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審決分類 審判 全部無効 特120条の4、2項訂正請求(平成8年1月1日以降)  A61J
審判 全部無効 2項進歩性  A61J
審判 全部無効 出願日、優先日、請求日  A61J
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61J
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A61J
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61J
管理番号 1327210
審判番号 無効2014-800166  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-10-02 
確定日 2017-03-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5512586号発明「医療用複室容器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5512586号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項[1-5]について訂正することを認める。 特許第5512586号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5512586号(以下、「本件特許」という。)は、特許法第41条に基づく優先権主張(優先日 平成17年2月17日、特願2005-41213号(以下、「先の出願」という。))を伴う平成18年2月17日に出願された特願2006-41398号(以下、「原出願」という。)の一部を、特許法第44条第1項の規定により、平成23年4月7日に新たな特許出願(特願2011-85737号)としたものであって、平成25年3月14日付けで拒絶査定されたが、平成25年6月26日に拒絶査定不服審判請求がされ、平成26年2月26日付けで、原査定を取り消し本願の発明は特許すべきものとする旨の審決がされ、平成26年4月4日に、請求項1ないし請求項5に係る発明について設定登録されたものである。
本件無効審判は、本件特許について、平成26年10月2日に無効審判請求人 中川賢治(以下「請求人」という。)により、「本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める」として請求がなされたものであって、被請求人 テルモ株式会社(以下「被請求人」という。)は、平成27年1月5日付けで、答弁書及び訂正請求書を提出している。
その後の主な手続の経緯は以下のとおりである。

平成27年 3月 9日付け 弁駁書
平成27年 5月 7日付け 審理事項通知
平成27年 6月 8日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成27年 6月 9日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成27年 6月23日 第1回口頭審理
平成27年 7月14日付け 上申書(請求人)
平成27年 7月14日付け 上申書(被請求人)
平成27年 8月 4日付け 上申書(請求人)
平成27年 8月 4日付け 上申書(被請求人)
平成27年 9月17日 審決の予告
平成27年11月27日付け 訂正請求書

第2 請求人及び被請求人の主張

1 請求人の主張
請求人の主張は、以下のとおりである。

(1)訂正について
平成27年1月5日付け訂正請求書による訂正は、訂正要件(特許法第134条の2第9項にて準用する同法第126条第5項、同第6項)を満たしておらず、不適法な訂正であって、その訂正は認められない。

(2)無効理由について
ア 無効理由1
上記訂正は認められないものであるから、無効請求した請求項の特定事項について変更はない。そして、訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明は、優先権主張を伴った原出願の分割出願に係る発明であるが、原出願の際に導入された新たな技術的事項を含む発明であるから、特許法第29条の判断の基準時は原出願の時である。そして、本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明は、原出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項等に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。
仮に、上記訂正が認められたとしても、訂正後の本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明は、優先権の利益を享受することができる発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証、甲第10号証ないし甲第11号証の2に記載された技術的事項、並びに周知技術(甲第9号証、甲第18号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。

イ 無効理由2
上記訂正は認められないものであるから、無効請求した請求項の特定事項について変更はない。そして、訂正前の本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明は、優先権主張を伴った原出願の分割出願に係る発明であるが、原出願の際に導入された新たな技術的事項を含む発明であるから、特許法第29条の判断の基準時は原出願の時である。そして、本件特許の請求項1ないし請求項5に係る発明は、優先権の利益を享受することができる発明か否かに関わらず、先の出願前に頒布された甲第8号証に記載された発明及び甲第8号証の2に記載された発明、甲第9号証に記載された発明、及び周知技術(甲第3号証ないし甲第7号証、甲第10号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。
仮に、上記訂正が認められたとしても、訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、甲第8号証に記載された発明および周知技術(甲第3号証ないし甲第7号証、甲第9号証、甲第10号証、甲第18号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、訂正後の本件特許の請求項2に係る発明は、甲第8号証に記載された発明、甲第9号証に記載された発明および周知技術(甲第3号証ないし甲第7号証、甲第10号証、甲第18号証)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、いずれも特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。

ウ 無効理由3
上記訂正は認められないものであるから、無効請求した請求項の特定事項について変更はない。そして、訂正前の請求項1ないし5に記載の発明特定事項のうち「該空間の容積」は不定なもので、「該空間の容積1ml当たり、0.005?0.1ml」がどのような量となるかは特許請求の範囲、明細書及び図面を参酌しても明確でなく、実施可能ではない、また、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ともいえない。
また、請求項1ないし5に記載の発明は、薬剤を充填する工程が不明であって、明確ではなく、実施可能ではない、また、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ともいえない。
また、請求項1ないし5に記載の発明は、「無菌水」の定義が不明であって、明確ではなく、実施可能ではない、また、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ともいえない。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第1号のサポート要件、同項第2号の明確性要件及び同条第4項第1号の実施可能要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
仮に、上記訂正が認められたとしても、訂正後の本件特許の請求項1の「無菌水」という用語は依然として不明確であるから、本件特許は特許法第36条第6項第1号のサポート要件、同項第2号の明確性要件及び同条第4項第1号の実施可能要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

<証拠方法>
甲第1号証:特開2006-43061号公報
甲第2号証:特開2005-342174号公報
甲第3号証:第十二改正日本薬局方 第173?175頁(平成3年4月20日初版発行、財団法人日本公定書協会)
甲第4号証:特開平7-184980号公報
甲第5号証:特許第3253390号公報
甲第6号証:特開平8-243148号公報
甲第7号証:特開平8-131516号公報
甲第8号証:特開平9-327498号公報
甲第8号証の2:特開2005-34637号公報
甲第9号証:特開2005-228号公報
甲第10号証:特開昭59-109542号公報
甲第11号証:第十四改正日本薬局方解説書 D754?D762(平成13年6月27日初版発行、廣川書店)
甲第11号証の2:第十四改正日本薬局方 第206頁、第1235頁(平成13年3月30日告示)
甲第12号証:特願2005-41213号明細書
甲第13号証:特願2006-41398号明細書
甲第15号証:本件特許出願の平成24年10月4日付け意見書
甲第16号証:本件特許出願の平成25年12月16日付け回答書
甲第17号証の1:岩波生物学辞典第3版第1267頁(1985年2月20日第3版第3刷発行、岩波書店)
甲第17号証の2:標準化学用語辞典 第617頁(平成3年3月30日発行、丸善株式会社)
甲第17号証の3:ステッドマン医学大辞典第4版 第1660頁(平成9年4月10日第4版第1刷発行、メジカルビュー社)
甲第18号証:特開2002-136570号公報
甲第20号証:意匠登録1204448号公報
甲第21号証:意匠登録1204692号公報
甲第22号証:意匠登録1204693号公報
甲第23号証:JIS Z8806、第20?22頁の付表1.1 平成13年6月30日 第1刷発行、財団法人日本規格協会
甲第23号証の2:甲第23号証(JIS Z8806、平成13年6月30日 第1刷発行、財団法人日本規格協会)の表紙裏頁
甲第24号証:日本工業標準調査会のホームページ(https://www.jisc.go.jp/qa/#A109)の掲載内容の印刷物
甲第25号証:改訂5版化学便覧基礎編II.II-182頁 表9.55「水の蒸気圧」(平成16年2月20日発行、丸善株式会社)

甲第14号証については参考資料1とし、甲第19号証については参考資料2とすることに請求人が同意し、審判長が同書面を参考資料とすることを宣言した(第1回口頭審理調書)。

2 被請求人の主張
被請求人の主張は、以下のとおりである。

(1)訂正について
平成27年11月27日付け訂正請求書による訂正は、全ての訂正要件に適合しており、訂正は認められるものである。

(2)無効理由について
ア 無効理由1について
訂正後の本件特許の請求項1に係る発明は、特許法第41条第2項に規定する優先権の利益を享受するとともに、同法第44条第2項の分割の利益も享受するため、先の出願である特願2005-41213号の出願日である平成17年2月17日より前の公知文献が、特許法第29条第2項の規定の判断資料となりうる。
しかしながら、甲第1号証は、平成17年2月17日より後の平成18年2月16日に発行されたものであり、甲第2号証は、平成17年2月17日より後の平成17年12月15日に発行されたものであるから、これらの証拠を用いて主張する請求人の主張は失当である。
仮に、訂正後の請求項1に係る発明は、特許法第41条第2項の規定が適用されないものであったとしても、請求項1に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証ないし甲第7号証、甲第10号証ないし甲第11号証の2に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 無効理由2について
訂正後の請求項1に係る発明は、甲第8号証、甲第8号証の2、甲第3号証ないし甲第7号証および甲第10号証に記載された発明から当業者が容易に発明をできたものではない。訂正後の請求項2は請求項1を引用するものであるから、訂正後の請求項2に係る発明も、甲第8号証、甲第8号証の2、甲第3号証ないし甲第7号証、甲第9号証および甲第10号証に記載された発明から当業者が容易に発明をできたものではない。

ウ 無効理由3について
訂正後の請求項1及び請求項2に係る発明は、いずれも当業者が実施できる程度に発明の詳細な説明に記載され、訂正後の請求項1および請求項2に係る発明はいずれも発明の詳細な説明に記載され、訂正後の特許請求の範囲の請求項1および請求項2の記載は明確である。

エ したがって、訂正後の本件特許は無効とされるべき理由はない。

<証拠方法>
乙第1号証:特許第5512586号公報(本件特許公報)
乙第2号証:新製剤学 15?21頁 南山堂 1985年3月25日発行
乙第3号証:製剤学 121?125頁 南江堂 1988年3月20日発行
乙第4号証:特開平7-185562号公報
乙第5号証:実公平7-19596号公報
乙第6号証:特許第2799995号公報
乙第7号証:広辞苑 2271頁 岩波書店 昭和57年10月15日発行
乙第8号証:特開2003-104389号公報
乙第9号証:特開2001-130650号公報
乙第10号証:特開2004-313487号公報
乙第11号証:日本薬局方に準拠した滅菌法及び微生物殺滅法 11、12、38?51、300頁 日本規格協会 1998年2月10日発行
乙第11号証の2:日本薬局方に準拠した滅菌法及び微生物殺滅法 27?38頁 日本規格協会 1998年2月10日発行
乙第12号証:特許第2506553号公報
乙第13号証:特許第3485944号公報
乙第14号証:特公平8-29771号公報
乙第15号証:特公平5-37128号公報
乙第16号証:「医薬品工業における無菌水の製造とその利用」 工業用水第356号5月号 49?57頁 日本工業用水協会 昭和63年5月20日発行
乙第17号証:ISO規格に準拠した無菌医薬品の製造管理と品質保証 290?291頁 日本規格協会 2000年5月31日発行
乙第18号証:日本国語大辞典 第二版 35頁 小学館 2001年10月20日発行
乙第19号証:学研国語大辞典 第二版(机上版) 1436頁 学習研究社 1989年12月1日発行

第3 訂正について

1 訂正請求の趣旨及び訂正の内容
平成27年11月27日に提出した訂正請求書により被請求人が求める訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1?請求項5について訂正しようとするものであって、その内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲を、次のとおりに訂正する。
「【請求項1】
可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分された容器本体と、該容器本体の下端側シール部に固定され、前記第1の薬剤室の下端部と連通する排出ポートと、前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されていることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記連通阻害用弱シール部は、一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており、前記排出ポートは、本体部と前記先端部を有する筒状体である請求項1に記載の医療用複室容器。」(下線部は訂正個所。以下同様。)。

【請求項3】 (削除)

【請求項4】 (削除)

【請求項5】 (削除)

(2)訂正事項2
訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の段落【0005】を、次のとおりに訂正する。
「【0005】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分された容器本体と、該容器本体の下端側シール部に固定され、前記第1の薬剤室の下端部と連通する排出ポートと、前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されていることを特徴とする医療用複室容器。」

(3)訂正事項3
訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正に伴い、明細書の段落【0006】を、次のとおりに訂正する。
「【0006】
(2)前記連通阻害用弱シール部は、一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており、前記排出ポートは、本体部と前記先端部を有する筒状体である上記(1)に記載の医療用複室容器。
【発明の効果】」

2 訂正の可否に対する判断
(1)訂正事項1(特許請求の範囲に係る訂正)について
ア 訂正の目的について
(ア)請求項1に係る訂正
訂正事項1は、(ア-1)特許請求の範囲の請求項1に「前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部」とあるのを、「前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部」と訂正し、(ア-2)特許請求の範囲の請求項1に「前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成される空間内に、」とあるのを、「前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、」と訂正し、(ア-3)特許請求の範囲の請求項1に「該空間内の容積lml当たり、0.005?0.1mlの生体に投与されても無害である無菌水またはRO水もしくは蒸留水」とあるのを「0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水」と訂正するものである。
(ア-1)の訂正事項は、「連通阻害用弱シール部」について、「前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」という新たな限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、(ア-2)の訂正事項は、「前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成される空間」について、「空室となっている」という新たな限定事項を付加するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
さらに、(ア-3)の訂正事項は、連通阻害用弱シール部と排出ポートと下端側シール部により形成される空間内に添加される水について、「0.1?0.5ml」という添加する水の量の限定をさらに付加すると共に、該空間内の容積1ml当たりの量を、0.005?0.1mlから、0.02?0.1mlと更に狭い範囲に限定し、さらに、その水に関する「無菌水またはRO水もしくは蒸留水」との記載を、RO水及び蒸留水のいずれも無菌水であることは技術常識であるから、これらが選択的に並列に記載されたものを「無菌水」と誤記の訂正をするとともに、その生体の投与について、「静脈より生体に投与」と、その投与形態を限定するものである。
してみると、上記(ア-1)ないし(ア-3)による請求項1の訂正は特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものである。

