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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C01F
審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C01F
管理番号 1326921
異議申立番号 異議2016-700617  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-07-14 
確定日 2017-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5846233号発明「粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5846233号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?2〕、3について訂正することを認める。 特許第5846233号の請求項1?2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5846233号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成26年 3月 4日の出願であって、平成27年12月 4日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人土田裕介により特許異議の申立てがなされ、平成28年 9月 2日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年10月31日に意見書の提出及び訂正の請求がなされたものであり、この訂正の請求に対して特許異議申立人に意見を求めたところ、意見書の提出はなされなかったものである。

第2 訂正の適否についての判断

1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
(1)請求項1に記載された「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.1以下」を、「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.0以下」に訂正する(以下、「訂正事項1」という)。

(2)願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0015】に記載された「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.1以下」を、「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.0以下」に訂正する(以下、「訂正事項2」という)。

(3)本件特許明細書の段落【0027】に記載された「上記の粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.45より低いと、」を、「上記の粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.45より高いと、」に訂正する(以下、「訂正事項3」という)。

2 訂正要件の判断
(1)訂正事項1及び2の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項1は、請求項1に記載された「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕」の数値範囲を「1.1以下」から「1.0以下」に限定するものであるから、「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。また、訂正事項2は、訂正事項1に伴って、本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0015】の「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.1以下」を、「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.0以下」に訂正するものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。
イ 訂正事項1及び2に関連する記載として、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕が1.1以下、好ましくは1.0以下である。」(段落【0017】)と記載されているから、訂正事項1及び2は、本件特許明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当しない。
ウ 訂正事項1及び2は、「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕」の数値範囲を限定するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項3の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
ア 訂正事項3に関して、本件特許の願書に最初に添付された明細書の発明の詳細な説明の段落【0027】に「粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.10以上1.45以下・・・の範囲になるように粉砕する。」と記載され、さらに、「1.10より低いと、粉砕過多になってチッピング粒子(微粒子)の発生が多くなり、粒度分布がブロードになるほか、チッピング粒子が凝集した粗大粒子が発生し、アルミナの均一分散が困難になる。」と、前記数値範囲の下限値「1.10」からの好ましくない範囲について記載されていることから、「粉砕不足になって樹脂充填時粘度が60ポアズ(poise)を超えて高くなってしまい」との記載は、上限値「1.45」からの好ましくない範囲を記載しているといえ、「1.45より低い」との記載は誤りであって、「1.45より高い」との記載が正しい記載であるといえる。よって、訂正事項3は、「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。
イ 訂正事項3は、誤記を訂正するものであるから、上記明細書に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)一群の請求項について
訂正事項1は、訂正前の請求項1を訂正するものであり、訂正前の請求項2は請求項1を引用するため、請求項1及び2は一群の請求項である。また、訂正事項2及び3は、本件特許明細書に係る訂正であって、訂正事項2及び3に関連する請求項は、訂正前の請求項1?3と認められる。
よって、本件訂正請求は、一群の請求項1、2及び請求項3について請求するものと認められる。

(4)独立特許要件について
本件訂正は、訂正後の請求項1?3に関連するところ、請求項1及び2は特許異議の申立てがなされたので、独立特許要件の規定は適用されない。
また、特許異議の申立がなされていない請求項3に係る発明は、その特許を取り消すべき理由がないから、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号から第3号までに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第7項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?2〕、3について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて

1 本件発明
(1)本件訂正請求により訂正された請求項1?3に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項1及び2に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明2」という。)は、次のとおりである。

「【請求項1】
バイヤー法で得られた平均粒子径10?200μmの水酸化アルミニウムを焼成し、得られた焼成物を粉砕して製造されたαアルミナ粉体であって、
ソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下であると共に平均粒子径(Dp50)が2?5μmであり、かつ、粒度分布が45μm篩上量(+45μm)100ppm以下及びスパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.0以下であることを特徴とする粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体。
【請求項2】
前記αアルミナ粉体は、このαアルミナ粉体200重量部を不飽和ポリエステル樹脂100重量部中に添加し、周速2.6m/秒及び10分間の条件で撹拌してアルミナ充填樹脂組成物を調製した際に、得られたアルミナ充填樹脂組成物について、ブルックフィールド型粘度計を用いてローター回転速度12rpm及び測定温度25℃の条件で測定した際のアルミナ充填樹脂組成物の粘度(樹脂充填時粘度)が60ポアズ(poise)以下である請求項1に記載の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?2に係る特許に対して平成28年 9月 2日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、「請求項1?2に係る発明は、本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証(亀田績、「バイヤー法アルミナの製造方法、特性と用途」、耐火物、2009年9月、第61巻、第9号、第472?478頁)に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?2に係る特許は、取り消されるべきものである。」というものである。

3 甲号証の記載
(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、次の事項が記載されている。なお、下線は当審が付した。
ア 「1 始めに
アルミナは化学式Al_(2)O_(3)として示される化合物の工業的呼称である。三水和物のギブサイト(Al_(2)O_(3)・3H_(2)O)や一水和物のベーマイト(Al_(2)O_(3)・H_(2)O)などの水酸化アルミニウを加熱,脱水し製造する。アルミナは温度,圧力などの製造条件により,多くの結晶構造が存在する(α,γ,δ,η,κ等)。遷移的な構造である中間アルミナを経て,最終的には,約1100℃以上で安定なαアルミナとなる。」(第472頁左欄第1?8行)
イ 「

