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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 補正却下を取り消さない 前置又は当審の拒絶理由により拒絶すべきものである C08L
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 補正却下を取り消さない 前置又は当審の拒絶理由により拒絶すべきものである C08L
管理番号 1327389
審判番号 不服2015-10522  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2015-06-03 
確定日 2017-04-13 
事件の表示 特願2011- 79237「熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成24年11月 8日出願公開、特開2012-214554、請求項の数(8)〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、平成23年3月31日の出願であって、平成26年6月9日付けで拒絶理由が通知され、同年8月8日に意見書及び手続補正書が提出され、平成27年2月27日付けで拒絶査定がなされたが、これに対し、その指定期間内である同年6月3日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され、平成27年8月27日付けで前置報告がされ、平成28年11月11日付けで、平成27年6月3日に提出された手続補正書による補正が却下されるとともに、拒絶理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月16日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし8に係る発明は、平成29年1月16日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されたとおりのものであって、そのうち、本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、次のとおりのものである。

「【請求項1】
体積平均粒子直径が2nmから100nmであって、表面がシランカップリング剤及びオルガノシラザンで処理されており、
一次粒子で分散するシリカ粒子材料と、
前記シリカ粒子材料を分散する熱可塑性樹脂(前記シリカ粒子材料と共有結合しているものを除く)と、
を有し、
前記シリカ粒子材料は、式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基及び式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基と、両官能基が表面に結合するシリカ粒子とからなり、
下記(A)?(C)の構成のうちの少なくとも1つを有する熱可塑性樹脂組成物。
(上記式(1)、(2)中;X^(1)はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X^(2)、X^(3)は-OSiR_(3)及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択され;Y^(1)はRであり;Y^(2)、Y^(3)はR及び-OSiY^(4)Y^(5)Y^(6)よりそれぞれ独立して選択される。Y^(4)はRであり;Y^(5)及びY^(6)は、R及び-OSiR_(3)からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1?3のアルキル基から独立して選択される。なお、X^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかは、近接する官能基のX^(2)、X^(3)、Y^(2)、Y^(3)、Y^(5)、及びY^(6)の何れかと-O-にて結合しても良い。)
(A)前記シリカ粒子材料を全体の質量を基準として5%から60%含有する。
(B)前記式(1)で表される官能基と前記式(2)で表される官能基との存在数比が1:12?1:60である。
(C)前記シリカ粒子材料は、水を含む液状媒体中でシランカップリング剤及びオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程をもつ表面処理方法により処理され、
前記シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
前記シランカップリング剤と前記オルガノシラザンとのモル比は、前記シランカップリング剤:前記オルガノシラザン=1:2?1:10である。」

3 引用文献1に記載された事項及び引用発明
(1)平成28年11月11日付けの当審における拒絶理由に引用され、本願出願前に頒布された特開2010-254548号公報(以下「引用文献1」という。)には、次のとおり記載されている(注:下線は当審で付した。)。

ア「【請求項1】
アルカリ金属を含有する粗製コロイダルシリカを表面処理剤で湿式処理する表面処理工程と、
鉱酸含有液、水の順で洗浄して精製コロイダルシリカとする精製工程と、
を有することを特徴とするコロイダルシリカの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理剤はシランカップリング剤及びシラザン類からなる群から選択される1以上の化合物を含む請求項1に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項3】
前記表面処理剤はシランカップリング剤から選択される1以上の化合物とシラザン類から選択される1以上の化合物とを含む請求項1に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項4】
前記鉱酸含有液は鉱酸を0.1質量%以上含有する水溶液である請求項1?3の何れか1項に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項5】
含水している前記精製コロイダルシリカに水よりも沸点が高い水系有機溶媒を添加後、前記水系有機溶媒に溶解可能な混合材料を混合し、水を除去する工程を有する請求項1?4の何れか1項に記載のコロイダルシリカの製造方法。
【請求項6】
抽出液中のアルカリ金属イオンの濃度が固形分の質量を基準として5ppm以下である、請求項1?5の何れか1項に記載の製造方法にて製造しうることを特徴とするコロイダルシリカ。」

イ「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑み完成したものであり、高純度で安価なコロイダルシリカ及びそのようなコロイダルシリカを製造する方法を提供することを解決すべき課題とする。」

