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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1327016
異議申立番号 異議2016-701193  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-12-27 
確定日 2017-04-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第5945268号発明「ビタミンD類似体およびコルチコステロイドを含むスプレー医薬組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5945268号の請求項1、3、4、11ないし19、21ないし24に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5945268号(以下、「本件特許」という。)は、平成23年6月10日に特許出願され、平成28年6月3日にその特許権の設定登録がされたものであり、その後、本件特許の請求項1、3、4、11?19、21?24に係る特許に対し、特許異議申立人本田史樹により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件特許発明
特許第5945268号の請求項1、3、4、11?19、21?24に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」、「本件特許発明3」・・・「本件特許発明24」といい、まとめて、「本件特許発明」ともいう。)は、それぞれ、本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3、4、11?19、21?24に記載された事項により特定されるとおりのものである。

3.特許異議申立人の主張、及び、提出した証拠方法
特許異議申立人本田史樹は、本件特許発明1、3、4、11?19、21?24に係る特許は取り消すべきものである旨主張し、その理由として、以下の理由1?3を主張し、証拠方法として甲第1?12号証、及び、参考資料1の1?参考資料29を提出している。

理由1
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3、4、11?19、21?24の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、それらの請求項に係る発明は特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由2
本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないから、請求項1、3、4、11?19、21?24に係る発明は特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

理由3
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、3、4、11?19、21?24に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2?12号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それらの発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

証拠方法
甲第1号証 特表2002-542293号公報
甲第2号証 特表2008-502663号公報
甲第3号証 特開2002-241309号公報
甲第4号証 特許第3881400号公報
甲第5号証 特開2007-332182号公報
甲第6号証 特開2007-39465号公報
甲第7号証 特許第2772073号公報
甲第8号証 特開平10-182375号公報
甲第9号証 特開2002-138015号公報
甲第10号証 特開2000-86500号公報
甲第11号証 特開2000-63254号公報
甲第12号証 British Journal of Dermatology 1998, 138, 254-258頁

参考資料1の1 「ノンアトピーライフ ステロイドに頼らないアトピー治療」と題するインターネットの記事の「ステロイド薬の強さ一覧」の項 http://nonatopi-life.com/suteroido/siyoukiken.html 2016/11/28 15:09
参考資料1の2 特許異議申立人が、参考資料1の1に記載されているステロイド薬に含有されているコルチコステロイドの溶解性を、参考資料3?23に基づいて調査し、まとめた表。
参考資料2 特許異議申立人が、本件特許発明に係るビタミンD誘導体の溶解性を、参考資料24?28に基づいて調査し、まとめた表。
参考資料3 デルモベート^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2015年改訂(第5版)
参考資料4 ジフラール^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2014年4月 (改訂第8版)
参考資料5 フルメタ_(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2013年4月改訂(改訂第11版)
参考資料6 アンテベート^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2012年11月 (改訂第4版)
参考資料7 トプシム^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2008年4月改訂 (第6版A)
参考資料8 リンデロン^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2013年4月改訂 (改訂第13版)
参考資料9 マイザー^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2013年4月改訂 (第8版)
参考資料10 ビスダーム^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2009年8月改訂 (改訂第7版)
参考資料11 テクスメテン軟膏0.1%の医薬品インタビューフォーム 2012年12月改訂 (第2版)
参考資料12 パンデル^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2008年7月改訂 (改訂10版)
参考資料13 メサデルム_(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2013年8月改訂 (改訂第6版)
参考資料14 ザルックス^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2015年11月改訂 (第3版)
参考資料15 ベトネベート^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2013年8月 (第7版)
参考資料16 リドメックス_(コーワ)の医薬品インタビューフォーム 2016年10月 (改訂第7版)
参考資料17 アルメタ_(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2013年5月改訂 (改訂第13版)
参考資料18 ケナログ^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2016年4月改訂 (第10版)
参考資料19 レダコート^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2015年4月改訂 (改訂第6版)
参考資料20 ロコイド^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2012年7月 (改訂第4版)
参考資料21 キンダベート^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2016年5月 (改訂第4版)
参考資料22 プレドニン^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2015年4月改訂 (改訂第14版)
参考資料23 テラ・コートリル^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2007年11月 (第1版)
参考資料24 ドボネックス^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2014年4月改訂 (第5版)
参考資料25 ロカルトロール^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2015年4月 (改訂第7版)
参考資料26 ボンアルファ_(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2006年11月 (改訂第2版)
参考資料27 オキサロール^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2016年5月改訂 (改訂第13版)
参考資料28 アルファロール^(R)(注:「R」は、○で囲まれた記号で表記されている。)の医薬品インタビューフォーム 2016年9月改訂 (第8版)
参考資料29 第十七改正 日本薬局方

4.判断
4-1.理由1(サポート要件)について
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆるサポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

