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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 B62D
管理番号 1326668
審判番号 不服2016-7135  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-16 
確定日 2017-04-18 
事件の表示 特願2012-73932号「電動パワーステアリング装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年10月7日出願公開、特開2013-203212号、請求項の数(7)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年3月28日の出願であって、平成28年2月12日付けで拒絶査定がされ、これに対し、平成28年5月16日に拒絶査定不服審判が請求され、同時に手続補正がされたものである。

第2 平成28年5月16日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)
1.特許請求の範囲について
本件補正により特許請求の範囲は以下のとおりに補正された。
【請求項1】
ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助する電動パワーステアリング装置であって、
前記ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトとトーションバーを介して連結される出力シャフトと、
前記トーションバーに作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記トルクセンサの構成部品である磁性材が固定されるセンサケースと、
前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパコラムチューブと、
前記アッパコラムチューブと相対移動可能なロアコラムチューブと、
前記電動モータによって回転駆動されるウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトと噛合すると共に前記出力シャフトに連結されるウォームホイールと、を備え、
前記ロアコラムチューブと前記センサケースは、樹脂材料からなる一体部品であり、
前記センサケースは、前記ウォームホイールの一部を覆う蓋体を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項2】
前記ウォームホイールを収容するギヤケースをさらに備え、
前記蓋体は、前記ギヤケースの開口部を塞ぐことを特徴とする請求項1に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項3】
ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助する電動パワーステアリング装置であって、
前記ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトとトーションバーを介して連結される出力シャフトと、
前記トーションバーに作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記トルクセンサの構成部品である磁性材が固定されるセンサケースと、
前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパコラムチューブと、
前記アッパコラムチューブと相対移動可能なロアコラムチューブと、を備え、
前記ロアコラムチューブと前記センサケースは、樹脂材料からなる一体部品であり、
前記センサケースは、
軸受を介して前記ステアリングシャフトを回転自在に支持する小径部と、
軸受を介して前記出力シャフトを回転自在に支持する大径部と、
を有することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【請求項4】
前記センサケースは、
軸受を介して前記ステアリングシャフトを回転自在に支持する小径部と、
軸受を介して前記出力シャフトを回転自在に支持する大径部と、
を有し、
前記大径部に支持される前記軸受は、前記出力シャフトの径方向に前記蓋体と重なる位置に設けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項5】
前記磁性材は、前記ロアコラムチューブ及び前記センサケースとインサート成形されることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項6】
前記トルクセンサは、
前記ステアリングシャフト及び前記出力シャフトの一方と共に回転する磁気発生部と、
前記ステアリングシャフト及び前記出力シャフトの他方と共に回転する回転磁気回路部と、
前記センサケースに固定された固定磁気回路部と、
前記トーションバーのねじれ変形に伴って前記磁気発生部から前記回転磁気回路部を通じて前記固定磁気回路部に導かれる磁束密度を検出する磁気検出器と、を備え、
前記磁性材は、前記固定磁気回路部の構成部品であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の電動パワーステアリング装置。
【請求項7】
前記回転磁気回路部は、前記トーションバーのねじれ変形に伴って前記磁気発生部から発生する磁束が導かれる第1軟磁性リング及び第2軟磁性リングを備え、
前記磁性材は、前記第1軟磁性リング及び前記第2軟磁性リングのそれぞれの外周に沿って設けられ、かつ前記センサケースの内周面に固定された第1集磁リング及び第2集磁リングであることを特徴とする請求項6に記載の電動パワーステアリング装置。

