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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C07B
管理番号 1326223
審判番号 不服2015-15280  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-08-14 
確定日 2017-03-15 
事件の表示 特願2012-551152「側流抜き出し二次反応器を有する酸化システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月 4日国際公開、WO2011/093949、平成25年 5月20日国内公表、特表2013-518104〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年12月9日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2010年1月29日(US)アメリカ合衆国 3件、2010年12月1日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成26年8月11日付けの拒絶理由通知に対し、その期間内に出願人から何らの応答がなく、平成27年4月8日付けで拒絶査定がされ、同年8月14日付けで拒絶査定不服審判請求されると同時に手続補正書が提出され、同年9月18日付けで手続補正書(方式)が提出され、平成28年8月19日付けで上申書が提出され、同年9月13日に審判請求人と当審との間で面接が行われたものである。

第2 平成27年8月14日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]

平成27年8月14日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成27年8月14日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、補正前の特許請求の範囲である
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流流体流連通にあり、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、システム。
【請求項2】
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の約5?約49パーセントの範囲を画定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記通常上部の酸化剤入口が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.55L_(s)離れている、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記通常上部の酸化剤入口がスパージャーを含み、前記スパージャーが複数の酸化剤排出開口部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項5】
前記酸化剤排出開口部の大部分が、前記気相酸化剤を通常下向きの方向に排出するように向いている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記通常上部の酸化剤入口が、前記スラリー入口から0.4L_(s)未満離れている、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記二次酸化反応器が、それぞれ別々に前記二次反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、少なくとも2つの上部酸化剤入口を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記二次反応領域が最大直径D_(s)を有し、前記反応領域が、約14:1?約28:1の範囲であるL_(s):D_(s)比を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記一次酸化反応器が気泡塔反応器であり、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記一次酸化反応器が、その中に、最大長さL_(p)を有する一次反応領域を画定し、前記第一スラリー出口が、前記一次反応領域の通常頂端部及び通常底端部のそれぞれから少なくとも0.1L_(p)離れており、前記一次反応領域と前記二次反応領域との体積比が約4:1?約50:1の範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項11】
ポリカルボン酸組成物を製造するための方法であって、
(a)被酸化性化合物を含む第一多相反応媒体を、一次酸化反応器中に画定された一次反応領域中で酸化に付して、第一スラリーを製造する工程;及び
(b)前記第一スラリーの少なくとも一部を、二次酸化反応器中に画定された二次反応領域中で気相酸化剤と接触させて、第二スラリーを製造する工程
を含み、
前記二次反応領域が最大長さL_(s)を有し、
前記気相酸化剤の第一部分が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れた第一酸化剤入口領域で前記二次反応領域に導入され、
前記気相酸化剤の前記第一部分が、前記二次反応領域に導入される前記気相酸化剤の総体積の約5?約49パーセントの範囲を構成している、方法。
【請求項12】
前記気相酸化剤の前記第一部分が、前記二次反応領域に導入される前記気相酸化剤の総体積の約5?約35パーセントの範囲を構成し、前記第一酸化剤入口領域が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.55L_(s)離れており、前記気相酸化剤の第二部分が、前記二次反応領域の底部から0.3L_(s)未満だけ離れた第二酸化剤入口領域で前記二次反応領域に導入される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記第一スラリーの少なくとも一部が、スラリー入口領域で前記二次酸化反応器に導入され、前記第一酸化剤入口領域が前記スラリー入口領域の0.4L_(s)以内である、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記気相酸化剤の少なくとも一部と前記第一スラリーの少なくとも一部が前記二次反応領域中で合わさり第二多相反応媒体を形成し、前記第二多相反応媒体の全体積が、等しい体積の20の別々の水平切片に理論上分割された場合、隣接する2つの水平切片のいずれも、7重量百万分率(「ppmw」)未満の合わせた時間平均及び体積平均の酸素含有量を有さない、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記第一及び第二のスラリーがそれぞれ液相にp-トルイル酸を含み、前記第二スラリーが、前記第一スラリーの液相p-トルイル酸の時間平均及び体積平均の濃度の50パーセント未満である、液相p-トルイル酸の時間平均及び体積平均の濃度を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項16】
前記被酸化性化合物がp-キシレンであり、前記ポリカルボン酸がテレフタル酸であり、前記気相酸化剤が空気である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記一次酸化反応器が気泡塔反応器であり、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、請求項11に記載の方法。
【請求項18】
前記二次反応領域が最大直径D_(s)を有し、前記反応領域が、約14:1?約28:1の範囲のL_(s):D_(s)比を有する、請求項11に記載の方法。」
を、補正後の特許請求の範囲である
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流方向で流体連通しており、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れており、
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する、システム。
【請求項2】
前記通常上部の酸化剤入口が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.55L_(s)離れている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記通常上部の酸化剤入口がスパージャーを含み、前記スパージャーが複数の酸化剤排出開口部を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項4】
前記酸化剤排出開口部の大部分が、前記気相酸化剤を通常下向きの方向に排出するように向いている、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記通常上部の酸化剤入口が、前記スラリー入口から0.4L_(s)未満離れている、請求項1に記載のシステム。
【請求項6】
前記二次酸化反応器が、それぞれ別々に前記二次反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、少なくとも2つの上部酸化剤入口を含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項7】
前記二次反応領域が最大直径D_(s)を有し、前記反応領域が、14:1?28:1の範囲であるL_(s):D_(s)比を有する、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記一次酸化反応器が気泡塔反応器であり、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、請求項1に記載のシステム。
【請求項9】
前記一次酸化反応器が、その中に、最大長さL_(p)を有する一次反応領域を画定し、前記第一スラリー出口が、前記一次反応領域の通常頂端部及び通常底端部のそれぞれから少なくとも0.1L_(p)離れており、前記一次反応領域と前記二次反応領域との体積比が4:1?50:1の範囲である、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
ポリカルボン酸組成物を製造するための方法であって、
(a)被酸化性化合物を含む第一多相反応媒体を、一次酸化反応器中に画定された一次反応領域中で酸化に付して、第一スラリーを製造する工程;及び
(b)前記第一スラリーの少なくとも一部を、二次酸化反応器中に画定された二次反応領域中で気相酸化剤と接触させて、第二スラリーを製造する工程
を含み、
前記二次反応領域が最大長さL_(s)を有し、
前記気相酸化剤の第一部分が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れた第一酸化剤入口領域で前記二次反応領域に導入され、
前記気相酸化剤の前記第一部分が、前記二次反応領域に導入される前記気相酸化剤の総体積の5?49パーセントの範囲を構成しており、
前記気相酸化剤の第二部分が、第二酸化剤入口領域で前記二次反応領域に導入される、方法。
【請求項11】
前記気相酸化剤の前記第一部分が、前記二次反応領域に導入される前記気相酸化剤の総体積の5?35パーセントの範囲を構成し、前記第一酸化剤入口領域が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.55L_(s)離れており、前記気相酸化剤の第二部分が、前記二次反応領域の底部から0.3L_(s)未満だけ離れた第二酸化剤入口領域で前記二次反応領域に導入される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記第一スラリーの少なくとも一部が、スラリー入口領域で前記二次酸化反応器に導入され、前記第一酸化剤入口領域が前記スラリー入口領域の0.4L_(s)以内である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記気相酸化剤の少なくとも一部と前記第一スラリーの少なくとも一部が前記二次反応領域中で合わさり第二多相反応媒体を形成し、前記第二多相反応媒体の全体積が、等しい体積の20の別々の水平切片に理論上分割された場合、隣接する2つの水平切片のいずれも、7重量百万分率(「ppmw」)未満の合わせた時間平均及び体積平均の酸素含有量を有さない、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記第一及び第二のスラリーがそれぞれ液相にp-トルイル酸を含み、前記第二スラリーが、前記第一スラリーの液相p-トルイル酸の時間平均及び体積平均の濃度の50パーセント未満である、液相p-トルイル酸の時間平均及び体積平均の濃度を有する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記被酸化性化合物がp-キシレンであり、前記ポリカルボン酸がテレフタル酸であり、前記気相酸化剤が空気である、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記一次酸化反応器が気泡塔反応器であり、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記二次反応領域が最大直径D_(s)を有し、前記反応領域が、14:1?28:1の範囲のL_(s):D_(s)比を有する、請求項10に記載の方法。」
とする補正である。

