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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C11D
審判 全部申し立て 2項進歩性  C11D
管理番号 1326936
異議申立番号 異議2016-700154  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-24 
確定日 2017-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5774757号発明「洗浄剤組成物及び洗浄方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5774757号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。 特許第5774757号の請求項1、2、3、4、5、8、9に係る特許を維持する。 特許第5774757号の請求項6、7、10に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。  
理由 第1 手続の経緯

本件特許第5774757号(以下、「本件特許」という。)の請求項1?10に係る発明についての出願は、平成26年10月7日に特許出願されたものであって、平成27年7月10日に特許の設定登録がされ、その後、平成28年2月24日に、その特許について、特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所により特許異議の申立てがなされ、同年5月25日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年7月26日に意見書の提出があり、同年9月28日付けで取消理由通知(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年12月2日に意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)があり、特許法第120条の5第5項の規定に基づき、特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所に対して本件訂正請求があった旨を通知したが、指定期間内に意見書が提出されなかったものである。

第2 本件訂正請求の適否についての判断

(1) 訂正の内容

本件訂正請求による訂正の内容は以下のとおりである。
ア 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1のアルカリ剤につき、「(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、メタケイ酸ナトリウム、セスキケイ酸ナトリウム、オルソケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム、セスキケイ酸カリウム、オルソケイ酸カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種」を、「(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種を含み、かつ、他のアルカリ剤を含まず、」に訂正する。
また、「水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.7mS/cm以上」を、「水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.9mS/cm以上」に訂正する。
また、「を含み、」を、「を含み、
塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸の共重合体を含有せず、」に訂正する。

イ 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

ウ 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

エ 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項8が引用する請求項である「請求項1?7のいずれか」を、「請求項1?5のいずれか」に訂正する。

オ 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10を削除する。

(2) 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否

訂正事項1は、アルカリ剤が「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種を含み、かつ、他のアルカリ剤を含ま」ないものであることを限定し、水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が「0.9mS/cm以上」であることを限定し、さらに、洗浄剤組成物が「塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸の共重合体を含有」しないものであることを限定することにより、特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、当該訂正は、アルカリ剤と電気伝導度については、許容されていた範囲内での限定であり(しかも、対応する実施例も存在する。)、何ら新規な事項を追加するものでなく、また、「塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸の共重合体を含有」しない点については、許容されていた実施態様から一部の態様を除くものであって、それにより新たな技術事項を追加するものでないと解されるから、いずれの訂正も、新規事項を追加するものでなく、また、特許請求の範囲の拡張・変更にも当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
訂正事項2、3、5は、訂正前の請求項6、7、10の記載を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、当該訂正が、新規事項を追加するものでなく、また、特許請求の範囲の拡張・変更にも当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
訂正事項4は、訂正前の請求項8が訂正前の請求項6、7(本件訂正により削除)も引用する記載であったものを、請求項6、7を引用せずに引用請求項数を減少させるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。そして、当該訂正が、新規事項を追加するものでなく、また、特許請求の範囲の拡張・変更にも当たらないことは明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び第6項に適合するものである。
そして、本件訂正は、一群の請求項を構成する請求項1?10について訂正を請求するものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に従うものである。

(3) まとめ

以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、並びに、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-10〕について訂正することを認める。

第3 本件特許について

本件訂正請求により訂正された請求項1?10に係る発明(以下、項番に従い、「本件発明1」?「本件発明10」という。また、これらを併せて「本件発明」ということもある。)は、その特許請求の範囲の請求項1?10に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた、節水型の自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行うための液体の洗浄剤組成物であって、
(A)ノニオン界面活性剤
(B)高分子電解質としてのポリアクリル酸のナトリウム塩
(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種を含み、かつ、他のアルカリ剤を含まず、
(D)キレート剤
を含み、
塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸の共重合体を含有せず、
水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.9mS/cm以上であり、
前記ポリアクリル酸のナトリウム塩の含有量が2.76重量%以上であり、
前記節水型の自動食器洗浄機は、
すすぎ水が食器の存在する通過面積3600cm^(2)に対し3L/サイクル以下であるドアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が2.5L/ラック以下であるラックコンベアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が3L/分以下である1槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機、又は、
すすぎ水が9L/分以下である複槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記ノニオン界面活性剤(A)を0.5重量%以上含有する請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記ノニオン界面活性剤(A)が、アルコールのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物である請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記ノニオン界面活性剤(A)に含まれる、エチレンオキサイド(EO)に対するプロピレンオキサイド(PO)のモル比(PO/EO比)が1/2以上である請求項3に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記ノニオン界面活性剤(A)に対する前記高分子電解質(B)の重量比[(B)/(A)]が5/4?7/1である請求項1?4のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた節水型の自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行う洗浄方法であって、
前記節水型の自動食器洗浄機は、
すすぎ水が食器の存在する通過面積3600cm^(2)に対し3L/サイクル以下であるドアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が2.5L/ラック以下であるラックコンベアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が3L/分以下である1槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機、又は、
すすぎ水が9L/分以下である複槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機であり、
前記洗浄剤組成物として請求項1?5のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いることを特徴とする洗浄方法。
【請求項9】
水によるすすぎ工程を行い、前記すすぎ工程の後、リンス剤を用いたリンス工程を行わずに乾燥工程を行う請求項8に記載の洗浄方法。
【請求項10】(削除)」

