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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
管理番号 1326388
審判番号 無効2014-800039  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-03-14 
確定日 2017-03-21 
事件の表示 上記当事者間の特許第5102928号発明「新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

(1)本件特許第5102928号に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、2001年6月15日(パリ条約による優先権主張 2000年6月30日、2000年9月27日及び2001年4月18日、いずれも米国(US))を国際出願日とする出願であり、平成24年10月5日に特許権の設定登録がなされた。
(2)請求人から、平成26年3月14日に、本件特許出願の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判が請求され、平成26年8月8日付けで被請求人から答弁書が提出された。
(3)平成26年12月9日付けで、参加人 ホスピーラ・ジャパン株式会社(以下、「参加人1」という。)から参加申請があり、当審合議体は、平成27年2月18日に参加を許可する決定をした。
(4)平成27年1月7日付けで、参加人 ホスピーラ インコーポレイテッド(以下、「参加人2」という。)から参加申請があり、当審合議体は、平成27年2月18日に参加を許可する決定をした。
(5)平成27年2月24日付けで、参加人 テバ ファーマスーティカル インダストリーズ リミテッド(以下、「参加人3」という。)から参加申請があり、当審合議体は、平成27年9月28日に参加を許可する決定をした。
(6)平成27年2月26日に行われた第1回口頭審理において、請求人、参加人1及び2、被請求人から、それぞれ第1回口頭審理調書に記載のとおりの陳述がなされた。
(7)平成27年3月12日付けで、参加人1及び2から上申書が提出された。
(8)平成27年4月9日付けで、被請求人から、上申書A(参加人1及び2からの平成27年3月12日付け上申書に対する反論)、及び上申書B(請求人からの平成27年2月12日付け口頭審理陳述要領書に対する再反論)が提出された。

第2 本件特許発明

本件特許第5102928号の特許請求の範囲の請求項1?7に係る発明(以下、順に「本件発明1」?「本件発明7」といい、併せて「本件発明」ともいう。)は、本件特許第5102928号の特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。
【請求項2】
約1000μgのビタミンB_(12)を投与する、請求項1記載の剤。
【請求項3】
ビタミンB_(12)が筋肉内注射、経口、非経口の製剤によって投与する、請求項1または2のいずれかに記載の剤。
【請求項4】
ビタミンB_(12)が筋肉内注射によって投与する、請求項3記載の剤。
【請求項5】
ビタミンB_(12)が経口投与する、請求項3記載の剤。
【請求項6】
葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)を筋肉内注射によって投与し、該ビタミンB_(12)をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。
【請求項7】
葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、
ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)を用いる処置は筋肉内注射または経口によって投与し、そしてペメトレキセート二ナトリウム塩を用いる処置を止めるまで、約24時間毎?約1680時間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。」

第3 請求人の主張、及び証拠方法

請求人は、審判請求書、口頭審理陳述要領書により、本件特許には、以下の無効理由1?3が存在する旨を主張し、証拠方法として、甲第1?90号証を提出している。なお、無効理由1?3の詳細は、後述の「第5 当審の判断」で、必要に応じて記載する。

[無効理由1]進歩性欠如
本件特許発明1?7は、本件特許出願の優先日より前に頒布された甲第1号証に記載された発明、並びに甲第2?90号証に記載された周知技術ないし技術常識に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由2]実施可能要件違反
本件特許発明1?7は、それらの特許請求の範囲に記載されている「葉酸の約0.1mg?約30mg」に係る投与方法及び投与時期について、発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[無効理由3]サポート要件違反
本件特許発明1?7は、それらの特許請求の範囲に記載されている「葉酸の約0.1mg?約30mg」に係る投与方法及び投与時期を特定していないところ、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えないから、平成14年法律第24号による改正前の特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

[証拠方法]
・甲第1号証 Proceedings of the American Society of Clinical Oncology, 1998, Vol. 17, p. 225a (Abstract 866)
・甲第2号証 Seminars in Oncology, 1999, Vol. 26, No. 2, Supplement 6, pp. 3-10
・甲第3号証 Ann L. Jackman編, 「Cancer Drug Discovery and Development: Antifolate Drugs in Cancer Therapy」, Humana Press, 1999, pp. 190-198, 261-275
・甲第4号証 Cancer, April 2000, Vol. 88, No. 8, pp. 1807-1813
・甲第5号証 勝沼恒彦ら著、「ビタミンの話」、東海大学出版会、1984年11月10日,pp. 62-65
・甲第6号証 日本ビタミン学会編、「ビタミンの事典」、朝倉書店、1996年7月10日,pp. 283-298
・甲第7号証 木村修一ら監訳、「最新栄養学〔第7版〕」、建帛社、平成9年5月15日, pp. 187-217
・甲第8号証 Vincent T. DeVitaら編,「Cancer: Principles and Practice of Oncology 5th ed.」, Vol. 1, Lippincott-Raven Publishers, 1997, pp. 432-433
・甲第9号証 Arthritis and Rheumatism, 1990, Vol. 33, No. 1, pp.9-18
・甲第10号証 Annals of Internal Medicine, 1994, Vol. 121, No. 11, pp.833-841
・甲第11号証 William N. Kelleyら編, 「Textbook of rheumatology 5th ed.」, Vol.1, W.B. Saunders Company, 1997, pp. 771-786
・甲第12号証 Proceedings of the American Society for Cancer Research,1995,Vol. 36, p.378 (Abstract 2253)
・甲第13号証 Proceedings of the American Association for Cancer Research, 1997, Vol. 38, p. 478 (Abstract 3198)
・甲第14号証 Anticancer Research, 1998, Vol. 18, pp. 3235-3239
・甲第15号証 Cancer Research, 1989, Vol. 49, pp. 5879-5883
・甲第16号証 Cancer Research, 1991, Vol. 51, pp. 828-835
・甲第17号証 Clinical Pharmacology Therapeutics, 1991, Vol 50, No. 5, Part 1,pp. 547-556
・甲第18号証 Annals of Oncology, 1998, Supplement 4 to Volume 9, pp.126-127 (Abstract 609P)
・甲第19号証 British Journal of Clinical Pharmacology, 1999, Vol. 48, pp. 265-277
・甲第20号証 Annals of Oncology, 1999, Vol. 10, pp. 1175-1179
・甲第21号証 日本ビタミン学会編、「ビタミンハンドブック2水溶性ビタミン」、化学同人、1989年1月2日、pp.47-73
・甲第22号証 Journal of Investigative Medicine, 1996, Vol.44, No. 9, pp.522-530
・甲第23号証 L. Kathleen Mahan ら編,「Krause's food, nuitrition, and diet therapy 10th ed.」,2000, pp. 974-980
・甲第24号証 Journal of Nutrition, 1994, Vol.124, pp. 1927-1933
・甲第25号証 Postgraduate Medical Journal, 1996, Vol.72, pp.513-518
・甲第26号証 Annual Review of Medicine, 1998, Vol. 49, pp. 31-62
・甲第27号証 The American Journal of Clinical Nutrition, 1998, Vol.68, pp.1104-1110
・甲第28号証 British Medical Journal, 1998, Vol. 316, pp. 894-898
・甲第29号証 Bailliere's Clinical Haematology, 1999, Vol. 12, No. 3, pp. 451-477
・甲第30号証 Metabolism, 1988, Vol. 37, No. 2, pp. 175-178
・甲第31号証 The Journal of Nutrition, 1996, Vol. 126, pp. 1276S-1280S
・甲第32号証 日比野進監修、「血液学」、丸善、昭和60年10月5日、pp. 534-547
・甲第33号証 新版日本血液学全書刊行委員会編、「新版日本血液学全書3 貧血I」、丸善、昭和55年10月30日、pp. 365-366, 412-417
・甲第34号証 熊谷洋監修、「臨床薬理学大系〈第13巻〉ビタミン」、中山書店、1978年2月28日、pp. 201-212
・甲第35号証 Clinical Research, 1991, vol. 39, No. 3, p. 667A
・甲第36号証 Skin Pharmacology, 1996, VoL.9, p. 147
・甲第37号証 Journal of Clinical Oncology, 1999/Vol. 17, No. 10, pp.3009-3016
・甲第38号証 ビタミン、1988、Vol. 62、No. 4、p. 221(Abstract 2-II-36)
・甲第39号証 Journal of the National Cancer Institute, 1996, Vol. 88, No. 20, pp.1495-1496
・甲第40号証 Clinical Cancer Research, 1998,Vol. 4, pp. 2349-2355
〈以上、審判請求書に添付。〉