2 補正の適否
(1)請求項1における補正について
本件補正のうち、請求項1における補正は、下記
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流流体流連通にあり、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、システム。」を、下記
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流方向で流体連通しており、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れており、
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する、システム。」
とする補正(以下「請求項1の補正」という。)であり、補正前の請求項1に係る発明である、スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムにおいて、「前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する」という特定事項を加入する補正である。

(2)補正の目的要件について
以下に請求項1の補正の目的について検討する。

ア 請求項の削除について
補正前の請求項1?3は、以下のように記載されている。
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流流体流連通にあり、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、システム。
【請求項2】
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の約5?約49パーセントの範囲を画定する、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記通常上部の酸化剤入口が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.55L_(s)離れている、請求項1に記載のシステム。」

一方、補正後の請求項1及び2は、以下のように記載されている。
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流方向で流体連通しており、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れており、
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する、システム。
【請求項2】
前記通常上部の酸化剤入口が、前記二次反応領域の底部から少なくとも0.55L_(s)離れている、請求項1に記載のシステム。」

まず、補正後の請求項1をみてみると、補正後の請求項1は、補正前の請求項1を削除して、補正前の請求項2の請求項の番号を繰り上げる補正であると考えると、請求項1に関しては、請求項の削除及び明りょうでない記載の釈明を目的とした補正であると一応考えられ得る。
しかし、補正後の請求項2をみてみると、補正前の請求項3は請求項1を引用しているため、補正後の請求項2に相当する補正前の請求項が存在していないことになり、請求項の追加が行われている。
よって、請求項1の補正により、新たな発明が請求項に記載されたことになるので、請求項1の補正は、請求項の削除を目的とした補正であるとはいえない。

イ 特許請求の範囲の減縮について
請求項1の補正が、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるかを検討するにあたり、請求項1の補正における「前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する」のうち、「総解放領域」の技術的な意味を含め、請求項1の補正の技術的な意味、そして、補正後の請求項1に係る発明について検討する。

a 総解放領域の内容について
(a)字句どおりの解釈について
まず、「総解放領域」という用語について検討するが、この総解放領域で表現される技術内容が当該技術分野において明確であるとはいえない。また、字句どおり、「前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定」するとそのまま把握するとしても、通常上部の酸化剤入口と通常下部の酸化剤入口の間に総解放領域を画定するとは、第二酸化反応器において技術的に何を意味しているのか明確に解することはできない。
更に、総解放領域とは、第二酸化反応器における、通常上部の酸化剤入口と前記通常下部の酸化剤入口との間の物理的な領域と解釈するとして、請求項1における、「前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する」という特定を検討するが、通常上部の酸化剤入口である、第二酸化反応器における特定の箇所が、総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定するという物理的な領域を意味することになり、技術的な意味が通じないことから、総解放領域を、上記のように解釈したとしても、請求項1に係る発明が明確であるとはいえない。

(b)平成28年9月13日の面接時における主張について
審判請求人は、平成28年9月13日に行われた面接において、平成28年9月9日付けのファクシミリを基礎として、「総解放領域」とは、二次反応領域内における気相酸化剤の総量が導入される領域を意味し、請求項1中の「前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定し」なる特定は、「上部の酸化剤入口」が、二次反応領域内における気相酸化剤の総量の5?49パーセントを導入するように画定されたことを意味する旨を主張する。

