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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1326260
審判番号 不服2016-1501  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-02 
確定日 2017-03-16 
事件の表示 特願2011-160904「抱き可能形態の呼吸誘導体」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月 4日出願公開、特開2013- 22302〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年7月22日を出願日とする出願であって,平成27年3月12日付けで拒絶理由が通知され,同年5月14日に手続補正がなされ,同年10月29日付けで拒絶査定がなされ,平成28年2月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされ,同時に手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。
さらに、同年9月12日付で当審から拒絶理由が通知され、同年11月9日に手続補正がなされたが、当審からの拒絶の理由との対応が不明であったため、同年12月8日に請求人に対して電話応対をし、同月16日にファクシミリで回答を得たが、依然として当審からの拒絶の理由との対応が不明であったため、同月21日に、再度、請求人に対して電話応対をし、同月26日にファクシミリで回答を得たものである。

第2 本願発明
本願は,平成23年7月22日を出願日とする出願であって,その請求項1に係る発明は、平成28年2月2日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。(下線は当審で付与した。)
「 【請求項1】
抱き可能形態とした本体を抱き込むことにより、抱く人の呼吸を誘導し呼吸リズムを安定させると同時に、心を安らげ癒すことができるようにした抱き形態の呼吸誘導体で、かつ、不安やいらつきなどの感情の変化がある場合、呼吸数が変化して呼吸リズムの変化を惹起し、また、不安やいらつきなど感情が生じたときは扁桃体の活動が高まり、呼吸が速くなればそれだけ扁桃体の活動量が増加していく一方、不安やいらつきのある人が強制的に深呼吸をすると気持ちが和らぎ、呼吸リズムが遅くなり、扁桃体の活動量を降下させるという不安感の大小と呼吸数との関連を前提概念とした抱き形態の呼吸誘導体であって、
人が抱けるようなぬいぐるみ形態で、人形形状、動物形状、擬似動物形状のうちのいずれかの形状とした本体と、
前記本体に配置され、当該本体を抱く人の腹部に近接してその呼吸数を検出する呼吸センサーと、
前記本体に内蔵され、当該本体における前記抱く人と接触する腹部側を膨縮させる膨縮機構部と、
前記呼吸センサーの検出信号を基に、乳児の発達段階における様々な欲求が、情動浸透的に母親に伝わり、母親は、乳児の情動表出に対して調子を合わせるという情動調律を行うというエントレインメントを利用して、当初本体における前記腹部の膨縮回数が抱く人の呼吸数を模倣するように前記膨縮機構部を駆動制御し、徐々に前記腹部の膨縮回数がゆっくりしたものとなるように前記膨縮機構部を駆動制御して呼吸誘導を行う膨縮制御部と、
を有し、
前記本体の腹部の膨縮回数の変化を前記ぬいぐるみ形態の本体を抱く人に伝達して抱く人の呼吸誘導を行い、抱く人の呼吸リズムを安定させると同時に、不安感を小さくし癒すことができるようにしたことを特徴とする抱き形態の呼吸誘導体。」(以下、「本願発明」という。)

以下、本願発明の「抱き形態の呼吸誘導体」を文言上限定している「不安やいらつきなどの感情の変化がある場合、呼吸数が変化して呼吸リズムの変化を惹起し、また、不安やいらつきなど感情が生じたときは扁桃体の活動が高まり、呼吸が速くなればそれだけ扁桃体の活動量が増加していく一方、不安やいらつきのある人が強制的に深呼吸をすると気持ちが和らぎ、呼吸リズムが遅くなり、扁桃体の活動量を降下させるという不安感の大小と呼吸数との関連を前提概念とした」を「第1限定事項」と呼び、
「乳児の発達段階における様々な欲求が、情動浸透的に母親に伝わり、母親は、乳児の情動表出に対して調子を合わせるという情動調律を行うというエントレインメントを利用して」を「第2限定事項」と呼ぶ。

第3 記載事項(特許法第36条第6項第2号違反について)(下線は、当審で付与した。)
1 「第1限定事項」について
本願発明の「第1限定事項」は、不安感の大小と呼吸数との関連を、扁桃体の活動との関連から説明し、前提概念としているが、「第1限定事項」が「抱き形態の呼吸誘導体」の構成を具体的にどのように限定しているのか、すなわち、「抱き形態の呼吸誘導体」の形状・構造等をどのように限定しているのか、明確でない。
次に、発明の詳細な説明の記載を検討する。

1-1 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明は、明細書の段落【0001】?【0011】、【0013】?【0062】に記載されており、
段落【0001】に【技術分野】が「 本発明は、抱き可能形態の呼吸誘導体に関し、詳しくは、抱く人の呼吸を誘導し呼吸リズムを安定させると同時に、心を安らげ癒すことができる機能を有する抱き可能形態の呼吸誘導体に関するものである。」と記載され、
段落【0002】?【0006】に【背景技術】が記載され、
段落【0008】に【課題を解決するための手段】が記載され、
段落【0009】?【0011】に【発明の効果】が記載され、
段落【0013】に【発明を実施するための形態】が記載され、
段落【0014】?【0061】に【実施例】が記載され 、
段落【0062】に【産業上の利用可能性】が記載されている。

