• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B22D
管理番号 1326924
異議申立番号 異議2015-700250  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-02 
確定日 2017-02-13 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5727263号発明「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5727263号の明細書及び特許請求の範囲を平成28年10月31日付けの訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5727263号の請求項1、3?4に係る特許を維持する。 特許第5727263号の請求項2に係る特許についての特許異議の申し立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5727263号(以下、「本件」という。)の請求項1?4に係る特許についての出願は、平成23年3月1日を出願日とし、平成27年4月10日に特許権の設定登録がなされた。

その後、特許異議申立人 品川リフラクトリーズ株式会社(以下「異議申立人」という。)より、平成27年12月2日付けで特許異議の申立てがなされ、平成28年2月8日付けで当審より取消理由が通知され、その指定期間内に同年4月11日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正請求書の提出があり、同年5月20日付けで異議申立人より意見書の提出がなされ、同年6月8日付けで当審より訂正拒絶理由が通知され、その指定期間内に同年7月12日付けで特許権者より意見書の提出及び前記訂正請求書についての手続補正書の提出があり、同年8月31日付けで当審より取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内に同年10月31日付けで特許権者より意見書の提出及び訂正請求書の提出があり、平成29年1月11日付けで異議申立人より意見書の提出がなされたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
平成28年10月31日付けで提出された訂正請求書による訂正の請求(以下、本件訂正請求」という。)は、その訂正請求書によれば、一群の請求項である請求項1?4について訂正を請求するものであり、その訂正の内容は、次のとおりである。

なお、平成28年4月11日付けの訂正請求書による訂正の請求は、同年7月12日付けで提出された、前記訂正請求書についての手続補正書により補正されたが、本件訂正請求がなされたため、前記訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げたものとみなされる。


(1) 訂正事項1
請求項1に「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールの1種以上を2.5?7.0質量%、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちの1種以上を1.0?10.0質量%含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」とあるのを、
「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有し、前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」に訂正する。

(2) 訂正事項2
請求項3に「気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることを特徴とする請求項2記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」とあるのを、
「気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることを特徴とする請求項1記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」に訂正する。

(3) 訂正事項3
請求項4に「気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」とあるのを、
「気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする請求項1または3に記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」に訂正する。

(4) 訂正事項4
請求項2は削除する。

(5) 訂正事項5
明細書の段落番号0010に「本発明は前記課題を解決するものであって、鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールの1種以上を2.5?7.0質量%、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちの1種以上を1.0?10.0質量%含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスである。」とあるのを、
「本発明は前記課題を解決するものであって、鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有し、前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスである。」に訂正する。

(6) 訂正事項6
明細書の段落番号0011に「また本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、モールドフラックスの供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものであることも特徴とする。このとき、気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることも特徴とする。また、気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする。」とあるのを、
「また本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることも特徴とする。また、気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする。」に訂正する。


2.訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1
ア. 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス」について、「モールドフラックス全量に対して、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールの1種以上を2.5?7.0質量%、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちの1種以上を1.0?10.0質量%含有」するとの発明特定事項を、「モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有」するとの発明特定事項にするとの訂正事項(以下「訂正事項1-1」という。)と、
訂正前の請求項1の「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス」について、訂正前の請求項2に記載されていた、「前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものである」との発明特定事項を付加するとの訂正事項(以下「訂正事項1-2」という。)と、
からなっている。

イ. そこで、まず、訂正事項1-1につき検討するに、モールドフラックスにおいて用いられる、有機バインダーには、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール以外に、メチルセルロース等もあるし、また、無機バインダーには、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩以外に、炭酸リチウム等もあるとの技術常識を考慮すると、訂正前の請求項1の「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス」は、訂正事項1-1により、例えばメチルセルロース等、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのいずれにも該当しない有機バインダーは含有しないものに減縮され、また例えば炭酸リチウム等、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のいずれにも該当しない無機バインダーは含有しないものに減縮されることとなった、具体的には、明細書の段落番号0030に本発明と記載されているフラックスのうち、フラックス番号9、11および12は、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのいずれにも該当しない、メチルセルロース等の有機バインダーを含有していることから、訂正事項1-1によって本発明外となった。

ウ. 上記イ.のため、訂正事項1-1は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもないといえる。

エ. 次に、訂正事項1-2につき検討するに、この訂正事項により、訂正前の請求項1の「鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス」に、訂正前の請求項2に記載されていた、「前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものである」との発明特定事項が付加されるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

オ. 上記ア.?エ.の検討を踏まえると、訂正事項1-1と訂正事項1-2とからなる訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張、又は変更するものでもない。

(2) 訂正事項2
訂正事項2は、訂正事項1に伴い、引用する請求項を「請求項2」から「請求項1」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3) 訂正事項3
訂正事項3は、訂正事項1に伴い、引用する請求項を「請求項2または3」から「請求項1または3」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4) 訂正事項4
訂正事項4は、訂正事項1に伴い、請求項2を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5) 訂正事項5?6
訂正事項5?6は、発明の詳細な説明の記載と、訂正事項1?4により変更された、特許請求の範囲の記載との整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6) 訂正事項1?6について
本件の全請求項について特許異議の申立てがされたので、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用される請求項はなく、したがって、訂正事項1?6には、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第7項の規定が適用されない。
また、訂正事項1?6は一群の請求項ごとに適法に請求されたものである。


3. 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。


第3 特許異議の申し立てについて
1. 本件発明
本件訂正請求により訂正された請求項1?4に係る発明(以下、それぞれ、「本件発明1」?「本件発明4」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有し、前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。
【請求項2】 (削除)
【請求項3】
気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることを特徴とする請求項1記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。
【請求項4】
気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする請求項1または3に記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。」


2. 取消し理由の概要
(本件訂正請求による訂正前の)請求項1?4に係る特許に対して、平成28年8月31日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物1?3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定に違反して特許を受けたものであり、本件特許は取り消すべきものと認められる。



刊行物1:特許第3240502号公報(甲第1号証)
刊行物2:特開平11-320055号公報(甲第3号証)
刊行物3:特開2001-83071号公報(甲第4号証)


3.各刊行物の記載事項(当審注:「…」は記載の省略を表す。以下、同じ。)
(1)刊行物1の記載事項
刊行物1には、「フラックス原料を粉砕して粒度が比表面積で1000?3000cm^(2) /gの粉末とし、この原料粉末をバインダー、水、および懸濁安定剤と混合して固型濃度50?75%のスラリーとし、篩で濾過した後スプレードライヤーで噴霧造粒して中空顆粒状とすることを特徴とする鋼の連続鋳造用モールドフラックスの製造方法。」(請求項1)との記載があり、「この原料粉末を有機および/または無機のバインダー、水、および懸濁安定剤と混合して固型濃度50?75%のスラリーとする。バインダーとしては、たとえばCMC、でんぷん、α-スターチ、アルミン酸ソーダ、水ガラス、デキストリン、リグニンなどがある。」(段落0012)との記載がある。

