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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
管理番号 1326954
異議申立番号 異議2016-700136  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-02-18 
確定日 2017-03-02 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5770891号「開放循環冷却水系の処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5770891号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5770891号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5770891号の請求項1ないし3に係る特許についての出願は、平成22年 8月 4日に出願された特願2010-175274号の一部を平成26年 6月17日に新たな特許出願としたものであって、その後の手続の経緯は次のとおりである。
平成27年 7月 3日 特許の設定登録
平成28年 2月18日 特許異議申立人 役 昌明による
特許異議の申立て
平成28年 6月 6日 取消理由通知
平成28年 8月 8日 訂正請求書及び意見書の提出
平成28年 9月21日 意見書(特許異議申立人)の提出
平成28年 9月30日 取消理由通知(決定の予告)
平成28年11月11日 面接(特許権者と審判合議体)
平成28年12月 2日 訂正請求書及び意見書の提出
平成29年 2月 3日 意見書(特許異議申立人)の提出

第2 訂正請求について
平成28年8月8日の訂正請求は、平成29年2月3日の訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。
よって、以下に、平成29年2月3日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)が認められるかについて検討する。

1.訂正の内容
平成29年2月3日の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下の(1)ないし(4)のとおりである。下線部は訂正箇所を示し特許権者が付記した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「開放循環冷却水系の冷却水に対して」とあるのを「ハロゲン系酸化物による単独処理または有機系殺菌剤による単独処理では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない開放循環冷却水系の冷却水に対して」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2および請求項3も、請求項1の訂正の結果、同様に訂正する。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に「有機系殺菌剤による処理を2日間ないし30日間に1回行うことで」とあるのを「有機系殺菌剤による処理を7日間ないし30日間に1回行うことで」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2および請求項3も、請求項1の訂正の結果、同様に訂正する。
(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する開放循環冷却水系の処理方法」とあるのを「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長期間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える、開放循環冷却水系の処理方法」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2および請求項3も、請求項1の訂正の結果、同様に訂正する。
(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択される少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物を」とあるのを「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物を」に訂正する。
また、請求項1の記載を引用する請求項2および請求項3も、請求項1の訂正の結果、同様に訂正する。

2.訂正の理由
(1)訂正事項1
(a)訂正の目的
上記訂正事項1は、請求項1の「開放循環冷却水系の冷却水に対して」を「ハロゲン系酸化物による単独処理または有機系殺菌剤による単独処理では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない開放循環冷却水系の冷却水に対して」と訂正するものである。
この訂正は、処理の対象となる「開放循環冷却水系」を「ハロゲン系酸化物による単独処理または有機系殺菌剤による単独処理では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない開放循環冷却水系」に限定する訂正であり、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、当該訂正事項1は、特許請求の範囲の減縮を目的とする特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(a)の理由から明らかなように、上記訂正事項1は、処理の対象となる「開放循環冷却水系」を限定する訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものに該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件特許明細書」という。)に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1は、本件特許明細書の【0005】、【0007】、【0047】?【0050】、【0053】、【図1】等に基づいて導き出される構成である。
具体的には、本件特許明細書には、ハロゲン系酸化物による単独処理または有機系殺菌剤による単独処理では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない開放循環冷却水系が開示されており(特に、実施例の処理条件1(【0048】)、処理条件2(【0049】)、【図1】)、また、このような開放循環冷却水系において、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することのできる処理方法(特に実施例の処理条件3(【0050】)及び【図1】)が開示されており、上記訂正事項1は、これらの開示を基にした訂正である。
よって、当該訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項2
(a)訂正の目的
上記訂正事項2は、請求項1の「有機系殺菌剤による処理を2日間ないし30日間に1回行うことで」を「有機系殺菌剤による処理を7日間ないし30日間に1回行うことで」と訂正するものである。
この訂正は、有機系殺菌剤による処理を「2日間ないし30日間に1回」から「7日間ないし30日間に1回」と、処理間隔の選択範囲を狭めた訂正であり、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、当該訂正事項2は、特許請求の範囲の減縮を目的とする特許法第120条の5第2項ただし書第1号の規定に適合するものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(a)の理由から明らかなように、上記訂正事項2は、有機系殺菌剤による処理の処理間隔の選択範囲を狭めた訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項2は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に基づいて導き出される構成である。
すなわち、同【0050】の実施例の処理条件3には、開放循環冷却水系の冷却水に対して、有機系殺菌剤であるイソチアゾリン製剤を7日ごとに1回添加した処理が記載されており、上記訂正事項2はこの記載を基にした訂正である。
よって、当該訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(3)訂正事項3
(a)訂正の目的について
上記訂正事項3は、請求項1の「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する開放循環冷却水系の処理方法」を「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長期間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える、開放循環冷却水系の処理方法」へと訂正するものである。
この訂正は、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する効果が長期間持続することを明確にした訂正であり、殺菌、抑制効果が長時間持続しない場合を除外することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。また、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑えることを明確にした訂正であり、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持うた藻類の繁殖を抑えることができない場合を除外することで、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、当該訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(a)の理由から明らかなように、上記訂正事項3は、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する効果が長期間持続することを明確にすると共に、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑えることを明確にした訂正であり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3は、本件特許明細書の【0011】、【0019】、【0043】、実施例(【0046】?【0050】、【0053】、【0054】)及び【図1】等に基づいて導き出される構成である。具体的には、同【0043】【0054】において、「・・・レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができ、その効果を長期間持続させることができる」と記載されている。そして、同【0050】の実施例の処理条件3の結果を示す【図1】には、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する効果が長期間持続する結果が示されている。
また、本件特許明細書には、ハロゲン系酸化物による単独処理(処理条件1)では冷却塔下部水槽にピンク色のバイオフィルム(メチロバクテリウムと推定)の付着が認められ(【0048】、【0053】)、有機系殺菌剤による単独処理(処理条件2)では、冷却塔上部水槽に粒状緑藻の付着が認められた(【0049】、【0053】)ことが記載されている。
一方で、本件発明の処理方法(処理条件3【0050】)では、冷却塔は清浄な状態が保たれた(【0053】)。これらの結果から、本件発明の処理方法において、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える効果が認められたものであり、上記訂正事項3は、これらの開示を基にした訂正である。
よって、当該訂正事項3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(4)訂正事項4
(a)訂正の目的について
上記訂正事項4は、請求項1の「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択される少なくとも1種のイソチアゾリン系化合物を」を「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4一イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物を」へと訂正するものである。
この訂正は、イソチアゾリン系化合物として「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン」が単独で選択されることを除外する訂正であり、特許請求の範囲を減縮しようとするものである。
したがって、当該訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
(b)実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと
上記(a)の理由から明らかなように、上記訂正事項4は、イソチアゾリン系化合物として「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン」が単独で選択されることを除外する訂正であり、カテゴリ-や対象、目的を変更するものではない。
したがって、上記訂正事項4は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項に適合するものである。
(c)願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項4は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて導き出される構成である。すなわち、本件特許明細書【0041】には、イソチアゾリン化合物の例として「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-n-オクチル-4-イソチアゾリン-3-オン、及び、1,2-ベンソイソチアゾリン-3-オン」が記載され、さらに、これらのイソチアゾリン化合物から少なくとも1種を選択して冷却水系に添加する旨記載され、同【0050】の処理条件3には「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを10重量%、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンを3重量%それぞれ含有するイソチアゾリン製剤」を使用することが記載されている。
上記訂正事項4は、これらの記載を基にして、イソチアゾリン化合物として「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン」が単独で選択されることを除外し、イソチアゾリン化合物を「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4一イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」とした訂正である。
よって、当該訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項に適合するものである。

