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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  C08L
審判 一部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1326967
異議申立番号 異議2015-700192  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-11-13 
確定日 2017-02-09 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5729537号発明「下地剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5729537号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし11〕について訂正することを認める。 特許第5729537号の請求項1、4及び5に係る特許を維持する。 特許第5729537号の請求項2及び3に係る特許についての特許異議申立を却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5729537号の請求項1ないし11に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成22年9月14日の出願であって、平成27年4月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年11月13日付け(受理日:同年11月16日)で特許異議申立人 田嶋 順治(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし5)がされ、当審において平成28年1月20日付けで取消理由が通知され、同年3月22日付け(受理日:同年3月23日)で特許権者 東京応化工業株式会社及び国立研究開発法人理化学研究所(以下、「特許権者」という。)より意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年3月25日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、同年4月28日付け(受理日:同年5月2日)で特許異議申立人より意見書が提出され、同年6月16日付けで訂正拒絶理由が通知され、同年7月21日付け(受理日:同年7月22日)で特許権者より意見書及び手続補正書が提出され、同年9月30日付けで取消理由(決定の予告)(以下、「取消理由(決定の予告)」という。)が通知され、同年12月5日付け(受理日:同年12月6日)で特許権者より意見書が提出されるとともに訂正の請求がされ、同年12月8日付けで訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項)がされ、平成29年1月5日付け(受理日:同年1月6日)で特許異議申立人より意見書が提出されたものである。
なお、平成28年3月22日付け(受理日:同年3月23日)でされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

第2 訂正の適否について
1 訂正の内容
平成28年12月5日付け(受理日:同年12月6日)でされた訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)による訂正の内容は、次のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示すものである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「基板上に形成した複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を相分離させるために用いられる下地剤であって、
樹脂成分を含有し、該樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記ブロックコポリマーは、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
或いはアルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、のいずれかであることを特徴とする下地剤。」とあるのを、「基板上に形成した複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を相分離させるために用いられる下地剤であって、
樹脂成分を含有し、該樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記ブロックコポリマーは、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
或いはアルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、のいずれかであり、
前記樹脂成分が、エポキシ含有脂環式(メタ)クリレート由来の構成単位を含有せず、非芳香族環含有モノマー由来の構成単位を含有し、前記非芳香族環含有モノマーが、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルシクロヘキサン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、及びアリルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする下地剤。」に訂正する。
併せて、特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4ないし11についても、請求項1を訂正したことに伴う訂正をする。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に、
「前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及びノボラック樹脂の構成成分となるフェノール類からなる群から選ばれる請求項1?3のいずれか一項に記載の下地剤。」とあるのを、「前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及びノボラック樹脂の構成成分となるフェノール類からなる群から選ばれる請求項1に記載の下地剤。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に、
「更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、前記樹脂成分が、重合性基、及び/又は架橋性基を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の下地剤。」とあるのを、「更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、前記樹脂成分が、重合性基、及び/又は架橋性基を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。」に訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に、
「更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、かつ、重合性モノマーを含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の下地剤。」とあるのを、「更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、かつ、重合性モノマーを含有する請求項1又は4に記載の下地剤。」に訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に、
「更に、重合性モノマーを有するか、又は、前記樹脂成分が、重合性基を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の下地剤。」とあるのを、「更に、重合性モノマーを有するか、又は、前記樹脂成分が、重合性基を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。」に訂正する。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項9に、
「更に、露光により酸を発生する酸発生剤成分を含有し、前記芳香族環含有モノマー由来の構成単位が酸解離性溶解抑制基を含む請求項1?4のいずれか一項に記載の下地剤。」とあるのを、「更に、露光により酸を発生する酸発生剤成分を含有し、前記芳香族環含有モノマー由来の構成単位が酸解離性溶解抑制基を含む請求項1又は4に記載の下地剤。」に訂正する。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項10に、
「更に、感光剤を含有し、前記樹脂成分がノボラック樹脂を含有する請求項1?4のいずれか一項に記載の下地剤。」とあるのを、「更に、感光剤を含有し、前記樹脂成分がノボラック樹脂を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内か否か、特許請求の範囲の拡張・変更の存否及び独立特許要件