2.明細書について
本件補正により明細書の段落【0007】は以下のとおりに補正された。
【0007】
本発明は、ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助する電動パワーステアリング装置であって、前記ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトとトーションバーを介して連結される出力シャフトと、前記トーションバーに作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記トルクセンサの構成部品である磁性材が固定されるセンサケースと、前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパコラムチューブと、前記アッパコラムチューブと相対移動可能なロアコラムチューブと、前記電動モータによって回転駆動されるウォームシャフトと、前記ウォームシャフトと噛合すると共に前記出力シャフトに連結されるウォームホイールと、を備え、前記ロアコラムチューブと前記センサケースは、樹脂材料からなる一体部品であり、前記センサケースは、前記ウォームホイールの一部を覆う蓋体を有することを特徴とする。
また、本発明は、ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助する電動パワーステアリング装置であって、前記ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトとトーションバーを介して連結される出力シャフトと、前記トーションバーに作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、前記トルクセンサの構成部品である磁性材が固定されるセンサケースと、前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパコラムチューブと、前記アッパコラムチューブと相対移動可能なロアコラムチューブと、を備え、前記ロアコラムチューブと前記センサケースは、樹脂材料からなる一体部品であり、前記センサケースは、軸受を介して前記ステアリングシャフトを回転自在に支持する小径部と、軸受を介して前記出力シャフトを回転自在に支持する大径部と、を有することを特徴とする。

本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項の規定に適合する。また、本件補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むところ、後記「第5 当審の判断」に示すとおり、同法同条第6項の規定にも適合する。

第3 本願発明
本願の請求項1-7に係る発明(以下、「本願発明1-7」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の請求項1?7に記載された事項により特定されるとおりのものである。

第4 原査定の理由の概要
本願発明1-4は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物である引用文献1に記載された発明、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の技術的事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。


引用文献1:特開2010-247790号公報
引用文献2:特開2002-193115号公報
引用文献3:国際公開第2011/048846号

なお、補正により追加された本願発明5-7も容易想到との心証が付記されている。

第5 当審の判断
1.引用文献の記載事項及び引用発明
(1)引用文献1には、「電動パワーステアリング装置」に関し、以下の事項が記載されている(下線は当審で付与。以下同様。)。
ア.「【0012】
以下では、この発明の実施の形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態の電動パワーステアリング装置の概略構成の模式図である。図1を参照して、電動パワーステアリング装置(EPS:Electric Power Steering System)1は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3と、ステアリングシャフト3に自在継手4を介して連結された中間軸5と、中間軸5に自在継手6を介して連結されたピニオン軸7と、ピニオン軸7の端部近傍に設けられたピニオン8に噛み合うラック9を有して自動車の左右方向に延びる転舵軸としてのラック軸10とを有している。
【0013】
ピニオン軸7およびラック軸10を含むラックアンドピニオン機構によって、操舵機構11が構成されている。ラック軸10は、車体12に固定されるラックハウジング13内に図示しない複数の軸受を介して直線往復可能に支持されている。ラック軸10には、一対のタイロッド14が結合されている。各タイロッド14は対応するナックルアーム15を介して対応する転舵輪16に連結されている。
【0014】
操舵部材2が操作されてステアリングシャフト3が回転されると、その回転がピニオン8およびラック9によって、自動車の左右方向に沿ってのラック軸10の直線運動に変換される。これにより、転舵輪16の転舵が達成される。
ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸17と、ピニオン軸7に連なる出力軸18とに分割されている。これら入力軸17および出力軸18はトーションバー19を介して同一の軸線上で互いに連結されている。入力軸17に操舵トルクが入力されたときに、トーションバー19が弾性ねじり変形し、これにより、入力軸17および出力軸18が相対回転するようになっている。
【0015】
トーションバー19を介する入力軸17および出力軸18の間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ20が設けられている。また、車速を検出するための車速センサ21が設けられている。また、制御装置としてのECU(Electronic Control Unit :電子制御ユニット)22が設けられている。また、操舵補助力を発生させるための電動モータ23と、この電動モータ23の出力回転を減速する減速機構24とが設けられている。
【0016】
トルクセンサ20および車速センサ21からの検出信号が、ECU22に入力されるようになっている。ECU22は、トルク検出結果や車速検出結果等に基づいて、操舵補助用の電動モータ23を制御する。電動モータ23の出力回転が減速機構24を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸10の直線運動に変換されて、操舵が補助されるようになっている。
【0017】
減速機構24は、操舵補助用の電動モータ23の出力回転をステアリングシャフト3の出力軸18に伝達する。減速機構24は、駆動ギヤとしてのウォーム26と、このウォーム26に噛み合う従動ギヤとしてのウォームホイール27とを備えている。
ウォーム26は、電動モータ23の出力軸(図示せず)と同心に配置されており、電動モータ23により回転駆動される。
【0018】
ウォームホイール27は、ステアリングシャフト3の出力軸18に同行回転し且つステアリングシャフト3の軸方向A1(以下、単に軸方向A1ともいう。)に移動不能に連結されている。
また、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト3を回転可能に支持するステアリングコラム28を有している。ステアリングコラム28は、第1および第2のブラケット29,30を介して、車体12に支持されている。」