(5)一群の請求項についての説明
訂正前の請求項2および3は、それぞれ訂正前の請求項1を引用しているから、訂正事項1?4によって記載が訂正される訂正前の請求項1に連動して訂正されるものである。
したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法第120条5第4項に規定する関係を有する一群の請求項である。

3.結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求よる訂正は、
請求項1ないし3について、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項1ないし請求項3についての訂正を認める。

第3 取消理由について
1.本件発明
上記のとおり訂正が認められるので、本件訂正請求により訂正された請求項1ないし3に係る発明(以下、項番毎に「本件発明1」ないし「本件発明3」と記し、総称して「本件発明」と記す。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。

【請求項1】
ハロゲン系酸化物による単独処埋または有機系殺菌剤による単独処埋では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を常時行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を7日間ないし30日間に1回行うことで、バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長期間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える、開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で遊離塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として
0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持する処理、あるいは、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理であり、
前記有機系殺菌剤による処理が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3一オンの混合物または2-メチル-4 -イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理であることを特徴とする開放循環冷却水系の処理方法。

【請求項2】
前記水中で遊離塩素を生成する物質が、次亜ハロゲン酸塩、ハロゲン化イソシアヌル酸、ハロゲン化ヒダントインから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。

【請求項3】
前記水中で結合塩素を生成する物質が、クロラミン類、及び、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。

2.取消理由(決定の予告)の概要
特許異議申立人は、次の甲各号証に基づく進歩性要件と記載要件について取消理由を申立てたので、これらのうち、当審は、進歩性要件について先の取消理由を通知したところ、訂正請求がなされると共に意見書が提出され、さらに特許異議申立人よりも意見書が提出されたので、これらをさらに検討して、概ね以下の(1)(2)の内容の取消理由(決定の予告)を通知した。

(1)進歩性要件違反(甲第7号証を主引例とする場合)
本件発明1-3に係る特許は、同発明が、甲第7号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術手段、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。
(2)進歩性要件違反(甲第1号証を主引例とする場合)
本件発明1-3に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された技術手段、及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない出願に対してされたものであるから、取り消されるべきものである。

以下に、甲各号証、参考文献、参考資料を掲げる。
これらは、特許異議申立人が特許異議申立書及び意見書に添付して提出したもので、以下の検討において、参考文献及び参考資料は、各甲号証の技術内容を補足する周知技術として適宜参酌する。

<甲各号証>
・甲第1号証:特開2009-160505号公報
・甲第2号証:特開2009-220058号公報
・甲第3号証:「冷却塔・冷却水系のレジオネラ属菌対策」、「空衛」、社団法人日本空調衛生工事業協会、第57巻第12号、25-33頁、平成15年12月10日
・甲第4号証:「冷却水系のレジオネラ症防止に関する手引き 冷却塔管理者用」、抗レジオネラ用空調水処理剤協議会、平成13年11月、1-21頁
・甲第5号証:「レジオネラ症防止指針 第3版」第3部第4章「冷却塔と冷却水系」、財団法人ビル管理教育センタ-、平成21年3月、75-89頁
・甲第6号証:特開2001-47059号公報
・甲第7号証:「Preventing Legionellosis」、William F. McCoy、IWA Publishing、First published 2005、101-106頁

<参考文献>
・参考文献1:特開2009-149858号公報
・参考文献2:特開平11-255610号公報
・参考文献3:特開2009-154113号公報
・参考文献4:特開2009-195823号公報
・参考文献5:「レジオネラ症防止指針 第3版」第2部第6章「レジオネラ属菌消毒の原則」、財団法人ビル管理教育センタ-、平成21年3月、37-40頁
・参考文献6:特開2002-336867号公報
・参考文献7:特開2002-220600号公報

<参考資料>
・参考資料 1:特開2001-270870号公報
・参考資料 2:特開2005-279389号公報
・参考資料 3:特開2005-287336号公報
・参考資料 4:特開2007-22949号公報
・参考資料 5:特開2009-67791号公報
・参考資料 6:特開2001-302418号公報
・参考資料 7:特開2010-235509号公報
・参考資料 8:参考資料7の公開特許公報の特許出願の審査段階における意見書
・参考資料 9:特開2011-20955号公報
・参考資料10:特開2010-83800号公報

なお、以下で、「甲第x号証」を「甲x」、「参考文献x」を「参考x」、「参考資料x」を「参資x」と記すことがある。

3.取消理由(決定の予告)についての判断
3-1.進歩性要件違反(甲第7号証を主引例とする場合)
3-1-1.本件発明1について
(1)甲第7号証の記載
甲第7号証には以下の記載があり、訳文は特許異議申立人が甲第7号証に添付したものを参考にした。下線部は強調のため当審で付与した。
(7ア)「7.2.1 Cooling water systems
In nearly every utility water system,cooling towers should be critical control points・・・for preventing legionellosis.」(101頁9-11行)
(7ア訳文)「冷却用水系
ほぼ全ての用水系において、冷却塔はレジオネラ症を防止するための重要な管理点となっている。」
(7イ)「Microbial control. Even in cooling water systems where water pre-conditioning has been used to minimize scale and corrosion, microbial control is required. Two classes of industrial biocides are used for this purpose; Oxidizing biocides and non-oxidizing biocides. Typically, an oxidizing biocide such as chlorine, bromine, stabilized bromine, chlorine dioxide, or ozone should be used continuously. In addition for most systems, intermittent shot doses of non-oxidizing biocide two or three times a week is usually necessary to control microbial fouling in cooling water systems. The preferred non-oxidizing biocides used for cooling water microbial control include glutaraldehyde, isothiazolone, and dibromonitrilopropionamide but there are many others to choose from. These products must be used according to government-regulated label instructions and should be applied under the guidance of a qualified water treatment professional. Since the microbial control program is critical to control of Legionella in cooling water systems, more detail of available treatments is given as follows. 」(105頁3-16行)
(7イ訳文)「微生物の防除。冷却用水系がスケ-ルと腐食を最小限にするために水の事前調整を使用している場合でも、微生物の防除は必要である。このために、酸化系殺菌剤と非酸化系殺菌剤の2種類の工業用殺菌剤を使用する。通常、塩素、臭素、安定化臭素、二酸化塩素、またはオゾンなどの酸化系殺菌剤を継続的に使用する必要がある。さらにほとんどのシステムでは、冷却用水系内の微生物による汚れを防除するために、非酸化系殺菌剤を1週間に2、3回、断続的に投薬する必要があることが多い。冷却水の微生物防除に使用するのに好ましい非酸化系殺菌剤として、グルタルアルデヒド、イソチアゾロン、およびジブロモニトリロプロピオンアミドなどがあるが、他にも多くの選択肢がある。これらの製品は、政府規制下のラベル指示に従って使用するものとし、資格のある水処理専門家の指導の下で適用するものとする。微生物防除プログラムが冷却用水系のレジオネラ菌防除に重要であるため、使用できる処理の詳細について以下に記載する。」
(7ウ)「7.2.1.3 Microbial control in cooling towers
Industrial water systems are never sterilized as a result of microbial control programs applied. Even if enough chemical or other remedy could be added to achieve sterilization, the system would rapidly become re-inoculated with microorganisms since cooling systems are open to the environment. The most significant practical consequence of this fact is that increasingly tolerant microbial communities comprised of the survivors of the applied antimicrobial treatment are selected for especially in diverse microbial biofilms (Srikanth and Berk 1994; Sutherland and Berk 1996; Stewart et at. 2001). It is advisable therefore to proactively vary the antimicrobial stresses in the cooling water microbial control program (McCoy 2003b). For example, a practical way to vary antimicrobial effects is to alternate between continuous-dosing and slug-dosing oxidizing antimicrobial chemical. Another effective strategy to control microbial fouling is to alternate use of an oxidizing antimicrobial with a non-oxidizing antimicrobial to ensure that antimicrobials with different modes of action are applied. Vary the treatment protocol based on observed antimicrobial performance in the system. Table 7.1 gives a hypothetical example of a microbial control program designed to proactively vary antimicrobial stresses in a cooling water system.
Antimicrobial control methods for Legionella in water systems have been extensively reviewed (Kim et al. 2002; WHO 2002; Thomas et al. 2004; Loret et al. 2005). For industrial water systems, chlorine, bromine, stabilized bromine, stabilized chlorine and chlorine dioxide are the preferred oxidants used for microbial control. Also used effectively for industrial water systems are the ''non-oxidizing'' antimicrobials. Especially effective active ingredients are dibromonitrilopropionamide, glutaraldehyde, and isothiazolones, but there are many others to choose from (Kim et al. 2002). These products are effective when used properly. As has been previously discussed, control of the pathogen host (the protozoa) is critical in legionellosis prevention. Currently, the best practical means is to control the biofilms upon which protozoa graze (Donlan 2002; Donlan et al. 2002). This can be very difficult especially in dynamic systems.」(105頁17行-106頁2行)
(7ウ訳文)「7.2.1.3 冷却塔における微生物防除
工業用水系は、微生物防除プログラムの適用を受けても完全に殺菌されることはない。殺菌を行うために十分な薬剤またはその他の措置を追加したとしても、冷却系は環境に対してオ-プンであるため、システム内には微生物が急速に再接種されてしまう。この事実による最も重大な実際の結果として、適用した殺菌処理で生き残った微生物からなる強い耐性を備えた微生物群が、特に、多様な微生物バイオフィルムに存在しているという事実がある(Srikanth & Berk 1994、Sutherland & Berk 1996、Stewart et al.2001)。したがって、冷却水の微生物防除プログラムでは、殺菌剤の強度を積極的に変化させることをお勧めする(McCoy2003b)。例えば、殺菌剤の効果を変化させる実際の方法として、酸化系殺菌剤の連続投与と断続的投与を交互に行う。微生物による汚れを防除する別の効果的な戦略は、酸化系殺菌剤を非酸化系殺菌剤に替えて、異なる作用モ-ドを備えた殺菌剤を適用する。システムで観測される殺菌剤の性能に基づき、処理のプロトコルを変化させる。表7.1は、冷却用水系において殺菌剤の強度を積極的に変化させるために設計された微生物防除プログラムの例を示す。
用水系のレジオネラ菌に関する殺菌管理方法は、広く見直されている(Kim et al.2002、WHO2002、Thomas et al.2004、Loret et al.2005)。工業用水系では、塩素、臭素、安定化臭素、安定化塩素、および二酸化塩素が微生物防除に使用する酸化剤として好ましい。また、「非酸化系」殺菌剤も工業用水系で効果的に使用されている。特に効果的な有効成分は、ジブロモニトリロプロピオンアミド、グルタルアルデヒド、およびイソチアゾロンだが、他にも多くの選択肢がある(Kim et al.2002)。これらの製品は、正しく使用すれば効果的である。前述のとおり、病原体の宿主(原虫)の防除は、レジオネラ症防止において重要である。現在のところ、最善の実用的手段は、原虫が潜むバイオフィルムを防除することである(Donlan2002、Donlan et al.2002)。これは、特に動的システムでは非常に困難である。」
(7エ)Table 7.1(106頁)とその訳文を以下に示す。