【実施例】についての記載が始まる段落【0014】には「以下、本発明の実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体について図面を参照して詳細に説明する。」と記載され、
続いて段落【0015】には「 最初に、本実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体に関する前提概念について先ず説明する。」と記載されている。
その後に
「【0016】
一般に、乳児に限らず、幼児や大人でも、不安やいらつきなど感情の変化があると呼吸数が変化する。
【0017】
このような情動呼吸の元は呼吸リズムであり、呼吸が感情を変えるもので、感情が呼吸を変えるものではないと考えられている。
幼児や大人の不安と呼吸との関係について考察すると、不安感情が起ると、脳における大脳辺縁系の情動の中枢とされる扁桃体に活動が生じ、その活動が大きいと不安が増幅される。
【0018】
一般的には、その活動が視床下部に伝搬し、自律神経活動を高め、心拍と呼吸数が上がると考えられがちであるが、心拍に関しては自律神経支配であることからその通りであるものの、呼吸のリズムは自律神経支配ではない。
【0019】
注目すべきは、不安感情が生じたときの扁桃体の活動が呼吸に伴って出てくることであり、呼吸のリズムと共に扁桃体の活動が高まり、呼吸が速くなればそれだけ扁桃体の活動量も増加していく。すなわち、呼吸リズムが情動を作っているとも言える。
一方、不安やいらつきのある人が強制的に深呼吸をすると気持ちが和らぐのは、呼吸リズムを遅くし、扁桃体の活動量が下がるからである。」と「前提概念」の説明が記載されている。
その後に、
「【0020】
次に、人から人への情動の伝播について本願発明者が実施した実験について以下説明する。」と「本願発明者が実施した実験」についての説明が始まり、
それに続き、
「 【0024】
本願発明者は、これまでの呼吸と情動の研究を基に、呼吸と最も密接に関連した情動である「息苦しさ」について、新たな視点を考慮して実験を試みたものである。 」
その後に、
「【0027】
本願発明者は、「息苦しさ」を感じる人を別の人が観察することで、その人が「息苦しさ」を感じるのかを、つまり「息苦しさ」が伝わるかどうかを、またそれがどういうことかを、呼吸、心理、脳内活動部位(脳波双極子追跡法による脳内電源推定)の面から検討し実験を試みた。以下に、この実験内容について具体的に説明する。」とし、
以下段落【0028】?【0033】に実験内容が具体的に説明され、
その後の、段落【0034】?【0041】に実験結果が記載され、
その後の、段落【0042】?【0046】に「実験結果の検証」が記載され、
その中に、
「【0046】
厳密には、「息苦しさ」が伝わるということは、被験者(観察者)が持つ不安感が無意識の内に「息苦しさ」という一つの主観を作り出したと言い換えることができる。」と発明者の見解が記載されている。
その後に、「【0047】
次に、上記前提概念及び息こらえの実験を踏まえた本発明の実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体について、図1乃至図4を参照して説明する。」と「本発明の実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体」の説明が始まり、
それに続き、
「【0048】
本実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体1は、図1乃至図3に示すように、外周部に例えば布材からなる外被2aを具備するぬいぐるみ形態で、かつ、抱き可能な擬似動物形状に形成した本体2と、前記本体2に配置され、本体2を抱く人Mの例えば腹部に近接してその呼吸数を検出する呼吸センサー3と、前記本体2に内蔵され、本体2における前記抱く人Mと接触する腹部2b側を膨縮させる膨縮機構部4と、前記呼吸センサー3の検出信号を基に、当初本体2における前記腹部2bの膨縮回数が抱く人Mの呼吸数を模倣するように前記膨縮機構部4を駆動制御し、徐々に前記腹部2bの膨縮回数がゆっくりしたものとなるように前記膨縮機構部4を駆動制御して、前記本体2を抱く人Mの呼吸数が前記本体2の腹部2b側のゆっくりした膨縮回数に近似するようにエントレインメントを利用した呼吸誘導を行う膨縮制御部5と、前記呼吸誘導体1の動作に必要な電力供給を行う電源部(例えば電池)6と、を有している。
【0049】
ここに、エントレインメントとは、心理学用語であり、主に乳児の発達段階における母子相互の働きかけを指すものである。この時期の母子相互の最も基本的なやり取りであり、このような情緒的共生の段階を経て、乳児は自己の情動的核(エムディ)を形成し、自律的自己に移行していくものである。
【0050】
乳児の様々な欲求は、情動浸透的に母親に伝わり、母親は、乳児の情動表出に対して調
子を合わせるという情動調律(スターン)により、適切な応答を示すことになる。
【0051】
本実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体1は、上述したようなエントレインメントを利用するものである。
【0052】
前記本体2の形状としては、小さな子どもを始め、どんな人にも親しみ犬、猫等の動物形状、これらを模した擬似動物形状、人形形状等の例を挙ることができるが、特に限定するものではない。更には、これらに類似したロボット形態のものでもよい。」と記載され
ている。

1-2 「第1限定事項」による「抱き形態の呼吸誘導体」の形状・構造等の限定

そうすると、発明の詳細な説明には、「前提概念及び息こらえの実験を踏まえた抱き可能形態の呼吸誘導体1」の形状・構造について、上記段落「【0047】、【0048】、【0052】に記載されているが、「本実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体1は」、「【0048】・・・外周部に例えば布材からなる外被2aを具備するぬいぐるみ形態で、かつ、抱き可能な擬似動物形状に形成した本体2」を備え、「【0052】前記本体2の形状としては、・・・犬、猫等の動物形状、これらを模した擬似動物形状、人形形状等の例を挙ることができるが、特に限定するものではない。更には、これらに類似したロボット形態のものでもよい。」と記載されているだけであり、「第1限定事項」が、「抱き形態の呼吸誘導体」の形状・構造等をどのように限定しているのか、説明されていない。