そこで、この主張について検討するが、審判請求人は、総解放領域を上記のように解する理由については、何ら示しておらず、また、発明の詳細な説明の記載や、技術常識を勘案しても、審判請求人が主張するように解釈する根拠があるとはいえず、更に、審判請求人の主張するとおり解釈としないと、発明の詳細な説明の他の記載との整合がとれないという特別な事情も見当たらない。
したがって、審判請求人の主張を採用することはできない。

(c)平成27年9月18日付け手続補正書(方式)での主張について
平成26年8月11日付け拒絶理由通知の理由3(2)における、「総解放領域」の意味が不明である、との指摘に対して、平成27年9月18日付けの手続補正書(方式)中で『「総解放領域」とは、図1の30に示される解放領域(open area)の全体を意味するものであり、本願明細書及び図面の記載から十分に把握できるものと思料する。』と主張するが、図1の30で示される解放領域は、一次酸化反応器における領域であり、第二酸化反応器における領域でないことから、この主張からは「総解放領域」を明確に解することはできない。また、この主張は、平成28年9月13日に行われた面接において、平成28年9月9日付けのファクシミリにあるように不適切であった旨を請求人自ら釈明している。

(d)総解放領域の内容のまとめ
このように、「総解放領域」を含む請求項1の補正について、いずれの解釈を採用したとしても、補正後の請求項1に係る発明が明確であるとはいえない。

b まとめ
したがって、補正後の請求項1に係る発明が、補正前の請求項1に係る発明に対してどのような技術的な内容を更に特定したのかを明確に解することができない結果、補正前の請求項1に係る発明を減縮したとはいえないから、請求項1の補正が特許請求の範囲の減縮を目的としたものとはいえない。

ウ 誤記の訂正について
請求項1の補正が誤記の訂正を目的としたものでないことは明らかである。

エ 明りようでない記載の釈明について
上記イで述べたとおり、補正後の請求項1に係る発明が明確であるとはいえないため、補正後の請求項1に係る発明が、補正前の請求項1に係る発明に対して明りようでない記載の釈明をしたとはいえない。

オ まとめ
以上のとおりであるので、請求項1の補正が、請求項の削除、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正、明りようでない記載の釈明のいずれを目的とするものともいえない。

したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反するので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

上述のとおり、請求項1の補正は目的要件を満たすものではないが、仮に、請求項1の補正が、通常上部の酸化剤入口と通常下部の酸化剤入口との間を、特定し限定する補正であり、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1の補正が特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するものとして、念のため更に以下に検討を行う。

カ 独立特許要件について
補正後の請求項に記載されている事項により特定される特許を受けようとする発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて以下検討する。

(ア)特許法第36条第6項第2号についての検討
補正後の請求項1に係る発明は、その請求項1に記載されるとおり、
「スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流方向で流体連通しており、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れており、
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の5?49パーセントの範囲を画定する、システム。」で特定される発明である。

そして、この請求項1に係る発明が明確でないことは、上記イで述べたとおりである。

(イ)まとめ
以上のとおり、仮に請求項1の補正が、特許請求の範囲の減縮を目的としたものであったとしても、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものではなく、本件補正後の請求項1に記載されている事項により特定される特許を受けようとする発明が特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(3)補正の却下の決定のむすび
よって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の規定に違反する補正を含み、仮にそうでないとしても、同法同条第6項において準用する同法第126項第7項の規定に違反する補正を含むので、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 本願発明
平成27年8月14日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願発明は、願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項1?18に記載された事項により特定されるとおりものであるところ、その請求項1及び2に係る発明(以下「本願発明1」及び「本願発明2」といい、まとめて「本願発明」ともいう。)は、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口、及び通常上部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流流体流連通にあり、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れており、
前記通常上部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、システム。
【請求項2】
前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の約5?約49パーセントの範囲を画定する、請求項1に記載のシステム。」

第4 原査定の拒絶理由
原査定の拒絶の理由は、平成26年8月11日付け拒絶理由通知における理由1及び3を含むものである。

1 理由1の概要
理由1の概要は、この出願の請求項1に係る発明は、その優先日前に頒布された下記引用文献1及び2に記載された発明に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。

引用文献1:特表2009-528350号公報
引用文献2:特開平10-330292号公報

2 理由3の概要
理由3の概要は、請求項2記載の「総解放領域」の意味が不明であるから、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないというものである。

第5 当審の判断
1 理由1について
当審は、本願発明1は、その優先日前に頒布された下記刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないと判断する。
その理由は以下のとおりである。

(1)本願発明1
上記「第3」で示したとおりである。

(2)刊行物
刊行物1:特表2009-528350号公報(原審における引用文献1)
刊行物2:特開平10-330292号公報(原審における引用文献2)

(3)刊行物の記載事項
ア 刊行物1
刊行物1には、以下の事項が記載されている。
(1a)「【請求項19】
第1の入口および第1の出口を規定する一次酸化反応器;ならびに
第2の入口および第2の出口を規定する二次酸化反応器;
を含み、前記第1の出口が、流体フロー伝達において前記第2の入口と連結しており、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、反応器システム。
【請求項20】
前記一次酸化反応器が気泡塔反応器である、請求項19に記載の反応器システム。
【請求項21】
前記二次酸化反応器が、前記一次酸化反応器の外側に位置している、請求項19に記載の反応器システム。
【請求項22】
前記二次酸化反応器の少なくとも一部が、前記一次酸化反応器と横並びに位置している、請求項21に記載の反応器システム。
【請求項23】
前記二次反応器がピストンフロー反応器でない、請求項19に記載の反応器システム。
【請求項24】
前記一次酸化反応器が、流体フロー伝達において前記二次酸化反応器と接続しているスラリー出口を規定し、前記スラリー出口が、前記一次酸化反応器の頂端と底端との間に位置している、請求項19に記載の反応器システム。」

