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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01M
管理番号 1326675
審判番号 不服2015-17038  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-09-16 
確定日 2017-03-30 
事件の表示 特願2011-135309「燃料電池システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 1月 7日出願公開、特開2013- 4352〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯

本願は、平成23年6月17日の出願であって、平成26年11月13日付けの拒絶理由の通知に対し、平成27年1月14日付けで意見書が提出されたが、平成27年7月2日付けで拒絶査定がなされ、これに対して平成27年9月16日付けで審判請求がなされ、その後、当審において平成28年7月15日付けで拒絶理由が通知され、平成28年9月12日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、当審において平成28年10月7日付けで最後の拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成28年12月6日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたものである。

2.本願発明

平成28年12月6日付けの手続補正は、特許請求の範囲を補正するものであって、明りょうでない記載の釈明を目的としたものである。
そして、本願の請求項に係る発明は、当該手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。
「燃料電池スタックの一方端のエンドプレートはスタックケースと一体化され、
前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートは前記スタックケースと別個に形成されて前記スタックケースに固定され、かつ前記燃料電池スタックに面する側である裏面側にオープンチャネルの水素ガス流路が形成され、
前記他方端のエンドプレートに補機が取り付けられる
ことを特徴とする燃料電池システム。」

3.引用例の記載事項

(1)引用例1
(1-1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2009-170169号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電を行うセルが複数積層されてなるセル積層体および前記セル積層体の積層方向両端部にそれぞれ設けられたエンドプレートを備えて構成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックを覆うスタックカバーと、を備えた燃料電池であって、
前記燃料電池スタックの少なくとも積層方向一端側が絶縁性のエンドプレートで支持されるとともに、前記スタックカバーの開口部が前記絶縁性のエンドプレートで閉塞されてなる燃料電池。」
(イ)「【0002】
近年、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応によって発電する燃料電池が注目されている。このような燃料電池として、単セルが複数積層されたセル積層体の両側に集電板をそれぞれ配置するとともに、これらを両集電板よりも両外側に配置されたエンドプレートで挟持して燃料電池スタックを構成し、さらにこの燃料電池スタックを防水のためスタックケースで覆って構成されるものがある。」
(ウ)「【0005】
そこで、本発明は、小型化及び軽量化可能な燃料電池及びその車載構造を提供することを目的とする。」
(エ)「【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の燃料電池は、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電を行うセルが複数積層されてなるセル積層体および前記セル積層体の積層方向両端部にそれぞれ設けられたエンドプレートを備えて構成される燃料電池スタックと、前記燃料電池スタックを覆うスタックカバーと、を備えた燃料電池であって、前記燃料電池スタックの少なくとも積層方向一端側が絶縁性のエンドプレートで支持されるとともに、前記スタックカバーの開口部が前記絶縁性のエンドプレートで閉塞されてなるものである。