・・・(略)・・・
図1 アルミナの製造方法」(第472頁)
ウ 「バイヤー法は,1888年にオーストリアのK.J.Bayerが考案した水酸化アルミニウムの合成法であり,安価で大量生産に適した生産方法である。バイヤー法は,ボーキサイトと苛性ソーダを原料とし,ボーキサイト中の水酸化アルミニウム成分を苛性ソーダで抽出,アルミン酸ソーダとする。過飽和のアルミン酸ソーダから水酸化アルミウム(ギブサイト)が析出合成される。水酸化アルミニウムは,硫酸バンド(硫酸アルミニウム)やPAC(ポリ塩化アルミニウム)等の凝集剤や,アルミン酸ソーダなどの原料として使用される。また,水酸化アルミニムを,流動焼成炉やフラッシュカルサイナー,ロータリーキルン等で,1100℃以上の温度で焼成しアルミナとする。図3に加熱による水酸化アルミニウムからアルミナへの形態の変化を示す。」(第473頁右欄第1?13行)
エ 「原料水酸化アルミニウムは,数μmから数十μmのギブサイトの一次粒子が凝集した二次粒子であり,その大きさは,50μm?100μmである。焼成過程において,1100℃以上になると水酸化アルミニウムの形骸一次粒子の中に,αアルミナが核生成し,成長する。αアルミナ粒子が非常に小さい場合(1μm以下)は,アルミナは水酸化アルミニウムの元の一次粒子の形骸(二次粒子となる)を留めた三次粒子になる。さらに,焼成温度が高くなるとαアルミナの結晶が発達し,水酸化アルミニウムの一次粒子は不明瞭となり,成長したαアルミナを一次粒子とする二次粒子と成る。例えば,おにぎりをイメージすると判りやすい。αアルミナの一次粒子が米粒で,二次粒子がおにぎりを指す(図4)。
粉砕アルミナは,機械的な衝撃力で,このアルミナ二次粒子を解砕,粉砕する事によって得られる。一次粒子であるαアルミナの大きさまで粉砕する場合は,αアルミナの粒子が小さい程,粉砕に必要なエネルギーが多く必要になる。」(第474頁右欄第9?26行)
オ 「●充填材用途;
アルミナの電気絶縁性,熱伝導性を活かし,半導体封止のエポキシ樹脂,半導体部品の保護,熱伝導性向上のためのシリコーン樹脂やウレタン樹脂などへの充填材として使用されている。これらの用途では,樹脂やゴムなどに高充填するため,粒子形状は丸く(図9),粗粒を低減した低ソーダの微粒アルミナが適している。火炎法による数十μmの球状アルミナが使用されているが,電子部品の小型化が進み,数μmからサブミクロンのアルミナへのニーズが高まっている。代表的品種を表5に示す。F-1は標準的な低ソーダアルミナの微粉であるが,F-2は粗粒を低減した充填性の優れた品種である。また,F-3はさらに,粗粒だけでなく微粉も低減した粒度分布のシャープ(均一)な品種である(図10)。」(第477頁左欄第6?19行)
カ 「表5 充填材用アルミナの特性

」(第477頁)
キ 「

図10 充填材用アルミナの粒度分布」(第477頁)

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、上記(1)ウによれば、バイヤー法が水酸化アルミニウムを製造する方法であることが記載され、上記(1)ア及びイによれば、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを焼成し、その後粉砕することでαアルミナ粉体が得られることが記載され、上記(1)エによれば、原料として用いられる水酸化アルミニウムの二次粒径が50?100μmであることが記載されている。また、上記(1)カの充填材用アルミナ「F-3」に注目すると、充填アルミナのNa_(2)O量が0.02質量%であり、レーザー法で測定した充填材アルミナの平均粒径が2.5μmであり、45μm篩上量が0.001%(10ppm)であることが記載されている。さらに、上記(1)キによれば、充填材用アルミナ「F-3」の累積粒度分布が90mass%に対応する粒径(Dp90)、累積粒度分布が50mass%に対応する粒径(平均粒径、Dp50)、累積粒度分布が10mass%に対応する粒径(Dp10)がそれぞれ、3.7μm、2.5μm、0.9μmであることが見取れるから、充填材用アルミナ「F-3」のスパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕は1.1であると認められる。そして、上記(1)オによれば、充填材用アルミナ「F-3」が充填性に優れていること、すなわち、樹脂への充填の際に要求される粘度特性に優れたものであることが記載されている。

これら記載を充填材用アルミナ「F-3」に注目して整理すると、甲第1号証には、
「バイヤー法で得られた平均二次粒子径50?100μmの水酸化アルミニウムを焼成し、得られた焼成物を粉砕して製造されたαアルミナ粉体であって、
ソーダ(Na_(2)O)分が0.02質量%であると共に、
平均粒子径(Dp50)が2.5μmであり、かつ、
粒度分布が45μm篩上量(+45μm)が10ppm及び、
スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕が1.1である、
粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