(2)甲第7号証に記載された発明(引用発明7)
i)記載事項(7ア)に「冷却用水系」において「冷却塔はレジオネラ症を防止するための重要な管理点となっている。」と記載され、同(7イ)に「冷却用水系がスケ-ルと腐食を最小限にするために水の事前調整を使用している場合でも、微生物の防除は必要である。」と記載され、同(7ウ)に「工業用水系は、微生物防除プログラムの適用を受けても完全に殺菌されることはない。・・・冷却系は環境に対してオ-プンであるため、システム内には微生物が急速に再接種されてしまう。」と記載されることから、甲7に記載の発明は、「工業用水系」であって、「環境に対してオ-プン」な「冷却塔」の「冷却用水系」を対象とするものといえる。
ii)上記「冷却用水系」では、同(7ウ)に「適用した殺菌処理で生き残った微生物からなる強い耐性を備えた微生物群が、特に、多様な微生物バイオフィルムに存在しているという事実」があることが記載され、同(7ウ)に「現在のところ、最善の実用的手段は、原虫が潜むバイオフィルムを防除することである」とも記載されているように、甲7には、「レジオネラ症防止」のためにその原因である「レジオネラ菌」を単に「殺菌処理」するのみならず、「バイオフィルムを防除する」ことが重要であることが示されている。
iii)それゆえ、「環境に対してオ-プン」な「冷却用水系」の「微生物の防除」として、同(7イ)には「酸化系殺菌剤と非酸化系殺菌剤の2種類の工業用殺菌剤を使用」し、「酸化系殺菌剤を継続的に使用する必要」があり、「冷却用水系内の微生物による汚れを防除するために、非酸化系殺菌剤を1週間に2、3回、断続的に投薬する必要がある」ことが記載されており、これは「酸化系殺菌剤を継続的に使用」しつつ「非酸化系殺菌剤を1週間に2、3回、断続的に投薬する」ものといえる。
また、このことは、同(7エ)の「表7.1」の「プロトコル」の「A」に、「酸化系殺菌剤」は「総残留Cl_(2)が0.5?1.0mg/Lに制御された連続的酸化剤投与」がなされ、「非酸化系殺菌剤」は「1週間に3回、2mg/Lのイソチアゾロンを投与」することが記載されていることからも裏付けられる。
さらに、同(7ウ)には「用水系のレジオネラ菌に関する殺菌管理方法」について、「微生物防除に使用する酸化剤」すなわち「酸化系殺菌剤」として好ましいものに「安定化塩素」が、「非酸化系殺菌剤」の「特に効果的な有効成分」として「イソチアゾロン」が記載されている。
したがって、甲7には、「酸化系殺菌剤」として「安定化塩素」が上記濃度で「継続的に使用」され、かつ、「非酸化系殺菌剤」として「イソチアゾロン」が「1週間に2、3回、断続的」に適切量を「投与」されることで、「レジオネラ菌」の殺菌と、「バイオフィルム」を「防除」する「環境に対してオ-プン」な「冷却用水系」の「微生物の防除」方法が示されているといえる。
iv)以上の点を総合し、本件発明1の記載に則して整理すると、甲7には、
「環境に対してオ-プンな冷却塔の冷却用水系に対して、酸化系殺菌剤として安定化塩素が連続的に使用され、かつ、非酸化系殺菌剤としてイソチアゾロンが1週間に2、3回、断続的に投与される、レジオネラ菌の殺菌と、バイオフィルムを防除する環境に対してオ-プンな冷却用水系の微生物の防除方法であって、
酸化系殺菌剤としての安定化塩素による処理が、総残留Cl_(2)が0.5?1.0mg/Lに制御された処理であり、
非酸化系殺菌剤としてのイソチアゾロンによる処理が、適切量の投与となる処理である、
環境に対してオ-プンな冷却塔の冷却用水系の微生物の防除方法。」の発明(以下、「引用発明7」という。)が記載されていると認められる。

