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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 H01L
管理番号 1327240
審判番号 不服2016-5535  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-14 
確定日 2017-05-08 
事件の表示 特願2015-514398「オプトエレクトロニクス半導体チップのための活性領域を製造するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年12月 5日国際公開、WO2013/178425、平成27年 7月 9日国内公表、特表2015-519754、請求項の数(14)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2013年(平成25年)5月3日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2012年5月30日、ドイツ(DE))を国際出願日とする出願であって、平成27年7月9日付け(同年同月21日発送)で拒絶理由が通知され、同年10月21日付けで手続補正がされ、同年12月1日付け(同年同月14日送達)で拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ、これに対し、平成28年4月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされ、同年6月1日に前置報告がされ、同年8月16日に審判請求人から前置報告に対する上申がされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成27年12月1日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

本願請求項1?14に係る発明は、以下の引用文献1?4に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.特開平10-84132号公報
2.特開平11-26812号公報
3.特開2011-171445号公報
4.特開2010-251612号公報

第3 審判請求時の補正について
1 審判請求時の補正によって請求項1の「前記第2のバリア層(22)と前記第3のバリア層(23)との間に」を「前記第1のバリア層(21)と前記第2のバリア層(22)との間に」とする補正について(以下、「補正事項1」という。また、下線は補正箇所である。)

本願図2の記載から、バンドギャップ(E)の経過に段階を形成するところが、「第2のバリア層(22)と第3のバリア層(23)との間」ではなく、「第1のバリア層(21)と第2のバリア層(22)との間」であることが見て取れるので、補正事項1は、誤記の訂正であると認められる。

2 審判請求時の補正によって請求項1に「前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)の成長時の成長温度は、前記量子井戸層(20)に関する成長温度よりも少なくとも10℃、最大で60℃高く、前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)の前記成長温度はそれぞれ730℃以上且つ850℃以下である、」という発明特定事項を追加して限定する補正について(以下、「補正事項2」という。)

補正事項2は、請求項1の「オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)のための活性領域(2)を製造するための方法」において、製造過程における温度条件を限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、補正前の請求項に記載された発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である。
また、補正事項2は、当初明細書の段落【0030】及び【0031】に記載されているから、新規事項を追加するものではないといえる。

3 審判請求時の補正によって請求項12を削除し、請求項13?15を新たな請求項12?14とし、新たな請求項12?14が引用する請求項を整合させる補正について(以下、「補正事項3」という。)

補正事項3は、請求項の削除を目的とするものである。

4 独立特許要件について
以下の「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?14に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

5 審判請求時の補正についてのまとめ
以上のとおりであるから、審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。

第4 本願発明
本願請求項1?14に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明14」という。)は、平成28年4月14日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)のための活性領域(2)を製造するための方法において、
Al_(x4)In_(y4)Ga_(1-x4-y4)N、但し0≦x4≦0.40、且つ平均して0<y4≦0.4、からなる第4のバリア層(24)を、成長方向(z)に沿ってIn含有量が増大するように成長させるステップと、
前記第4のバリア層(24)に、In_(y)Ga_(1-y)N、但し0.08≦y≦0.35、からなる量子井戸層(20)を成長させるステップと、
前記量子井戸層(20)に、Al_(x1)In_(y1)Ga_(1-x1-y1)N、但し0≦x1≦0.40、且つ平均して0<y1≦0.4、からなる第1のバリア層(21)を、前記成長方向(z)に沿ってIn含有量が減少するように成長させるステップと、
前記第1のバリア層(21)に、GaNからなる第2のバリア層(22)を成長させるステップと、
前記第2のバリア層(22)に、GaNからなる第3のバリア層(23)を成長させるステップと、
を備えており、
前記第3のバリア層(23)だけをH_(2)ガスの供給下で成長させ、
前記量子井戸層(20)と、隣接する前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)との間に、ならびに、前記第1のバリア層(21)と前記第2のバリア層(22)との間に、および、前記第3のバリア層(23)と前記第4のバリア層(24)との間に、前記活性領域(2)の成長方向(z)に沿って、バンドギャップ(E)の経過に段階を形成し、
前記量子井戸層(20)及び前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)が成す総厚は、5.5nm以上且つ8.5nm以下であり、
前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)の成長時の成長温度は、前記量子井戸層(20)に関する成長温度よりも少なくとも10℃、最大で60℃高く、
前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)の前記成長温度はそれぞれ730℃以上且つ850℃以下である、
ことを特徴とする、方法。
【請求項2】
前記各層(20,21,22,23,24)を請求項1において記載した順序で直接的に重ねて成長させ、前記順序での成長を前記活性領域(2)において3回以上且つ10回以下繰り返す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第3のバリア層(23)の成長中のH2の流量は、Nについての反応ガスの流量の15%以上且つ55%以下である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)をそれぞれ、0.6nm以上且つ1.8nm以下の平均厚さで成長させる、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第2のバリア層(22)及び前記第3のバリア層(23)をそれぞれ、0.6nm以上且つ1.8nm以下の平均厚さで成長させる、但し、前記第3のバリア層(23)を前記第2のバリア層(22)よりも大きい平均厚さを有するように成長させる、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記量子井戸層(20)を2.5nm以上且つ4.0nm以下の平均厚さで成長させる、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
x4≦0.02、
平均して、0.04<y4≦0.11、
0.12≦y≦0.18、
x1≦0.02、且つ、
平均して、0.04<y1≦0.11、
である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記成長方向(z)に沿って、前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)にわたり、y1及びy4はそれぞれ、少なくとも0.03、最大で0.07変化する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
y1は前記成長方向(z)に沿って単調に減少し、y4は前記成長方向(z)に沿って単調に増大する、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも前記量子井戸層(20)の成長時に、
成長速度は最大で0.03nm/秒であり、
Nについての反応ガスの流量と、周期表の第13族元素についての反応ガスの流量の比の値は少なくとも30.000である、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
周期表の第13族元素は少なくともIn及びGaである、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
x1>0且つx4>0であり、
前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)の成長時に、
Alについての反応ガスの供給と、In及びGaについての反応ガスの供給との間に少なくとも1秒の時間を空け、
O2又は酸素化合物を供給する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記量子井戸層(20)は435nm以上且つ545nm以下の波長で放射を行うように構成されている、請求項1乃至12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記量子井戸層(20)中ならびに前記第2のバリア層(22)及び前記第3のバリア層(23)中の前記バンドギャップ(E)はそれぞれ一定であり、前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)中の前記バンドギャップ(E)は隣接する前記量子井戸層(20)から離れる方向においてそれぞれ線形に増大し、前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)中のインジウム含有量は、隣接する前記量子井戸層(20)から離れる方向においてそれぞれ10%から5%に低下する、
請求項1乃至13のいずれか一項に記載の方法。」

