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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 取り消して特許、登録 G06Q
審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 G06Q
管理番号 1327666
審判番号 不服2016-6570  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-06-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-05-02 
確定日 2017-05-16 
事件の表示 特願2013- 11255「動的価格軸を提供するためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月20日出願公開、特開2013-122781、請求項の数(35)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、2005年7月29日(パリ条約による優先権主張2004年7月29日 米国、2004年11月19日 米国、2005年2月14日 米国、2005年2月18日 米国、2005年5月5日 米国)を国際出願日とする特願2007-523891号の一部を平成25年1月24日に新たな特許出願としたものであって、平成26年2月4日付けで拒絶理由通知がなされ、同年8月12日付けで手続補正がなされ、平成27年1月6日付けで最後の拒絶理由通知がなされ、同年7月10日付けで手続補正がなされたが、同年12月21日付けで補正の却下の決定がなされるとともに、同日付けで拒絶査定(原査定)がなされ、これに対し、平成28年5月2日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 原査定の概要
原査定(平成27年12月21日付け拒絶査定)の概要は次のとおりである。

[理由1]この出願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

本願の請求項27には「前記速さが前記コンピュータ・ディスプレイのユーザーによって設定される、請求項22記載の方法。」が記載されているが、この記載よりも前に「速さ」の記載が無く、「前記速さ」が何を指し示しているのかが不明確である。

[理由2]本願請求項1-44に係る発明は、以下の引用文献1-5に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明できたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

引用文献等一覧
1.米国特許出願公開第2004/0117292号明細書
2.国際公開第2003/090032号
3.特開平7-234772号公報
4.特開2000-163191号公報
5.特開平10-21036号公報

第3 審判請求時の補正について
審判請求時の補正は、特許法第17条の2第3項から第6項までの要件に違反しているものとはいえない。
すなわち、審判請求時の補正によって補正後の請求項1、17、18、25(補正前の請求項1、21、22、29)に「特定の速さで」及び「前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく」という事項を追加する補正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。また、上記事項は、当初明細書の段落【0059】【0068】に記載されているから、当該補正は新規事項を追加するものではない。
また、補正前の請求項9、18?20、39、41?44を削除する補正は、請求項の削除を目的とするものである。
また、補正後の請求項9?11の引用請求項を補正前の請求項9から請求項1にする補正は、補正前の請求項9に係る構成が補正後の請求項1に組み込まれたことに基づく、項番の振り替えにすぎない。
そして、「第4 本願発明」から「第6 対比・判断」までに示すように、補正後の請求項1?35に係る発明は、独立特許要件を満たすものである。

第4 本願発明
本願請求項1?35に係る発明(以下、それぞれ「本願発明1」?「本願発明35」という。)は、平成28年5月2日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1?35に記載された事項により特定される発明であり、以下のとおりの発明である。