次に、上記第1で示した請求人からのファクシミリによる回答を検討する。
、平成28年12月16日提出のファクシミリでの回答は、実験内容を詳述するのみであり、当審から確認を求めた、「第1限定事項」が「抱き形態の呼吸誘導体」の構成を具体的にどのように限定しているのか、すなわち、「抱き形態の呼吸誘導体」の形状・構造等をどのように限定しているのかについては言及がなされなかった。
さらに平成28年12月26日提出のファクシミリでの回答でも「第1限定事項」が「抱き形態の呼吸誘導体」の構成を具体的にどのように限定しているのかについては言及がなされなかった。

そうすると、本願発明の「第1限定事項」が「抱き形態の呼吸誘導体」の構成を具体的にどのように限定しているのか、すなわち、「抱き形態の呼吸誘導体」の形状・構造等をどのように限定しているのかは、発明の詳細な説明の記載を検討しても、上記第1で示した請求人からのファクシミリによる回答を参酌しても明確であるとまではいえない。

2 「第2限定事項」について
本願発明の「第2限定事項」は、「当初本体における前記腹部の膨縮回数が抱く人の呼吸数を模倣するように前記膨縮機構部を駆動制御し、」を修飾しているのか、
「徐々に前記腹部の膨縮回数がゆっくりしたものとなるように前記膨縮機構部を駆動制御して」を修飾しているのか、
呼吸誘導を行う」を修飾しているのか、いずれ(以下、「第2限定事項の修飾部」という。)を修飾しているのかが明らかでなく、本願発明は明確でない。

さらに、いずれであるのかが明らかとなった場合でも、「乳児の発達段階における様々な欲求が、情動浸透的に母親に伝わり、母親は、乳児の情動表出に対して調子を合わせるという情動調律を行うというエントレインメントを利用して」との限定を付すことによって「膨縮制御部」の制御内容をどのように限定しているのかが明確でない。
次に、発明の詳細な説明の記載を検討する。

2-1 発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明は上記「1-1 発明の詳細な説明の記載」に摘記したとおりであり、そのうち、エントレインメントについては、段落【0049】?【0051】に記載され、さらに、追加する段落【0056】?【0059】に、
「【0056】
次に、図4を参照して本実施例に係る抱き可能形態の呼吸誘導体1による抱く人Mの呼吸誘導動作を説明する。
【0057】
前記呼吸誘導体1を抱く人Mが抱き込み、呼吸誘導体1の腹部2bを自己の腹部に密接させると、呼吸誘導体1の呼吸センサー3は、抱く人Mの呼吸に伴う腹部の膨縮による圧力変化を連続的に検出し、検出信号を膨縮制御部5に送る。
【0058】
前記膨縮制御部5は、呼吸センサー3からの検出信号を入力し、動作プログラムに基づいて抱く人Mの呼吸数を算出して駆動回路11からアクチュエータ8に駆動信号を出力し、当初本体2における前記膨縮機構部4のアクチュエータ8を駆動し、出入塊状移動体7を抱く人Mの腹部側に押し出したり、元に戻したりの往復駆動を行い、前記腹部2bの膨縮回数が抱く人Mの呼吸数を模倣する状態となる状態とする。
【0059】
この後、前記膨縮制御部5は、動作プログラムに基づいて駆動回路11からアクチュエータ8に駆動信号を出力し、前記膨縮機構部4のアクチュエータ8を駆動して、出入塊状移動体7の押し出し、戻しの周期を徐々にゆるやかにし、前記腹部2bの膨縮回数が徐々にゆっくりしたものとなるようにして、これにより、前記本体2を抱く人Mの呼吸数が前記本体2の腹部2b側のゆっくりした膨縮回数に近似するようにエントレインメントを利用した呼吸誘導を行う。」と具体的に記載されている。

2-2 「第2限定事項の修飾部」と「第2限定事項」による「膨縮制御部」の制御内容の限定

そうすると、発明の詳細な説明には、「エントレインメント」に関しては、上記段落「【0049】?【0051】、【0058】、【0059】に記載されており、段落【0049】にエントレインメントの定義が「エントレインメントとは、心理学用語であり、主に乳児の発達段階における母子相互の働きかけを指すものである」と記載され、
「エントレインメントを利用した」制御については、段落【0058】、【0059】に、「膨縮制御部5は、・・・当初・・・腹部2bの膨縮回数が抱く人Mの呼吸数を模倣する状態となる状態とする。この後、・・・前記腹部2bの膨縮回数が徐々にゆっくりしたものとなるように」(以下、「前半部」という。)して、
「これにより、前記本体2を抱く人Mの呼吸数が前記本体2の腹部2b側のゆっくりした膨縮回数に近似するようにエントレインメントを利用した呼吸誘導を行う。」(以下、「後半部」という。)と記載されている。
上記「前半部」が、呼吸誘導体1の膨縮制御部5の制御内容であり、上記「後半部」が、上記「前半部」の制御による呼吸誘導体1が「エントレインメント」により抱く人Mに及ぼす呼吸誘導の説明であると解釈できる。
そうすると、「第2限定事項の修飾部」として、「呼吸誘導を行う」ことが読み取れる。
しかしながら、「エントレインメントを利用した」膨縮制御部5の制御内容については記載されていない。

次に、上記第1で示した請求人からのファクシミリによる回答を検討する。
、平成28年12月16日提出のファクシミリでの回答は、実験内容を詳述するのみであり、当審から確認を求めた、「第2限定事項」が「膨縮制御部」の構成である制御内容を具体的にどのように限定しているのかについては言及がなされなかった。
さらに平成28年12月26日提出のファクシミリでの回答でも「第2限定事項」が「膨縮制御部」の構成である制御内容を具体的にどのように限定しているのかについては言及がなされなかった。

