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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1327857
異議申立番号 異議2015-700111  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2015-10-22 
確定日 2017-03-24 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5704297号発明「水面拡散性および水中分散性が向上する水性懸濁状農薬組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5704297号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-3〕について訂正することを認める。 特許第5704297号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5704297号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成21年12月15日の出願であって、平成27年3月6日に特許権の設定登録がされ、平成27年4月22日にその特許公報が発行され、その請求項1?3に係る発明の特許に対し、平成27年10月21日に、小西富雅により、平成27年10月22日に、東海裕作により特許異議の申立てがされたものである。

その後の手続の経緯は以下のとおりである。
平成27年10月21日 特許異議申立書(特許異議申立人:小西富雅)
同年同月22日 特許異議申立書(特許異議申立人:東海裕作)
平成28年 1月18日 取消理由通知書
同年 3月25日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年 6月13日 意見書(特許異議申立人:小西富雅)
同年同月14日 意見書(特許異議申立人:東海裕作)
平成28年 7月28日 取消理由通知書(決定の予告)
同年10月 3日 意見書及び訂正請求書(特許権者)
同年12月 8日 意見書(特許異議申立人:小西富雅)
同日 意見書(特許異議申立人:東海裕作)

第2 訂正の適否についての判断
特許権者は、特許法第120条の5第1項の規定により審判長が指定した期間内である平成28年10月3日に訂正請求書を提出し、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項1?3について訂正することを求めた(以下「本件訂正」という。)。

なお、平成28年3月25日付けでなされた訂正請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
訂正前の請求項1における「(1)農薬活性成分およびそれらの塩から選ばれる1種以上」を、
「(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分」とする訂正である。

(2)訂正事項2
訂正前の請求項2における「農薬活性成分が、スルホニルウレア系化合物である」を、「スルホニルウレア系化合物が、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である」とする訂正である。

(3)訂正事項3
訂正前の明細書の段落【0008】に、「〔1〕(1)農薬活性成分およびそれらの塩から選ばれる1種以上、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上を含有する水性懸濁状農薬組成物。」とあるのを、
「〔1〕(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物。」と訂正する。

(4)訂正事項4
訂正前の明細書の段落【0009】に、「農薬活性成分が、スルホニルウレア系化合物である」とあるのを、
「スルホニルウレア系化合物が、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である」と訂正する。

(5)訂正事項5
訂正前の明細書の段落【0012】に、「本発明の水性懸濁状農薬組成物に含有される農薬活性成分は特に限定されないが、常温で固体のものが好ましい。該農薬活性成分としては、例えば除草剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、抗ウィルス剤、植物成長調節剤、殺菌剤、共力剤、誘引剤および忌避剤などが挙げられ、具体的にその一般名を例示すれば次の通りである。」とあるのを、
「本発明の水性懸濁状農薬組成物に含有される農薬活性成分は、アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物である除草剤。」と訂正する。

(6)訂正事項6
訂正前の段落【0013】?【0018】を削除する。

2 判断
(1)一群の請求項について
訂正事項1及び2に係る訂正前の請求項1?3について、請求項2及び3はそれぞれ請求項1を直接的又は間接的に引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。したがって、訂正前の請求項1?3に対応する訂正後の請求項1?3は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項に対してなされたものである。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1における「(1)農薬活性成分およびそれらの塩から選ばれる1種以上」を、「(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分」と限定しているから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1は、上記(ア)で述べたとおり、特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

新規事項の追加について
願書に添付した明細書の段落【0009】には、「農薬活性成分が、スルホニルウレア系化合物である」ことが記載され、同【0012】には、「農薬活性成分は・・・常温で固体のものが好ましい」と記載され、同【0013】には、水性懸濁状農薬組成物に含まれる農薬活性成分のうち、除草剤として、「アジムスルフロン(azimsulfuron)、・・・イマゾスルフロン(imazosulfuron)、・・・エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、・・・オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、・・・シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、・・・スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、・・・ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、・・・フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、・・・ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、・・・リムスルフロン(rimsulfuron)、・・・3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミド」が記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえる。

(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2における「スルホニルウレア系化合物」であったものを、「イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である」と限定しているから、特許法第120条の5第2項第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正に該当する。

イ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項2は、上記(ア)で述べたとおり、特許請求の範囲を減縮する訂正であるから、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものではない。

新規事項の追加について
願書に添付した明細書の段落【0013】には、水性懸濁状農薬組成物に含まれる農薬活性成分として、「イマゾスルフロン(imazosulfuron)、・・・エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、・・・オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、・・・スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、・・・フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、・・・ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、・・・3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミド」が記載されているから、願書に添付した明細書又は特許請求の範囲に記載した事項の範囲内であるといえる。

(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、明細書の段落【0008】において、特許請求の範囲の訂正事項1と記載内容を整合させるために、
「〔1〕(1)農薬活性成分およびそれらの塩から選ばれる1種以上、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上を含有する水性懸濁状農薬組成物。」とあるのを、
「〔1〕(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物。」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記1(3)で述べたように、訂正事項3は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく、また、その訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらないから、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項について
上記(2)ウで述べたとおり、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入したものとはいえないから、訂正事項3も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(5)訂正事項4について
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、明細書の段落【0009】において、特許請求の範囲の訂正事項2と記載内容を整合させるために、「農薬活性成分が、スルホニルウレア系化合物である」とあるのを、
「スルホニルウレア系化合物が、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記1(4)で述べたように、訂正事項4は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく、また、その訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらないから、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項について
上記(3)ウで述べたとおり、訂正事項2は、新たな技術的事項を導入したものとはいえないから、訂正事項4も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(6)訂正事項5について
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、明細書の段落【0012】において、特許請求の範囲の訂正事項1と記載内容を整合させるために、「本発明の水性懸濁状農薬組成物に含有される農薬活性成分は特に限定されないが、常温で固体のものが好ましい。該農薬活性成分としては、例えば除草剤、殺虫剤、殺ダニ剤、殺線虫剤、抗ウィルス剤、植物成長調節剤、殺菌剤、共力剤、誘引剤および忌避剤などが挙げられ、具体的にその一般名を例示すれば次の通りである。」とあるのを、
「本発明の水性懸濁状農薬組成物に含有される農薬活性成分は、アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物である除草剤。」と訂正するものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記1(5)で述べたように、訂正事項5は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく、また、その訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらないから、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項について
上記(2)ウで述べたとおり、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入したものとはいえないから、訂正事項5も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(7)訂正事項6について
ア 訂正の目的について
訂正事項6は、特許請求の範囲の訂正事項1と記載内容を整合させるために、明細書の段落【0013】?【0018】を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。

イ 特許請求の範囲の実質上の拡張・変更について
上記1(6)で述べたように、訂正事項6は特許請求の範囲の訂正に係るものではなく、また、その訂正によって、実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものにも当たらないから、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合する。

ウ 新規事項について
上記(2)ウで述べたとおり、訂正事項1は、新たな技術的事項を導入したものとはいえないから、訂正事項6も、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、特許法第120条の5第第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合する。

(8)明細書の訂正に係る請求項について
これらの訂正事項3?6は、請求項1及び2に関する訂正事項1及び2に係る訂正に伴い、特許請求の範囲の記載と明細書の記載との整合を図るための訂正であり、また、上記(1)で述べたとおり、訂正前の請求項1?3は一群の請求項であるところ、請求項1?3はいずれも本件訂正の請求の対象となっているから、訂正事項3?6に係る訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第4項の規定に適合する。

3 特許異議申立人 小西富雅の主張について
(1)主張の内容
特許異議申立人である小西富雅は、平成28年12月8日付けの意見書(第10頁第22行?第12頁第1行)において、訂正事項1により、農薬活性成分のうち、常温で固体である化合物が除外され、訂正事項1により限定された17種の農薬活性成分は、常温で固体であること以外の意味を有すると解することができるから、訂正事項1により訂正された請求項1に係る発明は、訂正前の請求項1に係る発明を実質変更するものである。また、訂正事項2により限定された13種の農薬活性成分は、平成28年10月3日付け意見書の第9頁第6?19行において、「実施例にて示されたハロスルフロンメチル、ピラゾスルフロンエチルと同様の密度(又は比重)を有するものであり」と述べているように、これら13種の農薬活性成分はそれ自体意味を持つものといえるから、訂正事項2により訂正された請求項2に係る発明は、訂正前の請求項2に係る発明を実質変更するものである。したがって、訂正事項1及び2は、特許法第120条第2項各号に掲げるいずれの目的にも適合しない旨を主張する。
また、訂正事項2の密度(又は比重)による農薬活性成分の限定は、願書に添付した明細書に記載した事項ではないから、新規事項に当たり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に違反すると主張する。

イ 検討
そこで、上記主張について検討すると、訂正事項1は、上記1(1)で述べたように、訂正前の請求項1における「(1)農薬活性成分およびそれらの塩から選ばれる1種以上」を、常温で固体のスルホニルウレア系化合物に含まれる17種類の化合物に限定する訂正であり、「常温で固体」であることを発明特定事項として含まない訂正前の「(1)農薬活性成分」を、その中に含まれる「常温で固体」の17種類のスルホニルウレア系化合物に限定する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を変更するものではない。そして、訂正後の農薬活性成分は、「常温で固体」であることを発明特定事項として含むものであるから、特許異議申立人が主張するように常温で固体であること以外を意味すると解することはできない。
訂正事項2も、上記1(2)で述べたように、訂正前の請求項2における「スルホニルウレア系化合物」を、スルホニルウレア系化合物に含まれる具体的な13種類の化合物に限定する訂正であるから、実質上特許請求の範囲を変更するものではない。
仮に、特許異議申立人が主張するように、訂正事項2によって訂正前の発明に対して、訂正後の発明が何らかの異なる意味を持つものとなったとしても、訂正前の特許請求の範囲と対比して、訂正後の特許請求の範囲が減縮されている以上、実質上特許請求の範囲を変更することにはならない。
訂正事項2が、密度(比重)による限定であり、訂正後の発明が何らかの異なる意味を持つものであり、新規事項に当たるとの主張については、訂正事項2により、請求項2に係る発明が、密度(比重)などの発明特定事項によって訂正されているわけではなく、「スルホニルウレア系化合物」を、スルホニルウレア系化合物に含まれる願書に添付した明細書に記載された13種類の化合物に限定する訂正であるから、この主張は採用できない。

4 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は、特許法第120条の5第2項第1号及び第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第4項ないし第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?3〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記のとおり、本件訂正は認められたので、特許第5704297号の請求項1?3に係る発明(以下「本件発明1」?「本件発明3」といい、これらを併せて「本件発明」ともいう。)は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物。
【請求項2】
スルホニルウレア系化合物が、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である請求項1記載の水性懸濁状農薬組成物。
【請求項3】
スルホニルウレア系化合物が、ピラゾスルフロンエチル、ハロスルフロンメチルまたはメタゾスルフロンである請求項2記載の水性懸濁状農薬組成物。」

第4 特許異議申立書で申立てられた取消理由の概要
1 特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由
(1)取消理由1(進歩性)
本件発明1?3は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術的事項(副引用例)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
または、本件発明1?3は、本件優先日前に頒布された刊行物である甲第8号証(主引用例)に記載された発明及び甲第1?7号証に記載された技術的事項(副引用例)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、本件発明1?3の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:国際公開第2004/091295号
甲第2号証:特開平4-270201号公報
甲第3号証:特開2000-159603号公報
甲第4号証:特開2001-240504号公報
甲第5号証:特開2001-10915号公報
甲第6号証:特開平4-327502号公報
甲第7号証:日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編、農薬製剤ガイド、平成9年10月30日、社団法人 日本植物防疫協会発行 第35?42頁
甲第8号証:特開平5-117104号公報

(2)取消理由2(サポート要件)
本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、概略下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

本件発明の課題であるパラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着することによる薬害を生じることなく、水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供することに照らすと、発明の詳細な説明の実施例で示された効果は、一部の農薬成分及び界面活性剤について確認されたものにすぎないから、特許請求の範囲全体にわたり、本願発明の課題が解決できたとはいえない。

また、この取消理由に関して、平成28年6月14日付意見書に参考資料1を添付して提出した。
参考資料1:実験成績報告書 2016年6月1日

(3)取消理由3(実施可能要件)
本件発明1?3について、概略下記の点に関し、本件特許の発明の詳細な説明の記載は不備のため、特許法第36条第4項第1号に適合するものではなく、本件特許は同法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

発明の詳細な説明の実施例では、適切な比較例がないから、本願発明の具体例である実施例が優れた効果を奏するのかが不明である。また、実施例における試験例では、1Lのビーカーを用いて試験を行っているだけであり、水田に滴下したときも同等の効果を奏するか明らかではないから、発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に本件発明を明確かつ十分に記載しているとはいえない。

2 特許異議申立人 小西富雅が申し立てた取消理由
(1)取消理由1(新規性)
本件発明1?3は、本件特許の出願前日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3係る特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性)
本件発明1?3は、本件特許の出願前に日本国内または外国において頒布された下記の刊行物である甲第1及び2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1?3の特許は、同法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号の規定により取り消すべきものである。

甲第1号証:特開2009-29773号公報
甲第2号証:日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編、農薬製剤ガイド、平成9年10月30日、社団法人 日本植物防疫協会発行 第35?42頁

(3)取消理由3(サポート要件)
本件発明1?3は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が、概略下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

本件発明の課題であるパラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着し、薬害を生ずることがあり、より安全な方法で、水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供することに照らすと、発明の詳細な説明の実施例で示された効果は、一部の農薬成分及び界面活性剤について確認されたものにすぎないから、特許請求の範囲全体にわたり、本願発明の課題が解決できたとはいえない。

また、取消理由2及び3に関して、平成28年6月13日付意見書に甲第7号証を添付して提出した。
甲第7号証:実験成績証明書 2016年6月3日 小西富雅

なお、特許異議申立人 小西富雅は、甲第3?5号証を挙げて、審査手続の内容からすると、本件特許は取り消されるべきと主張するが、この理由は、特許法第113条各号のいずれにも該当しないので不適法な申立てである。

以下、特許異議申立人 小西富雅が提出した甲第1号証、甲第2号証及び甲第7号証を、「甲第1’号証」、「甲第2’号証」及び「甲第7’号証」という。

第5 当審が通知した取消理由通知の概要
当審が取消理由通知で通知した取消理由の概要は、以下に示すとおりである。

1 取消理由(サポート要件)
本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許請求の範囲の記載が概略下記の点で特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件特許は同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、本件特許は、同法第113条第4号の規定により取り消すべきものである。

本件発明の課題である水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供することに照らすと、発明の詳細な説明の実施例で示された効果は、一部の農薬活性成分について確認されたものにすぎないから、特許請求の範囲全体にわたり、本件発明の課題が解決できたとはいえない。

第6 当審の判断
当審は、特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由1?3、特許異議申立人 小西富雅が申し立てた取消理由1?3、及び当審が通知した取消理由通知の取消理由によっては、いずれも本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできないと判断する。

その理由は以下のとおりであるが、まず、特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由1(進歩性)及び特許異議申立人 小西富雅が申し立てた取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について検討し、次に、サポート要件に関して、特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由2(サポート要件)、特許異議申立人 小西富雅が申し立てた取消理由3(サポート要件)及び当審が通知した取消理由1(サポート要件)についてそれぞれ検討し、最後に、特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由3(実施可能要件)について検討する。

1 特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由1(進歩性)について
(1)刊行物の記載事項
ア 甲第1号証:国際公開第2004/091295号
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。
(1a)「請求の範囲
1.(A)20℃における水溶解度が2g/100ml以上の常温で固体の農薬活性成分、(Β)(Β1)無機酸、(Β2)アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる無機酸塩、(Β3)酢酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸及び酒石酸からなる群より選ばれる有機酸、(Β4)該有機酸のアル力リ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる有機酸塩、(B5)アルカリ金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物、及び(C)水を含有して成る水性懸濁農薬組成物であって、(Β)成分と水の配合比が該組成物中のそれと同じである(Β)成分の水溶液に対し、(Α)成分の20℃における溶解度が2g/100ml未満であることを特徴とする水性懸濁農薬組成物。」(請求の範囲第1項)

(1b)「背景技術
現在、農薬製剤としては、粒剤、粉剤、乳剤、水和剤、水性懸濁製剤、粒状水和剤等が知られている。これらの中で、水性懸濁製剤は散布液調製時の計量が容易なこと、粉立ちがないこと、希釈せずに原液を直接水田に散布することができる等の利点があり、広く使用されている製剤である。」(第1頁第6?11行)

(1c)「発明の開示
本発明は、比較的水溶解性が高い農薬活性成分を含有し、経時的な粒子成長が抑制され、長期保管が可能である、安定な水性懸濁農薬組成物、及びその製造法を得ることを課題とする。
本発明者は、比較的水溶解性が高い農薬活性成分、中でも20℃における水溶解度が2g/100ml以上の常温で固体の農薬活性成分を含有する水性懸濁農薬組成物、及びその製造法について種々研究を重ねた結果、水性懸濁農薬組成物において、水溶性の特定の物質を必須成分として配合し、この組成物中の水溶性の特定の物質と水の配合比における水溶液に対し、農薬活性成分の溶解度が20℃において2g/100ml未満となるように調整した水性懸濁農薬組成物は、経時的な粒子成長が認められず安定であることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。」(第2頁第16行?第3頁第1行)

(1d)「本発明農薬組成物において(A)成分として用いられる農薬活性成分は、20℃における水溶解度(以下、単に水溶解度とも言う)が2g/100」ml以上、好ましくは 2?80g/100ml、より好ましくは3?70g/ml、中でも3?10g/mlの常温で固体の物質であれば特に限定されず、殺虫性農薬活性成分、殺菌性農薬活性成分、除草剤農薬活性成分、植物成長調整剤活性成分等が挙げられる。除草剤農薬活性成分としては、例えば、2,6-ビス(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルオキシ)安息香酸ナトリウム(ビスピリバック-ナトリウム、水溶解度 :7.3g/100ml)、2-クロロ-6-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルチオ)安息香酸ナ卜リウム(ピリチオバック-ナトリウム、水溶解度:pH5のとき26.4g/100ml)、スルファミン酸アンモニウム(アンモニウム スルファメート、水溶解度:68.4g)、スルファニリルカルバミン酸メチルカルシウム(アシュラム-カルシウム、水溶解度:20g/100ml)、4,5-ジヒドロ-3-メトキシ-4-メチル-5-オキソ-N-[2-(トリフルオロメトキシ)フェニルスルホニル]-1H-1,2,4-トリアゾール-1-カルボキサミドナトリウム塩(フルカルバゾン-ナトリウム、水溶解度:4.4g/ml)、2-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイルスルファモイル)-6-トリフルオロメチルニコチン酸メチルナトリウム塩(フルピルスルフロン-メチル-ナトリウム、水溶解度:6.3g/100ml)、(4-クロロ-2-メチルフフェノキシ)酢酸ナトリウム(MCPA-ナ卜リウム、水溶解度:27g/100ml)が挙げられる。・・・それらの中でも塩が好ましく、フルカルバゾンナトリウム、フルピルスルフロン-メチル-ナトリウム及びビスピリバック-ナトリウムが特に好ましい。」(第4頁第21行?第5頁第27行)

