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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  G01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  G01N
管理番号 1326930
異議申立番号 異議2016-700659  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-01 
確定日 2017-02-10 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5851479号発明「ガス濃度検出センサー」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5851479号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5851479号の請求項に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第第5851479号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、2011年(平成23年)5月18日(国内優先権主張 平成22年5月18日)に出願された特願2011?111508号の一部を、平成25年12月10日に新たに出願したものであって、平成27年12月11日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人飯島 秀子により特許異議の申立てがされ、平成28年10月7日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成28年12月9日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して特許異議申立人飯島 秀子から平成29年1月17日付けで意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。

請求項1に係る「前記内側カバーの底部に前記被測定ガスの流れを許容する孔が設けられていない、」を「前記内側カバーの底部に前記被測定ガスの流れを許容する孔が設けられておらず、前記外側カバーは、前記外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する、」に訂正する。

また、請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2及び3も請求項1が訂正されたことに伴い訂正された。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記訂正事項に関連する記載として、本件図2から図4には、本件の具体例として「外側ガス孔144a」が「内側カバー130」の底部の先端よりも「ハウジング102」側に位置している点が見て取れるから、「外側ガス孔」の配置として「前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する」構成を用いてなる発明は図面に記載されているものと認められる。
上記訂正は、明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内において「外側ガス孔」の配置を「前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側」の位置に限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、これら訂正は一群の請求項に対して請求されたものである。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?3に係る発明(以下「本件訂正発明1?3」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。(以下、当審にて分節して「(A)」などの見出しを付けて整理した。)

「 【請求項1】
(A)先端が露出した状態でハウジングに保持され、被測定ガスの所定のガス濃度を検出可能なセンサー素子と、
(B)前記ハウジングに固定され、前記センサー素子の先端を保護する保護カバーと、
(C)前記保護カバーの構成要素の一つであって、前記センサー素子の先端を覆うと共に前記被測定ガスの流れを許容する内側ガス孔を有する内側カバーと、
(D)前記保護カバーの構成要素の一つであって、前記内側カバーを覆うと共に前記被測定ガスの流れを許容するが前記内側ガス孔とは対向していない外側ガス孔を有する外側カバーと、
を備え、
(E)前記内側カバーのうち前記内側ガス孔が設けられた部分の外径φ1と前記外側カバーのうち前記外側ガス孔が設けられた部分の内径φ2との比φ1/φ2が0.6?0.9であり、
(F)前記内側カバーと前記外側カバーとの間に中間保護カバーを備えず、
(G)前記内側カバーの底部に前記被測定ガスの流れを許容する孔が設けられておらず、(H)前記外側カバーは、前記外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する、
(I)ガス濃度検出センサー。
【請求項2】
前記比φ1/φ2が0.67?0.87である、
請求項1に記載のガス濃度検出センサー。
【請求項3】
前記外側カバーの内径φ2が前記ハウジングの外径と略同じである、
請求項1又は2に記載のガス濃度検出センサー。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし3に係る特許に対して平成28年10月7日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

請求項1ないし3に係る発明は、下記引用例1ないし3に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1に係る特許は、取り消されるべきものである。

引用例1:特開2004-245828号公報
引用例2:特許第2641346号公報
引用例3:特開2000-304719号公報
(尚、引用例1は、飯島秀子申立による甲第1号証、引用例2及び3は、飯島秀子申立による甲第3及び4号証である。)

3 引用例の記載

(1) 引用例1について
ア 「【0012】
本発明は、被測定ガス中の酸素濃度やNOx濃度、CO濃度、HC濃度などを測定する各種のガスセンサに用いることができる。また、自動車エンジン等の内燃機関の排気管に設置して、燃焼制御に利用する空燃比センサとして用いることができる。
また、ガスセンサ素子として積層型またはコップ型のいずれを採用したガスセンサについても本発明を適用することができる。
本発明にかかる被測定ガス側カバーは、後述する実施例に示すように二重や三重構造を備える。それ以上の数のカバー部材を重ねて構成することもある。
上記側面穴(部分開放穴も含める)の形状は、真円、楕円、長穴等、特に限定はしない。また、上記側面穴の構造としては、貫通穴、ルーバー形状等がある。」

