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審決分類 |
審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01H 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A01H |
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管理番号 | 1327323 |
審判番号 | 不服2015-11010 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2015-06-10 |
確定日 | 2017-04-19 |
事件の表示 | 特願2011-534530「オメガ9品質カラシナ」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月14日国際公開、WO2010/053541、平成24年 3月29日国内公表、特表2012-507286〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は、平成21(2009)年11月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2008年11月4日 米国(US))を国際出願日とする特許出願であって、平成26年8月21日に手続補正書が提出され、平成27年2月2日付けで拒絶査定がされたところ、同年6月10日に拒絶査定不服審判の請求がされ、当審による平成28年5月16日付け拒絶理由(以下、単に「拒絶理由」という)に応答して、同年10月31日に意見書および手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明 本願請求項1?22に係る発明は、平成26年8月21日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?22に記載された発明特定事項により特定されるものであるところ、その請求項1および16に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」および「本願発明16」という)は、以下のとおりのものと認める。 「【請求項1】 種子が、少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸を含む内因性脂肪酸含有量を有する、カラシナ(Brassica juncea)植物。」 「【請求項16】 カラシナ植物からの種子であって、育種法によって前記カラシナ植物に導入した遺伝子である、Brassica aa及び/又はBrassica bbゲノムの1つ又はそれ以上のゲノム成分からの1つ又はそれ以上の非組換えfad2及びfad3遺伝子が組み込まれているものであり、少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸を含む脂肪酸含有量を有する油を生産するものである種子。」 第3 特許法第36条第4項第1号について 1.本願の発明の詳細な説明の記載 植物の交配による育種に関して、本願の発明の詳細な説明(【0097】については平成28年10月31日付け手続補正書により補正されている)には、以下の記載がある。 なお、下線は強調するために当審にて付記したものである。以下、同様である。 「【0097】 戻し交配 図4を参照して、カラシナ遺伝的背景を完全に回復させるための、高オレイン酸-低リノレン酸選択物とカラシナ親(Zem1、Zem2及びZEスコロスペルカ)間の1回又はそれ以上の戻し交配(BC3及びBC4)。ゼロエルカ酸カラシナ系統のみを、戻し交配プログラムで使用した。これは、FAE遺伝子(単数又は複数)と非競合状態でfad2及びfad3突然変異体アレルの完全発現が可能であるだろうからである。 【0098】 それぞれの先行戻し交配(例えば、BC3、BC4)及びその後の自家受粉(例えば、BC3F2、BC4F2)の後、後代種子を、先ず、fad2a及びfad3a遺伝子の存在について組織スクリーニングに付し(本明細書においてより詳細に説明するようなマーカーを使用する)、その後、成長開花させて、後の戻し交配において使用する。選択された系統から収穫した種子を、半粒種子を使用する油プロフィール分析、非破壊的一粒完全種子NIR分析、又は一粒種子NIR(FTNIR)に付す。