ウ「【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、アルカリ金属を含むコロイダルシリカであっても表面処理剤にて処理後、鉱酸及び水で洗浄することにより、アルカリ金属を除去することが可能になり、高い純度のコロイダルシリカを得ることができる。水中のアルカリ金属を除去しようとして粒子を乾燥等により水分から分離しても、シリカが硬く凝集するなどの不具合が生じていたが、本方法によれば、コロイダルシリカは凝集せずに高純度化することができる。
【0012】
請求項2に係る発明によれば、表面処理剤としてシランカップリング剤、シラザン類からなる群から選択される化合物を採用することで、アルカリ金属の洗浄除去性が向上する。特に請求項3に係る発明のように、シランカップリング剤及びシラザン類の双方を用いることで顕著な効果を発揮する。
・・・
【0014】
請求項5に係る発明によれば、コロイダルシリカを有機溶媒や混合材料中に高度に分散した状態にすることができる。」

エ「【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のコロイダルシリカ及びその製造方法について以下実施形態に基づき詳細に説明する。本明細書においてコロイダルシリカとは粒径が5nm?100nm程度の範囲のものをいう。本実施形態のコロイダルシリカ及び本実施形態の製造方法にて得られるコロイダルシリカはEMC、ダイアタッチ、フィルム、プリプレーグ、TIM、UF、穴埋め材、ダム材、レジスト、リッドシーツ接着剤、放熱材接着剤、LCD接着剤、LCD封止材、光学接着剤、導波路材、電子ペーパ・有機ELにおける隔壁材、MEMS、インプリンティング転写材、ハードコート、プラスチック塗料、自動車用塗料などの組成物に添加されるコロイダルシリカとして採用可能である。特に電子部品などに関連する用途のように、不純物として含まれるアルカリ金属濃度の値が小さい方が望ましい用途に好適である。また、透明性が要求されるディスプレー、発光素子等のハードコート、カラーフィルタ等のオーバーコート、レジストインキ、MEMS等の光ナノインプリンティング材料に用いられる組成物の構成要素として好適である。これらの組成物はエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などに本発明のコロイダルシリカを分散させることで調製できる。コロイダルシリカの表面は、そのまま、何らかの表面処理剤(シランカップリング、シラザンなど)により処理されていても良い。
【0017】
(コロイダルシリカの製造方法)
本実施形態のコロイダルシリカの製造方法は表面処理工程と精製工程とその他必要な工程とを有する。
【0018】
・表面処理工程
表面処理工程は粗製コロイダルシリカを表面処理剤にて湿式処理する工程である。粗製コロイダルシリカは不純物としてアルカリ金属を含有する。粗製コロイダルシリカは水ガラス由来のものや金属ケイ素粉末を原料として製造されたものが例示できる。水ガラスは中和したり、イオン交換により金属イオンを除去することでコロイダルシリカを製造できるが、その際にアルカリ金属を完全に除去することが困難である。金属ケイ素粉末を原料とする方法はアルカリ金属の存在下で水を反応させる反応を有しており、その際に用いるアルカリ金属の除去は困難である。
【0019】
表面処理剤はコロイダルシリカの表面に化学的に結合するものや物理的に結合するものが挙げられる。表面処理剤としては表面を疎水化するものが望ましい。表面処理剤としてはシランカップリング剤、シラザン類が例示できる。特にシランカップリング剤とシラザン類との双方を用いることが望ましい。シランカップリング剤、シラザン類により導入される官能基としてはビニル基などのアルケニル基、アルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、ナフチル基、ベンジル基、アミノ基、水酸基、アクリル基、メタクリル基が例示できる。表面処理剤を添加する量としてはコロイダルシリカの表面積を基準として、4μmol/m^(2)?12μmol/m^(2)程度が好ましく、5μmol/m^(2)?8μmol/m^(2)程度がより好ましい。表面処理剤はコロイダルシリカを水に分散した状態で反応(湿式処理)させることが望ましい。
【0020】
・精製工程
精製工程は表面処理した粗製コロイダルシリカに対し、鉱酸含有液、水の順で洗浄を行う工程である。鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。鉱酸含有液としては水溶液が望ましい。鉱酸の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。鉱酸含有液の量としては洗浄対象である粗製コロイダルシリカの質量を基準として6?12倍程度にすることができる。
【0021】
鉱酸含有液による洗浄は複数回数行うことも可能である。鉱酸含有液による洗浄は粗製コロイダルシリカを浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には48時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。鉱酸含有液中にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0022】
その後、洗浄して懸濁させた粗製コロイダルシリカをろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄は鉱酸含有液による洗浄と同じく、コロイダルシリカを分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取したコロイダルシリカに対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄はコロイダルシリカを洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になるまで行ったり、洗浄後のコロイダルシリカから抽出したアルカリ金属濃度が5ppm以下になるまで行ったりすることができる。水にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0023】
・その他の工程
精製工程の後、残存する水を除去することができる。水の除去は常法により行うことができる。例えば、加熱したり、減圧(真空)下に放置したり、などを行うことができる。」