4-1-1. 本件特許発明が解決しようとする課題
発明の詳細な説明の記載(特に、【0008】)によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「ビタミンD誘導体または類似体およびコルチコステロイドを有効成分として含み、Daivobet(登録商標) 軟膏より優れた皮膚浸透および生物学的活性を有するが、プロピレン グリコールと異なって、ビタミンD誘導体もしくは類似体またはコルチコステロイドの何れの化学的安定性にも有害でない、有効成分のための溶媒を含む局所スプレー組成物を提供すること」である。

4-1-2. 検討
(1)本件特許発明1について
発明の詳細な説明(【0050】)には、以下の記載がある。
「 本発明をもたらす研究において、驚くべきことに、噴射剤として純粋なC_(3-5)アルカン類、例えばブタンを使用すると、有効成分が十分に溶解せず、その結果、経時的にビタミンD類似体が溶液から沈殿して、コルチコステロイドの結晶成長が観察され、すなわち、本組成物が組成物の貯蔵寿命において物理的に安定でないことが見出された。驚くべきことに、ジメチルエーテルをそれ自身噴射剤として用いたとき、または、ある割合のジメチルエーテルをC_(3-5)アルカン類に添加して噴射剤混合物を形成するときにさえ、この問題は起こらないことが見出された。従って、現在好ましい態様において、本発明の組成物は、単独の噴射剤としてまたは噴射剤混合物の第1噴射剤としてジメチルエーテルを含む。」

したがって、発明の詳細な説明には、本件特許発明は、「ジメチルエーテルをそれ自身噴射剤として用いたとき、または、ある割合のジメチルエーテルをC_(3-5)アルカン類に添加して噴射剤混合物を形成するとき」に「有効成分が十分に溶解せず、その結果、経時的にビタミンD類似体が溶液から沈殿して、コルチコステロイドの結晶成長が観察され、すなわち、本組成物が組成物の貯蔵寿命において物理的に安定でないこと」という問題が発生せず、上記課題を解決できることを発見したことに基づいてなされたものであると説明されている。
また、上記発見に関連して、発明の詳細な説明には、実施例1?8が記載されており、それぞれ、以下の事項を確認することができる。

実施例1
実施例1は、異なる噴射剤混合物中のカルシポトリオールおよびBDPの溶解度試験(【0081】)であり、「カルシポトリオールおよびBDPが両方とも、ブタン:DMEの比4:3で、噴射剤相およびビークル相の両方に完全に溶解」すること(【0085】)、「組成物を4月間放置したとき、カルシポトリオールまたはBDPの何れもが再結晶しないこと」(【0086】)が確認できる。
実施例3
実施例3は、異なる組成物中のカルシポトリオールおよびBDPの化学的安定性(【0102】)に関するものであり、組成物E(カルシポトリオール一水和物0.002%(w/w)、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル0.026%(w/w)、液体パラフィン1.22%(w/w)、α-トコフェロール0.001%(w/w)、PPG-15-ステアリルアルコール2.0%(w/w)、白色軟パラフィン37.5%(w/w)、ジメチルエーテル27.5%(w/w)、ブタン31.7%(w/w):【0092】を参照。)について試験を行ったものであり、「組成物が25℃で約2年の貯蔵寿命を有すること」(【0104】)が確認できる。
実施例4
実施例4は、浸透試験(【0105】)であり、「組成物Eの適用が、Daivobet(登録商標) 軟膏と比較して、カルシポトリオールおよびBDPの皮膚透過の著しい増大をもたらすこと」(【0110】)が確認できる。
実施例5
実施例5は、組成物の生物学的活性(【0111】)に関する試験であり、組成物E(【0112】)の生物学的活性について、「Daivobet(登録商標) 軟膏で得られた結果に対して、カテリシジンの生物学的活性化を2.3倍増大させたこと」が確認できる(【0113】)。
実施例6
実施例6は、異なる内部ラッカーの存在下でのカルシポトリオール/BDPの化学的安定性(【0114】)に関するものであり、エポキシフェノールをベースとするラッカーを、スプレー容器の内部ラッカーとして用いるときはカルシポトリオールが許容されない程分解されるが、ポリイミド-ポリアミドをベースとする内部ラッカーの存在下では化学的安定性が許容されること、ベタメタゾンジプロピオン酸エステルの化学的安定性は、エポキシフェノールをベースとするラッカー、ポリイミド-ポリアミドをベースとする内部ラッカーにほとんど影響されないこと(【0116】)が確認できる。
実施例7
実施例7は、異なる噴射剤混合物中のビタミンD類似体およびコルチコステロイドの溶解度試験(【0117】)であり、DMEの量を増大させることによって、3種類のビタミンD類似体および5種類のコルチコステロイドの溶解度が増大すること(【0121】)が確認できる。
実施例8
実施例8は、異なるガスケット物質存在下でのカルシポトリオール/BDPの化学的安定性(【0124】)に関するものであり、組成物E(【0124】)について、BunaおよびNPRが、カルシポトリオールおよびベタメタゾンジプロピオン酸エステルの双方の分解を起こすが、VitonおよびEPDMガスケットは、カルシポトリオールおよびベタメタゾンジプロピオン酸エステルの安定性に負の影響を有さず、従って、それらは、試験された組成物のためのガスケット材料として有用であることが確認できる。