イ.「【0020】
ステアリングコラム28は、ステアリングシャフト3の一部を収容するコラムチューブ31と、減速機構24を収容するギヤハウジング32とを有している。コラムチューブ31とギヤハウジング32とは、互いに別体で形成され、互いに連結されている。
コラムチューブ31は、軸方向A1に関するステアリングコラム28の上部および中間部を構成している。コラムチューブ31は、金属、例えば、鋼により形成されている。コラムチューブ31は、ステアリングシャフト3を回転可能に支持している。コラムチューブ31は、車体12に第1のブラケット29を介して保持され、具体的には、固定されている。
【0021】
コラムチューブ31は、軸方向A1に関する当該コラムチューブ31の上部33と、軸方向A1に関する当該コラムチューブ31の下部としてのセンサハウジング34とを有している。上部33と、センサハウジング34とは、単一の材料により一体に形成されている。
コラムチューブ31の上部33は、軸方向A1に真直に延びる筒状をなしている。」

ウ.「【0024】
ギヤハウジング32は、上ハウジング36および下ハウジング37を有している。上ハウジング36および下ハウジング37は、互いに別体で形成され、互いに嵌め合わされている。上ハウジング36および下ハウジング37のそれぞれは、金属、例えば、アルミニウム合金により形成されている。
図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト3の入力軸17の軸方向上部を回転可能に支持する軸受39を有している。この軸受39は、ステアリングコラム28のコラムチューブ31の上端部に保持されている。

エ.「【0039】
トルクセンサ20は、磁気回路形成部材80に生じた磁束を集める軟磁性体としての環状の第1および第2の集磁リング117,118と、集められた磁束の密度に基づいて操舵トルクを検出するホールICを含む磁気センサ(図示せず)と、これらを保持する合成樹脂製の環状の本体81と、この本体81から延びる配線82とを有している。
本体81は、外周83と、軸方向A1に関する両側に形成された端面84,85とを有している。配線82は、本体81の外周83の一部から径方向外方へ延びている。本体81の外周83は、円筒面により形成された円筒部分831と、この円筒部分831よりも径方向外方に突出する複数の突起832と、面取り部833とを含んでいる。」

オ.「【0041】
センサハウジング34の第1の筒部341は、内周90を有している。第1の筒部341の内周90に、トルクセンサ20の本体81が嵌合されている。内周90には、受け部としての複数の突起91が形成されている。各突起91は、内周90から径方向内方に突出している。複数の突起91は、センサハウジング34の周方向(ステアリングシャフト3の周方向B1に一致する。)に関して互いに離隔して、例えば、均等に配置されている。なお、突起91は、図示の都合で均等に図示されていない。また、突起91は、少なくとも1箇所に配置されていればよい。本実施形態では、突起91が2箇所に設けられている場合に則して説明する。」

カ.「【0043】
また、センサハウジング34には、単一の挿通孔92が形成されている。挿通孔92は、第1の筒部341、第2の筒部342、および接続部343にまたがって形成されている。挿通孔92には、トルクセンサ20の配線82がセンサハウジング34の外部に挿通されている。
センサハウジング34の第1の筒部341を鋼により形成したので、アルミニウム合金により形成した場合と比較して、材料コストを低減できる。これに加えて、トルクセンサ20の耐磁界性を向上させることができる。すなわち、外部からのノイズがトルクセンサ20へ及ぼす影響を抑制できる。ひいては、トルクセンサ20において、磁気シールドするためのシールド板を廃止したり、簡素化したりすることができる。」

