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審決分類 審判 査定不服 判示事項別分類コード:211 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C08F
管理番号 1326724
審判番号 不服2014-25701  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-12-16 
確定日 2017-03-28 
事件の表示 特願2012-513592「吸水性ポリマー粒子の製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年12月 9日国際公開、WO2010/139680、平成24年11月15日国内公表、特表2012-528909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成22年6月1日(パリ条約による優先権主張 2009年6月3日、欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって、平成25年11月1日付けで拒絶理由が通知され、同年5月12日に意見書及び手続補正書が提出され、同年8月15日付けで拒絶査定がされ、それに対して、同年12月16日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、その後、平成27年1月20日付けで前置報告がされ、同年4月27日に上申書が提出され、当審で平成28年6月22日付けで拒絶理由が通知され、同年9月26日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。


第2 本願発明

本願の特許請求の範囲の請求項1ないし8に係る発明は、平成28年9月26日に補正された特許請求の範囲、国際出願翻訳文提出書の明細書及び国際出願時の図面(以下、「本願明細書」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、以下のとおりのものである。

「a)少なくとも1種のエチレン系不飽和の酸基含有モノマー、この場合、このモノマーは少なくとも部分的に中和されていてもよく、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
d)任意選択で、a)で挙げられたモノマーと共重合可能な1種またはそれ以上のエチレン系不飽和モノマー、および
e)任意選択で、1種またはそれ以上の水溶性ポリマーを含有する水性モノマー溶液または水性モノマー懸濁液を重合し、得られた水性ポリマーゲルを空気循環式バンド乾燥機上で乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ任意選択で、熱的に表面後架橋することを含む、吸水性ポリマー粒子の製造方法において、
前記ポリマーゲルを、空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルト上に旋回ベルトにより施与し、この旋回ベルトは、一方の端位置から出発して8?24゜の第一旋回角β_(1)を介して角速度v_(1)に加速し、10?40゜の第二旋回角β_(2)を介して角速度v_(2)まで減速し、かつ第三旋回角β_(3)を介して他方の端位置まで減速し、その際、角速度v_(2)と角速度v_(1)の商は0.4?0.8であり、かつ、旋回ベルトの長さと空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルトの有効幅の商は0.7?1.9であり、その際、旋回ベルトの長さは、搬出口から旋回軸への距離であり、旋回ベルトの旋回軸は、空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルトを縦に二分する直線上に存在しており、総旋回角が30?70゜であり、ポリマーゲルの含水量が、空気循環式バンド乾燥機上での乾燥前に30?70質量%であり、かつ、乾燥前のポリマーの平均粒径は0.1?10mmであることを特徴とする、前記吸水性ポリマー粒子の製造方法。」