オ「【実施例】
【0029】
(試験例1)
粗製コロイダルシリカとしてのコロイダルシリカ(スノーテックスOL:シリカ粒径50nm:日産化学製:水ガラス原料)を水-IPAの混合液に懸濁した(シリカ固形分が15質量%)。この懸濁液に対し、シリカの固形分20質量部あたり、ビニルトリメトキシシラン(KBM1003:信越化学工業製)が0.29質量部、ヘキサメチルジシラザンが0.90質量部になるように添加した(表面処理工程)。この懸濁液136質量部に対し、鉱酸含有液としての濃塩酸(35質量%)を2.7質量部添加し、塩酸濃度0.51質量%にした。その後、撹拌を行った後24時間静置し、コロイダルシリカをろ布を用いて加圧ろ取した。ろ布上のコロイダルシリカに対してイオン交換水にて充分に洗浄を行った(精製工程)。得られたコロイダルシリカケーキを120℃で48時間乾燥した。その後、ミキサーにて粉砕して試験例1の試験試料とした。」

カ「【0039】
(試験例8)
粗製コロイダルシリカとしてのコロイダルシリカ(シリカ粒径10nm:上海応用物理研究所試作品:金属ケイ素粉末原料)20質量部に対してビニルトリメトキシシラン(KBM1003:信越化学工業製)1.36質量部とヘキサメチルジシラザン8.0質量部で湿式処理したコロイダルシリカの水IPA混合溶媒の懸濁液200質量部(シリカ濃度=約15%)に濃塩酸(36質量%)8.8質量部を加え、塩酸濃度を0.51%にして撹拌後72時間静置した。静置後、この懸濁液を加圧式濾過機によってろ過し、ろ布で捕集したシリカをイオン交換水で充分に洗浄し、含水シリカケーキを得た。このシリカケーキを120℃で48時間加熱乾燥して得たシリカ凝集体をミキサー等によって粉砕することで、シリカ乾燥粉体を得られる。この粉をMEK、ジグライム、PGMAC、エポキシ樹脂(ZX1059:東都化成製)、アクリル樹脂に分散した結果、何れも完全な透明であった。
【0040】
(分散試験)
試験例1の試験試料100質量部にメチルエチルケトンを89質量部添加した。その後、ホモミキサーにより撹拌して懸濁液とした。得られた混合液を湿式ジェットミルにて140MPaの噴射圧にて分散させた。シリカの固形分を49.7質量%含むシリカ分散スラリーを得た。このスラリーを観察したところ、凝集体は観測されず、高度に分散されていた。」

(2)上記(1)の記載、特に段落【0039】の試験例8の記載からみて、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「シリカ乾燥粉体をアクリル樹脂に分散した完全に透明な組成物であって、当該シリカ乾燥粉体は、コロイダルシリカ(シリカ粒径10nm)20質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン1.36重量部とヘキサメチルジシラザン8.0質量部で湿式処理したコロイダルシリカの水IPA混合溶媒の懸濁液に、濃塩酸を加え静置した後の懸濁液を加圧式濾過機によってろ過し、イオン交換水で洗浄して得られた含水シリカケーキを、乾燥して得たシリカ凝集体を、ミキサーで粉砕することにより得られたものである、組成物。」

4 本願発明と引用発明との対比
本願発明は、(A)?(C)の構成のうちの少なくとも1つを有する熱可塑性樹脂組成物に係る発明であるところ、このうち、(C)の構成を有する熱可塑性樹脂組成物に関する本願発明について、以下、検討する。