第4 取消理由の概要

当審において、本件訂正前の請求項1?10に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

本件訂正前の請求項1?10に係る発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第5 判断

ア. 取消理由通知に記載した取消理由について

(1) 本件特許の出願日前に頒布されたことが明らかな刊行物
1.特開2012-184333号公報(甲第1号証。以下、「刊行物1」という。)
2.特開2001-139099号公報(甲第4号証。以下、「刊行物2」という。)
3.国際公開第2013/175659号(新たに引用。以下、「刊行物3」という。)


(2) 刊行物に記載の事項
(2-1)刊行物1に記載の事項
(1a)
「【請求項1】
重量平均分子量が5,000?100,000であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位を含む高分子化合物(A)と、ポリアクリル酸又はその塩(B)と、アミノポリ酢酸塩(C)と、アルカリ剤(D)を含有し、
(A)と(B)の重量比が(A)/(B)=1.0/5.0?1.0/7.0であり、(B)と(C)の重量比が(B)/(C)=1.0/0.6?1.0/1.2であり、(B)の含有量と(C)の含有量の合計が9.0?12.0重量%である、
食器洗浄機用液体洗浄剤組成物。
【請求項2】
(A)が、アミノ基及び4級アンモニウム基から選ばれる基を少なくとも1種有するモノマーに由来する構造単位を含む、請求項1記載の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物。
【請求項3】
更に、ノニオン性界面活性剤(E)を含有する請求項1又は2記載の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物。
【請求項4】
(D)を10?20重量%含有する請求項1?3の何れか1項記載の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物。
【請求項5】
更に、アルケニルコハク酸塩(F)を1.0?5.0重量%含有する請求項1?4の何れか1項記載の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物。」

(1b)
「【0001】
本発明は食器洗浄機で使用するための液体洗浄剤組成物に関するものである。なかでも業務用の食器洗浄機で使用するための液体洗浄剤組成物に関するものである。」

(1c)
「【0005】
水道水中には、Ca、Si等の硬度成分が存在している。これらが、空気中の炭酸ガスと結合し、炭酸Ca塩及び炭酸Si塩となり、洗浄機内部に付着する。それにより、洗浄機槽内の美観が損なわれると共に、洗浄液の濃度のセンシング不良を起こし、シグナルを受信できなくなる。一般的には、アミノカルボン酸系に代表される様なキレート剤および、ポリアクリル酸塩に代表される分散剤の併用が行われている。Ca、Si等の硬度成分をキレート剤が捕捉し、更に、分散性を付与することにより、スケールの付着を防止する事が知られている。」

(1d)
「【0033】
<(B)成分>
本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物は、(B)成分として、ポリアクリル酸又はその塩を含有する。(B)成分としては、アクリル酸のホモポリマー又はその塩が挙げられる。また、(B)成分としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム等が挙げられ、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムが好ましい。本発明の(B)成分は、本発明の効果の発現を妨げない程度であれば、アクリル酸以外のモノマーであって、カチオン性モノマーを除くアクリル酸と共重合可能なモノマーを含んだコポリマーであってもよい。アクリル酸以外のモノマーであって、アクリル酸と共重合可能なモノマーとしては、ビニル系モノマー、アクリル系モノマー、スチレン系モノマー等が挙げられ、より具体的にはメタクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、スチレン等が挙げられる。アクリル酸以外のモノマーであって、アクリル酸と共重合可能なモノマーの(B)成分中のモル比は、(B)成分として水溶性等の物性や本発明の効果の発現に対して影響を与えなければ限定されないが、(B)成分中に0?5モル%が好ましく、0?3モル%がより好ましく、0モル%であることが最も好ましい。従って、本発明のポリアクリル酸又はその塩は、全構成モノマー中、アクリル酸以外のモノマーであって、アクリル酸と共重合可能なモノマーを、0?5モル%の範囲で含むポリマー又はコポリマーであってよい。」

(1e)
「【0036】
<(D)成分>
本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物は、(D)成分として、アルカリ剤を含有する。本発明の(D)成分としては、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属珪酸塩、アルカリ金属炭酸塩が挙げられる。具体的には、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられ、アルカリ金属珪酸塩としては、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、メタ珪酸ナトリウム等が挙げられ、アルカリ金属炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウムが挙げられる。本発明の(D)成分としては、スケール付着防止の観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属珪酸塩が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウムが特に好ましい。」

(1f)
「【0049】
これらの含有量及び重量比を満たした上で、本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物は、スケール抑制の観点から、(B)成分を、好ましくは3?10重量%、更に好ましくは4?8重量%、特に好ましくは5?7重量%含有する。また、本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物は、スケール抑制の観点から、(C)成分を、好ましくは3?10重量%、更に好ましくは3?7重量%、特に好ましくは4?5重量%含有する。
【0050】
本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物中の(D)成分の含有量は、洗浄性、安定性の観点から、好ましくは5?50重量%、更に好ましくは10?30重量%、特に好ましくは10?20重量%である。
【0051】
(E)成分を配合する場合、洗浄性および泡立ち性の観点から、本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物中の(E)成分の含有量は、好ましくは0.1?5.0重量%、更に好ましくは0.5?2重量%、特に好ましくは0.5?1.0重量%である。」

