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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C12P
管理番号 1327276
審判番号 不服2015-10324  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-02 
確定日 2017-04-12 
事件の表示 特願2011-510739「酵母を使用したスクアレンの生成」拒絶査定不服審判事件〔平成21年11月26日国際公開、WO2009/143490、平成23年7月21日国内公表、特表2011-520471〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯・本願発明

本願は,平成21年5月22日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年5月23日 米国)を国際出願日とする特願2011-510739号であって,これまでの手続の経緯は次のとおりである。

平成24年 5月21日 手続補正書・上申書
平成25年12月25日付け 拒絶理由通知書
平成26年 7月14日 意見書・手続補正書
平成27年 1月22日付け 拒絶査定
平成27年 6月 2日 審判請求書
平成27年 6月22日 手続補正書(方式)
平成28年 6月14日付け 拒絶理由通知書
平成28年10月21日 意見書・手続補正書

そして,本願の請求項1?4に係る発明は,平成28年10月21日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?4記載されたとおりのものと認められるところ,その請求項1に記載された発明(以下,「本願発明」という。)は,次のとおりである。

「【請求項1】
遺伝的に改変した酵母によりスクアレンを生産する方法であって、
内在性スクアレンシンターゼ遺伝子を有する酵母に、外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入し、これにより、遺伝的に改変した酵母を提供することと、
前記遺伝的に改変した酵母をスクアレンを産生する条件下で培養することと、
得られた培養物からスクアレンを抽出してスクアレンを得ることと、
を含む、方法。」

2 引用例

(1)引用文献1
平成28年6月14日付けの当審の拒絶理由で引用文献1として引用されたZhang, D. et al.,Yeast Squalene Synthase: Expression, Purification, and Characterization of Soluble Recombinant Enzyme,ARCHIVES OF BIOCHEMISTRY AND BIOPHYSICS,1993年発行,Vol. 304, No. 1,pp. 133-143には,以下の事項が記載されている。なお,英語から日本語への翻訳は当審が行った。

(1-a)「スクアレンシンターゼは,コレステロール合成経路における第一の経路特有の酵素である。サッカロミセス・セルビシエにおいてスクアレンシンターゼをコードする遺伝子(ERG9)が単離され,特徴付けられている(・・・省略・・・)。その酵素に対する構造的な遺伝子は,疎水性であるC末端ドメインを取り除くためにポリメラーゼ連鎖反応によって改変され,その短縮タンパク質のオープン・リーディング・フレームは,酵母及び大腸菌の発現ベクターへクローニングされた。」(第133頁左欄要約第1?12行)

(1-b)「サッカロミセス・セルビシエの株Y294(MATαERG9 leu2-3,112 ura3-52 his3-11,15 trp 1-1GAL^(+))は,J.Broach氏(プリンストン大学)から入手し,YPD培地(28)中で28℃で増殖した。pMH101は,高コピーで,自立的に複製するサッカロミセス・セルビシエ-大腸菌のシャトルベクターであって,これは大腸菌に対してアンピシリン耐性を与え,ura3酵母に対してウラシル原栄養性を与える。」(第134頁右欄第51?56行)

(1-c)「PCR法によるERG9膜貫通領域の欠失
pSM60(下記参照)を反応のための鋳型として用いた。センス鎖のプライマー,^(5’)GCAGATCTCACACAATGGGAAAGCTATTACAATT^(3’)は,ERG9の翻訳開始コドン(太字)から上流のBglII制限サイト(下線部),及び,次のERG9構造遺伝子の17ヌクレオチド(斜体)を有する。アンチセンス鎖のプライマー,^(3’)GTTGGGTTGTTCTTCTTCTCATGTTCAGATCTG^(5’)は,スクアレンシンターゼのオープン・リーディング・フレームのE409?K420のアミノ酸をコードする26ヌクレオチド(斜体),イソロイシンのコドン(斜体),翻訳停止コドン(太字),及び,XbaI制限サイト(下線部)を有する。PCR反応において,各プライマー1μgが,合計量10μgの10mMのTris-HCl,pH8.3,1.5mMのMgCl^(2),50mMのKClの中で鋳型DNAに添加された。PCR増幅は,AmpliTaq DNAを用いて行われた。鋳型は,94℃で30秒間変性され,52℃で30秒間アニールされ,72℃で45秒間伸張された。35周期の後,PCR生成物はBglII及びXbaIによって切断され,アガロースゲル電気泳動によって単離した1.26kbの断片をGenecleanを用いて精製した。」(第135頁右欄「PCR-Based Deletion of the ERG9 Transmembrane Domain」)

