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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H04B |
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管理番号 | 1327482 |
審判番号 | 不服2016-8393 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-06-07 |
確定日 | 2017-04-20 |
事件の表示 | 特願2012- 58700「RFIDタグシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 9月26日出願公開、特開2013-192172〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本願の手続の概要は以下のとおりである。 平成24年 3月15日 特許出願 平成27年10月29日 拒絶理由通知 平成28年 1月 6日 意見書、手続補正書 平成28年 3月 9日 拒絶査定 平成28年 6月 7日 審判請求、手続補正書 平成28年 6月30日 前置報告 平成28年12月 1日 拒絶理由通知 平成29年 1月31日 意見書、手続補正書 第2.本願発明 本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年1月31日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その記載を以下に示す。 「 【請求項1】 RFIDタグとRFIDリーダライタとからなるRFIDタグシステムであって、 前記RFIDタグは、水平方向および/または垂直方向に対して斜めに設置され、前記RFIDリーダライタと斜め偏波を用いて交信する直線偏波アンテナを含み、 前記RFIDリーダライタは、 前記RFIDタグに対して円偏波で電波を送信する送信回路と、 前記RFIDタグからの返送波の水平および垂直偏波成分を個別に受信する受信回路と を含み、 前記受信回路は、直接波と、外部の床や壁から反射した交差偏波成分を含む反射波とを含む電波を併せて受信し、 前記受信回路で個別に受信した信号を論理的に合成する受信信号合成手段とを含み、 前記受信信号合成手段は、前記水平偏波成分と前記垂直偏波成分とを個別に受信した場合よりも、前記受信信号のS/N比が高まるように、前記水平偏波成分と前記垂直偏波成分とを合成する最適合成手段を含む、RFIDタグシステム。」 なお、上記請求項1の「RFIDタグ」は、「前記RFIDタグは、水平方向および/または垂直方向に対して斜めに設置され、」とするものであるから、明細書に、 「 【0020】 まず、この発明の第1実施の形態について説明する。第1実施の形態においては、RFIDリーダライタ10とRFIDタグ50とは、斜め偏波を用いて交信する。ここで、斜め偏波とは、水平方向の電界と垂直方向の電界との合成波の向きが地面や壁に対して交わる方向であるものをいう。なお、例えば、右斜め45度の斜め偏波は、床や壁で反射する時に左斜め45度の斜め偏波に変化する。 …… 【0025】 次に、RFIDタグ50を物品に斜めに設置した具体的な例について説明する。図2は、例えば、パレットのような直方体の搬送物品(搬送媒体)60の一つの端面にRFIDタグ51を設けた場合の図である。RFIDタグ51は搬送物品60の1つの端面に設けられ、そのアンテナ52(図中点線で表示)を搬送物品60の端面を構成する矩形の辺に対して斜め方向に傾けて設置されている。このように搬送物品60の端面を構成する矩形の辺に対して斜め方向に傾けてRFIDタグ51を取付ければ、RFIDタグのアンテナ52は、必然的に、床面や壁面に対して斜めに配置されることにな る。」 と記載されている「第1実施の形態」のRFIDタグに対応するもので、明細書に、 「 【0034】 この実施の形態におけるRFIDタグの斜視図を図5(B)に示す。図5(B)に示すように、この実施の形態においては、RFIDタグ54は矩形状の面に設けられた長手のアンテナ52bを有する。アンテナ52bは、RFIDタグ54のタグケース53bに収容され、タグケース53bの矩形状の面を構成する辺54a,54bに対して斜め方向に延在する。また、タグケース53bはアンテナ52bを含む成型体としてもよい。 【0035】 通常RFIDタグは物品に設けられたタグ取付部に取付けられ、タグ取付部は、物品を構成する矩形状の面の辺に平行、又は、垂直に設けられてい る。