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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01P
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01P
管理番号 1326376
審判番号 不服2016-7521  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-23 
確定日 2017-04-04 
事件の表示 特願2012- 94134「信号伝送線路とその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月28日出願公開,特開2013-223138,請求項の数(4)〕について,次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は,特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成24年4月17日の出願であって,平成27年9月9日付けで拒絶理由通知がされ,同年10月22日付けで手続補正され,平成28年3月24日付けで拒絶査定(原査定)がされ,これに対し,同年5月23日に拒絶査定不服審判の請求がされるとともに同日付けで手続補正がされ,その後,同年12月21日付けで当審より拒絶理由通知(以下,「当審拒絶理由通知」という。)がされ,平成29年1月24日付け及び同年2月3日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1ないし4に係る発明(以下,それぞれ「本願発明1」ないし「本願発明4」という。)は,平成29年2月3日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される発明であり,本願発明1は,以下のとおりの発明である。

「 線路入力端と線路出力端との間で直流抵抗を有する少なくとも1対の線路導体を備え,
線路入力端から線路出力端に向けて一方向で,1Gbps以上の高速ディジタルベースバンド信号を伝送する信号伝送線路であって,
上記信号伝送線路の線路導体は,
(1)印刷又はインジェクションによって形成される金属分散等方性導電ペーストである線路導体と,
(2)銀又は銅及び銅合金金属粉末分散エポキシペーストである線路導体と,
(3)カーボン又はカーボンナノチューブにてなる粉末分散有機物のペーストである線路導体と,
(4)印刷又はインジェクションで線路導体を樹脂上に形成した後,当該樹脂を硬化することで上記信号伝送線路を形成したときの当該線路導体と
のいずれかであり,
上記信号伝送線路は,
時間領域反射法を用いて線路入力端から線路出力端までの信号伝送線路の特性インピーダンスを,線路入力端から測定し,上記測定された特性インピーダンスが実質的に一定になるように,
上記各線路導体(11,15,16,21)の線路間隔(s)を同一にし,かつ
上記各線路導体(11,15,16,21)の線路幅(w?w+α)を,線路入力端から線路出力端への上記各線路導体の長さ方向で漸増的に広くすることにより,
上記各線路導体(11,15,16,21)の線路幅(w)が同一である場合に比較して,
反射損失を低減して上記高速ディジタルベースバンド信号を伝送させることを特徴とする信号伝送線路。」

なお,本願発明2及び本願発明3は,本願発明1を減縮した発明であり,本願発明4は,本願発明1を製造方法として特定したものであって,本願発明1の技術的特徴をすべて包含するものである。

第3 引用文献,引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1(特表2006-528466号公報)には,「コプレーナストリップ線路に基づく方法および装置」(発明の名称)に関して,図面とともに次の事項が記載されている。

ア 「【0002】
発明の分野
本発明は,一般的にはコプレーナストリップ線路(CPS:coplanar striplines)に基づく半導体素子に関する様々な方法および装置に関する。いくつかの事例的な態様においては,正弦波信号源,より具体的には定常正弦波発振器(standing wave sinusoidal oscillators)が,コプレーナストリップ線路構成に基づいて実装される。」(第9ページ)

イ 「【0007】
多くの応用において従来から扱われているように,伝送線路は,いくつかの重要な点において,より広い範疇の導波路といくぶん異なる意味で特徴づけることができる。例えば,第1に,伝送線路は,一般にDC(周波数/ゼロ)から超高周波(例えば,ミリ波およびマイクロ波範囲,約1GHzから100GHz)で動作するように構成される。しかしながら,導波路は,その特定の構造および寸法によって決まる,ある周波数より上でのみ動作が可能であり(「カットオフ周波数」),そのために一般的にハイパスフィルタとして作用する。他方,約50GHzから300GHzのオーダーの超高周波においては,伝送線路は,従来からよく知られた伝送線路導体におけるスキン効果に加えて,導体を隔てる材料に関する誘電体損失のために,全体的に非効率的になってくるとみなされている。
(以下省略)」(第10ページ)

