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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1326897
審判番号 不服2017-212  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-05-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2017-01-06 
確定日 2017-04-03 
事件の表示 特願2016-121905「半導体基板の微小亀裂形成方法及び微小亀裂形成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成28年12月1日出願公開,特開2016-201551〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成23年6月13日に出願した特願2011-131490号の一部を平成27年8月28日に新たな特許出願とした特願2015-168990号の一部を平成28年3月2日に新たな特許出願とした特願2016-39946号の一部を平成28年6月20日に新たな特許出願としたものであって,その主な手続の経緯は以下のとおりである。
平成28年7月8日付け :拒絶理由の通知
平成28年7月25日 :意見書の提出
平成28年8月17日付け:拒絶理由の通知
平成28年9月16日 :意見書の提出
平成28年10月5日付け:拒絶査定(謄本送達日平成28年10月7日)
平成29年1月6日 :審判請求書の提出

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は,特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。

「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハに対し、前記ウェーハを割断する起点になる微小亀裂を形成する半導体基板の微小亀裂形成方法において、
前記ウェーハの表面をテーブルに真空吸着した状態で前記ウェーハの裏面を研削することにより、前記改質領域から延びる微小亀裂を進展させる研削工程を有する、
半導体基板の微小亀裂形成方法。」

第3 引用刊行物
1 引用例1
(1) 原査定の拒絶の理由で引用された,本願の遡及日前に頒布された刊行物である,国際公開第03/077295号(2003年9月18日国際公開。以下,「引用例1」という。)には,図1ないし35とともに,次の記載がある。

「技術分野
本発明は、半導体デバイスの製造工程等において半導体基板等の基板を分割するために使用される基板の分割方法に関する。」(明細書第1ページ第3-5行)

「この半導体基板の分割方法によれば、切断起点領域を形成する工程においては、基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射し、基板の内部に多光子吸収という現象を発生させて改質領域を形成するため、この改質領域でもって、基板を切断すべき所望の切断予定ラインに沿うよう半導体基板の内部に切断起点領域を形成することができる。基板の内部に切断起点領域が形成されると、自然に或いは比較的小さな力によって、切断起点領域を起点として基板の厚さ方向に割れが発生する。
そして、基板を研磨する工程においては、基板の内部に切断起点領域を形成した後に、基板が所定の厚さとなるよう基板を研磨するが、このとき、研磨面が、切断起点領域を起点として発生した割れに達しても、この割れにより切断された基板の切断面は互いに密着した状態であるため、研磨による基板のチッピングやクラッキングを防止することができる。
したがって、チッピングやクラッキングの発生を防止して、基板を薄型化し且つ基板を分割すること可能となる。
ここで、集光点とは、レーザ光が集光した箇所のことである。また、研磨とは、切削、研削及びケミカルエッチング等を含む意味である。さらに、切断起点領域とは、基板が切断される際に切断の起点となる領域を意味する。」(第2ページ第6-21行)

「続いて、レーザ光源101からレーザ光Lを発生させて、レーザ光Lを半導体基板1の表面3の切断予定ライン5に照射する。レーザ光Lの集光点Pは半導体基板1の内部に位置しているので、溶融処理領域は半導体基板1の内部にのみ形成される。そして、切断予定ライン5に沿うようにX軸ステージ109やY軸ステージ111を移動させて、切断予定ライン5に沿うよう形成された溶融処理領域でもって切断予定ライン5に沿う切断起点領域を半導体基板1の内部に形成する(S113)。
以上により切断起点領域を形成する工程が終了し、半導体基板1の内部に切断起点領域が形成される。半導体基板1の内部に切断起点領域が形成されると、自然に或いは比較的小さな力によって、切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生する。
実施例1では、上述した切断起点領域を形成する工程において、半導体基板1の内部の表面3側に近い位置に切断起点領域が形成され、この切断起点領域を起点として半導体基板1の厚さ方向に割れが発生している。」(第18ページ第14行-第19ページ第1行)

