように、回転方向後端ほどベース22の外周面(基準円錐面)からの離間距離が小さくなるように傾斜状に配置されている。なお、突出板部26の外面全体にて逃げ面28が構成され、当接面27の回転方向後端から延長した仮想延長面29と逃げ面28とがなす角が逃げ角αとなっている。
【0028】また、図3に示されるように、一の作用板21の突出板部26は、この一の作用板21に隣接する他の作用板21の本体板部25の回転方向前端側の外面を覆うように一の作用板21の本体板部25に延設され、一の作用板21の突出板部26の回転方向後端が、隣接する他の作用板21の本体板部25の回転方向前端側における外面近傍位置に位置している。この突出板部26の回転方向後端と本体板部25の回転方向前端側外面との間には若干の間隙30がある。なお、図示しないが突出板部26の回転方向後端を本体板部25の回転方向前端側外面に当接させることにより間隙30を有さない構成としてもよい。
【0029】こうして、互いに隣接する作用板21は、一方の作用板21の回転方向後端側と他方の作用板21の回転方向前端側とが作用板21の厚さ方向に空間部31を介して互いに対向した状態、すなわち、互いに隣接する作用板の対向端部相互が空間部31を介して重なり合った状態になっている。
【0030】さらに、突出板部26の長手方向一端部つまり上面塗り体18側の端部には第1切欠部33が切欠き形成され、突出板部26の長手方向他端部近傍には第2切欠部34が切欠き形成されている。
【0031】また一方、本体板部25の回転方向後端部内面から段差保持機能を兼ねた連結板部35が内方に向って突出し、互いに隣接する作用板21同士がこの連結板部35を介して連結され、この連結により一体となった複数枚の作用板21がベース22に取り付けられている。
【0032】すなわち、互いに一致した連結板部35の第2切欠部34と対応する部分に形成された孔部36、本体板部25の回転方向前端部外端側に形成された第1孔部37およびベース22に形成された孔部(図示せず)に対して一のボルト23が挿通され、かつ、互いに一致した本体板部25の第1切欠部33と対応する回転方向前端部内端側の部分に形成された第2孔部(図示せず)およびベース22に形成された孔部(図示せず)に対して他のボルト23が挿通され、この挿通された各ボルト23の先端側にナット(図示せず)が螺合されることにより、複数枚の作用板21が互いに一体に連結された状態でベース22に固着されている。
【0033】次に、上記一実施の形態の作用等を説明する。
【0034】畦塗り機5がトラクタの走行に基いて畦Aに沿って移動すると、入力軸8側からの動力で駆動回転する盛土手段11の切削爪15によって畦A上に所定量の土が盛り上げられる。
【0035】そして、この盛土手段11にて盛り上げられた土が、入力軸8側からの動力で回転中心軸線Xを中心として駆動回転する上面塗り体18および側面塗り体19によって畦上面A1および畦側面A2に平らに塗り付けられ、これにより、旧畦Aが修復され、強く締め固められた崩れない新畦Aが形成される。」


「【0039】なお、上記実施の形態においては、側面塗り体19はベース22を備えた構成について説明したが、例えば、図示しないが、ベース22を設けることなく、各作用板21を回転軸17に直接取り付けた構成としてもよい。
・・・
【0041】さらに、互いに隣接する作用板21を互いに一体に連結した構成には限定されず、例えば、図示しないが、各作用板21を1枚ずつ個別にベース22に取り付けるように構成してもよく、この場合に互いに隣接する作用板21間に所定の間隙を適宜設けるようにしてもよい。」


「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の畦塗り機の一実施の形態を示す平面図である。
【図2】同上畦塗り機の畦塗り手段の斜視図である。
【図3】同上畦塗り手段の側面塗り体の拡大端面図である。」


図1ないし3は次のものである。




上記ウで摘記したように、【0039】段落には「なお、上記実施の形態においては、側面塗り体19はベース22を備えた構成について説明したが、例えば、図示しないが、ベース22を設けることなく、各作用板21を回転軸17に直接取り付けた構成としてもよい。」と記載されているが、その「ベース22を設けることなく、各作用板21を回転軸17に直接取り付けた構成」の場合、互いに隣接する作用板21同士の連結が、上記イで摘記した「本発明の畦塗り機の一実施の形態」と同じく「連結板部35を介して連結」となるのかどうかは記載されていない。


上記アないしカからみて、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認める。

「走行車であるトラクタに脱着可能に取り付けられ、トラクタの走行によって畦Aに沿って移動しながら、畦修復作業等の畦塗り作業を行う牽引式の畦塗り機5であって、
畦塗り機5は、機枠6を備え、この機枠6の前部には走行車取付部であるトラクタ取付部7が設けられ、
機枠6の一側部前側には、所定方向に駆動回転することにより畦A上に所定量の土を供給して盛り上げる盛土手段11が回転可能に設けられ、
機枠6の一側部後側には、盛土手段11にて盛り上げられた土を、回転中心軸線Xを中心として駆動回転することにより畦Aに塗り付ける畦塗り手段12が回転可能に設けられ、
盛土手段11は、左右水平方向の回転軸14を有し、この回転軸14には盛土用の複数の切削爪15が回転軸14と一体となって回転するように取り付けられ、切削爪15によって畦A上に所定量の土が盛り上げられ、
畦塗り手段12は、左右水平方向の回転軸17を有し、この回転軸17には、上面塗り体18および側面塗り体19が回転軸17と同軸状でこの回転軸17と一体となって回転するように取り付けられ、
盛土手段11にて盛り上げられた土を上面塗り体18および側面塗り体19によって畦上面A1および畦側面A2に平らに塗り付け、これにより、旧畦Aが修復され、強く締め固められた崩れない新畦Aが形成されるものであって、
上面塗り体18は、盛土手段11にて水平面状の畦上面A1上に盛り上げられた土を回転中心軸線Xを中心とする回転により畦上面A1に塗り付けて平らにするもので、略円筒形状に形成され、
側面塗り体19は、盛土手段11にて傾斜面状の畦側面A2上に盛り上げられた土を回転中心軸線Xを中心とする所定の回転方向への回転により畦側面A2に塗り付けて平らにするもので、上面塗り体18側に向って縮径した略円錐台状に形成され、
そして、側面塗り体19は、畦側面A2を断続的に叩くような土塗り作業を行えるように段差を有して連設された状態で回転中心軸線Xを中心として放射状に位置する複数枚の分割羽根板である作用板21を備え、
各作用板21は、円錐台形状の板支持体であるベース22にこのベース22の外周面に沿って位置するように取り付けられ、
各作用板21は、回転方向後端側で押し込むように土を畦側面A2に塗り付ける略扇板状の本体板部25を有し、この本体板部25の回転方向後端面全体からは、本体板部25と同じ厚さの略細長板状の鋭利エッジ形成防止用の突出板部26が突出しており、一の作用板21の突出板部26は、この一の作用板21に隣接する他の作用板21の本体板部25の回転方向前端側の外面を覆うように一の作用板21の本体板部25に延設され、一の作用板21の突出板部26の回転方向後端が、隣接する他の作用板21の本体板部25の回転方向前端側における外面近傍位置に位置し
互いに隣接する作用板21は、一方の作用板21の回転方向後端側と他方の作用板21の回転方向前端側とが作用板21の厚さ方向に空間部31を介して互いに対向した状態、すなわち、互いに隣接する作用板の対向端部相互が空間部31を介して重なり合った状態になっており、
また一方、本体板部25の回転方向後端部内面から段差保持機能を兼ねた連結板部35が内方に向って突出し、互いに隣接する作用板21同士がこの連結板部35を介して連結され、この連結により一体となった複数枚の作用板21がベース22に取り付けられている、畦塗り機5。」

