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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H02J
管理番号 1326865
審判番号 不服2015-8844  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-05-13 
確定日 2017-04-06 
事件の表示 特願2013-533376「電源システム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 3月21日国際公開、WO2013/038496〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯と本願発明
本願は、2011年9月13日を国際出願日とする出願であって、平成27年2月27日付けで拒絶の査定がされたところ、平成27年5月13日付けで審判の請求がなされ、これに対し当審において平成28年2月4日付けで拒絶理由通知がなされ、平成28年4月1日付けで意見書の提出と共に手続補正がなされ、当審において平成28年6月2日付けで拒絶理由通知がなされ、平成28年8月1日付けで意見書の提出がされたものである。

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成28年4月1日付け手続補正書により補正された、特許請求の範囲の請求項1に記載された以下のとおりのものと認める。

「【請求項1】
負荷に電力を供給する無停電電源装置(5)と、
前記負荷にバイパス電源(1)を接続する第1のスイッチ(6)と、
前記無停電電源装置(5)の停止時に、前記第1のスイッチ(6)をオンする切換回路(7)と、
前記無停電電源装置(5)の出力電圧の位相を、前記バイパス電源(1)の出力電圧の位相に同期させる同期回路(17)とを備え、
前記無停電電源装置(5)は、前記バイパス電源(1)とは別の交流電源(2)からの交流電力を前記負荷に供給し、
前記無停電電源装置(5)が停止した場合、前記切換回路(7)は、前記バイパス電源(1)の出力電圧の位相が前記無停電電源装置(5)の停止時の出力電圧の位相に等しいときに前記第1のスイッチ(6)をオンし、
前記切換回路(7)は、
前記無停電電源装置の出力電圧の位相を検出する第1の位相検出部(21)と、
前記無停電電源装置の停止時における、前記無停電電源装置の出力電圧の位相を記憶する記憶部(22)と、
前記バイパス電源の出力電圧の位相を検出する第2の位相検出部(23)と、
前記記憶部(22)に記憶された前記無停電電源装置の出力電圧の位相と、前記第2の位相検出部(23)により検出された前記バイパス電源の出力電圧の位相とを比較して、前記バイパス電源(1)の出力電圧の位相が前記無停電電源装置(5)の停止時の出力電圧の位相に等しいときに前記第1のスイッチ(6)をオンするスイッチ制御部(24)とを含む、電源システム。」

2.引用文献、引用文献の記載事項及び引用発明
(1)原審の拒絶理由に引用された特開2009-171771号公報(以下、「引用文献1」という。)には、「電力変換装置」として、図面とともに、以下の事項が記載されている(下線は当審付加。)。

ア.「【0001】
本発明は、インバータによる給電と商用電源による給電との間で負荷に対する給電の切換を行う電力変換装置に関するものである。」

イ.「【0046】
以下、本発明の一実施の形態を、図1?2を参照して説明する。
図1は、本実施の形態の電力変換装置の構成例を示している。
図1において、本実施の形態の電力変換装置は、インバータ4と、電源切換器5とを設けている。
【0047】
インバータ4は、内部の基準信号に基づいてバッテリ等のインバータ入力電源2から商用電源1に同期した交流電源を生成する。なお、インバータ入力電源2としては、商用電源1を一旦直流電源に変換したものや蓄電池等による構成があげられる。
【0048】
電源切換器5は、商用電源1による負荷3に対する給電をオン又はオフするためのサイリスタスイッチ等の高速スイッチ6と、インバータ4による負荷3に対する給電をオン又はオフするためのスイッチ7とで構成されている。
【0049】
なお、図示しないが、電源切換器5は、サイリスタスイッチ6とスイッチ7とをオン又はオフに制御する制御部を備えている。
【0050】
ここで、スイッチ7は、インバータ4のメンテナンス若しくは故障時にインバータ4による給電をオフするために用いるので、メカニカルスイッチでよい。これに対して、サイリスタスイッチ6は、商用電源1による負荷3に対する給電をオンするタイミングが要求されるため、高速切換制御を可能とする構成が要求される。」