第5 引用文献、引用発明等
1 引用文献1について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている。なお、下線は当審において付与したものである。以下、同様。

ア「【0007】
【発明の実施の形態】以下、本発明の特徴となる発光層の構成を図面を参照しながら更に詳しく説明する。図1は発光層を構成する量子井戸層1、バッファ層2及びバリア層3の1つのユニットを示しこのユニットを1ないし40、好ましくは3ないし10繰り返すことにより発光層が形成される。
【0008】量子井戸層1はIn_(X)Ga_(1-X)Nからなる。ここにおいて、Xは0.1(格子定数:0.32232nm)?0.3(格子定数:0.32936nm)とすることが好ましい。なお、この明細書において格子定数は理論上の、即ち何ら歪みのない結晶におけるa軸方向の単位格子の長さである。量子井戸層の厚さは特に限定されないが2?4nmとすることが好ましい。
【0009】バッファ層2はIn_(Y)Ga_(1-Y)Nからなる。ここにおいて、
後述するバリア層3のZがZ=0の場合、即ち、バリア層3がGaNからなる場合、Yは0.05(格子定数:0.32056nm)?0.1(格子定数:0.32232nm)とすることが好ましい。Yの配合量が0.05に満たないとバッファ層2の格子定数がバリア層3の格子定数に近づき、また0.1を超えると量子井戸層1の格子定数に近づき、それぞれ量子井戸層1-バッファ層2-バリア層3の格子定数の変化が滑らかでなくなるので好ましくない。
【0010】また、量子井戸層1におけるInの組成比Xに対し、バッファ層2の組成比YはX>Yの関係にある。」

イ「【0022】
【実施例】以下に、この発明の実施例を説明する。
【0023】実施例1
図3に実施例1の発光ダイオード10の断面図を示す。図4は発光層の拡大断面図である。実施例の発光ダイオード10はサファイア基板11の上にAlN製のバッファ層12が形成されている。このバッファ層12の上には、順に、層厚約4,000nmのシリコンドープトn^(+)ーGaN層13、層厚約1,000nmのシリコンドープトnーGaN層14、超格子構造の発光層15、層厚約50nmのマグネシウムドープトAlGaN層16、膜厚約100nmのマグネシウムドープトpーGaN層17及び層厚約25nmのマグネシウムドープトp^(+)ーGaN層18が積層されている。シリコンドープ量が多いn伝導型の半導体層13にはアルミニウム製の電極パッド21が接続され、マグネシウムドープ量が多いp伝導型の半導体層18(最上層)には金製の透明電極22を介して同じく金製の電極パッド23が接続されている。
・・・
【0025】量子井戸層151の格子定数は0.32584nmである。バッファ層152の格子定数は0.32232nmである。バリア層153の格子定数は0.3188nmである。量子井戸層151とバッファ層152とのコンダクションバンド側のオフセットΔEcは300meVである。量子井戸層151とバリア層153とのコンダクションバンド側のオフセットΔEcは600meVである。
・・・
【0030】続いて、(ステップ1)基板11の温度を850℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを1.5 X 10^(ー5) mol/min 導入して、膜厚約3.5nmのノンドープトGaNからなるバリア層153を形成した。
【0031】更に、(ステップ2)温度を850℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを1.5 X 10^(ー5) mol/min、TMIを1.0X 10^(ー4) mol/min導入し、膜厚約1.0nmのノンドープトIn_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるバッファ層152を形成した。
【0032】引き続き、(ステップ3)温度を650℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを4.0 X 10^(ー6) mol/min、TMIを1.0 X 10^(ー5) mol/min導入し、膜厚約3.5nmのノンドープトIn_(0.2)Ga_(0.8)Nからなる量子井戸層151を形成した。
【0033】更に、ステップ2及びステップ1を実行して図4に参照番号を付すことにより示した1のユニットを形成した。そして、ステップ2、ステップ3、ステップ2と更に工程を進めることにより5つのユニットを備えた、即ち5つの量子井戸層151を備えた実施例の発光層15を形成した。」