(2) 甲第2号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【請求項1】 走行機体の後部に装着され、該走行機体から動力を受け、元畦の一部及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる耕耘ロ-タを備えた前処理体、及びこの前処理体により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形するドラム状の整畦体を備え、前記前処理体及び整畦体を1つのフレーム構造により支持し、かつ1つの伝動フレームから前処理体及び整畦体に動力伝達するようにした畦塗り機において、
上記伝動フレームを回動中心として前処理体及び整畦体を水平方向に180度回動可能に構成したことを特徴とする畦塗り機。」


「【0014】前処理体15及び整畦体16の上側は、前処理体カバー15a及び整畦体カバー16aにより覆われている。このうちの前処理体カバー15aは、左右スライド調節ハンドル22により左右方向にスライドして耕耘土壌の放出方向を調節するようにしている。また、前処理体15は上下調節(耕耘深さ調節)も可能である。一方、整畦体16の近傍には整畦体上下調整装置23が設けられ、整畦体16の上下調節が行われる。また、伝動ケース17の端部には、三角ディスク状のゲージホイール24が上下調節ハンドル25により上下調節され、前処理体15及び整畦体16の全体が上下調節される。」

(3) 甲第3号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【請求項1】 機枠と、この機枠に回転自在に設けられ畦塗り用の泥土を切削して跳ね上げる多数の切削爪を有するロータリーと、このロータリーの後方に位置して前記機枠に回転自在に設けられ前記ロータリーの各切削爪にて跳ね上げられた泥土を旧畦に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体とを具備し、
前記畦塗り体は、前記旧畦の側面部を下方に向かって拡開したテーパー状に修復する円錐形状の側面修復体と、この側面修復体の縮径端部に連設され前記旧畦の上面部を水平状に修復する円筒状の上面修復体とを有し、
前記側面修復体は、前記旧畦の側面部に泥土を塗り付ける円錐形状の修復面に縮径側端部から拡径側端部に向かって放射状に形成された複数の取付段部と、この複数の取付段部に沿ってそれぞれ取り付けられこの側面修復体の回転方向の後方側を前記修復面より前記旧畦の側面部側の外方に突出させた複数の修復羽根とを有することを特徴とする畦塗り機。」


「【0025】つぎに、前記機枠1の第1の伝動パイプ13の外端部には軸受体29及びスリーブ(図示せず)を介して前後方向の伝動ケース30が前記第1の出力軸15を中心として上下方向に回動自在に取着され、この伝動ケース30の後端部には左右に軸受31を有する軸受体32が固着されている。また、前記軸受体32の左右の軸受31には左右方向の回転軸33が回転自在に支持され、かつ、この回転軸33は右側に向かって水平状に突出されている。
【0026】つぎに、前記回転軸33には泥土を旧畦Bの上面部C及び旧畦Bの側面部Dに沿って塗り付けて旧畦Bを修復する畦塗り体34がボルト35及びナット36にて固着されている。前記畦塗り体34は、前記回転軸33に挿通して固着された軸受筒体37と、この軸受筒体37に一体に連結され前記旧畦Bの側面部Dを泥土を塗り付けて下方に向かって拡開したテーパー状に修復する円錐形状の側面修復体38と、この側面修復体38の縮径側端部に一体に連結され前記旧畦Bの上面部を泥土を塗り付けて水平状に修復する円筒状の上面修復体39と、を有して構成されている。」


「【0035】また、前記連結板17には板状の支枠60が上方に向かって一体に突設され、前記伝動ケース30の後側部には左右方向の取付軸61が一体に突設されている。また、前記支枠60の上端部には先端部に操作ハンドル62を有する伸縮自在の棒状の調節体63が支軸64にて上下方向に回動自在に軸支され、この調節体63の後端部は前記取付軸61に上下方向に回動自在に軸着されている。
【0036】そして、前記操作ハンドル62を回動操作して前記支枠60に回動自在に軸支された調節体63を伸縮することにより、支枠60に対して前記伝動ケース30を介して前記畦塗り体34が上下方向に位置調節自在に支持されている。
【0037】つぎに、前記第2の出力軸21は前記第2の伝動パイプ19の外端部から右側に向かって突出された断面矩形状の連結軸部65を有し、この連結軸部65には前記旧畦Bの側面部D及び旧畦Bの畦際を切削するとともにこの切削土を畦塗り用泥土として前記畦塗り体34に向かって跳ね飛ばして供給するロータリー66が連結ピン67にて着脱可能に連結されている。」


「【0041】また、前記トップマスト26の上部に突設された支枠(図示せず)と前記支持フレーム72との間には前記調節体63と同一構造の操作ハンドルを有する伸縮自在の棒状の調節体77が上下方向に回動自在に軸支されている。そして、この操作ハンドルを回動操作して前記支枠に回動自在に軸支された調節体77を伸縮することにより、前記支持フレーム72を介して前記左右のゲージ輪76が同時に上下方向に位置調節自在に支持されるようになっている。なお、図中78は前記ロータリー66の上方部を被覆したロータリーカバー、79は前記畦塗り体34の上方部を被覆した畦塗り体カバーである。」

(4) 甲第4号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【請求項1】 走行車体に連結される機体と、この機体に回転自在に設けられ旧畦の畦際及び旧畦の田面側の側面部を切削してこの切削した土を旧畦の表面上に盛土する盛土ロータリーと、この盛土ロータリーの後方に位置して前記機体に回転自在に設けられ前記盛土ロータリーにて旧畦の表面上に盛土された土をこの旧畦の表面に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体と、前記盛土ロータリーの外側前方に位置して前記機体に回転自在に設けられ旧畦の上面部を畦塗り用に前処理する前処理ロータリーとを具備し、
前記盛土ロータリーは、旧畦と交差する略水平方向を軸方向として配置され駆動系により回転される回転軸と、この回転軸の周面部に軸方向に放射状に突設され旧畦の畦際及び旧畦の側面部の土を切削して旧畦の表面上に跳ね上げて盛土する複数の切削爪とを有し、
前記前処理ロータリーは、旧畦の上方に位置して略水平方向を軸方向として配置され駆動系により連動回転される連動回転軸と、この連動回転軸の周面部に軸方向に放射状に突設され旧畦の上面部を切削して水平状に前処理する複数の前処理爪とを有する、
ことを特徴とする畦塗り機。」


「【0095】また、盛土ロータリー4が田面側Bに位置して旧畦Aの畦際及び旧畦Aの側面部Cを切削する位置に移動された状態で、旧畦Aの修復状況等により必要に応じて、第1の調節手段78のハンドル90を回動操作すると、このハンドル90にて調節螺杆80がホルダー86に支持された状態で定位置で回動されるとともに、この調節螺杆80に沿って上下動杆81が上下動される。
【0096】そして、この上下動杆81にて第2の伝動ケース17が第1の伝動ケース16を中心として上下方向に回動されるとともに、この第2の伝動ケース17の盛土ロータリー4が上下動され、この盛土ロータリー4が畦塗り体5の位置を基準として旧畦Aの畦際及び旧畦Aの側面部Cを切削する所定の作業位置に調節される。」


「【0100】さらに、畦塗り作業位置に可動機枠3の盛土ロータリー4、畦塗り体5及び前処理ロータリー6がそれぞれ位置固定された状態で、田面側Bの状況等により必要に応じて、ホルダー113 に対して支柱115 を上下動することにより、この支柱115 の下端部の規制輪116 が上下動調節される。
【0101】そして、この規制輪116 をこの輪本体118 の周面が地面に対して所定の接地圧で接地し、かつ、この規制輪116 の環状刃119 が回転して地面を垂直状に切断しながら直進移動する高さに調節する。また、この状態でホルダー113 に対して支柱115 を固定することにより、下端部の規制輪116 が環状刃119 にて地面を垂直状に切断しながら直進移動可能に調節された高さ位置に位置固定される。」