ウ 「【0009】
特に,図2Aには,半導体基板103上の誘電体層101上に配置された3つの平行な導体20A,40および20Bによって形成された,コプレーナ導波路50の横断面図を示してある。図2Bは,事例的なコプレーナ導波路デバイスを上から見下ろした上面図であり,このデバイスでは,中央導体40がその両端でパッド42A,42Bによって終端されており,導体20A,20Bは,その面内で導体40を完全に包囲するように電気的に接続して示してある(図2Aの横断面図は,図2Bの一点鎖線2A-2Aに沿った断面である)。図2Aおよび図2Bに示すように,導体20A,20Bの幅W1は,中央導体40の幅W2よりも大幅に大きい場合がある。」(第11ページ)

エ 「【0033】
例えば,本発明の一態様は,互いに平行であり,かつ実質的に第1の方向に沿って配向されている,第1の導体および第2の導体のみを含む,コプレーナストリップ線路(CPS)を備える,装置を目的とする。この態様の装置は,コプレーナストリップ線路に近接して配置された,複数の直線状導電ストリップをさらに含む。この複数の直線状導電ストリップは,本質的に互いに平行であり,実質的に第1の方向に直角の第2の方向に沿って配向されている。この態様の一観点においては,この装置はシリコン基板をさらに含み,このシリコン基板の上に,少なくとも1つの誘電体,複数の直線状導電ストリップ,およびコプレーナストリップ線路が配置されている。別の観点においては,この装置は,約1Ghzから60Ghz以上の範囲の周波数を有する,コプレーナストリップ線路上の少なくとも1つの信号をサポートするように構成されている。さらに別の観点においては,コプレーナストリップ線路および複数の直線状導電ストリップは,約1Ghzから60Ghzの範囲における少なくとも1つの周波数に対してこの装置が少なくとも30の品質係数Qを有するように,配設される。」(第16ページ)

オ 「【0035】
本発明のさらに別の態様は,単位長さ当り抵抗Rおよび単位長さ当りコンダクタンスCが,コプレーナストリップ線路に沿った位置の,不連続関数または連続関数となるように構成された,コプレーナストリップ線路を目的としている。この態様の一観点においては,コプレーナストリップ線路導体間の間隔および導体それ自体の幅が,コプレーナストリップ線路に沿って変化する,テーパー付きコプレーナストリップ線路構成が実装される。この態様の一観点においては,そのようなテーパー付き構成は,コプレーナストリップ線路の長さに沿って線路パラメータR,Gを有効に変えるとともに,同時に,コプレーナストリップ線路の一様な特性インピーダンスを実質的に維持して,局所反射を回避する。」(第17ページ)

カ 「【0104】
e.テーパー付きコプレーナストリップ線路を使用する定常波発振器
図15Aは,本発明による(λ/4)コプレーナストリップ線路SWO500の別の態様を示し,ここでSWOは,位置依存線路パラメータを有するテーパー付きコプレーナストリップ線路に基づいている。図15Aに示す,テーパー付き構成を使用するSWO500の態様の説明を容易にするために,図13Bに示した(λ/4)コプレーナストリップ線路SWOに対する電圧および電流の波形を,図15Bに再生した。しかしながら,ここで理解すべきことは,この態様と関係して考察した概念は,本明細書において考察したように,本発明による他の様々なSWOに実装可能であることである。したがって,本質的に四分の一波長のSWOに関係する,これから後に考察する特定の事例は,一義的に,説明の目的で提示するものである。さらに,以下で考察するように,本発明によるテーパー付きコプレーナストリップ線路構成は,SWOでの使用の用途に限定されるものではなく,その他のCPSベースデバイスにおいて使用できることを理解すべきである。」(第31ページ)

