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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02C
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02C
管理番号 1327403
審判番号 不服2016-6468  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-04-28 
確定日 2017-04-13 
事件の表示 特願2012- 19289「染色プラスチックレンズ」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 9月13日出願公開、特開2012-177909〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成24年1月31日の出願(優先権主張平成23年1月31日)であって、平成27年10月20日付けで拒絶の理由が通知され、同年12月24日付けで手続補正がなされるとともに意見書が提出され、平成28年1月21日付けで拒絶査定(以下「原査定」という。)がなされ、これに対して、同年4月28日付けで拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成28年4月28日付け手続補正についての補正の却下の決定
〔補正の却下の決定の結論〕
平成28年4月28日付け手続補正を却下する。

〔理由〕
1 本件補正の内容
(1)平成28年4月28日付け手続補正(以下「本件補正」という。)は、特許請求の範囲についてするものであって、平成27年12月24日付け手続補正によって補正された本件補正前の請求項1に、
「プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ1色以上の染料で、かつ裏面と表面とが異なる染料で着色され、染色濃度が80%以上であることを特徴とする染色プラスチックレンズ。」とあったものを、

「プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ1色又は2色の染料で、かつ裏面と表面とが異なる染料で着色され、染色濃度が80%以上であることを特徴とする染色プラスチックレンズ。」とする補正を含むものである(下線は当審で付した。以下同様。)。

(2)本件補正後の請求項1に係る上記(1)の補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「染料」が「1色以上」であるものから「1色又は2色」であるものとするものである。

2 本件補正の目的
上記1の補正は、本件補正前の請求項1において記載されていた「染料」を、願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)の【0037】ないし【0039】の記載に基づいて、「1色又は2色」であることに限定するものである。
そうすると、本件補正後の請求項1は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たす。また、本件補正は、本件補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項を限定するものであって、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が補正の前後において同一であるから、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に適合するか)について以下検討する。

3 引用例
原査定の拒絶の理由に引用例1として引用された本願の優先権主張の日(以下「優先日」という。)前に頒布された刊行物である特開2001-214386号公報には、次の事項が図とともに記載されている。

(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、プラスチックレンズを染色する方法、及び該方法に使用する染色用基体に関する。
【0002】
【従来技術】従来より、眼鏡用のプラスチックレンズに対して染色を行う方法として、浸漬染色方法(以下「浸染法」という)が多く用いられている。この浸染法は、分散染料の赤、青、黄の三原色を混合して水中に分散させた染色液を調合し、この染色液を90℃程度に加熱し、その中にプラスチックレンズを浸漬して染色を行うものである。
【0003】また、この浸染法に代わる方法として、気相法による染色方法が提案されている。この気相法は固形昇華性染料を加熱して昇華させ、同じく加熱状態にあるプラスチックレンズを染色するというものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の気相法による染色法では、固形昇華性染料を加熱してレンズの染色を行うことから、染色後の廃液処理等の問題はないものの、レンズ面に染料を定量的に飛ばすのは困難であり、染色濃度の調製が難しいという問題や、濃い色のレンズに染色するのが困難であるという問題もある。また、染色に使用される染料の色相の調合は人為的な面が大きいため、調合した際の色のばらつきが生じ易く、品質管理上大きな問題となっている。
【0005】また、従来の浸染法おいては分散染料の相互作用や凝集等により、色相のばらつきやムラが発生して安定な染色物が得られないという問題がある。また、使用した染色液を最終的には廃棄しなければならないことから、染料の有効利用ができない上に廃液処理の問題も発生する。さらに浸染法では、染色液を加熱するため、高温多湿でしかも染料による悪臭の存在する環境で染色作業を行うことになり、作業環境が悪いという問題がある。
【0006】本発明は濃度の調製が容易で常に安定した色相のプラスチックレンズの染色を行うと共に、作業環境を損なわずに快適に染色作業を行う方法を提供することを技術課題とする。」