イ「【0014】
本発明にかかる第1カバー部材、第2カバー部材は共に有底円筒型(実施例1等)で先端側に底面や底穴を備えた形のものや、他の実施例における図16、図20のように、底面のない開放された先端を備えた形状のものがある。
また、第1カバー部材や第2カバー部材が、多層構成の被測定ガス側カバーにおける最も内側や外側のカバー部材になることもあれば(実施例1参照)、図19、図20のように、他のカバー部材が内側にあったり、外側にあったりする構成もある。
また、実施例1のように、部分開放穴が軸方向の最先端の側面穴となることもあれば、別の側面穴を更に先端側に設けた構成を採ることもある。」

ウ 「【0025】
図2に示すごとく、上記被測定ガス側カバー31は、第1カバー部材1と該第1カバー部材1の外方を覆う第2カバー部材2とを有し、また上記第1カバー部材1及び上記第2カバー部材2の側面11、21は被測定ガスを上記被測定ガス側カバー31の内部に導入または排出する複数の側面穴20、13、14を有する。
上記第2カバー部材2の側面21にある6個の側面穴20は上記第1カバー部材1の側面11に対し部分的に対向した部分開放穴20であって、上記部分開放穴20の軸方向における先端位置201及び基端位置202との間に上記第1カバー部材1の先端位置121が存在する。
【0026】
以下、詳細に説明する。
まず、ガスセンサ3の全体構成について図1から説明する。
本例のガスセンサ3は、筒型のハウジング30と、該ハウジング30の先端側に固定した被測定側ガス側カバー31と、基端側に固定した大気側カバー32とを有し、上記ハウジング30内にガスセンサ素子35が気密的に封止固定され、ガスセンサ素子35の基端は大気側カバー32の内部に、先端は被測定ガス側カバー31の内部に露出する。」

エ 「【0029】
上記被測定ガス側カバー31について説明する。
図2に示すごとく、本例の被測定ガス側カバー31は、第1カバー部材1と第2カバー部材2とからなる二重構造カバーである。第1カバー部材1及び第2カバー部材2は基端において両者が当接する当接部分119、290をそれぞれ有する。
上記第1及び第2のカバー部材1、2における基端は、径方向外側に曲折したフランジ部19、29よりなる。このフランジ部19、29をハウジング30の先端側底面300に設けた環状溝301にはめ込んでかしめ固定することで、第1及び第2カバー部材1、2のハウジング固定が実現される。
【0030】
外側に位置する第2カバー部材2はハウジング30に固定された基端から先端まで径が均一なストレート形状の有底筒型部材よりなる。第2カバー部材2において、第1カバー部材1と当接するのは当接部分290である。第2カバー部材2の側面21における軸方向の略同一位置に6個の円形の部分開放穴20がある。そして、第2カバー部材2の底面22には底穴220が1個ある。
図4に示すごとく、被測定ガス側カバー31を外側から眺めると、円形の部分開放穴20から第1カバー部材11の先端位置121が見える。」