「次に、半導体基板1を研磨する工程について、図17?図21を参照して説明する。図17?21は、半導体基板を研磨する工程を含む各工程を説明するための図である。なお、実施例1では、半導体基板1が厚さ350μmから厚さ50μmに薄型化される。
図17に示すように、上記切断起点領域形成後の半導体基板1の表面3に保護フィルム20が貼り付けられる。保護フィルム20は、半導体基板1の表面3に形成されている機能素子19を保護すると共に、半導体基板1を保持するためのものである。続いて、図18に示すように、半導体基板1の裏面21が平面研削され、この平面研削後に裏面21にケミカルエッチングが施されて、半導体基板1が50μmに薄型化される。これにより、すなわち半導体基板1の裏面21の研磨により、切断起点領域を起点として発生した割れ15に裏面21が達して、機能素子19それぞれを有する半導体チップ25に半導体基板1が分割される。なお、上記ケミカルエッチングとしては、ウェットエッチング(HF・HNO_(3))やプラズマエッチング(HBr・Cl_(2))等が挙げられる。
そして、図19に示すように、すべての半導体チップ25の裏面を覆うよう拡張フィルム23が貼り付けられ、その後、図20に示すように、すべての半導体チップ25の機能素子19を覆うよう貼り付けられていた保護フィルム20が剥がされる。続いて、図21に示すように、拡張フィルム23がエキスパンドされて各半導体チップ25が互いに離間され、吸着コレット27により半導体チップ25がピックアップされる。」(第19ページ第16行-第20ページ第9行)

「また、半導体基板を研磨する工程においては、半導体基板1の裏面21にケミカルエッチングを施すため、半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の裏面をより平滑化することができる。さらに、切断起点領域を起点として発生した割れ15による半導体基板1の切断面が互いに密着しているため、図22に示すように、当該切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取り29が形成される。したがって、半導体基板1を分割することで得られる半導体チップ25の抗折強度を向上させることができる共に、半導体チップ25におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することが可能となる。」(第21ページ第13-20行)

「ここで、図23A、図24A及び図25Aは、半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合であり、図23B、図24B及び図25Bは、半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合である。図23B、図24B及び図25Bの場合にも、半導体基板を研磨する工程後には、割れ15が半導体基板15の表面3に達する。」(第21ページ第24行-第22ページ第3行)

「図24A及び図24Bに示すように、溶融処理領域13が切断面内に残存しない半導体チップ25は、溶融処理領域13が半導体デバイスに好影響を与えないような場合に有効である。
図25A及び図25Bに示すように、溶融処理領域13が切断面の裏面側のエッジ部に残存する半導体チップ25は、当該エッジ部が溶融処理領域13により保護されることとなり、半導体チップ25のエッジ部を面取りした場合と同様に、エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止することができる。
また、図23A、図24A及び図25Aに示すように、半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達している場合に比べ、図23B、図24B及び図25Bに示すように半導体基板を研磨する工程前に割れ15が半導体基板1の表面3に達していない場合の方が、半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップ25の切断面の直進性がより向上する」(第22ページ第7-18行)

図17は,実施例1に係る保護フィルムを貼り付ける工程を説明するための図とされ,同図からは,半導体基板1の表面3側に割れ15が存在している事項及び半導体基板1の表面3に保護フィルム20が貼り付けられている事項が看取できる。

図18は,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程を説明するための図とされ,半導体基板1が,2点鎖線で示される裏面21部分から,割れ15の裏面側端部の実線位置まで薄型化されている事項が看取できる。

図19は,実施例1に係る拡張フィルムを貼り付ける工程を説明するための図とされ,半導体チップ25における裏面側端部が面取りされるとともに,拡張フィルム23が貼り付けられている事項が看取される。

図22は,実施例1に係る半導体基板を研磨する工程後の半導体チップの裏面側のエッジ部に形成された面取りを示す図とされ,半導体チップ25の裏面側端部に面取り29が形成されている事項が看取される。

図24Bは,実施例1に係る半導体基板1を研磨する工程後の半導体チップ25の切断面内に溶融処理領域13が残存しない場合であって,半導体基板を研磨する工程前に割れ15が表面3に達していない場合を説明するための図とされ,研磨工程後(右側)では表面3に割れ15が達するとともに半導体基板1の実線が上方に移動した様子が看取される。

