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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1326256
審判番号 不服2015-20857  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-11-24 
確定日 2017-03-16 
事件の表示 特願2012-161353「不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成26年2月3日出願公開、特開2014-19675〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、平成24年7月20日の出願であって、平成27年5月25日付けで拒絶理由が通知され、同年7月31日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月17日付けで拒絶査定がされ、同年11月24日に拒絶査定不服審判が請求されるとともに手続補正書が提出され、同年11月30日に審判請求書を補正する手続補正書が提出されたものである。
なお、この出願の一部が平成27年11月24日に特願2015-229110号として分割出願されている。

第2 平成27年11月24日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成27年11月24日付けの手続補正を却下する。

[理由]

1 本件補正
平成27年11月24日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)は、本件補正前の特許請求の範囲(平成27年7月31日に提出された手続補正書により補正されたものである。)の請求項1である
「固定床多管型反応器を用いて、プロピレンを、分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸を製造するにあたり、
A)反応管の原料ガス流れ方向に2分割または3分割して形成された複数の触媒層を設け、該触媒層のうち最も反応ガス入口側にある触媒層をZin、最も反応ガス出口側にある触媒層をZoutとし、
B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、以下の式(1)を満足させるようにし、
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
Cmax:目的生成物の収率が最大になる原料転化率。
Ccrs:触媒層Zinの最高温度をTin、触媒層Zoutの最高温度をToutとし、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率。
触媒として、活性成分が下記一般式で表されるものを使用する、アクロレインおよびアクリル酸の製造方法。
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、好ましくはb=0.5?4、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)」
を、
「固定床多管型反応器を用いて、プロピレンを、分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸を製造するにあたり、
A)反応管の原料ガス流れ方向に2分割または3分割して形成された複数の触媒層を設け、該触媒層のうち最も反応ガス入口側にある触媒層をZin、最も反応ガス出口側にある触媒層をZoutとし、
B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、以下の式(1)を満足させるようにし、
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
Cmax:目的生成物の収率が最大になる原料転化率。
Ccrs:触媒層Zinの最高温度をTin、触媒層Zoutの最高温度をToutとし、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率。
Zinに充填する触媒の焼成温度をZoutに充填する触媒の焼成温度よりも高温にし、さらにZinに触媒と不活性物質成型体の混合物を充填し、 触媒として、活性成分が下記一般式で表されるものを使用する、アクロレインおよびアクリル酸の製造方法。
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)」
とする補正を含むものである(注:補正部分に下線を付した。)。

2 補正の適否

(1)補正の目的の適否
上記補正は、発明を特定するために必要な事項である、原料ガス流れ方向に複数の触媒層を設けた固定床多管型反応器における複数の触媒層のうち、最も反応ガス入口側にある触媒層Zin及び最も反応ガス出口側にある触媒層Zoutについて、触媒層Zinに充填する触媒及び触媒層Zoutに充填する触媒では前者の触媒の焼成温度が後者の触媒の焼成温度よりも高温であることを限定し、さらに、触媒層Zinは触媒と不活性物質成型体の混合物を充填したものであることを限定するものであるから、上記複数の触媒層を設けた固定床多管型反応器を限定するものであって、その補正前の請求項1に記載された発明とその補正後の請求項1に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号の「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。

(2)独立特許要件について
そこで、本件補正後の上記請求項1に記載されている事項により特定される発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)否かについて検討する。
特許法第36条第6項第1号について検討する。

ア はじめに
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 発明の詳細な説明の記載

(ア)技術分野、背景技術、発明が解決しようとする課題についての記載
この出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正されていない。)の段落【0001】?【0004】に、以下の記載がある。
「【0001】本発明は、プロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する方法、または、イソブチレン、ターシャリーブタノールを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化してメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】プロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールを原料にして対応する不飽和アルデヒド、不飽和カルボン酸を製造する方法は工業的に広く実施されているが、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が大きな問題となっている。ホットスポットの発生は触媒寿命の短縮、過度の酸化反応による収率の低下、最悪の場合は暴走反応につながるため、ホットスポットを抑制する技術はいくつか提案されている。例えば特許文献1には担持量を変えて活性を調節した触媒を使用すること、触媒の焼成温度を変えて活性を調節した触媒を使用することでホットスポット温度を低下させる技術が開示されている。特許文献2には触媒の見かけ密度の比を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献3には触媒成型体の不活性成分の含有量を変えるとともに、触媒成型体の占有容積、アルカリ金属の種類および/または量、触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献4には触媒成型体の占有容積を変えた反応帯を設け、すくなくとも一つの反応帯に不活性物質を混合する技術が開示されている。特許文献5には触媒の焼成温度を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。特許文献6には触媒の占有容積と、焼成温度および/またはアルカリ金属の種類、量を変えることで活性を調節した触媒を使用する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特許第3775872号
【特許文献2】日本国特開20042209
【特許文献3】日本国特開2001328951
【特許文献4】日本国特開2005320315
【特許文献5】日本国特開平8-3093
【特許文献6】日本国特開2001226302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】上記手段をもってホットスポットの抑制をはかっても、未だ十分ではなかった。さらには工業プラントにおいて期待した触媒性能、寿命が必ずしも得られないことがあるという問題点があり改善が望まれていた。たとえば、
1)触媒の占有容積を変化させることで、活性を調節した触媒を使用する方法は、ホットスポットの抑制方法として有用な方法であるが、工業プラントには数万本の反応管が存在し、反応管内径が20mmから30mmの内径の場合、誤差がプラスマイナス0.2mm程度生じてしまうことがある。占有容積の小さい触媒であれば、これらの影響は無視できる程度であるが、占有容積の大きい触媒すなわち、触媒粒径が大きい触媒ではその影響は無視できなくなる場合があることが分かった。具体的には充填の際に反応管内でブリッジを形成してしまい、その修正に多大な労力を要すること、充填量、充填密度の変化により圧力損失の差が反応管ごとにばらつきやすくなり、原料ガス流量の偏在を引き起こすこと、その修正にも多大な労力を要することが挙げられる。触媒形状が球状でない場合、この問題がより顕著になることは容易に想像できる。
2)更には、工業プラントでは前述のような反応管径のばらつきのみならず、反応器構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布が生じてしまうことがあり、全ての反応管内で同一の状態で触媒が使用されるということはほぼありえない。本発明者らが、工業プラントで使用された触媒を分析したところ、原料ガス入口部分の触媒が集中して劣化している反応管や、全体にわたって触媒が緩やかに劣化している反応管、さらに驚くべきことに原料ガス出口部分の触媒が入口部分の触媒よりも劣化している反応管が、見受けられた。これは、原料ガス出口側の触媒層のホットスポット温度が異常に高かった可能性を示唆しており、最悪の場合、暴走反応を引き起こす危険がある。これは、前述した工業プラントにおける反応管径のばらつき、反応器の構造由来の除熱能力のばらつき、水平方向、垂直方向での熱媒温度分布、反応管ごとのガス流速分布により、原料炭化水素の転化率が異なり、温度分布の形状が異なったことが原因と予想され、工業プラントにおいても安全に安定して長期にわたって高い収率を維持できる技術の開発が課題として挙げられた。」