オ 「【0032】
本例にかかる第1カバー部材1、第2カバー部材2の各部寸法を、図3(a)、(b)に記載する。
a11(第2カバー部材2の軸方向に沿った長さ)=23mm
a12(部分開放穴20の軸方向中心と第2カバー部材2の先端位置221との距離)=3.5mm
a13(第2カバー部材2の底面22の外径)=12mm
a14(第1カバー部材1の底面12の外径)=7mm
a15(第2カバー部材2の底穴220の直径)=1.2mm
a16(第1カバー部材1の3つの底穴120は円周125上に等間隔に配置されており、その円周125の径、図3(b)参照)=3mm
a17(第1カバー部材1の当接部分119における外径)=11mm
a18(第1カバー部材1の側面穴形成部117における外径)=9mm
a19(第1カバー部材1の側面穴形成部117の先端位置と底面12の先端位置121との距離)=6mm
a20(第1カバー部材1の側面穴形成部117における側面穴の中心位置と底面12の先端位置121との距離)=8mm
a21(第1カバー部材1における軸方向に位置が異なる二つの側面穴13と14との間の中心距離)=3mm
a22(当接部分119または290の軸方向距離)=7mm
a23(第1カバー部材1の軸方向に沿った長さ)=21mm
a24(テーパー部118の開き角)=90°
a25(テーパー部116の開き角)=40°」

カ 図2


キ 図3


ク 上記アないしキから以下の点が理解される。
(ア)上記アより、引用例1の「ガスセンサ素子35」は、被測定ガス中の被測定ガスの濃度を測定するものである点が理解される。

(イ)上記ウより、引用例1の「ガスセンサ素子35」は、「ハウジング30」内に気密的に封止固定され、その先端は、「被測定ガス側カバー31」の内部に露出している点が理解される。

(ウ)上記ウより、「被測定ガス側カバー31」は、「ハウジング30」の先端側に固定されている点が理解される。

(エ)上記ウより、「被測定ガス側カバー31」は、「第1カバー部材1」と「第1カバー部材1」の外方を覆う「第2カバー部材2」とを有し、また「第1カバー部材1」及び「第2カバー部材2」の側面11、21は被測定ガスを「被測定ガス側カバー31」の内部に導入または排出する複数の「側面穴20、13、14」を有している点が理解され、上記カから「第1カバー部材1」は、「ガスセンサ素子35」の先端を覆っており、「第1カバー部材1」の側面11に複数の「側面穴13、14」が形成され、「第2カバー部材2」の側面21に複数の「側面穴21」が形成され、「側面穴21」は、「側面穴13、14」と対向していない位置にある点が見て取れるから、「被測定ガス側カバー31」の構成要素の一つであって、「ガスセンサ素子35」の先端を覆う「第1カバー部材1」の側面11には、被測定ガスを「被測定ガス側カバー31」の内部に導入または排出する複数の「側面穴13、14」を有している点及びが「被測定ガス側カバー31」の構成要素の一つであって、「第1カバー部材1」を覆う「第2カバー部材2」の側面21には、被測定ガスを「被測定ガス側カバー31」の内部に導入または排出する複数の「側面穴21」を「側面穴13、14」と対向していない位置に有している点理解される。

(オ)上記オより、「第1カバー部材1」の当接部分119における外径(a17)が11mmであり、「第1カバー部材1」の側面穴形成部117における外径(a18)が9mmである点が理解される。

(カ)上記エより、「被測定ガス側カバー31」は、「第1カバー部材1」と「第2カバー部材2」とからなる二重構造カバーである点が理解される。

(キ)上記(ア)ないし(カ)を総合すると、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているといえる。

「ハウジング30内に気密的に封止固定され、先端が被測定ガス側カバー31の内部に露出している、被測定ガス中の被測定ガスの濃度を測定するガス センサ素子35と、
ハウジング30の先端側に固定された被測定ガス側カバー31と、
被測定ガス側カバー31の構成要素の一つであって、ガスセンサ素子35の先端を覆うと共に、側面11には、被測定ガスを被測定ガス側カバー31の内部に導入または排出する複数の側面穴13、14を有する第1カバー部材1と
被測定ガス側カバー31の構成要素の一つであって、第1カバー部材1を覆うと共に、側面21には、被測定ガスを被測定ガス側カバー31の内部に導入または排出する複数の側面穴21を側面穴13、14と対向していない位置に有している第2カバー部材2と、
第1カバー部材1の当接部分119における外径(a17)が11mmであり、第1カバー部材1の側面穴形成部117における外径(a18)が9mmであり、
被測定ガス側カバー31は、第1カバー部材1と第2カバー部材2とからなる二重構造カバーであるガスセンサ」

