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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B
管理番号 1327372
審判番号 不服2014-23187  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-11-14 
確定日 2017-04-21 
事件の表示 特願2012-507853「単眼の内視鏡画像からのリアルタイム深度推定」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月4日国際公開、WO2010/125481、平成24年10月22日国内公表、特表2012-525190〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2010年3月25日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2009年4月29日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成25年10月3日付けで拒絶理由が通知され、同年12月27日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが、平成26年7月17日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年11月14日に拒絶査定不服審判が請求され、それと同時に手続補正がなされ、その後、当審において、平成27年9月4日付けで拒絶理由が通知され、同年3月2日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年3月30日付けで拒絶理由が通知され、同年9月29日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされ、同年11月15日に面接審理が行われたものである。

第2 本願発明
この出願の請求項1に係る発明は、平成28年9月29日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるものであると認められ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「最小侵襲外科システムであって、
体の生体構造領域内のターゲット位置へと進められるとき、複数の内視鏡ビデオフレームを生成する内視鏡であって、前記内視鏡ビデオフレームが、前記生体構造領域の単眼の内視鏡画像を示す、内視鏡と、
前記内視鏡が前記ターゲット位置へと進められるとき、前記内視鏡ビデオフレームを受信するため前記内視鏡と通信する内視鏡手術制御ユニットとを有し、
前記内視鏡手術制御ユニットが、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像のフレーム時系列における少なくとも1つの画像点の光学フローを決定し、前記少なくとも1つの画像点の光学フローの関数として、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像における対象物の深度を示す深度場を推定するよう動作可能であり、
前記光学フローの決定が、複数のベクトルを含むベクトル場の生成を介して行われ、
各ベクトルが、前記フレーム時系列における前記画像点の1つの運動を示し、
前記深度場の推定が、前記ベクトル場における拡張焦点を特定し、前記拡張焦点からの各画像点の距離、各画像点における前記光学フローの振幅、及び前記内視鏡の速度の関数として、各画像点に関する深度を計算することを介して行われ、
前記内視鏡手術制御ユニットが更に、前記生体構造領域における前記ターゲット位置に達するための前記内視鏡に関する運動学的な経路を計画するよう動作可能であり、前記運動学的な経路の計画を容易にするために前記深度場推定を利用する、最小侵襲外科システム。」

第3 当審の拒絶理由通知
当審の平成28年3月30日付けの拒絶の理由の概略は、以下のとおりである。

(理由1)
本願の請求項1?13に係る発明は、本願優先日前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術分野における通常の知識を有するものが容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

刊行物1:特許第3041420号公報
刊行物2:胡 振程,FOEを用いた単眼視連続画像からの走行道路環境の奥行き推定 ,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,1998年12月18日,PRMU98-168,pp.141-148
刊行物3:特表2009-511155号公報

第4 刊行物の記載事項
1 上記刊行物1(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、工業用内視鏡や医療用内視鏡に好適な内視鏡システムおよび内視鏡画像の奥行き情報検出用制御プログラムを記録した記録媒体に関する。」

(2)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上述の点に鑑みてなされたもので、その目的は、単眼光学系の場合でも奥行き情報を的確に得られる内視鏡システムおよび内視鏡画像の奥行き情報検出用制御プログラムを記録した記録媒体を提供することにある。」

(3)「【0014】本発明の一実施形態における内視鏡システムの概略システム構成を図1に示す。図1に示すように、内視鏡1は光ファイバー、またはリレーレンズ系を用いた管体1aの先端に結合光学系1bを備えている。この内視鏡1の画像出力を移動情報抽出装置(オプティカルフロー抽出装置)6に入力する。移動情報抽出装置6は、内視鏡1が移動した時に得られる連続した複数の光学像から、対応する像平面内の各点(領域)における像の動き(像面内方向と移動量、いわゆるオプティカルフロー)を算出する。
【0015】移動情報抽出装置6の演算出力をさらに奥行き情報演算装置7に入力する。奥行き情報演算装置7には別途、内視鏡1に装着した内視鏡位置・方向検出センサ(空間位置・方向検出センサーともいう)8からの出力も入力している。内視鏡位置・方向検出センサ8は、内視鏡自身の空間位置および方向を実時間で計測する。
【0016】奥行き情報演算装置7は、これら移動情報抽出装置6からの出力情報と内視鏡位置・方向検出センサ8からの出力情報とから、内視鏡1に見えている領域が内視鏡先端から実際どの程度離れているかの距離情報に変換する。すなわち、奥行き情報演算装置7は、内視鏡自身の空間位置および方向の変化と画像の各点の移動量から、画像に見える各点(領域)の空間内3次元位置を算出する。」