(イ)本願補正発明の上位概念に当たる発明の概要及び発明の効果についての記載
段落【0005】?【0007】、【0015】及び【0025】に、以下の記載がある。
「【0005】本発明者らは、工業プラントは触媒が最大収率を出す原料転化率で運転するのが好ましく、多くの反応管はその原料転化率で使用する触媒の使用上限温度を越えないように触媒が選定されるが、前述した工業プラントにおける反応条件の偏差が存在するため、全体の反応器の中にはプロピレン等の原料転化率が小さくなる反応管が存在し原料ガス出口側の触媒層温度Zoutが触媒の使用上限温度を越えることがあり、結果として反応収率の不足、触媒寿命の不足、暴走反応の危険があるという事実を発見し、この解決をはかる方法として、原料ガス流れ方向に複数に形成された触媒層を設けた反応管を用いる方法において、目的生成物の収率が最大になる原料転化率と、最も反応ガス入口側にある触媒層と最も反応ガス出口側にある触媒層の各最高温度の大小関係が逆転する際の原料転化率との関係が、特定の条件を満たすように触媒、触媒充填仕様を設計することで上記課題を解決できることを見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0006】すなわち本発明は、
(1)固定床多管型反応器を用いてプロピレン、または、イソブチレンおよびターシャリーブタノールから選ばれる少なくとも1種を、分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化してアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸を製造するにあたり、
A)反応管の原料ガス流れ方向にN分割(Nは2以上の整数)して形成された複数の触媒層を設け、該触媒層のうち最も反応ガス入口側にある触媒層をZin、最も反応ガス出口側にある触媒層をZoutとし、
B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、以下の式(1)を満足させるようにするアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法、
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
Cmax:目的生成物の収率が最大になる原料転化率
Ccrs:触媒層Zinの最高温度をTin、触媒層Zoutの最高温度をToutとし、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率、
(2)0.5≦Cmax-Ccrs≦10 を満足する(1)記載のアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法、
(3)0.5≦Cmax-Ccrs≦5 を満足する(1)記載のアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法、
(4)Nが3以下で、かつZinに充填する触媒の焼成温度をZoutに充填する触媒の焼成温度よりも高温にし、さらにZinに触媒と不活性物質成型体の混合物を充填する上記(1)?(3)記載のアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法、
(5)触媒が不活性物質に活性粉末を担持してなる球状担持触媒である上記(1)?(4)記載のアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法、
(6)各触媒層に充填される触媒の粒径が全層にわたり同一である上記(1)?(5)のいずれか記載のアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸の製造方法、
に関する。
【発明の効果】
【0007】本発明によれば、通常の工業プラントは特別な事情がない限り収率が最も高くなる原料転化率で運転され、多くの反応管に充填された触媒は所望の原料転化率で反応しており、結果として原料ガス入口部分の触媒層ホットスポット温度が原料ガス出口側の触媒のホットスポット温度よりも高い状態にあるものの、工業プラント特有の事象により、原料転化率が低くなる反応管が存在し、結果としてその反応管に充填された触媒の温度は原料ガス出口側のほうが原料ガス入口側よりも相当高くなることで異常反応が発生するという現象を回避することが可能で、安全安定的にアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸を高い収率で製造することが可能になる。
このような現象は、当然のことながら触媒の組成、形状、反応条件などによって生じやすさやその程度が異なる為一概には言えないが、使用する反応管の内径が25mm以上の場合や、原料ガスのプロピレンに対する水のモル比が3.0以下の場合により顕著な課題となる傾向にある。」
「【0015】・・・本発明により、0.5≦Cmax-Ccrsとすることで工業プラントにおける反応器内部の反応温度の偏差、ガス流れ状態の偏差、反応管ごとの差圧偏差があっても、ほぼ全ての反応管において原料ガス出口側の触媒のホットスポット温度(すなわちTout)が異常に高くなることを回避でき、安定安全に運転することが可能になる。またCmax-Ccrs≦5とすることでTinを比較的低い温度に制御することが出来る傾向がある。」
「【0025】本発明によれば、安全安定的にアクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸を高い収率で製造することが可能になる。」

