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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A01K
管理番号 1327332
審判番号 無効2016-800053  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2016-05-09 
確定日 2017-04-17 
事件の表示 上記当事者間の特許第5249076号発明「魚釣用リール」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件は、請求人が、被請求人が特許権者である特許第5249076号(以下「本件特許」という。)の特許請求の範囲の請求項1ないし3に係る発明の特許を無効とすることを求める事件であって、手続の経緯は、以下のとおりである。

平成21年 2月16日 本件出願(特願2009-33227号)
平成22年 9月 2日 本件公開(特開2010-187566号)
平成25年 4月19日 設定登録(特許第5249076号)
平成26年 7月31日 別件無効審判請求(無効2014-800129号)
平成26年10月23日 訂正請求
平成27年 8月25日 別件審決(訂正認容、請求不成立)
平成28年 5月 9日 本件無効審判請求
平成28年 6月22日 知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10208号(別件審決に対する審決取消請求事件)の判決言渡(請求棄却)
平成28年 7月25日 被請求人より答弁書提出
平成28年 8月31日 請求人より弁駁書提出
平成28年10月11日 審理事項通知書(起案日)
平成28年11月15日 被請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年11月29日 請求人より口頭審理陳述要領書提出
平成28年12月13日 口頭審理

第2 本件発明
本件特許は、本件特許を対象とした無効2014-800129号(別件無効審判)の審決(乙第1号証)で、平成26年10月23日付け訂正請求書(乙第2号証の1)に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲(乙第2号証の2)のとおり訂正することが認められ、その審決取消請求事件(知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10208号)の請求棄却判決(乙第3号証)が確定したので、本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下「本件発明1」ないし「本件発明3」といい、それらをまとめて「本件発明」という。)は、上記訂正請求書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて、
リール本体に凹状に形成され、前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と、
前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構と、を備え、
前記一方向クラッチは、前記ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシールされることを特徴とする魚釣用リール。
【請求項2】
リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて、
リール本体に凹状に形成され、前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と、
前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構と、を備え、
前記磁気シール機構は、磁石と、該磁石を保持する保持部材と、該保持部材との間に隙間を生じさせ、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成する筒状の磁性体と、前記磁石と前記磁性体との間および前記保持部材と前記磁性体との間に保持される磁性流体とによって構成され、
前記保持部材は、前記収容凹部の前記開口部をカバーするカバー部材によって支持され、前記カバー部材と前記保持部材との間にシール部材が介挿されることを特徴とする魚釣用リール。
【請求項3】
筒状の前記磁性体は、非磁性の前記ピニオンに回り止め嵌合されることを特徴とする請求項2に記載の魚釣用リール。」

第3 請求人の主張
1 請求人が主張する無効理由の概要
請求人は、本件発明1ないし3の特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、その理由として、概ね以下のとおり主張し(審判請求書、平成28年8月31日付け弁駁書、平成28年11月29日付け口頭審理陳述要領書を参照。)、証拠方法として甲第1号証ないし甲第18号証を提出している。

(1)無効理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1ないし3は、その出願前に頒布された甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(2)無効理由2(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1ないし3は、その出願前に頒布された甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(3)無効理由3(甲第3号証を主引例とする進歩性欠如)
本件発明1ないし3は、その出願前に頒布された甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるので、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(証拠方法)
請求人が提出した甲号証は、以下のとおりである。
甲第1号証:特開2008-295371号公報
甲第2号証:特開2002-354974号公報
甲第3号証:特開2007-54016号公報
甲第4号証:特開平11-276042号公報
甲第5号証:特開2002-335834号公報
甲第6号証:特開2003-319742号公報
甲第7号証:特開2001-112383号公報
甲第8号証:特開2006-141412号公報
甲第9号証:パッキン技術便覧、昭和37年11月15日、産業図書株式会社発行
甲第10号証:潤滑 第28巻第6号、1983年6月、社団法人日本潤滑学会発行、431?435頁「磁性流体シール」
甲第11号証:潤滑 第30巻第8号、1985年8月、社団法人日本潤滑学会発行、619?623頁「磁性流体シール」
甲第12号証:機械の研究 第37巻第2号、1985年2月、株式会社養賢堂発行、253?259頁「磁性流体シールとその応用」
甲第13号証:油圧と空気圧 第18巻第5号、1987年8月、社団法人日本油空圧学会発行、401?406頁「磁性流体シールとその応用」
甲第14号証:実願昭63-18054号(実開平1-121769号)のマイクロフィルム
甲第15号証:審査基準抜粋(第II部 第2章 新規性進歩性)
甲第16号証:NOK株式会社編「これでわかるシール技術」、株式会社工業調査会、2005年6月15日初版第5刷発行
甲第17号証:武富荒・近角聡信著「磁性流体-基礎と応用」、昭和63年5月23日、日刊工業新聞社発行
甲第18号証:特開平6-193742号公報

2 無効理由1の具体的な主張
(1)甲1には、収容凹部の開口部とピニオンの間を弾性体によるシールでシールすることが記載されている。
甲4には、回転部品の回転性能が低下するのを抑える目的で、スピニングリールのハンドル軸と開口部の間を磁性流体シールでシールすることが記載されている。
この場合、甲1の弾性体によるシールにおいても、回転部品の回転性能が低下することが、弾性体によるシールの一般的な機能から明らかであるから、このような問題をなくすために、甲4の技術に倣って磁性流体シールで開口部をシールすることは、当業者が容易になし得る技術改良であり、その結果、本件発明と同じ効果が得られるので、本件発明は進歩性を有しない。
(弁駁書41頁16?24行)
(2)甲1の図2および図3を参照すると、ロータ60の前壁部66には、軸方向貫通孔65が形成されているから、ロータ60を装着した後に、軸方向貫通孔65を通して、磁性流体を注入することができる。
よって、「甲1発明のシール機構に代えて甲4記載のシール機構(磁気シール機構)に置換することに阻害要因がある。」という被請求人の主張は、誤りであり失当である。
(弁駁書42頁15?19行)
(3)本件発明1では収容凹部の開口を磁気シール機構でシールするのに対して、甲1発明ではリップ部を有する弾性体からなるシール部材で開口をシールする点で相違するが、その他の点では一致している。
弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあることは、周知の課題であり、回転性能の低下を抑えるため、魚釣用リールに磁気シールを用いることは、甲4に開示されている。
甲4には、リールボディの孔と、リールボディの孔に回転自在に支持されるハンドル軸との間に設けられる、1対の磁気保持リングと磁性流体とを備える磁気シールが開示されている。
甲9および甲13に記載されているように、回転部のシールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がない。特に、甲13に記載されているように、磁性流体シールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がない。
甲4の磁気シール124が適用されるハンドル軸とリール本体との間と、本件発明1のピニオンと収容凹部との間では、磁性流体シールの選択条件は同じである。
甲10、甲11、甲12、甲13、甲14および甲17に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、技術常識である。
甲2、甲7、甲8、甲9、甲10、甲12、甲13および甲18に記載されているように、回転部のシールに対向する回転軸の外周の中心と回転軸の回転中心とを一致させることは、周知の課題である。甲2、甲7および甲8に記載されているように、外周が円筒面の部材を回転軸に嵌合させて芯出しすることは周知の技術である。
甲4の磁気シールを、魚釣用リールの収容凹部の開口部とピニオンとの間のシールに転用できることは自明である(甲9、甲13、甲2)。甲1発明に甲4に記載された磁気シールを採用することに、それを妨げる要因はない。
甲1発明のシール部材90に代えて、甲4に記載の磁気シール124を適用することができる。その場合、磁気回路を形成するために駆動部68を磁性体で形成することは技術常識である。甲1のシール部材90に合わせて、甲4の磁気シール124の外形を変更し、ネジ92を通す穴を設けることは自明のことである。
本件発明1は、甲1発明に甲4に記載された発明および周知の技術を適用したものである。
(口頭審理陳述要領書23?24頁の「理由の要点」欄)
(4)甲1には、駆動部68の材質について記載されていない。駆動部68が、非磁性体でなければならない理由はないから、駆動部68を磁性体で形成することについて、それを妨げる要因はない。あるいは、甲2の中間部材49、甲3のスペーサ53、または、甲8の間隙部材43を磁性体で形成して、それらの構造を用いて磁気回路を形成することができる。
(口頭審理陳述要領書42頁下から3行?43頁2行)

3 無効理由2の具体的な主張
(1)甲2には、収容凹部の開口部とピニオンの間を弾性体によるシールでシールすることが記載されている。
甲4には、回転部品の回転性能が低下するのを抑える目的で、スピニングリールのハンドル軸と開口部の間を磁性流体シールでシールすることが記載されている。
この場合、甲2の弾性体によるシールにおいても、回転部品の回転性能が低下することが、弾性体によるシールの一般的な機能から明らかであるから、このような問題をなくすために甲4の技術に倣って磁性流体シールで開口部をシールすることは、当業者が容易になし得る技術改良であり、その結果、本件発明と同じ効果が得られるので、本件発明は進歩性を有しない。
(弁駁書53頁15?23行)
(2)甲2で、一方向クラッチを抜け止めしているのは、抜け止め部材33であって、シール部材40ではない。
甲2において、図2の中間部材49を、図6または図7の構成に適用することは、甲2に記載されているに等しい事項である。
中間部材49は、「ボス部8a側に対するシール部材40の接触圧(押圧力)を安定させるため」(【0021】)であるから、ロータ8を取り付ける前に、シール部材40の接触圧(押圧力)を安定させるために調整されると認められる。
シール部材40に代えて、磁性流体シールを採用する場合、中間部材49を磁性体にすることは、周知の技術である。
筒状の磁性体である中間部材49をピニオンギア13に嵌合すれば、ロータ8を装着しなくても磁気回路を形成できるから、ロータ8を装着する前に、磁性流体を注入することができる。
よって、「甲2のシール機構を甲4のシール機構に置き換えた場合、ロータ8の前壁部が存在するから、磁性流体をボス部の表面部分に形成される環状隙間に注入、維持することができない。」という被請求人の主張は、誤りであり失当である。
以上のとおり、「甲2発明のシール機構に代えて甲4記載のシール機構(磁気シール機構)に置換することに阻害要因がある。」という被請求人の主張は、根拠がなく失当である。
(弁駁書54頁10行?55頁8行)
(3)本件発明1では収容凹部の開口を磁気シール機構でシールするのに対して、甲2発明では弾性体からなるシール部材で開口をシールする点で相違するが、その他の点では一致している。
弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあることは、周知の課題であり、回転性能の低下を抑えるため、魚釣用リールに磁気シールを用いることは、甲4に開示されている。
甲4には、リールボディの孔と、リールボディの孔に回転自在に支持されるハンドル軸との間に設けられる、1対の磁気保持リングと磁性流体とを備える磁気シールが開示されている。
甲9および甲13に記載されているように、回転部のシールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がない。特に、甲13に記載されているように、磁性流体シールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がない。
甲4の磁気シール124が適用されるハンドル軸とリール本体との間と、本件発明1のピニオンと収容凹部との間では、磁性流体シールの選択条件は同じである。
甲10、甲11、甲12、甲13、甲14および甲17に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、技術常識である。
甲2、甲7、甲8、甲9、甲10、甲12、甲13および甲18に記載されているように、回転部のシールに対向する回転軸の外周の中心と回転軸の回転中心とを一致させることは、周知の課題である。甲2、甲7および甲8に記載されているように、外周が円筒面の部材を回転軸に嵌合させて芯出しすることは周知の技術である。
甲4の磁気シールを、魚釣用リールの収容凹部の開口部とピニオンとの間のシールに転用できることは自明である(甲9、甲13、甲2)。甲2発明に甲4に記載された磁気シールを採用することに、それを妨げる要因はない。
甲2発明のシール部材40または60に代えて、甲4に記載の磁気シール124を適用することができる。甲2の図6または図7の構成で、甲2の中間部材49を使用することは、甲2に記載された発明である。磁気回路を形成するために中間部材49を磁性体で形成することは技術常識である。
本件発明1は、甲2発明に甲4に記載された発明および周知の技術を適用したものである。
(口頭審理陳述要領書30?31頁の「理由の要点」欄)

