• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23D
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23D
管理番号 1327848
異議申立番号 異議2016-700781  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-26 
確定日 2017-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5884726号発明「呈味強化用油脂ならびに呈味含有含油食品の呈味を強化する方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5884726号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-4〕について訂正することを認める。 特許第5884726号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5884726号の請求項1?4に係る特許についての出願は、2011年2月18日(優先権主張 2010年6月9日、日本国、2010年2月18日、日本国)を国際出願日とする出願であって、平成28年2月19日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許について、特許異議申立人若林美智子により特許異議申立がなされ、当審において平成28年11月11日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月16日に意見書の提出及び訂正の請求がされ、その訂正の請求に対して特許異議申立人から平成29年2月21日付けで意見書が提出されたものである。


第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
平成29年1月16日の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第5884726号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1乃至4について訂正することを求める。」ものであり、その訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである。

(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「アスコルビン酸、エリソルビン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、及び、これらの塩からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機酸またはその塩(但し、乳酸塩を除く)」とあるのを、「アスコルビン酸またはその塩」に訂正する。
(訂正事項2)
特許請求の範囲の請求項1に「油脂中に2?60ppm」とあるのを、「油脂中に2?28ppm」に訂正する。
(訂正事項3)
特許請求の範囲の請求項2に「油脂中に2?60ppm」とあるのを、「油脂中に2?28ppm」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1及び2について
ア 訂正の目的
上記訂正事項1及び2は、微細な粒子について、選択肢として記載された「アスコルビン酸、エリソルビン酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、及び、これらの塩からなる群から選ばれた少なくとも1種の有機酸またはその塩(但し、乳酸塩を除く)」から、「アスコルビン酸またはその塩」に限定するとともに、その量を「2?60ppm」から、「2?28ppm」に狭めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項1及び2は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項1及び2で限定した事項は、本件明細書の【0038】?【0048】、【0057】?【0097】のアスコルビン酸含有パームオレインを用いた方法の記載、及び【0015】の「有機酸の添加量は、望ましくは油脂中に2?28ppm含まれるように添加するのが良く」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合するものである。

(2)訂正事項3について
ア 訂正の目的
上記訂正事項3は、アスコルビン酸の量について、「2?60ppm」から、「2?28ppm」に狭めたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
イ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないこと
上記訂正事項3は、上記アのとおりであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項に適合するものである。
ウ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること
上記訂正事項3で限定した事項は、本件明細書の【0015】の「有機酸の添加量は、望ましくは油脂中に2?28ppm含まれるように添加するのが良く」との記載に基づくものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項に適合するものである。

3 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正を認める。


第3 特許異議申立について
1 本件発明
本件訂正の請求により訂正された訂正後の請求項1?4に係る発明(以下訂正後の請求項1?4に記載された発明を「本件発明1?4」、また、これらをあわせて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

【請求項1】
アスコルビン酸またはその塩を油脂中に2?28ppm(重量基準)微細な粒子として分散した油脂を、呈味材を含有する食品素材と共に用いることにより、食品の呈味を強化し、当該呈味材の添加量を削減する方法。
【請求項2】
アスコルビン酸を油脂中に2?28ppm(重量基準)微細な粒子として分散した油脂を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
呈味材が食塩である、請求項1乃至2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
食塩の含有量が0.1重量%以上15重量%以下である、請求項3に記載の方法。

2 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由通知に記載した取消理由の概要
当審において、訂正前の請求項1?4に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

ア 特許法第36条第6項第1号
本件明細書の実施例で具体的にその効果が確認されていない有機酸については、2?60ppmの全ての範囲において、本件発明の呈味を強化する効果を有しているとは推認できないから、請求項1、3、4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものでない。よって、請求項1、3、4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

イ 特許法第36条第4項第1号
28ppmを超える量で有機酸を油脂に含有させることが技術的に困難であることが技術常識であるところ、本件明細書には、有機酸を28ppmを超える量で含む油脂について、当業者がその実施をすることが出来る程度に明確かつ十分に記載されていないから、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2) 当審の判断
ア 特許法第36条第6項第1号について
本件訂正により、有機酸がアスコルビン酸またはその塩に限定されたことによって、上記(1)アの取消理由は解消した。
したがって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

イ 特許法第36条第4項第1号について
本件訂正により、油脂への有機酸の含量を2?28ppmと限定したことによって、上記(1)イの取消理由は解消した。
したがって、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものとはいえない。

3 取消理由通知に採用しなかった異議申立理由について
(1)取消理由通知に採用しなかった異議申立理由の概要
<特許法第29条第2項
甲第1号証:特開2008-167685号公報
甲第2号証:国際公開第01/96506号公報
甲第3号証:特開2002-153236号公報
甲第4号証:特開2008-54661号公報
甲第5号証:谷村顕雄 他1名監修、「第8版 食品添加物公定書解説書」、株式会社廣川書店、平成19年12月10日、p.D-1770
甲第6号証:特開平6-237732号公報
甲第7号証:特開2009-81998号公報
甲第8号証:らでぃっしゅぼーや 添加物大辞典、コハク酸二ナトリウム、[online]、[2016年6月24日検索]、インターネット<URL:https://www.radishbo-ya.co.jp/rb/daijiten/outline/529.html>
甲第9号証:大越ひろ 他1名編著、「食の官能評価入門」、株式会社光生館、2009年2月20日、p.16?19
甲第10号証:平成25年5月25日提出の意見書

ア 本件発明1、2は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
イ 本件発明1?4は、甲第2号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3?6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。
ウ 本件発明1?4は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