・甲第41号証 The New England Journal of Medicine, 1948, VoL.238, No. 23, pp. 787-793
・甲第42号証 Blood, 1949, Vol.4,Issue 2, pp. 160-167
・甲第43号証 Journal of the American Medical Association, 1950,Vol.144, No.18, pp.1558-1560
・甲第44号証 Blood, 1951, Vol.6, Issue 11, pp. 1002-1012
・甲第45号証 Experimental Biology and Medicine, 1950, VoL.78, No.3, pp. 501-503
・甲第46号証 Wohlら編,「Modern Nutrition in. Health and Disease 4ch ed.」, Lea & Febiger, 1968, p. 278
・甲第47号証 久保明良著、「がん化学療法」、南江堂、1985年8月15日、pp. 34-36
・甲第48号証 特開平5-97705号公報
・甲第49号証 独立行政法人医薬品医療機器総合機構、「審査報告書」、平成18年11月20日、pp. 1-3, 42-43
・甲第50号証 日本イーライリリー株式会社のホームページ
https://www.lilly.co.ip/lillyanswers/QandA/alimta/WFALM00063_3.aspx
・甲第51号証 Jackman編, 「Cancer Drug Discovery and Development: Antifolate Drugs in Cancer Therapy」, Humana Press, 1999, pp. 276-277
・甲第52号証 「LY231514(MTA) End of Phase 2 Meeting with the FDA Clinical Issues - Friday, September 25, 1998, at FDA」
・甲第53号証 アリムタ注射用100mg及び500mgのインタビューフォーム(改訂第8版)、日本イーライリリー株式会社、2013年2月、pp. 10-11
・甲第54号証 「MEETING MINUTES」, March. 1, 2000
・甲第55号証 Molecular Cancer Therapeutics, 2002, Vol. 1,pp. 545-552
・甲第56号証 Science,1947, Vol. 106, pp. 619-621
・甲第57号証 日本臨床栄養学会雑誌,1985, Vol. 7, No. 2, pp. 3-13
・甲第58号証 外科治療, 1991, Vol. 64, No.1, pp. 99-103
・甲第59号証 看護, 1994, VoL.46,No. 6, pp. 199-212
・甲第60号証 小澤和恵監修、「輸液・栄養管理-処方とその考え方」、南江堂、1994年11月25日、pp. 57-58
・甲第61号証 漆崎一朗監修、「癌患者の栄養管理?癌悪液質の対策?」、メディカルレビュー社、1994年5月30日、pp. 172-176、254-258
・甲第62号証 Poirierら編,「Essential Nutrients in Carcinogenesis」, Plenum Press,1986, pp. 300-302
・甲第63号証 Physicians' Desk Reference」, Medical Economics Company, 1999, pp. 1397-1401
・甲第64号証 「Physicians' Desk Reference」, Medical Economics Company, 1989, pp. 1129-1133
・甲第65号証 「ABPI Compendium of Data Sheets and Summariea of Product characteristics 1998-99」, Datapharm Publications Limited, 1998, pp. 1543-1546
・甲第66号証 日本臨床腫瘍研究会編、「Second Edition 臨床腫瘍学CLINICAL ONCOLOGY I」、癌と化学療法社、1999年2月26 日、pp. 695-700
・甲第67号証 Cancer Chemotherapy and Pharmacology,1999, Vol. 44,pp. 372-380
・甲第68号証 垣添忠生ら編、「実験医学別冊メディカル用語ライブラリー 癌 分子メカニズムから病態・診断・治療まで」、羊土社、1996年5月20日、pp. 158-159
・甲第69号証 高谷治ら訳、「WHO癌治療結果報告規準」、金原出版、1981年11月30日、pp. 13-15
・甲第70号証 日本癌治療学会誌, 1986, Vol. 21, No. 5, pp. 931-942
・甲第71号証 古江尚著、「癌化学療法ハンドブック」、医薬ジャーナル社、1996年10月10日、p. 261
・甲第72号証 Seminara in Oncology, 1999, Vol 26,No. 2, Supplement 6, pp. 82-88
・甲第73号証 日本医薬情報センター編、「医療薬日本医薬品集2000 (第23版)」、薬業時報社、平成11年10月25日、pp. 758, 1974-1975
・甲第74号証 American Journal of Hematology, 1990, Vol. 34, pp. 90-98
・甲第75号証 Bishopら編, 「Clinical chemistry: principles, proceduxes, correlations 3rd ed」, Lippincott-Raven, 1996, pp. 618-627
・甲第76号証 Advances in Enzyme Regulation, 2005,Vol. 45, pp. 229-255
・甲第77号証 Cancer, 2002, Vol. 95, No. 4, Supplement, pp. 928-932
・甲第78号証 日本イーライリリー株式会社のホームページ
https://www.lilly.co.jp/lillyanswers/QandA/alimta/WFALM00072_10.aspx
・甲第79号証 「THE WALL STREET JOURNAL」, 2004, April 21
・甲第80号証 Annals of Oncology, 2003, Vol. 14, pp. 1643-1548
・甲第81号証 Cancer Chemotherapy and Pharmaacology, 2001, Vol. 47, Issue 6, pp. 525-531
・甲第82号証 Seminars in Oncology, 1999, Vol. 26, No, 2, Supplement 6, pp. 99-104
・甲第83号証 厚生労働省のホームページ
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1212/h1228-1_18.html
・甲第84号証 Seminars in Arthritis and Rheumatism, 1998, Vol, 27, No. 5, pp. 277-292
・甲第85号証 Cancer Chemotherapy and Pharmacology, 1986, Vol. 17, Issue 2, pp. 114-120
・甲第86号証 Trends in Pharmacological Sciences, 1990, Vol. 11, pp. 411-416
・甲第87号証 The New England Journal of Medicine, 1986, Vol. 314, p. 1514
・甲第88号証 European Journal of Cancer, 2001, Vol. 37, Supplement 6, pp. S20-S21 (Abstract 66)
・甲第89号証 Journal of Clinical Oncology, 2003, Vol. 21, No. 8, pp.1556-1561
・甲第90号証 日本イーライリリー株式会社のホームページ
https://www.lilly.co.jp/lillyanswers/QandA/alirmta/WFALM00063_4.aspx
〈以上、平成27年2月12日付け口頭審理陳述要領書に添付。〉

第4 参加人1及び2の主張

参加人1及び2は、被請求人による答弁書(請求人に対する反論)に対し、平成27年2月26日付け口頭審理陳述要領書、及び平成27年3月12日付け上申書により、本件特許に上記無効理由1(進歩性欠如)が存在する旨を、主として乙第6号証、甲第1号証及び乙第33号証の解釈を根拠として主張し、さらに証拠方法として丁第1?3号証を提出している。

[証拠方法]
・丁第1号証 ロウィンスキー博士の宣誓書
・丁第2号証 ロウィンスキー博士の履歴書
〈以上、平成27年2月26日付け口頭審理陳述要領書に添付。〉
・丁第3号証 乙第33号証の訳文
以上、平成27年3月12日付け上申書に添付

第5 被請求人の主張

被請求人は、答弁書、平成27年2月12日付け口頭審理陳述要領書、及び同年4月9日付け上申書A(参加人1及び2からの平成27年3月12日付け上申書に対する反論)及び上申書B(請求人からの平成27年2月12日付け口頭審理陳述要領書に対する再反論)により、本件特許には、上記無効理由1?3は存在しない旨を主張し、証拠方法として乙第1?44号証を提出している。