(1g)
「【0055】
本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物から調製される洗浄液を用いた業務用食器洗浄機による洗浄の際には、該組成物は、供給装置によって業務用食器洗浄機内部に一定量任意に移送され、適正な洗浄液の濃度が維持される。液体状の本発明の組成物では、業務用食器洗浄機専用のチューブを食器洗浄機用洗浄剤組成物が充填されたプラスチック等の容器の中に直接差し込み吸い上げられて供給される。その後、洗浄液が業務用食器洗浄機内部へ供給される。
【0056】
本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物は、洗浄液中の濃度が0.04?0.5重量%で使用されるが、洗浄性、経済性の観点から、0.05?0.3重量%が好ましく、更に0.1?0.2重量%が好ましい。食器の洗浄時間は、洗浄性の観点から、10秒?3分が好ましく、更に好ましくは、20秒?2分である。洗浄液の洗浄温度は、短時間での洗浄性を高めるためには、非常に重要で40℃以上が好ましく、40?70℃がより好ましい。食器は洗浄された後、通常、同じ業務用食器洗浄機にて速やかに水、温水、又は70?90℃の熱水で濯ぎが行われる。
【0057】
業務用食器洗浄機では、食器を連続洗浄する場合、洗浄液はポンプで循環させて繰り返し使用し、洗浄する。本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物もこのような使用形態に適している。
【0058】
業務用食器洗浄機により食器を連続洗浄する場合、食器による洗浄液の持ち出しや、洗浄槽への濯ぎ水のキャリーオーバーなどによって、洗浄回数とともに洗浄液の濃度が減少する。適切な洗浄液の濃度を維持するため、自動供給装置によって適正濃度となるように食器洗浄機用液体洗浄剤組成物が供給される。食器洗浄機用液体洗浄剤組成物の自動供給装置としては、限定されるものではないが、洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールするものが挙げられる。液体状の本発明の組成物では、チューブポンプを駆動させて、必要量の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物を供給する。この自動供給装置は、1日の洗浄回数が非常に多い業務用には好適に用いられ、洗浄回数毎の手投入に比べ、格段に手間が省けるという利点があり、またそれ以外に、1日中(洗浄中)適正濃度を維持することが容易となる。」

(1h)
「【0070】
【表1】



(2-2)刊行物2に記載の事項
(2a)
「【0004】これらのうち、業務用自動食器洗浄機を例にとって、洗浄剤供給システムについて説明する。
【0005】なお、上記業務用自動食器洗浄機は、ホテル、レストラン、学校、社員食堂、飲食店、食品加工工場等で広く用いられているもので、構造上、フードタイプ、アンダーカウンタータイプ、ドアタイプ、ラックコンベアタイプ、フライトコンベアタイプ等に分類される。
【0006】図10は、ラックコンベアタイプの業務用自動食器洗浄機の一例を示している。このものは、上部に洗浄空間が形成されており、この洗浄空間内に、食器1が、かご状のラック2に保持された状態で装填される。そして、洗浄空間内の上下には、上下一対の洗浄ノズル3と、同じく上下一対のすすぎノズル4とが設けられており、上記洗浄ノズル3から洗浄液が吐出されている空間を、食器1がラック2に保持された状態で、ラックコンベア35によってコンベア速度1.7m/分で移動する。そして、ラック2がすすぎ制御板36に触れることによって、すすぎノズル4からすすぎ水が吐出し、すすぎが行われる。
【0007】上記洗浄ノズル3への洗浄液の供給は、洗浄タンク5内に溜められた洗浄液を、移送配管6に設けられた移送ポンプ7を介して上方に圧送することによって行われ、上記すすぎノズル4へのすすぎ水の供給は、洗浄機に付設された給湯機8で加温された温水を、給湯配管9に設けられた給液ポンプ10を介して上方に圧送することによって行われる。
【0008】そして、上記洗浄液の調製は、例えば、洗浄タンク5に温水を溜めたのち、洗浄剤原液を、原液ボトル11からポンプ12を介して注入して所定濃度に希釈することによって行われる。ただし、上記洗浄タンク5内には、すすぎ工程で使用したすすぎ水が流入し、オーバーフロー分が洗浄タンク5外に流出する構造になっているため、洗浄タンク5内の洗浄液濃度はすすぎ工程におけるすすぎ水により希釈されて低下する。そこで、洗浄液の濃度を経時的に測定するセンサ13とコントロール部14とを設け、上記コントロール部14において、センサ13からの測定データにもとづきポンプ12からの洗浄剤原液注入を制御して、洗浄タンク5内の洗浄液濃度を一定に保つようにしている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】上記センサ13としては、図11に示すように、2本の電極15間に電圧をかけて、洗浄タンク5内の洗浄液の導電率を測定するタイプのものが多く用いられている。」

(2-3)刊行物3に記載の事項
(3a)
「[0019]
本発明において、節水型洗浄機とは、従来の自動食器洗浄機よりも少ない水量で濯ぎ行う節水洗浄を実施できる自動食器洗浄機をいい、節水洗浄の専用機に限らず、節水洗浄ができる機能のついた洗浄機も含む。例えば、従来の自動食器洗浄機では、濯ぎ1回当たりに必要な水量は食器設置水平面2500cm^(2)当たり4?6Lであるが、節水型洗浄機では、濯ぎ1回当たりに必要な水量は食器設置水平面2500cm^(2)当たり2?3Lである。従って、濯ぎ1回当たりの水量が食器設置水平面2500cm^(2)当たり2?3Lの濯ぎを実施できる自動食器洗浄機を節水型洗浄機としてよい。」

