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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
管理番号 1326999
異議申立番号 異議2017-700001  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-01-04 
確定日 2017-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第5940730号発明「結晶化高分子フィルム及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5940730号の請求項1ないし12に係る特許を維持する。 
理由 第1 主な手続の経緯
特許第5940730号の請求項1ないし12に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、平成26年7月17日(優先権主張平成25年7月19日)に特許出願され、平成28年5月27日に設定登録され、その後、平成29年1月4日に特許異議申立人久門享(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし12に係る発明(以下、「本件特許発明1」ないし「本件特許発明12」という。総称して、「本件特許発明」という場合がある。)は、特許請求の範囲の請求項1ないし12に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
重量平均分子量が5万?100万であり結晶化が最速となる温度での半結晶化時間が180秒?900秒の範囲内である高分子(A)を含み、
DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、
JIS-K7105に準拠して25℃で全ヘイズ及び内部ヘイズをそれぞれ測定したときに、前記全ヘイズと前記内部ヘイズとの差が0.8%以下であり、
JIS-K-7127に準拠してTD方向の引張弾性率(TD)及びMD方向の引張弾性率(MD)をそれぞれ測定したときに、前記引張弾性率(TD)及び前記引張弾性率(MD)のうち、最小の引張弾性率をEmin、最大の引張弾性率をEmaxとし、
前記Eminに対する前記Emaxの比が、1.50?2.30であり、
前記高分子(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、結晶化高分子フィルム。
【化1】

【請求項2】
前記全ヘイズが40%以下である、請求項1に記載の結晶化高分子フィルム。
【請求項3】
前記内部ヘイズが20%以下であり、且つ、25℃において応力-電荷法で測定した圧電定数d_(14)が1pC/N以上である、請求項1又は請求項2に記載の結晶化高分子フィルム。
【請求項4】
前記内部ヘイズが1%以下である、請求項1?請求項3のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルム。
【請求項5】
前記高分子(A)は、光学純度が95.00%ee以上である、請求項1?請求項4のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルム。
【請求項6】
前記高分子(A)の含有量が、80質量%以上である、請求項1?請求項5のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルム。
【請求項7】
請求項1?請求項6のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルムの製造方法であって、
前記高分子(A)を含むフィルムを準備する準備工程と、
前記フィルムの主面と、離型性を示す表面を有する加熱部材の該表面と、を接触させて前記フィルムを下記式(a)を満たす温度T(℃)で加熱することにより前記結晶化高分子フィルムを得る結晶化工程と、
を有し、
前記加熱部材の前記表面は、最大高さRzが0.20μm以上である、結晶化高分子フィルムの製造方法。
式(a):Tg+30<T<Tm-20
[式(a)において、TgはDSC法により測定された、高分子(A)のガラス転移温度(℃)を表し、Tmは高分子(A)の融点を表す。]
【請求項8】
前記加熱部材が、前記主面と接触しフッ素樹脂を含む表面層を有する、請求項7に記載の結晶化高分子フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記加熱部材の前記表面は、算術平均粗さRaが0.05μm以上である、請求項7又は請求項8に記載の結晶化高分子フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記準備工程は、前記高分子(A)を含み主として1軸方向に延伸されたフィルムを準備する、請求項7?請求項9のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記準備工程は、前記高分子(A)を含む予備結晶化フィルムを準備する、請求項7?請求項10のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記準備工程は、前記高分子(A)を含む予備結晶化フィルムを得る工程と、前記予備結晶化フィルムを主として1軸方向に延伸する工程と、を有する、請求項7?請求項11のいずれか1項に記載の結晶化高分子フィルムの製造方法。」

第3 特許異議申立の理由の概要
1 特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証(国際公開第2013/054918号)、甲第2号証(国際公開第2013/089148号)を提出して、本件特許発明1ないし6は、甲第1、2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものである。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである(以下、「理由1」という。)。

2 特許異議申立人は、証拠として、甲第1号証、甲第2号証、甲第3号証(特開2009-249443号公報)、甲第4号証(特開平11-77840号公報)及び甲第5号証(特開平6-210719号公報)を提出して、本件特許発明1ないし12は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第5号証に記載された事項に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるものである(以下、「理由2」という。)。

3 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「理由3」という。)。

4 本件特許は、特許請求の範囲の記載が以下の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである(以下、「理由4」という。)。