[証拠方法]
・乙第1号証 Farber, et al., 「Temporary Remissions in acute leiikemia in children produced by folic acid antagonist, 4-aminopteroyl-glutamic acid (aminopterin)」, The New England Journal of Medicine, 238(23): 787-793,(1948)
・乙第2号証 Chabner氏の宣誓供述書
・乙第3号証 Halford, etal.,「A Phase I and Pharmacokinetic Study of LY309887 Given Every 3 weeks with Folic Acid Supplementation (Meeting abstract)」, Abstract 652, American Society of Clinical Oncology, 18: 170a (1999)
・乙第4号証 Manegold氏の宣誓供述書
・乙第5号証 Niyikiza, et al. ,「MTA (LY231514): Relationship of vitamin metabolite profile, drug exposure, and other patient characteristics to toxicity」, Annals of Oncology, 9: 129, Abstract 609P (1998)(「Niyikiza I」)
・乙第6号証 Niyikiza, et al.,「LY231514 (MTA): Relationship of vitamin metabolite profile to toxicity」, Proceedings of the American Association for Cancer Research, Abstract 2139, 17: 558a (1998)(「Niyikiza II」)
・乙第7号証 THE WALL STREET JOURNAL, Wednesday, April 21, 2004 (「WSJ 文献T」)
・乙第8号証 Niyikiza博士の宣誓供述書
・乙第9号証 FDAの議事録(1998)
・乙第10号証 FDAの書簡
・乙第11号証 FDAの議事録
・乙第12号証 Niyikiza, et al., Homocysteine Methylmalonie Acid Markers to Predict and Avoid Toxicity from Pemetrexed Therapy, MOLECULAR CANCER THERAPEUTICS 1: 545-552 (「Niyikiza 2002」)
・乙第13号証 Renaidi, et al. 「A Phase I evaluation of LY231514, a novel multitargeted antifolate, administered every 21 days」, AMERICAN SOCIETY OF CLINICAL ONCOLOGY, 15: Abstract 1559 (「Rinaldi 文献」)
・乙第14号証 O'Dwyer 氏の宣誓供述書
・乙第15号証 PHYSICIANS' DESK REFERENCE, 53rd Ed. : 1397-1401(「PDR 1999」)
・乙第16号証 ABPI COMPENDIUM OF DATA SHEETS AND SUMMARIES OF PRODUCT CHARACTERISTICS, 1998-99: 1542-45 (「ABPI Compendium データシート」)
・乙第17号証 VIDAL LE DICTIONNAIRE, 21, 30 1985-1986 (「Vidal 1998」)
・乙第18号証 Hammond, et al., A phase I and pharmacokinetic (PK) study of the multitargeted antifol (MTA) LY231514 with folic acid, AMERICAN SOCIETY OF CLINICAL ONCOLOGY 17: 225a, Abstract 866 (「Hammond II」)
・乙第19号証 Calvert, Seminars in Oncology, 26, 3-10, 1999
・乙第20号証 Jackman 氏の宣誓供述書
・乙第21号証 O' Dwyer et al (1999) Seminars in Oncology, vol. 26, no. 2, Suppl 6, pp. 99-104
・乙第22号証 知的財産高等裁判所判決(知財高判) 平成21年1月28日付判決(平成20年(行ケ)第10096号)
・乙第23号証 Kroes et al (1986) Cancer Chemother Pharmacol, 17: 114-20
・乙第24号証 Eraens et al., (1988) Leukemia Research vol. 12, Nos. 11/12, p 905-910
・乙第25号証 アリムタ添付文書
・乙第26号証 知的財産高等裁判所判決(知財高判) 平成24年4月11日(平成23年(行ケ)第10146号)
・乙第27号証 Shih et al., (1997) Cancer Research, 57, 1116-1123
・乙第28号証 Hammond, et al., 「A phase I and pharmacokinetic (PK) study of The multitargeted antifolate (MTA, LY231514) with folic acid (FA)」, Annals of Oncology, 9: 129, Abstract 620P (1998) (「Hammond I」)
・乙第29号証 Budman, et al., 「Phase I and pharmacokinetic study of LY309887: a specific inhibitor of purine biosynthesis」, Cancer Chemother Pharmacol, (2001) 47: 525-531
・乙第30号証 東京高等裁判所判決(東京高判) 平成15年9月10日
(平成14年(行ケ)第342号)
・乙第31号証 Rinaldi, Overview of Phase I Trials of Multitargeted Antifolate (MTA, LY 231514) SEMTNARS IN ONCOLOGY, 26(Suppl 6):82-88,(1999)
〈以上、答弁書に添付。〉

・乙第32号証 「ANTIFOLATE DRUGS IN CANCER THERAPY」, Ann L,Jackman, Humana Press, 1999, 第199頁 (甲3に係る文献の第199頁)
〈以上、平成27年2月26日付け口頭審理陳述要領書に添付。〉

・乙第33号証 Poirier ら編,「Essential Nutrients in Carcinogenesis」, Plenum Press, 1986, pp. 293-311,313-330
・乙第34号証 ステッドマン医学大辞典 第4版(1997年) 859頁
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〈以上、平成27年4月9日付け上申書A(参加人1及び2からの平成27年3月12日付け上申書に対する反論)に乙第33、35、39、41?44号証を添付、平成27年4月9日付け上申書B(請求人からの平成27年2月12日付け口頭審理陳述要領書に対する再反論)に乙第33?44号証を添付〉

第6 当審の判断

1.無効理由1(進歩性欠如)について

(1)甲第1号証に記載されている事項

甲第1号証(以下、「甲1」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、原文は英語のため、日本語訳により記載する。

(1a)「葉酸とマルチターゲット葉酸代謝拮抗薬(MTA)LY231514の第I相及び薬物動態(PK)試験」(タイトル、225a頁右上欄1?2行)

(1b)「MTA(LY231514)は、チミジル酸シンターゼ、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、及びグリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼを含む複数の葉酸依存性酵素を阻害する、新しい葉酸代謝拮抗薬である。初期第I相試験は、MTAが10分静脈内注射として投与された際、大きな抗腫瘍応答を示したが、骨髄抑制が500-600mg/m^(2)を超える用量漸増を妨げた。」(225a頁右上欄7?12行)

(1c)「前臨床試験が、葉酸補充がMTAの治療指数を増大させることを示したため、葉酸補充がMTAの毒性作用を軽減して、MTA単独の推奨第II相試験用量を超える有意な用量漸増を可能とするか否かを決定するため、最低限の及び多種類の前治療歴を有する患者において、MTAの2日前から始めて5日間、1日5mgの葉酸投与の実現可能性が評価された。」(225a頁右上欄12?18行)

(1d)「これまでのところ、21名の固形癌患者が以下の用量レベルで55コースを受けた:600、700及び800mg/m^(2)。薬物関連毒性には好中球減少、貧血及び血小板減少が含まれ、多種類の前治療歴を有する患者でより重篤だった。他の毒性(グレード1-2)には、発疹、傾眠、疲労、下肢浮腫及びクレアチニンクレアランスの減少として顕在化する腎機能の低下が含まれる。非ステロイド性抗炎症剤を服用していた1人の患者が、800mg/m^(2)の用量で重篤な毒性を経験したが、ルコボリン及びチミジンの投与後に解消した。1人の転移性大腸癌患者に部分奏効がみられた。」(225a頁右上欄18?27行)

(1e)「600及び800mg/m^(2)でのサイクル1及び3の間に、薬物動態及びビタミン(葉酸)代謝産物のプロフィールが得られた。現在まで、血清中葉酸レベルは毒性と関係があるようにはみえないが、800mg/m^(2)の用量で重篤な毒性のあった患者において、ホモシステイン値が有意に高くなった。これまでのところ、多種類の及び最低限の前治療歴を有する患者は、600及び800mg/m^(2)のMTAを許容し、それぞれ700及び900mg/m^(2)に増量して継続している。これらの結果は、葉酸補充がMTAの用量漸増を可能にするようであることを示している。(225a頁右上欄27?34行)

