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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E04B
管理番号 1327009
異議申立番号 異議2016-700850  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-09 
確定日 2017-04-17 
異議申立件数
事件の表示 特許第5925426号発明「柱梁接合構造、及び柱梁接合方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5925426号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第5925426号の請求項1ないし4に係る特許についての出願は、平成23年4月12日に特許出願され、平成28年4月28日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人鈴木宏和(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。


2 本件特許発明
特許第5925426号の請求項1ないし4の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものである(以下「本件特許発明1」ないし「本件特許発明4」という。また、それらをまとめて「本件特許発明」という。)。


3 申立理由の概要
申立人は、証拠として以下の甲第1ないし7号証を提出し、概ね以下のとおり主張している。

(1)本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明に、周知技術1(周知例は甲第2号証に記載)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(2)本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に、周知技術1(周知例は甲第2号証に記載)を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(3)本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明に、周知技術2(周知例は甲第3ないし6号証に記載)及び甲第7号証に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。
(4)本件特許発明4は、甲第1号証に記載された発明に、周知技術3(周知例は甲第4ないし6号証に記載)及び甲第7号証に記載された発明を適用することにより、当業者が容易に発明をすることができたものであり、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開2008-14036号公報
甲第2号証:特開平6-173343号公報
甲第3号証:特開2003-239453号公報
甲第4号証:特開2001-107473号公報
甲第5号証:特開平9-13501号公報
甲第6号証:特開平6-212691号公報
甲第7号証:特開2008-19652号公報


4 各甲号証の記載
(1)甲第1号証について
甲第1号証には、段落【0008】-【0009】、【0023】-【0037】、【0040】-【0041】、図1ないし4及び5(b)の記載事項からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「 荷重を支持する木製の荷重支持層10と、前記荷重支持層10の外周を取り囲む燃え止まり層20と、前記燃え止まり層20の外周を取り囲む木製の燃えしろ層30とを備えた柱64と、
第1板部50aと第2板部50bとが各々の長手方向における中央部にて直交するように一体に形成され、柱64の上端部の平面視十字状のスリット1bに差し込まれるジョイントプレート50と、
荷重を支持する木製の荷重支持層10と、前記荷重支持層10の側面と下面とを取り囲む燃え止まり層20と、前記燃え止まり層20の側面と下面とを取り囲む木製の燃えしろ層30と、前記荷重支持層10の端面から前記荷重支持層10の梁長方向へ形成され前記ジョイントプレート50が挿入されるスリット2aとを備えた梁65と、
前記スリット2aに、前記ジョイントプレート50の、柱64として用いられる柱用複合木質構造材1から突出された部位を差し込み、前記柱64の前記燃え止まり層20の側面と前記梁65の燃え止まり層20の端面とを対向させて、前記梁65の燃え止まり層20に前記ジョイントプレート50の側方と下方とを取り囲ませた状態で前記梁65の荷重支持層10に前記ジョイントプレート50を連結するドリフトピン52と、
を有する柱と梁の接合構造。」


(2)甲第2号証について
甲第2号証には、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
ア 「 【請求項1】
上下階の集成材柱を互いに接続しながら集成材梁を集成材柱に剛に接合する接合部構造であり、各集成材柱の継手面にはほぞが形成され、内部には軸方向に引張材が挿通し、集成材梁端部の幅方向の中間部には成方向に切欠き溝が形成されており、上下の集成材柱間には外周に定着金物が突設された、ほぞより大きい面積を持つ箱形断面形状の継手金物が跨設され、上下階の集成材柱はほぞが継手金物内に差し込まれて対向し、集成材梁は切欠き溝が定着金物を包囲しながら端面が継手金物に突き合わせられて設置され、継手金物の内部と集成材柱のほぞとの間、及び集成材梁の切欠き溝の内部にはグラウト材が充填され、引張材には張力が与えられていることを特徴とする集成材構造における柱・梁接合部構造。」