ウ.「【0051】
ここで、本実施の形態の電力変換装置は、商用電源1の電圧を検出する電圧検出器8と、インバータ4の電圧を検出する電圧検出器9と、電圧位相差レベル判定回路10とを設けている。電圧位相差レベル判定回路10は、商用電源1の電圧とインバータ4の電圧との位相差が一定範囲内であるか否かを検出して、位相差判定結果11を出力する。
【0052】
さらに、本実施の形態の電力変換装置は、判定回路13を設けている。判定回路13は、位相差判定結果11と、切換指令12が入力される。
【0053】
位相差判定結果11は、商用電源1の電圧とインバータ4の電圧との位相差が一定範囲内のとき「1」(同期時)、位相差が一定範囲外のとき「0」(非同期時)となる値である。切換指令12は、インバータ4から商用電源1への切換指令であり、切換時に「1」、非切換時に「0」となる値である。
【0054】
判定回路13は、一方の入力が負論理で他方の入力が正論理のアンド回路13-1と、2入力が正論理のアンド回路13-2で構成される。
【0055】
判定回路13のアンド回路13-2は、位相差判定結果11が「1」のとき(同期時)及び切換指令12が「1」のとき、位相差同期時切換指令14を出力する。
【0056】
また、判定回路13のアンド回路13-1は、位相差判定結果11が「0」であって(非同期時)、切換指令12が「1」のとき、位相差非同期時切換指令15を出力する。
【0057】
ここで、本実施の形態の電力変換装置は、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力する位相差測定回路19を設けている。
【0058】
さらに、本実施の形態の電力変換装置は、電源切換器5のインバータ4による給電の遮断時に位相差測定回路19で測定された位相差だけ位相差非同期時切換指令15を遅延させて商用電源1による給電を開始させる遅延時間を設定する可変時限ディレイ21を設けている。」

エ.「【0068】
次に、商用電源1の電圧とインバータ4の電圧との位相差が一定範囲外であり、非同期の場合を説明する。これは、電圧位相差レベル判定回路10でインバータ4の出力と商用電源1とが非同期であると判定されたときの動作である。
【0069】
判定回路13のアンド回路13-1は、位相差判定結果11が「0」(非同期時)であって、かつ切換指令12が「1」であるため、位相非同期時切換指令15を出力する。
【0070】
また、オア回路17-1は、位相非同期時切換指令15が「1」のとき、位相同期時切換指令14の出力如何にかかわらず、スイッチオフ指令17を電源切換器5のスイッチ7に供給する。
【0071】
ここで、位相差測定回路19は、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力する。
【0072】
また、可変時限ディレイ21は、電源切換器5のインバータ4による給電の遮断時に位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく位相差だけ遅延させて、商用電源1による給電を開始させるために位相非同期時切換指令15を遅延させる。この遅延時間は位相差結果20に基づく位相差に応じて可変設定される。
【0073】
ここで、オア回路18-1は、位相差結果20に基づく位相差期間、可変時限ディレイ21により遅延された位相非同期時切換指令15が「1」のとき、位相同期時切換指令14の出力如何にかかわらず、サイリスタスイッチオン指令18を電源切換器5のサイリスタスイッチ6に供給する。
【0074】
このとき、電源切換器5は、スイッチ7をオフにしたときから位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく位相差期間後にサイリスタスイッチ6をオンにする。
【0075】
すなわち、非同期時であっても、位相差結果20に基づく位相差期間経過後(一周期以内)に切換を行うことができる。位相差結果20に基づく位相差期間経過後には、商用電源1はインバータ4の出力と同期しているため、負荷3に印加される電圧もしくは電圧の位相が急変することはなく、負荷電流が過大になることはない。
【0076】
図2は、インバータ出力と商用電源が同期していないとき、スイッチ切換指令が電源切換器5に供給されたときの各部の波形図である。
【0077】
ここで、可変時限ディレイ21で遅延された位相非同期時切換指令15は、インバータ4による給電から位相差結果20に基づく位相差期間経過後に商用電源1による負荷3に対する給電へ切換を行うためのものである。
【0078】
すなわち、図2の動作は、可変時限ディレイ21で遅延された位相非同期時切換指令15に基づくスイッチオフ指令17及びサイリスタスイッチオン指令18が電源切換器5のスイッチ7及びサイリスタスイッチ6に供給されるときの動作である。
【0079】
図2Aに示すインバータ出力電圧と、図2Bに示す商用電源電圧とは位相差Δがあり、同期していない。このため、インバータ出力電圧から商用電源電圧への瞬時の切換を行うことはできない。なお、この位相差Δの検出は、例えば、インバータ4の出力と商用電源1の電圧波形のゼロクロス点を検出すること等により行われる。
【0080】
まず、T1時点で切換を行うことにより、インバータ4による給電を停止する。これにより、図2Dに示すインバータ出力電流はT1時点で遮断されるので、図2Fに示す負荷電流もT1時点で遮断される。
【0081】
そこで、負荷電流のT1時点の遮断から、最長1周期の給電停止期間T12の経過後のT2時点で、切換を行うことにより、商用電源1による給電を開始する。この最長1周期の給電停止期間T12は、位相差結果20に基づく位相差期間である。
【0082】
これにより、インバータ出力電流が遮断されたT1時点から、最長1周期の給電停止期間T12経過後のT2時点で、図2Eに示す商用電源電流が供給される。
【0083】
従って、負荷電流は、上記位相差Δがある場合でも、T1時点から最長1周期の給電停止期間T12の経過後のT2時点で、上記位相差Δをなくした後に負荷3への給電を開始するようにしている。」

