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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1327562
審判番号 不服2016-8989  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-06-16 
確定日 2017-04-27 
事件の表示 特願2011-263562「基板洗浄装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月13日出願公開、特開2013-118209〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成23年12月1日の出願であって、その手続の経緯は以下のとおりである。
平成26年 9月20日 審査請求
平成27年 9月30日 拒絶理由通知(起案日)
平成27年11月 4日 意見書及び手続補正書の提出
平成28年 5月20日 拒絶査定(起案日)
平成28年 6月16日 審判請求、手続補正書の提出


第2 補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成28年6月16日に提出された手続補正書によりなされた手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
(1)本件補正の概要
平成28年6月16日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は、本願の特許請求の範囲を補正するものであって、その概要は、補正前の請求項8?14を削除するとともに、請求項1を補正するものである。
そして、補正前後の請求項1の記載は以下のとおりである。
<本件補正前>
「【請求項1】
基板を所定方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の表面を洗浄可能なブラシ部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部と、を備え、
前記ブラシ部は、前記基板に対する押し込み量が調整可能なブラシ毛を有するとともに、前記基板の厚み方向に移動可能なブラシローラーを含み、
前記超音波発振部は、前記基板の裏面に対して液体を表面張力により接触させる液体供給部と、前記液体に超音波振動を付与する振動子と、を含むことを特徴とする基板洗浄装置。」

<本件補正後>
「【請求項1】
基板を所定方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の表面を洗浄可能なブラシ部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部と、を備え、
前記ブラシ部は、前記基板に対する押し込み量が調整可能なブラシ毛を有するとともに、前記基板の厚み方向に移動可能なブラシローラーを含み、
前記超音波発振部は、前記基板の裏面に対して液体を表面張力により接触させる液体供給部と、前記液体に超音波振動を付与する振動子と、を含み、
前記ブラシ部と前記超音波発振部とは、それぞれ異なる収容室に収容されていることを特徴とする基板洗浄装置。」

(2)補正事項
本件補正の補正事項は、以下のとおりである。
ア 補正事項1
補正前の請求項8?14を削除する。

イ 補正事項2
請求項1に「前記ブラシ部と前記超音波発振部とは、それぞれ異なる収容室に収容されている」という発明特定事項を追加する。

2 新規事項の追加の有無、及び、補正の目的等について
(1)補正事項1について
補正事項1の本件補正は、特許法第17条の2第5項第1号に掲げる請求項の削除を目的とすると認められる。
そして、補正事項1の本件補正が、特許法第17条の2第3項の規定に適合することは明らかである。

(2)補正事項2について
ア 補正事項2は、本願明細書の段落【0039】の「本実施形態では、ブラシ部130と超音波洗浄部140のそれぞれに収容室131、141を設けた構成について説明したが、ブラシ部130及び超音波洗浄部140間において収容室131、141を共通化しても構わない。」という記載、及び、図1に基づくと認められる。
したがって、補正事項2の本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に適合する。

イ そして、補正事項2は、本件補正前の請求項1における「ブラシ部」と「超音波発振部」が、「それぞれ異なる収容室に収容されている」ことを限定するものである。
したがって、補正事項2の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とすると認められる。

ウ また、補正事項2の補正が請求項1に係る発明の特別な技術的特徴を変更しないことは、明らかである。

(10)検討のまとめ
以上検討したとおりであるから、本件補正は、特許法第17条の2第3項ないし第5項に規定する要件を満たす。

3 独立特許要件について
(1)検討の前提
以上のとおり、補正事項2の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的としている。
そこで、本件補正による補正後の特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否か、すなわち、本件補正が、いわゆる独立特許要件を満たすものであるか否かを、請求項1に係る発明について検討する。

(2)補正発明
本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)は、本件補正により補正された特許請求の範囲の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

「基板を所定方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の表面を洗浄可能なブラシ部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部と、を備え、
前記ブラシ部は、前記基板に対する押し込み量が調整可能なブラシ毛を有するとともに、前記基板の厚み方向に移動可能なブラシローラーを含み、
前記超音波発振部は、前記基板の裏面に対して液体を表面張力により接触させる液体供給部と、前記液体に超音波振動を付与する振動子と、を含み、
前記ブラシ部と前記超音波発振部とは、それぞれ異なる収容室に収容されていることを特徴とする基板洗浄装置。」

(3)引用例の記載事項及び引用発明
ア 引用例の記載事項
原査定の根拠となった拒絶理由通知において「引用文献1」として引用され、本願の出願前に日本国内において頒布された刊行物である、特開2006-198525号公報(以下「引用例」という。)には、「基板洗浄装置」(発明の名称)について、次の事項が記載されている(下線は当審で付加。)。
(ア)技術分野と解決しようとする課題
・「【技術分野】
【0001】
本発明は、基板を洗浄する基板洗浄装置に係る。特に、基板に付着した不純物を音波振動で除去する構造に特徴のある基板洗浄装置に関する。
……(中略)……
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上に述べた問題点に鑑み案出されたもので、ますます大型化する液晶用ガラス基板に代表されるガラス基板等の基板を洗浄する新たな基板洗浄装置を提供しようとする。」