「【請求項1】
コンピュータ・ディスプレイ上に、ある第一軸に沿ったある品目についての複数のビッド価格と、ある第二軸に沿った前記品目についての複数のアスク価格とを、前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置における前記複数のビッド価格および複数のアスク価格のうちのインサイドマーケットの指標を含めて表示し、
前記インサイドマーケットがある第一のビッド価格およびある第一のアスク価格からある第二のビッド価格およびある第二のアスク価格のうちの少なくとも一つに変化すると、前記インサイドマーケットの指標を前記第一軸および第二軸に沿ったある第二の位置に表示し、
前記インサイドマーケットの変化に応答して、コンピュータによって自動的に、前記コンピュータ・ディスプレイの前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記コンピュータ・ディスプレイの前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格を特定の速さでシフトさせることを含み、前記シフトの時間、量および方向は、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものであり、
前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく、
方法。
【請求項2】?【請求項16】(略)
【請求項17】
コンピュータ取引システムのワークステーションであって、入力装置を有し、前記取引システム上で取引される品目と関連付けられた複数のビッド価格およびアスク価格を表示するためのユーザーインターフェースを表示するよう設計されており、前記ユーザーインターフェースは:
前記ワークステーション・ユーザーインターフェースのディスプレイ上に、ある第一軸に沿った複数のビッド価格とある第二軸に沿った複数のアスク価格を表示し、
前記ディスプレイ上に、前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置にインサイドマーケットの指標を表示し、
前記インサイドマーケットがある第一のビッド価格およびある第一のアスク価格からある第二のビッド価格およびある第二のアスク価格のうちの少なくとも一つに変化すると、前記インサイドマーケットの指標を前記第一軸および第二軸に沿ったある第二の位置に表示し、
前記インサイドマーケットの指標を前記第二の位置に表示するのに続いて、前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格を特定の速さでシフトさせ、前記シフトの時間、量および方向は、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものであり、前記シフトは実質的に連続的であり視覚的になめらかに見えるものであり、
前記複数のビッド価格およびアスク価格をシフトさせるのと実質的に同時に、前記ディスプレイ上の前記入力装置に関連付けられたポインタの位置を直し、該ポインタが、インサイドマーケットの変化の前に以前指されていた価格を指しているようにする、
よう適応されており、
前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく、
ワークステーション。
【請求項18】
コンピュータ・ディスプレイ上に、ある第一軸に沿った複数のビッド価格と、ある第二軸に沿った複数のアスク価格とを、前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置におけるインサイドマーケットの指標を含めて表示し、
前記インサイドマーケットがある第一のビッド価格およびある第一のアスク価格からある第二のビッド価格およびある第二のアスク価格のうちの少なくとも一つに変化すると、前記インサイドマーケットの指標を前記第一軸および第二軸に沿ったある第二の位置に表示し、
前記インサイドマーケットの指標を前記第二の位置に表示するのに続いて、コンピュータによって自動的に、前記インサイドマーケットの変化を認識した結果として、前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格を特定の速さでシフトさせ、前記シフトの時間、量および方向は、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものであり、前記シフトは実質的に連続的であり視覚的になめらかに見えるものであり、
前記複数のビッド価格およびアスク価格をシフトさせるのと実質的に同時に、コンピュータによって自動的に、前記コンピュータ・ディスプレイに付随する入力装置に関連付けられたポインタの位置を直し、該ポインタが、インサイドマーケットの変化の前に以前指されていた価格を指しているようにし、
前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく、
ことを含む方法。
【請求項19】?【請求項24】(略)
【請求項25】
命令を記憶している一つまたは複数の非一時的なコンピュータ・メモリ・デバイスであって、前記命令は一つまたは複数のコンピュータに:
ある品目の取引のためのコンピュータ取引システムのユーザーインターフェース上に、
ある第一軸に沿った複数のビッド価格と、ある第二軸に沿った複数のアスク価格とを、前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置に表示される前記品目についてのインサイドマーケットとともに表示し、
前記インサイドマーケットがある第一のビッド価格およびある第一のアスク価格からある第二のビッド価格およびある第二のアスク価格のうちの少なくとも一つに変化すると、変化したインサイドマーケットを前記中央表示位置に対して変化した前記軸上のある第二の位置に表示し、前記軸の価格は実質的にインサイドマーケットの変化前の表示位置に留まり、入力装置に関連付けられたポインタは指されている価格に対応する表示位置にあり、
インサイドマーケットの指標の前記第二の位置における表示に続いて、インサイドマーケットの位置の変化に応答して、自動的に、前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格を特定の速さでシフトさせてインサイドマーケットの位置を直し、前記シフトの時間、量および方向は、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものである、
ことを実行させるものであり、
前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく、
非一時的なコンピュータ・メモリ・デバイス。
【請求項26】?【請求項35】(略)」

第5 引用文献、引用発明等
1.引用文献1について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1には、図面とともに次の事項が記載されている(下線は、当審において付与した。)。

ア.「[0002] The present invention is directed towards electronic trading. Specifically, the present invention is directed to tools for trading tradeable objects that can be traded with quantities and/or prices. 」
(当審訳:[0002] 本発明は、電子商取引に関する。具体的には、本発明は、数量および/または価格により取引できる取引可能対象物を取引するための手段に関する。)