(5) 甲第5号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【請求項1】 走行機体の後部に装着され、該走行機体から動力を受け、元畦及び圃場を耕耘して畦状に盛り上げる前処理体、及びこの前処理体により耕耘された土壌を回転しながら畦に成形するドラム状の整畦体を備えた畦塗り機において、
上記整畦体はその基部を、回転軸に対して傾斜面を持つ2つのプレート間に挟んで固定することにより、回転軸に対する整畦体の取付け角度を変更可能としたことを特徴とする畦塗り機。」


「【0013】上記整畦体7は、伝動フレーム2の後部側面から後方に突出した支持フレーム18の後端部に、整畦体伝動ケース19の先端部が支点ピン20を介して上下回動可能に支持している。この支点ピン20の回転中心は、整畦体7の回転中心とほぼ等しく設けられている。そして、整畦体伝動ケース19の上面と伝動フレーム2側支持部との間に回動ハンドル21が設けられ、整畦体7の上下高さが調節可能となっている。整畦体伝動ケース19はL字状に屈曲しており、その屈曲部分の先端部分に整畦体7が回転するように取付けられ、この屈曲部分に前方に向け上記入力軸12が突出していて、ダブルジョイント11を介して動力を受ける。」


「【0016】上記ロアリンク連結部5の左側端部には、三角ディスク状のゲージホイール23が上下調節支持部24により上下調節可能に設けられている。また、このゲージホイール23の前側下方にはスタンド25がスタンド支持部26に着脱可能に設けられている。さらに、前処理体6の外側端部下方にもスタンド27が着脱可能に設けられている。これらスタンド25,27は作業中は不要なものであり、着脱可能とするか、あるいは折り畳み可能に設けられる。」

(6) 甲第6号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、図面とともに次の事項が記載されている。


「【請求項1】 走行車体に連結される機体と、この機体に回転自在に設けられ旧畦の畦際及び旧畦の田面側の側面部を切削してこの切削した土を旧畦の表面上に盛土する盛土ロータリーと、この盛土ロータリーの後方に位置して前記機体に回転自在に設けられ前記盛土ロータリーにて旧畦の表面上に盛土された土をこの旧畦の表面に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体と、前記盛土ロータリーの外側前方に位置して前記機体に回転自在に設けられ旧畦の上面部を畦塗り用に前処理する前処理ロータリーとを具備し、
前記盛土ロータリーは、旧畦と交差する略水平方向を軸方向として配置され駆動系により回転される回転軸と、この回転軸の周面部に軸方向に放射状に突設され旧畦の畦際及び旧畦の側面部の土を切削して旧畦の表面上に跳ね上げて盛土する複数の切削爪とを有し、
前記前処理ロータリーは、旧畦の上方に位置して略水平方向を軸方向として配置され駆動系により連動回転される連動回転軸と、この連動回転軸の周面部に軸方向に放射状に突設され旧畦の上面部を切削して水平状に前処理する複数の前処理爪とを有する、
ことを特徴とする畦塗り機。」


「【0007】本発明は、このような課題に鑑みてなされたもので、旧畦の上面部を削り取り過ぎることなく水平状に切削して前処理でき、かつ、旧畦の表層部に雑草等の根を残した状態で前処理でき、走行車体の走行抵抗を軽減できる畦塗り機を提供することを目的とするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】請求項1記載の畦塗り機は、走行車体に連結される機体と、この機体に回転自在に設けられ旧畦の畦際及び旧畦の田面側の側面部を切削してこの切削した土を旧畦の表面上に盛土する盛土ロータリーと、この盛土ロータリーの後方に位置して前記機体に回転自在に設けられ前記盛土ロータリーにて旧畦の表面上に盛土された土をこの旧畦の表面に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体と、前記盛土ロータリーの外側前方に位置して前記機体に回転自在に設けられ旧畦の上面部を畦塗り用に前処理する前処理ロータリーとを具備し、前記盛土ロータリーは、旧畦と交差する略水平方向を軸方向として配置され駆動系により回転される回転軸と、この回転軸の周面部に軸方向に放射状に突設され旧畦の畦際及び旧畦の側面部の土を切削して旧畦の表面上に跳ね上げて盛土する複数の切削爪とを有し、前記前処理ロータリーは、旧畦の上方に位置して略水平方向を軸方向として配置され駆動系により連動回転される連動回転軸と、この連動回転軸の周面部に軸方向に放射状に突設され旧畦の上面部を切削して水平状に前処理する複数の前処理爪とを有するものである。
【0009】そして、走行車体にて機体が旧畦に沿って進行されるとともに、前処理ロータリー、盛土ロータリー及び畦塗り体がそれぞれ回転されることにより、前処理ロータリーの複数の前処理爪にて旧畦の上面部が切削されて畦塗り用に順次水平状に前処理される。このとき、旧畦の上面部の固い土部分が凹弧状に刳り取られることがないため、旧畦の上面部の固い土部分が削り取られ過ぎることがなく、また、旧畦の表層部に雑草等の根を残した状態で前処理される。
【0010】また、盛土ロータリーの複数の切削爪にて旧畦の畦際及び旧畦の側面部が畦塗り用の土として切削されるとともに、これらの土が跳ね上げられて旧畦の削りとられた表面上に順次盛土される。このとき、盛土される旧畦の上面部が予め水平状に前処理されているため、旧畦の水平状の上面部にはこの旧畦の上面部を修復する必要量の土量が盛土される。
【0011】さらに、畦塗り体にて旧畦上に盛土された土がこの旧畦の上面部及び側面部の表面に塗り付けられて旧畦が修復されて順次新畦に整畦される。
【0012】また、走行車体にて機体が旧畦に沿って進行されるとき、前処理ロータリーの複数の前処理爪及び盛土ロータリーの複数の切削爪は、走行車体の進行に向かって回転されることにより、これら複数の前処理爪及び複数の切削爪による推進力にて走行車体の走行抵抗が軽減される。
【0013】請求項2記載の畦塗り機は、請求項1記載の畦塗り機において、機体は、盛土ロータリーを深浅調節する第1の調節手段を有し、前記盛土ロータリーは、前記第1の調節手段にて旧畦の畦際及び旧畦の田面側の側面部を切削して旧畦の表面上に跳ね上げる所定の位置に深浅調節可能に支持されているものである。」

(7) 甲第9号証
本件出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、次の事項が記載されている(審決で下線を付加した。)。


「【請求項1】 トラクタの懸架機構に連結される連結部を有する機枠と、この機枠に回転自在に設けられ畦塗り用の泥土を切削して跳ね上げる多数の切削刃を有するロータリーと、このロータリーの後方に位置して前記機枠に回転自在に設けられ前記ロータリーの各切削刃にて跳ね上げられた泥土を旧畦に塗り付けて旧畦を修復する畦塗り体と、を具備し、
前記畦塗り体は、前記機枠に回転自在に設けられた回転軸と、この回転軸に固着され前記旧畦の側面部を下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する側面修復体と、この側面修復体に連設され前記旧畦の上面部を水平状面に修復する上面修復体と、を有し、
前記側面修復体は、前記旧畦の側面部に泥土を塗り付ける外周面を、この側面修復体の回転方向に所定の間隔をおいて前記回転軸を中心として回転半径を小さくした径小部及びこの径小部からこの側面修復体の回転方向と反対側に向かってそれぞれ前記回転軸を中心として次第に回転半径を大きくした円弧状の径大部を有する複数の泥土塗付け面にて形成する、
ことを特徴とする畦塗り機。
【請求項2】 複数の泥土塗付け面は、一端部を径小部とし他端部を径大部とする略扇形状の複数の泥土塗付け板にて形成し、この複数の泥土塗付け板は径大部の端縁部にこの端縁部から内側に向かって突設され隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部を取り付ける取付片をそれぞれ有し、この取付片にて隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部と径大部の端縁部との間に段差部を形成する、
ことを特徴とする請求項1記載の畦塗り機。
【請求項3】 複数の泥土塗付け板は、回転軸に固着された略円錐形状の取付基板の外周面に順次配設して取り付ける、
ことを特徴とする請求項1または2記載の畦塗り機。」