(イ)基板洗浄装置の構成
・「【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して説明する。
【0021】
図1は、本発明の実施形態に係る基板洗浄ラインの全体図である。図2は、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置の側面断面図である。図3は、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置のライン系統図である。図4は、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置の正面図である。図5は、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置の平面図である。図6は、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置の作用図である。
【0022】
基板洗浄装置104は、基板を洗浄する装置である。
最初に、基板洗浄装置104を組み込まれた基板洗浄ライン100の一例を説明する。
基板洗浄ライン100は、全体受け槽101とブラシ洗浄装置102と超音波シャワー装置103と基板洗浄装置104と純水シャワー装置105とで構成される。
ブラシ洗浄装置102と超音波シャワー装置103と基板洗浄装置104と純水シャワー装置105とが、搬送方向に順に並ぶ。
基板10が、全体受け槽101の上方を搬送方向に搬送される。
基板10は、ブラシ洗浄装置102と超音波シャワー装置103と基板洗浄装置104と純水シャワー装置105とを順にくぐり、洗浄される。
ブラシ洗浄装置102は、ブラシにより基板の表面を洗浄する装置である。
超音波シャワー装置103は、MHzレベルの超音波を乗せた洗浄水で基板の表面を洗浄する装置である。
純水シャワー装置105は、純水を基板の表面にかけて、基板の表面を洗浄する装置である。
【0023】
基板洗浄装置104は、基板支持装置30と貯留槽40と超音波発振装置50と下部液体供給装置60と上部液体供給装置70とで構成される。
【0024】
基板支持装置30は、基板10を一方の表面11を上方に向けた姿勢を維持して支持し所定の搬送方向に搬送する装置である。
例えば、基板支持装置30は、搬送ローラ31と案内ローラ32と駆動機構(図示せず)で構成される。
搬送ローラ31は、水平にした回転軸をもち、円周の上部の位置を所定の水平位置に揃えた複数の円盤状部材である。搬送ローラ31は、駆動機構(図示せず)により回転する。基板10の他方の表面12が、搬送ローラの上部に接する。
案内ローラ32は、垂直にした回転軸をもち、搬送方向の直交する向きに所定の間隔を隔てて搬送方向に並んだ複数の円盤状部材である。所定の間隔は、基板10の幅寸法に一致している。案内ローラ32の円周部が、基板10の幅方向の側面に接する。
駆動機構が搬送ローラ31を回転させると、基板10の側部が案内ローラ32に案内され、基板10が搬送方向に移動する。
【0025】
貯留槽40は、第1液体21を基板10の他方の表面12に接する状態で貯留可能な槽であり、平板41と側板42と間隙部材45とで構成される。
平板41は、基板10の下方に位置し一方の表面11と距離Dを隔てて平行になり上方に向いた平面43を形成する部材でできている。
例えば、平板41は、搬送方向に交差する方向に長い四辺形の一定の厚みの金属製または樹脂製の板材である。
複数のスタッドボルト46が、平板41の下面の所定の位置に溶接されている。
例えば、複数のスタッドボルトが後述する振動子51の上部直径の数値よりも僅かに大きなピッチ距離で千鳥状に配置される。
【0026】
側板42は、平面43と基板10の他方の表面12との間に液体を貯留可能な液体貯留空間Hを囲う側面44を形成し、上端部と他方の表面12との間に互いに接触させない様に僅かの寸法をもった隙間Gを設けられた部材である。
例えば、僅かの寸法は、1?2mmである。
間隔Gは、側板42の上端部と搬送ローラ31の円周の上部との垂直距離に一致する。
液体貯留空間Hは、上下方向に沿って伸びた一定の断面形状を持った空間であってもより。
例えば、側板42は、断面がL字状の金属製または樹脂製の長手部材である。L字状の上部の壁面が側面44を形成する。L字状の下部は取付のためのフランジを形成する。
液体貯留空間Hは、搬送方向に交差する方向に伸びて基板10の両方の縁をはみ出た細長い形状をもっていてもよい。
例えば、側板42が前部側板42aと後部側板42bと右側板42cと左側板42dとで構成される。
前部側板42aと後部側板42bとが、搬送方向に側面44を向けて対面するL字状の長手部材である。
右側板42cと左側板42dとが、搬送方向に交差する方向に側面44を向けて対面するL字状の長手部材である。
前部側板42aと後部側板42bと右側板42cと左側板42dとが、互いの端部を繋いで液体貯留空間Hを囲う。
右側板42cの上端部が基板の他方の表面の位置よりも高く、左側板42dの上端部が基板の他方の表面の位置よりも高くてもよい。
【0027】
間隙部材45は、側板42と平板41とが接触しない様に、側板42の下端部と平板42の周囲との間に挟まれた弾性素材製の部材であり。
例えば、間隙部材45は、所定の厚みを持った樹脂製の板材である。例えば、間隙部材45は、5mmの厚みをもったゴム板である。
ゴム板が、平板41の周囲とL字状の側板42の下部に挟まれる。
【0028】
超音波発振装置50は、平面43から上方に向けて超音波を発振する装置である。
例えば、超音波発振装置50は、振動子51と振動子覆い構造52と支持構造体53と弾性体54とで構成される。
振動子51は、平板41の下面に固定される。例えば、振動子51は、円板状のピエゾ素子をヘッドとバックアップリングとの間に挟みこんだ構造をしている。振動子51は、ピエゾ素子に電圧を印加できる端子を備える。
雌ねじがヘッドに設けられる。雌ねじが、平板41のスタッドボルト46にねじ込まれる。
例えば、端子に所定の周波数をもった交番電圧を印加すると、ヘッドと平板とが所定の周波数で振動する。
【0029】
振動子覆い構造52は、振動子51を覆う気体層を囲って平板41の縁を支持する構造体である。
例えば、振動子覆い構造52は、複数の振動子51の周囲を囲うように設けられた薄板と下部を覆う薄板でできた構造である。
周囲を囲うように設けられた薄板は、上から見て、貯留槽40の側板42の輪郭形状と同寸法の輪郭形状をもっていてもよい。」