キ 「【0107】
特に,単位長さ当り抵抗Rは,一般的にはよく知られたスキン効果に関係し,この場合に,高周波において,電荷担体が縁端近く,かつ所与の導体の芯から離れて移動する。コプレーナストリップ線路を構成する2つの導体が,互いにより接近させられる(すなわち,距離Sが減少および/または導体幅Wが増大する)ので,導体の縁端または「表皮」付近を流れるそれぞれの電荷が互いにより接近させられて,それによって電荷流を妨げる。したがって,導体が互いにより接近させられると,一般に,単位長さ当り抵抗Rが増大する。
【0108】
(…中略…) 要約すると,前述のことから,上記の事例におけるコプレーナストリップ線路パラメータR,Gは,一般に導体間隔と逆に変化すること,すなわち導体がより接近させられると,Rは増大しGは減少すること,逆に導体がより大きな距離だけ隔てられると,Rは減少しGは増大することを理解すべきである。」(第32ページ)

ク 「【0114】
図16は,ストリップ線路の特性インピーダンスZを大幅に変えることなく,コプレーナストリップ線路に沿ってRとGを変化させる,本発明の一態様による方法を説明する,グラフおよび対応する事例的テーパー付きコプレーナストリップ線路構成505を含む。この態様の一観点によれば,図16のグラフは,ストリップ線路の長さに沿ってストリップ線路の幅Wおよびストリップ線路導体間の間隔Sを変化させることに基づく,コンピュータシミュレーション(例えば,Sonnet EM)によって得られるデータから編集することができる。したがって,図16のグラフの水平軸は,幅Wを表わし,グラフの垂直軸はストリップ線路の導体間の間隔Sをあらわす。
(…中略…)
【0116】
図16に示すように,WまたはSのいずれかを増大させると,上述したR-Gトレードオフのせいで,Rが減少し,Gが増加する結果となる(すなわち,R_(3)>R_(2)>R_(1)およびG_(3)<G_(2)<G_(1))。しかしながら,特性インピーダンスZ0は,Sが増大すると増大するが,Wが増大すると減少する。したがって,z=0付近で低G,およびz=Lで低Rを達成して,大幅にZ_(0)に影響を与えることなく損失を低減するためには,図16に示すZ0等高線の1つに追従して,コプレーナストリップ線路導体を,同時に,z=0からz=Lまで幅を広げ,かつ離れる方向に移動させてもよい。
【0117】
前述の概念を説明するために,図16のグラフから,本質的に一定の特性インピーダンスZ_(0,2)を有する,テーパー付きコプレーナストリップ線路構成の設計を一例として考える。ここで理解すべきことは,この事例の基礎となる方法は,以下に考察するように,結果として得られるデバイスの所望の特性インピーダンスを表わす,その他の特性インピーダンス等高線に同様に適用することができることである。
具体的には,図16の一定特性インピーダンス等高線Z_(0,2)を参照して,3つの点A,B,Cを,Z_(0,2)等高線に沿って,この等高線と損失等高線(R_(3),G_(3)),(R_(2),G_(2)),(R_(1),G_(1))とのそれぞれの交点で,識別する。やはり図16の事例に示すように,点A(すなわち高R,低G)に対応する寸法WAおよびSAを,テーパー付きストリップ線路505のz=0の周辺の部分で使用し,点Bに対応する寸法W_(B)およびS_(B)を,ストリップ線路の中央付近の部分で使用し,点C(すなわち低R,高G)に対応する寸法W_(C)およびS_(C)を,ストリップ線路のz=Lの周辺の部分で使用する。
【0118】
前述の事例は,特性インピーダンス等高線Z_(0,2)に沿って,3つの基準点A,B,Cを使用して,テーパー付きコプレーナストリップ線路構成505に沿った対応する寸法を決定するが,ここで理解すべきことは,本発明はこの点において限定されるものではなく,すなわち,所与の特性インピーダンス等高線に沿って任意の数の点を使用して,テーパー付きコプレーナストリップ線路に沿った,対応する寸法を決定することができることである。特に,点の数が増加するにつれて,結果として得られるテーパー付きコプレーナストリップ線路は,RおよびGが本質的にストリップ線路に沿った位置zの連続的関数である線路に,次第に類似してくる。しかしながら,ここで理解すべきことは,所与のインピーダンス等高線に沿って実質的に任意有限の数の点に対して,区分テーパー付き構成(piecewise tapered configuration)が生成され,この構成においては,RおよびGがストリップ線路に沿って不連続に(すなわち,区分毎に)変化することである。」(第34ページ)