これらの記載から、刊行物1には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「鋼の連続鋳造用モールドフラックスであって、有機バインダーとしての、でんぷん、α-スターチ、デキストリン、リグニン、および、無機のバインダーとしての、アルミン酸ソーダ、水ガラスを含有する、中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックス。」


(2)刊行物2の記載事項
刊行物2には、以下の事項が記載されていると認められる。
2ア. 「本発明は、鋼の連続鋳造用モールドパウダーに関」すること。(段落番号0001)

2イ. 「…本発明の目的は、モールドパウダー本来の特性を維持しつつ、良好な作業環境性、拡がり性並びに大気との反応性を有し、且つ粒相互の反応性を抑制することができる多層構造モールドパウダーを提供することにある。
…本発明者らは、上記課題を解消するために種々検討を重ねた結果、上述の如き欠点をすべて克服できることを見出した。即ち、本発明は、内部造粒物と、該内部造粒物の外表面に形成された少なくとも1層の表層部から構成される多層構造モールドパウダーにおいて、表層部がpH=8未満のカーボンブラック、炭素含有化合物、炭酸塩及び金属からなる群から選択された1種以上を30重量%以上含有してなることを特徴とする多層構造モールドパウダーにある。」(段落番号0010?0011)

2ウ. 「本発明者らは、種々の研究、検討を重ねた結果、モールドパウダーを少なくとも内部造粒物と表層部からなる多層構造とし、表層部にpH=8未満のカーボンブラック、炭素含有化合物、炭酸塩及び金属からなる群より選択された1種以上を30重量%以上含有させることが有効であるとの知見を得た。即ち、モールドパウダーの内部より特にモールドパウダーの表層部が関与する性状として、上述のように(1)作業環境性、(2)拡がり性、(3)大気との反応性、(4)粒相互の反応性などが挙げられる。これらはモールドパウダーの表層部で特に重要な特性であり、本発明の多層構造モールドパウダーにおいては、表層部はこれら特性を付与できるような組成とすることができる。
本発明の多層構造モールドパウダーでは、モールドパウダーを内部造粒物と少なくとも1層の表層部から構成することにより、表層部に必要な特性は表層部に付与することが可能となり、モールドパウダーとしての特性が大幅に改善できる。…」(段落番号0012?0013)

2エ. 「…バインダーは必要に応じて有機質、無機質バインダーを使用できる。有機バインダーとしては、例えばでんぷん、デキストリン、アルギン酸類、CMC、MC、リグニンスルホン酸類、PVA等を用いることができる。また、無機質バインダーとしては、例えば各種珪酸ナトリウム、各種リン酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等を用いることができる。バインダーの添加量、濃度等は採用する造粒方式等により適宜選択することができる。」(段落番号0030)


(3)刊行物3の記載事項
刊行物3には、以下の事項が記載されていると認められる。
3ア. 「一般に鋼の連続鋳造では、鋳型内の保温、鋳型と鋳型内凝固鋳片間の潤滑、鋳型内鋳片の抜熱コントロール、溶鋼から浮上する介在物の吸収等の目的で連鋳パウダーが使用されている。通常連鋳パウダーの鋳型への供給は、作業者により鋳型の近傍まで運ばれた後、手作業にて鋳型内に投入し使用に供されている。
連鋳パウダーの形状は一般的には粉状もしくは顆粒状であるが、作業環境改善の点から粉塵の発生が少ない顆粒パウダーの使用が増加の傾向にある。またパウダー搬送作業や鋳型内へのパウダー投入作業の負担軽減、または省力化の点からパウダーの自動搬送が指向されてきており、使用場所から離れた位置に設置した貯蔵槽内のパウダーを使用場所近傍に設置した中継槽を経由して鋳型の上まで搬送する方法や、さらに最近では、中継槽まで搬送されたパウダーを鋳型内に自動散布する装置の開発、およびその適用が進められている。貯蔵槽から中継槽までパウダーを搬送する方法としては、配設されている配管内を気体…等を用いて搬送する方法が採られているが、特にパウダー貯蔵槽と中継槽の間の距離が長い場合には、他の設備との干渉上、配管に曲がり部があっても容易に搬送が可能な気体搬送が一般的に使用されている。」(段落番号0002?0003)

3イ. 「図2に示した本発明の顆粒強度測定装置を用いて、表1に示す測定条件で中空顆粒パウダーの顆粒強度を測定した。顆粒強度の判定は、図3 (b) の方法を採用し、100メッシュ(約150μm)アンダー分の重量変化で評価した。
【表1】

」(段落番号0032?0033)

3ウ. 「…本発明により、使用箇所(製鉄所)における自動搬送後の粉化の程度をオフラインにおいて容易に推定することが可能となると共に、あらかじめ粉化を防止するに十分な顆粒強度を保持させた顆粒パウダを設計することができるようになり、その工業的価値は極めて高い。」(段落番号0036)

3エ. 「【図2】


上記3ア.?3イ.の記載からすると、図2からは、中空顆粒パウダーを気体搬送したことが見て取れる。

3オ. 「【図3】


上記3イ.の記載を踏まえると、図3(b)の方法は、特定粒度以下変化分で中空顆粒の強度を判定する方法であることが見て取れる。

3カ. 「表1の条件で測定した種々のパウダーのオフラインにおける気送破砕率と、使用現場における気体搬送後のパウダー粉化量との関係について、パウダー気体搬送距離と搬送条件が異なるA、B、Cの3箇所において実施したもので、評価は気体搬送した場合のパウダー粉化量(100メッシュアンダー分増加量)をもって表し、その結果を第7図に示した。…」(段落0034)

3キ.「【図7】


上記3イ.?3カ.の記載を踏まえると、図7からは、表1の条件で測定した種々の中空顆粒パウダーの中には、100メッシュ(約150μm)アンダー分の増加が20重量%以下の中空顆粒パウダーがあり、このような中空顆粒パウダーを設計できることが見て取れる。


4. 異議申立人が提出した刊行物のうち、取消理由には用いられなかった、各刊行物の記載事項
(A) 特開平5-305403号公報(甲第2号証、以下、「甲第2号証」という。)の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
Aア. 「【産業上の利用分野】本発明は、鋼の連続鋳造において鋳型内に散布して使用される鋼の連続鋳造用鋳型添加剤に関するものである。」(段落番号0001)