(ウ)基板洗浄装置の作用
・「【0039】
次に、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置104の作用を、図を基に、説明する。
図6は、本発明の実施形態に係る基板洗浄装置の作用図であり、基板10が基板洗浄装置104を通過する状態を示している。
下部液体供給装置60が、貯留槽40の液体貯留空間Hに第1液体21を供給する。
第1液体21が、液体貯留空間Hに溜まり、側板42の上端部から搬送方向に沿って前後方向に溢れ出る。
基板10が、基板支持装置30に支持されて搬送方向に移動する。
基板10は、側部を案内ローラ32に案内されて、搬送ローラ31により搬送方向に移動する。
基板10の他方の表面12が、貯留槽40の上に位置する。
液体貯留空間Hに溜まった第1液体21が、基板10の他方の表面12に接触し、他方の表面12と側板42の上端部との隙間Gから溢れ出る。
下部液体供給装置60が、第1液体を液体貯留空間Hに連続的に供給するので、雰囲気の気体が液体貯留空間Hに混入することなく、液体貯留空間Hは第1液体21で充満される。
【0040】
振動子51の端子に所定の周波数の交番電圧を印加する。
振動子51が所定の周波数で振動して、平板41が所定の周波数で振動する。
所定の周波数の音波が液体貯留空間Hに放射され、第1液体21を媒体として基板10を所定の周波数で揺する。
基板10の一方の表面11と他方の表面12に付着した異物が除去される。
所定の周波数が5KHz以上で500KHz以下であってもよい。
この様な周波数であると、第一液体21に溶存した気体が気泡になりにくい。従って、第一液体21を媒体とする超音波の減衰が少なく、平板から基板に効率良く伝搬する。
所定の周波数が20KHzであってもよい。
この様な周波数であると、特に第一液体21に溶存した気体が気泡になりにくい。従って、特に第一液体21を媒体とする超音波の減衰が少なく、平板から基板に効率良く伝搬する。
この周波数に対応する第1液体の中での波長λの1/4の整数倍が前記距離Dに略一致する様にしてもよい。
式に表すと、以下の様になる。
D=1/4λ×n
この様にすると、基板10の一方の表面11で振動の振幅が大きくなり、一方の表面11に付着した異物の除去が容易になる。
また、超音波の周波数が5KHz以上で500KHz以下であり、この周波数に対応する第1液体の中での波長λの1/4と波長λの1/2の整数倍の和が前記距離Dに略一致する様にしてもよい。
式に表すと、以下の様になる。
D=1/4λ+1/4λ×n
この様にすると、基板10の一方の表面11で特に振動の振幅が大きくなり、一方の表面11に付着した異物の除去がさらに容易になる。
【0041】
上部液体供給装置70が、基板10の一方の表面11に第2液体22を供給する。
基板10の一方の表面11から浮いた異物が第2液体22に流される。
第2液体22が、2液体供給ノズル72から基板の10の一方の表面11に流される。第2液体22が、前部吹き付けノズル71fと後部吹き付けノズル71rとの吹き付ける気体23に押されて、基板10の一方の表面11の上に所定の厚みで溜まり、搬送方向に移動する。
第2液体22は、前部吹き付けノズル71fの吹き付ける気体23に案内されて、基板10の縁へ移動する。第2液体22は、基板10の一方の表面11から落ちて、全体受け槽101へ受けられる。」

(エ)基板洗浄ラインについて
基板洗浄ライン100の全体図である図1には、ブラシ洗浄装置102と超音波シャワー装置103と基板洗浄装置104と純水シャワー装置105とが、この順で、全体受け槽101上に配置されていることが記載されている。
また、同図には、基板10が、ローラー上に載置されて、矢印で示される、ブラシ洗浄装置102から純水シャワー装置105へ向かう方向に搬送されることが記載されている。

イ 引用発明
上記の(ア)?(エ)から、引用例には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

「全体受け槽101とブラシ洗浄装置102と超音波シャワー装置103と基板洗浄装置104と純水シャワー装置105とで構成され、前記全体受け槽101の上方を搬送方向に搬送される基板10が、前記ブラシ洗浄装置102と前記超音波シャワー装置103と前記基板洗浄装置104と前記純水シャワー装置105とを順にくぐり、洗浄される基板洗浄ライン100であって、
前記ブラシ洗浄装置102は、ブラシにより基板の表面を洗浄する装置であり、
前記基板洗浄装置104は、基板支持装置30と貯留槽40と超音波発振装置50と下部液体供給装置60と上部液体供給装置70とで構成され、
前記基板支持装置30は、前記基板10を一方の表面11を上方に向けた姿勢を維持して支持し前記搬送方向に搬送する装置であり、
前記貯留槽40は、第1液体21を前記基板10の他方の表面12に接する状態で貯留可能な槽であり、前記基板10の下方に位置して平面43を形成する平板41と、前記平面43と前記基板10の前記他方の表面12との間に液体を貯留可能な液体貯留空間Hを囲う側面44を形成し、上端部と前記他方の表面12との間に互いに接触させない様に僅かの寸法をもった隙間Gが設けられた部材である側板42と、前記側板42と前記平板41とが接触しない様に間に挟まれた弾性素材製の間隙部材45とで構成され、
前記超音波発振装置50は、前記平板41の下面に固定される振動子51により前記平面43から上方に向けて超音波を発振する装置であり、
前記基板洗浄装置104は、前記基板10が前記基板洗浄装置104を通過する際に、前記下部液体供給装置60により前記貯留槽40に供給されて前記液体貯留空間Hに溜まった前記第1液体21が、前記基板10の前記他方の表面12に接触し、前記他方の表面12と前記側板42の上端部との隙間Gから溢れ出る状態で、前記振動子51が所定の周波数で振動して、前記液体貯留空間Hの前記第1液体21を媒体として前記基板10を所定の周波数で揺することで、前記基板10の前記一方の表面11と前記他方の表面12に付着した異物が除去されるように作用することを特徴とする基板洗浄ライン100。」