(1b)「【0006】
気泡塔(バブルカラム)反応器は、CSTRsおよび他の機械的撹拌される酸化反応器の魅力的な代替物を提供する。気泡塔反応器は、高価で信頼性が低い機械設備を必要とせずに反応媒体の撹拌を与える。気泡塔反応器は典型的には細長い直立の反応ゾーンを含み、この中に反応媒体が含まれている。反応ゾーン内の反応媒体の撹拌は、主に反応媒体の液相を経て上がる気泡の元々の浮力により与えられる。気泡塔反応器において与えられるこの元々の浮力の撹拌により、原価コストおよび整備コストは、機械的に撹拌される反応器と比べて低減される。さらに、気泡塔反応器に関係した、駆動機械部品が実質的に存在しないことによって、機械的に故障する傾向が機械的に撹拌される反応器よりも小さい酸化系が与えられる。」

(1c)「【0008】
CTAをPTAに変換するための一つの典型的な精製工程としては、以下のステップ、(1)CTA含有スラリーの母液を水に置換するステップ、(2)CTA/水スラリーを加熱してCTAを水中に溶解させるステップ、(3)CTA/水溶液を触媒的に水素化して不純物をより望ましいおよび/または容易に分離できる化合物に変換するステップ、(4)複数の結晶化ステップを経て水素化溶液から得られたPTAを沈殿させるステップ、および(5)結晶化したPTAを残存液体から分離するステップ、が挙げられる。効率的ではあるが、この種の従来の精製工程は極めて高価である可能性がある。従来のCTA精製方法のコスト高に作用する個別の要因としては、例えば、CTAの水中への溶解を促進するために必要な熱エネルギー、水素化のために必要な触媒、水素化のために必要な水素流、ある程度のテレフタル酸の水素化による収率損失、および複数ステップの結晶化のために必要な複数の容器が挙げられる。よって、水中での熱で促進される溶解、水素化、および/または複数ステップの結晶化を必要とせずに精製できるCTA製品を製造することが可能な酸化システムを提供することが望ましい。」

(1d)「【0010】
本発明の他の目的は、パラキシレンのテレフタル酸への液相触媒部分酸化のためのより効率的かつ経済的な反応器および方法を提供することである。」

(1e)「【0075】
酸化剤スパージャー34を経由して気泡塔反応器20内に導入される主に気相の酸化剤流は、分子酸素(O_(2))を含む。好ましくは、該酸化剤流は約5から約40モルパーセントの範囲の分子酸素、より好ましくは約15から約30モルパーセントの範囲の分子酸素、および最も好ましくは18から24モルパーセントの範囲の分子酸素を含む。酸化剤流の残部は、窒素等、酸化に対して不活性である1種または複数種の気体を主に含むことが好ましい。より好ましくは、酸化剤流は本質的に分子酸素と窒素とからなる。最も好ましくは、酸化剤流は約21モルパーセントの分子酸素と約78から約81モルパーセントの窒素とを含む乾燥空気である。本発明の代替の態様では、酸化剤流は、実質的に純粋な酸素を含むことができる。」

(1f)「【0093】
加えて、高いL:D比およびH:W比は、反応媒体36の底部の圧力が反応媒体36の頂部の圧力よりも実質的に大きくなる原因となる。この垂直圧力勾配は、反応媒体36の高さおよび密度の結果である。この垂直圧力勾配のある利点は、容器の底部での高い圧力が、浅い反応器において同程度の温度および塔頂圧力で別に実現できるものよりも大きい酸素の溶解性および物質移動をもたらすことである。よって、より浅い容器で必要とされるよりも低温で酸化反応を行うことができる。気泡塔反応器20がパラキシレンの粗テレフタル酸(CTA)への部分酸化に用いられる場合、同じかより良好な酸素の物質移動速度でより低い反応温度で操作する能力は、多くの利点を有する。例えば、パラキシレンの低温酸化は、反応中に燃焼する溶媒の量を低減する。以下にさらに詳細に述べるように、低温酸化はまた、小さい、高表面積の、緩く固着した、容易に溶解するCTA粒子の形成に有利に働き、これにより、従来の高温酸化プロセスにより生成する大きい、低表面積の、密集したCTA粒子よりも経済的な精製技術を行うことができる。」

(1g)「【0126】
ここで図12および13を参照し、反応器内反応器の構成を有する代替の気泡塔反応器200を示す。気泡塔反応器200は、外部反応器202と内部反応器204とを含み、内部反応器204は少なくとも部分的に、外部反応器202内に配置されている。好ましい態様において、外部反応器202および内部反応器204の両者は気泡塔反応器である。好ましくは、外部反応器202が外部反応容器206と外部酸化剤スパージャー208とを含み、一方内部反応器204が内部反応容器210と内部酸化剤スパージャー212とを含む。」