「【0011】そして、略扇形状の複数の泥土塗付け板は、その径大部の端縁部に突設された取付片に隣接する泥土塗付け板の径小部の端縁部を順次取り付けることにより、この複数の泥土塗付け板にて側面修復体の回転方向に所定の間隔をおいて回転半径を小さくした複数の径小部及びこの径小部からこの側面修復体の回転方向と反対側に向かってそれぞれ次第に回転半径を大きくした円弧状の複数の径大部を有する側面修復体の外周面が構成される。」


「【0024】【発明の実施の形態】以下、本発明の一実施の形態を図面を参照して説明する。
・・・
【0033】つぎに、前記伝動軸30の他端部は前記第2の伝動ケース29の他端部に設けた軸受体32にて回転自在に軸支され、この伝動軸30の他端部にこの伝動軸30の延長方向の外側方に向かって畦塗り用の泥土を切削して後述する畦塗り体に跳ね上げるロータリー33が回転自在に連結されている。
【0034】前記ロータリー33は前記伝動軸30の他端部に連結され旧畦Aに交差する方向の左右方向の回転軸34と、この回転軸34に軸方向に間隔をおいて周側部にブラケット35を介して放射状に突設された多数の切削刃36と、を有して構成され、この多数の切削刃36の中で外側端部に位置する切削刃36は他の切削刃36の長さより短くその先端部が内側方に向かって折り曲げ形成されている。
【0035】また、前記回動板21の先端部に前記ロータリー33の前方面、上方面及び両側方面をそれぞれ被覆したカバー体37が固着されている。そして、前記ロータリー33がアップカット方向に回転駆動されることにより、その各切削刃36にて旧畦Aの側部及び畦際を畦塗り用の泥土として切削されるとともに、これらの泥土は前記カバー体37に案内されてこのカバー体37の後方面から後述する畦塗り体に跳ね上げ供給されるようになっている。
・・・
【0037】つぎに、前記回転軸40の他端部に前記ロータリー33の後方に位置してこのロータリー33の各切削刃36にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体42が固着されている。この畦塗り体42は後述するように前記回転軸40の他端部に固着され旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する略円錐形状の側面修復体43と、この側面修復体43の縮径端部に一体に連設され旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復する略円筒形状の上面修復体44と、を有している。
【0038】そして、前記畦塗り体42は前記回転軸40にてダウンカット方向に駆動回転されることにより、その側面修復体43にて旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復すると同時にその上面修復体44にて旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復するようになっている。また、前記畦塗り体42は前記カバー体37に連続した延長カバー部37a にて上方部が被覆されるようになっている。」


「【0046】つぎに、前記第3の伝動ケース38の前端部に略コ字形状のブラケット55が前方に向かって一体に突設され、このブラケット55に前記回動板21を介して前記ロータリー33を上下方向に設定位置を調節可能に支持する調節手段56が取り付けられている。
【0047】前記調節手段56は、前記回動板21に突設された略L字形状のブラケット57に下端部が回動自在に軸架された上下方向の調節支杆58と、この調節支杆58に回動自在に螺着された調節螺杆59と、この調節螺杆59を回動自在に挿通支持しかつ前記第3の伝動ケース38のブラケット55に回動自在に支持されたブロック状の支持体60と、前記調節螺杆59を回動操作する操作ハンドル61と、を有して構成されている。
【0048】そして、前記操作ハンドル61を回動操作することにより、この調節螺杆59にて調節支杆58が上下動されるとともに、この調節支杆58にてブラケット57を介して回動板21が前記フレーム本体19を中心として上下方向に回動され、かつ、この回動板21にて一端部が第1の伝動ケース20に支持されている第2の伝動ケース29が上下方向に回動され、この第2の伝動ケース29に連結したロータリー33が上下方向に設定位置が調節されるようになっている。
【0049】つぎに、前記畦塗り体42は、前記回転軸40の多角形軸部62に嵌合してボルト・ナットにて連結されこの回転軸40にて駆動回転される中空多角形状に形成された回転軸としての左右方向の軸受体63と、この軸受体63の外端部に固着すなわちこの軸受体63を中心部に固着した円盤状のフランジ64と、このフランジ64に連結され旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する前記略円錐形状の側面修復体43と、この側面修復体43の縮径端部に位置して前記フランジ64に連結され旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復する前記略円筒形状の上面修復体44と、を有している。
【0050】前記側面修復体43は、前記フランジ64の外側部に環状の縮径端部65を接合し前記第3の伝動ケース38に向かって拡開した略円錐形状の取付基板66と、この取付基板66の外周面に沿って順次配設された略扇形状の複数の泥土塗付け板67と、を有して構成されている。
【0051】また、前記複数の泥土塗付け板67は、前記軸受体63を中心として前記側面修復体43の回転方向の一端部を径小部68とし、この径小部68から前記側面修復体43の回転方向と反対側の他端部を径大部69とするようになっている。
【0052】また、前記径小部68の端縁部70に複数の取付孔71が離間してそれぞれ形成され、前記径大部69の端縁部72にこの端縁部72から前記取付基板66に向かって略直角状に折り曲げられ隣接する泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70を当接して取り付ける取付片73が形成され、この取付片73は隣接する泥土塗付け板67の径小部68の前記一方の取付孔71に連通する連通孔74を形成した突片75を有している。
【0053】そして、前記複数の泥土塗付け板67は、その径小部68が前記取付基板66の外面に接合され、その径大部69が前記取付基板66の外面から次第に離間する円弧状に湾曲した形状にそれぞれ形成され、この各泥土塗付け板67の外周面が泥土塗付け面79として形成されている。
【0054】また、前記複数の泥土塗付け板67は、前記取付片73の高さにより径大部69が径小部68から側面修復体43の回転方向と反対側に向かって次第に回転半径が大きくなるように形成されている。
【0055】つぎに、前記取付基板66の外周面に沿って前記複数の泥土塗付け板67が順次配設され、これらの各泥土塗付け板67において隣接する泥土塗付け板67の相互の取付は、その一方の泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70を前記取付基板66の外面に接合し、この径小部68の端縁部70に他方の泥土塗付け板67の径大部69の端縁部70(審決注;「径大部69の端縁部72」の誤記と認められる。)に突設した取付片73を当接し、この取付片73の突片75の連通孔74から径小部68の端縁部70の一方の取付孔71及びこれらに連通して形成された前記取付基板66の一方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着する。
【0056】また、一方の泥土塗付け板67の径小部68の他方の取付孔71から前記取付基板66の他方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着する。このようにして、前記取付基板66の外周面に沿って前記複数の泥土塗付け板67が順次取り付けられている。
【0057】そして、前記各泥土塗付け板67の泥土塗付け面79にて旧畦Aの側面部Bに泥土を塗付ける側面修復体43の外周面80が構成され、この外周面80に側面修復体43の回転方向に所定の間隔をおいて側面修復体43の縮径端部65から拡径端部に亘って前記軸受体63を中心として回転半径を小さくした複数の径小部68及びこの各径小部68から側面修復体43の回転方向と反対側に向かって前記軸受体63(回転軸)を中心として次第に回転半径を大きくした、すなわち、外方に向かって次第に突出した円弧状の複数の径大部69がそれぞれ形成され、かつ、前記径小部68の端縁部70と、この端縁部70に隣接する前記径大部69の端縁部72との間に複数の段差部81がそれそれ放射状に形成されている。」