イ.「[0028] As described with reference to the accompanying Figures, the preferred embodiments provide a display and/or trading method to ensure fast and accurate order entry by displaying market information along a static axis.」
(当審訳:[0028] 添付図面を参照して説明されるように、好適な実施例は、静的軸に沿って市場情報を表示して、速くかつ正確な注文入力を確実にするための表示および/または取引方法を提供する。
)

ウ.「[0038] In the preferred embodiments, client device 104 is a computer that provides an interface for a trader or market participant to trade at one or more markets listed with host exchange 102 .」
(当審訳:[0038] 好ましい実施形態では、クライアント装置104は、ホスト取引所102に上場されている1つ以上の市場において取引を行う取引者または市場参加者のためのインターフェースを提供するコンピュータである。)

エ.「[0040] In the preferred embodiments, client device 104 receives market information 108 from host exchange 102 . 」
(当審訳:[0040] 好ましい実施形態では、クライアント装置104は、ホスト取引所102からの市場情報108を受信する。)

オ.「[0041] According to the preferred embodiments, market information 108 is displayed to the trader(s) on the visual output device or display device of the client device 104 .」
(当審訳:[0041] 好ましい実施形態によれば、市場情報108は、クライアント装置104の視覚的出力装置又はディスプレイ装置上で、取引者に表示される。)

カ.「[0069] As described above, the present invention provides a display and trading method to ensure fast and accurate execution of trades by displaying market information along a static axis. ・・・(中略)・・・Accordingly, the values in the price column are static. That is, they do not normally change positions unless a re-centering, re-positioning or other user initiated command (such as clicking on a scroll button) is received. 」
(当審訳:[0069] 上述したとおり、本発明は、静的軸に沿って市場情報を表示して、速くかつ正確な取引の実行を確実にするための表示および/または取引の方法を提供する。・・・(中略)・・・したがって、価格列の数値は静的である。リセンタリング、再位置決め、または、その他のユーザによって開始されるコマンド(クリックやスクロールボタン)が入力されない限り、この数値は、通常、位置を変えることはない。)

キ.「[0080] FIG. 5 shows an embodiment of a trading screen 500 , which provides similar market information as screen 400 . Screen 500 includes a region for displaying working orders 502 , a region for displaying bid quantities 504 , a region for displaying ask quantities 506 , and a region for displaying prices situated uniformly along a static axis 508 . 」
(当審訳:[0080] 図5は取引画面500の一実施形態を示しており、その画面は画面400と同様の市場情報を示している。画面500は、実施注文502を表示する領域、ビッド数量を表示する領域504、アスク数量を表示する領域506と、静的軸508に沿って均一に置かれた価格を表示するための領域を含む。)

ク.「[0081] According to one preferred embodiment, each region 502 , 504 , 506 , 508 is divided into cells. For example, the working order region 502 has "cell 1," , bid quantity display region 504 has "cell 2," , ask quantity region 506 has "cell 3," , and price display region 508 has a price level of "150." Briefly, "cell 1" displays working orders, "cell 2" displays bid quantity, and "cell 3" displays ask quantity, although this apparent from the Figure. Each region 502 , 504 , 506 , 508 has a cell or location that corresponds to a particular price level. For example, "cell 1" , "cell 2" , and "cell 3" each correspond to price level "150". 」
(当審訳:[0081] 1つの好ましい実施形態によれば、各領域502、504、506、508は、セルに分割される。例えば、実施注文領域502は「セル1」を有し、ビッド数量表示領域504は「セル2」を有し、アスク数量領域506は「セル3」を有し、価格表示領域508は「150」の価格レベルを有する。要するに、「セル1」は実施注文を表示し、「セル2」はビッドの数量を表示し、「セル3」はアスク数量を表示しており、これは図から明らかである。各領域502、504、506、508は、個々の価格レベルに対応するセルまたは位置を有している。例えば、「セル1」、「セル2」、「セル3」は、それぞれ価格レベル「150」に対応する。)