したがって、RFIDタグを、矩形状のタグ取付部に取付けるだけで偏波面を斜めにすることができる。 【0036】 すなわち、この実施の形態においては、RFIDタグ54のアンテナ52b自身が斜めに設けられているため、ユーザが通常のようにRFIDタグ54を所定のタグ取付部に取付ければ、アンテナ52bが自動的に斜めに設置されるために、ユーザは意識せずに斜め偏波を使用可能となる。」 とある、物品を構成する矩形状の面の辺に平行、又は、垂直に設けられているタグ取付部に取付けられることで、水平方向または垂直方向に設置される「第2実施の形態」のRFIDタグは含まないものと認められる。 このことは、平成29年1月31日付けの意見書に、 「(ii)補正の根拠について この補正は出願当初の明細書の段落番号0020、0022、および、0023の記載に基づきます。」 と記載されていることに反するものではない。 第3.当審の拒絶理由の概要 平成28年12月1日付けで通知した当審の拒絶理由の理由2の概要は、本件出願の請求項に係る発明は、その出願前日本国内において頒布された下記の刊行物に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないというものである。 1.特開2008-199190号公報(以下、「引用例1」という。) 2.特開2006-303939号公報(以下、「引用例2」という。) 第4.引用発明 引用例1には、図面とともに以下の記載がなされている。 (1)「【請求項3】 直線偏波アンテナを備えるRFタグと、前記RFタグに対して円偏波の搬送波を送信し、前記RFタグがバックスキャッタ方式により応答した信号を受信するRFタグリーダとで構成されるRFタグシステムにおいて、 前記RFタグリーダは、直線偏波面が切替え可能に構成されて前記応答信号を受信する偏波面切替えアンテナと、前記偏波面切替えアンテナによって受信される異なる偏波面の信号に基づいて前記応答信号の偏波面角度を求 め、前記応答を返したRFタグの配置方向を判定するタグ方向判定手段とを備えており、 前記RFタグを、識別対象とする立体の直交する3面に夫々取り付け、前記RFタグリーダが前記RFタグと通信を行い、各RFタグの配置方向を判定することで前記立体の配置方向を検出することを特徴とするRFタグシステム。 【請求項4】 前記RFタグリーダの偏波面切替えアンテナは、2点の接続点を有する平面アンテナで構成され、各接続点は互いに直交する偏波面を構成する位置に接続されており、 前記タグ方向判定手段は、前記各接続点より得られる受信信号について、振幅と信号間の位相差とを検出することで前記応答信号の偏波面角度を求めることを特徴とする請求項3記載のRFタグシステム。」 (2)「【0001】 本発明は、直線偏波アンテナを備えるRFタグに対して円偏波の搬送波を送信し、前記RFタグがバックスキャッタ方式により応答した信号を受信するRFタグリーダ,及び前記RFタグと前記RFタグリーダとで構成されるRFタグシステムに関する。」 (3)「【0013】 (第1実施例) 以下、本発明の第1実施例について図1乃至図9を参照しながら説明す る。図1は、RFタグとの間で非接触通信を行うリーダライタ(RFタグ リーダ)の電気的構成を示すブロック図である。リーダライタ20は、マイクロコンピュータにより構成される制御部(タグ方向判定手段)1、送信回路2、送信アンテナ3、受信アンテナ4、受信回路5、偏波面検出部(タグ方向判定手段)6などから構成されている。 …… 【0019】 復調部24は、キャリア信号に重畳されている受信データを復調して制御部26に出力する。不揮発性メモリ27は、ROM、EEPROMなどから構成されており、制御プログラム、RFタグ21を識別するためのタグ識別情報(タグID)、RFタグ21の用途に応じてユーザが設定したデータ (商品データ、物流データ等)が記憶されている。ただし、タグ検索コマンドを受信した時に乱数を発生し、その乱数をタグ識別情報(タグID)として揮発性メモリ19に格納する構成としてもよい。制御部26は、不揮発性メモリ27から上記情報やデータを読み出し、それを送信データとして変調部25に出力する。変調部25は、キャリア信号を送信データで負荷変調してアンテナ22から反射波(バックスキャッタ)として送信する。 図4は、RFタグ21の外観構成を示すものである。RFタグ21のアンテナ22は、ダイポールアンテナ(直線偏波アンテナ)で構成されており、その他の構成部分23?27はICチップ28として一体に構成されてい る。 【0020】 また、図5は、リーダライタ20と、RFタグ21との間における電波信号の送受信状態を説明する図である。