(1h)「【0147】
ここで図15を参照し、一次酸化反応器402と二次酸化反応器404とを含む反応器システム400を示す。一次酸化反応器402は、好ましくは、図12および13の外部反応器202と実質的に同じ様式で構成および運転する。二次酸化反応器404は、好ましくは図12および13の内部反応器204と実質的に同じ様式で構成および運転する。しかし、図15の反応器システム400と図12および13の気泡塔反応器200との間の主な相違点は、反応器システム400の二次酸化反応器404が一次酸化反応器402の外側に位置することである。図15の反応システム400において、入口管路405を採用して反応媒体420の一部を一次酸化反応器402から二次酸化反応器404に移送する。さらに、出口管路407を用いて塔頂ガスを二次酸化反応器404の頂部から一次酸化反応器402に移送する。
【0148】
反応システム400の通常運転の間、反応媒体420はまず一次酸化反応器402の一次反応ゾーン416内で酸化される。次いで、反応媒体420aを一次反応ゾーン416から取出し、管路405経由で二次反応ゾーン418に移送する。二次反応ゾーン418において、反応媒体420bの液相および/または固相はさらなる酸化を受ける。一次反応ゾーン416から取出される液相および/または固相の少なくとも約50,75,95または99質量パーセントを二次反応ゾーン416内で加工することが好ましい。塔頂ガスは、二次酸化反応器404の上側ガス出口から出て管路407経由で一次酸化反応器402に移送して戻される。反応媒体420bのスラリー相は、二次酸化反応器404の下側スラリー出口422から出て、その後さらなる下流加工を受ける。
【0149】
入口管路405は、任意の高さで一次酸化反応器402に取付けることができる。図15には示していないが、所望の場合、反応媒体420は二次反応ゾーン418に機械的にポンプ引きできる。しかし、位置水頭(elevation head)(重力)を用いて反応媒体420を一次反応ゾーン416から入口管路405を経て二次反応ゾーン418内に移送することがより好ましい。従って、入口管路405が、一次反応ゾーン416の全体の高さおよび/または体積の上側50,30,20または10パーセントに一端で接続していることが好ましい。好ましくは、入口管路405の他端を、二次反応ゾーン418の全体の高さおよび/または体積の上側30,20,10または5パーセントに取付ける。好ましくは、入口管路405は、水平および/または一次酸化反応器402から二次酸化反応器404に向かって下向きに傾斜している。出口管路407は、二次酸化反応器404において任意高さに取付けることができるが、出口管路407は、入口管路405の取付け高さより上で二次酸化反応器404に接続していることが好ましい。より好ましくは、出口管路407を二次酸化反応器404の頂部に取付ける。出口管路407は、好ましくは、入口管路405の取付け高さよりも上で一次酸化反応器402に取付ける。より好ましくは、出口管路407は、一次反応ゾーン416の全体の高さおよび/または体積の上側30,20,10または5パーセントに取付ける。好ましくは、出口管路407は、水平および/または反応の二次酸化反応器404から一次酸化反応器402に向かって上向きに傾斜している。図15には示していないが、出口管路407はまた、ガス状の流出物を一次酸化反応器402の頂部から取出すガス出口管路に直接取付けることができる。二次反応ゾーン416の上限は、一次反応ゾーン418の上限よりも上または下であることができる。より好ましくは、一次反応ゾーン416の上限は、二次反応ゾーン418の上限よりも、上10メートルから下50メートル、下2メートルから下40メートル、または下5メートルから下30メートルの範囲内であることができる。下側スラリー出口422は、二次酸化反応器404の任意の高さから出ることができるが、下側スラリー出口422は、入口管路405の取付け高さよりも下で二次酸化反応器404に接続することが好ましい。下側スラリー出口422の取付け点は、より好ましくは高さが入口管路405の取付け点から広く間隔をあけられており、2つの取付けは二次反応ゾーン418の高さの少なくとも約50,70,90または95パーセント間隔をあけられている。最も好ましくは、下側スラリー出口422は、図15に示すように二次酸化反応器404の底部に取付ける。二次反応ゾーン418の下限は、一次反応ゾーン416の下限よりも上または下の高さであることができる。より好ましくは、一次反応ゾーン416の下限は、二次反応ゾーン418の下限よりも上または下約40,20,5または2メートル以内の高さである。」

(1i)「【0165】
ここで図26を参照し、気泡塔反応器内での酸化の間に反応媒体において存在する反応物質濃度勾配を定量化するために、反応媒体の全体積を、等体積の30の離散水平方向スライスに理論的に分割することができる。図26は、反応媒体を等体積の30の離散水平方向スライスに分割する概念を示す。最も高いおよび最も低いスライスを除外し、各水平方向スライスは、その頂部および底部が仮想水平面により境界とされかつその側面が反応器の壁により境界とされた離散的な体積である。最も高い水平方向スライスは、その底部が仮想水平面により境界とされ、かつその頂部が反応媒体の上面により境界とされる。最も低い水平方向スライスは、その頂部が仮想水平面により境界とされ、かつその底部が容器シェルの底部により境界とされる。反応媒体を等体積の30の離散水平方向スライスに理論的に一旦分割すれば、各水平方向スライスの時間平均および体積平均の濃度を決定できる。30の水平方向スライス全てのうちで最大濃度を有する個別の水平方向スライスは、「C-max水平方向スライス」と特定できる。C-max水平方向スライスより上に位置し、C-max水平方向スライスよりも上に位置する水平方向スライス全てのうちで最小濃度を有する個別の水平方向スライスは、「C-min水平方向スライス」と特定できる。次に、垂直濃度勾配は、C-max水平方向スライスにおける濃度の、C-min水平方向スライスにおける濃度に対する比として算出できる。
【0166】
酸素濃度勾配の定量化に関し、反応媒体が等体積の30の離散水平方向スライスに理論的に分割される場合、O_(2)-max水平方向スライスは30の水平方向スライス全てのうちで最大酸素濃度を有するものとして特定され、そしてO_(2)-min水平方向スライスはO_(2)-max水平方向スライスより上に位置する水平方向スライスのうちで最小酸素濃度を有するものとして特定される。水平方向スライスの酸素濃度は、反応媒体の気相において、時間平均および体積平均のモーラー湿潤ベースで測定される。O_(2)-max水平方向スライスの酸素濃度の、O_(2)-min水平方向スライスの酸素濃度に対する比は、約2:1から約25:1の範囲であることが好ましく、より好ましくは約3:1から約15:1の範囲、および最も好ましくは4:1から10:1の範囲である。」

(1j)「【0169】
酸素濃度は反応媒体の頂部に向かって極めて顕著に減衰するため、酸素の需要を反応媒体の頂部において低減することが望ましい。反応媒体の頂部近傍のこの低減された酸素の需要は、易酸化性化合物(例えばパラキシレン)濃度における垂直勾配(易酸化性化合物の最小濃度が反応媒体の頂部近傍に位置する)の生成により達成できる。」