ケ.「[0083] Preferably, order entry is integrated in some fashion into the grid. According to one embodiment, the screen 500 has a buy order entry region 510 and a sell order entry region 512 . In this example, the buy order entry region 510 overlaps with the bid display region 504 and the sell order entry region 512 overlaps with the ask display region 506 . So, by positioning a curser over a cell in the bid display region 504 and pressing the proper button, an order to buy the tradeable object for the price associated with the cell is automatically sent to the host exchange 104 . By positioning a curser over a cell in the ask display region 506 and pressing the proper button, an order to sell the tradeable object for the price associated with the cell is automatically sent to the host exchange 106 .」
(当審訳:[0083] 好ましくは、注文入力が何らかの形でグリッドに統合される。一実施形態において、画面500は、買い注文入力領域510と、売り注文入力領域512とを有する。この例において、買い注文入力領域510はビッド表示領域504と重なり、売り注文入力領域512は、アスク表示領域506と重なる。そして、ビッド表示領域504のセル上にカーソルを位置させ、適当なボタンを押すと、そのセルに対応する価格で取引可能対象物を買うための注文が、自動的にホスト取引所104に送信される。アスク表示領域506のセル上にカーソルを位置させ、適当なボタンを押すと、そのセルに対応する価格で取引可能対象物を売るための注文が、自動的にホスト取引所106に送信される。)

コ.「[0088] As described above, market information might include data that represents just the inside market, where the inside market is the lowest sell price (best offer) and the highest buy price (best bid) for orders in the market. Example market information is displayed in FIG. 5 for illustrating the preferred embodiment. Referring to screen 500 in FIG. 5 , the inside market is 140-141, where 140 is the highest bid price and 141 is the lowest ask price. Indicators can be used to graphically indicate the inside market prices to the trader. More on indicators is described below. 」
(当審訳:[0088] 以上説明したように、市場情報は、インサイドマーケットを表すデータを含むことができ、ここでインサイドマーケットは、市場の注文における最低の売り価格(最良オファー)と最高の買い価格(最良ビッド)のことである。例えば、市場情報は、好適な実施態様を示した図5のように表示される。図5を参照すると、インサイドマーケットは140-141であり、ここで140は最高のビッド価格であり、141は最低のアスク価格である。取引者にインサイドマーケット価格をグラフィック表示するために、インジケータを使用することができる。インジケータの詳細は後で記載する。)

サ.「[0100] When the market ascends or descends the price column or the static axis, the inside market might go above or below the price levels of the price display region 708 that are currently displayed on a trader's screen. One could manually adjust which portion of the price display region is displayed, such as described above, or one could use the re-centering or re-positioning feature. That is, the system will re-center or re-position the inside market on the trader's screen. There are many ways to give a re-centering/re-positioning command. For instance, a button or hotkey may be programmed so that when it is pressed, the system automatically re-centers or re-positions the inside market on the screen. Alternatively, when the inside market is near one of the edges of the screen, the system may automatically re-center or re-position the display. 」
(当審訳:[0100] 市場が価格列又は静的軸を登り又は降りると、インサイドマーケットは、取引者の画面上に表示されている価格表示領域708の価格レベルを下回ったり上回ったりするかもしれない。上述したように、価格表示領域のどの部分を表示するかを手動で調整することが可能であり、または、リセンタリングまたは再位置決めの機能を使用することができる。すなわち、このシステムは、取引者の画面上でインサイドマーケットをリセンタリングまたは再位置決めする。リセンタリング/再位置決めを提供する多くの方法がある。例えば、ボタン、ホットキーは、押されたときに、システムが自動的に画面上のインサイドマーケットをリセンタリングまたは再位置決めするようにプログラムされることができる。あるいは、インサイドマーケットが、画面の端部の1つ付近にあるときに、システムは、自動的にその表示をリセンタリングまたは再位置決めすることができる。)