イ 「【0002】
【従来技術及び発明が解決しようとする課題】集成材を用いた木構造の架構は柱・梁の接合部が通常、ピン接合であることから、ドーム型やアーチ型の形態が一般的である。最近では大断面集成材の技術が進歩し、防火性能の向上に関する構法や設計技術が確立されることに伴い、ラーメン架構の事務所建築を始め、木構造による多様な建築形態に対する要請が強まっているが、従来の、仕口に金物を組み込んでボルト接合する方法では対象が木材である以上、ボルトに摩擦接合を期待する程の軸力を加えられないため実質的に剛節化することは難しく、複数層の純粋なラーメン架構を構築することは不可能とされている。」

ウ 「【0007】上下階の集成材柱はほぞが継手金物内に差し込まれて対向し、継手金物の内部と集成材柱のほぞとの間にグラウト材が充填され、内部に挿通した引張材に張力が与えられることにより引張接合され、互いに一体化する。」

エ 「【0010】
【実施例】以下本発明を一実施例を示す図面に基づいて説明する。
【0011】この発明は図1に示すように上下階の集成材柱1,1を継手金物3を用い、引張材4とグラウト材51によって接続しながら、継手金物3に突設された定着金物6をグラウト材52によって定着することにより集成材梁2を集成材柱1に剛に接合したものである。
【0012】各集成材柱1の継手面からは周囲が削ぎ落とされることによりほぞ11が突設され、集成材柱1,1は両ほぞ11,11が継手金物3内に差し込まれ、ほぞ11,11の周囲の端面が継手金物3の端面に突き当たった状態で設置される。両ほぞ11,11は継手金物3内で互いに距離を隔てて対向する。」

オ 「【0015】グラウト材51は各集成材柱1のほぞ11と継手金物3の間に形成されたクリアランスに充填される。下階側のクリアランス内には図2に示すようにダイヤフラム31の四隅に明けられたスカラップ32より、上階側のクリアランス内には図1に示すようにほぞ11の周囲の端面から集成材柱1の周面まで数箇所に明けられた注入孔13からそれぞれ注入される。グラウト材51の充填状況はグラウト材51が下階側では他のスカラップ32から、上階側では他の注入孔13からそれぞれ吐出することにより確認される。」
【0016】定着金物6は継手金物3の外周の集成材梁2との接続側に突設され、集成材梁2の切欠き溝21内に充填されるグラウト材52中に定着されることにより集成材梁2からの曲げモーメントとせん断力を集成材柱1に伝達する。定着金物6には図示するT形鋼の他、スタッドボルト等が使用され、定着金物6は応力の大きさに応じて集成材梁2の幅方向に複数列配置される。
【0017】集成材梁2の端部の幅方向の中間部には下端部22を残して成方向に切欠き溝21が形成され、切欠き溝21内には定着金物6を包囲し、集成材梁2の引張力を定着金物6に伝達する受け金物8が内接して固定される。受け金物8は引張力を支圧力として伝達するために溝形断面形状等、定着金物6を力の作用方向の両側から挟み込む形状をし、集成材梁2の軸方向に挿通するアンカーロッド9によって集成材梁2に固定される。引張力を伝達するときの受け金物8の反力はアンカーロッド9が負担する。アンカーロッド9は集成材梁2の一部の区間に、または全長に亘って配置される。
【0018】集成材梁2は図2に示すようにグラウト材52の充填領域を仕切る必要から、端面が継手金物3の外周面に突き当たった状態で設置され、切欠き溝21の下端部22がグラウト材52充填時の型枠となるが、実施例のように梁成が継手金物3の長さより大きい場合は図3に示すように下端部22が集成材柱1の頭部の形状に合わせて切り欠かれ、その下端が集成材柱1上に載り、下端部22の端面が集成材柱1の側面に突き当たる。
【0019】集成材梁2の切欠き溝21の内部には上方からグラウト材52が充填され、集成材梁2はグラウト材52によって定着金物6を定着することにより継手金物3を介して集成材柱1,1に接合される。集成材梁2の上端や下端に働く引張力は切欠き溝21内のグラウト材52から定着金物6を経て継手金物3に伝達され、集成材梁2からの曲げモーメントの集成材柱1への伝達が確実になる。」

カ 「【0022】グラウト材51,52の硬化と強度発現を待って控えやサポート等を撤去し、1層分の架構の施工が終了する。1層分の柱・梁架構の構築後にはスラブのコンクリート10が打設されるが、上層階の施工は以上の手順を繰り返して行われる。」