(ウ)使用する触媒についての一般的な記載
段落【0008】?【0013】に、以下の記載がある。
「【0008】次に本発明を実施するに当たり、好ましい形態を記載する。
本発明の触媒自体は、公知の方法で調製することが出来、例えば下記の一般式で表される。
【0009】Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
【0010】(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表しXはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、好ましくはb=0.5?4、c+d=0.5?20、より好ましくはc+d=1?12、f=0.5?8、さらに好ましくはf=0.5?5、g=0?2、特に好ましくはg=0?1、h=0.005?2、最も好ましくはh=0.01?0.5であり、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
【0011】ここで、触媒活性成分を含有する粉末は共沈法、噴霧乾燥法など公知の方法で調製され、得られた粉末を好ましくは200?600℃、より好ましくは300?500℃で、好ましくは空気または窒素気流中にて焼成し触媒活性成分(以下、予備焼成粉末という)を得ることができる。
【0012】こうして得られた予備焼成粉末は、このままでも触媒として使用できるが、生産効率、作業性を考慮し成型して本発明の触媒とする。成型物の形状は球状、円柱状、リング状など特に限定されず、触媒の製造効率、機械的強度などを考慮して形状を選択すべきであるが、球状であることが好ましい。成型に際しては、単独の予備焼成粉末を使用し、成型するのが一般的であるが、別々に調製した鉄やコバルト、ニッケル、アルカリ金属などの成分組成が異なる顆粒の予備焼成粉末を任意の割合であらかじめ混合し成型してもよいし、不活性担体上に異種の予備焼成粉末の担持する操作を繰り返して、複層に予備焼成粉末が成型されるような手法を採用してもよい。尚、成型する際には結晶性セルロースなどの成型助剤および/またはセラミックウイスカーなどの強度向上剤を混合することが好ましい。成型助剤および/または強度向上剤の使用量は予備焼成粉末に対しそれぞれ30重量%以下であることが好ましい。また、成型助剤および/または強度向上剤は上記予備焼成粉末と成型前にあらかじめ混合してもよいし、成型機に予備焼成粉末を添加するのと同時または前後に添加してもよい。
【0013】成型方法に特に制限はないが円柱状、リング状に成型する際には打錠成型機、押し出し成型機などを用いた方法が好ましい。
さらに好ましくは、球状に成型する場合であり、成型機で予備焼成粉末を球形に成型しても良いが、予備焼成粉体(必要により成型助剤、強度向上剤を含む)を不活性なセラミック等の担体に担持させる方法が好ましい。ここで担持方法としては転動造粒法、遠心流動コーティング装置を用いる方法、ウォッシュコート等予備焼成粉末が担体に均一に担持できる方法で有れば特に限定されないが、触媒の製造効率等を考慮した場合、固定円筒容器の底部に、平らな、あるいは凹凸のある円盤を有する装置で、円盤を高速で回転させることにより、容器内に仕込まれた担体を、担体自体の自転運動と公転運動の繰り返しにより激しく撹拌させ、ここに予備焼成粉体並びに必要により、成型助剤及び強度向上剤を添加することにより粉体成分を担体に担持させる方法が好ましい。尚、担持に際して、バインダーを使用するのが好ましい。用いうるバインダーの具体例としては、水やエタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコール、高分子系バインダーのポリビニールアルコール、無機系バインダーのシリカゾル水溶液等が挙げられるが、エタノール、メタノール、プロパノール、多価アルコールが好ましく、エチレングリコール等のジオールやグリセリン等のトリオール等が好ましく、グリセリンの濃度5重量%以上の水溶液が好ましい。グリセリン水溶液を適量使用することにより成型性が良好となり、機械的強度の高い、高活性な高性能な触媒が得られる。
これらバインダーの使用量は、予備焼成粉末100重量部に対して通常2?60重量部であるが、グリセリン水溶液の場合は10?30重量部が好ましい。担持に際してバインダーは予備焼成粉末と予め混合してあっても、予備焼成粉末を転動造粒機に供給しながら添加してもよい。
不活性担体は、通常2?15mm程度の径のものを使用し、これに予備焼成粉末を担持させるが、その担持量は触媒使用条件、たとえば空間速度、原料炭化水素濃度を考慮して決定される。
成型した触媒は反応に使用する前に再度焼成する。再度焼成する際の焼成温度は通常450?650℃、焼成時間は通常3?30時間、好ましくは4?15時間であり、使用する反応条件に応じて適宜設定される。このとき原料ガス入口側に設置する触媒の焼成温度は、その組成によらず、ガス出口側の触媒よりも高い温度で焼成することで活性を抑制するのが好ましい。焼成の雰囲気は空気雰囲気、窒素雰囲気などいずれでもかまわないが、工業的には空気雰囲気が好ましい。」

(エ)プロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を製造するかイソブチレン及び/又はターシャリーブタノールからメタクロレイン及びメタクリル酸を製造する気相接触酸化反応の条件についての一般的な記載
段落【0014】?【0015】に、以下の記載がある。
「【0014】こうして得られた触媒は、プロピレンを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しアクロレインおよびアクリル酸を製造する工程、または、イソブチレン、ターシャリーブタノールを分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化しメタクロレインおよびメタクリル酸を製造する工程に使用できる。本発明の製造方法において原料ガスの流通方法は、通常の単流通法でもあるいはリサイクル法でもよく、一般に用いられている条件下で実施することができ特に限定されない。たとえば、出発原料物質としてのプロピレン、イソブチレン、ターシャリーブタノールが常温で好ましくは1?10容量%、より好ましくは4?9容量%、分子状酸素が好ましくは3?20容量%、より好ましくは4?18容量%、水蒸気が好ましくは0?60容量%、より好ましくは4?50容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガスが好ましくは20?80容量%、より好ましくは30?60容量%からなる混合ガスを反応管中に充填した本発明の触媒上に、250?450℃で、常圧?10気圧の圧力下で、空間速度300?5000h-1で導入し反応を行う。上記反応は触媒層に単独の一種類の触媒を使用して実施することも可能であるが、本発明の方法では、N(Nは2以上の整数)の分割した触媒層を設置することでホットスポット温度を低下させられる。
そして、本発明の方法においては、
反応管の原料ガス流れ方向に複数に分割して形成された触媒層のうち、最も反応ガス入口側にある触媒層をZin、最も反応ガス出口側にある触媒層をZoutとし、
Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、以下の式(1)を満足させるようにする。
0.5≦Cmax-Ccrs (1)
Cmax:目的生成物の収率が最大になる原料転化率。
Ccrs:触媒層Zinの最高温度をTin、触媒層Zoutの最高温度をToutとし、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率。
式(1)は0.5≦Cmax-Ccrs≦10であることが好ましく、より好ましくは0.5≦Cmax-Ccrs≦5である。
【0015】より詳細には、原料ガス入口側の触媒の組成、焼成温度、不活性物質との混合割合、充填長、原料ガス出口側の触媒の組成、焼成温度、充填長を、0.5≦Cmax-Ccrsを満足するように決定する。なお、Cmax-Ccrsは運転の経時時間でも変化するが、本発明の効果を発揮するには少なくとも触媒使用開始から1年間、好ましくは触媒を交換するまでの間0.5≦Cmax-Ccrsを満たすことが好ましい。これは、使用開始直後の触媒は、原料転化率が小さくなることで特にZoutの値が大きくなる傾向にあるためである。また、一般にCmax-Ccrsは経過時間に伴うZinに充填された触媒の劣化により小さくなる傾向がある。そのため、使用する触媒にもよるが反応開始時には0.5よりも大きな値、好ましくは1以上となるように充填仕様を設計することで長期間にわたって本発明の効果を維持することが出来る。上記検討は工業プラントで使用する前にそれと同1条件で試験可能な実験装置にて触媒の充填条件を決定することが好ましく、コンピューターによるシミュレーションを併用することも可能である。
コンピューターによるシミュレーションには、CFD(Computational Fluid Dynamics)を使用するのが一般的である。市販のソフトウエアに使用する触媒の物性値、反応速度定数、反応熱などのデータを入れて計算することで所望の反応条件における原料転化率、アクロレインおよびアクリル酸などの収率、触媒層内の温度分布を計算することが出来る。
工業プラントや、実験装置においてCmaxやCcrsを求めるにあたっては、触媒層の温度分布を10cmより小さい測定幅で熱電対を用いて測定する。10cmよりも大きい測定幅で測定すると、ホットスポットの温度を正確にとらえることが出来なくなることがあり、好ましくない。また、原料ガスの転化率は反応浴温度を意図的に変化させて、各反応浴温度における原料転化率、各原料転化率における有効成分の収率、ホットスポット温度を測定し、グラフ化し、データを内挿することでCmaxやCcrsを求める。反応浴温度は5℃より小さい測定幅で変化させることで、より正確なデータを得ることが出来る。
本発明により、0.5≦Cmax-Ccrsとすることで工業プラントにおける反応器内部の反応温度の偏差、ガス流れ状態の偏差、反応管ごとの差圧偏差があっても、ほぼ全ての反応管において原料ガス出口側の触媒のホットスポット温度(すなわちTout)が異常に高くなることを回避でき、安定安全に運転することが可能になる。またCmax-Ccrs≦5とすることでTinを比較的低い温度に制御することが出来る傾向がある。
上述のように、運転条件によって触媒充填仕様の微妙な調整が求められるが、本発明のように原料ガス入り口側に使用する触媒の調製時の焼成温度をガス出口側に使用する触媒の調製時の焼成温度よりも高くし、不活性物質を用いて希釈することで、比較的容易に充填仕様を変更することが可能となる。」

