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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G03F
管理番号 1326248
審判番号 不服2015-10434  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2017-03-16 
事件の表示 特願2014-168321「マスクブランクス、ネガ型レジスト膜付きマスクブランクス、位相シフトマスク、およびそれを用いるパターン形成体の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成27年11月 5日出願公開、特開2015-194673〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成26年8月21日(特許法第41条に基づく国内優先権主張 平成25年8月21日、平成26年3月28日)を出願日とする出願であって、平成26年10月30日付けで拒絶理由が通知され、平成27年1月13日付けで意見書が提出されたが、同年2月27日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月3日に拒絶査定不服審判が請求がなされ、その後、当審において、平成28年6月22日付けで拒絶理由が通知され、同年6月20日に面接審理を行い、同年8月29日付けで意見書が提出されるとともに同時に手続補正がなされ、同年9月21日付けで最後拒絶理由が通知され、同年11月22日付けで意見書が提出されるとともに同時に手続補正がなされたものである(以下、平成28年11月22日になされた手続補正を「本件補正」という。)。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
1 [結論]
本件補正を却下する。

2 [補正の内容]
本件補正は、特許請求の範囲の請求項1につき、本件補正前(平成28年8月29日付けの手続補正後)の
「ArFエキシマレーザ露光光が適用されるハーフトーン型の位相シフトマスクを製造するために用いられるマスクブランクスであって、
透明基板と、前記透明基板上に形成され、SiおよびNのみからなる光半透過膜と、を有し、
前記光半透過膜は、ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.3?2.7の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?38%の範囲内であり、さらに、膜厚が57nm?67nmの範囲内であることを特徴とするマスクブランクス。」

「ArFエキシマレーザ露光光が適用されるハーフトーン型の位相シフトマスクを製造するために用いられるマスクブランクスであって、
透明基板と、前記透明基板上に形成され、SiおよびNのみからなる光半透過膜(但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く)と、を有し、
前記光半透過膜は、ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.3?2.7の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?38%の範囲内であり、さらに、膜厚が57nm?67nmの範囲内であることを特徴とするマスクブランクス。」
に補正する内容、及び、明細書の段落【0079】につき、
「上記SiおよびNのみからなる光半透過膜とは、SiおよびN以外の元素を実質的に含有しないものであるが、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物であれば含有していてもよい。ここで、上記光半透過膜の機能および特性は、上記光半透過膜のArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数および屈折率を含むものである。上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物としては、炭素、酸素、ホウ素、ヘリウム、水素、アルゴン、キセノン等が挙げられる。そして、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物の割合は、5%以下であることが好ましく、中でも、2%以下であることが好ましく、特に、1%以下であることが好ましい。」

「上記SiおよびNのみからなる光半透過膜とは、SiおよびN以外の元素を実質的に含有しないものであるが、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物であれば含有していてもよい。ここで、上記光半透過膜の機能および特性は、上記光半透過膜のArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数および屈折率を含むものである。上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物としては、炭素、酸素、ヘリウム、水素、アルゴン、キセノン等が挙げられる。そして、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物の割合は、5%以下であることが好ましく、中でも、2%以下であることが好ましく、特に、1%以下であることが好ましい。」
に補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したとおりである)。

3 [理由1]
特許法第17条の2第3項について
(1)本件補正は、補正前の請求項1の「SiおよびNのみからなる光半透過膜」に関して、「但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く」と記載される構成を付加する内容、及び、
補正前の段落【0079】から「ホウ素、」を削除する内容を含むものである。