【0007】
かかる構成の燃料電池によれば、エンドプレートを絶縁性とし、このエンドプレートでスタックカバーの開口部を閉塞するため、エンドプレートがスタックケースの一部を構成して燃料電池スタックを覆うことになる。よって、外形寸法を小さくすることが可能となり、小型化及び軽量化が可能となる。」
(オ)「【0019】
本発明に係る燃料電池及びその車載構造の第1実施形態を、図1?図4を参照しつつ説明する。
【0020】
燃料電池1は、図1に示すように、燃料ガスと酸化ガスとの電気化学反応により発電を行う基本単位のセル2が複数積層されたセル積層体3と、セル2の積層方向におけるセル積層体3の一端に配置された集電板としてのターミナルプレート4と、ターミナルプレート4のセル積層体3とは反対側に配置された絶縁性のエンドプレート5と、セル2の積層方向におけるセル積層体3の他端に配置された集電板としてのターミナルプレート6と、ターミナルプレート6のセル積層体3とは反対側に配置された絶縁性のエンドプレート7と、2枚のエンドプレート5,7同士を連結させる図示略の複数のテンションプレートとを主体として構成された燃料電池スタック9を備えている。
すなわち、燃料電池スタック9は、セル積層体3が2枚のエンドプレート5,7に挟持された状態で支持されてなる。ここで、エンドプレート5,7は、全体が絶縁性の合成樹脂材料からなり、あるいは導電性の部材を絶縁性の合成樹脂材料で被覆して構成されている。
【0021】
燃料電池スタック9には、一方のエンドプレート5のセル積層体3とは反対側に、燃料ガスおよび酸化ガスをセル積層体3に供給するためのシステム構成部品8が取り付けられている。
システム構成部品8には、例えば、燃料ガスタンクからの燃料ガスを燃料電池スタック9に供給する燃料供給配管の一部と、燃料電池スタック9から排出された燃料オフガスを前記燃料供給配管に戻す循環配管と、燃料供給配管に設けられて燃料ガスの圧力を調整するレギュレータと、循環配管に設けられた循環ポンプおよび気液分離器と、気液分離器に接続されて燃料オフガスを外部にパージする排出配管と、排出配管に設けられた排出弁と、が含まれる。
【0022】
そして、第1実施形態において、燃料電池スタック9には、両端が開口する筒状をなす絶縁性のスタックカバー10が、2枚のエンドプレート5,7間にセル積層体3を覆うように配置されている。このスタックカバー10は一端の開口部11が、隙間をシールするためのシール部12を介してエンドプレート5に取り付けられており、他端の開口部13が、隙間をシールするためのシール部14を介してエンドプレート7に取り付けられている。
これにより、スタックカバー10は両側の開口部11,13がシール部12,14及びエンドプレート5,7で閉塞されることになり、これらスタックカバー10、シール部12,14及びエンドプレート5,7で、燃料電池スタック9を防水するためのスタックケース15が構成されている。
【0023】
また、燃料電池スタック9には、一端が開口する有底筒状をなすカバー16がエンドプレート5のスタックカバー10とは反対側に、システム構成部品8を覆うように配置されている。このカバー16は、その開口部17がシール部18を介してエンドプレート5に取り付けられており、これにより、開口部17がエンドプレート5及びシール部18で閉塞されている。」
(カ)「【0026】
以上に述べた第1実施形態によれば、燃料電池1が、エンドプレート5,7を絶縁性とし、これらのエンドプレート5,7でスタックカバー10の両側の開口部11,13を閉塞するため、エンドプレート5,7がスタックケース15の一部を構成して燃料電池スタック3を覆って防水を行うことになる。よって、外形寸法を小さくすることが可能となり、小型化及び軽量化が可能となる。」
(1-2)そうすると、これらの記載からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「セル積層体3が2枚のエンドプレート5,7に挟持された状態で支持されてなる燃料電池スタック9を備え、
燃料電池スタック9には、両端が開口する筒状をなす絶縁性のスタックカバー10が2枚のエンドプレート5,7間にセル積層体3を覆うように配置され、このスタックカバー10は、一端の開口部11が隙間をシールするためのシール部12を介してエンドプレート5に取り付けられ、他端の開口部13が隙間をシールするためのシール部14を介してエンドプレート7に取り付けられ、これらスタックカバー10、シール部12,14及びエンドプレート5,7で、燃料電池スタック9を防水するためのスタックケース15が構成され、