(オ)実施例及び比較例の記載
段落【0016】?【0024】に、以下の記載がある。
「【0016】以下、実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
なお、本発明における転化率、選択率および収率はそれぞれ次の通り定義される。
プロピレン転化率(モル%)
=反応したプロピレンのモル数/供給したプロピレンのモル数×100
アクロレイン収率(モル%)
=生成したアクロレインのモル数/供給したプロピレンのモル数×100
アクリル酸収率(モル%)
=生成したアクリル酸のモル数/供給したプロピレンのモル数×100
原料がプロピレンのかわりに、イソブチレンおよび/またはターシャリーブタノールの場合はアクロレインをメタクロレインに、アクリル酸をメタクリル酸に置き換えることができる。
【0017】実施例1
(触媒の調製)
蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8重量部と硝酸カリウム1.64重量部を溶解して水溶液(A1)を得た。別に、硝酸コバルト302.7重量部、硝酸ニッケル162.9重量部、硝酸第二鉄145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B1)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス164.9重量部を溶解して水溶液(C1)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A1)に(B1)、(C1)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D1)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.15であった。
その後予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に成型後の触媒に対して50重量%を占める割合になるよう20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして直径5.2mmの球状に担持成型して担持触媒(E1)を得た。
担持触媒(E1)を、焼成温度530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成することで触媒(F1)を得た。
次に、蒸留水3000重量部を加熱攪拌しながらモリブデン酸アンモニウム423.8重量部と硝酸カリウム1.08重量部を溶解して水溶液(A2)を得た。別に、硝酸コバルト302.7重量部、硝酸ニッケル162.9重量部、硝酸第二鉄145.4重量部を蒸留水1000重量部に溶解して水溶液(B2)を、また濃硝酸42重量部を加えて酸性にした蒸留水200重量部に硝酸ビスマス164.9重量部を溶解して水溶液(C2)をそれぞれ調製した。上記水溶液(A2)に(B2)、(C2)を順次、激しく攪拌しながら混合し、生成した懸濁液をスプレードライヤーを用いて乾燥し440℃で6時間焼成し予備焼成粉末(D2)を得た。このときの触媒活性成分の酸素を除いた組成比は原子比でMo=12、Bi=1.7、Ni=2.8、Fe=1.8、Co=5.2、K=0.10であった。
その後予備焼成粉末100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に成型後の触媒に対して50重量%を占める割合になるよう20重量%グリセリン水溶液をバインダーとして直径5.2mmの球状に担持成型して担持触媒(E2)を得た。
担持触媒(E2)を、530℃で4時間焼成して触媒(F2)を得た。担持触媒(E2)を510℃で4時間焼成して触媒(F3)を得た。
【0018】(酸化反応試験)
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径25.4mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側から直径5.2mmのシリカ?アルミナ球を20cm、酸化触媒層第一層(原料ガス入口側)として酸化触媒(F1)と直径5.2mmのシリカ-アルミナ混合物不活性担体を重量比4:1で混合した希釈触媒100cm、酸化触媒第二層(ガス出口側)として酸化触媒(F3)を250cmの順で充填し、反応浴温度を330℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:8.8:1となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1500h^(-1) で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を70kPaGとして反応開始後200時間経過したとき、反応浴温度2℃刻みで変化させて、原料転化率、アクロレイン、アクリル酸収率、ホットスポット温度を測定する試験(以降反応温度変化試験という)を実施したところ原料転化率97.8%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.8%となった。このときの反応浴温度は330℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は434℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は378℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率95.5%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=2.3であった。反応浴温度320℃ではプロピレン転化率93%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は352℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は401℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0019】実施例2
実施例1の酸化反応条件において原料ガス入口部分に充填する触媒をF2と直径5.2mmのシリカ-アルミナ混合物不活性担体を重量比4:1で混合した希釈触媒120cmとし、原料ガス出口部分に充填する触媒をF3触媒230cmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。
反応温度変化試験を実施したところ原料転化率97.2%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大92.1%となった。このときの反応浴温度は332℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は431℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は372℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率95.1%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=2.1であった。反応浴温度322℃ではプロピレン転化率93%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は353℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は398℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0020】実施例3
実施例2において、原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.8:10:1.5となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1500h^(-1) で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を55kPaGとしたこと以外は実施例2と同様に試験したところ原料転化率97.9%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大92.3%となった。このときの反応浴温度は330℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は424℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は370℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率96.2%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=1.7であった。反応浴温度318℃ではプロピレン転化率95%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は348℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は410℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0021】実施例4
実施例3において、空間速度を1715h^(-1) で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を70kPaGとしたこと以外は実施例3と同様に試験したところ原料転化率97.8%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.6%となった。このときの反応浴温度は332℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は429℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は371℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率96.1%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=1.7であった。反応浴温度319℃ではプロピレン転化率95%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は350℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は414℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0022】実施例5
実施例2において、原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.9:12:1となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度2000h^(-1) で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を65kPaGとし、アクロレインを目的生成物としたこと以外は実施例2と同様に試験したところ原料転化率96.5%、でアクロレイン収率が最大85.2%となった。このときの反応浴温度は334℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は420℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は385℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率95.5%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=1.0であった。反応浴温度326℃ではプロピレン転化率94%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は347℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は415℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0023】実施例6
熱媒体として溶融塩を循環させるためのジャケット及び触媒層温度を測定するための熱電対を管軸に設置した、内径27.2mmのステンレス製反応器の原料ガス入口側から直径5.2mmのシリカ?アルミナ球を20cm、酸化触媒層第一層(原料ガス入口側)として酸化触媒(F1)と直径5.2mmのシリカ-アルミナ混合物不活性担体を重量比3:1で混合した希釈触媒100cm、酸化触媒第二層(ガス出口側)として酸化触媒(F3)を210cmの順で充填し、反応浴温度を325℃にした。ここに原料モル比がプロピレン:酸素:窒素:水=1:1.7:8.8:1となるようにプロピレン、空気、窒素、水の供給量を設定したガスを空間速度1250h^(-1) で酸化反応器内へ導入し、反応器出口圧力を50kPaGとして反応開始後200時間経過したとき、反応浴温度を2℃刻みで変化させて反応温度変化試験を実施したところ原料転化率97.8%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.5%となった。このときの反応浴温度は322℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は424℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は373℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率96.6%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=1.2であった。反応浴温度310℃ではプロピレン転化率92%となったが、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は330℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は400℃であった。このように、プロピレン転化率が大きく低下した場合でもガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなることが無く、長期にわたって安定した運転が可能であることが示唆された。
【0024】比較例1
実施例1の酸化反応条件において、原料ガス入口部分に充填する触媒をF3と直径5.2mmのシリカ-アルミナ混合物不活性担体を重量比2:1で混合した希釈触媒100cmとし、原料ガス出口部分に充填する触媒をF3触媒250cmとしたこと以外は実施例1と同様の方法でプロピレンの酸化反応を実施した。反応温度変化試験を実施したところ原料転化率98.5%、でアクロレインとアクリル酸の収率の合計が最大91.9%となった。このときの反応浴温度は335℃でガス入口側の触媒層のホットスポット温度は418℃で、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は380℃であった。また、これら二つのホットスポット温度の大小関係は原料転化率98.2%のときに逆転した。すなわち、Cmax-Ccrs=0.3であった。反応浴温度326℃ではプロピレン転化率95.5%となり、ガス入口側の触媒層のホットスポット温度は358℃、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度は445℃であった。比較例に比べ、プロピレン転化率が大きく低下した場合においてガス出口側の触媒層のホットスポット温度が極端に高くなった。」

