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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1327291
審判番号 不服2016-2810  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-02-25 
確定日 2017-04-12 
事件の表示 特願2014-100291「堆積物を含む電子デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成26年11月 6日出願公開、特開2014-209630〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成20年(2008年)10月30日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2007年10月30日,フィンランド)を国際出願日とする特願2010-530501号の一部を平成26年5月14日に新たな出願としたものであって,その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 5月14日 審査請求
平成27年 2月25日 拒絶理由通知
平成27年 8月21日 意見書・手続補正
平成27年11月13日 拒絶査定
平成28年 2月25日 審判請求・手続補正

第2 補正の却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年2月25日にされた手続補正(以下,「本件補正」という。)を却下する。
[理由]
1 本件補正の内容
本件補正により,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1は本件補正後の請求項1へ補正された。
(1)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
電子デバイスであって,前記デバイスが電界効果トランジスタであり,かつ,カーボンナノバッド分子を含む堆積物を含み,前記堆積物がチャネルを形成し,かつ,1よりも大きいオン/オフ比を有する,ことを特徴とする電子デバイス。」
(2)本件補正後の特許請求の範囲
本件補正後の,特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである。(当審注。補正個所に下線を付した。下記(3)も同じ。)
「【請求項1】
電子デバイスであって,前記デバイスが電界効果トランジスタであり,かつ,カーボンナノバッド分子を含む堆積物を含み,前記堆積物がチャネルを形成し,かつ,1よりも大きいオン/オフ比を有し,前記カーボンナノバッド分子が電気伝導経路のネットワークを形成する,ことを特徴とする電子デバイス。」
(3)本件補正事項
本件補正は,補正前請求項1の「堆積物」について「前記カーボンナノバッド分子が電気伝導経路のネットワークを形成する,」という限定を付加して,補正後請求項1とする補正(以下,「本件補正事項」という。)を含むものである。
2 補正の適否
本願の願書に最初に添付した特許請求の範囲の請求項4の記載からみて,本件補正事項は,本願の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてされたものであることは明らかであるので,特許法第17条の2第3項の規定に適合する。
そして,本件補正事項は前記1(3)のとおり,本件補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定的に減縮するものであるから,特許法第17条の2第4項の規定に適合することは明らかであり,また,同法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,補正後の請求項1に記載された発明(以下,「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か(特許法第17条の2第6項で準用する同法第126条第7項)につき,更に検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,本件補正後の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。(再掲)
「電子デバイスであって,前記デバイスが電界効果トランジスタであり,かつ,カーボンナノバッド分子を含む堆積物を含み,前記堆積物がチャネルを形成し,かつ,1よりも大きいオン/オフ比を有し,前記カーボンナノバッド分子が電気伝導経路のネットワークを形成する,ことを特徴とする電子デバイス。」
(2)引用文献1の記載と引用発明
ア 引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用された国際公開第2007/057501号(以下,「引用文献1」という。)には,図面とともに,次の記載がある。(当審注。下線は当審において付加した。以下同じ。訳は特表2009-515804号公報による。)
(ア)「The present invention relates to fullerene functionalized carbon nanotubes, to a method and an apparatus for their production, to a functional material, to a thick or thin film, line, wire and a layered and three dimensional structure, and to a device as defined in the claims.
PRIOR ART
Both fullerenes and carbon nanotubes (CNTs) exhibit unique and useful chemical and physical properties related to, for example, their morphology, toughness, electrical and thermal conductivity and magnetic characteristics.」(1頁3-15行)
(訳:本発明は,フラーレン官能基化カーボンナノチューブ,それを製造するための方法及び装置,機能材料,厚膜又は薄膜,糸,ワイヤー,さらに層状及び三次元の構造体,並びに特許請求の範囲に記載されているデバイスに関する。
【背景技術】
フラーレン及びカーボンナノチューブ(CNT)はどちらも,例えば,形態,靭性,電気伝導率,熱伝導率及び磁気特性に関連した,独特かつ有用な化学的及び物理的性質を示す。)
(イ)「The present invention relates to a fullerene functionalized carbon nanotube (FFCNT) , which comprises one or more fullerenes and/or fullerene based molecules covalently bonded to the carbon nanotube (herein also called as CBFFCNT, covalently bonded fullerene functionalized carbon nanotube or fullerene-functionalized carbon nanotube) . A carbon nanotube can comprise only carbon atoms but also the carbon nanotube can comprise carbon atoms and also one or more other atoms. The carbon nanotube can have a cylindrical or a tube-like structure with open and/or closed ends. Also other carbon nanotube structures are possible.
