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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01R
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 H01R
管理番号 1326805
審判番号 不服2016-9490  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-27 
確定日 2017-04-25 
事件の表示 特願2012-161084「電線への端子圧着構造」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 2月 3日出願公開、特開2014- 22241、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、平成24年7月20日の出願であって、平成28年3月9日付けで拒絶理由が通知され、同年4月18日に意見書及び手続補正書が提出され、同年5月16日付け(発送日:同年5月24日)で拒絶査定がなされ、これに対し、同年6月27日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に、明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正がなされ、その後、当審において同年12月27日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という。)が通知され、平成29年2月9日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

第2.本願発明
本願の請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成29年2月9日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認められる。
「 【請求項1】
複数の素線からなる導体を有し端末部にて該導体が露出する電線と、前記導体を圧着する圧着部を有する端子と、を備える電線への端子圧着構造において、
前記導体は、
第一の種類の素線と、該第一の種類の素線と比較して前記導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量が異なり且つ硬度が異なる第二の種類の素線とからなり、
前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線は、
前記導体を圧着すると前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線との間でそれぞれの素線の外面の酸化皮膜を破壊することが可能な擦れ合いが生じるように配置され、
さらに前記導体は、
該導体の中心素線として配置される一本の前記第二の種類の素線と、
前記中心素線となる前記第二の種類の素線の周囲に該第二の種類の素線を包囲するように前記第一の種類の素線を配置して層状に形成される第一層と、
該第一層の周囲に該第一層を包囲するように前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線とを交互に隣接して配置して層状に形成される第二層と、
該第二層の周囲に該第二層を包囲するように前記第一の種類の素線を配置して層状に形成される最外層と、
を備え、
前記第二層に配置された前記第二の種類の素線の周囲に該第二の種類の素線を包囲するように、前記第一層に配置された前記第一の種類の素線と、前記第二層に配置された前記第一の種類の素線と、前記最外層に配置された前記第一の種類の素線と、を配置して構成される
ことを特徴とする電線への端子圧着構造。
【請求項2】
請求項1に記載の電線への端子圧着構造において、
前記第一の種類の素線の金属材料と、前記第二の種類の素線の金属材料と、を比較したとき、該第二の種類の素線の金属材料は、前記導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量が相対的に大きいものであり、
さらに、前記第一の種類の素線の金属材料と、前記第二の種類の素線の金属材料と、を比較したとき、該第二の種類の素線の金属材料は、硬度が相対的に大きいものである
ことを特徴とする電線への端子圧着構造。」

第3.原査定の理由について
1.原査定の理由の概要
平成28年4月18日付けの手続補正により補正された請求項1及び2に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



刊行物1:特開2005-93301号公報
刊行物2:特開2004-207079号公報(周知の技術手段を示す刊行物)

(1)請求項1に係る発明について
ア.刊行物1記載の発明
刊行物1には、加締め端子における端子圧着構造(段落【0004】,【0014】)として、図2に対応して、次の発明が記載されている。
「複数の素線からなる導体を有し端末部にて該導体が露出する電線と、前記導体を圧着する圧着部を有する端子と、を備える電線への端子圧着構造において(ここまで、段落【0004】)、
前記導体は、
第一の種類の素線(13)と、該第一の種類の素線と比較して前記導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量が異なり且つ硬度が異なる第二の種類(12)の素線とからなり、
前記第一の種類の素線(13)と前記第二の種類の素線(12)は、
前記導体を圧着すると前記第一の種類の素線(13)と前記第二の種類の素線(12)との間でそれぞれの素線の外面の酸化皮膜を破壊することが可能な擦れ合いが生じるように配置され、
を備えて構成される電線への端子圧着構造。」
下線部は、段落【0014】「圧着による端子加締において中心素線12が硬いので周囲の6本の周辺素線13のつぶれが大きく、表面酸化膜の破れが大きくなり、」さらに、変形例を扱った段落【0019】「圧着による端子加締において中心素線22及び周辺素線24が硬いため第2の材料からなる周辺素線23のつぶれが大きく、第1の自動車用電線の場合と同様、表面酸化膜の破れが大きくなり」との記載から認定した。