(3b)
「[0153]
<洗浄性評価>
〔1〕茶渋付着抑制効果の評価
所定量(約2kg)の洗浄剤組成物を1ドアタイプの業務用食器洗浄機〔三洋電機株式会社製 SANYO DR53〕のホッパーに投入し、洗浄機を、洗浄液濃度が0.1質量%となるような設定で運転し、洗浄温度60℃、洗浄剤組成物濃度0.1質量%、洗浄時間40秒、濯ぎ温度80℃、濯ぎ時間10秒の条件で50回空運転を行い、運転時の濃度制御の振れがない様に調整を行った。なお、以下の方法で、洗浄の開始から洗浄の終了まで、洗浄槽(38L)の内にモデル汚れ(カゼインCa塩、タンニンCa塩、サラダ油)が存在するように設定した。
[0154]
(洗浄条件)
・洗浄温度:60℃
・洗浄剤組成物濃度0.1質量%
・洗浄時間:40秒
・濯ぎ温度:80℃
・濯ぎ時間:10秒
・濯ぎ1回当たりの水量:2L
・洗浄水の硬度:ドイツ硬度3°dH又は6°dH」

(3c)
「[0158]
〔2〕ウォータースポット評価
(評価用グラスの作製)
新品のガラス製グラス(内径55mm、高さ113mm)に市販されている飲料用牛乳(メグミルク牛乳、雪印メグミルク(株))1gを塗布した後、50℃にて1時間乾燥したものをモデル汚垢が付着した評価用グラスとしてウォータースポット評価に用いた。
[0159]
(洗浄方法)
業務用食器洗浄機〔三洋電機株式会社製 SANYO DR53〕の洗浄槽(38L)に自動食器洗浄機用洗浄剤組成物30gを投入して、55℃の温水で溶解させた。専用ラックに前記評価用グラス4個をセットして、55℃の洗浄液にて60秒間洗浄した後、リンス剤を用いることなく80℃の濯ぎ水2Lにて10秒間濯いだ。これは、濯ぎ1回当たり、食器設置水平面2500cm^(2)当たり2Lの水で濯ぐことに相当した。専用ラックから評価用グラスを取り出し、25℃にて乾燥させた。」

(3) 刊行物1に記載された発明

(ア) 上記摘示事項(1a)の請求項1、3、4、及び、上記摘示事項(1b)によれば、刊行物1には、「重量平均分子量が5,000?100,000であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位を含む高分子化合物(A)と、ポリアクリル酸又はその塩(B)と、アミノポリ酢酸塩(C)と、アルカリ剤(D)と、ノニオン性界面活性剤(E)を含有し、
(A)と(B)の重量比が(A)/(B)=1.0/5.0?1.0/7.0であり(B)と(C)の重量比が(B)/(C)=1.0/0.6?1.0/1.2であり、(B)の含有量と(C)の含有量の合計が9.0?12.0重量%であり、(D)を10?20重量%含有する、業務用食器洗浄機用液体洗浄剤組成物」が記載されていると認められる。

(イ) 上記摘示事項(1f)の段落【0049】によれば、刊行物1における「ポリアクリル酸又はその塩(B)」の含有量は、「好ましくは3?10重量%、更に好ましくは4?8重量%、特に好ましくは5?7重量%」である。

(ウ) 上記摘示事項(1g)の段落【0055】の「本発明の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物から調製される洗浄液を用いた業務用食器洗浄機による洗浄の際には、該組成物は、供給装置によって業務用食器洗浄機内部に一定量任意に移送され、適正な洗浄液の濃度が維持される。」、同段落【0058】の「適切な洗浄液の濃度を維持するため、自動供給装置によって適正濃度となるように食器洗浄機用液体洗浄剤組成物が供給される。食器洗浄機用液体洗浄剤組成物の自動供給装置としては、限定されるものではないが、洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールするものが挙げられる。」との記載からして、刊行物1には、『「洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールする」ことで、「適正な洗浄液の濃度が維持される」業務用食器洗浄機』で用いることが記載されていると認められる。

(エ) 上記(ウ)に示した段落【0055】、【0058】の記載からして、刊行物1には、『「洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールする」機能を有する「食器洗浄機用液体洗浄剤組成物の自動供給装置」を備えた「業務用食器洗浄機による洗浄」方法』が記載されていると認められる。

上記(ア)ないし(ウ)の検討事項より、刊行物1には、
「重量平均分子量が5,000?100,000であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位を含む高分子化合物(A)と、ポリアクリル酸又はその塩(B)と、アミノポリ酢酸塩(C)と、アルカリ剤(D)と、ノニオン性界面活性剤(E)を含有し、
(A)と(B)の重量比が(A)/(B)=1.0/5.0?1.0/7.0であり、(B)と(C)の重量比が(B)/(C)=1.0/0.6?1.0/1.2であり、(B)の含有量と(C)の含有量の合計が9.0?12.0重量%であり、(B)を3?10重量%含有し、(D)を10?20重量%含有する、洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールすることで、適正な洗浄液の濃度が維持される業務用食器洗浄機用液体洗浄剤組成物。」(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