その後、増加したオレイン酸レベル及び低下したリノレン酸レベルを含有するサンプルを土壌にまき、成長成熟させる。これらの植物から自家受粉種子が生産し、高オレイン酸及び低リノレン酸に相当する油プロフィールについてバルク種子を分析する。67?80%の範囲内のオレイン酸及び5%未満のリノレン酸を有する選択物を特定する。これらの選択物をそれら自体の間で異種交配させて、所望の脂肪酸プロフィールを作出した。」 「 」 また、「オメガ-9」の説明として、本願の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。 「【0071】 本明細書において用いる場合、用語「オメガ-9」は、カノーラからの油プロフィールに関して、少なくとも68.0重量%オレイン酸及び4.0重量%未満又は4.0重量%に等しいリノレン酸を含む脂肪酸含有量を有する非硬化油を意味する。カノーラ植物に関して、用語「オメガ-9」は、少なくとも68.0重量%オレイン酸及び4.0重量%未満リノレン酸を含む内因性脂肪酸含有量を有する種子を生産するカノーラ植物を意味する。」 2.当審の判断 本願発明16のカラシナ植物からの種子は、Brassica aa及び/又はBrassica bbゲノムの1つ又はそれ以上のゲノム成分からの1つ又はそれ以上の非組換えfad2及びfad3遺伝子を、育種法によって前記カラシナ植物に導入したものであって、遺伝子組換えではない、交配により育成された種子であるものと認められる。 一方、本願の発明の詳細な説明の【0097】には、「高オレイン酸-低リノレン酸選択物」と「カラシナ親(Zem1、Zem2及びZEスコロスペルカ)」を戻し交配することが具体的に記載されており、対応する図4において「ゼロエルカ酸カラシナ(var-Zem1,var-Zem2,var-Zeスコロスペルカ)」と「オメガ-9セイヨウアブラナ」を交配させることが示されていることから、「高オレイン酸-低リノレン酸選択物」は「オメガ-9セイヨウアブラナ」に相当するといえる。 さらに、本願の発明の詳細な説明の【0098】には、戻し交配(BC)及び自家受粉(F2)を行ったのち、高オレイン酸及び低リノレン酸に相当する油プロフィールについてバルク種子を分析し、所望の脂肪酸プロフィールを作出することが記載されていることから、「オメガ-9セイヨウアブラナ」の有する「高オレイン酸-低リノレン酸」の形質を、交配によりカラシナ植物に移入させていることは明らかである。 そうすると、本願発明16のカラシナ植物からの種子を得るためには、交配に用いる「高オレイン酸-低リノレン酸選択物」としての「オメガ-9セイヨウアブラナ」の種子が、カラシナ植物に移入するための形質である「少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸」を有する必要があるが、この「オメガ-9セイヨウアブラナ」については、本願の発明の詳細な説明の【0071】において「オメガ-9」が特定の脂肪酸含有量を規定しているに過ぎず、「オメガ-9セイヨウアブラナ」という植物をどのようにして作出するのかについては本願の発明の詳細な説明には何ら具体的な記載は存在しない。 さらに、本願の発明の詳細な説明の【0098】には、オレイン酸とリノレン酸の脂肪酸含有量に関して、「67?80%の範囲内のオレイン酸及び5%未満のリノレン酸を有する選択物を特定する。」としか記載がなく、本願発明16に規定する「3.0重量%未満リノレン酸」を有する選択物を特定する記載はない。 してみると、本願の発明の詳細な説明の上記記載では、出願時の技術常識を考慮しても、本願発明16に規定する「少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸」を含む脂肪酸含有量を有する油を生産するものである種子を得るために必要な「高オレイン酸-低リノレン酸選択物」、すなわち「オメガ-9セイヨウアブラナ」をそもそも作出できるものとは認められず、仮に作出できたとしても、「3.0重量%未満リノレン酸」を有するカラシナ植物からの種子を作出できるものとは到底認められない。 よって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明16のカラシナ植物からの種子を作り、使用することができるように記載されているものとは認められないので、本願の発明の詳細な説明は、本願発明16を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。 3.