(2)本願出願当初の明細書及び図面の記載内容
本願の出願当初の明細書及び図面(以下、「本願当初明細書等」という。)には、以下の記載がある(下線は当審で付した。以下同じ。)。
「【0079】
上記SiおよびNのみからなる光半透過膜とは、SiおよびN以外の元素を実質的に含有しないものであるが、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物であれば含有していてもよい。ここで、上記光半透過膜の機能および特性は、上記光半透過膜のArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数および屈折率を含むものである。上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物としては、炭素、酸素、ホウ素、ヘリウム、水素、アルゴン、キセノン等が挙げられる。そして、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物の割合は、5%以下であることが好ましく、中でも、2%以下であることが好ましく、特に、1%以下であることが好ましい。
【0080】
また、上記Si、N、およびOのみからなる光半透過膜とは、Si、N、およびO以外の元素を実質的に含有しないものであるが、上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物であれば含有していてもよい。ここで、上記光半透過膜の機能および特性は、上記SiおよびNのみからなる光半透過膜の機能および特性と同様のものである。上記Si、N、およびOのみからなる光半透過膜における上記光半透過膜の機能および特性に影響を与えない不純物の種類および割合は、上記SiおよびNのみからなる光半透過膜におけるものと同様である。」

(3)判断
本願当初明細書等には、記載されていないが、特開2003-322955号公報(以下、「引用文献」という。)を参酌すると、光半透過膜にB、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素が不純物として含まれるのは、Siターゲットに導電性を付与するためにB、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素を含有させたことによることが考えられる。
しかし、本願当初明細書等(特に、段落【0142】及び【0143】参照)には、導電性付与のためのB、P、As、およびSbを含有する/しないを含めて、どのようなSiターゲットを使用するのかの記載はない。
すると、本願当初明細書等には、光半透過膜がB、P、As、およびSbを含有する/しないについての記載はないから、「但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く」という技術的事項は、本願当初明細書等に記載したものということはできない。

(4)小括
以上によれば、上記「2 補正の内容」の内容を含む本件補正は、本願当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものであって、本願当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないから、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものである。

4 [理由2]
特許法第17条の2第6項について
(1)補正の内容
本件補正は、上記「2 [補正の内容]」に示したとおりのもので、上記「3 [理由1]」で検討したとおり、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであるが、仮に、違反するものでないとしても、下記の理由で特許法第17条の2第6項の規定に違反するものである。

(2)補正の目的
本件補正は、補正前の請求項1において、「SiおよびNのみからなる光半透過膜」に関して、「SiおよびNのみからなる光半透過膜(但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く)」との限定を付加するものであるから、特許法第17条の2第5項第2号に規定にする請求項の限定的減縮を目的とするものである。

(3)独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
ア 本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記「2 [補正の内容]」において、本件補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

イ 当審の拒絶理由
当審において平成28年9月21日付けで通知した拒絶の理由(最後拒絶理由)は、本願発明は、本願の最先の優先権主張日前に頒布された刊行物である、引用文献に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

ウ 刊行物の記載及び引用発明
(ア)引用文献には、以下の記載がある。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、半導体等のパターン転写に用いるためのリソグラフィーマスク及びその素材となるリソグラフィーマスクブランク並びにその製造方法に関し、特に位相シフターによる光の干渉作用を利用して転写パターンの解像度を向上できるようにしたハーフトーン型の位相シフトマスクの素材となるハーフトーン型位相シフトマスクブランクに関する。」

b 「【0003】そのような問題に対処するため、位相シフト法が用いられるようになった。位相シフト法では、微細パターンを転写するためのマスクとして位相シフトマスクが使用される。位相シフトマスクは、例えば、マスク上のパターン部分を形成する位相シフター部と、位相シフター部の存在しない非パターン部からなり、両者を透過してくる光の位相を180°ずらすことで、パターン境界部分において光の相互干渉を起こさせることにより、転写像のコントラストを向上させる。位相シフター部を通る光の位相シフト量φ(rad)は位相シフター部の複素屈折率実部nと膜厚dに依存し、下記数式(1)の関係が成り立つことが知られている。
φ=2πd(n-1)/λ …(1)
ここでλは露光光の波長である。したがって、位相を180°ずらすためには、膜厚dを
d=λ/{2(n-1)} …(2)
とすればよい。この位相シフトマスクにより、必要な解像度を得るための焦点深度の増大が達成され、露光波長を変えずに解像度の改善とプロセスの適用性を同時に向上させることが可能となる。」