イ.対比
請求項1に係る発明と刊行物1記載の発明を対比すると、両者は、次の点で相違している。
(相違点)
請求項1に係る発明が「前記導体は、前記第二の種類の素線の周囲に該第二の種類の素線を包囲するように前記第一の種類の素線を配置してなる第一層と、該第一層の周囲に該第一層を包囲するように前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線とを交互に配置してなる第二層と、該第二層の周囲に該第二層を包囲するように前記第一の種類の素線を配置してなる最外層と、を備えて構成される」との発明特定事項を有している点。

ウ.検討
拒絶理由通知でも述べたように、刊行物1には、図3対応として、両線混在型が記載されており、線の本数が多い場合、中央部において「混在型」配置とすることは容易である。
また、刊行物2(図1D:段落【0035】)記載のように、異種の線材を混在させて配置させる場合、線材自体の破断強度を最適化するため「線材自体を交互の多層構造とすること」は、周知の技術手段である。

よって、刊行物1記載の発明において、(破断強度最適化の面から)相違点の構成を採用することは、上記周知の技術手段に倣って、当業者が容易になし得た事項である。

(2)請求項2に係る発明について
刊行物1の段落【0012】には、第二の種類の素線(12)として「JIS5000番系のアルミニウム合金」が、第一の種類の素線(13)として「純アルミニウム」が記載されている。

2.原査定の理由の判断
2-1.刊行物の記載事項
(1)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1(特開2005-93301号公報)には、「自動車用電線」に関し、図面(【図1】、【図2】参照。)とともに次の事項が記載されている。下線は当審で付した。
ア.「【0001】
本発明は、自動車用電線に関し、特に端子接続における信頼性を維持しつつ軽量化、細線化を図った自動車用電線に関するものである。」

イ.「【0007】
本発明によれば、前記構成を採用したので、導体の集合体としてアルミニウム系材料のみを用いたことにより、より一層の軽量化、細線化を図ることができるのみならず、中心素線に硬い材料を用いたことにより、圧着による端子接続の際に表面酸化膜の破れが大きくなり、接触抵抗が小さくなり、端子接続の信頼性の高い自動車用電線を提供することが可能となる。」

ウ.「【0009】
本発明による第1の自動車用電線(請求項1に相当)は、アルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される中心素線の周囲に該中心素線を包囲するように純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2の種類の材料より構成される複数の周辺素線を配置してなり、第1の種類の材料の硬度を第2の種類の材料の硬度より大きくしたことを特徴とする。
【0010】
図2に、第1の自動車用電線の一構成例における導体構成を断面図で示す。図中11は導体の集合体で、アルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される中心素線12の周囲に、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2の種類の材料より構成される6本の周辺素線13が配置され、撚りあわされ撚線構造となっている。また、中心素線12の断面積と周辺素線13の断面積は等しくなっている。この導体の集合体11の周りに直接又はシールド層を介して絶縁被覆を設けて、自動車用電線とする。
【0011】
本発明では、第1の種類の材料の硬度を第2の種類の材料の硬度より大きくしてある。第1の種類の材料の硬度は、第2の種類の材料の硬度より50?200%大きいことが好ましく、100?150%大きいことがより好ましい。なお、本明細書において「硬度」はJIS Z 2243:ブリネル硬さ試験方法で測定した値である。第1の種類の材料と第2の種類の材料の硬度がこのような関係にあると、圧着による端子加締において中心素線12が硬いため周囲の6本の周辺素線13のつぶれが大きく、表面酸化膜の破れが大きくなり、接触抵抗が小さくなり、端子接続の信頼性が確保される。
【0012】
第1の種類の材料と第2の種類の材料の好ましい組み合わせとしては、上記の条件を満足する各種のアルミニウム系材料の組み合わせとすることができる。
第1の種類の材料と第2の種類の材料の典型的な組み合わせとしては、
(i) 第1の種類の材料:JIS 5000番系のアルミニウム合金
第2の種類の材料:純アルミニウム
(ii)第1の種類の材料:JIS 5000番系のアルミニウム合金
第2の種類の材料:JIS 1000番系のアルミニウム合金
等が好ましく利用できる。」