・上記イ.には「なお、図示しないが、電源切換器5は、サイリスタスイッチ6とスイッチ7とをオン又はオフに制御する制御部を備えている。」(【0049】)とあり、「スイッチ7は、インバータ4のメンテナンス若しくは故障時にインバータ4による給電をオフするために用いるので、メカニカルスイッチでよい。これに対して、サイリスタスイッチ6は、商用電源1による負荷3に対する給電をオンするタイミングが要求される」【0050】とあること、また、上記ウ.には「スイッチオフ指令17及びサイリスタスイッチオン指令18が電源切換器5のスイッチ7及びサイリスタスイッチ6に供給される」(【0078】)とあることから、インバータ4のメンテナンス若しくは故障時に、サイリスタスイッチ6の制御部に、サイリスタスイッチオン指令18を供給するといえる。

・上記ウ.エ.には、サイリスタスイッチオン指令18が、電圧検出器8、電圧検出器9、電圧位相差レベル判定回路10、判定回路13、アンド回路13-1、アンド回路13-2、位相差測定回路19、可変時限ディレイ21、オア回路18-1によって供給されることが示されており、サイリスタスイッチオン指令18を供給する手段を有するものである。

・上記イ.には「インバータ4は、内部の基準信号に基づいてバッテリ等のインバータ入力電源2から商用電源1に同期した交流電源を生成する。」(【0047】)とあるから、インバータは出力電圧の位相を商用電源の出力電圧の位相に同期させる手段を備えるものといえる。

・上記イ.には「インバータ4は、内部の基準信号に基づいてバッテリ等のインバータ入力電源2から商用電源1に同期した交流電源を生成する。なお、インバータ入力電源2としては、商用電源1を一旦直流電源に変換したものや蓄電池等による構成があげられる。」(【0047】)とあるように、インバータ4は、蓄電池等から交流電源を生成して負荷3に対する給電をするものである。

・上記エには、サイリスタスイッチオン指令18が供給される時の図2の動作の説明として「インバータ出力電流が遮断されたT1時点から、最長1周期の給電停止期間T12経過後のT2時点で、図2Eに示す商用電源電流が供給される。従って、負荷電流は、上記位相差Δがある場合でも、T1時点から最長1周期の給電停止期間T12の経過後のT2時点で、上記位相差Δをなくした後に負荷3への給電を開始するようにしている。」(【0082】、【0083】)とあり、サイリスタスイッチオン指令18は、インバータ4の出力電圧がオフされた時の位相と商用電源1の出力電圧の位相との位相差をなくした時点でサイリスタスイッチ6に供給されるものといえる。