(4)対比
ア 補正発明と引用発明との対比
補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明においては、「前記全体受け槽101の上方を搬送方向に搬送される基板10が、前記ブラシ洗浄装置102と前記超音波シャワー装置103と前記基板洗浄装置104と前記純水シャワー装置105とを順にくぐ」るのであるから、「基板洗浄ライン100」が有する「基板洗浄装置104」における「基板支持装置30」と同様の「前記基板10を一方の表面11を上方に向けた姿勢を維持して支持し前記搬送方向に搬送する装置」が、少なくとも「前記ブラシ洗浄装置102」から「前記純水シャワー装置105」にかけて設けられていることは、明らかである。
そして、引用発明の少なくとも「前記ブラシ洗浄装置102」から「前記純水シャワー装置105」にかけて設けられている前記「前記基板10を一方の表面11を上方に向けた姿勢を維持して支持し前記搬送方向に搬送する装置」は、補正発明の「基板を所定方向に搬送する搬送部」に相当する。

(イ)引用発明において、「ブラシ洗浄装置102」は、「基板10」が「搬送方向に搬送される」際にくぐる装置である。
ここで、引用例において、「ブラシ」により「洗浄」される「基板の表面」は、前記「上方に向け」られた「一方の表面11」であるか、「他方の表面12」であるか、その両方であるか、特定されていない。
したがって、引用発明の「ブラシにより基板の表面を洗浄する装置」である「ブラシ洗浄装置102」と、補正発明の「前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の表面を洗浄可能なブラシ部」とは、「前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板」の「面を洗浄可能なブラシ部」である点で共通する。

(ウ)引用発明の「前記超音波発振装置50は、前記平板41の下面に固定される振動子51により前記平面43から上方に向けて超音波を発振する装置」である。そして、前記「上方」に向けて発振された「超音波」は、「一方の表面11を上方に向けた姿勢を維持」して「前記搬送方向に搬送」される「前記基板10」の裏面である「他方の表面12」に照射される。
したがって、「前記超音波発振装置50」を有することで「前記基板10の前記一方の表面11と前記他方の表面12に付着した異物が除去されるように作用する」ことができる引用発明の「前記基板洗浄装置104」は、補正発明の「前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部」に相当する。

(エ)引用発明において、「前記基板10が前記基板洗浄装置104を通過する際に、前記下部液体供給装置60により前記貯留槽40に供給されて前記液体貯留空間Hに溜まった前記第1液体21が、前記基板10の前記他方の表面12に接触」する。
したがって、引用発明の「前記基板洗浄装置104」を構成する「前記下部液体供給装置60」及び「前記貯留槽40」と、補正発明の「前記超音波発振部」が含む「前記基板の裏面に対して液体を表面張力により接触させる液体供給部」とは、「前記超音波発振部」が含む「前記基板の裏面に対して液体」を「接触させる液体供給部」である点で共通する。
また、引用発明の「前記超音波発振装置50」が「上方」に向けて発振した「超音波」は、「前記液体貯留空間Hの前記第1液体21を媒体として前記基板10を所定の周波数で揺する」。
したがって、引用発明の「前記基板洗浄装置104」を構成する「前記超音波発振装置50」は、補正発明の「前記超音波発振部」が含む「前記液体に超音波振動を付与する振動子」に相当する。

(オ)以上から、引用発明の「基板洗浄ライン100」は、、以下に挙げる相違点を除き、補正発明の「基板洗浄装置」に相当する。

イ 一致点と相違点
以上を総合すると、補正発明と引用発明とは、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違している。
(一致点)
「基板を所定方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の面を洗浄可能なブラシ部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部と、を備え、
前記超音波発振部は、前記基板の裏面に対して液体を接触させる液体供給部と、前記液体に超音波振動を付与する振動子と、を含むことを特徴とする基板洗浄装置。」

(相違点)
(相違点1)
補正発明の「ブラシ部」は「基板の表面を洗浄可能」であるのに対して、引用発明の「ブラシ洗浄装置102」が洗浄する「基板の表面」は、「一方の表面11」であるか、「他方の表面12」であるか、あるいは、その両方であるか、特定されていない点。
(相違点2)
補正発明の「前記ブラシ部は、前記基板に対する押し込み量が調整可能なブラシ毛を有するとともに、前記基板の厚み方向に移動可能なブラシローラー」を含むのに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点3)
補正発明の「液体供給部」は「表面張力により」基板の裏面に対して液体を接触させるのに対して、引用発明の「貯留槽40」は「前記液体貯留空間Hに溜まった前記第1液体21」を、「前記他方の表面12と前記側板42の上端部との隙間Gから溢れ出る状態」で「前記基板10の前記他方の表面12に接触」させる点。
(相違点4)
補正発明において、「前記ブラシ部と前記超音波発振部とは、それぞれ異なる収容室に収容されている」のに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。

(5)各相違点についての当審の判断
ア 相違点1について
(ア)引用発明において、「搬送方向に搬送される基板10」は「前記ブラシ洗浄装置102」を「くぐり、洗浄される」。すなわち、前記「基板10」は「前記ブラシ洗浄装置102」の中を「搬送」されると認められる。

(イ)ここで、上下一対の回転ブラシにより基板の表面とともに裏面をブラシ洗浄することは、たとえば以下に挙げる周知例1及び周知例2に記載されるように、ブラシによる基板洗浄技術においては普通に行われる周知技術(以下「周知技術1」という。)である。

(ウ)そうすると、第2の3(3)ア(イ)で摘記した、引用例の「基板10は、ブラシ洗浄装置102……を順にくぐり、洗浄される。」(段落【0022】)という記載に接した当業者にとって、引用発明の「ブラシ洗浄装置102」に、「ブラシ」により「洗浄」する「基板の表面」として、少なくとも「一方の表面11」を「洗浄」させることで、相違点1に係る構成とすることは、普通になし得たものと認められる。