審判請求人の主張 審判請求人は、平成28年10月31日付け意見書において主に以下の2点を主張している。 主張1: オメガ-9セイヨウアブラナは、本願発明のカラシナ(Brassica Juncea)植物と交配されるものであり、このことが図4に示されている。オメガ-9セイヨウアブラナは、本願の請求項1には記載されていない。オメガ-9セイヨウアブラナは、当該分野で周知であり、したがって、その作出方法は当業者には理解され得ると確信する。 主張2: 請求項1に記載される範囲については、本願明細書の全体にわたって記載されており、少なくとも段落[0094]には、種々の実施態様に含まれる範囲が記載されている。 上記主張1,2について検討する。 主張1について: 「オメガ-9セイヨウアブラナ」と交配する相手方である、本願の発明の詳細な説明の【0097】及び図4に記載されている「カラシナ親(Zem1、Zem2及びZEスコロスペルカ)」が、本願発明16で規定する「少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸を含む脂肪酸含有量を有する油を生産するものである種子」を作るカラシナ植物であることは、本願の発明の詳細な説明のどこにも記載がなく、仮にそうであれば、戻し交配するまでもなく既に本願発明の目的は達成されているものと認められるので、当該主張は失当である。 また、「オメガ-9セイヨウアブラナ」が当該分野で周知であり、その作出方法は当業者には理解され得る点についても、何ら具体的な根拠を伴わない主張でしかない。 よって、主張1は採用できない。 主張2について: 「3.0重量%未満リノレン酸」という記載自体は本願の発明の詳細な説明の複数箇所にあるものの、最終的に「3.0重量%未満リノレン酸」を含む脂肪酸含有量を有する油を生産するものであるカラシナ植物からの種子を作出できたことについて何ら具体的に記載がないことには変わりはなく、審判請求人が引用する段落[0094]には、本発明の油が医薬用途に用いることができる旨の記載があるだけで、種々の実施態様に含まれる範囲は何ら記載されていない。 よって、主張2も採用できない。 4.小括 したがって、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願発明16について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。 第4 特許法第29条第2項について 1.本願発明1 本願発明1の「カラシナ(Brassica juncea)植物」は、「種子が、少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸を含む内因性脂肪酸含有量を有する」と特定されており、本願の実施例1に記載の交配により育種されたカラシナ植物と、本願の実施例4に記載の遺伝子工学的手法により作製されたカラシナ植物の両者を包含するものと認められる。 そこで、以下では、本願発明1の「カラシナ(Brassica juncea)植物」のうち、遺伝子工学的手法により作製されたカラシナ植物について検討する。 2.引用例1 拒絶理由で引用された、本願の優先日前である2008年7月10日に頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2008/0168587号明細書(以下「引用例1」という)には、次の事項が記載されている。なお、翻訳は当審によるものである。 (1)「植物油の脂肪酸組成は、油の品質及び安定性に影響する。例えば、オレイン酸は血漿のコレステロールレベルを下げる効果を含む健康上の利益を有すると認識されており、それゆえに、種子油における高レベルのオレイン酸含量は、望ましい形質である。さらに、植物油の全ての脂肪酸が、等しく高温や酸化に脆弱であるわけではない。むしろ、個々の脂肪酸の酸化に対する感受性は不飽和度に依存する。例えば、リノレン酸は3つの炭素-炭素二重結合を有し、1つの炭素-炭素二重結合のみ有するオレイン酸よりも酸化に対してずっと脆弱である。高オレイン酸含量の植物油もまた、その熱安定性の理由から好ましい。これらの理由から、高オレイン酸及び低リノレン酸が植物油における望ましい形質であろう。」([0004]) (2)「いくつかの実施態様では、本発明の変異FAD2対立遺伝子(例えば、MJ02-313-1/BjFAD2-a対立遺伝子又はMJ02-357-3/BjFAD2-a対立遺伝子)は、変異FAD3対立遺伝子のような、脂肪酸酵素における追加の変異対立遺伝子と組み合わせられる。