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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F04D
審判 全部申し立て 1項2号公然実施  F04D
審判 全部申し立て 1項1号公知  F04D
管理番号 1326991
異議申立番号 異議2016-701056  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-11-16 
確定日 2017-04-07 
異議申立件数
事件の表示 特許第5919745号発明「真空ポンプ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5919745号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5919745号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成23年11月15日に特許出願され、平成28年4月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人プファイファー・ヴァキューム・ゲーエムベーハーにより特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5919745号の請求項1?5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として、以下(1)?(16)に示す甲第1?16号証を提出し、請求項1、4、5の特許に係る発明は、甲第1?11、15?16号証より、特許法第29条第1項第1号又は第2号に規定された発明に該当し、請求項1、4、5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものであり、請求項1?5に係る特許は、甲第1?16号証より、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものであると主張している(異議申立書「4.(5)」(第20頁)等参照。)。

(1)甲第1号証:ターボ分子ポンプHiPace300(品番PMP 03 990)図面
(2)甲第2号証:ターボ分子ポンプHiPace300(品番PMP 03 990)部品表
(3)甲第3号証:ボールベアリング(品番PM 143 031)図面
(4)甲第4号証:浮動リング(品番PM 053 690)図面
(5)甲第5号証:浮動リング(品番PM 103 146)図面
(6)甲第6号証:浮動リング(品番PM 093 998)図面
(7)甲第7号証:HiPace300の納品書及び請求書1(No.459812、No.562924)
(8)甲第8号証:HiPace300の納品書及び請求書2(No.464714、No.567753)
(9)甲第9号証:HiPace300の納品書及び請求書3(No.471739、No.575109)
(10)甲第10号証:HiPace300の納品書及び請求書4(No.473810、No.577029)
(11)甲第11号証:宣誓供述書
(12)甲第12号証:特開2008-121889号公報
(13)甲第13号証:特表2008-542628号公報
(14)甲第14号証:特開2006-57653号公報
(15)甲第15号証:浮動リングの計測結果
(16)甲第16号証:浮動リング(品番PM 103 092)図面

4.判断
(1)請求項1に対する特許法第29条第1項について
甲第1?11、15?16号証は、ターボ分子ポンプHiPace300に関する証拠である。
甲第11号証には、(a)ターボ分子ポンプHiPace300が2011年以前には、製造、販売、納入されていたこと、(b)制振リング(PM 053 690A)は組み付けに先立ち72時間オイル中に置かれ、内直径が拡大すること、(c)組み付け状態ではターボ分子ポンプHiPace300の内部において、ボールベアリング(PM 140 031)の外輪と制振リング(PM 053 690A)との間に隙間が残されること、(d)ターボ分子ポンプHiPace300の運転中にこの隙間はオイルで充填され、ごく軽微な振動は、隙間内にあるオイルだけを押し退け、それよりも強い振動は弾性制振リングによって減衰されること、等が宣誓供述されている。
しかし、甲第11号証に示された上記供述事項(a)?(d)のうち供述事項(b)?(d)については、これらの供述事項を裏付ける他の客観的な証拠が示されておらず、供述事項(b)?(d)が本件特許出願前に公然に知られていた又は公然に実施されていた事項であると認めることはできない。