(1e)「本発明の水性懸濁農薬組成物は、通常、界面活性剤を含有する。界面活性剤は特に限定されないが、一般に水性懸濁農薬組成物に配合するアニオン系やノニオン系の界面活性剤を使用することができる。例えば、ポリエチレングリコール高級脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル、ソルビタンモノアルキレート、アセチレンアルコールおよびアセチレンジオール並びにそれらのアルキレンオキシド付加物等のノニオン性界面活性剤、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホン酸塩、リグニンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩及びその縮合物、アルキル硫酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルアリール硫酸塩、アルキルアリールリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアリールフェニルエーテル硫酸塩、ポリカルボン酸型高分子活性剤等のアニオン性界面活性剤等、さらにはシリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤を挙げることができる。」(第7頁第21行?第8頁第8行)

(1f)「本発明の水性懸濁農薬組成物には、増粘剤、凍結防止剤等、一般に水性懸濁農薬組成物に配合される補助成分を含有させることができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、キサンタンガム、ホワイトカーボン、ベントナイト、スメクタイト等を・・・それぞれ挙げることができるが、これらは特に限定されない。」(第8頁第9?15行)

(1g)「実施例5
水73.77部に酢酸0.23部、酢酸ナトリウム2.8部を溶解した水溶液に、農薬活性成分としてフルカルバゾンナトリウム20部、界面活性剤としてポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩2部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩1部、増粘剤としてキサンタンガム0.2部を加えて混合後、ガラスビーズを粉砕メディアとした湿式粉砕機にて高速攪拌して粉砕して水性懸濁農薬組成物を得た。なお、フルカルバゾンナトリウム(水溶解度4.4g/ml)の上記水溶液に対する溶解度は1.1g/100mlであった。」(第10頁第14?22行)

イ 甲第2号証:特開平4-270201号公報
甲第2号証には、以下の事項が記載されている。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】水に難溶性の除草剤有効成分、界面活性剤、水および非晶質アルミノケイ酸塩を含有することを特徴とする水性懸濁剤組成物。」

(2b)「【0006】水性懸濁剤を水田に直接原液滴下散布すると、製剤処方によって、また湛水深が浅い等の場合には、水田土壌表面に薬剤の処理跡が残ることがある。通常この処理跡は時間と共に徐々に消失して行くが、処方によっては長時間処理跡が残ることがある。長時間処理跡が残る場合、薬剤が土壌表面に局在していることになり、有効成分の種類によっては効果むら、あるいは移植水稲への薬害を生じることがある。このため、散布した薬剤が短時間で拡散し、処理跡が後に残らない製剤処方が望まれる。
【0007】一方農薬製剤分野において、非晶質アルミノケイ酸塩の水性懸濁剤への使用は今まで知られていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明者等は、水性懸濁剤組成物で、水田に直接原液滴下散布した際に生じることのある、水田土壌表面の薬剤処理跡を少なくでき、しかも短時間で拡散して後に残ることが少なく、かつ実用上問題のない製剤を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【0009】
【問題点を解決するための手段および作用】本発明は、水に難溶性の除草剤有効成分,界面活性剤,水および非晶質アルミノケイ酸塩を含有することを特徴とする水性懸濁剤組成物(以下、本発明組成物という)を提供するものである。」

(2c)「【0010】本発明組成物で用いられる界面活性剤としては、特に制限はなく、従来より農薬製剤分野において使用されている種々のアニオン性界面活性剤,非イオン性界面活性剤等が用いられる。
【0011】アニオン性界面活性剤としては、例えば、アルキルスルホン酸,アルファオレフィンスルホン酸,リグニンスルホン酸,アルキルベンゼンスルホン酸,アルキルナフタレンスルホン酸,ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物,ジアルキルスルホサクシネート等のスルホン酸系界面活性剤およびそれらの塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート,ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテルサルフェート,ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルサルフェート,ポリオキシエチレンフェニルアルキルアリルエーテルサルフェート,ポリオキシアルキレングリコールサルフェート,高級アルコールサルフェート,脂肪酸エステルサルフェート,フェニルフェノール(EO)硫酸塩等のサルフェート系界面活性剤およびそれらの塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルホスフェート,ポリオキシエチレンアルキルアリルホスフェート,フェニルフェノール(EO)リン酸エステル塩,ポリオキシエチレンフェニルアルキルアリルエーテルホスフェート,高級アルコールホスフェート,ポリオキシエチレントリベンジルフェノールホスフェート等のホスフェート系界面活性剤およびそれらの塩、高級脂肪酸塩、ポリカルボン酸型界面活性剤およびそれらの塩等を挙げることができる。上記各界面活性剤におけるそれらの塩としては、ナトリウム,カリウム,マグネシウム,カルシウム,アンモニウム,エタノールアミン,ジエタノールアミン,トリエタノールアミン,種々のアミン類等の塩が含まれる。
【0012】非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル,ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル,ポリオキシエチレンアルキルエーテル,ポリオキシエチレンフェニルアルキルアリルエーテル,ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル,ポリオキシエチレングリコール,ポリオキシエチレンアルキルエステル,ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー,ポリオキシアルキレングリコール,アルキンジオール(アセチレングリコール),アルキニレンポリオキシエチレンジオール,ソルビタン脂肪酸エステル,アルキルアリールエーテルホルマリン縮合物等を挙げることができる。
【0013】これらの界面活性剤は一種または二種以上混合してもよく、混合する場合の比率も自由に選択できる。また、本発明組成物中の添加量は適宜選択できるが、好ましくは0.1?10%の範囲で選択することができる。」

(2d)「【0015】本発明組成物では水溶性高分子化合物,スメクタイト系粘土鉱物等の各種増粘剤を使用することができる。」

(2e)「【0019】本発明組成物において用いることのできる除草剤有効成分としては、水に難溶性のものであれば特に限定はないが、水に対する溶解度が25℃において100ppm以下のものがより好ましい。」

(2f)「2-〔(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イル)アミノカルボニルアミノスルホニルメチル〕安息香酸メチルエステル[一般名:ベンスルフロンメチル,化合物No.29]、5-〔(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イル)アミノカルボニルアミノスル
【0023】ホニル〕-1-メチルピラゾール-4-カルボン酸エチルエステル[一般名:ピラゾスルフロンエチル,化合物No.30]、3-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-1-〔2-(2-メトキシエトキシ)フェニルスルホニル〕ウレア[一般名:シノスルフロン,化合物No.31]、1-(2-クロロイミダゾ〔1,2-a〕ピリジン-3-イルスルホニル)-3-(4,6-ジメトキシ-2-ピリミジニル)尿素[試験名:TH-913,化合物No.32]等のスルホニルウレア系除草剤有効成分」(第4頁第6欄第10?25行)

(2g)「【0031】本発明組成物は、水性懸濁剤組成物で、水田に直接原液滴下散布した際に生じることのある、水田土壌表面の薬剤処理跡を少なくでき、しかも短時間で拡散して後に残ることが少なく、かつ実用上問題のない製剤である。」

(2h)「【0041】実施例3
化合物No.2 12部
エチレングリコール 8部
アグリゾール104FA[商品名、花王(株)製] 12部
クニゲルVA[商品名、クニミネ工業(株)製]8%水分散液 16部
非晶質アルミノケイ酸塩 2部
KP-1436[商品名、花王(株)製] 2部
T-32[商品名、東邦化学工業(株)製] 0.8部
サーフィノール104E[商品名、エアープロダクツ社製] 0.05部
シリコンエマルジョン 0.5部」

(2i)「【0042】実施例4
化合物No.24 35部
エチレングリコール 6部
ウエランガム 0.8%水分散液 25部
クニゲルVA 8%水分散液 12部
非晶質アルミノケイ酸塩 3部
KP-1436 2部
サーフィノール104E 0.05部
シリコンエマルジョン 0.5部」

(2j)「【0044】実施例6
化合物No.13 12部
エチレングリコール 6部
ウエランガム 0.8%水分散液 30部
クニゲルVA 8%水分散液 16部
非晶質アルミノケイ酸塩 2部
KP-1436 2部
サーフィノール104E 0.05部
シリコンエマルジョン 0.5部」

(2k)「【0045】以下の実施例7?8では、実施例6の除草剤有効成分である化合物No.13のみを以下の除草剤有効成分に置き換え、さらに成分合計が100部になる様に水で調製して水性懸濁製剤を得た。
【0046】実施例7
化合物No.25 25部
実施例8
化合物No.2 6部
化合物No.24 20部」

(2l)「【0048】実施例10
化合物No.2 12部
エチレングリコール 6部
ウエランガム 0.8%水分散液 28部
クニゲルVA 8%水分散液 14部
非晶質アルミノケイ酸塩 1部
KP-1436 2.2部
T-32 0.8部
サーフィノール104E 0.05部
シリコンエマルジョン 0.5部
【0049】以下の実施例11?13では、実施例10の非晶質アルミノケイ酸塩の量のみを以下の様に置き換え、さらに成分合計が100部になる様に水で調製して水性懸濁製剤を得た。
【0050】実施例11
非晶質アルミノケイ酸塩 3部
実施例12
非晶質アルミノケイ酸塩 5部
実施例13
非晶質アルミノケイ酸塩 8部」

(2m)「【0051】比較例1?10
上記実施例1?10から非晶質アルミノケイ酸塩のみを除き、代わりに等量の水を成分合計が100部になる様に添加して実施例1と同様の操作を行い、水中懸濁剤を得た。比較例1?10はそれぞれ実施例1?10に対応する。
【0052】次に、前記実施例および比較例で調製した試料について行った試験例を以下に示す。
【0053】試験例1
直径60cmのプラスチック容器に水田土壌を底から3cmの深さまで均一に入れた後、2.5cmの湛水条件とした。翌日、前記実施例および比較例で調製した水性懸濁剤のそれぞれの原液0.3mlを、1mの高さから前記プラスチック容器に滴下した。滴下後30分ごとに観察し、薬剤処理跡がほぼ見えなくなるまでの時間を測定した。得られた結果を表1に示した。
【0054】
【表1】

【0055】試験例2
水田を耕起し、代かきを行った後、田植機を用いて3葉期の水稲苗(品種:ヤマホウシ)を移植した。その後、板および畦畔板を用いて2×10mの区画を作成し、区画内全面にノビエの種子を播種した。翌日、3?4cmの湛水を行った。水稲苗移植6日後(ノビエ0.5?1葉期)に、区画の2mの片側の辺沿いにのみ、辺に平行に、辺から30cmの距離で、各薬剤の所定量を1mの高さから筋状に滴下散布した。一つの薬剤および散布量について、2つの区画を用い、それぞれ反対側の辺からのみ滴下散布を行った。
【0056】散布の翌日、薬剤処理部分の処理跡の様子を観察し、下記の基準に従って評価した。その後、3?4cmの湛水深を保った。薬剤処理1カ月後に、除草効果および水稲に対する薬害を観察し、下記の基準に従って評価した。なお、薬効は薬剤を処理した反対側の辺から2mまでで評価し、薬害は薬剤を処理した側の辺から2mまでで評価して、それぞれ2つの区画の平均を求めた。得られた結果を表2に示した。
【0057】
処理跡評価基準
評価 処理跡状態
無 処理跡無し
微 わずかに処理跡が残る
少 少し処理跡が残る
中 中程度処理跡が残る
多 大部分の処理跡がそのまま残る
【0058】
除草効果判定基準 水稲薬害判定基準
評価 評価 薬害程度
5 100%防除(残草量 0%) - 無害
4 80%防除(残草量 20%) ± 微小害
3 60%防除(残草量 40%) + 小害
2 40%防除(残草量 60%) ++ 中害
1 20%防除(残草量 80%) +++ 大害
0 0%防除(残草量100%) × 枯死
【0059】
【表2】

【0060】
【発明の効果】これまでの実施例および比較例を用いた試験例から明らかな様に、本発明組成物は、水田に直接原液滴下した際に生じることのある、水田土壌表面の薬剤処理跡を少なくでき、しかも薬剤処理跡が生じた場合でも短時間で拡散して後に残ることが少なく、有効成分の種類によらず効果むら、あるいは移植水稲への薬害を生じにくく、かつ実用上問題のない優れた製剤である。
以上のごとく、本発明組成物は優れた特徴を有しており、実用性の大きいものである。」

ウ 甲第3号証:特開2000-159603号公報
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。
(3a)「【請求項1】スルホニルウレア系除草活性成分の1種又は2種以上及びフェノールスルホン酸塩類を有効成分として含有することを特徴とする安定化された水性懸濁状除草組成物。
・・・
【請求項4】更にスチリルフェニルエーテル縮合物を含有する請求項1乃至3のいずれかに記載の水性懸濁状除草組成物。
【請求項5】スチリルフェニルエーテル縮合物がポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル類である請求項4に記載の水性懸濁状除草組成物。
・・・
【請求項7】スルホニルウレア系除草活性成分が、ベンスルフロンメチル、アジムスルフロン、エトキシスルフロン、イマゾスルフロン、ピラゾスルフロンエチル、シノスルフロン又はシクロスルファムロンである請求項6に記載の水性懸濁状除草組成物。
【請求項8】フェノールスルホン酸塩類が、フェノールスルホン酸のナトリウム、カリウム又はアンモニウム塩である請求項1乃至7のいずれかに記載の水性懸濁状除草組成物。
【請求項9】フェノールスルホン酸塩類が、フェノールスルホン酸塩がホルマリン縮合したものである請求項1乃至7のいずれかに記載の水性懸濁状除草組成物。
・・・
【請求項11】請求項1乃至10のいずれかに記載の水性懸濁状除草組成物を水田に直接施用する方法。」

(3b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、スルホニルウレア系除草活性成分の1種又は2種以上及びフェノールスルホン酸塩類を有効成分として含有することを特徴とする安定化された水性懸濁状除草組成物及びその使用方法に関する。」

(3c)「【0008】
【発明が解決しようとする課題】常温で固体の除草活性成分を微粒子化すると、水との接触面積が増大し、特に加水分解され易い除草活性成分の場合には、結果的に加水分解がより促進されることになる。また、水中に微粒子として分散・懸濁させるためには、界面活性剤の作用が必須である。水性懸濁状組成物にする場合には、微粒子化された除草活性成分と界面活性剤が共存する水性系において、加水分解され易い有効成分の分解を有効に抑制することが必要になる。このような加水分解を抑制する方法として、界面活性剤の選択が必要であり、且つ加水分解速度がpHに依存している場合は、pHの制御により加水分解を抑制させることが有効である。
・・・
【0010】スルホニルウレア系除草活性成分は、製剤中で不安定であるために、特に水性懸濁組成物においては保存期間中に相当程度の分解を覚悟する必要があった。
【0011】本発明者らは、スルホニルウレア系除草活性成分を含有する、より保存安定性の良好な水性懸濁状除草組成物について、鋭意検討を行った結果、特定の界面活性剤を用いることにより、スルホニルウレア系除草活性成分の化学的安定性の面でも、製剤の物理化学的安定性の面でも良好な水性懸濁状除草組成物を得ることができることを見出し、本発明を完成した。」

(3d)「【0027】フェノールスルホン酸塩類以外の界面活性剤としては、スルホニルウレア系除草活性成分の安定性及び分散作用を損なわず、水中分散性を向上させるために、スチリルフェニルエーテル縮合物が特に好ましい。
【0028】スチリルフェニルエーテル縮合物とは、例えば、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化メチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレンビススチリルフェニルエーテルのようなスチリルフェニルエーテルのエチレンオキサイド付加物{その具体例として、ニューコール710(ポリオキシエチレンジスチレン化メチルフェニルエ-テル、日本乳化剤(株)製)、ニューコールPB60(ポリオキシエチレンビススチリルフェニルエーテル、日本乳化剤(株))、ニューコール610(ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエ-テル、日本乳化剤(株)製)、ニューコール2609(ポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエ-テル、日本乳化剤(株)製)等が挙げられる。}及びこれらのエチレンオキサイド付加物に更にプロピレンオキサイドを付加した物{具体例として、ニューコール714F(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレンジスチレン化メチルフェニルエ-テル、日本乳化剤(株)製)、ニューコール2608F(ポリオキシプロピレンポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテル、日本乳化剤(株)製)等が挙げられる。}のような、スチリルフェニルエーテルにアルキレンオキサイドが付加したポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルが挙げられ、好適には、ポリオキシエチレンジスチレン化メチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンビススチリルフェニルエーテル又はポリオキシプロピレンポリオキシエチレントリスチレン化フェニルエーテルであり、より好適には、ポリオキシエチレンジスチレン化メチルフェニルエーテル又はポリオキシエチレンビススチリルフェニルエーテルである。又、使用されるポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルは、1種又は2種以上を併用することができる。」