(1-d)「酵母ERG9発現プラスミドの構築
短縮したスクアレンシンターゼのオープン・リーディング・フレームを含むpSM80を得るために,上記で得られた1.26kbのBamI-XbaIのPCR断片を,BamHI-XbaIで切断したpMH101へサブクローニングした。挿入物は,その構造を検証するように配列されていた。野生型ミクロソームのスクアレンシンターゼの発現に用いられるプラスミドpSM60は,pSM51(22)のサッカロミセス・セルビシエERG9の2.0kbのBamHI(old ava1)-SalIの断片を,BamHI-SalIで切断したpMH101へサブクローニングすることによって構築した。」(第135頁右欄「Construction of Yeast ERG9 Expression Plasmids」)

(1-e)「酵母における野生型及び短縮型のERG9の発現
pSM60またはpSM80で形質転換したサッカロミセス・セルビシエY294の一晩の培養物からの20mlを,2つの1リットル三角フラスコの中でYMグルコースの200mlに播種するために用いた。」(第135頁右欄「Expression of Wild-Type and Truncated ERG9 in Yeast」第1?3行)

(1-f)「結果
短縮ERG9の発現 酵母のスクアレンシンターゼ遺伝子の発現のために2つのプラスミドを構築した。pSM60は,酵母のGAL1プロモーターの制御下で野生型のオープン・リーディング・フレームを含み,pSM80は,K420?A444の疎水性の25個のC末端アミノ酸配列に対するコード領域を欠く欠損型を含む。Y294/pSM60及びY294/pSM80の培養物は,YMガラクトースまたはYMグルコースでOD_(600)が約0.5となるまで増殖された。採取された細胞は破壊され,生じた均質物は,遠心分離によって細胞質とミクロソーム分画に分配され,その分画についてスクアレンシンターゼ活性を分析した。」(第136頁右欄「RESULTS」第1?12行)

ここで,上記記載事項(1-b)に示されるように,サッカロミセス・セルビシエY294は,スクアレンシンターゼをコードする遺伝子である「ERG9」を有しており,これは「内在性」である。
また,上記記載事項(1-c)?(1-f)に示されるように,サッカロミセス・セルビシエY294は,スクアレンシンターゼ遺伝子を挿入したpSM60またはpSM80によって形質転換されていることから,スクアレンシンターゼ遺伝子が導入されており,この導入されたスクアレンシンターゼは「外来性」である。そして,そのように外来性の遺伝子を導入したサッカロミセス・セルビシエY294は「遺伝的に改変したサッカロミセス・セルビシエY294」である。

したがって,上記記載事項(1-a)?(1-f)を総合すると,引用文献1には,以下の発明が記載されていると認められる。

「遺伝的に改変したサッカロミセス・セルビシエY294によりスクアレンシンターゼを生産する方法であって,
内在性スクアレンシンターゼ遺伝子を有するサッカロミセス・セルビシエY294に,外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入し,これにより,遺伝的に改変した酵母を提供することと,
前記遺伝的に改変した酵母を培養することと,
得られた細胞を破壊してスクアレンシンターゼを得ることと,
を含む,方法。」(以下,「引用発明1」という。)

(2)引用文献2
平成28年6月14日付けの当審の拒絶理由で引用文献2として引用された特表2001-518301号公報には,以下の事項が記載されている(下線は当審にて付した。)。