また、上記(ア)、(イ)、(エ)の検討事項より、刊行物1には、
「洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールする機能を有する食器洗浄機用液体洗浄剤組成物の自動供給装置を備えた業務用食器洗浄機による洗浄方法であって、食器洗浄機用液体洗浄剤組成物として、
重量平均分子量が5,000?100,000であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位を含む高分子化合物(A)と、ポリアクリル酸又はその塩(B)と、アミノポリ酢酸塩(C)と、アルカリ剤(D)と、ノニオン性界面活性剤(E)を含有し、
(A)と(B)の重量比が(A)/(B)=1.0/5.0?1.0/7.0であり、(B)と(C)の重量比が(B)/(C)=1.0/0.6?1.0/1.2であり、(B)の含有量と(C)の含有量の合計が9.0?12.0重量%であり、(B)を3?10重量%含有し、(D)を10?20重量%含有する食器洗浄機用液体洗浄剤組成物を用いる洗浄方法。」(以下、「引用発明2」という。)が記載されていると認められる。

(4) 対比・判断

(4-1) 本件発明1について
本件発明1と引用発明1とを対比する。
○「業務用食器洗浄機」が、「自動食器洗浄機」であることは明らかであるから、引用発明1の「業務用食器洗浄機用液体洗浄剤組成物」は、本件発明1の「自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行うための液体の洗浄剤組成物」に相当する。

○引用発明1の「洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールする」について、当該「洗浄液」が「洗浄剤組成物を含む洗浄液」であることは明らかであり、また、当該「センシング」とはセンサーを用いて何らかの物理量(引用発明1では、「洗浄液の濃度」)などを計測することであるから、何らかの物理量を「モニター」することに他ならず、さらに、当該「コントロール」とは、引用発明1では、洗浄液の濃度の制御を意味するところ、洗浄液の濃度は、洗浄剤組成物の供給量の制御、すなわち、洗浄剤組成物の供給の要否を判断することで行われていると認められるから、引用発明1の「洗浄液の濃度をセンシングし、シグナルを受信してコントロールする」と本件発明1の「洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断」とは、「洗浄剤組成物を含む洗浄液に関する物理量をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断」する点で一致する。

○引用発明1の「ノニオン性界面活性剤(E)」は、本件発明1の「(A)ノニオン界面活性剤」に相当する。

○引用発明1の「ポリアクリル酸又はその塩(B)」は、上記摘示事項(1d)によれば、「ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウム等が挙げられ、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸カリウムが好ましい」から、「ポリアクリル酸ナトリウム」である場合を含むものであり(実際、上記摘示事項(1h)によれば、実施例では、「ポリアクリル酸又はその塩(B)」として「ポリアクリル酸ナトリウム」が用いられている。)、かつ、「ポリアクリル酸ナトリウムを含む」「ポリアクリル酸・・の塩」が高分子電解質であることは明らかであるから、引用発明1の「ポリアクリル酸又はその塩(B)」は、本件発明1の「(B)高分子電解質としてのポリアクリル酸のナトリウム塩」を含むものである。
そして、その際、引用発明1の「ポリアクリル酸又はその塩(B)」の含有量は、「3?10重量%」であるから(上記摘示事項(1h)によれば、実施例における「ポリアクリル酸又はその塩(B)」の含有量は、6.0?7.0重量%である。)、引用発明1と本件発明1とは、「ポリアクリル酸のナトリウム塩の含有量が3重量%以上」である点で一致する。

○引用発明1の「アルカリ剤(D)」は、上記摘示事項(1e)によれば、「具体的には、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等」であり、上記摘示事項(1h)によれば、実際、水酸化カリウムが選択されていることからして、引用発明1の「アルカリ剤(D)」と本件発明1の「(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種を含み、かつ、他のアルカリ剤を含まず、」とは、「(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群から選択された少なくとも1種」である場合を含む点で一致する。

○引用発明1の「アミノポリ酢酸塩(C)」は、上記摘示事項(1c)の「アミノカルボン酸系に代表される様なキレート剤」との記載からして、「キレート剤」の一種であるから、本件発明1の「(D)キレート剤」に相当する。

上記より、本件発明1と引用発明1とは、
「洗浄剤組成物を含む洗浄液に関する物理量をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた、自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行うための液体の洗浄剤組成物であって、
(A)ノニオン界面活性剤
(B)高分子電解質としてのポリアクリル酸のナトリウム塩
(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムからなる群から選択された少なくとも1種
(D)キレート剤
を含み、
前記ポリアクリル酸のナトリウム塩の含有量が3重量%以上である、
洗浄剤組成物」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
アルカリ剤が、本件発明1では、『「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物」以外の「他のアルカリ剤を含ま」ない』ことが特定されているのに対し、引用発明1では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点2>
洗浄剤組成物が、本件発明1では、「塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸の共重合体を含有」しないことが特定されているのに対し、引用発明1では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点3>
洗浄剤組成物を含む洗浄液に関して、モニターする物理量が、本件発明1では、「洗浄液の電気伝導度」であることが特定されているのに対し、引用発明1では、「洗浄液の濃度」である点。

<相違点4>
洗浄剤組成物の電気伝導度が、本件発明1では、「水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.9mS/cm以上」であることが特定されているのに対し、引用発明1では斯かる事項が特定されていない点。

<相違点5>
洗浄剤組成物を適用する自動食器洗浄機が、本件発明1では、「節水型の自動食器洗浄機」であって、しかも、「すすぎ水が食器の存在する通過面積3600cm^(2)に対し3L/サイクル以下であるドアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が2.5L/ラック以下であるラックコンベアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が3L/分以下である1槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機、又は、
すすぎ水が9L/分以下である複槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機」であることが特定されているのに対し、引用発明1では、「業務用食器洗浄機」との特定に留まる点。