(3)本件発明1と引用発明7との対比
i)本件特許の発明の詳細な説明の【0046】【0047】には、「本発明の開放循環冷却水系の処理方法の実施例」として、具体的に「ビル空調用冷却塔」の冷却水が記載されているところ、本件発明1の「開放循環冷却水系の冷却水」は「冷却塔」の冷却水を含むので、引用発明7の「環境に対してオ-プンな冷却塔の冷却用水系」は、本件発明1の「開放循環冷却水系の冷却水」に包含されるといえる。
ii)本件特許の発明の詳細な説明の【0022】には、本件発明1の「ハロゲン系酸化物」は「水中で結合塩素を生成する物質」を使用することが記載されており、例えば参考4の【0003】に記載されるように「冷却水系等ではスライムコントロ-ル剤等として結合塩素剤(安定化塩素剤)が用いられている。」ことは技術常識であるから、引用発明7の「安定化塩素」は「結合塩素」にあたり、本件発明1の「ハロゲン系酸化物」に相当する。
そして、引用発明7の「非酸化系殺菌剤」としての「イソチアゾロン」が、本件発明1の「有機系殺菌剤」にあたることは明らかである。
すると、本件発明1の「ハロゲン系酸化物による処理を常時行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を7日間ないし30日間に1回行うこと」と、引用発明7の「酸化系殺菌剤として安定化塩素が連続的に使用され、かつ、非酸化系殺菌剤としてイソチアゾロンが1週間に2、3回、断続的に投与される」こととは、「ハロゲン系酸化物による処理を常時行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を断続的に行う」点で一致する。
iii)ここで、甲3には、「各種水系を原因とするレジオネラ症の発症防止に寄与する「新版レジオネラ症防止指針」ではレジオネラ属菌数と対応を、表-4のように示している。」(28頁右欄「4.レジオネラ属菌数の基準」)と記載され、「表-4 レジオネラ属菌が検出されたときの対応」(28頁)には、「人がエアロゾルを直接吸引する可能性が低い人工環境水*1」(*1 冷却水、冷温水、蓄熱用水が該当する)に対して「10^(2)CFU/100mL以上のレジオネラ属菌が検出された場合には、直ちに菌数を減少させるため、清掃、消毒等の対策を講じる。対策実施後は菌数が検出限界以下(10CFU/100mL未満)であることを確認する。」と記載され、「レジオネラ症防止」のために、「冷却水」において「菌数を減少させる」対策後に「菌数が検出限界以下」になっていることは技術常識であるといえる。
そうであれば、引用発明7も、(7ウ)にあるように「レジオネラ症防止」を目的として「環境に対してオ-プンな冷却塔の冷却用水系」において薬剤を添加して対処するものなので、対処後には「菌数が検出限界以下」になっているはずだから、引用発明7も「レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する」ものといえる。また、このことは、引用発明7の「安定化塩素」の濃度と連続使用という使用態様、「イソチアゾリン」の濃度と断続使用という使用態様が、「菌数が検出限界以下」となる本件発明1と重複することからも裏付けられるといえる。
よって、引用発明7の「レジオネラ菌の殺菌と、バイオフィルムを防除する環境に対してオ-プンな冷却用水系の微生物の防除方法」は、本件発明1の「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する開放循環冷却水系の処理方法」に相当する。
iv)上記ii)でみたように、引用発明7の「安定化塩素」は、本件発明1の「結合塩素」といえる。
よって、引用発明7の「酸化系殺菌剤としての安定化塩素による処理が、総残留Cl_(2)が0.5?1.0mg/Lに制御された処理」は、本件発明1の「水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理」に相当する。
v)本件発明1の「前記有機系殺菌剤による処理が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理」と、引用発明7の「非酸化系殺菌剤としてのイソチアゾロンによる処理が、適切量の投与となる処理」とは、「前記有機系殺菌剤による処理がイソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として適切量を前記冷却水系に添加する処理」である点で一致する。
vi)以上から、本件発明1と引用発明7とは、
「開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を常時行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を断続的に行うことで、バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理であり、
前記有機系殺菌剤による処理が、イソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として適切量となるように前記冷却水系に添加する処理である、開放循環冷却水系の処理方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制」した効果の持続について、本件発明1では「その効果が長期間持続する」のに対して、引用発明では明らかでない点。

<相違点2>添加される「イソチアゾリン系化合物」の種類と、添加量と、添加間隔について、
(a)添加される「イソチアゾリン系化合物」の種類に関して、本件発明1では、「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」を添加するのに対して、引用発明7では、具体的に特定されていない「イソチアゾロン」を添加する点。
(b)添加量と、添加間隔に関して、本件発明1では、「イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下」となるように「処理を7日間ないし30日間に1回行う」ように前記冷却水系に添加するのに対して、引用発明7では、「イソチアゾロン」の適切量を「1週間に2、3回」の割合で前記冷却水系に添加する点。

<相違点3>「開放循環冷却水系の冷却水」について、本件発明1では「ハロゲン系酸化物による単独処埋または有機系殺菌剤による単独処埋では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない」ものであるのに対して、引用発明7では不明である点。

<相違点4>「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制」した効果について、本件発明1では「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」ものであるのに対して、引用発明7では不明である点。

(4)相違点の検討
事案に鑑み相違点2(b)について検討する。
i)甲2には、「開放循環式冷却水系」(【請求項6】)において、「レジオネラ属菌の制御及び殺菌を効率的に、かつ確実に行う」(【0001】)のに、「レジオネラ属菌の殺菌剤の一例」として「5-クロロ-2-メチルイソチアゾリン-3-オン」(【0051】の表記から、以下、「CI-MIT」と記すことがある。)であるイソチアゾリン系化合物を使用できること(【0051】)が示されている。
ii)また、「循環水系の殺菌処理は、レジオネラ属菌の殺菌ができれば、その方法は特に限定されず、公知の殺菌処理方法のいずれも自由に採用することが可能である。例えば、グルタルアルデヒド、2-ブロモ2-ニトロプロパン1,3-ジオール、塩素、過酸化水素、イソチアゾリン化合物、などのレジオネラ属菌に対する殺菌剤を単独もしくは併用して添加する方法、これらの殺菌剤とスライムコントロール剤、防食剤、防スケール剤等を併用して添加する方法、或いは、紫外線を用いて殺菌処理を行う方法などを挙げることができる。」(【0043】)と記載され、「イソチアゾリン化合物」とハロゲン系酸化物の併用が示唆されているといえる。
iii)さらに、その使用方法については、甲2の【0046】、【0051】?【0053】に、「空調用冷却水」(冷凍能力「150RT」、「保有水量3m3」)に、
「5mg/L」のCI-MITを、
「経過日数 1?42日」の間は「21日」毎に、
「経過日数43?56日」の間は「14日」毎に、
「経過日数57?70日」の間は「7日」毎に、
「経過日数71?80日」の間は「14日」毎に、それぞれ添加することが記載され、その結果として【図2】から、いずれの経過日数でも「レジオネラ属菌数」は検出限界以下(≦10CFU/100mL)であることが示されており、これは、イソチアゾリン化合物の5mg/Lを「7?21日」毎に添加すると、レジオネラ属菌が十分に殺菌される状態が長期間持続することを示すものといえる。
iv)以上から、甲2には、「開放循環式冷却水系」において、「レジオネラ属菌の制御及び殺菌を効率的に、かつ確実に行う」のに、イソチアゾリン系化合物を5mg/L、「7?21日」毎に添加するという技術手段が記載されているといえる。
v)しかしながら、甲2の技術手段は、「イソチアゾリン化合物」のみを使用する場合に「7?21日」毎という添加間隔を採用するものであり、ハロゲン系酸化物と「イソチアゾリン化合物」が併用された場合に、「イソチアゾリン化合物」の添加間隔が具体的にどうなるのかについては記載も示唆もない。たしかに上記ii)でみたように、甲2には「イソチアゾリン化合物」とハロゲン系酸化物の併用が示唆されてはいるが、レジオネラ属菌の殺菌について、両剤を併用できるための、冷却水の汚れ具合、冷却塔の容量、設置環境(場所や水温)等に応じて適切な条件を設定するための具体的な開示は見いだせない。
また、引用発明7での「イソチアゾリン」の添加間隔は「1週間に2、3回」(2,3日に1回)であり、一般的な技術常識からすれば、殺菌効果を高めるのであれば添加間隔をより短くすることが想定され、甲2の「7?21日」毎の添加間隔を適用すると、逆に添加間隔が長くなるから、引用発明7への甲2の技術手段の適用は考え難い。
以上から、両剤を併用する引用発明7に、両剤の併用について具体的に開示されない甲2の技術手段を適用できるための動機付けに欠けるものである。
vi)すると、上記相違点2(b)は実質的なものである。