(2-a)「【請求項1】 下記の特徴を有する、エルゴステロール及びその中間産物の生産方法:
a)先ず、エルゴステロール代謝過程の数個の適当な遺伝子が、改変された形で挿入された1つのプラスミドを設計するか、あるいは、
b)先ず、エルゴステロール代謝過程の遺伝子の1つが、改変された形で各々挿入された複数のプラスミドを設計する、
c)生成したプラスミドによって微生物を形質転換する、ただし、
a)の場合、その1つのプラスミドによって微生物を形質転換し、あるいはb)の場合、それらの複数のプラスミドによって同時又は連続的に微生物を形質転換する、
d)生成した微生物によって、エルゴステロール生産のための発酵を行う、
e)その発酵の終了後、その細胞からエルゴステロール及びその中間産物を抽出し、そして分析する、最後に、
f)得られたエルゴステロール及びその中間産物を、カラムクロマトグラフィーによって精製し、そして単離する。
【請求項2】 下記の特徴を有する、請求項1の方法:
a-i)先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
i) HMG-CoA レダクターゼ遺伝子(t-HMG) 、
ii) スクアレンシンセターゼ遺伝子(ERG9)、
iii)アシル-CoA:ステロール-アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SAT1)、及び、
iv) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子(ERG1)、
又は、
a-ii) 先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
i) HMG-CoA レダクターゼ遺伝子(t-HMG) 、及び、
ii) スクアレンシンセターゼ遺伝子(ERG9)、
又は、
a-iii)先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
i) HMG-CoA レダクターゼ遺伝子(t-HMG) 、及び、
iii)アシル-CoA:ステロール-アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SAT1)、
又は、
a-iv) 先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
i) HMG-CoA レダクターゼ遺伝子(t-HMG) 、及び、
iv) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子(ERG1)、
又は、
a-v)先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
ii) スクアレンシンセターゼ遺伝子(ERG9)、及び、
iii)アシル-CoA:ステロール-アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SAT1)、
又は、
a-vi) 先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
ii) スクアレンシンセターゼ遺伝子(ERG9)、及び、
iv) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子(ERG1)、
又は、
a-vii)先ず、以下の遺伝子が挿入された1つのプラスミドを設計する:
iii)アシル-CoA:ステロール-アシルトランスフェラーゼ遺伝子(SAT1)、及び、
iv) スクアレンエポキシダーゼ遺伝子(ERG1)、
あるいは、
b)a-i)に記載した遺伝子の1つが各々挿入された複数のプラスミドを設計する、並びに、
c)生じたプラスミドによって微生物を形質転換する、ただし、a-i)からa-vii)までの場合、その1つのプラスミドによって微生物を形質転換し、あるいはb)の場合、それらの複数のプラスミドによって同時又は連続的に微生物を形質転換する、
d)生じた微生物によって、エルゴステロール生産のための発酵を行う、
e)その発酵の終了後、その細胞からエルゴステロール及びその中間産物を抽出し、そして分析する、最後に、
f)得られたエルゴステロール及びその中間産物を、カラムクロマトグラフィーによって精製し、そして単離する。」(【特許請求の範囲】)

(2-b)「【請求項5】 その中間産物が、スクアレン、ファルネソール、ゲラニオール、ラノステロール、チモステロール、4,4-ジメチルチモステロール、4-メチルチモステロール、エルゴステ-7- エノール及びエルゴスタ-5,7- ジエノールである、請求項1?4のいずれかの方法。」(【特許請求の範囲】)

(2-c)「【請求項8】 その微生物が酵母である、請求項1?4のいずれかの方法。
【請求項9】 その酵母が、菌種サッカロミセス・セレビシエである、請求項8の方法。
【請求項10】 そのサッカロミセス・セレビシエが、菌株サッカロミセス・セレビシエAH22である、請求項9の方法。」(【特許請求の範囲】)

(2-d)「本発明の対象は、エルゴステロール及びそれの中間産物を生産するための微生物的方法、このために必要な微生物、例えば酵母菌体、エルゴステロールの増量合成又はそのために必要な中間産物の増量合成、そして、酵母菌体の形質転換のために必要な調製プラスミド、である。
ここでは、HMG1(Basson et al.,1988)、ERG9(Fegueur et al.,1991,Current Genetics 20:365-372) 、SAT1(Yu et al.,1996)、及びERG1(Jandrositz et al.,1991)の遺伝子を、改変された形で、微生物、例えば酵母に導入した場合、ただしそれらの遺伝子は、1つのプラスミド上に独立に、又は1つ以上のプラスミド上に組合せて配置され、そしてそれらを同時又は連続的に導入した場合、エルゴステロール及びその中間産物の量を増加させ得ることが判明した。」(段落【0007】?【0008】)