(2) 上記記載から,引用例1には,次の技術的事項が記載されている。

ア 引用例1に記載された技術とは,半導体基板等の基板を分割するために使用され(明細書第1ページ第4-5行),基板の内部に集光点を合わせてレーザ光を照射して基板の内部に改質領域を形成することで基板の内部に切断起点領域を形成するものであって(第2ページ第6-10行),基板の裏面を平面研削し,この平面研削後に裏面にケミカルエッチングを施し,基板を薄型化する(第19ページ第23-25行)。

イ 基板の裏面の研磨により,切断起点領域を起点として発生した割れに裏面が達して,半導体チップに半導体基板が分割される(第19ページ第25行-第20ページ第9行)。

ウ 半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達している場合に比べ,半導体基板を研磨する工程前に割れが半導体基板の表面に達していない場合の方が,半導体基板を研磨する工程後に得られる半導体チップの切断面の直進性がより向上する(第22ページ第14-18行)。

エ 研磨とは,切削,研削及びケミカルエッチング等を含む意味である(明細書第2ページ第19-20行)。

オ 半導体基板の裏面にケミカルエッチングを施すと,割れによる半導体基板の切断面の裏面側のエッジ部のみが選択的にエッチングされ面取りが形成される(第21ページ第13-18行)。

(3)これらのことから,引用例1には,次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「内部にレーザ光で改質領域を形成した基板に対し,前記基板を割断する起点になる割れを形成する半導体基板の割れ形成方法において,割れが表面に達していない前記基板の裏面を,平面研削及び平面研削後にケミカルエッチングする工程を有し,当該工程後の前記基板は前記改質領域から延びる割れが表面に達しているものである,半導体基板の割れ形成方法。」

2 引用例2
(1)原査定の拒絶の理由で引用された,本願の遡及日前に頒布された刊行物である,特開2010-283312号公報(平成22年12月16日出願公開。以下,「引用例2」という。)には,次の記載がある。
「【0001】
本発明は、半導体デバイスの製造方法に関する。」

「【0024】
(2)ウェハのバックグライディング工程
次に、ウェハを薄型化するためのバックグライディング装置を準備する。バックグライディング装置は、どのような構成のものを用いてもよいが、例えば、ウェハを固定する真空吸着テーブル、ウェハを研削する回転砥石、研削中にウェハ上に研削液(通常は水)を供給する研削液供給部等で構成されている。
続いて、上記(1)のウェハ表面保護テープ貼り付け工程により表面がウェハ表面保護テープで保護されたウェハを、その裏面を上にして、バックグライディング装置の真空吸着テーブル上に設ける。次に、真空吸着テーブルでウェハを吸引固定した状態で、研削液供給部からウェハ上に研削液を供給すると共に、回転砥石によりウェハを所定の厚さとなるまで研削する。また、必要であれば、回転砥石による研削の後、仕上げ用研削を続いて行い、ウェハの研削面を滑らかに仕上げる。
このように研削されたウェハは、例えば50?400μm、より好ましくは50?150μmの厚さに薄型化されている。」

「【0041】
(3)ウェハのバックグライディング工程
次に、実施形態1と同様のバックグライディング装置を準備する。次いで、ウェハ表面保護テープが貼り付けられたウェハを、その裏面を上にして、バックグライディング装置の真空吸着テーブル上に設ける。次に、実施形態1と同様な方法で、ウェハを研削し、例えば50?200μm、より好ましくは50?150μmの厚さに薄型化する。」

(2)上記記載から,引用例2には,次の技術が記載されている。
「半導体デバイスの製造方法(【0001】)のウェハのバックグライディング工程において,表面がウェハ表面保護テープで保護されたウェハを,その裏面を上にして,バックグライディング装置の真空吸着テーブル上に設け,真空吸着テーブルでウェハを吸引固定した状態で,研削(【0024】,【0041】)する技術。」

第4 引用発明との対比
1 本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「基板」は,本願発明の「ウェーハ」に相当する。
(2)引用発明の「割れ」は,本願発明の「微小亀裂」に相当する。
(3)引用発明の「前記基板の裏面を,平面研削及び平面研削後にケミカルエッチングする工程」のうち,「平面研削」する工程は,本願発明の「研削工程」に相当する。