・上記イ.乃至エ.には、「インバータ4による給電をオフ」(【0050】)、「スイッチ7をオフ」(【0074】)、「インバータ4による給電を停止」(【0080】)、「インバータ出力電流はT1時点で遮断」(【0080】)、負荷電流のT1時点の遮断(【0081】)、インバータ出力電流が遮断(【0082】)等とあるが、これらは「インバータ4による給電をオフ」したことを示すものといえる。

・上記ウ.に記載される「商用電源1の電圧を検出する電圧検出器8と、インバータ4の電圧を検出する電圧検出器9と」の検出出力は、図1を参照すると、位相差測定回路19に入力されるから、商用電源1の電圧を検出する電圧検出器8と、インバータ4の電圧を検出する電圧検出器9との検出出力が入力される位相差測定回路19が示されている。

・上記エ.の「判定回路13のアンド回路13-1は、位相差判定結果11が「0」(非同期時)であって、かつ切換指令12が「1」であるため、位相非同期時切換指令15を出力する。また、オア回路17-1は、位相非同期時切換指令15が「1」のとき、位相同期時切換指令14の出力如何にかかわらず、スイッチオフ指令17を電源切換器5のスイッチ7に供給する。ここで、位相差測定回路19は、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力する。」(【0069】?【0071】)の記載は、インバータ4による給電をオフした時、位相差測定回路19は、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力するものといえる。

・上記エ.の「可変時限ディレイ21は、電源切換器5のインバータ4による給電の遮断時に位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく位相差だけ遅延させて、商用電源1による給電を開始させるために位相非同期時切換指令15を遅延させる。この遅延時間は位相差結果20に基づく位相差に応じて可変設定される。ここで、オア回路18-1は、位相差結果20に基づく位相差期間、可変時限ディレイ21により遅延された位相非同期時切換指令15が「1」のとき、位相同期時切換指令14の出力如何にかかわらず、サイリスタスイッチオン指令18を電源切換器5のサイリスタスイッチ6に供給する。」(【0072】?【0073】)の記載は、位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく遅延時間だけ遅延させて、商用電源1による給電を開始させるために、サイリスタスイッチオン指令18を供給するものといえる。

上記の記載事項及び図面を参照すると、引用文献1には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が開示されていると認められる。

「負荷3に対する給電を行うインバータ4及びスイッチ7と、
前記負荷3に対する商用電源1による給電をオン又はオフするためのサイリスタスイッチ6と、
前記インバータ4のメンテナンス若しくは故障時に、前記サイリスタスイッチ6の制御部に、サイリスタスイッチオン指令18を供給する手段と、
前記インバータ4の出力電圧の位相を、前記商用電源1の出力電圧の位相に同期させる手段とを備え、
前記インバータ4は、蓄電池等から交流電源を生成してスイッチ7を介して前記負荷3に対する給電をし、
前記インバータ4のメンテナンス若しくは故障時に、前記サイリスタスイッチ6の制御部へのサイリスタスイッチオン指令18は、インバータ4の出力電圧がオフされた時の位相と商用電源1の出力電圧の位相との位相差をなくした時点でサイリスタスイッチ6に供給され、
前記サイリスタスイッチ6の制御部に、サイリスタスイッチオン指令18を供給する手段は、
商用電源1の電圧を検出する電圧検出器8と、インバータ4の電圧を検出する電圧検出器9との出力が入力される位相差測定回路19が、インバータ4による給電がオフされた時、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力し、位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく遅延時間だけ遅延させて、商用電源1による給電を開始させるために、サイリスタスイッチオン指令18を供給することを含む、
電力変換装置。」

(2)本願の出願日前に公知である、特開2002-17055号公報(以下、「引用文献2」という。)には、「無停電電源装置」として、図面とともに、以下の記載がある(下線は当審付加。)。

ア.「【請求項1】 電力の供給を行う第一の交流電源と、
上記第一の交流電源とは別系統の第二の交流電源と、
上記第一の交流電源を入力とし所望の交流電力を発生させる電力変換器と、
上記電力変換器の出力を負荷に接続する第一の交流スイッチと、
上記電力変換器からの出力を上記負荷に供給することができなくなった場合に上記第一の交流スイッチと連動して上記電力変換器の出力と上記第二の交流電源の出力とを切り換える第二の交流スイッチ」