(イ)請求項の削除について
訂正事項1は、請求項3ないし請求項5を削除する訂正を含む。この訂正は、請求項の削除を目的とするものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(ウ)訂正事項1の訂正の目的
上記(ア)、(イ)のとおりであるから、訂正事項1の特許請求の範囲に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮及び誤記の訂正を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第2号に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であるか否か
(ア)上記ア(ア-1)について
本件特許の明細書には、以下の記載がある。
(a)「【0018】
この実施例の医療用複室容器1は、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部10が形成されている。連通阻害用弱シール部10は、剥離可能なものであり、剥離されない状態では、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害している。そして、この連通阻害用弱シール部10により、第1の薬剤室21から隔離された第3室23が形成されている。つまり、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。第3室23にこのように液体を入れることにより、第3室の内部の滅菌が確実なものとなる。・・・」
上記(a)の記載によれば、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害する剥離可能な連通阻害用弱シール部として、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成されたことが記載されている。
したがって、上記(ア-1)の訂正事項は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内においてされたものである。

請求人は、平成27年1月5日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲における、本件訂正の上記(ア-1)と同様の訂正に対して、本件特許の願書に添付した明細書等には、「連通阻害用弱シール部」について、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備える構成しか記載されておらず、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備えず「排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」た構成は記載されていないと主張し、(ア-1)の訂正事項は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてされたものでない旨主張している。
しかしながら、上記(a)の記載は、連通阻害用弱シール部10は、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備えるものであると限定されて記載されたものではない。また、本件特許の明細書の段落【0007】には、「また、排出ポートの先端部の形状に対応して、連通阻害用弱シール部と排出ポートの先端部の先端との距離が的確なものとなっているため、連通阻害用弱シール部のシール不良を生じることがない。」と記載されているように、連通阻害用弱シールが排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されるとは、「排出ポートの先端部の形状に対応して、連通阻害用弱シール部と排出ポートの先端部の先端との距離が的確なもの」となるための構成であり、排出ポートの先端部の形状に応じて適宜変更できることは、本件明細書に接した当業者であれば理解できることであるから、「排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」た構成が、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備えるものであると限定して解釈する理由はない。よって請求人の主張は理由がない。

(イ)上記ア(ア-2)について
本件特許の明細書には、以下の記載がある。
(b)「【0018】
この実施例の医療用複室容器1は、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部10が形成されている。連通阻害用弱シール部10は、剥離可能なものであり、剥離されない状態では、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害している。そして、この連通阻害用弱シール部10により、第1の薬剤室21から隔離された第3室23が形成されている。つまり、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。」
上記(b)の記載によれば、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成され、その空間が空室となっていることが記載されている。
したがって、上記(ア-2)の訂正事項は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内においてされたものである。

(ウ)上記ア(ア-3)について
まず、「0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1ml」という訂正事項について、本件特許の明細書には、以下の記載がある。
(c)「【請求項3】
前記空間への前記水の添加量は、前記空間内の容積1ml当たり、0.02?0.1mlである請求項1または2に記載の医療用複室容器。」
(d)「【0018】
この実施例の医療用複室容器1は、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部10が形成されている。
・・・つまり、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。
・・・また、第3室23に入れられる液体の量としては、第3室の大きさによって相違するが、0.1?0.5ml程度であることが好ましい。また、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度であることが好ましい。」
(e)「【0047】
この実施例の医療用複室容器80においても、上述した医療用複室容器1と同様に、連通阻害用弱シール部100と排出ポート90と閉塞部6aにより、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。第3室23にこのように液体を入れることにより、第3室の内部の滅菌が確実なものとなる。また、第3室23に入れられる液体の量としては、第3室の大きさによって相違するが、0.1?0.5ml程度であることが好ましい。また、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度であることが好ましい。」
上記(c)ないし(e)の記載によれば、連通阻害用弱シール部と排出ポートと閉塞部により、形成される空間(第3室)に添加される生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)の量(総量)として、0.1?0.5ml程度、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度が好ましいことが記載されており、この記載に接した当業者であれば、その水の量(総量)として、0.1?0.5ml程度で、かつ第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度とすることが記載されていると理解できる。

次に、「静脈より生体に投与されても無害である無菌水」という訂正事項について検討すると、本件特許の明細書の【0001】及び【0002】の記載によれば、本件特許発明に係る「医療用複室容器」は、「患者に静脈より栄養成分を投与する薬剤」の容器と理解されるから、「静脈より生体に投与されても無害である無菌水」という事項は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内である。

したがって、上記(ア-3)の訂正事項は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内においてされたものである。

請求人は、平成27年1月5日付け訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲における、本件訂正の上記(ア-3)と同様の訂正に対して、上記(d)、(e)の記載は、「滅菌が確実なものとなる第3室23に入れられる液体の量として、0.1?0.5ml程度で、かつ第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度であることが好ましいという趣旨であるかは不明である」と主張する。
しかしながら、上記(d)及び(e)の記載は、第3室に入れられる液体の好ましい量として、総量として「0.1?0.5ml程度」、第3室の容量に応じて、「第3室の容量1ml当たり0.02?0.1ml程度」と好ましい量を併記しており、また、これらの値は相反するものでなく、当該記載に接した当業者であれば、その両方の好ましい条件を満たす液体量も想定し得るから、上記請求人の主張は理由がない。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものか否か
訂正事項1は、請求項1について発明特定事項を限定するとともに誤記の訂正をし、また、請求項3ないし5を削除するもので特許請求の範囲の減縮に該当するとともに、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内においてされたものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記アないしウのとおりであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(2)訂正事項2及び訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、上記(1)の訂正事項1に係る特許請求の範囲の訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、明細書の段落【0005】及び【0006】を訂正するものであり、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に該当する。

イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内であるか否か
上記(1)イで検討したとおり訂正事項1は願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内のものであるから、その訂正事項1と同じ内容の訂正である訂正事項2及び訂正事項3も同じ理由により、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載の範囲内の訂正である。

ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものか否か
上記(1)ウで検討したとおり訂正事項1は実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、その訂正事項1と同じ内容の訂正である訂正事項2及び訂正事項3も同じ理由により、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 上記アないしウのとおりであるから、訂正事項2及び訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。

(3)訂正の可否についての小括
上記(1)、(2)で検討したとおり、訂正後の請求項1?請求項5について訂正する上記訂正事項1ないし訂正事項3は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とし、同法第134条の2第9項において準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものであるから、これを認める。

第4 本件特許発明
上記第3で検討したとおり、本件訂正は認められるから、本件特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に係る発明は、次のとおりのものである(以下、「本件特許請求の範囲の請求項1及び請求項2」を「本件請求項1及び2」といい、「本件特許請求の範囲の請求項1に係る発明」、「本件特許請求の範囲の請求項2に係る発明」を、それぞれ「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)。

「【請求項1】
可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分された容器本体と、該容器本体の下端側シール部に固定され、前記第1の薬剤室の下端部と連通する排出ポートと、前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されていることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記連通阻害用弱シール部は、一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており、前記排出ポートは、本体部と前記先端部を有する筒状体である請求項1に記載の医療用複室容器。」

第5 当審の判断

1 本件特許出願が優先権の利益を享受できるか否かについて
(1)請求人の主張
審判請求人は、平成27年1月5日付け訂正請求書による訂正後の請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明は、以下のア、イの構成が先願明細書等に記載されていないから、訂正後の本件請求項1に係る発明及び請求項2に係る発明が優先権の利益を享受できない旨主張している(弁駁書第7頁第7行?第12頁第20行、平成27年6月8日付け口頭審理陳述要領書第5頁第3行?第12頁第8行)。

ア「連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成される空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され」という構成

イ「前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部」

そして、本件訂正後の本件特許発明1及び本件特許発明2も、上記ア及びイと同様の構成を有しているので検討する。

(2)上記(1)アについて
ア 平成27年11月27日付け訂正請求により、平成27年1月5日付け訂正請求書による訂正のアに該当する箇所は、「連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され」(以下、当該箇所を「(1)ア’」という。)と訂正されているので、この点について検討する。

イ 先の出願明細書(甲第12号証)の段落【0018】には以下の記載がある。
「・・・この連通阻害用弱シール部10により、第1の薬剤室21から隔離された第3室23が形成されている。つまり、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。第3室23にこのように液体を入れることにより、第3室の内部の滅菌が確実なものとなる。また、第3室23に入れられる液体の量としては、第3室の大きさによって相違するが、0.1?0.5ml程度であることが好ましい。また、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度であることが好ましい。・・・」

ウ また、段落【0002】ないし【0005】によれば、先の出願明細書等の「医療用複室容器」は、「患者に静脈より栄養成分を投与する薬剤」の複室容器と理解される。そして、「患者に静脈より栄養成分を投与する薬剤」において、「生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)」とは、乙第2号証ないし乙第6号証からも理解されるとおり「無菌水」であることは当業者にとって技術常識であることは明らかであるから、先の出願明細書等に接した当業者であれば、段落【0018】の「生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)」とは当然「無菌水」であると理解されるし、その投与形態に「静脈より投与される」ことが含まれることも理解される。

エ さらに、上記【0018】の記載から、その液体の投与量に関し、連通阻害用弱シール部と排出ポートと閉塞部により、形成される空間(第3室)に添加される生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)の量(総量)として、0.1?0.5ml程度、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度が好ましいことが記載されており、この記載に接した当業者であれば、その水の量(総量)として、0.1?0.5ml程度で、かつ第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度とすることが記載されていると理解できる。
また、【0018】には、「この空間(第3室)23は、空室となっている。」と記載され、連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成される空間が空室となっていることも記載されている。

オ したがって、上記イ?エのとおりであるから、(1)ア’の「連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され」という事項は、先の出願明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

(3)上記(1)イについて
ア 先の出願明細書等の段落【0018】には、以下の記載がある。
「この実施例の医療用複室容器1は、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部10が形成されている。連通阻害用弱シール部10は、剥離可能なものであり、剥離されない状態では、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害している。そして、この連通阻害用弱シール部10により、第1の薬剤室21から隔離された第3室23が形成されている。つまり、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。第3室23にこのように液体を入れることにより、第3室の内部の滅菌が確実なものとなる。・・・」
上記記載によれば、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害する剥離可能な連通阻害用弱シール部として、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成されたことが記載されている。

イ したがって、上記(1)イの事項は、先の出願明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。

ウ 請求人は、先の出願明細書等には、「連通阻害用弱シール部」について、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備える構成しか記載されておらず、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備えず「排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」た構成は記載されていないと主張し、(1)イの事項は、先の出願明細書等に記載されたものでない旨主張している。
しかしながら、上記段落【0018】の記載は、連通阻害用弱シール部10は、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備えるものであると限定されて記載されたものではない。また、先の出願明細書等の段落【0007】には、「排出ポートの先端部の形状に対応して、連通阻害用弱シール部と排出ポートの先端部の先端との距離が的確なものとなっているため、連通阻害用弱シール部のシール不良を生じることがない。」と記載されているように、連通阻害用弱シールが排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されるとは、「排出ポートの先端部の形状に対応して、連通阻害用弱シール部と排出ポートの先端部の先端との距離が的確なもの」となるための構成であり、排出ポートの先端部の形状に応じて適宜変更できることは、先の出願明細書に接した当業者であれば理解できることであるから、「排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」た構成が、「第1の部分」、「第2の部分」及び「第3の部分」を備えるものであると限定して解釈する理由はない。よって請求人の主張は理由がない。

(4)小括
上記(2)、(3)のとおりであるから、訂正後の本件特許発明1は、先の出願明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものであり、請求人の主張は理由がない。また、訂正後の請求項2の構成は、先の出願明細書の【請求項4】、【0020】等に記載されており、訂正後の本件特許発明2は、先の出願明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、本件特許発明1及び2は、先の出願明細書等に記載された発明である。

(5)分割要件について
先の出願を優先権の基礎として出願した本件特許の原出願の願書に最初に添付された明細書等(甲第13号証)の段落【0002】ないし【0005】、【0007】、【0018】にも先の出願明細書と同様の記載があり、本件特許出願は、原出願明細書の願書に最初に添付された明細書等に記載されたものであるから、本件特許出願は適法な分割出願である。

(6)小括
以上のとおりであるから、本件特許出願は適法な分割出願であり、また、本件特許発明1及び2は、先の出願明細書等に記載された発明であるから、本件特許発明1及び2は、優先権の利益を享受できる。

2 無効理由1について
上記1で検討したとおり、本件特許出願は適法な分割出願であり、また、本件特許発明1及び2は、先の出願の明細書等に記載された発明であり、優先権の利益を享受できるから、特許法第29条第2項の規定の適用については、本件の特許出願は、先の出願の出願日である平成17年2月17日に出願されたものとみなすから、それより後の平成18年2月16日及び平成17年12月15日にそれぞれ公開された甲第1号証及び甲第2号証を出願日前に公知となった文献として主張する、請求人主張の無効理由1はその前提において誤りであり、理由がない。