(2)甲第1、2、7号証に記載された発明
ア 甲第1号証(請求項1を引用する請求項3)に記載された発明
甲第1号証には以下の発明が記載されている。
「油脂中にアスコルビン酸またはその塩を水溶液の状態で添加し脱水処理する工程と風味油脂を加える工程を含み、アスコルビン酸またはその塩の量が油脂中に2?28ppmである風味付けされた油脂の製造方法。」

イ 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証(請求項1、2及び5頁3?19行)には以下の発明が記載されている。
「70°Cに加熱した油脂中に1 %アスコルビン酸水溶液を規定量加え、50 ?180 °C、0.5?100 T o r r の減圧条件下で攪拌しながら15分間?1時間処理して十分に脱水するフライ用油脂の製造方法であって、油脂中にアスコルビン酸が2?28ppm含まれるフライ用油脂の製造方法。」

ウ 甲第7号証に記載された発明
甲第7号証には以下の発明が記載されている。
「紙製カップに乾燥コーン16g、食塩1g、70℃で溶解したL-アスコルビン酸を100ppm添加した配合油脂組成物6gの順に投入して、混合・冷却して製造したポップコーン組成物の製造方法。」

(3)当審の判断
本件発明1と甲第1号証、甲第2号証、甲第7号証のそれぞれに記載された発明とを対比すると、少なくとも以下の点で相違する。
<相違点>
本件発明1は、「食品の呈味を強化し、当該呈味材の添加量を削減する方法」であるのに対して、甲第1号証、甲第2号証、甲第7号証のそれぞれに記載された発明は、そのように特定されていない点。

そこで、上記相違点について検討する。
<甲第1号証を主引用例とした場合>
異議申立人は、甲第1号証の実施例3と比較例2とを比較すると、アスコルビン酸を含有する実施例3は、アスコルビン酸を含有しない比較例2よりも酸風味が強いので、アスコルビン酸を含む実施例3は呈味を強化していることがわかる。食品の呈味が強くなれば、呈味剤を減らすことは、普通に行われていることであり、当業者ならば当然に想到することである旨主張する。
しかし、甲第1号証の「酸風味」は、【0036】に「好ましくない風味(雑味、酸風味、劣化臭)」と記載されているように、そもそも好ましくない風味であるから、食品の呈味を強化しているとはいえないし、そのような風味の呈味剤が食品素材に含まれていることは記載されていないから、甲第1号証において、酸風味を強化することが記載されているとしても、呈味剤を減らすことが当然に想到できるとはいえない。
なお、異議申立人は、「酸風味」が、塩分等の呈味に対応する旨主張するが、上記のとおり「酸風味」は好ましくない風味であるから、塩分等の呈味に対応するものでない。
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、同様の理由により、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

<甲第2号証を主引用例とした場合>
甲第2号証は、油脂の酸化防止のためにアスコルビン酸を油脂に含有させるものであり、アスコルビン酸を含有した油脂を用いた際の食品の呈味に関して記載はない。
したがって、甲第2号証には、アスコルビン酸を含有する油脂が食品の呈味を強化することは記載されておらず、呈味剤の添加量を削減することが容易に想到し得たともいえない。
また、甲第1号証には、上記<甲第1号証を主引用例とした場合>のとおり、食品の呈味を強化していることは記載されていない。
また、甲第3号証には、「ビタミンCと食塩を同時に摂取すると、味を濃厚に感ずることができ、結果としてより少ない食塩量で足りることを見出した。」(【0003】)と記載されているが、甲第2号証のアスコルビン酸(ビタミンC)は、酸化防止のためのものであって、呈味を強化するものでないから、食品の呈味を強化し、当該呈味材の添加量を削減することが容易に想到し得たとはいえない。
さらに、甲第4?6号証には、アスコルビン酸を用いることは記載されていない。
したがって、本件発明1は、甲第2号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3?6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、同様の理由により、甲第2号証に記載された発明、又は甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3?6号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

<甲第7号証を主引用例とした場合>
甲第7号証には、油脂の酸化防止のためにL-アスコルビン酸を油脂に含有させること(【0005】等)が記載されており、食品の呈味を強化することは記載されていない。
そして、甲第2号証にもアスコルビン酸を含有する油脂を用いた際の食品の呈味に関しての記載はない。
したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
また、本件発明2?4は、本件発明1の発明特定事項を全て含み、さらに限定されたものであるから、同様の理由により、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)まとめ
したがって、請求項1?4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものとはいえない。



第4 むすび
したがって、取消理由通知に記載した取消理由及び取消理由通知に採用しなかった異議申立理由によっては、請求項1?4に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸またはその塩を油脂中に2?28ppm(重量基準)微細な粒子として分散した油脂を、呈味材を含有する食品素材と共に用いることにより、食品の呈味を強化し、当該呈味材の添加量を削減する方法。
【請求項2】
アスコルビン酸を油脂中に2?28ppm(重量基準)微細な粒子として分散した油脂を用いる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
呈味材が食塩である、請求項1乃至2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
食塩の含有量が0.1重量%以上15重量%以下である、請求項3に記載の方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-15 
出願番号 特願2012-500664(P2012-500664)
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (A23D)
P 1 651・ 537- YAA (A23D)
P 1 651・ 121- YAA (A23D)
最終処分 維持  
前審関与審査官 長谷川 茜  
特許庁審判長 紀本 孝
特許庁審判官 佐々木 正章
莊司 英史
登録日 2016-02-19 
登録番号 特許第5884726号(P5884726)
権利者 不二製油株式会社
発明の名称 呈味強化用油脂ならびに呈味含有含油食品の呈味を強化する方法  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