ウ 本願補正発明の課題について
上記イ(ア)及び(イ)によれば、この出願の出願当時、プロピレンを気相接触酸化してアクロレイン及びアクリル酸を製造する方法は工業的に広く実施されており、触媒層における局所的な高温部分(ホットスポット)の発生が問題となっており、これを抑制するために、触媒層に充填する触媒の活性を調節し、触媒充填層を複数の反応帯で構成することが行われていて、触媒の活性の調節は、担持量、触媒焼成温度、触媒の見掛け密度、触媒成型体における不活性成分の含有量、触媒成型体の占有容積(審決注:大きさ)、触媒組成におけるアルカリ金属の種類及び/又は量、触媒と不活性物質を混合すること(審決注:触媒成型体と不活性物質成型体を混合して触媒層を形成すること)を一つ又は複数組合せることが提案されていたが、ホットスポットの抑制は未だ十分ではなく、工業プラントにおいて触媒性能及び寿命についても問題点があった。そこで、この出願の発明は、原料ガス流れ方向に複数に形成された触媒層を設けた反応管を用いる方法において、目的生成物の収率が最大になる原料転化率(Cmax)と、最も反応ガス入口側にある触媒層(Zin)と最も反応ガス出口側にある触媒層(Zout)の各最高温度(それぞれTin及びTout)の大小関係が逆転する際の原料転化率(Ccrs)の関係が、式(1)
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
を満足するように触媒と触媒充填仕様を設計して反応を行い、そのことにより、工業プラント特有の事象により原料転化率が低くなる反応管が存在し結果としてその反応管に充填された触媒の温度が原料ガス出口側のほうで原料ガス入口側よりも相当高くなることで異常反応が発生するという現象を、回避することが可能で、安全安定的にアクロレインおよびアクリル酸を高い収率で製造することが可能になる、というものである。
したがって、本願補正発明の課題は、プロピレンを気相接触酸化してアクロレイン及びアクリル酸を製造する方法であって原料ガス流れ方向に複数に形成された触媒層を設けた反応管を用いる方法において、上記式(1)の0.5≦Cmax-Ccrsを満足するように反応を行い、原料転化率が低くなる反応管が存在しても原料ガス出口側の触媒の温度上昇を抑制して異常反応を回避し安全安定的にアクロレイン及びアクリル酸を高い収率で製造できる、上記製造方法を提供することであると認められる。

エ 発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲の請求項1に記載された発明との対比・判断

(ア)本願補正発明は、上記1に示したとおり、
「固定床多管型反応器を用いて、プロピレンを、分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸を製造するにあたり、
A)反応管の原料ガス流れ方向に2分割または3分割して形成された複数の触媒層を設け、該触媒層のうち最も反応ガス入口側にある触媒層をZin、最も反応ガス出口側にある触媒層をZoutとし、
B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、以下の式(1)を満足させるようにし、
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
Cmax:目的生成物の収率が最大になる原料転化率。
Ccrs:触媒層Zinの最高温度をTin、触媒層Zoutの最高温度をToutとし、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率。
Zinに充填する触媒の焼成温度をZoutに充填する触媒の焼成温度よりも高温にし、さらにZinに触媒と不活性物質成型体の混合物を充填し、
触媒として、活性成分が下記一般式で表されるものを使用する、アクロレインおよびアクリル酸の製造方法。
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)」
と特定されている。