仮に、供述事項(b)のように、制振リング(PM 053 690A)は組み付けに先立ち72時間オイル中に置かれ、内直径を拡大させることが行われていたとしても、ターボ分子ポンプHiPace300内で制振リング(PM 053 690A)が配置される部分(ベアリングハウジング60)の内径寸法が示されていないから、ターボ分子ポンプHiPace300のベアリングハウジング60内にボールベアリング(PM 140 031)と制振リング(PM 053 690A)が配置されたとき、制振リング(PM 053 690A)の外周がベアリングハウジング60によって径方向内側に向かって押され、その結果、制振リング(PM 053 690A)の内直径が小さくなり、上記隙間が消失する可能性を排除することができない。したがって、供述事項(c)をそのとおりに認めることはできない。
仮に、供述事項(c)のように、組み付け状態ではターボ分子ポンプHiPace300の内部において、ボールベアリング(PM 140 031)の外輪と制振リング(PM 053 690A)との間に隙間が残されるものであったとしても、組み付け後のこの隙間にオイルを充填することは、甲第11号証以外の各証拠には示されておらず、また、仮に、オイルを充填するものであったとしても、その充填するオイルが制振リング(PM 053 690A)の内直径を拡大させる作用のあるTL011(甲第15号証参照)又はその同等品であることが提出された各証拠には示されておらず、また、ターボ分子ポンプHiPace300の運転中継続的にこの隙間をオイルで充填したものとするためには、オイルが充填される空間からオイルが漏れ出ないようにするためにシールを設ける、又は、漏れ出たオイルに相当する量のオイルを継続的に補充する等の対策を講じる必要があることが技術常識であるところ、提出された各証拠にはそのような対策を講じることについて示されていない。そうすると、供述事項(d)をそのとおりに認めることはできない。

そうすると、甲第1?11、15?16号証から把握されるターボ分子ポンプHiPace300は、仮に、2011年以前に、製造、販売、納入されていたものであったとしても、請求項1に係る発明における、
「前記弾性部材は、隙間を介して前記外輪の外周を囲むように設けられたリング状の弾性部材であって、
少なくとも前記隙間にオイルまたはグリスが注入されており、
前記外輪が径方向へ振動すると隙間に注入されているオイルまたはグリスのみがダンパとして作用し、前記外輪の径方向への振動が大きい際にはオイルまたはグリスに加えて前記弾性部材もダンパとして機能する」
との構成を有していたものと認めることはできない。
したがって、請求項1に係る発明は、本件特許出願前に公然に知られた発明、又は、公然に実施された発明であるとは言えない。

(2)請求項1に対する特許法第29条第2項について
(2-1)甲第1?11、15?16号証について
上記(1)に示したとおり、甲第1?11、15?16号証から把握される発明は、仮に、2011年以前に、製造、販売、納入されていたものであったとしても、請求項1に係る発明における、
「前記弾性部材は、隙間を介して前記外輪の外周を囲むように設けられたリング状の弾性部材であって、
少なくとも前記隙間にオイルまたはグリスが注入されており、
前記外輪が径方向へ振動すると隙間に注入されているオイルまたはグリスのみがダンパとして作用し、前記外輪の径方向への振動が大きい際にはオイルまたはグリスに加えて前記弾性部材もダンパとして機能する」
との構成を有していたものと認めることはできない。

(2-2)甲第12号証について
本件特許出願前に公開された刊行物である甲第12号証には、転がり軸受の外輪20をラジアル遊動リング19で遊動可能に支持したターボ分子真空ポンプが記載されている(段落0016、図2等参照)。しかし、図2にラジアル遊動リング19と外輪20が接している状態が記載されているように、甲第12号証には、ラジアル遊動リング19と外輪20との間に隙間が存在することは記載されていない。

(2-3)甲第13号証について
本件特許出願前に公開された刊行物である甲第13号証には、転がり軸受64を半径方向と軸線方向の両方に支持するための弾性支持体80を備えるターボ分子真空ポンプであって、当該弾性支持体80に設けられた複数のスロット82内に潤滑剤が供給される、ターボ分子真空ポンプが記載されている(段落0026、0033、図4、5等参照)。しかし、図5に転がり軸受64と弾性支持体80が接している状態が記載されているように、甲第13号証には、転がり軸受64と弾性支持体80の間に隙間を設けることは記載されていない。

(2-4)甲第14号証について
本件特許出願前に公開された刊行物である甲第14号証には、転がり軸受のアウターレース14をハウジング15に設けられた格納孔16において弾性的に支持するばね17が記載されており、格納孔16とアウターレース14の外周壁が作る空間18に、潤滑油あるいは潤滑グリースが供給されることが記載されている(段落0018?0022、図1?3等参照)。アウターレース14の外周壁とばね17の弾性梁22の間に隙間が存在するものの、アウターレース14の外周壁とばね17はスリット21の部分で接しており(段落0020、図1等参照)、アウターレース14が径方向へ振動した場合、常に潤滑油とばね17がダンパとして機能するものであると言える。また、甲第14号証には、転がり軸受をどのような機器に適用するかについては記載されていない。