「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態を示す畦塗り機の平面図である。
・・・
【図3】同上畦塗り体の側面図である。
【図4】同上断面図である。
【図5】同上一部の分解斜視図である。」


図1、3ないし5は次のものである。

【図1】






上記アないしカからみて、甲第9号証には、次の発明(以下「甲9発明」という。)が記載されているものと認める。

「トラクタEの懸架機構Fに連結される連結部4、7を有する機枠1と、この機枠1に回転自在に設けられ畦塗り用の泥土を切削して跳ね上げる多数の切削刃36を有するロータリー33と、このロータリー33の後方に位置して機枠1に回転自在に設けられロータリー33の各切削刃36にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体42と、を具備し、
畦塗り体42は、機枠1に回転自在に設けられた回転軸40と、この回転軸40に固着され旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する側面修復体43と、この側面修復体43に連設され旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復する上面修復体44と、を有し、
側面修復体43は、旧畦Aの側面部Bに泥土を塗り付ける外周面80を、この側面修復体43の回転方向に所定の間隔をおいて回転軸40を中心として回転半径を小さくした径小部68及びこの径小部68からこの側面修復体43の回転方向と反対側に向かってそれぞれ回転軸40を中心として次第に回転半径を大きくした円弧状の径大部69を有する複数の泥土塗付け面79にて形成し、
複数の泥土塗付け面79は、一端部を径小部68とし他端部を径大部69とする略扇形状の複数の泥土塗付け板67にて形成し、この複数の泥土塗付け板67は径大部69の端縁部72にこの端縁部72から内側に向かって突設され隣接する泥土塗付け板67の径小部68の端縁部を取り付ける取付片73をそれぞれ有し、この取付片73にて隣接する泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70と径大部69の端縁部72との間に段差部81を形成し、
複数の泥土塗付け板67は、回転軸40に固着された略円錐形状の取付基板66の外周面に順次配設して取り付ける、
畦塗り機であって、
ロータリー33を上下方向に設定位置を調節可能に支持する調節手段56を有し、
各泥土塗付け板67において隣接する泥土塗付け板67の相互の取付は、その一方の泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70を取付基板66の外面に接合し、この径小部68の端縁部70に他方の泥土塗付け板67の径大部69の端縁部72に突設した取付片73を当接し、この取付片73の突片75の連通孔74から径小部68の端縁部70の一方の取付孔71及びこれらに連通して形成された取付基板66の一方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着し、また、一方の泥土塗付け板67の径小部68の他方の取付孔71から取付基板66の他方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着して、取付基板66の外周面に沿って複数の泥土塗付け板67が順次取り付けられ、
径小部68の端縁部70と、この端縁部70に隣接する径大部69の端縁部72との間に複数の段差部81がそれそれ放射状に形成されている、
畦塗り機。」

2 無効理由1について
(1) 本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。

(ア)
甲1発明の「畦塗り機5」は、本件発明1の「畦塗り機」に相当する。

(イ)
甲1発明の、「畦塗り機5」の「機枠6の一側部前側」に設けられ、「左右水平方向の回転軸14を有し、この回転軸14には盛土用の複数の切削爪15が回転軸14と一体となって回転するように取り付けられ、切削爪15によって畦A上に所定量の土が盛り上げられ」る「盛土手段11」は、本件発明1の「泥土を切削して畦に供給する土盛体」に相当する。

(ウ)
甲1発明の、「畦塗り機5」の「機枠6の一側部後側」に設けられ、「盛土手段11にて盛り上げられた土を上面塗り体18および側面塗り体19によって畦上面A1および畦側面A2に平らに塗り付け、これにより、旧畦Aが修復され、強く締め固められた崩れない新畦Aが形成される」「畦塗り手段12」は、本件発明1の「前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体」に相当する。

(エ)
甲1発明の、「畦塗り手段12」が有する「左右水平方向の回転軸17」に「側面塗り体19」とともに「回転軸17と同軸状でこの回転軸17と一体となって回転するように取り付けられ」、「盛土手段11にて水平面状の畦上面A1上に盛り上げられた土を回転中心軸線Xを中心とする回転により畦上面A1に塗り付けて平らにする」「上面塗り体18」は、本件発明1の「整畦体の回転軸に設けられ」る、「整畦体」の「上面修復体」に相当する。

(オ)
甲1発明の、「側面塗り体19」の「畦側面A2を断続的に叩くような土塗り作業を行えるように段差を有して連設された状態で回転中心軸線Xを中心として放射状に位置する複数枚の分割羽根板である作用板21」は、本件発明1の「整畦体」の「同方向に配設され」る「複数の整畦板」に相当する。またここで、甲1発明において「作用板21」が「段差を有して連設され」ていることは、本件発明1で「隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される」ことに相当する。

(カ)
甲1発明で「互いに隣接する作用板21同士がこの連結板部35を介して連結される」「連結板部35」は、本件発明1の「隣接する前記整畦板同士」を連結する「連結部材」に相当する。
そして、甲1発明で、「互いに隣接する作用板21は、一方の作用板21の回転方向後端側と他方の作用板21の回転方向前端側とが作用板21の厚さ方向に空間部31を介して互いに対向した状態、すなわち、互いに隣接する作用板の対向端部相互が空間部31を介して重なり合った状態になっており、
また一方、本体板部25の回転方向後端部内面から段差保持機能を兼ねた連結板部35が内方に向って突出し、互いに隣接する作用板21同士がこの連結板部35を介して連結され」ていることと、本件発明1で「隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され」ることとを対比すると、甲1発明において「互いに隣接する作用板21」の一方の「回転方向後端側」と他方の「回転方向前端側」とが「互いに対向」して「空間部31を介して重なり合った状態」になっている箇所が、本件発明1における「隣接する前記整畦板同士」の「境界部」に相当し、よって、甲1発明において「連結板部35」が「本体板部25の回転方向後端部内面から」「内方に向って突出」していることは、本件発明1において「連結部材」が「境界部」に設けられていることに相当する。

(キ)
前記(ア)ないし(カ)から、本件発明1と甲1発明とは、

「泥土を切削して畦に供給する土盛体と、
前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体と、
を有する畦塗り機であって、
前記整畦体は、
上面修復体と、
複数の整畦板と、
連結部材とを有し、
前記上面修復体は、前記整畦体の回転軸に設けられ、
前記複数の整畦板は、同方向に配設され、
隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に設けられた前記連結部材で連結され、
隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される、
畦塗り機。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1では「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され」るのに対し、甲1発明はその特定がない点。

