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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) G06Q |
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管理番号 | 1327553 |
審判番号 | 不服2016-1493 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2016-02-02 |
確定日 | 2017-04-27 |
事件の表示 | 特願2014- 93624「相場チャート作成方法および相場チャート作成装置」拒絶査定不服審判事件〔平成26年 7月31日出願公開、特開2014-139843〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年5月20日に出願した特願2009-122308号の一部を平成26年4月30日に新たな特許出願としたものであって、平成27年3月16日付けの拒絶理由通知に応答して、平成27年5月21日付けで意見書、手続補正書が提出されたが、平成27年10月27日付けで拒絶査定がなされた。これに対して、平成28年2月2日に拒絶査定不服審判が請求され、手続補正書が提出されたものである。 そして、当審から平成28年10月18日付けで拒絶理由が通知され、平成28年12月22日付けで意見書、手続補正書が提出されたものである。 2.平成28年10月18日付け拒絶理由通知の概要 「2.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 記 (引用文献等については引用文献等一覧参照) ・請求項1 ・引用文献等:1-3 ・備考 (中略) 引 用 文 献 等 一 覧 1.特開2003-118268号公報 2.池辺雪子、あの4億円脱税主婦が教えるFXの奥義、株式会社扶桑社,日本、2008.11.10発行、初版、p.146-159 3.住友信託銀行・マーケット資金事業部門、投資家のための金融マーケット予測ハンドブック、日本放送協会出版,日本、2001.01.25発行、初版、426-429 」 3.本願発明 本願請求項1に係る発明は、平成28年12月22日付けで手続補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された次のとおりのものと認める。(以下、「本願発明」という。なお、下線は、補正箇所を示す。) 「【請求項1】 相場の値軸と時間軸とからなる直交座標上に、値軸方向に伸縮する「足」を、時間軸方向へ所要本数時系列的に配置することにより、所定表示媒体上に相場チャートを表示する方法であって、 売値又は買値についての毎日の高値、安値、始値および終値から成る「四本値」データを入力するステップと、 入力された「四本値」データのそれぞれを日付と関連づけて記憶するステップと、 「四本値」データに関連づけられた各日を基準時点、当該基準時点から所定日数前を起算時点として、起算時点から基準時点迄の連続する規定個数分の「四本値」の平均値を演算することにより、各日毎に対応した「四本値」平均値データを順次取得する「四本値」平均値データ取得ステップと、 各日の「翌日の始値」データと該各日の過去の前記規定個数分の「四本値」の平均値データとにより前記直交座標上における上端位置並びに下端位置が規定される各日毎の「日足」を、前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置することにより、前記所定表示媒体上にチャートを表示するチャート表示ステップと、 各日の「四本値」データの平均値を前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置するとともに該各日の「四本値」データの平均値を直線で結んで、「四本値」についての短期の移動平均線を前記所定表示媒体上に表示するとともに、各日を前記基準時点とする前記規定個数分の「四本値」の平均値データを前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置するとともに該各日の「四本値」の平均値データを直線で結んで、「四本値」についての長期の移動平均線を前記所定表示媒体上に表示する移動平均線表示ステップ と、 を有することを特徴とする相場チャート作成方法。」 4.当審の判断 (1)引用例 (1-1)当審の拒絶の理由に引用された、特開2003-118268号公報(以下、「引用例1」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付加したものである。) (a)「【0069】図3は、演算結果記憶手段6の日足記憶部a、週足記憶部6b、月足記憶部6cにそれぞれ保存されるデータの内容を示す図である。