(イ)発明の詳細な説明には、使用する触媒及びプロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を製造する気相接触酸化反応の条件についての一般的な記載(上記イ(ウ)及び(エ))と実施例及び比較例の記載(上記イ(オ))があるので、まず、上記の一般的な記載について検討する。
使用する触媒についての一般的な記載(上記イ(ウ))では、触媒の組成がMo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)(審決注:X、Y、a?d、f?h、xの説明は省略する。)であること、及びその触媒の調製方法が説明されている。
また、プロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を製造する気相接触酸化反応の条件についての一般的な記載(上記イ(エ))では、原料ガスの組成(プロピレン1?10容量%、分子状酸素3?20容量%、水蒸気0?60容量%、二酸化炭素、窒素等の不活性ガス20?80容量%)、流通方法(単流通法又はリサイクル法)、温度(250?450℃)、圧力(常圧?10気圧)、流量(空間速度300?5000h^(-1))、触媒層を2以上設置することが説明され、「原料ガス入口側の触媒の組成、焼成温度、不活性物質との混合割合、充填長、原料ガス出口側の触媒の組成、焼成温度、充填長を、0.5≦Cmax-Ccrsを満足するように決定する」、「工業プラントで使用する前にそれと同1条件で試験可能な実験装置にて触媒の充填条件を決定することが好ましく、コンピューターによるシミュレーションを併用することも可能である。コンピューターによるシミュレーションには、CFD(Computational Fluid Dynamics)を使用するのが一般的である。市販のソフトウエアに使用する触媒の物性値、反応速度定数、反応熱などのデータを入れて計算することで所望の反応条件における原料転化率、アクロレインおよびアクリル酸などの収率、触媒層内の温度分布を計算することが出来る。工業プラントや、実験装置においてCmaxやCcrsを求めるにあたっては、触媒層の温度分布を10cmより小さい測定幅で熱電対を用いて測定する。・・・また、原料ガスの転化率は反応浴温度を意図的に変化させて、各反応浴温度における原料転化率、各原料転化率における有効成分の収率、ホットスポット温度を測定し、グラフ化し、データを内挿することでCmaxやCcrsを求める。反応浴温度は5℃より小さい測定幅で変化させることで、より正確なデータを得ることが出来る」、「運転条件によって触媒充填仕様の微妙な調整が求められるが、本発明のように原料ガス入り口側に使用する触媒の調製時の焼成温度をガス出口側に使用する触媒の調製時の焼成温度よりも高くし、不活性物質を用いて希釈することで、比較的容易に充填仕様を変更することが可能となる」と記載されている。
しかし、これらの記載は、一般的な記載にとどまり、具体的に触媒をどのように調製して、どのような充填仕様で装置を構成し、どのような反応条件で反応を行うときに、式(1)の0.5≦Cmax-Ccrsを実現できるのかは、明らかでなく、かえって「触媒充填仕様の微妙な調整が求められる」とするものであって、これらの記載からは、当業者が上記ウの本願補正発明の課題を解決できると認識できるとはいえない。

(ウ)次に、発明の詳細な説明の実施例及び比較例の記載について検討する。
実施例及び比較例の記載(上記イ(オ))では、実際に、具体的に触媒を調製し、不活性物質を用意し、原料ガス流れ方向に複数に形成された触媒層を設けた反応管の最も反応ガス入口側にある触媒層(Zin)と最も反応ガス出口側にある触媒層(Zout)のそれぞれに、これらを所定の充填仕様(Zinにおける不活性物質の混合割合、Zin及びZoutの触媒層の充填長)で充填し、所定の運転条件(反応浴温度、原料ガス組成、原料ガスの流量、反応器圧力)でアクロレイン及びアクリル酸を製造し、その際に、目的生成物の収率が最大になる原料転化率(Cmax)を求め、また、反応浴温度を変化させてZinとZoutの各最高温度(それぞれTin及びTout)の大小関係が逆転する際の原料転化率(Ccrs)を求めてCmaxとCcrsの差が式(1)
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
を満足するかを調べ、また、反応浴温度を変化させて原料転化率がCcrsよりも相当程度低い場合のTinとToutを調べて原料ガス出口側の触媒の温度上昇が抑制されるかを調べたのは、その実施例1?4、6及び比較例1のみである(審決注:実施例5はアクロレインを目的生成物としており、アクリル酸が得られたことは記載していない。)。
これらの具体例をさらに検討する。

a 使用した触媒(F1?F3)及び不活性物質成型体は、以下のとおりである。
F1:不活性担体(アルミナ、シリカを主成分とする直径4.5mmの球状物質)に触媒予備焼成粉末(組成はMo_(12)Bi_(1.7)Ni_(2.8)Co_(5.2)Fe_(1.8)K_(0.15)O_(x))100重量部に結晶セルロース5重量部を混合した粉末を成型後の触媒に対して50重量%を占める割合になるよう20%グリセリン水溶液をバインダーとして直径5.2mmの球状に担持成型し、530℃で4時間、空気雰囲気下で焼成したもの
F2:F1と同様であるが、触媒予備焼成粉末の組成がMo_(12)Bi_(1.7)Ni_(2.8)Co_(5.2)Fe_(1.8)K_(0.10)O_(x) であり、530℃で4時間焼成したもの
F3:F2と同様であるが、510℃で4時間焼成したもの
不活性物質成型体(以下「B」という。):直径5.2mmのシリカ-アルミナ

b 装置の仕様、すなわち反応管の寸法及び材質と充填仕様(原料ガス入口側から順に充填長及び充填物)は、以下の4通りである。
実施例1(以下「仕様ア」という。):
内径25.4mmのステンレス製
20cm(B)/100cm(F1とBの4:1混合物)/250cm(F3)
実施例2?4(以下「仕様イ」という。):
内径25.4mmのステンレス製
20cm(B)/120cm(F2とBの4:1混合物)/230cm(F3)
実施例6(以下「仕様ウ」という。):
内径27.2mmのステンレス製
20cm(B)/100cm(F1とBの3:1混合物)/210cm(F3)
比較例1(以下「仕様エ」という。):
内径25.2mmのステンレス製
20cm(B)/100cm(F3とBの2:1混合物)/250cm(F3)

c 装置の仕様と、温度以外の反応の条件は、以下の表のとおりである。

装置の 反応ガス組成 流量 圧力
仕様 プロピレン:O_(2):N_(2):水 hr^(-1) kPaG
実施例1 ア 1:1.7:8.8:1 1500 70
実施例2 イ 〃 〃 〃
実施例3 〃 1:1.8:10:1.5 〃 55
実施例4 〃 〃 1715 70
実施例6 ウ 1:1.7:8.8:1 1250 50
比較例1 エ 〃 1500 70

d 目的生成物の収率が最大になる条件(以下「最大収率条件」という。)での原料転化率(Cmax)並びにガス入口側の触媒層のホットスポット温度及びガス出口側の触媒層のホットスポット温度([Tin→Tout]で表す。)と、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率(Ccrs)と、CmaxとCcrsの差([Cmax-Ccrs]で表す。)と、そのときの最大収率及び浴温を以下の第1の表に示し、原料転化率が低くなった条件(以下「低転化率条件」)という。)での原料転化率(以下「Clow」という)並びにガス入口側の触媒層のホットスポット温度及びガス出口側の触媒層のホットスポット温度([Tin→Tout]で表す。)と、CmaxとClowの差([Cmax-Clow]で表す。)と、そのときの浴温を以下の第2の表に示す。添え字「max」等は紙面の都合で半角で示す。

最大収率条件及びCmaxとCcrsの関係
Cmax[Tin→Tout]Ccrs[Cmax-Ccrs]最大収率 浴温
% ℃ % % % ℃
実施例1 97.8[434→378] 95.5 [2.3] 91.8 330
実施例2 97.2[431→372] 95.1 [2.1] 92.1 332
実施例3 97.9[424→370] 96.2 [1.7] 92.3 330
実施例4 97.8[429→371] 96.1 [1.7] 91.6 332
実施例6 97.8[424→373] 96.6 [1.2] 91.5 322
比較例1 98.5[418→380] 98.2 [0.3] 91.9 335