3 無効理由2について
(1)引用文献に記載された発明
ア 甲第8号証
先の出願の出願日より前に頒布された甲第8号証には、医療用容器の発明について、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「【請求項1】熱可塑性樹脂製フィルムからなる袋体に、異なる成分の液剤が収容される複数の分室と、前記複数の分室の一つに連通して前記異なる成分の液剤の混合液剤を排出する排出口が形成された医療用容器において、
前記複数の分室は仕切り手段により液密に仕切られ、かつ前記排出口と前記排出口に連通する分室の間は閉鎖手段により液密に閉鎖されており、これらの仕切り手段および閉鎖手段は前記袋体の外面の少なくとも一部を押圧して生じる内圧によって解除され、
かつ、前記閉塞手段は、前記仕切り手段を解除させる内圧と同等またはそれ以上の内圧で解除されることを特徴とする医療用容器。」(【請求項1】)

(イ)「本発明において熱可塑性樹脂としては、特に限定する必要はなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアミド、ポリビニリデンクロライド、ポリビニルフルオライド、ポリトリフルオルクロルエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリオレフィン系樹脂およびこれらの混合物や積層体が挙げられる。本発明の医療用容器は衛生面、安全面を考慮して製造後、高圧蒸気滅菌等の熱滅菌や、高周波滅菌などの滅菌処理をすることが好ましいため、それらに耐えられる材質が良い。」(段落【0012】)

(ウ)「【発明の実施の形態】本発明の医療用器具について、以下2つの例を示し説明するが、何らこれらに限定されるものではない。本発明の医療用容器の一例を図1及び図2を参照しながら説明する。図1は本発明の医療用容器1の正面図であり、図2は、図1のI-I′線矢視断面図である。医療用容器1は、一端を熱シール部9、他端を熱シール部10により内部を無菌状態で密封した袋体2から構成されている。さらに熱シールにより形成された仕切り手段4により、分室11、分室12が構成され、分室11の熱シール部9の近くに熱シールにより形成された閉塞手段3が設けられている。この際、閉塞手段3と熱シール部9との間14は無菌状態であり、また分室11の容量のロスを避けるため狭い程良い。場合によっては閉塞手段3と熱シール部9との間14には、混合液剤が通る回路をプライミングするために生理食塩水などの薬理的に不活性な液体を入れておいても良い。分室11には液剤15、分室12には液剤16が無菌状態で封入されている。」(段落【0015】)

(エ)「また、一端には熱シール部9に挟まれるようにして排出管5が設けられ、他端には熱シール部10に挟まれるようにして排出管5より細径の注入管7が設けられ、各々栓体6、栓体8によって封止されている。場合によっては注入管7は設けなくても良い。また、必要により吊り下げるための穴13が設けられる。
次に、医療用容器1の使用方法について説明する。使用方法1として閉塞手段3が仕切り手段4以上の強度の熱シールを施されている場合、まず、分室12の外面を手で押圧することにより、それにより生じる分室12内の内圧によって仕切り手段4の熱シールを剥離させ、液剤15と液剤16を混ぜ合わせる。更に強い力で押圧し、閉塞手段3に仕切り手段4より強い内圧をかけて閉塞手段3の熱シールを剥離させる。その後、栓体6より瓶針等(図示しない)を差し込み混合液を排出させる。」(段落【0017】?【0018】)

(オ)「医療用容器1は、以下の方法により作製される。液剤15と液剤16が充填されておらず、閉塞手段3が形成されていない以外は医療用容器1と同一の構造の容器の排出管5および注入管7から各々液剤15と液剤16を無菌的に充填してから、排出管5が上方になるように容器を立てて固定し、閉塞手段3を形成させる。また、注入管7を設けずに、排出管5が上方になるように容器を立てて固定し、排出管5より液剤16を無菌的に充填して仕切り手段4を形成させ、次に排出管5より液剤15を無菌的に充填して閉塞手段3を形成させる。なお、これらの方法に限定する必要はない。
医療用容器1における閉塞手段3と仕切り手段4の熱シールの形成方法としては、特に限定されず、通常使用されている熱シールバー等を用いて行うことができる。また、高圧蒸気滅菌等の熱滅菌時に閉塞手段3と仕切り手段4の部位にブロッキングを生じさせる方法を用いても良い。」(段落【0022】?【0023】)

上記(ア)ないし(オ)の記載事項及び図面から、甲第8号証には以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「熱可塑性樹脂フィルムからなり、内部が、熱シールにより形成された仕切り手段4により分室11と分室12に区分された袋体2と、袋体2の熱シール部9に挟まれるように設けられ、分室11の端部と連通する排出管5と、分室11に収納された液剤15と、分室12に収納された液剤16と、分室11と排出管5との連通を阻害しかつ熱シールにより形成された閉塞手段3とを備える医療用容器であり、熱シールにより形成された閉塞手段3と熱シール部9との間14が無菌状態である医療用容器。」

イ 甲第8号証の2
先の出願の出願日より前に頒布された甲第8号証の2には、医療用容器の発明に関して、以下の事項が記載されている。
(ア)「本発明は、医療用容器の注排口及びこの注排口を有する医療用容器に関する。更に詳しくは、本発明は内部に変位栓体を挿着した注排口、及びこの注排口を備え、用時、混合して使用する複数の薬剤を収容した医療用容器に関する。
【背景技術】
混合した状態では不安定な薬剤同士を、用時連通可能な仕切部を介して収容する医療用容器は、近年一般に良く知られている。例えば、薬液又は溶解液を収容した室と粉末薬剤を収容した室との間の仕切部が、薬液を収容している室を外部から押圧することによる室の圧力の上昇により開通する弱シール部とされた、熱可塑性樹脂シートからなるソフトバッグ型医療用容器、所謂「複室バッグ」がある(特許文献1参照)。この複室バッグは、重量が軽く、輸送中に破損しにくく、保管場所が省スペースで済み、看護師の作業効率が向上し、分別廃棄が不要になるといった利点がある。
現在、市販されている薬液と粉末薬剤を収容した複室バッグは、全て薬液収容室に注排口が設けられている。これは、凍結乾燥製剤等の粉末薬剤は水分を嫌うものが多いため、粉末薬剤収容室に注排口を設けた場合、注排口を通して水分が内部に浸入するおそれがあり、また、注排口内部に粉末薬剤が付着した場合、溶け残りを生じるおそれもあるといった欠点があることや、薬液収容室に注排口を設けることにより、製造時に注排口から薬液の充填が可能となり、また通常、薬液収容室は透明であるので、使用時に液面を視認可能であるといった利点があるからである。
ところが、薬液収容室に注排口を設けた前記従来品では、医療現場において使用者が薬液収容室と粉末薬剤との連通を失念してしまった場合、薬液のみが患者に投与されてしまうという問題がある。この場合、新しいバッグにより、薬液と粉末薬剤を再投与しなくてはならず、また、溶解液などの薬液に比べて高価な粉末薬剤を捨てることになる。さらに複室バッグの最も大きな利点である緊急性が損なわれ、患者は余分な苦痛を被ることになる。
このような問題を解決するため、注排口の手前に、弱シール部を介した空間部を設け、使用時に薬液収容室を押圧した際に、まず粉末薬剤収容室と薬液収容室との間の弱シール部が連通し、次いで注排口の手前の弱シール部が連通するようにした複室バッグが提案されている(特許文献2参照)。これにより、未連通のままで投与しようとしても注排口と薬液との間には弱シール部があるため、薬液のみが投与されるといった事態は回避される。
【特許文献1】特開平8-257102号公報
【特許文献2】特開平9-327498号公報」(段落【0001】?【0006】)

(イ)「しかしながら、従来の複室バッグ(例えば、特許文献2に記載)では、注排口の手前の空間部には全く水分がないため、高圧蒸気滅菌を行ってもこの空間内部及び注排口内部は滅菌することができない。さらに、この空間部には生理食塩水などを入れておくと、空間部への薬液以外の液体の充填工程が必要となり、製造工程が煩雑となる。また、このような空間部を設けることにより容器が長くなってしまうため保管時に邪魔になる。特に弱シール部は保管時の不意な連通を防ぐ目的で、通常、この弱シール部で折り畳まれて包装される。従って、注排口の手前の弱シール部も折り畳まねばならず包装工程が煩雑となり、包装後のサイズ(特に厚さ)が大きくなってしまうおそれがある。」(段落【0007】)

ウ 甲第9号証
先の出願の出願日より前に頒布された甲第9号証には、医療用複室容器の発明に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)「【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る医療用複室容器の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態に係る医療用複室容器の平面図である。
図1に示すように、この医療用複室容器1は、矩形状の2枚のフィルムの周縁部3を熱融着して袋状に形成された容器本体5と、この容器本体5に接続され内部にゴム栓(図示省略)を有する薬剤排出部7とを備えている。容器本体5は、長手方向に並べて配置され薬剤が封入される第1収納室9及び第2収納室11を有しており、2つの収納室9,11は仕切り用封止部13で仕切られている。また、上記した薬剤排出部7は容器本体5における第2収納室11側の端部に接続されており、この排出部7と第2収納室11とは、排出用封止部15によって仕切られている。容器本体5において薬剤排出部7と反対側の端部には、容器1を吊り掛けるための吊掛孔17が形成されている。」(段落【0017】?【0018】)

(イ)「仕切り用封止部13および排出用封止部15は、容器本体5の内壁面同士を熱融着することで構成されており、収納室9,11の内圧を高めると開封するようになっている。このうち、排出用封止部15は、排出部7が取り付けられた容器本体周縁部3の一辺にその両端部が連結されており、排出部7を囲むように円弧状に形成されている。また、排出用封止部15は、容器本体5の内壁面同士を熱融着した円弧状の2つの固着部15a,15bを備えている。より詳細には、各固着部15a,15bは、排出用封止部15における第2収納室11を向く端縁、及び排出部7を向く端縁をそれぞれ形成しており、両固着部15a,15bの間にはビタミンD溶液を収納する小収納室15cが形成されている。」(段落【0022】)

(ウ)「以上のように、本実施形態によれば、第2収納室11と排出部7との間を仕切る排出用封止部15が設けられているため、仕切り用封止部13を開封する前に、排出部7に導管が刺入されても薬剤の排出が排出されることはない。したがって、混合前の薬剤の排出を未然に防止することができる。
また、上記排出用封止部15には、ビタミンD溶液が収容された小収納室15cが形成されているため、排出用封止部15の開封とともに、この小収納室15cからビタミンD溶液を流出させることができる。したがって、従来例のように仕切り用封止部の開封とは別個に、小容器の開封を行う作業が不要になり、薬剤投与作業の簡素化を図ることができる。
なお、本発明に係る医療用複室容器は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。例えば、上記実施形態の排出用封止部15は、円弧状に形成された一対の固着部15a,15bの間に小収納室15cを形成したものであるが、これに限定されるものではない。すなわち、排出用封止部15の中に小収納室が形成され、排出用封止部15の開封とともに小収納室から薬剤が流出するように構成されていればよい。例えば、図1のように排出用封止部の全体に亘って小収納室を形成するのではなく、図2(a)に示すように、排出用封止部15の中央部に楕円状の小収納室15cを形成することができる。或いは、図2(b)に示すように、排出用封止部15を角部を有する矩形状に形成し、第2収納室11側を向く一辺に小収納室15cを形成することもできる。また、図2(c)に示すように、小収納室を2つに分割し、2種類の薬剤を収納することもできる。この場合、分割された2つの小収納室15c1,15c2間は上記と同様の強度の固着部15dによって仕切られ、この固着部15dの開封により両小収納室15c1,15c2の薬剤は混合するようになっている。」(段落【0026】?【0028】)

(エ)上記記載事項(ア)?(ウ)及び【図1】、【図2】(a)?(c)から、甲第9号証には、第1収納室9及び第2収納室11が仕切り用封止部13で仕切られ、第2収納室11と排出部7とが排出用封止部15によって仕切られている医療用複室容器において、排出用封止部15の形状が、排出部7が取り付けられた容器本体周縁部3の一辺にその両端部が連結されており、排出部7を囲むように円弧状に形成された発明(以下、「甲9発明1」という。)及び、排出用封止部15の形状が、排出部7が取り付けられた容器本体周縁部3に端部が連結された一対の直線部と、その直線部の他端に両端が連結された容器本体周縁部3と平行の部分とで形成されたほぼ台形状の排出用封止部15を備えた医療用複室容器の発明(以下、「甲9発明2」という。)が記載されている。

(2)本件特許発明1について
ア 一致点及び相違点について
本件特許発明1と引用発明とを対比する。その構造及び機能からみて、後者の「熱シールにより形成された仕切り手段4」は前者の「剥離可能な仕切用弱シール部」に相当する。以下同様に、後者の「分室11」は前者の「第1の薬剤室」に、「分室12」は「第2の薬剤室」に、「袋体2」は「容器本体」に、「熱シール部9」は「下端側シール部」に、「排出管5」は「排出ポート」に、「液剤15」は「第1の薬剤」に、「液剤16」は「第2の薬剤」に、「熱シールにより形成された閉塞手段3」は「連通阻害用弱シール部」に、「医療用容器」は「医療用複室容器」にそれぞれ相当する。
また、熱可塑性樹脂フィルムは、可撓性であるのが技術常識であるから、後者の「熱可塑性樹脂フィルムからなり」は前者の「可撓性材料により作製され」に相当する。
ここで、「熱シールにより形成された閉塞手段3と熱シール部9との間14」について、検討すると、この間が空室となっていることの明記はないが、甲第8号証の上記(ウ)には「閉塞手段3と熱シール部9との間14は無菌状態であり、また分室11の容量のロスを避けるため狭い程良い。場合によっては閉塞手段3と熱シール部9との間14には、混合液剤が通る回路をプライミングするために生理食塩水などの薬理的に不活性な液体を入れておいても良い。」と記載されており、閉塞手段3と熱シール部9との間14には、生理食塩水などの薬理的に不活性な液体を入れることが選択的に記載され、また、この間に、他の物質を入れておかなくてはならない理由もないことから、閉塞手段3と熱シール部9との間14が空室となっていることも含まれていると解される。
してみると、後者の「熱シールにより形成された閉塞手段3と熱シール部9との間14」は、前者の「連通阻害用弱シール部と排出ポートと下端側シール部により形成され、空室となっている空間」に相当するといえる。
さらに、無菌状態であることは、通常、滅菌されて得られる状態であるから、「無菌状態である」とは「滅菌されている」に相当し、内部空間が滅菌されていることは、当然その空間を形成する内面も滅菌されていることは明らかである。
してみると、両者は次の一致点、相違点を有する。