(3e)「【実施例】
【0058】
【実施例1】水性懸濁状除草組成物(500ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体1.40部、ピリブチカルブ原体12.00部、サーフィノール104E(第3級アセチレングリコールの50%エチレングリコール溶液、日信化学工業(株))0.05部、KP-1436(POEアルキルアリルリン酸エステル塩の25%水溶液、花王(株))1.30部及び水25.25部を混合し、この混合物2.5kgを、4.76mmφのスチールボール17kgを充填した湿式粉砕機アトライターMA-1NS型を用いて、ローター回転数200rpmにて60分間粉砕し、スラリーを得た。
【0059】得られたスラリー40.00部に、TamolPP(フェノールスルホン酸縮合物の塩、BASFジャパン(株))0.50部、エチレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(キサンタンガム、ローヌプーラン(株))20.00部、クニピアFの5%水分散液(精製ベントナイト、クニミネ工業(株))16.00部、プロクセルGXL(ベンゾチアゾール誘導体の30%ジプロピレングリコール溶液、ゼネカ(株))0.20部、0.6N塩酸0.20部及び水18.10部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル1.40%及びピリブチカルブ12.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3f)「【0060】
【実施例2】水性懸濁状除草組成物(500ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体1.40部、ピリブチカルブ原体12.00部、サーフィノール104E(日信化学工業(株))0.12部、KP-1436(25%水溶液、花王(株))1.20部及び水15.28部を混合し、この混合物2.5kgを、4.76mmφのスチールボール17kgを充填した湿式粉砕機アトライターMA-1NS型を用いて、ローター回転数200rpmにて60分間粉砕し、スラリーを得た。
【0061】得られたスラリー30.00部に、TamolPP(BASFジャパン(株))2.00部、プロピレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(ローヌプーラン(株))3.00部、アグリゾールFL100F(アクリル酸系誘導体の31%水溶液、花王(株))20.00部、プロクセルGXL (ゼネカ(株))0.20部、4%水酸化ナトリウム水溶液0.35部及び水39.45部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル1.40%、ピリブチカルブ12.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3g)「【0062】
【実施例3】水性懸濁状除草組成物(500ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体1.40部、ピリブチカルブ原体12.00部、サーフィノール104E(第3級アセチレングリコールの50%エチレングリコール溶液、日信化学工業(株))0.05部、KP-1436(POEアルキルアリルリン酸エステル塩の25%水溶液、花王(株))1.30部及び水25.25部を混合し、この混合物2.5kgを、4.76mmφのスチールボール17kgを充填した湿式粉砕機アトライターMA-1NS型を用いて、ローター回転数200rpmにて60分間粉砕し、スラリーを得た。
【0063】得られたスラリー40.00部に、TamolPP(フェノールスルホン酸縮合物の塩、BASFジャパン(株))0.50部、ニューコールPB60(日本乳化剤(株))0.15部、エチレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(キサンタンガム、ローヌプーラン(株))20.00部、クニピアFの5%水分散液(精製ベントナイト、クニミネ工業(株))16.00部、プロクセルGXL(ベンゾチアゾール誘導体の30%ジプロピレングリコール溶液、ゼネカ(株))0.20部、0.6N塩酸0.20部及び水17.95部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル1.40%及びピリブチカルブ12.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3h)「【0064】
【実施例4】水性懸濁状除草組成物(500ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体1.40部、カフェンストロール原体5.50部、ダイムロン原体10.00部、サーフィノール104E(日信化学工業(株))0.15部、KP-1436(25%水溶液、花王(株))2.00部及び水12.95部を混合し、この混合物を、1.0mmφのジルコニアビーズ800mlを充填した容量1LベッセルのアペックスミルAM-1型を用いて、動力1KW、スラリー供給量47kg/Hで連続粉砕し、スラリーを得た。
【0065】得られたスラリー32.00部に、TamolPP(BASFジャパン(株))0.50部、ニューコールPB60(日本乳化剤(株))0.15部、エチレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(ローヌプーラン(株))17.00部、クニピアFの5%水分散液(クニミネ工業(株))13.00部、プロクセルGXL(ゼネカ(株))0.20部、0.6N塩酸0.70部及び水31.45部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル1.40%、カフェンストロール5.50%及びダイムロン10.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3i)「【0066】
【実施例5】水性懸濁状除草組成物(500ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体1.40部、ピリブチカルブ原体10.00部、メフェナセット原体8.00部、サーフィノール104E(日信化学工業(株))0.15部、KP-1436(25%水溶液、花王(株))2.00部及び水23.45部を混合し、この混合物を、1.0mmφのジルコニアビーズ480mlを充填した容量0.6LベッセルのダイノミルKDL型を用いて、アジテーター回転数3000rpm、スラリー供給量15kg/Hで連続粉砕し、スラリーを得た。
【0067】得られたスラリー45.00部に、TamolPP(BASFジャパン(株))0.50部、ニューコール710(日本乳化剤(株))0.20部、エチレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(ローヌプーラン(株))17.00部、クニピアFの5%水分散液(クニミネ工業(株))13.00部、プロクセルGXL(ゼネカ(株))0.20部、0.6N塩酸0.20部及び水18.90部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル1.40%、ピリブチカルブ10.00%及びメフェナセット8.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3j)「【実施例6】水性懸濁状除草組成物(250ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体2.80部、カフェンストロール原体11.00部、ダイムロン原体20.00部、サーフィノール104E(日信化学工業(株))0.15部、KP-1436(25%水溶液、花王(株))2.60部及び水28.45部を混合し、この混合物を、4.76mmφのスチールボール17kgを充填した湿式粉砕機アトライターMA-1NS型を用いて、ローター回転数200rpmにて20分間粉砕し、スラリーを得た。
【0069】得られたスラリー65.00部に、TamolPP(BASFジャパン(株))1.00部、ニューコールPB60(日本乳化剤(株))0.30部、エチレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(ローヌプーラン(株))12.75部、クニピアFの5%水分散液(クニミネ工業(株))9.75部、プロクセルGXL(ゼネカ(株))0.20部、0.6N塩酸0.75部及び水5.25部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル2.80%、カフェンストロール11.00%及びダイムロン20.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3k)「【0070】
【実施例7】水性懸濁状除草組成物(300ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体2.30部、カフェンストロール原体9.20部、ダイムロン原体16.70部、ブロモブチド原体20.00部、サーフィノール104E(日信化学工業(株))0.15部、KP-1436(25%水溶液、花王(株))2.00部、TamolPP(BASFジャパン(株))1.00部、ニューコール710(日本乳化剤(株))0.30部、 エチレングリコール5.00部、0.6N塩酸0.80部及び水34.55部を混合し、この混合物を、4.76mmφのスチールボール17kgを充填した湿式粉砕機アトライターMA-1NS型を用いて、ローター回転数200rpmにて18分間粉砕し、スラリーを得た。
【0071】得られたスラリー92.00部に、ロードポール23の1%水溶液(ローヌプーラン(株))4.33部、クニピアFの5%水分散液(クニミネ工業(株))3.47部及びプロクセルGXL(ゼネカ(株))0.20部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル2.30%、カフェンストロール9.20%、ダイムロン16.70%、ブロモブチド20.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

(3l)「【0072】
【実施例8】水性懸濁状除草組成物(500ml/10a処理製剤)
ベンスルフロンメチル原体1.40部、ピリブチカルブ原体12.00部、サーフィノール104E(日信化学工業(株))0.12部、KP-1436(25%水溶液、花王(株))1.20部及び水15.28部を混合し、この混合物2.5kgを、4.76mmφのスチールボール17kgを充填した湿式粉砕機アトライターMA-1NS型を用いて、ローター回転数200rpmにて60分間粉砕し、スラリーを得た。
【0073】得られたスラリー30.00部に、TamolPP(BASFジャパン(株))2.00部、ニューコール714F(日本乳化剤(株))0.30部、プロピレングリコール(三井東圧化学(株))5.00部、ロードポール23の1%水溶液(ローヌプーラン(株))3.00部、アグリゾールFL100F(アクリル酸系誘導体の31%水溶液、花王(株))20.00部、プロクセルGXL(ゼネカ(株))0.20部、4%水酸化ナトリウム水溶液0.35部及び水39.15部を添加し、その全量をスリーワンモーター(1200G,HEIDON(株)製)を用いて撹拌混合し、ベンスルフロンメチル1.40%、ピリブチカルブ12.00%を含有する水性懸濁状除草組成物(フロアブル)を得た。」

エ 甲第4号証:特開2001-240504号公報
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。
(4a)「【請求項1】 ポリビニルカルボン酸アミド系高分子、農薬活性成分および界面活性剤を含有する固形農薬組成物。
・・・
【請求項7】 ポリビニルカルボン酸アミド系高分子、農薬活性成分および界面活性剤を含有する固形農薬組成物であって、該組成物と水を混合して懸濁液を調製後、該懸濁液を湛水下水田に直接散布することを特徴とする固形農薬組成物。」

(4b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、農薬活性成分の水中での拡散性が優れた湛水下水田用固形農薬組成物および散布方法に関する。」

(4c)「【0015】本発明では、従来のフロアブル剤を湛水下水田に直接散布する方法や、固形製剤に少量の水を加えて希釈液を調製しその調製液を10アールあたり1000ml以下の割合で湛水下の水田に直接散布する方法に比べて、散布後に農薬活性成分が水中に速やかに且つ均一に拡散するので、水田全域にわたり薬効が良好であり、散布箇所での稲に対する薬害が認められない。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明のポリビニルカルボン酸アミド系高分子、農薬活性成分、および界面活性剤を含有した固形農薬組成物は、速やかに農薬活性成分が懸濁する懸濁液を調製することができ、その懸濁液に適度な粘性を与え、懸濁液の分散安定性を向上させるとともに、散布性の向上と農薬活性成分の拡散性の向上をもたらすものである。
・・・
【0025】ポリビニルカルボン酸アミド系高分子の中で、固形農薬組成物が速やかに農薬活性成分が懸濁する懸濁液を調製することができ、懸濁液の分散安定性を向上させるとともに、散布性の向上と農薬活性成分の拡散性の向上をもたらすものとして、ポリ-N-ビニルカルボン酸アミド系高分子が好ましく、ポリ-N-ビニルアセトアミド系高分子がより好ましく、N-ビニルアセトアミドとアクリル酸ナトリウムの共重合体が最も好ましい。」

(4d)「【0027】本発明で使用されうる農薬活性成分は特に限定されるものではないが例えば下記のものがあげられ、これらの1種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0028】除草剤では、例えばピラゾスルフロンエチル(pyrazosulfuron ethyl/一般名)、ハロスルフロンメチル(halosulfuron methyl/一般名)、ベンスルフロンメチル(bensulfuron methyl/一般名)、イマゾスルフロン(imazosulfuron/一般名)、アジムスルフロン(azimsulfuron/一般名)、シノスルフロン(cinosulfuron/一般名)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron/一般名)およびエトキシスルフロン(ethoxysulfuron/一般名)等のスルホニル尿素系除草剤、・・・の除草剤が挙げられる。」

(4e)「【0032】本発明で用いられる界面活性剤としては、以下の(A)、(B)、(C)、(D)および(E)が挙げられ、これらの1種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0033】(A)ノニオン性界面活性剤:
(A-1)ポリエチレングリコール型界面活性剤:・・・
【0034】(A-2)多価アルコール型界面活性剤:・・・
【0035】(A-3)アセチレン系界面活性剤:例えば、アセチレングリコール、アセチレンアルコール、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物およびアセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物等が挙げられる。
【0036】(A-4)その他の界面活性剤:・・・
【0037】(B)アニオン性界面活性剤:
(B-1)カルボン酸型界面活性剤:・・・
【0038】(B-2)硫酸エステル型界面活性剤:・・・ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、・・・
【0039】(B-3)スルホン酸型界面活性剤:・・・アルキル(C_(8?12))ベンゼンスルホン酸、アルキル(C_(8?12))ベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物・・・ナフタレンスルホン酸、(モノまたはジ)アルキル(C_(1?6))ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、(モノまたはジ)アルキル(C_(1?6))ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物
【0040】(B-4)燐酸エステル型界面活性剤:・・・ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステル、・・・
【0041】上記の(B-1)?(B-4)における塩としては、・・・
【0042】(C)カチオン性界面活性剤:・・・
【0043】(D)両性界面活性剤:・・・
【0044】(E)その他の界面活性剤:例えば、シリコーン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤等が挙げられる。」

(4f)「【実施例】次に本発明を実施例により更に具体的に説明する。
【0052】〔実施例1?5および比較例1?3〕表1記載の農薬活性成分、界面活性剤、ポリビニルカルボン酸アミド系高分子および増量剤を混合し、シングルトラックミル((株)セイシン企業)で粉砕した。さらに所定量の造粒水を加え、万能混合機((株)ダルトン)で混練し、0.5m/mのスクリーンを装着したバスケットリューザー(BR-200 不二パウダル社製)で造粒した後、50℃で2時間乾燥して粒状固形農薬組成物を得た。
【0053】
【表1】



オ 甲第5号証:特開2001-10915号公報
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。
(5a)「【請求項1】 無機塩類および/または糖類を含有することを特徴とする、バチルス・チューリンゲンシス菌由来の産物を有効成分とする顆粒状農薬製剤。
・・・
【請求項8】 さらに界面活性剤を含有する請求項1?7のいずれかに記載の顆粒状農薬製剤。
・・・
【請求項10】 界面活性剤が、リグニンスルホン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ドデシル硫酸エステルナトリウム、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩、およびショ糖脂肪酸エステルからなる群から選択される1種またはそれ以上である、請求項9記載の顆粒状農薬製剤。」

(5b)段落【0023】の表8中には、実施例41として、「KP-1436(25)」を2.50重量%配合することが記載され、「備考」の欄に「ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩」と記載されている。

カ 甲第6号証:特開平4-327502号公報
(6a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】水に難溶性の農薬有効成分,界面活性剤,水,スメクタイト系粘土鉱物およびゼオライトを含有することを特徴とする水性懸濁剤組成物。」

(6b)「【0042】
【実施例】次に、本発明組成物の製剤の実施例および比較に用いた水性懸濁剤の製剤の比較例を説明する。実施例および比較例中で、「部」は重量部を示す。なお、本発明がこれら実施例に限定されるものでないことは言うまでもない。
・・・
【0043】実施例1
あらかじめ、ピンミル160Z型[富士産業(株)製]にて乾式粉砕を行った、化合物No.2 12部に、エチレングリコール7部,キサンタンガム(ザンサンガム)0.15%+グアーガム0.15%水溶液20部,ネオクニボンド[商品名、クニミネ工業(株)製]5%水分散液53.5部,Y型ゼオライト3部,ソルポール9838P[商品名、東邦化学工業(株)製]2部,ソルポール9047K[商品名、東邦化学工業(株)製]2部,シリコンエマルジョン0.5部を加えて高速撹拌機で撹拌した後、粉砕用の直径1?1.5mmの硬質ガラスビーズを加え、四筒式サンドグラインダー(五十嵐機械製造(株)製)で微粉砕して均一な水中懸濁剤を得た。
【0044】以下の実施例2?6では、実施例1と同様の操作を行い、水中懸濁剤を得た。以下、各実施例の成分を記す。なお、各成分以外に水を加えて、合計が100部になる様に製剤した。
・・・
【0046】実施例3
化合物No.2 15部
エチレングリコール 8部
アグリゾール104FA[商品名、花王(株)製] 8部
クニゲルVA[商品名、クニミネ工業(株)製]8%水分散液 40部
Y型ゼオライト 2部
KP-1436[商品名、花王(株)製] 2.5部
T-32[商品名、東邦化学工業(株)製] 0.8部
サーフィノール104E[商品名、エアープロダクツ社製] 0.05部
シリコンエマルジョン 0.5部」

キ 甲第7号証:日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編、農薬製剤ガイド、平成9年10月30日、社団法人 日本植物防疫協会発行 第35?42頁
甲第7号証には、以下の事項が記載されている。
(7a)「10. フロアブル製剤
フロアブル製剤(・・・)は懸濁(サスペンション)製剤、あるいはゾル剤などとも呼ばれ溶媒(通常は水)に固体原体を細かい粒子として懸濁させた製剤である。」(第35頁第1?3行)

(7b)「(1)組成
フロアブル製剤の組成を表1に示す。
1)原体
フロアブル製剤にし得る原体は下記の条件を満足するものに限られる。
○1(○の中に数字の1)融点:常温で固体であり通常融点が60℃以上のもの。
○2(○の中に数字の2)水溶性:製剤中において貯蔵中オストワルド熟成によって粒子が成長しないものであり通常水溶性が100ppm以下のもの。
○3(○の中に数字の3)安定性:水中において加水分解などせずに安定なもの。
○4(○の中に数字の4)粒子径:粒子は一般に細かい程良く、散布時にスプレーノズルを詰まらせないような径に粉砕し得るものであり、また貯蔵中粒子が成長したり凝集しないもの。
これらの性質はほとんどの場合分散方法、分散剤の選択などによって改良することができる。」(第35頁第27行?第36頁第7行)

(7c)「2)分散剤
分散剤の選択はフロアブル製剤の開発において最も重要である。・・・
分散安定性の機構としては二つの異なる機構が考えられている。一つは静電的斥力による安定化であり、一般にアニオン性界面活性剤がこの目的のために広く使用されている。分散粒子に吸着したアニオン性分散剤は分散粒子に負の電荷を与え、負電荷同士の斥力により分散は安定化する。
もう一つの機構は、”立体障害分散安定化”(・・・)による分散安定化である^(12))。粒子表面にポリマーが吸着すると厚い吸着層が形成される。この吸着層は粒子間に立体障害斥力を与え分散を安定化する。立体障害斥力は吸着層の厚さが厚いほど大きくなるのでこの目的のためにはポリマーや分子量の大きな非イオン性界面活性剤が使用される。」(第36頁第8?17行)

(7d)「3)増粘剤
分散粒子の沈降を防止するために増粘剤がしばし添加される。増粘剤は固体微粉末と有機ポリマーに大別することができる。固体粉末増粘剤としてはベントナイトやホワイトカーボンなどが一般的に使用されている。これらの微粒子は鎖状につながりサスペンション内部に3次元状網目(3dimensional network)構造を形成する。構造が形成されると(・・・)、構造粘性が高くなり非ニュートン性(擬塑性、降伏値、チクソトロピー性)が高くなる。構造粘性や降伏値が大きくなると粒子の沈降速度は著しく遅くなる。」(第36頁第20?26行)

ク 甲第8号証:特開平5-117104号公報
甲第8号証には、以下の事項が記載されている。
(8a)「【請求項1】農薬活性成分と界面活性剤とを含有する水田用農薬固形製剤に、懸濁に可能な水を加えて希釈液を調製し、その希釈液を10アールあたり1000ml以下の割合で湛水下の水田に直接滴下散布することを特徴とする水田用農薬固形製剤の使用方法。
・・・
【請求項4】農薬活性成分が、除草活性成分である請求項1記載の水田用農薬固形製剤の使用方法。
【請求項5】界面活性剤が、下記界面活性剤(1)と下記界面活性剤(2)とを併用するものである請求項1記載の水田用農薬固形製剤の使用方法。
(1)リグニンスルホン酸 、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、マレイン酸とジイソブチレンの共重合物、マレイン酸とイソブチレンの共重合物、またはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩もしくはアミン塩の中から選ばれる1種以上の界面活性剤。
(2)アルキルナフタレンスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル、またはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩もしくはアミン塩から選ばれる1種以上の界面活性剤。」