そして、実施例1、7によると、各々複数種類のビタミンD類似体及びコルチコステロイドにおいて溶解度が増大し(実施例7)、そのうちの特定の組み合わせにおいて、長期間の安定性がみられた(実施例1)のであるから、「ジメチルエーテルをそれ自身噴射剤として用いたとき、または、ある割合のジメチルエーテルをC_(3-5)アルカン類に添加して噴射剤混合物を形成する」ことによって、噴射剤混合物中のビタミンD類似体およびコルチコステロイドが、「十分に溶解せず、その結果、経時的にビタミンD類似体が溶液から沈殿して、コルチコステロイドの結晶成長が観察され、すなわち、本組成物が組成物の貯蔵寿命において物理的に安定でないこと」という問題が発生しないことを当業者は認識できるものと認められる。
また、実施例3、6、8に基づき、「ジメチルエーテル、または、ある割合のジメチルエーテルをC_(3-5)アルカン類に添加して形成した噴射剤混合物」は、カルシポトリオールおよびBDP(組成物E)の何れの化学的安定性にも有害でないこと、及び、実施例4、5に基づき、組成物Eが「Daivobet(登録商標) 軟膏より優れた皮膚浸透および生物学的活性を有する」ことも確認することができる。
そうすると、「ジメチルエーテルをそれ自身噴射剤として用いたとき、または、ある割合のジメチルエーテルをC_(3-5)アルカン類に添加して噴射剤混合物を形成するとき」には、「ビタミンD誘導体または類似体およびコルチコステロイドを有効成分として含み、Daivobet(登録商標) 軟膏より優れた皮膚浸透および生物学的活性を有するが、プロピレン グリコールと異なって、ビタミンD誘導体もしくは類似体またはコルチコステロイドの何れの化学的安定性にも有害でない、有効成分のための溶媒を含む局所スプレー組成物を提供すること」という課題を解決することを当業者は認識できるものと認められる。

これに対し、特許異議申立人は、以下の主張(異議申立書32頁5行?33頁1行)をしている。
「本件特許発明は、コルチコステロイドとして多種多様で様々な物性(溶媒への溶解度を含む)のものが存在するところ、実施例で実際に保存安定性(化学的安定性)が実証されているコルチコステロイドは、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル(以下、「BDP」という。)のみである。
したがって、BDPよりも溶解性の劣る「モメタゾンフランカルボン酸エステル」や「トリアムシノロンアセトニド」については、「有効成分が十分に溶解せず、その結果、経時的にビタミンD類似体が溶液から沈殿して、コルチコステロイドの結晶成長が観察され、すなわち、本組成物が組成物の貯蔵寿命において物理的に安定でない」(【0050】)といえる。
また、溶解性と化学的安定性とが相関しうることは想定されるから、BDPよりも溶解性の劣る「モメタゾンフランカルボン酸エステル」や「トリアムシノロンアセトニド」については化学的安定性の向上を予測できるとはいえない。
したがって、本件特許発明の範囲(コルチコステロイド全般)まで、発明の詳細な説明の内容を拡張ないし一般化できない。」

しかしながら、参考資料(特に、参考資料1の2及び18)にはトリアムシノロンアセトニドのジエチルエーテルに対する溶解性が記載されているものの、DMEに対する溶解性は記載されておらず不明であるから、BDPよりもトリアムシノロンアセトニドのDMEに対する溶解性が劣ることを前提とする特許異議申立人の主張は、その前提とする事項が事実であることを確認できない点で採用できないものである。
また、仮に、DMEに対する溶解性とジエチルエーテルに対する溶解性がほぼ等しく、参考資料に基づき、BDPよりもトリアムシノロンアセトニドの方がDMEに対する溶解性が劣る(そして、溶解性は「ほとんど溶けない」である)としても、それは、単にトリアムシノロンアセトニドの方がBDPよりも溶解しうる量が少ないことを意味するだけであって、トリアムシノロンアセトニドの場合には溶解しないものが存在するとまではいえない。
なお、例えば、発明の詳細な説明に記載されている「組成物C」(【0090】)は、BDP0.006%(w/w)、DME90.3%(w/w)を含む組成物であるから、DMEの密度を0.67g/cm^(3)として計算すると、BDP1gに対するDMEの量は22500mlである。そうすると、仮に組成物CにおいてBDPの代わりにトリアムシノロンアセトニドを使用した場合、トリアムシノロンアセトニドのDMEに対する溶解性が「ほとんど溶けない」すなわち、トリアムシノロンアセトニド1gを溶かすに要するDMEの量が10000mL以上であるとしても、溶解しないものが存在するとまではいえない(完全に溶解する可能性がある)。
「モメタゾンフランカルボン酸エステル」のジエチルエーテルに対する溶解性は、参考資料を参照すると、トリアムシノロンアセトニドのそれよりも大きいから、上記でトリアムシノロンアセトニドについて説示したと同様の理由により、溶解しないものが存在するとまではいえない。