(4)「【0022】奥行き情報演算装置7は、オプティカルフローから奥行き情報を推定するものであるが、この基本的な原理を図2から図7を参照して説明する。
【0023】まず、図2は内視鏡1を用いて観察対象物または、検査対象物の筒状形状4の内部を見ている状態を示す。ここで筒状形状4の特定の物体5a、5bは、内視鏡1のレンズ2を経由してビデオカメラの撮像面3に投影される。レンズ2としては、ロッドレンズ等の結像レンズを使用する。撮像面3にはRGB フィルタを備えたCCD (電荷結合素子)等の固体撮像素子を使用する。ここでは、説明が容易になるように撮像面3がレンズ2のごく近傍に描かれているが、撮像面3は実際は周知のリレーレンズ系を通して離れた位置にある場合が多い。また、このリレーレンズ系の代わりに、例えば、セルフォック(商標)として一般に知られている屈折率分布型光ファイバを使用することも可能である。
【0024】図3は内視鏡1が図2の位置から前方に、すなわち、物体5a、5bに近づく方向に移動した場合を示す。図2と同様に物体5a、5bは内視鏡1の撮像面3に投影されるが、内視鏡1に近づいた距離に比例して撮像面上の位置がややずれる。
【0025】これを撮像面3上でみた図が図4である。図4には、図2の状態での物体5a、5bの像5a’,5b’と、図3の状態での像5a’’,5b’’が図示されている。これら物体の像の移動距離から、図5に示すように、また後で詳述するように逆算して、内視鏡1からの物体5a、5bまでの相対位置を幾何光学的に求めることができる。図5において、3’は図2の撮像面3の位置、3’’は図3の撮像面の位置、dは撮像面3の移動距離を表わす。このときに内視鏡1自体の位置、方向を図1の内視鏡位置・方向検出センサ8で検出しておけば、以下に詳述するように、この検出値を用いて対象物体5a、5bの絶対位置を演算で求めることができる。」

以上の(1)?(4)から、刊行物1には、以下の発明が記載されていると認められる。

「単眼光学系の場合でも奥行き情報を的確に得られる医療用内視鏡システムであって、
内視鏡1の画像出力を移動情報抽出装置(オプティカルフロー抽出装置)6に入力するものであり、
移動情報抽出装置6は、内視鏡1が移動した時に得られる連続した複数の光学像から、対応する像平面内の各点(領域)における像の動き(像面内方向と移動量、いわゆるオプティカルフロー)を算出するものであり、
移動情報抽出装置6の演算出力をさらに奥行き情報演算装置7に入力するものであり、
奥行き情報演算装置7は、移動情報抽出装置6からの出力情報と内視鏡位置・方向検出センサ8からの出力情報とから、内視鏡1に見えている領域が内視鏡先端から実際どの程度離れているかの距離情報に変換する、すなわち、内視鏡自身の空間位置および方向の変化と画像の各点の移動量から、画像に見える各点(領域)の空間内3次元位置を算出するものであり、
内視鏡1を用いて観察対象物または、検査対象物の筒状形状4の内部を見ている状態での物体5a、5bの像5a’,5b’と、内視鏡1が前方に、すなわち、物体5a、5bに近づく方向に移動した状態での像5a’’,5b’’の移動距離から、逆算して、内視鏡1からの物体5a、5bまでの相対位置を幾何光学的に求めることができ、このときに内視鏡1自体の位置、方向を内視鏡位置・方向検出センサ8で検出しておけば、この検出値を用いて対象物体5a、5bの絶対位置を演算で求めることができる、医療用内視鏡システム。」(以下、「引用発明」という。)