そうすると、本願発明の「第2限定事項」が「呼吸誘導を行う」を修飾しているといえるとしても、「第2限定事項」が「呼吸誘導を行う」を修飾することにより、「膨縮制御部」の制御内容をどのように限定しているのかは、発明の詳細な説明の記載を検討しても、上記第1で示した請求人からのファクシミリによる回答を参酌しても明確であるとまではいえない。

3 小括
したがって、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確でない。
以上のとおり、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は明確でないので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は特許法第36条第6項第2号に規定に適合しないものである。

なお、平成28年9月12日付の当審から拒絶理由通知の「第4(付言)」において「本願発明を正確に認定できないため、新規性進歩性の判断は留保している。補正等を行うにあたっては、原査定の理由を考慮されたい。」と記載したように新規性進歩性の判断を留保していたが、記載不備が解消されなかったので、明りょうでない事項を除き本願の認定を行った上で新規性進歩性の判断を行う。

第4 進歩性(特許法第29条第2項について)
1 本願発明
「第3 記載事項」で説示したように、本願発明の「第1限定事項」による「抱き形態の呼吸誘導体」の限定事項が明確でないので、「第1限定事項」による「抱き形態の呼吸誘導体」の発明特定事項はないものとして進歩性を判断する。
同様に、本願発明の「第2限定事項」が「呼吸誘導を行う」を修飾するとしても、「膨縮制御部」の制御内容の限定事項が明確でないので、「第2限定事項」による発明特定事項はないものとして進歩性を判断する。

本願発明は「第1限定事項」による「抱き形態の呼吸誘導体」の発明特定事項と、「第2限定事項」による発明特定事項を省いて、以下のとおり再認定した。(当審にて、分節しa)?f)の見出しを付けた。)

「a)抱き可能形態とした本体を抱き込むことにより、抱く人の呼吸を誘導し呼吸リズムを安定させると同時に、心を安らげ癒すことができるようにした抱き形態の呼吸誘導体であって、
b) 人が抱けるようなぬいぐるみ形態で、人形形状、動物形状、擬似動物形状のうちのいずれかの形状とした本体と、
c) 前記本体に配置され、当該本体を抱く人の腹部に近接してその呼吸数を検出する呼吸センサーと、
d) 前記本体に内蔵され、当該本体における前記抱く人と接触する腹部側を膨縮させる膨縮機構部と、
e) 前記呼吸センサーの検出信号を基に、当初本体における前記腹部の膨縮回数が抱く人の呼吸数を模倣するように前記膨縮機構部を駆動制御し、徐々に前記腹部の膨縮回数がゆっくりしたものとなるように前記膨縮機構部を駆動制御して呼吸誘導を行う膨縮制御部と、
を有し、
f) 前記本体の腹部の膨縮回数の変化を前記ぬいぐるみ形態の本体を抱く人に伝達して抱く人の呼吸誘導を行い、抱く人の呼吸リズムを安定させると同時に、不安感を小さくし癒すことができるようにしたことを特徴とする抱き形態の呼吸誘導体。」を新たに「本願発明」という。

2 引用刊行物およびその記載事項(下線は当審で付与した。)
(1)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である米国特許第4606328号明細書(以下,「刊行物1」という。)には,図面とともに次の事項が記載されている。

(1-ア)
「BRIEF DESCRIPTION OF THE INVENTION
It is a particular object of the present invention to provide a surrogate mother in the form of a mechanically actuatable body that simulates the motions and feel of a live creature to evoke vestibulary and tactile responses of a living subject placed adjacent to or in contact with the body.
In accordance with the present invention, sleep irregularities or pacifying of an animal subject are treated by positioning it adjacent to such a simulated body and so that the live being is within touch and motions contact of the body.
・・・
Preferably but not necessarily the pump to actuate the bladder of the surrogate mother is positioned some distance away from the animal form, and is driven by an electric motor. An air hose is connected to the pump through the back of the figure to supply compressed air to partially inflate, and if desired, partially deflate the bladder on each cycle. Alternatively of course, the pump mechanism may be embodied within the figure.」(第2欄1行?68行)「当審訳:
発明の簡単な説明
本発明の特有の目的は、その胴体に又はその胴体と接触する隣接配置された生き物の平衡及び触覚反応を引き起こすため、生きた生き物の動き及び感触を模す、機械的に動く胴体の形で、代理母を提供することである。
・・・
好ましくは、必須ではないが、代理母の気嚢を作動させるポンプは、動物人形から少し離れて置かれ、そして、電気モーターによって駆動される。
各サイクルで、空気ホースが、部分的に膨張、必要に応じて、部分的に収縮させるための圧縮空気を供給するために、人形の背後を通ってポンプとつながれる。もちろん代わりに、ポンプ機構は、人形内に内蔵されてもよい。

(1-イ)
「BRIEF DESCRIPTION OF THE DRAWINGS
FIG. 1 is perspective view showing a toy bear constructed in accordance with the present invention in vestibular and tactile proximity to an infant on a bed and indicates the pneumatic pumping mechanism associated therewith.
FIG. 2 is a longitudinal view, partially in cross-section through the trunk of the toy bear and illustrates construction of the animal together with a pneumatic circuit diagram indicating the pumping arrangement for partially inflating the bladder member.」(第3欄18行?29行)「当審訳:
「図面の簡単な説明
図1は、ベッドの上の赤ちゃんに対して前庭及び触覚近接状態にある本発明に基づいて構成されたおもちゃの熊を示す斜視図であり、そして、それに関連する空気式ポンプ機構を示す。
図2は、おもちゃの熊の胴体部の部分的な縦方向の断面図であり、気嚢部材を部分的に膨らませるためにポンプ装置を示す空気圧回路図と共に動物の構造を示したものである。」