By a fullerene is meant a molecule, which comprises carbon and which is substantially spherical, ellipsoidal or ball-like in structure. The fullerene can be hollow with a closed surface or it can have a substantially spherical structure, which is not be completely closed but instead has one or more open bonds. The fullerene can, for example, have a substantially hemisphere-like form and/or any other sphere-like form.
...
The one or more fullerenes and/or fullerene based molecules can be covalently bonded to the outer surface and/or to the inner surface of the carbon nanotube, preferably to the outer surface. ...
According to the present invention the carbon nanotube can comprise a single, a double or a multiple walled carbon nanotube or a composite carbon nanotube. The carbon nanotube can be formulated in a gas, liquid and/or solid dispersion, a solid structure, a powder, a paste and/or a colloidal suspension and/or can be deposited and/or synthesized on a surface.
The fullerene functionalized carbon nanotube can be bonded through one or more fullerenes and/or fullerene based molecules to one or more carbon nanotubes and/or fullerene functionalized carbon nanotubes. In other words, for example, two fullerene functionalized carbon nanotubes can be attached to each other through a common fullerene molecule.」(3頁3行-5頁1行)
(訳:本発明は,カーボンナノチューブに共有結合した1種又は複数種のフラーレン及び/又はフラーレン系分子を含むフラーレン官能基化カーボンナノチューブ(FFCNT)(本明細書では,CBFFCNT,共有結合フラーレン官能基化カーボンナノチューブ又はフラーレン官能基化カーボンナノチューブとも呼ぶ)に関する。カーボンナノチューブは炭素原子のみを含むことができるが,カーボンナノチューブは炭素原子と1種又は複数種の他の原子も含むことができる。カーボンナノチューブは,末端が開放及び/又は閉鎖された,円筒形又は管状の構造を有することができる。また他のカーボンナノチューブ構造も可能である。
フラーレンとは,炭素を含み,かつ構造が実質的に球形,楕円形又はボール状である分子を意味する。フラーレンは,表面が閉鎖された中空であってよく,あるいは完全に閉鎖されるのではなく,1つ又は複数の開結合(open bonds)を有する実質的に球形の構造を有していてもよい。フラーレンは,例えば,実質的に半球体のような形状及び/又は任意の他の球のような形状を有することができる。
・・・
1種又は複数種のフラーレン及び/又はフラーレン系分子は,カーボンナノチューブの外面及び/又は内面,好ましくは外面に共有結合させることができる。・・・
本発明によれば,カーボンナノチューブは,単一壁,二重壁,又は多重壁のカーボンナノチューブあるいは複合カーボンナノチューブを含むことができる。カーボンナノチューブは,気体,液体及び/又は固体の分散体,固体構造体,粉末,ペースト及び/又はコロイド懸濁液の中で配合することができ,及び/又は表面上で析出させ及び/又は合成することができる。
フラーレン官能基化カーボンナノチューブは,1つ又は複数のフラーレン及び/又はフラーレン系分子を介して,1又は複数のカーボンナノチューブ及び/又はフラーレン官能基化カーボンナノチューブに結合させることができる。言い換えれば,例えば,共通のフラーレン分子を介して,2つのフラーレン官能基化カーボンナノチューブを互いに付着することができる。)
(ウ)「Further the present invention relates to a device that is made by using one or more fullerene functionalized carbon nanotubes, said functional material and/or said thick or thin film, line, wire or layered or three dimensional structure. Said device can comprise an electrical device, electrochemical device, an analytical device, a polymer based device, a medical device, a lighting device and/or any other device, in which preparation the fullerene functionalized carbon nanotubes and/or materials thereof according to the present invention can be used. Said device can comprise for example an electrode of a capacitor, a fuel cell or battery, a heat sink or heat spreader, a metal-matrix composite or polymer-matrix composite in a printed circuit, a transistor, a light source, a carrier for drug molecules, a molecule or cell tracer, or electron emitter in a field emission or backlight display and/or any other device in the preparation of which carbon nanotubes can be used.