前記ア.?サ.によれば、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

<引用発明>
「 取引可能対象物を取引するために、静的軸に沿って市場情報を表示する表示方法であって([0002][0028])、
クライアント装置は、ホスト取引所に上場されている市場において取引を行う取引者にインターフェースを提供するコンピュータであり([0038])、
ホスト取引所からの市場情報を、クライアント装置のディスプレイ装置上に表示し([0040][0041])、
その画面は、ビッド数量を表示する領域、アスク数量を表示する領域と、静的軸に沿って価格を表示する領域を含み([0080])、
各領域はセルに分割され、個々の価格レベルに対応するセルまたは位置を有し、個々のセルに価格レベルに対応するビッドの数量、アスク数量を表示し([0081])、
市場情報は、インサイドマーケットを表すデータを含み、インサイドマーケットは、市場の注文における最低の売り価格(最良オファー)と最高の買い価格(最良ビッド)であり([0088])、
取引者にインサイドマーケット価格をグラフィック表示するためにインジケータを使用することができ([0088])、
リセンタリング、再位置決め、または、その他のユーザによって開始されるコマンド(クリックやスクロールボタン)が入力されない限り、価格列の数値は、表示位置を変えることはなく([0069])、したがって、市場が価格列又は静的軸を登り又は降りると、インサイドマーケットは、取引者の画面上に表示されている価格表示領域の価格レベルを下回ったり上回ったりするかもしれないので、インサイドマーケットが、画面の端部の1つ付近にあるときに、インサイドマーケットの表示を自動的にリセンタリングすることができ([0100])、
ビッド数量を表示する領域のセル上にカーソルを位置させ、適当なボタンを押すと、そのセルに対応する価格で取引可能対象物を買うための注文が、自動的にホスト取引所に送信され、アスク数量を表示する領域のセル上にカーソルを位置させ、適当なボタンを押すと、そのセルに対応する価格で取引可能対象物を売るための注文が、自動的にホスト取引所に送信される([0083])、表示方法。」

2.引用文献2について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献2には、図面とともに次の事項が記載されている。

「[00142]・・・(中略)・・・In one embodiment, the trading application tracks the market's activity by automatically centering, for example, the inside market or the Last Traded Price ("LTP") on the display with respect to a static axis or scale of prices.」
(当審訳:[00142]・・・(中略)・・・1つの実施形態では、トレーディングアプリケーションは、例えば静的軸つまり価格のスケールに関して表示上にインサイドマーケットまたは前回売買価格(「LTP」)を自動的にセンタリングすることによってマーケットの活動を追跡調査する。)

「[00144] Preferably, a user may designate any item of interest as the basis for the positioning function, such that, upon positioning, the item of interest will be moved to a predetermined location on the user's display. Automatic positioning may be triggered either by a timer, or by monitoring movement of the item(s) of interest about the display. Two items of interest to many traders are the inside market and the LTP. Thus, in one embodiment, the user may select one of these items for automatic re-positioning. When either the highlighted LTP cell or the inside market line is outside of the viewable area of a trader's display, or is more than a predetermined distance away from a location on the display, the LTP cell or the inside market line will automatically be placed at a predetermined location on the display. In a preferred embodiment, automatic positioning parameters may be selected by the user from the Options' display. The user may choose, for example, whether to re-position the display after a designated number of seconds, when the LTP is a designated number of cells from the top or bottom of the trader's display screen, or when the inside market is a designated number of cells from the top or bottom of the trader's display screen.」
(当審訳:好ましくは、ユーザは、位置決め時に、興味のある項目がユーザの表示上の所定の位置に移動されるように、興味のある任意の項目を位置決め機能のための基礎として指定し得る。自動位置決めはタイマによって、または表示の回りの興味のある項目(複数の場合がある)の移動をモニタすることによってトリガされ得る。多くのトレーダにとって2つの興味のある項目は、インサイドマーケットおよびLTPである。したがって、1つの実施形態では、ユーザは自動再配置のためにこれらの項目の1つを選択し得る。強調表示されたLTPセルまたはインサイドマーケットラインのどちらかがトレーダの表示の視認可能領域の外側にあるとき、あるいは表示上の位置から所定距離以上離れているときには、LTPセルまたはインサイドマーケットラインは表示上の所定の場所に自動的に配置されるであろう。好適実施形態において、自動位置決めパラメータはオプション表示からユーザによって選択されてよい。ユーザは、例えば、LTPがトレーダの表示画面の上部または下部からの指定されたセル数であるときに、あるいはインサイドマーケットがトレーダの表示画面の上部または下部からの指定されたセル数であるときに、指定された秒数の後に表示を再配置するかどうかを選択し得る。)