(8b)「【0004】近年、このような観点より水性の懸濁製剤あるいは乳濁製剤が開発されるようになってきている。・・・上記のような水性の懸濁製剤あるいは乳濁製剤は媒体に水を用いているので、乳剤のように有機溶剤に起因する薬害、引火性、臭気、人畜小動物に対する毒性の問題はないが、長期保存中に分離、ハードケーキング等を生じやすい点、高粘度にして分散粒子の沈降を防止しているために容器から完全に製剤が排出しにくい点、また適用できる農薬活性成分も水溶解度が低く、かつ水に対して化学的に安定なものに限定されるという点で問題点を有している。さらに媒体として添加されている水は散布時にのみ必要なものであって、製造、運搬、貯蔵時においては、重みを増すという点、更に容器の破損等による液漏れという不利な点を有している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】従来の水性の懸濁製剤あるいは乳濁製剤は上述のような欠点を有しているが、本発明が解決しようとする課題は、これらの問題点(欠点)を解決し、更に製剤自体の軽量化を図ることにある。」

(8c)「【0008】1.製剤の使用量が水性懸濁製剤や乳濁製剤の使用量よりも少なくて済み、製造、輸送、運搬においての労力が軽減される。
2.散布液の粘度が水性懸濁製剤や乳濁製剤と比較して著しく低減されることにより、散布液が容器から完全に排出され、容器の再利用も可能である。
3.加水分解性が高いために水性懸濁製剤や乳濁製剤にできない農薬活性成分においても適用できる。
【0009】4.水性懸濁製剤や乳濁製剤においては、長期保存中に分離、ハードケーキング等の問題が生じやすいが、本発明ではそのような問題が生じない。本発明の固形製剤とは、粉状製剤、粒状製剤、粉粒状製剤、顆粒状製剤もしくは錠剤を意味するものである。固形製剤の体積をより小さくするためには、粉状製剤よりも、粒状製剤、粉粒状製剤、顆粒状製剤もしくは錠剤のほうが望ましい。」

(8d)「【0014】本発明に用いる水田用農薬固形製剤には、必要に応じて増量剤として鉱物質微粉あるいは水溶性粉末を用いることができる。鉱物質微粉としては、例えばケイソウ土、タルク、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム等が用いられる。水溶性粉末としては、例えば乳糖、果糖、ショ糖、ブドウ糖、デキストリン、デンプン等の糖類、尿素および硫酸、燐酸、塩酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸等のアルカリ金属塩もしくはアンモニウム塩等が用いられる。これらの増量剤は単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0015】また、必要に応じてその他の補助剤として、吸収性微粉末、結合剤、粉砕助剤、分解防止剤、着色剤、消泡剤等を添加することもできる。本発明に用いる固形製剤の製造方法は例えば以下の方法で製造できるが、特にこれらのみに限定されるものではない。粉状製剤の製造方法の場合は、農薬活性成分、界面活性剤、および必要に応じて増量剤、その他の補助剤を必要量添加し、均一に混合した後、微粉砕することにより得られる。微粉砕は衝撃式粉砕機、ボールミル、ジェットミル等の乾式粉砕機により行なうことができる。」

(8e)「【0017】本発明において使用しうる農薬活性成分としては、特に限定されるものではないが、従来水田用の農薬として使用されているものが挙げられる。除草剤としては、
(1)エチル 5-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイルスルファモイル)-1-メチルピラゾール-4-カルボキシレート(一般名:ピラゾスルフロンエチル)
(2) メチル α-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイルスルファモイル)-O-トルアート(一般名:ベンスルフロンメチル)
・・・」

(8f)「【0019】
【実施例】次に本発明の実施例を具体的に挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、部とあるのはすべて重量部を示す。
実施例1
あらかじめジェットオーマイザー〔(株)セイシン企業製〕で微粉砕化したピラゾスルフロンエチル(一般名)1.5 部、あらかじめジェットオーマイザーで微粉砕化したキンクロラック(一般名)16.2部、マレイン酸とジイソブチレンの共重合物とポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩の混合物15部、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム2.5 部、硫酸アンモニウム5部、クレー 59.6 部、シリコン系消泡剤0.2 部を均一混合した後、水30部を加えて混練し、次いで口径0.5 mmのスクリーンを装着した押出式造粒機を用いて造粒する。50゜Cで乾燥後0.5 mm?0.85 mmの篩で整粒して本発明の粒状の固形製剤を得た。
【0020】この粒状の固形製剤は10アールあたりに施用する製剤の量は重量で162gで、体積で約300 mlである。
実施例2
あらかじめジェットオーマイザー〔(株)セイシン企業製〕で微粉砕化したピラゾスルフロンエチル(一般名)1.6 部、あらかじめジェットオーマイザーで微粉砕化したオキサジアゾン(一般名)19.2部、ナフタレンスルホン酸ナトリウムホルマリン縮合物6部、リグニンスルホン酸ナトリウム2部、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム2部、硫酸アンモニウム10部、クレー59.2 部を均一混合した後、水25部を加えて混練し、次いで口径0.5 mmのスクリーンを装着した押出式造粒機を用いて造粒する。50゜Cで乾燥後 0.5mm?0.85mmの篩で整粒して本発明の粒状の固形製剤を得た。
【0021】この粒状の固形製剤は10アールあたりに施用する製剤の量は重量で150gで体積で約300 mlである。」

(8g)「【0024】次に、上記の実施例1、実施例2および比較例1、比較例2で得た製剤の除草効果を以下に示す。但し、除草効果試験に供したものは下記の実施例3および実施例4に記載の水希釈液である。
実施例3
実施例1で得られた粒状製剤162gを500mlの細口ポリエチレン瓶に充填した。その中に水道水を338g加え栓をして5回転倒し、水希釈液を得た。
【0025】実施例4
実施例2で得られた粒状製剤150gを500mlの細口ポリエチレン瓶に充填した。その中に水道水を350g加え栓をして5回転倒し、水希釈液を得た。除草効果試験を以下の方法で行った。
試験例1 除草効果試験
40cm X 47cm X 23cm(高さ) のプラスチック容器に水田土壌を詰め、代掻き後、ノビエ、ホタルイ、コナギ、キカシグサを播種し、ウリカワおよびミズガヤツリの塊茎を置床した。これに水稲稚苗をプラスチック容器当り8株定植し、温室内で生育させた。
【0026】移植7日後に実施例3、実施例4に記載の水希釈液および比較例1、比較例2の水性懸濁製剤をマイクロピペットを用いて 0.1mlずつ水面に施用した。この施用量は10アールあたり500 mlに相当する。処理後28日目に下記の基準に従って各雑草および水稲への影響を評価した。
判定基準
5 : 完全枯死あるいは90%以上の抑制
4 : 70?90%の抑制
3 : 40?70%の抑制
2 : 20?40%の抑制
1 : 5?20%の抑制
0 : 5%以下の抑制
抑制の程度は、肉眼による観察調査から求めた。結果は第2表に示す。



(8h)「【0027】
【発明の効果】実施例や比較例から明らかなように、本発明の水田用農薬固形製剤の使用方法は、従来知られている水性懸濁製剤を湛水下の水田に直接散布する方法と比較してつぎのような効果がえられる。
1.製剤の使用量が重量で水性懸濁製剤の約1/3以下になることにより、製造、輸送、運搬においての労力が軽減される。
【0028】2.散布液の粘度が水性懸濁製剤と比較して著しく低減されることにより、散布液が容器から完全に排出され、容器の再利用も可能である。
3.加水分解性が高いために水性懸濁製剤にできない農薬活性成分においても適用できる。
4.水性懸濁製剤と同等の生物効果が得られ、水稲に対する薬害もない。」

(2)刊行物に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の請求の範囲の請求項1には、「(A)20℃における水溶解度が2g/100ml以上の常温で固体の農薬活性成分、(Β)(Β1)無機酸、(Β2)アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる無機酸塩、(Β3)酢酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸及び酒石酸からなる群より選ばれる有機酸、(Β4)該有機酸のアル力リ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる有機酸塩、(B5)アルカリ金属水酸化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の水溶性化合物、及び(C)水を含有して成る水性懸濁農薬組成物であって、(Β)成分と水の配合比が該組成物中のそれと同じである(Β)成分の水溶液に対し、(Α)成分の20℃における溶解度が2g/100ml未満であることを特徴とする水性懸濁農薬組成物。」が記載され(摘記(1a))、その実施例5は、「(A)20℃における水溶解度が2g/100ml以上の常温で固体の農薬活性成分」として、「常温で固体のフルカルバゾンナトリウム20部」、「(Β3)酢酸、クエン酸、マレイン酸、フマル酸及び酒石酸からなる群より選ばれる有機酸」として、「酢酸0.23部」、「(Β4)該有機酸のアル力リ金属塩、アルカリ土類金属塩及びアンモニウム塩からなる群より選ばれる有機酸塩」として、「酢酸ナトリウム2.8部」、及び(C)水73.77部を含有し、界面活性剤としてポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩2部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩1部、増粘剤としてキサンタンガム0.2部を加えて成る水性懸濁農薬組成物である。

そうすると、甲第1号証には、「フルカルバゾンナトリウム20部、酢酸0.23部、酢酸ナトリウム2.8部、及び水73.77部を含有し、界面活性剤としてポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩2部、ドデシルベンゼンスルホン酸塩1部、増粘剤としてキサンタンガム0.2部を混合して得られた水性懸濁農薬組成物」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

イ 甲第8号証に記載された発明
甲第8号証の特許請求の範囲の請求項1には、「農薬活性成分と界面活性剤とを含有する水田用農薬固形製剤に、懸濁に可能な水を加えて希釈液を調製し、その希釈液を10アールあたり1000ml以下の割合で湛水下の水田に直接滴下散布することを特徴とする水田用農薬固形製剤の使用方法。」が記載され(摘記(8a))、その実施例1には、「農薬活性成分」として、「ピラゾスルフロンエチル1.5部」、「界面活性剤」として、「マレイン酸とジイソブチレンの共重合物とポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩の混合物15部、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム2.5部」を用い、硫酸アンモニウム5部、クレー 59.6部、シリコン系消泡剤0.2部、水30部を加えて粒状の固形製剤を得て、実施例3では、実施例1で得られた粒状製剤162gに水を338g加え水希釈液を得たことが記載されている(摘記(8f)(8g))。また、試験例1として、水稲稚苗を植えたプラスチック容器に実施例3の水希釈液をマイクロピペットを用いて0.1mlずつ水面に施用したことが記載され(摘記(8g))、これは、実施例3の水希釈液は湛水下の水田に直接滴下散布ためのものであるといえる。

そうすると、甲第8号証には、「ピラゾスルフロンエチル1.5部、マレイン酸とジイソブチレンの共重合物とポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩の混合物15部、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム2.5部、硫酸アンモニウム5部、クレー 59.6部、シリコン系消泡剤0.2部、水30部を混合して得られた粒状製剤162gを338gの水で希釈した希釈液であって湛水下の水田に直接滴下散布するための希釈液」の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認める。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)甲第1号証に記載された発明を主引用例とした場合
a 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「フルカルバゾンナトリウム」は、甲第1号証の請求の範囲に記載の(A)20℃における水溶解度が2g/100ml以上の常温で固体の除草剤成分の一種であり、常温で固体の除草剤であるといえるから、本件発明1の「常温で固体の除草剤である農薬活性成分」である点において一致する。
また、甲1発明の「ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩」は、本件発明1の「(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルの塩」に相当し、甲1発明の「ドデシルベンゼンスルホン酸塩」は、本件発明1の「(4)アルキルベンゼンスルホン酸の塩」に相当し、甲1発明の「キサンタンガム」は、増粘剤として配合しているので、本件発明1の「(5)増粘剤」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とでは、
「(1)常温で固体の除草剤である農薬活性成分、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水性懸濁状農薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1-1)本件発明1では、(1)常温で固体の除草剤である農薬活性成分として、「アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれるスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上」としているのに対し、甲1発明では、「フルカルバゾンナトリウム」としている点

(相違点1-2)本件発明1では、「(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上」含有しているのに対し、甲1発明では、「(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上」を含有していない点

(相違点1-3)本件発明1では、水性懸濁状農薬組成物が、「水田直接滴下散布用」という用途限定がなされているのに対し、甲1発明の水性懸濁農薬組成物では、「水田直接摘下散布用」という用途限定がない点

b 判断
(a)これらの相違点について検討するが、まず、相違点1-2について検討する。

(i)甲第1号証の記載からの容易性について
特許異議申立人は、甲第1号証の記載事項からの容易性については主張していないが、念のため検討する。
甲第1号証には、水性懸濁農薬組成物は、通常、界面活性剤を含有することが記載され(摘記(1e))、使用することができる界面活性剤として、甲1発明で用いられたポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩の他に、アセチレンアルコールおよびアセチレンジオール並びにそれらのアルキレンオキシド付加物も例示の1つとして記載されている(摘記(1e))。
しかしながら、本件発明1の成分(3)に相当する「ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸塩」、成分(4)に相当する「ドデシルベンゼンスルホン酸塩」及び成分(2)に相当するアセチレンジオール並びにそれらのアルキレンオキシド付加物の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第1号証に、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、これら3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえない。
したがって、甲第1号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ii)甲第2号証との組合せについて
甲第2号証には、水田に直接原液滴下散布した場合であっても、水田土壌表面の薬剤処理跡を少なくし、しかも短時間で拡散して後に残ることがないことを課題とし、水に難溶性の除草剤有効成分、界面活性剤、水および非晶質アルミノケイ酸塩を含有する水性懸濁剤組成物の発明が記載されている(摘記(2a))。水性懸濁剤組成物に含有する界面活性剤としては、発明の詳細な説明の段落【0010】に、「本発明組成物で用いられる界面活性剤としては、特に制限はなく、従来より農薬製剤分野において使用されている種々のアニオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が用いられる。」と記載した上で本件発明1の成分(2)?成分(4)に相当する化合物が例示されている(摘記(2c))。
そして、実施例では、本件発明1と異なる除草剤を用いた例ではあるが、界面活性剤として、KP-1436及びサーフィノール104Eを用いた具体例(実施例3?8、10?13)が記載されている(摘記(2g)?(2k))。
ここで、甲第5号証をみると、KP-1436はポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩であると記載されている(摘記(5b)参照)から、本件発明1の成分(3)に相当する。また、サーフィノール104-Eは、甲第4号証の実施例2において、アセチレングリコールであると記載されている(摘記(4f)参照)から、本件発明1の成分(2)に相当する。
そうすると、甲第2号証には、水に難溶性の除草剤を含む水性懸濁剤組成物に、界面活性剤として本件発明1の成分(2)及び成分(3)に相当する化合物を用いた具体例が記載されているといえる。なお、甲第6号証には、「KP-1436」という記載はある(摘記(6b))が、具体的な化合物は記載されていない。

しかしながら、甲1発明は、比較的に水溶解性が高い20℃における水溶解度が2g/100ml以上である除草剤の水性懸濁農薬組成物であるのに対し、甲第2号証に記載された水性懸濁剤組成物は、水に難溶性の除草剤を含有することを特徴としており、水に対する溶解度は25℃において100ppm以下のものがより好ましいと記載されている(段落【0019】)ことからすると、甲1発明の除草剤と水に対する溶解度が明らかに異なる除草剤を対象とした水性懸濁剤組成物であるということができる。
そうすると、いくら甲第2号証の実施例において水性懸濁剤組成物に用いられている界面活性剤として、本件発明1の成分(2)及び成分(3)に相当する化合物を用いた具体例が記載され、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、水に対する溶解性が高い除草剤を含有する甲1発明において、水に難溶性の除草剤を含有する甲第2号証に記載された界面活性剤を組み合わせる動機付けがあるということはできないから、甲1発明において相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(iii)甲第3号証との組合せについて
甲第3号証には、除草活性成分の加水分解など、水性懸濁組成物の保存安定性を課題とし、スルホニルウレア系除草活性成分の1種又は2種以上及びフェノールスルホン酸塩類を有効成分として含有することを特徴とする安定化された水性懸濁状除草組成物の発明が記載されている(摘記(3a))。なお、このフェノールスルホン酸塩類は、本件発明1の(4)に相当する化合物ではない。発明の詳細な説明の段落【0027】及び【0028】には、フェノールスルホン酸塩類以外の界面活性剤としてスルホニルウレア系除草活性成分の安定性及び分散作用を損なわず、水中分散性を向上させるために、スチリルフェニルエーテル縮合物が特に好ましいと記載されているが、本件発明1の成分(2)?成分(4)に相当する化合物は例示されていない(摘記(3d))。
そして、実施例では、除草剤成分として、本件発明の(1)に相当する農薬活性成分に対して、KP-1436及びサーフィノール104Eを用いた具体例(実施例1?7)が記載されている(摘記(3e)?(3l))。ここで、甲第3号証には、「KP-1436(POEアルキルアリルリン酸エステル塩・・・)」と記載されているが、POEアルキルアリルとはどのような部分化学構造を表しているのか技術的にみて不明であり、この化合物名は何らかの誤記といえる。一方、上記(ii)で述べたように、甲第5号証をみると、KP-1436はポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩であると記載されている(摘記(5b)参照)から、甲第3号証に記載された「KP-1436」は、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル塩の誤記であったといえ、本件発明1の成分(3)に相当するといえる。また、サーフィノール104-Eは、甲第4号証の実施例2において、アセチレングリコールであると記載されている(摘記(4f)参照)から、本件発明1の成分(2)に相当する。
そうすると、甲第3号証には、除草剤を含む水性懸濁剤組成物に、本件発明1の成分(2)及び成分(3)に相当する化合物を用いた具体例が記載されているといえる。

しかしながら、甲第3号証には、使用できる界面活性剤として、本件発明1の成分(4)に相当する化合物が例示されておらず、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第3号証に、成分(2)及び成分(3)に相当する化合物を併用する具体例が記載されていたとしても、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第3号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(iv)甲第4号証との組合せについて
甲第4号証には、湛水下水田用固形農薬組成物において、農薬活性成分の水中での拡散性を課題とし(摘記(4c))、ポリビニルカルボン酸アミド系高分子、農薬活性成分および界面活性剤を含有する固形農薬組成物が記載され、その請求項4に、この固形農薬組成物を水を混合して懸濁液を調製後、該懸濁液を湛水下水田に直接散布する発明が記載されている(摘記(4a))。発明の詳細な説明の段落【0032】?【0044】には、用いることができる界面活性剤が記載されており、本件発明1の成分(2)?成分(4)に相当する化合物が例示として記載されている(摘記(4e))。
そして、実施例2には、本件発明の成分(1)に相当する農薬活性成分に対して、界面活性剤として、本件発明1の成分(4)に相当するアルキルナフタレンスルホン酸Naのホルマリン縮合物と成分(2)に相当するアセチレングリコールを用いた具体例が記載されているといえる。