そして、上記記載事項より以下の事項が認定できる。
キ.上記イ.(段落【0021】)には、「コラムチューブ31は、軸方向A1に関する当該コラムチューブ31の上部33と、軸方向A1に関する当該コラムチューブ31の下部としてのセンサハウジング34とを有している。」と記載され、上記ウ.(段落【0024】)には「図1を参照して、電動パワーステアリング装置1は、ステアリングシャフト3の入力軸17の軸方向上部を回転可能に支持する軸受39を有している。この軸受39は、ステアリングコラム28のコラムチューブ31の上端部に保持されている。」と記載されており、併せて図1を参照すると、コラムチューブ31の上部33は、入力軸17を回転可能に支持する軸受39を保持していると認められる。

これらの記載事項ア.?カ.、認定事項キ.及び図面内容を総合し、本願発明1の発明特定事項に倣って整理すると、引用文献1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「電動モータ23の出力回転が減速機構24を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸10の直線運動に変換されて、操舵が補助されるようになっている電動パワーステアリング装置1であって、
ステアリングホイール等の操舵部材2に連なる入力軸17と、
前記入力軸17とトーションバー19を介して連結されている出力軸18と、
トーションバー19を介する入力軸17および出力軸18の間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ20と、
軟磁性体としての第1および第2の集磁リング117、118を保持する前記トルクセンサ20の本体81が嵌合されているコラムチューブ31のセンサハウジング34と、
前記入力軸17を回転可能に支持する軸受39を保持しているコラムチューブ31の上部33と、
前記電動モータ23により回転駆動されるウォーム26と、
前記ウォーム26に噛み合うと共に前記出力軸18に連結されているウォームホイール27と、を備え、
前記コラムチューブ31の上部33と、前記コラムチューブ31のセンサハウジング34とは、一体に形成されている電動パワーステアリング装置1。」

(2)引用文献2には、以下の事項が記載されている。
ア.「【0009】本ステアリングコラム組立体は、熱成形されたアセタール樹脂材料(plasticsacetal material)のごときプラスチツク材料からなる筒状管11を備えた上方ステアリングコラム組立体内の摺動可能な中心ベアリング構造を含んでいる。筒状管11は、取り付けブラケット5の下方端において横方向の取り付けブラケット12に柔軟に取着されかつ取り付けブラケット5の上方端においてロックハウジング組立体9の孔13内に軸方向に位置決めされかつこの孔を通って摺動可能である。管11は、代替として、ステアリングコラムのより高い自然の振動周波数を導いている弾性係数の増加から高められた屈曲固さを得るために、ガラスまたは炭素充填アセタール樹脂媒体(carbon-filled plastics acetal medium)から作られてもよい。管11がプラスチツク材料からなるので、構成要素がロック組立体9のハウジングの孔13(機械加工されている)内に作動的な摺動嵌合を容易に行い得るように精密に成形されることができる。」

(3)引用文献3には、以下の事項が記載されている。
ア.「【0016】先ず図1および図2において、電動パワーステアリング装置においてステアリングシャフトの中間部には、トーションバー13で連結される第1軸11および第2軸12間の捩れを検出するようにして本発明に従って構成されるトルクセンサが介設される。」

イ.「【0027】図9を併せて参照して、第1?第4回転ヨーク15,16,18,19、永久磁石17、第1および第2集磁ヨーク20,21は、合成樹脂から成るとともに固定位置に配置されるセンサハウジング30で覆われるものであり、前記永久磁石17に一体に設けられて軸方向に突出する環状の支持突部17aと、第1および第2集磁ヨーク20,21の外周側とがセンサハウジング30にインサート結合される。」

2.対比
(1)本願発明1と引用発明とを対比すると、その意味、機能または構造からみて、引用発明の「電動モータ23」は本願発明1の「電動モータ」に相当し、以下同様に、「電動パワーステアリング装置1」は「電動パワーステアリング装置」に、「ステアリングホイール等の操舵部材2」は「ステアリングホイール」に、「入力軸17」は「ステアリングシャフト」に、「トーションバー19」は「トーションバー」に、「出力軸18」は「出力シャフト」に、「トルクセンサ20」は「トルクセンサ」に、「軟磁性体としての第1および第2の集磁リング117、118」は「磁性体」に、「コラムチューブ31のセンサハウジング34」は「センサケース」に、「ウォーム26」は「ウォームシャフト」に、「ウォームホイール27」は「ウォームホイール」に、それぞれ相当する。