4 無効理由3の具体的な主張
(1)甲3には、収容凹部の開口部とピニオンの間を弾性体によるシールでシールすることが記載されている。
甲4には、回転部品の回転性能が低下するのを抑える目的で、スピニングリールのハンドル軸と開口部の間を磁性流体シールでシールすることが記載されている。
この場合、甲3の弾性体によるシールにおいても、回転部品の回転性能が低下することが、弾性体によるシールの一般的な機能から明らかであるから、このような問題をなくすために甲4の技術に倣って磁性流体シールで開口部をシールすることは、当業者が容易になし得る技術改良であり、その結果、本件発明と同じ効果が得られるので、本件発明は進歩性を有しない。
(弁駁書57頁下から9行?末行)
(2)甲3で逆転防止機構50を保持して抜け止めしているのは、連結部材13である。シール部材52は、連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されているにすぎない。磁気シールを固定する方法は単なる設計事項である。
甲4の磁気シール124は、「実施の形態1の螺軸26に装着されたものと同様」(【0052】)であって、螺軸26に装着される磁気シール53は、ボス部54bと軸受の外輪とに、部材を介して挟持されている。
したがって、甲3のシール部材52に代えて、甲4の磁気シールを採用することができる。
よって、被請求人の「甲3に、連結部材13に代えて、甲4に記載されたシール機構を適用することはできない。」という主張は、そもそも的外れで失当である。
(弁駁書58頁下から9行?59頁5行)
(3)本件発明1では収容凹部の開口を磁気シール機構でシールするのに対して、甲3発明では先細りのリップ部を有する弾性体からなるシール部材で開口をシールする点で相違するが、その他の点では一致している。
弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあることは、周知の課題であり、回転性能の低下を抑えるため、魚釣用リールに磁気シールを用いることは、甲4に開示されている。
甲4には、リールボディの孔と、リールボディの孔に回転自在に支持されるハンドル軸との間に設けられる、1対の磁気保持リングと磁性流体とを備える磁気シールが開示されている。
甲9および甲13に記載されているように、回転部のシールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がない。特に、甲13に記載されているように、磁性流体シールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がない。
甲4の磁気シール124が適用されるハンドル軸とリール本体との間と、本件発明1のピニオンと収容凹部との間では、磁性流体シールの選択条件は同じである。
甲10、甲11、甲12、甲13、甲14および甲17に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、技術常識である。
甲2、甲7、甲8、甲9、甲10、甲12、甲13および甲18に記載されているように、回転部のシールに対向する回転軸の外周の中心と回転軸の回転中心とを一致させることは、周知の課題である。甲2、甲7および甲8に記載されているように、外周が円筒面の部材を回転軸に嵌合させて芯出しすることは周知の技術である。
甲4の磁気シールを、魚釣用リールの収容凹部の開口部とピニオンとの間のシールに転用できることは自明である(甲9、甲13、甲2)。甲3発明に甲4に記載された磁気シールを採用することに、それを妨げる要因はない。
甲3発明のシール部材52に代えて、甲4に記載の磁気シール124を適用することができる。磁気回路を形成するためにスペーサ53を磁性体で形成することは技術常識である。甲3のシール部材52に合わせて、磁気シール124の外形を変形することは、当然のことである。
本件発明1は、甲3発明に甲第4号証に記載された発明および周知の技術を適用したものである。
(口頭審理陳述要領書37?38頁の「理由の要点」欄)

第4 被請求人の主張
被請求人は、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張に対して、概ね以下のとおり反論している(平成28年7月25日付け答弁書、平成28年11月15日付け口頭審理陳述要領書を参照。)。また、証拠方法として乙第1号証ないし乙第4号証を提出している。

(証拠方法)
乙第1号証:無効2014-800129号(一次無効審判)審決
乙第2号証の1:平成26年10月23日付け訂正請求書
乙第2号証の2:上記訂正請求書(乙第2号証の2)に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲
乙第3号証:知的財産高等裁判所平成27年(行ケ)第10208号事件の判決
乙第4号証:実願平4-67966号(実開平6-24471号)のCD-ROM

1 無効理由1に対して
(1)甲4には、一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水という本件発明の課題を認識するに足りる記載はないから、甲4から、磁気シール機構を一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水に適用する動機付けは認められない。
また、甲1には、弾性体の部材によるシールについて、防水性能が安定しない、低下する、回転部品の回転性が低下するという本件発明の課題を認識するに足りる記載はないから、甲1から、シール部材90によるシール機構を他のシール機構に変更する動機付けはない。
さらに、甲1発明は、ロータの開口端を閉じるフランジ部が存在しないために生じた課題を解決しているのに対して、甲4に記載の魚釣用スピニングリールは、甲4の図9に示されているとおり、甲1で言及する先行技術と同様、そのロータ103の開口端がリール本体102により閉じられた構造であって、そもそも前提とされるリールの構造が異なっている。
以上によれば、甲1発明に、甲4記載のシール機構を採用する動機付けはない。
(答弁書18頁3行?19頁18行)
(2)仮に、甲1のシール部材90を、甲4記載のシール機構に換えた場合、シール部材90の部位に磁気シール機構を配設しなければならないが、磁性流体を磁気回路が形成された環状隙間内に充填することはできない。すなわち、甲1の図7(C)の状態では、仮にシール部材90を甲4記載のシール機構としたとしても磁気回路ができていないことから磁性流体を保持することはできない。このため、リール本体にロータを組み込んだ後に、磁性流体を注入しなければならない。ところが、ロータの前壁部66が存在することから、磁性流体を筒状の駆動部68の表面部分に形成される環状隙間に注入、維持することはできない。
したがって、甲1発明のシール機構に代えて甲4記載のシール機構(磁気シール機構)に置換することに阻害要因がある。
(答弁書20頁2?11行)
(3)以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲1、甲4および周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1ないし3の特許は、無効とすべきものではない。
(答弁書26頁10行?27頁9行)
(4)甲1には、ピニオンの材料が、非磁性体又は磁化されにくい磁性体であることについての記載はない。そのため、甲1発明は、「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」という構成を採用する前提を欠くため、甲1発明に当該構成を採用することは当業者が想到することにはならない。
(口頭審理陳述要領書7頁17?21行)

2 無効理由2に対して
(1)甲4には、一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水という本件発明の課題を認識するに足りる記載はないから、甲4から、磁気シール機構を一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水に適用する動機付けは認められない。
また、甲2には、弾性体の部材によるシールについて、防水性能が安定しない、低下する、回転部品の回転性が低下するという本件発明の課題を認識するに足りる記載はないから、甲2から、シール部材40または60によるシール機構を他のシール機構に変更する動機付けはない。
以上によれば、甲2発明に甲4に記載された事項を適用することに動機付けはない。
(答弁書35頁下から8行?36頁20行)
(2)甲2発明のシール部材40(またはシール部材60)は、抜け止め部材33(または抜け止め部材33A)に配設されているところ、この抜け止め部材33(または抜け止め部材33A)は、第1の軸受11Aまたは一方向クラッチ30’を側方から一体で均一に押圧する単一の部材によって当該軸受や一方向クラッチの抜け止め支持する機能を有している。
これに対して、甲4に記載されたシール機構は、釣り用リールのシール機構であって、甲4において、当該シール機構が、ワンウェイクラッチ全体又はその構成要件の軸方向前方への移動を規制する機能を有するという記載はない。
したがって、甲2発明に、シール部材40(またはシール部材60)を備えた抜け止め部材33(または抜け止め部材33A)に代えて、軸受や一方向クラッチの抜け止め支持する機能を持たない甲4に記載されたシール機構を適用することはできない。
また、甲2発明のシール機構を、甲4記載のシール機構に換えた場合、シール部材40(またはシール部材60)の部位に磁気シール機構を配設しなければならないが、磁性流体を磁気回路が形成された環状隙間内に充填することはできない。すなわち、シール部材40(またはシール部材60)は、直接にロータ8のボス部8aに接触することによって、水が侵入するのを防止しているところ、このようなシール部材を磁性流体シールシールに置換した場合、ロータ8の前壁部が存在することから、磁性流体を筒状のボス部8aの表面部分に形成される環状隙間に注入、維持することはできない。
したがって、甲2発明のシール機構に代えて甲4記載のシール機構(磁気シール機構)に置換することに阻害要因がある。
(答弁書37頁8行?38頁4行)
(3)以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲2、甲4および周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1ないし3の特許は、無効とすべきものではない。
(答弁書38頁19行?39頁19行)
(4)甲2において、筒状の部材である中間部材49はシール部材40の接触圧(押圧力)を安定させるものである(段落【0021】)。仮に、甲2のシール部材40に代えて、甲4の磁気シールを採用した場合には、非接触シールに変更されるため、接触圧(押圧力)を安定させる必要がなくなり、中間部材49は不要となる。したがって、甲2のシール部材40に代えて甲4の磁気シールを採用した場合には、中間部材49はそもそも存在しないのであるから、これを磁性体にすることもあり得ない。したがって、甲2発明に甲4記載の磁気シールを採用しても、筒状の磁性体を採用することにはならないし、ましてやその動機付けもない。
(口頭審理陳述要領書10頁下から8行?11頁3行)

3 無効理由3に対して
(1)甲4には、一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水という本件発明の課題を認識するに足りる記載はないから、甲4から、磁気シール機構を一方向クラッチを含む収容凹部内に収容される駆動要素の防水に適用する動機付けは認められない。
また、甲3には、シール部材について、防水性能が安定しない、低下する、回転部品の回転性が低下するという本件発明の課題を認識するに足りる記載はないから、甲3から、シール部材52によるシール機構を他のシール機構に変更する動機付けはない。
以上によれば、甲3発明に甲4に記載された事項を適用することに動機付けはない。
(答弁書44頁8行?45頁7行)
(2)甲3発明のシール部材52は、連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されて筒部22内に保持されているところ、連結部材13は、蓋体部11を筐体部10に固定する機能に加えてシール部材52及び逆転防止機構50を保持して抜け止めする機能も有している。
これに対して、甲4に記載されたシール機構は、釣り用リールのシール機構であって、甲4において、当該シール機構が、ワンウェイクラッチ全体又はその構成要件の軸方向前方への移動を規制する機能を有するという記載はない。
したがって、甲3発明に、シール部材52を備えた連結部材13に代えて、軸受や一方向クラッチの抜け止め支持する機能を持たない甲4に記載されたシール機構を適用することはできない。
(答弁書46頁1?13行)
(3)以上のとおり、本件発明1ないし3は、甲3、甲4および周知の技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1ないし3の特許は、無効とすべきものではない。
(答弁書47頁11行?48頁11行)
甲3発明のシール部材52は、連結部材13と一体となって、逆転防止機構50を保持して抜け止めする機能を有していると言える(段落【0039】、図5)。
また、仮に甲3発明のシール部材52のみを、甲4の磁気シールに代えた場合、シール部材52は、甲3の段落【0039】に記載のとおり、連結部材13の前壁部13bとワンウェイクラッチ51の外輪51aとに挟持されることから、これに代えた磁気シールはワンウェイクラッチ51に当接することとなる。しかし、そのような構成であると、ワンウェイクラッチ51に注入されている潤滑油が磁性流体に混入してしまい、磁性流体本来の性能が低下して保持力が弱くなって、シール機能が発揮されなくなる。
したがって、甲3のシール部材52に代えて、甲4の磁気シールを採用することはできない。
(口頭審理陳述要領書13頁6?19行)