c 「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳細に説明する。本発明のリソグラフィーマスクブランクの製造方法においては、Siターゲットの比抵抗を0.1Ω・cm以下にする事で、パーティクル発生の原因となるアーク放電の抑制や、成膜速度向上といった効果が得られるというものである。DC放電可能なSiターゲットの比抵抗は5Ω・cm以下であるが、酸素、アーク放電の発生回数を測定した結果、Siターゲットの比抵抗を0.1Ω・cm以下にするとアーク放電発生回数が減少することがわかった。また、Siターゲットの比抵抗が小さくなるほど、同じDC投入電力における成膜速度が大きくなった。Siターゲットに投入できる電力は冷却性能やバッキングプレートの強度、ボンディング材(通常はIn)の融点により制限されるため、Siターゲットの比抵抗を下げることは、生産性の向上において有効である。Siターゲットに、導電性を付与するには、SiターゲットにB、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素を含有することにより可能となり、ドープされる元素の濃度を調整することにより所望の比抵抗を有する導電性を付与することができる。Siターゲットの比抵抗とドープする原子の濃度には、おおむね式1、式2のような関係がある。
ρN=5×10^(15)/原子濃度 (式1)
式1において、ρN:N型のドープ物質(P,As,Sb)をドープする場合のシリコンターゲットの比抵抗、原子濃度:1ccのSiに含まれるドープ物質の原子数、である。
ρP=1.3×10^(16)/原子濃度 (式2)
式2において、ρP:P型のドープ物質(B)をドープする場合のシリコンターゲットの比抵抗、原子濃度=1ccのSiに含まれるドープ物質の原子数である。なお、スパッタされるSiターゲットは多結晶であっても単結晶であってもかまわない。また、本発明において用いられるスパッタリングガスとしては、Ar、Xe等の不活性ガスを用いることができる。本発明において、シリコンを含有する薄膜は、例えばフォトマスクブランクにおける遮光膜、反射防止膜、位相シフトマスクブランクにおける位相シフト膜等、EUV(Extreme Ultra Violet)マスクブランク上の薄膜等、リソグラフィーマスクブランクにおけるあらゆる薄膜を指すものである。そして、このリソグラフィーマスクブランクにおける所望の薄膜を所望のパターンにパターニングすることによってリソグラフィーマスクを得ることができる。・・・
【0011】特に、近年における露光波長の短波長化(特に、特に140nm?200nmの露光波長領域)に対応し、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクにおける光半透過膜として、SiO_(X)N_(Y)単層膜、又はSiO_(X)N_(Y)膜と、該SiO_(X)N_(Y)膜と基板との間のエッチングストッパー膜との2層構造からなるものが本発明者により提案されており(特願2001-261025)、このSiO_(X)N_(Y)の形成において、本発明を用いることができる。この場合のSiO_(X)N_(Y)膜としては、複素屈折率実部nについてはn≧1.7の範囲に、そして複素屈折率虚部kについてはk≦0.450の範囲に調整、制御することが好ましい。そうすることで、露光光の単波長化に伴なうハーフトーン型位相シフトマスクとしての光学特性を満たすのに有利である。なお、F_(2)エキシマレーザ用では、k≦0.40の範囲が好ましく、0.07≦k≦0.35の範囲がさらに好ましい。ArFエキシマレーザ用では、0.10≦k≦0.45の範囲が好ましい。