(1-ウ)
「DESCRIPTION OF THE PREFERRED EMBODIMENTS OF THE INVENTION
As indicated in FIG. 1 the method of the present invention is accomplished by positioning a simulation of a cyclically breathing animal, or other figure (surrogate mother), adjacent to the living subject to be treated. In this particular arrangement, the simulated animal is a toy bear 10 whose internal construction is best seen in FIG. 2. As there shown the body portion or trunk 12 is in cross-section illustrating that the lower or back portion 11 includes a stiff section 14 which effectively forms a spine or backbone extending generally across the width of trunk 12. Section 14 forms an anchor for expandable bladder 16 which is secured by plastic clips, such as 18. The attachment may also be by glueing, bonding or other connection so that at least a substantial portion of one side of bladder 16 is firmly anchored against stiff section 14. With bladder 16 so enclosed in "pleural cavity" 20 of toy bear 10, it is thereby possible to simulate actual breathing motions of a live animal, including natural expansion-contraction of the pleural cavity. This produces significant motion of the outer surface, or stomach portion, 22 of trunk 12, as indicated by the dotted lines.Such action is induced by pump mechanism 24 connected through flexible tube 28 to bladder 16.」(第3欄36行?62行)「当審訳:
この発明の望ましい実施例
図1で示されるように、本発明の方法は、処置される生きている対象に隣接して、周期的に呼吸している動物又は他の形態(代理母)の模擬体を配置することによってなされる。
この特定の配置において、模擬される動物はおもちゃの熊10であり、その内部構造は、図2に最も良く示されている。
胴体の部分又は胴体12は、断面で図示されているように、一般的に胴体12の幅を横切って延びる脊椎又は背骨を効果的に形成する下側又は背面部分11は、硬い部品14を含んでいる。部品14は、18のようなプラスチッククリップによって固定されている膨張し得る気嚢16に対する支えを形成する。少なくとも気嚢16の実質的な一方側は、硬い部品14に対して強固に留めるように、付着は、のり付けしたり、接着したり又は他の固着によっても良い。
・・・
おもちゃの熊10の”胸腔”20でそのように囲まれた気嚢16を用いて、それにより、胸腔の自然な拡張-収縮を含む、生きた動物の正確な呼吸動作を模すことが可能となる。
これは、点線で示したように、該表面、又は腹部、胴12の22の顕著な動きを作る。
このような動作が、気嚢16にフレキシブル管28を通して連結されたポンプ機構24によって誘導される。」

(1-エ)「For example, if toy animal 10 is held closely to the infant, as in FIG. 1, the regular and cyclical movement of the animal figure directly and immediately stimulates both the vestibular and tactile senses of the child. 」(第4欄9?13行)
「当審訳:例えば、おもちゃの動物10が、幼児にしっかりと抱かれるならば、図1のように、動物人形の規則正しい周期的な運動は、子供の平衡及び触覚感覚の両方を直接的及び間接的に刺激する。」

(1-オ)「BACKGROUND OF THE INVENTION
It has long been known that pacification and sleep inducement of human beings and animals, and particularly human infants and other new-born creatures, are complex psychological and physical phenomena. It is known that either or both vestibular and tactile responses of the subject may be involved, since the sensations of both overt movement and touch, and particularly movement, develop early in gestation of higher animals and are closely associated with birth and early post-partum experiences of the newborn.
It has been customary for years beyond numbers to use dolls, toy animals, "security blankets" and the like, generally having a soft surface or body, to pacify or comfort children.」(第1欄13?27行)「当審訳:発明の背景
人間や動物、特に人間の幼児や新生の動物の鎮静及び睡眠誘導は、複雑な心理的及び物理な現象であることが知られていた。明らかな動きと触覚の両方、及び、特定の動きの感覚が、高等動物の妊娠初期に発達し、そして、新生の出生及び出生直後の経験と密接に関連していることから、対象の前庭や触覚応答の一方又は双方が、関与することが知られている。
子供を鎮め、又は、安らかにするために、一般的に軟らかい表面及び胴体を持った、人形、おもちゃの動物、”安心毛布”及びそのような物を使うのが長年の慣習であった。」

[刊行物1から理解できる事項]
下線を整理すると、刊行物1には、次の発明(以下,「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。
なお、発明の認定の根拠となった摘記箇所を参考として、付記する。
「A) 生きた生き物の動き及び感触を模す、機械的に動く胴体の形で、代理母を提供する(1-ア)、おもちゃの熊10(1-ウ)の人形(1-ウ)であって、
B) おもちゃの熊10(1-ウ)の人形は、胴体12の幅を横切って延びる脊椎又は背骨を効果的に形成する下側又は背面部分11は、硬い部品14を含んでおり(1-ウ)、
C) 部品14は、18のようなプラスチッククリップによって固定されている膨張し得る気嚢16に対する支えを形成し(1-ウ)、
D) 少なくとも気嚢16の実質的な一方側は、硬い部品14に対して強固に留めるように、付着は、のり付けしたり、接着したり又は他の固着によりなされ(1-ウ)、
E) 気嚢16は、フレキシブル管28を通して(1-ウ)、おもちゃの熊10 人形の背後を通って(1-ア)、ポンプ機構24(1-ウ)に設けられたポンプとつながれ(1-ア)、
F) ポンプ機構は、人形内に内蔵されてもよい
G) おもちゃの熊10の人形の”胸腔”20で囲まれた気嚢16を用いることで、胸腔の自然な拡張-収縮を含む、生きた動物の正確な呼吸動作を模すことが可能となり(1-ウ)、
H) 幼児にしっかりと抱かれるならば、おもちゃの熊10の人形の規則正しい周期的な運動は、子供の平衡及び触覚感覚の両方を直接的及び間接的に刺激し(1-エ)ており、
I) 子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導(1-オ)する機能を有する
J) おもちゃの熊10の人形。」