<相違点2>
本件発明1では、「連結部材」は整畦板の各境界部に「沿って」設けられているのに対し、甲1発明はその特定がない点。

イ 判断
相違点1について検討する。
相違点1に係る本件発明1の構成における「作業部回動装置」は、本件明細書の記載(段落【0013】「畦塗り機1を非作業位置に回動した状態で後述する作業部回動装置19によりトラクタの後部に接近するのを防止する。」、段落【0018】「畦塗り機1を機枠4の基端部を中心に回動させて機枠4を介して土盛体5及び整畦体6を作業位置と非作業位置に回動させる際、その回動作動により土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節可能とした回転ハンドル20を備えた作業部回動装置19が平面視で前後斜め方向に設けられている。」、また段落【0026】「また、回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、トラクタに対する畦塗り機1の前後作業姿勢を調節する。」。)に照らせば、「土盛体」及び「整畦体」を含む「畦塗り機」を全体的に回動する装置、言い換えると「畦塗り機」上の各作業装置(「土盛体」及び「整畦体」もその中に含まれる)を全体的に回動する装置である(下記5イにおける検討参照。)。
これに対し、上記第3の1(6)アに摘記したように請求人が本件発明1の「作業部回動装置」に相当すると主張している、「整畦体上下調整装置23」(甲第2号証)、「畦塗り体用の調節体63」(甲第3号証)、「盛土ロータリー用の第1の調節手段78」(甲第4号証)、「整畦体用の回動ハンドル21」(甲第5号証)、及び「畦形成装置用の伸縮装置11」(甲第6号証)のいずれも、畦塗り機の中の特定の装置についての調節を行うものであり、畦塗り機を全体的に回動し調節するものとはされていない。また甲第2ないし6号証に、他に畦塗り機を全体的に回動し調節する構成の記載もない。
以上のように、相違点1に係る本件発明1の「作業部回動装置」に相当する構成が甲第2ないし6号証に示されているとはいえず、よって、請求人が主張するように相違点1に係る構成について「本件特許の原出願日前において周知の技術である。」とはいえない。

ここで、請求人は、上記第3の1(11)アに摘記したように、「・・・本件請求項1をみても、「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され、」(下線は請求人が付した。以下同様。)と記載されているに過ぎず、「作業部回動装置」が土盛体及び整畦体の作用深さを一体的に調整するものであるとの限定的な記載はない。・・・したがって、本件発明1の「作業部回動装置」には、土盛作業をする作業部である土盛体のみを回動させる装置や、整畦作業をする作業部である整畦体のみを回動させる装置が含まれるから、・・・は、いずれも本件発明1の「作業部回動装置」に相当する。」と主張していることについて検討すると、上記のとおり、本件明細書の記載に照らせば、「作業部回動装置」は、土盛体5及び整畦体6を含んだ畦塗り機1全体の姿勢を回動作動により調節するものであるから、請求人の主張は採用できない。

ウ 本件発明1のまとめ
以上のとおり相違点1において本件発明1と甲1発明とは実質的に相違するので、相違点2について検討するまでもなく、本件発明1は、先願明細書に記載された発明と同一ではない。

(2) 本件発明2ないし4について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに「前記連結部材は、少なくとも前記整畦板の外周縁部に固着される」との構成を付加するものである。
また本件発明3は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに「前記連結部材は、曲面を有している」との構成を付加するものである。
また本件発明4は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに「前記連結部材は、隣接する前記整畦板のうち境界部において整畦面側に突となる方の境界部が前記連結部材から突出されるように固着される」との構成を付加するものである。
そうすると、本件発明1が、上記(1)で説示したとおり、先願明細書に記載された発明と同一ではないので、本件発明2ないし4も同様に、先願明細書に記載された発明と同一ではない。

(3) 小括
以上のとおり、本件発明1ないし4は、先願明細書に記載された発明と同一ではない。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものではないから、請求人が主張する無効理由1により本件発明1ないし4に係る特許を無効にすることはできない。

3 無効理由2について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と甲9発明を対比する。

(ア)
甲9発明の「畦塗り機」は、本件発明1の「畦塗り機」に相当する。

(イ)
甲9発明の、「機枠1に回転自在に設けられ畦塗り用の泥土を切削して跳ね上げる多数の切削刃36を有するロータリー33」は、本件発明1の「泥土を切削して畦に供給する土盛体」に相当する。

(ウ)
甲9発明の、「ロータリー33の後方に位置して機枠1に回転自在に設けられロータリー33の各切削刃36にて跳ね上げられた泥土を旧畦Aに塗り付けて旧畦Aを修復する畦塗り体42」は、本件発明1の「前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体」に相当する。

(エ)
甲9発明の「ロータリー33を上下方向に設定位置を調節可能に支持する調節手段56」は「畦塗り体42」の設定位置を調節する旨の記載はなく、本件発明1の「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され」に相当するものではない。

(オ)
甲9発明の、「畦塗り体42」が有する「機枠1に回転自在に設けられた回転軸40と、この回転軸40に固着され旧畦Aの側面部Bを下方に向かって拡開した傾斜側面に修復する側面修復体43と、この側面修復体43に連設され旧畦Aの上面部Cを水平状面に修復する上面修復体44」のうち「上面修復体44」は、本件発明1の「整畦体の回転軸に設けられ」る、「整畦体」の「上面修復体」に相当する。

(カ)
甲9発明の、「畦塗り体42」の「側面修復体43」の「旧畦Aの側面部Bに泥土を塗り付ける外周面80」を形成し、「回転軸40に固着された略円錐形状の取付基板66の外周面に順次配設して取り付け」られる「複数の泥土塗付け面79」は本件発明1の「整畦体」の「同方向に配設され」る「複数の整畦板」に相当する。
またここで、甲9発明で、「隣接する泥土塗付け板67」において「径小部68の端縁部70と、この端縁部70に隣接する径大部69の端縁部72との間に複数の段差部81がそれそれ放射状に形成されている」ことは、本件発明1で「隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される」ことに相当する。

(キ)
甲9発明で「各泥土塗付け板67において隣接する泥土塗付け板67の相互の取付は、その一方の泥土塗付け板67の径小部68の端縁部70を取付基板66の外面に接合し、この径小部68の端縁部70に他方の泥土塗付け板67の径大部69の端縁部72に突設した取付片73を当接し、この取付片73の突片75の連通孔74から径小部68の端縁部70の一方の取付孔71及びこれらに連通して形成された取付基板66の一方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着し、また、一方の泥土塗付け板67の径小部68の他方の取付孔71から取付基板66の他方の挿通孔76にボルト77を挿通し、このボルト77にナット78を締着して、取付基板66の外周面に沿って複数の泥土塗付け板67が順次取り付けられ」ることは、「隣接する泥土塗付け板67」を相互に取り付ける「ボルト77」及び「ナット78」、そして「ボルト77」が挿通される「連通孔74」と「取付孔71」は「隣接する泥土塗付け板67」の各「端縁部70」に位置することになり、よって本件発明1で「隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に」「設けられた前記連結部材で連結され」ることに相当する。

(ク)
前記(ア)ないし(キ)から、本件発明1と甲9発明とは、

「泥土を切削して畦に供給する土盛体と、
前記土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を畦に塗りつけて、畦を修復する整畦体と、
を有する畦塗り機であって、
前記整畦体は、
上面修復体と、
複数の整畦板と、
連結部材とを有し、
前記上面修復体は、前記整畦体の回転軸に設けられ、
前記複数の整畦板は、同方向に配設され、
隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に設けられた前記連結部材で連結され、
隣接する前記整畦板の間に段差部が形成される
ことを特徴とする畦塗り機。」

の点で一致し、そして以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明1では「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され」るのに対し、甲9発明はその特定がない点

<相違点4>
本件発明1では隣接する前記整畦板同士の連結部材は、整畦板の各境界部に「沿って」設けられた連結部材で連結される」のに対し、甲9発明はその特定がない点。

イ 判断
(ア) 相違点3について
上記第3の1(7)アで摘記したように、請求人は、相違点3に係る構成が周知技術あるいは公知技術である証拠として、甲第2ないし6号証を提出している。
しかし上記2(1)イで説示したのと同様に、相違点3に係る本件発明1の「作業部回動装置」に相当する構成が甲第2ないし6号証に示されているとはいえず、よって「作業部回動装置」以外の相違点3に係る本件発明1の構成について検討するまでもなく、甲第2ないし6号証からは、相違点3に係る構成が周知技術あるいは公知技術であるとはできない。