(2)「【0017】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を図面を参考にしつつ説明する。図1は使用する染色装置等を示した染色システム概略図、図5は染色方法の流れを示したフローチャートである。
【0018】(1)印刷基体の作製
初めにプラスチックレンズを染色するための昇華性染料が塗布された印刷基体10を作製する。印刷基体10はパーソナルコンピュータ1(以下PCという)にて所定の色相や色濃度を設定し、その後インクジェットプリンタ2から印刷することにより得られる。
【0019】昇華性染料として、ウペポ(株)の分散染料インキ赤、青、黄、黒色(いずれも水性)の計4色を使用する。このインキを市販のインクジェットプリンタ用のインクカートリッジにそれぞれ入れ、プリンタ2にこのカートリッジを装着する。プリンタ2は市販(EPSON MJ-520C)のものを使用した。
【0020】次に、このプリンタ2を使用して所望の色をプリントさせるために、市販されているPC1を使用して、出力する色相及び濃度の調製を行う。色相等の調製はPC1のドローソフトやCCM(コンピュータカラーマッチング)等により行うため、所望する色データをPC1内に保存しておくことができ、必要になったときに何度でも同じ色調が得られるようになっている。また、色の濃淡もデジタル管理されるため、必要なときに何回でも同じ濃度の色を所望することができる。
・・・略・・・
【0039】また、使用されるレンズ22の材質は、ポリカーボネート系樹脂(例えば、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR-39))、ポリウレタン系樹脂、アリル系樹脂(例えば、アリルジグリコールカーボネート及びその共重合体、ジアリルフタレート及びその共重合体)、フマル酸系樹脂(例えば、ベンジルフマレート共重合体)、スチレン系樹脂、ポリメチルアクリレート系樹脂、繊維系樹脂(例えば、セルロースプロピオネート)、さらにはチオウレタン系やチオエポキシ系等の高屈折率の材料や、その他従来より染色性に劣るとされた高屈折率材料等を用いることができる。
・・・略・・・
【0046】さらに、凹面の染色と凸面の染色を別々の印刷基体にて行えるため、レンズ22の凸面側の染色と凹面側の染色を各々異なる色や素材にて行うことが可能である。加熱が終了したらリークバルブ25を開いて常圧に戻し、真空気相転写機20を開け、レンズ22を取り出す。レンズ22には昇華した染料が蒸着しているが、このままでは取れやすいので、オーブン3に入れ常圧下にて加熱し定着させる。この工程はレンズ22の耐熱温度以下で、できるだけ高温に設定された温度にオーブン3内を加熱し、所望の色相及び濃度を得るために予め定めておいた時間が経過した後にオーブン3内からレンズ22を取り出すといった手順で実行される。加熱温度は90℃未満であると十分な発色ができず、150℃を超えるとレンズが変形し易い。このため加熱温度は、好ましくは90℃以上150℃以下であり、さらに好ましくは110℃以上130℃以下である。また、加熱時間は30分未満では十分な発色ができず、3時間を超えると染料の変質が起こり易いため所望する色相が得られなくなる。このため加熱時間は、好ましくは30分以上3時間以下であり、さらに好ましくは30分以上2時間以下である。
【0047】以上説明したように、一度に両面側から染色することで短時間に濃い濃度のレンズの染色が可能である。また、本発明のような気層にて行う染色は浸染法に比べ、染色性の低い高屈折率のレンズ材料であっても十分に染色することが可能である。さらに、印刷基体から染料を昇華させてレンズに蒸着させる前に、さらに、印刷基体から染料を昇華させてレンズに蒸着させる前に、レンズ自体に定着を促進させるための前処理を施しておくことにより、オーブンでの定着時間を短くすることができる。上記の前処理にはフェニルフェノール系やナフタレン系、クロロベンゼン系等のキャリヤーと呼ばれる用剤が使用される。」