甲1には、技術背景として、初期第I相試験でMTA(LY231514)の単独投与により大きな抗腫瘍応答が得られたが、骨髄抑制のために500-600mg/m^(2)を超える用量漸増が妨げられたこと(摘記(1b))、前臨床試験で葉酸補充がMTAの治療指数を増大させることが示されたこと(摘記(1c))が記載されているので、甲1の臨床試験は、上記の技術背景を踏まえた上で、MTA(LY231514)の2日前から始めて5日間、1日5mgの葉酸投与によって、MTA単独の推奨第II相試験用量を超える有意な用量漸増を可能とするか否かを決定するために行われたものである(摘記(1c))。そして、甲1の上記臨床試験により、最低限の及び多種類の前治療歴を有する21名の固形癌患者を対象とする臨床試験において、重篤な副作用がみられた患者がいたが、1人の転移性大腸癌患者に部分奏効がみられたこと(摘記(1d))、薬物動態及びビタミン(葉酸)代謝産物のプロフィールの結果、さらに、多種類の及び最低限の前治療歴を有する患者は、600及び800mg/m^(2)のMTAを許容し、それぞれ700及び900mg/m^(2)に増量して継続しているという結果が得られ(摘記(1e))、これらの結果から、MTA(LY231514)の2日前から始めて5日間、1日5mgの葉酸投与を行うという葉酸補充が、MTA(LY231514)の用量漸増を可能にしたという結論が得られたことが記載されている(摘記(1e))。
そうすると、甲1に接した当業者であれば、MTA(LY231514)単独投与では500-600mg/m^(2)を超える用量漸増が妨げられていたが、MTA(LY231514)の2日前から始めて5日間、1日5mgの葉酸投与によって、用量漸増を妨げていた毒性作用が軽減された結果、多種類の及び最低限の前治療歴を有する患者が600及び800mg/m^(2)のMTA(LY231514)を許容し、それぞれ700及び900mg/m^(2)に増量して継続できるようになったこと、すなわち、MTA(LY231514)の用量漸増が可能になったことを理解できるといえる。
よって、甲1には、以下の発明が記載されている。
「MTA(LY231514)の毒性作用を軽減して用量漸増を可能とする、MTAと葉酸を組み合わせて投与する方法であって、1日5mgの葉酸をMTA投与の2日前から5日間投与する方法」(以下、「引用発明」という。)

(2)本件発明1と引用発明との対比

本件発明1は、本件特許第5102928号明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載されたとおりの、「葉酸とビタミンB_(12)との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤であって、ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量を、葉酸の約0.1mg?約30mgおよびビタミンB_(12)の約500μg?約1500μgと組み合わせて投与し、該ビタミンB_(12)をペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返すことを特徴とする、該剤。」である。

そこで、本件発明1と引用発明とを対比する。
引用発明の「MTA(LY231514)」は、本件発明1の「ペメトレキセート二ナトリウム塩」である(甲4の1808頁左欄下から13行目?下から11行目)。また、引用発明で「1日5mgの葉酸をMTA投与の2日前から5日間投与する」こと(以下、「葉酸補充」という。)は、本件発明1でペメトレキセート二ナトリウム塩(以下、「MTA」と略す。)の有効量と葉酸を組み合わせて投与することに相当する。
ここで、本願明細書の発明の詳細な説明に「該マウスをビタミンB12を用いて前処置し、次いで葉酸代謝拮抗薬を投与する前に葉酸を投与することにより、毒性の著しい低下が見られ、・・・従って、ビタミンB12を葉酸代謝拮抗薬と組み合わせた使用は薬物の毒性を低下させ、抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼさない。」(段落【0047】)と記載されていることを参酌すると、本件発明1で「ペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことは、MTAの毒性を低下させ、抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼさないことを意味するものと解される。
そして、引用発明で、葉酸補充がMTAの抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼすと認識されたならば、MTAの用量漸増が可能である(摘記(1e)という結論に至ったとは考え難いのであるから、引用発明で「MTA(LY231514)の毒性作用を軽減して用量漸増を可能とする」ことは、本件発明1の「毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持する」ことに相当する。

そうすると、本件発明1と引用発明とは、
「葉酸との組み合わせを含有するペメトレキセート二ナトリウム塩の投与に関連する毒性を低下しおよび抗腫瘍活性を維持するための剤または剤の投与方法であって、ペメトレキセート二ナトリウム塩の有効量と葉酸とを組み合わせて投与する剤または剤の投与方法。」の発明である点で一致し、以下の点で相違している。」

【相違点1】
本件発明1では、葉酸の他に、さらにビタミンB_(12)も組み合わせて用いているのに対し、引用発明ではビタミンB_(12)が用いられていない点。
【相違点2】
本件発明1では、組み合わせて用いるビタミンB_(12)の用量を「約500μg?約1500μg」と特定しているのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。
【相違点3】
本件発明1では、組み合わせて用いるビタミンB_(12)の投与時期を「ペメトレキセート二ナトリウム塩の第1の投与の約1?約3週間前に投与し、そして該ビタミンB_(12)の投与をペメトレキセート二ナトリウム塩の投与の間に約6週間毎?約12週間毎に繰り返す」と特定しているのに対し、引用発明ではこのような特定がない点。
【相違点4】
本件発明1は「剤」であり「物」の発明であるのに対し、引用発明は「剤の投与方法」であり「方法」の発明である点。

(3)【相違点1】について、請求人が主張する論理づけ

請求人は、上記【相違点1】について、以下のような論理づけ1及び2を主張している(特に、平成27年2月12日付け口頭陳述要領書208?209頁)。

[請求人が主張する論理づけ1]
本願優先日前には、以下に示す(a)?(e)のような周知技術ないし技術常識がある。
(a)葉酸代謝拮抗薬による副作用(毒性)の程度は患者の葉酸状態に依存すること(甲2、甲3、甲9、甲10、甲12、甲18、甲19)、及び患者の葉酸状態を改善することにより葉酸代謝拮抗薬の副作用(毒性)を軽減するために患者に対して葉酸補充を行うことは周知技術である(甲2、甲3、甲9?14)。
(b)ペメトレキセドを含む葉酸代謝拮抗薬と葉酸の併用(前記葉酸補充)においては、葉酸代謝拮抗薬の毒性が低下し、かつ抗腫瘍活性が維持(あるいは増強)されることは周知である(甲2、甲3、甲9?14、甲23等)。
(c)ホモシステインレベルは患者の葉酸状態の指標となる敏感かつ信頼できるマーカーであること(甲3、甲7、甲16、甲17、甲19、甲20)、及びホモシステインレベルと葉酸代謝拮抗薬による副作用(毒性)との関係は周知であり(甲2、甲4、甲15?20)、ホモシステインレベルが高い(=葉酸状態が悪い)患者ほど、葉酸代謝拮抗薬による重篤な副作用(毒性)を経験するリスクが高いといえる。
(d)葉酸代謝系にはビタミンB_(12)(コバラミン)依存性の酵素が介在しているために、葉酸状態(ホモシステインレベル)は葉酸だけでなくビタミンB_(12)の影響も受けること(甲3、甲6、甲7、甲21)、実際、葉酸欠乏だけでなくビタミンB_(12)欠乏においてもホモシステインレベルが高くなることが広く知られているように(甲2、甲16、甲17)、ビタミンB_(12)の不足が葉酸の機能的欠乏とホモシステインレベルの上昇を引き起こすことが周知であるから、当然、葉酸だけでなくビタミンB_(12)の投与によってもホモシステインレベルが低下する(=葉酸状態が改善する)こともまた周知である(甲22、甲23)。
(e)さらに、ビタミンB_(12)の投与によるホモシステインレベルの具体的な低下幅についても、多くの定量的な試験が行われている(甲24?30)。