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明の発明特定事項である「樹脂成分」について、「前記樹脂成分が、エポキシ含有脂環式(メタ)クリレート由来の構成単位を含有せず、非芳香族環含有モノマー由来の構成単位を含有し、前記非芳香族環含有モノマーが、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルシクロヘキサン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、及びアリルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である」とさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項1は、願書に添付された明細書の段落【0038】及び【0053】並びに特許請求の範囲の【請求項2】に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。
さらに、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(2)訂正事項2及び3について
訂正事項2及び3は、訂正前の請求項2及び3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項2及び3は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(3)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正前の請求項4が、訂正前の請求項1ないし3を引用する記載であったのを、請求項2及び3を削除したことに伴い、請求項2及び3を引用しないものとするためのものであり、しかも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされた訂正後の請求項1を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(4)訂正事項5ないし9について
訂正事項5ないし9は、訂正前の請求項5、6、7、9及び10が、訂正前の請求項1ないし4を引用する記載であったのを、請求項2及び3を削除したことに伴い、請求項2及び3を引用しないものとするためのものであり、しかも、特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正がされた訂正後の請求項1を引用するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、訂正事項5ないし9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、変更するものではない。

(5)一群の請求項
本件訂正の請求による訂正は、訂正後の請求項1ないし11についての訂正であるが、訂正前の請求項2ないし11は訂正前の請求項1を引用するものであるので、訂正前の請求項1ないし11は、一群の請求項である。したがって、本件訂正の請求は、一群の請求項に対して請求されたものである。

(6)独立特許要件
請求項6ないし11は、特許異議の申立てがされていない請求項であるから、訂正後の請求項6ないし11に係る発明(以下、順に「訂正発明6」ないし「訂正発明11」という。)について、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件を満たすかどうかを、以下に検討する。

訂正後の請求項6ないし11は、訂正後の請求項1を引用するものであるから、まず、訂正後の請求項1に係る発明(以下、「訂正発明1」という。)について検討する。

a 甲1発明
取消理由(決定の予告)で引用した、本件出願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献である米国特許出願公開第2009/0179001号(特許異議申立書に添付された甲第1号証刊行物である。以下、「甲1」という。特に、甲1の段落[0027]、[0037]、[0047]ないし[0049]、[0057]及び[0075]ないし[0082]並びに特許異議申立書に添付された甲1の抄訳文を参照。)には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

「多種多様な表面に適合可能なエポキシ系架橋性配向制御材料から架橋された配向制御層の膜をつくるための方法、及び架橋された配向制御層上に配置されたマイクロドメインを形成するブロックコポリマーを含む層に形成されたマイクロドメインの配向を制御するための方法に用いる組成物であって、
前記組成物は、ブロックコポリマーのための中性表面を提供することができる、ポリ(スチレン-ランダム-エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート)などのエポキシ含有脂環式アクリルポリマーを含み、
前記ブロックコポリマーは、少なくとも2つのブロックが構造的に及び/又は組成的に同一ではなく、
ブロックは、ポリオレフィン(ポリジエンを含む)、ポリエーテル(ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(プロピレンオキシド)、ポリ(ブチレンオキシド)などのポリ(アルキレンオキシド)を含む)、又はこれらのランダム若しくはブロック共重合体;ポリ((メタ)アクリレート)、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオルガノシロキサン、ポリオルガノゲルマンなどを含むことができる、組成物。」