(一致点)
「可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分された容器本体と、該容器本体の下端側シール部に固定され、前記第1の薬剤室の下端部と連通する排出ポートと、前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されている医療用複室容器。」

(相違点1)
「連通阻害用弱シール部」が、本件特許発明1は「排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」という構成を有するのに対し、引用発明はそのような構成を有しない点。

(相違点2)
「連通阻害用弱シール部と排出ポートと下端側シール部により形成され、空室となっている空間」について、本件特許発明1は、「前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されている」と特定されているのに対し、引用発明は単に「無菌状態」と特定されている点。

以下上記相違点について検討する。

イ 相違点1について
(ア)上記(1)ウのとおり、甲第9号証には、引用発明と同じ技術分野に属する医療用複室容器において、排出部が設けられた収納室と排出部とを仕切る排出用封止部15が設けられるとともに、その形状が排出部を囲むように形成された甲9発明1及び甲9発明2が記載されている。
(イ)そして、引用発明の熱シール部9により形成される閉塞手段3も排出用封止部15も、医療用複室容器内の仕切り手段4(仕切り用封止部13)が剥離されて副室内の薬液が混合された後に、剥離されて容器内部と排出管5(排出部7)とを連通させるものであるから、その機能を発揮させる形状とすることは当業者であれば当然考慮する事項である。してみると甲第8号証及び甲第9号証に接した当業者であれば、甲第8号証の引用発明に甲第9号証の甲9発明1や甲9発明2の排出部を囲むように形成された排出用封止部15を適用して上記相違点1に係る本件特許発明1の構成とする程度のことは容易に想到し得ることにすぎない。

ウ 相違点2について
(ア)本件特許発明1は、「医療用複室容器」という物の発明であるところ、その「連通阻害用弱シール部と排出ポートと下端側シール部により形成され、空室となっている空間」の構成について、「前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されていること」とその製造方法によって生産物を特定している。しかしながら、その記載は、最終的に得られた生産物自体を意味するものと解すべきであるから、上記相違点2は、「連通阻害用弱シール部と排出ポートと下端側シール部により形成され、空室となっている空間」について、本件特許発明1が「0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積lml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水」が存在するのに対し、引用発明はそのような構成を有しない点で相違すると解される。
そこで、その相違点について検討する。

(イ)甲第8号証の2には、上記(1)イのとおりの記載があるところ、該(1)イ(ア)に記載されている「【特許文献2】特開平9-327498号公報」は甲第8号証の文献である。してみると、甲第8号証及び甲第8号証の2に接した当業者は、甲第8号証の引用発明には、「注排口の手前の空間部には全く水分がないため、高圧蒸気滅菌を行ってもこの空間内部及び注排口内部は滅菌することができない。さらに、この空間部には生理食塩水などを入れておくと、空間部への薬液以外の液体の充填工程が必要となり、製造工程が煩雑となる。また、このような空間部を設けることにより容器が長くなってしまうため保管時に邪魔になる。特に弱シール部は保管時の不意な連通を防ぐ目的で、通常、この弱シール部で折り畳まれて包装される。従って、注排口の手前の弱シール部も折り畳まねばならず包装工程が煩雑となり、包装後のサイズ(特に厚さ)が大きくなってしまうおそれがある。」という課題があることが理解される。
(ウ)一方、医療用機器において、容器内部の滅菌のため、容器全体の加熱殺菌時に蒸気化して容器内を滅菌するため、容器内部に適量の水を添加することは、甲第4号証の段落【0045】?【0046】、甲第5号証の段落【0026】、【0031】?【0033】、甲第6号証の段落【0008】?【0009】にも記載されているように周知の事項である。
(エ)してみると、甲第8号証及び甲第8号証の2に接した当業者であれば、甲第8号証に記載された引用発明の課題を理解し、その解決のため、上記周知技術を適用し、引用発明の「熱シールにより形成された閉塞手段3と熱シール部9との間14」に適度の水を添加することは当業者であれば容易に想到し得る事項にすぎない。また、その水の量も、甲第8号証の2の課題及び周知技術から、加熱時に空間内の水が飽和水蒸気となり十分な滅菌がされる水量を確保しつつ、その添加量の上限を適宜選択する程度のことは当業者であれば想定でき、また、上記相違点2に係る本件特許発明1の無菌水の量に格別な臨界的意義も認められず、結局、上記相違点2に係る本件特許発明1の構成は、引用発明及び甲第8号証の2に記載された事項並びに周知の事項から当業者が容易に想到し得る程度のことに過ぎない。

エ 本件特許発明1についての小括
上記ア?ウで検討したとおりであるから、本件特許発明1は甲第8号証、甲第8号証の2、甲第9号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の「排出ポート」について、「本体部と前記先端部を有する筒状体である」とその構成を限定し、本件特許発明1の「連通阻害用弱シール部」について、「一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており」とその構成を限定したものである。
しかしながら、「排出ポート」が先端部を有する筒状体である点は、甲第8号証に記載されており、また、「一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され」る構成は甲第9号証の甲9発明2も備えており、結局、本件特許発明2は、甲第8号証、甲第8号証の2、甲第9号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)無効理由2についての小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2は、いずれも甲第8号証、甲第8号証の2、甲第9号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号に該当し、これらの発明についての特許は無効とすべきである。

4 無効理由3について

(1)本件特許発明1について
ア 上記第3で検討したとおり、本件訂正は適法なものであるから訂正を認める。
請求人が主張する訂正後の明細書及び特許請求の範囲についての無効理由3は、平成27年1月5日付け訂正請求書による訂正後の明細書及び特許請求の範囲に対する無効理由であるが、本件訂正後の明細書及び特許請求の範囲にも、請求人が指摘する無効理由3と同様の記載があるので、訂正後の本件特許発明1及び2について請求人が主張する無効理由3について検討する。

イ 請求人は、訂正後の請求項1の「無菌水」という用語は依然として不明確である旨主張するが、その具体的理由は、次のとおりである。
すなわち、所定の滅菌工程を行った場合でも微生物を完全に殺滅・除去できるとはいえず、「無菌水」とは微生物を完全に殺滅・除去された水をさすとは考えにくく、何らかの滅菌操作が施された水か、生菌数が一定のレベルまで低下させられた水を意味すると考えるのが自然であるが、本件明細書にはこれらの点について全く記載がなく、どのような処理(滅菌工程)が施された水をさしているのかまたはどの程度の生菌数を許容するもの(無菌性保証水準)として定義されるものか、明細書の記載や技術常識を参酌しても不明で、明確でなく、実施可能とはいえず、また明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでない(審判請求書64頁3行?65頁16行、弁駁書17頁15行?18頁20行。)。

ウ そこで、検討するに、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0001】?【0004】の記載に鑑みれば、本件特許発明の医療用複室容器は患者に静脈より投与する薬剤のための容器であると理解できる。
一方、乙11号証によれば、加熱等の滅菌処理を施しても微生物が全く存在しない完全な無菌状態となる確率はゼロにはならず、無菌性の定義としては、所望の滅菌処理をしたものと理解するのが当業者の技術常識であり、また、乙16号証からも同様のことが理解できる。
してみると、本件特許請求の範囲及び明細書における「無菌水」とは、滅菌を意図して、何らかの滅菌処理を行った水と理解でき、不明確とは認められない。

エ また、その無菌水の滅菌の程度についても、本件特許発明1の実施にあたり、特定の滅菌度合いの無菌水が求められているとか、無菌水の滅菌の程度が、本件特許発明1の効果を奏することに影響を与える等の特段の理由も認められない。

オ したがって、本件特許発明1の「無菌水」については、生菌数がどのレベルまで低下させられた水を意味するか定義されていなくても、所望の滅菌処理を施した水と理解できるから明確であり、発明の詳細な説明にも、無菌水の生菌数が特定レベルまで低下させられた水を用いた発明が記載されているものでもなく、また、その生菌数がどのレベルまで低下させられた水を意味するか定義されていなくても発明の実施は可能であるから、本件特許発明1については、請求人が主張する理由3は理由がない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は、本件特許発明1の「排出ポート」について、「本体部と前記先端部を有する筒状体である」とその構成を限定し、本件特許発明1の「連通阻害用弱シール部」について、「一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており」とその構成を限定されたものである。
しかしながら、上記の構成は、いずれも明確であり、発明の詳細な説明に記載されており、また当業者が実施できる程度に十分明確に記載されていることは明らかである。

(3)その他の主張について
請求人は訂正前の本件特許発明について、発明特定事項のうち「該空間の容積」は不定なもので、「該空間の容積1ml当たり、0.005?0.1ml」がどのような量となるかは特許請求の範囲、明細書及び図面を参酌しても明確でなく、実施可能ではないし、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ともいえない。また、請求項に記載の発明は、薬剤を充填する工程が不明であって、明確ではなく、実施可能ではないし、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないと主張しているので、これらについても念のため検討する。

ア 請求人は該空間の容積は、容器本体が可撓性材料により作成されるから該空間の容積は一義的に定まらず不定なものであるから、「該空間の容積1ml当たり、0.005?0.1ml」がどのような量となるかは特許請求の範囲、明細書及び図面を参酌しても明確でないと主張する。
しかしながら、一般に、可撓性材量で構成された変形する容器であったとしても、その容積とは、容器中を満たす容積と解するのが技術常識であり、容器の形状や寸法が決まればその容積も特定されるものであるから、容器本体が可撓性材料により作成されるから該空間の容積は一義的に定まらず不定なものであることを根拠に、「該空間の容積1ml当たり、0.005?0.1ml」が明確でないとする請求人の主張は採用できない。

イ 請求人は、請求項に記載の発明は、薬剤を充填する工程が不明であって、明確ではなく、実施可能ではないし、明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ともいえないと主張するが、本件特許発明1及び2の属する医療用複室容器においては、その容器への薬剤の充填は、例えば、甲第8号証や乙第10号証に記載されているように周知の事項であり、本件特許発明1及び2の薬剤を充填する工程が、明細書に記載や教示がないからといって当業者が本件特許発明1及び2を実施できないとする理由はない。

以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3のその他の主張も理由がない。

(4)無効理由3についての小括
以上のとおりであるから、本件特許の請求項1及び請求項2の記載は明確であり、本件特許発明1及び2は発明の詳細な説明に記載された発明であり、本件特許発明1及び2は、発明の詳細な説明に、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されている。
したがって、請求人主張の無効理由3については、理由がない。