上記の記載事項及び図面を参照すると、引用文献2には以下の技術的事項が開示されていると認められる。
「第一の交流電源を入力とし所望の交流電力を発生させる電力変換器の出力と、第一の交流電源とは別系統の第二の交流電源の出力とを切り換えて負荷に接続すること。」

(3)本願の出願日前に公知である、特開昭57-46416号公報(以下、「引用文献3」という。)には、「突入電流防止回路」として、図面とともに、以下の記載がある(下線は当審付加。)。

ア.「機器の電源入力トランスへ給電するAC電源ラインに挿入された電源投入制御回路と、この投入制御回路へのAC入力の投入遮断を検出し判定する投入遮断検出回路と、この検出回路で検出されるAC入力の投入遮断時の位相を検出する位相検出回路と、前記投入制御回路からのAC出力の投入遮断時の位相を検出判定し記憶する位相記憶回路と、前記投入遮断検出、位相検出、位相記憶の各回路からの信号を判定し、突入電流が生じない条件時に前記投入制御回路に投入信号を送出しこれを作動させる比較回路とを具備したことを特徴とする突入電流防止回路。」(第1頁左下欄「2.特許請求の範囲」)

上記の記載事項及び図面を参照すると、引用文献3には以下の技術的事項が開示されていると認められる。
「機器へ給電するAC電源ラインに挿入された電源投入制御回路は、AC出力の投入遮断時の位相を検出判定し記憶する位相記憶回路と、投入遮断検出、位相検出、位相記憶の各回路からの信号を判定し、突入電流が生じない条件時に投入制御回路に投入信号を送出して作動させる比較回路とを具備した突入電流防止回路。」

(4)本願の出願日前に公知である、特開平10-164754号公報(以下、「引用文献4」という。)には、「単相変圧器用突入電流防止装置」として、図面とともに、以下の記載がある(下線は当審付加。)。

ア.「【0008】ここで、電気設備の保守点検等のため、メインスイッチ4が開操作されて、変圧器2へ供給していた電源が遮断されると、同時に電源回路6および遮断位相検出回路7が停止するとともに、スイッチング素子9がオフ状態となる。このとき、投入制御回路8は、開操作される以前の少なくとも1サイクル以上の区間の電源電圧値の変化パターンあるいは最大値・最小値より遮断時点の位相を算出して記憶する。次に、保守点検等が終了して、メインスイッチ4が閉操作されて、変圧器2へ電源が再投入されると、電源回路6および遮断位相検出回路7は動作状態となる。
【0009】この時点では、スイッチング素子9はまだオフの状態である。次に、動作を開始した遮断位相検出回路7からは、サンプリングした電源電圧値がA/D変換されて投入制御回路8へ送られる。次いで、投入制御回路8では、記憶されている遮断以前の電圧位相データと再投入後に新たに入力された電圧値とから、スイッチング素子9をオンにして変圧器2へ電源を再投入する最適な位相タイミングを求め、そのタイミングに達すると、スイッチング素子9をオンにする。
【0010】ここで、投入制御回路8が算出する最適な位相タイミングとは、例えば、遮断された時点の位相に、投入するときの位相を一致させることであり、位相の一致により、残留磁束の影響がなくなり突入電流の発生が防がれる。図3は、この実施形態における制御結果の一例を示すもであり、電源電圧が0ボルトで残留磁束が最大のときに遮断された場合、同一位相で電源が投入されることにより、電源電圧および電流が遮断前と再投入後が連続する正弦波を形成して、定常状態と同じく突入電流の発生が防止される。また、換言すると、再投入時に、遮断以前の磁束密度に対して反対の極性の磁束が発生するように電圧を印加するので、遮断以前の残留磁束密度にさらに磁束密度が加算されるように電圧が印加されることはない。」