Aイ. 「従来のモールドパウダーの形状は粉末、顆粒(柱状形:粒径1?3mm程度)、球状(中空形及び充実形)の3つに大別することができるが、特に粉末、顆粒(柱状顆粒)がその大半を占めている。」(段落番号0006)

Aウ. 「…本発明の目的は、作業環境の改善と優れた鋼の鋳片品質を得ることができる球状顆粒からなるモールドパウダーを提供することにある。」(段落番号0012)

Aエ. 「…本発明のモールドパウダーは球状モールドパウダーであり、従来の多く使用されている柱状顆粒、中空顆粒とは異なり、充実球であり、更に、粒径が小さいことが大きな特徴である。」(段落番号0016)

Aオ. 「本発明のモールドパウダーは流動撹拌造粒等により造ることができる。また、好ましくは炭素系原料の分散及び小径造粒品確保のため、バインダーもしくは微細炭素系原料を混合分散させたバインダーをスプレーにて添加し、造粒することが望ましい。…
このように、微細なカーボンを使用する場合、配合混合物中の微細なカーボン(特にカーボンブラック)はバインダーを添加することにより凝集する性格を有しており、通常の落とし込み(バインダー溶液の瞬間的添加)によるバインダーの添加では微細なカーボンの分散性は悪く、本発明者らはこの欠点を回避するためにスプレーにてバインダーの添加を行った。その結果、バインダーをスプレーにて添加することにより特定範囲の小粒径を容易に得ることができ、また、微細なカーボンの分散性の問題も解決できる。
また、微細なカーボンをバインダー中に分散混合させ、スプレーにて添加することにより、微細なカーボンの分散性は良くなった。この際、造粒促進及び粒強度確保のためにバインダー中に有機質バインダー(ポリビニールアルコール、カルボキシメチルセルロース等)及び水ガラス等を10重量%以内で添加することも可能である。」(段落番号0018?0020)


(B) 特表平10-501471号公報(甲第5号証、以下、「甲第5号証」という。)の記載事項
甲第5号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
Bア. 「1.耐火性の金属酸化物と、1種又は2種以上のフラクシング剤と、膨張剤とから成る粒子状鋳型フラックスであって、フラックスがまたカーボンブラックと、二酸化マンガンと、澱粉とを含んでいることを特徴とする、粒子状鋳型フラックス。」(特許請求の範囲)

Bイ. 「この発明は、鋼、とくに超低炭素鋼の連続鋳造用鋳型フラックスに関するものである。
鋼の連続鋳造では、一般に鋳型内の溶鋼の表面に鋳型フラックスが添加される。そのフラックスは鋳型壁と鋼との間に潤滑性を与え、鋼表面からの熱損失を減少させ、表面の酸化を防ぎ、鋼からアルミナのような介在物を除くこともある。
粒子は粉末に比べると遙かにダストの発生が少ないので、鋼の連続鋳造に用いられる鋳型フラックスは、粒子の形で用いられることが多く、その粒子は例えばフラックス成分をスプレー乾燥することによって作ることができる。粒子のすぐれた流動性は、例えばダプソル(DAPS0L-登録商標)フイーダーを使用して、粒子を鋳型へ自動的に供給するのにとくに適したものとなる。…」(第5頁第3?12行)

Bウ. 「澱粉は結合剤として働くが、場合によっては澱粉のほかに、さらに他の結合剤を付加することができる。
付加する結合剤は、粒子の製造から貯蔵、輸送及び使用を経て、膨張剤の膨張時まで、即ち粒子が分解してもとの粉末の形に返ることが必要な時点まで、粒子の一体性を維持するに適したものであれば、どのような結合剤であってもよい。適当な結合剤の例は、樹脂、ガム類例えば多糖類ガム、及び炭水化物例えば糖蜜である。
炭酸ナトリウム(ソーダ灰)及び/又は炭酸リチウムは、フラクシング剤であるが、また結合剤として働くので、そのようなものはこの発明に係る粒子状フラックスでは非常に好ましいものである。」(第7頁第3?12行)


(C) 特開2005-111492号公報(甲第6号証、以下、「甲第6号証」という。)の記載事項
甲第6号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
Cア. 「鋼の連続鋳造用モールドパウダーにおいて、炭素質原料としてカーボンブラックを0.5質量%以下(ゼロを含む)、カーボンブラック以外の炭素粉を0.5?20質量%、及び炭水化物粉を0.1?7.0質量%含有することを特徴とする鋼の連続鋳造用粉末状モールドパウダー。」(請求項1)

Cイ. 「…本発明者らは種々の検討を行なった結果、カーボンブラック代替原料として、炭水化物類を使用することを見出した。連続鋳造用粉末状モールドパウダー中に分散した炭水化物粉はそれ自身がモールドパウダー原料粒子間に分散し融着を防止すると共に、使用中に熱を受けると炭化してモールドパウダー原料粒子表面をコーティングし、モールドパウダー原料粒子間の融着を防止することができる。」(段落番号0025)

Cウ. 「本発明の鋼の連続鋳造用粉末状モールドパウダーにおいて、カーボンブラックの代替原料として添加される炭水化物粉は、主成分が炭水化物であれば特に限定は無く、米、小麦、大豆、とうもろこし、芋などの穀物類、根葉類をそのまま粉砕し粉末状にしたものや、澱粉粉、セルロース粉等のように穀物類、根葉類を加工したもの、古紙粉、木材チップ粉砕粉を使用することができる。炭水化物粉のなかでも、小麦粉、片栗粉、澱粉粉、カルボキシメチルセルロース(CMC)が入手し易く、粉末粒度も良好であり望ましい。
ここで、炭水化物粉の配合量は、0.1?7.0質量%、好ましくは0.3?4.0質量%の範囲内である。炭水化物粉は、それ自身がモールドパウダー原料粒子間に分散し融着を防止すると共に、使用中に熱を受けると炭化してモールドパウダー原料粒子表面をコーティングし、モールドパウダー原料粒子間の融着を防止する働きがある。…」(段落番号0027?0028)

Cエ. 「本発明の連続鋳造用粉末状モールドパウダーは、黒色以外の色調であるために発塵による汚れが目立たなく、作業環境を改善することができ、また、溶融面からは、溶鋼湯面が活性な時にも赤熱現象が発生することなく、スムーズに溶融するため、鋼の連続鋳造操作に好適に使用することができる。」(段落番号0039)


(D) 特開昭60-87960号公報(甲第10号証、以下、「甲第10号証」という。)の記載事項
甲第10号証には、以下の事項が記載されていると認められる。
Dア. 「この発明は、金属とくに鉄系金属、例えば鋼の鋳造に用いられる溶剤、詳述すれば、鋼の連続鋳造に用いられる溶剤に関するものである。」(第2頁左上欄第16?18行)

