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審決分類 審判 判定 同一 属する(申立て成立) A41B
管理番号 1327026
判定請求番号 判定2016-600082  
総通号数 209 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2017-05-26 
種別 判定 
判定請求日 2016-12-05 
確定日 2017-03-31 
事件の表示 特許第3330076号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 イ号図面及びその説明書に示す「使い捨ておむつ」は、特許第3330076号発明の技術的範囲に属する。 
理由 第1 請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、イ号図面及び説明書に示す「使い捨ておむつ」(以下、「イ号物件」という。)が、特許第3330076号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
なお、本件判定請求は、被請求人が存在しないものであり、その理由として、請求人は、判定請求書において、本件イ号物件は、外国において販売されたもので、詳細を調査できないため、被請求人となるべき相手方を特定することができなかった旨、主張している (判定請求書6.(1))。

第2 本件特許発明
本件特許第3330076号の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下、「本件特許発明」という。)は、特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、「本件特許明細書等」という。)の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりである。
本件特許発明の構成要件を分説すると以下のとおりである(以下、「構成要件A」などという。)。
「【請求項1】
A 透液性表面シートと、不透液性裏面シートと、これら両シート間に介在する吸液性コアとを有し、
B 前胴周り域と、後胴周り域と、これら両域間に位置する股下域とで前後方向が構成され、
C 前記股下域を中心に前記前後方向へ延びる脚周り弾性伸縮部材が左右の側縁部に配置されている使い捨ておむつであって、
D 前記コアが、前記股下域を中心に前記前後胴周り域間に延在し、おむつ着用者の肌側に位置する上面と、前記上面の反対面である下面と、これら両面間に位置して胴周り方向へ延びる前後端面および前後方向へ延びる両側面とを有し、
E 前記コアの上面を被覆している表面シートが、前記コアの両側面に沿って前記コアの下面側へ折り返されて、該下面の少なくとも一部分を被覆し、
F 前記裏面シートが、前記下面側へ折り返されている部分の表面シートよりも下方に位置して前記コアから外方へ延出しており、
G 前記下面側へ折曲されている部分の表面シートが、前記コアの側面よりも前記おむつの幅方向を二分する中心線寄りの位置で前記裏面シートに接合しており、
H 前記脚周り弾性伸縮部材が、前記コアの側面近傍において前記裏面シートに取り付けられていることを特徴とする前記おむつ。」

第3 イ号物件
請求人は、イ号物件を説明するものとして、判定請求書とともに、イ号図面及び説明書(甲第1号証の1?6、甲第3号証の1?18。以下、「甲1の1」のようにいう。)を提出した。
また、検甲第1号証を提出して、その外観、構造及び機能を明らかにするために検証を申し出るとともに、あわせて、本件と判定2016-600089号は、対象となる検証物が同一であるため、これらの事件の併合を求めた(検証申出書4(3)、(4))。なお、判定2016-600089号に係る判定請求は、平成29年2月23日付けで取り下げられた。
この検甲第1号証は、イ号物件に係る商品名「BabyLove NightPants」のパッケージのLサイズの13個封入に封入された物品である(検証申出書4(1))。