The above materials and/or structures can be usable for example in the following applications: Electronics such as carbon nanotube interconnects : CNTs for on-chip interconnect applications, field- emission devices, field-effect transistors, logic gates, diodes, inverters, probes; electrochemical devices such as supercapacitors, hydrogen storage (e.g. fuel cells); analytical applications such as gas sensors, CNTs as electrode materials and/or modifiers for analytical voltammetry, biosensors; chromatographic applications; mechanical applications such as conducting composites for antistatic shielding, transparent conductor, shielding of electromagnetic interference, electron guns for microscopes, field emission cathodes in microwave amplifiers, field emission displays, supercapacitors, gas storage, field-effect transistors, nanotube electromechanical actuators, electrodes in lithium batteries, NT-based lamps, nanosensors, thin film polymeric solar cells, fuel cells, ultracapacitors, thermionic power supplies.」(16頁26行-17頁29行)
(訳:さらに本発明は,1種又は複数種のフラーレン官能基化カーボンナノチューブ,前記機能材料及び/又は前記の厚膜又は薄膜,糸,ワイヤーあるいは層状又は三次元の構造体を使用して作られる,デバイスに関する。前記デバイスは,電気デバイス,電気化学デバイス,分析デバイス,高分子デバイス,医療デバイス,点灯装置及び/又は任意の他のデバイスを含むことができ,それらの製造には,本発明によるフラーレン官能基化カーボンナノチューブ及び/又はフラーレン官能基化カーボンナノチューブ材料を使用できる。前記デバイスは,例えば,コンデンサーの電極,燃料電池又は電池,熱シンク又はヒートスプレッダ,プリント回路内の金属‐マトリックス複合材又はポリマー‐マトリックス複合材料,トランジスター,光源,薬物分子のキャリア,分子トレーサー又はセルトレーサー,又は電界放出ディスプレイ又はバックライトディスプレイ(backlight display)における電子エミッター(field emitter)及び/又はカーボンナノチューブを使用して作製できる任意の他のデバイスを含むことができる。
上記の材料及び/又は構造体は,例えば,以下の用途に使用可能である:カーボンナノチューブ連絡管などの電子機器:オンチップ相互接続用途のCNT,電界放出デバイス,電界効果トランジスター,論理ゲート,ダイオード,インバーター,プローブ;超コンデンサー,水素貯蔵(例えば,燃料電池)などの電気化学デバイス;ガス・センサー,分析ボルタンメトリー用の電極材料及び/又は改質剤としてのCNT,バイオセンサーなどの分析用途;クロマトグラフィー用途;帯電防止遮蔽用の導電性高分子複合材,透明導電体,電磁干渉の遮蔽,顕微鏡の電子銃,マイクロ波増幅器の電界放出陰極,電界放出ディスプレイ,超コンデンサー,ガス貯蔵,電界効果トランジスター,ナノチューブ電気機械式アクチュエータ,リチウム電池内の電極,NTをベースにしたランプ,ナノセンサー,薄膜高分子太陽電池,燃料電池,ウルトラコンデンサー(ultracapacitors),熱電子電源(thermionic power supplies)などの機械的用途。)
(エ)「Further, for example, due to the charge transport between carbon nanotubes and fullerenes, electrical and/or optical properties of the material can be modified. For example a considerable enhancement in cold electron field emission have been measured from fullerene-functionalized carbon nanotubes. Further, the presence of attached fullerene molecules can be used as molecular anchors to prevent slipping of CNTs in composites, thus, improving their mechanical properties.」(18頁14-23行)
(訳:さらに,例えば,カーボンナノチューブとフラーレンとの間の電荷輸送のおかげで,材料の電気的性質及び/又は光学的性質を変更できる。例えば,フラーレン官能基化カーボンナノチューブからの冷電子電界放出(cold electron field emission)におけるかなりの向上が評価されてきた。さらに,くっ付いたフラーレン分子の存在は,複合材中でCNTがすべるのを防ぐ分子的錨として利用でき,こうしてその機械的性質が改善される。)
