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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B23B
管理番号 1326943
異議申立番号 異議2015-700316  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-12-16 
確定日 2017-02-23 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5740673号発明「cBN切削工具」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5740673号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正することを認める。 特許第5740673号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
本件特許第5740673号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成27年5月15日付けでその特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人株式会社タンガロイ(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがなされ、平成28年3月29日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である同年5月30日に意見書の提出及び訂正請求がなされ、同年7月22日に特許異議申立人より意見書の提出がなされ、同年9月2日付けで取消理由(決定の予告)が通知され、その指定期間内である同年10月20日に意見書の提出及び訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされ、その訂正請求に対して特許異議申立人からは意見書の提出はなかったものである。
なお、平成28年10月20日付けで訂正請求がなされたので、同年5月30日付けの訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。

2.訂正の適否についての判断
(1)訂正の内容

本件訂正請求による訂正は、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された特許請求の範囲のとおり訂正するもので、その内容は以下のアないしエのとおりである。

ア 請求項1の第1行に「Ni基耐熱合金用のcBN切削工具であって、」を加入訂正する(訂正事項1)

イ 請求項1の「工具の前記刃先チップに設けられる切れ刃に正のすくい角が付与され、」を「工具の前記刃先チップに切れ刃が設けられ、前記刃先チップの前記切れ刃につながるすくい面は正のすくい角を有しており、」に訂正する(訂正事項2)。

ウ 請求項3を、請求項1を引用する請求項3と訂正する(訂正事項3)。

エ 請求項4を、請求項1を引用する請求項4と訂正する(訂正事項4)。

(2)訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否

上記アの訂正事項に関連する記載として、特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0001】には「Ni基耐熱合金に代表される耐熱合金の高速切削用途での寿命向上を図ったcBN切削工具に関する。」と記載されていることから、「cBN切削工具」の用途として「Ni基耐熱合金」は、特許明細書に記載されているものと認められる。
上記アの訂正は、特許明細書に記載された事項の範囲内において、「cBN切削工具」の用途を限定したものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記イの訂正は、「正のすくい角」を有するのが、「すくい面」であることを明確にしたものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正であって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記ウの訂正は、請求項3を請求項1を引用するものとしたものであって、実質的には、本件訂正後の請求項3は、訂正前の請求項3を本件訂正後の請求項1に特定された事項によって更に限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

上記エの訂正は、請求項4を請求項1を引用するものとしたものであって、実質的には、本件訂正後の請求項4は、訂正前の請求項4を本件訂正後の請求項1に特定された事項によって更に限定するものといえるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

そして、これら訂正は一群の請求項ごとに請求されたものである。

(3)小括
以上のとおりであるから、上記訂正請求による訂正事項1、3及び4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とし、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1-5〕について訂正を認める。

3.特許異議の申立てについて
(1)本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1ないし5に係る発明(以下、「本件発明1ないし5」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

本件発明1「Ni基耐熱合金用のcBN切削工具であって、
平均粒径が0.5μm以上、2μm以下のcBN粒子を使用した熱伝導率が20?70W/m・KのcBN焼結体からなる刃先チップと、その刃先チップをコーナ部に保持した台金を具備し、工具の前記刃先チップに切れ刃が設けられ、前記刃先チップの前記切れ刃につながるすくい面は正のすくい角を有しており、
前記コーナ部のコーナ角の2等分線に沿った断面において、切れ刃の先端が前記台金の平坦な上面の延長上から台金下面側に向かって10μm?100μm低下しており、先端から離れるに従って切れ刃位置の低下量が大きくなっているcBN切削工具。」

本件発明2「前記刃先チップに付されるすくい面が平坦な面で構成された請求項1に記載のcBN切削工具。」

本件発明3「前記刃先チップの、正のすくい角が付与されたすくい面の終端にR50mm?R200mmの曲率半径を有する彎曲した切れ上り面を連ならせた請求項1に記載のcBN切削工具。」

本件発明4「前記すくい面の正のすくい角を有する部分が、工具の平面視において前記コーナ部のコーナ角の2等分線に対してほぼ垂直な研摩筋を有する請求項1に記載のcBN切削工具。」

本件発明5「前記正のすくい角の大きさが、5°以上、15°以下である請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のcBN切削工具。」

(2)取消理由の概要
訂正前の請求項1ないし5に係る特許に対して平成28年3月29日付けで特許権者に通知した取消理由及び同年9月2日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は、次のとおりである。

ア 請求項1及び2に係る発明は、甲第1及び2号証に記載された発明に基づき、請求項3及び4に係る発明は、甲第3及び2号証に記載された発明に基づき、請求項5に係る発明は、甲第1ないし3号証に記載された発明に基づき、容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、請求項1ないし5に係る特許は、取り消されるべきものである。

イ 請求項1ないし5に係る特許は、その特許請求の範囲の記載が同法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

(3)甲号証の記載
ア 甲第1号証(特開平8-118113号公報)には、段落0002、0003、0011、0021、図2、図3、図6等の記載からすると、「cBN粒子を使用したcBN焼結体からなる刃先チップと、その刃先チップをコーナ部に保持した台金を具備し、工具の前記刃先チップに設けられる切れ刃に正のすくい角が付与され、前記コーナ部のコーナ角の2等分線に沿った断面において、切れ刃の先端が前記台金の平坦な上面の延長上から台金下面側に向かって低下しており、先端から離れるに従って切れ刃位置の低下量が大きくなっているcBN切削工具。」に相当する構成が示されている。