1.判定請求書の記載
判定請求書には、甲1の1?6、甲3の1?18について、以下の記載がある。
(1)「甲1の1乃至1の3は、それぞれ「イ号物件が13個封入された、商品名「BabyLove NightPants」が表示されたパッケージの表面側から撮影した写真」、「イ号物件が13個封入されたパッケージの裏面側から撮影した写真」、「13個封入されたパッケージから1個取り出したイ号物件を人体下半身のマネキンに着用させ、前面側から撮影した写真」である。」(判定請求書3頁30行?4頁2行)
(2)「甲3の1と甲3の2とは、それぞれ「13個封入されたパッケージから1個取り出した、イ号物件を展開し、製品内側(肌当接面側)を上面にして板状の部材に伸張させて貼り付けた状態の写真」、「13個封入されたパッケージから1個取り出した、イ号物件を展開し、製品外側(非肌当接面側)を上面にして板状の部材に伸張させて貼り付けた状態の写真」である。
甲3の3は、「13個封入されたパッケージから1個取り出したイ号物件を、人体下半身のマネキンに着用させ、右側面側から撮影した写真」である。
甲3の4は、「13個封入されたパッケージから1個取り出したイ号物件を、展開し、肌当接面側を内側にして、自然状態での右股下域の拡大写真」である。
甲3の5は、「13個封入されたパッケージから1個取り出したイ号物件を、展開し、非肌当接面側を内側にして、自然状態で撮影した写真」である。
甲3の6は、「13個封入されたパッケージから1個取り出した、イ号物件を展開し、製品内側(肌当接面側)を上面にして板状の部材に伸張させて貼り付け、イ号物件の左後ろ側のコアの肌当接面、側面及び非肌当接面を覆うシート状の部材、表面シート、ティッシュペーパの中心線から左側の一部を切除した状態の拡大写真」である。
甲3の7は、「13個封入されたパッケージから1個取り出した、イ号物件を展開し、製品内側(肌当接面側)を上面にして板状の部材に伸張させて貼り付け、イ号物件の前後方向の中心に位置するコアの肌当接面、側面及び非肌当接面を覆うシート状の部材を外した状態で、股下域のコアの幅方向の外縁に印を付けた写真」である。
甲3の8は、「13個封入されたパッケージから1個取り出したイ号物件を、展開し、肌当接面側を上側にした状態で、股下域のコアの幅方向の外縁に印を付けた部分の拡大写真」である。
甲3の9は、「13個封入されたパッケージから1個取り出した、イ号物件を展開し、製品内側(肌当接面側)を上面にして板状の部材に伸張させて貼り付け、イ号物件の前後方向の中心に位置するコアの肌当接面、側面及び非肌当接面を覆うシート状の部材を外し、前後方向の中心のコアの幅方向の外縁に印を付け、コアを製品の内側に折り返し、コアの前後方向の中心における幅方向の縁部に印から弾性部材までの距離を測定した写真」である。」(同4頁8行?5頁5行)
(3)「なお、13個封入されたパッケージに封入されているイ号物件、及び34個封入されたパッケージに封入されているイ号物件は同一であるため、以下甲3の1から3の9に基づきイ号物件を説明する。」(同6頁8行?11行)

2.イ号図面及び説明書
イ号図面及び説明書によれば、以下が看取できる。
(1)甲1の3、甲3の3によれば、パッケージから取り出したイ号物件を、絵柄の表示が見られる面を外側にして、人体下半身のマネキンに着用させたところ、自然な着用状態である。
(2)甲3の1によれば、展開したイ号物件には、「6-1」と付された領域、「7-1」と付された領域、「8-1」と付された領域があり、「8-1」と付された領域を中心に、「6-1」と付された領域と「7-1」と付された領域にかけて、白色の部材が配置されている。
その白色の部材は、「17-1」と付された上面、「21-1」、「22-1」と付された端部、「23-1」と付された両側部を有する。
甲3の2によれば、「7-1」と付された領域には、「BACK」の文字が表示されている。
(3)甲3の1、甲3の5、甲3の6、甲3の8によれば、「6-1」?「8-1」と付された領域にわたって配置された白色の部材は、「2-1」と付された部材、「11-1」と付された部材と「12-1」と付された部材からなる「4-1」と付された部材を備える。
(4)甲3の1、甲3の7、甲3の8によれば、「6-1」?「8-1」と付された領域にわたって配置された白色の部材の他に、イ号物件は、「6-1」と付された領域から「7-1」と付された領域に向かう方向に沿って、白色の部材の外側側方に展開できる白色のシートを備える。
(5)甲3の2、甲3の4によれば、イ号物件は、絵柄が表示された側には、「3-1」と付された部材を備える。
(6)甲3の2によれば、「6-1」と付された領域から「7-1」と付された領域に向かう方向に沿って、「8-1」と付された領域の両端に、「37-1」と付された部位がある。
また、甲3の5によれば、イ号物件を展開し、絵柄の表示のない側を内側にして、自然な状態では、「37-1」と付された2つの部位に皺ができている。