例えば、MJ02-313-1系統は、FAD3遺伝子変異を有する別のアブラナ属親植物(カラシナ、アブラナ、セイヨウアブラナ、クロガラシ及びアビシニアガラシ)との交配におけるFAD2変異の提供に用いられる。同様に、MJ02-357-3系統も、FAD3遺伝子変異を有する別の親植物との交配におけるFAD2変異の提供に用いられる。このようにして作出された植物は、二重変異対立遺伝子(FAD2及びFAD3)を含み、単一変異の植物のいかなるものよりも優れた油の脂肪酸プロフィールを有するだろう。」([0076]) (3)「実施例 実施例1 突然変異カラシナ種子系統の集合の創出 [0088]カラシナ系統J96D-4830の種子が、出発材料として選択された。この系統は、キャノーラ油と同一の脂肪酸プロフィールを有する内因性食用油を有し、それゆえにキャノーラ品質カラシナ(CQBJ)のファミリーに属する。 ・・・ [0089]いくつかの自家受粉した個々の植物からのJ96D-4830の種子がプールされ、3000個の種子が、化学的変異原であるエチルメタンスルホネート(EMS)を用いた突然変異処理に供された。 ・・・ [0090]植えてから6日して、発芽した実生が発芽率を決定するために数えられた。3000個のEMS処理した種子のうち約1600個が発芽し、M1植物を作製した(53%)。 ・・・ [0091]約680のM1植物が、M2種子を作製した。 ・・・」(実施例1、[0088]?[0091]) (4)「実施例2 増加したオレイン酸変異の表現型のスクリーニング [0092]M2種子が発芽した後、若い実生の葉組織が、総脂肪酸抽出に用いられた。 ・・・ [0095]以前の特許出願(米国特許出願公開第2005/0039233号明細書、2005年2月17日公開)において、高オレイン酸カラシナ系統MJ02-086-3が開示された。スクリーニングの努力を継続し、2つの追加的な高オレイン酸カラシナ系統であるMJ02-313-1及びMJ02-357-3を発見した。表2に示すとおり、葉組織から抽出した総脂肪酸中、系統MJ02-313-1は13.38%のオレイン酸を含み、系統MJ02-357-3は17.74%のオレイン酸を含む。それに対して、コントロールの植物の平均は、葉の総脂肪酸中4.69%のオレイン酸を含む。データはまた、コントロールの平均と比較して、高オレイン酸系統においてリノール酸含量が対応して減少することも示している。他の脂肪酸は実質的に変化しなかった。データは、オレイン酸(18:1)のリノール酸(18:2)への変換が、高オレイン酸変異体系統において損なわれていることを示しており、このことは、MJ02-313-1及びMJ02-357-3のそれぞれが、FAD2遺伝子に変異を有していることを示唆している。」(実施例2、[0092]?[0095]) (5)「実施例3 高オレイン酸カラシナ系統の確認 [0096]初期の葉の脂肪酸に関するスクリーニングの後、可能性のある変異体カラシナ系統、系統MJ02-313-1(M2)及び系統MJ02-357-3(M2)を、6インチの植木鉢に移して詰め、自家受粉させるように開花させ、上述のとおり同じ成長条件に維持した。葉の大きさ、形、開花時間、植物の背丈及び結実の点で、成長の全期間の間、異常な成長や発達習性は見られなかった。それぞれの系統の種子(M3)を収穫した後、種子油の脂肪酸における品質を、カナダ穀物委員会の穀物研究所によって推奨された標準プロトコールを用いて評価された。 ・・・ [0097]種子における脂肪酸分析の結果は、系統MJ02-86-3のみならず、系統MJ02-313-1(M3)及び系統MJ02-357-3(M3)の高オレイン酸の表現型を確認した(表3)。データは、変異体系統MJ02-313-1におけるオレイン酸含量は、元のDH系統J96D-4830における?60%に対して、83.35%であることを示している。同様に、変異体系統MJ02-357-3におけるオレイン酸含量は、元のDH系統J96D-4830における?60%に対して、78.44%である。データはまた、両変異体系統におけるリノール酸及びリノレン酸が、コントロールと比較して、対応して減少していることも示している。 ・・・ ・・・」(実施例3、[0096]?[0097],表3) (6)「実施例4 変異体系統MJ02-313-1及びMJ02-357-3の遺伝子型決定 ・・・ [0101]系統MJ02-313-1及びMJ02-357-3における変異を同定するために、全長BjFAD2-a遺伝子が、それぞれの変異体系統からクローン化され、配列決定された。