(2)本願の出願前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2007-330773号公報(以下,「刊行物2」という。)には,「検出光学系並びに立体形状検出方法」について,図面とともに次の事項が記載されている。

(2-ア)
「【0001】
産業上の利用分野
この発明は自然発生呼吸を調節するシステムと方法に関する。」
・・・
【0003】
発明の概要
本発明は従来技術のシステムと技巧の改善方法の供給をなそうとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、ユーザの自然発生呼吸を調節するシステムであって、前記呼吸が、第1相と第2相とを少なくとも含み、
前記システムが、
ユーザの呼吸を解析するモニタと、
ユーザに対してこのユーザの呼吸の相の少なくとも1つとエントレインメントが発生するよう作用する刺激入力を提供する呼吸調節装置と、
調節装置の動作中におけるユーザの呼吸の変化に応じて、前記第1相及び第2相の持続時間の合計に対する前記相の少なくとも1つに対応する刺激入力の持続時間を変化させるように、呼吸調節装置の動作を制御するよう作用するドライバとを含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0005】
本発明のシステムは、前記第1相が吸気部分であり、前記第2相が呼気部分であるのが好ましい。」(31頁)

(2-イ)
「【0015】
図面の簡単な説明
本発明は以下の詳細な説明と下記の図面に基づいて十分に理解され、認識される。
【0016】
好適な実施形態の詳細な説明
参照の図1では本発明の好適な実施形態に従って構成され操作する生物リズム活動を調節するシステムの簡易ブロック線図を示す。
【0017】
図1のシステムは好適にはユーザの生物リズム活動を解析するモニタ10を含む。モニタ10は、生物リズム活動センサ12からの、ここでBASと呼ばれる、個人の生物リズム活動を表す電気信号を受ける。好適な生物リズム活動センサは、本発明者の米国特許5,423,328号において記述され請求されているもので、他の適したセンサが二者択一あるいは追加で使用可能であることは、理解される。センサ12への接続は有線無線のいずれでも可能である。
・・・
【0019】
生物リズム活動調節装置14はモニタ10からのパラメータ表示を受信し、ユーザの生物リズム活動の少なくとも一つの特性を変化させるよう作用する刺激入力をユーザに供給する。ドライバ16は、モニタからPARとERRとで表されるパラメータとエラー表示を受信することが、必須ではないが、好適であり、これはユーザとは異なっていてもよいオペレータによって操作され、ひとまとめにMOPCとして呼称される操作コマンド入力のセットを提供することにより生物リズム活動調節装置14の動作を制御し、これによって、ユーザへの入力の少なくとも一つの非周波数パターン要素をセンサ12によって検知された現存するユーザの生物リズム活動の少なくとも一つの非周波数パターン要素に関係付ける。
・・・
【0024】
従来技術のパターンおよび傾向解析は本出願の発明者による米国特許第5076281号に記述されており、その開示は参照によりここに含まれる。本発明で使用されるパターンと傾向解析は図6参照の追加説明により、米国特許第5076281号に記述されている内容を超えたものとなる。
【0025】
図6は、米国特許第5423328号に記述されるベルトタイプの呼吸センサによって検知される典型的な呼吸信号を図示する。BAS信号および時間変化に伴うその変化は、特定点の探索を供給するサブルーチンによって操作される。一般にこれらの特定点は、BAS信号あるいはその一次および二次時間導関数が最小や最大、ゼロに達したところにある。図6に示される信号の典型的な特定点は、一次時間導関数が極小値に続く最大値を持つaと、BAS信号が最大に達し、一次時間導関数がゼロであり、かつ、二次時間導関数が負であるbである。」(32頁?34頁)

(2-ウ)
「【0052】
図7には、モニタ10(図1)によって受信される典型的なBAS信号100が示されている。この例において、BAS信号は、米国特許第5423328号に記載された形式のセンサによって生成された呼吸信号を示すことができ、あるいは、使用されるセンサの形式に応じて、対象の生物リズム活動を示す適宜な信号としてもよいことが理解される。
【0053】
BAS信号100は、二つの部分から構成されることが理解され、それらは信号の立ち上がり部である吸気部分102、ならびに信号の立ち下がり部である呼気部分104である。吸気部分102および呼気部分104の持続時間はそれぞれ塗りつぶし部分106および空白部分107によって示されている。吸気部分102および呼気部分104とパラメータP2およびP3との間の関係は、P2が吸気部分を示しその持続時間は参照符号106によって示されており、P3は呼気部分を示しその持続時間は参照符号107によって示されている。
【0054】
いくつかの適用について、リラックス状態を誘発するものとして、P3を増加させることが好適である。これは、P2をこれに応じて増加させることなく実行することが好適であり、これによってP3対P2の比が増加する。他のいつくかの適用において、例えばフィットネスにおいて、P2を低下させることが好適である。実用において、ユーザに対して音響的剌激が提供され、波形108で示された例えばトランペット音等の第一の音響が所要の吸気部分を示し、波形109で示された例えばフルート音等の第二の音響が所要の呼気部分を示している。音響の強さは、波形108および109の振幅によって示される。
【0055】
連続する各パターンにともなって、フルート音の持続時間がトランペット音の持続時間に対して増加し、これにより、ユーザが、彼の呼吸の呼気部分の持続時間を、絶対的に、かつ、吸気部分の持続時間に対して相対的に、漸進的に増加させる。」(36頁?37頁)