(3)甲第3号証について
甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0003】しかし、阪神淡路大震災の教訓と規制緩和の観点を踏まえて平成12年に建築基準法が大改正され、建築物の構造的性能や防火性能に関する規定が大幅に変更されることとなった。この法改正では、前記従来のような「仕様規定」ではなく、建築物が必要とする性能を明示する「性能規定」を導入することによって、新規な構法や新規な材料に柔軟に対応できる仕組みが法制化された。併せて、性能規定を有効ならしめるためのサブシステムとして、建設大臣(国土交通大臣)による新たな認定制度のほか、型式適合認定制度や型式部材等製造者認証制度が新たに設けられた。」

イ 「【0011】また、本発明の構造用複合材の接合構造は、鋼板または形鋼からなる芯材のウェブを両側から一対の集成材により挟み込んで構造用複合材が形成されるとともに、この構造用複合材における芯材のウェブが当該構造用複合材に接合される他部材の材軸方向に延出し、この延出部分が前記他部材の端部に形成されたスリットに挿入されて、前記他部材の側面から挿入されるボルトまたはドリフトピンを介して前記他部材と一体に結合されたことを特徴とする。」

ウ 「【0018】例示の梁1は、鋼板からなる平坦な芯材11を、矩形断面を有する一対の中断面または小断面の集成材12,12で挟み込んだものである。芯材11と集成材12とは高さ(上下幅)がほぼ等しくなるように形成され、高さを揃えて重ねられている。芯材11は、梁1の材長方向全体にわたって連続するように配置されるとともに、梁1の端部において柱2側に延出し、集成材の単材からなる柱2の上端部に形成されたスリット21内に挿入されている。
【0019】芯材11および集成材12には、両材を梁幅方向に貫通する連結孔が、互いに合致するように適宜間隔で予め形成されている。これらの連結孔にボルト13またはドリフトピンが挿入され、ボルト13にはナット(図示せず)が締結されることにより、芯材11と集成材12とが梁幅方向に結合される。なお、ボルト13が挿入される連結孔には座彫りが施されていてもよい。」

エ 「【0022】また、梁1の中間部分や柱2と梁1との接合部に他の水平材(梁、桁など)が接合される場合は、当該水平材の端部形状に合わせて用意した適宜の接合金物(スリット挿入型や曲げ板型などの金物)を、梁1または柱2の側面に当接させて、ボルト・ナットにより共締めする。」


(4)甲第4号証について
甲第4号証には、次の事項が記載されている。
「【0018】
【実施例】実施例1は、図1?図3に示され、木質部材の中央の差込縦溝中に接合板を差し込んで1対の木質部材を接続する例である。木質部材11は、木材又は集成材製の横断面が縦長の矩形の長い部材からなり、その端よりの部分の中央に補強部材であるFRP板12の厚さt_(1)の2倍と接合板13の厚さt_(2)との和に相当する幅の縦溝11aを形成して製作される。木質部材11の縦溝11aの内面の長手方向に延びる両方の側面に、補強部材である未硬化又は既硬化のFRP(すなわち、繊維強化プラスチック)板12を貼り付ける。末硬化のFRP板を貼り付ける場合には、貼り付け後に硬化させる。そうすると、木質部材11に縦溝11aの両方の側面に貼り付けたFRP板12,12間に接合板13の厚さt_(2)に相当する差込縦溝11a_(1)が形成される。図1?図3に示す例では、補強部材であるFRP板12はその厚さがt_(1)であり、その縦横の寸法は木質部材11の縦溝11aの内面の長手方向に延びる両方の側面の縦横の寸法と一致させてあるが、FRP板12の縦方向の寸法を縦溝11aの側面の縦方向の寸法よりも少々小さくする場合もある。
【0019】図1?図3に示すように、接合板13は、厚さt_(2)の鋼板で作られ、縦方向及び横方向に間隔をおいて多数のボルト孔13aが穿設してあり、接合板13の縦方向の寸法は、木質部材11の縦溝11aの側面の縦方向の寸法(すなわち、木質部材11の縦方向の寸法)と一致させてあるが、FRP板12の縦方向の寸法を縦溝11aの側面の縦方向の寸法よりも少々小さくした場合には、FRP板12の縦方向の寸法に合わせて、接合板13の縦方向の寸法を木質部材11の縦溝11aの側面の縦方向の寸法よりも少々小さくする。接合板13の横方向の寸法は、縦溝11aの側面の横方向の寸法の2倍よりも少々短くしてある。接合板13の横方向の寸法は、通常、FRP板12の縦方向の寸法の2倍よりも幾分か短くする。補強部材であるFRP板を貼り付けて硬化させた後に、木質部材11及びFRP板12の接合板13の各ボルト孔13aに対応する部分にそれぞれボルト孔11b,12aを軸心を一致させて穿設する。木質部材11への縦溝11aの形成、縦溝11aの内側面へのFRP板12の貼付、及び木質部材11及びFRP板12へのボルト孔11b,12aの穿設は、工場で行う。
【0020】図1?図3に示すように、1対の木質部材11,11の端部を互いに対向させて位置させ、木質部材11,11の差込縦溝11a_(1)内に接合板3を差し込み、木質部材11及びFRP板(補強部材)12のボルト孔11b,12a及び接合板13のボルト孔13aにそれぞれ座金wを嵌めたボルトbを通し、それらのボルトbの先に座金wを嵌め、ボルトbの先のねじ部にそれぞれナットnをねじ込み、各ナットnを締め付けると、1対の木質部材11,11を接合した接合部10になる。」