4 対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、本件発明1のスパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕は、「1.0以下」であるのに対して、甲1発明は「1.1」である点で相違する。そして、当該相違点は、その値が異なっていることから、実質的な相違点といえる。
そうしてみると、本件発明1と甲1発明との間に実質的な相違点が存在するから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当しない。
また、本件発明2は、本件発明1を減縮するものであるから、同様に、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号に記載する発明に該当しない。

5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
ア 特許異議申立人は、発明の解決しようとする課題が、樹脂充填時の分散性が良く、粘度が低いαアルミナ粉体を提供すること(段落【0013】)であるところ、実施例及び比較例には、αアルミナ粉体の樹脂充填時の分散性の良否が判断されていないこと、及び、本件発明1の発明特定事項を実質的に満足している比較例3のαアルミナ粉体の樹脂充填時粘度が大きいことを根拠にして、発明の詳細な説明には、上記課題を解決できることについての開示が不十分であって、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさない旨を主張している。
この点について検討すると、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0044】には、実施例及び比較例について、
「【表1】


と記載されている。
そして、発明の詳細な説明に「スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕が1.1を超えて広くなると、同量充填した、粒度分布がシャープなフィラーと比べ、・・・、微粒分の増加に伴い凝集粒が増え、アルミナの均一分散が困難になるという問題がある」(段落【0019】)こと及び「粉砕過多になってチッピング粒子(微粒子)の発生が多くなり、粒度分布がブロードになるほか、チッピング粒子が凝集した粗大粒子が発生し、アルミナの均一分散が困難になる」(段落【0027】)ことが記載されており、また、凝集しやすい微粒子が多くなることで均一分散しにくくなることは技術常識でもあることから、本件特許の発明の詳細な説明には、スパン値が1.0以下である実施例1?5及び比較例1,3,4のαアルミナ粉体が樹脂充填時の分散性が良好であることは記載されているといえる。
また、発明の詳細な説明には、αアルミナ粉体の製造に際して、「この焼成物の粉砕において、上記の粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.45より高いと、粉砕不足になって樹脂充填時粘度が60ポアズ(poise)を超えて高くな」ること(段落【0027】)が記載されているところ、比較例3の粉砕条件である粒径比(D_(av)/D_(BET))は1.93であり、比較例1(D_(av)/D_(BET)=1.48)及び比較例4(D_(av)/D_(BET)=1.57)より大きいことから、当業者であれば、比較例3のαアルミナ粉体の45μm篩上量は、明示はなくても、比較例1及び4のαアルミナ粉体の45μm篩上量より多くなっているといえ、比較例3は、45μm篩上量の点で、本件発明1の発明特定事項を満足していないことが理解できる。さらに、実施例1?5のαアルミナ粉体は、45μm篩上量が100ppm以下であり、樹脂充填時粘度が良好であることも記載されている。
以上のとおり、発明の詳細な説明には、上記課題を解決できることについて記載されており、本件発明1を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、特許異議申立人の主張は採用できない。

イ 特許異議申立人は、本件発明2の樹脂充填時粘度が60ポアズ以下であることに関して、本件発明1の発明特定事項を実質的に満足している比較例3のαアルミナ粉体の樹脂充填時粘度が178ポアズであり、本件発明1の発明特定事項を満足しない比較例2のαアルミナ粉体の樹脂充填時粘度が55ポアズであることを根拠にして、樹脂充填時粘度を主体的に調整するための具体的手段が想起できないため、発明の詳細な説明には、本件発明2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていないから、特許法第36条第4項第1号の要件を満たさない旨を主張している。
しかしながら、上記アで検討したとおり、比較例3のαアルミナ粉体は、45μm篩上量の点で、本件発明1の発明特定事項を満足していないため、樹脂充填時粘度が178ポアズとなっているものであるし、また、実施例1?5と比較例1,4を比較すると明らかなように、αアルミナ粉体の45μm篩上量が100ppm以下であれば、樹脂充填時粘度を60ポアズ以下に調整できるといえる。
また、比較例2のαアルミナ粉体は、スパン値が本件発明1の発明特定事項を満足していないため、上記アで検討したとおり、樹脂充填時の分散性が良好でない点での比較例であり、比較例2のαアルミナ粉体は、その45μm篩上量を0ppmとすることで樹脂充填時粘度が55ポアズとなっているといえるから、樹脂充填時粘度が55ポアズである比較例2が存在することが、樹脂充填時粘度の調整手段を不明確にしているともいえない。
以上のとおりであるから、発明の詳細な説明には、本件発明2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、特許異議申立人の主張は採用できない。

ウ したがって、本件特許の発明の詳細な説明は、本件発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしている。