(2-エ)
「【0091】
圧力パターン発生装置402の出力は好適にはカフやその他の触覚出力装置である圧力付加装置404に供給され、この圧力付加装置404はユーザへの刺激入力を提供する(図1)。」(41頁)

上記(2-ア)?(2-エ)の記載事項を参照し、整理すると,上記刊行物2には,次の発明が記載されていると認められる。
「呼吸センサによって生成された呼吸信号を示すBAS信号(吸気部分を示すP2と、呼気部分を示すP3の二つの部分から構成される)を受信し、
エントレインメントが発生するよう作用する吸気部分を増加させることなく、呼気部分を増加させる圧力刺激入力をユーザ(カフやその他)に供給することでリラックス状態を誘発する生物リズム活動調節装置14。」(以下,「引用発明2」という。)

3 対比・判断
ア 本願発明a)の特定事項について
アー1 引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」は、H)「幼児にしっかりと抱かれる」ことができるものであるから、本願発明a)「抱き可能形態とした本体」に相当するということができる。

ア-2 引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」を抱いたH)「幼児」は、本願発明の「抱く人」に相当する。

ア-3 引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」をH)「しっかりと抱」いた状態は、本願発明の「抱き可能形態とした本体を抱き込むこと」に相当する。

ア-4 引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」は、H)「幼児にしっかりと抱かれ」ることで、I)「子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する機能を有する」ものであって、睡眠が誘導されれば結果的に、安定したゆっくりとした呼吸になるから、睡眠時の呼吸に誘導し、呼吸リズムが安定するものといえるし、また、「安らかに」、すなわち、心を安らげることにもなるし、結果的に癒やされることにもなることから、本願発明の「抱く人の呼吸を誘導し呼吸リズムを安定させると同時に、心を安らげ癒すことができるよう」な機能を備えているといえる。

ア-5 引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」は、上記「ア-4」に照らし、I)「子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する機能」をもって、鎮静及び睡眠を誘導するものであるから、本願発明の「抱き形態の呼吸誘導体」に相当する。

ア-6 小括
以上のことを総合すると、引用発明1のH)「おもちゃの熊10の人形」をH)「幼児」がH)「しっかりと抱」くことにより、I)「子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する」ことができるようにしたH)「おもちゃの熊10の人形」は、本願発明の「a) 抱き可能形態とした本体を抱き込むことにより、抱く人の呼吸を誘導し呼吸リズムを安定させると同時に、心を安らげ癒すことができるようにした抱き形態の呼吸誘導体」に相当する。

イ 本願発明b)の特定事項について
引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」は、熊という動物のぬいぐるみといえるので、本願発明の「b) 人が抱けるようなぬいぐるみ形態で、動物形状とした本体」にも相当する。

ウ 本願発明d)の特定事項について
ウ-1 引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」をH)「しっかりと抱」いた状態では、抱く人とおもちゃの熊10の人形の腹部側が接触するといえる。

ウ-2 引用発明1の「気嚢16」は、「G) おもちゃの熊10の人形の”胸腔”20で囲まれ」ており、「胸腔の自然な拡張-収縮を含む、生きた動物の正確な呼吸動作を模す」のであるから、おもちゃの熊10の人形の”胸腔”が膨縮するのであり、胸腔は腹部と同じ身体の腹部側に位置するものであるから、引用発明1の「気嚢16」は、おもちゃの熊10の人形の腹部側を膨縮させるといえる。

ウ-3 小括
以上のことを総合すると、引用発明1の「G) おもちゃの熊10の人形の”胸腔”20で囲まれ」ており、「胸腔の自然な拡張-収縮を含む、生きた動物の正確な呼吸動作を模す」「気嚢16」は、本願発明の「d) 前記本体に内蔵され、当該本体における前記抱く人と接触する腹部側を膨縮させる膨縮機構部」に相当する。

エ 本願発明e),f)の特定事項について
エー1 引用発明1の「E) 気嚢16は、フレキシブル管28を通して、おもちゃの熊10 人形の背後を通って、ポンプ機構24に設けられたポンプとつながれ、」、G) おもちゃの熊10の人形の”胸腔”20で囲まれた気嚢16を用いることで、胸腔の自然な拡張-収縮を含む、生きた動物の正確な呼吸動作を模すことが可能とな」るのであるから、気嚢16の拡張-収縮を制御する拡張-収縮制御部を備えていることは自明である。

エー2 引用発明1の「H) 幼児にしっかりと抱かれるならば、おもちゃの熊10の人形の規則正しい周期的な運動は、子供の平衡及び触覚感覚の両方を直接的及び間接的に刺激しており、
I) 子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する機能を有する」ことは、「人形の規則正しい周期的な運動が子どもに伝わり子供の睡眠を誘導」することであり、また、「人形の規則正しい周期的な運動」が「人形を抱く子どもを鎮め、又は、安らかにする」ことは、呼吸リズムを安定化させ、不安感も小さくし癒やしているといえる。