(5)結言
以上から、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取り消されるべきものであるとはいえない。

3-1-2.本件発明2、3について
本件発明2、3は、それぞれ本件発明1を引用するから、本件発明1と同様に、本件発明2、3に係る特許は、同発明が、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取り消されるべきものであるとはいえない。

3-2.進歩性要件違反(甲第1号証を主引例とする場合)
3-2-1.本件発明1について
(1)甲第1号証の記載
(1ア)「【請求項1】水系水にハロゲン系酸化物を含む薬剤を添加して、該水系水の酸化力を、遊離残留塩素濃度に換算して0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持することを特徴とする水系水におけるスライム抑制方法。」
(1イ)「【0001】本発明は、冷却水系、冷温水系などの水系水において、各種微生物によるスライムの発生を抑制する水系水におけるスライム抑制方法に関する。」
(1ウ)「【0017】ここで、本発明で用いられるハロゲン系酸化物としては、各種次亜塩素酸塩、各種次亜臭素酸塩等の次亜ハロゲン酸塩、ハロゲン化イソシアヌル酸塩、ハロゲン化ヒダントインなどが挙げられるが、このうち、ハロゲン系酸化物として、次亜ハロゲン酸塩から1種類以上を選択し、この次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とからなるハロゲン系酸化物を含む薬剤を用いることにより(これらの併用によりいわゆる、安定化次亜ハロゲン酸塩が生成するとされる)、前記のような比較的低い酸化力濃度を長期間に亘り安定して得られるので、酸化力維持、あるいは、酸化力のチェックなどの手間やコストを大幅に省くことができる。」
(1エ)「【0022】本発明の水系水におけるスライム抑制方法は、さらにその特性を改良するなどの目的で、本発明の効果が損なわれない限り、例えば、・・・5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、・・・等のイソチアゾリン系化合物・・・などのスライム防止剤・・・を併用することができ、その場合も本発明に含まれる。」
(1オ)「【0036】一方、次亜塩素酸ナトリウム添加系の場合、酸化力が遊離残留塩素濃度として0.02mg/L?0.05mg/Lの範囲になるように薬剤を添加(実施例1)したが、実際にはばらつきが大きくなり、結果的に表3に示したように0.01mg/L以上0.09mg/L以下の範囲となってしまった。」
(1カ)「【0037】<実施例3>本州内に設置された冷却水系にて、安定化次亜臭素酸塩製剤(スルファミン酸ナトリウムを10%、次亜塩素酸ナトリウムを3.5%、臭化ナトリウムを5%含有する薬品)を、全残留塩素濃度として換算される水系水の酸化力が1.0mg/L以上2.0mg/L以下を維持するように添加して、6ヶ月間処理を行った。」
(1キ)「【0038】この期間中、遊離残留塩素として換算される水系水の酸化力は0.01mg/L以上0.04mg/L以下の範囲を維持し、冷却塔及び冷凍機熱交換部にスライムの付着は認められなかった。また、腐食状況の評価のために前記期間中、前記水系水に浸漬しておいた銅のテストピ-スにピッチングは認められなかった。」

(2)甲第1号証に記載された発明(引用発明1)
i)記載事項(1ア)から、甲1には、「水系水にハロゲン系酸化物を含む薬剤を添加して、該水系水の酸化力を、遊離残留塩素濃度に換算して0.01mg/L以上0.1mg/L未満の範囲に維持することを特徴とする水系水におけるスライム抑制方法。」に関する発明が記載されている。
ii)ここで、同(1イ)(1カ)(1キ)から、上記「スライム抑制方法」において対象となる「水系水」は、「冷却塔」の「冷却水」であるといえる。
iii)上記「スライム抑制方法」において添加される「ハロゲン系酸化物」は、同(1カ)(1ウ)から、「スルファミン酸ナトリウム」と「次亜塩素酸ナトリウム」から生成する「安定化次亜ハロゲン酸塩」である場合があるといえる。
そして、同(1カ)では「安定化次亜臭素酸塩製剤(スルファミン酸ナトリウムを10%、次亜塩素酸ナトリウムを3.5%、臭化ナトリウムを5%含有する薬品)」を添加するが、これも「安定化次亜ハロゲン酸塩」といえる(必要なら参考文献3【0004】を参照)ものであり、「全残留塩素濃度として換算される水系水の酸化力が1.0mg/L以上2.0mg/L以下を維持するように添加」されるものであり、酸化力を維持するためには添加処理が常時行われることを予定するものといえる。
iv)また、同(1オ)から、上記「スライム抑制方法」において添加される「ハロゲン系酸化物」が「次亜塩素酸ナトリウム」の場合には、「酸化力が遊離残留塩素濃度として0.02mg/L?0.05mg/Lの範囲になるように薬剤を添加(実施例1)」して酸化力を維持するようにしたが、「実際にはばらつきが大きく」なり「0.01mg/L以上0.09mg/L以下の範囲」になったのだから、「次亜塩素酸ナトリウム」の添加処理も常時行われることを予定するものといえる。
v)さらに、同(1エ)から、上記「スライム抑制方法」においては、スライム防止剤としての「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン」という「イソチアゾリン系化合物」による添加処理を、ハロゲン系酸化物を含む薬剤による処理に併用できるものである。
vi)以上の点を総合し、本件発明1の記載に則して整理すると、甲1には、「冷却塔の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物を含む薬剤による処理を常時行い、イソチアゾリン系化合物による処理を併用する、スライム抑制方法であって、
ハロゲン系酸化物を含む薬剤による処理が、次亜塩素酸ナトリウムを前記冷却水に添加し、前記冷却水の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.09mg/L以下の範囲に維持する処理、あるいは、スルファミン酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムから生成する安定化次亜ハロゲン酸塩を前記冷却水に添加し、前記冷却水の酸化力を全残留塩素濃度として換算される1.0mg/L以上2.0mg/L以下に維持する処理であり、
スライム防止剤としてのイソチアゾリン系化合物による処理が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物を前記冷却水に添加する処理である、
冷却塔の冷却水のスライム抑制方法。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されていると認められる。