ウ 本件発明1のまとめ
以上のとおりであるから、相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲9発明と同一でなく、甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、また甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(2) 本件発明2ないし4について
本件発明2は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに「前記連結部材は、少なくとも前記整畦板の外周縁部に固着される」との構成を付加するものである。
また本件発明3は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに「前記連結部材は、曲面を有している」との構成を付加するものである。
また本件発明4は、本件発明1の構成をすべて含み、さらに「前記連結部材は、隣接する前記整畦板のうち境界部において整畦面側に突となる方の境界部が前記連結部材から突出されるように固着される」との構成を付加するものである。
そうすると、本件発明1が、上記(1)で説示したとおり、甲9発明と同一でなく、甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、また甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないので、本件発明2ないし4も同様に、甲9発明と同一でなく、甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、また甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(3) 小括
以上のとおり、本件発明1ないし4は、甲9発明と同一でなく、甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもなく、また甲9発明及び甲第2号証ないし甲第6号証に記載された公知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものでも、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものでもないから、請求人が主張する無効理由2により本件発明1ないし4に係る特許を無効にすることはできない。

4 無効理由3について
ア 請求人の主張
請求人は、上記第3の1(8)に摘記したように、平成27年4月20日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)によって、本件補正前における請求項1の「隣接する前記整畦板同士は前記連結部材で連結され、」が、「隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、」(以下「本件補正事項」という。)と補正されたことについて、本件特許の願書に最初に添付した明細書又は図面(以下「本件当初明細書等」という。)に記載した事項の範囲内のものではなく、また、その記載から自明な事項でもない旨主張し、その理由として概ね以下(ア)及び(イ)のとおり主張している。

(ア)
本件当初明細書等の【0024】には、「さらに、図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。」と記載されているところ、本件当初明細書等には「重なり部分に沿って設けた連結片」しか記載されておらず、「境界部(重なり部分を有しない境界部)に沿って設けられた連結部材」は記載も示唆もされていない。
より具体的に説明すると、
本件補正事項における「前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材」という記載は、「重なり部分を有する各境界部のうちその重なり部分に沿って設けられた連結部材(連結片)」に加え、「重なり部分を有しない各境界部に沿って設けられた連結部材(連結片)」をも含むものである。
しかしながら、本件当初明細書等には「重なり部分に沿って設けた連結片」しか記載されていない。

(イ)
本件発明は、「(2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成したので、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」(【0031】)という作用効果を奏するものであるから、整畦板が重なり部分を有することは、当該作用効果を奏するために必須の構成である。
また、本件発明は、「所望の(十分な)元畦修復が行えない場合がある」(【0003】)との課題を解決しようとするものであるから、整畦板が重なり部分を有することは、当該課題を解決するためにも必須の構成である。
つまり、整畦板が重なり部分を有しない構成では、泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するため、元畦に塗りつけられる泥土が不足し、その結果、所望の(十分な)元畦修復が行えず、当該課題を解決できない。
したがって、本件発明は、作用効果や課題からみて、整畦板が重なり部分を有することを前提としたものであるから、整畦板が重なり部分を有しない構成は、もともと本件当初明細書等から排除されていたものである。

イ 判断
本件補正は、本件補正前における請求項1の「隣接する前記整畦板同士は前記連結部材で連結され、」という記載を、「隣接する前記整畦板同士は、前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材で連結され、」という記載に補正するものであり、「重なり部分に沿って」設けたという記載を「境界部に沿って」設けられたという記載に補正するものではない。
そして、本件当初明細書等の段落【0024】の「さらに、図8(a)、(b)に示す第5実施例の整畦ドラム27は、図5の第2実施例における整畦ドラム24の連結部材24c,24dに代えて、整畦ドラム27のドラムの内側において、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けた2つの連結片27c,27cにより固着している。そして、各整畦板27aの境界部分に直線状の垂直段部27dを形成したものである。」という記載によれば、本件当初明細書等には、各整畦板27aの重なり部分27bに沿って設けられた連結片27c,27cで各整畦板27aを固着することが記載されている。そして、「各整畦板の重なり部分」が「各整畦板の境界部分」に形成されることは明らかであるから、本件当初明細書等には、「隣接する整畦板の境界部分に沿って設けられた連結片」が記載されているといえる。よって、本件補正は、新たな技術的事項を導入するものではない。

ウ 小括
よって、本件補正事項は、本件当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではないから、本件当初明細書等に記載した事項の範囲内のものである。
したがって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第17条の2第3項の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由3により本件発明1ないし4に係る特許を無効にすることはできない。

5 無効理由4について
ア 請求人の主張
請求人は、上記第3の1(9)に摘記したように、本件発明1は不明確であり、またこの本件発明1を引用する本件発明2ないし4も不明確である旨主張し、その理由として概ね以下(ア)のとおり主張している。

(ア)
本件特許の請求項1には、「前記土盛体及び前記整畦体の作用深さは、当該畦塗り機が備える接地輪と該接地輪の上下移動を調節する上下調節装置と作業部回動装置とによって調節され、」との記載があり、この記載中の「作業部回動装置」とは、その文言から「作業部を回動させる装置」という意味である。
しかしながら、まず、そもそも、「作業部」とは、具体的にどの部分を指すのか不明である。また、「作業部」を何に対してどこを中心としてどの方向に回動させるのかについても、何ら特定されておらず不明である。
上記のことから、「作業部回動装置」とは、その文言から「作業部を回動させる装置」という意味であるとしても、具体的にどのような装置であるのか理解できない。
なお、本件特許明細書等をみても、「作業部回動装置」中の「作業部」について定義等の明確な根拠は見当たらず、本件明細書の段落【0013】、【0018】及び【0026】等の記載を考慮しても「作業部回動装置」の意味内容を理解できない。

イ 判断
本件特許の請求項1の記載それ自体では、「作業部回動装置」とはどのような「作業部」をどう回動させることをいうのか特定がなく、明確でない。
そこで、本件特許明細書等に、該「作業部回動装置」についての定義又は説明があるか否かを検討し、その定義又は説明を考慮して請求項1に記載された「作業部回動装置」を解釈することにより、請求項1の記載が明確といえるか否かを判断する。
本件特許明細書等における「作業部回動装置19」に関する説明をみると(本件特許明細書等には該「作業部回動装置19」以外には「作業部回動装置」の記載はなく、該「作業部回動装置19」が本件特許の請求項1の「作業部回動装置」に対応することは明らかである。)、まず段落【0013】で「畦塗り機1を非作業位置に回動した状態で後述する作業部回動装置19によりトラクタの後部に接近するのを防止する。」、次に段落【0018】で「畦塗り機1を機枠4の基端部を中心に回動させて機枠4を介して土盛体5及び整畦体6を作業位置と非作業位置に回動させる際、その回動作動により土盛体5及び整畦体6の前後姿勢を調節可能とした回転ハンドル20を備えた作業部回動装置19が平面視で前後斜め方向に設けられている。」、さらに段落【0026】で「また、回転ハンドル20により作業部回動装置19の前後長さを調節することにより、トラクタに対する畦塗り機1の前後作業姿勢を調節する。」と記載されている。加えて、「土盛体5」あるいは「整畦体6」等の各個別の装置を「作業部」と称する記載は無い。これらより、「作業部回動装置19」は土盛体5及び整畦体6を含む畦塗り機1の姿勢を調節するもので、「作業部回動装置19」における「作業部」の「回動」とは土盛体5及び整畦体6を含む畦塗り機1全体を回動するものであることがわかる。言い換えると、「畦塗り機1」を全体的に回動するので、該回動に伴い「畦塗り機1」上の各作業装置も全体的に回動され、その回動される各作業装置の中には土盛体5及び整畦体6も含まれることとなる。(なお、上記【0018】及び【0026】段落の「前後」の姿勢調節という説明から、該「作業部回動装置19」の「回動」は前後方向の回動であることが理解できる。トラクタに牽引されて畦を修復していく畦塗り機ということからして、「前」「後」は畦塗り機の進行方向とその反対方向を指すことがわかる。)
以上の説明を考慮して請求項1の「作業部回動装置」を解釈すると、「土盛体」及び「整畦体」を含む「畦塗り機」を全体的に回動する装置、言い換えると「畦塗り機」上の各作業装置(「土盛体」及び「整畦体」もその中に含まれる)を全体的に回動する装置であることが把握できる。このように、本件特許明細書等の記載を考慮すれば請求項1記載の「作業部回動装置」は明確であり、また他に発明を不明確にする記載もなく、よって明確性要件は満たされている。