エ.「【0014】
上記のような構成によれば、全体の材料としてアルミニウム系の材料を使用しているため、軽量化、細線化が図れるとともに、第1の種類の材料の硬度が第2の種類の材料の硬度より大きいため、圧着による端子加締において中心素線12が硬いので周囲の6本の周辺素線13のつぶれが大きく、表面酸化膜の破れが大きくなり、接触抵抗が小さくなり、端子接続における信頼性が確保される。
【0015】
第1の自動車用電線は、図示の構成例のみに限定されず、種々の変形、変更が可能である。
例えば、上記では、1本の中心素線の周りを6本の周辺素線で包囲した7本撚りタイプのものとしたが、さらにその周りを12本の周辺素線で包囲した19本撚りタイプのものとしてもよい。
また、上記では、撚線構造としたが、撚線としなくてもよい。
また、上記では、中心素線の断面積を周辺素線の断面積と同じにしたが、所要の引張強度が得られるならば、中心素線の断面積を周辺素線の断面積より小さくしてもよい。この場合、電線のより細線化、軽量化が可能となる利点がある。」

オ.「【0018】
図3に、第2の自動車用電線の一構成例における導体構成を断面図で示す。図中21は導体の集合体で、アルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される中心素線22の周囲に、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2の種類の材料より構成される周辺素線23とアルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される周辺素線24が交互に配置され、撚りあわされ撚線構造となっている。また、中心素線22の断面積と周辺素線23、24の断面積は等しくなっている。この導体の集合体21の周りに直接又はシールド層を介して絶縁被覆を設けて、自動車用電線とする。
【0019】
第1の自動車用電線の場合と同様、第1の種類の材料の硬度が第2の種類の材料の硬度より大きくなっており、第1の種類の材料の硬度は、第2の種類の材料の硬度より50?200%大きいことが好ましく、100?150%大きいことがより好ましい。第1の種類の材料と第2の種類の材料の硬度がこのような関係にあると、圧着による端子加締において中心素線22及び周辺素線24が硬いため第2の材料からなる周辺素線23のつぶれが大きく、第1の自動車用電線の場合と同様、表面酸化膜の破れが大きくなり、接触抵抗が小さくなり、端子接続における信頼性が確保される。」

カ.上記ウ.の段落【0010】の「この導体の集合体11の周りに直接又はシールド層を介して絶縁被覆を設けて、自動車用電線とする。」との記載及び同段落【0011】の「圧着による端子加締において中心素線12が硬いため周囲の6本の周辺素線13のつぶれが大きく」との記載並びに【図2】によれば、導体の集合体11からなる自動車用電線は絶縁被覆を有することが分かり、絶縁被覆がなく導体の集合体11が露出する自動車用電線の端末部と、導体の集合体11を圧着する圧着部を有する端子とが加締による自動車用電線への端子圧着構造を構成することは明らかである。

キ.上記エ.の段落【0014】の「第1の種類の材料の硬度が第2の種類の材料の硬度より大きいため、圧着による端子加締において中心素線12が硬いので周囲の6本の周辺素線13のつぶれが大きく、表面酸化膜の破れが大きくなり、接触抵抗が小さくなり、端子接続における信頼性が確保される。」との記載及び【図2】によれば、第2の種類の材料より構成される周辺素線13と第1の種類の材料より構成される中心素線12は、前記導体の集合体11を圧着すると第2の種類の材料より構成される周辺素線13と第1の種類の材料より構成される中心素線12との間でそれぞれの素線の外面の酸化皮膜を破壊することが可能な擦れ合いが生じるように配置されていることが分かる。