第4 甲各号証の記載及び同各号証に記載された発明
1 甲第1号証の記載
甲第1号証には、「高分子圧電材料、およびその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。

ア 「[請求項1] 重量平均分子量が5万?100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200?60000の安定化剤(B)とを含み、
DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、
前記脂肪族系ポリエステル(A)100重量部に対して前記安定化剤(B)が0.01重量部?10重量部含まれる、高分子圧電材料。」

イ 「[請求項8] 前記脂肪族系ポリエステル(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、請求項1に記載の高分子圧電材料。
[化1]




ウ 「[0112]〔透明性(内部ヘイズ)〕
高分子圧電材料の透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。
高分子圧電材料は、可視光線に対する内部ヘイズが40%以下であることが好ましい。ここで内部ヘイズは、厚さ0.03mm?0.05mmの高分子圧電材料に対して、JIS-K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC-HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、20%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。更に、高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下が好ましく、1.0%以下が特に好ましい。
また、高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.0%?40%であることが好ましく、0.01%?20%であることがさらに好ましく、0.01%?5%がさらに好ましく、0.01%?2.0%がさらに好ましく、0.01%?1.0%が特に好ましい。 なお、本願でいう「内部ヘイズ」とは、本発明の高分子圧電材料の内部へイズをいう。内部へイズとは、実施例において後述するように前記高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。」

エ 「〔実施例1〕
三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H-400(重量平均分子量Mw:20万)を押出成形機ホッパーに入れて、220?230℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させ厚さ230μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ4%であった。
得られた予備結晶化シートを80℃に加熱しながら、テンター方式でTD方向に3.0倍(主延伸)、ロールツーロール方式でMD方向に2.0倍(副次的延伸)まで同時2軸延伸を行い、フィルムを得た(延伸工程)。
前記延伸工程の後のフィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に接触させアニール処理し、急冷して、高分子圧電材料を作製した(アニール処理工程)。なお、前記急冷は、アニール処理後のフィルムを20℃?30℃の大気に接触させ、さらにフィルム巻取機の金属ロールに接触させることにより、フィルム温度を急速に室温近傍に降温させることによって行った。」

オ 「[表1]



2 甲第1号証に記載された発明
上記記載事項を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。

「重量平均分子量が5万?100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)と、カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200?60000の安定化剤(B)とを含み、
DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、
前記脂肪族系ポリエステル(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、高分子圧電材料から製造されたフィルム。
[化1]



3 甲第2号証の記載
甲第2号証には、「高分子圧電材料、およびその製造方法」に関して、次の事項が記載されている。

カ 「[請求項1] 重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が25?250である、高分子圧電材料。」

キ 「[請求項6] 前記ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、請求項1に記載の高分子圧電材料。
[化1]



ク 「[0033] ポリ乳酸系高分子は、市販のポリ乳酸を用いてもよい。市販のポリ乳酸としては、例えば、PURAC社製のPURASORB(PD、PL)、三井化学社製のLACEA(H-100、H-400)、NatureWorks社製Ingeo4032D、4043D等が挙げられる。」

ケ 「[0053]〔透明性(内部ヘイズ)〕
高分子圧電材料の透明性は、例えば、目視観察やヘイズ測定により評価することができる。
高分子圧電材料は、可視光線に対する内部ヘイズが40%以下であることが好ましい。ここで内部ヘイズは、厚さ0.03mm?0.05mmの高分子圧電材料に対して、JIS-K7105に準拠して、ヘイズ測定機〔(有)東京電色製、TC-HIII DPK〕を用いて25℃で測定したときの値であり、測定方法の詳細は実施例において詳述する。
高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、20%以下であることがより好ましく、5%以下であることが更に好ましい。更に、高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、縦裂強度をより向上させる観点からは、2.0%以下が好ましく、1.0%以下が特に好ましい。
また、高分子圧電材料の前記内部ヘイズは、低ければ低いほどよいが、圧電定数などとのバランスの観点からは、0.0%?40%であることが好ましく、0.01%?20%であることがさらに好ましく、0.01%?5%がさらに好ましく、0.01%?2.0%がさらに好ましく、0.01%?1.0%が特に好ましい。
なお、本願でいう「内部ヘイズ」とは、本発明の高分子圧電材料の内部へイズをいう。内部へイズとは、実施例において後述するように前記高分子圧電材料の外表面の形状によるヘイズを除外したヘイズである。」