また、特許異議申立人は、上記主張に加え、以下の主張(異議申立書33頁3?25行)もしている。
「実施例で実際に有効成分であるビタミンD体とコルチコステロイドの保存安定性が実証されているスプレー組成物は、ポリオキシプロピレン(PPG)-15-ステアリルエーテル(非蒸発油性共溶媒)が配合されているものに限られているが、ポリオキシプロピレン(PPG)-15-ステアリルエーテルが保存安定性に影響を及ぼすことは、甲第1号証から明らかであるから、非蒸発油性共溶媒を含まない形態の本件特許発明1は、発明の詳細な説明には、本件特許発明1の課題を解決できるように記載されていない。」

しかしながら、本件特許発明に係る組成物は、大部分がDMEなどの噴射剤からなる組成物である(例えば、上述の「組成物C」の場合、DMEが90.3%(w/w))であるのに対し、甲第1号証に記載されている組成物は大部分が白色ワセリンなどである(例えば、実施例1の組成物は、1g中0.919gが白色ワセリンである)点で組成が異なっている。
そして、これらの組成物中で有効成分であるビタミンD体及びコルチコステロイドが保存されているのであるから、本件特許発明と甲第1号証に記載されている組成物では、有効成分であるビタミンD体とコルチコステロイドの保存条件が異なるといえる。
そうすると、本件特許発明においても甲第1号証に記載されている組成物の場合と同様に(例えば、同じ作用機序で)ポリオキシプロピレン(PPG)-15-ステアリルエーテル(非蒸発油性共溶媒)が保存安定性に影響を及ぼすとは限らない。また、ポリオキシプロピレン(PPG)-15-ステアリルエーテル(非蒸発油性共溶媒)を含まない場合には本件特許発明が課題を解決することができないといえる技術常識もない。
してみれば、上記特許異議申立人の主張も採用できない。

以上のとおりであるから、本件特許発明1は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

(2) 本件特許発明3、4、11?19、21?24について
本件特許発明3、4、11?19、21?24は、本件特許発明1をさらに限定した発明に該当するところ、上記各実施例は、本件特許発明3、4、11?19、21?24の実施例でもあるといえる。
したがって、本件特許発明3、4、11?19、21?24についても、本件特許発明1と同様の理由により、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められる。

4-1-3. 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1、3、4、11?19、21?24は、発明の詳細な説明の記載により、当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであると認められるから、本件特許発明1、3、4、11?19、21?24に係る特許は、理由1によって取り消すべきものであるとはいえない。


4-2.理由2について

理由2は、実質的には理由1と同趣旨のものと認められる。
したがって、本件特許発明1、3、4、11?19、21?24に係る特許は、理由2によって取り消すべきものであるとはいえない。