(5)甲第5号証について
甲第5号証には、次の事項が記載されている。
「【0013】接合金具10は次のように用いられる。大梁12及び継ぎ梁16には予め木材加工工場にてスリット溝13、17及び貫通ピン19、21用の差し込み孔26、27が所定寸法、所定位置にプレカットされている。大梁12を柱11やその他の軸組み構造材(図示せず)に組み上げた後、大梁12の差し込み孔27に貫通ピン21を差し込む。そして接合金具10の第1切欠ガイド部22を貫通ピン21に係止させると、第1差し込み面部15の下辺とスリット溝13の下辺部14が接し、接合金具10がかけ止められる。その後残りの貫通ピン19を差し込み孔26から挿入し、第1差し込み面部15の止め孔20を貫通させて接合金具10を大梁12に固定する。次に、継ぎ梁16の差し込み孔27に貫通ピン21を差し込み、継ぎ梁16を上方から下ろして第2差し込み面部18をスリット溝17に挿入する。すると、貫通ピン21が第2切欠ガイド部23に受け止められることにより継ぎ梁16が位置決めされ、最後に残りの貫通ピン19を差し込み孔26から挿入し、第2差し込み面部18側の止め孔20を貫通させて、継ぎ梁16の端面と大梁12の端面との面接合が終了する。」


(6)甲第6号証について
甲第6号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0002】
【従来の技術】従来、例えば鉄骨を用いた柱と梁とで建築構造物を構成するときには、この鉄骨柱と鉄骨梁との接合を以下のような方法で行っている。鉄骨柱と鉄骨梁とをボルトで接合する場合には、工場において予め鉄骨柱にブラケットを設けておき、建設現場においてこの鉄骨柱を所定の位置に建て込んだ後、鉄骨梁を吊り込んで位置合わせを行い、鉄骨柱のブラケットと鉄骨梁とをジョイントプレートを介してボルト接合している。また、これらを溶接で接合する場合には、建設現場において、鉄骨柱と鉄骨梁の建方を行いながら、鉄骨柱と鉄骨梁とを溶接して接合している。」

イ 「【0020】吊り込んだ大梁3の両端部を隣り合う柱1,1の接合ブラケット2,2上に載置する(図7)。その後、図1に示すように接合ブラケット2の鉄骨5,5と大梁3の側面との間に形成される開放部2aを図示しない塞ぎ板でふさぐ。次いで、大梁3の上端筋12を配筋するとともに、大梁3の上面にハーフPC床板13,13,…(図3)を設置する。」