(2-e)「実施例1
S.セレビシエAH22におけるtHMGの発現
tHMG(Basson et al.,1988)のDNA 配列断片を、サッカロミセス・セレビシエS288C(Mortimer and Johnston,1986) のゲノムDNA から、標準的なPCR 法によって増幅した。このために用いたプライマーは、DNA オリゴマーtHMG-5' 及びtHMG-3' (配列番号1及び2)である。得られたDNA 断片を、クレノウ処理後に、クローニング用ベクターpUC19(Yanisch-Perron et al.,1985) に挿入して、ベクターpUC19-tHMGを作成した。このプラスミドpUC19-tHMGを単離し、制限酵素EcoRI とBamHI で制限切断してから、得られた断片を、EcoRI/BamHI 処理した酵母発現ベクターpPT2b(Lang and Looman,1995) に挿入した。生成したプラスミドpPT2b-tHMGは、ADH1プロモーター(Bennetzen and Hall,1982) 及びTRP1ターミネーター(Tschumper and Carbon,1980) を有し、その間にtHMGのDNA 断片が存在する。ベクターpPT2b-tHMGから、制限酵素EcoRV/NruI処理によって部分DNA を単離した。この部分DNA は、いわゆる平均的ADH1プロモーター、tHMG及びTRP1ターミネーターを含んでいる。この部分DNA を、制限酵素SphI及びDNA ポリメラーゼで処理した酵母ベクターYEp13(Fischhoff et al.,1984)に挿入した。生成したベクターYEpH2(図1)を、制限酵素EcoRV/NruIで処理した。下記領域を有するDNA 断片が得られた:テトラサイクリン耐性遺伝子由来の転写活性化領域(Sidhu and Bollon.,1990)、平均的ADH1プロモーター、tHMG、及びTRP1ターミネーター(発現カセット)。このDNA 断片を、制限酵素StuIで処理したベクターYDpU(Berben et al.,1991)に挿入した。生成したベクターYDpUH2/12 を制限酵素SmaIで処理し、カナマイシン耐性をコードするDNA 配列(Webster and Dickson,1983)と連結した。生成した構成体YDpUHK3(図2)をEcoRV で処理した。
この構成体によって、酵母菌株サッカロミセス・セレビシエAH22を形質転換した。この実施例の様に、線状化したベクターで形質転換すると、そのベクター全体が、URA3遺伝子座において、染色体中に組み込まれる。発現カセット部分でない領域(大腸菌起点、大腸菌のアンピシリン耐性遺伝子、TEF-プロモーター及びカナマイシン耐性遺伝子)を、組み込まれたベクターから取り除くために、形質転換した酵母を、ウラシル栄養要求性酵母を助長するFOA 選択(Boeke et al.,1987) による選択圧に晒した。選択されたウラシル栄養要求性株は、AH22/tH3ura8と命名され、URA3遺伝子座での染色体組込みとして、tHMG1 発現カセットを有する。
この酵母菌株AH22/tH3ura8と開始菌株AH22とを、フロースポイラープランジャー内で、160rpmで撹拌しながら、28℃で48時間、YE培地によって培養した。
培養条件:WMVIIIによる予備培養菌を以下の通り準備した。WMVIII 20ml +ヒスチジン(20μg/ml) +ウラシル(20μg/ml) に、凍結培養菌 100μl を接種し、28℃で2日間、120rpmで撹拌(レシプロ運動)しながら培養した。この20mlの予備培養菌から、WMVIII 100ml+ヒスチジン(20μg/ml) +ウラシル(20μg/ml) に接種した。本培養では、1x109 細胞を、250ml 容量のフロースポイラープランジャー内で、50mlのYE培地に接種した。そのプランジャーを、28℃で48時間160rpmで撹拌培養した。Qureshi et al.,1981 の方法に従ってHMG-CoA-レダクターゼ活性を決定し、下記の値が得られた(表1)。
表1
─────────────────────────────
HMG-CoA-レダクターゼの比活性*
(U/mg タンパク質)
─────────────────────────────
AH22 3.99
AH22/tH3ura8 11.12
─────────────────────────────
*1単位を、1ml反応混合液中で1分間あたり1nmol のNADPH が反応する活性量と定義する。本測定は、総タンパク質分離物を用いて行った。
ステロールを抽出して(Parks et al.,1985) 、ガスクロマトグラフィーで分析した。下記の値が得られた(表2)。
表2
──────────────────────────────────
スクアレン(%w/w) エルゴステロール(%w/w)
──────────────────────────────────
AH22 0.01794 1.639
AH22/tH3ura8 0.8361 1.7024
──────────────────────────────────
この%値は、酵母の乾燥重量に対するものである。」(段落【0042】?【0046】)

ここで,上記記載事項(2-b)には,上記記載事項(2-a)における「中間産物」が「スクアレン」であることが記載され,また,上記記載事項(2-c)には,上記記載事項(2-a)における「微生物」が「酵母」であることが記載されている。
また,上記記載事項(2-a)の【請求項2】のa-i),a-ii),a-v),a-vi)に記載される「スクアレンシンターゼ遺伝子(ERG9)」は,上記記載事項(2-a)の【請求項1】及び上記記載事項(2-d)に記載されているように,プラスミドに挿入され,そのプラスミドによって微生物を形質転換することで,微生物に導入されていることから,「外来性」であると認められる。そして,そのように外来性の遺伝子を導入した酵母は「遺伝的に改変した酵母」である。