第5 証拠について
1 甲第1号証
(1)甲第1号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証には、次の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同様。)。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、リール本体に設けたハンドルの回転操作で釣糸案内部を有するロータを回転駆動し、スプールに釣糸を巻回する魚釣用スピニングリールに関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような魚釣用スピニングリールでは、リール本体が剛性構造のリールボディの側部開口をボディカバーで閉塞する構造を有しており、これらのリールボディとボディカバーとの双方に形成したフランジ部により、ロータの凹部の後方開口端を閉じ、ロータの凹部内に配置された軸受等の種々の部材に対する防水、防塵を行っている。」
「【0006】
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、リール本体のフランジ部を必要とすることなく、リール本体の前部の防水および防塵を図り、軽量・小型化が可能な魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明の魚釣用スピニングリールは、リールボディの側部開口を蓋体で閉塞したリール本体と、このリール本体で回転自在に支えられる釣糸巻回用ハンドルと、このリール本体の前部に回転自在に支えられるロータとを備え、前記ハンドルの回転をリール本体内に収容した駆動機構を介してロータに伝達し、このロータに設けた釣糸案内部を介して、リール本体の前方に位置するスプールに釣糸を巻回する魚釣用スピニングリールであって、前記リール本体は、前記ハンドルを支えるハンドル装着部の前方に突出する前部に、前記駆動機構で駆動される駆動軸を回転自在に支える支持部を配置し、前記ロータは、前記前部を受入れる凹部を後方に向けて開口させ、この凹部内に、前記駆動軸に一体的に連結される駆動部を配置し、この駆動部の周囲と前記前部との間に配置した弾性材からなるシール部材により、リール本体の前部内を密封することを特徴とする。」
エ 「【発明の効果】
【0008】
このような魚釣用スピニングリールによると、ロータの後方に開口する凹部内に配置された駆動部が、リール本体内の駆動機構で駆動される駆動軸に一体的に連結され、この駆動部の周囲と、駆動軸を回転自在に支えるリール本体の前部との間に配置されたシール部材が、リール本体の前部内を密封することにより、異物の侵入する隙間がなくなり、リール本体の前部の防水および防塵が確実に図られる。これにより、このロータの凹部の後方開口端を閉塞するフランジ部をリール本体に設ける必要がなく、魚釣用スピニングリールの軽量・小型化が可能となる。」
オ 「【発明を実施するための最良の形態】」
「【0010】
図1および図2に示すように、魚釣用スピニングリール10は、剛性構造のリールボディ12aの側部開口14aを蓋体12bで閉塞したリール本体12を備え、この蓋体12bの固定ネジ16を取外すことで、内部空間Sを外部に露出させることができる。また、リールボディ12aの後端側には、切欠き14bを形成し、この切欠き14bを後部キャップ18で閉じてあり、この後部キャップ18の固定ネジ20を取外すことにより、後端側でも内部空間Sを開閉することができる。このリール本体12は、リールボディ12aから上方に延出する脚部12cの端部に形成された竿取付部12dを介して図示しない釣竿に取り付けられる。
【0011】
リール本体12内には、通常のスピニングリールと同様に、後述するロータを駆動するための中空駆動軸22を回転駆動する駆動機構24およびこの中空駆動軸22内に挿通されたスプール軸26をこの軸方向に沿って一定のストロークで前後方向に往復動する公知のオシレーティング機構28が収容されており、このオシレーティング機構28の摺動子28aが止めネジ30でスプール軸26の後端部に固定されている。これらの駆動機構24およびオシレーティング機構28は、一端にハンドル32が連結されるハンドル軸34により、互いに同期して作動される。」
「【0016】
リール本体12の内部空間S内では、ハンドル軸34と一体に形成された駆動歯車34aと共に駆動機構24を形成するピニオン22aが、ハンドル軸34と直交する方向に延設された駆動軸22の外周部に形成されており、このピニオン22aは駆動歯車34aと常時噛合した状態に配置されている。このピニオン22aを形成した中空駆動軸22は、ハンドル軸34の軸受36a,36bを配置したハンドル装着部から前方に突出する前部内で前方に延び、ハンドル軸34に近接した後端側を軸受46aを介してリール本体12で支えられ、前方部位を、リール本体12の前部内に配置した軸受46bを介して支えられ、前端側がこの前部から突出し、リール本体12に対して自由に回転することができる。この中空駆動軸22は、軸方向に貫通する内孔内に、先端部にスプール50を装着するスプール軸26を前後方向に摺動自在に案内する。」
「【0018】
本実施形態では、ストッパ48aは断面非円形部26aに対応した挿通孔を有する板状に形成してあり、この断面非円形部26aの後端部に回り止めされた状態で係止され、後方すなわちリール本体12側への移動を阻止されている。そして、スプール50は、円筒状あるいはテーパ状の周面を有する胴部52の前後に、径方向外方に突出するフランジ部52a,52bを形成し、この胴部52の前端側を閉じる前壁部54の中央部から、後方の開口側に向けて、短軸部56が突出する。」
「【0022】
スプール50に釣糸を巻回するロータ60は、後方に向けて凹部62を開口させた周壁部64有し、前壁部66に設けた筒状の駆動部68を介して中空駆動軸22に連結される。・・・」
「【0029】
図2に示すように、このリール本体12の前部80内では、中空駆動軸22のピニオン22aよりも前方部位が、断面非円形の外面形状を有してロータ60の駆動部68を回り止め嵌合する作動部22bとして形成してあり、この作動部22bの後端部に、前側軸受46bであるボール軸受が装着される。
【0030】
更に、図5および図6に示すように、この筒状の前部80内では、軸受46bの前方にスペーサ82を介して一方向クラッチ84を装着し、押え板86とリテーナ88との間に介挿したシール部材90をリールボディ12aの先端面に固定する止めネジ92により、前方に抜出るのを防止している。・・・」
「【0032】
図5および図6に示すように、シール部材90は、環状のリテーナ88で押圧される環状の基部90aの内周側から前方かつ半径方向内方に向けて傾斜した状態に延びるリップ部90bを有する環状の板状に形成されている。このリップ部90bは、先端すなわち内周側に向けて肉厚が次第に減少し、内周縁部は丸められている。これにより、リップ部90bがどの位置にあっても、相手方のロータ60の駆動部68の外周面に損傷を与えることなくわずかに内周が拡開変形して弾性的にシール係合する。これにより、前部80の内部が密封される。」
「【0035】
組立てる場合は、図7の(C)に示すリール本体12の前部80に設けた支持部80aを、(B)に示すロータ60の後方に開口する凹部62内に挿入する。そして、支持部80aから突出する中空駆動軸22の作動部22bに、ロータ60の凹部62内に突出する駆動部68を装着し、この駆動部68の外周にシール部材90のリップ部90bをシール係合させ、締付けナット94(図2参照)を作動部22bの先端に形成したネジ部(図示せず)に螺合する。この締付けナット94を締め込むことにより、駆動部68の後端面でスペーサ82の先端面を押圧させ、ロータ60と中空駆動軸22とを一体的に結合する。ロータ60を中空駆動軸22の作動部22bに固定した後、ガードリング76を前壁部66の外周部に螺合等により装着する。」
「【0037】
この魚釣用スピニングリール10によると、ロータ60の後方に開口する凹部62内に配置された駆動部68が、リール本体12内の駆動機構24で駆動される中空駆動軸22に一体的に連結され、この駆動部68の周囲と、中空駆動軸22を回転自在に支える支持部を収容した前部80の支持部80aとの間に配置されたシール部材90が、リール本体12の前部80内を密封することにより、異物の侵入する隙間がなくなり、リール本体12の前部80の防水および防塵が確実に図られる。これにより、このロータ60の凹部62の後方開口端を閉塞するための従来のフランジ部をリール本体12に設ける必要がなく、リール本体12の前部80をフランジレス構造に形成し、魚釣用スピニングリールの軽量・小型化が可能となる。」
「【0039】
更に、ロータ60の凹部62内に浸入した海水、砂、塵埃等の異物は、外部から例えばシャワー等で洗浄し、径方向開口部63,71および貫通孔55,65を介して容易に洗い流すことができると共に、通気性も良くなり、内部に水分、異物等の滞留もなくなり、腐食の誘発や機能部材の作動不良を防止できる。」

(2)甲第1号証に記載された発明の認定
甲第1号証には、上記(1)アないしオの事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「リール本体12と、このリール本体12で回転自在に支えられる釣糸巻回用ハンドル32と、このリール本体12の前部に回転自在に支えられるロータ60とを備え、前記ハンドル32の回転をリール本体12内に収容した駆動機構24を介してロータ60に伝達し、このロータ60に設けた釣糸案内部を介して、リール本体12の前方に位置するスプール50に釣糸を巻回する魚釣用スピニングリールであって、
リール本体12内には、前端がリール本体12の前部80から突出する中空駆動軸22と、中空駆動軸22を回転駆動する駆動機構24と、中空駆動軸22内に挿通されたスプール軸26が収容され、
駆動機構24は、一端にハンドル32が連結されるハンドル軸34と一体に形成された駆動歯車34aと、中空駆動軸22の外周部に形成されたピニオン22aとからなり、ピニオン22aは駆動歯車34aと常時噛合した状態に配置され、
スプール50はスプール軸26に装着され、
ロータ60は、筒状の駆動部68を有し、その駆動部68を介して中空駆動軸22に一体的に連結されており、
リール本体12の筒状の前部80内には一方向クラッチ84が装着されており、
リール本体12の筒状の前部80の先端面には、弾性材からなるシール部材90が止めネジ92により固定されており、そのシール部材90がロータ60の駆動部68の外周面に弾性的にシール係合することにより、リール本体12の前部80の内部が密封されている、
魚釣用スピニングリール。」

2 甲第2号証
(1)甲第2号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、魚釣用スピニングリールに係わり、特に、リール本体に回転自在に支持される駆動筒軸(ピニオンギア)の支持構造の改良に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】」
「【0008】
本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、駆動筒軸を支持する軸受を抜け止めすることができるとともに、その抜け止め部位を通じた水等の侵入を防止できる魚釣用スピニングリールを提供することにある。」
ウ 「【0009】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、請求項1に記載された発明は、ハンドルと連動して回転し且つスプールを有するスプール軸が内部に嵌挿される駆動筒軸と、この駆動筒軸をリール本体に回転自在に支持する軸受と、前記駆動筒軸に取り付けられ且つ前記スプールに釣糸を巻回する釣糸案内部を有するロータとを備える魚釣用スピニングリールにおいて、前記駆動筒軸が貫通する軸孔を有するとともに、前記リール本体に取り付けられることにより、前記ロータの逆回転を防止する一方向クラッチまたは前記軸受の前記リール本体からの抜けを防止する抜け止め部材と、 前記抜け止め部材の前記軸孔と、前記駆動筒軸または駆動筒軸と一体回転する部材との間に少なくとも設けられ、前記軸受または前記一方向クラッチが配設された前記リール本体の内部に水が侵入することを防止するシール手段とを具備することを特徴とする。」
エ 「【発明の実施の形態】」
「【0013】
図1および図2は本発明の第1の実施形態を示している。図1に示されるように、本実施形態の魚釣用スピニングリール1は、リール本体1aと、リール本体1aから延出する脚部1bと、脚部1bの端部に形成され且つ図示しない釣竿に取り付けられる竿取付部(図示せず)とを有している。リール本体1a内には、ハンドル5が固定されるハンドル軸2が回転可能に支持されている。ハンドル軸2にはドライブギア3が固定されており、このドライブギア3には、ハンドル軸2に対して直交する方向に延び且つリール本体1aに軸受11A,11Bを介して回転可能に支持された駆動筒軸としてのピニオンギア13が噛合している。このピニオンギア13の先端部には、ロータナット32を介して、ベール6および釣糸案内装置(図示せず)を備えたロータ8が一体的に取り付けられている。
【0014】
ハンドル軸2と直交する方向に延在するスプール軸9がピニオンギア13を貫通(嵌挿)している。この場合、スプール軸9は、ピニオンギア13と同心的に配されており、ハンドル軸2と直交する方向に沿って前後動できる。また、スプール軸9の先端部には釣糸が巻回されるスプール10が取り付けられている。
【0015】
また、ドライブギア3にはピニオンギア13を介して図示しないオシレーティング機構が係合している。このオシレーティング機構は、ピニオンギア13と噛み合って回転するウォームシャフト(トラバースカム軸)と、このウォームシャフトの溝と噛み合い且つスプール軸9に対してその軸方向に移動不能に取り付けられたスライダとからなり、ハンドル軸2がハンドル5の回転操作によって回転されると、スプール軸9を軸方向に沿って往復駆動(前後動)する。
【0016】
このような構成では、ハンドル5を回転操作してハンドル軸2を回転させると、前記オシレーティング機構を介してスプール軸9に取り付けられたスプール10が前後に往復動するとともに、ドライブギア3およびピニオンギア13を介してロータ8が回転駆動する。したがって、スプール10には、前記釣糸案内装置を介して、釣糸が均等に巻回される。
【0017】
また、図2にも拡大して示されるように、リール本体1aの前部には、ピニオンギア13を回転可能に支持する第1の軸受11Aとロータ8の逆回転を防止する逆転防止機構30とを内部に収納保持する筒状支持部31が形成されている。筒状支持部31はカラー部材47を介して第1の軸受11Aを支持している。また、逆転防止機構30は、ピニオンギア13に対して回り止め嵌合されてピニオンギア13と一体で回転する内輪20と、内輪20の外側に配され且つ複数の転動部材27aを保持する環状の保持体27と、保持体27の外側に配され且つリール本体1aの筒状支持部31に取付け固定された外輪25とを有する一方向クラッチとして構成されている。なお、このような逆転防止機構(一方向クラッチ)は公知であるため、これ以上詳しく述べない。
【0018】
また、リール本体1aの筒状支持部31には、第1の軸受11Aを抜け止め支持するカバー状(皿状)の第1の抜け止め部材33が螺着されている。具体的には、抜け止め部材33は、その内周面に形成された雌ネジ33aが筒状支持部31の外周面に形成された雄ネジ31aに螺合して同心的に取り付けられることにより、筒状支持部31の開口を閉じるとともに、第1の軸受11Aを側方から均一に押圧して第1の軸受11Aの抜けおよび傾き・ガタ付き等を防止する(これによって、ピニオンギア13のガタ付き等も防止される)。また、第1の抜け止め部材33の中央部には、ピニオンギア13が貫通するとともにピニオンギア13に一体で取り付けられるロータ8のボス部8aが挿入される軸孔33bが形成されている。」
「【0021】
また、第2のシール手段として、ロータ8のボス部8aと第1の抜け止め部材33との間には、第1の抜け止め部材33の軸孔33bを通じた水の浸入を防止するシール部材40が配設されている。シール部材40は、弾性材料から成り、第1の抜け止め部材33側に固定されるとともに、ロータ8のボス部8a側に常時接触することにより、軸孔33bを通じた水の浸入を防止する。特に本実施形態では、ロータ8のボス部8a側に対するシール部材40の接触圧(押圧力)を安定させるため、中間部材49を介してシール部材40がロータ8のボス部8a側に接触されている。具体的には、ロータ8のボス部8aと中間部材49との間にOリング41が介挿されるとともに、シール部材40は、中間部材49に常時接触される弾性変形可能な接触リップ部40aと、抜け止め部材33の軸孔33bの周面に形成された取付孔33cに嵌め込んで取り付けられる(本実施例では、取付孔33cを形成する抜け止め部材33の部位と第1の軸受11Aとの間で挟持される)固定部40bとを有している。」
「【0024】
図3は本発明の第2の実施形態を示している。なお、本実施形態において、第1の実施形態と共通する構成部分については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。」
「【0027】
また、本実施形態において、シール部材40の接触リップ部40aは、中間部材49を介すことなく、直接にロータ8のボス部8aに接触している。」
「【0034】
図5は本発明の第4の実施形態を示している。なお、本実施形態は第3の実施形態の変形例であるため、第3の実施形態と共通する構成部分については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0035】
図示のように、本実施形態は、シール手段を備えている点が第3の実施形態と異なる。すなわち、第1のシール手段として、抜け止め部材33Aと筒状支持部31との間には、ネジ31b,33Aaの内側に位置して、Oリング42が介挿されている。このOリング42は、例えば毛細管現象によりネジ31b,33Aaを通じて吸い上げられる水が筒状支持部31の内部に侵入することを防止する。また、第2のシール手段として、ロータ8のボス部8aと第1の抜け止め部材33Aとの間には、第1の抜け止め部材33Aの軸孔33Abを通じた水の浸入を防止するシール部材60が配設されている。シール部材60は、弾性材料から成り、ボス部8aに常時接触される弾性変形可能な接触リップ部60aと、抜け止め部材33Aの軸孔33Abの周面に形成された取付孔33Acに嵌め込んで取り付けられる(本実施例では、取付孔33Acを形成する抜け止め部材33Aの部位と第1の軸受11Aとの間で挟持される)固定部60bとを有している。なお、それ以外の構成は第3の実施形態と同一である。したがって、第3の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、シール手段を備えている分、第3の実施形態よりも防水性能が向上し、リール本体1a内に水が侵入するのをより効果的に防止できる。
【0036】
図6は本発明の第5の実施形態を示している。なお、本実施形態は、第2の実施形態の変形例であるため、第2の実施形態と共通する構成部分については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0037】
図示のように、本実施形態では、第2の実施例から第1の軸受11Aが排除されており、したがって、第1の抜け止め部材33は、小型の一方向クラッチ30’の抜けを防止している。それ以外の構成は第2の実施形態と同一であり、したがって、第2の実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0038】
図7は本発明の第6の実施形態を示している。なお、本実施形態は、第4の実施形態の変形例であるため、第4の実施形態と共通する構成部分については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0039】
図示のように、本実施形態では、第4の実施例から第1の軸受11Aが排除されており、したがって、第1の抜け止め部材33Aは、小型の一方向クラッチ30’の抜けを防止している。また、本実施形態においては、第2の実施形態と同様の形態で、第2の軸受11Bの抜けを防止する第2の抜け止め部材50がリール本体1aに取り付けられている。それ以外の構成は第4の実施形態と同一であり、したがって、第4の実施形態と同様の作用効果を得ることができるとともに、第2の抜け止め部材50を設けたことによりリール本体1aからの第2の軸受11Bの抜けも防止することができる。」
オ 「【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の魚釣用スピニングリールによれば、駆動筒軸を支持する軸受を抜け止めすることができるとともに、その抜け止め部位を通じた水等の侵入を防止できる。」