イ 引用発明
前記アより,引用文献1には次の発明(以下,「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「フラーレン官能基化カーボンナノチューブの厚膜又は薄膜を使用して作られる電界効果トランジスターであって,フラーレン官能基化カーボンナノチューブは,フラーレンを介してフラーレン官能基化カーボンナノチューブに結合させること。」
(3)周知技術
ア 引用文献2
原査定に引用された特開2007-031238号公報(以下,「引用文献2」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
(ア)「【技術分野】
【0001】
この発明は,金属的カーボンナノチューブの分離方法ならびに半導体的カーボンナノチューブ薄膜の製造方法ならびに薄膜トランジスタおよびその製造方法ならびに電子素子およびその製造方法に関し,例えば,カーボンナノチューブ薄膜をチャネル材料に用いた薄膜トランジスタ(TFT)に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
1947年の半導体トランジスタの発明以来,シリコンなどの無機材料をチャネル材料に用いた電界効果トランジスタ(FET)がエレクトロニクス産業の主流をなしてきた。しかしながら,現在の半導体素子の製造プロセスはより複雑になっており,製造コストがより高くなっている。さらに,現在の素子設計は,ナノメートルスケールで信頼性よく機能するのを妨げる基本的な物理的限界に到達すると考えられるため,シリコンをベースとするマイクロエレクトロニクスのほぼ一定の指数関数的成長は起きそうにない。」
(イ)「【0027】
図2は半導体的カーボンナノチューブ薄膜をチャネル材料に用いたボトムゲート型TFTを示す。このボトムゲート型TFTの製造方法は次の通りである。
まず,基板1上にゲート電極4を形成した後,これらのゲート電極4を覆うように全面にゲート絶縁膜5を形成する。基板1としては,例えば,シリコン基板の表面にSiO_(2) 膜を形成したもの(SiO_(2) /Si基板)を用いる。
次に,ゲート絶縁膜5上にチャネル材料として半導体的カーボンナノチューブ薄膜3を形成する。
次に,半導体的カーボンナノチューブ薄膜3をリソグラフィーおよびエッチングにより所定の形状にパターニングする。
次に,パターニングされた各半導体的カーボンナノチューブ薄膜3の両端部にソース電極6およびドレイン電極7を形成する。」
(ウ)「【0040】
金属的カーボンナノチューブが分離されていない単層カーボンナノチューブ薄膜を用いて作製された従来のカーボンナノチューブTFTおよびこの一実施形態による方法により作製されたカーボンナノチューブTFTの統計的オン/オフ比をそれぞれ図19および図20に示す。図19および図20より,明らかに,金属的カーボンナノチューブが分離された半導体的カーボンナノチューブ薄膜を用いたカーボンナノチューブTFTのオン/オフ比は,金属的カーボンナノチューブが分離されていない単層カーボンナノチューブ薄膜を用いて作製されたカーボンナノチューブTFTのオン/オフ比に比べてはるかに大きい。金属的カーボンナノチューブが分離された半導体的カーボンナノチューブ薄膜を用いたカーボンナノチューブTFTのほとんどのオン/オフ比は10^(2) に達しており,10^(3) を超えるもの,10^(4) を超えるもの,より具体的には10^(4.5) を超えるもの,さらには10^(5) を超えるものも存在する。これに対し,金属的カーボンナノチューブが分離されていない単層カーボンナノチューブ薄膜を用いて作製されたカーボンナノチューブTFTのオン/オフ比はほとんどが10^(2) 以下であり,10^(4) を超えるものは存在しない。ここで,図19においては,わずかではあるがオン/オフ比が10^(2) を超えるものが存在するが,これは,従来の一般的な方法で合成され,金属的カーボンナノチューブが分離されていない単層カーボンナノチューブ薄膜では全体の2/3程度が半導体的カーボンナノチューブで占められるため,たまたまチャネル材料が半導体的カーボンナノチューブだけで構成されたTFTが存在し得ることによるものである。」
イ 引用文献3
原査定に引用された特開2003-017508号公報(以下,「引用文献3」という。)には,図面とともに,次の記載がある。
「【0018】図1は,本発明の電界効果トランジスタの第1の実施例の断面構造を示す模式図である。図2は第1の実施例の上面の模式図である。図1および図2において,1は基板,2はチャネル,3はソース電極,4はドレイン電極,5は絶縁体,6はゲート電極である。
【0019】基板は絶縁性基板あるいは半導体性基板であればよい。絶縁体基板として,たとえば酸化シリコン,窒化シリコン,酸化アルミニウム,酸化チタン,フッ化カルシウム,アクリル樹脂,エポキシ樹脂等の絶縁性樹脂,ポリイミド,テフロン(登録商標)等を用いればよい。半導体基板としては,たとえばシリコン,ゲルマニウム,ガリウム砒素,インジウム燐,炭化シリコン等を用いればよい。基板表面は平坦である事が望ましい。
【0020】図3のように導電性基板の上に絶縁膜を形成した構造をとってもよい。この場合,導電性基板は第2のゲート電極としても作用させる事ができる。
【0021】複数のカーボンナノチューブをソース電極とドレイン電極の間に配列させる事によりチャネルとする。カーボンナノチューブの合成方法については限定しない。たとえば,レーザーアブレーション法,アーク放電法,化学気相成長法で合成すればよい。また,カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブでもよいし,多層カーボンナノチューブでもよい。チャネルに配列したカーボンナノチューブの隣接距離は,0.3nmから10μmの範囲にあればよい。カーボンナノチューブの配列方向は横方向のみに限定しない。上下方向にも同時に配列していてもよい。」