また、F_(2)エキシマレーザ用では、n≧2.0の範囲が好ましく、n≧2.2の範囲がさらに好ましい。ArFエキシマレーザ用では、n≧2.0の範囲が好ましく、n≧2.5の範囲がさらに好ましい。上記光学特性を得るため、前記構成元素の組成範囲を、珪素については35?45原子%、酸素については1?60原子%、窒素については5?60原子%とすることが好ましい。すなわち、珪素が45%より多い、あるいは窒素が60%より多いと、膜の光透過率が不十分となり、逆に窒素が5%未満、あるいは酸素が60%を超えると、膜の光透過率が高すぎるため、ハーフトーン型位相シフター膜としての機能が失われる。また珪素が35%未満、あるいは窒素が60%を上回ると膜の構造が物理的、化学的に非常に不安定となる。なお、上記と同様の観点から、F_(2)エキシマレーザ用では、前記構成元素の組成範囲を、珪素については35?40原子%、酸素については25?60原子%、窒素については5?35原子%とすることが好ましい。同様にArFエキシマレーザ用では、前記構成元素の組成範囲を、珪素については38?45原子%、酸素については1?40原子%、窒素については30?60原子%とすることが好ましい。尚、上記組成の他に、微量の不純物(金属、炭素、フッ素等)を含んでも良い。・・・
【0013】また、上記したハーフトーン型位相シフトマスクブランクの例において、考えられるエッチングストッパーとしては、クロム、モリブデン、タンタル、チタン、タングステン、ハフニウム、ジルコニウム等の一種又は二種以上の合金からなる金属膜、又はこれらの金属又は合金の酸化物、窒化物、酸窒化物、シリサイド等を用いたものが好ましい。このようなハーフトーン型位相シフトマスクを用いる際の露光光としては、特に140nm?200nmの露光波長領域、具体的には、F_(2)エキシマレーザの波長である157nm付近、及びArFエキシマレーザの波長である193nm付近を用いることができる。ハーフトーン位相シフター部を高透過率に設定(透過率8?30%)した高透過率品も作製することができる。尚、ハーフトーン位相シフター膜の位相シフト量は、理想的には180°であるが、実用上は180°±5°の範囲に入ればよい。また、透過率は、露光光の透過率は、3?20%、好ましくは6?20%、露光光反射率は30%以下、好ましくは20%以下とすることがパターン転写上好ましい。また、検査光透過率は40%以下とすることがマスクの透過光と用いた欠陥検査を行う上で好ましく、検査光透過率を60%以下及び検査光反射率を12%以上とすることにより、マスクの透過光と反射光を用いた欠陥検査を行う上で好ましい。また、本発明における透明基板としては、合成石英基板等を用いることができ、特にF_(2)エキシマレーザを露光光として用いる場合は、Fドープ合成石英基板、フッ化カルシウム基板等を用いることができる。
【0014】
【実施例】以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(実施例1)本実施例では、図1の様なDCスパッタリング装置を用い、薄膜形成を行った。スパッタリングカソード1にはSiターゲットを装着した。Siターゲットには導電性を持たすため、微量のボロンをドープした。ターゲットの電気抵抗は7×10^(-4)Ω・cmであり、ボロン濃度約2×10^(20)(atms/cc)に相当する。次に、真空チャンバー内を2×10^(-5)Pa以下まで排気した後、基板ホルダーに石英基板を装着する。ArとN_(2)とO_(2)の混合ガス(Ar:N_(2):O_(2)=20:28.7:1.3)を導入し、圧力を0.13Paとした。ガス導入後にSiターゲット上のシャッターを開け、Siターゲットに負電圧を印加し、電力0.35kWにて基板上にSiON膜を作製した。」