(2)甲第2号証に記載された発明の認定
甲第2号証には、上記(1)アないしオの事項及び図示内容(特に第5の実施形態、図6)からみて、次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「リール本体1a内には、ハンドル5が固定されるハンドル軸2が回転可能に支持されるとともに、駆動筒軸としてのピニオンギア13が回転可能に支持され、前記ハンドル軸2にはドライブギア3が固定され、このドライブギア3にピニオンギア13が噛合して、ピニオンギア13はハンドル5と連動し、ピニオンギア13の先端部にはロータ8が一体的に取り付けられ、ピニオンギア13にはハンドル軸2と直交する方向に延在するスプール軸9が貫通(嵌挿)され、このスプール軸9の先端部には釣糸が巻回されるスプール10が取り付けられ、ハンドル5を回転操作することによりスプール10に釣糸が巻回される、魚釣用スピニングリールにおいて、
リール本体1aの前部に形成された筒状支持部31の内部には、ピニオンギア13が回転可能に支持されるとともに、ロータ8の逆回転を防止する一方向クラッチ30’が収納保持され、
前記筒状支持部31には、一方向クラッチ30’を抜け止め支持するカバー状(皿状)の第1の抜け止め部材33が螺着され、
ロータ8のボス部8aと第1の抜け止め部材33との間には、第1の抜け止め部材33の軸孔33bを通じた水の浸入を防止するシール部材40が配設されており、シール部材40は、弾性材料から成り、第1の抜け止め部材33側に固定されるとともに、ロータ8のボス部8a側に常時接触することにより、前記一方向クラッチ30’が配設された前記リール本体1aの内部に水が侵入することを防止する、
魚釣用スピニングリール。」

3 甲第3号証
(1)甲第3号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は、リール本体、特に、釣り竿に装着可能であり、ハンドルの回転に連動して回転するロータにより釣り糸をスプールに巻き取るスピニングリールのリール本体に関する。」
イ 「【発明が解決しようとする課題】」
「【0004】
本発明の課題は、スピニングリールのリール本体において、組立効率の向上を図りつつ蓋体部を装着するためのねじ部材の露出を可及的に少なくすることにある。」
ウ 「【課題を解決するための手段】
【0005】
発明1に係るスピニングリールのリール本体は、釣り竿に装着可能であり、ハンドルの回転に連動して回転するロータにより釣り糸をスプールに巻き取るスピニングリールのリール本体であって、筐体部と、蓋体部と、取付脚部と、連結部材とを備えている。筐体部は、ロータを回転駆動するロータ駆動機構及びスプールを前後移動させるオシレーティング機構が収納され側部が開口した機構収納空間が形成された本体部、本体部の前部及び後部の少なくともいずれかに形成された筒部、及び筒部の前部外周面に形成された第1抜け止め部を有している。蓋体部は、第1抜け止め部の後方で筐体部に係合する係合部、及び係合部と一体形成され機構収納空間を覆うカバー部を有している。取付脚部は、筐体部及び蓋体部のいずれか一方から延び先端に釣り竿を装着可能なものである。連結部材は、第1抜け止め部に係合して筒部に抜け止め固定される第2抜け止め部、及び係合部を外周側から筒部に向けて押圧する押圧部を有し、蓋体部を筐体部に固定するための部材である。
【0006】
このスピニングリールのリール本体では、蓋体部を筐体部に固定する際には、蓋体部の係合部を筐体部に係合させた状態で筒部の第1抜け止め部を連結部材の第2抜け止め部に係合させ連結部材を筒部に対して抜け止め固定する。これにより、蓋体部の前部が筐体部に固定される。ここでは、連結部材の第2抜け止め部を筒部の外周面に形成された第1抜け止め部に係合させることにより蓋体部の前部を筐体部に固定している。このため、蓋体部を筐体部に固定するためのねじ部材の本数を減らすことができ、ねじ部材の露出を可及的に少なくすることができる。また、連結部材は工具を使用しなくても筒部に装着できるので、ねじ部材を減らしたことと、連結部材により蓋体部を筐体部に連結することとにより、工具を使用する工程を削減でき、リール本体の組立効率の向上を図ることができる。」
「【0008】
発明3に係るスピニングリールのリール本体は、発明1又は2に記載のリール本体において、筒部は、本体部の前部に形成され、前部にロータとリール本体との間の隙間をシールするシール部材を収納するシール部材収納部を有する。この場合には、筒部にシール部材が収納されるので、筒部からリール本体の内部に液体等の異物が侵入しにくくなる。」
エ 「【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リール本体を貫通するボルト部材ではなく、連結部材の第2抜け止め部を筒部の外周面に形成された第1抜け止め部に係合させることにより蓋体部の前部を筐体部に固定している。このため、蓋体部を筐体部に固定するためのねじ部材の本数を減らすことができ、重量増を招くことなくねじ部材の露出を可及的に少なくすることができる。また、リール本体を貫通するボルト部材が不要になるため、リール本体にボルト部材を貫通させるための空間が不要になるとともに、カバー部材を設けてリール本体の後部のねじ部材を隠す場合にもカバー部材の固定方法が制限されない。このため、リール本体の意匠の制限が緩和される。」
オ 「【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
<第1実施形態>
図1において、本発明の第1実施形態を採用したスピニングリールは、釣り竿に装着可能なリールであって、ハンドル1を有するリール本体2と、ハンドル1の回転に連動して回転するロータ3と、ロータ3により釣り糸が巻き取られるスプール4とを備えている。また、スピニングリールは、ハンドル1の回転に連動してロータを回転駆動するロータ駆動機構5と、ハンドル1の回転に連動してスプール4を前後移動させるオシレーティング機構6と、スプール4を制動するフロントドラグ機構7とを備えている。前後方向に配置されたスプール軸15の先端に装着されている。
【0020】
<リール本体の構成>
リール本体2は、図1?図5に示すように、側部が開口した機構装着空間20aが形成された本体部20を有する筐体部10と、機構装着空間20aをカバーするカバー部25を有する蓋体部11と、筐体部10から延び先端に釣り竿を装着可能な取付脚部12と、蓋体部11を筐体部10に固定する連結部材13と、筐体部10と蓋体部11の後部を覆うカバー部材14とを備えている。機構収納空間20aには、ロータ駆動機構5とオシレーティング機構6とが収納されている。
【0021】
筐体部10は、本体部20に加えて、本体部20の前部に本体部20と一体形成された筒部22と、筒部22の前部外周面に形成された雄ねじ部24aからなる第1抜け止め部24とをさらに有している。本体部20の前部には、ロータ3の凹陥部3aを塞ぐ半円よりやや大きい形のフランジ部20bが形成されている。このフランジ部20bの前方に筒部22が一体形成されている。また本体部20の前後方向の中間部分の壁面には、図2右方向に突出するボス部20cが形成されている。ボス部20cには、マスターギア軸9aの一端を支持する軸受27aが装着されている。筒部22とフランジ部20bとの間には、後述するベールアーム44が糸開放姿勢のときにロータ3を制動するための制動部材45が装着される装着溝22aが半円よりやや大きい形で形成されている。したがって、筒部22までは、筐体部10には、スプール軸15と平行な端面10a(図3)が形成されている。筒部22は、図5に示すように、内周面に、後述する逆転防止機構50を収納する逆転防止機構収納部22c有しているとともに、前部に逆転防止機構収納部22cより大径に形成された、後述するシール部材52を収納するシール部材収納部22dを有している。
【0022】
蓋体部11は、カバー部25に加えて、第1抜け止め部24の後方で筐体部10に接触する係合部26を有している。カバー部25の前部には、ロータ3の凹陥部3aをフランジ部20bとともに塞いで円形となる半円よりやや小さい形のフランジ部25aが形成されている。カバー部25の前後方向の中間部分の壁面には、図2左方向に突出するボス部25cが形成されている。ボス部20cには、マスターギア軸9aの他端を支持する軸受27bが装着されている。係合部26とフランジ部25aとの間には、装着溝22aと連なって環状の制動部材装着溝を構成する装着溝25bが形成されている。」
「【0025】
連結部材13は、図3及び図5に示すように、円筒部13aと、円筒部の前部に径方向内方に突出して形成された座金形状の前壁部13bと、円筒部13aの内周面に形成された第2抜け止め部13cとを有している。第2抜け止め部13cは、第1抜け止め部24に係合して筒部22に抜け止め固定されるものであり、具体的には、雄ねじ部24aに螺合する雌ねじ部13dで構成されている。連結部材13は、内周面の先端部に形成された押圧部13eを有している。押圧部13eは、連結部材13が筒部22に抜け止め固定された状態で蓋体部11の係合部26のテーパ面26aを外周側から筐体部10の端面10aに向けて押圧するものである。押圧部13eのこの実施形態では、先端にいくにつれて拡径するテーパ面で形成されている。このテーパ面のテーパ角度は、係合部26のテーパ面26aと同じ角度でもよいし異なる角度でもよい。この連結部材13により筐体部10と蓋体部11との前部が連結されている。」
「【0031】
<ロータ駆動機構の構成>
ロータ駆動機構5は、図1及び2に示すように、ハンドル1が固定されたハンドル軸8とともに回転するフェースギアからなるマスターギア9と、このマスターギア9に噛み合うピニオンギア16とを有している。マスターギア9は、ハンドル軸8が回転不能に装着されたマスターギア軸9aにねじ止めされている。マスターギア軸9aは、筐体部10及び蓋体部11に軸受27a,27bにより、前後方向に配置されたスプール軸15と食い違う左右の軸回りに回転自在に支持されている。
【0032】
ロータ3の回転軸であるピニオンギア16は筒状に形成されており、その前部16aはロータ3の中心部を貫通しており、ナット48によりロータ3と固定されている。ピニオンギア16は、その軸方向の中間部と後端部とが軸受17a,17bを介してそれぞれリール本体2に回転自在に支持されている。なお、図5に示すように、前側の軸受17aは、筐体部10と蓋体部11とにそれぞれ半円弧状に形成された装着孔10b,11aに装着されている。ピニオンギア16の内周側には、スプール軸15が貫通している。」
「【0036】
<ロータの構成>
ロータ3は、図1に示すように、内部に凹陥部3aを有する円筒部30と、円筒部30の側方に互いに対向して設けられた第1ロータアーム31及び第2ロータアーム32とを有している。円筒部30と両ロータアーム31,32とは一体成形されている。
【0037】
円筒部30の前部には前壁33が形成されており、前壁33の中央部にはボス33aが形成されている。このボス33aの貫通孔をピニオンギア16の前部16a及びスプール軸15が貫通している。前壁33の前方側にはナット48が配置されており、このナット48がピニオンギア16の先端のネジ部に螺合している。」
「【0039】
リール本体2の筒部22は、ロータ3の凹陥部3a内に配置されており、筒部22の内部には、ロータ3の逆転(糸繰り出し方向の回転)を禁止する逆転防止機構50が配置されている。逆転防止機構50は、図5に示すように、逆転防止機構収納部22cに収納されたローラ型のワンウェイクラッチ51を有している。ワンウェイクラッチ51は、外輪51aが逆転防止機構収納部22cに回転不能に装着され、内輪51bがピニオンギア16に回転不能に係止されている。ワンウェイクラッチ51の前部には、シール部材52が装着されている。シール部材52は、筒部22とロータ3との隙間をシールするものであり、シール部材収納部22dに収納されている。シール部材52は、連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されて筒部22内に保持されている。シール部材52は、ピニオンギア16とともに回転するスペーサ53に先細りのリップ部が接触するリップシールである。したがって、連結部材13は、蓋体部11を筐体部10に固定する機能に加えてシール部材52及び逆転防止機構50を保持して抜け止めする機能も有している。
【0040】
<スプールの構成>
スプール4は、たとえば、アルミニウム合金製のものであり、ロータ3の第1ロータアーム31と第2ロータアーム32との間に配置されており、スプール軸15の先端にフロントドラグ機構7を介して装着されている。スプール4は、図1に示すように、外周に釣り糸が巻かれる筒状の糸巻胴部4aと、糸巻胴部4aの後端部に一体成形された大径筒状のスカート部4bと、糸巻胴部4aの前端部に配置された前フランジ部4cとを有している。」