上記(a)及び(b)からみて、主引用例(甲1)に記載された引用発明では、MTA(LY231514、ペメトレキセド)の抗腫瘍活性は維持されているものと認められる。
そして、上記(a)?(c)に加えて、甲1では、MTA(LY231514、ペメトレキセド)の毒性軽減を目的としており、さらに高いホモシステインレベルと毒性(副作用)の重篤性との関係に言及されていること(甲1の摘記(1e)、甲1の225a頁右上欄下から7行目?下から4行目)も併せて考えると、引用発明において、葉酸の補充に加えて、さらに、ホモシステインレベルを低下させる(即ち、葉酸の機能的状態を改善する)効果を有するビタミンB_(12)(上記(d)及び(e)を参照。))の投与により、追加的にMTA(LY231514、ペメトレキセド)の副作用(毒性)を軽減しようとすることは、当業者が容易に想到できることである。

[請求人が主張する論理づけ2]
本願優先日前には、上記[請求人が主張する論理づけ1]で指摘した(a)?(e)に加えて、さらに以下に示す(f)及び(g)のような周知技術ないし技術常識がある。
(f)ペメトレキセドの適用となる高齢の癌患者にビタミンB_(12)欠乏の頻度が高く(高齢者については甲7、甲26、甲27、癌患者については甲33、甲34)、特に甲35には癌患者におけるビタミンB_(12)欠乏及びこれに伴う高いホモシステインレベルの存在が明記されている。
(g)高用量の葉酸補充の際にはビタミンB_(12)も併用するのが安全であることは広く知られている(甲7、甲10、甲23、甲24?甲29、甲31)。

上記(f)を勘案すれば、引用発明では、潜在的なビタミンB_(12)欠乏状態の患者が存在する、あるいは治療途中にビタミンB_(12)欠乏状態になる患者が発生する場合のリスクを避けることが患者の安全上好ましいということを、当業者は容易に認識することができるのであるから、1日当たり5mgという高用量の葉酸がペメトレキセドと併用されている引用発明において、ビタミンB_(12)欠乏患者に対する葉酸補充のリスクを避けるために、引用発明におけるペメトレキセドと葉酸の併用に加えて、高用量の葉酸補充の際に併用するのが安全であることが広く知られているビタミンB_(12)(上記(g)を参照。)も併せて投与することは、当業者が容易に想到できることである。

(4)請求人が主張する論理づけ1及び2に対する、被請求人の反論

被請求人は、答弁書において、以下の(i)?(iv)の点を根拠として、上記[請求人が主張する論理づけ1]及び[請求人が主張する論理づけ2]が成立しない旨を反論している。

(4-i)本件出願の優先日当時の当業者は、葉酸との併用投与は、MTAの抗腫瘍活性を妨害すると認識していたこと

1948年に葉酸投与により腫瘍の成長が促進したという知見(乙1)に基づいて、各種の葉酸代謝拮抗薬が開発され、本件出願の優先日時点で臨床試験が実施されていた試験的な葉酸代謝拮抗薬(少なくとも7種)のうち、事実上、葉酸を併用して癌患者に投与されて成功した例はなかった(乙2、乙3、乙29)。
本件出願の優先日当時にFDAに承認された葉酸代謝拮抗薬であるメトトレキセート(乙15)及びヨーロッパで承認された葉酸代謝拮抗薬であるラルチトレキシド(乙16)のいずれにおいても、葉酸との併用投与を避けるように警告されており、当業者は、MTAの抗腫瘍活性を葉酸が妨害することを懸念していたと考えられる。

(4-ii)引用発明(甲1)は、MTAと葉酸の併用投与が失敗した例であること

「Hammond文献」と称される、MTAと葉酸を併用した第一相臨床試験(引用発明が記載されている甲1、乙18及び乙28)の結果と、「Rinaldi文献」と称される、MTA単独投与の第一相臨床試験(乙13)の結果とを比較すると、後者(MTA単独)の方が前者(葉酸併用)よりも、少ないMTA投与量ではるかに優れた応答率を示している。
このように、「Hammond文献」は葉酸併用投与が失敗した例であるから、更なる投与レジメンの開発において、「Hammond文献」すなわち甲1に記載された引用発明を出発点とすることはない。

(4-iii)本件出願の優先日当時、葉酸代謝拮抗薬とビタミンB_(12)の併用投与例がなく、また、MTAによる毒性と患者のビタミンB_(12)濃度との相関関係はないことが示唆されていたこと

優先日当時、ビタミンB_(12)の投与により、患者生体内で利用可能な葉酸濃度が増大し、葉酸代謝拮抗薬の作用と競合することが予測されたので、当業者は、ビタミンB_(12)の併用は、MTAの有効性を損なうものであると予測していた(乙4)。
また、1998年には、MTA投与による毒性の発生率と、患者のビタミンB_(12)欠乏の指標となるメチルマロン酸濃度との間に相関性がないことが公表され(乙6)、MTA毒性と患者のビタミンB_(12)濃度との間に相関性はないことが示唆されていた。
乙6では、MTA毒性との相関性を評価するための因子の候補として、治療開始時(baseline)及びMTA毎投与サイクル後(each cycle thereafter)におけるホモシステイン、シスタチオニン及びメチルマロン酸、並び選定された予測因子(クレアチニン・クリアランス、アルブミンレベル、肝臓酵素レベル及びビタミン代謝物)が選定されている。
具体的には、相関性調査の対象となったのは、以下の候補因子1?10である。
候補因子1.治療開始時のホモシステインレベル
候補因子2.MTA投与後のホモシステインレベル
候補因子3.治療開始時のシスタチオニンレベル
候補因子4.MTA投与後のシスタチオニンレベル
候補因子5.治療開始時のメチルマロン酸レベル
候補因子6.MTA投与後のメチルマロン酸レベル
候補因子7.クレアチニン・クリアランス
候補因子8.アルブミンレベル
候補因子9.肝臓酵素レベル
候補因子10.ビタミン代謝物
乙6には、上記候補因子のうち、MTA毒性と強い相関性を示したのは「治療開始時のホモシステインレベル」だけであり、候補因子2?10についてはMTA毒性との相関性が見出されなかったことが記載されている(答弁書36?37頁)。

(4-iv)本願優先日当時、ビタミンB_(12)をMTAに添加することに対する阻害要因があること(答弁書、平成27年4月9日付け上申書A及び上申書B)

1991年の文献である甲35には、Herbert はビタミンB_(12)補充に応答して腫瘍が増殖することを実証した、と記載されている。1998年発行の乙17には、ビタミンB_(12)では進行性の(腫瘍)増殖のリスクを考慮しなければならないと警告されている。また、FDAとリリー社の面談の2000年の議事録には、FDAの専門家が葉酸やビタミンB_(12)は腫瘍を増殖するリスクがあると認識していた証左がある。さらに、甲62(乙33)の著者は、ビタミンB_(12)が腫瘍増殖を促進すると結論づけている。
このように、本願優先日当時、ビタミンB_(12)が腫瘍増殖を刺激すると認識されていたのであるから、MTAの使用において、ビタミンB_(12)を補充することに対する阻害要因が存在することは明確である。

以上(4-i)?(4-iv)のように、当業者が、葉酸代謝拮抗薬とビタミンB_(12)とを併用投与するに至る根拠はない。

(5)被請求人による上記(4-iii)及び(4-iv)の主張に対する、請求人による反論(平成27年2月12日付け口頭陳述要領書の97?107頁、158?160頁)