3.検甲第1号証
検甲第1号証は、平成29年2月28日の口頭審理及び証拠調べの検証調書に示す以下のとおりである(写真は省略した。)。
「(1)パッケージは、判定2016-600082における甲第1号証の1及び甲第1号証の2のとおり。サイズは「L」と記載されている。
(2)パッケージには、検甲第1号証が折り畳まれた状態で13個収容されている。
(3)検甲第1号証の「BACK」の文字が付された面と「BACK」の文字が付されていない面の接合部を切断し、「BACK」の文字が付された面が上面となるように検甲第1号証を板状部材に伸張させて貼り付けた。
その状態は、判定2016-600082における甲第3号証の2のとおり。
(4)検甲第1号証の「BACK」の文字が付されていない面が上面となるように板状部材に伸張させて貼り付けた状態では、判定2016-600082における甲第3号証の1のとおり。
(5)「BACK」の文字が付されていない面が上面となるように板状部材に貼り付けた状態で、検甲第1号証の前後方向(前胴に当たる面と後胴に当たる面の間の方向)の中央かつ幅方向(胴周り方向)の中央に50ccの青色の疑似尿を垂らし、検甲第1号証の前後方向の端部から8cmまでの部分のみが露出するように、フィルム状の透明のシートによって覆い、透明のシートによって覆われていない露出した部分に、コールドスプレーをかけた。
(6)コールドスプレーをかけた部分の上面側のシートを剥がすと、繊維状部材の集合体(赤色の色鉛筆で示す)がティッシュ状のシート(青色の色鉛筆)で包まれており、集合体とティッシュ状のシートとからなる構造体の上面側を、上面シート部材(緑色の色鉛筆)が覆っている。また、構造体の下面側には、フィルム状の白色のシートと不織布状のシートとからなる下面シート部材(黄色の色鉛筆)が設けられている。
(7)上面シート部材の上面を手で触ったところ、手には疑似尿が付かない。
(8)集合体とティッシュ状のシートからなる構造体は、疑似尿の青色に変色している。
(9)検甲第1号証を貼り付けた板状部材を持ち上げて上下反転させ、検甲第1号証を板状部材の下面になるようにしても、疑似尿が構造体から下に垂れない。
(10)上記(5)でコールドスプレーをかけていない部分の構造体を下面シート部材から分離し、疑似尿を0.5cc垂らしたところ、疑似尿が下面シート部材の上で水滴状のまま維持されている。
(11)構造体の前後方向の中央近傍の、上面シート部材の側縁部を覆うサイドシート部材を、構造体から幅方向外側に引っ張り、板状部材に貼り付けた。
(12)上面シート部材(緑色の色鉛筆で示す)が、構造体の側面(青色の色鉛筆)に沿って構造体の下面側に折り返され、上面シート部材が構造体の下面の一部を覆っている。
(13)上面シート部材(緑色の色鉛筆で示す)とサイドシート部材(水色の色鉛筆)との接合部分(茶色の色鉛筆)が、構造体の側面(青色の色鉛筆)よりも検甲第1号証の幅方向の中心に寄っている。
(14)下面シート部材とサイドシート部材を、それらの接合部分の側縁部(橙色の色鉛筆で示す)から剥がすと、上面シート部材とサイドシート部材との接合部分の側縁部(茶色の色鉛筆)の下方まで、接合されている。
(15)下面シート部材は、構造体の下面側へ折り返されている上面シート部材よりも下方に位置し、構造体から外方へ延出している。
(16)構造体の側面近傍には糸状部材が配置されており、糸状部材を前後方向に引っ張ると、糸状部材は伸び縮みする。
(17)サイドシート部材は複数層からなり、積層されたサイドシート部材間に糸状部材が配置されている。
(18)サイドシート部材と下面シート部材は接合されている。
(19)力を加えていない自然な状態の検甲第1号証において、糸状部材の周りの下面シート部材に皺が形成されている。
(20)糸状部材は、検甲第1号証の前後方向の中央部に配置されている。」