2 上記刊行物2(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。

(1)「2・3 FOEの導入
FOEとは,カメラが並進運動のみを行う場合では,徴小時間におけるカメラの移動ベクトルの方向を示す並進軸と投影画像平面との交差点であると定義される^((7)).すなわち,図2に示すように,カメラの並進ベクトルの延長線OL(いわゆるカメラ運動の並進軸)と画像平面との交差点がFOEである.
FOEは,カメラの並進運動の解析について,非常に重要な役割を果たしている.FOEの位置が分かれば,周囲環境の相対奥行きや,オプティカルフロ-の計算や,衝突までの時間(Time-To-Impact,TTI)の推定などが簡単にできる.また,カメラが並進運動のみを行う場合では,周囲環境物の画像上での投影はすべてFOEからの放射状の動きをするというFOEの重要な性質があるの.実際のFOEの推定方法は3.2に記述する.」

(2)「2・5 走行道路環境の奥行き推定
車載カメラの運動パラメータが一旦分かれば,式(11)により各特徴点の相対奥行きZ/Tzは簡単に解ける.また,車の速度は車速センサなどによって計測できるので,サンプル時間内の車載カメラの移動距離Tzも簡単に求まる.そのため,周囲環境の絶対奥行きは次式で計算する.

奥行きの値は上記2式それぞれの計算結果の平均値を取ることにする.
理論的に,走行道路環境中の任意の点に対して,隣接フレーム上での対応点対を抽出すれば,その点の絶対奥行きが式(16)により計算できる.ただし,実際処理の中で,計算量を削減するため,一般的に画像中に鮮明な特徴を持つエッジ線分の点およびコーナー点などに対して奥行きを計算する.」

3 上記刊行物3(以下、「刊行物3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている(下線は当審で付した。)。
「【0012】
本発明のシステム、装置および方法は、6自由度から3自由度への配位の縮小を、位置を状態として使い、現在状態での配向設定を提供するr(ロール)、p(ピッチ)、w(ヨー)角を記憶することによって、およびカテーテルおよびスコープの先端の任意の向きからの運動学的に正しい角を維持するために使われる近傍を生成することによって、行う。これは、前記計算を今日のシステムで扱えるようにし、明日のコンピューティング・システムでは常により速くする。結果として得られる経路は運動学的に正しく(すなわち、所与の器具で達成可能)、無衝突で、離散化された空間において最適である。この方法を使って、生検のために気管支鏡が肺を通って目標位置に進むための計画が生成され、血管を通るカテーテル動きのための計画が達成される。」

第5 対比・判断
本願発明と引用発明とを対比する。

1 本願発明の「最小侵襲外科システム」に関して、本願明細書の段落【0001】には「本発明は一般に、内視鏡に関する最小侵襲的手術に関する。」と記載され、同段落【0002】には「一般に、最小侵襲的手術は内視鏡を利用する。内視鏡は、撮像能力を持つ長く柔軟な又は堅い管である。自然な開口部又は小さな切開を介して体に挿入されると、内視鏡は、外科医が手術を実行するとき、接眼レンズを通して又はスクリーンで見られることができる関心領域の画像を提供する。手術にとって本質的であるのは、外科医が対象物を回避しつつ、内視鏡を前進させることを可能にする、及び内視鏡のリアルタイムの位置追跡を容易にする、画像内の対象物の深度情報である。」と記載されていることから、本願発明の「最小侵襲外科システム」は「手術」器具を備えた「内視鏡システム」を意味するものと解される。
したがって、引用発明の「内視鏡システム」と本願発明の「最小侵襲外科システム」は「内視鏡システム」の点で共通する。

2 「医療用内視鏡」であれば「体の生体構造領域内のターゲット位置へと進められる」ことは自明であるから、引用発明の「移動した時に得られる連続した複数の光学像」の「画像出力」を得る「内視鏡1」であって「単眼光学系の」「医療用内視鏡」は、本願発明の「体の生体構造領域内のターゲット位置へと進められるとき、複数の内視鏡ビデオフレームを生成する内視鏡であって、前記内視鏡ビデオフレームが、前記生体構造領域の単眼の内視鏡画像を示す、内視鏡」に相当する。

3 引用発明の「内視鏡1が移動した時に得られる連続した複数の光学画像」の「画像出力」が「入力」される「移動情報抽出装置(オプティカルフロー抽出装置)6」と、本願発明の「前記内視鏡が前記ターゲット位置へと進められるとき、前記内視鏡ビデオフレームを受信するため前記内視鏡と通信する内視鏡手術制御ユニット」とは、「前記内視鏡が前記ターゲット位置へと進められるとき、前記内視鏡ビデオフレームを受信するため前記内視鏡と通信する内視鏡制御ユニット」の点で共通する。