4-3.理由3について
4-3-1.甲号証の記載
甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
「 【請求項1】 皮膚用の医薬組成物であって、少なくとも1つのビタミンDまたはビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A、および少なくとも1つのコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む、医薬組成物。
(中略)
【請求項11】 単相組成物の形態である、請求項1?10のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】 軟膏である、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】 実質的に本明細書中の実施例1に記載されたものである、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】 ローションである、請求項1?10のいずれか1項に記載の組成物。」
「 【0002】
(背景技術)
皮膚適用を行う多くの処置(例えば、乾癬の治療)では、2つまたはそれ以上の異なる薬理学的に活性な化合物を併用する処置がしばしば指示される。すなわち、例えば乾癬の治療では、コルチコステロイド化合物などのステロイド化合物と、カルシポトリオールなどのビタミンD類似体との併用処置が行われることが多い。これらの各活性化合物は個別調製で処方される。」
「 【0007】
(その解決方法)
上記の問題を解決するために、本発明は、少なくとも1つのビタミンDまたはビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A、および少なくとも1つのコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分Bを含む、皮膚用の医薬組成物を提供する。」
「 【0021】
局所用製剤
好ましい実施形態では、本発明は、軟膏、クリーム、ローション(好ましくは、頭皮ローション)、リニメントまたは他の展延可能な液体もしくは半液体製剤(好ましくは非水性)、または水中油もしくは油中水型エマルジョンの形態の局所用医薬組成物を提供する。1つの好ましい実施形態では、本発明の組成物は、単相組成物(すなわち、単一の溶媒系を含む組成物(軟膏など))である。
【0022】
さらに好ましい実施形態では、本発明は、皮膚用の非水性の医薬組成物を提供し、前記組成物は、
少なくとも1つのビタミンD類似体からなる第1の薬理学的活性成分A、
少なくとも1つのコルチコステロイドからなる第2の薬理学的活性成分B、
を含有し、
第1の薬理学的活性成分Aの至適安定pHと第2の薬理学的活性成分Bの至適安定pHとの差が少なくとも1であり、
(i)一般式R^(3)(OCH^(2)C(R^(1))H)_(x)OR^(2) (I)(式中、xは2?60の範囲であり、各x単位中のR^(1)は独立してHまたはCH^(3)であり、R^(2)は直鎖または分枝鎖C_(1-20)アルキルまたはベンゾイルであり、R^(3)はHまたはフェニルカルボニルオキシである)の化合物、
(ii)C_(4)?C_(8)ジカルボン酸のジ-(直鎖または分枝鎖)-C_(4-10)アルキルエステル
(iii)直鎖または分枝鎖C_(12-18)-アルキルベンゾエート、
(iv)直鎖または分枝鎖C_(10-18)アルカン酸またはアルケン酸の直鎖または分枝鎖C_(2-4)アルキルエステル、
(v)C_(8-14)アルカン酸とのプロピレングリコールジエステル、および
(vi)分枝鎖第1級C_(18-24)アルカノール
からなる群から選択される少なくとも1つの溶媒成分C
を含有する(成分AおよびBは上記のように定義される)。
【0023】
溶媒成分Cを含むこのような組み合わせ組成物では、活性成分はpH/安定性プロフィールが異なるにもかかわらず分解することなく共存することができることが見出された。活性化合物がpHに関して互いに影響しあう傾向は、最小になるか消滅する。
薬理学的に活性な化合物の間の至適安定pHの最大差は少なくとも1.5、より好ましくは少なくとも2、特に少なくとも2.5、さらに特に少なくとも3、とりわけ少なくとも4(少なくとも5など)であることが好ましい。」
「 【0031】
実施例1
カルシポトリオールおよびベタメタゾンジプロピオネートを含む軟膏
919.3gの白色ワセリンを80℃で融解後、70℃に冷却してその温度を維持する。その後、52.2mgのカルシポトリオール水和物(50mgカルシポトリオール)を50gのArlamol E(ポリオキシプロピレン-15-ステアリルエーテル)中に溶解して、溶液を形成させる(溶液1)。次いで、溶液1を、撹拌しながら融解ワセリンにゆっくり添加する。
【0032】
粒子状(99%<15μm)のベタメタゾン(0.5g(そのジプロピオネートとして0.643g))を、30gの流動パラフィンに分散させて分散物1を形成させる。分散物1および20mgのα-トコフェロールを、撹拌しながらカルシポトリオール含有ワセリ混合物に添加後、混合物を30℃未満まで冷却して以下の組成の本発明の組成物を得る。
【0033】
1gの軟膏中:
ベタメタゾン…………………………………………0.5mg
(ジプロピオネートとして0.643mg)
カルシポトリオール…………………………………50μg
(水和物として52.2μg)
流動パラフィン………………………………………30mg
ポリオキシプロピレン-15-ステアリルエーテル…50mg
α-トコフェロール…………………………………20μg
白色ワセリン ………………………………合計1gにする」

甲第2号証の記載事項
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
「【0011】
本発明の一つの目的は、乾癬を治療するために局所使用するための水性加圧型の安定な発泡性医薬組成物であり、親水性相と、少なくとも1の疎水性相と、界面活性剤と、活性成分としてのビタミンD類似体(たとえばカルシトリオール)と、コルチコステロイド(たとえばクロベタゾールプロピオネート)との組み合わせ物と、少なくとも1種の噴射ガスとを含む。加圧型とは、少なくとも1種の噴射ガスを含む組成物を意味する。本発泡性医薬組成物は、任意選択で、共界面活性剤、溶媒及び有機共溶媒、ゲル化剤を含んでもよい。」
「【0015】
「疎水性相」は、疎水性溶媒として先に言及されているように、これは限定されるものではないが、室温で液体又は固体である植物油、動物油、鉱物油、シリコーンオイル、合成オイル又はそれらの混合物であってよい。この疎水性相は活性剤(1種以上)のための溶媒として機能しうる。」
「【0018】
挙げることができる植物油の例には、大豆油及び綿実油、アーモンド油、パーム油、ごま油、ヒマワリ油が包含される。挙げることのできる動物油には、ラノリン油、スクワレン、魚油、ミンク油が包含される。挙げることのできる鉱物油には、Esso社から販売されているPrimol 352、Marcol 82、Marcol 152などの、様々な粘度のパラフィン油が包含される。」
「【0030】
本発明はまた、少なくとも1種の噴射ガスを含む組成物にも関する。この噴射ガスは、炭化水素、CFC、HFC、窒素、二酸化炭素、空気、またはそれらの混合物などの、当業者に公知のガスであることができる。これらのガスの例は、プロパン、ブタン、イソブタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン及びオクタフルオロシクロブタン、ジメチルエーテル、またはそれらの混合物である。」
「【0045】
本発明の主題はまた、乾癬を治療するために局所使用するための発泡性医薬組成物を製造するための、ビタミンD類似体とコルチコステロイドとの混合物の使用である。」
「【表1】