第3 拒絶の理由の概要

平成28年6月22日付けの拒絶理由通知書に記載した理由は、以下のものを含むものである。

「この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 : 1

・引用文献等 : 1.国際公開第2008/087114号(以下、「刊行物1」という。)
2.特開2004-339502号公報(以下、「刊行物2」という。) 」


第4 当審の判断

1.刊行物1の記載
本願の優先権主張日前に公開されたことが明らかな刊行物1には、以下の記載がある。(なお、以下の仮訳は、刊行物1のファミリー文献である特表2010-515816号公報の記載を援用し、当合議体が作成したものである。)
(1)特許請求の範囲
「1. A process for production of superabsorbent polymers comprising
i) polymerizing a monomer solution, comprising at least one ethylenically unsaturated acid-functional monomer, ii) conveying the formed polymer gel on an oscillating conveyor belt to a continuous through-circulation belt dryer and ii) drying the polymer gel
wherein the belt speed of the conveyor belt is at least 0.4 m/s.
2. The process according to claim 1 wherein 60 mol-% or less of the acid groups of the at least one ethylenically unsaturated acid-functional monomer are neutral- ized.
3. The process according to claim 1 or 2 wherein 40 mol-% or less of the acid groups of the at least one ethylenically unsaturated acid-functional monomer are neutralized and the degree of neutralization of the formed polymer gel is raised to at least 50 mol-%.
4. The process according to any one of claims 1 to 3 wherein water content of the polymer gel before drying is at least 30 wt.%.
5. The process according to any one of claims 1 to 4 wherein the polymerization reactor is a continuous belt reactor.
6. The process according to any one of claims 1 to 4 wherein the polymerization reactor is a continuous kneader.
7. The process according to any one of claims 1 to 6 wherein the width of the continuous through-circulation belt dryer is at least 2 m.
8. The process according to any one of claims 1 to 7 wherein the monomer is at least 50 wt.% acrylic acid.
9. The process according to any one of claims 1 to 8 wherein the process comprises classifying of the dried polymer gel.
10. The process according to claim 9 wherein the process comprises surface crosslinking of the classified polymer gel.」
「【仮約】
1. i)少なくとも1個のエチレン性不飽和酸官能性モノマーを含有するモノマー溶液を重合し、
ii)振動コンベアベルト上で形成されたポリマーゲルを、連続空気循環ベルト式乾燥器上に移送し、かつ、
iii)ポリマーゲルを乾燥させる、
ことを含み、その際、コンベアベルトのベルト速度が少なくとも0.4m/sである、超吸収性ポリマーを製造する方法。
2. 少なくとも1個のエチレン性不飽和酸官能性モノマーの60モル%又はそれ未満の酸基が中和されている、請求項1に記載の方法。
3. 少なくとも1個のエチレン性不飽和酸官能性モノマーの40モル%又はそれ未満の酸基が中和されており、かつ形成されたポリマーゲルの中和度合いが少なくとも50モル%まで上昇する、請求項1又は2に記載の方法。
4. 乾燥前のポリマーゲルの含水量が、少なくとも30質量%である、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
5. 重合反応器が連続ベルト式反応器である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
6. 重合反応器が連続混練機である、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
7. 連続空気循環ベルト式乾燥器の幅が少なくとも2mである、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
8. モノマーが少なくとも50質量%のアクリル酸である、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
9. 方法が、乾燥したポリマーゲルの分級を含む、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
10. 方法が、分級したポリマーゲルの表面架橋を含む、請求項9に記載の方法。」

(2)第2頁第11頁?第13頁
「EP 1 470 905 A1 A discloses a process for the production of superabsorbent polymers. In the disclosed process, a oscillating belt conveyor transfers the disintegrated polymer gel from an extruder to a through-circulation belt dryer.」
「【仮約】EP 1 470 905 A1は、超吸収性ポリマーの製造方法を開示している。開示された方法において、振動ベルトコンベアは、押出機から空気循環ベルト式乾燥器に、崩壊したポリマーゲルを移送する。」

(3)第4頁第23行?第30行
「The monomer solutions usable in the process of the present invention comprises

a) at least one ethylenically unsaturated acid-functional monomer,
b) at least one crosslinker,
c) if appropriate one or more ethylenically and/or allylically unsaturated monomers copolymerizable with a), and
d) if appropriate one or more water-soluble polymers onto which the monomers a), b) and if appropriate c) can be at least partly grafted.」
「【仮約】本発明の方法において有用なモノマー溶液は、
a)少なくとも1個のエチレン性不飽和酸官能性モノマー
b)少なくとも1個の架橋剤
c)適切な場合には、a)と重合可能な1個又はそれ以上のエチレン性及び/又はアリル性不飽和モノマー、及び
d)適切な場合には、モノマーa)、b)及び適切な場合にはc)がその上に少なくとも部分的にグラフトされていてもよい、1個又はそれ以上の水溶性ポリマー、
を含む。」

(4)第8頁第41行?第9頁第1行
「The dried polymer gel is then ground and classified, useful grinding apparatus typically including single or multiple stage roll mills, preferably two or three stage roll mills, pin mills, hammer mills or swing mills.」
「【仮約】その後に、乾燥したポリマーゲルは粉砕及び分級され、その際、有用な粉砕装置は、典型的には一段式又は多段式ロールミル、好ましくは2又は3段式ロールミル、ピンミル、ハンマーミル又は振動ミルを含む。」

(5)第10頁第17行?最終行
「Examples

Example 1 (Comparative example)

A mixture of acrylic acid, crosslinker, water and polymerization initiators was polymerized on a continuous belt reactor. The formed polymer gel was neutralized with soda. The neutralized polymer gel was transferred on the belt of a through-circulation belt dryer using an oscillating belt conveyor. The water content of the polymer gel was 55 wt. % and 72 mol-% of the acid groups of the polymer gel were neutralized.

The belt speed of the conveyor belt was 0.3 m/s. Parts of the polymer gel did not release from the conveyor belt at the end of the oscillating belt conveyor.