4 引用発明の「移動情報抽出装置6」が「内視鏡1が移動した時に得られる連続した複数の光学像から、対応する像平面内の各点(領域)における像の動き(像面内方向と移動量、いわゆるオプティカルフロー)を算出」し、「奥行き情報演算装置7」が「移動情報抽出装置6からの出力情報から、内視鏡1に見えている領域が内視鏡先端から実際どの程度離れているかの距離情報に変換する、すなわち、内視鏡自身の空間位置および方向の変化と画像の各点の移動量から、画像に見える各点(領域)の空間内3次元位置を算出」して、「単眼光学系の場合でも奥行き情報を的確に得られる」ことと、本願発明の「前記内視鏡手術制御ユニットが、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像のフレーム時系列における少なくとも1つの画像点の光学フローを決定し、前記少なくとも1つの画像点の光学フローの関数として、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像における対象物の深度を示す深度場を推定するよう動作可能であ」ることとは、「前記内視鏡制御ユニットが、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像のフレーム時系列における少なくとも1つの画像点の光学フローを決定し、前記少なくとも1つの画像点の光学フローの関数として、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像における対象物の深度を示す深度場を推定するよう動作可能であ」る点で共通する。

5 引用発明の「内視鏡1を用いて検査対象物の筒状形状4の内部を見ている状態での物体5a、5bの像5a’,5b’と、内視鏡1が前方に、すなわち、物体5a、5bに近づく方向に移動した状態での像5a’’,5b’’の像の移動距離から、逆算して、内視鏡1からの物体5a、5bまでの相対位置を幾何光学的に求める」ことは、5a’から5a’’への移動、及び、5b’から5b’’への移動が複数のベクトルといえ、また、各移動がフレーム時系列における画像点の1つの運動を示すといえるから、本願発明の「前記光学フローの決定が、複数のベクトルを含むベクトル場の生成を介して行われ、各ベクトルが、前記フレーム時系列における前記画像点の1つの運動を示」すことに相当する。

6 引用発明の「内視鏡自身の空間位置および方向の変化」は内視鏡の速度と同視し得るから、引用発明の「内視鏡自身の空間位置および方向の変化と画像の各点の移動量から、画像に見える各点(領域)の空間内3次元位置を算出する」ことと、本願発明の「前記深度場の推定が、前記ベクトル場における拡張焦点を特定し、前記拡張焦点からの各画像点の距離、各画像点における前記光学フローの振幅、及び前記内視鏡の速度の関数として、各画像点に関する深度を計算することを介して行われ」ることとは、「前記深度場の推定が、各画像点における前記光学フローの振幅、及び前記内視鏡の速度の関数として、各画像点に関する深度を計算することを介して行われる」点で共通する。

してみると、本願発明と引用発明とは、
「内視鏡システムであって、
体の生体構造領域内のターゲット位置へと進められるとき、複数の内視鏡ビデオフレームを生成する内視鏡であって、前記内視鏡ビデオフレームが、前記生体構造領域の単眼の内視鏡画像を示す、内視鏡と、
前記内視鏡が前記ターゲット位置へと進められるとき、前記内視鏡ビデオフレームを受信するため前記内視鏡と通信する内視鏡制御ユニットとを有し、
前記内視鏡制御ユニットが、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像のフレーム時系列における少なくとも1つの画像点の光学フローを決定し、前記少なくとも1つの画像点の光学フローの関数として、前記生体構造領域の前記単眼の内視鏡画像における対象物の深度を示す深度場を推定するよう動作可能であり、
前記光学フローの決定が、複数のベクトルを含むベクトル場の生成を介して行われ、
各ベクトルが、前記フレーム時系列における前記画像点の1つの運動を示し、
前記深度場の推定が、各画像点における前記光学フローの振幅、及び前記内視鏡の速度の関数として、各画像点に関する深度を計算することを介して行われる、内視鏡システム。」
である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1)
内視鏡システム及び内視鏡制御ユニットは、本願発明では「最小侵襲外科システム」及び「内視鏡手術制御ユニット」であるのに対し、引用発明ではそのように特定されていない点。

(相違点2)
各画像点における前記光学フローの振幅、及び前記内視鏡の速度の関数として、各画像点に関する深度を計算することを介して行われる深度場の推定が、本願発明では「前記ベクトル場における拡張焦点を特定し、前記拡張焦点からの各画像点の距離」をも関数として行われるものであるのに対し、引用発明ではそのように特定されていない点。