ケ 「【図15A】

」(第51ページ)

コ 「【図16】

」(第51ページ)

前記アないしケ及び本願の出願日における技術常識を参酌して,引用文献1に記載された技術的事項について検討する。

a.前記アより,引用文献1には,「コプレーナストリップ線路」が記載されており,当該「コプレーナストリップ線路」は,前記ウ,ク及びケより,「1対の導電ストリップ」を備えるものである。
また,前記イ及びエより,前記「コプレーナストリップ線路」は,1GHz以上の超高周波の信号を伝送するものである。
また,前記「コプレーナストリップ線路」(1対の導電ストリップ)が,「線路入力端」と「線路出力端」を備え,かつ,その「線路入力端から線路出力端との間で直流抵抗を有する」こと,及び,「線路入力端から線路出力端に向けて一方向」で信号を伝送することは自明である。
そうすると,引用文献1には,「線路入力端から線路出力端との間で直流抵抗を有する1対の導電ストリップを備え,1GHz以上の超高周波の信号を伝送するコプレーナストリップ線路」が記載されているといえる。

b.前記ウ及びエより,前記「導電ストリップ」は,「半導体基板の誘電体層上に形成された導体」である。

c.前記オの「コプレーナストリップ線路の一様な特性インピーダンスを実質的に維持して,局所反射を回避する」,前記クの【0117】の「本質的に一定の特性インピーダンスZ_(0,2)を有する,テーパー付きコプレーナストリップ線路構成の設計を一例として考える。」より,前記「コプレーナストリップ線路」は,「特性インピーダンスを実質的に一定」となるように設計されており,そして,その「一定」となるべき範囲は,前記クの【0116】ないし【0118】及び前記コ(図16)より,z=0である線路入力端から,z=Lである線路出力端までであることは明らかである。さらに,前記クの【0114】より,「特性インピーダンス」は,コンピュータシミュレーションにより計算されるものである。
これらを総合すると,引用文献1には,「コンピュータシミュレーションにより,線路入力端から線路出力端までのコプレーナストリップ線路の特性インピーダンスを計算し,上記計算された特性インピーダンスが実質的に一定となるように」,「コプレーナストリップ線路」が設計されることが記載されているといえる。

d.そして,前記設計は,前記カ,キ,ク,ケ(図15A)及びコ(図16)より,前記「コプレーナストリップ線路」の「導電ストリップ」が,「線路間隔と線路幅の両者を,線路入力端から線路出力端への各導電ストリップの長さ方向へ漸増的に広くすること」により実現されているといえる。
そしてその効果は,前記エの「局所反射を回避する」及び前記クの【0114】の「大幅にZ_(0)に影響を与えることなく損失を低減する」より,「局所反射による損失を低減」して「上記超高周波の信号を伝送させること」であるといえる。

前記a.ないしd.の検討から,引用文献1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「 線路入力端から線路出力端との間で直流抵抗を有する1対の導電ストリップを備え,1GHz以上の超高周波の信号を伝送するコプレーナストリップ線路であって,
上記コプレーナストリップ線路の導電ストリップは,半導体基板の誘電体層上に形成された導体であり,
上記コプレーナストリップ線路は,コンピュータシミュレーションにより,線路入力端から線路出力端までのコプレーナストリップ線路の特性インピーダンスを計算し,上記計算された特性インピーダンスが実質的に一定となるように,
線路間隔と線路幅の両者を,線路入力端から線路出力端への各導電ストリップの長さ方向へ漸増的に広くすることにより,
局所反射による損失を低減して上記超高周波の信号を伝送させることを特徴とするコプレーナストリップ線路。」