(7)甲第7号証について
甲第7号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0032】
台座74は、下階柱72の上端面と接触する平板状の下板部74aと、上階柱70の下端面と接触される平板状の上板部74bと、下板部74aと上板部74bとを上下方向に間隔を隔てて連結し水平断面が十字状をなす連結部74cとが一体に形成されている。下板部74aと上板部74bの上階柱70及び下階柱72と接触する領域は、上階柱70及び下階柱72の燃え止まり層20の外周縁より内側となるように、下板部74aと上板部74bとが形成されている。また、下板部74aと上板部74bとの間隔は、台座74が下階柱72上に載置されたときに上板部74bの上面が、上階と下階との間に打設される床スラブ60の上面より高くなるように形成されている。
【0033】
上階柱70と下階柱72とを接合する際には、まず、下階柱72の上端上に、下階柱72の燃え止まり層20を形成する燃え止まり部材20aの外周縁より内側に下板部74aを位置させて台座74を載置し、下階柱72に埋設されて上方に突出された棒鋼76(図4(b)参照)を下板部74aに貫通させてナット78にて接合する。次に、図3(b)示すように、台座74の上板部74bの上に上階柱70の下端を載置する。このとき、上板部74bが上階柱70の燃え止まり層20を形成する燃え止まり部材20aの外周縁より内側に位置するように上階柱70を配置する。そして、上階柱70を、上階柱70に埋設されて下方に突出された棒鋼76(図4(b)参照)を上板部74bに貫通させてナット78にて接合する。」

イ 「【0040】
また、本実施形態では、梁65の燃え止まり部材20aと下階柱72の燃え止まり部材20aとが当接することにより、さらに下階柱の燃えしろ層から梁65への延焼防止が可能となる。」


5 当審の判断
(1)本件特許発明1について
ア 対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その他の点で一致する。

相違点1:「連結板(18)」について、
本件特許発明1は「前記柱心材(20)の側面に接触した状態で固定され」るのに対して、甲1発明は「第1板部50aと第2板部50bとが各々の長手方向における中央部にて直交するように一体に形成され、柱64の上端部の平面視十字状のスリット1bに差し込まれるジョイントプレート50」を備えているが、当該ジョイントプレート50は「前記柱心材(20)の側面に接触した状態で固定され」ていない点。

(イ)相違点1に対する判断
甲第2号証の記載事項(上記4(2)を参照。)によると、集成材構造における柱・梁接合部構造において、「外周に定着金物6(T形鋼)が突設された」「箱形断面形状の継手金物3」を用いて、「継手金物3に突設された定着金物6をグラウト材52によって定着することにより集成材梁2を集成材柱1に剛に接合」する。そこで、定着金物6及びこれを突設する継手金物3が本件特許発明1の「連結板(18)」に相当すると認定すると、「外周に定着金物6(T形鋼)が突設された」「箱形断面形状の継手金物3」の「内部と集成材柱1のほぞ11との間にグラウト材51が充填」されるのであるから、継手金物3は集成材柱1のほぞ11(本件特許発明1の「柱心材(20)」に相当)の側面に接触しておらず、グラウト材51に接触している。すなわち、甲第2号証には、「連結板(18)」について「前記柱心材(20)の側面に接触した状態で固定」することが記載されているとはいえない。してみると、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用しても、本件特許発明1とはならない。

(ウ)したがって、本件特許発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

イ 申立人の主張について
申立人は、
「 相違点1の「柱と梁の接合において、梁を接合する連結片を、柱心材の側面に接触した状態で固定」する構成は、一般的に知られた周知技術である。
この周知例として、甲第2号証には、柱心材(下図で青線)の側面に、連結片(下図で赤線)を取り付けることが記載されている。具体的には、甲第2号証に示す周知技術(以下「周知技術1」という。)では、「集成材柱1,1は両ほぞ11,11が継手金物3内に差し込まれ、ほぞ11,11の周囲の端面が継手金物3の端面に突き当たった状態で設置」されている。
甲1構造発明と周知技術1とは、いずれも「防火性能の向上」を目的として共通した構成を有しており、いずれかの構成を組み合わせることに阻害要因は認められない。
従って、甲1構造発明と周知技術1とを組み合わせて、本件特許発明1とすることは、いわゆる当業者であれば、容易に想到することができると思料する。」と主張している(特許異議申立書の第20ないし23頁を参照。)。