ウ「 【図3】 【図4】


(2)したがって、上記引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「量子井戸層151とバッファ層152とのコンダクションバンド側のオフセットΔEcは300meVであり、量子井戸層151とバリア層153とのコンダクションバンド側のオフセットΔEcは600meVである発光ダイオード10の発光層の製造方法であって、以下のステップを含む。
(ステップ1)基板11の温度を850℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを1.5 X 10^(ー5) mol/min 導入して、膜厚約3.5nmのノンドープトGaNからなるバリア層153を形成し、
(ステップ2)温度を850℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを1.5 X 10^(ー5) mol/min、TMIを1.0X 10^(ー4) mol/min導入し、膜厚約1.0nmのノンドープトIn_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるバッファ層152を形成し、
(ステップ3)温度を650℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを4.0 X 10^(ー6) mol/min、TMIを1.0 X 10^(ー5) mol/min導入し、膜厚約3.5nmのノンドープトIn_(0.2)Ga_(0.8)Nからなる量子井戸層151を形成し、
更に、ステップ2及びステップ1を実行し、発光層を構成する1のユニットを形成する。」

2 引用文献2について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【請求項5】 3族窒化物半導体から成る井戸層と、該井戸層よりも禁制帯幅の広いバリア層とが交互に少なくとも1周期積層された量子井戸構造を有した半導体素子の有機金属化合物気相成長法を用いた製造方法であって、
前記井戸層の形成温度を所定温度に保持し、インジウム(In)を含んだガスの供給量を変化させることにより、前記井戸層における前記インジウム(In)の組成比が、その厚さ方向に沿って連続的に変化するように形成することを特徴とする3族窒化物半導体素子の製造方法。」

イ「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来技術では井戸層とバリア層との界面近傍において、格子定数の差、即ち格子不整合によりミスフィット転位が発生したり、熱膨張係数の差に伴って生じる熱歪により転位が増殖し、それによって刃状転位が発生する。これにより井戸層の結晶性が悪化し、発光効率が低下するという問題がある。
【0004】従って、本発明の目的は、上記課題に鑑み、MQWを構成する井戸層とバリア層との界面近傍におけるミスフィット転位の発生を抑制し、ミスフィット転位に起因する刃状転位の発生を防止し、結晶性を高め、素子特性が向上した半導体素子及びその製造方法を実現することである。」

ウ「【図2】


(2)したがって、当該引用文献2には、「井戸層におけるインジウム(In)の組成比が、その厚さ方向に沿って連続的に変化するように形成する3族窒化物半導体素子の製造方法」という技術的事項が記載されていると認められる。

3 引用文献3について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0012】
本発明者らは、ピットの拡大を防ぎかつクラスターの発生を抑制するために、多重量子井戸(MQW)の結晶成長方法について鋭意検討を行った。その結果、障壁層としての、Inを含まないかもしくは少量含む、Gaを主体とする元素の窒化物半導体層(以下、GaN層とする)と、井戸層としての、前記GaN層よりも高いInを含有する、InとGaを主体とする元素の窒化物半導体層(以下、InGaN層とする)の成長方法について以下の知見を得た。
1.GaN層の形成の初期にのみH_(2)を添加することでクラスターが除去される。
2.その後、キャリアガスにH_(2)を添加せずGaN層をInGaN層より高温で成長し、再び降温してInGaN層を成長することにより平坦な結晶表面が得られる。」