引用文献4の記載事項及び図面を参照すると、引用文献4には、以下の技術的事項が開示されていると認められる。

「電気設備の保守点検等のため、変圧器2へ供給していた電源が遮断されると、投入制御回路8は、遮断時点の位相を算出して記憶し、保守点検等が終了すると、記憶されている遮断以前の電圧位相データと再投入後に新たに入力された電圧値とから、スイッチング素子9をオンにして変圧器2へ電源を再投入するに最適な位相が一致するタイミングを求め、そのタイミングに達すると、スイッチング素子9をオンにすること。」

3.対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

・引用発明の「負荷3」は、本願発明の「負荷」に相当する。
・本願発明の「無停電電源装置(5)」は、本願明細書の【0004】や【0014】に出力スイッチを有するものとして記載されており、引用発明の「インバータ4」は「スイッチ7」によって、負荷3への給電をオフにするものであるから、引用発明の「インバータ4及びスイッチ7」は、本願発明の「無停電電源装置(5)」に相当する。
・引用発明の「給電を行う」ことは、本願発明の「電力を供給する」ことに相当する。
・引用発明の「商用電源1」及び「サイリスタスイッチ6」は、それぞれ、本願発明の「バイパス電源(1)」及び「第1のスイッチ(6)」に相当し、引用発明の「負荷3に対する商用電源1による給電をオン又はオフするためのサイリスタスイッチ6」は、オンした時に負荷3に対し商用電源1を接続するものであるので、本願発明の「負荷にバイパス電源(1)を接続する第1のスイッチ(6)」に相当する。
・引用発明の「インバータ4のメンテナンス若しくは故障時」は、インバータ4の負荷への給電をオフする時であるから、本願発明の「無停電電源装置(5)の停止時」、または「無停電電源装置(5)が停止した場合」に相当する。
・引用発明の「サイリスタスイッチ6の制御部に、サイリスタスイッチオン指令18を供給する手段」は、負荷3に対する商用電源1による給電に切換えを指令するための手段であるから、本願発明の「前記無停電電源装置(5)の停止時に、前記第1のスイッチ(6)をオンする切換回路」と、前記無停電電源装置の停止時に、前記第1のスイッチをオンする切換手段である点で共通する。
・引用発明のインバータ4を商用電源1に同期させる手段は、回路によって構成されるものといえ、引用発明の「インバータ4の出力電圧の位相を、前記商用電源1の出力電圧の位相に同期させる手段を備え」ることは、本願発明の「無停電電源装置(5)の出力電圧の位相を、前記バイパス電源(1)の出力電圧の位相に同期させる同期回路(17)」を「備え」ることに相当する。
・引用発明の「蓄電池等から交流電源を生成して前記負荷3に対する給電を」行う態様と、本願発明の「前記バイパス電源(1)とは別の交流電源(2)からの交流電力を前記負荷に供給」する態様とは、バイパス電源とは別の電源からの交流電力を負荷に供給する点において共通する。
・引用発明の「サイリスタスイッチ6の制御部へのサイリスタスイッチオン指令18は、インバータ4の出力電圧がオフされた時の位相と商用電源1の出力電圧の位相との位相差をなくした時点で供給されて前記サイリスタスイッチ6をオン」する態様は、インバータ4による給電をオフするときの位相に商用電源電圧の位相が達したときにサイリスタスイッチ6をオンするものであるから、本願発明の「バイパス電源(1)の出力電圧の位相が前記無停電電源装置(5)の停止時の出力電圧の位相に等しいときに前記第1のスイッチ(6)をオン」する態様に相当する。
・引用発明の「商用電源1の電圧を検出する電圧検出器8と、インバータ4の電圧を検出する電圧検出器9との出力が入力される位相差測定回路19が、インバータ4による給電がオフされた時、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力し、位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく遅延時間だけ遅延させて、商用電源1による給電を開始させるために、サイリスタスイッチオン指令18を供給する」する態様と、本願発明の「無停電電源装置の出力電圧の位相を検出する第1の位相検出部(21)と、無停電電源装置の停止時における、無停電電源装置の出力電圧の位相を記憶する記憶部(22)と、バイパス電源の出力電圧の位相を検出する第2の位相検出部(23)と、記憶部(22)に記憶された無停電電源装置の出力電圧の位相と、第2の位相検出部(23)により検出されたバイパス電源の出力電圧の位相とを比較して、バイパス電源(1)の出力電圧の位相が無停電電源装置(5)の停止時の出力電圧の位相に等しいときに前記第1のスイッチ(6)をオンするスイッチ制御部(24)とを含む」態様とは、無停電電源装置の停止時における、無停電電源装置の出力電圧の位相と、バイパス電源の出力電圧の位相とを比較して、バイパス電源の出力電圧の位相が無停電電源装置の停止時の出力電圧の位相となるときに第1のスイッチをオンする点において共通する。
・引用発明の「電力変換装置」は、インバータ4による給電と商用電源1による給電との間で負荷3に対する給電の切換を行う電源に関するシステムであり、本願発明の「電源システム」に相当する。