しかしながら、周知技術1を示す甲第2号証の記載事項によると、「定着金物6(T形鋼)が突設された」「箱形断面形状の継手金物3」は集成材柱1のほぞ11(本件特許発明1の「柱心材(20)」に相当)に接触しておらず、グラウト材51に接触しているから、「柱と梁の接合において、梁を接合する連結片を、柱心材(20)の側面に接触した状態で固定」する構成に該当しない。
よって、甲1発明に甲第2号証に記載された事項を適用して、上記相違点1に係る発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
したがって、申立人の当該主張は採用できない。


(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1を更に減縮したものであるから、本件特許発明1についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。


(3)本件特許発明3について
ア 対比・判断
(ア)本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、両者は以下の点で相違し、その他の点で一致する。

相違点1:本件特許発明3は、「荷重を支持する木製の繋ぎ梁心材(40)と、前記繋ぎ梁心材(40)の側面と下面とを取り囲む第3燃え止まり層(42)と、前記第3燃え止まり層の側面と下面とを取り囲む木製の第3燃え代層(44)と、前記繋ぎ梁心材(40)の端面から前記繋ぎ梁心材(40)の梁長方向へ形成され前記連結板(18)が挿入される第2縦溝(46)とを備え前記梁(14)に接合される繋ぎ梁(16)」を有するのに対して、
甲1発明にはそのような特定がない点。

相違点2:本件特許発明3は、「前記第2縦溝(46)に前記連結板(18)を挿入し前記第2燃え止まり層(34)の端面と前記第3燃え止まり層(42)の端面とを対向させ前記第3燃え止まり層(42)に前記連結板(18)の側方と下方とを取り囲ませた状態で前記繋ぎ梁心材(40)に前記連結板(18)を連結する第2連結部材(58)」を有するのに対して、
甲1発明にはそのような特定がない点。

(イ)相違点1及び2に対する判断
甲第3ないし6号証には、「梁(14)」に「繋ぎ梁(16)」を接合することに相当する事項が記載され、「梁(14)」と同様に「繋ぎ梁(16)」にも燃え止まり層や燃え代層並びに連結板が挿入される縦溝を備えさせることが、当業者にとって適宜なし得ることだとしても、「前記柱心材(20)に固定され」た「連結板(18)」を「繋ぎ梁(16)」の「第2縦溝(46)」に挿入すること、つまり当該「連結板(18)」が、「梁(14)」に加えて「繋ぎ梁(16)」まで固定することは、申立人が提示した証拠には記載されていない。甲第7号証には、上階柱70と下階柱72とを接合する技術に関する事項が記載されており、「梁65」の記載はあるが、「繋ぎ梁(16)」に相当する記載がなく、「前記柱心材(20)に固定され」た「連結板(18)」を、「繋ぎ梁(16)」の「第2縦溝(46)」に挿入すること、つまり当該「連結板(18)」が、「梁(14)」に加えて「繋ぎ梁(16)」まで固定することについても記載されていない。仮に梁構造体を梁と繋ぎ梁に分割するのであれば、それらの両梁同士のみで連結するのが一般的であるものといえる。
したがって、甲1発明に甲第3ないし7号証に記載された事項を適用したとしても、「前記柱心材(20)に固定され」た「連結板(18)」を、「繋ぎ梁(16)」の「第2縦溝(46)」に挿入することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。すなわち、本件特許発明3の相違点1及び2の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものではない。

(ウ)したがって、本件特許発明3は、甲1発明及び甲第3ないし7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