(2) 引用例2について
ア 「【0013】本発明の第3実施例を図5に示す。第3実施例では、外筒24に先端側の孔24cと根元部側の孔24dを形成した例である。そして外筒24に形成される孔24cと24dとの軸方向中間部に対面する位置に孔21eを形成した。この実施例においても外筒24の孔24c、24dから内筒21の孔21eから内筒21の内部に直接侵入することが防止される。この実施例では、外筒先端穴24fを有している。」

イ 図5


(3) 引用例3について
ア「【0118】比較例2は、図12に示すように、第1の具体例に係る保護カバー200Aから中間保護カバー104を取り外して、外側保護カバー102と内側保護カバー100からなる二重構造とし、更に、耐飛水性を改善するために、内側保護カバー100の側周面のうち、センサ素子12と対向しない位置に内側ガス導入孔106を形成し、外側保護カバー102の側周面のうち、前記内側ガス導入孔106よりも後部寄りに外側ガス導入孔110を形成し、外側保護カバー102の底部にガス排出孔140を形成したものである。」

イ 図12


4 判断

(1)本件訂正発明1について
ア 対比
本件訂正発明1と引用発明1とを対比する。

(ア)引用発明1の「ガスセンサ素子35」は、本件訂正発明1の「センサー素子」に相当する。そして、引用発明1の「ハウジング30内に気密的に封止固定され、先端が被測定ガス側カバー31の内部に露出している」ことは、先端が露出した状態でハウジング30に保持されていることといえるから、引用発明1の「被測定ガス中の被測定ガスの濃度を測定するガスセンサ素子35」と、本件訂正発明1の「被測定ガスの所定のガス濃度を検出可能なセンサー素子」とは、「先端が露出した状態でハウジングに保持され」ている点で共通している。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の(A)の構成を有しているといえる。

(イ)引用発明1の「被測定ガス側カバー31」は、本件特許発明1の「保護カバー」に相当する。そして、引用発明1の「ガスセンサ素子35」は、先端が「被測定ガス側カバー31」の内部に露出しているから、「被測定ガス側カバー31」は、「ガスセンサ素子35」の先端を保護しているといえる。そうすると引用発明1の「被測定ガス側カバー31」と、本件訂正発明1の「保護カバー」とは、「ハウジングに固定され」、「センサー素子の先端を保護する」点で共通している。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の(B)の構成を有しているといえる。

(ウ)引用発明1の「第1カバー部材1」及び「側面穴13、14」は、本件訂正発明1の「内側カバー」及び「内側ガス孔」に相当する。そして、「被測定ガスを被測定ガス側カバー31の内部に導入または排出する」ことは、被測定ガスの流れを許容するということであるから、引用発明1の「被測定ガス側カバー31の構成要素の一つであって、ガスセンサ素子35の先端を覆うと共に、側面11には、被測定ガスを被測定ガス側カバー31の内部に導入または排出する複数の側面穴13、14を有する第1カバー部材1」は、本件特許発明1の、「前記保護カバーの構成要素の一つであって、前記センサー素子の先端を覆うと共に前記被測定ガスの流れを許容する内側ガス孔を有する内側カバー」に相当する。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の(C)の構成を有しているといえる。

(エ)引用発明1の「第2カバー部材2」及び「側面穴21」は、本件特許発明1の「外側カバー」及び「外側ガス孔」に相当する。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の(D)の構成を有しているといえる。

(オ)引用発明1の「第1カバー部材1」の当接部分119は、「第2カバー部材2」の内側の面に接しているから、第1カバー部材1の当接部分119における外径(a17)は、「第2カバー部材2」の内径であるといえる。そうすると、引用発明1の「第1カバー部材1」の「側面穴形成部117」における外径(a18)と「第2カバー部材2」の内径との比は、9/11=0.82となるから、引用発明1の「第1カバー部材1」の「側面穴形成部117」における外径(a18)と「第2カバー部材2」の内径との比と、本件訂正発明1の、「前記内側カバーのうち前記内側ガス孔が設けられた部分の外径φ1と前記外側カバーのうち前記外側ガス孔が設けられた部分の内径φ2との比φ1/φ2」とは、0.6?0.9である点で共通している。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の(E)の構成を有しているといえる。