「【表2】


「【表3】




4-3-2. 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、実施例1(【0031】?【0033】)の記載に基づいて、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「合計が1gの軟膏であって、
ベタメタゾン0.5mg(ジプロピオネートとして0.643mg)、カルシポトリオール50μg(水和物として52.2μg)、流動パラフィン30mg、ポリオキシプロピレン-15-ステアリルエーテル50mg、α-トコフェロール20μg、白色ワセリン残部、
からなる軟膏」

4-3-3. 判断
(1)本件特許発明1について
甲1発明の「カルシポトリオール」について「50μg(水和物として52.2μg)」という量は、治療有効量であると認められるので、甲1発明の「カルシポトリオール50μg(水和物として52.2μg)」は、本件特許発明1の「治療有効量の、カルシポトリオール、カルシトリオール、タカルシトール、マキサカルシトール、パリカルシトールおよびアルファカルシドールからなる群から選択されるビタミンD誘導体または類似体」に相当する。
甲1発明の「ベタメタゾン」について「0.5mg(ジプロピオネートとして0.643mg)」という量は、治療有効量であると認められるので、甲1発明の「ベタメタゾン0.5mg(ジプロピオネートとして0.643mg)」は、本件特許発明1の「治療有効量のコルチコステロイド」に相当する。
甲1発明の組成物に含まれている水は、「カルシポトリオール50μg(水和物として52.2μg)」の結晶水のみであり、その量は、2.2μgであり、組成物中の含量は、0.00022%と計算される。
これに対し、本件特許発明1の「無水の」は、「軟膏組成物中の自由水の含量が、本組成物の約2重量%を超えない、好ましくは約1重量%を超えないことを意味する」(【0033】)から、甲1発明の「軟膏」は、本件特許発明1の「無水の」を満足する。
甲1発明の「軟膏」は、軟膏であるから「局所」に適用するものであるといえる。
したがって、甲1発明の「軟膏」は、本件特許発明1の「無水の局所組成物」に相当する。

そうすると、本件特許発明1と甲1発明の一致点、相違点は、以下のとおりである。
<一致点>
「治療有効量の、カルシポトリオール、カルシトリオール、タカルシトール、マキサカルシトール、パリカルシトールおよびアルファカルシドールからなる群から選択されるビタミンD誘導体または類似体、および、
治療有効量のコルチコステロイドを含む、
無水の局所組成物。」

<相違点1>
本件特許発明1は、「スプレー可能な組成物」であるのに対し、甲1発明は、「軟膏」である点。

<相違点2>
本件特許発明1は、「(i)ジメチルエーテルまたは(ii)ジメチルエーテルおよびC_(3-5)アルカンを含む薬学的に許容される噴射剤であって、該噴射剤中のC_(3-5)アルカンのジメチルエーテルに対する比が6:1?0:1(v/v)の範囲であり、該噴射剤に、ビタミンD誘導体または類似体およびコルチコステロイドが溶解する噴射剤」を含むのに対し、甲1発明は、そのような噴射剤を含まない点。

<相違点3>
本件特許発明1は、「噴射剤に溶解または懸濁した薬学的に許容される脂質担体を含み、当該脂質担体が、皮膚への適用および噴射剤の蒸発の際に、適用部位で半固体密封層を形成する1種以上のパラフィンを含む」のに対し、甲1発明は、脂質担体を含まない点。

相違点1について
甲第1号証には、組成物の形態について、「軟膏、クリーム、ローション(好ましくは、頭皮ローション)、リニメント」(【0021】)が記載されているが、「スプレー可能な組成物」は記載されていない。
また、甲第1号証には、甲1発明の軟膏を、スプレー可能な組成物に変更する動機付けとなるような事項も記載されていない。

甲第2号証には、乾癬を治療するために局所使用するための水性加圧型の安定な発泡性医薬組成物(【0011】)が記載されているが、軟膏をスプレー可能な組成物に変更することについての記載はない。

また、軟膏をスプレー可能な組成物に変更することが本件特許の優先日当時の周知技術であったともいえない。

そうすると、当業者が、甲第1、2号証に記載されている事項に基いて甲1発明の軟膏をスプレー可能な組成物に変更することを容易に想到することができたとはいえない。

なお、特許異議申立人は、「カルシポトリオール等のビタミンD体及びベタメタゾン等のコルチコステロイドの両方を有効成分とするスプレー組成物は、甲第2号証に記載されているから、当該両有効成分を含むスプレー組成物を着想することは当業者であれば極めて容易である。」と主張(異議申立書38頁17?21行)しているが、甲第2号証には単にスプレー組成物が記載されているだけであって、軟膏をスプレー可能な組成物に変えることについて記載されているわけではない。
特許異議申立人の主張は、採用できない。

相違点2について
上記相違点1についてに説示したとおり、当業者が、甲1発明の軟膏をスプレー可能な組成物に変更することを容易に想到することができたとはいえない。
そして、噴射剤は、もっぱらスプレー可能な組成物にするためのものである。
してみれば、当業者が甲1発明の軟膏に噴射剤を含ませることを容易に想到することができたとはいえない。

