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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G21F
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G21F
管理番号 1326828
審判番号 不服2016-3947  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-03-15 
確定日 2017-04-28 
事件の表示 特願2014-525392「キャリヤ上に沈着する吸着剤、該吸着剤を製造する方法及び該吸着剤の使用」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 2月21日国際公開、WO2013/023932、平成26年10月30日国内公表、特表2014-529067、請求項の数(2)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2012年(平成24年)8月2日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理 2011年8月17日、ドイツ)を国際出願日とする出願であって、平成27年3月25日付けで拒絶理由通知がされ、同年9月29日付けで意見書が提出されるとともに同時に手続補正がされたが、同年12月24日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がされ、これに対し、平成28年3月15日に拒絶査定不服審判の請求がされると同時に手続補正がされ、平成29年1月17日付けで拒絶理由通知(以下「当審拒絶理由」という。)がされ、同年3月27日付けで意見書が提出されるとともに同時に手続補正がされたものである。

第2 本願発明
本願請求項1及び2に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」及び「本願発明2」という。)は、平成29年3月27付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された事項により特定される発明であり、本願発明1及び2は以下のとおりの発明である。
「【請求項1】
支持体に沈殿される吸着剤を製造する方法であって、支持体として働くポリマー系球状活性炭上に、Cs^(+)吸着を可能にする無機吸着剤を沈殿させることを具備する方法において、
合成ポリマーが活性炭を製造するために使用されたこと、及び、前記活性炭が、
・2nm以下の細孔直径を有するミクロ細孔によって形成される総細孔量の50%以上を有する0.5cm^(3)/g以上のグールビチ総細孔量、
・4nm以下の平均細孔量、及び、
・1000m^(2)/g以上のBET表面積、を有すること:を具備すること、
前記方法が、
・a)支持体として、ポリマー系球状活性炭を具備すること;
・それから、
b1) (i)ヘキサシアノ鉄酸(II)若しくはヘキサシアノ鉄酸(III)アニオン
、及び
(ii)NH_(4)^(+)、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)若しくはRb^(+)、を含む水溶液で、前記支持体を含浸すること、
c1) 複合ヘキサシアノ鉄酸(II)若しくは複合ヘキサシアノ鉄酸(III)の形の支持体沈殿吸着剤を得るために、二価、三価若しくは四価の金属カチオンの塩の水溶液と、含浸された支持体を混合すること;
又は、上記b1)及びc1)に代えて、下記するb2)及びc2)、
b2) 二価、三価若しくは四価金属カチオンの塩の水溶液で、前記支持体を含浸すること、
c2) 複合ヘキサシアノ鉄酸(II)若しくは複合ヘキサシアノ鉄酸(III)の形の支持体沈殿吸着剤を得るために、
(i)ヘキサシアノ鉄酸(II)若しくはヘキサシアノ鉄酸(III)アニオン、且つ、
(ii)NH_(4)^(+)、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)若しくはRb^(+)を含む水溶液と、含浸された支持体を混合すること;それから、
前記二価金属カチオンは、Cd^(2+)、Co^(2+)、Cu^(2+)、Ni^(2+)、Zn^(2+)、Sn^(2+)若しくはFe^(2+)であり、
前記三価金属カチオンは、Cr^(3+)若しくはFe^(3+)であり、
前記四価金属カチオンは、Sn^(4+)、Ti^(4+)若しくはZr^(4+)であり、
d)沈殿された吸着剤を含有する支持体を洗浄すること;
e)段階d)に続いて、段階d)から結果として生じる洗浄された支持体を乾燥すること;
からなることを特徴とする方法。」
【請求項2】
前記ポリマー系球状活性炭が、0.5nm以上の最小平均細孔直径を有する細孔を有する多孔性活性炭であることを特徴とする請求項1記載の方法。」
以上によれば、本願発明2は、本願発明1を減縮した発明である。