(カ)引用発明1の「被測定ガス側カバー31」は、「第1カバー部材1」と「第2カバー部材2」とからなる二重構造カバーであるから、引用発明1の「第1カバー部材1」と「第2カバー部材2」との間と、本件訂正発明1の「前記内側カバーと前記外側カバーとの間」とは、中間保護カバーを備えていない点で共通している。
そうすると、引用発明1は、本件訂正発明1の(F)の構成を有しているといえる。

(キ)以上のことから、本件訂正発明1と引用発明1とは、つぎの相違点で相違し、その余の点で一致しているものである。

<相違点1>
本件訂正発明1の(A)?(I)の構成は、水の付着や排ガスの流れ等の作用効果に相互に関連しており、一体的に扱うべきところ、本件訂正発明1は、(A)?(I)の構成を有しているのに対し、引用発明1は、上記(A)?(I)の内、(G)及び(H)の構成を有しておらず、結果として、上記(A)?(I)のすべての構成を有していない点。

イ 相違点1の検討
(ア)引用発明1において特定されているそれぞれの構成は、本件訂正発明1と同様に相互に関連している。したがって、他の引用例に本件訂正発明1の構成の一部が記載されているとしても、動機や阻害要因がないか慎重な検討をした上で、引用例1に他の引用例記載の構成が適用できるか判断することが要求される。そこで検討すると、引用例3には、比較例として、図12に内側カバーの底部に被測定ガスの流れを許容する孔が設けられていない構成、即ち本件訂正発明1の(G)の構成が記載されている(上記1(3)参照)。そして、図12より、引用例3の外側ガス導入孔110が、内側保護カバーの底部の先端より前記ハウジング側とは反対側に位置している構成、即ち、本件訂正発明1の(H)の構成が見て取れる。
しかしながら、引用例3の内側カバーのうち内側ガス孔が設けられた部分の外径φ1と外側カバーのうち外側ガス孔が設けられた部分の内径φ2との比φ1/φ2が0.6?0.9となる構成、即ち、本件訂正発明1の(E)の構成は記載されていないから、引用例3には、本件訂正発明1の構成(A)?(I)のすべての構成を満たすものが記載されていない。

(イ)また、引用例2には、内筒21(本件訂正発明1の「内側カバー」に相当。)の底部に孔を設けない構成は記載されているものの、外筒24(本件訂正発明1の「外側カバー」に相当)の孔24aをハウジング側に設ける点及び内筒21の孔21aが設けられた部分の内筒21の外径や外筒24の孔24aが設けられた部分の外筒24の内径は特定されていないから、本件訂正発明1の(E)及び(H)は記載されていない。
そうすると、引用例2には、本件訂正発明1の構成(A)?(I)の全ての構成を満たすものの記載は認められない。

(ウ)そして、飯島秀子申立における甲第2号証(特開昭63-078265号公報)には、内側保護管(本件訂正発明1の「内側カバー」に相当。)の底部に被測定ガスの流れを許容する孔が設けられていない構成において、外側保護管(本件訂正発明1の「外側カバー」に相当)の通気孔62aが、内側保護管の底部の先端より前記ハウジング側に位置する構成が記載されている。
しかしながら、甲第2号証の上記構成において内側保護管の通気孔61aと外側保護管の通気孔62aとは対抗しており、また、内側保護管の通気孔61aが設けられた部分の内側保護管の外径や外側保護管の通気孔62aが設けられた部分の外側保護管の内径は特定されていないから、本件訂正発明1の(D)及び(E)が記載されていない。
そうすると、甲第2号証にも本件訂正発明1の構成(A)?(I)のすべての構成を満たすものの記載は認められない。