イ「【0021】
まず、サセプタの温度を850℃として、原料としてTMGaおよびNH_(3)を反応炉に供給し、下地となる、Siがドープされたn型GaN層5を成長する。その後、結晶成長を中断し、サセプタの温度を730℃まで降温し、膜厚が3nmのGaN層11を成長する。このとき、反応炉への原料ガスTMGa,NH_(3)、およびキャリアガスN_(2)の供給は停止することなく維持する。引き続き、図3のステップS1に示すように、サセプタの温度730℃で、原料ガスTMGa,NH_(3)、およびキャリアガスN_(2)の供給に原料ガスTMInを更に加えて、量子井戸層となる2.5nmのIn_(x)Ga_(1-x)N(0<x≦1)層12を成長する。量子井戸層の組成xは、所望の発光波長によって異なるが、概ね0.5以下が好ましい。何故なら0.5よりxが大きいIn_(x)Ga_(1-x)N層の成長は、下地GaN層との格子不整合度が大きく、歪みの緩和が起こしやすいという問題が起こりやすいからである。In_(x)Ga_(1-x)N層12の成長前にGaN層11を成長させなくともよいが、この場合、成長温度の降温には時間がかかり、その間に結晶表面が劣化することがあるので、量子井戸層と同じ温度で予めGaN層を成長し、その直後にIn_(x)Ga_(1-x)N層12を成長すると、より高品質なMQW層が得られる。なお、本実施形態ではIn_(x)Ga_(1-x)N層12の成長は730℃で行ったが、550℃?900℃の温度で成長させてもよい。550℃を超えるとNH3の分解効率が極端に落ちドロップレットができやすいし、900℃を超えると熱分解によりInGaNの結晶成長が難しい。青色や緑色の発光を得るために必要なIn組成を得るための結晶成長温度は、700℃以上850℃未満の温度がより好ましい。In_(x)Ga_(1-x)N層12の幅は1nm?10nmが好ましく、より好ましくは1.5nm?5nmである。
【0022】
次に、図3のステップS2に示すように、原料ガスTMlnの供給を停止、サセプタの温度を730℃の状態で、膜厚が3nmのGaN層13を成長する。GaN層13は成長させなくともよいが、昇温する前に上記GaN層13を成長させると、後述する昇温の際にIn_(x)Ga_(1-x)N層12の分解を抑えることができ、より高品質なMQW層が得られる。
【0023】
次に、図3のステップS3に示すように、サセプタの温度を850℃まで昇温する。本実施形態では昇温時には、GaN層13の結晶成長は中断させているが、GaN層13を成長させながら昇温してもよい。
【0024】
次に、図3のステップS4に示すように、キャリアガスN_(2)に原料ガスTMGa、NH_(3)を加えるとともに更に250sccmのH_(2)ガスを加えて、反応炉に供給した状態で、膜厚が3nmのGaN層14を成長する。このとき、H_(2)ガスを加えた分だけ、N_(2)ガスの供給量を減らし、総ガス供給量が39000sccmとなるようにする。この例においては、N_(2)ガスの供給量は20150sccm(=20400-250)とする。H_(2)ガスの流量は総流量の0.01%?50%の間であることが望ましい。0.01%より小さいとH_(2)の添加によるクラスター除去の効果が薄れるし、50%より大きいとIn_(x)Ga_(1-x)N層12が分解してしまうとともにピットが拡大してしまう。H_(2)を添加した状態でのGaN層14の成長膜厚は、H_(2)の添加量との兼ね合いであり、クラスターを除去でき、かつピットを肥大化させない膜厚なら何でもよいが、5nm以下がより好ましい。GaN層14の膜厚が5nmより大きいと、障壁層の厚さが大きくなってしまい、MQW構造の設計に制限を与えてしまう。クラスターの高さと同程度の膜厚が適していると考えられるが、これに限られるものではない。
【0025】
その後、図3のステップS5に示すように、サセプタの温度は850℃のまま、H_(2)ガスの供給を停止、キャリアガスを完全にN_(2)にした状態で、膜厚が9.5nmのGaN層15を成長する。なお、GaN層15を成長させる際に、H_(2)ガスの供給を停止したが、総流量の0.01%未満のH2ガスを供給してもよい。また、膜厚は、ピットを埋め込み、平坦化する効果が得られる範囲であれば何でも良いが、好ましくは3nm?20nmの範囲である。大きいほうが、ピットを埋め込み、平坦化する効果が得られるが、大きすぎると井戸層の設計に制限を与えてしまう。本実施形態においては、障壁層となるGaN層15の成長温度としては850℃であったが、量子井戸層の成長温度より高ければよく、800℃?1200℃の成長温度であってもよく、より好ましくは850℃?950℃である。この温度の範囲で、井戸層の成長温度より50℃以上高いと、良好な結晶品質が得られやすい。成長温度が800℃より低いと、成長中にピットが拡大し、平坦な膜を得ることが難しくなる。また、成長温度が950℃より高いと昇温に時間がかかってしまうとともに、分解などによってInxGa1-xN層12の結晶品質を劣化させてしまう。また、結晶成長温度が1200℃より高いとGaN層15の分解温度を超えてしまい、結晶成長温度として好ましくない。障壁層は井戸層よりバンドギャップエネルギーが高い窒化物半導体であればよく、不純物をドープしてもよい。GaNにすると結晶品質が高く結晶成長しやすい。
【0026】
次に、図3のステップS6に示すように、サセプタの温度を再び730℃まで降温する。このとき、本実施形態では、原料ガスTMGaの供給が停止する。その後、原料ガスTMGaを反応炉に供給し、上述したGaN層11を成長させ(図3のステップS7)、ステップS1からS6までの工程を繰り返す。GaN層11からGaN層15までの成長工程を4回繰り返すことでMQW層6が形成される。」