ク.上記ウ.の段落【0010】の「自動車用電線の一構成例における導体構成を断面図で示す。図中11は導体の集合体で、アルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される中心素線12の周囲に、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2の種類の材料より構成される6本の周辺素線13が配置され」との記載及び上記エ.の段落【0015】の「上記では、1本の中心素線の周りを6本の周辺素線で包囲した7本撚りタイプのものとしたが、さらにその周りを12本の周辺素線で包囲した19本撚りタイプのものとしてもよい。」との記載並びに及び【図2】によれば、第一層は、前記導体の集合体11の中心素線として配置される第1の種類の材料より構成される中心素線12の周囲に該第1の種類の材料より構成される中心素線12を包囲するように前記第2の種類の材料より構成される周辺素線13を配置して層状に形成されることが分かり、また、第二層が、該第一層の周囲に該第一層を包囲するように層状に形成されることが分かる。

ケ.上記オ.の段落【0018】の「図中21は導体の集合体で、アルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される中心素線22の周囲に、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2の種類の材料より構成される周辺素線23とアルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される周辺素線24が交互に配置され」との記載及び【図3】によれば、同じ層内に第2の種類の材料より構成される周辺素線23と第1の種類の材料より構成される周辺素線24を交互に配置することが分かる。

上記記載事項及び認定事項並びに図示事項を総合し、本願発明1の記載ぶりに則って整理すると、刊行物1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。
「導体の集合体11を有し端末部にて該導体の集合体11が露出する自動車用電線と、前記導体の集合体11を圧着する圧着部を有する端子と、を備える自動車用電線への端子圧着構造において、
前記導体の集合体11は、
第2の種類の材料より構成される周辺素線13と、該第2の種類の材料より構成される周辺素線13と比較して硬度が異なる第1の種類の材料より構成される中心素線12とからなり、
前記第2の種類の材料より構成される周辺素線13と前記第1の種類の材料より構成される中心素線12は、
前記導体の集合体11を圧着すると前記第2の種類の材料より構成される周辺素線13と前記第1の種類の材料より構成される中心素線12との間でそれぞれの素線の外面の酸化皮膜を破壊することが可能な擦れ合いが生じるように配置され、
さらに前記導体の集合体11は、
該導体の集合体11の中心素線として配置される一本の前記第1の種類の材料より構成される中心素線12と、
前記中心素線となる前記第1の種類の材料より構成される中心素線12の周囲に該第1の種類の材料より構成される中心素線12を包囲するように前記第2の種類の材料より構成される周辺素線13を配置して層状に形成される第一層と、
該第一層の周囲に該第一層を包囲するように層状に形成される第二層と、
を備える自動車用電線への端子圧着構造。」

(2)原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2(特開2004-207079号公報)には、「自動車用導体」に関し、図面(特に、【図1】参照。)とともに次の事項が記載されている。
ア.「【0032】
(実施例2)
上記実施例1では、7本撚りの導体を検討してみた。本実施例では、19本撚りの導体を作製し、上記実施例1と同様に特性と軽量効果を評価してみた。本例では、上記実施例1に用いたものと同様のステンレス線(線径φ0.1mm):7本、電気用導線(線径φ0.1mm、電気銅線):12本を用い、実施例1と同様にして図1(D)に示す導体1dを得た(試料No.2-1、断面積:約0.15mm^(2)、ステンレス線の占有断面積の割合:約37%)。この導体dを用いて実施例1と同様の工程でワイヤーハーネスを得た。また、比較例として、上記試料No.15、16と同様の構造の導体を同様の方法にて作製し、その導体を用いてやはり同様の方法にてワイヤーハーネスを得た。具体的には、上記実施例1の試料No.15と同様の銅線(線径:φ0.26mmの素線)を19本用い、導体が銅線のみからなる試料No.2-2(導体の断面積:1.0mm^(2))、上記実施例1の試料No.16と同様のステンレス線(線径:φ0.26mm)、銅線(圧縮前の線径:φ0.26mm)を用い、中心素線にステンレス線、外周素線に銅線(18本)を用い、撚り合わせた後、圧縮した試料No.2-3(導体の断面積:0.9mm^(2))を作製した。」