本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「シリカ乾燥粉体」、「ビニルトリメトキシシラン」及び「ヘキサメチルジシラザン」は、本願発明の「シリカ粒子材料」、「シランカップリング剤」及び「オルガノシラザン」に、それぞれ相当し、引用発明の「ビニルトリメトキシシラン」は、3つのアルコキシ基と1つのビニル基とを持つものである。
引用発明のシリカ乾燥粉体は、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンを用いて水IPA混合溶媒中で湿式処理されているから、その「表面がシランカップリング剤及びオルガノシラザンで処理されて」おり、その処理は、「水を含む液体媒体中」で行われている。
引用発明の「ビニルトリメトキシシラン1.36質量部」(注:分子量148.2、0.0092モル(1質量部を1gとして計算した場合。以下同様。))と「ヘキサメチルジシラザン8.0質量部」(注:分子量161.4、0.0496モル)のモル比は、計算すると1:約5.4(注:0.0496÷0.0092)となり、本願発明のシランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比である「1:2?1:10」の範囲と重複一致する。 また、引用文献1には、シリカ乾燥粉体とアクリル樹脂とを反応させることは記載されていないことから、引用発明のアクリル樹脂は、シリカ乾燥粉体とは共有結合していないと認められる。

したがって、両発明は、
「表面がシランカップリング剤及びオルガノシラザンで処理されているシリカ粒子材料と、
前記シリカ粒子材料を分散する樹脂(前記シリカ粒子材料と共有結合しているものを除く)と、
を有し、
下記(C)の構成を有する樹脂組成物。
(C)前記シリカ粒子材料は、水を含む液状媒体中でシランカップリング剤及びオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する表面処理工程をもつ表面処理方法により処理され、
前記シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、ビニル基と、を持ち、
前記シランカップリング剤と前記オルガノシラザンとのモル比は、前記シランカップリング剤:前記オルガノシラザン=1:2?1:10である。」
である点で一致し、相違点1ないし3において一応相違している。

<相違点1>
シリカ粒子材料は、本願発明においては、「式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基及び式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基と、両官能基が表面に結合するシリカ粒子(注:置換基の説明は省略)」とからなるのに対し、引用発明においては、シリカ粒子の表面に結合する官能基については特定されていない点。
<相違点2>
シリカ粒子材料は、本願発明においては、「体積平均粒子直径が2nmから100nm」であって、「一次粒子で分散する」ものであるのに対し、引用発明においては、対応する事項が特定されていない点。
<相違点3>
シリカ粒子材料を分散する樹脂は、本願発明においては、「熱可塑性樹脂」であるのに対し、引用発明においては、アクリル樹脂である点。

5 判断
(1)相違点1について
ア 引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、コロイダルシリカをビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンで湿式処理したものであるところ、コロイダルシリカの表面にどのような基が存在しているかを検討すると、まず、コロイダルシリカの表面の水酸基が、ヘキサメチルジシラザンと反応して、-OSi(CH_(3))_(3)という、式(2):-OSiY^(1)Y^(2)Y^(3)で表される官能基(Y^(1)?Y^(3)はメチル基)となるといえる。
また、当該表面の残りの水酸基は、ビニルトリメトキシシランと反応して、-OSi(CH=CH_(2))(OCH_(3))_(2)となり、そのメトキシ基は、さらにヘキサメチルジシラザンと反応して-OSi(CH_(3))_(3)となり、全体として、式(1):-OSiX^(1)X^(2)X^(3)で表される官能基(X^(1)=ビニル基、X^(2)及びX^(3)=-OSi(CH_(3))_(3))となるといえる。
したがって、引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、その表面に式(1)及び式(2)で表される官能基が結合していると認められる。

イ このことは、次のとおり、本願明細書の記載とも整合する。
(ア)本願明細書の段落【0046】には、本願発明における式(1)で表される官能基(第1の官能基)は、シリカ粒子の表面に存在する水酸基が、X^(1)(ビニル基など)を有するシランカップリング剤に由来する官能基で置換され、さらに、当該カップリング剤のアルコキシ基が、オルガノシラザンに由来する式(2)で表される官能基で置換されたものであること、及び、本願発明における式(2)で表される官能基(第2の官能基)は、シリカ粒子表面に残存する水酸基が、オルガノシラザンに由来する式(2)で表される官能基で置換されたものであることが記載されている。
また、本願明細書の段落【0047】には、表面処理工程においては、シリカ粒子を、シランカップリング剤とオルガノシラザンで同時に表面処理しても良いし、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良く、何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基が第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調節すれば良いことが記載されている。
そして、本願明細書の段落【0038】及び【0046】には、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比が、1:2?1:10であると、得られたシリカ粒子材料における式(1)で表される官能基(第1の官能基)と式(2)で表される官能基(第2の官能基)との存在数比は理論上1:12?1:60となり、当該存在数比がこの範囲にあるシリカ粒子材料は、樹脂に対する親和性及び凝集抑制効果に特に優れることが記載されている。
以上の本願明細書の記載によれば、X^(1)を有するシランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比を1:2?1:10としてシリカ粒子を同時に表面処理すると、式(1)及び式(2)で表される官能基が両方とも表面に結合するシリカ粒子となり、その結果、樹脂に対する親和性及び凝集抑制効果に特に優れると解される。