(エ)上記(ア)から(ウ)より、引用発明1、引用例2及び3に記載された発明、甲第2号証に記載された発明には、本件訂正発明1の(A)?(I)のすべての構成を有するものの記載は認められない。

(オ)上記(ア)で検討したとおり、引用例3には、本件訂正発明1の(G)及び(H)の構成が記載されている。
また、引用例1の段落【0041】及び図7の記載には、(1)の構成として、第1カバー部材1(本件訂正発明1の「内側カバー」に相当。)の先端位置が第2カバー部材2(本件訂正発明1の「外側カバー」に相当。)の部分開放穴20(本件訂正発明1の「外側ガス孔」に相当。)の先端位置201より先端側に有る構成が比較例として記載されている。
しかしながら、引用例1の図7の(1)に記載された構成も、引用例3の図12に記載された構成も、いずれも比較例として記載されたものであるから、引用発明1よりも性能の劣る比較例である図7の(1)の構成に、引用例3に性能の劣る比較例として記載された図12に記載された構成を組み合わせるには、その動機付けがあるとはいえない。

(カ)本件訂正発明1の効果について
本件訂正発明1の効果である、応答特性及び耐被水性が良くなるという効果は、図7、図8及びその説明において裏付けられている。そして、図7、図8及びその説明において使用するガス濃度検出センサーは、図2及び図4に示されるガス濃度検出センサーであり、該ガス濃度検出センサーの内、効果の認められるガス濃度検出センサーは本件訂正発明1の(A)?(I)のすべての構成を有していることから、本件訂正発明1の(A)?(I)のすべての構成を有しているガス濃度検出センサーが、図7、図8及びその説明で記載された効果を有するものであるといえ、該効果は引用発明1、引用例2、3及び甲第2号証に記載された発明から容易に予測されるものでないことも明らかである。

(キ)小括
以上のことから、本件訂正発明1のすべての構成を有する構成は、引用発明1、引用例2、3及び甲第2号証には記載されておらず、また、本件訂正発明1は引用発明1に引用例3を組み合わせる動機付けがないから。本件訂正発明は引用発明1、引用例2、3及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

(2)本件訂正発明2及び3について
本件訂正発明2は、本件訂正発明1の、「前記内側カバーのうち前記内側ガス孔が設けられた部分の外径φ1と前記外側カバーのうち前記外側ガス孔が設けられた部分の内径φ2との比φ1/φ2」を、「0.67?0.87」に更に限定したものであって、本件訂正発明1の(E)を限定したものであるといえる。また、本件訂正発明3は、「前記外側カバーの内径φ2が前記ハウジングの外径と略同じ」であると、本件訂正発明1に更に限定を付加したものである。
そうすると、これら限定事項は、引用発明1に記載されているものの、本件訂正発明2及び3と、引用発明1とを比較すると、引用発明1には、やはり(G)及び(H)の構成が記載されていないから、上記(1)と同様の理由により、本件訂正発明2及び3は、引用発明1、引用例2及び3に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるとはいえない。

(3)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人飯島秀子は、平成29年1月17日付け意見書において、訂正事項により追加された「前記外側カバーは、前記外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する」事項(以下、「訂正追加事項」という。)について、以下の点について主張している。

(意見1) 訂正追加事項は、引用例1の段落【0041】及び図7及び引用例3の図12に記載されており、本件訂正発明1?3はこれらの記載より当業者が容易に想到できたものである点。

(意見2) 訂正追加事項により、「耐被水性」という効果を発揮することができないから、本件訂正発明1は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない点。

(意見3) 訂正追加事項は、外側ガス孔の一部が内側カバーの底部の先端よりも先端側に位置するものを排除しておらず、このような構成は、本件明細書、特許請求の範囲及び図面に記載されていないから、本件訂正発明1は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たしていない点。