(2)甲第3号証に記載された発明の認定
甲第3号証には、上記(1)アないしオの事項及び図示内容からみて、次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「ハンドル1を有するリール本体2と、ハンドル1の回転に連動して回転するロータ3と、ロータ3により釣り糸が巻き取られるスプール4と、ハンドル1の回転に連動してロータを回転駆動するロータ駆動機構5とを備え、ハンドル1の回転に連動して回転するロータ3により釣り糸をスプール4に巻き取るスピニングリールであって、
リール本体2は筐体部10と、蓋体部11と、取付脚部12と、連結部材13とを備え、
前記筐体部10は、本体部20と、本体部20の前部に本体部20と一体形成された筒部22と、筒部22の前部外周面に形成された雄ねじ部24aからなる第1抜け止め部24とを有し、
前記筐体部10には、ロータ3を回転駆動するロータ駆動機構5が収納され、
前記ロータ駆動機構5は、ハンドル1が固定されたハンドル軸8とともに回転するフェースギアからなるマスターギア9と、このマスターギア9に噛み合うロータ3の回転軸である筒状のピニオンギア16とを有し、
前記ピニオンギア16の内周側には、スプール軸15が貫通し、このスプール軸15の先端にスプール4が装着され、
ピニオンギア16の前部16aにロータ3が固定されており、
前記筒部22の内部には、ロータ3の逆転(糸繰り出し方向の回転)を禁止するローラ型のワンウェイクラッチ51が配置され、
ワンウェイクラッチ51の前部には、筒部22とロータ3との隙間をシールするシール部材52が装着され、シール部材52は、連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されて筒部22内に保持され、ピニオンギア16とともに回転するスペーサ53に先細りのリップ部が接触するリップシールであり、
連結部材13は、蓋体部11を筐体部10に固定する機能に加えてシール部材52及び逆転防止機構50を保持して抜け止めする機能も有している、
スピニングリール。」

4 甲第4号証
(1)甲第4号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、次の事項が記載されている。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
釣り用リールの相対回転する第1部品と第2部品との間に配置され、前記両部品の隙間をシールする釣り用リールのシール機構であって、
前記両部品のいずれか一方に設けられ他方の部品との間に間隔をあけて配置された磁気保持手段と、
前記磁気保持手段により保持され前記磁気保持手段と前記他方の部品との隙間を塞ぐための磁性流体と、
を備えた釣り用リールのシール機構。」
「【請求項10】
前記釣り用リールは両軸受リールであり、前記第1部品はリール本体であり、前記第2部品は前記リール本体に軸受により回転自在に支持されたスプール軸である、請求項1から9のいずれかに記載の釣り用リールのシール機構。」
「【請求項11】
前記釣り用リールは両軸受リールであり、前記第1部品はリール本体であり、前記第2部品は前記リール本体に軸受により回転自在に支持されたハンドル軸である、請求項1から9のいずれかに記載の釣り用リールのシール機構。
【請求項12】
前記釣り用リールはレバードラグ型の両軸受リールであり、前記第1部品はドラグカバーであり、前記第2部品はドラグディスクである、請求項1から9のいずれかに記載の釣り用リールのシール機構。
【請求項13】
前記釣り用リールはモータでスプールを駆動する電動リールであり、前記第1部品は前記モータをリール本体に装着するための筒状のモータケースであり、前記第2部品は前途モータケースの外周側に配置された前記スプールである、請求項1から9のいずれかに記載の釣り用リールのシール機構。
【請求項14】
前記釣り用リールはスピニングリールであり、前記第1部品はリール本体であり、前記第2部品は前記リール本体に軸受により回転自在に支持されたフェースギア軸である、請求項1から9のいずれかに記載の釣り用リールのシール機構。
【請求項15】
前記釣り用リールはスピニングリールであり、前記第1部品はピニオンギアであり、前記第2部品は前記ピニオンギアに軸受により回転自在に支持されたスプール軸である、請求項1から9のいずれかに記載の釣り用リールのシール機構。」
イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、シール機構、特に、スピニングリールや両軸受リール等の釣り用リールの相対回転する第1部品と第2部品との間に配置され、両部品の隙間をシールする釣り用リールのシール機構に関する。」
ウ 「【発明が解決しようとする課題】」
「【0004】
リールを防水構造にするにあたり、もっとも問題になるのは、回転部品と軸受との間や軸受自体の間の防水構造をどのような構造にするかである。回転の負荷を軽減するためには軸受と回転部品との間にある程度の間隙は不可欠である。また、玉軸受の場合、軸受自体を防水構造にするのが困難である。このため、釣り用リールに用いられる玉軸受の材質としては錆びにくいステンレス鋼が使用されている。このステンレス鋼のなかでも回転性能やコストを考慮して玉軸受の球には焼き入れ可能なSUS440Cが多く用いられている。しかし、SUS440Cは、SUS316に比べて硬いが耐食性が低いという問題がある。このため、腐食を防止するために回転部品と軸受の間や軸受自体を防水構造にしたほうがよい。これらを防水構造にするために、弾性体製のシールが内輪と外輪との間に両者に接触するように装着されたシールド玉軸受が多く使用されている。
【0005】
しかし、弾性体製のシールを相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力が大きいため回転性能が低下するおそれがある。本発明の課題は、回転性能の低下を抑えた釣り用リールのシール機構を提供することにある。」
エ 「【0006】
【課題を解決するための手段】
発明1に係る釣り用リールのシール機構は、釣り用リールの相対回転する第1部品と第2部品との間に配置され、両部品の隙間をシールする釣り用リールのシール機構であって、磁気保持手段と、磁性流体とを備えている。磁気保持手段は、両部品のいずれか一方に設けられ他方の部品との間に間隔をあけて配置された手段である。磁性流体は、磁気保持手段により保持され磁気保持手段と他方の部品との隙間を塞ぐための流体である。」
オ 「【0019】
【発明の実施の形態】
〔実施形態1〕
図1及び図2において、本発明の一実施形態によるシール機構が採用された両軸受リールは、ベイトキャスト用のロープロフィール型のリールである。このリールは、リール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用ハンドル2と、リール本体1の内部に回転自在かつ着脱自在に装着された糸巻用のスプール12とを備えている。ハンドル2のリール本体1側には、ドラグ調整用のスタードラグ3が設けられている。」
「【0027】
磁気シール33aは、軸受24aの外側で軸方向に間隔を隔ててボス部6cに固定された1対の磁気保持リング34,34と、両磁気保持リング34に挟持されたリング磁石35と、磁気保持リング34とスプール軸16との間に配置された磁性流体36とを備えている。磁気シール33aは、リング磁石35と磁気保持リング34とスプール軸16とで構成された磁気回路中で磁性流体36を保持することでスプール軸とボス部6cとの隙間をシールする。」
「【0031】
ガイド筒25は、後部周面が全長にわたり切り欠かれた円筒状の部材であり、ラインガイド27をスプール軸16の軸方向(釣り竿Rと直交する方向)に案内する。螺軸26は、ラインガイド27をスプール軸16の軸方向に往復移動させるための軸である。螺軸26の両端は、側板5a,5bに軸受39a,39bにより回転自在に支持されている。螺軸26の端部には、ギア機構18を構成するギア28aが固定されている。また螺軸26には交差する螺旋状の溝26aが形成されている。軸受39a,39bの軸方向内方には、図7に示すように磁気シール53,53がそれぞれ配置されている。
【0032】
磁気シール53は、側板5a,5bに設けられたボス部54a,54bに軸方向に間隔を隔てて固定された磁気保持リング55,55と、磁気保持リング55の間で螺軸26に接触する磁性流体56とを備えている。1対の磁気保持リング55は、先端が異なる極を有する磁性リング部材であり、両磁気保持リング55間で磁性流体56を保持する。内側の磁気保持リング55の外周側にはOリング(図示せず)が装着されており、外周側をシールしている。」
「【0048】
図8において、本発明の一実施形態を採用したスピニングリールは、ハンドル101と、ハンドル101を回転自在に支持するリール本体102と、ロータ103と、スプール104とを備えている。ロータ103は、リール本体102の前部に回転自在に支持されている。スプール104は、釣り糸を外周面に巻き取るものであり、ロータ103の前部に前後移動自在に配置されている。」
「【0050】
・・・ リールボディ102aは、図9に示すように、内部に空間を有しており、その空間内には、ロータ103をハンドル101の回転に連動して回転させるロータ駆動機構105と、スプール104を前後に移動させて釣り糸を均一に巻き取るためのオシレーティング機構106とが設けられている。」
「【0052】
ロータ駆動機構105は、ハンドル101が回転不能に装着されたハンドル軸110と、ハンドル軸110とともに回転するフェースギア111と、このフェースギア111に噛み合うピニオンギア112とを有している。ハンドル軸110の両端は、軸受116a,116bを介してリールボディ102aに回転自在に支持されている。この軸受116a,116bの軸方向外方には、外部からの海水や異物の侵入を防止するための磁気シール124,124がそれぞれ配置されている。この磁気シール124は、実施形態1の螺軸26に装着されたものと同様な構成であり、1対の磁気保持リングと磁性流体とを備えている。・・・
【0053】
ピニオンギア112は筒状に形成されており、図9に示すように、その前部112aはロータ3の中心部を貫通しており、ナット113によりロータ103と固定されている。ピニオンギア112は、その軸方向の中間部と後端部とが、それぞれ軸受114a,114bを介してリール本体102に回転自在に支持されている。」
「【0058】
・・・ロータ103の円筒部130の内部にはロータ103の逆転を禁止・解除するための逆転防止機構150が配置されている。逆転防止機構150は、内輪が遊転するローラ型のワンウェイクラッチ151と、ワンウェイクラッチ151を作動状態(逆転禁止状態)と非作動状態(逆転許可状態)とに切り換える切換機構152とを有している。」
「【0076】
このような構成では、軸受自体を磁気シール構造にしたので、シール機能付きの軸受をコンパクトな構成で実現できる。図15は、軸受と磁気シールとをユニット化した変形例を示している。図15において、磁気シール33eは、ボス部6cに固定された磁性を有する第1磁気保持部材171と、スプール軸16に固定された磁性を有する第2磁気保持部材172と、両磁気保持部材171,172に保持される磁性流体173とを備えている。」
「【0078】
・・・磁気シールの装着箇所は前記4つの実施形態に限定されるものではない。たとえば、片軸受リールのスプールを支持する軸受の外気に接触する側やドラグ機構等の内装部品の外気に接触する側であればどのような位置でもよい。」
カ 「【0079】
【発明の効果】
本発明によれば、2つの部品が相対回転すると、一方の部品に設けられた磁気保持手段に保持された磁性流体が他方の部品との間を塞いでシールする。この磁性流体は流体シールであるため他方の部品に接触しても両者の間の損失トルクが小さく回転性能の低下を抑えることができる。」

5 甲第10号証
(1)甲第10号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、次の事項が記載されている。
ア 433頁右欄6?13行
「図5の内部構造は図10である。図の回転軸である部分が非磁性材料であったり、長尺あるいは二重になっているような特殊形状などのときに使用する。両端の玉軸受で保持されたスリーブに磁性材を用いてシール部の磁気回路を構成し、軸とスリーブを固定する。固定方法は、図10のような軸とねじによる固定や、スリーブに設けられたセットスクリューやスリ割りとクランプ金具にて固定する。」

6 甲第11号証
(1)甲第11号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第11号証には、次の事項が記載されている。
ア 619頁右欄24?27行
「軸が非磁性の場合には、磁性材の円筒形カバーを軸にはめ込むか、磁極片をコの字型にして軸に接近させ、ケーシング側のみで磁気回路を構成させるようにする。」

7 甲第12号証
(1)甲第12号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第12号証には、次の事項が記載されている。
ア 257頁左欄4?9行
「図11は中空シャフトタイプで、回転軸が非磁性材料であったり、長尺ものあるいは2重パイプなどの特殊形状である場合に使用する。両端のベアリングで保持された中空シャフトとポールピース間に磁性流体を充てんして磁気シール部を形成し、中空シャフトは回転軸に固定されて回転する。」