(3)本件発明1と引用発明1との対比
i)本件特許の発明の詳細な説明の【0046】【0047】には、「本発明の開放循環冷却水系の処理方法の実施例」として、具体的に「ビル空調用冷却塔」の冷却水が記載されているところ、本件発明1の「開放循環冷却水系の冷却水」は「冷却塔」の冷却水を含むので、引用発明の「冷却塔の冷却水」は、本件発明1の「開放循環冷却水系の冷却水」に包含されるといえる。
ii)引用発明1の「イソチアゾリン系化合物」は「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択される」ものであり、本件発明1の「有機系殺菌剤」も「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」であるから、引用発明1の「イソチアゾリン系化合物」は、本件発明1の「有機系殺菌剤」にあたるので、本件発明1の「有機系殺菌剤による処理を2日間ないし30日間に1回行うこと」と、引用発明1の「イソチアゾリン系化合物による処理」は、「有機系殺菌剤による処理」を行う点で一致する。
iii)「有機系殺菌剤による処理」について、本件発明1では「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」を用いるのに対して、
引用発明1では「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」を用いるから、両者は「イソチアゾリン系化合物」を用いる点で一致する。
iv)参考4の【0014】には「結合塩素は、塩素安定剤と遊離塩素が結合することで生成」し、「塩素安定化剤」として「スルファミン酸化合物」が使用できること、同【0018】には「遊離塩素」を生成させる薬剤として「次亜塩素酸ナトリウム」が使用されることが記載されており、これらは周知技術といえる。
すると、引用発明1の「次亜塩素酸ナトリウム」は、本件発明1の「水中で遊離塩素を生成する物質」に相当し、引用発明1の「スルファミン酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムから生成する安定化次亜ハロゲン酸塩」は、本件発明1の「水中で結合塩素を生成する物質」に相当する。
v)すると、引用発明1の「ハロゲン系酸化物を含む薬剤による処理が、次亜塩素酸ナトリウムを前記冷却水に添加し、前記冷却水の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上0.09mg/L以下の範囲に維持する処理、あるいは、スルファミン酸ナトリウムと次亜塩素酸ナトリウムから生成する安定化次亜ハロゲン酸塩を前記冷却水に添加し、前記冷却水の酸化力を全残留塩素濃度として換算される1.0mg/L以上2.0mg/L以下に維持する処理」は、本件発明1の「前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で遊離塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持する処理、あるいは、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理」に包含されるといえる。
vi)参考1の【0002】に「バイオフィルムは生物膜やスライムとも言われ」ると記載されるように、「バイオフィルム」と「スライム」は同一物であることは周知技術である。
すると、本件発明1の「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制する開放循環冷却水系の処理方法」と、引用発明1の「冷却塔の冷却水のスライム抑制方法」とは、「バイオフィルムの付着を抑制する開放循環冷却水系の処理方法」である点で一致する。
vii)以上から、本件発明1と引用発明1とは、
「開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を常時行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を行うことで、バイオフィルムの付着を抑制する開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で遊離塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持する処理、あるいは、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理であり、
前記有機系殺菌剤による処理が、イソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系に添加する処理である、開放循環冷却水系の処理方法。」の点で一致し、次の点で相違する。

<相違点1>「開放循環冷却水系の処理方法」の目的について、本件発明1では「バイオフィルムの付着を抑制する」ことに加えて「レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長期間持続する」ものであるのに対して、引用発明1では「スライム抑制」以外の目的については明らかでない点。

<相違点2>「イソチアゾリン系化合物」の種類と、添加量、添加間隔について、
(a)添加される「イソチアゾリン系化合物」の種類に関して、本件発明1では、「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」を添加するのに対して、引用発明1では、「5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物」を添加する点。
(b)添加量と、添加間隔に関して、本件発明1では、「イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下」となるように「処理を7日間ないし30日間に1回行う」ように前記冷却水系に添加するのに対して、引用発明1では、添加濃度、添加時期については明らかでない点。

<相違点3>「開放循環冷却水系の冷却水」について、本件発明1では「ハロゲン系酸化物による単独処埋または有機系殺菌剤による単独処埋では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない」ものであるのに対して、引用発明1では不明である点。

<相違点4>「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制」した効果について、本件発明1では「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」ものであるのに対して、引用発明1では不明である点。

(4)相違点の検討
事案に鑑み相違点2(b)について検討する。
相違点2(b)は、甲第7号証を主引例(引用発明7)とする場合の相違点2(b)と同内容であるので、上記「3-1-1.(4)相違点の検討」の記載を援用する。
したがって、上記両剤を併用する引用発明1に、両剤の併用について具体的に開示されない甲2の技術手段を適用できるための動機付けに欠けるものである。
vi)すると、上記相違点2(b)は実質的なものである。

(5)結言
以上から、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取り消されるべきものであるとはいえない。

3-2-2.本件発明2、3について
本件発明2、3は、それぞれ本件発明1を引用するから、本件発明1と同様に、本件発明2,3に係る特許は、同発明が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術手段に基いて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえず、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない特許出願に対してされたものであるとはいえないから、取り消されるべきものであるとはいえない。

3-3.その余の甲各号証についての検討
(1)甲第3号証について
甲3は、「冷却塔・冷却水系のレジオネラ属菌対策」に関する非特許文献であり、「酸化剤は連続的に冷却水中に低濃度維持する。有機系殺菌剤は、一般的には衝撃添加とし、週1?3回の投入頻度とする」(表-7 水処理剤の種類)ことが記載されており、これは、開放循環冷却水系で、酸化剤を単独で使用する場合および有機系殺菌剤を単独で使用する場合の一般的な添加頻度を開示しているにすぎず、ハロゲン系酸化物による処理と有機系殺菌剤による処理を併用することについて示すものではない。

(2)甲第4号証について
甲4は、「冷却水系のレジオネラ症防止に関する手引き」という非特許文献であり、「表-1 レジオネラ属菌に対する代表的な殺菌剤とその有効濃度」に「イソチアゾリン化合物」が記載され、「有機系殺菌剤」の「投入間隔」は「一般的には2?7日である」こと(11頁、20頁)が記載されており、これは、イソチアゾリン化合物等の有機系殺菌剤を単独で使用する場合の一般的な添加頻度を開示しているにすぎず、ハロゲン系酸化物による処理と有機系殺菌剤による処理を併用することについて示すものではない。

(3)甲第5号証について
甲5は、「レジオネラ症防止指針」という非特許文献であり、「表3.4.7 レジオネラ属菌に対する代表的な殺菌剤とその有効濃度」に、「イソチアゾリン化合物」が記載され、「殺菌剤・・・を2?7日の間隔で保有水に対して設定した濃度の薬剤を一度に添加する」方法(86頁)が記載されており、これは、イソチアゾリン化合物等の殺菌剤を単独で使用する場合の一般的な添加頻度を開示しているにすぎず、ハロゲン系酸化物による処理と有機系殺菌剤による処理を併用することについて示すものではない。

(4)甲第6号証について
甲6は、「スライム防除方法及びスライム防除剤」に関する特許文献であり、酸化性抗菌剤(塩素剤等)を常時添加し、スライムセンサーにより判定して、スライム付着量が所定量に達したときにイソチアゾロン化合物(2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン、5-クロロー2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等)を添加する酸化性抗菌剤とイソチアゾロン化合物の併用処理が開示されている(【0004】?【0006】)。
しかし、甲6の上記処理では、スライム付着量が所定量に達したときにイソチアゾロン化合物を添加する処理であるため、イソチアゾロン化合物の添加前はスライムが存在することとなり、本件発明が処理の当初から「バイオフィルムの付着を抑制」するものとは異なる。
また、甲6には「レジオネラ属菌」の抑制については記載も示唆も見出せず、イソチアゾロン化合物の添加が間隔をあけて行われる旨の記載もなく、実施例1(7欄23-33行)、実施例2(10欄37-41行)には、「連続的に添加」することが記載されており、本件発明が「7日間ないし30日間に1回」添加するものであることとは異なる。
よって、甲6は、本件発明における「有機系殺菌剤」による処理を「7日間ないし30日間に1回行うことで、バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制」するものではない。

(5)甲第1?7号証について
以上から、甲第1?7号証の何れの記載を参酌しても、本件発明に想到し得るものではない。

3-4.記載不備について
取消理由として通知されなかったが、特許異議申立の理由として次の点が主張されているので検討する。
<特許異議申立人の主張の概要(特許異議申立書39-40頁)>
本件発明は、イソチアゾリン系化合物による処理を2日間ないし30日間に1回行うものであるが、この処理間隔の最大値を30日とする理由について本件特許明細書に説明がなく、上記期間が薬剤耐性菌や薬剤耐性をもった藻類を繁殖させない最適の頻度であるとする技術的な裏付けがない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものでなく、本件発明1ないし3に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
<当審の判断>
本件特許明細書【0039】には「本発明における有機系殺菌剤による処理はレジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制するために、30日間に1回以上行うことが必要である。」と記載され、これは「30日間」を越えた添加間隔では「有機系殺菌剤による処理」を行うと「レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制する」こと、「薬剤耐性菌や薬剤耐性をもった藻類を繁殖させない」ことができなくなることを意味すると解される。
そうであれば、本件特許明細書に、上記期間の技術的な意味は明示されており、なぜそのような技術的意味となるのかという作用機序までは開示されていないとしても、そのことをもって本件発明が実施不能であるとまではいえない。
よって、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明が記載されたものであり、本件発明1ないし3に係る本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものとはいえず、取り消されるべきものでない。