・・・配列を比較したところ、系統MJ02-313-1のBjFAD2-a遺伝子は、最初のATG開始コドンに準拠するORF内の位置281において、単一の塩基対GからAの置換を有していることを示した(図2及び図3)。変異は、系統J96D-4830におけるコドンGGC(グリシン)を、系統MJ02-313-1におけるGAC(アスパラギン酸)に変化させるものである。我々は、変異対立遺伝子MJ02-313-1/BjFAD2-a及び野生型対立遺伝子J96D-4830/BjFAD2-aを指定する。変化したアミノ酸残基は、最初のメチオニンに準拠する94番目の位置にあることから、G94D変異と名付ける(図5)。 [0102]同様に、配列を比較したところ、系統MJ02-357-3のBjFAD2-a遺伝子は、最初のATG開始コドンに準拠するORF内の位置647において、単一の塩基対“C”から“T”の置換を有していることを示した(図2及び図4)。変異は、系統J96D-4830におけるコドンCCC(プロリン)を、系統MJ02-357-3におけるCTC(ロイシン)に変化させるものである。我々は、変異対立遺伝子MJ02-357-3/BjFAD2-aを指定する。変化したアミノ酸残基は、最初のメチオニンに準拠する216番目の位置にあることから、P216L変異と名付ける(図5)。 ・・・ [0104]本発明の別の観点は、単一の植物がFAD2及びFAD3の変異の両方を組み合わせで有することを可能とする。例えば、MJ02-313-1又はMJ02-357-3を1つの親植物として用いて、FAD3遺伝子変異を有する別の親植物と遺伝的交配をして、続いて脂肪酸プロフィール又は遺伝的マーカーに基づいて子孫を選択することによって可能とする。この特定の実施例においては、FAD2及びFAD3二重変異体系統は、高オレイン酸及び低リノレン酸である。 ・・・」(実施例4、[0098]?[0106]) 上記摘記事項(5)の下線部分、特に、表3の18:1(cis-9)はオレイン酸、18:3(cis-9,12,15)はリノレン酸を意味することから、引用例1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という)。 「種子における、オレイン酸の含量が83.35重量%及びリノレン酸の含量が5.24重量%である、変異体カラシナ系統MJ02-313-1。」 2.対比 本願発明1と引用発明を対比すると、引用発明の「オレイン酸の含量が83.35重量%」は、本願発明1の「少なくとも70.0重量%オレイン酸」に相当し、引用発明の「変異体カラシナ系統MJ02-313-1」は、本願発明1の「カラシナ(Brassica juncea)植物」に相当する。 そして、引用発明の種子における脂肪酸が内因性のものであることは、上記摘記事項(3)の下線部分に「内因性食用油」とあるとおり、自明のことであるから、両者は、 「種子が、少なくとも70.0重量%オレイン酸、及びリノレン酸を含む内因性脂肪酸含有量を有する、カラシナ(Brassica juncea)植物。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 相違点: 本願発明1は、3.0重量%未満のリノレン酸を含むのに対して、引用発明は5.24重量%リノレン酸を含む点。 3.当審の判断 上記相違点について検討する。 上記摘記事項(1)の下線部分より、引用例1には、オレイン酸は健康への利益をもたらすものと認識されていること、一方、リノレン酸は3つの炭素-炭素二重結合を有し、酸化に対する脆弱性を示すことから、高オレイン酸及び低リノレン酸が、植物種子中の望ましい特徴であることが記載されており、これは本願発明1と同一の課題であると認められる。 そして、引用例1には、上記摘記事項(3)に示す手順により、化学的変異原を用いて突然変異カラシナ種子系統の集合を創出したこと、上記摘記事項(4)に示す手順により、その中から増加したオレイン酸変異の表現型をスクリーニングすることによって、高オレイン酸カラシナ系統であるMJ02-313-1を取得したことが記載されており、さらに上記摘記事項(4)及び(6)より、MJ02-313-1は、FAD2に点変異G94Dが生じていることも記載されている。 さらに、上記摘記事項(2)より、引用例1には、変異FAD2対立遺伝子を、変異FAD3対立遺伝子と組み合わせることができること、例えば、MJ02-313-1系統を、FAD3遺伝子変異を有するアブラナ属の親植物との交配において、FAD2変異を提供するのに用いることができることが記載されており、さらにこのような方法で作出された植物は、二重変異対立遺伝子(FAD2及びFAD3)を含み、単一変異体植物のいずれよりも優れた油の脂肪酸プロフィールを有することが記載されている。 