8 甲第13号証
(1)甲第13号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第13号証には、次の事項が記載されている。
ア 402頁左欄2?13行
「磁性流体シールは、磁性流体が磁場中に保持される性質を利用したものである。基本的な構造を図2に示す。
固定されたドーナツ型の永久磁石を中心に、その両側に同じドーナツ型の磁極片(ポールピース)2個をならべ、ポールピースと磁性材料製の回転軸との間に微小間隔を設け磁性流体を充填する。ここで図2のように永久磁石N極からポールピース(1)→回転軸→ポールピース(2)→永久磁石S極を通る磁束をもつ磁気回路が形成される。磁性流体は磁場中の磁束密度の高い所、つまりポールピース(1)、(2)と回転軸の間に集まり、外圧に対しても流れ出すことなく、あたかも液状パッキンのような働きをする。」
イ 404頁左欄5?7行
「シールする対象は大部分が機体であるが、液体シールも差圧の少ない所や、回転数の低い場合の使用例はある。しかしシール性に不安があり十分でない。」
ウ 405頁の「5.1 標準品」の図8には、「中空シャフトタイプ」が図示されている。

9 甲第14号証
(1)甲第14号証に記載された事項
請求人が無効理由に係る証拠として提出した、本件特許の出願日前に頒布された刊行物である甲第14号証には、次の事項が記載されている。
ア 「実用新案登録請求の範囲」
「同軸状に配された内外二つの部材のうちの固定側部材に磁性流体保持部材が取り付けられ、この磁性流体保持部材に対して径方向で微小隙間を設けた状態で対向されて磁気回路の一部を構成する磁性リングが回転側の部材に緩衝材を介して嵌着され、前記微小隙間に磁性流体が保持されていることを特徴とする密封装置。」

第6 無効理由1(甲第1号証を主引例とする進歩性欠如) についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲1発明との対比
ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「リール本体12」は、本件発明1の「リール本体」に相当し、以下同様に、
「釣糸巻回用ハンドル32」は「ハンドル」に、
「リール本体12」内に収容されている「スプール軸26」に装着された「リール本体12の前方に位置するスプール50」は、「リール本体に支持されたスプール」に、
「リール本体12内に収容した駆動機構24」は、「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構」に、
「一端にハンドル32が連結されるハンドル軸34と一体に形成された駆動歯車34a」「と常時噛合した」「ピニオン22a」が「外周部に形成された」「中空駆動軸22」は、「ハンドルの操作で連動回転するピニオン」に、
「一方向クラッチ84」は、「一方向クラッチ」に、
「魚釣用スピニングリール」は、「魚釣用リール」に、それぞれ相当する。
イ 甲1発明の「リール本体12と、このリール本体12で回転自在に支えられる釣糸巻回用ハンドル32と、このリール本体12の前部に回転自在に支えられるロータ60とを備え、前記ハンドル32の回転をリール本体12内に収容した駆動機構24を介してロータ60に伝達し、このロータ60に設けた釣糸案内部を介して、リール本体12の前方に位置するスプール50に釣糸を巻回する魚釣用スピニングリール」は、「ハンドル32」が「駆動機構24」に連結され(このことは「駆動機構24は、一端にハンドル32が連結されるハンドル軸34と一体に形成された駆動歯車34aと、中空駆動軸22の外周部に形成されたピニオン22aとからなり、ピニオン22aは駆動歯車34aと常時噛合した状態に配置され」ていることからも明らかである。)、「ハンドル32」の回転操作により「スプール50」に釣糸を巻回するものであるから、本件発明1の「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リール」に相当する。
ウ 甲1発明の「リール本体12の筒状の前部80」は、リール本体に凹状に形成された凹部といえるものであって、「中空駆動軸22」や「一方向クラッチ84」を収容しているから、本件発明1の「リール本体に凹状に形成され」た「収容凹部」に相当する。またそのことを踏まえると、甲1発明の「リール本体12内には、前端がリール本体12の前部80から突出する中空駆動軸22」「が収容され、」「リール本体12の筒状の前部80内には一方向クラッチ84が装着されて」いることは、本件発明1の「リール本体」の「収容凹部」に「ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる」ことに相当する(甲1発明の「中空駆動軸22」が本件発明1の「ピニオン」に相当することは上記アを参照。)。
エ 甲1発明の「リール本体12の筒状の前部80の先端面に」「止めネジ92により固定され」、「ロータ60の駆動部68の外周面に弾性的にシール係合することにより、リール本体12の前部80の内部」を「密封」する「弾性材からなるシール部材90」と、本件発明1の「前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構」とは、「収容凹部の開口部」を「シールするシール機構」で共通する。
オ 甲1発明の「一方向クラッチ84」は「リール本体12の筒状の前部80内に」「装着され」、「リール本体の前部80の内部」は「弾性材からなるシール部材90」により「密封されている」から、甲1発明の「一方向クラッチ84」は「弾性材からなるシール部材90」により「シール」されているといえる。よって、上記エを踏まえると、甲1発明の「リール本体12の筒状の前部80内には一方向クラッチ84が装着されており、リール本体12の筒状の前部80の先端面には、弾性材からなるシール部材90が止めネジ92により固定されており、そのシール部材90がロータ60の駆動部68の外周面に弾性的にシール係合することにより、リール本体12の前部80の内部が密封されている」ことと、本件発明1の「前記一方向クラッチは、前記ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシールされること」とは、「一方向クラッチ」は「シール機構によってシールされる」点で共通する。
カ したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて、
リール本体に凹状に形成され、前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と、
前記収容凹部の開口部をシールするシール機構と、を備え、
前記一方向クラッチは、前記シール機構によってシールされる魚釣用リール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
シール機構に関して、
本件発明1は、「収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持する」「磁気シール機構」であって、「ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシール」するのに対し、
甲1発明は「リール本体12の筒状の前部80の先端面に」「止めネジ92により固定され」、「ロータ60の駆動部68の外周面に弾性的にシール係合することにより、リール本体12の前部80の内部」を「密封」する「弾性材からなるシール部材90」である点。

(2)相違点に係る判断
ア 相違点1について
(ア)甲第4号証に記載された事項について
甲第4号証には、上記第5の4で摘記したように、弾性体製のシールを相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力が大きいために起こるおそれのある回転性能の低下を抑えることを目的として(【0005】)、釣り用リールの相対回転する第1部品と第2部品との間に配置され、前記両部品の隙間をシールする釣り用リールのシール機構であって、前記両部品のいずれか一方に設けられ他方の部品との間に間隔をあけて配置された磁気保持手段と、前記磁気保持手段により保持され前記磁気保持手段と前記他方の部品との隙間を塞ぐための磁性流体と、を備えた釣り用リールのシール機構を採用すること(【請求項1】)、磁気シールが、ボス部に固定された磁性を有する第1磁気保持部材と、スプール軸に固定された磁性を有する第2磁気保持部材と、両磁気保持部材に保持される磁性流体とを備えること(段落【0076】)が記載されている。
また、甲第4号証には、「磁気シールの装着箇所は前記4つの実施形態に限定されるものではない。たとえば、片軸受リールのスプールを支持する軸受の外気に接触する側やドラグ機構等の内装部品の外気に接触する側であればどのような位置でもよい。」(段落【0078】)と記載されている。
(イ)甲1発明への甲第4号証に記載された事項の適用について
a 甲第1号証には、上記第5の1で摘記したように、「本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、リール本体のフランジ部を必要とすることなく、リール本体の前部の防水および防塵を図り、軽量・小型化が可能な魚釣用スピニングリールを提供することを目的とする。」(段落【0006】)、「上記目的を達成する本発明の魚釣用スピニングリールは、・・・前記リール本体は、前記ハンドルを支えるハンドル装着部の前方に突出する前部に、前記駆動機構で駆動される駆動軸を回転自在に支える支持部を配置し、前記ロータは、前記前部を受入れる凹部を後方に向けて開口させ、この凹部内に、前記駆動軸に一体的に連結される駆動部を配置し、この駆動部の周囲と前記前部との間に配置した弾性材からなるシール部材により、リール本体の前部内を密封することを特徴とする。」(段落【0007】)、「このような魚釣用スピニングリールによると、ロータの後方に開口する凹部内に配置された駆動部が、リール本体内の駆動機構で駆動される駆動軸に一体的に連結され、この駆動部の周囲と、駆動軸を回転自在に支えるリール本体の前部との間に配置されたシール部材が、リール本体の前部内を密封することにより、異物の侵入する隙間がなくなり、リール本体の前部の防水および防塵が確実に図られる。これにより、このロータの凹部の後方開口端を閉塞するフランジ部をリール本体に設ける必要がなく、魚釣用スピニングリールの軽量・小型化が可能となる。」(段落【0008】)と記載されており、また、シール部材の実施形態としては、「図5および図6に示すように、シール部材90は、環状のリテーナ88で押圧される環状の基部90aの内周側から前方かつ半径方向内方に向けて傾斜した状態に延びるリップ部90bを有する環状の板状に形成されている。このリップ部90bは、先端すなわち内周側に向けて肉厚が次第に減少し、内周縁部は丸められている。これにより、リップ部90bがどの位置にあっても、相手方のロータ60の駆動部68の外周面に損傷を与えることなくわずかに内周が拡開変形して弾性的にシール係合する。これにより、前部80の内部が密封される。」(段落【0032】)と記載されているから、甲1発明は、リール本体の防水および防塵を図る構成として「弾性材からなるシール部材」が前提であるといえる。
b 甲第1号証には、リール本体の防水および防塵を図る構成として、磁気シール機構を採用することは何ら記載も示唆もされていない。
c 甲第4号証に、弾性体製のシールを相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力が大きいために起こるおそれのある回転性能の低下を抑えることを目的として、磁気シール機構を採用することが記載されているとしても、甲第1号証には、シールと回転体との摩擦力が大きいために回転性能が低下するとの課題は記載されておらず、甲1発明において「弾性材からなるシール部材」に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
d 甲第4号証に、磁気シールの装着箇所について「内装部品の外気に接触する側であればどのような位置でもよい」(段落【0078】)と記載されているとしても、ワンウェイクラッチ151(一方向クラッチ)が設けられる収容凹部(段落【0058】参照。)の開口部に磁気シール構造を設けることについては記載されていない。
e 甲1発明の「弾性材からなるシール部材」と甲第4号証に記載された「磁気シール機構」とは、シールするとの機能は同じであるが、その構造は大きく異なり、甲1発明の「弾性材からなるシール部材」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」をそのまま適用できるものではなく、すなわち適用にあたっては取付箇所の構造を大きく変更しなければならない。
f 以上のことから、甲1発明において、「弾性材からなるシール部材」に代えて甲第4号証に記載されている「磁気シール機構」を適用することは、当業者が容易に着想し得たとはいえない。
g また、甲1発明の「弾性材からなるシール部材」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」をそのまま適用できるものではないから、技術的にも適用することが容易であるとはいえない。
h さらには、本件発明1は「磁気シール機構」として「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」を備えるところ、甲第4号証に記載された「磁気シール機構」は「磁性流体が保持される筒状の磁性体」を備えるものではないから、甲1発明に甲第4号証に記載されている「磁気シール機構」を適用したとしても本件発明1の構成にはならない。

イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあることは、周知の課題である旨主張する。

しかしながら、一般的に弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあるとしても、甲第1号証には、シールと回転体との摩擦力が大きいために回転性能が低下するとの課題は記載されておらず、甲1発明において「弾性材からなるシール部材」に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
仮に、甲1発明において、摩擦力に係る課題があるとしても、上記段落【0032】に記載されている事項を踏まえると、シール部材の形状や材質、配置などの変更で解決できる程度のものであって、磁気シール機構を採用する動機づけにはならない。

(イ)請求人は、甲9および甲13に記載されているように、回転部のシールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がなく、また、甲10、甲11、甲12、甲13、甲14および甲17に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、技術常識であり、さらに、甲4の磁気シールを、魚釣用リールの収容凹部の開口部とピニオンとの間のシールに転用できることは自明である(甲9、甲13、甲2)から、甲1発明のシール部材90に代えて、甲4に記載の磁気シール124を適用することができ、その場合、磁気回路を形成するために駆動部68を磁性体で形成することは技術常識である旨主張する。

しかしながら、一般的には回転部のシールの選択条件は密封空間収容物の如何には関係がないとしても、上記アでも述べたように、甲第1号証には、リール本体の防水および防塵を図る構成として、磁気シール機構を採用することは何ら記載も示唆もされておらず、また、甲1発明の「弾性材からなるシール部材」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」を構造上そのまま適用できるものではないから、甲1発明において「弾性材からなるシール部材」に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
また、甲第10号証(上記第5の5を参照。)、甲第11号証(上記第5の6を参照。)、甲第12号証(上記第5の7を参照。)、甲第13号証(上記第5の8を参照。)、甲第14号証(上記第5の9を参照。)に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、本件特許の出願日前から周知であるとしても、甲第1号証及び甲第4号証には「磁性流体が保持される筒状の磁性体」について何ら記載されていないから、甲1発明に甲第4号証に記載された「磁気シール機構」を適用する際に、「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」をさらに備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。加えて、甲第1号証には、駆動部68を磁性体で形成することは何ら記載も示唆もされておらず、磁気回路を形成するために駆動部68を磁性体で形成することが技術常識であるともいえない。
よって、請求人の主張する周知の課題や周知技術、技術常識を考慮しても、甲1発明のシール部材90に代えて甲第4号証に記載の磁気シールを適用して、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、甲1発明に甲第4号証に記載された事項及び周知技術を適用して、本件発明1の相違点1に係る構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1についての特許は、無効とすべきものではない。