第3 刊行物の記載及び引用発明
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献1(特開平2-207839号公報)には、次の事項が記載されている。(下線は当審にて付した。以下同じ。)。
ア 「〔産業上の利用分野〕
本発明は可燃性セシウム吸着剤及びその製造方法に関する。
〔従来の技術〕
現在、原子力分野の多くの部門において放射性セシウムの回収および除去が種々の方法で検討されている。
放射性セシウムは、ウラン235等の核分裂反応によって生成するが、^(137)Cs(半減期30年)、^(135)Cs(半減期3×10^(6)年)のように半減期が長く且つアルカリ金属であるため溶出しやすく、原子力施設の各種廃液に含まれている。
放射性セシウムの除去方法としては、蒸発分離法(堀岡正和:日本原子力学会誌、第11巻、p10,1969)、イオン交換体であるイオン交換樹脂、ゼオライトを用いたイオン交換吸着法(古屋仲芳男:京都大学原子炉実験所テクニカルレポート、KURRI-Th-73,1970)、フェロシアン化金属化合物による共沈法(G.B.Barton他:Ind,Eng.Chem.50巻、p212,1958)、フェロシアン化金属化合物を添着したゼオライト吸着法(FUMIO KAWAMURA,KENJI MOTOJIMA:NUCLEAR TECHNOLOGY,VOL.58 AUG.1982)などが知られているが、蒸発分離法では全液を蒸発せしめる必要があり、その際飛沫同伴によるセシウムの漏出、イオン交換法では共存塩による妨害、共沈法ではフェロシアン化金属化合物がゼラチナスなため操作性が悪いなどいずれも種々の問題点をかかえている。また、フェロシアン化金属化合物を添着したゼオライトは、セシウム吸着剤としては優れているが、使用後の減容処理は困難である。
〔発明が解決しようとする課題〕
本発明者らは、焼却減容することのできるセシウム吸着剤を開発するべく鋭意検討を進めた結果、本発明を完成するに至ったものである。」(1頁左欄下から3行?2頁左上欄12行)

イ 「〔課題を解決するための手段〕
本発明によれば、水に難溶なフェロシアン化金属化合物を活性炭に添着せしめてなる可燃性セシウム吸着剤が提供される。
本発明者らは、以前にオキシンを活性炭に添着せしめてなるオキシン添着活性炭を焼却減容可能な放射性金属の除去剤として提供している(特公昭59-0483及び特開昭57-50697参照)が、この知見を活かし、難溶性フェロシアン化金属化合物を極めて大きな吸着表面積を有している活性炭の細孔内に沈着させ、可燃性のセシウム吸着剤の開発に成功したものである。
本発明の吸着剤は、本質的には活性炭と殆ど同等の性状を有し、粒状、破砕状あるいは粉末状など、その粒度あるいは形状として種々多様なものが製造でき、外観は活性炭そのものと変わらず、固定床、流動床など通常の工業的装置の使用条件で充分利用することができる。
本発明の吸着剤は、概略、次の手法で製造することが出来る。即ち、水に難溶なフェロシアン化物を生成する金属の水溶性塩を活性炭に吸着させ、次いでこれを水溶性のフェロシアン化化合物の水溶液で処理することにより、水に難溶なフェロシアン化金属化合物が細孔内に沈着された活性炭を得る。
具体的には、例えば、銅、亜鉛、ニッケルなどの可溶性塩、例えば硫酸塩、硝酸塩の水溶液を調製する。硫酸塩、硝酸塩の濃度としては用いる塩の溶解度にもよるが0.1?0.5モル濃度が望ましい。しかし、この濃度については厳密である必要はない。この水溶液1lに対して略1kgの割合で活性炭を加え、混和して、活性炭に溶液を吸着せしめる。溶液と活性炭の混和割合は必ずしもこの割合でなくともよいが、活性炭の割合が大きいときは吸着が不均一となる恐れがある。溶液を吸着した活性炭をそのまま次の工程に移行してもよいが、乾燥させた方が次の工程での処理が好ましくなり、ひいては吸着剤としての性能にもよい影響を与える。乾燥は静置或いは混和しながら乾燥機で水分を除去させることにより行う。乾燥温度は90℃前後でよく、水分の除去率は加えた水の50%以上であってよく、除去率は高い方が好ましい。
次に、この活性炭に可溶性フェロシアン化化合物の水溶液を加えて反応させることによりフェロシアン化金属化合物を活性炭の細孔内に沈着させることが出来る。フェロシアン化化合物としては種々あるが、フェロシアン化カリウムが適しており、その水溶液濃度は0.1?0.5モル濃度であるのが望ましい。その添加量は硫酸塩、硝酸塩の水溶液添加量の1/2モル濃度またはそれ以下であってよい。硫酸塩、硝酸塩の添着された前記活性炭に対しフェロシアン化化合物の水溶液略1lを加え、混和して活性炭の細孔内で反応させ、その結果生ずるフェロシアン化金属化合物を活性炭の細孔内に沈着せしめる。
その後、未反応の金属硫酸塩、硝酸塩あるいはフェロシアン化化合物を除去するため水洗を充分に行ない、90℃前後で乾燥させることにより、フェロシアン化金属化合物を添着した乾燥状態の活性炭が得られるが、水分を含んだ状態のものでもよければ水洗後水切りするだけで良い。
尚、水洗工程前に熟成処理を行ない、フェロシアン化金属化合物の結晶化を促進させることにより、よりいっそう効率よく且つ強固にフェロシアン化金属化合物を活性炭内に沈着させることができる。熟成は100℃以下で数時間加温すること或いは濃厚な中性のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬することによって達成され、その後前記同様水洗することにより目的物が得られる。」(2頁左上欄13行?3頁左上欄4行)