ウ「【図2】 【図3】


(2)したがって、当該引用文献3には、
「(ステップS1)量子井戸層となるIn_(x)Ga_(1-x)N(0<x≦1)層12を成長する
(ステップS2)後の昇温の際にIn_(x)Ga_(1-x)N層12の分解を抑えるためにGaN層13を成長する
(ステップS3)GaN層13の結晶成長は中断し、サセプタの温度を850℃まで昇温する
(ステップS4)キャリアガスにH_(2)ガスを加えて、反応炉に供給した状態で、GaN層14を成長することで、クラスターを除去する
(ステップ5)サセプタの温度は850℃のまま、H_(2)ガスの供給を停止、キャリアガスを完全にN_(2)にした状態で、GaN層15を成長する
(ステップS6)サセプタの温度を再び730℃まで降温する」こと、
つまり、「In_(x)Ga_(1-x)N(0<x≦1)層12を成長させ、
(キャリアガスにH_(2)ガスを加えずに)GaN層13を成長させ、
キャリアガスにH_(2)ガスを加えてGaN層14を成長させることで、
昇温の際のIn_(x)Ga_(1-x)N層12の分解を抑え、クラスターを除去する」という技術的事項が記載されていると認められる。
また、「障壁層となるGaN層15の成長温度は、井戸層の成長温度より50℃以上高いこと。」という技術的事項が記載されていると認められる。

4 引用文献4について
(1)原査定の拒絶の理由に引用された上記引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0083】
(障壁層形成工程)
図5は、第1の成長中断工程後の障壁層形成工程を示している。障壁層形成工程は、Gaを含むIII族元素原料131、アンモニアガス132、および、窒素と水素からなるキャリアガス133を供給して窒化物半導体からなる障壁層13cを形成する工程である。
【0084】
障壁層13cとしては、単一のInGaN層、単一のGaN層、単一のAlGaN層、単一のInAlGaN層、または、これらの単一の層が複数積層された多重層を用いることができる。障壁層13cを構成する窒化物半導体層のうち、保護層13bと直接に接する層(多重層のみならず、単層であってもよい)は、Inを含まない窒化物半導体層(例えば、GaN層、AlGaN層)であることがより好ましい。これは、第1の成長中断工程で除去しきれずに僅かに残ったInを吸収する効果が大きいためである。障壁層13cを構成する窒化物半導体層のうち、保護層13bと直接に接する層のバンドギャップエネルギーは、障壁層13cと接する側の保護層13bのバンドギャップエネルギーと同じかそれ以上であることがより好ましく、このような半導体層として、具体的にはGaN層、AlGaN層などが挙げられる。このことによって、井戸層へのキャリアの閉じ込め効果が向上し、半導体レーザにおける寿命特性が向上する。
【0085】
他方、障壁層13cの保護層13bと反対側の面に位置する窒化物半導体層(多重層のみならず、単層であってもよい)は、GaN層もしくはInを含む窒化物半導体層(例えば、GaN層、InGaN層、AlInGaN層)であることが好ましい。これは、障壁層13cに続いて、さらに井戸層を積層するときに、井戸層の格子定数とできるだけ近い半導体層の上に井戸層を成長させた方が長波長化させやすいためである。」

イ「【図5】


(2)したがって、当該引用文献4には、
「水素を含むキャリアガス133を供給して窒化物半導体からなる障壁層13cを形成する工程において、障壁層13cとして、単一のGaN層が複数積層された多重層とすること、
井戸層の格子定数とできるだけ近い半導体層の上に井戸層を成長させた方が長波長化させやすいため、障壁層13cの保護層13bと反対側の面に位置する窒化物半導体層としてInGaN層とすること。」
という技術的事項が記載されていると認められる。

5 その他の文献について
(1)また、前置報告書において引用された特開平10-242512号公報(以下、「引用文献5」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