(2-5)判断
上記(2-1)?(2-3)に示したとおり、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明は、甲第13号証に記載された発明は、いずれも、ボールベアリングの外輪と弾性部材の間に隙間を有するものではない。
また、上記(2-4)に示したとおり、甲第14号証には、アウターレース14の外周壁とばね17の弾性梁22の間に隙間が存在するものが記載されているものの、アウターレース14の外周壁とばね17はスリット21の部分で接しており(段落0020、図1等参照)、アウターレース14が径方向へ振動した場合、常に潤滑油とばね17の両方がダンパとして機能するものであると言える。そうすると、甲第14号証に記載された隙間は、請求項1に係る発明における「前記外輪が径方向へ振動すると隙間に注入されているオイルまたはグリスのみがダンパとして作用」するものであるとは言えない。
したがって、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明に対し、甲第14号証に記載されたばね17の構成を適用して隙間を設けたとしても、その隙間は請求項1に係る発明における「前記外輪が径方向へ振動すると隙間に注入されているオイルまたはグリスのみがダンパとして作用」するものとはならないから、本願の請求項1に係る発明とすることはできない。
また、他に、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明において、ボールベアリングの外輪と弾性部材の間に隙間を設けるようにすることが容易であるとする証拠は無い。
したがって、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明、及び、甲第14号証に記載された発明に基づいて、本願の請求項1に係る発明を想到することが容易であると言うことはできない。
なお、異議申立人は、異議申立書の「4.(4)カ.(b)」(第17頁)において、甲第13号証の弾性支持体80の中に形成されているスロット82を、弾性支持体80のどこに形成するかは当業者が適宜選択し得る設計的事項である旨の主張をしており、仮にスロット82を弾性支持体80の内周側外部に移動して形成すれば、請求項1に係る発明のように、ボールベアリングの外輪と弾性部材の間に隙間が存在する構成となり得るが、甲第13号証の「弾性支持部材80は、弾性支持体80の複数の一体の可撓性部材84を構成する複数のスロット82を含む。各可撓性部材84は、弾性支持体80の内側環状部分86と弾性支持体80の外側環状部分88との間に配置される。」(段落0026)との記載を踏まえれば、上記スロット82を弾性支持体80の外部に移動させることは想定し得ないから、異議申立人の主張は採用できない。

(3)請求項2?3に係る発明について
請求項2?3に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに減縮したものであるから、上記(2)に示した請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明、及び、甲第14号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(4)請求項4に係る発明について
請求項4に係る発明は、請求項1に係る発明をさらに減縮したものであるから、上記(1)及び(2)に示した請求項1に係る発明についての判断と同様の理由により、本件特許出願前に公然に知られた発明又は公然に実施された発明であるとは言えず、また、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明、及び、甲第14号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

(5)請求項5に係る発明について
請求項5に係る発明は、請求項1に係る発明から「永久磁石式磁気軸受」との構成を省いた以外は、請求項1に係る発明と同一である。
そうすると、上記(1)及び(2)に示した請求項1に係る発明についての判断と同様の理由が成り立つ。
したがって、請求項5に係る発明は、本件特許出願前に公然に知られた発明又は公然に実施された発明であるとは言えず、また、甲第1?11、15?16号証から把握される発明、甲第12号証に記載された発明、甲第13号証に記載された発明、及び、甲第14号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得たものではない。

5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-28 
出願番号 特願2011-249507(P2011-249507)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (F04D)
P 1 651・ 112- Y (F04D)
P 1 651・ 111- Y (F04D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 田谷 宗隆  
特許庁審判長 久保 竜一
特許庁審判官 松永 謙一
藤井 昇
登録日 2016-04-22 
登録番号 特許第5919745号(P5919745)
権利者 株式会社島津製作所
発明の名称 真空ポンプ  
代理人 篠原 淳司  
代理人 中村 真介  
代理人 鍛冶澤 實  
代理人 江口 裕之  
代理人 喜多 俊文  
代理人 江崎 光史  
代理人 清田 栄章  

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