b 訂正発明1と甲1発明の対比・判断
訂正発明1と甲1発明とを対比する。
まず、甲1発明における「組成物」は、多種多様な表面に適合可能な配向制御層の膜を形成し、その上に配置されたブロックコポリマーを含む層のマイクロドメインの配向を制御するために用いるのに対し、訂正発明1における「下地剤」も、基板上に形成した複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を相分離させるために用いるものであり、機能が共通するものである。よって、甲1発明における「組成物」は、訂正発明1における「下地剤」に相当する。
また、甲1発明における「ポリ(スチレン-ランダム-エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート)などのエポキシ含有脂環式アクリルポリマー」は、架橋された配向制御層を形成するものであるから、訂正発明1における「樹脂成分」に相当し、かつ、スチレンを含むものであるから、訂正発明1における「芳香族環含有モノマー由来の構成単位」を含有するものである。
さらに、甲1発明における「ブロックコポリマー」は、具体例として、ポリスチレンとポリ((メタ)アクリレート)との共重合体を用いているから(段落[0079]?[0081]を参照。)、訂正発明1における「スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー」に相当する。
したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。

(一致点)
「基板上に形成した複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を相分離させるために用いられる下地剤であって、
樹脂成分を含有し、樹脂成分全体の構成単位として芳香族環含有モノマー由来の構成単位を含有し、
前記ブロックコポリマーは、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、である、下地剤。」

(相違点1)
樹脂成分の構成単位について、訂正発明1においては、20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であるのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。

(相違点2)
ブロックコポリマーについて、訂正発明1においては、スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、或いはアルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、のいずれかを選択肢として含むのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。

(相違点3)
「樹脂成分」について、訂正発明1においては、「前記樹脂成分が、エポキシ含有脂環式(メタ)クリレート由来の構成単位を含有せず、非芳香族環含有モノマー由来の構成単位を含有し、前記非芳香族環含有モノマーが、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルシクロヘキサン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、及びアリルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種である」とされているのに対し、甲1発明においては、そのような特定がない点。

まず、相違点3について検討する。
甲1発明における「組成物」は「ポリ(スチレン-ランダム-エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート)などのエポキシ含有脂環式アクリルポリマー」を必須成分として含むものである。また、甲第1号証には、「エポキシ含有脂環式(メタ)クリレート由来の構成単位を含有」しない「組成物」が使用できることは記載も示唆もされていない。
したがって、相違点3は実質的な相違点である。
そして、甲1発明において、必須成分である「ポリ(スチレン-ランダム-エポキシジシクロペンタジエニルメタクリレート)などのエポキシ含有脂環式アクリルポリマー」を含有しないようにする動機付けはなく、甲1発明において、相違点3に係る訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

よって、相違点1及び2について検討するまでもなく、訂正発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

c 訂正発明6ないし11について
次に、訂正発明6ないし11について検討する。
訂正発明6ないし11は、訂正後の請求項1を引用するものであって、訂正発明1をさらに限定するものであるから、訂正発明1と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
また、訂正後の請求項1ないし11には、不明確な記載はなく、訂正発明6ないし11は、明確でないとはいえない。
さらに、他に訂正発明6ないし11が特許を受けることができないものであるとする理由も発見しない。

d まとめ
上記のとおり、訂正発明6ないし11は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。
また、本件出願は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないものではない。
さらに、他に訂正発明6ないし11が特許を受けることができないものであるとする理由も発見しない。
したがって、訂正発明6ないし11は、特許出願の際独立して特許を受けることができるものである。

(7)むすび
以上のとおり、訂正事項1ないし9は、特許法120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものである。
また、本件訂正の請求は、一群の請求項ごとに請求された訂正であるから、同法第120条の5第4項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1ないし9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、訂正後における特許請求の範囲の請求項6ないし11に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるので、同法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5ないし7項の規定に適合する。

したがって、本件訂正の請求は適法なものであり、訂正後の請求項1ないし11について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件特許発明
上記第2のとおり、訂正後の請求項1ないし11について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1ないし5に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明5」という。)は、平成28年12月5日付け(受理日:同年12月6日)で提出された訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
基板上に形成した複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を相分離させるために用いられる下地剤であって、
樹脂成分を含有し、該樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記ブロックコポリマーは、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
或いはアルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、のいずれかであり、
前記樹脂成分が、エポキシ含有脂環式(メタ)クリレート由来の構成単位を含有せず、非芳香族環含有モノマー由来の構成単位を含有し、前記非芳香族環含有モノマーが、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルシクロヘキサン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、及びアリルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする下地剤。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及びノボラック樹脂の構成成分となるフェノール類からなる群から選ばれる請求項1に記載の下地剤。
【請求項5】
更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、前記樹脂成分が、重合性基、及び/又は架橋性基を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。」