Dイ. 「この発明によると、炭素質粉末が粒子全体よりも表面に大きな割合で存在する結果として、溶剤が焼結するときに起る上述のような重大な欠点を招かないで、高速鋳造に適した高溶融速度を実現することができる、ということが判明した。
粒子は、一般に中の詰つたものであつてもよいが、大きな割合の空隙を含むことが好ましい。後者の場合、粒子は中空で、大体球形のものであつてもよく、または多孔構造を持つた大体球形のものであつてもよい。
…この発明によると、スプレー乾燥するときに、乾燥中に炭素質粉末が表面に向つて移動するような粒子を生ずるスラリー組成物を作り得ることが見出された。…
炭素質粉末の移動は、有機結合剤の存在によつて促進され、このために溶剤成分はそのような結合剤を含むことが望ましい。有機結合剤の割合は、0.1-2.0重量%であることが望ましい。
粒子の強度を大きくするために、無機結合剤、例えば炭酸ソーダ、珪酸ソーダ、又は燐酸ソーダを存在させることが望ましく、その割合は0.5-6重量%であることが望ましい。」(第3頁左上欄第17行?同頁左下欄第16行)

Dウ. 「この発明に係る溶剤の組成の一例を述べると次のとおりである。
成 分 重量部
非結晶性珪酸カルシウム 64
ソーダ/珪酸塩ガラス粉末 18
弗化ナトリウム 13
カーボンブラツク 1
コークス粉末 2
カルボキシメチルセルロース 1
炭酸ソーダ 4
上記の組成物を水性スラリーにし、スプレー乾燥して、中空の大体球形粒子状のこの発明に係る溶剤を得た。…溶剤は鋼の高速連続鋳造用に適したものであつた。
この発明に係る溶剤の組成の別の例は次のとおりである。
成 分 重量部
非結晶性珪酸カルシウム 65
ソーダ/珪酸塩ガラス 16.7
弗化ナトリウム 10
カーボンブラック 1.5
コークス粉末 0.5
カルボキシメチルセルロース 1
炭酸ソーダ 6
上記の組成物を水性スラリーにし、スプレー乾燥して、組成物全体よりも表面に炭素質粉末が大きく凝集されている、中空の大体球形粒子形状の溶剤を得た。そのような溶剤は、鋼の低速ないし中速連続鋳造に適しており、比較的炭素の含有量が少ないために、従来の溶剤を用いた場合の鋼に比べて、鋼の炭素ピツクアツプの危険を著しく減少させるものである。」(第4頁左上欄第16行?同頁左下欄末行)


なお、異議申立人が提示した甲第1?10号証のうち、甲第7?9号証については、本件特許に係る出願日前に公知の文献とはいえないので、記載事項の摘示は行わなかった。


5.本件発明と引用発明との対比・判断
(1) 本件発明1と引用発明との対比・判断
(1-1) 本件発明1と引用発明との対比
本件発明1と引用発明とを対比すると、引用発明における「有機バインダーとしての、でんぷん、α-スターチ、デキストリン、リグニンを含有する」こと、「無機のバインダーとしての、アルミン酸ソーダ、水ガラスを含有する」ことは、それぞれ、本件特許発明1における「有機バインダーとして多糖類、リグニン化合物のうちから1種以上を含有すること」、「無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩を含有すること」に相当する。
そうすると、本件発明1と引用発明との一致点、相違点は以下のとおりである。

<一致点>
鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、有機バインダーとして多糖類、リグニン化合物のうちから1種以上と、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩とを含有する点。

<相違点>
相違点1:モールドフラックス全量に対して、「有機バインダーとして多糖類、リグニン化合物のうちから1種以上」、「無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩」についての含有量が、本件発明1では、それぞれ、2.5?7.0質量%、1.0?10.0質量%と特定されているに対し、引用発明では特定されていない点。

相違点2:モールドフラックスは、本件発明1では、「供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものである」のに対し、引用発明ではどのように搬送するためのものであるのか特定されていない点。

(1-2) 判断
ア. まず、上記相違点1に係る本件発明1の構成(以下、「上記相違点1に係る構成」という。)の技術的意義につき、すなわち、本件発明1が、「モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有」するとの発明特定事項を備えていることに、課題を解決することとの関係で、臨界的意義があるのか否かにつき検討する。

イ. 本件訂正請求により訂正された明細書(以下、単に「本件明細書」という。)によれば、鋼の連続鋳造用のモールドフラックスを使用する際、特開平11-239855号公報(以下、「特許文献1」という。)に示されているような、スクリューコンベア等が使用される投入装置で自動的に鋳型内に供給されるが、このような投入装置で顆粒のフラックスを供給すると顆粒が壊れて粉塵が発生することがあるため、特開平10-156492号公報(以下、「特許文献2」という。)には、これの対策として、原料を顆粒状に造粒したのち、乾燥状態においてシリコーンオイル、流動パラフィン、エチレングリコールの少なくともいずれかを添加して均一に混合することが示されており、この対策によって、前記投入装置とのフラックスの摩擦力が顕著に緩和されて、粉化が著しく改善されるとされている、一方、フラックスの気体搬送においても顆粒の粉化が問題になるものの、その対応策については文献が無いのが現状であることから、本件発明1は、フラックスの気体搬送において顆粒の粉化が低減された鋼の連続鋳造用モールドフラックスを提供することを課題とするとされている(段落番号0002?0009)。