<相違点1>及び<相違点4>について
上記摘示事項(1e)によれば、引用発明1におけるアルカリ剤は、「スケール付着防止の観点から、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属珪酸塩が好ましく、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、珪酸ナトリウムが特に好ましい」旨記載されているから、引用発明1を実施するに際し、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムを選択することは示唆されているといえる。しかしながら、上記摘示事項(1h)によれば、引用発明1の実施例においては、アルカリ剤として、水酸化カリウム以外に、必ず珪酸ナトリウムと炭酸カリウムも併用されており、刊行物1の明細書のその他の記載を見ても、アルカリ剤を「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物」のみに限定して、それ以外の「他のアルカリ剤を含ま」ないとする積極的な動機ないし技術思想は見当たらない(単に、「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物」以外の「他のアルカリ剤を含ま」ない態様が文言上排除されていないというの留まる。)。
また、引用発明1におけるアルカリ剤の配合量は、10?20重量%であるところ、上記摘示事項(1h)によれば、実施例1?7のいずれにおいても、水酸化カリウム4.8重量%、珪酸ナトリウム5.0重量%、炭酸カリウム6.0重量%の合計15.8重量%が配合されている。ここで、本件特許明細書段落【0010】に、「アルカリ剤にはナトリウムイオン等の電解質が含まれているため、アルカリ剤を含んでいると洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度が高くなる」旨記載されており、アルカリ剤の含有量と電気伝導度に対応関係があることが理解されるところ、特許権者による平成28年12月2日付け意見書の11頁の試験例Cによれば、水酸化カリウム2.9重量%、オルソケイ酸ナトリウム3.0重量%、炭酸ナトリウム3.7重量%の合計9.6重量%でアルカリ剤を用いた場合の洗浄剤組成物の電気伝導度が、0.86mS/cmであったことが開示されている。そうすると、9.6重量%の1.6倍である15.8重量%、あるいは、引用発明1におけるアルカリ剤の配合量の上限値である20重量%までアルカリ剤を増量すれば、当該洗浄剤組成物の電気伝導度は0.86mS/cmをある程度上回るはずであるから、引用発明1の態様の中には、電気伝導度が0.9mS/cm以上であるものも包含されていると推察される〔実際、異議申立書15頁1?6行及び【表1】によれば、引用発明1の許容されている態様の中には、電気伝導度が0.9mS/cmを大幅に上回る1.07mS/cmを示す場合があることが開示されている。もっとも、異議申立書13頁7?17行によると、刊行物1の実施例1と類似処方の洗浄剤組成物の電気伝導度が0.85mS/cmであったことが開示されているから、刊行物1に開示の実施例そのものの電気伝導度は0.9mS/cm未満であると推察され、しかも、刊行物1中に、電気伝導度を0.9mS/cm以上とする動機は見当たらない。〕。
すなわち、引用発明1の態様の中には、「水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.9mS/cm以上」であるものが包含されている蓋然性があり、また、引用発明1は、アルカリ剤が、「水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種を含」む態様を有し、しかも、「他のアルカリ剤を含ま」ない場合も排除されていないと認められる。しかしながら、引用発明1では、これら全ての事項を同時に満たすことが意図されておらず、刊行物1の記載の他、刊行物2、3や甲第2、3号証の記載、また、本願出願時の技術常識を参照しても、当業者といえども、これらの事項を同時に満たすように引用発明1を実施することが容易であると認める技術的根拠は見当たらない。