6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1?2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1?2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体及びその製造方法
【技術分野】
【0001】
この発明は、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムから製造されるαアルミナ粉体であり、特に低ソーダであると共に樹脂又はゴム中に高充填可能な粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナは、従来から種々の樹脂に充填するフィラーとして幅広く用いられており、その主な用途の一つとして、電気絶縁性と化学的安定性を兼ね備えた放熱フィラーとしての使用があり、例えば、放熱シート、光ピックアップ部品、放熱グリース、回路基板のポッティング剤、放熱性を付与したテープや接着剤、種々の射出成型品、モーターやICの封止材、銅張積層基板等を始めとして、様々な分野で幅広い用途に使用されている。
【0003】
アルミナを樹脂充填用の放熱フィラーとして用いる場合、その目的を十分に果たすためには、ソーダ(Na_(2)O)分が低いことに加えて、アルミナを樹脂又はゴム中に可及的に高い配合割合で充填して高い熱伝導性を達成することが求められている。しかしながら、通常、樹脂又はゴム中への充填率が高くなると、得られたアルミナ充填樹脂組成物の粘度(樹脂充填時粘度)が高くなり、流動性が悪化して成形加工性が低下し、また、放熱シート等の用途に用いた場合には、その硬度が上昇し可撓性が不足して被覆対象物の凹凸に追従できなくなることがあるほか、脱気が困難となり、ボイドが発生する。更には、アルミナの充填量が上がらず、目的の熱伝導率が得られない等の問題が生じる。
【0004】
そこで、従来においても、この熱伝導性と成形加工性の問題を解決するために幾つかの方法が提案されている。
例えば、特許文献1においては、実質的にカッティングエッジ(破面)がなく、また、粒度が異なる3種のαアルミナA、B及びCを調製し、これら3種のαアルミナA、B及びCを所定の割合で配合して混合粉末とし、この混合粉末を樹脂又はゴム中に添加して成形用樹脂又はゴム組成物とすることが提案されている。しかしながら、これら特許文献1に記載された方法においては、粒度が異なる3種のαアルミナA、B及びCを調製し、これらを所定の割合で配合して混合粉末を調製しなければならず、しかも、これら3種類の粒径が異なるアルミナについてそれぞれカッティングエッジをなくすための加工が必要になり、製造工程が増加し、また、製造設備、品質管理等が煩雑になって製造コストが嵩むという問題がある。また、粒度分布を広くし、高充填化する手法については、従来から行われていたが、このような手法は、微粒の存在に起因して分散性が悪くなり、また、シャープな粒度分布を有するフィラーを同量充填した場合に比べて、組成物の熱伝導率が低くなることから、性能を発揮させるためにはより高充填化する必要があり、組成物の質量が増加するという問題もある。
【0005】
また、特許文献2においては、バイヤー法以外の方法で得られたアルミニウム塩、アルミニウムアルコキシド、水酸化アルミニウム、遷移アルミナ等からなり、焼成によりαアルミナに誘導されるαアルミナ前駆体と、個数基準の中心粒子径40nm以下及び粒子径100nm超え粒子の割合1%以下の種晶粒子との混合物を、塩化水素含有量1?20容量%の雰囲気中で焼成し、樹脂に添加するフィラーとして有用な多面体状で微細なαアルミナ粒子を製造する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献2に記載された方法においては、バイヤー法以外の方法で得られたαアルミナ前駆体を特定の種晶粒子と共に塩化水素含有囲気中で焼成する必要があることから、予め微小な種晶粒子を調製しなければならず、また、その扱いに多くの手間を要し、工業的、コスト的に現実的でないほか、得られたアルミナ粒子がナノサイズであって放熱フィラーとしての用途には不向きである。
【0006】
更に、特許文献3においては、水酸化アルミニウムや遷移アルミナ等のアルミナ原料に、弗化物系鉱化剤を弗素として0.02?0.3重量%及び平均粒径1μm以下のαアルミナ粉末を0.5?10重量%の割合で添加し、得られた混合物をシャモット質容器内に充填して1500℃以下の温度で焼成し、次いで解砕して低ソーダαアルミナを製造する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献3に記載された方法においては、セラミックス用途の低ソーダアルミナは得られるものの、粘度特性等のフィラー特性が最重視される放熱フィラー等のフィラー用途で使用するのに充分満足できる性能は得られない。
【0007】
そして、特許文献4においては、水酸化アルミニウムにフッ化物を除くハロゲン化物を添加し、得られた混合物をアルミナ緻密質サヤやコージェライト緻密サヤからなる密閉容器中で焼成し、次いで解砕してα相を主相とするアルミナを製造する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献4に記載された方法においては、焼成原料としてBET比表面積が3?20m^(2)/gの微粒の水酸化アルミニウムを用いており、焼成方法等が限定されるほか、サヤ(容器)への充填量も上がらず、生産効率が著しく悪化し、また、焼成後のハンドリング性も低下する。
【0008】
また、特許文献5においては、アルミナ、アルミナ水和物、塩化アンモニウム、及び塩化アンモニウム以外のハロゲン化物、更にはホウ素化合物を含む組成物を焼成容器内で加熱処理し、次いで気流式粉砕機で解砕して丸み状粒子からなるアルミナを製造する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献5に記載された方法においては、アルミナとアルミナ水和物との混合原料を焼成することから、アルミナとアルミナ水和物との混合工程が必要になる等その製造工程が複雑となり、また、粉砕したアルミナを再焼成することから余分なコストもかかり、量産化には不向きである。更には、充填量を等しくした場合には、丸み状粒子は、形状が整えられていない粒子に比べて、粒子間の接点が低下し、組成物の熱伝導率が低下するという問題もある。
【0009】
更に、特許文献6においては、擬ベーマイト及び/又は遷移アルミナからなるアルミナ原料にフッ素化合物又はフッ素化合物及びホウ素化合物を所定の割合で添加し、得られた混合物をムライト質容器内に充填して1100℃以上の温度で焼成し、次いで解砕して球状に近い多面体形状を有すると共に粒度分布の狭いαアルミナを製造する方法が提案されている。しかしながら、この特許文献6に記載された方法においては、高比表面積である擬ベーマイトや遷移アルミナをアルミナ原料として使用することから、アルミナ原料の製造に多くのコストがかかり、また、充填量が等しい場合で比較すると、球形度が増すにつれて組成物の熱伝導率が低下する傾向があり、より高充填化する必要がある。