コ 「〔実施例1〕
三井化学(株)製ポリ乳酸系樹脂(登録商標LACEA、H-400(重量平均分子量Mw:20万)を押出成形機ホッパーに入れて、220?230℃に加熱しながらTダイから押し出し、50℃のキャストロールに0.3分間接触させ厚さ230μmの予備結晶化シートを製膜した(予備結晶化工程)。前記予備結晶化シートの結晶化度を測定したところ4%であった。 得られた予備結晶化シートを80℃に加熱しながら、テンター方式でTD方向に3.0倍(主延伸)、ロールツーロール方式でMD方向に2.0倍(副次的延伸)まで同時2軸延伸を行い、フィルムを得た(延伸工程)。 前記延伸工程の後のフィルムを、ロールツーロールで、145℃に加熱したロール上に接触させアニール処理し、急冷して、高分子圧電材料を作製した(アニール処理工程)。なお、前記急冷は、アニール処理後のフィルムを20℃#30℃の大気に接触させ、さらにフィルム巻取機の金属ロールに接触させることにより、フィルム温度を急速に室温近傍に降温させることによって行った。」

サ 「[表1]



4 甲第2号証に記載された発明
上記記載事項を総合すると、甲第2号証には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されている。

「重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子を含み、DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、かつ、マイクロ波透過型分子配向計で測定される基準厚さを50μmとしたときの規格化分子配向MORcと前記結晶化度との積が25?250であり、
前記ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、請求項1に記載の高分子圧電材料から製造されたフィルム。
[化1]



第5 対比
1 本件特許発明1と引用発明1とを対比すると、引用発明1の「重量平均分子量が5万?100万で光学活性を有する脂肪族系ポリエステル(A)」は、本件特許発明1の「重量平均分子量が5万?100万であり結晶化が最速となる温度での半結晶化時間が180秒?900秒の範囲内である高分子(A)」と「重量平均分子量が5万?100万である高分子(A)」の限りで相当し、同様に後者の「DSC法で得られる結晶化度が20%?80%」であること、「脂肪族系ポリエステル(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である」こと、「高分子圧電材料から製造されたフィルム」は、前者の「DSC法で得られる結晶化度が20%?80%」であること、「高分子(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である」こと、「結晶化高分子フィルム」に相当する。

以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明1とは、

[一致点]
「重量平均分子量が5万?100万である高分子(A)を含み、
DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、
前記高分子(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、結晶化高分子フィルム。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
相違点1
高分子(A)に関して、本件特許発明1では、「結晶化が最速となる温度での半結晶化時間が180秒?900秒の範囲内である」(以下、「半結晶化時間」という。)のに対して、引用発明1では、かかる関係を有するか不明な点。

相違点2
本件特許発明1では、「JIS-K7105に準拠して25℃で全ヘイズ及び内部ヘイズをそれぞれ測定したときに、前記全ヘイズと前記内部ヘイズとの差が0.8%以下」(以下、「ヘイズ差」という。)であるのに対して、引用発明1では、かかる関係を有するか不明な点。

相違点3
本件特許発明1では、「JIS-K-7127に準拠してTD方向の引張弾性率(TD)及びMD方向の引張弾性率(MD)をそれぞれ測定したときに、前記引張弾性率(TD)及び前記引張弾性率(MD)のうち、最小の引張弾性率をEmin、最大の引張弾性率をEmaxとし、前記Eminに対する前記Emaxの比が、1.50?2.30」(以下、「Eminに対するEmaxの比」という。)であるのに対して、引用発明1では、かかる関係を有するか不明な点。

相違点4
本件特許発明1には含まれない「カルボジイミド基、エポキシ基、及びイソシアネート基からなる群から選ばれる1種類以上の官能基を有する重量平均分子量が200?60000の安定化剤(B)」を引用発明1が含む点。