低転化率条件
Clow[Tin→Tout] [Cmax-Clow] 浴温
% ℃ % ℃
実施例1 93 [352→401] [4.8] 320
実施例2 93 [353→398] [4.2] 322
実施例3 95 [348→410] [2.9] 318
実施例4 95 [350→414] [2.8] 319
実施例6 92 [330→400] [5.8] 310
比較例1 95.5[358→445] [3.0] 326

e 上記a?dによれば、触媒F1?F3と不活性物質成型体Bを用いて、仕様ア?仕様ウの充填仕様で装置を構成し、反応ガス組成、流量、圧力、温度の反応条件を実施例1?4、6のようにして反応を行う場合には、Cmax-Ccrsは2.3?1.2となり式(1)の0.5≦Cmax-Ccrsを満足し、原料転化率が低くなる反応管が存在しても原料ガス出口側の触媒の温度上昇を抑制できると認められ、当業者が上記ウの本願補正発明の課題を解決できると認識できると認められる。
しかし、本願補正発明において用いられる触媒は、上記のF1?F3に限られず、広くMo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)という組成のものであるところ、上記の実施例及び比較例の記載からは、実施例に記載された以外の、広範な組成をとり得るそれらの触媒を用いた場合にも、当業者が上記ウの本願補正発明の課題を解決できると認識できるとは認められない。
上記(イ)で検討した、使用する触媒及びプロピレンからアクロレイン及びアクリル酸を製造する気相接触酸化反応の条件についての一般的な記載(上記イ(ウ)及び(エ))を併せ考慮しても、上記a?dで検討した場合以外の、広範な触媒を用いる場合にまで、当業者が上記ウの本願補正発明の課題を解決できると認識できるとは認められない。

(エ)次に、当業者が出願時の技術常識に照らし本願補正発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるかを検討する。
本願補正発明は、プロピレンを気相接触酸化してアクロレイン及びアクリル酸を製造する方法であって原料ガス流れ方向に複数に形成された触媒層を設けた反応管を用いる方法において、特定の組成Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)(審決注:X、Y、a?d、f?h、xの説明は省略するが、上記(ウ)eにも示している。)の触媒を用い、最も反応ガス入口側にある触媒層と最も反応ガス出口側にある触媒層の触媒の焼成温度の高低と不活性物質成型体の使用を特定した充填仕様で装置を構成して、式(1)の0.5≦Cmax-Ccrsを満足するように反応を行うものであるところ(請求項1)、触媒の組成が異なれば触媒活性が異なることは技術常識であって、組成がMo_(12)Bi_(1.7)Ni_(2.8)Co_(5.2)Fe_(1.8)K_(0.15)O_(x) で特定の手順で調製されたF1や組成がMo_(12)Bi_(1.7)Ni_(2.8)Co_(5.2)Fe_(1.8)K_(0.10)O_(x) で特定の手順で調製されたF2やF3を用い特定の不活性物質成型体を用いて適切な充填仕様の装置を構成した場合に、式(1)の0.5≦Cmax-Ccrsを満足する反応条件を見出すことができたとしても、それ以外の、上記の、組成Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x) の触媒を用いた場合にも、式(1)の0.5≦Cmax-Ccrsを満足する反応条件を見出せるという技術常識は、存在しない。
また、上記(ウ)でみたとおり、実施例2と比較例1とでは、組成が同じで焼成温度が異なる触媒を用いて、不活性物質成型体の混合比や各触媒層の充填長は若干異なるものの総充填長が同じ構成の装置を用い、反応ガス組成、流量、圧力を同じにして反応させたものであるが、目的生成物の収率が最大になる原料転化率が異なり、Cmax-Ccrsの数値も異なっている。このように、触媒や触媒層の僅かな違いでもCmax-Ccrsは影響されることからすると、なおさら、本願補正発明の広範な触媒を用いる場合について、0.5≦Cmax-Ccrsを満足する反応条件を見出せる、という技術常識があるはいえない。
さらに、上記(ウ)でみた実施例及び比較例において、当業者が本願補正発明の課題を解決できると認識できると認められるのは、Cmax-Ccrsが2.3?1.2のものである。Cmax-Ccrsが0.3の比較例1では、原料転化率が98.5%から95.5%へと3.0ポイント低くなった条件では、ガス出口側の触媒層のホットスポット温度が445℃にもなり、本願補正発明の課題を解決できるとは認められない。本願補正発明においては、0.5≦Cmax-Ccrsと特定され、Cmax-Ccrsの下限の0.5は、上記比較例1の0.3に近く、このような場合にも、原料ガス出口側の触媒の温度上昇を抑制できて本願補正発明の課題が解決できるとする技術常識は、存在しない。
そうすると、本願補正発明は、発明の詳細な説明の記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとはいえない。

(オ)なお、審判請求人(以下「請求人」という。)は、平成27年11月30日付けの手続補正により補正された審判請求書において、
『審査官殿は、拒絶査定謄本の備考欄にて、「・・・発明の詳細な説明に実質的に記載されているのは、実施例に基づく「原料がプロピレンであり、アクロレイン又はアクリル酸を製造する方法であって、「N分割」が2分割であり、入口側にある触媒層がF1又はF2と不活性担体とからなり、出口側にある触媒層がF3からなる場合」のみである。一方、手続補正によって請求項1?6に係る発明では触媒が一般式で特定されたものの、実施例の特定の触媒と比して広範な組成範囲が許容されており、その入口側・出口側の配置についても何ら限定していない。そして、ホットスポットの発生は、反応場である触媒の組成やその配置の仕方によって大きく影響されうることを考慮すると、請求項1?6に係る発明のうち、本願実施例とは触媒の組成や配置が異なる任意の場合について、同じように発明の課題を解決することができるとはいえない。・・・」との旨を指摘されました。
このご指摘については以下の通り意見を述べます。
本願発明のアクロレインおよびアクリル酸の製造方法で用いられる複数の各触媒層に含まれる触媒活性成分は、いずれも、下記式
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)
の範囲に包含されるものです。
しかしながら、本願の請求項1に「B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、」との記載があることから、各触媒層に触媒活性はそれぞれ異なるものであることが分かり、そして、各触媒層に触媒活性が異なることは、厳密には各触媒層においてそれぞれ触媒組成も異なるものと理解されます。例えば、触媒活性成分が同じ
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
の範囲に含まれるものであっても、X成分が、タングステンであるものあれば、アンチモンであるものもあり、さらには、それらの複数種の混合型であるものもあれば、gが0である場合もあることから、X成分も全く含まないものも、本願発明で使用する触媒活性成分
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
に含まれます。しかし、それらは、厳密には触媒活性成分自体の組成が異なります。
また、触媒活性成分自体の組成が厳密に同じだとしても、例えば不活性物質担体への担量、触媒層における、担持触媒と不活性担体との配合量が異なれば、触媒層単位では異なる触媒組成であるといえます。
よって、本願の請求項1に「B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、」との規定がある以上、反応原料ガスの入口側と出口側の触媒層組成が異なることは明らかであり、また、本願の発明の詳細な説明の実施例の記載においても、複数の触媒層の触媒組成は、上記のように厳密には異なっています。以上のことから、本願の補正後の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されているものと思量します。』
と主張している。
しかし、請求人の上記の主張は、審査官の説示に対し反論して「発明の課題を解決することができる」と主張する内容ではない。また、請求人が述べているような、触媒の組成Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x) において、Xがタングステンであるものや、アンチモンであるものや、gが0である(Xが存在しない)ものの場合に、発明の課題を解決することができると当業者が認識できるとは認められないことは、上記(ア)?(エ)で述べたことから明らかである。
よって、請求人の主張は採用できない。