したがって、本願発明と引用発明は、以下の点で一致し、また、相違していると認められる。
<一致点>
「負荷に電力を供給する無停電電源装置と、
前記負荷にバイパス電源を接続する第1のスイッチと、
前記無停電電源装置の停止時に、前記第1のスイッチをオンする切換手段と、
前記無停電電源装置の出力電圧の位相を、前記バイパス電源の出力電圧の位相に同期させる同期回路とを備え、
前記無停電電源装置は、前記バイパス電源とは別の電源からの交流電力を前記負荷に供給し、
前記無停電電源装置が停止した場合、前記切換手段は、前記バイパス電源の出力電圧の位相が前記無停電電源装置の停止時の出力電圧の位相に等しいときに前記第1のスイッチをオンし、
前記切換手段は、
前記無停電電源装置の停止時における、前記無停電電源装置の出力電圧の位相と、前記バイパス電源の出力電圧の位相とを比較して、前記バイパス電源の出力電圧の位相が前記無停電電源装置の停止時の出力電圧の位相となるときに前記第1のスイッチをオンする、
電源システム。」

<相違点1>
バイパス電源とは別の電源に関し、本願発明は「別の交流電源(2)」であるのに対し、引用発明は電池等による電源である点。

<相違点2>
切換手段に関し、本願発明は「第1のスイッチをオンする切換回路」であるのに対し、引用発明は、サイリスタスイッチ6の制御部に、サイリスタスイッチオン指令18を供給する手段である点。

<相違点3>
無停電電源装置の停止時における、無停電電源装置の出力電圧の位相と、バイパス電源の出力電圧の位相とを比較して、バイパス電源の出力電圧の位相が無停電電源装置の停止時の出力電圧の位相となるときに第1のスイッチをオンすることに関し、本願発明は「無停電電源装置の出力電圧の位相を検出する第1の位相検出部(21)と、無停電電源装置の停止時における、無停電電源装置の出力電圧の位相を記憶する記憶部(22)と、バイパス電源の出力電圧の位相を検出する第2の位相検出部(23)と、記憶部(22)に記憶された無停電電源装置の出力電圧の位相と、第2の位相検出部(23)により検出されたバイパス電源の出力電圧の位相とを比較してバイパス電源(1)の出力電圧の位相が無停電電源装置(5)の停止時の出力電圧の位相に等しいときに」、「スイッチ制御部(24)」が行うのに対し、引用発明は、商用電源1の電圧を検出する電圧検出器8と、インバータ4の電圧を検出する電圧検出器9との出力が入力される位相差測定回路19が、インバータ4による給電がオフされた時、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定して位相差結果20を出力し、位相差測定回路19で測定された位相差結果20に基づく遅延時間だけ遅延させて、サイリスタスイッチオン指令18を供給することによって行うものである点。

相違点1について検討する。
別系統の交流電源を切換可能に用いることで停電を回避することはごく一般的な技術であり、又、引用文献2に、第一の交流電源を入力とし所望の交流電力を発生させる電力変換器の出力と、第一の交流電源とは別系統の第二の交流電源の出力とを切り換えて負荷に接続する技術が開示されているように、電力変換機の電源として用いられる電力系統を直接負荷に接続される電力系統と別系統の交流電源とすることも周知の技術である。
したがって、引用発明の蓄電池等からなるインバータ4の電源を、別の交流電源を用いて生成することで、相違点1のごとく構成することは、当業者にとって容易に想到し得たことである。