同図に示されるように、『日足記憶部6a』には、各株銘柄毎に、3日?D日目(D日目を最新日と仮定)における短期・中期・長期の終値平均値と各日の終値(今回終値)とが各日の日付と共に記憶される。また、ここで保存される終値は、株価記憶手段4に保存される株価情報としての終値と同じものであるが、この例では、増田足の作成に加え、後述する“影線”の作成をスムーズに行うため、演算結果記憶部6にも終値が保存される。」 (b)「【0111】同図に示されるように、株価チャート作成装置1による処理には、入力処理(ステップ701)と、当日入力あり(ステップ702)を条件として実行される演算処理(ステップ703)と、作成指示あり(ステップ704)を条件として実行されるチャート作成処理(ステップ705)と、プリント指示あり(ステップ706)を条件として実行されるプリント処理(ステップ707)とを含んでいる。尚、本実施例におけるプリント処理は、ステップ705によりディスプレイ上に表示された株価チャートをそのまま出力するものであるから、ここでの詳細説明は省略する。 【0112】入力処理の詳細が図8のフローチャートに示されている。同図に示されるように、この入力処理は、当日株価の受信並びにキャッシュメモリ2cへの書き込みを定期的に実行する処理(ステップ801,802)と、データが受信されたことを条件として(ステップ803YES)、キャッシュメモリ2cに書き込まれたデータの中から、予め特定された株銘柄に関するデータを読み出して株価記憶手段4の該当株銘柄の株価データに追加する処理(ステップ804?811)とを含んでいる。 【0113】株価データ追加処理は、具体的には、ます、キャッシュメモリ2cから1件目の株価情報を読み出し(ステップ804)、株価記憶手段3から、これに該当する銘柄の情報が記憶されているかの確認を行う(ステップ805,806)。株価記憶手段3に、該当する銘柄情報が記憶されていない場合には(ステップ806NO)、株価記憶手段3に、新たに該株価情報を書き込み(ステップ807)、この銘柄情報をプリンタに出力する(ステップ808)。 【0114】ステップ806において、株価情報に該当する銘柄情報があった場合には(ステップ806YES)、該株価情報を銘柄情報の当日分として、図2に示したように、日付、始値、高値、安値、終値、前比、出来高を書き加える(ステップ809)。そして、キャッシュメモリ2cに、次の株価情報があるか否かの判定を行い(ステップ810)、株価情報がなかった場合には(ステップ810)、処理を終了し、株価情報がある場合には(ステップ810YES)、キャッシュメモリ2cから次の株価情報を読み出して(ステップ811)、再度、ステップ804?810に示される処理へと移行する。」 【0115】演算処理の詳細が図9のフローチャートに示されている。演算処理においては、まず、株価情報が記憶された株価記憶手段4から、1件目の銘柄の株価情報(終値)が読み出され(ステップ901)、読み出された株価情報を基に、先に示したように、当日分の日足データ、週足データ、月足データ(短期終値平均値、中期終値平均値、長期終値平均値)をそれぞれ算出する(ステップ902)。次いで、演算結果記憶手段6を読み(ステップ903)、該当する銘柄の過去の足データ(図2参照)があるか否かの確認を行う(ステップ904)。確認の結果、該当する銘柄の足データがあった場合には(ステップ904YES)、該足データを新たに書き加える(ステップ907)。一方、該当する銘柄の過去足データがなかった場合には、エラーとして、該足データを、日足記憶部6aに新たに書き込むとともに(ステップ906)、この足データをプリンタ装置7aにプリントする(ステップ907)。」 (c)「【0118】図14は、株価チャート作成にあたり、ディスプレイ装置7aに表示される株価チャート作成画面の一例を示したものである。尚、同図には、増田足(日足)による3種の移動線(短期線A、中期線B、長期線C)を同時に表示した場合を示すものであるが、上述の初期画面表示においては、これら移動線はまだ表示されていない。 【0119】チャート作成初期画面上には、縦軸を値軸、横軸を時間軸(この例では、日付を示す「?月」が示されている)とする座標軸が表示され、また、その上部には取引所、銘柄コード、信用銘柄コード、銘柄名、指定日(チャート作成日等)の日付、始値、高値、安値、終値等が表示される。」 (d)「【0130】図11中ステップ1103に示される日足表示処理の詳細が図12のフローチャートに示されている。 【0131】先に説明したように、日足の作成には最新の450日分の日足データが使用される。