4.イ号物件の認定
上記「1.判定請求書の記載」、「2.イ号図面及び説明書」、「3.検甲第1号証」等をふまえると、イ号物件について、以下のことがいえる。
(1)イ号図面及び説明書に示すものと検甲第1号証とは、同一の物件である(検証調書(1)(2)(3)(4)、口頭審理陳述要領書4.(6))。
(2)イ号物件は、人体下半身のマネキンに着用させたところ自然な着用状態であり、人の下半身に装着して用いられるパンツ状の物品である。また、イ号物件は不織布及び繊維状部材で構成されているため布よりも破れ易く、洗濯することもできない。また、その内側に配置された不織布や吸液性ポリマー粒子は、一度吸液すると使用前の状態に戻すことができない材料であるから、このような物品は、一般に「使い捨ておむつ」ということができる(甲1の3、甲3の3、口頭審理陳述要領書4.(2))。
(3)展開されたイ号物件の「7-1」と付された領域には、イ号物件上に「BACK」の文字の表示が見られ、人の体にとって 「BACK」は「背側」を意味するものであるから、「使い捨ておむつ」において、「7-1」と付された領域は、人の後側の胴回りに当接する領域にあたると理解でき、あわせて、「6-1」と付された領域は前側の胴回りに当接する領域、「8-1」と付された領域は、人の股下に当接する領域にあたり、これらにより前後方向が構成される(甲3の2、検証調書(3))。
(4)展開されたイ号物件の、「後側の胴回りに当接する領域(7-1)」、「前側の胴回りに当接する領域(6-1)」、「股下に当接する領域(8-1)」にわたって配置された白色の部材は、マネキンに接する側にあり、その白色の部材は、「繊維状部材の集合体(11-1)」と「ティッシュ状のシート(12-1)」からなる「構造体(4-1)」と、その上面側を覆う「上面シート部材(2-1)」からなる。また、「構造体(4-1)」の下面には「下面シート部材(3-1)」が配置されていることから、「上面シート部材(2-1)」と「下面シート部材(3-1)」の両シート間に「構造体(4-1)」が位置する(甲1の3、甲3の1、甲3の3、甲3の5、甲3の6、検証調書(6))。
(5)「構造体(4-1)」は、「股下に当接する領域(8-1)」を中心に、「前側の胴回りに当接する領域(6-1)」と「後側の胴回りに当接する領域(7-1)」にかけて配置されている。また、「構造体(4-1)」の「上面(17-1)」は、人の肌側に面していることが明らかである。
さらに、「構造体(4-1)」は、「前側の胴回りに当接する領域(6-1)」において胴回り方向に延びる「端部(21-1)」、「後側の胴回りに当接する領域(7-1)」において胴回り方向に延びる「端部(22-1)」を有し、前後方向に延びる「側面(23-1)」を幅方向両側に有する(甲1の3、甲3の1、甲3の3)。
(6)「構造体(4-1)」は、疑似尿を吸収し保持するものであるから、吸液性があるといえる(検証調書(8)(9))。
(7)「上面シート部材(2-1)」は、疑似尿をかけても「上面シート部材(2-1)」上に液体が存在せず、下に透過するから、透液性があるといえる(検証調書(7))。
(8)「下面シート部材(3-1)」は、疑似尿をかけると「下面シート部材(3-1)」上に水滴になり、下に透過しないから、不透液性があるといえる(検証調書(10))。
(9)「下面シート部材(3-1)」は不透液性があるものであり、「構造体(4-1)」は吸液性があるものであるから、互いに別個の部材である。そのため、「構造体(4-1)」は「下面シート部材(3-1)」の上に位置し、「構造体(4-1)」は、下面シート部材(3-1)」側、すなわち「上面(17-1)」の反対側に「下面」を有する。
(10)「上面シート部材(2-1)」は、「構造体(4-1)」の上面側を覆い、「構造体(4-1)」の前後方向に延びる「側面(23-1)」に沿って「構造体(4-1)」の下面側に折り返され、「上面シート部材(2-1)」が「構造体(4-1)」の「下面」の一部を覆っている(検証調書(12))。
(11)「下面シート部材(3-1)」は、「構造体(4-1)」の下面側に折り返されている「上面シート部材(2-1)」よりも下方に位置し、「構造体(4-1)」から外方に延出している(検証調書(15))。
(12)イ号物件は、「前側の胴回りに当接する領域(6-1)」から「後側の胴回りに当接する領域(7-1)」に延びる「サイドシート部材」を有する(甲3の7、甲3の8)。
また、その「サイドシート部材」と「上面シート部材(2-1)」の接合部分は、「構造体(4-1)」の側面よりも幅方向の中心に寄っている(検証調書(13))。
(13)「サイドシート部材」と「下面シート部材(3-1)」は、「上面シート部材(2-1)」と「サイドシート部材」の接合部分の下方で接合されている(検証調書(14))。
(14)「股下に当接する領域(8-1)」の左右両端の「37-1」と付された部位には、「糸状部材」が配置されている(検証調書(20))。
この「糸状部材」を前後方向に引っ張ると伸び縮みすることから、「糸状部材」は、伸縮性を有し、少なくとも伸び縮みすることができる程度に、前後方向に延びている(検証調書(16))。
(15)「糸状部材(37-1)」は、「構造体(4-1)」の側面近傍に配置されている(検証調書(16))。
(16)「糸状部材(37-1)」は「サイドシート部材」に接合されており、この「サイドシート部材」と「下面シート部材(3-1)」は接合されている。そして、力を加えていない自然な状態で、「糸状部材」の周りの「下面シート部材(3-1)」に皺が形成されていることから、「糸状部材(37-1)」の「サイドシート部材」への接合位置の周りで、「サイドシート部材」と「下面シート部材(3-1)」は接合されているといえる(検証調書(17)(18)(19))。