ウ 「〔実施例〕
以下、実施例を挙げ、本発明を更に説明する。
実施例1
硫酸銅の0.2モル水溶液1lを調製する。この水溶液をヤシ殻活性炭(20×48メッシュ)1kgに添加混合し、水溶液を吸着させる。次に、この活性炭を90℃で乾燥させ、水分の80%以上を除去する。次いで、この活性炭に0.1モルフェロシアン化カリウム水溶液1lを添加混合し、反応させる。続いて、水洗を充分に行ない、液切り後90℃で乾燥させて吸着剤を得た。
実施例2
硫酸銅の0.2モル水溶液1lを調製する。この水溶液をヤシ殻活性炭(20×48メッシュ)1kgに添加混合し、水溶液を吸着させる。次に、この活性炭を90℃で乾燥させ、水分の80%以上を除去する。次いで、この活性炭に0.1モルフェロシアン化カリウム水溶液1lを添加混合し、反応させる。続いて、90℃で3時間熟成を行なう。次いで、水洗を充分に行ない、液切り後90℃で乾燥させて吸着剤を得た。
実施例3
フェロシアン化カリウムの0.1モル水溶液1lを調製する。この水溶液をヤシ殻活性炭(20×48メッシュ)1kgに添加混合し、水溶液を吸着させる。次に、この活性炭を90℃で乾燥させ、水分の80%以上を除去する。次いで、この活性炭に0.2モル硫酸銅水溶液1lを添加混合し、反応させる。続いて、90℃で3時間熟成を行なう。次いで、水洗を充分に行ない、液切り後90℃で乾燥させて吸着剤を得た。
実施例4
実施例1で得られた吸着剤を、内径12.3mmφのガラス管に層高10cmとなるように充填した。・・・
実施例5
実施例2で得られた吸着剤を、内径12.3mmφのガラス管に層高10cmとなるように充填した。・・・
実施例6
実施例2で得られた吸着剤を、内径12.3mmφガラス管に層高10cmとなるように充填した。・・・
実施例7
実施例3で得られた吸着剤を、内径12.3mmφのガラス管に層高10cmとなるように充填した。(3頁左上欄13行?4頁左上欄13行)

(2)引用発明
上記(1)によれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「難溶性フェロシアン化金属化合物を極めて大きな吸着表面積を有している活性炭の細孔内に沈着させる可燃性のセシウム吸着剤の製造方法であって、
前記活性炭は、ヤシ殻活性炭であり、
前記吸着剤は、活性炭と同等の性状を有し、粒状であり、
フェロシアン化化合物としてフェロシアン化カリウムを用い、
水に難溶なフェロシアン化物を生成する金属の水溶性塩を活性炭に吸着させ、次いでこれを水溶性のフェロシアン化化合物の水溶液で処理することにより、水に難溶なフェロシアン化金属化合物が細孔内に沈着された活性炭を得て、
濃厚な中性のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬することによって熟成処理を行ない、
その後、水洗を充分に行ない、乾燥させる、
可燃性セシウム吸着剤の製造方法。」