しかしながら、甲第4号証には、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第4号証に、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、これら3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(b)まとめ
上で述べたとおり、甲1発明において、相違点1-2が当業者が容易に想到することができたとはいえないから、相違点1-1及び相違点1-3について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 効果について
本件特許明細書の段落【0011】に、本発明組成物は、水田に滴下散布した際に、水面での拡散、水中での分散に優れるとの記載がされ、段落【0045】以降に記載された実施例1及び2において、成分(2)?(4)を併用して用いた水性懸濁状農薬組成物は、成分(3)を含有しない比較例1や成分(4)を含有しない比較例2と比べて、水中分散性に優れることが記載されている。
一方、甲第1?6号証には、いずれにも、成分(2)?(4)を併用して用いた水性懸濁状農薬組成物が、これら3種類を全て併用しない場合と比べて、水面での拡散や水中での分散に優れることについては記載されていない。
また、甲第7号証には、本件発明1の水性懸濁状農薬組成物に相当するフロアブル製剤にし得る原体の融点、水溶性、安定性、粒子径は、ほとんどの場合分散方法、分散剤の選択により改良できることは記載されているが、本件発明の成分(2)?(4)を併用して用いた水溶性懸濁状農薬組成物が、水面での拡散や水中での分散に優れることについては記載されていない。
よって、本件発明1は当業者の予測を超えた効果を奏するものである。

d まとめ
よって、本件発明1は、甲第1号証(主引用例)に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術的事項(副引用例)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(イ)甲第8号証に記載された発明を主引用例とした場合
a 対比
本件発明1と甲8発明とを対比する。

甲8発明の「ピラゾスルフロンエチル」は、その名称が本件発明1の「ピラゾスルフロン-エチル」と同じであるので、本件発明1の「(1)・・・ピラゾスルフロン-エチル・・・から選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物・・・の除草剤である農薬活性成分」に相当する。
また、甲8発明の「ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステル塩」は、本件発明1の「(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルの塩」に相当し、甲8発明の「アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム」は、本件発明1の「(4)アルキルナフタレンスルホン酸の塩」に相当する。さらに、甲8発明の希釈液は、水に除草剤であるピラゾスルフロンエチルが懸濁していることは明らかであるから、本件発明1の「水性懸濁状農薬組成物」に相当する。
更に、甲8発明の「湛水下の水田に直接滴下散布する」は、本件発明1の「水田直接滴下散布用」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲8発明とでは、
「(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点8-1)本件発明1では、「(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上」含有しているのに対し、甲8発明では、「(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上」を含有していない点

(相違点8-2)本件発明1では、(5)増粘剤を含有するのに対して、甲8発明では、増粘剤を含有していない点

b 判断
これらの相違点について検討するが、まず、相違点8-1について検討する。

(a)相違点8-1について
(i)甲第1号証との組み合わせについて
甲第1号証には、上記「(ア)b(a)(i)」で述べたように、水性懸濁農薬組成物に用いることができる界面活性剤として、本件発明1の成分(2)?(4)に相当する化合物は例示されており、実施例では、本件発明1の成分(3)及び(4)を用いた水性懸濁農薬組成物が記載されている。

しかしながら、甲第1号証には、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第1号証に、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、これら3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第1号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(ii)甲第2号証との組み合わせについて
甲第2号証には、上記「(ア)b(a)(ii)」で述べたように、水性懸濁剤組成物に用いることができる界面活性剤として、本件発明1の成分(2)?(4)に相当する化合物は例示されており、実施例では、本件発明1の成分(2)及び(3)を用いた水性懸濁剤組成物が記載されている。

しかしながら、甲第2号証には、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第2号証に、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、これら3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第2号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(iii)甲第3号証との組み合わせについて
甲第3号証には、上記「(ア)b(a)(iii)」で述べたように、水性懸濁剤組成物に用いることができる界面活性剤として、その実施例に、本件発明1の成分(2)及び(3)に相当する化合物を用いた例が記載されている。

しかしながら、甲第3号証には、使用できる界面活性剤として、本件発明1の成分(4)に相当する化合物が記載されておらず、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第3号証に、成分(2)及び成分(3)に相当する化合物を併用する具体例が記載されていたとしても、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第3号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(iv)甲第4号証との組み合わせについて
甲第4号証には、上記「(ア)b(a)(iv)」で述べたように、水懸濁農薬組成物に用いることができる界面活性剤として、本件発明1の成分(2)?(4)に相当する化合物は例示されており、その実施例2では、本件発明1の成分(2)及び(4)を用いた水懸濁農薬組成物が記載されている。

しかしながら、甲第4号証には、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第4号証に、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、これら3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第4号証に記載された技術的事項から、相違点1-2を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(b)まとめ
甲8発明において、相違点8-1が当業者が容易に想到することができたとはいえないから、相違点8-2について検討するまでもなく、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

c 効果について
甲第1?8号証には、いずれにも成分(2)?(4)を併用して用いた水性懸濁状農薬組成物が、これら3成分を併用しない場合に比べて、水面での拡散や水中での分散に優れることについては記載されていない。
一方、本件発明が成分(2)?(4)を併用すると優れた効果を奏することは、上記「(ア)c」で述べたとおりである。
よって、本件発明1は、当業者の予測を超えた効果を奏するものである。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用した上で、本件発明1を更に限定した発明である。

そして、上記アで述べたように、本件発明1が、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術的事項に基づいて、又は、甲第8号証に記載された発明及び甲第1?7号証に記載された技術的事項に基づいて当業者が容易に発明できたとはいえないのであるから、本件発明2及び3も同じ理由により、当業者が容易に発明できたとはいえない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件発明1は公知の界面活性剤を組み合わせたものであり、発明の詳細な説明からは顕著な効果を確認できない旨を以下の3点で主張する。(特許異議申立書第12頁第13行?第14頁第11行)

ア 明細書では、実施例1に対する成分(2)を含まない比較例がない。また、実施例1とは農薬活性成分が異なる実施例2に対する比較例は何も記載されていない。これら記載されていない比較例の効果は明らかでないから、本件発明の実施例1及び2が優れた効果を奏するとはいえない。

イ 1Lビーカーという小さいスケールでの評価であると、広い水田における評価と結びつけられないから、本件発明は水田において優れた効果を奏するとはいえない。

ウ 甲第7号証には、フロアブル製剤にし得る原体の融点、水溶性、安定性、粒子径は、ほとんどの場合分散方法、分散剤の選択により改良できることは記載されているから、農薬原体に応じて界面活性剤を選択する必要があるといえ、実施例において、2種のスルホニルウレア系化合物について効果があったとしても、本件発明1で特定されたスルホニルウレア系化合物全体に渡り同等の効果が確認できない。

(5)特許異議申立人の主張の検討について
特許異議申立人は、本件発明1は顕著な効果を確認できない旨の主張をしているところ、上記「(3)ア(ア)b」、「(3)ア(イ)b」で述べたように、本件発明は、効果について検討するまでもなく当業者が容易に発明をすることができたものではないが、念のため、これらの主張について検討する。

ア 主張アについて
上記「(3)ア(ア)c」で述べたように、本件発明は、段落【0011】に、本発明組成物は、水田に滴下散布した際に、水面での拡散、水中での分散に優れるとの記載がされ、段落【0045】以降に記載された実施例1及び2において、成分(3)を含有しない比較例1や成分(4)を含有しない比較例2と比べて本件発明1で特定された水性懸濁状農薬組成物は、水面での拡散や水中での分散に優れることが記載されている。
一方、特許異議申立人は、実施例1に対する成分(2)を含まない比較例、及び、実施例2に対する比較例の評価を、具体的に実験成績証明書を挙げて示しているわけでもないから、特許異議申立人の主張のみからは、本件発明1が顕著な効果を奏さないとはいえない。

イ 主張イについて
本件特許明細書に記載された実施例では、1Lのビーカーを用いて本件発明の水性懸濁状組成物が水面や水中での拡がりに優れることを確認しており、そのスケールが異なっていたとしても、水への分散性が異なる理由がないから、ビーカーにおける実験と同様に、同じ水を媒体とする水田であっても、水性懸濁状組成物が水面や水中を同様に拡がるといえ、本件発明の水性懸濁状農薬組成物を水田に直接滴下した場合でも、所定の効果を奏することは明らかであるといえる。
一方、特許異議申立人は、この実施例から、広い水田においても拡散性、分散性に優れるか明らかでないと主張するだけで、この主張を裏付ける何ら具体的な証拠を挙げているわけでもないから、この主張は採用できない。

ウ 主張ウについて
特許権者が提出した乙第9号証には、「懸濁製剤」の「技術内容」として、「懸濁液の分散は、粒子間のファンデルワールス斥力と静電的斥力のバランスで決定されており、分散粒子に荷電をもたせ粒子間に静電斥力を与えるためにアニオン性界面活性剤が分散剤として使用されることが多い。この場合、分散粒子に吸着したアニオン性分散剤は分散粒子に負の電荷を与え、負電荷間の斥力により分散は安定する。」ことが記載され、「また立体障害分散安定化によっても分散安定性が与えられ、粒子表面にポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレートなどのような溶媒によく溶け、粒子を吸着しやすいポリマーや分子量の大きい非イオン性界面活性剤が分散粒子に吸着すると形成された厚い吸着層により粒子間に立体障害斥力が与えられ、分散が安定化する。」ことが記載されている。
また、このことは、特許異議申立人が提出した甲第7号証にも、「10.フロアブル製剤」の「(1)組成」における「2)分散剤」の項目において、「分散剤の選択はフロアブル製剤の開発において最も重要である。・・・
分散安定性の機構としては二つの異なる機構が考えられている。一つは静電的斥力による安定化であり、一般にアニオン性界面活性剤がこの目的のために広く使用されている。分散粒子に吸着したアニオン性分散剤は分散粒子に負の電荷を与え、負電荷同氏の斥力により分散は安定化する。
もう一つの機構は”立体障害分散安定化”(・・・)による分散安定化である^(12))。粒子表面にポリマーが吸着すると厚い吸着層が形成される。この吸着層は粒子間に立体障害斥力を与え分散を安定化する。立体障害斥力は吸着層の厚さが厚いほど大きくなるのでこの目的のためにはポリマーや分子量の大きな非イオン性界面活性剤が使用される。」ことが記載されていることからも裏付けられる。

これらの記載からすれば、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤を用いることにより、水中に粒子を安定的に分散させることができることは技術常識であるといえ、また、当業者であれば、農薬原体の化学構造の相違が、本件発明の効果に与える影響が小さいことは、この技術常識を勘案すれことにより理解できるといえ、本件発明1では、アニオン性界面活性剤である成分(3)及び(4)を含有し、非イオン性界面活性剤である成分(2)を含有しているので、当業者であれば、本件発明1において、農薬活性成分について具体的な実施例がないとしても、本件特許明細書に記載された実施例1及び2と同程度の効果を奏すると解することができる。
一方、特許異議申立人は、本件発明1の具体例であるスルホニルウレア系化合物を含有する水性懸濁状農薬組成物が効果を奏さないとする証拠を示しているわけでもない。
よって、この主張は採用できない。

(6)まとめ
よって、本件発明1?3は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?7号証に記載された技術的事項に基づいて、又は、甲第8号証に記載された発明及び甲第1?7号証に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないとはいえない。

2 特許異議申立人 小西富雅が申し立てた取消理由1(新規性)及び取消理由2(進歩性)について
(1)刊行物の記載事項
ア 甲第1’号証:特開2009-29773号公報
甲第1’号証には、以下の事項が記載されている。
(11a)「【請求項1】
式(1):
【化1】

〔式中、
GはG1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9、G10またはCH_(3)(CH_(3)SO_(2))Nを表し、
LはL1またはL2を表し、
XおよびYは各々独立して水素原子、ハロゲン原子、C_(1?3)アルキル基またはC_(1?3)アルコキシ基を表し
ZはCHまたは窒素原子を表し
L1はSO_(2)NH(C=O)N(R^(1))、CH_(2)SO_(2)NH(C=O)N(R^(1))またはNHSO_(2)NH(C=O)N(R^(1))を表し
L2は酸素原子、硫黄原子、CH_(2)、CH(OH)またはC=Oを表し、
R^(1)は水素原子またはC_(1?3)アルキル基を表し、
G1、G2、G3、G4、G5、G6、G7、G8、G9およびG10は
【化2】

を表し、
R^(2)はC_(1?3)アルキル基、C_(1?3)アルコキシC_(1?3)アルキル基、Aによって置換されていてもよいフェニル基またはAによって置換されていてもよいピリジル基を表し、
Aはハロゲン原子、C_(1?3)アルキル基、C_(1?3)アルコキシ基およびC_(1?3)ハロアルキル基から選ばれる1以上の置換基を表し、
R^(3)は水素原子、ハロゲン原子、C_(1?6)アルキル基、C_(2?6)アルケニル基、C_(2?6)アルキニ
ル基、C_(1?6)ハロアルキル基、C_(2?6)ハロアルケニル基、C_(2?6)ハロアルキニル基、C_(1?6)ハロアルコキシ基、C_(1?3)アルコキシC_(1?6)アルキル基、C_(1?3)ハロアルコキシC_(1?3)アルキル基、NO_(2)、CO_(2)R^(8)、COR^(9)、CON(R^(10))_(2)、CONHR^(10)、NHCOR^(9)、SO_(2)R^(11)、SO_(2)N(R^(10))_(2)、SO_(2)NH(R^(10))、NHSO_(2)(R^(11))、CH(CHFCH_(3))(OCOCH_(2)OCH_(3))、2-メチル-2H-テトラゾール-5-イル基またはQを表し、
Qは
【化3】

を表し
R^(4)、R^(5)、R^(6)およびR^(7)は各々独立して水素原子、ハロゲン原子、C_(1?6)アルキル基、C_(2?6)アルケニル基、C_(2?6)アルキニル基、C_(1?6)ハロアルキル基、C_(2?6)ハロアルケニル基、C_(2?6)ハロアルキニル基、C_(1?3)アルコキシC_(1?3)アルキル基、NHCOR^(9)、CH_(2)NHSO_(2)R^(11)、C(R^(12))=NOR^(13)または4,6-ジメトキシピリミジン-2-イル基を表し
R^(3)とR^(4)が隣接する場合、R^(3)とR^(4)は結合している炭素原子と共に5ないし6員環を形成してもよく、形成される環内に酸素原子あるいはカルボニル基を含んでいてもよく、
R^(8)は水素原子、C_(1?6)アルキル基、C_(2?6)アルケニル基、C_(2?6)アルキニル基、C_(1?6)ハロアルキル基、C_(3?6)シクロアルキル基、3-オキセタニル基、2-オキセタニル基、またはN=C(Ph)_(2)を表し、
R^(9)は水素原子、C_(1?6)アルキル基、C_(2?6)アルケニル基、C_(2?6)アルキニル基、C_(1?6)ハロアルキル基またはC_(3?6)シクロアルキル基を表し、
R^(10)はC_(1?6)アルキル基を表し、
R^(11)はC_(1?6)アルキル基、C_(2?6)アルケニル基、C_(2?6)アルキニル基またはC_(1?6)ハロアルキル基を表し、
R^(12)は水素原子またはC_(1?6)アルキル基を表し、
R^(13)はC_(1?6)アルキル基を表し、
を表し、
R^(14)、R^(15)、R^(16)およびR^(17)は各々独立して水素原子またはC_(1?6)アルキル基を表す。〕で表される化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上農薬活性成分と、アルキルポリグリコシドを含む水性懸濁状農薬組成物。
・・・
【請求項8】
農薬活性成分がピラゾスルフロンエチル、ハロスルフロンメチルまたはアジムスルフロンである請求項4記載の水性懸濁状農薬組成物。」

(11b)「【0003】
本発明の課題は、式(1)で表される化合物およびそれらの塩から選ばれる農薬活性成分の分解が抑制される水性懸濁状農薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは鋭意研究した結果、式(1)で表される化合物およびそれらの塩から選ばれる農薬活性成分の水性懸濁状農薬組成物において、界面活性剤としてアルキルポリグリコシドを使用することで、該農薬活性成分の分解を著しく抑制できることを見出した。」

(11c)「【0035】
・・・
本発明組成物では、必要に応じてアルキルポリグリコシド以外の界面活性剤を加えることも可能である。それらの界面活性剤としては、以下の(A)、(B)、(C)、(D)および(E)が挙げられる。
【0036】
(A)ノニオン性界面活性剤:
・・・
【0039】
(B)アニオン性界面活性剤:
(B-1)カルボン酸型界面活性剤・・・
【0040】
(B-2)硫酸エステル型界面活性剤:例えば、アルキル(C_(8?18))硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(C_(8?18))エーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(C_(8?12))フェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(C_(8?12))フェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)フェニルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの硫酸エステル、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸および硫酸化オレフィン等の硫酸エステル、並びにそれら硫酸エステルの塩が挙げられる。
【0041】
(B-3)スルホン酸型界面活性剤:・・・
【0042】
(B-4)燐酸エステル型界面活性剤:例えば、アルキル(C_(8?12))燐酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(C_(8?18))エーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(C_(8?12))フェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)アルキル(C_(8?12))フェニルエーテルのポリマーの燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)フェニルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)ベンジルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの燐酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの燐酸エステル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールイミンおよび縮合燐酸(例えばトリポリリン酸等)等の燐酸エステル、並びにそれら燐酸エステルの塩が挙げられる。
・・・
【0044】
(C)カチオン性界面活性剤:
・・・
【0045】
(D)良性界面活性剤:
・・・
【0046】
(E)その他の界面活性剤:
・・・
【0047】
これらのアルキルポリグリコシド以外の界面活性剤は単独でまたは2種以上混合して使用することができ、混合する場合の比も自由に選択できる。本発明組成物中の該界面活性剤の含有量は適宜選択できるが、本発明組成物100重量部に対して0.1?20重量部の範囲が好ましい。」

(11d)「【0048】
本発明組成物には、更に各種補助剤を含有させることができる。使用できる補助剤としては、増粘剤、有機溶剤、凍結防止剤、消泡剤、防菌防黴剤および着色剤等があり、下記のものが挙げられる。」

(11e)「【0058】
本発明の水性懸濁状農薬組成物は、例えば原液のまま水田に直接散布する方法、水で50?5000倍程度に希釈して、噴霧機などを用いて有害植物もしくはそれが生育する土壌に散布する方法、または空中からヘリコプターなどを使用して、原液のまま、もしくは水で2?100倍程度に希釈して散布する方法で施用することにより、有害植物を防除することができる。・・・」

(11f)「【0060】
〔実施例1?39〕
第1表から第11表に示した構成成分を均一に混合し湿式粉砕を行い、本発明の水性懸濁状農薬組成物を得た。但し、第11表に示した実施例39では、まずジメタメトリンをビニサイザー20に溶解させて溶液を調製し、その後この溶液と他の構成成分を均一に混合し湿式粉砕を行い、本発明の水性懸濁状農薬組成物を得た。」