2 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1から「一方向クラッチ」が「シールされる」構成を削除し、本件発明1の「磁気シール機構」が「該磁石を保持する保持部材」を有する点、「筒状の磁性体」が「保持部材との間に隙間を生じさせ」る点、「磁性流体」が「前記保持部材と前記磁性体との間に保持される」点、「前記保持部材は、前記収容凹部の前記開口部をカバーするカバー部材によって支持され、前記カバー部材と前記保持部材との間にシール部材が介挿される」点を限定したものである。
ここで、本件発明1から「一方向クラッチ」が「シールされる」構成が削除されているが、「収容凹部」の「内部に一方向クラッチが設け」られ、かつ、「収容凹部の開口部」が「シール」されるのであるから、これは「一方向クラッチ」が「シールされる」構成を有するに等しいといえる。
そうすると、本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて含むものであるから、本件発明1についてと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2についての特許は、無効とすべきものではない。

3 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2に従属し、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2についてと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明3は、甲第1号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明3についての特許は、無効とすべきものではない

第7 無効理由2(甲第2号証を主引例とする進歩性欠如) についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲2発明との対比
ア 本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「リール本体1a」は、本件発明1の「リール本体」に相当し、以下同様に、
「ハンドル5」は「ハンドル」に、
「リール本体1a」に支持された「スプール軸9の先端部に」取り付けられた「スプール10」は、「リール本体に支持されたスプール」に、
「ハンドル5が固定されるハンドル軸2」に「固定され」た「ドライブギア3」に「噛合して、」「ハンドル5と連動」する「駆動筒軸としてのピニオンギア13」は、「ハンドルの操作で連動回転するピニオン」に、
「一方向クラッチ30’」は、「一方向クラッチ」に、
「魚釣用スピニングリール」は、「魚釣用リール」に、それぞれ相当する。
イ 甲2発明は「リール本体1a内には、ハンドル5が固定されるハンドル軸2が回転可能に支持されるとともに、駆動筒軸としてのピニオンギア13が回転可能に支持され、前記ハンドル軸2にはドライブギア3が固定され、このドライブギア3にピニオンギア13が噛合して、ピニオンギア13はハンドル5と連動し、ピニオンギア13の先端部にはロータ8が一体的に取り付けられ、ピニオンギア13にはハンドル軸2と直交する方向に延在するスプール軸9が貫通(嵌挿)され、このスプール軸9の先端部には釣糸が巻回されるスプール10が取り付けられ、ハンドル5を回転操作することによりスプール10に釣糸が巻回される、魚釣用スピニングリール」であるから、甲2発明の「リール本体1a」内に支持されている「ピニオンギア13」「ハンドル軸2」「ドライブギア3」「スプール軸9」からなる構成は、「ハンドル5」の回転操作により「スプール10」に釣糸を巻き取る駆動機構といえるものであるので、本件発明1の「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構」に相当する。また、それを踏まえると、甲2発明の「ハンドル5」は、本件発明1の「巻き取り駆動機構に連結されるハンドル」に相当する。
すなわち、甲2発明の「リール本体1a内には、ハンドル5が固定されるハンドル軸2が回転可能に支持されるとともに、駆動筒軸としてのピニオンギア13が回転可能に支持され、前記ハンドル軸2にはドライブギア3が固定され、このドライブギア3にピニオンギア13が噛合して、ピニオンギア13はハンドル5と連動し、ピニオンギア13の先端部にはロータ8が一体的に取り付けられ、ピニオンギア13にはハンドル軸2と直交する方向に延在するスプール軸9が貫通(嵌挿)され、このスプール軸9の先端部には釣糸が巻回されるスプール10が取り付けられ、ハンドル5を回転操作することによりスプール10に釣糸が巻回される、魚釣用スピニングリール」は、本件発明1の「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リール」に相当する。
ウ 甲2発明の「リール本体1aの前部に形成された筒状支持部31」は、リール本体に凹状に形成された凹部といえるものであって、「ピニオンギア13」や「一方向クラッチ30’」を収容しているから、本件発明1の「リール本体に凹状に形成され」た「収容凹部」に相当する。またそのことを踏まえると、甲2発明の「リール本体1aの前部に形成された筒状支持部31の内部には、ピニオンギア13が回転可能に支持されるとともに、ロータ8の逆回転を防止する一方向クラッチ30’が収納保持され」ていることは、本件発明1の「リール本体」の「収容凹部」に「ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる」ことに相当する。
エ 甲2発明の「弾性材料から成り、第1の抜け止め部材33側に固定されるとともに、ロータ8のボス部8a側に常時接触することにより、前記一方向クラッチ30’が配設された前記リール本体1aの内部に水が侵入することを防止する」「シール部材40」と、本件発明1の「前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構」とは、「収容凹部の開口部」を「シールするシール機構」で共通する。
オ 上記エを踏まえると、甲2発明の「シール部材40は、弾性材料から成り、第1の抜け止め部材33側に固定されるとともに、ロータ8のボス部8a側に常時接触することにより、前記一方向クラッチ30’が配設された前記リール本体1aの内部に水が侵入することを防止する」ことと、本件発明1の「前記一方向クラッチは、前記ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシールされること」とは、「一方向クラッチ」は「シール機構によってシールされる」点で共通する。
カ したがって、本件発明1と甲2発明とは、
「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて、
リール本体に凹状に形成され、前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と、
前記収容凹部の開口部をシールするシール機構と、を備え、
前記一方向クラッチは、前記シール機構によってシールされる魚釣用リール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点2)
シール機構に関して、
本件発明1は、「収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持する」「磁気シール機構」であって、「ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシール」するのに対し、
甲2発明は「弾性材料から成り、第1の抜け止め部材33側に固定されるとともに、ロータ8のボス部8a側に常時接触する」「シール部材40」である点。

(2)相違点に係る判断
ア 相違点2について
(ア)甲第4号証に記載された事項について
甲第4号証には、上記第6の1(2)ア(ア)で述べたことが記載されている。
(イ)甲2発明への甲第4号証に記載された事項の適用について
a 甲第2号証には、上記第5の2で摘記したように、「本発明は前記事情に着目してなされたものであり、その目的とするところは、駆動筒軸を支持する軸受を抜け止めすることができるとともに、その抜け止め部位を通じた水等の侵入を防止できる魚釣用スピニングリールを提供することにある。」(段落【0008】)、「魚釣用スピニングリールにおいて、前記駆動筒軸が貫通する軸孔を有するとともに、前記リール本体に取り付けられることにより、前記ロータの逆回転を防止する一方向クラッチまたは前記軸受の前記リール本体からの抜けを防止する抜け止め部材と、前記抜け止め部材の前記軸孔と、前記駆動筒軸または駆動筒軸と一体回転する部材との間に少なくとも設けられ、前記軸受または前記一方向クラッチが配設された前記リール本体の内部に水が侵入することを防止するシール手段とを具備することを特徴とする。」(段落【0009】)、「本発明の魚釣用スピニングリールによれば、駆動筒軸を支持する軸受を抜け止めすることができるとともに、その抜け止め部位を通じた水等の侵入を防止できる。」(段落【0041】)と記載されており、また、シール手段の実施形態としては、「第2のシール手段として、ロータ8のボス部8aと第1の抜け止め部材33との間には、第1の抜け止め部材33の軸孔33bを通じた水の浸入を防止するシール部材40が配設されている。シール部材40は、弾性材料から成り、第1の抜け止め部材33側に固定されるとともに、ロータ8のボス部8a側に常時接触することにより、軸孔33bを通じた水の浸入を防止する。特に本実施形態では、ロータ8のボス部8a側に対するシール部材40の接触圧(押圧力)を安定させるため、中間部材49を介してシール部材40がロータ8のボス部8a側に接触されている。具体的には、ロータ8のボス部8aと中間部材49との間にOリング41が介挿されるとともに、シール部材40は、中間部材49に常時接触される弾性変形可能な接触リップ部40aと、抜け止め部材33の軸孔33bの周面に形成された取付孔33cに嵌め込んで取り付けられる(本実施例では、取付孔33cを形成する抜け止め部材33の部位と第1の軸受11Aとの間で挟持される)固定部40bとを有している。」(段落【0021】)と記載されているから、甲2発明は、シール機構(手段)として「弾性材料」からなる「シール部材」が前提であるといえる。
b 甲第2号証には、リール本体の内部に水が浸入することを防止する構成として、磁気シール機構を採用することは何ら記載も示唆もされていない。
c 甲第4号証に、弾性体製のシールを相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力が大きいために起こるおそれのある回転性能の低下を抑えることを目的として、磁気シール機構を採用することが記載されているとしても、甲第2号証には、シールと回転体との摩擦力が大きいために回転性能が低下するとの課題は記載されておらず、甲2発明において「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
d 甲第4号証に、磁気シールの装着箇所について「内装部品の外気に接触する側であればどのような位置でもよい」(段落【0078】)と記載されているとしても、ワンウェイクラッチ151(一方向クラッチ)が設けられる収容凹部(段落【0058】参照。)の開口部に磁気シール構造を設けることについては記載されていない。
e 甲2発明の「弾性材料」からなる「シール部材」と甲第4号証に記載された「磁気シール機構」とは、シールするとの機能は同じであるが、その構造は大きく異なり、甲2発明の「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」をそのまま適用できるものではなく、すなわち適用にあたっては取付箇所の構造を大きく変更しなければならない。
f 以上のことから、甲2発明において、「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて甲第4号証に記載されている「磁気シール機構」を適用することは、当業者が容易に着想し得たとはいえない。
g また、甲2発明の「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」をそのまま適用できるものではないから、技術的にも適用することが容易であるとはいえない。
h さらには、本件発明1は「磁気シール機構」として「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」を備えるところ、甲第4号証に記載された「磁気シール機構」は「磁性流体が保持される筒状の磁性体」を備えるものではないから、甲2発明に甲第4号証に記載されている「磁気シール機構」を適用したとしても本件発明1の構成にはならない。

イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあることは、周知の課題である旨主張する。

しかしながら、一般的に弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあるとしても、甲第2号証には、シールと回転体との摩擦力が大きいために回転性能が低下するとの課題は記載されておらず、甲2発明において「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
仮に、甲2発明において、摩擦力に係る課題があるとしても、上記段落【0021】に記載されている事項を踏まえると、ロータ8のボス部8a側に対するシール部材40の接触圧(押圧力)を安定させることを考慮した上で、シール部材の形状や材質、配置などの変更で解決できる程度のものであって、磁気シール機構を採用する動機づけにはならない。

(イ)請求人は、甲9および甲13に記載されているように、回転部のシールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がなく、また、甲10、甲11、甲12、甲13、甲14および甲17に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、技術常識であり、さらに、甲4の磁気シールを、魚釣用リールの収容凹部の開口部とピニオンとの間のシールに転用できることは自明である(甲9、甲13、甲2)から、甲2発明のシール部材40または60に代えて、甲4に記載の磁気シール124を適用することができ、甲2の図6または図7の構成で、甲2の中間部材49を使用することは、甲2に記載された発明であり、磁気回路を形成するために中間部材49を磁性体で形成することは技術常識である旨主張する。

しかしながら、一般的には回転部のシールの選択条件は密封空間収容物の如何には関係がないとしても、上記アでも述べたように、甲第2号証には、リール本体の内部に水が浸入することを防止する構成として、磁気シール機構を採用することは何ら記載も示唆もされておらず、また、甲2発明の「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」を構造上そのまま適用できるものではないから、甲2発明において「弾性材料」からなる「シール部材」に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
また、甲第10号証(上記第5の5を参照。)、甲第11号証(上記第5の6を参照。)、甲第12号証(上記第5の7を参照。)、甲第13号証(上記第5の8を参照。)、甲第14号証(上記第5の9を参照。)に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、本件特許の出願日前から周知であるとしても、甲第2号証及び甲第4号証には「磁性流体が保持される筒状の磁性体」について何ら記載されていないから、甲2発明に甲第4号証に記載された「磁気シール機構」を適用する際に、「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」をさらに備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。加えて、甲2発明において、中間部材49を介してシール部材40がロータ8のボス部8a側に接触する構成を採用することが当業者にとって容易に想到できたとしても、甲第2号証には、中間部材49を磁性体で形成することは何ら記載も示唆もされておらず、磁気回路を形成するために中間部材49を磁性体で形成することが技術常識であるともいえない。
よって、請求人の主張する周知の課題や周知技術、技術常識を考慮しても、甲2発明のシール部材に代えて甲第4号証に記載の磁気シールを適用して、本件発明1の相違点2に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、甲2発明に甲第4号証に記載された事項及び周知技術を適用して、本件発明1の相違点2に係る構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1についての特許は、無効とすべきものではない。

2 本件発明2について
本件発明2は、上記第6の2で述べたように、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて含むものであるから、本件発明1についてと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2についての特許は、無効とすべきものではない。

3 本件発明3について
本件発明3は、上記第6の3で述べたように、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2についてと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明3は、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明3についての特許は、無効とすべきものではない