したがって,上記記載事項(2-a)?(2-d)を総合すると,引用文献2には,以下の発明が記載されていると認められる。

「遺伝的に改変した酵母によりスクアレンを生産する方法であって,
酵母に,外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入し,これにより,遺伝的に改変した酵母を提供することと,
前記遺伝的に改変した酵母によって,エルゴステロール生産のための発酵を行うことと,
酵母の細胞からスクアレンを抽出してスクアレンを得ることと,
を含む,方法。」(以下,「引用発明2」という。)

3 対比

3-1 本願発明と引用発明1との対比

本願発明と引用発明1とを対比すると,引用文献2の記載事項(2-c)の【請求項9】にも記載されているように,サッカロミセス・セルビシエが酵母の一種であることは技術常識であるから,引用発明1の「サッカロミセス・セルビシエY294」は,本願発明の「酵母」に相当する。

これを踏まえると,本願発明と引用発明1とは,
「内在性スクアレンシンターゼ遺伝子を有する酵母に,外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入し,これにより,遺伝的に改変した酵母を提供することと,
前記遺伝的に改変した酵母を培養することと,
を含む,方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点:本願発明は「スクアレンを生産する方法」であって,遺伝的に改変した酵母を「スクアレンを産生する条件下」で培養し,得られた培養物からスクアレンを抽出してスクアレンを得るのに対し,引用発明1おいては,遺伝的に改変した酵母を培養した後で破壊することによって細胞からスクアレンシンターゼを得ている点。

3-2 本願発明と引用発明2との対比

本願発明と引用発明2とを対比すると,両者は,
「遺伝的に改変した酵母によりスクアレンを生産する方法であって,
酵母に,外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入し,これにより,遺伝的に改変した酵母を提供することと,
酵母の細胞からスクアレンを抽出してスクアレンを得ることと,
を含む,方法。」
である点で一致し,以下の点で相違する。

相違点1:本願発明においては,酵母が「内在性スクアレンシンターゼ遺伝子」を有するのに対し,引用発明2においては酵母についてそのような特定がなされていない点。

相違点2:本願発明においては,遺伝的に改変した酵母を「スクアレンを産生する条件下」で培養し,得られた培養物からスクアレンを抽出しているのに対し,引用発明2においては,スクアレンを抽出してスクアレンを得るまでの過程において,遺伝的に改変した酵母を「スクアレンを産生する条件下で培養する」ことが特定されていない点。

4 当審の判断

4-1 本願発明と引用発明1との相違点

(1)相違点について
引用発明1においては,外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入したサッカロミセス・セルビシエY294を培養することによって,スクアレンシンターゼを得ることを目的としているものの,引用文献2の記載事項(2-d)にも示されているように,酵母によってスクアレンを生産することも周知の課題である。

そして,pSM60またはpSM80によって外来性スクアレンシンターゼを導入した引用発明1のサッカロミセス・セルビシエY294は,スクアレンシンターゼを過剰発現するため,結果としてスクアレンの産生能力にも優れることは,当業者が容易に予測できることであるから,上記の周知の課題を認識する当業者にとっては,引用発明1のサッカロミセス・セルビシエY294をそのままスクアレンの生産に用い,サッカロミセス・セルビシエY294の培養物からスクアレンを抽出することに格別の困難を必要としない。また,その際に「スクアレンを産生する条件」で培養することは当業者が当然に行うことである。

一方,本願発明の効果について検討しても,本願明細書には,実施例等において本願発明に対応する具体的な効果が記載されていないため,有利な効果を参酌することはできない。また,審判請求人は,平成27年6月22日付けの手続補足書において,参考資料2として本願発明によるスクアレンの蓄積量が増加したことを主張しているものの,引用発明1のサッカロミセス・セルビシエY294においても,本願発明と同様に,外来性スクアレンシンターゼを導入することによってスクアレンシンターゼが過剰発現されるため,これをスクアレンの産生に用いた場合には,その産生量が増加することも当業者が予測できた程度に過ぎない。特に,引用文献2の記載事項(2-d)を参酌すると,スクアレンシンターゼ等の遺伝子を導入した酵母を用いることによって,スクアレン等の中間産物の蓄積量が増加することは当業者が容易に理解できることであるし,引用文献2の記載事項(2-e)の「表2」において「HMG-CoAレダクターゼ遺伝子」を導入した場合に酵母の乾燥重量に対するスクアレンの収率が導入していない酵母と比較して,「0.01794」から「0.8361」まで約47倍に増加しているのと比較しても,導入する遺伝子が異なるとは言え,参考資料2に示される増加量が顕著であると認めることはできない。