ウ. そして、本件明細書には、フラックスの気体搬送において、顆粒の粉化が低減された連続鋳造用モールドフラックスを提供することについて、
(ウ-1)「本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、有機バインダーおよび無機バインダーをそれぞれ適量含有することにより顆粒の強度が大きくなり、長距離を高速で気体搬送しても粉化が少ない。したがってフラックスの粉化によるフラックスの溶融特性の変質に起因するスラグベアなどの欠陥発生を防止することができる。またさらに使用時の粉塵の飛散を防止することにより作業環境の悪化を防止できる。」(段落番号0012)、
(ウ-2)「…本発明においては、原料粉末を懸濁させた液中に有機バインダーおよび無機バインダーを添加する。有機バインダーとしては水溶性の高分子化合物が使用され、乾燥すると固化して接着力を生ずるものである。これにより原料粉末の粒子同士が強固に固着されて顆粒の強度が大きくなる。有機バインダーの原料となる水溶性の高分子化合物としては天然高分子、半合成高分子、合成高分子に類別できる。
天然高分子としてはほとんどが多糖類に属し、澱粉、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ペクチンなどが該当する。また半合成高分子としては、アルギン酸ナトリウムやパルプ廃液を処理して得られるリグニンスルホン酸カルシウムなどのリグニン化合物がある。また合成高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドンなどのビニル系高分子化合物やポリエチレングリコールなどが使用できる。有機バインダーはこれらの1種でも2種以上を混合して使用してもよい。
…有機バインダーの添加量はモールドフラックスの全量に対して…好ましくは2.5?7.0%とする。」(段落番号0016?0018)、
(ウ-3)「一方、無機バインダーとしては、水に溶けてその後乾燥させると固化する無機物が使用され、炭酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、珪酸ナトリウムなどのナトリウムオキソ酸塩が適する。また上記各化合物のナトリウムに代えてカリウムにした炭酸カリウムその他のカリウムオキソ酸塩も使用できる。またこれらの1種でも2種以上を混合して使用してもよい。無機バインダーの成分は乾燥により原料粉末の粒子表面に付着して固化し、粉末粒子同士を固着して顆粒の強度を増大させると考えられる。
無機バインダーの添加量は、熱風乾燥塔内で噴霧して乾燥されたモールドフラックスの全量に対して1.0?10.0%が含有されるようにするのが適当である。…」(段落番号0019?0020)、及び、
(ウ-4)「なお無機バインダーの成分は例えば炭酸ナトリウムのようにバインダーのためだけではなく、ナトリウムの添加といった成分構成のためにも使用される。この場合フラックス成分の構成部分としてもバインダーとしても作用し、無機バインダーの添加量にも入るものである。しかし例えば炭酸ナトリウムがプリメルト剤を製造するための原料として他の材料と一緒に溶融される場合には、原料粉末をスラリーにしたときに水に溶けることはないので、無機バインダーの添加量には入らない。」(段落番号0021)
等の記載がある。

エ. 上記(ウ-1)?(ウ-3)に示した本件明細書の記載からすると、本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、有機バインダーおよび無機バインダーをそれぞれ適量含有することにより上記イ.に示した課題を解決したものであって、有機バインダーとしては、天然高分子等、水溶性の高分子化合物が使用され、無機バインダーとしては、炭酸ナトリウム等、水に溶けてその後乾燥させると固化する無機物が使用されるということが把握でき、また、有機バインダーの適量とは、モールドフラックスの全量に対して2.5?7.0%であり、無機バインダーの適量とは、モールドフラックスの全量に対して1.0?10.0%であるということも把握できる。

オ. また、上記(ウ-4)に示した本件明細書の記載からすると、炭酸ナトリウム等であっても、バインダーとして作用しない場合には、バインダーの添加量には入らないということも把握できる。

カ. そして、上記エ.?オ.に示したことは、本件明細書の段落0027?0035の実施例(以下、単に「本件明細書の実施例」ということがある。)の記載によって裏付けられているといえる。すなわち、鋼の連続鋳造用の中空顆粒状のフラックスが、有機バインダーとして作用する水溶性高分子化合物をモールドフラックスの全量に対して2.5?7.0質量%含有し、かつ、無機バインダーとして作用する無機物をモールドフラックスの全量に対して1.0?10.0質量%含有する場合には、気体中で浮遊状態にした状態で長距離を高速で送る気体搬送に適したフラックスとなるため、上記イ.に示した課題を解決し得るという技術事項が、本件明細書の実施例の記載によって裏付けられているといえる。

キ. ここで、本件発明1は、上記1.に示したとおり、上記相違点1に係る構成を含む、「モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有」するとの発明特定事項を備えている。

ク. 上記キ.に示した本件発明1の発明特定事項は、モールドフラックスにおいて用いられる、有機バインダーには、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール以外に、メチルセルロース等もあるし、また、無機バインダーには、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩以外に、炭酸リチウム等もあるとの技術常識を考慮すると、上記カ.に示した技術事項において、有機バインダーとして作用する水溶性高分子化合物を、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上に特定し、かつ、無機バインダーとして作用する無機物を、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上に特定したものであるといえるところ、上記イ.?カ.の検討を踏まえると、当該発明特定事項により、本件発明1は、気体中で浮遊状態にした状態で長距離を高速で送る気体搬送に適したフラックスとなるため、上記イ.に示した課題を解決することとの関係で、すなわち、フラックスの気体搬送において顆粒の粉化が低減された鋼の連続鋳造用モールドフラックスを提供するとの課題を解決することとの関係で、臨界的意義があると認められる。

ケ. また、本件発明1は、上記ク.に示したことから、多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコール以外の有機バインダーは含有しておらず、かつ、ナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩以外の無機バインダーは含有していないこととなるから、例えば、本件明細書の実施例に記載されている、フラックス番号1?3、6?8、10および14の実施例を包含しているものの、フラックスク番号4?5、9、および11?13の実施例は包含しておらず、そして、フラックスク番号15?20の比較例は、当然に、包含していない。

コ. そして、上記イ.?ケ.の検討を踏まえると、本件発明1に含まれる、上記相違点1に係る構成は、鋼の連続鋳造用の中空顆粒状のフラックスを、気体中で浮遊状態にした状態で長距離を高速で送る気体搬送に適したフラックスとするための構成であって、この構成によって、フラックスの気体搬送において顆粒の粉化が低減された鋼の連続鋳造用モールドフラックスを提供するとの課題を解決できるため、臨界的意義があると認められる。

サ. 次に、上記相違点1に係る構成を引用発明の中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスに備えさせることの容易性につき検討するに、刊行物1全体の記載を参照しても、刊行物1に記載されているのは、原料粉末から中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスを製造するまでの技術事項に留まり、製造した当該フラックスを連続鋳造装置などへ気体搬送することについての記載は見当たらない。

シ. ここで、刊行物2には、鋼の連続鋳造用モールドパウダーにおいては、でんぷん、デキストリン、リグニンスルホン酸類等の有機バインダー、各種珪酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム等の無機バインダーを用いることができ、バインダーの添加量は採用する造粒方式等により適宜選択することができるとの記載事項がある(上記3.(2)2ア.、2エ.)。

ス. 引用発明における、「有機バインダーとしての、でんぷん、α-スターチ、デキストリン、リグニン」は、上記シ.の有機バインダーに相当し、また、引用発明における、「無機のバインダーとしての、アルミン酸ソーダ、水ガラス」は、上記シ.の無機バインダーに相当するものの、上記シ.に示した記載事項は、刊行物2の記載事項(上記3.(2)2イ.?2ウ.)によれば、鋼の連続鋳造用の多層構造のモールドパウダーに関する記載事項であって、中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスに関する記載事項ではないから、当該記載事項を、引用発明の中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスに適用することが妥当なこととはいえない。