2 取消理由(決定の予告)の概要
取消理由(決定の予告)の概要は次のとおりである。

「本件特許発明1ないし5は、甲1発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、または、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1ないし5に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。」

3 取消理由(決定の予告)についての判断
(1)甲1発明
甲1発明は、上記第2 2(6)aのとおりである。

(2)対比・判断
ア 本件特許発明1
本件特許発明1は、上記第2 2(6)で検討した訂正発明1である。
したがって、上記第2 2(6)bのとおり、本件特許発明1は、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

イ 本件特許発明4及び5
本件特許発明4及び5は、訂正後の請求項1を引用するものであり、本件特許発明1をさらに限定した発明であるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明ではないし、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

4 むすび
したがって、本件特許発明1、4及び5は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものではないし、特許法29条第2項の規定により、特許を受けることができないものでもない。

第4 結語
上記第3のとおりであるから、取消理由(決定の予告)によっては、請求項1、4及び5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、4及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2及び3は、訂正により削除されたため、請求項2及び3に対して、特許異議申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成した複数種類のポリマーが結合したブロックコポリマーを含む層を相分離させるために用いられる下地剤であって、
樹脂成分を含有し、該樹脂成分全体の構成単位のうち20モル%?80モル%が芳香族環含有モノマー由来の構成単位であり、
前記ブロックコポリマーは、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
スチレン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとシロキサン又はその誘導体を構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、
或いはアルキレンオキシドを構成単位とするポリマーと(メタ)アクリル酸エステルを構成単位とするポリマーとを結合させたブロックコポリマー、のいずれかであり、
前記樹脂成分が、エポキシ含有脂環式(メタ)クリレート由来の構成単位を含有せず、非芳香族環含有モノマー由来の構成単位を含有し、前記非芳香族環含有モノマーが、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、ビニルシクロヘキサン、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、及びアリルトリメトキシシランからなる群から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする下地剤。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記芳香族環含有モノマーが、ビニル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、(メタ)アクリロイル基を有する炭素数6?18の芳香族化合物、及びノボラック樹脂の構成成分となるフェノール類からなる群から選ばれる請求項1に記載の下地剤。
【請求項5】
更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、前記樹脂成分が、重合性基、及び/又は架橋性基を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。
【請求項6】
更に、カチオン重合開始剤、及びラジカル重合開始剤からなる群から選ばれる少なくとも1つを含有し、かつ、重合性モノマーを含有する請求項1又は4に記載の下地剤。
【請求項7】
更に、重合性モノマーを有するか、又は、前記樹脂成分が、重合性基を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。
【請求項8】
更に、熱重合触媒を含有する請求項7に記載の下地剤。
【請求項9】
更に、露光により酸を発生する酸発生剤成分を含有し、前記芳香族環含有モノマー由来の構成単位が酸解離性溶解抑制基を含む請求項1又は4に記載の下地剤。
【請求項10】
更に、感光剤を含有し、前記樹脂成分がノボラック樹脂を含有する請求項1又は4に記載の下地剤。
【請求項11】
前記感光剤が、1,2-ナフトキノンジアジド-4-スルホニル基、又は1,2-ナフトキノンジアジド-5-スルホニル基を有するキノンジアジド化合物である請求項10に記載の下地剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-01-31 
出願番号 特願2010-205875(P2010-205875)
審決分類 P 1 652・ 113- YAA (C08L)
P 1 652・ 121- YAA (C08L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 勇  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 守安 智
加藤 友也
登録日 2015-04-17 
登録番号 特許第5729537号(P5729537)
権利者 国立研究開発法人理化学研究所 東京応化工業株式会社
発明の名称 下地剤  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 五十嵐 光永  
代理人 鈴木 三義  
代理人 志賀 正武  
代理人 鈴木 三義  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 棚井 澄雄  

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