(イ)そうすると、引用発明は、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとをモル比1:約5.4として、コロイダルシリカを同時に表面処理したものであるから、本願発明と同様に、式(1)及び式(2)で表される官能基が表面に結合するシリカ粒子となっていると認められる。

ウ 以上のとおり、相違点1は、実質的な相違点とはいえない。

(2)相違点2について
ア(ア)引用文献1の段落【0011】、【0012】及び【0014】には、アルカリ金属を含むコロイダルシリカであっても、請求項1に記載された「シランカップリング剤及びシラザン類の双方を含む表面処剤にて処理後、鉱酸及び水で洗浄する方法」により、アルカリ金属を除去することが可能になり、高い純度のコロイダルシリカを得ることができ、水中のアルカリ金属を除去しようとして粒子を乾燥などにより水分から分離しても、コロイダルシリカは「凝集せずに」高純度化することができ、当該コロイダルシリカを、有機溶媒や混合材料中に「高度に分散」した状態にすることができることが記載されている。
引用文献1の上記記載における「凝集せずに」「高度に分散」とは、凝集せずに分散、すなわち、凝集していない粒子である一次粒子の状態で分散する(一次粒子で分散する)ことを意味すると解される。

(イ)また、引用文献1の段落【0029】には、上記「シランカップリング剤及びシラザン類の双方を含む表面処剤にて処理後、鉱酸及び水で洗浄する方法」の具体例として、コロイダルシリカ(シリカ粒径50nm)20質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン0.29質量部(注:0.00196モル)とヘキサメチルジシラザン0.90質量部(注:0.00558モル)で湿式処理(注:ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンのモル比=1:約2.8)したコロイダルシリカの水IPA混合溶媒の懸濁液に、濃塩酸を加え静置した後の懸濁液をろ過し、イオン交換水で洗浄して得られたコロイダルシリカケーキを、乾燥し、ミキサーで粉砕することにより、「試験例1の試験試料」を調製したことが記載され、段落【0040】には、「試験例1の試験試料」をメチルエチルケトン(MEK)中分散させて、固形分49.7質量%含むシリカ分散スラリーを得たところ、凝集体は観察されず、高度に分散されていたことが記載されている。
したがって、引用文献1に記載された「試験例1の試験試料」は、「凝集体は観察されず、高度に分散」、すなわち、上記(ア)のとおり、一次粒子で分散するものであると認められる。

(ウ)そして、引用文献1の段落【0039】の「試験例8」も、上記「シランカップリング剤及びシラザン類の双方を含む表面処剤にて処理後、鉱酸及び水で洗浄する方法」の具体例として記載されたものであり、当該「試験例8」に基づく引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、上記(ア)及び(イ)のとおり、「試験例1の試験試料」と同様に、一次粒子で分散するものとして記載されていることは明らかである。
加えて、引用発明は、「シリカ乾燥粉体をアクリル樹脂に分散した完全に透明な組成物」であって、シリカ乾燥粉体がアクリル樹脂中においても、凝集して大きな塊を形成することなく分散したことにより、完全に透明な組成物となっていると解されることからも、引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、一次粒子で分散するものであると認められる。

(エ)また、引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、一次粒子で分散するものであるから、表面処理後の体積平均粒子直径は、表面処理前(シリカ粒径10nm)からそれほど大きくはなっておらず、本願発明の「2nmから100nm」に包含されるものであると認められる。

(オ)以上のとおり、引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、「一次粒子で分散する」ものであり、その体積平均粒子直径は「2nmから100nm」に包含されるものであるから、相違点2は、実質的な相違点ではない。