一方のエンドプレート5のセル積層体3とは反対側に、燃料ガスおよび酸化ガスをセル積層体3に供給するためのシステム構成部品8が取り付けられる、燃料電池。」

(2)引用例2
(2-1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である実願平3-33163号(実開平4-127965号)のマイクロフィルム(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
(キ)「【0002】
【従来の技術】
この種燃料電池は、例えば図6に示されるように、電極反応を起こさせる電池積層体21の上下を、圧接板22、タイロッド23及びタイバ-24からなる締め付け構造にて、保持されて固定されている。これらの部品が金属から構成される場合には、電池の総重量が大きくなってしまい取扱が困難となってしまう。」
(ク)「【0008】
【課題を解決するための手段】
本考案のシールド型燃料電池は、反応ガスである水素の入口部及び出口部と、反応ガスである酸素の入口部及び出口部と、前記各反応ガスの入口部及び出口部に連通するマニホ-ルド部と、電池積層体とを有し、前記電池積層体が一体型枠体中に収納されていることを特徴としている。
【0009】
また、前記一体型枠体が、マニホ-ルド部を兼ねるように構成してもよい。
【0010】
【作用】
本考案の如く、反応ガスである水素の入口部及び出口部と、反応ガスである酸素の入口部及び出口部と、前記各反応ガスの入口部及び出口部に連通するマニホ-ルド部と、電池積層体を有する燃料電池において、前記電池積層体が樹脂或るいは樹脂と金属との複合材料によって一体型枠体中に収納されているので、反応ガスの漏出を抑制し、更には電池積層体周辺に配置されたタイバ-、タイロッド、圧接板等を省略することが可能となり、燃料電池の総重量が軽減できる。」
(ケ)「【0012】
【実施例】
以下に、本発明の実施例につき、詳述する。図1は本考案によるシ-ルド型燃料電池の全体斜視図である。ここで、1は電池積層体であり、これを一体型枠体2が取り囲んで密閉している。この中には特に図示はしないが、電解質である燐酸の保存、補液を行う電解質管理機構部が配置されている。また、3Aは正極の出力端子部、3Bは負極の出力端子部、4Aは反応ガスである水素の入口部、4Bは反応ガスである水素の燃焼後の出口部、5Aは反応ガスの酸素を含む空気の入口部、5Bは反応ガスの酸素を含む空気の燃焼後の出口部である。
【0013】
次に、この電池の図1におけるX-X断面図を、図2に示す。ここで一体型枠体2が、吸収体6、6を介して集電板7、7及び電池積層体1を圧接、固定している様子が分かる。」
(コ)「【0016】
前記実施例で示したものは、樹脂等による一体成形タイプのものであるが、他の実施例として、図5に示すような、接合型のものがあげられる。図5において、前記実施例と異なる点は、枠体が分割枠体13、14から構成され接合されて、一体型枠体を構成している点であり、他の部分は前記実施例と同一である。」
(サ)「【0017】
このような本考案によれば、枠体が締め付け構造、マニホ-ルド構造を兼ね備えることが可能となり、電池の小型化に寄与できる。」
そして、記載事項(ケ)及び(コ)並びに図1,2及び5の記載からみて、引用例2には、以下の事項が記載されていると認められる。
(シ)分割枠体13は、一端が開口端となっている有底の箱形形状であり、
他方の分割枠体14は、正極の出力端子部3A、負極の出力端子部3B、反応ガスである水素の入口部4A、反応ガスである水素の燃焼後の出口部4B、反応ガスの酸素を含む空気の入口部5A及び反応ガスの酸素を含む空気の燃焼後の出口部5Bが形成されており、
前記分割枠体13の開放端に前記分割枠体14が接合されて、一体型枠体を構成している。
(2-2)そうすると、これらの記載からみて、引用例2には、以下の技術が記載されている。
「シールド型燃料電池において、電池積層体が一体型枠体中に収納され、枠体が締め付け構造を兼ねているので、前記電池積層体周辺に配置されたタイバ-、タイロッド、圧接板等を省略することが可能となり、燃料電池の総重量が軽減でき、