(11g)「【0074】
【表11】



イ 甲第2’号証:日本農薬学会 農薬製剤・施用法研究会編、農薬製剤ガイド、平成9年10月30日、社団法人 日本植物防疫協会発行 第35?42頁
甲第2’号証は、上記「1(1)ア(キ)」で示した特許異議申立人 東海裕作が提出した甲第7号証と同じ文献であり、上記で示した事項が記載されている。
(12a)「4)処方例



(2)刊行物に記載された発明
ア 甲第1’号証に記載された発明
甲第1’号証の特許請求の範囲の請求項1には、式(1)で特定される農薬活性成分と、アルキルポリグリコシドを含む水性懸濁状農薬組成物が記載され(摘記(11a))、組成物には、界面活性剤を加えることも可能であることが記載され(摘記(11c))、その実施例39には、ピラゾスルフロンエチル0.67重量部、ジメタメトリン1.2重量部、ビニサイザー20を3.6重量部、ニューポールPE-128(ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー)を0.5重量部、イソバン-600-SF-35(イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のナトリウム塩の35%水溶液)を3重量部、AG6202(アルキルポリグリコシド)を0.25g、ルノックス1000C(ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物)を0.5重量部、サーフィノール104H(2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール)を0.1重量部、プロピレングリコールを2.5重量部、無水クエン酸を1重量部、塩化ナトリウムを6重量部、ゲルザンASX(キサンタンガム)を0.2重量部、プロクセルGXL(S)(1,2Benzisothiazolin-3-one溶液(有効成分20%))を0.1重量部、水を80.48重量部含む水性懸濁状農薬組成物が記載されている(摘記(11f)(11g))。

また、甲第1’号証の段落【0058】には、甲第1’号証に記載された水性懸濁状農薬組成物の施用方法として、原液のまま水田に直接散布する方法が記載されている(摘記(11e))。

そうすると、甲第1’号証には、「ピラゾスルフロンエチル0.67重量部、ジメタメトリン1.2重量部、ビニサイザー20を3.6重量部、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーを0.5重量部、イソブチレン・無水マレイン酸共重合物のナトリウム塩の35%水溶液を3重量部、アルキルポリグリコシドを0.25g、ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物を0.5重量部、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールを0.1重量部、プロピレングリコールを2.5重量部、無水クエン酸を1重量部、塩化ナトリウムを6重量部、キサンタンガムを0.2重量部、1,2-Benzisothiazolin-3-one溶液(有効成分20%)を0.1重量部、水を80.48重量部含む水田に直接散布する水性懸濁状農薬組成物」の発明(甲1’発明)が記載されていると認める。

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
(ア)新規性及び進歩性について
a 対比
甲1’発明の「ピラゾスルフロンエチル」は、その名称が本件発明1の「ピラゾスルフロン-エチル」と同じであるので、本件発明1の「(1)・・・ピラゾスルフロン-エチル・・・から選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物・・・の除草剤である農薬活性成分」に相当する。

また、甲1’発明の「2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール」は、本件発明1の「(2)アセチレングリコール」に相当し、甲1’発明の「ナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物」は、本件発明1の「(4)ナフタレンスルホン酸の塩のホルマリン縮合物」に相当し、甲1’発明の「キサンタンガム」は、本件発明1の「(5)増粘剤」に相当することは明らかである。そして、甲1’発明の水田に直接散布するとは、明らかに滴下することであるから、本件発明1の水田直接滴下散布用に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1’発明とでは、
「(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物」である点で一致し、次の点で相違する。

(相違点1’-1)本件発明1では、「(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上」含有しているのに対し、甲1’発明では、「(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上」を含有していない点

b 判断
まず、相違点1’-1が実質的な相違点であるかを検討する。

甲第1’号証には、加えることができる界面活性剤として(A)ノニオン性界面活性剤、(C)カチオン性界面活性剤、(D)良性界面活性剤、(E)その他の界面活性剤に並んで、(B)アニオン性界面活性剤が例示されており、この(B)アニオン性界面活性剤の具体例として、(B-2)硫酸エステル型界面活性剤の中に、本件発明1の(3)成分に相当するポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステルが例示として記載されており、また、(B-4)燐酸エステル型界面活性剤の中に、本件発明1の(3)成分に相当するポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステルが例示として記載されている(摘記(11c))。

しかしながら、甲1’発明において、更に加えることができる界面活性剤として、本件発明1の成分(3)に相当するポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステルやポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステルが記載されているわけではなく、また、甲第1’号証には、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。

そうすると、甲1’発明において、甲第1’号証に例示して記載された界面活性剤の中から、本件発明1の成分(3)に相当するポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル又はポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステルを使用することは、実質的な相違点でないとはいえない。

次に、相違点1’-1の容易想到性について検討する。

上記したとおり、甲第1’号証には、加えることができる界面活性剤として、本件発明1の(3)成分に該当するポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステルが例示として記載されている。

しかしながら、甲第1’号証には、本件発明1の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。
そして、本件発明1は、成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することにより、水面での拡散や水中での分散に優れた効果を奏するものである。
してみると、甲第1’号証に、成分(2)?成分(4)に相当する化合物をそれぞれ単独で使用することが記載されていたとしても、これら3種類を全て併用する動機付けがあるとはいえないから、甲第1’号証に記載された技術的事項から、相違点1’-1を構成することは、当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。
また、甲第2’号証にも、界面活性剤として、本件発明の成分(2)?成分(4)の3種類を全て併用することは記載されていない。

したがって、本件発明1は、甲第1’号証に記載された発明であるとはいえない。また、甲第1’号証に記載された発明及び甲第2’号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

c 効果について
甲第1’号証には、成分(2)?(4)を併用して用いた水性懸濁状農薬組成物が、これら3成分を併用しない場合に比べて、農薬活性成分の水中分散性が優れることについては記載されていない。
一方、本件発明1が成分(2)?(4)を併用すると優れた効果を奏することは、上記「1(3)ア(ア)c」で述べたとおりである。
よって、本件発明1は、当業者の予測を超えた効果を奏するものである。

イ 本件発明2及び3について
本件発明2及び3は、本件発明1を直接的又は間接的に引用した上で、本件発明1を更に限定した発明である。
そして、上記ア(ア)で述べたように、本件発明1が、甲第1’号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1’号証に記載された発明及び甲第2’号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないのであるから、本件発明2及び3も同じ理由により、甲第1’号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1’号証に記載された発明及び甲第2’号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、平成28年6月13日付け意見書の第6頁第1?13行において、甲第7’号証の実験成績証明書を挙げて、乙第4号証の実験成績証明書において、成分(1)としてベンスルフロンメチルが用いられた実験例2の再試験(確認実験例1)と、この実験例2に対して成分(3)を配合しなかった確認比較例1、成分(4)を配合しなかった確認比較例2の試験結果が、すべて白濁し、ビーカー底部の沈降物が少ないという評価が「〇」であることから、本件特許は効果を奏さない旨の主張をしている。

(5)特許異議申立人の主張の検討について
特許異議申立人が提出した甲第7’号証は、平成28年6月13日付けの意見書とともに提出されたものであり、特許異議申立ての当初から提出された証拠ではなく、特許権者の反論を経ないこともあり、その記載内容が正しいものと直ちに認めることはできないが、念のため検討する。
本件発明1の甲1’号証に基づく進歩性の検討において、その効果が顕著であるか否かの判断は、甲1’発明の効果と対比してなされるべきである。
そこで、この点について検討すると、甲1’発明である水性懸濁状農薬組成物は、上記「(2)ア」で述べたように、成分(1)としてピラゾスルフロンエチル、成分(2)として2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、成分(4)としてナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、成分(5)としてキサンタンガムを含有し、成分(3)を含有しないものである。
一方、甲第7’号証に記載された確認比較例1は、水性懸濁状農薬組成物は、成分(1)としてベンスルフロンメチル、成分(2)として2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、成分(4)としてメチルナフタレンスルホン酸ナトリウムのホルマリン縮合物、成分(5)としてキサンタンガムを含有し、成分(3)を含有しないものであり、甲1’発明と農薬活性成分が異なることはさておき、成分(4)が甲1’発明と異なるため、甲1’発明と同じ例であるとはいえない。
また、確認比較例2は、水性懸濁状農薬組成物は、成分(1)としてベンスルフロンメチル、成分(2)として2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、成分(3)としてポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステル、成分(5)としてキサンタンガムを含有し、成分(4)を含有しないものであり、甲1’発明と農薬活性成分が異なることはさておき、成分(4)を含有しない点で甲1’発明と異なるため、甲1’発明と同じとはいえない。
このように確認比較例1及び2は、いずれも甲1’発明の効果を示すデータとはなり得ないから、甲1’発明に基づく進歩性を判断する場合において、確認比較例1及び2と確認実施例1との間に効果の差がないことをもって、本件発明1が顕著な効果がないとはいえない。
そして、本件発明1は、本件特許明細書の段落【0043】以降に記載された実施例において、甲1’発明に対応する成分(3)を含有しない比較例1及び成分(4)を含有しない比較例2に比べて水面での拡散や水中での分散に優れるという顕著な効果を奏することは、上記「1(3)ア(ア)c」で述べたとおりである。
よって、この主張は採用できない。

(6)まとめ
よって、本件発明1?3は、甲第1’号証に記載された発明であるとはいえず、また、甲第1’号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された技術的事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえないから、特許法第29条第1項第3号に該当するといえず、また、同法同条第2項の規定により特許を受けることができないともいえない。

3 サポート要件について
(1)特許法第36条第6項第1号の考え方について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (参考:知財高判平17.11.11(平成17(行ケ)10042)大合議判決)
以下、この観点に立って検討する。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第3」で示したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
(a)「【0002】
従来、水田における除草剤の散布では、一般に粒剤による散布が主流であった。しかしながら、粒剤は、例えば10アールあたり1-3キログラム程度の散布量が必要で、また、面積の広い水田においては、水田内を移動して均等に散布する必要があるなど労力面での負担が大きく、農薬の少量散布についての要望が高まってきている。
そこで、散布時の省力化と効率化を図る目的で水性懸濁状農薬組成物が開発されている。畑地等で使われる水性懸濁状農薬組成物とは異なり、水田における散布で用いられる、この剤型は製剤を希釈することなく、容器から直接水田に滴下散布するため、水面での拡散や水中での分散が除草効果を安定させるために非常に重要である。
このため、水面での拡散や水中での分散について、これまでもパラフィン系炭化水素を含有することにより比重を調整した水性懸濁状除草剤組成物を、水田に散布し速やかに水面上で拡散させることにより、薬効を水田全面で発現させる方法が提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、かかる水性懸濁状除草剤組成物は、パラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着し、薬害を生ずることがあり、より安全な方法で、水面での拡散や水中での分散が達成できる水性懸濁状除草剤組成物の提供が求められている。」

(b)「【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びにアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上を含む水性懸濁状農薬組成物において、水面での拡散や水中での分散を大きく改善され、水田土壌上の滴下跡を著しく抑制されることを見出した。」

(c)「【0011】
本発明組成物は、水田に滴下散布した際に、水面での拡散、水中での分散に優れるものである。
【0012】
本発明の水性懸濁状農薬組成物に含有される農薬活性成分は、アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)、3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物である除草剤である。」

(d)「【0019】
本発明の水性懸濁状農薬組成物における農薬活性成分の含有量は、本発明組成物100重量に対して、通常0.001?50重量部、より好ましくは0.001?10重量部、さらに好ましくは0.001?5重量部、さらに好ましくは0.001?3重量部である。
・・・
【0020】
本発明に使用するポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩としては、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの燐酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、並びにそれらのアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)塩、アンモニウム塩および各種アミン(例えば、アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびアルカノールアミン)塩等が挙げられる。本発明組成物中のポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩の総含有量は適宜選択でき、本発明組成物100重量部に対して通常0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?2重量部、さらに好ましくは0.01?1重量部である。
【0021】
本発明に使用するアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩としては、アルキル(例えばC_(8?12))ベンゼンスルホン酸、アルキル(例えばC_(8?12))ベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(1?6))ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(1?6))ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、並びにそれらのアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)塩、アンモニウム塩および各種アミン(例えば、アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびアルカノールアミン)塩等が挙げられる。本発明組成物中のアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩の総含有量は適宜選択でき、本発明組成物100重量部に対して通常0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?2重量部、さらに好ましくは0.01?1重量部である。
【0022】
本発明に使用するアセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物としては2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールおよび、そのポリオキシアルキレン付加物が挙げられる。アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物の総含有量は適宜選択でき、本発明組成物100重量部に対して通常0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?2重量部、さらに好ましくは0.01?1重量部である。
・・・」

(e)「【0036】
本発明組成物には、更に各種補助剤を含有させることができる。使用できる補助剤としては、増粘剤、有機溶剤、pHコントロール剤、凍結防止剤、消泡剤、防菌防黴剤、着色剤および塩があり、下記のものが挙げられる。
【0037】
増粘剤としては、特に制限はなく、有機、無機の天然物、合成品および半合成品を用いることができ、例えば、ザンサンガム(キサンタンガム)、ウェランガムおよびラムザンガム等のヘテロ多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリアクリルアミド等の水溶性高分子化合物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ベントナイト、ラポナイトおよび合成スメクタイト等のスメクタイト系粘土鉱物等を例示することができる。これらの増粘剤は一種または二種以上混合してもよく、混合する場合の比も自由に選択できる。これらの増粘剤はそのまま添加してもよく、またあらかじめ水に分散させたものを添加しても良い。また、本発明組成物中の含有量も自由に選択することができる。」

(f)「【0045】
〔実施例1〕
1.粉砕スラリーの調整
水37.63部にソプロフォール3D33(商品名、ローディア社製、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステル)0.25部、スープラジルMNS/90(商品名、ローディア社製、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム ホルマリン縮合物)0.25部、サーフィノール104PG50(商品名、エアプロダクツ社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの50%プロピレングリコール液)0.25部、無水クエン酸1.0部、プロピレングリコール10.0部、シリコーン系消泡剤0.2部を溶解させ、これにピラゾスルフロンエチル 0.42部を分散させ0.8-1.2mmφガラスビーズを用いてサンドグラインダー(アイメックス(株)製)で湿式粉砕し、粉砕スラリー50部を得た。
【0046】
2.分散媒の調製
水49.3部にケルザンASX(商品名、ケルコ社製、キサンタンガム)0.2部、プロクセルGXL(S)(商品名、アビシア(株)製、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)0.1部、ビーガムK(商品名、バンダービルト社製、ケイ酸アルミニウムマグネシウム)0.4部の順に分散させ分散媒50部を得た。
【0047】
3.水性懸濁農薬組成物の調製
上記粉砕スラリー50部と分散媒50部を混合して均一な水性懸濁状農薬組成物100部を得た。
【0048】
〔実施例2〕
1.粉砕スラリーの調整
水35.1部にソプロフォール3D33(商品名、ローディア社製、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステル)1.0部、スープラジルMNS/90(商品名、ローディア社製、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム ホルマリン縮合物)1.0部、サーフィノール104E(商品名、エアプロダクツ社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの50%エチレングリコール液)0.25部、エパン450(商品名、第一工業製薬(株)製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー)0.25部、無水クエン酸1.0部、エチレングリコール10.0部、シリコーン系消泡剤0.2部を溶解させ、これにハロスルフロンメチル 1.2部を分散させ0.8-1.2mmφガラスビーズを用いてサンドグラインダー(アイメックス(株)製)で湿式粉砕し、粉砕スラリー50部を得た。
【0049】
2.分散媒の調製
水49.68部にプロクセルGXL(S)(商品名、アビシア(株)製、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)0.16部、K1A96(商品名、ケルコ社製、ウェランガム)0.02部、ケルザンASX(商品名、ケルコ社製、キサンタンガム)0.14部、の順に分散させ分散媒50部を得た。
【0050】
3.水性懸濁農薬組成物の調製
上記粉砕スラリー50部と分散媒50部を混合して均一な水性懸濁状農薬組成物100部を得た。
【0051】
〔比較例1〕
ソプロフォール3D33を水に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法にて製造し、水性懸濁状農薬組成物を得た。
【0052】
〔比較例2〕
スープラジルMNS/90を水に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法にて製造し、水性懸濁状農薬組成物を得た。」

(g)「【0057】
〔試験例〕
実施例1、2および比較例1、2で得られた組成物の水中分散性を以下の方法で評価した。1Lビーカー10度硬水を1Lを入れて25度の恒温室に静置した。マイクロピペットで水性懸濁状組成物200μLをビーカーの縁の高さより、静かに滴下し、水面や水中での広がりを目視で観察し、評価した。結果を表1に示す。
【0058】
○:白濁し、ビーカー底部の沈降物が少ない。
△:白濁するが、ビーカー底部に沈降物がある。
×:白濁せず、拡がらず。ビーカー底部に沈降物が多い。
【0059】
第1表
??????????
評価
??????????
実施例1 △
実施例2 ○
比較例1 ×
比較例2 ×
?????????? 」

(4)本件発明の課題について
本件発明の課題は、発明の詳細な説明の段落【0003】(摘記(a))、同【0011】(摘記(c))及び発明の詳細の詳細な説明の記載全体からみて、「(ア)パラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着することによる薬害を生じることなく、(イ)水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供すること」であると認める。

(5)判断
特許異議申立人 東海裕作及び特許異議申立人 小西富雅は、本件発明のうち、成分(1)である農薬活性成分と成分(2)?成分(4)である界面活性剤のそれぞれについて、サポート要件がない旨を主張し、当審は、成分(1)の農薬活性成分についてのみサポート要件がない旨の通知をしているので、以下では、本件発明のうち、まず「農薬活性成分について」、次いで「成分(2)?成分(4)である界面活性剤について」、そのサポート要件を検討する。

ところで、上記(4)で述べたとおり、本件発明の課題は、
(ア)パラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着することによる薬害を生じることなく、
(イ)水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供すること
であるが、このうち(ア)の課題は、本件発明がパラフィン系炭化水素を含有するものでなく、農薬活性成分や成分(2)?成分(4)である界面活性剤が何かにかかわらず解決しているといえるので、(イ)の水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供するという課題が解決できるものかについて以下に検討する。