イ.「【0035】
【発明の効果】
以上説明したように本発明自動車用導体によれば、複数のステンレスからなる第一素線と、銅などの金属からなる第二素線とを用い、複数本組み合わせることで、従来と比較して、軽量化することができるという優れた効果を奏し得る。また、本発明は、従来のように圧縮をしておらず、従来と比較して製造工程が少なく、生産性にも優れる。更に、本発明は、より細径である素線を用いて細径の導体としても、第一素線と第二素線とを適当に組み合わせることで、高い破断強度や優れた導電率を確保することができる。従って、本発明自動車用導体は、自動車用のワイヤーハーネスに適するものである。」

2-2.対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、その技術的意義、機能または構造からみて、引用発明における「導体の集合体11」は本願発明1における「複数の素線からなる導体」及び「導体」に相当し、以下同様に、「自動車用電線」は「電線」に、「第2の種類の材料より構成される周辺素線13」は「第一の種類の素線」に、「第1の種類の材料より構成される中心素線12」は「第二の種類の素線」に、それぞれ相当する。

したがって、両者は、次の点で一致する。
[一致点]
「複数の素線からなる導体を有し端末部にて該導体が露出する電線と、前記導体を圧着する圧着部を有する端子と、を備える電線への端子圧着構造において、
前記導体は、
第一の種類の素線と、該第一の種類の素線と比較して硬度が異なる第二の種類の素線とからなり、
前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線は、
前記導体を圧着すると前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線との間でそれぞれの素線の外面の酸化皮膜を破壊することが可能な擦れ合いが生じるように配置され、
さらに前記導体は、
該導体の中心素線として配置される一本の第二の種類の素線と、
前記中心素線となる前記第二の種類の素線の周囲に該第二の種類の素線を包囲するように前記第一の種類の素線を配置して層状に形成される第一層と、
該第一層の周囲に該第一層を包囲するように層状に形成される第二層と、
を備える電線への端子圧着構造。」
そして、両者は次の各点で相違する。
[相違点1]
本願発明1においては、複数の素線からなる導体が、第一の種類の素線と、該第一の種類の素線と比較して前記複数の素線からなる導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量が異なり且つ硬度が異なる第二の種類の素線とからなるのに対し、引用発明においては、導体の集合体11(本願発明1における「複数の素線からなる導体」に相当。)を構成する二種類の素線の、前記導体の集合体11を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量が異なるかどうか明らかでない点。

[相違点2]
本願発明1においては、該第一層の周囲に該第一層を包囲するように前記第一の種類の素線と前記第二の種類の素線とを交互に隣接して配置して層状に形成される第二層と、該第二層の周囲に該第二層を包囲するように前記第一の種類の素線を配置して層状に形成される最外層と、を備え、前記第二層に配置された前記第二の種類の素線の周囲に該第二の種類の素線を包囲するように、前記第一層に配置された前記第一の種類の素線と、前記第二層に配置された前記第一の種類の素線と、前記最外層に配置された前記第一の種類の素線と、を配置して構成されるのに対し、引用発明においては、第二層がかかる構成を有するかどうか明らかでない点。