<発明の効果>について
本件特許明細書段落【0006】-【0008】、【0022】等の記載を参照すると、本件発明1は、洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた節水型の自動食器洗浄機で使用した場合、洗浄剤組成物の過剰供給を防止して自動食器洗浄機中の洗浄剤組成物の濃度を一定に保つことができるという効果を有するものと認められる。
そして、当該効果が奏される作用機序として、同段落【0010】に、「洗浄剤組成物が液体の場合、水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.7mS/cm以上となる・・・ような洗浄剤組成物を供給すると、速やかに洗浄液の電気伝導度が高くなるので洗浄剤組成物の過剰供給を防止することができる。
一方、洗浄液の電気伝導度が高くならない洗浄剤組成物を供給した場合は、洗浄剤組成物が供給されてもあまり電気伝導度が変化しないため洗浄剤組成物を大量に供給しないと洗浄剤組成物の濃度が高くなったことが検知されない。そのため洗浄剤組成物の過剰供給を引き起こす可能性がある。また、洗浄剤組成物の供給位置から電気伝導度を測定するセンサまでの間で洗浄剤組成物が拡散することによっても、電気伝導度の上昇幅が小さくなるので、洗浄液の電気伝導度が高くならない洗浄剤組成物を供給する場合には洗浄剤組成物の過剰供給を引き起こす可能性が高くなる。」ことが記載されている。
さらに、実施例1、比較例1として、電気伝導度が1.17mS/cmの洗浄剤組成物を用いた実施例1の方が0.65mS/cmの洗浄剤組成物を用いた比較例1よりも、濃度が一定に保たれていることが確認されている。
ここで、上記実施例1は測定条件等で不明な点を有し、その結果を直ちに受け入れることが困難であるものの(下記付記参照)、最も好ましい濃度における電気伝導度がある程度高いと、洗浄剤組成物の濃度変化を、センサーによって迅速に感知することができるので、過剰供給の防止に繋がりやすいことは、(実験結果を参照するまでもなく)容易に理解し得ることである。しかも、当該効果は、刊行物1に記載されたものでなく、また、自動食器洗浄機に用いる洗浄剤組成物の技術分野において、周知の作用効果であると認める根拠も見当たらないから、本件発明特有の効果であるといえる。
〔上記実施例1・比較例1につき、付記すると、本件特許明細書段落【0019】によれば、「最も好ましい電気伝導度」「に対して近い値に制御ラインを設定」し、「洗浄液の電気伝導度が」制御ライン「を下回ったら洗浄剤組成物の供給を行」い、「電気伝導度を検知するセンサが」制御ライン「を超えた値を検知する」と「洗浄剤組成物の供給は止ま」るような供給システムを前提としているところ、実施例1と比較例1では制御ラインをどう設定したのか等、本件特許明細書で測定条件・操作が充分に開示されておらず、本件特許明細書の開示の範囲内で当該実施例・比較例の結果から何が言えるのか不明であるといわざるを得ない(この点、平成28年7月26日付け意見書において、当該実施例・比較例について、測定条件や測定結果についての詳細な説明がされたが、これらは当初明細書の記載に基づかないものであり、しかも、これによると実施例1と比較例1で制御ラインにおける洗浄剤組成物の濃度が大きく異なる等、測定条件が適切であったか等、その評価は容易でないとの心証を有する。)。さらに、本件発明1で防止が図られている「過剰供給」とは、「最も好ましい電気伝導度」又は設定した「制御ライン」における濃度と実際に測定された濃度の上限値との差から、どの程度供給が予定よりも過剰となったかで判断されるべきものと解されるから、すすぎ水によって濃度が低下した時点での値と推察される「濃度下限値」と当該「濃度上限値」との差によって過剰供給の程度を判断することはできないと考える。また、「自動食器洗浄機中の洗浄剤組成物の濃度を一定に保つこと」も本件発明1の効果であって、この点については、「(濃度条件/濃度下限)の比率」をみている実施例1・比較例1の結果より把握できると推察されるが、過剰供給の問題を離れ、洗浄剤組成物の濃度を一定に保つこと自体の技術的意義が明確でない。〕

すなわち、刊行物1や本願出願時の技術常識等を参照しても、引用発明1に基づいて相違点1、4に係る構成を想到する動機が見当たらず、また、本件発明1は、引用発明1からは予測困難な効果を有するものと認められるから、当業者といえども容易に発明をすることができたものとは認められない。

よって、相違点2、3、5について検討するまでもなく、本件発明1は、引用発明1に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでない。

(4-2)本件発明2?5について

本件発明2?5は、本件発明1をさらに限定するものであるから、本件発明2?5も本件発明1と同様の理由により、当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。

(4-3)本件発明8、9について

本件発明8、9と引用発明2とを対比すると、両者は、用いる洗浄剤組成物について、本件発明8、9では、「請求項1?5のいずれかに記載の洗浄剤組成物」であることが特定されているのに対し、引用発明2では、「重量平均分子量が5,000?100,000であり、カチオン性モノマーに由来する構造単位を含む高分子化合物(A)と、ポリアクリル酸又はその塩(B)と、アミノポリ酢酸塩(C)と、アルカリ剤(D)と、ノニオン性界面活性剤(E)を含有し、
(A)と(B)の重量比が(A)/(B)=1.0/5.0?1.0/7.0であり、(B)と(C)の重量比が(B)/(C)=1.0/0.6?1.0/1.2であり、(B)の含有量と(C)の含有量の合計が9.0?12.0重量%であり、(B)を3?10重量%含有し、(D)を10?20重量%含有する食器洗浄機用液体洗浄剤組成物」である点で相違する。
そして、引用発明2の上記食器洗浄機用液体洗浄剤組成物は、引用発明1の業務用食器洗浄機用液体洗浄剤組成物と同一であるから、本件請求項1に記載の洗浄剤組成物と、引用発明2に記載の食器洗浄機用液体洗浄剤組成物とは、上記(4-1)で検討した相違点を有し、その相違点に係る構成は、上記検討のとおり、容易に想到し得るものでないから、本件発明8、9も、本件発明1と同様の理由により、当業者といえども容易に発明をすることができたものでない。

(5) 結論

よって、本件発明1?5、8、9は、引用発明1、2に基いても容易に発明をすることができたものでない。

イ. 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由(特許法第36条第4項第1号の規定について)

(1)具体的な供給条件について(異議申立書16頁12行?18頁13行)