3-5.特許異議申立人の主張について
異議申立人は、平成29年2月3日付けの意見書において、概ね、次の点を主張している。

ア)本件特許権者は、平成28年12月2日付けで提出した意見書に添付された参考資料1の「追加試験結果」から、イソチアゾリン化合物の添加間隔を2,3日間に1回とする処理条件1での結果と、7日間以上の添加間隔となる処理条件2ないし4での結果を比較して、本件発明1の「7日間ないし30日間に1回」というイソチアゾリン化合物の添加間隔が、「2日間ないし30日間に1回」の添加間隔よりも、優れた効果を奏することを主張する。
しかしながら、当該効果に関する本件特許明細書の【0041】や【0050】をみても、本件発明1の「7日間ないし30日間に1回」が、「2日間ないし30日間に1回」の添加間隔の中で、他の添加間隔よりも特に優れた効果を奏することを確認することはできない。
そうであれば、参考資料1の「追加試験結果」は、本件特許明細書中に記載のない新たな効果を確認するものといえるから、これを採用して本件発明の効果を認定することは許されず、イソチアゾリン化合物の添加間隔について「2日間ないし30日間に1回」と「7日間ないし30日間に1回」との間に有意な効果の差異は認められない。

イ)本件特許権者は、「ハロゲン系酸化物」単独処理に対しても、「イソチアゾリン系化合物」単独処理に対しても、耐性を有するレジオネラ属菌又は他の菌や藻類が存在し、本件発明1は、そのような菌の発生を抑制し、繁殖を防止する効果が長時間持続するものであり、また、「ハロゲン系酸化物」と「イソチアゾリン系化合物」との共存時間が短時間であることで当該効果が奏されるものである旨を主張する。
しかし、本件特許明細書の記載や参考資料1の「追加試験結果」を参酌しても当該主張内容を確認できないし、両剤に耐性を有する菌の報告事例はないから、当該主張は、本件特許明細書の記載や参考資料1の「追加試験結果」、技術常識に基づくものでなく、採用されるべきでない。

これらの主張について検討する。

ア)について
異議申立人は、結局のところ、参考資料1の「追加試験結果」は採用できないので、イソチアゾリン化合物の添加間隔について「2日間ないし30日間に1回」と「7日間ないし30日間に1回」との間に有意な効果の差異は認められないから、上記容易想到性の推論の相違点2(b)の判断において、引用発明7の「1週間に2,3回」の割合を「7日間ないし30日間に1回」とすることは容易に成し得るものであると主張していると解される。
当該主張について検討する。
本件特許明細書【0024】には「ハロゲン系酸化物」の常時処理と共に「イソチアゾリン系化合物」を「有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように冷却水系に添加する処理を、2日間ないし30日間に1回行うことにより、少ない有機系殺菌剤の添加量で、レジオネラ属菌の殺菌、抑制効果を長期間、確実に得る」という効果が得られることが記載されている。
当該効果は、単に「イソチアゾリン系化合物」を継続的に或いは短い添加間隔で多量に添加すれば殺菌効果を奏するであろうという一般的な技術常識からは得られるものではないから、上記記載は、本件発明が一定量の同化合物を添加間隔を長くして添加することで上記効果が得られることを示すものといえる。
ここで、本件特許明細書には、添加間隔の下限を「2日間」と「7日間」とすることの間で何らかの効果に差違がある旨の明記はなく、上記技術常識に従えば添加間隔が長くなれば、より殺菌効果は減少するはずであるところ、上記【0024】の記載によれば、程度の差は不明だが、両者共に殺菌効果を奏し得るものと認められる。
そして、上記のような本件発明であれば、2日間から7日間未満の期間に「1回の割合」で「イソチアゾリン系化合物」による処理を行えば、7日間以上の期間をあけるよりも「イソチアゾリン系化合物」の消費量が多くなるのは当然で、「イソチアゾリン化合物」の添加間隔を「7日間ないし30日間に1回」とする方が、「2日間ないし30日間に1回」とするより「イソチアゾリン系化合物」の消費量を抑制できるという効果を奏することは、本件特許明細書中に明示の記載は無くとも明らかであり、また、「7日間」の添加間隔で上記効果の得られることは本件特許明細書【0050】【図1】に「処理条件3」の場合として実証されているものである。
そうであれば、「イソチアゾリン化合物」の添加間隔を「2日間ないし30日間に1回」から「7日間ないし30日間に1回」とすることの間に有意な効果の差違を認めることができ、それは、参考資料1の「追加試験結果」を待つまでもなく明らかである。
そして、そもそも、上記容易想到性の推論の相違点2(b)の判断においては、引用発明7は、イソチアゾロンの適切量を「1週間に2,3回」の割合で添加するものであるが、添加間隔を長くすれば「レジオネラ属菌の殺菌、抑制効果を長期間、確実に得」られる旨の開示は甲各号証に見いだせず、上記技術常識からすれば、添加間隔が長くなれば、より殺菌効果は減少するはずであることを勘案し、また、甲第2号証に記載の添加間隔(「7?21日」)は「ハロゲン系酸化物」の添加されない場合であって条件が適合せず、引用発明7に適用できないとして容易想到性を否定したものである。
それゆえ、「2日間ないし30日間に1回」と「7日間ないし30日間に1回」との間に有意な効果の差異はないことを根拠とする異議申立人の容易想到性の推論は採用できない。