2 引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の優先日前に頒布された刊行物である引用文献2(特表2007-501763号公報)には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、特に細粒形状(細粒状カーボン)、小球形状(小球状カーボン)の活性炭の製造方法、及びこれによって製造された活性炭製品及び、特にフィルタのための、例えば防護服のような防護部材のための種々の応用のためのそれらの使用に関する。」

イ 「【実施例】
【0050】
図1は、本願発明の特別な実施例に係る特許性のある方法に関する典型的な装置の概略を示すものである。いぶされ又は炭化される開始材料4a、例えばジビニルベンゼン架橋ポリスチレンに基づくポリマー小球、言い換えると非スルフォン化開始材料は、図中に示す1において提供される。前記非スルフォン化開始材料4aは、適当なスルフォン化剤、特に三酸化硫黄と、好ましくは発煙硫酸?スルフォン酸混合物の形で接触し、その後適当な搬送又は運搬手段、特に移動する搬送又は運搬ベルト上で炭化装置2、特にはベルトオーブン中を、r方向に連続して移動する専用の反応容器5に分配されて入れられる。前記炭化装置は、図示された実施例の場合、それぞれがロック7a,7bによってお互いに分離された3つの温度領域からなり、これによってロック7a,7bが配置された間の異なる温度領域からのプロセスガスの混合が実行されず、特に第2の温度領域からの酸性プロセスガスが、他のプロセスガスと混合されず、独立して収集される。スルフォン化剤と接触した開始材料4bは、炭化装置2の第1の温度領域においてまず最初にスルフォン化され、それに続いて、スルフォン酸基が開始材料から分離され又は分裂される過程である予備炭化のための第2の温度領域に導かれ、これによって、炭化は、形成された遊離基の架橋結合の後に生じる。最後に、このように予備炭化された材料4cは、搬送又は運搬手段6を介して炭化された製品4dを形成するために最終的に炭化を行う第3の温度領域に搬送される。これは、球状の炭化され且つ活性化されたカーボンを得るために活性化処理部3に送られる。
【0051】
さらに本発明は、本発明に方法によって製造され又は産出される製品、いわゆる細粒状又は小球状の活性炭を提供する。開始ポリマーが連続して、いわゆるとぎれずに、予備炭化された中間製品が冷却されることなしに、炭化が実行されるプロセスの連続した制御が、改善された特性を有し、特に改善された機械的且つ吸着特性を有する活性炭を与える。これは、出願人が、従来技術のように、予備炭化及び主炭化の間の分離、特に介在される冷却を有する予備炭化製品の遮断を有する炭化の場合の不連続な制御が、最終製品に関して有害であることを見いだした理由である。
【0052】
上述したように、得られた細粒状又は小球状カーボンの粒子サイズは、開始材料に依存する。一般的に、商業的に適当な開始材料は、約2mmまでの直径、特に1.5mm以下、たとえば約0.1mm?約1mmの範囲内、特には約0.2mm?0.8mmの範囲内の直径を有し、約0.4mm?約0.5mmの範囲内の平均値を有する活性炭細粒又は小球を生じる。開始材料の小球形状は、炭化及び活性化の間保持される。言い換えると、開始材料の形状は、所定の方法において最終製品の粒子サイズを制御及び決定することができる。このように製造された活性炭細粒又は小球の直径は、開始ポリマーの直径よりも小さい約0.1mmであり、これによって小球状カーボンの直径は、開始材料の適切な選択によって制御される。約0.4mm?約0.6mmの範囲内の平均値を有する約0.2mm?約1.0mmの範囲、特に約0.3mm?約0.8mmの範囲の球直径が、たくさんの応用に関して特に有益である。