セ. また、仮に、引用発明の中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスに上記シ.に示した記載事項を適用し得たと仮定しても、その記載事項には、バインダーの添加量は採用する造粒方式等により適宜選択することが示されているに留まり、気体中で浮遊状態にした状態で長距離を高速で送る気体搬送に適したフラックスとするために、有機バインダーとして作用する水溶性高分子化合物と無機バインダーとして作用する無機物とをそれぞれ適量含有させるまでの技術事項は示されていないから、上記相違点1に係る構成は導出し得ない。

ソ. また、刊行物3には、中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスの気体搬送に関する記載事項がある(上記3.(3)3ア.?3キ.)ものの、刊行物3全体の記載を参照してみても、バインダーに関する記載は見当たらない。

タ. 上記ソ.のため、刊行物3の記載事項(上記3.(3)3ア.?3キ.)を、引用発明に適用すると、上記相違点2に係る構成は導出できるとしても、上記相違点1に係る構成は導出し得ない。

チ. また、上記相違点1に係る構成は、甲第2号証の記載事項(上記4.(A)Aア.?Aオ.)、甲第5、6、10号証の記載事項(上記4.(B)Bア.?(D)Dウ.)を参照してみても、見当たらないから、周知の技術事項であるとも、技術常識であるともいえない。

ツ. してみると、上記相違点1に係る構成は、刊行物1?3に記載された技術事項ではないし、周知の技術事項であるとも、技術常識であるともいえないから、上記相違点1に係る構成を引用発明の中空顆粒状の鋼の連続鋳造用モールドフラックスに備えさせることは、刊行物1?3に記載された技術事項、周知の技術事項および技術常識に基づいたとしても、当業者が容易になし得たこととはいえない。

テ. したがって、上記相違点1に係る構成を含む、本件発明1は、刊行物1?3に記載された発明、周知の技術事項および技術常識に基づいたとしても、当業者が容易になし得たものではない。


(1-3) 小括
以上のとおり、本件発明1は、刊行物1?3に記載された発明、周知の技術事項および技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。


(2) 本件発明3?4と引用発明との対比・判断
(2-1) 本件発明3?4と引用発明との対比
本件特許発明3?4と引用発明とを対比すると、本件特許発明3?4は、上記相違点1?2以外に、以下の点でも引用発明と相違している。

<相違点>
相違点3:本件発明3は、気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であるとの発明特定事項を備えているのに対し、引用発明は、そのような発明特定事項を備えていない点。

相違点4:本件発明4は、気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であるとの発明特定事項を備えているのに対し、引用発明は、そのような発明特定事項を備えていない点。

(2-2) 判断
ア. 上記相違点1に係る構成は、上記(1-2)ア.?ツ.での検討と同様の検討により、刊行物1?3に記載された技術事項ではないし、周知の技術事項であるとも、技術常識であるともいえない。

イ. してみると、上記相違点2?4について検討するまでもなく、上記相違点1に係る構成を含む、本件発明3?4は、刊行物1?3に記載された発明、周知の技術事項および技術常識に基づいたとしても、当業者が容易になし得たものではない。

(2-3) 小括
以上のとおり、本件発明3?4は、刊行物1?3に記載された発明、周知の技術事項および技術常識に基づいて、当業者が容易になし得たものではない。


(3) 異議申立人の意見について
異議申立人は、平成29年1月11日付けの意見書において、本件訂正請求により訂正されても、本件発明1における数値限定には臨界的意義を見出すことはできず、本件発明1、3?4は、引用発明および刊行物2、3記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明できるものである旨主張しているが、上記(1-2)で検討したとおり、本件発明1における数値限定は臨界的意義を有していると認められるから、異議申立人の前記主張は採用し得ない。


第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、本件訂正請求により訂正された請求項1、3?4に係る特許を取り消すことはできない。