イ 仮に、相違点2が実質的な相違点であるとしても、一般に、無機粒子を樹脂と混合するに当たり、凝集して粒径が大きくなったものよりも、凝集が少なく粒径が小さいものを用いた方が、樹脂中に無機粒子がより均一に混合しやすいことは、当業界において周知であること(例えば、特開2003-119019号公報:段落【0004】、【0005】、特開2004-161900号公報:段落【0010】等参照)、及び、引用文献1には、開示された方法により、コロイダルシリカは凝集せずに高純度化することができると記載されていること(段落【0011】)を、併せ考慮すると、引用発明において、シリカ乾燥粉体をアクリル樹脂中により分散しやすくするために、シリカ乾燥粉体をミキサーで粉砕することにより、凝集体を一次粒子にまで解離させて、体積平均粒径2nmから100nmの範囲に入るほど粒径を小さくしてからアクリル樹脂に分散させることにより、相違点2に係る本願発明の構成とすることは、当業者が容易に想到することができたものといわざるを得ない。

(3)相違点3について
ア 当業界において、アクリル樹脂は、一般に、熱可塑性樹脂として認識されており(例えば、特開平2-70758号公報:特許請求の範囲、特開2010-222543号公報:段落【0024】参照)、引用文献1の「これらの組成物はエポキシ樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂などに本発明のコロイダルシリカを分散させることで調製できる。」(段落【0016】)の記載も併せ考慮すると、引用発明の「アクリル樹脂」は、熱可塑性樹脂であると認められる。
したがって、相違点3は、実質的な相違点とはいえない。

イ 仮に、アクリル樹脂が熱可塑性樹脂であるとは限らないとしても、引用文献1の段落【0016】の記載を参照して、引用発明において、アクリル樹脂に代えて適当な熱可塑性樹脂を用いることは、当業者が必要に応じてなし得る事項にすぎない。

(4)小括
上記(1)ないし(3)のとおり、相違点1ないし3は、実質的な相違点ではないから、本願発明は、引用文献1に記載された発明である。
仮に、相違点2及び3が実質的な相違点であるとしても、本願発明は、引用発明並びに引用文献1の記載及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6 審判請求人の主張について
(1)審判請求人は、平成29年1月16日に提出した意見書において、「そのようなシリカ粒子材料をどのように製造するかについては、本願の熱可塑性樹脂組成物を製造する1つの例である新請求項7の記載が参考になります。新請求項7では表面処理工程として、(i)「前記シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、前記第2の処理工程は、前記第1の処理工程後に行われる」との工程を有することと、(ii)「表面処理工程・・・により処理された後、鉱酸により沈殿され且つ水にて洗浄される」こととを有しています。
・・・
つまり、(i)の工程と(ii)の工程との双方を組み合わせ、必要な一定量以上のオルガノシラザン由来の官能基を導入することでシリカ粒子材料を一次粒子にまで分散させることが可能です。」と主張し、引用文献1について、「シランカップリング剤とシラザン類(本願のオルガノシラザンに相当)とを組み合わせて表面処理を行うことが記載はされていますが、シランカップリング剤にて処理した後にシラザン類にて処理することの記載はありません。」と主張している。

しかしながら、上記5(1)イのとおり、本願明細書には、シランカップリング剤とオルガノシラザンを同時に処理してもよいことが記載されていることからみて、(i)の工程のように、シランカップリング剤で処理した後にオルガノシラザンで処理した場合にのみ、シリカ粒子材料は一次粒子で分散すると限定解釈することはできない。
そして、引用文献1の記載からみて、引用発明に係るシリカ乾燥粉体は、「一次粒子で分散する」ものであると認められることは、上記5(2)アのとおりである。
したがって、審判請求人の上記主張は採用することはできない。

(2)審判請求人は、同意見書において、「刊行物1に開示の方法では得られたシリカ粒子材料は粉砕しないと粉末にならないことが開示されて」いるとも主張している。

しかし、本願明細書の段落【0043】には、「なお、シリカ粒子材料は、例え僅かに凝集した場合にも、超音波処理することによって再度分散可能である。」と記載されていることから、外からの物理的な力を加えて一次粒子となったものも、本願発明に係るシリカ粒子材料に含まれるといえるから、引用発明において、乾燥して得た凝集体をミキサーで粉砕するという、外からの物理的な力を加えてシリカ乾燥粉体を得ているからといって、直ちに、引用発明に係るシリカ乾燥粉体は「一次粒子で分散するシリカ粒子材料」ではないということはできない。

7 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
また、本願発明は、引用発明並びに引用文献1の記載及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-07 
結審通知日 2017-02-09 
審決日 2017-03-01 
出願番号 特願2011-79237(P2011-79237)
審決分類 P 1 8・ 121- WZB (C08L)
P 1 8・ 113- WZB (C08L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大木 みのり  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 藤原 浩子
前田 寛之
発明の名称 熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法  
代理人 大川 宏  

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