ア「【0053】図6は図4に示す構造のGaN系LDのMQW活性層及びその近傍における井戸層のIn組成、障壁層のIn組成、活性層の平均In組成、及びバンドギャップを模式的に示したものである。第2の実施の形態においては、In_(x) Ga_(1-x)N/In_(y) Ga_(1-y) NからなるMQW活性層(以下InGaN・MQW活性層と略称)を用いた場合について説明する。
【0054】井戸層のIn組成20%、厚さ2nm、障壁層のIn組成5%、厚さ4nmとすれば、このときのInの平均組成は約10%になる。このようにInの平均組成が10%に近いか又はそれ以上であれば、InGaN・MQW活性層とGaNガイド層との間に生じる歪みが過大になり、高品質のGaN系LDを得ることが困難であった。
【0055】この問題を解決するために、本第2の実施の形態において、図4に示す断面構造のGaN系LDを試作した。図11の従来構造との違いはIn_(x) Ga_(1-x) N/In_(y) Ga_(1-y) NからなるMQW活性層(以下InGaN・MQW活性層と略称)6と、GaNガイド層5、7との間に、InGaN・MQW活性層6の障壁層に比べて、障壁層のIn組成が低いIn_(z) Ga_(1-z) N/In_(w) Ga_(1-w) Nからなる組成変調層(以下InGaN組成変調層と略称)14、15を設け、全体として前記InGaN・MQW活性層とGaN導波層との界面近傍における平均In組成を減少させたことに特徴がある。
【0056】InGaN・MQW活性層とその両側のGaN導波層との間に形成されたInGaN組成変調層等のバンド構造を図5に示す。このように本第2の実施の形態においては、InGaN・MQW活性層とその両側のInGaN組成変調層を含めて、基本的にはMQW活性層の周期性が保たれ、単に障壁層の組成を変化することにより、エネルギーバンドの振幅が変調されたようになるので、前記InGaN・MQW活性層とGaN導波層との間に導入した層をInGaN組成変調層とよぶことにした。
【0057】次に本第2の実施の形態のGaN系LDのしきい値電圧及びしきい値電流密度について、シミュレーションを行った結果について説明する。本シミュレーションにおいては、InGaN組成変調層中の障壁層のIn組成を0%、すなわちこの障壁層をGaNであるとした。
【0058】しかし、井戸層と障壁層との材料物性に急激な変化を生じないことが高品質のLDの多層構造を得る上から望ましいので、前記障壁層をGaNとせず、Inを数%程度添加した障壁層とすることもできる。但しInGaN・MQW活性層の中心付近における障壁層のIn組成に比べれば、組成変調層中の障壁層のIn組成は大幅に減少させるようにした。
【0059】図5は、図4に示すGaN系LDの活性層6と組成変調層14、15とガイド層5、7及びクラッド層4、8のバンド構造を示す模式図である。図5からInGaN・MQW活性層の両端部のInGaN組成変調層において、井戸層と障壁層のバンドギャップの差がMQW活性層中心付近に比べて広がる様子が示されている。
【0060】図6は図5の活性層6の近傍領域を取り出して、バンド構造と平均In組成との関連を示したものである。上記のようにInGaN・MQW活性層の両端部にInGaN組成変調層を導入したGaN系LDは、第1の実施の形態でのべたように、InGaN・MQW活性層とGaNガイド層の界面での歪みの影響を緩和する作用があるばかりでなく、LD装置として次のようなの特性上の利点がある。」

イ「【図6】


(2)したがって、当該引用文献5には、「InGaN・MQW活性層6の障壁層に比べて、障壁層のIn組成が低いIn_(z) Ga_(1-z) N/In_(w) Ga_(1-w) Nからなる組成変調層(以下InGaN組成変調層と略称)14、15を設けること。」という技術的事項が記載されていると認められる。
また、図6には、「InGaN組成変調層における平均In組成が厚み方向になめらかに増減する様子」及び「井戸層と障壁層のバンド構造が階段状に変化している様子」が記載されている。

第6 対比・判断
1 本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

引用発明における「発光ダイオード10」、「発光層」は、本願発明1における「オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)」、「活性領域(2)」に相当し、引用発明の「発光ダイオード10の発光層の製造方法」は、本願発明1の「オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)のための活性領域(2)を製造するための方法」に相当する。

引用発明の「(ステップ2)・・・ノンドープトIn_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるバッファ層152を形成し」と、本願発明1の「Al_(x4)In_(y4)Ga_(1-x4-y4)N、但し0≦x4≦0.40、且つ平均して0<y4≦0.4、からなる第4のバリア層(24)を、成長方向(z)に沿ってIn含有量が増大するように成長させるステップ」とは、ともに「Al_(x4)In_(y4)Ga_(1-x4-y4)N、但し0≦x4≦0.40、且つ平均して0<y4≦0.4、からなる第4のバリア層(24)を成長させるステップ」の点で共通する。

引用発明の「(ステップ3)温度を650℃に保持し、H_(2)又はN_(2)を10 liter/min、NH_(3)を20 liter/min、TMGを4.0 X 10^(ー6) mol/min、TMIを1.0 X 10^(ー5) mol/min導入し、膜厚約3.5nmのノンドープトIn_(0.2)Ga_(0.8)Nからなる量子井戸層151を形成し」は、本願発明1の「前記第4のバリア層(24)に、In_(y)Ga_(1-y)N、但し0.08≦y≦0.35、からなる量子井戸層(20)を成長させるステップ」に相当する。