2.引用文献2及び3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2(特開平7-30310号公報)及び引用文献3(特開2004-159198号公報)には,引用文献2の【0012】,図1及び図2の記載及び引用文献3の【0010】及び図1の記載より,次の事項(以下,「技術事項」という。)が記載されていると認める。

「線路導体の線路幅,線路導体間の間隔,線路導体の厚さ,基板の厚さを変えることにより,特性インピーダンスを調整できること。」

3.引用文献4ないし6について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4(特開2006-38803号公報),引用文献5(特開2004-233336号公報)及び引用文献6(特開平4-305170号公報)には,引用文献4の【0003】の記載,引用文献5の【0003】の記載及び引用文献6の【0001】の記載より,次の事項(以下,「周知事項」という。)が記載されていると認める。

「時間領域反射法を用いて伝送線の特性インピーダンスを測定すること。」

第4 当審の判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると,次のことがいえる。

引用発明における「導電ストリップ」が,その両端の間に「直流抵抗を有する」ことは自明なことである。
引用発明における「コプレーナストリップ線路」は,本願発明1における「信号伝送線路」に含まれるものである。
引用発明における「1GHz以上の超高周波の信号」と,本願発明1における「1Gbps以上の高速ディジタルベースバンド信号」とは,「所定の信号」である点において共通する。
引用発明において,「半導体基板の誘電体層上に形成された導体」が,何らかの手法により形成されることは自明である。よって,引用発明における「1対のストリップ導体」と,本願発明1における「少なくとも1対の線路導体」とは,「1対の導体」であり,「所定の手法で形成される導体」である点において共通する。
「特定インピーダンス」に関し,引用発明における「コンピュータシミュレーションにより,線路入力端から線路出力端までのコプレーナストリップ線路の特性インピーダンスを計算し,上記計算された特性インピーダンス」と,本願発明1における「時間領域反射法を用いて線路入力端から線路出力端までの信号伝送線路の特性インピーダンスを,線路入力端から測定し,上記測定された特性インピーダンス」とは,「所定の手法により線路入力端から線路出力端までの信号伝送線路の特性インピーダンスを,取得し,上記取得された特性インピーダンス」において共通する。
引用発明における「線路間隔と線路幅の両者を,線路入力端から線路出力端への各導電ストリップの長さ方向へ漸増的に広くすること」と,本願発明1における「上記各線路導体(11,15,16,21)の線路間隔(s)を同一にし,かつ上記各線路導体(11,15,16,21)の線路幅(w?w+α)を,線路入力端から線路出力端への上記各線路導体の長さ方向で漸増的に広くすること」とは,「上記各線路導体の線路幅」に関しては「線路入力端から線路出力端への上記各線路導体の長さ方向で漸増的に広くすること」の構成を含む点において共通する。また,
引用発明における「局所反射による損失を低減」することは,本願発明1における「反射送信を低減」することに等しい。また,引用発明において,「局所反射による損失を低減」するという効果が,「上記各線路導体の線路幅が同一である場合に比較して」との相対的な基準によるものであることは自明である。

(2)一致点・相違点
以上の検討から,本願発明1と引用発明とは,以下の点において一致ないし相違する。

[一致点]
「 線路入力端と線路出力端との間で直流抵抗を有する1対の導体を備え,
線路入力端から線路出力端に向けて一方向で,所定の信号を伝送する信号伝送線路であって,
上記信号伝送線路の導体は,所定の手法で形成される導体であり,
上記信号伝送線路は,
所定の手法により線路入力端から線路出力端までの信号伝送線路の特性インピーダンスを,取得し,上記取得された特性インピーダンスが実質的に一定になるように,
上記各線路導体の線路幅に関しては,線路入力端から線路出力端への上記各線路導体の長さ方向で漸増的に広くすることにより,
上記各線路導体の線路幅が同一である場合に比較して,
反射損失を低減して上記所定の信号を伝送させることを特徴とする信号伝送線路。」

[相違点1]
「所定の信号」が,本願発明1においては,「1Gbps以上の高速ディジタルベースバンド信号」であるのに対し,引用発明においては,「1GHz以上の超高周波の信号」である点。