上記を踏まえてイ号物件を、本件特許発明の構成要件A?Hに対応させて整理すると、イ号物件は、以下の構成を具備するものと認められる(以下、「構成a」などという。)。
「a 透液性の上面シート部材(2-1)と、不透液性の下面シート部材(3-1)と、これらの両シート間に位置する吸液性の構造体(4-1)とを有し、
b 前側の胴回りに当接する領域(6-1)と、後側の胴回りに当接する領域(7-1)と、これらの両域間に位置する股下に当接する領域(8-1)とで前後方向が構成され、
c 股下に当接する領域(8-1)の左右両端の部位に、糸状部材(37-1)が配置され、その糸状部材(37-1)は伸縮性を有し、前後方向に延びている使い捨ておむつであって、
d 前記構造体(4-1)は、股下に当接する領域(8-1)を中心に、前側の胴回りに当接する領域(6-1)と後側の胴回りに当接する領域(7-1)にかけて配置され、人の肌側に面している上面(17-1)と、上面(17-1)の反対側の下面と、前後の胴回りに当接する領域(6-1、7-1)で胴回り方向に延びる両端部(21-1、22-1)と、前後方向に延びる両側面(23-1)とを有し、
e 前記上面シート部材(2-1)は、構造体(4-1)の上面側を覆い、構造体(4-1)の前後方向に延びる側面(23-1)に沿って構造体(4-1)の下面側に折り返されて、構造体(4-1)の下面の一部を覆い、
f 前記下面シート部材(3-1)は、構造体(4-1)の下面側に折り返されている上面シート部材(2-1)よりも下方に位置し、構造体(4-1)から外方に延出しており、
g サイドシート部材を有し、構造体(4-1)の下面側に折り返されている上面シート部材(2-1)とサイドシート部材の接合部分が、構造体(4-1)の側面(23-1)よりも幅方向の中心に寄っており、サイドシート部材と下面シート部材(3-1)は、上面シート部材(2-1)とサイドシート部材の接合部分の下方で接合されており、
h 前記糸状部材(37-1)は、構造体(4-1)の側面近傍に配置され、糸状部材(37-1)はサイドシート部材に接合されており、この糸状部材(37-1)のサイドシート部材への接合位置の周りで、サイドシート部材と下面シート部材(3-1)は接合されている、おむつ。」

第4 当審の判断
イ号物件が本件特許発明の構成要件AないしHを充足するか否かについて検討する。
(1)構成要件Aについて
イ号物件の「上面シート部材(2-1)」、「下面シート部材(3-1)」、「構造体(4-1)」は、それぞれ、「透液性」、「不透液性」、「吸液性」の機能を有し、「上面シート部材(2-1)」と「下面シート部材(3-1)」の間に「構造体(4-1)」が位置し、イ号物件の「上面シート部材(2-1)」が本件特許発明の「透液性表面シート」に、「下面シート部材(3-1)」が「不透液性裏面シート」に、「構造体(4-1)」が「吸液性コア」に、それぞれ相当することは明らかである。
よって、イ号物件の構成aは、構成要件Aを充足する。

(2)構成要件Bについて
展開したイ号物件の「前側の胴回りに当接する領域(6-1)」、「後側の胴回りに当接する領域(7-1)」、これらの両域間に位置する「股下に当接する領域(8-1)」は、位置関係からみて、それぞれ本件特許発明の「前胴周り域」、「後胴周り域」、「股下域」に相当する。
よって、イ号物件の構成bは、構成要件Bを充足する。