リーダライタ20の送信アンテナ3からは、円偏波の搬送波が送信されるので、RFタグ21は、アンテナ22がどのような方向を向くように配置されていても搬送波を受信できる。そし て、RFタグ21は、アンテナ22は、配置方向に応じた直線偏波の反射波によって応答を返す。図5は、RFタグ21のアンテナ22が水平方向に配置されている場合の応答状態を実線で示しており、この時、リーダライタ20側で受信波2の成分は「0」となる。 …… 【0022】 すると、偏波面角αは、図6に示すように、(3)式で表される。 α=tan-1{A2・sin(ωt+θ)/A1・sin(ωt)} …(3) この(3)式より、振幅A1,A2並びに位相差θに応じて、偏波面角αは、図7に示すように決まる。図7(a)?(h)は、偏波面角α=0度:水平偏波より、偏波面角αが30度,45度,60度,90度,120度,135度,150度となる場合まで示している。また、図7(e)は、偏波面角α=90度:垂直偏波の場合である。尚、直線偏波の場合、位相差θは0度又は180度である。位相差θが±45度ずれた場合は、図8に示すように楕円偏波となるが、直線偏波の偏波角αを推定することは可能であ る。」 (4)「【0023】 図9は、リーダライタ20の制御部1によって行われる通信処理の内容を示すフローチャートである。制御部1は、RFタグ21に搬送波(円偏波)の送信を開始して(ステップS1)、RFタグ21のIDを要求するコマンドを送信する(ステップS2)。そのコマンドの送信に対して、RFタグ21が直線偏波の反射波によって応答し、返信されたIDを受信すると(ス テップS3)、偏波面検出部6により検出された結果に応じて上記直線偏波の偏波面角αを(3)式により算出する(ステップS4)。すると、以降はステップS4で算出された偏波面角αを以って応答するRFタグ21を通信対象とするように決定し(ステップS5)、リードコマンド,若しくはライトコマンドを送信する(ステップS6)。 【0024】 以上のように本実施例によれば、リーダライタ20は、直線偏波アンテナ22を備えるRFタグ21に対して円偏波の搬送波を送信し、RFタグ21がバックスキャッタ方式により応答した信号を受信する場合に、制御部1 は、受信アンテナ4によって受信される異なる偏波面の信号に基づいて、RFタグ21による応答信号の偏波面角度αを求め、その応答を返したRFタグ21の配置方向を判定する。従って、RFタグ21が対象物にどのような方向で取付けられているかを検出し、以降の通信対象を、特定の偏波角で応答するRFタグ21に絞る、といったように、配置方向に応じた処理を行う必要があるものに適用することができる。 そして、受信アンテナ4を、2点の接続点FP1,FP2を有する平面アンテナで構成し、各接続点を互いに直交する偏波面を構成する位置に接続 し、制御部1は、各接続点FP1,FP2より得られる信号について振幅A1,A2と信号間の位相差θとを検出して、応答信号の偏波面角度αを求めることができる。」 したがって、引用例1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 直線偏波アンテナを備えるRFタグと、前記RFタグに対して円偏波の搬送波を送信し、前記RFタグが応答した信号を受信するRFタグリーダとで構成されるRFタグシステムにおいて、 前記RFタグは、前記直線偏波アンテナがどのような方向を向くように配置されていても前記搬送波を受信でき、 前記RFタグリーダは、 前記RFタグに対して円偏波の搬送波を送信する送信回路と、 前記RFタグが応答した信号を受信する、直交する偏波面の2系統の信号を受信する受信回路とを含む、RFタグシステム。 第5.対比 引用発明の「RFタグ」及び「RFタグリーダ」は、「直線偏波アンテナを備えるRFタグと、前記RFタグに対して円偏波の搬送波を送信し、前記RFタグが応答した信号を受信するRFタグリーダとで構成されるRFタグシステム」のものであるから、本願発明の「RFIDタグ」及び「RFIDリーダライタ」に対応し、引用発明の「RFタグシステム」は、本願発明の「RFIDタグシステム」に対応する。 引用発明の「送信回路」と、本願発明の「送信回路」とは、RFIDタグに対して円偏波で電波を送信する点で、共通の機能を有する。 引用発明の「受信回路」と、本願発明の「受信回路」とは、RFIDタグからの返送波の水平および垂直偏波成分を受信する点で、共通の機能を有する。 したがって、本願発明と引用発明とを対比すると、次の点で一致及び相違する。 一致点 RFIDタグとRFIDリーダライタとからなるRFIDタグシステムで あって、 前記RFIDタグは、前記RFIDリーダライタと交信する直線偏波アンテナを含み、 前記RFIDリーダライタは、 前記RFIDタグに対して円偏波で電波を送信する送信回路と、 前記RFIDタグからの返送波の直交する成分を受信する受信回路とを含む、RFIDタグシステム。 