乙6には、MMA濃度(メチルマロン酸レベル)とMTA毒性との間に相関性がない旨の記載は見当たらない。乙6には「毒性(上記で定義したCTCグレード)とその他の事前に指定された予測因子との間に相関性はなかった。」との記載があるのみであって、「その他の事前に指定された予測因子」が何であるかについての具体的な記載は見当たらない。
乙6と同じ著者らの論文である乙12(甲55)には、治療前のメチルマロン酸レベルがMTAの重篤な副作用(毒性)と相関を有していることを記載しているので(甲55の545頁Abstract)、同じ著者らによる分析である乙6において、メチルマロン酸レベルとMTA毒性との間に相関がないという結論が示されているというのは不自然である。
仮に、乙6にメチルマロン酸レベルとMTA毒性との間に相関がないことが教示されているとしても、それはビタミンB_(12)を補充することの阻害事由にはならない。
葉酸代謝拮抗薬による副作用(毒性)は、患者の葉酸状態、すなわち細胞内における葉酸の機能的状態に影響され、上記患者の葉酸状態についてはホモシステインレベルが敏感なマーカーとなるため、ホモシステインレベルは副作用(毒性)と相関することとなる。そして、ホモシステインレベルは複数の要因によって左右されているので、ホモシステインレベルを介して間接的な因果関係があるからといって、ホモシステインレベルに影響を与える個々のビタミンの濃度についてまで相関関係が見出されるとは限らない。
そして、ビタミンB_(12)欠乏状態での高用量の葉酸補充には、神経症が進行・悪化するリスクがあること、そのため、高用量の葉酸補充の際にはビタミンB_(12)も併用することが安全であることは広く知られており(審判請求書99頁)、ビタミンB_(12)欠乏は高齢者一般のみならず(甲7、甲26、甲27、乙20Annex3(甲75))、MTA療法の対象となる患者も含めて癌患者に広くみられるのであるから(甲33、甲34,甲35、甲76,甲77、乙12(甲55))、引用発明にさらにビタミンB_(12)を補充する論理づけは存在する。

(6)被請求人による上記(4-iii)及び(4-iv)の主張の主張に対する、参加人1及び2による反論(平成27年2月26日付け口頭審理陳述要領書、平成27年3月12日付け上申書)

被請求人は、乙6にはビタミンB_(12)欠乏のマーカーであるメチルマロン酸レベルとMTAの細胞毒性との間には何ら相関性がないという結果が記載されている、と主張している(答弁書39頁6?8行)。
しかし、乙6には、MTAの細胞毒性と強い相関性を示したのは「1.治療開始時のホモシステイン濃度だけであった」ことは記載されているが、メチルマロン酸レベルとMTAの細胞毒性との間には何ら相関性がないことを直接言及する記載はないのであるから、乙6には、当業者が、治療開始時のメチルマロン酸、及びMTA投与後のメチルマロン酸レベルとの間に相関性があるか否かを判断する根拠は記載されていないと解すべきである。
仮に、乙6にメチルマロン酸レベルとMTA毒性との間に相関性がないことが記載されているとしても、甲1にはホモシステインレベルが高い場合にMTA毒性が上がることが記載されており、ビタミンB_(12)投与によりホモシステインレベルが下がることは周知であり(甲22等)、葉酸投与時にビタミンB_(12)を併用することは常套手段であること(甲24等)からみて、ビタミンB_(12)投与がMTA毒性に何らかの不利益を及ぼすことはなく、上記周知技術または常套手段にしたがって、甲1に記載の引用発明(MTAと葉酸の併用投与)に、ビタミンB_(12)併用を追加することは、当業者が自然に行うことであったといえる。
また、被請求人は、乙33にはビタミンB_(12)欠乏時に腫瘍増殖が遅延することが記載されていると指摘しているが、乙33(訳文として丁3を添付)には、血清葉酸レベル及びビタミンB_(12)レベルと小細胞肺がんの進展との間に相関が見いだされなかったこと、ビタミンB_(12)欠乏により造血器腫瘍が進行するリスクが高くなること等が記載されているように、ビタミンB_(12)が腫瘍を増殖させるのか否かについて決定的な結論は出ていなかったというべきである。

(7)【相違点1】について

(7-i)上記「3.」の[請求人が主張する論理づけ1]について

当審合議体は、上記[請求人が主張する論理づけ1]で請求人が主張する(a)?(e)の点は、いずれも各甲号証の記載に裏付けられた周知技術ないし技術常識であると認める(下記(7-i-1)及び(7-i-2))。
しかし、当審合議体は、上記[請求人が主張する論理づけ1]における「引用発明において、葉酸の補充に加えて、さらに、ホモシステインレベルを低下させる(即ち、葉酸の機能的状態を改善する)効果を有するビタミンB_(12)の投与により、追加的にMTA(LY231514、ペメトレキセド)の副作用(毒性)を軽減しようとすることは、当業者が容易に想到できることである」という請求人の主張は、認められないと判断する(下記(7-i-3)?(7-i-6))。

(7-i-1)MTA毒性と、患者の高いホモシステインレベルとは関連があること

被請求人は、甲1に記載の第一相臨床試験はMTAと葉酸を併用した失敗例である旨を主張しているが(上記(4-i)及び(4-ii))、甲1に「葉酸補充がMTAの用量漸増を可能にするようである」という結論が記載されており(摘記(1e))、上記第一相臨床試験が失敗例であるという見解はなされていない。そして、請求人が上記(3)の(b)で主張するように、MTAと葉酸との併用により抗腫瘍活性が維持(あるいは増強)されることは本願優先日当時の周知技術ないし技術常識であり、甲1に記載の上記結論はこれらの周知技術ないし技術常識と矛盾していないのであるから、甲1に記載の第一相臨床試験が失敗例であるとは言い難い。
また、請求人が上記(3)の(c)で主張するように、本願優先日当時、治療前の血漿中ホモシステインの測定は、MTAの毒性を予測する感度の良い方法であることが証明されていること(甲2の9頁左欄1?3行)、患者のベースラインのホモシステインレベルと、骨髄抑制、粘膜炎及び下痢の発生との間に強い相関があったこと(甲4の1812頁左欄下から15行?下から8行)、MTA治療から生じる毒性は治療開始前のホモシステインレベルから予測できること(甲18の127頁左欄12?17行)は、本願優先日当時の周知技術ないし技術常識であることを勘案すると、甲1の「800mg/m^(2)の用量で重篤な毒性のあった患者において、ホモシステイン値が有意に高くなった。」という記載(摘記(1e))からみて、甲1には、MTA毒性と患者の高いホモシステインレベルとは関連があることが記載されている。

(7-i-2)ホモシステインレベルは葉酸状態のマーカーであること

請求人が上記(3)の(c)で主張するように、ホモシステインレベルが葉酸状態のマーカーであることは、葉酸代謝拮抗薬の治療を受けている患者に限らず一般的に知られており、例えば甲7には、血漿葉酸濃度がある一定値よりも高い場合には血漿ホモシステイン濃度は変化せず、低い場合にはホモシステイン濃度が上昇することが記載されている(甲7の212頁左欄1?20行)。
そして、患者の葉酸状態はMTA毒性の敏感な予測因子であること、葉酸状態の最も敏感な指標が血清中ホモシステインであり、血清中ホモシステインレベルが10μMの閾値濃度より高い患者には、重篤な骨髄抑制、粘膜炎又は下痢を起こす有意なリスクがあること(甲19の270頁左欄下から12行?下から2行)、葉酸欠乏の非常に敏感な指標であるホモシステインレベルが高い患者ではMTAの毒性が増加することを示唆するいくつかの予備的研究があること(甲20の1179頁の左欄7?9行)が知られていたように、ホモシステインレベルが高い患者は葉酸状態が悪く、MTA毒性が増加するリスクが高いことは、本願優先日当時の当業者に認識されていたといえる。