ウ 周知技術
前記ア及びイより,次の事項は周知技術と認められる。
「電界効果トランジスタにおいて,カーボンナノチューブをチャネル材料とすること。」
(4)本願補正発明と引用発明との対比
引用発明の「電界効果トランジスター」は,電子デバイスであるから,本願補正発明の「電子デバイスであって,前記デバイスが電界効果トランジスタ」に相当すると認められる。
引用発明の「フラーレン官能基化カーボンナノチューブ」は「カーボンナノチューブに共有結合した1種又は複数種のフラーレン及び/又はフラーレン系分子を含む」(前記(2)ア(イ))ものであり,「これらの分子(以下,カーボンナノバッドまたはカーボンナノバッド分子と記載する)は,チューブ状炭素分子の側面に共有結合的に結合したフラーレンまたはフラーレン状分子を有する」(本願明細書段落0005)から,本願補正発明の「カーボンナノバッド分子」に相当し,引用発明の「フラーレン官能基化カーボンナノチューブの厚膜又は薄膜」は,表面上で析出(deposited)させる(前記(2)ア(イ))から,本願補正発明の「カーボンナノバッド分子を含む堆積物」に相当すると認められる。
引用発明の「電界効果トランジスター」はトランジスターとしてスイッチング機能を有するから,「1よりも大きいオン/オフ比を有」することは自明である。
引用発明の「フラーレン官能基化カーボンナノチューブは,フラーレンを介してフラーレン官能基化カーボンナノチューブに結合させる」は,カーボンナノチューブとフラーレンとの間に電荷輸送があること(前記(2)ア(エ))から,本願補正発明の「カーボンナノバッド分子が電気伝導経路のネットワークを形成する」に相当すると認められる。
してみると,本願補正発明と引用発明とは,下記アの点で一致するが,下記イの点で相違すると認められる。
ア 一致点
「電子デバイスであって,前記デバイスが電界効果トランジスタであり,かつ,カーボンナノバッド分子を含む堆積物を含み,かつ,1よりも大きいオン/オフ比を有し,前記カーボンナノバッド分子が電気伝導経路のネットワークを形成する,ことを特徴とする電子デバイス。」
イ 相違点
本願補正発明では「前記堆積物がチャネルを形成」するのに対し,引用発明では「フラーレン官能基化カーボンナノチューブの厚膜又は薄膜」がチャネルを形成するか不明である点。
(5)相違点についての検討
引用文献1には,フラーレン官能基化カーボンナノチューブを使用して作られるデバイスに「カーボンナノチューブを使用して作製できる任意の他のデバイスを含むこと」が記載されている(前記(2)ア(ウ))から,「カーボンナノチューブ」の代わりに「フラーレン官能基化カーボンナノチューブ」を使用することが示唆されている。そして,「電界効果トランジスタにおいて,カーボンナノチューブをチャネル材料とすること。」は周知技術である(前記(3)ウ)から,引用発明の「電界効果トランジスター」を具体化するにあたり,前記示唆に従い前記周知技術を考慮して,フラーレン官能基化カーボンナノチューブをチャネル材料とすることは,当業者が容易に導けることである。
してみると,相違点に係る構成を得ることは,当業者が容易になし得ることである。
(6)本願補正発明の効果について
本願補正発明の効果は,引用発明の構成及び周知技術から当業者が予測できる程度のもので,格別なものではない。
(7)まとめ
本願補正発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
3 むすび
したがって,本件補正は,特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明の特許性の有無について
1 本願発明について
平成28年2月25日にされた手続補正は前記第2のとおり却下された。
そして,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)は,平成27年8月21日付け手続補正による補正がされた特許請求の範囲の請求項1に記載された,次のとおりのものと認める。
「電子デバイスであって,前記デバイスが電界効果トランジスタであり,かつ,カーボンナノバッド分子を含む堆積物を含み,前記堆積物がチャネルを形成し,かつ,1よりも大きいオン/オフ比を有する,ことを特徴とする電子デバイス。」
2 引用発明及び周知技術
引用発明及び周知技術は,それぞれ前記第2の2(2)及び同(3)のとおりである。
3 対比・判断
本願発明は,本願補正発明から「前記カーボンナノバッド分子が電気伝導経路のネットワークを形成する」という限定事項を削除したものである。
そうすると,本願発明の発明特定事項を全て含み,さらに他の事項を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2の2(7)のとおり,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。
4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用文献1に記載された発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。

第4 結言
したがって,本願の請求項1に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-09 
結審通知日 2016-11-15 
審決日 2016-11-29 
出願番号 特願2014-100291(P2014-100291)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 市川 武宜鈴木 聡一郎川原 光司岩本 勉  
特許庁審判長 飯田 清司
特許庁審判官 小田 浩
深沢 正志
発明の名称 堆積物を含む電子デバイス  
代理人 正林 真之  
代理人 林 一好  

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