(1k)「【0203】
図31は、本発明のある態様に関して構成された一次酸化反応器800aと二次酸化反応器800bとを含む酸化反応器システムを採用した、PTAを生成するための改善されたプロセスを示す。図31に示す構成においては、初期スラリーが一次酸化反応器800aから生成され、その後精製装置802(二次酸化反応器800bはこれの一部である)内で精製を受ける。一次酸化反応器800aから取出される初期スラリーは、好ましくは、固体CTA粒子と液体母液とを含む。典型的には、初期スラリーは、約10から約50質量パーセントの範囲の固体CTA粒子を含み、残部は液体母液である。一次酸化反応器800aから取出される初期スラリー中に存在する固体CTA粒子は、典型的には、少なくとも約400ppmwの4-カルボキシベンズアルデヒド(4-CBA)、より典型的には少なくとも約800ppmwの4-CBA、および最も典型的には1,000から15,000ppmwの範囲の4-CBAを含む。
【0204】
精製装置802は、一次酸化反応器800aから取出された初期スラリーを受入れ、そしてCTA中に存在する4-CBAおよび他の不純物の濃度を低減する。より純粋な/精製されたスラリーは、精製装置802から生成され、そして分離装置804内での分離および乾燥に供され、これにより、約400ppmw未満の4-CBA、より好ましくは約250ppmw未満の4-CBA、および最も好ましくは10から200ppmwの範囲の4-CBAを含むより純粋な固体テレフタル酸粒子が生成される。」

(1l)「



(1m)「



(1n)「【図31】



イ 刊行物2
刊行物2には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【請求項1】 (a)酸化を受け得る有機液体を収容する反応器を準備し、
(b)該反応器の下方部に第一酸素含有ガスを導入して、該第一酸素含有ガスのバブルが該反応器を通って上方に流れて該有機液体の上向き流れを引き起こすようにし、そして
(c)該反応器で溶存酸素が欠乏した少なくとも1つの点に第二酸素含有ガスを注入する、ことからなる液相酸化法。
【請求項2】 有機液体がクメン、シクロヘキサン、p-キシレン、アントラヒドロキノン及びアセトアルデヒドよりなる群から選択される請求項1記載の方法。」

(2b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、気泡塔反応器で行なわれる空気に基づく酸化反応に関するものである。特に、本発明は、かかる反応において反応器への酸素の直接注入によって、生成物収率、酸素利用率及び生産性を含めた生成物品質及び反応器性能特性の両方を向上させることに関するものである。」

(2c)「【0023】有機液体としては、酸化されてクメンヒドロペルオキシドを形成するクメン、酸化されてシクロヘキサノンとシクロヘキサノールとの混合物を形成するシクロヘキサン、ジメチルテレフタレート又はテレフタル酸を生成するプロセスにおいて酸化されるp-キシレン、酸化されて過酸化水素への前駆物質であるペルオキシアントラキノンを形成するアントラヒドロキノン、及び酸化されて酢酸を形成するアセトアルデヒドを挙げることができるが、これらのものに限定されるものではない。」

(2d)「【0024】典型的なBCRでは、空気又は酸素富化空気(40容量%までの酸素含量を有する)のどちらかである第一酸素含有ガスを反応器1の底部にインゼクター2を介して反応器の直径の中央近くで注入すると、それは、1つ又は2つの反応器直径内で5cmまで又はそれよりも大きい直径を有するバブル3に合体する。反応器の中央部は、正味の上向き流れを有する大量のガスで負荷される。この流れは、上向きの矢印によって示されるように有機液体反応体をして反応器1内を上昇させる。上昇する反応体が反応器1の頂部に近づくにつれて、それは、下向きの矢印によって示されるように進路を変えて再循環パターンで反応器1の下方に流れる。バブル中に含有されるガスは反応器の頂部でヘッド空間に離脱されるので、反応器1の壁の近くの領域は、ガスがほとんど又は全く存在しない液体の正味の下向き流れを有し、そして溶存酸素と有機液体との間で反応が続くにつれて、液体は本質上酸素が枯渇した状態になる。不十分な溶存酸素を有するこの領域(4)において、少なくとも70容量%そしてより好ましくは少なくとも90容量%の酸素含量を有する第二の酸素含有ガスが少なくとも1つの注入ノズル6を介して反応器に注入される。70容量%未満のより低い限度より下では、余りに多すぎる不活性窒素がプロセスに導入される可能性があり、かくして反応器の流れパターンが変更される。」

(2e)「【0033】上記の説明から推測することができるように、先に記載の領域においてラジカルの反応を促進させることによって、望ましくない結合した副生物の生成が抑制される。その結果、酸素の不在下において反応して望ましくない副生物を生成する反応体が酸化されるので、向上した生成物収率及びより高い純度の生成物が得られる。」

(4)刊行物1に記載された発明
刊行物1の特許請求の範囲の請求項19には、「第1の入口および第1の出口を規定する一次酸化反応器;ならびに第2の入口および第2の出口を規定する二次酸化反応器;を含み、前記第1の出口が、流体フロー伝達において前記第2の入口と連結しており、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、反応器システム。」が記載され(摘記(1a))、段落【0010】には、発明の目的として、パラキシレンのテレフタル酸への液相触媒部分酸化のためのより効率的かつ経済的な反応器を提供することとの記載がされており(摘記(1d))、テレフタル酸はポリカルボン酸であることは明らかであるから、請求項19に記載された反応器システムは、ポリカルボン酸を製造するための反応器システムであるといえ、また、請求項24には、一次酸化反応器が二次酸化反応器と接続しているスラリー出口を規定しと記載されている(摘記(1a))ことからみて、一次酸化反応器では、スラリーが形成されているといえ、更に、段落【0075】には、本願発明1の気相酸化剤に相当する、気泡塔反応器に導入される気相の酸化剤流は、分子酸素を含み、最も好ましくは乾燥空気であることが記載されている(摘記(1e))。