(7-i-3)MTA投与が患者のホモシステインレベルを高くする主な原因について

甲7の205頁の図2に記載のように、ホモシステインはコバラミン依存性メチオニン・シンターゼ(酵素番号7)によりメチル化されてメチオニンに変換されるが、当該メチル化には「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」が基質(メチル基の供与体)として利用される。そして、上記「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」は、細胞内に取り込まれた葉酸が、葉酸→ジヒドロ葉酸(DHFA)→テトラヒドロ葉酸(THFA)→ポリグルタミル化(THFAGlu_(n))→5,10-メチレン化(5,10-CH_(2)-THFAGlu_(n))と順次変換され、さらに5-メチル化されて産生される基質である。
ここで、MTAは、ジヒドロ葉酸レダクターゼ、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ及びチミジル酸シンターゼという3種の葉酸代謝酵素の強力な阻害剤であり(甲13の478頁左欄下から21行?下から17行)、上記3種の葉酸代謝酵素のうち、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(甲7の205頁の図2の酵素番号2)はジヒドロ葉酸(DHFA)からテトラヒドロ葉酸(THFA)への反応に作用する酵素であるので、MTA投与によりジヒドロ葉酸レダクターゼが阻害されてテトラヒドロ葉酸(THFA)の産生が阻害された結果、「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」の産生が阻害される。また、ジヒドロ葉酸レダクターゼだけでなく、グリシンアミドリボヌクレオチドホルミルトランスフェラーゼ及びチミジル酸シンターゼ(それぞれ甲7の205頁の図2の酵素番号16及び14に該当する。)も「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」の産生に関与する酵素である。
そうすると、当業者は、MTA投与により上記3種の葉酸代謝酵素が阻害されて、ホモシステインのメチル化に必要な基質(メチル基の供与体)である「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」の産生が阻害された結果、ホモシステインからメチオニンへの変換が滞ることが、MTA投与患者のホモシステインレベルが高くなることの主な原因であると理解するといえる。

(7-i-4)ホモシステインレベルが高い患者に対してMTA毒性のリスクを回避する方法

上記(7-i-1)及び(7-i-2)で指摘したように、甲1には、MTA毒性と患者の高いホモシステインレベルとは関連があることが記載されており、また、ホモシステインレベルが高い患者は葉酸状態が悪く、MTA毒性が増加するリスクが高いことは本願優先日当時の当業者に認識されていたのであるから、引用発明(甲1)に接した当業者は、ホモシステインが高い患者に対してMTA毒性のリスクを回避するという課題の存在を認識できる。
ここで、上記(7-i-3)で指摘したように、MTA投与患者のホモシステインレベルが高くなる主な原因は、MTAによる葉酸代謝酵素の阻害作用によって「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」の産生が阻害されて、ホモシステインからメチオニンへのメチル化反応が滞ることであることを勘案すると、当業者は、MTAによる葉酸代謝酵素の阻害作用を弱めれば「5-メチルテトラヒドロ葉酸(5-CH_(3)-THFA)」の産生が増加し、ホモシステインからメチオニンへのメチル化反応が促進されて、ホモシステインレベルが下がり、MTA毒性のリスクを回避できることを自然に想起するといえる。
そうすると、当業者は、MTA毒性のリスクを回避するために、例えばMTAの投与量を減少させる、あるいは葉酸代謝酵素の基質である葉酸の補充量を増加させる等、MTAによる葉酸代謝酵素の阻害作用を直接的に弱める手段を優先して試みると思われる。
請求人が主張するように、ホモシステインからメチオニンへのメチル化反応を促進するコバラミン依存性メチオニン・シンターゼはビタミンB_(12)依存性の酵素であること(甲7の205頁の図2の酵素番号7)、及び、ビタミンB_(12)が欠乏するとホモシステインレベルが高くなり、ビタミンB_(12)の補充によりホモシステインレベルが下がること(甲22、23)は、いずれも本願優先日当時の周知技術ないし技術常識であるので、ビタミンB_(12)補充によりコバラミン依存性メチオニン・シンターゼが活性化されて、ホモシステインからメチオニンのメチル化反応が促進された結果、患者のホモシステインレベルが下がる可能性があることは否定できない。
しかし、上記コバラミン依存性メチオニン・シンターゼは、MTAが阻害する葉酸代謝酵素ではなく、ビタミンB_(12)はMTAによる葉酸代謝酵素阻害作用に直接拮抗する化合物ではないのであるから、ビタミンB_(12)補充によりホモシステインレベルが下がったとしても、MTAによる葉酸代謝酵素阻害作用が本質的に弱まるとは考え難い。
このように、ビタミンB_(12)補充によって患者のホモシステインレベルが下がる可能性があることを考慮しても、ビタミンB_(12)補充は、患者のMTA毒性のリスクを本質的に回避し得る手段であると、直ちに結論づけられるとは言い難いのであるから、引用発明において、ビタミンB_(12)のさらなる併用が患者のMTA毒性のリスクを回避する手段になり得ると、当業者が容易に想到し得たとは言い難い。

(7-i-5)ビタミンB_(12)を併用することに対する阻害要因等の有無について

被請求人は上記(4-iii)及び(4-iv)、請求人は上記(5)、参加人1及び参加人2は上記(6)で、ビタミンB_(12)を併用することに対する阻害要因の有無、及びビタミンB_(12)欠乏のマーカーであるメチルマロン酸レベルとMTA毒性との関連性の有無、ビタミンB_(12)補充による腫瘍への影響の有無について、それぞれ相反する主張をしている。
しかし、いずれの甲号証及び乙号証を参酌しても、ビタミンB_(12)補充による腫瘍への影響等について、本願優先日当時には諸説があり、何が技術常識であるかを確定することは困難であると言わざるをえない。
そして、上記阻害要因等の有無は、引用発明において、ビタミンB_(12)のさらなる併用が患者のMTA毒性のリスクを回避する手段になり得ると、当業者が容易に想到し得たとは言い難いという、当審合議体による判断(上記(7-i-3)及び(7-i-4))に影響するものではない。

(7-i-6)

以上(7-i-1)?(7-i-5)で検討したように、引用発明において、さらにビタミンB_(12)を組み合わせて投与してMTA毒性を軽減することが容易想到であると主張する[請求人が主張する論理づけ1]は認められない。

(7-ii)[請求人が主張する論理づけ2]について

当審合議体は、本願優先日当時、癌患者におけるビタミンB_(12)欠乏及びこれに伴う高いホモシステインレベルの存在が知られていたこと、また、高用量の葉酸補充の際にビタミンB_(12)も併用することが安全であることが示された例があること(請求人による上記(3)の(f)及び(g)の主張)が、いずれも周知技術ないし技術常識であったことは認める。
しかし、上記(7-i-5)で指摘したように、本願優先日当時、ビタミンB_(12)補充による腫瘍への影響の有無については諸説があり、MTAのような葉酸代謝拮抗薬を投与した癌患者の場合であっても、高用量の葉酸補充の際にビタミンB_(12)を併用することが安全であるのか否かは不明である。
また、いずれの甲号証及び乙号証を参酌しても、本願優先日当時、MTAのような葉酸代謝拮抗薬を投与した患者に対して、葉酸だけでなくビタミンB_(12)も併用投与することが常套手段であったと判断し得る根拠は見当たらない。
そうすると、引用発明において、高用量の葉酸補充の際に併用することが広く知られていたビタミンB_(12)をさらに組み合わせて投与することは容易想到であるという[請求人が主張する論理づけ2]は認められない。

(8)【相違点2】?【相違点4】について

上記【相違点2】及び【相違点3】は、それぞれビタミンB_(12)の用量及び投与時期に関するものであるが、上記(7)で検討したように、引用発明において、さらにビタミンB_(12)を組み合わせて投与することが容易想到であるとはいえないのであるから、上記【相違点2】及び【相違点3】が容易想到であるとはいえないことは、自明である。
また、上記【相違点4】の点、すなわち、本件発明1は「剤」であり「物」の発明であるのに対し、引用発明は「剤の投与方法」であり「方法」の発明である点は、単なるカテゴリー表現上の差異にすぎず、実質的な相違点ではない。