(エ)平成28年5月20日付けの拒絶査定において「引用文献4」として例示した刊行物であり、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2000-306879号公報(以下「周知例1」という。)には、「基板洗浄装置」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は基板洗浄装置に関し、さらに詳細には、半導体ウエハ、液晶表示装置用ガラス基板、プラズマディスプレイ用ガラス基板等の薄板状の基板を回転ブラシを用いて洗浄する方式の基板洗浄装置に関する。」
b 「【0002】
【従来の技術】この種の回転ブラシを用いた基板洗浄装置は、続いて行われる清浄雰囲気での精密洗浄工程に投入される前の、いわゆる投入前洗浄工程において使用される装置で、その一般的構成が図10に示されている。
……(中略)……
【0006】回転ブラシ装置eは、上下一対の回転ブラシg,gからなり、各回転ブラシgは、洗浄室aの側壁部に回転可能に軸支されるとともに、駆動部hに駆動連結されている。また、上下一対の回転ブラシg,gの間隔寸法(ブラシ外径間寸法)は、洗浄すべき基板bの厚さ寸法に応じて、その表面に所定の圧力をもって回転接触するように設定されている。」
c 「【0052】回転ブラシ装置4は、基板Wの表面をブラッシング洗浄するもので、図4?図6に示すように、上下一対の回転ブラシ60,61と、ブラシ駆動部(ブラシ駆動手段)62と、ブラシ間隔調整部(ブラシ間隔調整手段)63とを主要部として備えてなる。」

(オ)平成28年5月20日付けの拒絶査定において「引用文献5」として例示した刊行物であり、本願の出願前に日本国内において頒布された特開2005-103450号公報(以下「周知例2」という。)には、「表面処理装置、および、液晶表示装置の製造方法」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。
a 「【0001】
本発明は、基板を含む製品の製造技術に係り、特に、回転体で基板の表面処理する表面処理技術に関する。」
b 「【0014】
図1及び図2に示すように、本実施形態に係る洗浄装置は、調整用基板30をX方向に搬送する基板搬送機構、調整用基板30を通過させるための間隔を開けて配置された上下1対のロール状洗浄ブラシ10A,10B、各洗浄ブラシ10A,10Bを回転及び移動させるブラシ駆動機構50、調整用基板30と洗浄ブラシ10A,10Bとの接触を検出する接触検知部40、を有している。なお、説明の便宜上、図1及び図2には、図3と同様なXYZの3方向を定義してある。」

イ 相違点2について
(ア)ブラシによる基板洗浄技術において、回転ブラシの回転軸を基板の厚み方向に対して移動可能に軸支するとともに、前記回転ブラシの前記基板に対する押し込み量を調整可能とすることで、製品価値に直接影響する基板の表面を最適な洗浄効果をもって洗浄することは、周知例1及び周知例2に記載されるように、周知技術(以下「周知技術2」という。)である。
そして、基板を最適な洗浄効果をもって洗浄することは、引用発明においても求められる技術課題であると認められる。
したがって、引用発明の「ブラシ」を回転ブラシとし、その回転軸を基板の厚み方向に対して移動可能に軸支するとともに、前記回転ブラシの前記基板に対する押し込み量を調整可能とすることは、周知技術2を参酌すれば、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(イ)周知例1には、第2の3(5)ア(エ)で摘記した事項に加え、以下の事項が記載されている。
a 「【0008】
【発明が解決しようとする課題】ところで、近時の基板bの種類の豊富化に伴い、基板bの厚みもかつての単一規格ではなく目的に応じて種々の寸法のものが採用されるに至っている。
【0009】したがって、これら基板bを洗浄する上記従来の洗浄装置においても、これに対応した調整機構を設ける必要がある。特に、基板bの表裏面に直接回転接触する上下一対の回転ブラシg,gにあっては、その間隔寸法は、基板bの製品価値に直接影響することから精密に調節される必要がある。
【0010】この目的のため、従来の洗浄装置においては、回転ブラシgとその駆動部hを一体で上下方向へ移動可能な構造とするとともに、この移動調整は、人手による手動や、駆動モータやシリンダによる自動で行われていた。」
b 「【0071】これにより、回転ブラシ60の回転支軸66は、偏心支持部102を介して、回転支持部101に対し回転可能でかつ上下方向へカム移動可能に軸支されることとなり、偏心支持部102の偏心ハウジクング102aの回転角度位置に対応して、回転支持66に軸支された回転ブラシ60の上下方向位置が設定調整される。なお、上記両円筒内外径面105,106の上下方向の偏心量は、本基板洗浄装置が洗浄処理対象とするすべての基板の厚さ寸法を考慮して設定される。また、偏心量Oの異なる複数種類の偏心ハウジング102aを揃えることにより、多種多様な基板の洗浄処理に適宜対応することができ、汎用性を増すことができる。」
c 「【0076】そして、上記調整用駆動モータ110の回転駆動により、伝達機構111を介して、各上側回転ブラシ60,60,…の偏心ハウジング102a、102a、…がそれぞれ連動してかつ同期して回転調整されると、図6に示すように、各対の上側回転ブラシ60の回転支軸66は、上記偏心ハウジクング102aの回転角度位置に対応して上下方向位置(偏心ハウジクング102aの円筒内外径面105,106の上下方向の偏心量の範囲内(最大上昇位置h_(max) ,最大下降位置h_(min) ))が調整される。
【0077】この結果、上側回転ブラシ60の下側回転ブラシ61に対する上下方向位置つまり上下両回転ブラシ60,61の間隔寸法Hが、洗浄すべき基板Wの厚さ寸法に対応して調整されることとなり、これにより、上下両回転ブラシ60,61が基板Wの表裏面に所定の圧力をもって回転接触可能となる。」