(相違点3)
内視鏡制御ユニットが、本願発明では「更に、前記生体構造領域における前記ターゲット位置に達するための前記内視鏡に関する運動学的な経路を計画するよう動作可能であり、前記運動学的な経路の計画を容易にするために前記深度場推定を利用する」ものであるのに対し、引用発明はそのように特定されていない点。

(相違点1について)
内視鏡に手術器具を備え内視鏡による手術を制御可能とすることは周知慣用技術であり、これを引用発明に適用して相違点1に係る本願発明の構成にすることは当業者が容易になし得るものである。

(相違点2について)
刊行物2には、上記第4の2(1)のように、FOEの位置が分かれば、オプティカルフローの計算が簡単にできる旨記載され、上記2(2)のように、絶対奥行きの計算式(16)が示されている。ここで、この式中のx_(n)-x_(0)またはy_(n)-y_(0)は拡張焦点からの各画像点の距離に、x_(n+1)-x_(n)またはy_(n+1)-y_(n)は各画像点におけるオプティカルフローの振幅に、T_(Z)はサンプル時間内の車載カメラの移動距離すなわち車載カメラの移動速度に、それぞれ相当するものといえ、よって、この式は、拡張焦点からの各画像点の距離、各画像点におけるオプティカルフローの振幅、及び車載カメラの移動速度の関数として、絶対奥行きを計算することができることを示しているといえる。
そして、引用発明は内視鏡画像の奥行き情報を求めるのに対し、刊行物2に記載されたものは車載カメラで撮影された走行道路環境の奥行き推定を行うものであるところ、引用文献1の段落【0021】に移動情報抽出装置(オプティカルフォロー抽出装置)6に利用可能なオプティカルフローを推定する手法として内視鏡の技術分野に限らない画像処理技術が挙げられているように、引用発明における移動情報抽出装置(オプティカルフォロー抽出装置)6の演算出力が入力される奥行き情報演算装置7においても、内視鏡の技術分野に限らない画像処理の技術を適用することは当業者が容易に想起し得るものであって、また、自動車の制御のために使われる諸技法が内視鏡の制御に適用可能であることは、例えば、刊行物3(「【0010】…ビークル(vehicle)制御のために使われる諸技法が、カテーテルおよびスコープの制御に、非自明な形で適用可能である。」)に記載されているように当業者が容易に想起し得るものであるから、引用発明において、オプティカルフローの計算を簡単にするために、引用文献2の上記技術事項を適用して相違点2にかかる本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得るものである。

(相違点3について)
本願発明の「前記内視鏡手術制御ユニットが更に、前記生体構造領域における前記ターゲット位置に達するための前記内視鏡に関する運動学的な経路を計画するよう動作可能であり、前記運動学的な経路の計画を容易にするために前記深度場推定を利用する」ことは、平成28年11月15日の面接審理で請求人が説明したように、「前記内視鏡手術制御ユニットが更に、前記生体構造領域における前記ターゲット位置に達するための前記内視鏡に関する運動学的な経路を計画するよう動作可能であり、前記計画された運動学的な経路の実現を容易にするために前記深度場推定を提示する」ことを意味するものと認められる。
そして、刊行物3には、上記第4の3のように「生検のために気管支鏡が肺を通って目標位置に進むための計画が生成され、血管を通るカテーテル動きのための計画が達成される」技術事項が記載されており、これを、引用発明の内視鏡に適用して上記本願発明の構成に想到することは当業者が容易になし得るものである。

(効果について)
本願発明の奏する効果は、引用発明並びに刊行物2及び3に記載された技術事項から、当業者が予測できる範囲のものであり、格別顕著なものとはいえない。

よって、本願発明は、引用発明並びに刊行物2及び3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、その余の請求項について検討するまでもなく、拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2016-11-25 
結審通知日 2016-11-29 
審決日 2016-12-12 
出願番号 特願2012-507853(P2012-507853)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 原 俊文  
特許庁審判長 郡山 順
特許庁審判官 藤田 年彦
▲高▼見 重雄
発明の名称 単眼の内視鏡画像からのリアルタイム深度推定  
代理人 津軽 進  
代理人 笛田 秀仙  
代理人 五十嵐 貴裕  

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