ア 農薬活性成分について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、水面での拡散や水中での分散が大きく改善され、水田土壌上の滴下跡を著しく抑制される水性懸濁状農薬組成物に含有するすることができる(1)成分の農薬活性成分として、常温で固体の17種類のスルホニルウレア系化合物が具体的に記載されている(摘記(c))。
そして、実施例として、(1)成分としてピラゾスルフロンエチル、ハロスルフロンメチルを用い、(2)成分として、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7ジオールを用い、(3)成分としてポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテルリン酸エステルを用い、(4)成分としてメチルナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いた水性懸濁状農薬組成物の具体例が記載され、水面や水中で広がり、ビーカー底部に沈殿物が少ないという効果が記載され、このような農薬活性成分であれば、本件発明の課題が解決できることが当業者に理解できるといえる。

これに関し、特許権者が提出した乙第9号証には、「懸濁製剤」の「技術内容」として、「懸濁液の分散は、粒子間のファンデルワールス斥力と静電的斥力のバランスで決定されており、分散粒子に荷電をもたせ粒子間に静電斥力を与えるためにアニオン性界面活性剤が分散剤として使用されることが多い。この場合、分散粒子に吸着したアニオン性分散剤は分散粒子に負の電荷を与え、負電荷間の斥力により分散は安定する。」ことが記載され、「また立体障害分散安定化によっても分散安定性が与えられ、粒子表面にポリビニルピロリドン、メトキシポリエチレンオキシドメタクリレートなどのような溶媒によく溶け、粒子を吸着しやすいポリマーや分子量の大きい非イオン性界面活性剤が分散粒子に吸着すると形成された厚い吸着層により粒子間に立体障害斥力が与えられ、分散が安定化する。」ことが記載されている。
また、このことは、特許異議申立人 東海裕作が提出した甲第7号証(これは、特許異議申立人 小西富雅が提出した甲第2’号証と同じである。)にも、「10.フロアブル製剤」の「(1)組成」における「2)分散剤」の項目において、「分散剤の選択はフロアブル製剤の開発において最も重要である。・・・
分散安定性の機構としては二つの異なる機構が考えられている。一つは静電的斥力による安定化であり、一般にアニオン性界面活性剤がこの目的のために広く使用されている。分散粒子に吸着したアニオン性分散剤は分散粒子に負の電荷を与え、負電荷同氏の斥力により分散は安定化する。
もう一つの機構は”立体障害分散安定化”(・・・)による分散安定化である^(12))。粒子表面にポリマーが吸着すると厚い吸着層が形成される。この吸着層は粒子間に立体障害斥力を与え分散を安定化する。立体障害斥力は吸着層の厚さが厚いほど大きくなるのでこの目的のためにはポリマーや分子量の大きな非イオン性界面活性剤が使用される。」ことが記載されていることからも裏付けられる。

これらの記載からすると、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤を用いることにより、水中に粒子を安定的に分散させることができることは技術常識であるといえ、農薬活性成分が固体の粒子であれば、農薬原体の化学構造の相違によらず、同様に水中への安定な分散ができると当業者が理解できるといえる。そして、本件発明は、水性懸濁状農薬組成物であることからすれば、本件発明1における(1)で具体的に記載された常温で固体のスルホニルウレア系化合物の除草剤である農薬活性成分が水中で分散していることは明らかであって、そして、アニオン性界面活性剤である成分(3)及び(4)を含有し、非イオン性界面活性剤である成分(2)を含有しているから、当業者であれば、本件発明1の(1)で具体的に記載されたスルホニルウレア系化合物の農薬活性成分の種類にかかわらず、常温で固体の粒子であれば、水中で分散する水中に安定的に分散させることができると解することができ、具体的な農薬活性成分についての実施例がないとしても、本件特許明細書に記載された実施例1及び2と同程度の効果を奏し、課題を解決することができると理解できる。

このことは、特許権者が平成28年3月25日付け意見書に添付した乙第4号証の実験成績証明書を提出し、(1)成分としてメタゾスルフロン、ベンスルフロンメチルを用いた実験例1及び2にて、固体粒子を水中に安定的に分散させる効果が記載されていることからも裏付けられる。

そうすると、本件発明のうちの農薬活性成分について、本件特許明細書の実施例に、本件発明の課題を解決できたことが具体的に記載され、そして、本件特許の出願時の技術常識に照らせば、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できるということができるので、本件特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

イ 成分(2)?成分(4)である界面活性剤について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の成分(2)?成分(4)を含有する水性懸濁状農薬組成物とすることで、水面での拡散や水中での分散が大きく改善され、水田土壌上の滴下跡を著しく抑制されることが記載され(摘記(b))、実施例においては、成分(2)として、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7ジオールを用い、成分(3)として、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステルを用い、成分(4)として、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いた水性懸濁状農薬組成物の具体例が記載され、水面や水中で広がり、ビーカー底部に沈殿物が少ないという効果が記載されている。

そして、発明の詳細な説明には、本件発明の成分(2)?成分(4)として用いることができる具体的な化合物名が例示されている(摘記(d))が、これらの化合物について、実施例で用いられた化合物と対比してみると、成分(2)については、実施例で用いた2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7ジオールと同じ、疎水基として炭素間の三重結合を有し、親水基としてジオール基を有する化合物であり、成分(3)については、実施例で用いたポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステルと同様に、疎水基としてポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル基を有し、親水基として燐酸エステルに代えて硫酸エステル基を有する化合物であり、成分(4)については、実施例で用いたメチルナフタレンスルホン酸ナトリウムと同様に、疎水基としてベンゼン又はナフタレンという芳香族基を有し、親水基としてスルホン酸基を有する化合物であるから、極めて化合物の構造が類似しており、界面活性剤として実施例で使用されたものと同等の効果を奏するものと当業者であれば理解することができる。一方、これに反する証拠は何も示されていない。

そうすると、本件発明のうちの界面活性剤について、本件特許明細書の実施例に、本件発明の課題を解決できたことが具体的に記載され、そして、技術常識に照らせば、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できるということができるので、本件特許請求の範囲の記載が発明の詳細な説明に記載したものでないとはいえない。

(6)特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人 小西富雅は、乙第9号証には、物質の融点と溶解度が一定の範囲に存在するならば、農薬原体の化学構造に依存することはなく、フロアブル製剤が調整できるということは記載されておらず、また、このような技術常識も存在しない旨を主張する。(平成28年12月8日付け意見書第5頁第11行?第8頁第11行)
また、特許異議申立人 東海裕作は、乙第9号証には、固体粒子を水中に安定的に分散させるには、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤とを用いることが記載されているところ、固体粒子である農薬原体における界面活性剤の吸着のし易さは、農薬粒子表面の親水性、疎水性の物性に基づくものであり、表面の親水性、疎水性の物性は、農薬粒子の化学構造によるものであるから、農薬原体の化学構造の相違が本件発明に影響を与える旨を主張する。(平成28年12月8日付意見書第1頁下から4行?第3頁第3行)

イ 特許異議申立人 小西富雅は、 甲第7’号証の実験成績証明書を挙げて、乙第4号証の実験成績証明書において、成分(1)としてベンスルフロンメチルが用いられた実験例2の再試験(確認実験例1)と、この確認実験例1に対して成分(3)を配合しなかった確認比較例1、成分(4)を配合しなかった確認比較例2の試験結果が、すべて白濁し、ビーカー底部の沈降物が少ないという評価が「〇」であることを示しており、発明が解決しようとする課題自体が存在しないので、本件発明は、発明の詳細な説明に記載されたものとはいえない旨を主張する。(平成28年6月13日付け意見書第6頁第1行?第6頁第18行)

ウ 特許異議申立人 東海裕作は、平成28年6月14日付け意見書と共に提出した参考資料1の実験成績報告書において、現在市販されているスルホニルウレア系化合物の水性懸濁状農薬組成物の試験結果がすべて「△」であることが示されたことからすると、本件特許明細書の比較例1及び2の評価(「×」:白濁せず、拡がらず。ビーカー底部に沈降物が多い。)は疑わしいから、本件発明の具体例である実施例が比較例に比べて優れているのは疑わしい旨を主張する。(平成28年6月14日付意見書第6頁第6行?第7頁14行)

(7)特許異議申立人の主張の検討
ア 主張アについて
特許異議申立人 小西富雅及び特許異議申立人 東海裕作の主張は、いずれも農薬原体の化学構造が異なれば、実施例と同等の効果を奏さないという主張であるといえるから、併せて検討する。
乙第9号証の記載からすると、アニオン性界面活性剤と非イオン性界面活性剤を用いることにより、水中に粒子を安定的に分散させることができることは技術常識であるといえ、当業者であれば、本件発明1の(1)で具体的に記載されたスルホニルウレア系化合物の農薬活性成分の種類にかかわらず、水中に安定的に分散させることができると解することができ、具体的な実施例がない場合であっても、本件特許明細書に記載された実施例1及び2と同程度の効果を奏し、課題を解決することができることを理解できることは、上記「(5)ア」で述べたとおりである。
一方、いずれの特許異議申立人も、この点について反証を挙げているわけでもない。
よって、これらの主張は採用できない。

イ 主張イについて
発明が解決しようとする課題は、発明の詳細な説明に特許権者が認識する任意の先行技術における課題が記載され、特許を受けようとする発明によって、その課題が解決できることが記載されていればよいのであって、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記(4)で述べたように、パラフィン系炭化水素を含有した水性懸濁状除草剤組成物を先行技術として、パラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着することによる薬害を生じることなく、水面での拡散や水中での分散が改善された水性懸濁状除草剤組成物を提供するとの課題が、上記(5)で述べたように、本件発明によって解決できることが記載されているといえる。

一方、特許異議申立人 小西富雅が提出した甲第7’号証に記載された確認比較例1及び2は、本件特許の出願後に提出されたものであって、本件特許の先行技術ではない。また、確認比較例1及び2で示された内容が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されたものでもない。
したがって、特許異議申立人 小西富雅の主張は、本件発明の課題の認定において誤りがあり、採用することはできない。

また、特許異議申立人 小西富雅が提出した甲第7’号証は、上記「2(5)」で述べたように、その記載内容が正しいものと直ちに認めることはできないが、念のためこの証拠を採用してサポート要件を検討する。
甲第7’号証で記載された成分(2)及び(4)を含有する確認比較例1、及び成分(2)及び(3)を含有する確認比較例2において、本件発明の課題を解決できたこと示されているが、このことが、本件発明において、成分(2)?(4)の3種類全てを併用することで、本件発明の課題を解決できたことを否定するものではないから、甲第7’号証を参酌しても、本件発明がサポート要件を満たさないとすることはできない。

ウ 主張ウについて
特許異議申立人 東海裕作が提出した参考資料1の実験成績報告書に記載された市販のスルホニルウレア系化合物の水性懸濁状農薬組成物は、界面活性剤の成分が明らかでなく、参考資料1の試験例1?6が、本件特許明細書の比較例1及び2に相当するとはいえないから、参考資料1の実験成績報告書の結果から、本件特許明細書の比較例1及び2の評価が「△」であるとはいえない。そして、本件特許明細書に記載をみれば、本件発明の具体例である実施例が比較例に比べて優れていることは明らかであるといえ、この主張は採用できない。

(8)まとめ
したがって、本件発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるから、第36条第6項第1号に適合しないとはいえず、特許法第36条第6項の規定を満たさないとはいえない。

4 特許異議申立人 東海裕作が申し立てた取消理由3(実施可能要件)について
(1)特許法第36条第4項第1号について
特許法第36条第4項は、「前項第三号の発明の詳細な説明の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、その第1号において、「経済産業省令で定めるところにより、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、明確かつ十分に記載したものであること。」と規定している。
特許法第36条第4項第1号は、発明の詳細な説明のいわゆる実施可能要件を規定したものであって、物の発明では、その物を作り、かつ、その物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるか、そのような記載が無い場合には、明細書及び図面の記載及び出願時の技術常識に基づき、当業者が過度の試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要なく、その物を作り、その物を使用することができる程度にその発明が記載されていなければならないと解される。

(2)特許請求の範囲の記載について
上記「第3」に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載について
上記「3(3)」に記載した事項に加えて以下の事項が記載されている。

(h)「【0041】
・・・
本発明組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、水に前述の各成分を加え、攪拌機により混合して得られる。また、必要に応じて、農薬活性成分、界面活性剤およびその他補助剤は、それぞれ単独もしくは混合して乾式および湿式粉砕機により微粉砕してもよい。
【0042】
乾式粉砕は、衝撃式粉砕機、ボールミル、ジェットミル等で行うことができる。湿式粉砕による微粉砕は、アトライター、サンドグラインダー、ダイノミル、パールミル、アベックスミル、ビスコミルおよびウルトラビスコミル等の湿式粉砕機により行うことができる。」

(4)判断
本件特許明細書の段落【0012】、【0019】?【0022】、【0037】には、本件発明である水性懸濁状農薬組成物に配合する(1)成分?(5)成分の具体的な化合物、その配合割合が記載されており(摘記(c)?(e))、段落【0041】?【0042】には、一般的な水性懸濁状農薬組成物の製造方法が記載され(摘記(h))、段落【0045】?【0050】には、実施例1及び2として、水性懸濁状農薬組成物の具体的な製造方法が記載され(摘記(f))、段落【0057】?【0058】には、実施例1及び2の水面や水中での広がりの評価が優れる試験例が記載されており(摘記(g))、同じ水を媒体とする水田であっても所定の効果を奏するといえるから、本件発明の水性懸濁状農薬組成物を作ること、使用することができることが記載されているといえる。
以上のことからみて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載が記載がされていると認められる。

(5)特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、本件特許明細書には、実施例1において成分(2)を含有しない比較例がないこと、実施例2には、比較例がないことから、本件特許明細書に記載された実施例は優れた効果を奏するとはいえないから、本件発明の効果が確認できないと主張する。また、本件特許明細書の実施例では、1Lビーカーという小さいスケールで評価を行っており、広い水田における評価に結びつくか疑問であることから、本件明細書の発明の詳細な説明には、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない旨を主張する。
(特許異議申立書第21頁第26行?第22頁第20行)

(6)特許異議申立人の主張の検討について
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明の水性懸濁状農薬組成物を作り、かつその物を使用する具体的な記載が発明の詳細な説明にあるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、当業者が本件発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分な記載が記載がされていると認められることは、上記(4)で述べたとおりであり、実施例に対する比較例がないことは実施可能要件を満たさないことと関係のないことである。また上記「1(5)イ」で述べたように、本願特許明細書の実施例において記載がされている1Lビーカーで本件特許が優れた効果を奏することを確認できていれば、同じ水を媒体とする水田であっても、所定の効果を奏するといえることは明らかであるといえる。
よって、これらの主張は採用できない。

(7)まとめ
したがって、本件特許は、明細書の記載が、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとはいえない。