(3)「【0048】(実施例1)この実施例では、CR-39のレンズを使用した。昇華性インキはウペポ社製の分散染料(水性)を使用し、PC1のドローソフトを使用して色相(U)160、彩度(S)255、明度(V)153に決定した。その後、この色データに基づいて印刷面(表面)が白色、裏面が黒色の印刷用紙(裏面に通気防止のコーティング処理済)に、直径90mmの円形形状を2つ印刷した後、図4に示す染色用治具30に合うように余白部分を切り取り、これを印刷基体とした。印刷基体は1つの染色用治具30に対して2枚作製した。
【0049】次に、図3に示すように真空気相転写機20の棚23にレンズ22を挟んで印刷基体の印刷面を対抗させた状態で染色用治具30取り付けた。次にロータリーポンプ24を使用して真空気相転写機20内の圧力を1kPaにした。真空気層転写機20内の圧力が1kPaになったら、上下の加熱ランプ21(ハロゲンランプ)を点灯させて、印刷基体から染料を昇華させた。加熱ランプ21と印刷基体10との距離は200mmとした。
【0050】この時の印刷基体の昇温状態を表1に示す。温度変化は印刷基体の裏面(黒色側)に熱電対を接触させて計測した。印刷基体上の染料は加熱ランプ21の点灯後、45秒ほどで着色層12上の染料はすべて昇華した。
・・・略・・・
【0052】(実施例2)実施例1と同じ条件にてレンズの凹面側、凸面側の同時染色を行った(両面染色)。加熱ランプ21によって印刷基体の温度が250℃になるまで点灯(加熱)を続けた。加熱終了後、染色されたレンズを取り出し、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて125℃、60分程加熱した。表3に色度データを示す。測色は分光光度計((株)村上色彩技術研究所 DOT-3)にて行なった(D65光源、10視野)。ここで、Yは視感透過率を、L*、a*、b*はCIE表色値を示す。また、定着後、外観不良、色むら、色抜け等がなく目的の色と一致しているかという観点で目視観察を行ったが、問題はなかった。
【表3】

【0053】表3に示すように、レンズの両面を一度に染色することにより、1回の染色で染色濃度が80%近くまで着色できた。
・・・略・・・
【0056】(実施例3)高屈折率(1.74)のチオエポキシ系のレンズを用いて染色を行った。この実施例では、昇華性インキはウペポ社製の分散染料(水性)を使用し、PC1のドローソフトを使用して色相(U)120、彩度(S)170、明度(V)150とした。その後、この色データに基づいて印刷面(表面)が白色、裏面が黒色の印刷用紙に、直径90mmの円形形状を2つ印刷した後、図4に示す染色用治具30に合うように、余白部分を切り取り、これを印刷基体とした。
【0057】次に、実施例1と同様な真空気層転写機30、染色用治具30を使用してレンズに染色を行った。染色はレンズの両面ではなく、凹面のみを行うものとした。真空気層転写機20内の圧力は1kPaとし、上側に設置されている加熱ランプ21のみを点灯させて、印刷基体の温度が250℃になるまで加熱を続けた。加熱終了後、染色されたレンズを取り出した後、さらにもう一度同じ工程を行い、レンズの凹面側に2回染料を昇華させ蒸着させた。その後、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて種々の条件を変えて加熱を行った。オーブンの加熱条件は125℃にて1時間、135℃にて1時間、135℃にて2時間、150℃にて2時間の計4条件にて行った。
【0058】定着後のレンズの染色結果を表5に示す。測色は実施例2と同様に分光光度計にて行なった。ここで、Yは視感透過率を、L*、a*、b*はCIE表色値を示す。また、定着後、外観不良、色むら、色抜け等がなく目的の色と一致しているかという観点で目視観察を行ったが、問題はなかった。
【表5】

【0059】表5に示すように染色性に劣るとされた高屈折率材料でも、本発明の染色法により、問題なく濃い濃度の染色を行うことができた。
【0060】また、レンズへの染色を行う前に、レンズ自体を80℃、0.2%の前処理用ののキャリヤー溶液(大和化学工業(株)DK-C)に2分程浸漬した後、前述の条件(表4の発色条件)で同じように染色を行ったところ、すべての条件において加熱時間が半分の時間で同じ視感透過率が得られた。」

(4)上記表3(上記(3))において、実施例2の染色されたレンズの視感透過率Yは、「21.57」であり、該数値は「率」を表すから「21.57%」であることは自明である。