Example 2 (Inventive example)

Example 1 was repeated, but the belt speed of the conveyor belt was 1.8 m/s. The polymer gel released completely from the conveyor belt at the end of the oscillating belt conveyor.」
「【仮約】実施例
例1(比較例)
アクリル酸、架橋剤、水及び重合開始剤の混合物を、連続ベルト式反応器上で重合した。形成されたポリマーゲルを、炭酸ナトリウムで中和した。中和したポリマーゲルを、振動ベルトコンベアを用いて、空気循環ベルト式乾燥器のベルト上に移送した。ポリマーゲルの含水量は55質量%であり、かつ、ポリマーゲルの酸基の72モル%を中和した。
コンベアベルトのベルト速度は0.3m/sであった。ポリマーゲル一部は、振動ベルトコンベアの末端で、コンベアベルトから剥がれなかった。
例2(本発明による例)
例1を繰り返すが、しかしながらコンベアベルトのベルト速度は1.8m/sであった。ポリマーゲルは、振動ベルトコンベアの末端で、コンベアベルトから完全に剥がれた。」

2.刊行物2の記載
本願の優先権主張日前に公開されたことが明らかな刊行物2には、次の記載がある。
(1)【0039】
「重合によって得られた含水重合体の形状は、重合方法によって異なり、粒子状、帯状、板状、粘土状など種々の形態をとり得る。本発明では含水重合体がいずれの形態であっても解砕できるが、好ましくは帯状物である。スクリュー押出し機に帯状物を供給すると、回転翼に帯状物が絡みつき、効率的に解砕することができるからである。帯状の含水重合体は、厚さが1?30mmであることが好ましく、より好ましくは3?20mmである。
1mmを下回ると生産性が低くなり、一方、30mmを上回るとスクリュー押出し機に入りにくくなる場合がある。なお、含水重合体の水分量の多寡により固形物50?70質量%の含水重合体に該当しない場合であっても、水の添加または乾燥によって上記範囲の固形分量の含水重合体となる場合には、本発明の解砕方法によって解砕することができる。」

(2)【0047】
「乾燥が通気バンド乾燥機など静置乾燥による場合には、解砕物が乾燥機内に均一の密度に分散されることが好ましいが、本発明の解砕方法によれば解砕物の練りや相互付着が防止される結果、このような解砕物の均一分散性に優れる。図2に示すように、解砕機100から解砕物110を首振りフィーダー200によって通風乾燥機300に付属するベルトコンベア310上に乾燥用バット320を用いて分散させると、均一分散が容易である。なお、図3に示す首振りフィーダー200の首振り角度θやベルト速度等は、解砕物の平均粒径、単位時間当たりの解砕量等によって任意に選択できる。」

(3)【0061】?【0063】
「(実施例1)
図4に示す装置を用いて、吸水性樹脂の製造を行った。・・・(中略)・・・該含水重合体510は、厚さ3?7mmの帯状物であり、その固形分は58質量%であった。
表面温度が約50℃の上記含水重合体を連続的に、図1に示すスクリュー押出し機に導き、水供給口からスチームを注入しながら解砕した。・・・(中略)・・・
図2に示すように、該押出し機100の下部に、首振りフィーダー200、さらに該フィーダー200の下部に乾燥用バット320をベルトコンベアー310上に載せ、押出し機100から排出された解砕物を乾燥用バット320に容易に均一な厚みで並べることができた。首振りフィーダーの首振り角度(図3のθ)は25°とした。」

(4)図2


(5)図3


(6)図4


3.刊行物1に記載の発明及び本願発明との対比
上記の1.(1)によれば、刊行物1には、
「i)少なくとも1個のエチレン性不飽和酸官能性モノマーを含有するモノマー溶液を重合し、ii)形成されたポリマーゲル(含水量は少なくとも30重量%)を振動コンベアベルト(oscillating conveyor belt)で連続空気循環ベルト式乾燥器上に移送し、かつ、iii)ポリマーゲルを乾燥させ、その後分級する、超吸収性ポリマーを製造する方法。」に係る発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。
ここで、上記の1.(3)ないし(5)によれば、引用発明の重合(i)においても架橋剤や開始剤が用いられていることは明らかであり、また、乾燥したポリマーゲルの粉砕も行われていると解すべきである。
そして、引用発明の「振動コンベアベルト」とは、上記の1.(2)によれば、欧州公開第1470905号に記載されているものとされている。刊行物2は、欧州公開第1470905号のファミリー文献であるところ、刊行物2の記載(上記2.(1)ないし(6))によれば、「振動コンベアベルト」は本願発明の「旋回ベルト」に他ならないものであって、また、その図3(2.(5))から、その旋回ベルトの旋回軸は、空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルトを縦に二分する直線上に存在しているとすることが適当である。そうしてみると、本願請求項1に係る発明(以下、「本願発明1」という。)と引用発明とは、以下の点で一致、相違するものである。