引用発明の「更に、(ステップ2)」を「実行し」と、本願発明1の「前記量子井戸層(20)に、Al_(x1)In_(y1)Ga_(1-x1-y1)N、但し0≦x1≦0.40、且つ平均して0<y1≦0.4、からなる第1のバリア層(21)を、前記成長方向(z)に沿ってIn含有量が減少するように成長させるステップ」とは、ともに「前記量子井戸層(20)に、Al_(x4)In_(y4)Ga_(1-x4-y4)N、但し0≦x4≦0.40、且つ平均して0<y4≦0.4、からなる第1のバリア層(21)を成長させるステップ」の点で共通する。

引用発明の「更に」「(ステップ1)」を「実行し」と、本願発明1の「前記第1のバリア層(21)に、GaNからなる第2のバリア層(22)を成長させるステップと、前記第2のバリア層(22)に、GaNからなる第3のバリア層(23)を成長させるステップと、を備えており、前記第3のバリア層(23)だけをH_(2)ガスの供給下で成長させ」ることとは、ともに「前記第1のバリア層(21)に、GaNからなるバリア層を成長させるステップ」の点で共通する。

そして、引用発明の「バッファ層152」、「量子井戸層151」、「バッファ層152」及び「バリア層153」は、順に、本願発明1の「第4のバリア層(24)」、「量子井戸層(20)」、「第1のバリア層(21)」及び「第2のバリア層(22)と第3のバリア層(23)」に対応する。

引用発明の「量子井戸層151とバッファ層152とのコンダクションバンド側のオフセットΔEcは300meVであり、量子井戸層151とバリア層153とのコンダクションバンド側のオフセットΔEcは600meVである」ことは、本願発明1の「前記量子井戸層(20)と、隣接する前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)との間に、ならびに、前記第1のバリア層(21)と前記第2のバリア層(22)との間に、および、前記第3のバリア層(23)と前記第4のバリア層(24)との間に、前記活性領域(2)の成長方向(z)に沿って、バンドギャップ(E)の経過に段階を形成」することに相当する。

引用発明の「温度を650℃に保持し」「量子井戸層151を形成し」、「温度を850℃に保持し」「バッファ層152」及び「バリア層153」を形成することと、本願発明1の「前記第1?前記第4のバリア層の成長時の成長温度は、前記量子井戸層(20)に関する成長温度よりも少なくとも10℃、最大で60℃高く、前記第1?前記第4のバリア層の前記成長温度はそれぞれ730℃以上且つ850℃以下である」こととは、ともに「前記第1?前記第4のバリア層の成長時の成長温度は、前記量子井戸層(20)に関する成長温度よりも高く、前記第1?前記第4のバリア層の前記成長温度はそれぞれ730℃以上且つ850℃以下である」点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

(一致点)
「オプトエレクトロニクス半導体チップ(1)のための活性領域(2)を製造するための方法において、
Al_(x4)In_(y4)Ga_(1-x4-y4)N、但し0≦x4≦0.40、且つ平均して0<y4≦0.4、からなる第4のバリア層(24)を成長させるステップと、
前記第4のバリア層(24)に、In_(y)Ga_(1-y)N、但し0.08≦y≦0.35、からなる量子井戸層(20)を成長させるステップと、
前記量子井戸層(20)に、Al_(x1)In_(y1)Ga_(1-x1-y1)N、但し0≦x1≦0.40、且つ平均して0<y1≦0.4、からなる第1のバリア層(21)を成長させるステップと、
前記第1のバリア層(21)に、GaNからなるバリア層を成長させるステップとを備えており、
前記量子井戸層(20)と、隣接する前記第1のバリア層(21)及び前記第4のバリア層(24)との間に、ならびに、前記第1のバリア層(21)と前記第2のバリア層(22)との間に、および、前記第3のバリア層(23)と前記第4のバリア層(24)との間に、前記活性領域(2)の成長方向(z)に沿って、バンドギャップ(E)の経過に段階を形成し、
前記第1?前記第4のバリア層の成長時の成長温度は、前記量子井戸層(20)に関する成長温度よりも高く、前記第1?前記第4のバリア層の前記成長温度はそれぞれ730℃以上且つ850℃以下である、
方法。」

(相違点1)
本願発明1は、「第4のバリア層(24)を、成長方向(z)に沿ってIn含有量が増大するように成長させ」、「第1のバリア層(21)を、前記成長方向(z)に沿ってIn含有量が減少するように成長させる」のに対し、引用発明は、本願発明1の第4のバリア層(24)と第1のバリア層(21)に相当する「In_(0.05)Ga_(0.95)Nからなるバッファ層152」の形成において、成長方向(z)に沿ってIn含有量を変化させていない点。

(相違点2)
「GaNからなるバリア層を成長させるステップ」が、本願発明1は、H_(2)ガスの供給なしで第2のバリア層(22)を成長させるステップと、H_(2)ガスの供給下で第3のバリア層(23)を成長させるステップからなるのに対し、引用発明は、「H_(2)又はN_(2)を」「導入して」形成する一つのステップからなる点。