(3)構成要件Cについて
イ号物件の「糸状部材(37-1)」は、股下に当接する領域(8-1)の左右両端の部位に、前後方向に延びて配置され、伸縮性を有する。伸縮性を有することは、伸びた後に、また元の長さに戻ることから、弾性を有するともいえる。また、イ号物件を人の体に装着した際には、股下に当接する領域(8-1)の左右両端の部位は、人の脚部の周辺部位に位置することは明らかである。
そうすると、イ号物件の「糸状部材(37-1)」は、股下域を中心に前後方向へ延びて左右の脚周りに配置され、伸縮性、あるいは弾性を有することから、本件特許発明の「脚周り弾性伸縮部材」に相当するものといえる。
そして、イ号物件は、本件特許発明と同様に「使い捨ておむつ」である。
よって、イ号物件の構成cは、構成要件Cを充足する。

(4)構成要件Dについて
前記(1)で述べたように、イ号物件の「構造体(4-1)」は、本件特許発明の「吸液性コア」に相当する。
そして、イ号物件の「構造体(4-1)」は、「股下に当接する領域(8-1)を中心に、前側の胴回りに当接する領域(6-1)と後側の胴回りに当接する領域(7-1)にかけて配置され、人の肌側に面している上面(17-1)と、上面(17-1)の反対側の下面と、前後の胴回りに当接する領域(6-1、7-1)で胴回り方向に延びる両端部(21-1、22-1)と、前後方向に延びる両側面(23-1)とを有し」ており、このことは、本件特許発明の「吸液性コア」が、「股下域を中心に前後胴周り域間に延在し、おむつ着用者の肌側に位置する上面と、上面の反対面である下面と、これら両面間に位置して胴周り方向へ延びる前後端面および前後方向へ延びる両側面とを有」することに相当する。
よって、イ号物件の構成dは、構成要件Dを充足する。

(5)構成要件Eについて
前記(1)で述べたように、イ号物件の「上面シート部材(2-1)」は、本件特許発明の「表面シート」に相当する。
そして、イ号物件の「上面シート部材(2-1)」は、「構造体(4-1)の上面側を覆い、構造体(4-1)の前後方向に延びる側面(23-1)に沿って構造体(4-1)の下面側に折り返されて、構造体(4-1)の下面の一部を覆」っており、このことは、本件特許発明の「表面シート」が、「コアの上面を被覆し」、「コアの両側面に沿ってコアの下面側へ折り返されて、該下面の少なくとも一部分を被覆し」ていることに相当する。
よって、イ号物件の構成eは、構成要件Eを充足する。

(6)構成要件Fについて
前記(1)で述べたように、イ号物件の「下面シート部材(3-1)」は、本件特許発明の「裏面シート」に相当する。
そして、イ号物件の「下面シート部材(3-1)」は、「構造体(4-1)の下面側に折り返されている上面シート部材(2-1)よりも下方に位置し、構造体(4-1)から外方に延出しており」、このことは、本件特許発明の「裏面シート」が、「下面側へ折り返されている部分の表面シートよりも下方に位置してコアから外方へ延出して」いることに相当する。
よって、イ号物件の構成fは、構成要件Fを充足する。