枠体が分割枠体13、14から構成され、前記分割枠体13は、一端が開口端となっている有底の箱形形状であり、他方の分割枠体14は、正極の出力端子部3A、負極の出力端子部3B、反応ガスである水素の入口部4A、反応ガスである水素の燃焼後の出口部4B、反応ガスの酸素を含む空気の入口部5A及び反応ガスの酸素を含む空気の燃焼後の出口部5Bが形成されており、前記分割枠体13の開放端に前記分割枠体14が接合されて、一体型枠体を構成している。」

(3)引用例3
(3-1)当審拒絶理由で引用された、本願の出願前に頒布された刊行物である特開2006-80081号公報 (以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、次の記載がある(下線は、当審で付加した。)。
(ス)「【0001】
本発明は燃料電池システム及びスタックに関する。」
(セ)「【0005】
このようなスタックは,最外郭に配置されるセパレータの外側に,金属からなる別途の加圧プレートを密着させ,最外郭に配置されるセパレータと加圧プレートとの間に集電板を介在させた状態で,通常の締結手段によって締結させた構造を有する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,従来の技術による燃料電池システムは,単位セルを複数積層し,その最外郭に別途の集電板及び加圧プレートを設置して一つのスタックを形成するため,構造及び製造工程が複雑になって生産性が低下し,また,製造単価が上昇するという問題点があった。」
(ソ)「【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,水素と酸素の電気化学的な反応により電気エネルギーを発生させるスタックにおいて:膜-電極接合体と,膜-電極接合体の両面に配置されるセパレータとを含む少なくとも一つの電気発生部を備え,両端に配置される一対の最外郭セパレータは,互いに異なる極性を有する集電ユニット(current collecting unit)を形成しており,一対の最外郭セパレータは,その間に配置された少なくとも1つの電気発生部と各最外郭セパレータとが密着した状態となるように加圧されて締結されていることを特徴とする燃料電池システム用スタックが提供される。つまり,スタックの互いに異なる側に各々位置する一対の最外郭セパレータは,各々互いに異なる極性の集電ユニットを形成し,絶縁性締結部材によって互いに締結される際,対向する方向に電気発生部を加圧して密着させる。
【0009】
上記集電ユニットを形成する最外郭セパレータのうちの1つは,膜-電極接合体の一面に密着配置され,膜-電極接合体に水素ガスを供給する水素通路が形成されており,集電ユニットを形成する最外郭セパレータのうちの他の1つは,膜-電極接合体の一面に密着配置され,膜-電極接合体に空気を供給する空気通路(つまり,酸化材を供給する酸化剤供給通路)が形成されていてもよい。」
(タ)「【発明の効果】
【0022】
以上説明したように本発明によれば,スタックの最外郭に位置する金属素材のセパレータ自体が,従来のエンドプレート,集電体,及び加圧プレートの役割を同時に兼ねられる構造であるので,簡単な構造のスタックを形成することができる。したがって,全体的なスタックの製造工程を単純化させるのはもちろん,製造単価を低減させることができる。」
(チ)「【0038】
図2?図4に示すように,燃料電池システム100に適用されるスタック10は,膜-電極接合体(以下,‘MEA’とする)12を中心に置き,その両面にセパレータ(当業界では‘二極式プレート’ともする)13を配置して構成される,電気を発生させる最少単位の電気発生部11を含んで構成される。したがって,上記のような複数の電気発生部11を連続的に積層配置することによって,本実施例による積層構造のスタック10を形成することができる。」
(ツ)「【0044】
本実施例で,スタック10の互いに異なる側に各々位置する一対の最外郭セパレータ15,17は,各々互いに異なる極性を有する集電ユニットを形成する。・・・(中略)・・・
【0045】
集電ユニットを形成する最外郭セパレータ15,17は,これらの間に位置する電気発生部11のセパレータ13と直列に連結され,このセパレータ13を通過する電流を集電する集電板の機能をする。」
(テ)「【0045】
・・・(中略)・・・最外郭セパレータ15,17は,通常のセパレータの固有な機能をする。そのため,本実施例によるスタック10は,最外郭セパレータ15,17とこれらの間に位置するセパレータ13との間にMEA12が配置されている。また,スタック10において,一側の最外郭セパレータ15には,MEA12と密着する密着面に水素通路15aが形成され,他の一側の最外郭セパレータ17には,MEA12と密着する密着面に空気通路17aが形成されている。」