また、他に、本件訂正請求により訂正された請求項1、3?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

そして、本件訂正請求により、本件請求項2に係る特許は削除されたため、本件請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる特許が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス
【技術分野】
【0001】
本発明は鋼の連続鋳造において鋳型内に添加して使用する連続鋳造用モールドフラックスに関し、フラックス貯留ホッパーから連続鋳造装置などへフラックスを搬送するのに、長距離の気体搬送を適用した場合にフラックス粒子が粉化し難いものを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
溶鋼の連続鋳造においてはモールドフラックスが鋳型内の湯面に散布される。このフラックスは溶鋼表面で溶解してスラグの溶融層を形成し、溶鋼の保温、酸化防止および非金属介在物の吸収を行なうとともに、鋼の凝固シェルと鋳型との間に流れ込んで潤滑作用を行なう。
【0003】
フラックスは粉末であると飛散し易く作業環境の悪化を招くおそれがあるので、粒径が1mm以下の顆粒状のものが使用されることが多い。顆粒状にするには粘土状にした素材を押出しする方法などもあるが、フラックス成分のスラリーを作り、熱風乾燥塔内で噴霧して乾燥する方法がある。この方法においては水分の急激な蒸発によりほぼ球状の中空な顆粒を製造することが可能である。
【0004】
このようなモールドフラックスは連続鋳造に使用するさい、例えば特開平11-239855号公報(特許文献1)に示されているような投入装置で自動的に鋳型内に供給される。この投入装置においては、フラックス貯蔵タンクからフラックス投入シュートの個所までフラックスを移送するのにチューブ状のフレキシブルスクリューコンベアが使用され、貯蔵タンクと投入シュート間の相対位置の変化に対処している。
【0005】
ところがこのような投入装置で顆粒のフラックスを供給すると顆粒が壊れて粉塵が発生することがある。そこで特開平10-156492号公報(特許文献2)にはこれの対策を講じた顆粒状のモールドフラックスの製造方法が示されている。それによると基材原料、SiO_(2)原料、溶融調整剤および溶融速度調整剤などを原料として、押出造粒、撹拌造粒、転動造粒、流動造粒、スプレー造粒などの任意の方法で顆粒状に造粒したのち、乾燥状態においてシリコーンオイル、流動パラフィン、エチレングリコールなどの少なくともいずれかを添加して均一に混合するというものである。これによりスクリューコンベアや投入装置とのフラックスの摩擦力が顕著に緩和されて顆粒が破壊されにくくなり、粉化が著しく改善されるとしている。
【0006】
一方、チューブを通じてフラックスを搬送する手段として空気を使用するものも採用されている。気体による搬送は距離が増えても設備費用がさほど増大しないことから特に長距離の搬送に適しており、数十mから100m程度に至る例もある。しかしながら気体搬送は距離が長いこともあってフラックス粒子と配管との摩擦や、粒子同士の衝突や摩擦が大きくなり、粉化の程度が著しくなることが知られている。
【0007】
本発明の出願人は以前からフラックスの気体搬送における顆粒の粉化を問題にしており、粉化に対する抵抗力を評価する方法を考え出して特開2001-83071号公報(特許文献3)に示した。これによると粉化の程度は気送距離が長くなるほど、また気体流量が大であるほど大きくなるという知見を得ている。そして配管の長さと気体流量との積が1m・m^(3)/minを超えると粉化が著しくなるとしている。しかし特許文献3においてはフラックスの粉化傾向の評価方法に止まり、粉化が少ないフラックスの製造方法に関しては特段の説明はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11-239855号公報
【特許文献2】特開平10?156492号公報
【特許文献3】特開2001-83071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記のように引用文献3ではフラックスの気体搬送における顆粒の粉化を問題にしているものの、これに対する対応策については示されておらず、また粉化が少ないフラックスを製造する方法に関してはその後にも文献が無いのが現状である。また引用文献2のシリコーンオイルなどの潤滑材の混合により顆粒の粉化を防止する方法は、特にスクリューコンベアなどにおけるフラックスの摩擦力の緩和を図ったものであり、フラックスの気体搬送における顆粒の粉化に対して大きな効果は期待できない。そこで本発明はフラックスの気体搬送においても顆粒の粉化が低減された連続鋳造用モールドフラックスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は前記課題を解決するものであって、
鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有し、前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスである。
【0011】
また本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることも特徴とする。また、気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、有機バインダーおよび無機バインダーをそれぞれ適量含有することにより顆粒の強度が大きくなり、長距離を高速で気体搬送しても粉化が少ない。したがってフラックスの粉化によるフラックスの溶融特性の変質に起因するスラグベアなどの欠陥発生を防止することができる。またさらに使用時の粉塵の飛散を防止することにより作業環境の悪化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】有機バインダーの量と、フラックスの粉化量および嵩比重との関係を示すグラフである。
【図2】無機バインダーの量と、フラックスの粉化量および嵩比重との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明が対象とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスは、製造方法としては原料粉末を水に懸濁させてスラリー状にしたものを、熱風乾燥塔内で噴霧して乾燥する方法が行われる。水に懸濁させるべき原料粉末としては例えば合成珪酸カルシウム、ウォラストナイト(珪灰石)、ポルトランドセメント、石灰石、珪藻土などであり、これらを目標とするCaO/SiO_(2)比になるように混合する。またさらに蛍石、Na化合物などの溶融温度や溶融粘度の調整剤や、溶融速度を調整するための炭素粉末も必要に応じて添加される。これらの原料はそれぞれの粉末を混合したものを使用しても、炭素粉末以外の一部または全部を溶融して粉砕したプリメルト原料としても良い。
【0015】
本発明においてはフラックスの成分範囲について特に限定するものではないが、上記のような原料を混合した結果、分析値としては例えば、SiO_(2):20?45質量%(以下、%という)、CaO:25?45%、Al_(2)O_(3):1?15%、Na_(2)O:0.5?20%、F:0.5?20%、C:0.5?10%といった成分となる。
【0016】
ここで本発明においては、原料粉末を懸濁させた液中に有機バインダーおよび無機バインダーを添加する。有機バインダーとしては水溶性の高分子化合物が使用され、乾燥すると固化して接着力を生ずるものである。これにより原料粉末の粒子同士が強固に固着されて顆粒の強度が大きくなる。有機バインダーの原料となる水溶性の高分子化合物としては天然高分子、半合成高分子、合成高分子に類別できる。
【0017】
天然高分子としてはほとんどが多糖類に属し、澱粉、デキストリン、グアーガム、キサンタンガム、アラビアゴム、カラギーナン、ペクチンなどが該当する。また半合成高分子としては、アルギン酸ナトリウムやパルプ廃液を処理して得られるリグニンスルホン酸カルシウムなどのリグニン化合物がある。また合成高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルピロリドンなどのビニル系高分子化合物やポリエチレングリコールなどが使用できる。有機バインダーはこれらの1種でも2種以上を混合して使用してもよい。
【0018】
有機バインダーの添加量は、熱風乾燥塔内で噴霧して乾燥されたモールドフラックスの全量に対して2.0?10.0%が含有されるようにするのが適当である。図1は有機バインダーの量と、ある条件で空気搬送したときの粉化量およびフラックスの嵩比重との関係を示すグラフである。これを見ると有機バインダーはある程度までは分量が増加すると顆粒の強度を増大させるが、さらに分量が増大すると強度が却って低下する。図1に記載されているように、このように強度が低下する範囲においては嵩比重が低下することが判明した。したがって有機バインダーの分量が多いときの強度の低下は顆粒の中空部分の増加によるものと考えられる。また有機バインダーは炭素粉末を分散させる作用もあり、この効果を発揮させるためにも添加が必要である。したがって有機バインダーの添加量はモールドフラックスの全量に対して2.0?10.0%、好ましくは2.5?7.0%とする。
【0019】
一方、無機バインダーとしては、水に溶けてその後乾燥させると固化する無機物が使用され、炭酸ナトリウム、アルミン酸ナトリウム、燐酸ナトリウム、珪酸ナトリウムなどのナトリウムオキソ酸塩が適する。また上記各化合物のナトリウムに代えてカリウムにした炭酸カリウムその他のカリウムオキソ酸塩も使用できる。またこれらの1種でも2種以上を混合して使用してもよい。無機バインダーの成分は乾燥により原料粉末の粒子表面に付着して固化し、粉末粒子同士を固着して顆粒の強度を増大させると考えられる。
【0020】
無機バインダーの添加量は、熱風乾燥塔内で噴霧して乾燥されたモールドフラックスの全量に対して1.0?10.0%が含有されるようにするのが適当である。図2は無機バインダーの量と、ある条件で空気搬送したときの粉化量およびフラックスの嵩比重との関係を示すグラフである。これを見ると有機バインダーの場合と同様にある程度までは分量が増加すると顆粒の強度を増大させるが、さらに分量が増大すると強度が却って低下する。やはり前記有機バインダーの場合と同様に、このような強度が低下する範囲においては嵩比重が低下しており、強度の低下は顆粒の中空部分の増加によるものと考えられる。無機バインダーは有機バインダーに比べて安価であり、有機バインダーは炭素粉末の分散のために必要ではあるものの使用をできるだけ少なくして、無機バインダーを活用したほうがコスト的に有利である。また有機バインダーは分量が多いと鋳片の炭素量の増大を招くおそれがあり、この点からも大量の使用は好ましくない。したがって無機バインダーの添加量はモールドフラックスの全量に対して1.0?10.0%、好ましくは1.5?9.0%とする。
【0021】
なお無機バインダーの成分は例えば炭酸ナトリウムのようにバインダーのためだけではなく、ナトリウムの添加といった成分構成のためにも使用される。この場合フラックス成分の構成部分としてもバインダーとしても作用し、無機バインダーの添加量にも入るものである。しかし例えば炭酸ナトリウムがプリメルト剤を製造するための原料として他の材料と一緒に溶融される場合には、原料粉末をスラリーにしたときに水に溶けることはないので、無機バインダーの添加量には入らない。
【0022】
本発明の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスはモールドフラックスの供給に際して、気体搬送を適用するのに特に適している。すなわち気体搬送は長距離の搬送に適用されることが多く、たとえば配管長さが50mから90mといった例もある。ところで粉粒体の気体搬送の方法には一般に2種類の方式が知られており、低濃度高速輸送方式と高濃度低速輸送方式とがある。
【0023】
低濃度高速輸送方式は粉粒体を浮遊状態にして、輸送元で例えば100kPa程度以下の圧力を加えることにより10?30m/sといった気流速度で搬送するものである。一方、高濃度低速輸送方式は、輸送元で気体を例えば数百kPaに加圧した状態で粉粒体を断続的に送り出すことにより配管の断面が断続的に塞がれた状態にし、圧力のエネルギーにより数m/s程度の気流速度で搬送するものである。
【0024】
高濃度低速輸送方式は配管が長距離になるにしたがって気圧を上げなければならないといった問題がある。一方、本発明の中空顆粒状モールドフラックスは中空であるため嵩比重が小さく、気体中で容易に浮遊状態にできる。これにより配管が長距離であっても円滑に搬送できるので低濃度高速輸送方式を採用している。
【0025】
中空顆粒状モールドフラックスの気体搬送のときの崩壊の程度は搬送距離が長くなるに従って増加し、また気体の流量が大きくなるに従って増加する。搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であるとフラックスの種類によっては崩壊の程度が著しくなるが、本発明の中空顆粒状モールドフラックスにおいてはこのような条件での気体搬送に適用しても崩壊の程度が少ないものである。上記の搬送距離と気体の流量との積は、たとえば50mの搬送距離を流量が0.2m^(3)/min(配管径が19mm)で搬送した場合が該当し、そのときの気流速度は12m/sとなる。
【0026】
気体搬送したときの崩壊の程度の試験方法としては、気体の流量が0.2m^(3)/minで50mの距離を実際に気体搬送する。すなわち搬送距離と気体の流量との積としては10m・m^(3)/minとなるが、これによる粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であれば良好なものということができる。本発明の中空顆粒状モールドフラックスはこのようなものに該当する。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。
本発明の中空顆粒状フラックスを試作するにあたり、バインダー成分を除く基本フラックスとして、表1に示す成分のフラックスを作製した。これらのフラックスは合成珪酸カルシウム、ポルトランドセメント、蛍石などの、所定のフラックス成分にするための原料を混合し、炭素粉末以外の全部を溶融して粉砕したプリメルト原料とした。このプリメルト原料粉末と上記の炭素粉末とを表1の成分になるように混合した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示した基本フラックスに対して、表2に示す各種の有機バインダーおよび無機バインダーを配合して水を加え、懸濁させてスラリー状にした。さらにこれを熱風乾燥塔内で噴霧して乾燥し、中空顆粒状のフラックスとした。なお表2に示す有機バインダーおよび無機バインダーの配合量は、基本フラックスとの合計であるフラックス全量に対する割合である。
【0030】
【表2】