【0010】
このため、ソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下と低ソーダであると共に平均粒子径が2?5μmであり、しかも、粒度分布がシャープであって、樹脂又はゴム中に高充填率で充填しても得られたアルミナ充填樹脂組成物の粘度(樹脂充填時粘度)が低く、分散性も良く、成形加工性に優れたアルミナ充填樹脂組成物を調製することができるαアルミナ粉体の開発が求められており、しかも、原料としてバイヤー法で得られた安価な水酸化アルミニウムを用いて安価に製造することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特許第3,937,494号公報
【特許文献2】特開2007-186,379号公報
【特許文献3】特許第3,389,642号公報
【特許文献4】特開2003-201,116号公報
【特許文献5】特開2005-022,963号公報
【特許文献6】特開2008-127,257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、バイヤー法で得られた安価な水酸化アルミニウムを用い、低ソーダであると共に平均粒子径が2?5μmであり、しかも、粒度分布がシャープであって、樹脂充填時の粘度が低いαアルミナ粉体を開発すべく鋭意検討した結果、意外なことには、特定の焼成容器を使用して成形密度(成型圧:98.07MPa)2.05g/cm^(3)以上及びBET比表面積0.9m^(2)/g以下となるように焼成し、次いで粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が所定の値の範囲内に収まるように粉砕することにより、目的とするαアルミナを製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0013】
従って、本発明の目的は、低ソーダであると共に平均粒子径が2?5μmであり、かつ、粒度分布がシャープであって、樹脂充填時の分散性が良く、粘度が低い低ソーダαアルミナ粉体を提供することにある。
【0014】
また、本発明の他の目的は、バイヤー法で得られた安価な水酸化アルミニウムを原料にして、上記の低ソーダであると共に平均粒子径が2?5μmであり、かつ、粒度分布がシャープであって、樹脂充填時の分散性が良く粘度が低い低ソーダαアルミナ粉体を製造することができる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、バイヤー法で得られた平均二次粒子径10?200μmの水酸化アルミニウムを焼成し、得られた焼成物を粉砕して製造されたαアルミナ粉体であって、ソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下であると共に平均粒子径(Dp50)が2?5μmであり、かつ、粒度分布が45μm篩上量(+45μm)100ppm以下及びスパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.0以下であることを特徴とする粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体である。
【0016】
また、本発明は、バイヤー法で得られたソーダ(Na_(2)O)分0.3質量%以下の水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合し、得られた混合物を、シリカ含有アルミナセラミック製の焼成容器に充填して成形密度(成型圧:98.07MPa)2.05g/cm^(3)以上及びBET比表面積0.9m^(2)/g以下となるように1100?1600℃の範囲で焼成し、次いで得られた焼成物を、粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.10?1.45の範囲になるように粉砕することを特徴とする粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体の製造方法である。
【0017】
本発明の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体は、ソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下、電気絶縁性を考慮すると好ましくは0.08質量%以下であり、また、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下、原料がバイヤー法由来の水酸化アルミニウムであり、分散性や熱伝導率を考慮すると好ましくは2.5μm以上4.0μm以下であり、更に、粒度分布については、45μm篩上量(+45μm)が100ppm以下、好ましくは50ppm以下であり、また、スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕が1.1以下、好ましくは1.0以下である。
【0018】
ここで、ソーダ(Na_(2)O)分については、αアルミナ粉体の用途によっても異なるが、例えば電子部品用途においては0.1質量%以下であることが必須であり、この0.1質量%を超えると電気絶縁性が得られないという問題が生じる。また、平均粒子径(Dp50)については、この平均粒子径を大きくすればそれだけ成形物の熱伝導率が高くなるが、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを原料とする場合にはαアルミナの一次粒子径を5μm以上にすることが難しい。
【0019】
また、粒度分布については、45μm篩上量(+45μm)が100ppm以下である必要があり、この45μm篩上量(+45μm)が100ppmを超えると、このαアルミナ粉体をフィラーとして充填した樹脂組成物を成形した際に粗粒のアルミナが樹脂成形物の表面から突出するので厚さの薄い樹脂成形物の用途には使用できなくなり、また、熱源との間の密着性が損なわれ、所望の放熱効果が得られないことがあり、また、スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕が1.1を超えて広くなると、同量充填した、粒度分布がシャープなフィラーと比べ、熱伝導率は低く、また、微粒分の増加に伴い凝集粒が増え、アルミナの均一分散が困難になるという問題があるほか、例えば所望の粒度分布を有する放熱シート、接着シート、放熱グリース等の用途のαアルミナ粉体を調製する際にその粒度分布設計が難しくなる。
【0020】