d 「【0019】尚、上記実施例では、SiO_(X)N_(Y)膜の形成のみを説明したが、例えば、金属等の薄膜上にSiO_(X)N_(Y)膜を形成することによって2層構造の光半透過膜を有するハーフトーン位相シフトマスクブランクを製造することができることは言うまでもない。また、SiO_(X)N_(Y)膜に関らず、例えば、シリコン薄膜、又はSiの酸化膜、窒化膜、酸窒化膜であっても、同様の効果が得られる。さらに、Siの酸化膜、窒化膜、酸窒化膜を反射防止膜として遮光膜上に形成したマスクブランクの欠陥を減少させ、生産性を向上させることもできる。」

e 上記「c」「段落【0014】」には、DCスパッタリング装置を用い、石英基板上にSiON膜を作製して薄膜形成を行う点が記載されているから、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクにおいて、合成石英基板上に光半透過膜が形成される点が記載されているといえる。
また、ハーフトーン型位相シフトマスクブランクにおいて、上記「c」「段落【0011】」の光半透過膜が、上記「b」「段落【0003】」の位相シフター部、上記「c」「段落【0013】」のハーフトーン位相シフター部であることは、自明のことである。
さらに、上記「b」「段落【0003】」の式「d=λ/{2(n-1)}…(2)」に、上記「c」「段落【0013】」のArFエキシマレーザの波長である193nmと、上記「c」「段落【0011】」のArFエキシマレーザ用の複素屈折率実部nであるn=2.5を代入すると、光透過膜の膜厚d=64.3nmが求められる。
そして、上記「c」「段落【0011】」のArFエキシマレーザ用の複素屈折率実部nは、n≧2.5の範囲がさらに好ましいのであるから、光透過膜の膜厚dは64.3nm以下であるといえる。

(イ)上記(ア)より、引用文献には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「ArFエキシマレーザの波長である193nm付近を用いるハーフトーン型の位相シフトマスクの素材となるハーフトーン型位相シフトマスクブランクであって、
合成石英基板と、前記合成石英基板上に形成され、SiO_(X)N_(Y)膜からなる光半透過膜と、
前記光半透過膜は、ArFエキシマレーザ用では、複素屈折率虚部kについては、0.10≦k≦0.45の範囲が好ましく、ArFエキシマレーザ用では、複素屈折率実部nについては、n≧2.5の範囲が好ましく、ArFエキシマレーザの波長で透過率8?30%であり、膜厚が64.3nm以下である、ハーフトーン型位相シフトマスクブランク。」

エ 対比・判断
(ア)本願補正発明と引用発明とを対比する。
a 引用発明の「ArFエキシマレーザ」、「ハーフトーン型位相シフトマスクブランク」、「合成石英基板」、「複素屈折率虚部k」及び「複素屈折率実部n」は、本願補正発明の「ArFエキシマレーザ露光光」、「マスクブランクス」、「透明基板」、「消衰係数」及び「屈折率」に、それぞれ相当する。

b 引用発明の「ArFエキシマレーザの波長である193nm付近を用いるハーフトーン型の位相シフトマスクの素材となるハーフトーン型位相シフトマスクブランク」は、本願補正発明の「ArFエキシマレーザ露光光が適用されるハーフトーン型の位相シフトマスクを製造するために用いられるマスクブランクス」に相当する。

c 引用発明の「ArFエキシマレーザ用では、複素屈折率虚部kについては、0.10≦k≦0.45の範囲が好まし」いことは、本願補正発明の「ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であ」ることと、「ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であ」る点で一致する。

d 引用発明の「ArFエキシマレーザ用では、複素屈折率実部nについては、n≧2.5の範囲が好まし」いことは、本願補正発明の「ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.3?2.7の範囲内であ」ることと、「ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.5?2.7の範囲内であ」る点で一致する。

e 引用発明の「ArFエキシマレーザの波長で透過率8?30%であ」ることは、本願補正発明の「ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?38%の範囲内であ」ることと、「ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?30%の範囲内であ」る点で一致する。

f 引用発明の「膜厚は64.3nm以下である」ことは、本願補正発明の「膜厚が57nm?67nmの範囲内であること」と、「膜厚が57nm?64.3nmの範囲内であること」の点で一致する。

(イ)一致点・相違点
上記(ア)より、本願補正発明と引用発明とは、
「ArFエキシマレーザ露光光が適用されるハーフトーン型の位相シフトマスクを製造するために用いられるマスクブランクスであって、
透明基板と、前記透明基板上に形成される光半透過膜と、を有し、
前記光半透過膜は、ArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数が0.2?0.45の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における屈折率が2.5?2.7の範囲内であり、ArFエキシマレーザ露光光の波長における光透過率が15%?30%の範囲内であり、さらに、膜厚が57nm?64.3nmの範囲内であるマスクブランクス。」
の点で一致し、以下の相違点で相違する。