これらのことを併せると、上記請求項19に記載された反応システムは、スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するための反応器システムであるといえる。

そして、この反応器システムについて、発明の詳細な説明をみてみると、段落【0147】に、一次酸化反応器から入口管路を通して二次酸化反応器へ反応媒体を移送することが図15を引用して記載されており(摘記(1h)(1m))、同段落には、図15の二次酸化反応器は、図12及び13の内部反応器と実施的に同じ様式で構成すると記載され(摘記(1h))、同【0126】には、図12及び13の説明として、内部反応器には、内部酸化剤スパージャーを含むと記載がある(摘記(1g)(1l))から、図15の二次酸化反応器も酸化剤スパージャーを含み、これは、412で示される部材であると認められ、同【0147】及び【0148】には、図15を引用して反応媒体は、二次酸化反応器に移送して二次反応ゾーンにおいてさらなる酸化を受けると記載がされている(摘記(1h)(1m))から、二次酸化反応器は、その中に二次反応ゾーンを画定しているといえ、また、図15をみると、酸化剤スパージャーが二次反応ゾーンの下部に位置するといえる(摘記(1m))。

このように、刊行物1に記載された請求項19の反応システムは、上記のように発明の詳細な説明に具体的に記載されているから、これらの記載を総合すると、刊行物1には、
「スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、第1の入口および第1の出口を規定する一次酸化反応器;ならびに第2の入口および第2の出口を規定する、酸化剤スパージャーを含む二次酸化反応器;を含み、前記第1の出口が、流体フロー伝達において前記第2の入口と連結しており、二次酸化反応器は、その中に二次反応ゾーンを画定し、二次酸化反応器における酸化剤スパージャーが、二次反応ゾーンの下部に位置し、前記二次酸化反応器が気泡塔反応器である、反応器システム」の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。

(5)対比・判断
ア 対比
そこで、本願発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「二次酸化反応器」、「二次反応ゾーン」、「酸化剤スパージャー」は、それぞれ、本願発明1の「第二酸化反応器」、「第二反応領域」、「酸化剤入口」に相当することは明らかであり、引用発明の前記第1の出口が、流体フロー伝達において前記第2の入口と連結しているとは、本願発明1の前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流流体流連通にあり、に相当することは明らかである。
また、引用発明における二次反応ゾーンの最大長さは、二次酸化反応器の縦の長さであるといえ、これをL_(s)と定めれば、引用発明の酸化剤スパージャーは、二次酸化反応器の下部に位置しているのであるから、二次反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れていることは明らかである。ここで、本願発明1において、「通常下部の酸化剤入口」、「通常上部の酸化剤入口」と特定している点に関し、審判請求人は、平成28年9月13に行われた面接において、平成28年9月9日付けのファクシミリを基礎として、「通常」なる用語は、二次酸化反応器における上部の酸化剤入口と、下部の酸化剤入口の相対的な位置を規定するために用いている、との主張をしており、技術常識を参酌しても、その他の特定の意味を持つものとはいえないため、この主張のとおりに解釈すれば、引用発明における酸化剤スパージャは本願発明1の通常下部の酸化剤入口に相当する。

そうすると、本願発明1と引用発明とでは、
「スラリーを気相酸化剤と接触させることによりポリカルボン酸を製造するためのシステムであって、
第一スラリー出口を含む一次酸化反応器;及び
スラリー入口、第二スラリー出口、通常下部の酸化剤入口を含む第二酸化反応器を含み、
前記スラリー入口が、前記第一スラリー出口と下流流体流連通にあり、
前記第二酸化反応器が、その中に、最大長さL_(s)を有する第二反応領域を画定し、
前記通常下部の酸化剤入口が、前記第二反応領域の底部から0.5L_(s)未満離れている、システム」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)本願発明1では、第二酸化剤反応器に通常上部の酸化剤入口を設け、通常上部の酸化剤入口が、第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている、としているのに対して、引用発明では、通常上部の酸化剤入口が設けられていない点

イ 判断
そこで、この相違点1について検討する。

刊行物2には、酸化を受け得る有機液体を収容した反応器の下方部に第一酸素含有ガスを導入して、該第一酸素含有ガスのバブルが該反応器を通って上方に流れて該有機液体の上向き流れを引き起こすようにし、該反応器で溶存酸素が欠乏した少なくとも1つの点に第二酸素含有ガスを注入する、ことからなる液相酸化法が記載され(摘記(2a))、酸化を受け得る有機液体としてパラキシレンを用いてテレフタル酸を生成する例が記載され(摘記(2c))、具体例として気泡塔反応器では、第一酸素含有ガスを反応器1の底部に注入し、上向き流れが生じ、頂部に近くで下向きの再循環流となり、この流れにて酸素と有機液体とが反応が続き、液体には酸素が枯渇した状態になり、不十分な溶存酸素を有するこの領域において、第二の酸素含有ガスが反応器に注入されることが記載され(摘記(2d))、その結果、更なる酸化が生じるので、向上した生成物収率及びより高い純度の生成物が得られる作用効果が記載されている(摘記(2e))。

刊行物1には、気泡塔反応器における反応物質の濃度勾配について、最大酸素濃度を有する水平方向スライスが、反応媒体の底部近傍に位置すること、最小酸素濃度を有する水平方向スライスが反応媒体の頂部近傍に位置することになることが記載され(摘記(1i))、また、酸素濃度は反応媒体の頂部に向かって極めて顕著に減衰することが記載されている(摘記(1j))が、二次酸化反応器における酸素濃度勾配については記載されていない。しかしながら、刊行物1に記載の二次酸化反応器も気泡塔反応器であるから、上記のように、底部近傍に最大酸素濃度を有し、酸素濃度は頂部に向かって極めて顕著に減衰し、頂部近傍に最小酸素濃度を有することが推認され、このことから、二次酸化反応器の頂部近傍では、一次酸化反応器と同様に気相酸化反応が生じにくくなるという技術課題を内包していることが理解できる。