(7)構成要件Gについて
本件特許発明は、「下面側へ折曲されている部分の表面シートが、コアの側面よりもおむつの幅方向を二分する中心線寄りの位置で裏面シートに接合」する旨特定されている。このうち、「接合」とは、「つぎあわすこと。」(広辞苑第六版(甲4))を意味するが、本件特許明細書等の段落【0014】には、「コア4の前後端面21、22の近傍では、コア4の幅方向全体が表面シート2を介して裏面シート3に接合していてもよい。」とも記載されているから、本件特許明細書等における「接合」との文言は、他のシート状の部材を間に介してつぎあわせることを直ちには排除しないものと解される。
そこで、構成要件Gの「接合」の意義をさらに明らかにするために、本件特許発明の技術的意義をみると、従来の使い捨ておむつは、透液性表面シートと不透液性裏面シートとの間に吸液性コアを介在させ、コアの周縁から延出する表裏面シートを互いに接合するものであり、脚周り弾性部材を配置する際に、コアの剛性に拘束されることのないように、コアのヘリから1.91cm以上隔てられる必要があったものであるが、おむつ股下域の幅が広くなりすぎるという課題があったところ、その課題を解決するために、本件特許発明は、表面シートをコアの下面側へ折り返すとともに、その折り返された部分の表面シートを、コアの側面よりもおむつの幅方向を二分する中心線寄りの位置で裏面シートに接合させ、そのことにより、コアの剛性が高くても、裏面シートの脚周り弾性伸縮部材をコアの側面近傍に配置できるようにしたものであると認められる(本件特許明細書等の段落【0002】?【0004】、【0019】)。すなわち、脚周り弾性伸縮部材を、表裏面シートの接合位置から離して配置すれば、コアの剛性に拘束されないところ、本件特許発明では、当該接合位置がコアの周縁よりも内側にあるため、脚周り弾性伸縮部材をコアの側面近傍に配置できるものと解される。そうすると、構成要件Gで、表面シートが裏面シートに「接合」させた技術的意義は、その接合位置がコアの剛性に拘束される位置の目安となるという程度にとどまり、とすれば、当該技術的意義は、「接合」させた位置で、表面シートが裏面シートに相対的に固定されていることにあると解される。
以上によれば、構成要件Gで、表面シートが裏面シートに「接合」しているといえるためには、表面シートが裏面シートに相対的に固定するようにつぎあわされていれば足り、表面シートと裏面シートとの間に他のシート状の部材が存在しても差し支えないと解される。
この解釈は、本件特許明細書等の請求項3及び図5において、表面シートと裏面シートとの間に防漏カフを設けるものが記載されており、本件特許発明では、表面シートと裏面シートとの間に、防漏カフのような他のシート状の部材が存在することが予定されていると解されることからも相当であるというべきである。

これをイ号物件についてみると、「上面シート部材(2-1)」の「サイドシート部材」(本件特許明細書等でいう「防漏カフ」に相当する。)への接合位置は、「構造体(4-1)の側面(23-1)」よりも幅方向の中心に寄って接合され、この「上面シート部材(2-1)」と「サイドシート部材」の接合部分の下方では、「サイドシート部材」と「下面シート部材(3-1)」が接合されている。
すなわち、イ号物件の「上面シート部材(2-1)」は、「サイドシート部材」を介して「下面シート部材(3-1)」に接合されるものの、「サイドシート部材」はシート状の部材である。また、その接合位置の下方では、「サイドシート部材」と「下面シート部材(3-1)」は接合されているから、「上面シート部材(2-1)」の「サイドシート部材」との接合位置は、「構造体(4-1)の側面(23-1)」よりも幅方向の中心に寄った位置に維持され、「上面シート部材(2-1)」と「下面シート部材(3-1)」は、互いにずれたり移動したりせず、相対的に固定されている。
すると、イ号物件の「上面シート部材(2-1)」が、「サイドシート部材」を間に介して「下面シート部材(3-1)」につぎあわせることは、本件特許発明の「表面シート」が「裏面シート」に「接合」することに相当するものといえる。

そうすると、イ号物件の、「サイドシート部材を有し、構造体(4-1)の下面側に折り返されている上面シート部材(2-1)とサイドシート部材の接合部分が、構造体(4-1)の側面(23-1)よりも幅方向の中心に寄っており、サイドシート部材と下面シート部材(3-1)は、上面シート部材(2-1)とサイドシート部材の接合部分の下方で接合されて」いることは、本件特許発明の「前記下面側へ折曲されている部分の表面シートが、前記コアの側面よりも前記おむつの幅方向を二分する中心線寄りの位置で前記裏面シートに接合して」いることに相当するものといえる。
よって、イ号物件の構成gは、構成要件Gを充足する。