2 本件特許発明1と引用発明2とを対比すると、引用発明2の「重量平均分子量が5万?100万である光学活性を有するヘリカルキラル高分子」は、本件特許発明1の「重量平均分子量が5万?100万であり結晶化が最速となる温度での半結晶化時間が180秒?900秒の範囲内である高分子(A)」と「重量平均分子量が5万?100万である高分子(A)」の限りで相当し、同様に後者の「DSC法で得られる結晶化度が20%?80%」であること、「ヘリカルキラル高分子が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である」こと、「高分子圧電材料から製造されたフィルム」は、前者の「DSC法で得られる結晶化度が20%?80%」であること、「脂肪族系ポリエステル(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である」こと、「結晶化高分子フィルム」に相当する。

以上の点からみて、本件特許発明1と引用発明2とは、

[一致点]
「重量平均分子量が5万?100万である高分子(A)を含み、
DSC法で得られる結晶化度が20%?80%であり、
前記高分子(A)が、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子である、結晶化高分子フィルム。」
である点で一致し、

次の点で相違する。

[相違点]
相違点5
高分子(A)に関して、本件特許発明1では、「結晶化が最速となる温度での半結晶化時間が180秒?900秒の範囲内である」(以下、「半結晶化時間」という。)のに対して、引用発明2では、かかる関係を有するか不明な点。

相違点6
本件特許発明1では、「JIS-K7105に準拠して25℃で全ヘイズ及び内部ヘイズをそれぞれ測定したときに、前記全ヘイズと前記内部ヘイズとの差が0.8%以下」(以下、「ヘイズ差」という。)であるのに対して、引用発明2では、かかる関係を有するか不明な点。

相違点7
本件特許発明1では、「JIS-K-7127に準拠してTD方向の引張弾性率(TD)及びMD方向の引張弾性率(MD)をそれぞれ測定したときに、前記引張弾性率(TD)及び前記引張弾性率(MD)のうち、最小の引張弾性率をEmin、最大の引張弾性率をEmaxとし、前記Eminに対する前記Emaxの比が、1.50?2.30」(以下、「Eminに対するEmaxの比」という。)であるのに対して、引用発明2では、かかる関係を有するか不明な点。

第6 判断
1 理由1(特許法第29条第1項第3号)について
(1) 引用発明1について
ア 本件特許発明1について
甲第1号証には、「半結晶化時間」及び「Eminに対するEmaxの比」について記載も示唆もない。
また、同号証には、確かに、摘示ウから、全ヘイズから内部ヘイズを除外したものが本件特許発明1でいう表面ヘイズであることは理解できるものの、全ヘイズが不明であるから、結局、「ヘイズ差」についても不明である。したがって、同号証には、「ヘイズ差」について記載も示唆もない。
そして、引用発明1が本件特許発明1と同一であることを立証する証拠はない。
よって、引用発明1は、本件特許発明1と同一であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を更に限定するものであるから、引用発明1は、本件特許発明2ないし6と同一であるとはいえない。

(2) 引用発明2について
ア 本件特許発明1について
(ア)上記相違点5ないし7は、上記相違点1ないし3と同じあるから、上記第6 1(1)アと同じ理由により、引用発明2は、本件特許発明1ないし6と同一であるとはいえない。
すなわち、甲第2号証には、「半結晶化時間」及び「Eminに対するEmaxの比」について記載も示唆もない。
また、同号証には、確かに、摘示ケから、全ヘイズから内部ヘイズを除外したものが本件特許発明1でいう表面ヘイズであることは理解できるものの、全ヘイズが不明であるから、結局、「ヘイズ差」についても不明である。したがって、同号証には、「ヘイズ差」について記載も示唆もない。
そして、引用発明2が本件特許発明1と同一であることを立証する証拠はない。
よって、引用発明2は、本件特許発明1と同一であるとはいえない。

(イ)なお、異議申立人の異議申立書3.(4)(4-2)ウ.での主張を踏まえ、甲第2号証の【表1】の比較例1のものが本件特許明細書の【表1】の実施例3のものと同一かについて検討する。
すなわち、上記摘示クのポリ乳酸系高分子を上記摘示コの製造方法に供した場合、製造された高分子が上記相違点5ないし7の発明特定事項を満たすかを検討するに、本件特許明細書の【表1】の実施例3と甲第2号証の【表1】の比較例1と比較すると、延伸倍率(MD)、延伸温度、延伸幅、結晶化温度で少なくとも相違し、製造条件により高分子の特性は変化することが通常であるから、製造された高分子の特性は同一とはいえない。
よって、引用発明2と本件特許発明1とは同一であるとはいえない。