(ウ)周知例2には、第2の3(5)ア(オ)で摘記した事項に加え、以下の事項が記載されている。
a 「図12に、洗浄ブラシ10Aの位置補正処理のフローチャートを示す。
【0024】
図3の調整用基板30を、導体パターン31A1?31A3の形成面を上側に向けた状態で基板搬送機構60にセットし、洗浄ブラシ10A,10Bの手前まで調整用基板30を搬送させる。このとき、洗浄ブラシ10A,10Bは、基板搬送機構60のローラ61上の調整用基板30に接触しない適当な高さの位置に配置されている。
【0025】
その後、調整用基板30の各導体パターン31A1?31A3に、接触検知部40の電位測定器41A1?41A3を1台ずつ接続する(S100)。電位測定器41A1?41A3の接続完了後、洗浄ブラシ10A,10Bの回転を開始してから調整用基板30の前進を再開させ、図1及び図2に示したように、回転中の洗浄ブラシ10A,10B間に導体パターン31A1?31A3が位置付けられた位置で調整用基板30を停止させる(S101)。そして、洗浄ブラシ10Aの調整用送りネジ51A1,51A2をそれぞれ調整することによって、洗浄ブラシ10Aを調整用基板30に徐々に近づけてゆく(S102)。」
c 「(3)洗浄ブラシ10Bの位置補正
洗浄ブラシ10Aの位置補正が終了したら調整用基板30を後退させてから、調整用基板30の表裏を反転させ、洗浄ブラシ10Aの位置補正と同様な処理を実行する。これにより、調整用基板30に対する傾斜が小さくなるように洗浄ブラシ10Bの姿勢が補正される。なお、両側面に導体パターンが形成された調整用基板を用いている場合には、このとき、調整用基板の表裏を反転させる必要はない。
【0034】
このような、洗浄ブラシ10A,10Bの位置補正処理を、洗浄対象基板の洗浄処理に先立ち実行しておけば、洗浄対象基板の洗浄中、各洗浄ブラシ10A,10Bのスクラブ材12A,12Bの先端を洗浄対象基板の被洗浄面に一様に接触させることができる。また、位置補正後の洗浄ブラシ位置から、予め定められた押し込み量に相当する距離、洗浄ブラシを洗浄対象基板に移動させるようにすれば、機差による、洗浄対象基板に対する洗浄ブラシの押し込み量のばらつきも抑制することができる。したがって、洗浄対象基板の被洗浄面内における洗浄効果のばらつきが抑制されるから、洗浄対象基板の被洗浄面をむらなく良好に洗浄することができる。」

ウ 相違点3について
(ア)引用発明においては、「前記基板10が前記基板洗浄装置104を通過する際」、「第1液体21」が「前記他方の表面12と前記側板42の上端部との隙間Gから溢れ出る」ことで「前記基板10の前記他方の表面12に接触」していると認められる。
しかし、「前記他方の表面12と前記側板42の上端部との隙間G」は、第2の3(3)ア(イ)で摘記したように、「1?2mm」という「僅かの寸法」(段落【0026】)の「隙間」であることから、「溢れ出」ようとする「第1液体21」が、表面張力により前記「上端部」を超えて略半球状に盛り上がることによって、当該「僅かの寸法」で隔てられた「基板10」の「前記他方の表面12」に「接触」していることも、技術常識を参酌すれば明らかである。

(イ)これに対して、本願明細書には、段落【0045】に「第1液体収容容器65a及び第2液体収容容器65bは、+Z方向側に突出した凸部66を有し、凸部66に形成された開口66aを介して洗浄液SWが基板Sの裏面S2に表面張力により接触可能な位置に配置されている。」と、段落【0046】に「具体的に第1液体収容容器65a及び第2液体収容容器65bは+Z方向における上端部(凸部67)と基板Sの裏面S2との距離が3mm程度となるように配置される。」と記載されているとともに、段落【0051】には「基板Sの裏面S2には、第2液体収容容器65bから溢れ出した洗浄液SW及び第1液体収容容器65aから溢れ出した洗浄液SWが順に接触し」と記載されている。
すなわち、本願明細書には、補正発明の「基板の裏面に対して液体」を「接触させる」ための具体的な実施例として、「洗浄液SWが基板Sの裏面S2に表面張力により接触可能な位置」として、「上端部」と「基板Sの裏面S2との距離が3mm程度」であるように前記「上端部」を配置するとともに、「基板Sの裏面S2」には「液体収容容器」から「溢れ出した」洗浄液SWが「接触」することが記載されている。

(ウ)そうすると、引用例に記載された引用発明の「前記第1液体21が、前記基板10の前記他方の表面12に接触」する具体的な態様は、本願明細書に、補正発明の「基板の裏面に対して液体」を「接触させる」ための実施例として記載された態様と相違しない。

(エ)したがって、引用発明においても、「基板10の前記他方の表面12」に対して「第1液体21」は表面張力により接触しているといい得ると認められ、相違点3は実質的な相違点ではない。

エ 相違点4について
(ア)基板に対し、少なくとも回転ブラシによるブラシ洗浄と超音波洗浄とを行う基板洗浄装置において、ブラシ洗浄部と超音波洗浄部を独立した槽内に収容し、各洗浄部における洗浄に使用した洗浄液の受け機構も含めて、それぞれの部で独立して洗浄を行わせて、前記基板洗浄装置に、より良好な洗浄を行わせることは、以下に挙げる周知例3ないし周知例5に記載されるように、基板洗浄技術において周知技術(以下「周知技術3」という。)である。