イ 申立人の主張について
申立人は、
(ア)「 周知技術2について
相違点1の「(G)繋ぎ梁」及び相違点2の「(H)第2連結部材」は周知技術である。梁の中間部分に、他の水平材(繋ぎ梁に相当)を接合することは、一般に行われている。この場合、梁と水平材(繋ぎ梁)とを接続する場合には、剛板等からなる連結片を埋設し、ボルトやドリフトピン等(第2連結部材)によって繋ぎ梁心材に連結板を連結させる。
この周知例として、甲第3ないし6号証がある。」 という旨を主張するとともに、
(イ)「 甲7発明について
甲第7号証に記載の発明(以下「甲7発明」という。)における「梁65の燃え止まり部材20aと下階柱72の燃え止まり部材20aとが当接」は、本件特許発明3における「(H2)前記第2燃え止まり層(34)の端面と前記第3燃え止まり層(42)の端面とを対向」させる構成に相当する。」及び
(ウ)「 甲1構造発明に周知技術2と甲7発明との組み合わせについて
そこで、甲1構造発明に、甲第3号証?甲第6号証に示す周知技術(以下「周知技術2」という。)及び甲7発明を組み合わせることができるか否かについて検討する。
・・・(略)・・・
ここで、周知技術2において梁に接合される梁は、本件特許発明1と異なり、心材、燃え止まり層及び燃えしろ層の3層構造ではない。しかしながら、心材を連続させること、燃え止まり層を連続させること、燃えしろ層を連続させることは、それぞれの部材の機能を発揮させるために、一般的に行われる自明の構成である。従って、3層構造の柱と梁を用いている甲1構造発明において、長い梁を柱に取り付けるために、周知技術2を用いれば、「柱に連結する梁長の短い梁と、梁長の長い繋ぎ梁と」を用いることは容易に想到し得る。この場合、甲第7号証には、心材、燃え止まり層及び燃えしろ層を備えた部材を直線的に連結する際には燃え止まり層同士を対向させる構成が開示されていることから、「第2燃え止まり層(34)の端面と前記第3燃え止まり層(42)の端面とを対向させる」構成は、一般的に行なわれる事項の範囲である。
・・・(略)・・・
従って、甲1構造発明に周知技術2と甲7発明とを組み合わせて、本件特許発明3とすることは、いわゆる当業者であれば、容易に想到することができると思料する。」と主張している(特許異議申立書の第26ないし28頁を参照。)。

しかしながら、甲第3ないし6号証に示すように、梁に繋ぎ梁を接合すること、及び、繋ぎ梁心材にボルトやドリフトピン等の連結部材で連結板を連結することが周知技術であって(周知技術2)、梁と同様に繋ぎ梁にも燃え止まり層や燃え代層並びに連結板が挿入される縦溝を備えさせることが、当業者にとって適宜なし得ることだとしても、「前記柱心材(20)に固定され」た「連結板(18)」を、「繋ぎ梁(16)」の「第2縦溝(46)」に挿入すること、つまり当該「連結板(18)」が、「梁(14)」に加えて「繋ぎ梁(16)」まで固定することは、申立人が提示した証拠には記載されていない。甲第7号証には、上階柱70と下階柱72とを接合する技術に関する事項が記載されており、「梁65」の記載はあるが、「繋ぎ梁(16)」に相当する記載がなく、「前記柱心材(20)に固定され」た「連結板(18)」を、「繋ぎ梁(16)」の「第2縦溝(46)」に挿入すること、つまり当該「連結板(18)」が、「梁(14)」に加えて「繋ぎ梁(16)」まで固定することについても記載されていない。仮に梁構造体を梁と繋ぎ梁に分割するのであれば、それらの両梁同士のみで連結するのが一般的であるものといえる。
したがって、甲1発明に甲第3ないし6号証に記載された事項(周知技術2)及び甲第7号証に記載された事項を適用したとしても、「前記柱心材(20)に固定され」た「連結板(18)」を、「繋ぎ梁(16)」の「第2縦溝(46)」に挿入することは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。すなわち、本件特許発明3の相違点1及び2の構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たものではない。
したがって、申立人の上記(イ)及び(ウ)の主張は採用できない。


(4)本件特許発明4について
本件特許発明4は、本件特許発明3を更に減縮したものであるから、本件特許発明3についての判断と同様の理由により、甲1発明及び甲第3ないし7号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得たものではない。


6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-06 
出願番号 特願2011-88363(P2011-88363)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (E04B)
最終処分 維持  
前審関与審査官 湊 和也  
特許庁審判長 小野 忠悦
特許庁審判官 藤田 都志行
住田 秀弘
登録日 2016-04-28 
登録番号 特許第5925426号(P5925426)
権利者 株式会社竹中工務店
発明の名称 柱梁接合構造、及び柱梁接合方法  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 福田 浩志  

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