特許異議申立人は、C_(3-5)アルカンやDMEを噴射剤として採用すること、またそれらを噴射剤中一定割合で含むことは当業者にとって自明である(甲第2?11号証、参考資料1の2、及び、参考資料2)から、当該両有効成分を含むスプレー組成物を着想し、具現化する際に、C_(3-5)アルカンやDMEを噴射剤として採用すること、またそれらを噴射剤中一定割合で含むことは当業者にとって容易想到であると主張する(異議申立書38頁24行?39頁21行)。
しかしながら、この主張は、甲1発明の軟膏において「当該両有効成分を含むスプレー組成物を着想」できることを前提とするものであり、この前提は、上記相違点1についてで説示したとおり、採用することができない。

したがって、当業者が、甲1発明において、甲第1?11号証に記載されている事項に基いて、(i)ジメチルエーテルまたは(ii)ジメチルエーテルおよびC_(3-5)アルカンを含む薬学的に許容される噴射剤であって、該噴射剤中のC_(3-5)アルカンのジメチルエーテルに対する比が6:1?0:1(v/v)の範囲であり、該噴射剤に、ビタミンD誘導体または類似体およびコルチコステロイドが溶解する噴射剤を含むものとすることを容易に想到することができたとはいえない。

相違点3について
「噴射剤に溶解または懸濁した薬学的に許容される脂質担体を含み、当該脂質担体が、皮膚への適用および噴射剤の蒸発の際に、適用部位で半固体密封層を形成する1種以上のパラフィンを含む」との事項は、噴射剤を含むこと(スプレー可能な組成物であること)を前提とするものであるところ、上記相違点1について、及び、相違点2についてに説示したとおり、当業者が、甲1発明の軟膏をスプレー可能な組成物に変更すること、及び、甲1発明の軟膏に噴射剤を含むようにすることのいずれについても容易に想到することができたとはいえない。
したがって、「噴射剤に溶解または懸濁した薬学的に許容される脂質担体を含み、当該脂質担体が、皮膚への適用および噴射剤の蒸発の際に、適用部位で半固体密封層を形成する1種以上のパラフィンを含む」ものとすることについても、当業者が容易に想到することができたとはいえない。

効果について
そして、本件特許発明1が奏する、Daivobet(登録商標) 軟膏より優れた皮膚浸透および生物学的活性を有するという効果、プロピレン グリコールと異なって、ビタミンD誘導体もしくは類似体またはコルチコステロイドの何れの化学的安定性にも有害でないという効果、及び、ビタミンD誘導体または類似体およびコルチコステロイドを有効成分として含む局所スプレー組成物を提供するという効果は、いずれも、ジメチルエーテルをそれ自身噴射剤として用いたとき、または、ある割合のジメチルエーテルをC_(3-5)アルカン類に添加して噴射剤混合物を形成するときに、Daivobet(登録商標) 軟膏より優れた皮膚浸透および生物学的活性を有すること、及び、プロピレン グリコールと異なって、ビタミンD誘導体もしくは類似体またはコルチコステロイドの何れの化学的安定性にも有害でないことについて記載も示唆もない上記各号証の記載からは、当業者といえども予測することができたものであるとはいえない。

特許異議申立人は、一般にプロパンやブタンなどのアルカンよりエーテルの方が薬物に対する溶解性が相対的に高いことから、ジメチルエーテル(DME)の割合を増やすことにより、ビタミンD体やコルチコステロイドの溶解性が向上しうることは明らかであると主張する(異議申立書40頁2?15行)が、そのような一般論から、上述の効果をいずれも予測することができたとはいえない。