(イ)そして、「基板洗浄ライン100」に、より良好な洗浄を行わせることは、引用発明においても求められる技術課題であると認められる。
したがって、「全体受け槽101」を共通に持つ引用発明の「ブラシ洗浄装置102と超音波シャワー装置103と基板洗浄装置104と純水シャワー装置105とで構成され」る「基板洗浄ライン100」において、少なくとも前記「ブラシ洗浄装置102」と「基板洗浄装置104」の各「装置」を、当該各「装置」での洗浄に使用した洗浄液の受け機構も含め独立した槽内に収容することで、それぞれの洗浄環境を独立させて、より良好な洗浄を行わせることは、周知技術3を参酌すれば、当業者が容易に想到し得たものと認められる。

(ウ)本願の出願前に日本国内において頒布された特開平8-318237号公報(以下「周知例3」という。)には、「基板の洗浄装置」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。
a 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は基板の洗浄装置に係り、特に半導体製造工程で使用されるレチクルやフォトマスク(以下、レチクルと称する。)などのガラス基板の表面に付着した異物を実質的にゼロレベルにまで洗浄する洗浄装置に関するものである。」
b 「【0017】次にブラシスクラブ槽106の構造について簡単に説明する。ブラシスクラブ槽106の内部には、上から順番に、レチクルRに純水を噴射する純水噴出部106aと、界面活性剤等の洗浄液を噴射してレチクルRの被洗浄面を洗浄液で浸潤させる洗浄液噴出部106bと、レチクルRの被洗浄面を擦るように回転するブラシ(接触部材)106cとが、飛散防止板106d、106eによって区画されて配置されている。またブラシスクラブ槽106の底部106fは錐体状になっており、排液の回収効率を高めてある。
【0018】上記のようなブラシクラブ槽106に隣接して水洗槽108が設置されている。この水洗槽108は、レチクルRの全体洗浄と局所洗浄を同時に行うことが可能なものであり、上から順番に、局所洗浄器108a、ライン洗浄器108bが配置されている。またこの水洗槽108の底部108dもブラシスクラブ槽106と同様に錐体状になっており、排液の回収効率を高めてある。
【0019】ライン洗浄器108bは、図2に示すように、レチクルの被洗浄面を略水平方向(X方向)に横切るようにライン状の超音波水流を噴射することが可能なように構成されている。またライン洗浄器108bは、略垂直状態に保持されたレチクルRに対して、不図示の駆動機構により上方から下方に(-Z方向)移動しながら、ライン状の超音波水流をレチクルRの被洗浄面に噴射することが可能である。なお、レチクルRの被洗浄面とライン状の超音波水流とは相対的に上下動可能であればよく、ライン洗浄器108bを固定してレチクルRを上下動させたり、あるいはライン洗浄器108bとレチクルRとを上下に同時に相対移動させることも可能である。またライン洗浄器108bをレチクルRの被洗浄面に対して(Y方向に)離隔接近可能に構成することもできる。」

(エ)本願の出願前に日本国内において頒布された特開平1-140727号公報(以下「周知例4」という。)には、「基板洗浄方法」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。
a 「本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、粒径が2μm未満の粒子をも効果的に洗浄除去できる方法を提供することを目的とする。」(第2頁上左欄第20行?第2頁上右欄第3行)
b 「<第2実施例>
第3図は、本発明方法を実施する基板洗浄装置の第2実施例の概略縦断面図である。
この第2実施例の基板洗浄装置は、ウェハWを洗浄液中に浸漬して洗浄処理するものであり、過酸化水素またはオゾンを含む洗浄液中に浸漬してウェハWの表裏両面を洗浄する第1処理ユニットP10、洗浄液中に浸漬しながら、回転ブラシで構成される払拭部材11,12を作用させてウェハWの表裏両面を払拭洗浄する第2処理ユニットP20、超音波振動を付与しながら洗浄液中に浸漬してウェハWの表裏両面を超音波洗浄する第3処理ユニットP30、および、洗浄処理後のウェハWをエアー吹き付けによって乾燥処理する第4処理ユニットP40が直列的に設けられ、そして、第1処理ユニットP10、第2処理ユニットP20、第3処理ユニットP30、第4処理ユニットP40にわたって、正逆転自在に送りローラ13…が設けられて構成されている。」(第4頁下右欄第2?20行)
c 「第2処理ユニットP20には、前述の第1処理ユニットP10におけると同様の浸漬槽27と受槽28が備えられ、また、浸漬槽27に、前述同様に、入口側シャッタ機構29、出口側シャッタ機構30、ウェハ検知センサ31,32、バルブ33を介装した排出管34、および、受樋35が設けられている。
浸漬槽27と受槽28とがポンプ36およびフィルター37を介装した給液管38を介して連通接続され、そして、浸漬槽27内の送りローラ13…の上下それぞれに回転ブラシによる払拭部材11,12が並設され、第1処理ユニットP10におけると同様にして浸漬槽27内にウェハWを搬入し、送りローラ13…によりウェハWを水平方向に往復駆動移動しながら、一定時間の間、洗浄液中に浸漬した状態で払拭部材11,12を作用させ、ウェハWの表裏両面それぞれを払拭洗浄し、ウェハWに付着した、主として、粒径が2μm以上の粒子を除去する。上記払拭部材11,12としては、前述第1実施例におけるスポンジ状のものを用いても良い。
第3処理ユニットP30には、前述の第2処理ユニットP20におけると同様の浸漬槽39と受槽40が備えられ、また、浸漬槽39に、前述同様に、入口側シャッタ機構41、出口側シャッタ機構42、ウェハ検知センサ43,44、バルブ45を介装した排出管46、ポンプ47およびフィルター48を介装した給液管49、ならびに、受樋50が設けられている。
浸漬槽39内の送りローラ13…の上下それぞれに超音波発振子51,52が設けられ、第1処理ユニットP10におけると同様にして浸漬槽39内にウェハWを搬入し、送りローラ13…によりウェハWを水平方向に往復駆動移動しながら、一定時間の間、洗浄液に超音波振動を与えてウェハWの表裏両面それぞれを超音波洗浄し、ウェハWに付着した粒径が2μm未満の粒子までをも除去する。」(第3頁下左欄第2行?第3頁下右欄第19行)