イ 甲第2号証(国際公開第2011/111261号)には、段落0002に難削材を切削する旨、及び表1に「熱伝導率」が示されている。また、段落0046に「cBN粒子」の「平均粒径」に関して、好ましい例として0.1μm以上、1μm以下と記載されている。

ウ 甲第3号証(特開昭62-271606号公報)には、第3図に関する記載からすると、「cBN粒子を使用したcBN焼結体からなる刃先チップと、その刃先チップをコーナ部に保持した台金を具備し、工具の前記刃先チップに設けられる切れ刃に正のすくい角が付与され、前記刃先チップの、正のすくい角が付与されたすくい面の終端に彎曲した切れ上り面を連ならせたcBN切削工具。」に相当する構成が示されている。

(4)判断
ア 取消理由通知に記載した取消理由について
(ア)特許法第29条第2項について
本件発明1と甲第1ないし3号証に記載された発明とを対比すると、甲第1ないし3号証にに記載された発明は、「Ni基耐熱合金用のcBN切削工具であって、」とする事項を有していない。そして、当該事項により、本件発明1は、「cBN(立方晶型窒化硼素)焼結体で切れ刃を構成したcBN切削工具、詳しくは、Ni基耐熱合金に代表される耐熱合金の高速切削用途での寿命向上を図ったcBN切削工具に関」(段落0001)して、「平均粒径が0.5μm以上、2μm以下のcBN粒子を使用した熱伝導率が20?70W/m・KのcBN焼結体からなる刃先チップと、その刃先チップをコーナ部に保持した台金をcBN切削工具に具備させ、その工具の前記刃先チップに設けられる切れ刃に正のすくい角を付与した」(段落0012)ことにより、「 切れ刃に正のすくい角を付与したcBN切削工具は、実験の結果、従来の刃先に強化処理を施した耐熱合金切削用cBN切削工具に比べて横切れ刃部境界摩耗(以下、VNと表記)や逃げ面摩耗(フランク摩耗:以下、VBと表記)が抑制され、これにより、従来の工具よりも寿命が向上することが確認された。」(段落0014)という顕著な効果を奏するものであり、本件発明1は、甲第1ないし3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そして、本件発明1を引用する本件発明2ないし5も同様に、甲第1ないし3号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(イ)特許法第36条第6項第2号について
取消理由通知において通知した不明瞭な記載は、本件訂正請求に係る訂正により解消された。

(ウ)特許異議申立人の意見について
特許異議申立人は平成28年7月22日付け意見書において、訂正事項により追加された「Ni基耐熱合金用のcBN切削工具」なる事項は、構成を実質的に何も特定していない旨主張し、Ni基耐熱合金の加工において、他の材料の加工よりも、効果が著しいと主張する根拠が示されていないから、臨界的な意義が認められないため、進歩性がない旨を主張する。
しかしながら、「Ni基耐熱合金用」との記載は、用途を限定したのもであり、何も特定していないということはできない。また、相対的に比較するデータが示されていないことをもって、臨界的な意義が認められないということもできない。

イ 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由はない。

4.むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ni基耐熱合金用のcBN切削工具であって、
平均粒径が0.5μm以上、2μm以下のcBN粒子を使用した熱伝導率が20?70W/m・KのcBN焼結体からなる刃先チップと、その刃先チップをコーナ部に保持した台金を具備し、工具の前記刃先チップに切れ刃が設けられ、前記刃先チップの前記切れ刃につながるすくい面は正のすくい角を有しており、
前記コーナ部のコーナ角の2等分線に沿った断面において、切れ刃の先端が前記台金の平坦な上面の延長上から台金下面側に向かって10μm?100μm低下しており、先端から離れるに従って切れ刃位置の低下量が大きくなっているcBN切削工具。
【請求項2】
前記刃先チップに付されるすくい面が平坦な面で構成された請求項1に記載のcBN切削工具。
【請求項3】
前記刃先チップの、正のすくい角が付与されたすくい面の終端にR50mm?R200mmの曲率半径を有する彎曲した切れ上り面を連ならせた請求項1に記載のcBN切削工具。
【請求項4】
前記すくい面の正のすくい角を有する部分が、工具の平面視において前記コーナ部のコーナ角の2等分線に対してほぼ垂直な研摩筋を有する請求項1に記載のcBN切削工具。
【請求項5】
前記正のすくい角の大きさが、5°以上、15°以下である請求項1?請求項4のいずれか1項に記載のcBN切削工具。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-15 
出願番号 特願2013-100055(P2013-100055)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B23B)
P 1 651・ 537- YAA (B23B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 足立 俊彦  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 栗田 雅弘
平岩 正一
登録日 2015-05-15 
登録番号 特許第5740673号(P5740673)
権利者 住友電工ハードメタル株式会社
発明の名称 cBN切削工具  
代理人 田川 孝由  
代理人 中谷 弥一郎  
代理人 鎌田 直也  
代理人 田川 孝由  
代理人 鎌田 直也  
代理人 二島 英明  
代理人 二島 英明  
代理人 中谷 弥一郎  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 文二  

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