(2)引用発明の「電動パワーステアリング装置」は、「電動モータ23の出力回転が減速機構24を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸10の直線運動に変換されて、操舵が補助されるようになっている」ものであるから、ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助するものと認められる。
したがって、引用発明の「電動モータ23の出力回転が減速機構24を介して減速されてピニオン軸7に伝達され、ラック軸10の直線運動に変換されて、操舵が補助されるようになっている電動パワーステアリング装置」は、本願発明1の「ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助する電動パワーステアリング装置」に相当する。

(3)上記1.(1)ア.(段落【0012】、【0014】)には、「ステアリングホイール等の操舵部材2に連結しているステアリングシャフト3」、「ステアリングシャフト3は、操舵部材2に連なる入力軸17と、ピニオン軸7に連なる出力軸18とに分割されている。」と記載されており、併せて図1、2を参照すると、引用発明の「ステアリングホイール等の操舵部材2に連なる入力軸17」は、ステアリングホイール等の操舵部材2に連結されているものと認められる。
したがって、引用発明の「ステアリングホイール等の操舵部材2に連なる入力軸17」は、本願発明1の「前記ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフト」に相当する。

(4)上記1.(1)ア.(段落【0014】)に、「入力軸17に操舵トルクが入力されたときに、トーションバー19が弾性ねじり変形し、これにより、入力軸17および出力軸18が相対回転するようになっている。」と記載されるように、引用発明の「トーションバー19を介する入力軸17および出力軸18の間の相対回転変位量」は、トーションバー19に作用する操舵トルクによって生じるものであるから、引用発明の「トーションバー19を介する入力軸17および出力軸18の間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ20」は、トーションバー19に作用する操舵トルクを検出するものと認められる。
したがって、引用発明の「トーションバー19を介する入力軸17および出力軸18の間の相対回転変位量により操舵トルクを検出するトルクセンサ20」は、本願発明1の「前記トーションバーに作用する操舵トルクを検出するトルクセンサ」に相当する。

(5)引用発明の「コラムチューブ31のセンサハウジング34」は、「軟磁性体としての第1および第2の集磁リング117、118を保持する前記トルクセンサ20の本体81が嵌合されている」ものであるから、トルクセンサ20の構成部品である軟磁性体としての第1および第2の集磁リング117、118が固定されるものと認められる。
したがって、引用発明の「軟磁性体としての第1および第2の集磁リング117、118を保持する前記トルクセンサ20の本体81が嵌合されているコラムチューブ31のセンサハウジング34」は、本願発明1の「前記トルクセンサの構成部品である磁性材が固定されるセンサケース」に相当する。

(6)引用発明の「前記入力軸17を回転可能に支持する軸受39を保持しているコラムチューブ31の上部33」と、本願発明1の「前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパコラムチューブ」は、「前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するコラムチューブ」という限度で一致する。

(7)引用発明の「前記コラムチューブ31の上部33と、前記コラムチューブ31のセンサハウジング34とは、一体に形成されている」という構成と、本願発明1の「前記ロアコラムチューブと前記センサケースは、樹脂材料からなる一体部品であり」という構成は、「前記コラムチューブと前記センサケースは、一体部品であり」という構成の限度で一致する。

したがって、本願発明1と引用発明とは、以下の点で一致する。
<一致点>
「ドライバーがステアリングホイールに加える操舵力を電動モータの回転トルクにて補助する電動パワーステアリング装置であって、
前記ステアリングホイールが連結されるステアリングシャフトと、
前記ステアリングシャフトとトーションバーを介して連結される出力シャフトと、
前記トーションバーに作用する操舵トルクを検出するトルクセンサと、
前記トルクセンサの構成部品である磁性材が固定されるセンサケースと、
前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するコラムチューブと、
前記電動モータによって回転駆動されるウォームシャフトと、
前記ウォームシャフトと噛合すると共に前記出力シャフトに連結されるウォームホイールと、を備え、
前記コラムチューブと前記センサケースは、一体部品である電動パワーステアリング装置。」