(オ)本願の出願前に日本国内において頒布された特開平10-261612号公報(以下「周知例5」という。)には、「ウエット処理方法及び処理装置並びに回転洗浄方法及び回転洗浄装置」(発明の名称)について、次の事項が記載されている。
a 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、液晶表示装置用ガラス基板や半導体基板のような極めて清浄な表面を得ることが求められる分野において、従来よりも清浄度の高い表面を得ることが可能なウエット処理方法及び処理装置並びに回転洗浄方法及び回転洗浄装置に関する。」
b 「【0020】本例では、オゾン水を供給するためのオゾン水用ノズル116,121と、超純水を供給するための超純水用ノズル117,120と、電解イオン水を供給するための電解イオン水供給用ノズル122?125と、被処理物をブラシングするブラシ102,103とを有する第1の槽506(101)と、被処理物に電気分解イオンを高圧噴射するための電解イオン水高圧ジェットノズル210,211と、超純水を被処理物115に供給するための超純水用ノズル206,209とを少なくとも有する第2の槽504(204)と、電解イオン水を導入するための手段と、該電解イオン水に30kHz以上の超音波を照射するための手段である超音波発振子303,304とを少なくとも有する第3の槽505(309)と、電解イオン水を導入するためのノズル415を有する被処理物115の乾燥を行うための第4の槽402と、を少なくとも有している。」
c 図1には、第1槽503と、第2槽504?第4槽506とは、それぞれ異なる排水配管に接続されることが記載されている。
d 図2?図5には、第1槽101、第2槽204、第3槽309、及び、第4槽402は、それぞれの槽の下面に、「排水・排気」方向に向かって開口する穴部を有することが記載されている。

(6)独立特許要件の検討のまとめ
以上から、相違点3は実質的な相違点ではなく、また、引用発明を相違点1、相違点2及び相違点4に係る構成とすることは、周知技術1ないし3を参酌すれば、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、補正発明の効果も、引用発明及び周知技術1ないし3から、当業者が予期し得たものと認められる。
したがって、補正発明は、周知技術1ないし3を参酌すれば、引用発明から当業者が容易に発明することができたものと認められるから、特許法第29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができない。

4 小括
以上検討したとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成28年6月16日に提出された手続補正書による手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1?14に係る発明は、平成27年11月4日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?13に記載された事項により特定されるものであり、その内の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、再掲すると、次のとおりのものである。

「基板を所定方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の表面を洗浄可能なブラシ部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部と、を備え、
前記ブラシ部は、前記基板に対する押し込み量が調整可能なブラシ毛を有するとともに、前記基板の厚み方向に移動可能なブラシローラーを含み、
前記超音波発振部は、前記基板の裏面に対して液体を表面張力により接触させる液体供給部と、前記液体に超音波振動を付与する振動子と、を含むことを特徴とする基板洗浄装置。」

2 引用例の記載事項及び引用発明
引用例の記載事項は、第2の3(3)アで摘記したとおりである。
また、引用発明は、第2の3(3)イで認定したとおりのものである。

3 対比
本願発明と引用発明とは、第2の3(4)ア及びイから、以下の点で一致するとともに、以下の点で相違している。
(一致点)
「基板を所定方向に搬送する搬送部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の面を洗浄可能なブラシ部と、
前記搬送部により所定方向に搬送される前記基板の裏面に超音波を付与することで該基板の表面側を洗浄可能な超音波発振部と、を備え、
前記超音波発振部は、前記基板の裏面に対して液体を接触させる液体供給部と、前記液体に超音波振動を付与する振動子と、を含むことを特徴とする基板洗浄装置。」

(相違点)
(相違点1)
補正発明の「ブラシ部」は「基板の表面を洗浄可能」であるのに対して、引用発明の「ブラシ洗浄装置102」が洗浄する「基板の表面」は、「一方の表面11」であるか、「他方の表面12」であるか、あるいは、その両方であるか、特定されていない点。
(相違点2)
補正発明の「前記ブラシ部は、前記基板に対する押し込み量が調整可能なブラシ毛を有するとともに、前記基板の厚み方向に移動可能なブラシローラー」を含むのに対して、引用発明は、そのような特定を有していない点。
(相違点3)
補正発明の「液体供給部」は「表面張力により」基板の裏面に対して液体を接触させるのに対して、引用発明の「貯留槽40」は「前記液体貯留空間Hに溜まった前記第1液体21」を、「前記他方の表面12と前記側板42の上端部との隙間Gから溢れ出る状態」で「前記基板10の前記他方の表面12に接触」させる点。

4 判断
第2の3(5)ア?ウでの検討から、相違点3は実質的な相違点ではなく、また、引用発明を相違点1及び相違点2に係る構成とすることは、周知技術1ないし2を参酌すれば、当業者が容易に想到し得たものと認められる。
そして、本願発明の効果も、引用発明及び周知技術1ないし2から、当業者が予期し得たものと認められる。
したがって、本願発明は、周知技術1ないし2を参酌すれば、引用発明から当業者が容易に発明することができたものと認められる。


第4 結言
以上のとおりであるから、本願発明は、引用例に記載された発明及び周知技術1ないし2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、拒絶をすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2017-02-27 
結審通知日 2017-02-28 
審決日 2017-03-13 
出願番号 特願2011-263562(P2011-263562)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (H01L)
P 1 8・ 575- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 溝本 安展樫本 剛  
特許庁審判長 河口 雅英
特許庁審判官 加藤 浩一
鈴木 匡明
発明の名称 基板洗浄装置  
代理人 棚井 澄雄  
代理人 飯田 雅人  
代理人 松本 将尚  
代理人 宮本 龍  
代理人 志賀 正武  

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