2-3.判断
上記相違点について検討するに、まず、相違点2について検討する。
刊行物1の「図中21は導体の集合体で、アルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される中心素線22の周囲に、純アルミニウム又はアルミニウム合金からなる第2の種類の材料より構成される周辺素線23とアルミニウム合金からなる第1の種類の材料より構成される周辺素線24が交互に配置され」(段落【0018】)との記載及び【図3】の図示内容(以下、「刊行物1に記載された事項」という。)に照らせば、同じ層内に第2の種類の材料より構成される周辺素線23と第1の種類の材料より構成される周辺素線24を交互に配置することが理解できる。
また、刊行物2の「複数のステンレスからなる第一素線と、銅などの金属からなる第二素線とを用い、複数本組み合わせることで、従来と比較して、軽量化することができるという優れた効果を奏し得る。また、本発明は、従来のように圧縮をしておらず、従来と比較して製造工程が少なく、生産性にも優れる。更に、本発明は、より細径である素線を用いて細径の導体としても、第一素線と第二素線とを適当に組み合わせることで、高い破断強度や優れた導電率を確保することができる。」(段落【0035】)との記載及び【図1】(D)の図示内容(以下、「刊行物2に記載された事項」という。)に照らせば、第一素線と第二素線とを第一層及び第二層において【図1】(D)のように組み合わせて配置し、高い破断強度や優れた導電率を確保することが理解できる。
しかしながら、刊行物1及び刊行物2の何れにも「該第二層の周囲に該第二層を包囲するように前記第一の種類の素線を配置して層状に形成される最外層」を設けることは、記載も示唆もされていないことから、引用発明に刊行物1に記載された事項及び刊行物2に記載された事項を適用したとしても、第二層の外層である最外層との関係において、相違点2に係る本願発明1の発明特定事項である「前記第二層に配置された前記第二の種類の素線の周囲に該第二の種類の素線を包囲するように、前記第一層に配置された前記第一の種類の素線と、前記第二層に配置された前記第一の種類の素線と、前記最外層に配置された前記第一の種類の素線と、を配置」することまでを当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
よって、本願発明1は、相違点1を検討するまでもなく、引用発明並びに刊行物1に記載された事項及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2-4.小括
以上のとおり、本願発明1は、引用発明並びに刊行物1に記載された事項及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
また、本願発明2は、本願発明1を直接的に引用し、本願発明1を更に限定するものであるから、本願発明1と同様に、引用発明並びに刊行物1に記載された事項及び刊行物2に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。
よって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第4.当審拒絶理由について
1.当審拒絶理由の概要
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



請求項2の「前記第一の種類の素線と比較して前記導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量及び硬度が相対的に大きくなる」との記載によれば、「前記導体を圧着したとき」の「前記電線」の「硬度が相対的に大きくなる」と解されるが、導体等を構成する金属材料の硬度とは通常は定数であって、圧着の有無によって変わる値でないと解されるため、「硬度が相対的に大きくなる」という状態がどのような状態であるか不明である。

2.当審拒絶理由の判断
平成29年2月9日付けの手続補正により、補正前の請求項2における「前記第二の種類の素線は、前記第一の種類の素線と比較して前記導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量及び硬度が相対的に大きくなる金属材料からなる」との記載は「前記第一の種類の素線の金属材料と、前記第二の種類の素線の金属材料と、を比較したとき、該第二の種類の素線の金属材料は、前記導体を圧着したときの前記電線の長手方向への伸び量が相対的に大きいものであり、さらに、前記第一の種類の素線の金属材料と、前記第二の種類の素線の金属材料と、を比較したとき、該第二の種類の素線の金属材料は、硬度が相対的に大きいものである」と補正され、請求項2の記載は明確となった。
よって、当審拒絶理由は解消した。

第5.むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-11 
出願番号 特願2012-161084(P2012-161084)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (H01R)
P 1 8・ 121- WY (H01R)
最終処分 成立  
前審関与審査官 前田 仁  
特許庁審判長 冨岡 和人
特許庁審判官 中川 隆司
小関 峰夫
発明の名称 電線への端子圧着構造  
代理人 陸名 智之  

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