[相違点2]
「1対の導体」が,本願発明1においては,
「(1)印刷又はインジェクションによって形成される金属分散等方性導電ペーストである線路導体と,
(2)銀又は銅及び銅合金金属粉末分散エポキシペーストである線路導体と,
(3)カーボン又はカーボンナノチューブにてなる粉末分散有機物のペーストである線路導体と,
(4)印刷又はインジェクションで線路導体を樹脂上に形成した後,当該樹脂を硬化することで上記信号伝送線路を形成したときの当該線路導体と
のいずれか」であるのに対し,
引用発明においては,「半導体基板の誘電体層上に形成された導体」であり,これ以外,どのように形成されたものかについて具体的に特定していない点。

[相違点3]
「特性インピーダンス」の「取得」が,本願発明1においては,「時間領域反射法を用いて線路入力端から線路出力端までの信号伝送線路の特性インピーダンスを,線路入力端から測定」するものであるのに対し,引用発明においては,「コンピュータシミュレーション」により「計算」するものである点。

[相違点4]
特性インピーダンスが実質的に一定になるように,かつ,反射損失を低減するための「導体」の具体的な要件として,「各線路導体の線路幅を,線路入力端から線路出力端への上記各線路導体の長さ方向で漸増的に広くすること」に加えて,本願発明1においては,「各線路導体」の「線路間隔」を「同一」にするものであることを付加するのに対し,引用発明においては,「線路間隔」も「線路入力端から線路出力端への各導電ストリップの長さ方向へ漸増的に広くすること」を付加する点。

(3)相違点についての判断
事案に鑑みて,先ず,[相違点4]について検討するに,[相違点4]に係る本願発明1の構成は,引用文献2ないし6のいずれにも記載されておらず,かつ,本願の出願日における技術常識でもない。
したがって,他の相違点について検討するまでもなく,本願発明1は,当業者であっても引用発明,並びに,引用文献2及び3に記載された技術事項又は引用文献4ないし6に記載された周知事項に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

2.本願発明2ないし4について
本願発明2ないし4も,[相違点4]に係る本願発明1の構成を備えるものであるから,本願発明1と同じ理由により,当業者であっても,引用発明,並びに,引用文献2及び3に記載された技術事項又は引用文献4ないし6に記載された周知事項に基づいて容易に発明することができたものであるとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は,原査定時の請求項1ないし6に係る発明は,引用文献1ないし6に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定におり特許を受けることができないというものである。
しかしながら,平成29年2月3日付けの手続補正により補正された請求項1ないし4は,上記[相違点4]に係る本願発明1の構成を備えるものとなっており,上記のとおり,本願発明1ないし4は,引用文献1に記載された発明(引用発明),並びに,引用文献2及び3に記載された技術事項又は引用文献4ないし6に記載された周知事項に基づいて容易に発明することができたものではない。したがって,原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
当審では,請求項1ないし4に係る発明は,係り受け等,日本語として明確でないため,特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない旨の拒絶の理由を通知しているが,平成29年2月3日付けの手続補正により係り受け等が明確になるように補正された結果,この拒絶の理由は解消した。

第7 むすび
以上のとおり,原査定の理由によっては,本願を拒絶することはできない。
また,他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-03-21 
出願番号 特願2012-94134(P2012-94134)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01P)
P 1 8・ 121- WY (H01P)
最終処分 成立  
前審関与審査官 白井 孝治  
特許庁審判長 大塚 良平
特許庁審判官 林 毅
中野 浩昌
発明の名称 信号伝送線路とその製造方法  
代理人 田中 光雄  
代理人 川端 純市  
代理人 山田 卓二  
代理人 山田 卓二  
代理人 山田 卓二  
代理人 川端 純市  
代理人 山田 卓二  
代理人 田中 光雄  
代理人 山田 卓二  
代理人 田中 光雄  
代理人 川端 純市  
代理人 川端 純市  
代理人 川端 純市  
代理人 田中 光雄  
代理人 田中 光雄  

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