(5)上記(1)ないし(4)からみて、引用例1には、発明の実施の形態に記載された事項を前提に、実施例1と同じ条件でレンズの両面染色を行った実施例2として、次の発明が記載されている。なお、引用した箇所の段落番号を併記した。
「レンズの凹面側、凸面側の同時染色が行われ、加熱ランプによって印刷基体の温度が250℃になるまで点灯を続け、加熱終了後、染色されたレンズを取り出し、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて125℃、60分程加熱することにより、視感透過率が21.57%、染色濃度が80%近くである、染色されたレンズであって(【0052】、【0053】)、
前記レンズの材質は、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR-39)であり(【0039】、【0048】)、
前記印刷基体は、昇華性インキとしてウペポ社製の分散染料(水性)を使用し、PCのドローソフトを使用して色相(U)160、彩度(S)255、明度(V)153に決定し、その後、この色データに基づいて印刷面(表面)が白色、裏面が黒色の印刷用紙(裏面に通気防止のコーティング処理済)に、直径90mmの円形形状を2つ印刷した後、染色用治具に合うように余白部分を切り取ったものである(【0048】)、
染色されたレンズ。」(以下「引用発明」という。)

4 対比・判断
(1)対比
ア 引用発明の「レンズ」は、その材質がジエチレングリコールビスアリルカーボネート重合体(CR-39)であり、技術常識からみて、プラスチックレンズといえるから、本願補正発明の「プラスチックレンズ」に相当する。
イ 引用発明において、「レンズ」(本願補正発明の「プラスチックレンズ」に相当。以下「」に続く()内の用語は、対応する本願補正発明の用語を表す。)の凹面側、凸面側の同時染色が行われるものであり、この「凹面側」及び「凸面側」は、それぞれ「レンズ」(プラスチックレンズ)の「表面」及び「裏面」のいずれかに相当し、前記染色は、印刷基体の染料による着色がなされていることは自明であるから、引用発明は、本願補正発明の「プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ」「染料で着色され」たとの構成を備える。また、引用発明の「染色されたレンズ」が、本願補正発明の「染色プラスチックレンズ」に相当することも明らかである。
ウ 上記ア及びイからみて、本願補正発明と引用発明とは、
「プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ染料で着色された染色プラスチックレンズ。」である点(以下、「一致点」という。)で一致し、次の点で相違する。

・相違点1
本願補正発明では、「プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ1色又は2色の染料で、かつ裏面と表面とが異なる染料で着色され」ているのに対し、
引用発明では、プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ1色又は2色の染料で着色されているかどうか、また、裏面と表面とが異なる染料で着色されているかどうかも不明である点。

・相違点2
本願補正発明では、「染色濃度が80%以上である」のに対し、
引用発明では、染色濃度が80%近くであり、80%以上ではない点。

(2)判断
ア 相違点1について検討する。
(ア)レンズに施される染色には様々な色相、再度、明度があり、引用発明において、色相(U)160、彩度(S)255、明度(V)153に換えて、所望の色相、彩度、明度を採用することは当業者が適宜なし得る設計的事項と認められるところ、以下においても検討する。
(イ)引用発明は、昇華性インキとしてウペポ社製の分散染料(水性)を使用し、PCのドローソフトを使用して色相(U)160、彩度(S)255、明度(V)153に決定し、その後、この色データに基づいて印刷した印刷基体を用いて、レンズの凹面側、凸面側の染色が行われるものであるところ、引用例1の【0018】ないし【0020】(上記3(2))の記載によれば、前記昇華性インキ(昇華性染料)は、赤、青、黄、黒色の計4色が使用され、このインキを市販のインクジェットプリンタ用のインクカートリッジにそれぞれ入れ、プリンタにこのカートリッジを装着することによって利用されるものである。そして、インクジェット方式等の印刷装置において、4色により、様々な色を表現する際に、前記4色のうち1色又は2色のみを用いる場合があることは技術常識(例.特開平4-181869号公報(3頁左下欄11行ないし19行、第2図参照。)、特開平11-53507号公報(【図4】参照。))であるから、引用発明において、プラスチックレンズの表面及び裏面(凸面側及び凹面側)のいずれかの面を染色するための印刷基体を作製する際に、染色の色によっては、特定の1色又は2色の昇華性インキ(昇華性染料)だけを用いることは十分あり得ることである。
(ウ)引用例1には、【0046】に「凹面の染色と凸面の染色を別々の印刷基体にて行えるため、レンズ22の凸面側の染色と凹面側の染色を各々異なる色や素材にて行うことが可能である。」(上記3(2))と記載されており、前記「素材」が、直接何を意味するのかは引用例1には明示されていないが、染色に用いられるのであるから、「素材」は染料であるといえ、仮に「素材」が染料といえないとしても、前記記載事項より「素材」が染料であることを想起できるものである。そうすると、引用例1には、プラスチックレンズの凸面側と凹面側の染色を異なる染料で行うことが実質的に記載されているといえる。
(エ)上記(イ)及び(ウ)からみて、引用発明において、色相(U)160、彩度(S)255、明度(V)153の色データに基づいて作製された印刷基体によるプラスチックレンズの表面と裏面(凸面側と凹面側)の染色に換えて、プラスチックレンズの裏面及び表面の両面がそれぞれ1色又は2色の染料で、かつ裏面と表面とが異なる染料で着色されるようになすこと、すなわち、相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは当業者が容易になし得たことである。