ここで、上記ア(ア)に記載したとおり請求人は「何に対してどこを中心としてどの方向に回動させるのかについても、何ら特定されて」いないことも明確性要件違反と主張している点について検討すると、上述のように本件特許明細書等の記載を考慮すれば「回動」の意味内容を含め請求項1記載の「作業部回動装置」の意味内容は十分理解できる。よって「何に対してどこを中心としてどの方向に回動させる」かまで特定していないことで明確性要件に違反するとまではいえない。

ウ 小括
以上のとおり、本件発明1ないし4は不明確ではない。
よって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第2号の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由4により本件発明1ないし4に係る特許を無効にすることはできない。

6 無効理由5について
ア 請求人の主張
請求人は、上記第3の1(10)に摘記したように、本件特許の請求項1に記載された、「前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材」との構成は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張し、その理由として概ね以下(ア)のとおり主張している。

(ア)
本件特許の請求項1における「前記整畦板の各境界部に沿って設けられた前記連結部材」との記載は、無効理由3(上記4)で主張したのと同様に、「重なり部分を有する各境界部のうちその重なり部分に沿って設けられた連結部材」に加え、「重なり部分を有しない各境界部に沿って設けられた連結部材」をも含むものであるから、本件発明1ないし4は、いずれも発明の詳細な説明に記載されたものではない。
すなわち、整畦板が「重なり部分」を有しない場合には、泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するため、元畦に塗りつけられる泥土が不足し、その結果、所望の(十分な)元畦修復が行えず、本件発明の課題を解決できないため、「重なり部分」は課題解決のために必須の構成である。

イ 判断
整畦板が「重なり部分」を有するとはされていないことにより、本件発明1ないし4がサポート要件違反となるか、検討する。
本件特許に係る発明の詳細な説明の段落【0004】ないし【0008】、及び【0031】には、以下のとおり記載されている。
「【課題を解決するための手段】【0004】 上記の目的を達成するために本発明は、以下の構成を特徴としている。
A.走行機体の後部に連結装置を介して着脱可能に連結される機枠と、この機枠に回転自在に設けられ、畦塗り用の泥土を切削して元畦箇所に供給する土盛体と、この土盛体の後方に位置して、前記土盛体により供給された泥土を回転しながら元畦に塗りつけて、元畦を修復するドラム状の整畦体とを有する畦塗り機であって、前記整畦体は、回転しながら畦を形成する整畦ドラムを、回転中心から外周側に向けて複数の整畦板を周方向に等間隔に配設して形成し、各整畦板を相互に連結して各整畦板の境界部分に段差部を形成した。
【0005】 B.上記整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成した。・・・
【0007】<作用>上記A.?E.の構成により本発明の畦塗り機における整畦体(整畦ドラム)は、以下の作用を行う ・・・
【0008】 (2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成することで、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成でき、しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくする。・・・」、
「【0031】 (2).整畦ドラムの隣接する整畦板は相互に所定の重なりを有し、その重なり部分に垂直段部を形成したので、土盛体により供給された泥土を、回転しながら各垂直段部により間欠的に叩打しながら泥土を固めて元畦に塗りつけ、良好な畦を形成することができる。しかも整畦板の重なり部分により泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくすることができる。」と記載されている。
この発明の詳細な説明の記載から、整畦板が「重なり部分」を有することは「泥土が整畦ドラムの内面側に侵入する」という課題の解決手段であることが把握でき、本件特許の請求項1にはこの課題を解決するための手段が反映されていない。
ここで、サポート要件においては、発明の詳細な説明の記載から把握できる課題すべての解決手段が請求項に反映されることが求められるものではなく、上記課題解決手段(「重なり部分」)が反映されていないことですなわちサポート要件違反とはならない。この点に関し請求人は「「重なり部分」は課題解決のために必須の構成である。」と主張している。この主張について検討すると、請求人は該解決手段が必須の構成である理由として、上記ア(ア)に記載したように、「整畦板が「重なり部分」を有しない場合には、泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するため、元畦に塗りつけられる泥土が不足し、その結果、所望の(十分な)元畦修復が行えず、本件発明の課題を解決できないため、「重なり部分」は課題解決のために必須の構成である。」と述べている。しかし、上記発明の詳細な説明の記載を摘記したように、発明の詳細な説明は「重なり部分」により「泥土が整畦ドラムの内面側に侵入するのを少なくする」との記載であり、「重なり部分」を有する場合は有しない場合と比較して「泥土が整畦ドラムの内面側に侵入」するのがより少なくなるということ、言い換えれば「重なり部分」を有することでよりよい元畦修復が行えることまでは把握できるが、「重なり部分」を有しない場合は「元畦に塗りつけられる泥土が不足し、その結果、所望の(十分な)元畦修復が行えず、本件発明の課題を解決できない」とまでの記載も、また「重なり部分」が「必須」の課題解決手段との旨の記載も、あるいは「泥土が整畦ドラムの内面側に侵入する」のを防ぐことが「必須」の課題との旨の記載もない。発明の詳細な説明の記載だけでなく出願時の技術常識を考慮しても、「重なり部分」が「必須」であるとは導かれない。
よって、「整畦板の重なり部分」は課題解決のために必須の構成であると認める根拠がなく、上記請求人の主張は成り立たない。
また他に本件発明1ないし4に発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超える点もない。よって、サポート要件は満たされている。

ウ 小括
よって、本件発明1ないし4は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。
よって、本件発明1ないし4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号の規定に違反してされたものではないから、請求人が主張する無効理由5により本件発明1ないし4に係る特許を無効にすることはできない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件発明1ないし4に係る特許を無効とすることはできない。

そして、審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-13 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-31 
出願番号 特願2014-78398(P2014-78398)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A01B)
P 1 113・ 113- Y (A01B)
P 1 113・ 121- Y (A01B)
P 1 113・ 55- Y (A01B)
P 1 113・ 161- Y (A01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 有家 秀郎  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 赤木 啓二
前川 慎喜
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5922695号(P5922695)
発明の名称 畦塗り機  
代理人 高見 憲  
代理人 山田 哲也  
代理人 樺澤 襄  
代理人 篠田 淳郎  
代理人 神田 秀斗  
代理人 藤沼 光太  
代理人 樺澤 聡  
代理人 北島 志保  
代理人 鮫島 正洋  
代理人 弓削田 博  
代理人 林 佳輔  
代理人 阿部 康弘  
代理人 小林 幸夫  
代理人 阿部 実佑季  
代理人 和田 祐造  
代理人 高橋 雄一郎  
代理人 福永 健司  
代理人 幸谷 泰造  

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