ア (意見1)について検討する。
引用例1の図7の(1)の構成及び引用例3の図12の構成は、上記(1)イ(オ)で検討したとおり、いずれも比較例として記載されているから、引用例1の図7の(1)の構成と引用例3の図12の構成とを組み合わせるための動機付けがあるとはいえない。
そうすると、本件訂正発明1?3が引用発明1及び引用例3に記載された発明から容易に想到できたとはいえない。

イ (意見2)について検討する。
上記(1)イ(カ)で検討したとおり、図7、図8及びその説明に記載された効果は、本件訂正発明1の(A)?(I)のすべての構成を有するガス濃度検出センサーが発揮するものであり、図8及びその説明に記載された効果は「耐被水性」に関するものであり、本件訂正発明1の(A)?(I) のすべての構成を有するものが十分な効果が有している点が認められるから、異議申立人のかかる主張は理由がない。

ウ (意見3)について検討する。
本件明細書及び図面において、「前記外側カバーは、前記外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する」実施例としては、図2ないし図4に記載されているガス濃度検出センサーに関する実施例だけであり、「前記外側カバーは、前記外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する」場合に、外側ガス孔の一部が内側カバーの底部の先端よりも先端側に位置する構成を含むものは記載されていない。
そうすると、「前記外側カバーは、前記外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端より前記ハウジング側に位置する」との記載は、明細書及び図面の記載を参酌すれば、外側ガス孔の一部が内側カバーの底部の先端よりも先端側に位置する構成を含まないことは明らかであるから、異議申立人のかかる主張は理由がない。

(4)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立人飯島秀子は、訂正前の特許請求の範囲に関し、特許異議申立書において、請求項1ないし3に記載の発明は、甲第1号証(取消理由通知における引用例1)に記載されたものであるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない旨主張しているが、上記(1)アで検討したとおり、甲第1号証(引用例1)には、本件訂正発明1の(A)?(I)の構成全てを有するものは記載されていないから、かかる主張は理由がない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が露出した状態でハウジングに保持され、被測定ガスの所定のガス濃度を検出可能なセンサー素子と、
前記ハウジングに固定され、前記センサー素子の先端を保護する保護カバーと、
前記保護カバーの構成要素の一つであって、前記センサー素子の先端を覆うと共に前記被測定ガスの流れを許容する内側ガス孔を有する内側カバーと、
前記保護カバーの構成要素の一つであって、前記内側カバーを覆うと共に前記被測定ガスの流れを許容するが前記内側ガス孔とは対向していない外側ガス孔を有する外側カバーと、
を備え、
前記内側カバーのうち前記内側ガス孔が設けられた部分の外径φ1と前記外側カバーのうち前記外側ガス孔が設けられた部分の内径φ2との比φ1/φ2が0.6?0.9であり、
前記内側カバーと前記外側カバーとの間に中間保護カバーを備えず、
前記内側カバーの底部に前記被測定ガスの流れを許容する孔が設けられておらず、
前記外側カバーは、該外側カバーの側部に配設された前記外側ガス孔を有しており、該側部に配設された外側ガス孔は、前記内側カバーの底部の先端よりも前記ハウジング側に位置する、
ガス濃度検出センサー。
【請求項2】
前記比φ1/φ2が0.67?0.87である、
請求項1に記載のガス濃度検出センサー。
【請求項3】
前記外側カバーの内径φ2が前記ハウジングの外径と略同じである、
請求項1又は2に記載のガス濃度検出センサー。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-01 
出願番号 特願2013-254636(P2013-254636)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (G01N)
P 1 651・ 113- YAA (G01N)
P 1 651・ 121- YAA (G01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 黒田 浩一  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 信田 昌男
福島 浩司
登録日 2015-12-11 
登録番号 特許第5851479号(P5851479)
権利者 日本碍子株式会社
発明の名称 ガス濃度検出センサー  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  
代理人 特許業務法人アイテック国際特許事務所  

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