オ まとめ
以上のとおり、本願補正発明は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものではない。

3 補正の却下の決定のむすび
以上のとおり、請求項1についての補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合しないものであるから、本件補正は、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。

第3 特許請求の範囲の記載
平成27年11月24日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、この出願の特許請求の範囲の記載は、平成27年7月31日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりであるところ、その請求項1の記載は、上記第2の1に本件補正前の請求項1として示したとおりである(以下、請求項1の特許を受けようとする発明を「本願発明」という。)。以下に再掲する。
「固定床多管型反応器を用いて、プロピレンを、分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレインおよびアクリル酸を製造するにあたり、
A)反応管の原料ガス流れ方向に2分割または3分割して形成された複数の触媒層を設け、該触媒層のうち最も反応ガス入口側にある触媒層をZin、最も反応ガス出口側にある触媒層をZoutとし、
B)Zoutに充填する触媒の活性がZinに充填する触媒の活性より高くなるように触媒を充填し、以下の式(1)を満足させるようにし、
0.5≦Cmax-Ccrs 式(1)
Cmax:目的生成物の収率が最大になる原料転化率。
Ccrs:触媒層Zinの最高温度をTin、触媒層Zoutの最高温度をToutとし、原料転化率を変化させたときにTinとToutの大小関係が逆転するときの原料転化率。
触媒として、活性成分が下記一般式で表されるものを使用する、アクロレインおよびアクリル酸の製造方法。
Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)
(式中、Mo、Bi、Ni、Co、Feはそれぞれモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルトおよび鉄を表し、Xはタングステン、アンチモン、錫、亜鉛、クロム、マンガン、マグネシウム、シリカ、アルミニウム、セリウムおよびチタンから選ばれる少なくとも一種の元素、Yはカリウム、ルビジウム、タリウムおよびセシウムから選ばれる少なくとも一種の元素を意味するものであり、a、b、c、d、f、g、h、xはモリブデン、ビスマス、ニッケル、コバルト、鉄、X、Yおよび酸素の原子数を表し、a=12、b=0.1?7、好ましくはb=0.5?4、c+d=0.5?20、f=0.5?8、g=0?2、h=0.005?2、x=各元素の酸化状態によって決まる値である。)」

第4 原査定の理由
原査定の理由である平成27年5月25日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、理由2及び3である。
その理由3の概要は、「この出願は、特許請求の範囲の記載が・・・特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」というものであり、
「・請求項1?6
請求項1に係る発明のうち、発明の詳細な説明において、ホットスポットの発生の抑制という本願発明の課題を解決できることが実施例において具体的に確認されているのは、原料がプロピレンであり、アクロレイン又はアクリル酸を製造する方法であって、「N分割」が2分割であり、入口側にある触媒層がF1又はF2と不活性担体とからなり、出口側にある触媒層がF3からなる場合のみである。
そして、ホットスポットの発生条件は、原料や触媒によって大きく異なることを考慮すれば、上記具体的に開示された方法とは原料や触媒が異なる場合にも、同様にホットスポットの発生を抑制でき、長期にわたって安定した運転ができるとはいえない。
したがって、請求項1に係る発明のうち、「原料がプロピレンであり、アクロレイン又はアクリル酸を製造する方法であって、2分割であり、入口側にある触媒層がF1又はF2と不活性担体とからなる希釈触媒であり、出口側にある触媒層がF3である」場合以外については、発明の詳細な説明に実質的に記載された発明であるということができない。
請求項2?6に係る発明についても同様である。」
と指摘したものである。
そして、拒絶査定がされた請求項1(審決注:拒絶査定においては「●理由3(特許法第36条第4項第2号)について」との表題で説示されているが、説示内容及び拒絶理由通知の記載からみて、「特許法第36条第4項第2号」が誤記で正しくは「特許法第36条第6項第1号」であることが明らかである。)は、拒絶理由が通知された請求項1における、原料及び目的生成物の「プロピレン、または、イソブチレンおよびターシャリーブタノールから選ばれる少なくとも1種」及び「アクロレインおよびアクリル酸、または、メタクロレインおよびメタクリル酸」が、「プロピレン」及び「アクロレインおよびアクリル酸」に限定され、「反応管の原料ガス流れ方向にN分割(Nは2以上の整数)して形成された複数の触媒層」が「反応管の原料ガス流れ方向に2分割または3分割して形成された複数の触媒層」に限定され、使用する触媒の活性成分の組成が一般式Mo_(a)Bi_(b)Ni_(c)Co_(d)Fe_(f)X_(g)Y_(h)O_(x)(審決注:X、Y、a?d、f?h、xの説明は省略する。)で表されるものに限定されたものである。

第5 当審の判断
本願発明は、上記第2で検討した本願補正発明と比べて、発明を特定するために必要な事項である、「Zinに充填する触媒の焼成温度をZoutに充填する触媒の焼成温度よりも高温にし、さらにZinに触媒と不活性物質成型体の混合物を充填し」との限定がないものであるから、固定床多管型反応器を用いて、プロピレンを、分子状酸素を含有するガスにより気相接触酸化して、アクロレイン及びアクリル酸を製造する方法について、より広範な態様を含むものである。
そして、上記第2で検討したとおり、本願補正発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められないのであるから、本願発明についても、同様の理由で、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるとも認められない。
したがって、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、この出願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

第6 むすび
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-13 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2012-161353(P2012-161353)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 土橋 敬介  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 冨永 保
中田 とし子
発明の名称 不飽和アルデヒドおよび/または不飽和カルボン酸の製造方法  
代理人 特許業務法人 信栄特許事務所  

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