(ト)「【0050】
締結部材19は,最外郭セパレータ15,17の余裕部分(A)に形成された複数の締結孔19cに各々貫通設置される締結棒19aと,締結棒19aの両先端部に形成されたネジ部に締結され,最外郭セパレータ15,17を固定するナット19bとを含む。
【0051】
したがって,締結孔19cを貫通した締結棒19aの両先端部にナット19bを各々締結することにより,両側の最外郭セパレータ15,17を加圧し,本実施例によるスタック10を適正な圧力で締結固定できる。つまり,最外郭セパレータ15,17が従来のエンドプレートのような加圧及び締結機能を果たすようになる。」
そして、記載事項(テ)及び図2?4の記載からみて、引用例3には、以下の事項が記載されていると認められる。
(ナ)一側の最外郭セパレータ15には、膜-電極接合体12と密着する密着面に水素通路15aが形成され、該水素通路15aはオープンチャネルとなっている。
(3-2)そうすると、これらの記載からみて、引用例3には、以下の技術が記載されている。
「膜-電極接合体12を中心に置き、その両面にセパレータ13を配置して構成される電気発生部11を複数連続的に積層配置することによって、積層構造の燃料電池システム用スタック10を形成し、
両端に配置される一対の最外郭セパレータ15,17は、互いに異なる極性を有する集電ユニットを形成して、集電板の機能をするとともに、その間に配置された前記電気発生部11と密着した状態となるように加圧されて締結され、従来のエンドプレートのような加圧及び締結機能を果たし、
一側の最外郭セパレータ15には、膜-電極接合体12と密着する密着面に水素通路15aが形成され、該水素通路15aはオープンチャネルとなっており、
一対の前記最外郭セパレータ15,17自体が、従来のエンドプレート、集電体、及び加圧プレートの役割を同時に兼ねられる構造であるので、簡単な構造のスタックを形成することができる。」

4.本願発明と引用発明の対比・判断

(1)対比
引用発明の「燃料ガスおよび酸化ガスをセル積層体3に供給するためのシステム構成部品8」は、その構成及び機能からみて、本願発明の「補機」に相当する。
引用発明は、エンドプレート5に前記システム構成部品が取り付けられているから、引用発明の「エンドプレート5」は、本願発明の「燃料電池スタックの他方端のエンドプレート」に相当する。そうすると、引用発明の「エンドプレート7」は、本願発明の「燃料電池スタックの一方端のエンドプレート」に相当する。
本願発明の「スタックケース」は、燃料電池スタックの一方端のエンドプレートと一体化されているともに、該スタックケースと別個に形成された、前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートが固定されるものであるから、引用発明の、スタックカバー10、シール部12,14及びエンドプレート5,7で構成されるスタックケース15のうちの「スタックカバー10」、「シール部14」及び「エンドプレート7」が、本願発明の「スタックケース」に相当する。そうすると、引用発明の「燃料電池スタック9には、両端が開口する筒状をなす絶縁性のスタックカバー10が2枚のエンドプレート5,7間にセル積層体3を覆うように配置され、このスタックカバー10は、」「他端の開口部13が隙間をシールするためのシール部14を介してエンドプレート7に取り付けられ、これらスタックカバー10、シール部12,14及びエンドプレート5,7で、燃料電池スタック9を防水するためのスタックケース15が構成され」る態様は、本願発明の「燃料電池スタックの一方端のエンドプレートはスタックケースと一体化され」る態様と、燃料電池スタックの一方端のエンドプレートはスタックケースを構成している点で共通する。そして、引用発明の「燃料電池スタック9には、両端が開口する筒状をなす絶縁性のスタックカバー10が2枚のエンドプレート5,7間にセル積層体3を覆うように配置され、このスタックカバー10は、一端の開口部11が隙間をシールするためのシール部12を介してエンドプレート5に取り付けられ」る態様は、本願発明の「前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートは前記スタックケースと別個に形成されて前記スタックケースに固定され」る態様に相当する。
そして、引用発明の「燃料電池」は、本願発明の「燃料電池システム」に相当する。