エ-3 小括
以上のことを総合すると、引用発明1の「E) 気嚢16は、フレキシブル管28を通して、おもちゃの熊10 人形の背後を通って、ポンプ機構24に設けられたポンプとつながれ、」、「G) おもちゃの熊10の人形の”胸腔”20で囲まれた気嚢16を用いることで、胸腔の自然な拡張-収縮を含む、生きた動物の正確な呼吸動作を模すことが可能とな」り、「H) 幼児にしっかりと抱かれるならば、おもちゃの熊10の人形の規則正しい周期的な運動は、子供の平衡及び触覚感覚の両方を直接的及び間接的に刺激しており」、
「I) 子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する機能を有する」ことと、
本願発明の「e) 前記呼吸センサーの検出信号を基に、当初本体における前記腹部の膨縮回数が抱く人の呼吸数を模倣するように前記膨縮機構部を駆動制御し、徐々に前記腹部の膨縮回数がゆっくりしたものとなるように前記膨縮機構部を駆動制御して呼吸誘導を行う膨縮制御部と
を有し、
f) 前記本体の腹部の膨縮回数の変化を前記ぬいぐるみ形態の本体を抱く人に伝達して抱く人の呼吸誘導を行い、抱く人の呼吸リズムを安定させると同時に、不安感を小さくし癒すことができるようにした」ものとは、
「膨縮機構部を駆動制御して呼吸誘導を行う膨縮制御部と
を有し、
前記本体の腹部の膨縮を前記ぬいぐるみ形態の本体を抱く人に伝達して抱く人の呼吸誘導を行い、抱く人の呼吸リズムを安定させると同時に、不安感を小さくし癒すことができるようにした」ものの点で共通する。

オ そうすると,本願発明と引用発明1とは,
(一致点)
「抱き可能形態とした本体を抱き込むことにより、抱く人の呼吸を誘導し呼吸リズムを安定させると同時に、心を安らげ癒すことができるようにした抱き形態の呼吸誘導体であって、
人が抱けるようなぬいぐるみ形態で、人形形状、動物形状、擬似動物形状のうちのいずれかの形状とした本体と、
前記本体に内蔵され、当該本体における前記抱く人と接触する腹部側を膨縮させる膨縮機構部と、
前記膨縮機構部を駆動制御して呼吸誘導を行う膨縮制御部と、
を有し、
前記本体の腹部の膨縮を前記ぬいぐるみ形態の本体を抱く人に伝達して抱く人の呼吸誘導を行い、抱く人の呼吸リズムを安定させると同時に、不安感を小さくし癒すことができるようにした抱き形態の呼吸誘導体。」
である点で一致し,以下の点で相違するといえる。

(相違点)
「抱き形態の呼吸誘導体」について、本願発明は、「本体に配置され、当該本体を抱く人の腹部に近接してその呼吸数を検出する呼吸センサーを有し」、
「前記呼吸センサーの検出信号を基に、当初本体における前記腹部の膨縮回数が抱く人の呼吸数を模倣するように前記膨縮機構部を駆動制御し、徐々に前記腹部の膨縮回数がゆっくりしたものとなるように前記膨縮機構部を駆動制御して、
前記本体の腹部の膨縮回数を変化させる」のに対して、
引用発明1は、呼吸センサーを備えず、膨縮制御部の制御内容に呼吸センサー出力が関係しない点。

(1)相違点についての検討
引用発明1のおもちゃの熊10の人形の規則正しい周期的な運動は生きた動物の正確な呼吸動作を模すことが可能であり、子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する機能を有するのであるから、常時一定の呼吸を模倣するものといえる。
他方、引用発明2は、人の呼吸信号をを受信し、その呼吸を模倣し、その後、「エントレインメントが発生するよう作用する吸気部分を増加させることなく、呼気部分を増加させる圧力刺激入力をユーザに供給する」ことにより、すなわち、最初、現在の使用者の呼吸を模倣し、呼吸の模倣を徐々に変化させ、リラックス状態を誘発するものである。
そうすると、どちらも、子供等の使用者を、安らかにし、リラックス状態を誘発するものといえる。
そして、引用発明1の規則正しい周期的な呼吸の模倣よりも、引用発明2の最初、現在の使用者の呼吸を模倣し、呼吸の模倣を徐々に変化させる呼吸の模倣の方がきめ細かい呼吸の模倣であり、子供等の使用者を、安らかにし、リラックス状態を誘発する呼吸の模倣として好ましいといえる。
してみると、引用発明1の呼吸を模倣する構成として、引用発明2の呼吸センサを備えたリラックス状態を誘発する生物リズム活動調節装置14の構成を採用し、圧力刺激入力を膨縮制御部に入力するように構成することは、当業者が容易に想到するものといえる。

そして、引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」は、H)「幼児にしっかりと抱かれ」ることで、I)「子供を鎮め、又は、安らかにして、子供の鎮静及び睡眠を誘導する機能を有する」ものであり、引用発明1の「おもちゃの熊10の人形」をH)「しっかりと抱」いた状態では、抱く人とおもちゃの熊10の人形の腹部側が接触するといえるから、おもちゃの熊である引用発明1が引用発明2の上記構成を採用する際に、「呼吸センサ」を抱く人と接触する本体に配置することは、当業者が適宜成し得る設計事項にすぎない。

以上より、引用発明1に引用発明2の構成を採用し、本願発明を構成することは、当業者が容易に想到するものといえる。

(2)そして,本願発明の作用効果は,刊行物1、2記載の事項から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎず,格別顕著なものともいえない。

(3)したがって,本願発明は,引用発明1,引用発明2に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきであり,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。

第5 むすび
以上のとおり、本願発明は特許法第36条第6項第2号の規定に適合しないものであるから特許を受けることができないものであり、また、特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものである。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-10 
結審通知日 2017-01-17 
審決日 2017-01-30 
出願番号 特願2011-160904(P2011-160904)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
P 1 8・ 537- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 姫島 あや乃田邉 英治伊藤 幸仙  
特許庁審判長 福島 浩司
特許庁審判官 信田 昌男
小川 亮
発明の名称 抱き可能形態の呼吸誘導体  
代理人 下山 冨士男  
代理人 前田 和男  

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