5 小括
上記1で述べたように、本件特許に係る特許出願は適法な分割出願であるとともに優先権の利益を享受できる発明であり、上記2及び4で述べたように、請求人が主張する無効理由1及び3はいずれも理由がないが、上記3で述べたように、請求人が主張する無効理由2は理由がある。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は認められるものであり、訂正後の本件特許発明1及び2は、甲第8号証に記載された発明及び甲第8号証の2及び甲第9号証に記載された発明並びに周知の事項から当業者が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない発明であり、特許法第123条第1項第2号に該当し、本件特許発明1及び2に係る発明の特許は無効とすべきである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
医療用複室容器
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離可能な弱シール部により2つの薬剤室に区分されるとともに、各薬剤室に薬剤が充填された医療用複室容器に関する。
【背景技術】
【0002】
患者に静脈より栄養成分を投与する薬剤の中には、予め配合すると経時的変化を起こしやすい不安定な薬剤がある。例えば、あらかじめアミノ酸液とブドウ糖液を配合して保存すると、メイラード反応によって混合液が着色(褐変)する。また、カルシウム化合物はリン酸化合物と配合すると、高いpHの液剤中ではリン酸カルシウムの沈殿を生じ、製品価値が著しく低下してしまうことになる。このような薬剤を患者に投与する場合、例えば、特許第2675075号(特許文献1)のように混合前の成分を個別に収納する医療用複室容器を用い、投与直前に混合してから投与するようになってきている。
この医療用複室容器は、異なる成分の薬剤を個別に収納する複数の室と、各室間を仕切、外部からの圧力により剥離開封する仕切用弱シールとを備えている。
しかしながら、前記医療用複数容器は排出口側の収納部に液剤を収納している場合が多く、仕切用弱シールを剥離せずに、ゴム栓に瓶針を刺入し、排出口から液剤を取り出すという可能性がある。
このため、確実に各収納部に収納されている薬剤を混合した後に患者に投与することを保証し、薬剤を誤って混合しないで患者に投与する事故を確実に防止する方法が工夫されており、例えば、特開平9-327498号(特許文献2)や特開2002-136570号(特許文献3)のように薬剤排出口と薬剤を収納する分室との間を区切る連通阻害用弱シール部を備える複室容器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】
特許第2675075号公報
【特許文献2】
特開平9-327498号公報
【特許文献3】
特開2002-136570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2および3に示すものでは、仕切用弱シール部を剥離せずに、栓体に瓶針を刺入し、排出口から液剤を取り出すという可能性がかなり少ないものとなる。しかし、薬剤排出口と薬剤を収納する分室との間を仕切る連通阻害用弱シール部の間においてブロッキングによる密着が生じること、また逆に、薬剤排出口に近接していることにより連通阻害用弱シール部にシール不良が生じる場合がある。ブロッキングによる密着が生じると連通阻害用弱シール部の剥離作業に手間取るものとなる。また、連通阻害用弱シール部にシール不良が生じた場合には、仕切用弱シールを剥離せずに薬剤の投与が行われることが危惧される。また、ある程度の量の液体を連通阻害用弱シール部と薬剤排出ポート間に存在させることにより、ブロッキングを防止することも可能と考えるが、この場合、存在する液体のみ投与される危険性がある。
本発明の目的は、剥離可能な仕切用弱シール部により2つの薬剤室に区分されるとともに、薬剤室に薬剤が充填された医療用複室容器において、ブロッキングによる連通阻害用弱シール部の難剥離状態の形成を防止し、容易に投与準備ができ、さらに、連通阻害用弱シール部のシール不良を生じることがなく、薬剤が混合されずに投与されることを防止する医療用複室容器を提供するものである。
また、上記のような医療用複室容器では、連通阻害用弱シール部を設けることにより、空間(第3室)が形成される。複室容器より排出される薬剤は、この空間を通過するため、滅菌確保が必要となる。
そこで、上記の本発明の医療用複室容器は、上記の連通阻害用弱シール部を設けることにより形成される空間内を確実に滅菌できる医療用複室容器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するものは、以下のものである。
(1) 可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分された容器本体と、該容器本体の下端側シール部に固定され、前記第1の薬剤室の下端部と連通する排出ポートと、前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積1ml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されていることを特徴とする医療用複室容器。
【0006】
(2)前記連通阻害用弱シール部は、一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており、前記排出ポートは、本体部と前記先端部を有する筒状体である上記(1)に記載の医療用複室容器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の医療用複室容器によれば、排出ポートの先端部の形状に対応して、連通阻害用弱シール部と排出ポートの先端部の先端との距離が的確なものとなっているため、連通阻害用弱シール部と前記排出ポート間において、医療用複室容器を形成する樹脂シートのブロッキングによる密着を防止でき、ブロッキングによる連通阻害用弱シール部の難剥離状態が形成されることを阻止する。また、排出ポートの先端部の形状に対応して、連通阻害用弱シール部と排出ポートの先端部の先端との距離が的確なものとなっているため、連通阻害用弱シール部のシール不良を生じることがない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】
図1は、本発明の医療用複室容器の一実施例の正面図である。
【図2】
図2は、図1の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図である。
【図3】
図3は、図2のA-A線断面図である。
【図4】
図4は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の排出ポート付近の拡大部分断面図である。
【図5】
図5は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図6】
図6は、図5の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図である。
【図7】
図7は、図6のB-B線断面図である。
【図8】
図8は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図9】
図9は、図8の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図である。
【図10】
図10は、図9のC-C線断面図である。
【図11】
図11は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図である。
【図12】
図12は、図11の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図である。
【図13】
図13は、図11の医療用複室容器に使用される排出ポートの正面図である。
【図14】
図14は、図13に示す排出ポートの側面図である。
【図15】
図15は、図13のD-D線断面図である。
【図16】
図16は、図14のE-E線断面図である。
【図17】
図17は、図13に示す排出ポートの作用を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の医療用複室容器について、図面に示す実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の医療用複室容器の一実施例の正面図であり、図2は、図1の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図であり、図3は、図2のA-A線断面図であり、図4は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の排出ポート付近の拡大部分断面図である。なお、図中の上側を「上端」、下側を「下端」として説明する。
この実施例の医療用複室容器1は、可撓性材料により形成され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部9により第1の薬剤室21と第2の薬剤室22に区分された容器本体2と、第1の薬剤室21の下端部と連通可能な排出ポート3と、第1の薬剤室21に収納された第1の薬剤と、第2の薬剤室22に収納された第2の薬剤とを備える薬剤入り医療用複室容器である。医療用複室容器1は、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部10を備える。さらに、連通阻害用弱シール部10は、一端が排出ポート3が取り付けられた閉塞部6(6a)より仕切用弱シール部9側に延びる第1の部分11と、第1の部分11と連続しかつ排出ポート3の中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分12と、第2の部分12と連続しかつ閉塞部6(6b)側に延びかつ閉塞部に到達する第3の部分13を備え、排出ポート3の先端部の上方を取り囲むように形成されている。そして、排出ポート3は、本体部30aと先端部30bを有する筒状体であり、先端部30bは本体部30aより断面積が小さいものとなっており、さらに、排出ポート3の先端部30bの先端30dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H1は、6?15mmとなっている。好ましくは、8?10mmである。
この実施例の医療用複室容器1は、シート状筒状体により形成された容器本体2を備え、この容器本体には、内部収納部を区画する仕切用弱シール部9が形成されており、収納部は、第1の薬剤室21と第2の薬剤室22とに区画されている。
また、図1に示すように、容器本体2の上端側および下端側には、第1の閉塞部(一端部シール部、言い換えれば、下端側シール部)6および第2の閉塞部(他端部シール部、言い換えれば、上端側シール部)5が設けられている。また、この実施例の医療用複室容器1では、第1の薬剤室21側に設けられた薬剤排出ポート3を備えている。
医療用複室容器1の容器本体2は、軟質合成樹脂により形成されている。容器本体2は、インフレーション成形法により筒状に成形されたものが好ましい。なお、容器本体2は、例えば、ブロー成形法などの種々の方法により製造されたものでもよい。また、容器本体2は、図1のような筒状体の外周部の全周(4辺)をシールしたもの、上下端のみ(2辺)をシールしたもの、2枚のシート材を重ねその外周部全周をシールしたもの、一枚のシートを2つ折りし、折り曲げ部以外の3辺をシールしたものなどの袋状物であってもよい。容器本体が、多層である場合は、共押出インフレーション成形法などによって成形することができる。また、容器本体2の上端側のシール部5のほぼ中央部には、医療用複室容器1をハンガー等に吊り下げるための孔25が設けられている。
【0010】
そして、容器本体2は、他端側シール部(第2の閉塞部)5の端部寄りの位置に薬剤容器4を固定するための薬剤容器固定部18(非シール部分)を備え、一端側(下端側)シール部6の中央部分には排出ポート3を固定するための排出ポート固定部19(非シール部分)を備えている。
容器本体2は、水蒸気バリヤー性を有することが好ましい。水蒸気バリヤー性の程度としては、水蒸気透過度が、50g/m^(2)・24hrs・40℃・90%RH以下であることが好ましく、より好ましくは10g/m^(2)・24hrs・40℃・90%RH以下であり、さらに好ましくは1g/m^(2)・24hrs・40℃・90%RH以下である。この水蒸気透過度は、JISK7129(A法)に記載の方法により測定される。
このように容器本体2が水蒸気バリヤー性を有することにより、医療用複室容器1の内部からの水分の蒸散が防止できる。その結果、充填される薬剤(具体的には、薬液)の減少、濃縮を防止することができる。また、医療用複室容器1の外部からの水蒸気の侵入も防止することができる。
【0011】
このような容器本体2の形成材料として、ポリオレフィン類が含有されるとき、本発明の有用性が大きいものとなる。したがって、本発明においては、容器本体2の形成材料として、ポリオレフィン類を含むものであるのが好ましい。容器本体2の形成材料として、特に好ましいものとして、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)のようなポリオレフィン類に、スチレン-ブタジエン共重合体やスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体等のスチレン系熱可塑性エラストマーあるいはエチレン-プロピレン共重合体やエチレン-ブテン共重合体,プロピレン-αオレフィン共重合体等のオレフィン系熱可塑性エラストマーをブレンドした軟質樹脂を用いてもよい。この材料は、透明性に優れ、高強度で柔軟性に富み、耐熱性(特に滅菌時の耐熱性)、耐水性が高い他、加工性が特に優れ、製造コストの低減を図ることができる点で好ましい。
さらに、上記のブレンド樹脂を用いる場合には、2種以上の融点の異なる材料を用いることになり、容器本体2のシール部5やシール部6、第1の薬剤室21の側部シール部7、8、後述する仕切用弱シール部9および連通阻害用弱シール部10の各シール条件の設定、各シール部分のシール強度の安定化を容易かつ良好に図ることができる。
【0012】
また、容器本体は、このように前述したような材料よりなる単層構造のもの(単層体)であってもよいし、また種々の目的で、前述したような材料で内表面部分(内表面層)が形成された複数の層(特に異種材料の層)を重ねた多層積層体であってもよい。多層積層体の場合、複数の樹脂層を重ねたものであってもよいし、少なくとも1層の樹脂層に金属層を積層したものであってもよい。複数の樹脂層を重ねたものの場合、それぞれの樹脂の利点を併有することができ、例えば、容器本体2の耐衝撃性を向上させたり、対ブロッキング性を付与したりすることができる。また、金属層を有するものの場合、容器本体2のガスバリヤー性等を向上させることができる。例えば、アルミ箔等のフィルムが積層された場合、ガスバリヤー性の向上とともに、遮光性を付与することができる。また、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ケイ素等の酸化物からなる層を形成した場合、ガスバリヤー性の向上とともに、容器本体2の透明性を維持することができ、内部の視認性を確保することができる。
容器本体2を構成するシート材の厚さは、その層構成や用いる素材の特性(柔軟性、強度、水蒸気透過性、耐熱性等)等に応じて適宜決定され、特に限定されるものではないが、通常は、100?550μm程度であるのが好ましく、200?400μm程度であるのがより好ましい。
【0013】
そして、容器本体2は、仕切用弱シール部9を備えており、これにより、内部が2室に区分されている。仕切用弱シール部9は、容器本体2を横方向全体に横切る剥離可能な弱シール部と、弱シール部の両端に設けられた実質的に剥離不能な強シール部を備えるものであってもよい。上述した仕切用弱シール部9のシール強度(初期の剥離強度)は、特に限定されないが、通常は、0.12?4.5kgf/20mm幅程度であるのが好ましく、0.35?2.7kgf/20mm幅であるのがより好ましい。シール強度がこの範囲内であれば、輸送や保管中等に誤って仕切用弱シール部9が剥離することがなく、また、仕切用弱シール部9を剥離する作業も容易である。
そして、弱シール部は、熱シールにより形成することが好ましい。具体的には、加熱プレスにより行うことが好ましく、金型の温度は、容器本体2の形成材料の溶融温度より10℃以上低い温度で行うことにより形成することができる。