2 以上のことから,本件補正発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
<一致点>
「内部にレーザ光で改質領域を形成したウェーハに対し,前記ウェーハを割断する起点になる微小亀裂を形成する半導体基板の微小亀裂形成方法において,前記ウェーハの裏面を研削工程を有する,半導体基板の微小亀裂形成方法。」

<相違点1>
ウェーハの研削工程において,本願発明は「ウェーハの表面をテーブルに真空吸着した状態で」研削を行っているのに対し,引用発明は研削時にウェーハがどのように支持された状態にあるかが明らかで無い点。

<相違点2>
「改質領域から延びる微小亀裂を進展させる」事項が,本願発明は「研削工程」において生じるのに対し,引用発明は「研削工程」で生じているかどうかが明記されていない点。

第5 判断
以下,相違点1及び2について検討する。
1 相違点1について
引用発明には,研削時のウェーハ支持をどのようにするかは,示されていないが,研削する以上,ウェーハが何らかの手段で支持され,固定されていることは明らかである。
そして,研削のためにウェーハを支持する構成として,研削面の反対側となるウェーハの表面をテーブル上に載置して研削を行い,また、その固定のために真空吸着を用いる事項は,上記第3における2(2)のとおり,当業者にとって従来から周知の技術的事項である。
そうすると,引用発明を具現化するにあたり,研削時にウェーハをテーブルに真空吸着した状態にするという当業者にとって周知の技術的事項を採用することで,上記相違点1に係る事項を備えることは,当業者にとって容易になし得たものである。

2 相違点2について
上記第3における1(2)エのとおり,引用例1では,「研磨」という語を切削,研削及びケミカルエッチング等を含む意味で用いていることから,引用発明においても「平面研削及び平面研削後にケミカルエッチングする工程」のいずれかの段階で「微小亀裂」は進展しているといえる。
ここで,「平面研削」で「微小亀裂」が進展しているかどうかについて検討する。まず,引用例1で「ケミカルエッチング工程」は,上記第3における1(2)オ及び図22に示されるように面取りが行われるものとして説明されていると認められる。
そして,引用例1において,「平面研削及び平面研削後にケミカルエッチングする工程」を含む工程は,図17ないし19に順に示されているが,図18の時点では面取りがなされておらず,図19の時点では面取りがなされていることから,ケミカルエッチング工程は,図18の後であって図19の前になされており,図18は平面研削が行われた時点の図であると認められる。なお,図18は,引用例1において「実施例1に係る半導体基板を研磨する工程を説明するための図」と説明されているが,研磨工程が「終了した段階」の図とされているものでもないことから,当該説明は図18を平面研削が行われた時点の図とする上記認定に矛盾するものではない。
一方,引用例1における図24Bの右図は,実施例1の一態様であってウェーハが薄型化された段階の図であり,図18に対応する段階の図であるといえることから,引用例1の図24Bで示された態様での微小亀裂の進展は図18と同じく平面研削工程で生じていることが推認できる。なお,図24Bと同様に実施例1の態様の1つである図25A及び図25Bは,半導体チップ25のエッジ部に溶融処理領域13を設けることでエッジ部を面取りした場合と同様に,エッジ部におけるチッピングやクラッキングの発生を防止するものであるから,面取りがなされていない態様であることは明らかである。そして,複数の態様を図示する際には同様の基準で図を作成することが通常であるから,図25A及び図25Bと同様に,図24Bの右図も面取りがなされていない,すなわち平面研削後であって,ケミカルエッチングがなされていない段階の図であるものと推認できる。

加えて,亀裂の進展が物理的な作用によって生じることは明らかであり,平面研削工程は被研削物に対し,振動や熱といった研削に由来する物理的な影響を及ぼすものであることも技術的に明らかであるから,引用発明も平面研削工程での亀裂の進展は不回避であり,引用発明における研削工程においても亀裂の進展という現象が生じているものと認められる。