<相違点>「光半透過膜」が、本願補正発明では「SiおよびNのみからなる(但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く)」のに対して、引用発明では「SiO_(X)N_(Y)膜からなる」点。

(ウ)判断
上記相違点について検討する。
a 引用文献には、「上記実施例では、SiO_(X)N_(Y)膜の形成のみを説明したが・・・SiO_(X)N_(Y)膜に関らず、例えば、シリコン薄膜、又はSiの酸化膜、窒化膜、酸窒化膜であっても、同様の効果が得られる。」(上記「ウ」「(ア)」「d」「段落【0019】」)と記載されていて、引用文献には、Siの窒化膜からなる半透過膜であっても同様の効果が得られることが記載されているので、引用発明の「SiO_(X)N_(Y)膜」をSiの窒化膜にすることに、何ら格別の困難性はない。

b また、引用文献において、「B、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素」(上記「ウ」「(ア)」「c」「段落【0009】」)は、「Siターゲットに、導電性を付与する」(同「段落【0009】」)ためにSiターゲットに含有された結果、「光半透過膜」に(不純物として)含有されたものであって、「光半透過膜のArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数および屈折率」という「光半透過膜の機能および特性」を調整するために含有された物質とはいえない不純物である。

c したがって、引用発明が実体的に不純物として「B、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素」を含むものであっても、「光半透過膜のArFエキシマレーザ露光光の波長における消衰係数および屈折率」という「光半透過膜の機能および特性」を調整するために含有された物質を含むものではなく、また、スパッタリングターゲットとしてのSiターゲットにおいて、「B、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素」を含まないものは、例を挙げるまでもなく周知であるから、スパッタリングの具体的な条件などにより、「B、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素」を含まないSiターゲットを用いることは当業者が適宜選択し得ることである。
よって、引用発明の「SiO_(X)N_(Y)膜からなる光半透過膜」を「Siの窒化膜」として、さらに、「B、P、As及びSbから選ばれる少なくとも一種の元素」を含まない「Siの窒化膜」となして、SiおよびNのみからなる光半透過膜(但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く)とすることも当業者が適宜なし得ることである。

d 本「(3)」における独立特許要件の判断は、本件補正が、仮に、特許法第17条の2第3項(新規事項)の規定に違反するものでないとした議論であるところ、「B、P、As、およびSbを含有」する/しないによって、効果における違いが生じるものであれば、「B、P、As、およびSbを含有」しないことによって新たな技術的事項を生ずることが明らかであるから、本願補正発明の「(但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く)」との限定は、顕著な効果を生ずるものではない。
そして、本願補正発明が奏する作用効果も、引用文献のSiO_(X)N_(Y)膜、Siの窒化膜等がすでに奏し得ていたものにすぎない。

e よって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明及び引用文献に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 [補正の却下の決定についてのむすび]
上記「3 [理由1]」での検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するものであり、同法第159条第1項で読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。
また、上記「4 [理由2]」での検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の特許請求の範囲の各請求項に係る発明は、平成28年8月29日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし19に記載されたとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記「第2」「2 [補正の内容]」において、本件補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記「第2」「4」「(3)」「ウ」のとおりである。

3 対比・判断
前記「第2」「2 [補正の内容]」のとおり、本件補正は、補正前の請求項1において、「SiおよびNのみからなる光半透過膜」に関して、「但し、B、P、As、およびSbを含有するもの除く」との限定を付加するものである。
そうすると、本願発明は、本願補正発明から上記限定を省いたものと認められるところ、「第2」「4」「(3)」「エ」での検討に照らすと、本願発明は、引用発明及び引用文献に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び引用文献に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものであるから、本願の他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-10 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2014-168321(P2014-168321)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (G03F)
P 1 8・ 575- WZ (G03F)
P 1 8・ 121- WZ (G03F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 関口 英樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
伊藤 昌哉
発明の名称 マスクブランクス、ネガ型レジスト膜付きマスクブランクス、位相シフトマスク、およびそれを用いるパターン形成体の製造方法  
代理人 山下 昭彦  

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