ここで、上記した刊行物2には、液相酸化法において、溶存酸素が欠乏した点に第二酸素含有ガスを注入することで、更なる酸化が生じることで向上した生成物収率及びより高い純度の生成物が得られることが記載されていることから、引用発明において、生成物収率を向上させるために、刊行物2に記載されたように、第二酸化剤反応器に酸素濃度が低い上部に、更に酸化剤入口を設け、そして、その位置を、酸素濃度が低くなっている相対的に上部である第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている位置とすることに動機付けがあるといえ、引用発明において、相違点1の構成とすることは、当業者にとって容易に想到できたことであるといえる。

ウ 効果について
刊行物2には、気泡塔反応器において、不十分な酸素を有する領域に酸素を導入することで、生成物の収率が向上するという効果が記載されているから、引用発明において、第二反応領域の上部に酸化剤入口を設けることにより、生成物の収率が向上することは予測できることといえ、本願発明1が当業者の予測を超えた効果を奏するとはいえない。

(6)審判請求人の主張
審判請求人は、審判請求書の手続補正書(方式)において、本願発明は、望まれない部分酸化不純物である4-カルボキシベンズアルデヒド(4-CBA)を10?200ppmwと減少させた生成物が得られるという効果を主張し(以下「主張ア」という。)、また、第二酸化反応器を備えた結果、第二酸化反応器に続く反応器の温度を下げることができ、エネルギーコストを減少させ、酸化副生成物を減少させたという効果を主張し(以下「主張イ」という。)、更に、上申書において、追加の酸化剤入口を用いることで気泡塔反応器において曝気と撹拌が促進されテレフタル酸の酸化が改善されるという効果を主張する(以下「主張ウ」という。)。

そこで、これらの審判請求人の主張について検討する。

ア 主張アについて
本願の発明の詳細な説明の段落【0114】には、一次酸化反応器に、その後二次酸化反応器を一部に含む精製システム、分離システムを通じることで、10?200ppmwの4-CBAを含む固体テレフタル酸粒子を製造できると記載されており、審判請求人の主張アは、この記載に基づくものであると考えられる。
一方、刊行物1の段落【0203】及び【0204】には、図31を引用しつつ、一次酸化反応器に、二次酸化反応器を含む精製装置、分離装置を組み合わせることにより、4-CBAの濃度を10?200ppmwとした固体テレフタル酸粒子が精製されることが記載されており(摘記(1k)(1n))、これは、上記した本願発明1における効果と同じ効果を記載しているといえるから、審判請求人が主張する上記効果を予測を超えた効果であるということはできず、主張アを採用することはできない。

イ 主張イについて
審判請求人は、面接において、主張イに関する発明の詳細な説明の記載の根拠として、段落【0053】における、容器底部での高圧が高い酸素溶解度及び物質移動を促進し、浅い容器よりも低い温度で反応が実施できる、旨の記載を根拠とする釈明を行った。
この点について、刊行物1をみると、段落【0093】には、容器の底部での高い圧力が大きい酸素の溶解性および物質移動をもたらすことができ、浅い容器よりも低温で酸化反応を行うことが出来る旨の記載がされ(摘記(1f))、これは、上記した審判請求人が主張イの根拠として示した段落に記載された効果と同じ内容が記載されているといえ、そうすると、主張イでいう、第二酸化反応器に続く反応器の温度を下げることができ、エネルギーコストを減少させるという効果は予測の範囲内であるといえる。また、酸化副生成物を減少させるという効果は、上記「5(1)ウ」で述べたとおり、予測の範囲内であるといえる。
したがって、主張イを採用することはできない。

ウ 主張ウについて
刊行物1の段落【0006】には、気泡塔反応器における反応ゾーン内の反応媒体の撹拌は、主に反応媒体の液相を経て上がる気泡の元々の浮力により与えられる、と記載されており(摘記(1b))、引用発明における気泡塔反応器においても同様に曝気と気泡により撹拌が生じているといえ、また、第二反応領域の底部から少なくとも0.5L_(s)離れている位置に上部の酸化剤入口を設けることにより、更に曝気と撹拌が促進され、酸化が改善されるという効果が生じることは明らかであるから、審判請求人がするテレフタル酸の酸化が改善されるという効果を予測を超えた効果であるということはできない。
したがって、主張ウを採用することはできない。

(7)まとめ
よって、本願発明1は、刊行物1に記載された発明及び刊行物2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

2 理由3について
(1)本願発明2について
本願発明2は、上記「第3」で記載したとおり、本願発明1を引用して、更に、「前記通常上部の酸化剤入口及び前記通常下部の酸化剤入口が、それらの間に、前記気相酸化剤を前記二次反応領域に導入するための総解放領域を画定し、前記通常上部の酸化剤入口が、前記総解放領域の約5?約49パーセントの範囲を画定する」ことを特定した発明である。

(2)判断
本願発明2は、上記「第2 2(2)ア」で述べたとおり、本件補正により補正された請求項1に係る発明と同じであり、総解放領域という記載を含む本願発明2は、上記「第2 2(2)イ」で述べたとおり明確であるとはいえないから、本願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号の規定に適合するものではない。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができず、また、本願は、特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号の規定に適合するものではなく、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、この出願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-07 
結審通知日 2016-10-11 
審決日 2016-10-27 
出願番号 特願2012-551152(P2012-551152)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (C07B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 井上 千弥子  
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 加藤 幹
佐藤 健史
発明の名称 側流抜き出し二次反応器を有する酸化システム  
代理人 池田 達則  
代理人 福本 積  
代理人 石田 敬  
代理人 青木 篤  
代理人 中島 勝  
代理人 古賀 哲次  
代理人 渡辺 陽一  

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