以上のことから、本願発明と引用発明との一致点及び相違点は、以下のとおりと認められる。
【一致点】
「燃料電池スタックの一方端のエンドプレートはスタックケースを構成し、
前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートは前記スタックケースと別個に形成されて前記スタックケースに固定され、
前記他方端のエンドプレートに補機が取り付けられる、燃料電池システム。」
【相違点1】
本願発明は、燃料電池スタックの一方端のエンドプレートがスタックケースと一体化されているのに対し、
引用発明は、エンドプレート7がスタックカバー10の他端の開口部13にシールするためのシール部14を介して取り付けられている点。
【相違点2】
本願発明の燃料電池スタックの他方端のエンドプレートは、燃料電池スタックに面する側である裏面側にオープンチャネルの水素ガス流路が形成されているのに対し、
引用発明のエンドプレート5は、当該構成を有していない点。

(2)判断
(2-1)相違点1について検討する。
引用例2、特に記載事項(コ)及び(サ)並びに図2及び5の記載からみて、引用例2に記載された技術は、分割枠体14と、分割枠体13の前記分割枠体14と対向する底面とで電池積層体を締め付けるものである。そうすると、引用例2に記載された技術の「分割枠体14」、「分割枠体13」の分割枠体14と対向する底面は、それぞれ、本願発明の「燃料電池スタックの他方端のエンドプレート」、「燃料電池スタック一方端のエンドプレート」に相当する。さらに、引用例2に記載された技術の「分割枠体13」、「シールド型燃料電池」は、その構成及び機能からみて、それぞれ、本願発明の「スタックケース」、「燃料電池システム」に相当する。
してみると、引用例2には、燃料電池システムにおいて、燃料電池スタックの一方端のエンドプレートをスタックケースと一体化し、前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートは前記スタックケースと別個に形成されて前記スタックケースに固定される技術が記載されている。
引用発明及び引用例2に記載された技術は、いずれも、燃料電池システムに関するものであり、軽量化という共通の課題を有しているから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用することは、当業者が容易になし得る事項である。そして、引用発明において、燃料電池スタックの他方端のエンドプレート(エンドプレート5)は、セル積層体3とは反対側に補機(システム構成部品8)が取り付けられており、当該補機は、燃料ガスを前記セル積層体に供給する燃料供給配管と前記セル積層体から排出された燃料オフガスを前記燃料供給配管に戻す循環配管とを含むから、前記補機と前記セル積層体との間に位置する、前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレート自体が燃料ガス又は燃料オフガスの流路を有することは明らかである。そうすると、引用発明の前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートと引用例2に記載された技術の燃料電池スタックの他方端のエンドプレート(分割枠体14)は、燃料ガス又は燃料オフガスの流路を有する点においても共通するから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用するにあたり、燃料電池スタックの一方端のエンドプレート(エンドプレート7)をスタックカバーと一体化するようにすることは、当業者が容易に想到し得る事項である。
したがって、引用発明において、相違点1に係る本願発明の特定事項を備えるようにすることは、引用例2に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。

この点に関し、審判請求人は、平成28年12月6日付けの意見書において、「エンドプレート5,7のいずれもが車両側の支持部に支持され、スタックカバー10で燃料電池スタック9の重量を負担する必要がなくなってスタックカバー10の高剛性化及び高強度化の必要性が低くなり、これにより軽量化を図るものです。しかも、エンドプレート5,7を介した両持ち状態で安定的に車両側に支持する構成です。