3.引用文献3について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献3には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0011】
【実施例】本発明は、ユーザに、従来技術によるシステムが要求するものよりも少ないマウスの物理的移動により、コンピュータにコマンドを入力させるものである。・・・(中略)・・・
【0012】本発明は、ユーザ・コマンドに応じて、コンピュータのビジュアル・ディスプレイ上の予め定められた位置に自動的にカーソルを置く(配置する)ものである。Windows オペレーティング・システムのようなグラフィカルな環境において、ウィンドウがオープンまたはクローズされるごとに、本発明は、コンピュータ・ディスプレイ上の予め定められた新しい位置にカーソルを置くことができる。」

4.引用文献4について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献4には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0033】・・・(中略)・・・図10に示した方法において、テレビ受像機200はリモコン100のプログラムガイドキー30に応答して縮小したプログラムリストをディスプレーし、拡大/縮小キー28に応答して拡大/縮小したプログラムリストをディスプレーする。・・・(中略)・・・
【0034】拡大したプログラムリストをディスプレーする場合には拡大したプログラムリスト54のみを画面にディスプレーする。カーソル位置設定過程(S1005)はカーソル52をプログラムリスト領域に位置させる過程である。このようにプログラムガイド画面をディスプレーする時、カーソル52をプログラムリスト領域に位置させることによって使用者が容易に希望のプログラムが選択できる。」

5.引用文献5について
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献5には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0047】初期状態では、HTMLファイルの中で選択動作を伴う画像のうち一番先に記述されているBUTTON001.GIFの中心座標X,Y=75,385の位置にカーソルを置く。」

「【0049】右方向の十字キー入力があった場合は、画像関連付け手段104により現在のボタンより右にあり、かつ現在のボタンに一番近いボタンの画像BUTTON002.GIFであることを求め、その中心座標X,Y=345,385へカーソルを移す。」

「【0053】スクロールを開始して途中の画面が表示画面803である。図から分かるように表示画面801でカーソルがあった位置ボタン207の位置が上方に移動しているがカーソル表示位置は表示データ制御手段によってボタン807の中心座標に追従して表示している。画像位置関連付けテーブルは、表示画面がスクロールしている間、ボタンの中心座標の更新を常に行なっているので、画像データ制御手段104は、ボタン207に追従する様にカーソルの表示位置も変えることでカーソルを追従させている。」

6.引用文献6について
補正の却下の決定に引用された引用文献6には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0026】この状態において、画像31上でウインドウ32を移動する場合、即ち、画像31をウインドウ32内でスクロール表示する場合、使用者はマウス13を操作し、画像31が表示されたウインドウ内にカーソルを移動する。
【0027】続いて、使用者はマウス13の右ボタンを押し続けながら、マウス13を移動して、ウインドウ32を移動したい方向をカーソル33で指示する。また、低速でスクロールしたい場合には、カーソル33をウインドウの中央Prに近づけ、高速で移動したい場合には、カーソル33を中央Prから離すようにマウス13を操作する。」
「【0038】図4に示すスクロール処理は、マウス13の右ボタンが押されている間、ソフトウエアタイマ割り込み等に応答し、所定期間経過毎に繰り返される。従って、ウインドウ32内に表示された画像がスクロールされる。」

7.引用文献7について
補正の却下の決定に引用された引用文献7には、図面とともに次の事項が記載されている。

「【0035】
次に、ユーザがマウス11にてマウスカーソル35を下端部のスクロール指示領域42Aに移動させる。これを受けて、画面スクロールに関するプログラムにより、表示画面31がマウスカーソル35と表示画面31の中心とを結ぶ線に沿ってマウスカーソル35の方向、即ち、図4においては下方向にスクロールする。」
「【0037】
次に、図5において、マウス11を操作して右端部のスクロール指示領域42Bにマウスカーソル35を移動する。前述したのと同様にして、画面スクロールに関するプログラムにより右方向に表示画面31がスクロールする。」
「【0043】
○上記実施形態において、マウスカーソル35をスクロール指示領域42A?42D内における位置によって、表示画面31がスクロールする速度を変えてもよい。」