また、上記摘記事項(6)より、引用例1には、単一の植物が、FAD2及びFAD3の両者を組み合わせた変異を有することを可能にし、その特定の実施態様においては、FAD2とFAD3の二重変異体系統は、高オレイン酸で低リノレン酸であることも記載されている。 してみれば、FAD2に変異を有する引用発明のカラシナ系統MJ02-313-1を用いて、植物種子中の望ましい特徴である高オレイン酸及び低リノレン酸を実現するために、FAD3遺伝子変異を組み合わせてFAD2とFAD3の二重変異体系統を作出することで、その種子が、単一変異体植物よりも優れた油の脂肪酸プロフィールである高オレイン酸及び低リノレン酸を含有するもの、すなわち、脂肪酸におけるリノレン酸の割合を5.24重量%より低い3.0重量%未満であるものであるカラシナ植物を得ることは、当業者であれば容易に想到し得るものである。 そして、本願発明1の効果について、本願の実施例4には、 「遺伝子を得たら/同定したら、(a)DASのカラシナ系統と、突然変異体fad2b遺伝子及び/又はfad3b遺伝子を有する第二のクロガラシ、アビシニアガラシ又はカラシナ植物と交配すること;(b)分子マーカーを使用して、前記fad2b遺伝子及び/又はfad3b遺伝子の遺伝子移入を追跡すること;(c)段階(a)の交配から種子を得ること;(d)種子のFAPを分析し、その後、種子選択物から稔性植物を成長させること;(e)段階(d)の植物の自家受粉から後代種子を得ること;(f)様々な環境にわたって後代の温室及び野外試験を行うこと;及び(g)<3%のリノレン酸値及び約68%から約80%の間のオレイン酸値を有する種子を前記後代の中で特定することによって、突然変異FAD遺伝子をカラシナ植物に移入する。」(【0119】) と記載されており、「fad2b」及び「fad3b」は、本願の発明の詳細な説明の【0016】においてそれぞれ「BJFAD2B」及び「BJFAD3B」と記載されているとおり、「BJ」すなわちカラシナ(Brassica juncea)由来のFADを意味していると解される。 そうすると、上記実施例4は、カラシナ系統と、突然変異体fad2b遺伝子及び/又はfad3b遺伝子を有するカラシナ植物とを交配し、遺伝子移入を追跡して、<3%のリノレン酸値及び約68%から約80%の間のオレイン酸値を有する種子を後代の中で特定することが記載されているといえ、これは、引用例1と同様のFAD2及び/又はFAD3の変異体カラシナ系統を作製し、所望の種子を得ることが記載されているに過ぎない。そして、本願の発明の詳細な説明の他の記載をみても、カラシナ植物から「少なくとも70.0重量%オレイン酸及び3.0重量%未満リノレン酸を含む内因性脂肪酸含有量を有する」種子を実際に得たことについては何も記載されていない以上、本願発明1に格別顕著な効果が奏せられたともいえない。 よって、本願発明1は、引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.小括 したがって、本願発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 第5 結び 以上のとおりであるから、本願の発明の詳細な説明の記載は、本願請求項16に係る発明について、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、他の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2016-11-17 |
結審通知日 | 2016-11-22 |
審決日 | 2016-12-06 |
出願番号 | 特願2011-534530(P2011-534530) |
審決分類 |
P
1
8・
536-
WZ
(A01H)
P 1 8・ 121- WZ (A01H) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 鳥居 敬司、原 大樹、坂崎 恵美子 |
特許庁審判長 |
田村 明照 |
特許庁審判官 |
三原 健治 大宅 郁治 |
発明の名称 | オメガ9品質カラシナ |
代理人 | 鈴木 康仁 |
代理人 | 小林 浩 |
代理人 | 大森 規雄 |
代理人 | 藤田 尚 |