従って、刊行物1では、エンドプレート5,7はスタックカバー10とは別個で存在してそれぞれスタックカバー10とは別個に車両側に支持されることが軽量化という課題を達成するために必要なのであり、刊行物1においてエンドプレートのいずれか一方、例えばエンドプレート5をスタックカバー10と一体化することは、かかる作用効果を毀損することになるので許されないというべきです。仮に、刊行物1において、エンドプレート5をスタックカバー10と一体化してしまうと、スタックカバー10で燃料電池スタック9の重量を負担する必要が生じてスタックカバー10の高剛性化及び高強度化の必要性が生じてしまうからです。また、刊行物1では、エンドプレート5,7を介した両持ち状態で安定的に車両側に支持する構成ですから、仮にエンドプレート5をスタックカバー10と一体化しつつも、エンドプレート5では燃料電池スタック9を支持しない構成としてしまうと、エンドプレート7のみの片持ち状態となってしまうため、これも刊行物1の作用効果に反することとなります。」と主張している。
当該主張について検討する。
引用例1、特に記載事項(イ),(エ)及び(カ)からみて、引用発明は、セル積層体を2枚のエンドプレートで挟持してなる燃料電池スタックをスタックケースで覆って構成することに代えて、エンドプレートでスタックカバーの開口部を閉塞し、エンドプレートがスタックケースの一部を構成することにより、燃料電池システムの小型化及び軽量化を可能としたものであって、燃料電池システムが該2枚のエンドプレートを介した両持ち状態で車両側に支持されていなくても、燃料電池システムを軽量化することが可能なものである。
そして、引用発明は、前記燃料電池スタックの一方端のエンドプレートと前記スタックカバー10とにより、引用例2に記載された技術の分割枠体14と同様の有底の箱形形状を呈するから、引用発明に引用例2に記載された技術を適用して前記燃料電池スタックの一方端のエンドプレートを前記スタックカバーと一体化するにあたり、両者を単に一体化するようにすることは、当業者が当然になし得る事項である。さらに、引用例2を参照しても、引用例2に記載された技術は、燃料電池システムを両持ち状態で支持するものを妨げるものではない。そうすると、前記燃料電池スタックの一方端のエンドプレート(エンドプレート7)及び前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレート(エンドプレート5)を介して車両側に両持ち状態で支持されている引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、前記燃料電池スタックの一方端のエンドプレートを前記スタックカバーと一体化したとしても、前記両エンドプレートを介して両持ち状態で支持する構成とすることに特段支障はない。そして、機械装置において、一の部材の剛性、強度を必要に応じて部分ごとに異ならせることは慣用されている。そうすると、前記両エンドプレートを介して車両側に両持ち状態で支持されている引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、前記燃料電池スタックの一方端のエンドプレートを前記スタックカバーと一体化したとしても、前記スタックカバーで燃料電池スタックの重量を負担する必要はなく、該スタックカバーを高剛性化及び高強度化することは要しない。
以上のとおりであるから、審判請求人の「刊行物1では、エンドプレート5,7はスタックカバー10とは別個で存在してそれぞれスタックカバー10とは別個に車両側に支持されることが軽量化という課題を達成するために必要なのであり、刊行物1においてエンドプレートのいずれか一方、例えばエンドプレート5をスタックカバー10と一体化することは、かかる作用効果を毀損することになるので許されないというべきです。」との主張は、採用することができない。
また、前記のとおり、前記両エンドプレートを介して車両側に両持ち状態で支持されている引用発明に引用例2に記載された技術を適用し、前記燃料電池スタックの一方端のエンドプレートを前記スタックカバーと一体化したとしても、前記両エンドプレートを介して両持ち状態で支持する構成とすることに特段支障はないから、審判請求人の「刊行物1では、エンドプレート5,7を介した両持ち状態で安定的に車両側に支持する構成ですから、仮にエンドプレート5をスタックカバー10と一体化しつつも、エンドプレート5では燃料電池スタック9を支持しない構成としてしまうと、エンドプレート7のみの片持ち状態となってしまうため、これも刊行物1の作用効果に反することとなります。」との主張は、引用例1及び2の記載に基づくものではないため、採用することができない。
(2-2)相違点2について検討する。