イ)について
異議申立人は、結局のところ、本件発明1の「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長時間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」という効果について、「ハロゲン系酸化物」単独処理に対しても、「イソチアゾリン系化合物」単独処理に対しても、耐性を有するレジオネラ属菌又は他の菌や藻類が存在し、本件発明1は、そのような菌の発生を抑制し、繁殖を防止する効果が長時間持続するものであり、また、「ハロゲン系酸化物」と「イソチアゾリン系化合物」との共存時間が短時間であることで当該効果が奏されるものであるという主張は、本件特許明細書の記載に基づかないのだから、「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」ことは発明特定事項ではなく、したがって上記容易想到性の推論の相違点4の判断において、「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」ことを考慮することなく、引用発明7においても「その効果が長時間持続」するといえると主張していると解される。
当該主張について検討する。
まず、「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類」についてみるに、特許請求の範囲に記載された本件発明1では、「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長時間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」と特定されている。
ここで、「レジオネラ属菌」の薬剤耐性についてみると、「薬剤耐性菌」が「レジオネラ属菌」であるとは特定がないし、本件特許明細書には「ハロゲン系酸化物は、実験室での試験ではレジオネラ属菌に対して優れた殺菌作用を示すが、実際の開放循環冷却水系をハロゲン系酸化物で処理してみると、十分な殺菌、抑制効果が得られない場合が多く、驚くべきことに、遊離残留塩素濃度として2mg/Lを維持してもレジオネラ属菌を殺菌できない水系も存在する」(【0005】)と記載され、「レジオネラ属菌」が「バイオフィルム」内に残存し殺菌しきれない旨(【0007】等)も説明されるが、「レジオネラ属菌」自体が薬剤耐性が生じる旨の記載はない。
また、参考資料1の<参考>で「塩素系処理を行っている冷却塔水の357検体のうち、50%以上の検体にてレジオネラ属菌が検出された」(平成28年12月2日付け 特許権者の意見書3頁(c))とあるが、このことからは、「レジオネラ属菌」が「バイオフィルム」内に残存し殺菌しきれないことを理由とするものか、「レジオネラ属菌」自体が薬剤耐性を生じていることを理由とするものかは、直ちに判断できるものではない。
また、その他に「レジオネラ属菌」自体が薬剤耐性を生じるものであるという技術常識も認められないから、特許権者は「レジオネラ属菌自体がハロゲン系酸化物に対して耐性を持っている」(平成28年12月2日付け 特許権者の意見書3頁(c))と主張するが、本件発明1においては「レジオネラ属菌」は「薬剤耐性菌」であるとはただちにいえない。
また、「ハロゲン系酸化物の水系への添加を長期間継続すると、メチロバクテリウム等の塩素剤に対して強い耐性を持った細菌類が繁殖し、バイオフィルムを形成する恐れがある。」、「有機系の殺菌剤は耐性菌や耐性を持った藻類が繁殖しやすい」、「レジオネラ属菌の殺菌、抑制効果を長期間、確実に得ることができ、さらに、メチロバクテリウム等の塩素耐性菌の繁殖を効果的に抑えることが可能となる。」(【0006】、【0008】、【0024】)等の記載から、「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類」は、「ハロゲン系酸化物」単独処理、若しくは「イソチアゾリン系化合物」単独処理に対して、耐性を有する菌や藻類であることは明らかであり、両剤に耐性を有するものを想定しないことも明らかである。
したがって、本件発明1の個々の特定事項は本件特許明細書に記載されているものであり、本件発明1は、特定濃度の「ハロゲン系酸化物」による処理を「常時」行い、かつ、特定種類(イソチアゾリン化合物)で特定濃度の「有機系殺菌剤による処理を7日間ないし30日間に1回行う」ことで、「バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長時間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」という効果を奏するものであり、当該効果は、本件特許明細書の記載に基づくものといえる。
また、上記の容易想到性の判断では、相違点2(b)で容易想到で無いと判断したのであるから、その余の相違点である相違点4の判断が容易想到性の判断を左右するものとはいえない。
したがって、「薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える」ことは本件特許明細書の記載に基づかないものであることを根拠とする異議申立人の容易想到性の推論は採用できない。

なお、「ハロゲン系酸化物」と「イソチアゾリン系化合物」との共存時間が短時間であることで、両剤に耐性を有する菌の発生を抑制し、繁殖を防止する効果が長時間持続すること(以下、「効果X」という。)は、明細書の記載に基づかないものであるとの異議申立人の主張について以下に付言する。
両剤に耐性を有する菌について、甲第7号証の「表7.1」によれば、「総残留Cl_(2)が0.5?1.0mg/Lに制御された連続的酸化剤投与」と「1週間に3回、2mg/Lのイソチアゾロンを投与」する「プロトコルA」において、「従属栄養プレ-ト数が所定の制限値(例えば、>10^(5)CFU/mlまたは微生物の汚れが増加したことが目に見えて分かる場合)を越えた場合」に「プロトコルB」へ切換が行われことが記載され、これは、「ハロゲン系酸化物」と「イソチアゾリン系化合物」の併用である「プロトコルA」において「微生物の汚れ」の生じることを示しており、当該「微生物の汚れ」は上記「両剤に耐性を有する菌」であるといえるから、そのような菌は存在するものと思料される。
そして、参考資料1の「追加試験結果」からは、本件発明1の特定事項を満たす本件特許明細書【0050】【図1】に記載の「処理条件3」(添加間隔は「7日間」)と同様の実験条件で行われた処理条件2ないし4の結果として、「細菌類」からなる「付着物はほとんど認められなかった」とされているから、本件発明1であれば両剤に耐性を有する菌類の発生繁殖はないものといえる。
また、「短時間」については、「イソチアゾリン系化合物」添加間隔から見れば十分に短時間と考えられる両剤の共存時間であればよいと考えられるところ、特許権者は「数時間から十数時間」(意見書4頁 5.(2).イ.(B).(j))と説明しており、これは「7日間」の添加間隔から見れば「短時間」として首肯できるものである。
すると、参考資料1の「追加試験結果」からは、「細菌類」からなる「付着物はほとんど認められなかった」ものであるから、両剤に耐性を有する菌は本件発明1により抑制されるものといえる。
したがって、本件発明1は上記の効果Xを奏し得るものといえる。
しかしながら、本件発明1が効果Xを奏し得るものとしても、効果Xは、参考資料1の「追加試験結果」によりはじめて明らかになったものであり、本件特許明細書中に記載されるのは、例えばその実施例において「レジオネラ属菌」が抑制されることであって、本件発明1が両剤に耐性を有する菌を抑制できる効果を有する旨の開示は見いだせず、当該効果Xは本件特許明細書に記載されているものとは直ちにはいえない。
よって、異議申立人の上記主張は、これを否定するものではない。
しかし、上記効果Xが本件特許明細書に記載されていないとしても、そのことは、上記「第2 3.3-1.」、同「3-2.」でみたように、本件発明1の容易想到性の推論に影響するものではないから、異議申立人の上記主張は、本件発明1の容易想到性の推論において、これを参酌する必要を認めない。
以上から、異議申立人の主張は採用できない。

4.むすび
以上のとおりであるから、当審の取消理由によっては、本件発明1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン系酸化物による単独処理または有機系殺菌剤による単独処理では、レジオネラ属菌を確実に不検出レベルに殺菌、抑制することができない開放循環冷却水系の冷却水に対して、ハロゲン系酸化物による処理を常時行い、かつ、有機系殺菌剤による処理を7日間ないし30日間に1回行うことで、バイオフィルムの付着を抑制し、レジオネラ属菌を不検出レベルに殺菌、抑制し、その効果が長期間持続し、薬剤耐性菌および薬剤耐性を持った藻類の繁殖を抑える、開放循環冷却水系の処理方法であって、
前記ハロゲン系酸化物による処理が、水中で遊離塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を遊離残留塩素濃度として0.01mg/L以上1mg/L以下の範囲に維持する処理、あるいは、水中で結合塩素を生成する物質を前記冷却水に添加し、前記冷却水中の酸化力を全残留塩素濃度として1mg/L以上10mg/L以下の範囲に維持する処理であり、
前記有機系殺菌剤による処理が、5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンおよび2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンの混合物または2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンから選択されるイソチアゾリン系化合物を、前記冷却水系の保有水量に対する添加濃度が、該イソチアゾリン系化合物の有効成分濃度として1mg/L以上20mg/L以下となるように前記冷却水系に添加する処理であることを特徴とする開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項2】
前記水中で遊離塩素を生成する物質が、次亜ハロゲン酸塩、ハロゲン化イソシアヌル酸、ハロゲン化ヒダントインから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
【請求項3】
前記水中で結合塩素を生成する物質が、クロラミン類、及び、次亜ハロゲン酸塩とスルファミン酸塩とを反応させて得られる安定化次亜ハロゲン酸塩から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の開放循環冷却水系の処理方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-02-22 
出願番号 特願2014-124386(P2014-124386)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C02F)
P 1 651・ 536- YAA (C02F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 富永 正史  
特許庁審判長 新居田 知生
特許庁審判官 中澤 登
後藤 政博
登録日 2015-07-03 
登録番号 特許第5770891号(P5770891)
権利者 アクアス株式会社
発明の名称 開放循環冷却水系の処理方法  
代理人 瀧野 文雄  
代理人 瀧野 秀雄  
代理人 津田 俊明  
代理人 鳥野 正司  
代理人 瀧野 文雄  
代理人 津田 俊明  
代理人 福田 康弘  
代理人 鳥野 正司  
代理人 朴 志恩  
代理人 朴 志恩  
代理人 福田 康弘  
代理人 川崎 隆夫  
代理人 川崎 隆夫  
代理人 瀧野 秀雄  

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