この実施例における仕切用弱シール部9は、容器本体2のシート材を帯状に融着することにより形成されている。この仕切用弱シール部9は、例えば、容器本体2の第1の薬剤室21もしくは第2の薬剤室22の部分を手で押圧し、第1の薬剤室21もしくは第2の薬剤室22の内圧を高めること、また、医療用複室容器1をハンガーに掛けた状態で容器本体2の第1の薬剤室21もしくは第2の薬剤室22部分を手で絞ることにより、第1の薬剤室21もしくは第2の薬剤室22の内圧を高めたりすることにより剥離する程度のシール強度を備える。これにより、特別の器具等を用いず、簡単な作業で仕切用弱シール部9による遮断を解除し、第1の薬剤室21と第2の薬剤室22の薬剤同士を混合することができる。
【0014】
また、医療用複室容器1の容積は、内部に収納する薬剤の種類等によって異なるが、通常は、第1の薬剤室の容積が、50?3000mL程度であることが好ましく、第2の薬剤室の容積が、50?3000mL程度であることが好ましい。
このように薬剤室を第1の薬剤室21と第2の薬剤室22の2つに区分することにより、反応等による変質、劣化を生じる物質を含有する液体を使用するまでは別々に保存でき、使用に際し、両液を混合することが好ましいとき等に適用することができる。それぞれの薬剤室に収納される薬剤としては、薬液、散剤などが考えられる。特に、本発明の医療用複室容器では、第1の薬剤は、薬液であることが好ましい。第2の薬剤は、薬液もしくは散剤いずれであってもよい。好ましくは、薬液である。第1の薬剤および第2の薬剤の組合せとしては、例えば、輸液剤では、メイラード反応による着色を防止するために、アミノ酸電解質液とブドウ糖液との組合せとしたり、他に、ブドウ糖液と重曹液等の組み合わせ、また、腹膜透析液剤としてブドウ糖が配合される側のpHを3?5とし、他方の電解質液を混合後、投薬時にほぼ中性域のpHとなるように調整したものなどが挙げられる。
なお、本発明において、第1の薬剤および第2の薬剤は、特に限定されず、例えば、生理食塩水、電解質溶液、リンゲル液、高カロリー輸液、ブドウ糖液、アミノ酸輸液、脂肪輸液、注射用水、腹膜透析液、経口・経腸栄養剤等、いかなるものであってもよい。
【0015】
容器本体2の一端部(下端部)には、第1の薬剤室21に連通し得る薬剤排出ポート3が設けられている。薬剤排出ポート3は、一端側シール部(第1の閉塞部)6における軸方向(容器上下方向)に貫通するように形成された未閉塞部(未シール部)である固定部19部分のシート材間に挿入され、シール部17により融着され、容器本体2に対し液密に固着されている。
薬剤排出ポート3は、容器本体2内に充填された薬剤(薬液)を排出するためのものである。この実施例における排出ポート3は、図1ないし図3に示すように、上端(先端部)が開口した筒状体30と、筒状部材の下端側に液密に取り付けられた薬剤排出用針により連通可能な連通部を備えている。連通部は、キャップ部材31と、その後端開口を封止するとともに薬剤排出用針の刺通が可能な弾性部材32とを備えている。連通部としては、このような形態のものに限定されるものではない。
【0016】
弾性部材32は、瓶針、カヌラ針等の針管(図示せず)が刺通可能なものであり、必要時にこの針管を刺通して、容器本体2内からの薬剤の排出もしくは容器本体2内への薬剤等の添加を行うことができる。また、弾性部材は、自己閉塞性を有し、針管を弾性部材から抜き取った後は、その穿刺孔が瞬時に閉塞し、薬剤の漏れを防止する。弾性部材の構成材料としては、スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー等の各種熱可塑性エラストマー、天然ゴム、イソプレンゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、スチレン-ブタジエンゴムのような各種ゴム材料等の弾性材料、あるいはこれらのうちの任意の2以上を組み合わせたもの(ブレンド、積層体等)、さらに、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン、あるいは、エチレン-酢酸ビニル共重合体、架橋型エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、ポリアミド等の高分子材料を配合したものが挙げられる。
【0017】
薬剤排出ポート3の筒状体30およびキャップ部材31の構成材料としては、その用途や機能に応じた条件、例えば硬度、強度、靭性、耐薬品性、透明性、その他の条件を有する材料が用いられ、比較的硬質な材料で構成されているのが好ましく、これらの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン(低密度?高密度)、ポリ塩化ビニル(軟質?硬質)、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリアミド、ABS樹脂、AS樹脂、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、フッ素系樹脂等が挙げられ、前述したような条件に応じ、適宜選択して用いることができる。
【0018】
この実施例の医療用複室容器1は、薬剤排出ポート3の上方を取り囲むように形成された連通阻害用弱シール部10が形成されている。連通阻害用弱シール部10は、剥離可能なものであり、剥離されない状態では、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害している。そして、この連通阻害用弱シール部10により、第1の薬剤室21から隔離された第3室23が形成されている。つまり、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と閉塞部6(6a,6b)により、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。第3室23にこのように液体を入れることにより、第3室の内部の滅菌が確実なものとなる。また、第3室23に入れられる液体の量としては、第3室の大きさによって相違するが、0.1?0.5ml程度であることが好ましい。また、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度であることが好ましい。連通阻害用弱シール部10は、シート材を帯状に熱シール(熱融着、高周波融着、超音波融着等)することにより形成することができる。
また、本発明の医療用複室容器1は、可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部9により第1の薬剤室21と第2の薬剤室22に区分された容器本体2と、容器本体2の下端側シール部6に固定され、第1の薬剤室21の下端部と連通する排出ポート3と、第1の薬剤室21に収納された第1の薬剤と、第2の薬剤室22に収納された第2の薬剤と、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部10とを備える。そして、連通阻害用弱シール部10と排出ポート3と下端側シール部6により形成される空間内に、空間内の容積1ml当たり、0.005?0.1mlの液体が添加されている。
この医療用複室容器1のように、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部10を設けることにより、仕切用弱シール部9が剥離されることなく第1の薬剤室21内の第1の薬剤のみが投与されることを防止でき好ましい。しかし、連通阻害用弱シール部10を設けることにより空間(第3室23)が形成される。複室容器1より排出される薬剤は、この空間を通過するため、滅菌確保が必要となる。
そこで、上記の本発明の医療用複室容器は、上記の連通阻害用弱シール部10を設けることにより形成される空間内を確実に滅菌できる医療用複室容器を提供するものである。
この目的を達成するために、上述したように、連通阻害用弱シール部10を設けることにより形成される空間23内に微量の液体が添加されている。液体としては、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が用いられる。そして、このように連通阻害用弱シール部10を設けることにより形成される空間23内に微量の液体が添加(封入)された状態にて、高圧蒸気滅菌されることにより、添加された液体が、閉塞空間である第3室23内にて蒸気化し、第3室23内の内面および空間を滅菌する。そして、第3室23への液体の添加量としては、第3室の空間内の容積1ml当たり、0.005ml?0.1mlであることが好ましい。特に、第3室の空間内の容積1ml当たり、0.01?0.05mlであることが望ましい。添加される液体としては、上述したように、水(例えば、無菌水、RO水、蒸留水)、生理食塩水などが好ましい。そして、本発明の医療用複室容器1は、上記の第3室23に上記の液体が添加された後に封止され、高圧蒸気滅菌される。
【0019】
そして、医療用複室容器1は、排出ポート3の付近に設けられ、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部10を備える。連通阻害用弱シール部10のシール強度(初期の剥離強度)は、特に限定されないが、通常は、0.5?6.0kgf/20mm幅程度であるのが好ましく、1.0?5.0kgf/20mm幅であるのがより好ましい。
連通阻害用弱シール部10のシール強度は、仕切用弱シール部9のシール強度とほぼ同じ、または若干弱いもしくは若干強いものであることが好ましい。第1の薬剤室21部分の圧迫による2つの弱シール部9,10の剥離を推奨する場合には、連通阻害用弱シール部10のシール強度は、仕切用弱シール部9のシール強度とほぼ同じまたは若干強いものであることが好ましい。このようにすることにより、容器本体2の第1の薬剤室21部分を圧迫したとき、連通阻害用弱シール部10が仕切用弱シール部9より先に剥離することがない。
また、第2の薬剤室22部分の圧迫による2つの弱シール部9,10の剥離を推奨するものであってもよく、この場合には、連通阻害用弱シール部10のシール強度は、剥離可能であればどのようなレベルのものであってもよい。好ましくは、仕切用弱シール部9のシール強度とほぼ同じまたは若干強いもしくは若干弱いものであることが好ましい。
【0020】
そして、医療用複室容器1は、筒状体であって、上述したように、排出ポート3が取り付けられる側に形成された一端部(下端部)シール部6を備えている。そして、連通阻害用弱シール部10は、図2に示すように、一端が閉塞部6(6a)より仕切用弱シール部9側に延びる第1の部分11と、第1の部分11と連続しかつ排出ポート3の中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分12と、第2の部分12と連続しかつ閉塞部6(6b)側に延びかつ閉塞部6(6b)に到達する第3の部分13を備え、排出ポート3の先端部の上方を取り囲むように形成されている。
【0021】
そして、排出ポート3は、図2および図3に示すように、ほぼ円筒状の先端部30aと扁平状の先端部30bを備える筒状体30を備えている。このため、排出ポート3の先端部30bは本体部30aより断面積が小さいものとなっている。具体的には、筒状体30は、扁平状の先端部30bを有し、端部(先端部)が開口している。排出ポートの先端30dの開口面積は、使用時に排出ポートに接続される針管の内部流の断面積よりも大きいことが、流量確保の点より好ましい。排出ポートの先端30dの開口面積としては、5mm^(2)以上が好ましく、特に、10mm^(2)以上であることが好ましい。また、排出ポートは、使用時に排出ポートに接続される針管が侵入可能な内径および抜け落ちないように侵入可能な長さを有するものが用いられる。排出ポートの本体部の内径は、5mm以上であることが好ましく、特に、8mm以上であることが好ましい。筒状体30の扁平状部分30bの長さとしては、10?15mm程度が好適である。筒状体30の扁平状部分30bにおける厚さ(外面間厚さ)としては、2?8mm程度が好適であり、特に、3?5mmが好ましい。また、筒状体30の扁平状部分30bにおける内部通路の厚さWとしては、0.5?2.5mm程度が好適である。また、筒状体30の円筒状部分の外径としては、10?20mm程度が好適である、特に、14?16mmが好ましい。
【0022】
そして、排出ポート3の先端部の先端30dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H1は、6?15mmとなっている。特に、距離H1は、8?10mmであることが好ましい。この実施例では、図2および図3に示すように、排出ポート3の先端部30bは扁平状となっているため、排出ポート3の先端部の先端30dを連通阻害用弱シール部10の第2の部分12に近接させても、連通阻害用弱シール部10の第2の部分12が押し広げられることが少ない。このため、連通阻害用弱シール部10にシール不良が生じることが少ない。また、上述のように、排出ポート3の先端部の先端30dを連通阻害用弱シール部10の第2の部分12に近接させることができるため、第3室23を形成するシートの密着する部分の形成を少ないものとすることができ、予期しないブロッキングの発生を防止できる。
さらに、この実施例の医療用複室容器1では、図2に示すように、一端部(下端部)シール部6(6a、6b)は、第1の薬剤室21側の端縁の排出ポート3の両側部に形成された直線部分16a,16bを備える。連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aは、排出ポート3の両側部に位置する閉塞部6a,6bの直線部分16a,16bのそれぞれの排出ポート側端P1,P2を結ぶ仮想線より仕切用弱シール部9側に位置している。そして、排出ポート側端縁12aと上記の直線部分16a,16bのそれぞれの排出ポート側端P1,P2を結ぶ仮想線との間の距離Lは、0?7mmであることが好ましい。特に、距離Lは、1?5mmであることが好ましい。
【0023】
さらに、この実施例の医療用複室容器1では、図2に示すように、排出ポート3の両側部に位置する閉塞部6a,6bの直線部分16a,16bのそれぞれの排出ポート側端P1,P2を結ぶ仮想線は、排出ポート3の先端部の先端30dより、連通阻害用弱シール部10側となっている。つまり、排出ポート3の先端部の先端30dは、閉塞部6a,6bの直線部分16a,16bのそれぞれの排出ポート側端P1,P2を結ぶ仮想線より、連通阻害用弱シール部10側に突出しないものとなっている。
上記のようにすることにより、連通阻害用弱シール部10が薬剤室21側に大きく飛び出さない形状となり、連通阻害用弱シール部10のシール強度を強くしなくても、輸送時等の外圧によるシール部の剥離がない。
【0024】
そして、排出ポート3の先端部の先端30dと上記の直線部分16a,16bのそれぞれの排出ポート側端P1,P2を結ぶ仮想線との間の距離(H1-L)は、1?15mmであることが好ましい。特に、距離(H1-L)は、4?8mmであることが好ましい。
さらに、この実施例の医療用複室容器1では、図1に示すように、容器本体2の他端部(上端部)には、第2の薬剤室22内に侵入するように固定された薬剤容器4が設けられている。薬剤容器4は、他端側(上端側)シール部(第2の閉塞部)における軸方向(容器上下方向)に貫通するように形成された未閉塞部(未シール部)である固定部18部分のシート材間に挿入され、シール部15により融着され、容器本体2に対し液密に固着されている。薬剤容器4は、薬剤容器本体部と、操作部4aと蓋部4bとを有する。薬剤容器4は、操作部4aが第2の薬剤室22内に突出するように容器本体2に固定されている。薬剤容器4は、内部に薬剤を収納しており、操作部4aの破断操作を行うことにより、薬剤容器内の薬剤は、第2の薬剤室22内に流入する。
【0025】
薬剤容器4内に収納される薬剤としては、輸液剤に配合・溶解させるものであって、例えば抗生物質、ビタミン剤(総合ビタミン剤)、各種アミノ酸、ヘパリン等の抗血栓剤、インシュリン、抗腫瘍剤、鎮痛剤、強心剤、静注麻酔剤、抗パーキンソン剤、潰瘍治療剤、副腎皮質ホルモン剤、不整脈用剤、補正電解質、抗ウィルス薬、免疫賦活剤等が挙げられる。また、薬剤容器4内は、常圧でもよいが、減圧または真空状態としてもよい。