(8)構成要件Hについて
本件特許発明は、「脚周り弾性伸縮部材が、コアの側面近傍において裏面シートに取り付けられている」旨特定されている。このうち、「取り付け」るとは、「機器などを一定の場所に設置したり他の物に装置したりする」(広辞苑第六版(甲4))ことを意味する。これは「取り付け」るものと、「取り付け」られるものの関係を示す用語であり、両者の間の介在物の存在を直ちに否定するものではない。そして、本件特許発明が「シートに直接取り付けられている」ことを発明特定事項としていないこともふまえると、本件特許発明の「脚周り弾性伸縮部材」を「裏面シートに取り付け」るとは、「脚周り弾性伸縮部材」を「裏面シート」に直接設置することのみを意図しているのではなく、「脚周り弾性伸縮部材」が「裏面シート」に対して一定の位置関係を維持するように設置されており、脚周り弾性伸縮部材と裏面シートとの間に、他の部材を介して間接設置することを直ちには排除しないものと解することが自然である。
そして、上記(7)で認定した本件特許発明の技術的意義をみても、構成要件Hの技術的意義は、脚周り弾性伸縮部材をコアの側面近傍に配置することにあると解されるから、脚周り弾性伸縮部材の裏面シートへの設置が直接的である必要があるとまでは解されない。加えて、本件特許明細書等の段落【0015】の記載によれば、「脚周り弾性伸縮部材」は、「排泄物の横漏れを防止する」との機能を奏するものであるから、その意味でも、「脚周り弾性伸縮部材」の裏面シートへの設置が直接的である必要はなく、むしろ、裏面シートとの間に他の部材が存在していても、「排泄物の横漏れを防止する」との機能を奏する程度の位置関係を維持するように設置されていれば足りると解される。
以上によれば、構成要件Hの「脚周り弾性伸縮部材が」「コアの側面近傍において」「裏面シートに取り付けられている」といえるためには、脚周り弾性伸縮部材が、裏面シートに対して、コア側面近傍に配置されているとの一定の位置関係を維持するように設置されるとともに、排泄物の横漏れを防止するとの機能を奏する程度の位置関係を維持するように設置されていれば足り、脚周り弾性伸縮部材と裏面シートとの間に他の部材が介在しても差し支えないと解される。

これをイ号物件についてみると、「糸状部材(37-1)」は、「構造体(4-1)」の側面近傍に配置され、「糸状部材(37-1)」は「サイドシート部材」に接合されており、この「糸状部材(37-1)」の「サイドシート部材」への接合位置の周りで、「サイドシート部材」と「下面シート部材(3-1)」は接合されている。すなわち、「糸状部材(37-1)」は、「サイドシート部材」を介して、「構造体(4-1)」の側面近傍であって、かつ「下面シート部材(3-1)」の上方という一定の位置に、移動することなく設置されている。
そして、「力を加えていない自然な状態で、『糸状部材』の周りの『下面シート部材(3-1)』に皺が形成されている」(上記第3の4.(16))ことが示すように、「糸状部材(37-1)」の収縮力が「下面シート部材(3-1)」にも作用して、「下面シート部材(3-1)」や「構造体(4-1)」を体にフィットさせて、排泄物の横漏れを防ぐように機能しているものといえるから、イ号物件の「糸状部材(37-1)」は、排泄物の横漏れを防止するとの機能を奏する程度に、「構造体(4-1)」の側面近傍の、「下面シート部材(3-1)」の上方という一定の位置に維持されるように設置されている。
したがって、イ号物件の「糸状部材」の「サイドシート部材」を間に介した「下面シート部材(3-1)」への設置は、本件特許発明の「取り付け」られていることに相当するものといえる。

そうすると、イ号物件の「前記糸状部材(37-1)は、構造体(4-1)の側面近傍に配置され、糸状部材(37-1)はサイドシート部材に接合されており、この糸状部材(37-1)のサイドシート部材への接合位置の周りで、サイドシート部材と下面シート部材(3-1)は接合されている」ことは、本件特許発明の「脚周り弾性伸縮部材が、前記コアの側面近傍において前記裏面シートに取り付けられている」ことに相当するものといえる。
よって、イ号物件の構成hは、構成要件Hを充足する。

第5 むすび
以上のとおり、イ号物件は、本件特許発明1の構成要件AないしHの全てを充足するから、イ号物件は、本件特許発明の技術的範囲に属する。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2017-03-16 
出願番号 特願平10-109960
審決分類 P 1 2・ 1- YA (A41B)
最終処分 成立  
前審関与審査官 竹下 和志  
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
高橋 祐介
登録日 2002-07-19 
登録番号 特許第3330076号(P3330076)
発明の名称 使い捨ておむつ  
代理人 フェリシテ特許業務法人  

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