そして、本願発明1と引用発明とは、以下の点で相違している。
<相違点1>
「コラムチューブ」及び「センサケース」に関し、
本願発明1では、「前記ステアリングシャフトを回転自在に支持する『アッパコラムチューブ』と、前記アッパコラムチューブと『相対移動可能なロアコラムチューブ』と」を備え、かつ、「前記『ロアコラムチューブ』と前記センサケースは、『樹脂材料』からなる一体部品であ」るのに対し、
引用発明では、「前記入力軸17を回転可能に支持する軸受39を保持している『コラムチューブ31の上部33』」を備え、かつ、「前記『コラムチューブ31の上部33』と、前記コラムチューブ31のセンサハウジング34とは、一体に形成されている」点。

<相違点2>
「センサケース」に関し、
本願発明1では、「前記センサケースは、前記ウォームホイールの一部を覆う蓋体を有する」のに対し、
引用発明では、そのように特定されていない点。

3.判断
(1)相違点1について
上記1.(2)ア.の記載事項及び図面内容を総合すると、引用文献2には、以下の技術的事項(以下、「引用文献2に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「樹脂材料からなる筒状管11を備えたステアリングコラム組立体。」
すなわち、引用文献2には、コラムチューブ(筒状管11)を樹脂材料から形成するという技術的事項が記載されていると認められる。

また、上記1.(3)ア.、イ.の記載事項及び図面内容を総合すると、引用文献3には、以下の技術的事項(以下、「引用文献3に記載の技術的事項」という。)が記載されていると認められる。
「合成樹脂から成るセンサハウジング30を備える電動パワーステアリング装置。」
すなわち、引用文献3には、センサケース(センサハウジング30)を樹脂材料から形成するという技術的事項が記載されていると認められる。

しかしながら、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の技術的事項を、引用発明に適用したとしても、「コラムチューブ31の上部33」(「コラムチューブ」に相当する。)と「コラムチューブ31のセンサハウジング34」(「センサケース」に相当する。)とを樹脂材料により形成するに止まり、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項である「前記ステアリングシャフトを回転自在に支持するアッパコラムチューブと、前記アッパコラムチューブと相対移動可能なロアコラムチューブと」を備えるという構成を想到するまでには至らない。
加えて、引用文献1の段落【0057】に「図3を参照して、以上説明したように、センサハウジング34が、コラムチューブ31の下部を拡径することにより構成されているので、センサハウジング34とコラムチューブ31とを一体化できる。その結果、部品点数を削減でき、製造コストを低減できる。」記載されるように、引用発明では、コラムチューブがアッパコラムチューブとロアコラムチューブとに分割されていない構成を積極的に採用していると認められるので、引用発明において、「コラムチューブ31の上部33」を、敢えて、アッパコラムチューブとロアコラムチューブとに分割することの動機付けはなく、むしろ阻害要因があるとさえいえる。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは、当業者にとって容易であるとはいえない。

4.小括
以上から、引用発明において、少なくとも相違点1に係る本願発明1の発明特定事項を想到することは当業者にとって容易とはいえないから、本願発明1は、当業者が引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
独立請求項に係る発明である本願発明3は、相違点1に係る本願発明1の発明特定事項と同様の発明特定事項を有するものであるから、本願発明1と同様に、当業者が引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。
本願発明2、4-7は、本願発明1又は3をさらに限定したものであるので、本願発明1又は3と同様に、当業者が引用発明、引用文献2に記載の技術的事項及び引用文献3に記載の技術的事項に基いて容易に発明をすることができたとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-03 
出願番号 特願2012-73932(P2012-73932)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (B62D)
最終処分 成立  
前審関与審査官 永冨 宏之杉▲崎▼ 覚  
特許庁審判長 和田 雄二
特許庁審判官 平田 信勝
森林 宏和
発明の名称 電動パワーステアリング装置  
代理人 特許業務法人後藤特許事務所  
代理人 飯田 雅昭  
代理人 須藤 淳  
代理人 後藤 政喜  

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