当該異議申立理由は、要は、本件特許明細書段落【0019】に、「洗浄剤組成物の電気伝導度が低いと洗浄剤組成物を供給しても電気伝導度がすぐに上昇しない(拡散に時間がかかる)ので・・・洗浄剤組成物を過剰に供給してしまう」と記載されているから、本件発明が課題とする洗浄剤組成物の過剰供給は、洗浄剤組成物の拡散時間に関係して生じると解されるところ、「洗浄剤の拡散時間が、洗浄剤の供給開始から制御レベルの電気伝導度を検知するまでの時間になるべく影響をしないようにすることが、当業者の常識である」ことからして、「通常当業者が実施する供給条件」では問題となることはなく、したがって、本件発明は、特殊な供給条件を前提とした発明であると推察されるが、その点が本件特許明細書に開示されていないことを問題としているものと理解される。
しかしながら、明細書のいずれにも、洗浄剤組成物の供給条件についての記載はないことからして、改めて説明する必要がないほどに一般的な供給条件が採用されていると解するのが自然であり、また、平成28年7月26日付け意見書6頁6行以降「(2-3)について」を参照すれば、実際に、特殊な供給条件が採用されているわけではないことが見て取れるから、この点で、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が、特許法第36条第4項第1号の規定(実施可能要件)を満たしていないとまではいえない。

(2)濃度制御試験について(異議申立書18頁14行?19頁6行)

当該異議申立理由は、要は、本件発明は節水型の自動食器洗浄機における洗浄剤組成物の過剰供給を解決課題とする発明であるから、節水型でない自動食器洗浄機では過剰供給とならず、節水型の自動食器洗浄機では過剰供給となるような洗浄剤組成物の供給条件を前提とするものと認められるところ、本件特許明細書に、そのような供給条件が示されておらず、このような課題(現象)を確認するために、過度の試行錯誤が求められることを問題としているものと理解される。
しかしながら、本件特許に係る発明は、出願時においては、節水型の自動食器洗浄機と節水型でない自動食器洗浄機をどちらも対象とした「洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行うための液体又は固体の洗浄剤組成物」の発明であったことからして、「本件発明は節水型の自動食器洗浄機」でのみ問題となる「洗浄剤組成物の過剰供給を解決課題とする発明である」との認識は妥当でなく、それを前提とする当該異議申立理由は、的を射たものとはいえない。

(なお、上記(1)、(2)の点に関連する本件特許明細書段落【0019】の記載の意図するところについて、必要であれば、平成28年7月26日付け意見書2頁以降「(3)審尋に対する回答」、特に、「(1-3)について」及び「(1-5)について」を参照されたい。)

第6 まとめ

上記「第5」で検討したとおり、上記取消理由、及び、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、本件請求項1?5、8、9に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件請求項1?5、8、9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、請求項6、7、10に係る発明は、訂正により削除されたため、本件請求項6、7、10に係る特許に対し、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた、節水型の自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行うための液体の洗浄剤組成物であって、
(A)ノニオン界面活性剤
(B)高分子電解質としてのポリアクリル酸のナトリウム塩
(C)アルカリ剤として、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及び、これらのアルカリ剤の水和物からなる群から選択された少なくとも1種を含み、かつ、他のアルカリ剤を含まず、
(D)キレート剤
を含み、
塩化ジアリルジメチルアンモニウムとマレイン酸の共重合体を含有せず、
水1Lに洗浄剤組成物を1g溶解させた際の60℃での電気伝導度が0.9mS/cm以上であり、
前記ポリアクリル酸のナトリウム塩の含有量が2.76重量%以上であり、
前記節水型の自動食器洗浄機は、
すすぎ水が食器の存在する通過面積3600cm^(2)に対し3L/サイクル以下であるドアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が2.5L/ラック以下であるラックコンベアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が3L/分以下である1槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機、又は、
すすぎ水が9L/分以下である複槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機であることを特徴とする洗浄剤組成物。
【請求項2】
前記ノニオン界面活性剤(A)を0.5重量%以上含有する請求項1に記載の洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記ノニオン界面活性剤(A)が、アルコールのエチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド付加物である請求項1又は2に記載の洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記ノニオン界面活性剤(A)に含まれる、エチレンオキサイド(EO)に対するプロピレンオキサイド(PO)のモル比(PO/EO比)が1/2以上である請求項3に記載の洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記ノニオン界面活性剤(A)に対する前記高分子電解質(B)の重量比[(B)/(A)]が5/4?7/1である請求項1?4のいずれかに記載の洗浄剤組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
洗浄剤組成物を含む洗浄液の電気伝導度をモニターして洗浄剤組成物の供給の要否を判断する制御機構を備えた節水型の自動食器洗浄機を用いて洗浄対象物の洗浄を行う洗浄方法であって、
前記節水型の自動食器洗浄機は、
すすぎ水が食器の存在する通過面積3600cm^(2)に対し3L/サイクル以下であるドアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が2.5L/ラック以下であるラックコンベアタイプの自動食器洗浄機、
すすぎ水が3L/分以下である1槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機、又は、
すすぎ水が9L/分以下である複槽式コンベアタイプの自動食器洗浄機であり、
前記洗浄剤組成物として請求項1?5のいずれかに記載の洗浄剤組成物を用いることを特徴とする洗浄方法。
【請求項9】
水によるすすぎ工程を行い、前記すすぎ工程の後、リンス剤を用いたリンス工程を行わずに乾燥工程を行う請求項8に記載の洗浄方法。
【請求項10】(削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-08 
出願番号 特願2014-206598(P2014-206598)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C11D)
P 1 651・ 121- YAA (C11D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 柴田 啓二松元 麻紀子▲吉▼澤 英一磯貝 香苗  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 日比野 隆治
岩田 行剛
登録日 2015-07-10 
登録番号 特許第5774757号(P5774757)
権利者 株式会社ニイタカ
発明の名称 洗浄剤組成物及び洗浄方法  
代理人 特許業務法人安富国際特許事務所  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  

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