引用例3に記載された技術の「一対の最外殻セパレータ15,17」は、加圧プレートの役割を兼ねるものであるから、本願発明の「燃料電池スタックの一方端のエンドプレート」及び「燃料電池スタックの他方端のエンドプレート」に相当する。
引用例3に記載された技術の「水素通路15a」は、本願発明の「水素ガス流路」に相当し、引用例3に記載された技術の「膜-電極接合体12と密着する密着面」は、本願発明の「燃料電池スタックに面する側である裏面」に相当する。そうすると、引用例3に記載された技術の「一側の最外郭セパレータ15には、膜-電極接合体12と密着する密着面に水素通路15aが形成され、該水素通路15aはオープンチャネルとなって」いる態様は、本願発明の「前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートは」「前記燃料電池スタックに面する側である裏面側にオープンチャネルの水素ガス流路が形成され」る態様と、エンドプレートは燃料電池スタックに面する側である裏面側にオープンチャネルの水素ガス流路が形成される点で共通する。
してみると、引用例3には、燃料電池システムにおいて、エンドプレートは、燃料電池スタックに面する側である裏面側にオープンチャネルの水素ガス流路が形成される技術が記載されている。
引用例3、特に記載事項(ス)及び(ソ)からみて、引用例3に記載された技術は、従来の最外郭セパレータ、集電板及び加圧プレートの役割を、最外殻セパレータが同時に兼ねるものであり、燃料電池システムの部品点数が減少するから、燃料電池システムの小型及び軽量化に寄与するものである。そうすると、引用発明及び引用例3に記載された技術は、いずれも、燃料電池システムに関するものであり、小型化及び軽量化という共通の作用効果を奏するものであるから、引用発明に引用例3に記載された技術を適用することは、当業者が容易になし得る事項である。
引用例1、とくに記載事項(オ)からみて、引用発明において、エンドプレートとセル積層体3との間には集電板としてのターミナルプレートが備えられている。さらに、燃料電池システムにおいて、単位セルが膜-電極接合体と該膜-電極接合体の両面に密着されたセパレータとにより形成されることは技術常識であるから、引用発明においても、前記エンドプレートの前記セル積層体側には前記ターミナルプレートとともにセパレータが備えられていると認められる。そして、前記「4.(2)(2-1)」において検討したとおり、引用発明の燃料電池スタックの他方端のエンドプレート(エンドプレート5)は、燃料ガス又は燃料オフガスの流路を有するから、引用発明に引用例3に記載された技術を適用する際に、前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートに引用例3に記載された技術を適用し、前記燃料電池スタックの他方端のエンドプレートが前記ターミナルプレート及び前記セパレータの役割を兼ねるようにするとともに、そのセル積層体側の面にオープンチャネルの水素ガス流路を形成することは、当業者が容易になし得る事項である。
したがって、引用発明において、相違点2に係る本願発明の特定事項を備えるようにすることは、引用例3に記載された技術に基いて、当業者が容易に想到し得る事項である。
さらに、本願発明の奏する効果も、引用発明及び引用例2及び3に記載された技術から当業者が予測できたものであって、格別なものともいえない。

5.むすび

以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明並びに引用例2及び3に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、本願は、その他の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-27 
結審通知日 2017-01-31 
審決日 2017-02-13 
出願番号 特願2011-135309(P2011-135309)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H01M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上野 力  
特許庁審判長 藤井 昇
特許庁審判官 松永 謙一
久保 竜一
発明の名称 燃料電池システム  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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