薬剤容器4の構成材料としては、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、環状ポリオレフィン[具体的には、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、APEL(三井化学株式会社製)]、ポリプロピレンホモポリマー、高密度ポリエチレンのようなポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ-(4-メチルペンテン-1)、ポリカーボネート、ABS樹脂、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、アイオノマー、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)のようなポリエステル、ブタジエン-スチレン共重合体、芳香族または脂肪族ポリアミド等の各種樹脂、あるいはこれらを任意に組み合わせたものが挙げられる。これらの中でも、安全性が高く、容器本体2との密着性に優れるという点で、硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルが好ましい。
【0026】
また、上述した実施例では、排出ポート3に用いられる筒状体30は、本体部30aと連続する急激な変形部30cを有し、この変形部30cより端部側はほぼ同じ厚さの内部通路を有するものとなっている。しかし、このようなものに限定されるものではなく、図4に示す筒状部材50のように、本体部50aより徐々に内部通路の厚さが小さくなる傾斜した扁平状の先端部50bを備えるものであってもよい。
そして、筒状体50は、扁平状の先端部50bの先端50dにて開口している。排出ポートの先端50dの開口面積は、使用時に排出ポートに接続される針管の内部流の断面積よりも大きいことが、流量確保の点より好ましい。排出ポートの先端50dの開口面積としては、5mm^(2)以上が好ましく、特に、10mm^(2)以上であることが好ましい。また、排出ポートは、使用時に排出ポートに接続される針管が侵入可能な内径および抜け落ちないように侵入可能な長さを有するものが用いられる。排出ポートの本体部の内径は、5mm以上であることが好ましく、特に、8mm以上であることが好ましい。筒状体50の扁平状部分50bの長さとしては、10?15mm程度が好適である。筒状体50の扁平状部分50bにおける厚さ(外面間厚さ)としては、2?8mm程度が好適であり、特に、3?5mmが好ましい。また、筒状体50の円筒状部分の外径としては、10?20mm程度が好適である、特に、14?16mmが好ましい。また、この実施例においても、排出ポート3の先端部の先端50dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離は、6?15mmであることが好ましく、特に好ましくは、8?10mmである。
【0027】
次に、図5ないし図7に示す実施例の医療用複室容器20について説明する。
図5は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図であり、図6は、図5の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図であり、図7は、図6のB-B線断面図である。
この実施例の医療用複室容器20は、可撓性材料により形成され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部9により第1の薬剤室21と第2の薬剤室22に区分された容器本体2と、第1の薬剤室21の下端部と連通可能な排出ポート3と、第1の薬剤室21に収納された第1の薬剤と、第2の薬剤室22に収納された第2の薬剤とを備える薬剤入り医療用複室容器である。医療用複室容器20は、筒状体であって、排出ポート3が取り付けられる側に形成された閉塞部6と、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部10を備える。さらに、連通阻害用弱シール部10は、一端が閉塞部6(6a)より仕切用弱シール部9側に延びる第1の部分11と、第1の部分11と連続しかつ排出ポート3の中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分12と、第2の部分12と連続しかつ閉塞部6(6b)側に延びかつ閉塞部に到達する第3の部分13を備え、排出ポート3の先端部の上方を取り囲むように形成されている。そして、排出ポート3は、縮径する先端部を備える筒状体であり、排出ポート3の先端部の先端60aと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H2は、8?15mmとなっている。
【0028】
この実施例の医療用複室容器20の基本構成は、上述した医療用複室容器1と同じである。同一構成部分については同じ符号を付し、上述した説明を参照するものとする。医療用複室容器20と上述した医療用複室容器1との相違は、排出ポート3の先端部60bの形状である。
この実施例の医療用複室容器20における排出ポート3は、図6および図7に示すように、円錐状に縮径する先端部60bを備える筒状体60が用いられている。そして、排出ポート3の先端部の先端60dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離は、8?15mmとなっている。排出ポート3は、本体部60aと連続し、連通阻害用弱シール部10の第2の部分12方向に向かってテーパー状に縮径する先端部60bを有し、端部(先端部)60dにて開口した筒状部材60を備えている。排出ポートの先端60dの開口面積は、使用時に排出ポートに接続される針管の内部流の断面積よりも大きいことが、流量確保の点より好ましい。排出ポートの先端60dの開口面積としては、5mm^(2)以上が好ましく、特に、10mm^(2)以上であることが好ましい。また、排出ポートは、使用時に排出ポートに接続される針管が侵入可能な内径および抜け落ちないように侵入可能な長さを有するものが用いられる。排出ポートの本体部の内径は、5mm以上であることが好ましく、特に、8mm以上であることが好ましい。筒状体60の縮径部分60bの長さとしては、10?15mm程度が好適である。筒状体60の先端外径としては、2?8mm程度が好適であり、特に、3?5mmが好ましい。また、筒状体60の先端内径としては、0.5?2.5mm程度が好適である。また、筒状体60の円筒状部分の外径としては、10?20mm程度が好適である、特に、14?16mmが好ましい。
【0029】
そして、排出ポート3の先端部の先端60dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H2は、6?15mmとなっている。特に、距離H2は、8?10mmであることが好ましい。この実施例では、図6に示すように、排出ポート3の先端部60bは円錐状(具体的には、円錐台状)となっているため、排出ポート3の先端部の先端60aを連通阻害用弱シール部10の第2の部分12に近接させても、連通阻害用弱シール部10の第2の部分12が押し広げられることが少ない。このため、連通阻害用弱シール部10にシール不良が生じることが少ない。また、上述のように、排出ポート3の先端部の先端60aを連通阻害用弱シール部10の第2の部分12に近接させることができるため、第3室23を形成するシートの密着する部分の形成を少ないものとすることができ、予期しないブロッキングの発生を防止できる。
【0030】
次に、図8ないし図10に示す実施例の医療用複室容器40について説明する。
図8は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図であり、図9は、図8の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図であり、図10は、図9のC-C線断面図である。
この実施例の医療用複室容器40は、可撓性材料により形成され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部9により第1の薬剤室21と第2の薬剤室22に区分された容器本体2と、第1の薬剤室21の下端部と連通可能な排出ポート3と、第1の薬剤室21に収納された第1の薬剤と、第2の薬剤室22に収納された第2の薬剤とを備える薬剤入り医療用複室容器である。医療用複室容器40は、筒状体であって、排出ポート3が取り付けられる側に形成された閉塞部6と、第1の薬剤室21と排出ポート3との連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部10を備える。さらに、連通阻害用弱シール部10は、一端が閉塞部6(6a)より仕切用弱シール部9側に延びる第1の部分11と、第1の部分11と連続しかつ排出ポート3の中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分12と、第2の部分12と連続しかつ閉塞部6(6b)側に延びかつ閉塞部に到達する第3の部分13を備え、排出ポート3の先端部の上方を取り囲むように形成されている。そして、排出ポート3は、ほぼ同一外径を備える円筒状であり、排出ポート3の先端部の先端70aと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H3は、20?25mmとなっている。
【0031】
この実施例の医療用複室容器40の基本構成は、上述した医療用複室容器1と同じである。同一構成部分については同じ符号を付し、上述した説明を参照するものとする。医療用複室容器40と上述した医療用複室容器1との相違は、排出ポート3の先端部の形状である。
この実施例の医療用複室容器40における排出ポート3は、図9および図10に示すように、ほぼ同一外径のまま上端側に延びる先端部を備える筒状体70が用いられている。そして、排出ポート3の先端部の先端70dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H3は、20?25mmとなっている。排出ポート3は、円筒状の本体部70aの先端により形成された先端部を有し、端部(先端部)が開口した筒状部材70を備えている。筒状部材70の先端部の先端70dの内径としては、10?14mm程度が好適である。また、筒状部材70の円筒状部分の外径としては、14?18mm程度が好適である。
【0032】
そして、排出ポート3の先端部の先端70dと連通阻害用弱シール部10の第2の部分12における排出ポート側端縁12aとの距離H3は、15?30mmとなっている。特に、距離H3は、20?25mmであることが好ましい。
そして、上述したすべて実施例の医療用複室容器における仕切用弱シール部9および連通阻害用弱シール部10の形成方法は、特に限定されず、通常使用されている熱シール用加熱金型(熱シールバー)等を用いて行うことができる。また、高圧蒸気滅菌等の熱滅菌時に仕切用弱シール部9と連通阻害用弱シール部10の部位にブロッキングを生じさせる方法を用いても良い。
【0033】
次に、図11ないし図17に示す実施例の医療用複室容器80について説明する。
図11は、本発明の医療用複室容器の他の実施例の正面図であり、図12は、図11の医療用複室容器の排出ポート付近の部分拡大図である。図13は、図11の医療用複室容器に使用される排出ポートの正面図である。図14は、図13に示す排出ポートの側面図である。図15は、図13のD-D線断面図である。図16は、図14のE-E線断面図である。図17は、図13に示す排出ポートの作用を説明するための説明図である。
この実施例の医療用複室容器80と上述した実施例の医療用複室容器1との相違は、排出ポート90の構成および連通阻害用弱シール部100の形態のみであり、その他は、同じであり、同じ符号を付し、上述した説明を参照するものとする。
【0034】
この医療用複室容器80においても、連通阻害用弱シール部100は、一端が排出ポート90が取り付けられた閉塞部6(6a)より仕切用弱シール部9側に延びる第1の部分101と、第1の部分101と連続しかつ排出ポート90の中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分102と、第2の部分102と連続しかつ閉塞部6(6b)側に延びかつ閉塞部に到達する第3の部分103を備え、排出ポート90の先端部の上方を取り囲むように形成されている。
そして、排出ポート90は、図12に示すように、本体部93aと先端部94を有する先端が閉塞した筒状体93であり、先端部94は本体部93aより断面積が小さいものとなっており、さらに、排出ポート90の先端部94の先端94aと連通阻害用弱シール部100の第2の部分102における排出ポート側端縁102aとの距離H1は、6?15mmとなっている。好ましくは、8?10mmである。
【0035】
排出ポート90が備える筒状体93は、本体部93aと閉塞しかつ破断可能な扁平状の先端部94を備えている。そして、この実施例では、先端部94の先端側は、先端94aに向かって外面間距離が短くなるように移行領域となっている。具体的には、先端94aに向かって外面間距離が短くなる傾斜部94bとなっている。なお、傾斜部に限定されるものではなく、先端94aに向かって外面間距離が短くなる湾曲部であってもよい。そして、このような移行領域を設けることにより、先端部94の先端94aにおける外面間距離が、先端部94において、最も短いものとなっている。
そして、破断後の排出ポートの開口面積は、使用時に排出ポートに接続される針管の内部流の断面積よりも大きいことが、流量確保の点より好ましい。破断後の排出ポートの開口面積としては、5mm^(2)以上が好ましく、特に、10mm^(2)以上であることが好ましい。また、排出ポートは、使用時に排出ポートに接続される針管が侵入可能な内径および抜け落ちないように侵入可能な長さを有するものが用いられる。排出ポートの本体部の内径は、5mm以上であることが好ましく、特に、8mm以上であることが好ましい。筒状体の扁平状部分94の長さとしては、10?15mm程度が好適である。筒状体の扁平状部分94における厚さ(外面間厚さ)としては、2?8mm程度が好適であり、特に、3?5mmが好ましい。また、筒状体の円筒状部分(本体部93a)の外径としては、10?20mm程度が好適である、特に、14?16mmが好ましい。
【0036】
この医療用複室容器80に用いられる排出ポート90は、後端部が開口した筒状体93と、筒状体93の後端部を封鎖するシール部材95を備え、かつ、シール部材の一部が針管の穿刺が可能な弾性部材95aにより形成されているものである。
そして、医療用容器用筒状体93は、容器本体を備える医療用容器に用いられる医療用容器用筒状体であって、筒状体93は、硬質もしくは半硬質材料により形成されており、さらに、筒状体93は、本体部93aと、本体部93aの先端部に設けられた破断可能部96と、本体部93aの破断可能部96を挟むようにそれぞれ設けられるとともに容器本体の一方の内面に固着された第1の応力付与部91および容器本体の他方の内面に固着された第2の応力付与部92とを備え、破断可能部96は、第1の応力付与部91および第2の応力付与部92間の広がりにより破断し、本体部93aを開口するものである。また、2つの応力付与部91,92により先端部94が形成されている。
【0037】
この排出ポート90は、非連通排出ポートである。排出ポート90は、図15および図16に示すように、破断されない状態では、薬剤室21内と連通しないものとなっている。排出ポート90は、図13ないし図16に示すように、排出路98若しくは中空部を有する本体部93aと、本体部93aの先端部付近を一端として延びる第1の応力付与部91および第2の応力付与部92と、第1および第2の応力付与部91,92が広げられたときに破断し、本体部93aを外部と連通させる破断可能部96とを備え、さらに、第1の応力付与部91は容器本体2の薬液室を形成する一方のシート内面に固定されており、第2の応力付与部92は薬液室を形成する他方のシート内面に固定されており、薬液室の押圧時の容器本体2の第1の応力付与部91および第2の応力付与部92の固定部の膨らみにより、破断可能部96が破断するものである。
第1の応力付与部91は、本体部93aの先端部付近の一方のシート側部分から延びるものであり、第2の応力付与部92は、本体部93aの先端部付近の他方のシート側部分から延びるものであり、破断可能部96は、第1の応力付与部91及び第2の応力付与部92が薬剤室の押圧時の容器本体2の第1の応力付与部91および第2の応力付与部92の固定部の膨らみにより、一方のシート側及び他方のシート側に破断するものとなっている。
【0038】
この排出ポート90は、図13ないし図17に示すように、排出路98若しくは中空部を有する本体部93aと、本体部93aに設けられた破断可能部96と、第1の応力付与部91と、第2の応力付与部92とを備えている。
実施例の医療用容器用筒状体93は、本体部93aと、破断可能部96と、第1の応力付与部91と、第2の応力付与部92とを備えている。また、筒状部93の基端部には、シール部材95が取り付けられる蓋部取付部97が形成されている。また、筒状部93の基端部は、容器本体2に取り付け可能なように破断可能部より基端側にある程度の長さを有している。