第6 対比・判断
1.本願発明1について
(1)対比
本願発明1と引用発明とを対比すると、次のことがいえる。

・引用発明のクライアント装置はコンピュータであり、そのディスプレイ装置は、本願発明1の「コンピュータ・ディスプレイ」に相当する。

・引用発明の「取引可能対象物」は、本願発明1の「品目」に相当する。

・引用発明は、価格を静的軸に沿って表示する。その価格のうち、ビッド数量に対応する価格は、本願発明1の「ある品目についての複数のビッド価格」に相当し、アスク数量に対応する価格は、本願発明1の「前記品目についての複数のアスク価格」に相当する。

・本願の請求項3等によれば、第一軸と第二軸は同じ軸の場合を含むことから、引用発明の静的軸のうち、ビッド数量に対応する価格を表示する部分は、本願発明1の「第一軸」に相当し、アスク数量に対応する価格を表示する部分は、本願発明1の「第二軸」に相当する。

・引用発明において、センタリングされたインサイドマーケットの表示位置は、本願発明1の「前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置」に相当する。

・引用発明の「インサイドマーケット価格をグラフィック表示するため」の「インジケータ」は、本願発明1の「インサイドマーケットの指標」に相当する。

・引用発明において、インサイドマーケットがセンタリングされているときに、そのインサイドマーケット価格のインジケータをグラフィック表示することは、本願発明1の「前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置における前記複数のビッド価格および複数のアスク価格のうちのインサイドマーケットの指標を含めて表示し」に相当する。

・引用発明では、リセンタリング、再位置決め、または、ユーザのコマンド入力が行われない限り、価格列の数値は、表示位置を変えない。このことは、インサイドマーケット価格が変化すると、インサイドマーケットの表示位置が変化することことを意味し、リセンタリングの直前には、インサイドマーケットが「画面の端部の1つ付近」のような中央位置から外れた位置に表示されていることを意味する。この中央位置から外れた位置は、本願発明1の「第一軸および第二軸に沿ったある第二の位置」に相当する。
また、中央位置から外れた位置にあるインサイドマーケットに対してインジケータを表示することは、本願発明1の「前記インサイドマーケットがある第一のビッド価格およびある第一のアスク価格からある第二のビッド価格およびある第二のアスク価格のうちの少なくとも一つに変化すると、前記インサイドマーケットの指標を前記第一軸および第二軸に沿ったある第二の位置に表示し」に相当する。

・引用発明は、「インサイドマーケットが、画面の端部の1つ付近にある」ことに応答して、「インサイドマーケットの表示を自動的にリセンタリングする」といえる。
「インサイドマーケットが、画面の端部の1つ付近にある」ことは、インサイドマーケットの変化の結果に他ならないから、「インサイドマーケットが、画面の端部の1つ付近にある」ことに応答することは、本願発明1の「前記インサイドマーケットの変化に応答して」に相当する。
また、引用発明のリセンタリングは、インサイドマーケットが、画面の端部の1つ付近にあると、自動的にその表示位置を中央にするから、中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものである。
したがって、引用発明の上記リセンタリングと、本願発明1の「前記インサイドマーケットの変化に応答して、コンピュータによって自動的に、前記コンピュータ・ディスプレイの前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記コンピュータ・ディスプレイの前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格を特定の速さでシフトさせることを含み、前記シフトの時間、量および方向は、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものであり」は、「前記インサイドマーケットの変化に応答して、コンピュータによって自動的に、前記コンピュータ・ディスプレイの前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記コンピュータ・ディスプレイの前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格をシフトさせることを含み、前記シフトは、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものであり」の点で共通する。