【0053】
前記活性化は、約800m^(2)/g?約1500m^(2)/gの範囲、好ましくは約900m^(2)/g?約1200m^(2)/gの範囲の内部表面積を得ることができる。個々の活性炭細粒又は小球の破壊圧力は、一般的に約5N?20Nの範囲内である。本体重量(かさ密度)は、約400g/l?約800g/lの範囲内、好ましくは約500g/l?約750g/lの範囲内である。
【0054】
本発明によって得られる細粒状又は小球状カーボンは、たいへん良い腐食抵抗、易流動性、ダストレス及び高い圧力抵抗を有する。本発明は同様に、本発明の方法によって製造される高い強度、特に浮力抵抗強度の活性炭細粒又は小球を提供する。
【0055】
小球状カーボンの活性は、ほとんどの吸着されるべき分子が、この寸法の大きさであることから、活性炭における細孔によって、特に約20オングストロームの直径を有するマイクロ細孔によって重要に決定される。一般的に、マイクロ細孔は、活性炭の内部表面積の主な分画の原因である。さらに、約20?約500オングストロームの範囲の直径を有するいわゆる間孔-場合によって、過渡的又は誘導細孔-は重要である。さらにまた、まだ大きなマクロ細孔の分画がある。最終製品の特性は、開始材料の選択及び活性化段階のためのプロセス管理を介する独特の方法において制御される。マイクロ細孔の高い分画が要求される。
【0056】
当業者は、細孔量、細孔直径及び細孔分布が、活性化の程度にしたがって変化すること、最終製品の細孔系及び細孔構造、特に細孔直径及び表面構造が温度及び活性化を介する特別な方法において影響を受けることを知っているので、このことについては直接関係のある技術的な印刷物を参照することができる。
【0057】
本発明の方法によって製造された活性炭細粒又は小球は、優れた吸着特性を示す。触媒の浸透によって、本発明によって製造された活性炭細粒又は小球の吸着特性を、触媒(酵素、及び例えば銅、銀、プラチナ、クロム、亜鉛、水銀、パラジウム、カドミウム、鉄等の金属及びこれらの金属の混合物)が浸透することによって影響を及ぼし又は改善することができる。このように、本発明の製造方法によって得られた活性炭製品は、触媒作用の有効な成分、好ましく触媒作用の活発な金属の混合物からなる。触媒を有する活性炭の含浸は、当業者にはたいへん良くしられているので、このことについては直接関係のある技術的な印刷物を参照することができる。
【0058】
本発明の方法によって製造された活性炭細粒又は小球は、広い範囲の応用に使用される。本発明の方法によって製造された活性炭細粒又は小球は、例えば、吸着(シート)フィルタ、フィルタマット、消臭フィルタ、特に民間用及び/若しくは軍用分野のための防護服用シートフィルタ、室内空気浄化用フィルタ、ガスマスクフィルタ及び吸着可能支持構造又は防護材料、特に戦争薬剤のような化学毒に対する防護服の製造、又はフィルタ、特に空気又はガス流から有害、有毒及び/若しくは悪臭成分を排除するフィルタに関する用途を見いだすことができる。
【0059】
このように、本発明は、吸着材料、特に吸着(シート)フィルタ、フィルタマット、消臭フィルタ、戦争薬剤のような化学毒に対する防護服のような特に民間用及び/若しくは軍用分野のための防護服用シートフィルタ、室内空気浄化用フィルタ、及び防護服、ガスマスクフィルタ、空気又はガス流からの有害、有毒及び/又は悪臭物を排除するためのフィルタ及び本願発明によって製造される活性炭細粒又は小球からなる吸着可能支持構造を提供する。」