イ 本件特許発明2ないし6について
本件特許発明2ないし6は、本件特許発明1を更に限定するものであるから、引用発明2は、本件特許発明2ないし6と同一であるとはいえない。

2 理由2(特許法第29条第2項)について
(1) 本件特許発明1
本件特許明細書の段落【0004】、段落【0006】、段落【0013】、段落【0024】、【表1】及び【表2】の記載に照らせば、本件特許発明1は、所定の結晶化速度のものを選択することにより結晶化高分子フィルムの表面ヘイズを低減できるとの知見及び「Eminに対するEmaxの比」を特定することによりフィルムの強度を所望のものにするとの知見に基づいてなされたものである。
しかるところ、甲各号証には、上記知見が記載も示唆もなく、上記相違点に係る発明特定事項を特定する動機づけの根拠を見いだせない。
加えて、本件特許発明1による効果(【表1】及び【表2】)も、引用発明1及び甲各号証の記載から当業者が予測し得たものであるとはいえない。
よって、本件特許発明1は、引用発明1及び甲各号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2) 本件特許発明2ないし12について
本件特許発明2ないし12は、少なくとも上記相違点1ないし3で引用発明1と相違する。
したがって、本件特許発明2ないし12は、引用発明1及び甲各号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

3 理由3(特許法第36条第6項第1号)について(異議申立書3.(4)(4-3))
(1)本件特許発明の課題は、「表面ヘイズを低減する」ことである(段落【0004】)。
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、確かに、異議申立人が主張するように、実施例として高分子の半結晶化時間、加熱部材表面の最大高さRz及び同表面の算術平均粗さRaは、それぞれ、「529秒」、「1.04μm」、「0.18μm」の1点のみである。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、「半結晶化時間」が明確に定義され(段落【0017】)、その具体的測定方法も説明された上で(段落【0116】)、【化1】で表される繰り返し単位を含む主鎖を有するポリ乳酸系高分子を上記具体的測定方法によって測定すると共に、比較例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)を取り上げ(段落【0018】)、実施例との対照結果も記載されている(【表1】)。
また、同発明の詳細な説明には、加熱部材におけるフィルムと接触する表面の離型性を高めることが「表面ヘイズを低減する」ことになるという指針も記載されている(段落【0006】)。
そうすると、上記各記載を踏まえれば、当業者であれば、上記課題を解決できると認識できる程度に記載されているといえる。

4 理由4(特許法第36条第6項第2号)について(異議申立書3.(4)(4-4))
「半結晶化時間」の定義は、段落【0017】に記載され、その具体的測定方法も段落【0116】に説明されているから、「半結晶化時間」が不明確とはいえない。
すなわち、段落【0116】では、結晶化が最速となる温度の略中心値として117℃を選択し、上記「半結晶化時間」の定義に従い「半結晶化時間」を求めた結果、「半結晶化時間」が180秒?900秒の範囲内であることが確認されている(【表1】)。そして、結晶化が最速となる温度の実施例として、110℃から125℃の範囲が記載されている以上、当該温度範囲内の温度で「半結晶化時間」を求めれば「半結晶化時間」が180秒?900秒の範囲内になると解するのが自然である。
また、請求項10及び請求項12の「主として1軸方向に延伸された」という記載についても、「主として」とは、「おもに。もっぱら。」の意味であり(広辞苑、第二版補訂版、昭和54年10月15日発行参照)、1軸方向に延伸することのみを意味しているとは解されない。
加えて、本件特許明細書には、「延伸の方法(延伸方法)は特に制限されず、1軸延伸、2軸延伸、固相延伸などの種々の延伸方法を用いることができる」と記載されている(段落【0091】)。
そうすると、本件特許明細書の記載を考慮し、また、当業者の出願当時における技術常識を基礎としても、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるとはいえない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立の理由によっては、本件特許を取り消すことができない。
また、他に本件特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-03-22 
出願番号 特願2015-527337(P2015-527337)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
最終処分 維持  
前審関与審査官 加賀 直人  
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 渕野 留香
小柳 健悟
登録日 2016-05-27 
登録番号 特許第5940730号(P5940730)
権利者 三井化学株式会社
発明の名称 結晶化高分子フィルム及びその製造方法  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  
代理人 福田 浩志  
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