なお、粒子分布の決定に関して、45μm篩上量(+45μm)の値は、JIS Z8801-1の試験用ふるい(目開45μm)を用いて測定した値であり、また、スパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕は、レーザー散乱法粒度測定器〔日機装社製Microtrac 9320HRA(×100)〕を用いて、積算粒度分布率90重量%に対応する粒子径(Dp90)、積算粒度分布率50重量%に対応する粒子径(Dp50)、及び積算粒度分布率10重量%に対応する粒子径(Dp10)をそれぞれ測定して求めた値であり、粒子径比〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕の値(スパン値)が粒度分布のシャープさを示しており、このスパン値が小さいほど粒度分布がシャープである。
【0021】
そして、本発明の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体は、このαアルミナ粉体200重量部を不飽和ポリエステル樹脂(酸価:10.0mgKOH/g以下、25℃粘度:3.7±0.7poise、及び密度:1.08±0.02g/cm^(3))100重量部中に添加し、高速インペラミルを用いて周速2.6m/秒及び10分間の条件で撹拌し、得られたアルミナ充填樹脂組成物について、ブルックフィールド型粘度計を用いてローター回転速度12rpm及び測定温度25℃の条件で測定した際の粘度(樹脂充填時粘度)が60ポアズ(poise)以下、好ましくは55ポアズ未満、より好ましくは50ポアズ以下である。この樹脂充填時粘度が60ポアズ(poise)を超えて高くなると、樹脂との混練が困難となり、また、成形時等における流動性も悪化し、樹脂又はゴム中への充填性が低下して所望の熱伝導率を得るための高充填が困難になるほか、成型加工性が低下して樹脂成形物中にボイドが発生する等の問題が生じる。
【0022】
次に、本発明の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体の製造方法について詳細に説明する。
本発明においては、上記の水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合し、得られた混合物を所定の条件下に焼成し、次いで得られた焼成物を所定の条件下で粉砕する。
【0023】
本発明の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体を製造するに際しては、アルミナ原料として、バイヤー法で得られたソーダ(Na_(2)O)分0.3質量%以下の水酸化アルミニウムが用いられ、好ましくはレーザー散乱法粒度測定器〔日機装社製Microtrac 9320HRA(×100)〕で測定された平均二次粒子径が10μm以上200μm以下、より好ましくは30μm以上150μm以下である水酸化アルミニウムが用いられる。このアルミナ原料として用いる水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が10μmより小さいと、求める粒径のαアルミナを得るのが困難になり、また、ハンドリング性が悪化し生産効率が低下する虞があり、反対に、200μmより大きくなると、粒子内に焼成ムラが発生し、粒度分布がブロードになり、また、粉砕に要する時間が増加したり、未粉砕粒子が残る虞がある。なお、バイヤー法以外の方法、例えば中和法で得られるアルミナ原料は、概ね高比表面積であることから、本発明においてはその使用が困難である。
【0024】
ここで、水酸化アルミニウムに添加するハロゲン系鉱化剤としては、例えば、弗化アルミニウム、弗化ナトリウム、氷晶石、弗化マグネシウム、弗化カルシウム等のフッ化物系鉱化剤や、塩化水素、塩化アンモニウム、塩化アルミニウム等の塩化物系鉱化剤や、沃化アンモニウム等の沃化物系鉱化剤等を挙げることができ、また、水酸化アルミニウムに対するハロゲン系鉱化剤の添加量については、使用する鉱化剤の種類によっても異なるが、例えばフッ化物系硬化剤の場合、混合物中における弗素換算の配合割合が0.05質量%以上1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下となる割合である。このハロゲン系鉱化剤の添加量が0.05質量%より低いと、アルミナの粒子成長効果が不足し、十分な粒径のアルミナ粒子が得られない場合があり、反対に、1.0質量%より高くなると、アルミナ粒子が板状となり、粘性が悪化したり、粒子が割れ易くなるという問題が生じる。
【0025】
次に、水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合して得られた混合物を焼成するが、混合物の焼成においては、混合物をシリカ含有アルミナセラミック製の焼成容器に充填し、得られた焼成物の成形密度(成型圧:98.07MPa)が2.05g/cm^(3)以上、好ましくは2.1g/cm^(3)以上2.5g/cm^(3)以下であり、また、BET比表面積が0.9m^(2)/g以下、好ましくは0.4m^(2)/g以上0.8m^(2)/g以下となるように焼成する必要があり、具体的な焼成温度及び焼成時間については、アルミナ原料として用いる水酸化アルミニウムの粒子径や、添加するハロゲン系鉱化剤の種類や添加量等により異なるが、通常、焼成温度が1100℃以上1600℃以下、好ましくは1400℃以上1550℃以下の範囲であり、また、焼成時間が通常数分以上24時間以下、好ましくは数時間以上20時間以下である。得られた焼成物の成形密度(成型圧:98.07MPa)が2.05g/cm^(3)より低いと、アルミナの粒子形状が板状傾向となり、粘性が悪化したり、目的の平均粒子径(Dp50)2?5μmまで粉砕した場合、樹脂充填時粘度が60ポアズ(poise)を超えて高くなる虞があり、また、BET比表面積が0.9m^(2)/gを超えると、焼成による粒子成長が不十分であり、粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が1.10以上1.45以下となるよう粉砕しても、目的の平均粒子径(Dp50)2?5μmを下回ったり、スパン値が1.1を超えてしまう虞がある。そして、上記の焼成温度が1100℃より低くなると一次粒子が目的の粒子径まで成長できなくなり、反対に、1600℃を超えるとアルミナの溶着等が発生してハンドリング性が悪化する。
【0026】
ここで、上記の成形密度(成型圧:98.07MPa)は、油圧式20トン圧縮試験機(前川試験機製作所製)を用い、40mm×20mm×10mmに成形したピースの質量と体積とを測定して求められた値であり、また、上記のBET比表面積は、比表面積自動測定装置(マイクロメリテックス製フローソーブII2300形)を用い、N_(2)ガス吸着法により測定された値である。
【0027】