したがって、本願発明1と引用発明との間には、次の一致点、相違点があるといえる。

<一致点>
「コンピュータ・ディスプレイ上に、ある第一軸に沿ったある品目についての複数のビッド価格と、ある第二軸に沿った前記品目についての複数のアスク価格とを、前記第一軸および第二軸に沿ったある中央表示位置における前記複数のビッド価格および複数のアスク価格のうちのインサイドマーケットの指標を含めて表示し、
前記インサイドマーケットがある第一のビッド価格およびある第一のアスク価格からある第二のビッド価格およびある第二のアスク価格のうちの少なくとも一つに変化すると、前記インサイドマーケットの指標を前記第一軸および第二軸に沿ったある第二の位置に表示し、
前記インサイドマーケットの変化に応答して、コンピュータによって自動的に、前記コンピュータ・ディスプレイの前記第一軸に沿った前記複数のビッド価格および前記コンピュータ・ディスプレイの前記第二軸に沿った前記複数のアスク価格をシフトさせることを含み、前記シフトは、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものである、方法。」

<相違点1>
本願発明1では、シフトの「時間、量および方向」が、前記インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するものであるのに対し、引用発明では、リセンタリングによるシフトが、インサイドマーケットの表示位置を中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持するといえるものの、その「時間、量および方向」については不明な点。

<相違点2>
本願発明1は、「インサイドマーケットの表示位置を前記中央表示位置または該中央表示位置近くに実質的に連続的に維持する」ためのシフトを「特定の速さ」で行うものであり、「前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく」ものであるのに対し、引用発明は、リセンタリングのためのシフトを上記の速さで行うものではない点。

(2)相違点についての判断

上記相違点2について検討する。
引用文献2には、トレーディングアプリケーションが、インサイドマーケットを自動的にセンタリングすることが記載されているものの、センタリングの際のシフトの速度がポインタの動きの決定に基づくことは記載も示唆もされていない。
また、引用文献3には、ウィンドウがオープンまたはクローズされるごとに、予め定められた新しい位置にカーソルを置くことが記載され、引用文献4には、プログラムガイド画面をディスプレーする時、カーソルをプログラムリスト領域に位置させることが記載され、引用文献5には、十字キーが操作された場合に、操作されたキーの方向にあるボタンへカーソルを移動することや、スクロールによってボタンの表示位置が変化した場合に、カーソル表示位置をボタンに追従させることが記載されているのみで、上記相違点に係る構成は記載されてない。
なお、原審の補正の却下の決定においては、相違点に係る構成が周知技術であり、その周知文献として引用文献6、7を提示しているが、引用文献6、7に記載された周知技術は、いずれも、ユーザがマウス操作によって、希望する方向と速度と量とを指示してスクロールを行わせるもので、自動的に行われるスクロールに対して速度のみを指示することはできない。これに対し、引用発明のリセンタリングは自動的に行われ、シフトの方向や量を指示する必要がない。したがって、引用発明の自動的なリセンタリングに対し、スクロールの方向と速度、量を指示するためのマウス操作技術を適用する動機がない。
よって、本願発明1は,引用発明、引用文献2?5の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

2.本願発明2?35について
本願発明2?35も、本願発明1の、インサイドマーケットの表示位置を中央表示位置に維持するためのシフトを「特定の速さ」で行い、「前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく」という構成を備えるから、本願発明1と同じ理由により、引用発明、引用文献2?5の記載事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。

第7 原査定について
1.理由1(特許法第36条6項2号)について
審判請求時の補正により、補正後の請求項23(補正前の請求項27)は請求項18を引用し、その請求項18には「特定の速さ」が記載されていることから、原査定の理由1を維持することはできない。

2.理由2(特許法第29条第2項)について
審判請求時の補正により、本願発明1?35は、シフトを「特定の速さ」で行い、「前記シフトが行なわれる前記特定の速さは少なくとも部分的には、前記ディスプレイ上でのポインタの動きの決定に基づく」という構成を備えるから、拒絶査定において引用された引用文献1?5に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。したがって、原査定の理由2を維持することはできない。

第8 むすび
以上のとおり、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。
また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-05-01 
出願番号 特願2013-11255(P2013-11255)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (G06Q)
P 1 8・ 537- WY (G06Q)
最終処分 成立  
前審関与審査官 田付 徳雄  
特許庁審判長 佐藤 智康
特許庁審判官 金子 幸一
相崎 裕恒
発明の名称 動的価格軸を提供するためのシステムおよび方法  
代理人 伊東 忠彦  
代理人 大貫 進介  
代理人 伊東 忠重  

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