第4 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。
ア 引用発明の「ヤシ殻活性炭」は、本願発明1の「支持体」としての「ポリマー系球状活性炭」と、「ポリマー系活性炭」の点で一致する。

イ 引用発明の「難溶性フェロシアン化金属化合物を極めて大きな吸着表面積を有している活性炭の細孔内に沈着させる可燃性のセシウム吸着剤の製造方法」は、本願発明1の「支持体に沈殿される吸着剤を製造する方法であって、支持体として働くポリマー系球状活性炭上に、Cs^(+)吸着を可能にする無機吸着剤を沈殿させることを具備する方法」と、「支持体に沈殿される吸着剤を製造する方法であって、支持体として働くポリマー系活性炭上に、Cs^(+)吸着を可能にする無機吸着剤を沈殿させることを具備する方法」の点で一致する。

ウ 引用発明の「フェロシアン化化合物としてはフェロシアン化カリウムを用い、水に難溶なフェロシアン化物を生成する金属の水溶性塩を活性炭に吸着させ、次いでこれを水溶性のフェロシアン化化合物の水溶液で処理することにより、水に難溶なフェロシアン化金属化合物が細孔内に沈着された活性炭を得て」は、本願発明1の「b1) (i)ヘキサシアノ鉄酸(II)若しくはヘキサシアノ鉄酸(III)アニオン、及び (ii)NH_(4)^(+)、Li^(+)、Na^(+)、K^(+)若しくはRb^(+)、を含む水溶液で、前記支持体を含浸すること」と、「b1) (i)ヘキサシアノ鉄酸(II)アニオン、及び (ii)K^(+)を含む水溶液で、前記支持体を含浸すること」の点で一致する。

エ 引用発明の「濃厚な中性のアルカリ金属塩の水溶液に浸漬することによって熟成処理を行な」うことは、本願発明1の「(c1) 複合ヘキサシアノ鉄酸(II)若しくは複合ヘキサシアノ鉄酸(III)の形の支持体沈殿吸着剤を得るために)二価、三価若しくは四価の金属カチオンの塩の水溶液と、含浸された支持体を混合すること」に相当する。

オ 引用発明の「その後、水洗を充分に行ない、乾燥させる」ことは、本願発明1の「d)沈殿された吸着剤を含有する支持体を洗浄すること;e)段階d)に続いて、段階d)から結果として生じる洗浄された支持体を乾燥すること;」に相当する。

カ 引用発明の「可燃性セシウム吸着剤の製造方法」は、本願発明1の「吸着剤を製造する方法」に相当する。

キ したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。
《一致点》
「支持体に沈殿される吸着剤を製造する方法であって、支持体として働くポリマー系活性炭上に、Cs^(+)吸着を可能にする無機吸着剤を沈殿させることを具備する方法において、
前記方法が、
・a)支持体として、ポリマー系活性炭を具備すること;
・それから、
b1) (i)ヘキサシアノ鉄酸(II)アニオン
、及び
(ii)K^(+)を含む水溶液で、前記支持体を含浸すること、
c1) 複合ヘキサシアノ鉄酸(II)の形の支持体沈殿吸着剤を得るために、濃厚な中性のアルカリ金属塩の水溶液と、含浸された支持体を混合すること;
d)沈殿された吸着剤を含有する支持体を洗浄すること;
e)段階d)に続いて、段階d)から結果として生じる洗浄された支持体を乾燥すること;
からなる方法。」
《相違点》
「ポリマー系活性炭」が、本願発明1は、「ポリマー系球状活性炭」であって、
「・2nm以下の細孔直径を有するミクロ細孔によって形成される総細孔量の50%以上を有する0.5cm^(3)/g以上のグールビチ総細孔量、
・4nm以下の平均細孔量、及び、
・1000m^(2)/g以上のBET表面積、を有すること:を具備する」のに対し、引用発明はそのように特定されるものではない点。

(2)判断
上記相違点について検討すると、引用発明の「ヤシ殻活性炭」は、引用文献1によれば、「フェロシアン化金属化合物を添着したゼオライトは、セシウム吸着剤としては優れているが、使用後の減容処理は困難である。」(上記「第3」「1」「(1)」「ア」)という課題を解決するために、「焼却減容することのできる」(上記「第3」「1」「(1)」「ア」)ものとしたものとされている。
また、引用文献2には、ポリマーを炭化して製造した活性炭小球が記載されているが、当該活性炭小球自体が吸着材であって、これに吸着剤を含浸させて使用するものではないから、引用発明の「水に難溶なフェロシアン化金属化合物」を「細孔内に沈着さ」せる「活性炭」として使用することの動機付けはない。
したがって、引用発明の「ヤシ殻活性炭」として、引用文献2のポリマーを炭化して製造した活性炭小球を適用して、相違点に係る本願発明1の構成を容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2について
本願発明2も、本願発明1と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者が、引用発明、引用文献2に記載された事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第5 原査定の概要及び原査定についての判断
原査定は、請求項1及び2について上記引用文献1、2に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。
しかしながら、平成29年3月27付け手続補正により補正された請求項1及び2は、それぞれ「ポリマー系球状活性炭」であって、
「・2nm以下の細孔直径を有するミクロ細孔によって形成される総細孔量の50%以上を有する0.5cm^(3)/g以上のグールビチ総細孔量、
・4nm以下の平均細孔量、及び、
・1000m^(2)/g以上のBET表面積、を有すること:を具備する」という構成を有するものであり、上記のとおり、本願発明1及び2は、上記引用文献1に記載された発明及び上記引用文献2に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものではない。
したがって、原査定を維持することはできない。