(相違点3)
本願発明1は「前記量子井戸層(20)及び前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)が成す総厚は、5.5nm以上且つ8.5nm以下であ」るのに対し、引用発明は、「膜厚約3.5nmの」「量子井戸層151」、「膜厚約1.0nmの」「バッファ層152」、「膜厚約3.5nmのバリア層153」及び「膜厚約1.0nmの」「バッファ層152」が「発光層を構成する1のユニットを形成」しており、総厚は、9nmである点。

(相違点4)
本願発明1は「前記第1?前記第4のバリア層(21,22,23,24)の成長時の成長温度は、前記量子井戸層(20)に関する成長温度よりも少なくとも10℃、最大で60℃高」いのに対し、引用発明は、「量子井戸層151を形成」する温度(650℃)よりも「バッファ層152」及び「バリア層153」を形成する温度(850℃)が200℃高い点。

(2)相違点についての判断
上記相違点1について検討する。
引用文献2には、「井戸層におけるインジウム(In)の組成比が、その厚さ方向に沿って連続的に変化するように形成する3族窒化物半導体素子の製造方法」という技術的事項が記載されているが、インジウム(In)の組成比がその厚さ方向に沿って連続的に変化するところは、井戸層であり、バリア層ではない。
引用文献5には、「InGaN・MQW活性層6の障壁層に比べて、障壁層のIn組成が低いInGaN組成変調層14、15を設けること。」との技術事項が記載され、図6には、「InGaN組成変調層において、平均In組成が厚み方向になめらかに増減する様子」が記載されている。ここで、「平均In組成」とは、段落【0054】の「井戸層のIn組成20%、厚さ2nm、障壁層のIn組成5%、厚さ4nmとすれば、このときのInの平均組成は約10%になる。」との記載を参酌すれば、厚み方向に幅のある範囲におけるIn組成の平均値を意味するものであり、厚み方向位置毎のIn組成を意味しているものではない。そして、図6には、「井戸層と障壁層のバンド構造が階段状に変化している様子」が記載されている。してみると、引用文献5の図6の記載は、InGaN組成変調層の井戸層内や障壁層内でIn組成がなめらかに増減することを意味するものではなく、In組成は、井戸層内や障壁層内でそれぞれ一定であることを意味するものである。
引用文献3には、「In_(x)Ga_(1-x)N(0<x≦1)層12を成長させ、(キャリアガスにH_(2)ガスを加えずに)GaN層13を成長させ、キャリアガスにH_(2)ガスを加えてGaN層14を成長させることで、昇温の際のIn_(x)Ga_(1-x)N層12の分解を抑え、クラスターを除去する」こと、「障壁層となるGaN層15の成長温度は、井戸層の成長温度より50℃以上高いこと。」という技術的事項が記載され、引用文献4には、「水素を含むキャリアガス133を供給して窒化物半導体からなる障壁層13cを形成する工程において、障壁層13cとして、単一のGaN層が複数積層された多重層とすること、井戸層の格子定数とできるだけ近い半導体層の上に井戸層を成長させた方が長波長化させやすいため、障壁層13cの保護層13bと反対側の面に位置する窒化物半導体層としてInGaN層とすること。」という技術的事項が記載されているものの相違点1に係る構成についての記載はない。
してみると、相違点1に係る本願発明1の「第4のバリア層(24)を、成長方向(z)に沿ってIn含有量が増大するように成長させ」、「第1のバリア層(21)を、前記成長方向(z)に沿ってIn含有量が減少するように成長させる」という構成は、上記引用文献1?5には記載されておらず、本願出願前において周知技術であるともいえない。
したがって、本願発明1は、相違点2?4を検討するまでもなく、当業者であっても引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2?4に記載された技術的事項及び前置報告で引用された引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものであるとはいえない。

2 本願発明2?14について
本願発明2?14も、相違点1に係る本願発明1の「第4のバリア層(24)を、成長方向(z)に沿ってIn含有量が増大するように成長させ」、「第1のバリア層(21)を、前記成長方向(z)に沿ってIn含有量が減少するように成長させる」という構成と同一の構成を備えるものであるから、本願発明1と同じ理由により、当業者であっても、引用発明、拒絶査定において引用された引用文献2?4に記載された技術的事項及び前置報告で引用された引用文献5に記載された技術的事項に基づいて容易に発明できたものとはいえない。

第7 原査定について
上記「第6 対比・判断」に記載のとおり、本願発明1?14は、「第4のバリア層(24)を、成長方向(z)に沿ってIn含有量が増大するように成長させ」、「第1のバリア層(21)を、前記成長方向(z)に沿ってIn含有量が減少するように成長させる」という構成を有するものとなっており、当業者であっても、拒絶査定において引用された引用文献1?4に記載された発明に基づいて、容易に発明できたものとはいえない。したがって、原査定の理由を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-21 
出願番号 特願2015-514398(P2015-514398)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (H01L)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 恩田 春香
森 竜介
発明の名称 オプトエレクトロニクス半導体チップのための活性領域を製造するための方法  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  
代理人 上島 類  
代理人 二宮 浩康  
代理人 前川 純一  

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