相違点2について検討する。
本願発明においても「第1のスイッチをオンする切換回路(7)」は、第1のスイッチを構成する半導体素子に動作を行わせるための電圧などを印加する制御手段を有することが前提となった上で、切換回路(7)から供給される信号に基づき、第1のスイッチ(6)をオンするものであるといえるから、引用発明の、サイリスタスイッチ6の制御部に、サイリスタスイッチオン指令18を供給する点において実質的な相違はない。
また、引用発明のサイリスタスイッチオン指令18は、回路によって供給されるものといえるから、引用発明と本願発明とは、切換回路である点に関しても相違するとはいえないものである。
したがって、相違点2は実質的な相違ではない。

相違点3について検討する。
引用発明は、インバータ4による給電がオフされた時、インバータ4の出力を基準にして商用電源1の位相差を測定することで、インバータ4による給電がオフされた時点で、商用電源1の電圧の位相が一致するまでの時間を設定し、サイリスタスイッチオン指令18を供給する時点を決定するものである。
これに対し、本願発明は、無停電電源装置の停止時における出力電圧の位相を検出して記憶部に記憶し、バイパス電源の出力電圧の位相が一致したときにバイパス電源の接続を行うものである。
そうすると、引用発明は、インバータ4による給電がオフされた時、商用電源1の電圧の位相が一致するであろう時点を予想して制御を行うものであるのに対して、本願発明は、バイパス電源の位相が実際に一致した時点において制御を行うものであるから、引用発明が、位相の一致の時点を簡略に決定しているのに対し、本願発明は、実際に一致した時点を正確に検出している点において相異するものといえる。
一方、たとえば、引用文献3には、機器へ給電するAC電源ラインに挿入された電源投入制御回路は、AC出力の投入遮断時の位相を検出判定し記憶する位相記憶回路と、投入遮断検出、位相検出、位相記憶の各回路からの信号を判定し、突入電流が生じない条件時に投入制御回路に投入信号を送出して作動させる比較回路とを具備した突入電流防止回路が開示され、また、引用文献4には、電気設備の保守点検等のため、変圧器2へ供給していた電源が遮断されると、投入制御回路8は、遮断時点の位相を算出して記憶し、保守点検等が終了すると、記憶されている遮断以前の電圧位相データと再投入後に新たに入力された電圧値とから、スイッチング素子9をオンにして変圧器2へ電源を再投入するに最適な位相が一致するタイミングを求め、そのタイミングに達すると、スイッチング素子9をオンにすることがそれぞれ開示されている。
そうすると、給電が遮断されたときの位相を記憶手段に記憶しておき、その後給電を復帰させる時には当該記憶手段に記憶された位相との比較で、給電の時点を決定することは周知の技術的事項であるといえる。
したがって、引用発明において、インバータ4による給電がオフされた時、商用電源1の位相が一致する時点を、給電がオフされた時からの時間差として求めることに代えて、インバータ4がオフされるときの出力電圧の位相を検出部によって検出して記憶部に記憶させ、この記憶された位相と、検出部を用いて検出した商用電源1の出力電圧の位相とが一致する時、サイリスタスイッチ6にオン指令18を供給するスイッチ制御部を用いることは、当業者が容易に想到し得たものといえる。
また、その際、検出対象に応じて検出部をそれぞれ設けることは格別のことではないから、インバータ4の出力電圧の位相を検出する検出部と、商用電源1の出力電圧の位相を検出する検出部とを、それぞれ、第1の検出部、第2の検出部として構成したことも、当業者が適宜なし得る設計的な事項である。
そして、本願発明に関する作用・効果も引用発明及び周知の技術から当業者が予測できる範囲のものである。

4.結語
以上のとおり、本願発明は引用発明及び周知の技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。
そうすると、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、原査定は維持されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-01-31 
結審通知日 2017-02-07 
審決日 2017-02-20 
出願番号 特願2013-533376(P2013-533376)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (H02J)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂本 聡生石川 晃  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 矢島 伸一
永田 和彦
発明の名称 電源システム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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