第8 無効理由3(甲第3号証を主引例とする進歩性欠如) についての当審の判断
1 本件発明1について
(1)本件発明1と甲3発明との対比
ア 本件発明1と甲3発明とを対比すると、甲3発明の「リール本体2」は、本件発明1の「リール本体」に相当し、以下同様に、
「ハンドル1」は「ハンドル」に、
「リール本体2」に支持された「スプール軸15の先端に」装着された「スプール4」は、「リール本体に支持されたスプール」に、
「ハンドル1の回転に連動してロータを回転駆動するロータ駆動機構5」は、「巻き取り駆動機構」に、
「ハンドル1が固定されたハンドル軸8とともに回転するフェースギアからなるマスターギア9」「に噛み合うロータ3の回転軸である筒状のピニオンギア16」は、「ハンドルの操作で連動回転するピニオン」に、
「ローラ型のワンウェイクラッチ51」は、「一方向クラッチ」に、
「スピニングリール」は、「魚釣用リール」に、それぞれ相当する。
イ 甲3発明は「リール本体2は筐体部10と、蓋体部11と、取付脚部12と、連結部材13とを備え、」「前記筐体部10には、ロータ3を回転駆動するロータ駆動機構5が収納され、前記ロータ駆動機構5は、ハンドル1が固定されたハンドル軸8とともに回転するフェースギアからなるマスターギア9と、このマスターギア9に噛み合うロータ3の回転軸である筒状のピニオンギア16とを有し」ているから、甲3発明の「ロータ駆動機構5」は「リール本体2」に内蔵されており、また、ハンドル1に連結されているといえる。
よって、甲3発明の「ハンドル1を有するリール本体2と、ハンドル1の回転に連動して回転するロータ3と、ロータ3により釣り糸が巻き取られるスプール4と、ハンドル1の回転に連動してロータを回転駆動するロータ駆動機構5とを備え、ハンドル1の回転に連動して回転するロータ3により釣り糸をスプール4に巻き取るスピニングリール」は、本件発明1の「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リール」に相当する。
ウ 甲3発明の「リール本体2」は、「筐体部10と、蓋体部11と、取付脚部12と、連結部材13とを備え、筐体部10は、本体部20と、本体部20の前部に本体部20と一体形成された筒部22と、筒部22の前部外周面に形成された雄ねじ部24aからなる第1抜け止め部24とを有し」ているから、その前部に一体形成された「筒部22」は、リール本体に凹状に形成された凹部といえるものであって、「ピニオンギア16」や「ワンウェイクラッチ51」を収容しているから、本件発明1の「リール本体に凹状に形成され」た「収容凹部」に相当する。また、「ピニオンギア16の前部16aにロータ3が固定されて」いることからも明らかなように、「ピニオンギア16」は「リール本体2」の「筒部22」に部分的に収容支持されている。これらのことを踏まえると、甲3発明の「筐体部10には、ロータ3を回転駆動するロータ駆動機構5が収納され、」「前記ロータ駆動機構5は」「ピニオンギア16とを有し、」「前記筒部22の内部には、ロータ3の逆転(糸繰り出し方向の回転)を禁止するローラ型のワンウェイクラッチ51が配置され」ていることは、本件発明1の「リール本体」の「収容凹部」に「ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる」ことに相当する。
エ 甲3発明の「筒部22とロータ3との隙間をシールする」「連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されて筒部22内に保持され、ピニオンギア16とともに回転するスペーサ53に先細りのリップ部が接触するリップシール」である「シール部材52」と、本件発明1の「前記収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持することにより前記開口部をシールする磁気シール機構」とは、「収容凹部の開口部」を「シールするシール機構」で共通する。
オ 上記エを踏まえると、甲3発明の「ワンウェイクラッチ51の前部には、筒部22とロータ3との隙間をシールするシール部材52が装着され」ていることと、本件発明1の「前記一方向クラッチは、前記ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシールされること」とは、「一方向クラッチ」は「シール機構によってシールされる」点で共通する。
カ したがって、本件発明1と甲3発明とは、
「リール本体に内蔵された巻き取り駆動機構に連結されるハンドルの回転操作により、リール本体に支持されたスプールに釣糸を巻回する魚釣用リールにおいて、
リール本体に凹状に形成され、前記ハンドルの操作で連動回転するピニオンを部分的に収容支持するとともに、内部に一方向クラッチが設けられる収容凹部と、
前記収容凹部の開口部をシールするシール機構と、を備え、
前記一方向クラッチは、前記シール機構によってシールされる魚釣用リール。」
の点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点3)
シール機構に関して、
本件発明1は、「収容凹部の開口部と前記ピニオンとの間に磁気回路を形成し、この間に磁性流体を保持する」「磁気シール機構」であって、「ピニオンを挿通させる磁石と、前記ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体と、によってシール」するのに対し、
甲3発明は「筒部22とロータ3との隙間をシールする」「連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されて筒部22内に保持され、ピニオンギア16とともに回転するスペーサ53に先細りのリップ部が接触するリップシール」である「シール部材52」である点。

(2)相違点に係る判断
ア 相違点3について
(ア)甲第4号証に記載された事項について
甲第4号証には、上記第6の1(2)ア(ア)で述べたことが記載されている。
(イ)甲3発明への甲第4号証に記載された事項の適用について
a 甲第3号証には、上記第5の3で摘記したように、「本発明の課題は、スピニングリールのリール本体において、組立効率の向上を図りつつ蓋体部を装着するためのねじ部材の露出を可及的に少なくすることにある。」(段落【0004】)、「本発明によれば、リール本体を貫通するボルト部材ではなく、連結部材の第2抜け止め部を筒部の外周面に形成された第1抜け止め部に係合させることにより蓋体部の前部を筐体部に固定している。このため、蓋体部を筐体部に固定するためのねじ部材の本数を減らすことができ、重量増を招くことなくねじ部材の露出を可及的に少なくすることができる。また、リール本体を貫通するボルト部材が不要になるため、リール本体にボルト部材を貫通させるための空間が不要になるとともに、カバー部材を設けてリール本体の後部のねじ部材を隠す場合にもカバー部材の固定方法が制限されない。このため、リール本体の意匠の制限が緩和される。」(段落【0018】)と記載されているから、甲3発明は、リール本体の組立効率の向上を図りつつ蓋体部を装着するためのねじ部材の露出を可及的に少なくすることを課題とするものであって、リール本体のシールについては、「発明3に係るスピニングリールのリール本体は、発明1又は2に記載のリール本体において、筒部は、本体部の前部に形成され、前部にロータとリール本体との間の隙間をシールするシール部材を収納するシール部材収納部を有する。この場合には、筒部にシール部材が収納されるので、筒部からリール本体の内部に液体等の異物が侵入しにくくなる。」(段落【0008】)、「シール部材52は、筒部22とロータ3との隙間をシールするものであり、シール部材収納部22dに収納されている。シール部材52は、連結部材13の前壁部13bと外輪51aとに挟持されて筒部22内に保持されている。シール部材52は、ピニオンギア16とともに回転するスペーサ53に先細りのリップ部が接触するリップシールである。したがって、連結部材13は、蓋体部11を筐体部10に固定する機能に加えてシール部材52及び逆転防止機構50を保持して抜け止めする機能も有している。」(段落【0039】)と記載されているから、甲3発明は、リール本体のシール機構として「リップシール」などの「シール部材」が前提であるといえる。
b 甲第3号証には、リール本体のシール機構として、磁気シール機構を採用することは何ら記載も示唆もされていない。
c 甲第4号証に、弾性体製のシールを相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力が大きいために起こるおそれのある回転性能の低下を抑えることを目的として、磁気シール機構を採用することが記載されているとしても、甲第3号証には、シールと回転体との摩擦力が大きいために回転性能が低下するとの課題は記載されておらず、甲3発明において「リップシール」(「シール部材」)に代えて「磁気シール」を採用する動機づけがあるとはいえない。
d 甲第4号証に、磁気シールの装着箇所について「内装部品の外気に接触する側であればどのような位置でもよい」(段落【0078】)と記載されているとしても、ワンウェイクラッチ151(一方向クラッチ)が設けられる収容凹部(段落【0058】参照。)の開口部に磁気シール構造を設けることについては記載されていない。
e 甲3発明の「リップシール」と甲第4号証に記載された「磁気シール機構」とは、シールするとの機能は同じであるが、その構造は大きく異なり、甲3発明の「リップシール」に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」をそのまま適用できるものではなく、すなわち適用にあたっては取付箇所の構造を大きく変更しなければならない。
f 以上のことから、甲3発明において、「リップシール」(「シール部材」)に代えて甲第4号証に記載されている「磁気シール機構」を適用することは、当業者が容易に着想し得たとはいえない。
g また、甲3発明の「リップシール」(「シール部材」)に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」をそのまま適用できるものではないから、技術的にも適用することが容易であるとはいえない。
h さらには、本件発明1は「磁気シール機構」として「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」を備えるところ、甲第4号証に記載された「磁気シール機構」は「磁性流体が保持される筒状の磁性体」を備えるものではないから、甲3発明に甲第4号証に記載されている「磁気シール機構」を適用したとしても本件発明1の構成にはならない。

イ 請求人の主張について
(ア)請求人は、弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあることは、周知の課題である旨主張する。

しかしながら、一般的に弾性体製のシール部材を相対回転する回転体に接触させると、シールと回転体との摩擦力があるため回転性能が低下するおそれがあるとしても、甲第3号証には、シールと回転体との摩擦力が大きいために回転性能が低下するとの課題は記載されておらず、甲3発明において「リップシール」(「シール部材」)に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
仮に、甲3発明において、摩擦力に係る課題があるとしても、上記段落【0039】に記載されている事項を踏まえると、シール部材の形状や材質、配置などの変更で解決できる程度のものであって、磁気シール機構を採用する動機づけにはならない。

(イ)請求人は、甲9および甲13に記載されているように、回転部のシールの選択条件は、密封空間収容物の如何には関係がなく、また、甲10、甲11、甲12、甲13、甲14および甲17に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、技術常識であり、さらに、甲4の磁気シールを、魚釣用リールの収容凹部の開口部とピニオンとの間のシールに転用できることは自明である(甲9、甲13、甲2)から、甲3発明のシール部材52に代えて、甲4に記載の磁気シール124を適用することができ、磁気回路を形成するためにスペーサ53を磁性体で形成することは技術常識であり、甲3のシール部材52に合わせて、磁気シール124の外形を変形することは、当然のことである旨主張する。

しかしながら、一般的には回転部のシールの選択条件は密封空間収容物の如何には関係がないとしても、上記アでも述べたように、甲第3号証には、リール本体のシール機構として、磁気シール機構を採用することは何ら記載も示唆もされておらず、また、甲3発明の「リップシール」(「シール部材」)に代えて甲第4号証に記載された「磁気シール機構」を構造上そのまま適用できるものではないから、甲3発明において「リップシール」(「シール部材」)に代えて「磁気シール機構」を採用する動機づけがあるとはいえない。
また、甲第10号証(上記第5の5を参照。)、甲第11号証(上記第5の6を参照。)、甲第12号証(上記第5の7を参照。)、甲第13号証(上記第5の8を参照。)、甲第14号証(上記第5の9を参照。)に記載されているとおり、筒状の磁性体を軸に嵌合させて、磁石との間で磁気回路を形成することは、本件特許の出願日前から周知であるとしても、甲第3号証及び甲第4号証には「磁性流体が保持される筒状の磁性体」について何ら記載されていないから、甲3発明に甲第4号証に記載された「磁気シール機構」を適用する際に、「ピニオンに嵌合されて前記磁石との間で磁気回路を形成して前記磁性流体が保持される筒状の磁性体」をさらに備えることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。加えて、甲第3号証には、スペーサ53を磁性体で形成することは何ら記載も示唆もされておらず、磁気回路を形成するためにスペーサ53を磁性体で形成することが技術常識であるともいえない。
よって、請求人の主張する周知の課題や周知技術、技術常識を考慮しても、甲3発明のシール部材52に代えて甲第4号証に記載の磁気シールを適用して、本件発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者が容易に想到し得たこととはいえない。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、甲3発明に甲第4号証に記載された事項及び周知技術を適用して、本件発明1の相違点3に係る構成とすることは、当業者にとって容易に想到し得たとはいえない。

(3)むすび
以上のとおり、本件発明1は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明1についての特許は、無効とすべきものではない。

2 本件発明2について
本件発明2は、上記第6の2で述べたように、本件発明1の発明特定事項を実質的にすべて含むものであるから、本件発明1についてと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明2は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明2についての特許は、無効とすべきものではない。

3 本件発明3について
本件発明3は、上記第6の3で述べたように、本件発明2の発明特定事項をすべて含むものであるから、本件発明2についてと同様の理由により、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明3は、甲第3号証及び甲第4号証に記載された発明、並びに周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、本件発明3についての特許は、無効とすべきものではない

第9 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし3は、請求人が提出した証拠に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件発明1ないし3についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないので、無効にすべきものではない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-20 
結審通知日 2017-02-23 
審決日 2017-03-07 
出願番号 特願2009-33227(P2009-33227)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 竹中 靖典  
特許庁審判長 前川 慎喜
特許庁審判官 小野 忠悦
赤木 啓二
登録日 2013-04-19 
登録番号 特許第5249076号(P5249076)
発明の名称 魚釣用リール  
代理人 水野 浩司  
代理人 八島 耕司  
代理人 末吉 亙  
代理人 木村 満  
代理人 高橋 元弘  
代理人 大坂 知美  
代理人 杉本 和之  
代理人 後藤 稔  
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