<一致点>
「a)少なくとも1種のエチレン系不飽和の酸基含有モノマー、
b)少なくとも1種の架橋剤、
c)少なくとも1種の開始剤、
を含有する水性モノマー溶液または水性モノマー懸濁液を重合し、得られた水性ポリマーゲルを空気循環式バンド乾燥機上で乾燥させ、粉砕し、分級することを含む、吸水性ポリマー粒子の製造方法において、ポリマーゲルを、空気循環式バンド乾燥機のベルトコンベア上に旋回ベルトにより施与し、旋回ベルトの旋回軸は、空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルトを縦に二分する直線上に存在しており、ポリマーゲルの含水量が、空気循環式バンド乾燥機上での乾燥前に30?70質量%である、前記吸水性ポリマー粒子の製造方法」である点。

<相違点1>
旋回ベルトに関して、本願発明においては、「旋回ベルトは、一方の端位置から出発して8?24゜の第一旋回角β_(1)を介して角速度v_(1)に加速し、10?40゜の第二旋回角β_(2)を介して角速度v_(2)まで減速し、かつ第三旋回角β_(3)を介して他方の端位置まで減速し、その際、角速度v_(2)と角速度v_(1)の商は0.4?0.8であり、かつ、旋回ベルトの長さと空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルトの有効幅の商は0.7?1.9であり、その際、旋回ベルトの長さは、搬出口から旋回軸への距離であり、総旋回角が30?70゜」と特定するのに対して、引用発明にはそのような特定がない点。<相違点2>
本願発明においては、「乾燥前のポリマー(ゲル)の平均粒径は0.1?10mm」と特定するのに対して、引用発明にはそのような特定がない点。

4.判断
(1)相違点1に関して、刊行物2では、旋回ベルトの旋回角は当業者が任意に選択できる事項である(上記2.(2))とされている。また、旋回ベルトによりポリマーゲルをコンベアベルトに供与するという目的に鑑みれば、旋回ベルトは、旋回の一方の端から加速をして、然るべき地点以降は、旋回の角速度を減じてもう一方の端に到達(到達した時点での角速度は0)し、同様の動きにより逆方向に旋回するものであるから、必ず「加速」の行程と「減速」の行程とを伴うものであると認められる。
そうしてみると、引用発明の旋回ベルトをどのような旋回角で、どのように加速させ、次いで減速を行うのかは、その実施に際し当業者が適宜決定する程度の事項であると認める。また、「旋回ベルトの長さ」と「空気循環式バンド乾燥機のコンベアベルトの有効幅」との関係も、旋回角やポリマーゲルをコンベアベルトに供与する効率を考えて、当業者が適宜決定する事項に過ぎないものと認める。

(2)相違点2に関して、刊行物2には、旋回ベルトで取り扱う重合体の形状等には特段の制約が無いことが示されている(上記2.(1))。そうしてみると、引用発明でのポリマーゲルの平均粒径は、旋回ベルトによる取り扱いやすさや空気循環式バンド乾燥機での乾燥効率を考えて、当業者が適宜決定する事項であると認める。

(3)そして、以上のように相違点1、2は当業者が通常の創意工夫の能力を発揮して決定していく程度の事項であると認められるところ、本願発明が、相違点1、相違点2のように特定されたことによって、引用発明と比較して当業者に予想外の格別顕著な効果を奏するものとは本願明細書の記載からは認めることができない。
また仮に、本願明細書の例1が、例2ないし例3のものと比較して、ポリマーゲルの「むらのない乾燥および減少した生産阻害」の点で当業者に予想外の効果を奏することを示していたとしても、それは、ポリマーゲルを例1で採用されている特定の乾燥条件(本願明細書【0109】)に置いた場合に確認できた限定的な効果といわざるを得ず、相違点1、相違点2のように特定したことによって、ポリマーゲルをどのような乾燥条件に置いた場合でも、「むらのない乾燥および減少した生産阻害」の点で当業者に予想外の効果を奏するとまですることはできない。