以上のようにして得られた焼成物については、次に、粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.10以上1.45以下、好ましくは1.15以上1.40以下の範囲になるように粉砕する。この焼成物の粉砕において、上記の粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.45より高いと、粉砕不足になって樹脂充填時粘度が60ポアズ(poise)を超えて高くなってしまい、反対に、1.10より低いと、粉砕過多になってチッピング粒子(微粒子)の発生が多くなり、粒度分布がブロードになるほか、チッピング粒子が凝集した粗大粒子が発生し、アルミナの均一分散が困難になる。
【0028】
この焼成物の粉砕においては、粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))を1.10以上1.45以下の範囲に管理するために、具体的には、焼成物の粉砕を始める前にこの焼成物のBET比表面積S(m^(2)/g)を測定し、このBET比表面積S(m^(2)/g)の測定値とαアルミナの密度(真比重ρ:3.98g/cm^(3))とを用い、下記のBET比表面積S(m^(2)/g)及び密度(真比重)ρ(g/cm^(3))との関係式、すなわちBET相当径(D_(BET))=6/Sρ(但し、SはBET比表面積を、また、ρはαアルミナの真比重3.98である。)からBET相当径(D_(BET))を算出し、このBET相当径(D_(BET))を指標にして粉砕後の平均粒子径(D_(av))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.10以上1.45以下の範囲内となるように粉砕を行う。
【0029】
上記の焼成物を粉砕する手段については、目標とする粒径比(D_(av)/D_(BET))1.10以上1.45以下を達成できれば、特に制限されるものではないが、例えば、振動ミルや、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星ミル等の容器駆動媒体ミルや、媒体撹拌ミルや、ジェットミル、カウンタージェットミル、ジェットマイザー等の気流式粉砕機等を用いることができる。
【0030】
上述した本発明の方法によって製造されたαアルミナ粉体は、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムをアルミナ原料としているにもかかわらず、ソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下であって、平均粒子径(Dp50)が2?5μmであり、しかも、粒度分布が45μm篩上量(+45μm):100ppm以下及び分布広さ〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕:1.1以下とシャープであり、樹脂充填時粘度の低い高充填性低ソーダαアルミナ粉体である。
【発明の効果】
【0031】
本発明の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体は、低ソーダであると共に平均粒子径が2?5μmであり、しかも、粒度分布がシャープであって、樹脂充填時の分散性が良く、粘度が低く、樹脂充填用のアルミナとして有用であるばかりでなく、特定の粒度分布を有するアルミナ粉体の調製時に粒度分布設計が容易である。
【0032】
また、本発明のαアルミナ粉体の製造方法によれば、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを用い、上記の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体を安価に製造できるだけでなく、製造工程の工程管理を容易かつ確実に実施することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
〔実施例1〕
バイヤー法で得られた水酸化アルミニウム(平均二次粒子径:55μm及びソーダ(Na_(2)O)分:0.2質量%)にハロゲン系鉱化剤として弗化アルミニウムをアルミナ換算で0.4質量%の割合で添加して混合し、得られた混合物を、シリカを含むアルミナセラミックス製の焼成容器内に充填し、トンネルキルン炉を用いて1500℃±10℃、約15時間の条件で焼成した。
得られた焼成物のソーダ(Na_(2)O)分、成形密度、及びBET比表面積を測定した。結果を表1に示す。
【0034】
次に、6リットル(L)のポット内に15mmφのアルミナボール7.6kgが収容された振動ボールミル(中央化工機社製)を用い、上記の焼成で得られた焼成物1.5kgについて、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が3.0μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.23となるように粉砕し、αアルミナを得た。
【0035】
得られたαアルミナについて、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共に積算粒度分布率90重量%に対応する粒子径(Dp90)、積算粒度分布率50重量%に対応する粒子径(Dp50)、及び積算粒度分布率10重量%に対応する粒子径(Dp10)を測定してスパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0036】
〔実施例2〕
300リットル(L)のミル内に20mmφのアルミナボール255kgが収容された回転ボールミル(中央化工機社製)を用い、実施例1で得られた焼成物50kgについて、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が3.1μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.27となるように粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0037】
〔実施例3〕
実施例2と同じ回転ボールミル(中央化工機社製)を用い、実施例1で得られた焼成物50kgについて、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が2.9μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.19となるように粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0038】
〔実施例4〕
300リットル(L)のミル内に15mmφのアルミナボール255kgが収容された回転ボールミル(中央化工機社製)を用い、実施例1で得られた焼成物50kgについて、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が3.1μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.27となるように粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0039】