そうすると,上記相違点2は,引用発明も備えている事項であって,当該相違は表現上の差異にすぎないから,事実上の相違点ではない。

3 請求人は,審判請求書の3.「(3)本願発明と引用発明1との対比」において,「本願発明においては、研削によるせん断応力(研削圧力、面内圧力)によって微小亀裂を精度よく進展させることができず、安定した品質のチップを効率よく得ることができないという問題を解決することを解決課題とし、その課題解決手段として、上記相違点に係る構成、すなわち、『前記ウェーハの表面をテーブルに真空吸着した状態で前記ウェーハの裏面を研削することにより、前記改質領域から延びる微小亀裂を進展させる研削工程』を有する点にその特徴を有するものである。そして、上記構成のうち、『ウェーハの表面をテーブルに真空吸着』する構成を採用した理由(技術的意義)としては、ウェーハを研削する際にウェーハを固定することを単に目的としたものではなく、研削熱による熱膨張によって生じる内部歪みが支配的要素となって亀裂進展させることを目的としたものである。これにより、本願発明では、ウェーハの表面をテーブルに真空吸着した状態でウェーハの裏面に対して研削処理する際、研削熱による熱膨張によって生じる内部歪みが支配的要素となって亀裂進展が行われるので、研削によるせん断応力が支配的要素となって亀裂進展が行われる場合(人為的に外力を与えた場合)と比べて、ウェーハ面内の剛性ばらつきなどに起因することなく、ウェーハ面内各点一様に微小亀裂を進展させることが可能となる。また、ウェーハを熱膨張させる条件、すなわち、研削による摩擦熱が発生するための条件(例えば、研削液の量)を変化させることによって亀裂の進展度合い(亀裂深さや亀裂進展速度等)を容易に調整することができるので、改質領域から延びる微小亀裂を精度よく進展させることが可能となる。したがって、本願発明によれば、研削工程においてウェーハの内部歪みによって微小亀裂を精度よく進展させることが可能となり、安定した品質のチップを効率よく得ることができるという、当業者といえども予測することができない顕著な作用効果を奏するものである(本願明細書の段落[0172]?[0186]を参照。)。」と主張している。
また,同じく審判請求書の3.(3)において,「本願発明は、上述のとおり、『ウェーハの表面をテーブルに真空吸着した状態でウェーハの裏面に対して研削処理する際、研削熱による熱膨張によって生じる内部歪みが支配的要素となって亀裂進展が行われるので、研削によるせん断応力が支配的要素となって亀裂進展が行われる場合(人為的に外力を与えた場合)と比べて、ウェーハ面内の剛性ばらつきなどに起因することなく、ウェーハ面内各点一様に微小亀裂を進展させることが可能となる。また、ウェーハを熱膨張させる条件、すなわち、研削による摩擦熱が発生するための条件(例えば、研削液の量)を変化させることによって亀裂の進展度合い(亀裂深さや亀裂進展速度等)を容易に調整することができるので、改質領域から延びる微小亀裂を精度よく進展させることが可能となる。』という作用効果を奏するもの」とも主張している。

しかしながら,本願発明をさらに限定した本願請求項2において「前記研削工程は、研削熱による前記ウェーハの熱膨張を利用して前記微小亀裂を進展させる」という発明特定事項を追加していることからも明らかなように,当該限定を有さない本願発明は「研削熱による熱膨張によって生じる内部歪みが支配的要素となって亀裂進展させることを目的」にしたものに限らないことは明らかであって,上記主張は本願請求項1に係る発明,すなわち,本願発明に基づく主張ではない。
そうすると,本願発明における「真空吸着」は,単に固定手段を具体的に特定した,という程度のものであり,上記1のとおり,当業者にとって周知の技術的事項を適用したに過ぎないことから,請求人の上記主張は採用の限りではない。

4 そして,上述の相違点及び請求人の主張を総合的に勘案しても,本願発明の作用効果は,引用発明及び引用例2で例示される周知の技術的事項のそれぞれの作用効果の総和を超えるものではないことから,本願発明の作用効果は引用発明及び上記周知の技術的事項から予測される範囲内のものにすぎず,格別顕著なものということはできない。

5 よって,本願発明は,原査定の理由のとおり,引用発明及び引用例2で例示される周知の技術的事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。

第6 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-09 
結審通知日 2017-02-10 
審決日 2017-02-21 
出願番号 特願2016-121905(P2016-121905)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中田 剛史  
特許庁審判長 西村 泰英
特許庁審判官 平岩 正一
長清 吉範
発明の名称 半導体基板の微小亀裂形成方法及び微小亀裂形成装置  
代理人 松浦 憲三  

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