すなわち、日足表示処理においては、まず、比較値Dに足作成数より‘1’少ない‘450’をセットする(ステップ1201)。尚、この例は、「日足」であるため、D=450とされるが、週足の場合は‘192’、月足の場合は‘176’となる。 【0132】次いで、日足記憶部6aから最新の450日分の足データを読み込み(ステップ1202)、カウンタNに‘2’をセットする。このカウンタNは、読み出された足データを古いものから順に特定するための指標値である。尚、カウンタNの初期値を‘2’としたのは、増田足の作成には、今回と前回の2つの終値平均値が必要となるためである。 【0133】すなわち、ステップ1204では、読み出した日足データの(N)番目の終値平均値(今回終値平均値)と、(N-1)番目の終値平均値(前回終値平均値)とを比較する(ステップ1204)。 【0134】ここで、(N)番目の終値平均値が(N-1)番目の終値平均値より大きい場合は、終値平均値(N)を上線、終値平均値(N-1)を下線とするピンクの増田足を、カウンタNで特定される日付データに基づき該当する座標上に表示する(ステップ1205)。 【0135】一方、(N)番目の終値平均値が(N-1)番目の終値平均値より小さい場合は、終値平均値(N)を下線、終値平均値(N-1)を上線とするブルーの増田足を、カウンタNで特定される日付データに基づき該当する座標上に表示する(ステップ1206)。 【0136】また、(N)番目の終値平均値と(N-1)番目の終値平均値が同値である場合には、1つ前と同一の色彩の横バーをカウンタNで特定される日付データに基づき該当する座標上に表示する(ステップ1207)。」 (e)「【0179】また、上記実施の形態では、何れも「株価」を対象としたが、本発明は、「株価」のみならず、その他各種の相場(債権、商品、デリバティブ、オプション、ワラント等の値段)にも適用可能である。」 (1-2)以上の記載によれば、引用例1には次のことが記載されている。 (ア)上記(b)の段落【0111】には、株価チャート作成装置1による処理は、ステップ701の入力処理と、ステップ702の演算処理と、ステップ705のチャート作成処理を含んでいることが記載されている。また、プリント処理において、ステップ705によりディスプレイ上に表示された株価チャートをそのまま出力するのであるから、ステップ705において、ディスプレイ上に株価チャートを表示することが記載されているといえる。 よって、ここには、株価チャート作成装置1により、入力処理と、演算処理と、チャート作成処理を行い、チャート作成処理により、ディスプレイ上に株価チャートを表示する方法が記載されているといえる。 (イ)上記(b)の段落【0112】には、入力処理が、当日株価の受信並びにキャッシュメモリ2cへの書き込みを定期的に実行する処理を含むことが記載されている。 よって、ここには、当日の株価を受信し、受信した株価をキャッシュメモリ2cに書き込むことが記載されているといえる。 (ウ)上記(b)の段落【0113】-【0114】には、ステップ804において、キャッシュメモリ2cから1件目の株価情報を読み出し、ステップ809において、株価記憶手段4の該当する銘柄情報に、当日分の該株価情報として、日付、始値、高値、安値、終値、前比、出来高を書き加えることが記載されている。 なお、図1の株価チャート作成装置の構成を示すブロック図には、「株価記憶装置4」が記載されており「株価記憶装置3」は記載されていないことから、段落【0113】の「株価記憶手段3」が「株価記憶手段4」の誤記であることは明らかである。 よって、ここには、キャッシュメモリ2cから株価情報を読み出して、株価記憶手段4の該当する銘柄情報に、当日分の株価情報として、日付、始値、高値、安値、終値等を株価記憶手段に書き加えて記憶することが記載されているといえる。 (エ)上記(b)の段落【0115】には、演算処理のステップ901において、株価記憶手段4から株価情報が読み出され、ステップ902において、読み出された株価情報を基に、日足データ、週足データ、月足データ(短期終値平均値、中期終値平均値、長期終値平均値)をそれぞれ算出し、次いで、演算結果記憶手段6に該当する銘柄の過去の足データがあるか否かの確認を行い、該当する銘柄の足データがあった場合には、該足データを新たに書き加えることが記載されている。 よって、ここには、株価記憶手段4から株価情報が読み出され、読み出された株価情報を基に、日足データ、週足データ、月足データ(短期終値平均値、中期終値平均値、長期終値平均値)をそれぞれ算出し、足データを演算結果記憶手段6に書き加えることが記載されている。 (オ)上記(d)には、日足表示処理の詳細として、ステップ1202において、日足記憶部6aから最新の450日分の足データを読み込み、ステップ1204において、読み出した日足データの(N)番目の終値平均値(今回終値平均値)と(N-1)番目の終値平均値(前回終値平均値)とを比較し、ステップ1205又はステップ1206において、終値平均値(N)を上線又は下線、終値平均値(N-1)を下線又は上線とする増田足を、日付データに基づき該当する座標上に表示することが記載されている。 また、上記(a)には、演算結果記憶手段6は、日足記憶部6aを含むことが記載されている。 よって、ここには、演算結果記憶手段6の日足記憶部6aから最新の450日分の日足データを読み込み、N番目の終値平均値とN-1番目の終値平均値の一方を上線、他方を下線とする増田足を、日付データに基づいて該当する座標上に表示することが記載されている。 (カ)上記(c)には、株価チャート作成画面には、増田足(日足)による3種の移動線(短期線A、中期線B、長期線C)が同時に表示されること、チャート作成初期画面上には、縦軸を値軸、横軸を時間軸とする座標軸が表示されることが記載されている。 よって、ここには、株価チャート作成画面には、縦軸を値軸、横軸を時間軸とする座標軸が表示され、その座標軸上に株価チャートが表示されることが記載されている。 (キ)上記(e)には、「株価」のみならず、その他各種の相場(債権、商品、デリバティブ、オプション、ワラント等の値段)にも適用可能であることが記載されている。 (ク)以上のことから、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「株価チャート作成装置1により、入力処理と、演算処理と、チャート作成処理を行い、チャート作成処理により、ディスプレイ上に株価チャートを表示する方法であって、 当日の株価を受信してキャッシュメモリ2cに書き込み、 キャッシュメモリ2cから株価情報を読み出して、株価記憶手段4の該当する銘柄情報に、当日分の株価情報として、日付、始値、高値、安値、終値等を株価記憶手段4に書き加えて記憶し、 株価記憶手段4から株価情報が読み出され、読み出された株価情報を基に、日足データ、週足データ、月足データ(短期終値平均値、中期終値平均値、長期終値平均値)をそれぞれ算出して演算結果記憶手段6に書き加え、 演算結果記憶手段6の日足記憶部6aから最新の450日分の日足データを読み込み、N番目の終値平均値とN-1番目の終値平均値の一方を上線、他方を下線とする増田足を、日付データに基づいて該当する座標上に表示し、 株価チャート作成画面は、縦軸を値軸、横軸を時間軸とする座標軸が表示され、その座標軸上に株価チャートが表示され、 「株価」のみならず、その他各種の相場(債権、商品、デリバティブ、オプション、ワラント等の値段)にも適用可能である方法」 (1-3)当審の拒絶の理由に引用された、「あの4億円脱税主婦が教えるFXの奥義」(以下、「引用例2」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付加したものである。) (f)「こうした為替市場の特徴に合わせて、チャートをFX向けにアレンジすることができるはずです。ダマシが少なく相場の急な変化にもある程度対応できるようにと、毎日考え続け、どうしたら、為替向けに最適なチャートになるのか、試行錯誤を繰り返しました。やっとたどり着いたのが、現在のユキコVチャートです。」(第147頁第14行-第148頁第4行) (g)「それでは、ユキコVチャートについて、説明していきましょう。 ぱっと見た感じは、通常のローソク足と同じだと思われるかもしれません。ただ、ユキコVチャートでは、ヒゲがありません。初心者の方には、むしろ通常のローソク足よりも見やすいかもしれません。 ヒゲのないローソク足ですから、通常のローソク足ならば、始値と終値のみで描くことになります。ただしもちろん、それだけではオリジナルチャートにはなりません。 ユキコVチャートでは、1本の足を描くのに過去3本分のデータを使います。中長期スパンでの週足、月足の見方もありますが、わかりにくくなるといけないので、ここでは日足のチャートを描く場合で説明しましょう。 まず、3日分の四本値の平均を計算します。四本値とは高値・安値・始値・終値です。3日分の四本値の平均ですから、合計して12で割るだけです。ここで出てきた数字が通常のローソク足でいう始値になります。 もうひとつ使う数字が翌日の始値です。こちらが通常のローソク足でいう終値になります。 四本値平均が翌日始値を上回っていれば陽線、四本値平均が翌日始値を下回っていたら陰線となるのは通常のローソク足と同様です。 ユキコVチャートの書き方としては、これだけです。非常にシンプルですから、皆さんも検証しやすいと思います。」(第149頁第2行-第150頁第9行) (1-4)以上の記載によれば、引用例2には次のことが記載されている。 (ケ)上記(f)には、ユキコVチャートは、為替相場の変化に対応したチャートであることが記載されている。 (コ)上記(g)には、過去3日分の高値、安値、始値、終値から成る四本値の平均を計算し、計算した過去3日分の四本値の平均を通常のローソク足でいう始値とし、翌日の始値を通常のローソク足でいう終値とする各日毎の日足を配置することにより、為替チャートを生成することが記載されている。 (サ)以上のことから、引用例2には、次の発明が記載されている。 「ユキコVチャートと呼ばれる為替相場の変化を表すチャートであって、過去3日分の高値、安値、始値、終値から成る四本値の平均を計算し、計算した過去3日分の四本値の平均を通常のローソク足でいう始値とし、翌日の始値を通常のローソク足でいう終値とする各日毎の日足を配置することにより、為替チャートを生成すること」 (1-5)当審の拒絶の理由に引用された、「投資家のための金融マーケット予測ハンドブック」(以下、「引用例3」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。(なお、下線は当審において付加したものである。) (h)「移動平均は、「平均期間を移動させながら、平均期間内の平均値を計算する」ことである。算出した移動平均値をグラフにプロットし、それを結び合わせた線を移動平均線という。 価格のとり方は、終値の移動平均が一般的であるが、仲値(高値と安値の平均)の移動平均をとる場合もあれば、始値・高値・安値・終値を足して4で割る、あるいはそれぞれの値にウェイトをもたせてその倍数で割った値により移動平均を作成する場合もある。」(第426頁第6行-第12行) (i)「次に、期間の取り方であるが、よく利用されるのは3、5、9、15,25である。期間は短いほど機敏に反応するが、その分ダマシも多くなる。反対に、期間を長くとるとタイムラグが大きくなり、利食い、損切りのタイミングを逃してしまうことが多い。」(第426頁第20行-第23行) (j)「日々線の動きは振れが大きいため、日々線と移動平均線との関係で売買タイミングを判断するとダマシが多くなる。そのため、日々線の代わりに移動平均線を使い、短期線と長期線の位置関係によって判断する方法がある。」(第428頁第3行-第5行)が記載されている。 (k)図表IX-11には、ローソク足が提示されるチャートにおいて、5日の移動平均線と25日の移動平均線を提示することが図示されている。 (1-6)以上の記載によれば、引用例3には次のことが記載されている。 (シ)上記(h)には、移動平均は、「平均期間を移動させながら、平均期間内の平均値を計算する」ことであり、算出した移動平均値をグラフにプロットし、それを結び合わせた線を移動平均線といい、移動平均の価格の取り方として、終値の移動平均が一般的であるが、始値・高値・安値・終値を足して4で割った値により移動平均を作成する場合もあることが記載されている。 (ス)上記(j),(k)には、ローソク足が提示されるチャートにおいて短期線の移動平均線と長期線の移動平均線を提示し、短期線の移動平均線と長期線の移動平均線との位置関係により、売買タイミングを判断することが記載されている。 (セ)以上のことから、引用例3には、次の発明が記載されている。 「移動平均は、「平均期間を移動させながら、平均期間内の平均値を計算する」ことであり、算出した移動平均値をグラフにプロットし、それを結び合わせた線を移動平均線といい、平均期間は3、5、9、15,25日がよく利用され、短いほど機敏に反応し、その分だけだましも多くなり、反対に長くするとタイムラグが大きくなり、利食い等のタイミングを逸してしまうことが多く、移動平均の価格の取り方として、始値・高値・安値・終値を足して4で割った値により移動平均を作成する場合もあり、 ローソク足が提示されるチャートにおいて短期線の移動平均線と長期線の移動平均線短期線の移動平均線を提示し、短期線の移動平均線と長期線の移動平均線との位置関係により、売買タイミングを判断すること」 (2)対比 次に、本願発明と引用発明とを対比する。 (ア)引用発明の「縦軸」及び「横軸」は、直交座標上の「縦軸」及び「横軸」を表すことは明らかであるから、引用発明の「縦軸を値軸、横軸を時間軸とする座標軸」の「座標軸上」は、本願発明の「値軸と時間軸とからなる直交座標上」に相当するものである。 また、引用発明は、「株価」のみならず、その他各種の相場(債権、商品、デリバティブ、オプション、ワラント等の値段)にも適用可能であって、「株価チャート」を「N番目の終値平均値とN-1番目の終値平均値の一方を上線、他方を下線とする増田足を、日付データに基づいて該当する座標上に表示」することで表示するものであるから、引用発明は、「値軸方向に伸縮する「足」を、時間軸方向へ所要本数時系列的に配置することにより、所定表示媒体上に相場チャートを表示」するものといえる。 