〔実施例5〕
実施例1と同様にして調製され、表1に示すソーダ(Na_(2)O)分、成形密度、及びBET比表面積を有する焼成物について、実施例1と同様の方法で粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
〔比較例1〕
実施例1と同様にして調製され、表1に示すソーダ(Na_(2)O)分、成形密度、及びBET比表面積を有する焼成物について、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が3.7μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.48となるように粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0041】
〔比較例2〕
粉砕後の平均粒子径(Dp50)が3μmのアルミナ(3μmアルミナ)と粉砕後の平均粒子径(Dp50)が0.5μmのアルミナ(5μmアルミナ)とを質量比(3μmアルミナ/5μmアルミナ)8:2の割合で混合し、ソーダ(Na_(2)O)分が0.07質量%であって、混合後の平均粒子径(Dp50)が2.8μmのαアルミナを調製した。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
〔比較例3〕
実施例1と同様にして調製され、表1に示すソーダ(Na_(2)O)分、成形密度、及びBET比表面積を有する焼成物について、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が2.7μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.93となるように粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0043】
〔比較例4〕
実施例1と同様にして調製され、表1に示すソーダ(Na_(2)O)分、成形密度、及びBET比表面積を有する焼成物について、粉砕後の平均粒子径(D_(av):Dp50)が3.8μmであって、この粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.57となるように粉砕し、αアルミナを得た。
得られたαアルミナについて、実施例1と同様にして、粒度分布として45μm篩上量(+45μm)を測定すると共にスパン値を求め、また、樹脂充填時粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例1?5のαアルミナ粉体は、いずれもソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下であると共に平均粒子径(Dp50)が2?5μmであるばかりでなく、45μm篩上量(+45μm)が低くてスパン値が1.1以下であってシャープな粒度分布を有しており、また、樹脂充填時粘度が60ポアズ(poise)以下と樹脂充填性に優れていた。
【0046】
これに対して、比較例1のαアルミナ粉体は、スパン値は低い値を示したが、45μm篩上量(+45μm)と樹脂充填時粘度が高い値を示し、比較例2のαアルミナ粉体は、45μm篩上量(+45μm)と樹脂充填時粘度が低い値を示したが、スパン値が高く、また、比較例3のαアルミナ粉体は、スパン値は低い値を示したが、樹脂充填時粘度が極めて高い値を示し、更に、比較例4のαアルミナ粉体は、スパン値は低い値を示したが、45μm篩上量(+45μm)と樹脂充填時粘度が高い値を示した。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイヤー法で得られた平均二次粒子径10?200μmの水酸化アルミニウムを焼成し、得られた焼成物を粉砕して製造されたαアルミナ粉体であって、
ソーダ(Na_(2)O)分が0.1質量%以下であると共に平均粒子径(Dp50)が2?5μmであり、かつ、粒度分布が45μm篩上量(+45μm)100ppm以下及びスパン値〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕1.0以下であることを特徴とする粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体。
【請求項2】
前記αアルミナ粉体は、このαアルミナ粉体200重量部を不飽和ポリエステル樹脂100重量部中に添加し、周速2.6m/秒及び10分間の条件で撹拌してアルミナ充填樹脂組成物を調製した際に、得られたアルミナ充填樹脂組成物について、ブルックフィールド型粘度計を用いてローター回転速度12rpm及び測定温度25℃の条件で測定した際のアルミナ充填樹脂組成物の粘度(樹脂充填時粘度)が60ポアズ(poise)以下である請求項1に記載の粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体。
【請求項3】
バイヤー法で得られたソーダ(Na_(2)O)分0.3質量%以下の水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合し、得られた混合物を、シリカ含有アルミナセラミックス製の焼成容器に充填して成形密度(成型圧:98.07MPa)2.05g/cm^(3)以上及びBET比表面積0.9m^(2)/g以下となるように1100?1600℃の範囲で焼成し、次いで得られた焼成物を、粉砕後の平均粒子径(D_(av))と粉砕前のBET相当径(D_(BET))との粒径比(D_(av)/D_(BET))が1.10?1.45の範囲になるように粉砕することを特徴とする粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-08 
出願番号 特願2014-41213(P2014-41213)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C01F)
P 1 652・ 536- YAA (C01F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 塩谷 領大森坂 英昭田中 則充  
特許庁審判長 大橋 賢一
特許庁審判官 山本 雄一
宮澤 尚之
登録日 2015-12-04 
登録番号 特許第5846233号(P5846233)
権利者 日本軽金属株式会社
発明の名称 粘度特性に優れた低ソーダαアルミナ粉体及びその製造方法  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 長谷川 芳樹  
代理人 佐々木 一也  
代理人 三上 敬史  
代理人 清水 義憲  
代理人 久本 秀治  
代理人 成瀬 勝夫  
代理人 久本 秀治  
代理人 佐々木 一也  
代理人 福山 尚志  

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