イ 相違点2について検討する。
(ア)80%以上の染色濃度で染色されたプラスチックレンズは周知(以下「周知技術」という。例.原査定で周知例として引用された特開平7-51606号公報(「【0002】【従来の技術】・・・眼鏡用カラーレンズは、は、濃度10?30%位の淡いカラーのものと、サングラス用、スポーツ用、ファッション用として、中、高濃度(50?90%位)に染色したレンズも多くなっている。」との記載参照。)、原査定で周知例として引用された特開2005-99842号公報(「【0026】(実施例3)また、染色濃度30%以外でも、染色濃度10?90%において同様な染色条件にて全面及びグラディエントの染色を行ったが目視による観察では色むら等の問題はなかった。」との記載参照。))である。
(イ)引用例1の【表5】(上記3(3))を参照すると、125℃で1時間加熱の条件では、視感透過率Yが「72.79」であり、150℃で2時間加熱の条件では、視感透過率Yが「41.14」にまで低下していることが看取でき、要するに、オーブンの加熱条件が、高温及び長時間になることにより、視感透過率Yが低下、すなわち、染色濃度が向上しているといえる。
(ウ)引用発明は、染色されたレンズの色を定着させるためにオーブン内にて125℃、60分程加熱した結果、視感透過率が21.57%、染色濃度が80%近くになったものであるところ、上記(ア)のように、所望の高染色濃度のプラスチックレンズが必要とされる際に、上記(イ)のごとく、加熱条件を変更して、80%近くであった染色濃度を更に高めるようになすこと、すなわち、引用発明において、相違点2に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が周知技術に基づいて適宜なし得たことである。

ウ 本願補正発明の奏する効果は、引用発明の奏する効果及び周知技術の奏する効果から予測することができた程度のものである。

(3)独立特許要件のむすび
以上のとおりであるから、本願補正発明は、当業者が引用例に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。
よって、本願補正発明は、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 小括
以上のとおり、本願補正発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるから、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものである。
したがって、本件補正は、同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記第2のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、平成27年12月24日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項によって特定されるものであるところ、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、上記第2〔理由〕1(1)に本件補正前の請求項1として記載したとおりのものである。

2 原査定の理由の概略
この出願の平成27年12月24日付けで手続補正された請求項1ないし5に係る発明は、その優先日前に日本国内又は外国において頒布された下記の引用例1ないし3に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用例1.特開2001-214386号公報
引用例2.特開2001-215306号公報
引用例3.特開2001-214381号公報
なお、周知技術を表す文献として以下が引用されている。
特開平7-51606号公報
特開2005-99842号公報

3 引用例
引用例1の記載事項は、上記第2〔理由〕3に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願補正発明は、上記「第2〔理由〕1(2)」のとおり、本願発明を特定するために必要な事項を限定したものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が、上記「第2〔理由〕4」に記載したとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものである。

5 むすび
本願発明は、以上のとおり、当業者が引用例1に記載された発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-10 
結審通知日 2017-02-14 
審決日 2017-02-27 
出願番号 特願2012-19289(P2012-19289)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02C)
P 1 8・ 575- Z (G02C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 南 宏輔  
特許庁審判長 中田 誠
特許庁審判官 渡邉 勇
鉄 豊郎
発明の名称 染色プラスチックレンズ  
代理人 大谷 保  

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