よって、引用発明の「株価チャート作成装置1により、入力処理と、演算処理と、チャート作成処理を行い、チャート作成処理により、ディスプレイ上に株価チャートを表示する方法」、「N番目の終値平均値とN-1番目の終値平均値の一方を上線、他方を下線とする増田足を、日付データに基づいて該当する座標上に表示し」及び「株価チャート作成画面は、縦軸を値軸、横軸を時間軸とする座標軸が表示され、その座標軸上に株価チャートが表示され」は、「相場の値軸と時間軸とからなる直交座標上に、値軸方向に伸縮する「足」を、時間軸方向へ所要本数時系列的に配置することにより、所定表示媒体上に相場チャートを表示する方法」の点で本願発明と共通している。 (イ)引用発明の「当日の株価を受信してキャッシュメモリ2cに書き込み、キャッシュメモリ2cから株価情報を読み出して、株価記憶手段4の該当する銘柄情報に、当日分の株価情報として、日付、始値、高値、安値、終値等を株価記憶手段4に書き加えて記憶し」は、「売値又は買値についての毎日の毎日の高値、安値、始値および終値から成る「四本値」データを入力するステップ」の点、及び、「入力された「四本値」データのそれぞれを日付と関連づけて記憶するステップ」の点で、本願発明と共通している。 (ウ)引用発明の「株価記憶手段4から株価情報が読み出され、読み出された株価情報を基に、日足データ、週足データ、月足データ(短期終値平均値、中期終値平均値、長期終値平均値)をそれぞれ算出して演算結果記憶手段6に書き加え、」は、「記憶されたデータに基づいて演算をすることにより、各日毎に対応した演算結果データを順次取得する取得ステップ」の点で、本願発明と共通している。 (エ)引用発明の「演算結果記憶手段6の日足記憶部6aから最新の450日分の日足データを読み込み、N番目の終値平均値とN-1番目の終値平均値の一方を上線、他方を下線とする増田足を、日付データに基づいて該当する座標上に表示し、」は、「演算結果データに基づいて直交座標上における上端位置並びに下端位置が規定される各日毎の「日足」を、前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置することにより、所定表示媒体上にチャートを表示するチャート表示ステップ」の点で、本願発明と共通している。 (オ)以上の(ア)乃至(エ)から、本願発明と引用発明は、 「相場の値軸と時間軸とからなる直交座標上に、値軸方向に伸縮する「足」を、時間軸方向へ所要本数時系列的に配置することにより、所定表示媒体上に相場チャートを表示する方法であって、 売値又は買値についての毎日の相場のデータを入力するステップと、 入力された相場のデータのそれぞれを日付と関連づけて記憶するステップと、 相場のデータに基づいて演算処理を行うことにより、各日毎に対応した演算結果データを順次取得する取得ステップと、 演算結果データに基づいて直交座標上における上端位置並びに下端位置が規定される各日毎の「日足」を、前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置することにより、前記所定表示媒体上にチャートを表示するチャート表示ステップと、 を有することを特徴とするチャート表示方法。」である点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本願発明は、「「四本値」データに関連づけられた各日を基準時点、当該基準時点から所定日数前を起算時点として、起算時点から基準時点迄の連続する規定個数分の「四本値」の平均値を演算することにより、各日毎に対応した「四本値」平均値データを順次取得し」、「各日の「翌日の始値」データと該各日の過去の前記規定個数分の「四本値」の平均値データとにより前記直交座標上における上端位置並びに下端位置が規定される各日毎の「日足」を、前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置することにより、前記所定表示媒体上にチャートを表示する」のに対し、引用発明では、そのようにチャートを表示するものではない点。 [相違点2] 本願発明は、「各日の「四本値」データの平均値を前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置するとともに該各日の「四本値」データの平均値を直線で結んで、「四本値」についての短期の移動平均線を前記所定表示媒体上に表示するとともに、各日を前記基準時点とする前記規定個数分の「四本値」の平均値データを前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置するとともに該各日の「四本値」の平均値データを直線で結んで、「四本値」についての長期の移動平均線を前記所定表示媒体上に表示する移動平均線表示ステップ」のに対し、引用発明は、上記「移動平均線表示ステップ」を有しない点。 (3)当審の判断 (3-1)相違点1についてについて 引用例2のチャートは「過去3日分の高値、安値、始値、終値から成る四本値の平均を計算」し、「計算した過去3日分の四本値の平均を通常のローソク足でいう始値とし、翌日の始値を通常のローソク足でいう終値とする各日毎の日足を配置する」のであるから、「売値又は買値についての毎日の売値又は買値についての毎日の高値、安値、始値および終値から成る「四本値」データ」から、「「四本値」データに関連づけられた各日を基準時点、当該基準時点から所定日数前を起算時点として、起算時点から基準時点迄の連続する規定個数分の「四本値」の平均値を演算することにより、各日毎に対応した「四本値」平均値データを順次取得」し、「各日の「翌日の始値」データと該各日の過去の前記規定個数分の「四本値」の平均値データとにより前記直交座標上における上端位置並びに下端位置が規定される各日毎の「日足」を、前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置する」ものである。 引用発明は各種相場に適用可能で有り、どの様なチャートを表示するかは適用した相場に適したものを任意に採用できるものであるから、引用例2のチャートを引用発明に適用して相違点1の構成とすることは、当業者であれば容易に想到し得たことである。 (3-2)相違点2について 引用例3にも記載されているように、相場チャートを表示する際に、「日足」や「週足」等の相場チャートに加えて期間の異なる移動平均線を表示することは、普通に行われていることであるから、引用発明に引用例3に記載された発明を適用し、相場チャートとともに、「始値・高値・安値・終値を足して4で割った値」の短期間の平均値を求めてプロットした「短期の移動平均線」と、「始値・高値・安値・終値を足して4で割った値」の長期間の平均値を求めてプロットした「長期の移動平均線」を表示するよう構成することは、格別困難ではない。 また、その際に、「短期間」「長期間」として、どの様な期間を採用するかは、引用例3に記載されているようなその期間の長さに応じ利点、欠点を考慮して選択すればよいことであるから、引用例2において、「3日分の四本値」としていることを勘案して、「長期間」として、引用例3にも例示されている「3」日を採用し、「短期間」として最も短い「1日」を採用することも格別困難ではない。その場合、「短期の移動平均線」は、本願発明の「各日の「四本値」データの平均値を前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置するとともに該各日の「四本値」データの平均値を直線で結んで、「四本値」についての短期の移動平均線」としたものとなり、「長期の移動平均線」は、本願発明の「各日を前記基準時点とする前記規定個数分の「四本値」の平均値データを前記直交座標上の時間軸方向に沿って時系列的に配置するとともに該各日の「四本値」の平均値データを直線で結んで、「四本値」についての長期の移動平均線」としたものとなるのは明らかである。してみると、引用発明に引用例3に記載された移動平均線を適用し、相違点2の構成とすることは当業者であれば容易に想到し得たことである。 (3-3)そして、これらの相違点を総合的に勘案しても、本願発明の奏する作用効果は、引用発明、引用例2及び引用例3の作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別顕著なものということはできない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、本願発明は、引用発明、引用例2及び引用例3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。 5.むすび 以上のとおり、請求項1に係る発明は、引用発明、引用例2及び引用例3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本願は拒絶すべきものである。 |
審理終結日 | 2017-02-24 |
結審通知日 | 2017-02-28 |
審決日 | 2017-03-13 |
出願番号 | 特願2014-93624(P2014-93624) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(G06Q)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 青柳 光代 |
特許庁審判長 |
手島 聖治 |
特許庁審判官 |
石川 正二 相崎 裕恒 |
発明の名称 | 相場チャート作成方法および相場チャート作成装置 |
代理人 | 鈴木 弘男 |