また、シール部材95は、基端部が閉塞された筒状部となっている。シール部材95の先端部は、筒状部93の蓋部取付部97に取り付け可能な形状となっている。蓋部材95の基端部(排出ポートの排出口)には、針管(具体的には、排出用針:図示せず)等を挿通可能な弾性部材95aが設けられている。
弾性部材95aとしては、上述したものと同様であることが好ましい。筒状部の中空部には、粉末状もしくは固形状の薬剤が収容されていてもよい。特に、粉末状であることが好ましい。
【0039】
そして、この排出ポート90では、第1の応力付与部91および第2の応力付与部92は、図13ないし図16に示すように、本体部93aの破断可能部付近を基端として延出するとともに、先端は自由端となっている。第1の応力付与部91および第2の応力付与部92は、両者間を開く力が付与されたときに、その力を破断可能部96を破断するための応力に変換する機能を備えている。また、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92とは向かい合うように形成されていることが好ましい。また、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92の本体部は縦長の矩形状に形成されていることが好ましい。このような構成により、容器本体2を押圧して膨らませた際に、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92とにより、破断可能部96に確実に破断応力が付与される。
【0040】
具体的には、この実施例の医療用容器における医療用容器用筒状体93では、第1の応力付与部91、第2の応力付与部92は、図13ないし図16に示すように、縦長の平板部と、平板部の両側に形成された側壁部とを備えている。さらに、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92は、本体部の軸方向に延びるように設けられている。そして、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92とは、側壁部分が対向するものとなっている。そして、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92は、向かい合いかつ若干離間するように設けられている。また、第1の応力付与部91および第2の応力付与部92の先端(他端)は、この実施例のように自由端となっていることが好ましい。さらに、第1の応力付与部91および第2の応力付与部92は、向かい合うそれぞれの面に設けられ、相互に当接しない位置に配置されたリブを備えていることが好ましい。
【0041】
また、平板部の外面には、容器本体2の内面に接合される平面部91a,92aが形成されていることが好ましい。平面部91a,92aは、矩形状に形成され接合面が平坦に形成されている。平面部91a,92aは、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92の基端部付近から先端まで形成されている。そして、容器本体2の内面に接合される平面部91a,92aは、その少なくとも一部が、容器本体2の内面に固着可能な材料により形成されている。具体的には、容器本体2の内面に接合される平面部91a,92aは、その一部若しくは全体が、容器本体2の形成材料(特に、容器本体2の内面側を形成する形成材料)と相溶性のある樹脂により形成されていることが好ましい。このような構成により、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92を容器本体2の内面に確実に接合することができる。相溶性のある樹脂は、容器本体の構成材料と同一もしくは近似した材料であることが好ましい。相溶性のある樹脂層は、本発明の実施例では、2色成形により作製されていることが好ましい。なお、第1の応力付与部もしくは第2の応力付与部のすべてを薬剤容器の容器本体と相溶性のある樹脂により作製してもよい。相溶性のある樹脂層は容器本体の内面と接合し易いように平坦に作製されていることが好ましい。
【0042】
また、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92とは、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92の間において若干離間して形成されている。このように、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92間はあまり大きく離間していない。このため、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92間が、容器本体2への固定時に押圧されても、第1の応力付与部91および第2の応力付与部に許容される変形量は少なく、破断可能部96が破断するおそれがない。
そして、医療用複室容器80には、第1の応力付与部91の平面部91aの全体もしくは一部が、容器本体2の一方のシート内面と接合され、同様に、第2の応力付与部92の平面部92aの全体もしくは一部が、容器本体2の他方のシートの内面と接合されている。このため、第1の応力付与部及び第2の応力付与部が、薬剤室の押圧時の容器本体の第1の応力付与部および第2の応力付与部の固定部間の広がりに追従して広がり、後述する破断可能部を、一方のシート側及び他方のシート側に開き破断する。
【0043】
第1の応力付与部91の平面部91a及び第2の応力付与部92の平面部92aと容器本体2の各シートの内面との接合は、超音波融着、高周波融着、熱融着等により行われることが好ましい。
また、第1の応力付与部91もしくは第2の応力付与部92は、容器本体2の外部から担持して広げることが可能な構成であることが好ましい。
なお、本発明の第1の応力付与部及び第2の応力付与部は、上述した構成のものに限定されず、容器本体を構成する一方のシート内面と他方のシート内面と接合可能であり、かつ容器本体の膨らみに連動して破断可能部に応力を付与できる構成をしているものであればいかなる構成であってもよい。
【0044】
そして、破断可能部96は、本体部93aの先端部付近であって第1の応力付与部91と第2の応力付与部92間に位置しかつ排出ポート90の基端側に延びる先端側部分と、先端側部分96aのそれぞれの基端部において分岐して本体部93aの側面方向に延びる第1の応力付与部側部分96bおよび第2の応力付与部側部分96cを有している。このような構成により、第1の応力付与部91と第2の応力付与部92を広げたとき破断可能部96が破断して本体部93aが確実に開封される。
特に、この実施例における破断可能部96は、本体部93aの先端部付近において第1の応力付与部91と第2の応力付与部92との間を通るように設けられ基端側に延びている先端側部分96aと、先端側部分96aの基端部において分岐して先端側部分96aの基端部同士を繋ぐように設けられている第1の応力付与部側部分96bおよび第2の応力付与部側部分96cを備えている。つまり、この実施例では、破断可能部96の第1の応力付与部側部分96bおよび第2の応力付与部側部分96cは、とぎれることなく連続し、破断可能部96の先端側部分96aのそれぞれの基端部間を連結するものとなっている。なお、破断可能部96の第1の応力付与部側部分96bおよび第2の応力付与部側部分96cのいずれかのみ上記のように構成されているものとしてもよい。
【0045】
また、先端側部分96aは、図13,図15に示すように、本体部93aの先端部付近において第1の応力付与部91と第2の応力付与部92との中間付近を通り、かつ一方のシート側と他方のシート側のほぼ中間付近を通るように基端側に延びていることが好ましい。具体的に、この実施例の先端側部分96aは、図13,図15に示すように、本体部93aの一方のシート側及び他のシート側の中間付近に沿ってU字状に形成されている。このように構成することにより、本体部93aをほぼ真ん中から一方のシート側及び他方のシート側に引き裂くことができる。
【0046】
破断可能部96は、破断可能部な脆弱部である。具体的に、破断可能部は、薄肉部である。また、破断可能部96は、本体部93aに溝部を形成することにより作製されていることが好ましい。破断可能部は、溝部の断面がV字状の溝部を形成することにより作製されている。具体的には、溝部の角度は、30?120°、特に、40?60°、最小肉厚は、0.05?0.3mm、特に、0.08?0.2mmであることが好ましい。このような角度に溝形成部を作製することにより、容器本体2を膨らませた場合、破断可能部の中心に応力が集中して確実に破断するものとなる。また、溝部は、破断容易な形状であればいかなる形状のものであってもよく、実施例のようなV字形状に限られず半円形状、半楕円形状等であってもよい。また、本発明の破断可能部は、溝部が形成されることにより薄肉部が形成され破断可能となるものであるが、これに限定されるものではない。破断可能部は、例えば、薬剤収納部の破断可能部を形成する部分をその他の部分より脆弱な材質で形成することにより作製してもよい。具体的に、多色成形によって、破断可能部を形成する部分を破断容易な材料で作製して、その他の部分を破断容易でない材料にて作製することが好ましい。
【0047】
この実施例の医療用複室容器80においても、上述した医療用複室容器1と同様に、連通阻害用弱シール部100と排出ポート90と閉塞部6aにより、空間(第3室23)が形成されている。この空間(第3室)23は、空室となっている。しかし、第3室には、生体に投与されても無害な液体(例えば、水、生理食塩水)が添加されていることが好ましい。第3室23にこのように液体を入れることにより、第3室の内部の滅菌が確実なものとなる。また、第3室23に入れられる液体の量としては、第3室の大きさによって相違するが、0.1?0.5ml程度であることが好ましい。また、第3室の容量1ml当たりの液体の添加量は、0.02?0.1ml程度であることが好ましい。連通阻害用弱シール部100は、シート材を帯状に熱シール(熱融着、高周波融着、超音波融着等)することにより形成することができる。
【0048】
そして、図17に示すように、医療用複室容器80の第2の薬剤室22を押圧して仕切用弱シール部9を剥離させ、さらに押圧することにより第1の薬剤室21を膨らませると、膨らみに連動して第1の応力付与部91と第2の応力付与部92とが一方のシート及び他方のシート方向に開き、まず、破断可能部96の先端側部分96aが破断され、次いで、第1の応力付与部側部分96bおよび第2の応力付与部側部分96cが破断される。これにより、排出ポート90は開封され、本体部93aは薬液室21と連通し、容器本体2内の薬液は投与可能となる。また、この実施例の排出ポート90では、本体部93aより、第1の応力付与部91および第2の応力付与部92は分離する。
【0049】
(実験)
シート状筒状体として、ポリプロピレンにスチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体をブレンドしてなる軟質樹脂をインフレーション成形により肉厚330μmの円筒状[折れ径(横幅210mm)]に成形したものを用いた。
そして、図1に示すように、上記のシート状筒状体の上端および下端にヒートシール部をヒート熱シールすることにより形成し、さらに、中央部に弱シール部、下端シール部の中央より上方に延びるように連通阻害用弱シール部をヒートシールすることにより形成した。そして、上端シール部の薬剤容器取付部に挿入し、ヒートシールにより固定した。また、下端シール部の排出ポート取付部に排出ポートの筒状体を挿入し、ヒートシールすることにより固定し、図1に示す医療用複室容器とほぼ同じ形態の実験用医療用複室容器を作製した。なお、筒状体には、封止部材は取り付けられていない。そして、この実験用医療用複室容器における排出ポートと連通し連通阻害用弱シール部により区画される空間の容積は、10mlであった。
上記のようにして、実験用医療用複室容器を9個準備した。
そして、上記の実験用医療用複室容器の各3個ずつのグループに分け、第1のグループの複室容器には、指標菌(バチルス・サブチルス)10^(7)cfuとRO水1.0mlを上記の連通阻害用弱シール部により区画される空間に添加した後、排出ポートの筒状体の先端部に封止部材を取付け、筒状体を封止した。また、第2のグループの複室容器には、指標菌(バチルス・サブチルス)10^(7)cfuとRO水0.1mlを上記空間に添加した後、排出ポートの筒状体の先端部に封止部材を取付け、筒状体を封止した。また、第3のグループの複室容器には、指標菌(バチルス・サブチルス)10^(7)cfuのみを上記空間に添加した後、排出ポートの筒状体の先端部に封止部材を取付け、筒状体を封止した。
そして、上記のように準備した複数の実験用医療用複室容器をオートクレーブ滅菌(115℃、加圧圧力約2気圧)し72時間放置後に、上記の連通阻害用弱シール部により区画される空間における生菌数を測定したところ、第1グループおよび第2グループでは、いずれの実験用医療用複室容器からも生菌は検出されなかった。しかし、第3グループの実験用医療用複室容器では、平均値10^(7)cfuの生菌の残存が検出された。
【符号の説明】
【0050】
1 医療用複室容器
2 容器本体
3 薬剤排出ポート
4 薬剤容器
5 他端側(上端側)シール部
6 一端側(下端側)シール部
9 仕切用弱シール部
10 連通阻害用弱シール部
21 第1の薬剤室
22 第2の薬剤室
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性材料により作製され、内部空間が剥離可能な仕切用弱シール部により第1の薬剤室と第2の薬剤室に区分された容器本体と、該容器本体の下端側シール部に固定され、前記第1の薬剤室の下端部と連通する排出ポートと、前記第1の薬剤室に収納された第1の薬剤と、前記第2の薬剤室に収納された第2の薬剤と、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成され、前記第1の薬剤室と前記排出ポートとの連通を阻害しかつ剥離可能な連通阻害用弱シール部とを備える医療用複室容器であり、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成され、空室となっている空間内に、0.1?0.5mlであり、かつ、該空間内の容積1ml当たり、0.02?0.1mlの静脈より生体に投与されても無害である無菌水のみが添加され、かつ前記医療用複室容器が高圧蒸気滅菌されることにより、前記連通阻害用弱シール部と前記排出ポートと前記下端側シール部により形成された前記空間内に添加された前記水が蒸気化することにより前記空間内および前記空間を形成する内面が滅菌されていることを特徴とする医療用複室容器。
【請求項2】
前記連通阻害用弱シール部は、一端が前記排出ポートが取り付けられた閉塞部より前記仕切用弱シール部側に延びる第1の部分と、該第1の部分と連続しかつ前記排出ポートの中心軸に対してほぼ直交する方向に延びる第2の部分と、該第2の部分と連続しかつ前記閉塞部側に延びかつ前記閉塞部に到達する第3の部分を備え、前記排出ポートの先端部の上方を取り囲むように形成されており、前記排出ポートは、本体部と前記先端部を有する筒状体である請求項1に記載の医療用複室容器。
【請求項3】 (削除)
【請求項4】 (削除)
【請求項5】 (削除)
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-12-17 
結審通知日 2015-12-21 
審決日 2016-01-05 
出願番号 特願2011-85737(P2011-85737)
審決分類 P 1 113・ 832- ZAA (A61J)
P 1 113・ 536- ZAA (A61J)
P 1 113・ 841- ZAA (A61J)
P 1 113・ 03- ZAA (A61J)
P 1 113・ 537- ZAA (A61J)
P 1 113・ 121- ZAA (A61J)
最終処分 成立  
前審関与審査官 塩澤 正和望月 寛倉橋 紀夫  
特許庁審判長 内藤 真徳
特許庁審判官 山口 直
平瀬 知明
登録日 2014-04-04 
登録番号 特許第5512586号(P5512586)
発明の名称 医療用複室容器  
代理人 大槻 真紀子  
代理人 村山 信義  
代理人 向山 正一  
代理人 寺本 光生  
代理人 村山 信義  
代理人 向山 正一  
代理人 田部 元史  

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