相違点1 本願発明のRFIDタグは、「水平方向および/または垂直方向に対して斜めに設置され」及び「斜め偏波を用いて」とするのに対して、引用発明のものはそのような特定がない点。 相違点2 RFIDタグからの返送波の直交する成分が、本願発明では「水平および垂直偏波成分」であるのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。 相違点3 本願発明の受信回路は、「直接波と、外部の床や壁から反射した交差偏波成分を含む反射波とを含む電波を併せて受信し、」とするのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。 相違点4 本願発明の受信回路は、直交する成分を「個別に」受信し、「受信回路で個別に受信した信号を論理的に合成する受信信号合成手段」とを含み、さらに「前記受信信号合成手段は、前記水平偏波成分と前記垂直偏波成分とを個別に受信した場合よりも、前記受信信号のS/N比が高まるように、前記水平偏波成分と前記垂直偏波成分とを合成する最適合成手段を含む」とするものであるのに対して、引用発明ではそのような特定がない点。 第6.判断 相違点1について 引用発明のRFIDタグは、「前記RFタグは、前記直線偏波アンテナがどのような方向を向くように配置されていても搬送波を受信でき」とするものであるから、水平方向および/または垂直方向に対して斜めに設置されていても良いことは明らかである。 引用例1には、上記(3)の段落【0022】のように、水平、垂直偏波以外の様々な角度について記載されている。 引用発明のRFIDタグを、水平方向および/または垂直方向に対して斜めに設置することで、水平、垂直偏波以外の斜め偏波を用いて交信するものとすることに困難な点はない。 相違点2について 直交する成分を、水平および垂直偏波成分とすることに格別の点はない。 相違点3について RFIDタグシステムを、床や壁のある環境で使用することは普通に行われることであり、引用発明においても、普通に使用すれば、外部の床や壁から反射した電波も受信することになるのは明らかであり、引用発明のRFタグは直線偏波アンテナがどのような方向を向くように配置されていてもよいものであるから、斜めに配置された直線偏波アンテナからの反射波に、直接波に対する交差偏波成分が含まれることは明らかである。 また、本願発明の「受信回路」は、「直接波」以外の「外部の床や壁から反射した交差偏波成分を含む反射波とを含む電波」を受信するための特別な工夫がされたものではなく、引用発明の「受信回路」も直接波以外の外部の床や壁から反射した交差偏波成分を含む反射波とを含む電波を受信しないための特別な工夫がされたものではないから、両者の「直接波」以外の「外部の床や壁から反射した交差偏波成分を含む反射波とを含む電波」の受信機能について、実質的な相違はない。 相違点4について 例えば、引用文献2に記載されているように、RFIDタグシステムにおいて、偏波ダイバーシチ方式を採用することは周知のことであり(段落【0004】)、ダイバーシチ方式にアンテナごとに受信機を設け、その受信出力を合成することも知られている(段落【0005】)。 したがって、引用発明の受信回路で受信する、直交する偏波面の2系統の信号に、周知のダイバーシチ方式を採用することで、RFIDタグからの返送波の成分を個別に受信した場合よりも、受信信号のS/N比が高まるようにして、相違点4を本願発明のようにすることに、困難な点はない。 したがって、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第7.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用例1及び2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2017-02-14 |
結審通知日 | 2017-02-21 |
審決日 | 2017-03-06 |
出願番号 | 特願2012-58700(P2012-58700) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(H04B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 石田 昌敏 |
特許庁審判長 |
水野 恵雄 |
特許庁審判官 |
山本 章裕 加藤 恵一 |
発明の名称 | RFIDタグシステム |
代理人 | 特許業務法人アイミー国際特許事務所 |