したがって,当該相違点については,当業者が容易に想到できたものである。

(2)まとめ
上記(1)の検討結果を踏まえると,本願発明は,引用文献1?2に記載された発明に基づき,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

4-2 本願発明と引用発明2との相違点

(1)相違点1について
上記記載事項(2-c)には,引用発明2の「酵母」として,「サッカロミセス・セルビシエAH22」を用いることが記載されている。そして,引用文献1の記載事項(1-a)にも記載されているように,サッカロミセス・セルビシエがスクアレンシンターゼ遺伝子を有することは技術常識であるし,上記記載事項(2-e)において,サッカロミセス・セルビシエAH22,及び,HMG-CoA-レダクターゼ遺伝子を導入したサッカロミセス・セルビシエAH22を用いて培養した結果,いずれも外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入していないにもかかわらず,スクアレンが抽出されていることからも,「サッカロミセス・セルビシエAH22」が「内在性スクアレンシンターゼ遺伝子」を有することは明らかである。

したがって,相違点1においては,本願発明と引用発明2とが実質的に相違するものではない。

(2)相違点2について
引用発明2において,本願発明と同様にスクアレンが結果として得られていることに鑑みれば,文言上の特定がなかったとしても,引用発明2において,遺伝的に改変した酵母を培養する際にスクアレンを得られるように条件が採用されていることは明らかであって,引用文献2に記載されているに等しい事項である。

したがって,相違点2においては,本願発明と引用発明2とが実質的に相違するものではない。

(3)まとめ
上記(1)?(2)の検討結果を踏まえると,本願発明は,引用文献2に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許を受けることができない。

5 審判請求人の主張

審判請求人は,平成27年6月2日付の審判請求書の請求の理由を変更する平成27年6月22日付の手続補正書(方式)において,引用文献1及び2について,それぞれ,次の主張を行っている。

(1)「引用文献1では、抽出しているのはスクアレンシンターゼ(酵素)であり、その活性を、細胞破壊とスクアレンシンターゼの抽出の後でインビトロで評価しています。引用文献1では、遺伝的に改変した酵母をスクアレンが生成する条件下で培養することも、スクアレンを抽出することも何ら示唆も開示もなされていません。」

(2)「引用文献2では、HMG-CoAまたはアセチルCoAステロール転移酵素遺伝子の発現が変更されることが記載されています。引用文献2では、酵母に追加のスクアレンシンターゼ遺伝子を導入することについても、酵母培養物からスクアレンを抽出することについても示唆も開示もなされていません。」

しかしながら,審判請求人の主張(1)については,上記「4-1(1)相違点について」で検討したとおりであり,引用文献1にはスクアレンを抽出することが記載されていない点で本願発明と引用発明1とは相違するものの,当該相違点は当業者が容易に想到できたものであるから,この点において進歩性を肯定できるものではない。

審判請求人の主張(2)については,上記「2(2)引用文献2」で検討したとおりであり,酵母に外来性スクアレンシンターゼ遺伝子を導入することは,引用文献2の記載事項(2-a)及び記載事項(2-d)において,スクアレンを抽出することは,引用文献2の記載事項(2-a)において,それぞれ明示的に記載されている。

したがって,審判請求人の主張(1)?(2)のいずれも採用することはできない。

6 むすび

以上のとおりであるから,本願請求項1に係る発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,また,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないので,他の請求項に係る発明については検討するまでもなく,本願は拒絶をすべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-09 
結審通知日 2016-11-15 
審決日 2016-11-30 
出願番号 特願2011-510739(P2011-510739)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (C12P)
P 1 8・ 113- WZ (C12P)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 太田 雄三  
特許庁審判長 中島 庸子
特許庁審判官 高堀 栄二
山崎 利直
発明の名称 酵母を使用したスクアレンの生成  
代理人 北野 健  
代理人 松任谷 優子  
代理人 田中 玲子  
代理人 大野 聖二  
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