(4)審判請求人は、平成28年9月26日付け意見書で本願発明の効果に関する主張を行うので、以下検討する。
同意見書の(2)及び(4)を踏まえると、審判請求人の主張は、本願発明の方法によって乾燥機ベルト上にポリマーゲルを図1のように不均一な形状に分散することができ、それによって、ポリマーゲルのむらの無い乾燥を達成することができ、このことは、例1の遠心保持容量(CRC)および/または抽出分の値が、例2、例3よりも低いことで示されている、ということにあると認める。
まず、乾燥機ベルト上のポリマーゲルの形状に関して、例1では、本願の図1に沿ってh_(1)、h_(2)、b_(1)、b_(2)の数値を示すものとされているから、その形状は図1に沿ったものであることを確認できるが、例2ないし例4では、乾燥機ベルト上のポリマーゲルの形状がどのようなものであるのかの説明も無く、その形状は不明なものと言わざるを得ない。なお、旋回ベルトの角速度が旋回の最後に0になることを考慮すれば、旋回ベルトで乾燥機ベルト上に施用されたポリマーゲルは、外的な力で成形しない限りは、乾燥機ベルト上で図1と大きく異なる形状(たとえば、均一な高さの直方体形状)を形作るものと解することができず、本願発明の方法によってのみ乾燥機ベルト上のポリマーゲルの形状を本願明細書の図1のようにすることができるものとは認めることができない。
そして、本願明細書の記載によって、乾燥機ベルト上のポリマーゲルが、本願明細書の図1の形状の場合には当該ポリマーゲルはむら無く乾燥が行われるが、それ以外の形状の場合には乾燥にむらがあることを具体的に示す記載があるものと認めることができない。
この点に関して、審判請求人は、遠心保持容量(CRC)、抽出分の値が小さいことがポリマーゲルのむらの無い乾燥を意味している旨を主張するものであるが、以下のように斯かる主張を採用することができない。
まず、審判請求人の主張は、「遠心保持容量(CRC)および/または抽出分の任意の増大は、ポリマーネットワークの崩壊に関する指標」(同意見書(2))であることを前提としているものと解されるが、そのような前提は出願当初明細書に記載がない事項であるし、本願の優先権主張日時点での技術的な常識であったとも認めることができないものである。すなわち、出願当初明細書の記載から、乾燥によって吸水性ポリマー粒子の遠心保持容量(CRC)、抽出分がどのように変化するのかを理解することはできないし、本願の優先権主張日時点で、乾燥によりそれらの値がどのように変化するのかが自明であったとすることができない。(なお、審判請求人が示す「JP5616346B1」、「JP5616347B1」は、いずれも本願の国際出願日後の2011年3月に国際公開されたものであるから、たとえ審判請求人が主張する内容が「JP5616346B1」、「JP5616347B1」に記載されていたとしても、本願の優先権主張日時点での技術的な常識であることを示す文献ではない。)また、本願出願当初明細書に、ポリマーゲルの乾燥状態にむらがある場合と無い場合とで、遠心保持容量(CRC)、抽出分の値がどのように変化するのかが記載されているとすることができないし、そのような変化が自明であるとも認めることができない。さらに、ポリマーの乾燥にむらがある場合には、ポリマーネットワークが崩壊するが、ポリマーの乾燥にむらが無い場合には、ポリマーネットワークは崩壊しないことも本願出願当初明細書明に記載されていないし、それが自明であるとすることもできない。
一方、本願明細書【0091】の記載によれば、本願発明の方法で得られる吸水性ポリマーの遠心保持容量(CRC)は大きな値である程好ましいことが理解できるところ、例1ないし3の遠心保持容量(CRC)は、いずれも本願出願当初明細書【0091】で「極めて有利には」とされている範囲(「少なくとも26g/g」)に含まれるものであるが、本願発明を示している例1の遠心保持容量(CRC)よりも比較例である例2、例3のそれの方が大きい値を示している。そして、例1の抽出分の値と例3の値とは大きく相違するものではないから、例1に係るポリマーゲルよりも例3に係るポリマーゲルの方が良好な性状を奏すると解することもできるものである。
そうしてみると、遠心保持容量(CRC)、抽出分の値が小さいことがポリマーゲルのむらの無い乾燥を意味していると解することもできない。
以上のように、審判請求人の本願発明の効果に関する主張を認めることはできない。


第5.結び

以上のとおりであるから,本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。したがって、他の請求項に係る発明についてさらに検討するまでもなく、本願はこの理由により拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-10-26 
結審通知日 2016-10-31 
審決日 2016-11-11 
出願番号 特願2012-513592(P2012-513592)
審決分類 P 1 8・ 211- WZ (C08F)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 松本 淳阪野 誠司  
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 守安 智
大島 祥吾
発明の名称 吸水性ポリマー粒子の製造方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 久野 琢也  

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