【0031】
上記のようにして製造した中空顆粒状のフラックスについて嵩密度を測定したが、その結果を表2に示す。また気体搬送したときの崩壊の程度について試験を行なった。試験方法は2.0kgのフラックスを、内径19mm、長さ50mの配管を通して気体の流量が0.2m^(3)/minで搬送した。その後フラックスの粒子径が150μm未満の粒子の、フラックス全量に対する割合の増加量を求めた。その結果も表2に併せて示す。
【0032】
フラックス番号1から14は本発明のものであって(ただし番号4、5および13は有機バインダーが本発明外なので参考試料)、有機バインダーおよび無機バインダーの添加量が適切であるので、150μm未満粒の増加量はいずれも本発明で規定する20%以下であった。したがって気体中で浮遊状態にした状態で長距離を高速で送る気体搬送に適したフラックスとなっている。
【0033】
これに対して比較例である番号15のフラックスは有機バインダーの添加量が少ないので、また番号16のフラックスは無機バインダーの添加量が少ないので、いずれも150μm未満粒の増加量が多かった。
【0034】
また比較例である番号17のフラックスは有機バインダーの添加量が多すぎるので、また番号18のフラックスは無機バインダーの添加量が多すぎるのでいずれも嵩比重が小さくなり、それに伴って150μm未満粒の増加量が多かった。
【0035】
また比較例である番号19および番号20のフラックスは、それぞれ複数種の有機バインダーおよび無機バインダーの添加量の合計が多すぎるので、いずれも嵩比重が小さく150μm未満粒の増加量が多かった。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックスにおいて、モールドフラックス全量に対して、有機バインダーとして多糖類、アルギン酸ナトリウム、リグニン化合物、ビニル系高分子化合物、ポリエチレングリコールのうちから1種以上を2.5?7.0質量%、無機バインダーとしてナトリウムオキソ酸塩、カリウムオキソ酸塩のうちから1種以上を1.0?10.0質量%含有し、前記モールドフラックスは供給に際して、フラックスを気体中で浮遊状態にした状態で送る気体搬送をするためのものであることを特徴とする鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。
【請求項2】(削除)
【請求項3】
気体搬送における搬送距離と、気体の流量との積が10m・m^(3)/min以上であることを特徴とする請求項1記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。
【請求項4】
気体搬送における搬送距離と気体の流量との積が10m・m^(3)/minのとき、粒子径が150μm未満の粒子のフラックス全量に対する割合の増加量が20質量%以下であることを特徴とする請求項1または3に記載の鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-30 
出願番号 特願2011-43852(P2011-43852)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B22D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 酒井 英夫  
特許庁審判長 板谷 一弘
特許庁審判官 小川 進
富永 泰規
登録日 2015-04-10 
登録番号 特許第5727263号(P5727263)
権利者 日鐵住金建材株式会社 新日鐵住金株式会社
発明の名称 鋼の連続鋳造用の中空顆粒状モールドフラックス  
代理人 萩原 康弘  
代理人 萩原 康弘  
代理人 福井 豊明  
代理人 萩原 康弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