(9)本件特許発明1の進歩性について

上記(7)及び(8)で検討したように、本件特許発明1と引用発明との【相違点1】?【相違点4】が容易想到であるとする論理づけは認められず、また、いずれの甲号証を参酌しても、当業者が本件特許発明1の構成を得ることを容易に想到したとはいえない。
そして、本件特許発明1の構成により、本願明細書の段落【0047】?【0059】に記載のような、抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼさず、薬物毒性を顕著に低下させたという、顕著な効果が得られたといえる。

(10)本件特許発明2?7の進歩性について

本件特許発明1と同様に、本件特許発明2?7においても、引用発明1にさらにビタミンB_(12)を組み合わせて投与することが容易想到であるとする論理づけは認められず、また、いずれの甲号証を参酌しても、当業者が本件発明2?7の構成を得ることを容易に想到したとはいえない。
そして、本件特許発明2?7の構成により、本願明細書の段落【0047】?【0059】に記載のような、抗腫瘍活性に有害な影響を及ぼさず、薬物毒性を顕著に低下させたという、顕著な効果が得られたといえる。

(11)まとめ

以上(1)?(10)で検討したように、請求人の主張する無効理由1には理由がない。

2.無効理由2(実施可能要件違反)について

請求人は、本件特許発明1?7は、それらの特許請求の範囲に記載されている「葉酸の約0.1mg?約30mg」に係る投与方法及び投与時期について、発明の詳細な説明において当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない旨を主張する。
本件特許発明1?7はいずれも「剤」すなわち「物」の発明であり、物の発明について実施をすることができるとは、当業者が、その物を作れ、かつ、その物を使用できることである。
そこで、発明の詳細な説明は、当業者が、本件特許発明1?7の「剤」を作れるように、かつ、本件特許発明1?7の「剤」を使用できるように記載されているか否かについて、以下に検討する。
本件特許発明1?7の「剤」を構成する「ペメトレキセート二ナトリウム塩」、「葉酸」、「ビタミンB_(12)」はいずれも公知の化合物であるので、発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1?7の「剤」を作れるように記載されている。
また、本願明細書の段落【0023】に「哺乳動物はメチルマロン酸低下薬を用いて予め処理し、次いで葉酸代謝拮抗薬を用いて処理することが好ましい。葉酸をメチルマロン酸低下薬に加えて投与する場合には、該葉酸を、メチルマロン酸低下薬または葉酸代謝拮抗薬のいずれかの投与前、投与後、または同時でのいずれの時に投与することができる。哺乳動物はメチルマロン酸低下薬を用いて予め処理し、次いで葉酸を用いて処理し、続いて該葉酸代謝拮抗性化合物を用いて処理することが好ましい。」と記載され、段落【0034】に「葉酸の約0.1mg?約30mg(約0.3mg?約5mgが最も好ましい)を、メチルマロン酸低下薬の投与の約1?約3週間後で且つある量の葉酸代謝拮抗薬の非経口投与の約1?約24時間前に、哺乳動物に経口投与する。」と記載され、段落【0047】に「該マウスをビタミンB12を用いて前処置し、次いで葉酸代謝拮抗薬を投与する前に葉酸を投与することにより、毒性の著しい低下が見られ、葉酸代謝拮抗薬の毒性をほとんど完全に除く。」と記載されており、段落【0047】に記載の「ビタミンB12」は、段落【0034】に記載の「メチルマロン酸低下薬」に該当するので(段落【0026】及び【0027】)、これらの記載から、当業者は、本件特許発明1?7における葉酸の具体的な投与方法及び投与時期を理解できる。
さらに、本願明細書の段落【0048】?【0059】に、臨床的評価における葉酸、ビタミンB_(12)及びMTA(商品名 ALIMTA、「ペメトレキセート二ナトリウム塩」)の具体的な投与方法及び服用方法が臨床試験結果と共に記載されており、これらの記載(特に【0048】及び【0053】)からも、当業者は、本件特許発明1?7における葉酸の投与方法及び投与時期を理解できる。
以上のように、発明の詳細な説明に接した当業者は、当業者が本件特許発明1?7の「剤」を作ることができ、本件特許発明1?7における葉酸の投与方法及び投与時期を理解して、本件特許発明1?7の「剤」を使用できるのであるから、発明の詳細な説明は、本件特許発明1?7について、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、請求人の主張する無効理由2には理由がない。

3.無効理由3(サポート要件違反)について

請求人は、本件特許発明1?7は、それらの特許請求の範囲に記載されている「葉酸の約0.1mg?約30mg」に係る投与方法及び投与時期を特定していないところ、出願時の技術常識に照らしても、請求項に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるとは言えない旨を主張する。
そこで、本件特許発明1?7が、発明の詳細な説明において、「発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲」を超えているか否かについて、以下に検討する。
本件特許発明1?7の課題は、葉酸代謝拮抗薬によって引き起こされる毒性を、メチルマロン酸低下薬及び葉酸と組み合わせて投与することにより、治療学的な効力に有害な影響を及ぼさずに、有意に軽減することである(段落【0005】、【0006】、【0010】?【0012】等)。
そして、上記「2.無効理由2(実施可能要件違反)について 」で指摘した本願明細書の段落【0048】?【0059】には、臨床的評価における葉酸、ビタミンB_(12)及びMTA(商品名 ALIMTA、「ペメトレキセート二ナトリウム塩」)の具体的な投与方法及び服用方法が臨床試験結果と共に記載されており、当業者は、段落【0048】及び【0053】に記載のような葉酸の投与方法及び投与時期によって、本件特許発明1?7の課題が解決できることを認識できる。
また、上記「2.無効理由2(実施可能要件違反)について 」で指摘した本願明細書の段落【0023】、【0034】及び【0047】には、本件特許発明1?7の課題を解決する手段として、葉酸代謝拮抗薬と葉酸及びビタミンB_(12)を組み合わせて投与する方法における、葉酸の投与方法及び投与時期が記載されており、当業者は、これらの記載に示されている葉酸の投与方法及び投与時期によって、本件特許発明1?7の課題が解決できることを認識できる。
さらに段落【0034】には「実際に投与するメチルマロン酸低下薬の量は、関連する状況(例えば、処置する病気、投与の選択経路、投与する実際の薬物、個々の患者の年齢、体重及び反応、並びに患者の症状の激しさを含む)に照らして医師によって決定されるだろう。」と記載されており、この記載からみて、メチルマロン酸低下薬すなわちビタミンB_(12)(段落【0026】及び【0027】)と同様に、葉酸の投与方法及び投与時期も、患者の諸事情に応じて適宜決定されるものであることを当業者は理解できる。
以上のように、発明の詳細な説明に接した当業者は、上記「葉酸の約0.1mg?約30mg」に係る投与方法及び投与時期を適宜決定して、本件特許発明1?7の課題を解決できることを認識できるといえる。
そうすると、本件特許発明1?7の範囲まで、発明の詳細な説明において開示された内容を拡張ないし一般化できるのであるから、本件特許発明1?7は、発明の詳細な説明に記載されたものである。
したがって、請求人の主張する無効理由3には理由がない。

第7 結び

以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明に係る特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-10-16 
結審通知日 2015-10-20 
審決日 2015-11-10 
出願番号 特願2002-506715(P2002-506715)
審決分類 P 1 113・ 537- Y (A61K)
P 1 113・ 536- Y (A61K)
P 1 113・ 121- Y (A61K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 福井 悟  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 前田 佳与子
蔵野 雅昭
登録日 2012-10-05 
登録番号 特許第5102928号(P5102928)
発明の名称 新規な葉酸代謝拮抗薬の組み合わせ療法  
代理人 大塚 康弘  
代理人 西澤 恵美子  
代理人 日野 真美  
代理人 西川 恵雄  
代理人 木下 智文  
代理人 大塚 康徳  
代理人 実広 信哉  
代理人 松葉 栄治  
代理人 小林 浩  
代理人 今里 崇之  
代理人 阿部 隆徳  
代理人 大塚 康徳  
代理人 西川 恵雄  
代理人 壽 勇  
代理人 木下 智文  
代理人 大塚 康弘  
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