第6 当審拒絶理由について
1 特許法第36条第6項第1号及び同第2号について
当審では、本願請求項1の、「活性炭」に関する
「・2nm以下の細孔直径を有するミクロ細孔によって形成される総細孔量の50%以上を有する0.5cm^(3)/g以上のグールビチ総細孔量、
・4nm以下の平均細孔量、及び、
・1000m^(2)/g以上のBET表面積、を有すること」、及び、本願明細書の「【0018】本願発明に関して、『ミクロ細孔』という言葉は、2nmまでの直径を有する細孔を示すものである。また、平均細孔直径は、それぞれの場合において窒素等温線に基づいて測定される。」と「【実施例1】【0066】実施例1:ポリマー系球状活性炭上へのヘキサシアノ鉄酸(II)亜鉛の沈殿 99%の破裂抵抗、1938m^(2)/gのBET表面積、2.5nmの平均細孔直径及び1.224cm^(3)/gのグールビチ表面積を有する1000gのポリマー系球状活性炭は、0.8MのK_(4)[Fe(CN)_(6)]・3H_(2)Oの溶液1.5リットルと混合され、揺動プレート上で、2時間振られる。」との記載と、本願明細書の段落【0016】の「本発明によるキャリヤ沈殿吸着剤のさらに好ましい例において、ポリマー系球状活性炭は、
・2nm以上の細孔直径を有するミクロ細孔によって形成された総細孔量の50%以上、好ましくは70%以上を有する0.5cm^(3)/g以上のグールビチ総細孔量、
・4nm以上の平均細孔直径、及び、
・1000m^(2)/g以上のBET表面積、
有するものである。・・・」との記載は対応しないため、対応関係が不明確であるとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年3月27日付けの手続補正において、本願明細書の段落【0016】は、「本発明によるキャリヤ沈殿吸着剤のさらに好ましい例において、ポリマー系球状活性炭は、
・2nm以下の細孔直径を有するミクロ細孔によって形成された総細孔量の50%以上、好ましくは70%以上を有する0.5cm^(3)/g以上のグールビチ総細孔量、
・4nm以下の平均細孔直径、及び、
・1000m^(2)/g以上のBET表面積、
を有するものである。」と補正された結果、この拒絶の理由は解消された。

2 特許法第36条第6項第2号について
(1)当審では、請求項3は、「支持体沈殿吸着剤」という物の発明であるが、「請求項1又は2に記載の方法によって取得された支持体沈殿吸着剤」との記載は、製造方法の発明を引用する場合に該当するため、当該請求項にはその物の製造方法が記載されているといえる。しかしながら、本願明細書等には不可能・非実際的事情について何ら記載がなく、当業者にとって不可能・非実際的事情が明らかであるとも言えない。したがって、請求項3に係る発明は明確でないとの拒絶の理由を通知しているが、平成29年3月27日付けの手続補正において、請求項3が削除された結果、この拒絶の理由は解消された。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明1及び2は、当業者が引用発明及び引用文献2に記載された技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものではない。
したがって、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-18 
出願番号 特願2014-525392(P2014-525392)
審決分類 P 1 8・ 537- WY (G21F)
P 1 8・ 121- WY (G21F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 鳥居 祐樹  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 松川 直樹
伊藤 昌哉
発明の名称 キャリヤ上に沈着する吸着剤、該吸着剤を製造する方法及び該吸着剤の使用  
代理人 特許業務法人大貫小竹国際特許事務所  

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