したがって、本件特許発明1は、甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件特許発明3、4について
本件特許発明3は、本件特許発明1においてさらに「コルチコステロイドが、ベタメタゾン、ブデソニド、クロベタゾール、クロベタゾン、デスオキシメタゾン、ジフルコルトロン、ジフロラゾン、フルオシノニド、フルオシノロン、ハルシノニド、ハロベタゾール、ヒドロコルチゾン、モメタゾンおよびトリアムシノロンからなる群から選択されるものであるか、またはその薬学的に許容されるエステルである」との限定を有するものであり、本件特許発明4は、本件特許発明3においてさらに「コルチコステロイド エステルが、ベタメタゾンジプロピオン酸エステル、ベタメタゾン吉草酸エステル、クロベタゾールプロピオン酸エステル、ヒドロコルチゾン酢酸エステルまたはヒドロコルチゾン酪酸エステルである」との限定を有するものであるが、本件特許発明1は、上記(1)に説示したとおり、甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明3、4も甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)本件特許発明11?16について
本件特許発明11は、本件特許発明1においてさらに「C_(3-5)アルカンが、n-プロパン、イソプロパン、n-ブタンおよびイソブタンからなる群から選択される」との限定を有するものであり、本件特許発明12は、本件特許発明11においてさらに「C_(3-5)アルカンが、n-ブタンおよび/またはイソブタンである」との限定を有するものであり、本件特許発明13は、本件特許発明12においてさらに「n-ブタンおよび/またはイソブタン:ジメチルエーテルの比が、5:1?1:2(v/v)の範囲である」との限定を有するものであり、本件特許発明14は、本件特許発明12においてさらに「n-ブタンおよび/またはイソブタン:ジメチルエーテルの比が、4:1?1:1(v/v)の範囲である」との限定を有するものであり、本件特許発明15は、本件特許発明12においてさらに「n-ブタンおよび/またはイソブタン:ジメチルエーテルの比が、4:2?1:1(v/v)の範囲である」との限定を有するものであり、本件特許発明16は、本件特許発明12においてさらに「n-ブタンおよび/またはイソブタン:ジメチルエーテルの比が、4:2?4:3(v/v)の範囲である」との限定を有するものである。
また、特許異議申立人は、甲第3、5?7、9、10号証に、噴射剤に
ついてC_(3-5)アルカン(プロパン、n-ブタン、イソブタン)やその使用量が記載されていると主張する(異議申立書41頁11?28行)。
しかしながら、本件特許発明1は、上記(1)に説示したとおり、甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本件特許発明11?16が甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)本件特許発明17?19について
本件特許発明17は、本件特許発明1においてさらに「 (a) 0.00001?0.05%(w/w)のビタミンD誘導体または類似体、
(b) 0.0005?1%(w/w)のコルチコステロイド、
(c) 5?55%(w/w)の脂質担体、および、
(d) 45?95%(w/w)の噴射剤
を含む」との限定を有するものであり、本件特許発明18は、本件特許発明17においてさらに「10?50%(w/w)の脂質担体を含む」との限定を有するものであり、本件特許発明19は、本件特許発明17においてさらに「50?90%(w/w)の噴射剤を含む」との限定を有するものである。
また、特許異議申立人は、組成物中に含まれる各配合成分の各数値範囲のどれも格別顕著な効果も意外な効果もないから、進歩性を有しないと主張している(異議申立書42頁2?8行)。
しかしながら、本件特許発明1は、上記(1)に説示したとおり、甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本件特許発明17?19が甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(5)本件特許発明21?22について
本件特許発明21は、本件特許発明1においてさらに「脂質担体が、C_(14-16)、C_(18-22)、C_(20-22)、C_(20-26)、C_(28-40)およびC_(40-44)に鎖長ピーク(ガスクロマトグラフィーによって測定)を有し、C5?C60の鎖長を有する炭化水素からなるパラフィンから選択される少なくとも1種のパラフィンを含む」との限定を有するものであり、本件特許発明22は、本件特許発明1においてさらに「脂質担体が、適用および噴射剤の蒸発の際に皮膚上に半固体密封層を形成する性質を脂質担体に与えられる親油性粘度増大剤であって、微晶性ワックス、シリコン・ワックスおよび水素化ヒマシ油またはそれらの混合物からなる群から選択される親油性粘度増大剤を含む」との限定を有するものである。
また、特許異議申立人は、組成物中に含まれる脂質担体ないしパラフィンに格別顕著な効果も意外な効果もないから、進歩性を有しないと主張している(異議申立書42頁11?17行)。
しかしながら、本件特許発明1は、上記(1)に説示したとおり、甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本件特許発明21?22が甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(6)本件特許発明23?24について
本件特許発明23は、本件特許発明1においてさらに「皮膚疾患または状態の処置に使用するための」との限定を有するものであり、本件特許発明24は、本件特許発明23においてさらに「皮膚疾患または状態が、乾癬である」との限定を有するものである。

また、特許異議申立人は、そもそもビタミンD誘導体およびコルチコステロイドは、乾癬などの皮膚疾患の処置に使用されるものである(甲第1、12号証)から、進歩性を有しないと主張している(異議申立書42頁20?29行)。
しかしながら、本件特許発明1は、上記(1)に説示したとおり、甲1発明と、甲第2?11号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないものであるから、本件特許発明23?24が甲1発明と、甲第2?12号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

4-3-4. 小括
以上のとおり、本件特許発明1、3、4、11?19、21?24は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2?12号証に記載された事項及び本件優先日当時の技術常識に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、本件特許発明1、3、4、11?19、21?24に係る特許は、理由3によって取り消すべきものであるとはいえない。


5.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、3、4、11?19、21?24に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、4、11?19、21?24に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-07 
出願番号 特願2013-513558(P2013-513558)
審決分類 P 1 652・ 121- Y (A61K)
P 1 652・ 537- Y (A61K)
P 1 652・ 536- Y (A61K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 井上 明子  
特許庁審判長 内藤 伸一
特許庁審判官 穴吹 智子
蔵野 雅昭
登録日 2016-06-03 
登録番号 特許第5945268号(P5945268)
権利者 レオ ファーマ アクティーゼルスカブ
発明の名称 ビタミンD類似体およびコルチコステロイドを含むスプレー医薬組成物  
代理人 落合 康  
代理人 山田 卓二  
代理人 青山 葆  
代理人 西野 満  
代理人 松谷 道子  

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