第7 むすび
したがって、特許異議申立人が申し立てた理由及び当審が通知した取消理由によっては、本件発明1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
水面拡散性および水中分散性が向上する水性懸濁状農薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
水中に投入した際の水中分散性が向上する水性懸濁状農薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水田における除草剤の散布では、一般に粒剤による散布が主流であった。しかしながら、粒剤は、例えば10アールあたり1-3キログラム程度の散布量が必要で、また、面積の広い水田においては、水田内を移動して均等に散布する必要があるなど労力面での負担が大きく、農薬の少量散布についての要望が高まってきている。
そこで、散布時の省力化と効率化を図る目的で水性懸濁状農薬組成物が開発されている。畑地等で使われる水性懸濁状農薬組成物とは異なり、水田における散布で用いられる、この剤型は製剤を希釈することなく、容器から直接水田に滴下散布するため、水面での拡散や水中での分散が除草効果を安定させるために非常に重要である。
このため、水面での拡散や水中での分散について、これまでもパラフィン系炭化水素を含有することにより比重を調整した水性懸濁状除草剤組成物を、水田に散布し速やかに水面上で拡散させることにより、薬効を水田全面で発現させる方法が提供されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、かかる水性懸濁状除草剤組成物は、パラフィン系炭化水素とともに農薬活性成分が稲株に付着し、薬害を生ずることがあり、より安全な方法で、水面での拡散や水中での分散が達成できる水性懸濁状除草剤組成物の提供が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-084179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題を解決するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意研究した結果、アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びにアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上を含む水性懸濁状農薬組成物において、水面での拡散や水中での分散を大きく改善され、水田土壌上の滴下跡を著しく抑制されることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記〔1〕ないし〔3〕記載の水性懸濁状農薬組成物(以下、本発明組成物と称する。)に関するものである。
【0008】
〔1〕 (1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)および3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物。
【0009】
〔2〕 スルホニルウレア系化合物が、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)および3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である上記〔1〕記載の水性懸濁状農薬組成物。
【0010】
〔3〕 スルホニルウレア系化合物が、ピラゾスルフロンエチル、ハロスルフロンメチルまたはメタゾスルフロンである上記〔2〕記載の水性懸濁状農薬組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明組成物は、水田に滴下散布した際に、水面での拡散、水中での分散に優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の水性懸濁状農薬組成物に含有される農薬活性成分は、アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)および3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物である除草剤である。
【0013】 (削除)
【0014】 (削除)
【0015】 (削除)
【0016】 (削除)
【0017】 (削除)
【0018】 (削除)
【0019】
発明の水性懸濁状農薬組成物における農薬活性成分の含有量は、本発明組成物100重量に対して、通常0.001?50重量部、より好ましくは0.001?10重量部、さらに好ましくは0.001?5重量部、さらに好ましくは0.001?3重量部である。
本発明の水性懸濁状農薬組成物は異なる2種以上の農薬活性成分を含有することも可能であり、混合する場合の比も自由に選択でき、この場合には一層優れた効果を示すことがある。
【0020】
本発明に使用するポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩としては、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの燐酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル硫酸エステル、並びにそれらのアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)塩、アンモニウム塩および各種アミン(例えば、アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびアルカノールアミン)塩等が挙げられる。本発明組成物中のポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩の総含有量は適宜選択でき、本発明組成物100重量部に対して通常0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?2重量部、さらに好ましくは0.01?1重量部である。
【0021】
本発明に使用するアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩としては、アルキル(例えばC_(8?12))ベンゼンスルホン酸、アルキル(例えばC_(8?12))ベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、クレゾールスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(1?6))ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(1?6))ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、並びにそれらのアルカリ金属(例えば、リチウム、ナトリウムおよびカリウム)塩、アルカリ土類金属(例えば、カルシウムおよびマグネシウム)塩、アンモニウム塩および各種アミン(例えば、アルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびアルカノールアミン)塩等が挙げられる。本発明組成物中のアルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩の総含有量は適宜選択でき、本発明組成物100重量部に対して通常0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?2重量部、さらに好ましくは0.01?1重量部である。
【0022】
本発明に使用するアセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物としては2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールおよび、そのポリオキシアルキレン付加物が挙げられる。アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物の総含有量は適宜選択でき、本発明組成物100重量部に対して通常0.01?5重量部であり、より好ましくは0.01?2重量部、さらに好ましくは0.01?1重量部である。
本発明組成物では、必要に応じてポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩、並びにアセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物以外の界面活性剤を加えることも可能である。それらの界面活性剤としては、以下の(A)、(B)、(C)、(D)および(E)が挙げられる。
本発明で用いられる界面活性剤としては、以下の(A)、(B)、(C)、(D)および(E)が挙げられる。
【0023】
(A)ノニオン性界面活性剤:
(A-1)ポリエチレングリコール型界面活性剤:例えば、ポリオキシエチレンアルキル(例えばC_(8?18))エーテル、アルキルナフトールのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテルのホルマリン縮合物、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)フェニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)ベンジルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)ベンジルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマー、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、アルキル(例えばC_(8?18))ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテル、アルキル(例えばC_(8?12))フェニルポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーエーテル、ポリオキシエチレンビスフェニルエーテル、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸(例えばC_(8?18))モノエステル、ポリオキシエチレン脂肪酸(例えばC_(8?18))ジエステル、ポリオキシエチレンソルビタン(モノ、ジまたはトリ)脂肪酸(例えばC_(8?18))エステル、グリセロール脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物、ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、硬化ヒマシ油エチレンオキサイド付加物、アルキル(例えばC_(8?18))アミンエチレンオキサイド付加物および脂肪酸(例えばC_(8?18))アミドエチレンオキサイド付加物等。
【0024】
(A-2)多価アルコール型界面活性剤:例えば、グリセロール脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸(例えばC_(8?18))エステル、ソルビタン(モノ、ジまたはトリ)脂肪酸(例えばC_(8?18))エステル、ショ糖脂肪酸エステル、多価アルコールアルキルエーテル、アルキルグリコシド、アルキルポリグリコシドおよび脂肪酸アルカノールアミド等。
【0025】
(A-3)アセチレン系界面活性剤:例えば、アセチレンアルコール、およびアセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物等。
【0026】
(B)アニオン性界面活性剤:
(B-1)カルボン酸型界面活性剤:例えば、ポリアクリル酸、ポリメタアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリ無水マレイン酸、マレイン酸または無水マレイン酸とオレフィン(例えばイソブチレンおよびジイソブチレン等)との共重合物、アクリル酸とイタコン酸の共重合物、メタアクリル酸とイタコン酸の共重合物、マレイン酸または無水マレイン酸とスチレンの共重合物、アクリル酸とメタアクリル酸の共重合物、アクリル酸とアクリル酸メチルエステルとの共重合物、アクリル酸と酢酸ビニルとの共重合物、アクリル酸とマレイン酸または無水マレイン酸の共重合物、ポリオキシエチレンアルキル(例えばC_(8?18))エーテル酢酸、N-メチル-脂肪酸(例えばC_(8?18))サルコシネート、樹脂酸および脂肪酸(例えばC_(8?18))等のカルボン酸、並びにそれらカルボン酸の塩。
【0027】
(B-2)硫酸エステル型界面活性剤:例えば、アルキル(例えばC_(8?18))硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(例えばC_(8?18))エーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)フェニルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)ベンジルフェニルエーテル硫酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)スチリルフェニルエーテルのポリマーの硫酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの硫酸エステル、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル、硫酸化脂肪酸および硫酸化オレフィン等の硫酸エステル、並びにそれら硫酸エステルの塩。
【0028】
(B-3)スルホン酸型界面活性剤:例えば、パラフィン(例えばC_(8?22))スルホン酸、α-オレフィン(例えばC_(8?16))スルホン酸、ジアルキル(例えばC_(8?12))スルホコハク酸、リグニンスルホン酸、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテルスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキル(例えばC_(8?18))エーテルスルホコハク酸ハーフエステル、クレオソート油スルホン酸のホルマリン縮合物、アルキル(例えばC_(8?12))ジフェニルエーテルジスルホン酸、イゲポンT(商品名)、ポリスチレンスルホン酸およびスチレンスルホン酸とメタアクリル酸の共重合物等のスルホン酸、並びにそれらスルホン酸の塩。
【0029】
(B-4)燐酸エステル型界面活性剤:例えば、アルキル(例えばC_(8?12))燐酸エステル、ポリオキシエチレンアルキル(例えばC_(8?18))エーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノまたはジ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)アルキル(例えばC_(8?12))フェニルエーテルのポリマーの燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)フェニルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレン(モノ、ジまたはトリ)ベンジルフェニルエーテル燐酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマーの燐酸エステル、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールイミンおよび縮合燐酸(例えばトリポリリン酸等)等の燐酸エステル、並びにそれら燐酸エステルの塩。
【0030】
上記の(B-1)?(B-4)における塩の対イオンとしては、アルカリ金属(リチウム、ナトリウムおよびカリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウムおよびマグネシウム等)、アンモニウムおよび各種アミン(例えばアルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびアルカノールアミン等)等が挙げられる。
【0031】
(C)カチオン性界面活性剤:
例えば、アルキルアミン、アルキル4級アンモニウム塩、アルキルアミンのエチレンオキサイド付加物およびアルキル4級アンモニウム塩のエチレンオキサイド付加物等。
【0032】
(D)両性界面活性剤:
(D-1)ベタイン型界面活性剤:例えば、アルキル(例えばC_(8?18))ジメチルアミノ酢酸ベタイン、アシル(例えばC_(8?18))アミノプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキル(例えばC_(8?18))ヒドロキシスルホベタインおよび2-アルキル(例えばC_(8?18))-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタインが挙げられる
(D-2)アミノ酸型界面活性剤:例えば、アルキル(例えばC_(8?18))アミノプロピオン酸、アルキル(例えばC_(8?18))アミノジプロピオン酸およびN-アシル(例えばC_(8?18))-N‘-カルボキシエチル-N‘-ヒドロキシエチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0033】
(D-3)アミンオキシド型界面活性剤:例えば、アルキル(例えばC_(8?18))ジメチルアミンオキシドおよびアシル(例えばC_(8?18))アミノプロピルジメチルアミンオキシド等が挙げられる。
【0034】
(E)その他の界面活性剤:
(E-1)シリコン系界面活性剤:例えば、ポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体、ポリオキシプロピレン・メチルポリシロキサン共重合体およびポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)・メチルポリシロキサン共重合体等が挙げられる。
(E-2)フッ素系界面活性剤:例えば、パーフルオロアルケニルベンゼンスルホン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、パーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルケニルポリオキシエチレンエーテル、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエーテルおよびパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0035】
上記界面活性剤は、単独でまたは2種以上混合して使用することができ、混合する場合の比も自由に選択できる。本発明組成物中の該界面活性剤の総含有量は適宜選択できるが、本発明組成物100重量部に対して0.1?20重量部の範囲が好ましい。
【0036】
本発明組成物には、更に各種補助剤を含有させることができる。使用できる補助剤としては、増粘剤、有機溶剤、pHコントロール剤、凍結防止剤、消泡剤、防菌防黴剤、着色剤および塩があり、下記のものが挙げられる。
【0037】
増粘剤としては、特に制限はなく、有機、無機の天然物、合成品および半合成品を用いることができ、例えば、ザンサンガム(キサンタンガム)、ウェランガムおよびラムザンガム等のヘテロ多糖類、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムおよびポリアクリルアミド等の水溶性高分子化合物、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース等のセルロース誘導体、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、ベントナイト、ラポナイトおよび合成スメクタイト等のスメクタイト系粘土鉱物等を例示することができる。これらの増粘剤は一種または二種以上混合してもよく、混合する場合の比も自由に選択できる。これらの増粘剤はそのまま添加してもよく、またあらかじめ水に分散させたものを添加しても良い。また、本発明組成物中の含有量も自由に選択することができる。
【0038】
有機溶剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールおよびイソプロパノール等のアルコール類、ブチルセロソルブ等のエーテル類、シクロヘキサノン等のケトン類、γ-ブチロラクトン等のエステル類、N-メチルピロリドンおよびN-オクチルピロリドン等の酸アミド類、等の極性溶剤、キシレン、アルキル(C_(9)またはC_(10)等)ベンゼン、フェニルキシリルエタンおよびアルキル(C_(1)またはC_(3)等)ナフタレン等の芳香族炭化水素類、マシン油、ノルマルパラフィン、イソパラフィンおよびナフテン等の脂肪族炭化水素類、ケロシン等の芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素の混合物、大豆油、アマニ油、ナタネ油、ヤシ油、綿実油およびヒマシ油等の油脂、等の非極性溶剤が挙げられる。
pHコントロール剤としては、例えば塩酸、硫酸、リン酸、スルホン酸およびカルボン酸等各種の無機酸や有機酸、並びにその塩やエステル等を用いることができる。有機酸として具体的には、酸性リン酸エステル、クエン酸、マレイン酸、ソルビン酸、乳酸および酒石酸等が例示される。また、リン酸水素2ナトリウム-クエン酸水溶液、酢酸ナトリウム-塩酸水溶液、ギ酸-ギ酸ナトリウム水溶液、乳酸-乳酸ナトリウム水溶液、酒石酸-酒石酸ナトリウム水溶液およびクエン酸ナトリウム-塩酸水溶液等の各種の緩衝液を所定量添加してpHをコントロールすることもできる。
【0039】
凍結防止剤としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコールおよびプロピレングリコール、グリセリン等を用いることができる。好ましくはプロピレングリコール、グリセリンである。また、本発明組成物中の含有量も自由に選択することができる。
【0040】
更にシリコーン系エマルジョン等の消泡剤、防菌防黴剤および着色剤等を配合してもよい。
【0041】
塩としては、特に限定されないが、例えば塩酸、硫酸、リン酸、炭酸、スルホン酸およびカルボン酸等各種の無機酸や有機酸の、アルカリ金属塩(リチウム、ナトリウムおよびカリウム等)、アルカリ土類金属塩(カルシウムおよびマグネシウム等)、アンモニウムおよび各種アミン塩(例えばアルキルアミン、シクロアルキルアミンおよびアルカノールアミン等)等が挙げられる。好ましい塩は塩酸、硫酸、リン酸の塩である。塩の添加量は、塩の水溶解度以下であることが望ましいが、本発明組成物100重量部に対して通常0.1?30重量部、好ましくは1?20重量部、より好ましくは3?20重量部である。
本発明組成物の製造方法は、特に限定されるものではないが、水に前述の各成分を加え、攪拌機により混合して得られる。また、必要に応じて、農薬活性成分、界面活性剤およびその他補助剤は、それぞれ単独もしくは混合して乾式および湿式粉砕機により微粉砕してもよい。
【0042】
乾式粉砕は、衝撃式粉砕機、ボールミル、ジェットミル等で行うことができる。湿式粉砕による微粉砕は、アトライター、サンドグラインダー、ダイノミル、パールミル、アペックスミル、ビスコミルおよびウルトラビスコミル等の湿式粉砕機により行うことができる。
【実施例】
【0043】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において「部」は重量部を意味する。
【0044】
なお、以下の実施例、比較例、参考例において、用いた除草活性成分以外の除草活性成分の1種以上を更に含有させることができる。そのような除草活性成分としては、特に限定されるものではないが、従来水田用の農薬として使用されているものとして、メフェナセット、オキサジクロメフォン、ベンゾビシクロン、カフェンストロール、シハロホップブチルおよびダイムロンが適している。
【0045】
〔実施例1〕
1.粉砕スラリーの調整
水37.63部にソプロフォール3D33(商品名、ローディア社製、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステル)0.25部、スープラジルMNS/90(商品名、ローディア社製、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム ホルマリン縮合物)0.25部、サーフィノール104PG50(商品名、エアプロダクツ社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの50%プロピレングリコール液)0.25部、無水クエン酸1.0部、プロピレングリコール10.0部、シリコーン系消泡剤0.2部を溶解させ、これにピラゾスルフロンエチル 0.42部を分散させ0.8-1.2mmφガラスビーズを用いてサンドグラインダー(アイメックス(株)製)で湿式粉砕し、粉砕スラリー50部を得た。
【0046】
2.分散媒の調製
水49.3部にケルザンASX(商品名、ケルコ社製、キサンタンガム)0.2部、プロクセルGXL(S)(商品名、アビシア(株)製、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)0.1部、ビーガムK(商品名、バンダービルト社製、ケイ酸アルミニウムマグネシウム)0.4部の順に分散させ分散媒50部を得た。
【0047】
3.水性懸濁農薬組成物の調製
上記粉砕スラリー50部と分散媒50部を混合して均一な水性懸濁状農薬組成物100部を得た。
【0048】
〔実施例2〕
1.粉砕スラリーの調整
水35.1部にソプロフォール3D33(商品名、ローディア社製、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステル)1.0部、スープラジルMNS/90(商品名、ローディア社製、メチルナフタレンスルホン酸ナトリウム ホルマリン縮合物)1.0部、サーフィノール104E(商品名、エアプロダクツ社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの50%エチレングリコール液)0.25部、エパン450(商品名、第一工業製薬(株)製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー)0.25部、無水クエン酸1.0部、エチレングリコール10.0部、シリコーン系消泡剤0.2部を溶解させ、これにハロスルフロンメチル 1.2部を分散させ0.8-1.2mmφガラスビーズを用いてサンドグラインダー(アイメックス(株)製)で湿式粉砕し、粉砕スラリー50部を得た。
【0049】
2.分散媒の調製
水49.68部にプロクセルGXL(S)(商品名、アビシア(株)製、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)0.16部、K1A96(商品名、ケルコ社製、ウェランガム)0.02部、ケルザンASX(商品名、ケルコ社製、キサンタンガム)0.14部、の順に分散させ分散媒50部を得た。
【0050】
3.水性懸濁農薬組成物の調製
上記粉砕スラリー50部と分散媒50部を混合して均一な水性懸濁状農薬組成物100部を得た。
【0051】
〔比較例1〕
ソプロフォール3D33を水に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法にて製造し、水性懸濁状農薬組成物を得た。
【0052】
〔比較例2〕
スープラジルMNS/90を水に置き換えた以外は、実施例1と同様の方法にて製造し、水性懸濁状農薬組成物を得た。
【0053】
〔参考例1〕
1.粉砕スラリーの調整
水51.87部にソプロフォール3D33(商品名、ローディア社製、ポリオキシエチレントリスチリルフェニルエーテル燐酸エステル)2.00部、サーフィノール104E(商品名、エアプロダクツ社製、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールの50%エチレングリコール液)0.05部、エパン750(商品名、第一工業製薬(株)製、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー)0.50部、無水クエン酸0.90部、エチレングリコール5.00部、シリコーン系消泡剤0.20部を溶解させ、これにハロスルフロンメチル 1.20部を分散させ0.8-1.2mmφガラスビーズを用いてサンドグラインダー(アイメックス(株)製)で湿式粉砕し、粉砕スラリー61.72部を得た。
【0054】
2.分散媒の調製
水5.00部にK1A96(商品名、ケルコ社製、ウェランガム)0.04部、プロクセルGXL(S)(商品名、アビシア(株)製、1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オン)0.04部の順に分散させ分散媒5.08部を得た。
【0055】
3.ジメタメトリン溶液の調整
ジメタメトリン 1.20部をビニサイザー20(商品名、花王(株)製、ジイソトリデシルフタレート)20.00部、エキセパールM-OL(商品名、花王(株)製、オレイン酸メチル)12.00部の混合液に溶解させた。
【0056】
4.水性懸濁農薬組成物の調製
上記粉砕スラリー61.72部と分散媒5.08部を混合、攪拌した後にジメタメトリン溶液33.20部を添加、混合して均一な水性懸濁状農薬組成物100部を得た。
【0057】
〔試験例〕
実施例1、2および比較例1、2で得られた組成物の水中分散性を以下の方法で評価した。1Lビーカー10度硬水を1Lを入れて25度の恒温室に静置した。マイクロピペットで水性懸濁状組成物200μLをビーカーの縁の高さより、静かに滴下し、水面や水中での広がりを目視で観察し、評価した。結果を表1に示す。
【0058】
○:白濁し、ビーカー底部の沈降物が少ない。
△:白濁するが、ビーカー底部に沈降物がある。
×:白濁せず、拡がらず。ビーカー底部に沈降物が多い。
【0059】

【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明組成物は雑草の防除に使用できる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)アジムスルフロン(azimsulfuron)、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、シクロスルファムロン(cyclosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ニコスルフロン(nicosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)、リムスルフロン(rimsulfuron)および3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる常温で固体のスルホニルウレア系化合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上の除草剤である農薬活性成分、(2)アセチレングリコールおよびそのポリオキシアルキレン付加物から選ばれる1種以上、(3)ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテルリン酸エステル、ポリオキシアルキレンスチリルフェニルエーテル硫酸エステルおよびそれらの塩から選ばれる1種以上、(4)アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸のホルマリン縮合物、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物およびそれらの塩から選ばれる1種以上、並びに(5)増粘剤を含有する、水田直接滴下散布用の水性懸濁状農薬組成物。
【請求項2】
スルホニルウレア系化合物が、イマゾスルフロン(imazosulfuron)、エトキシスルフロン(ethoxysulfuron)、オルトスルファムロン(orthosulfamuron)、スルフォスルフロン(sulfosulfuron)、ハロスルフロン-メチル(halosulfuron-methyl)、ピラゾスルフロン-エチル(pyrazosulfuron-ethyl)、フォラムスルフロン(foramsulfron)、フラザスルフロン(flazasulfuron)、フルセトスルフロン(flucetosulfuron)、フルピルスルフロン-メチル(flupyrsulfuron)、ベンスルフロン-メチル(bensulfuron-methyl)、メソスルフロン-メチル(mesosulfron-methyl)および3-クロロ-N-(4,6-ジメトキシピリミジン-2-イルカルバモイル)-1-メチル-4-(5-メチル-5,6-ジヒドロ-1,4,2-ジオキサジン-3-イル)-1H-ピラゾール-5-スルホンアミドから選ばれる1種以上である請求項1記載の水性懸濁状農薬組成物。
【請求項3】
スルホニルウレア系化合物が、ピラゾスルフロンエチル、ハロスルフロンメチルまたはメタゾスルフロンである請求項2記載の水性懸濁状農薬組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-13 
出願番号 特願2009-283681(P2009-283681)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (A01N)
P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 536- YAA (A01N)
P 1 651・ 537- YAA (A01N)
最終処分 維持  
前審関与審査官 天野 皓己  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 佐藤 健史
木村 敏康
登録日 2015-03-06 
登録番号 特許第5704297号(P5704297)
権利者 日産化学工業株式会社
発明の名称 水面拡散性および水中分散性が向上する水性懸濁状農薬組成物  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  
代理人 特許業務法人英明国際特許事務所  

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