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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 B01D 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 B01D 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 B01D 審判 全部申し立て 2項進歩性 B01D |
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管理番号 | 1327865 |
異議申立番号 | 異議2015-700345 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2015-12-24 |
確定日 | 2017-03-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 特許第5738704号発明「二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5738704号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕、〔12-22〕について訂正することを認める。 特許第5738704号の請求項1、9ないし12、20ないし22に係る特許を維持する。 特許第5738704号の請求項2?8、13?19に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
1.手続の経緯 特許第5738704号の請求項1?22に係る特許についての出願は、平成27年5月1日付けで、その特許権の設定登録がされ、その後、特許異議申立人株式会社ルネッサンス・エナジー・リサーチ(以下、「申立人」という。)より請求項1?22に対して特許異議の申立てがされ、平成28年3月2日付けで取消理由が通知され、平成28年5月2日に特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年5月19日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成28年6月21日に申立人から意見書の提出がされ、平成28年9月1日付けで取消理由通知(決定の予告)がされ、平成28年11月4日に特許権者から意見書の提出及び訂正請求がされ、平成28年12月13日付けで訂正請求があった旨の通知がされ、平成29年1月13日に申立人から意見書が提出されたものである。 2.訂正の適否についての判断 (1)訂正の内容 本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?25のとおりである(なお、平成28年5月2日の訂正請求は、同年11月4日の訂正請求がなされたため、特許法第120条の5第7項の規定により、取り下げられたものとみなす。)。 ア.訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に「前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段」とあるのを、「前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段、及び前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段」と訂正する。 イ.訂正事項2 特許請求の範囲の請求項1に「・・を備える二酸化炭素分離装置。」とあるのを、「・・を備え、前記透過膜の厚さが50μm?190μmである二酸化炭素分離装置。」と訂正する。 ウ.訂正事項3 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1?8のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1に記載」と訂正する。 エ.訂正事項4 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1?9のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1又は9に記載」と訂正する。 オ.訂正事項5 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1?10のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項1、9又は10に記載」と訂正する。 カ.訂正事項6?12 特許請求範囲の請求項2?8を削除する訂正を行う。 キ.訂正事項13 願書に添付した明細書の段落【0078】を、「図4?図6に二酸化炭素分離性についての実験結果を表として示す。但し、実施例1?10、15、16、20?22は参考例である。表中の「温度」は、サンプル透過膜に供給されるテストガスの温度を示す。「供給側全圧」は、サンプル透過膜の供給面側に供給されるテストガスの圧力を示す。「供給側加湿」は、サンプル透過膜の供給面側に供給されるテストガスの相対湿度を示す。「透過側全圧」は、サンプル透過膜の透過面側に供給されるアルゴンガスの圧力を示す。「透過側加湿」は、サンプル透過膜の透過面側に供給されるアルゴンガスの相対湿度を示す。「乾燥厚み」は、二酸化炭素促進輸送膜の乾燥時の厚みを示し、サンプル透過膜の厚みから支持体の厚みを差し引いた厚さである。「二酸化炭素透過度」および「ガス選択性」は、その数値が高いほど二酸化炭素分離性が良好であることを示す。「結果評価」は、二酸化炭素透過度およびガス選択性の両者の総合で決められ、◎は優、○は良、△は可、×は不良であることを示す。なお、◎、○、△、×の結果評価は、表ごとにおいて相対的に決定したものである。」と訂正する。 ク.訂正事項14 特許請求の範囲の請求項12に「・・透過面側へ透過させる透過膜を用いて」とあるのを、「・・透過面側へ透過させる、厚さ50μm?190μmの透過膜を用いて」と訂正する。 ケ.訂正事項15 特許請求の範囲の請求項12に「・・、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ・・」とあるのを、「・・、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧され、さらに前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制し、かつ、前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ・・」と訂正する。 コ.訂正事項16 特許請求の範囲の請求項20に「請求項12?19のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項12に記載」と訂正する。 サ.訂正事項17 特許請求の範囲の請求項21に「請求項12?20のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項12又は20に記載」と訂正する。 シ.訂正事項18 特許請求の範囲の請求項22に「請求項12?21のいずれか1項に記載」とあるのを、「請求項12、20又は21に記載」と訂正する。 ス.訂正事項19?25 特許請求範囲の請求項13?19を削除する訂正を行う。 (2)訂正の目的の適否、新規事項の有無、実質上特許請求の範囲の拡張・変更の存否について ア.訂正事項1について 訂正事項1は、訂正前の請求項1の「水分維持手段」を、特定の「蒸発抑制手段」と、特定の「水分供給手段」と、を有する「水分維持手段」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、訂正事項1は、訂正前の請求項2?7、明細書の段落【0045】、【0079】、【0081】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 イ.訂正事項2について 訂正事項2は、訂正前の請求項1の「透過膜」を特定の「厚さ」の「透過膜」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、訂正事項2は、訂正前の請求項8、明細書の段落【0083】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 ウ.訂正事項3?5について 訂正事項3?5はいずれも、訂正前の請求項9?11が引用する請求項を減らすものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項3?5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 エ.訂正事項6?12について 訂正事項6?12は、訂正前の請求項2?8を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項6?12は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 オ.訂正事項13について 訂正事項13は、明細書の記載を、訂正事項1?12、14?25による特許請求の範囲の訂正の内容に整合するように訂正するものであって、明瞭でない記載の釈明を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項13は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 カ.訂正事項14について 訂正事項14は、訂正前の請求項12の「透過膜」を特定の「厚さ」の「透過膜」に限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、訂正事項14は、訂正前の請求項19、明細書の段落【0083】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項14は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 キ.訂正事項15について 訂正事項15は、訂正前の請求項12の「水分を維持」することを、特定の条件で「背圧を調整すること」と、特定の条件で「水分を供給すること」と、によって「水分を維持」することに限定するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とする。 そして、訂正事項15は、訂正前の請求項13?18、明細書の段落【0045】、【0079】、【0081】等の記載から導き出される事項であって新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項15は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 ク.訂正事項16?18について 訂正事項16?18はいずれも、訂正前の請求項20?22が引用する請求項を減らすものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項16?18は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 ケ.訂正事項19?25について 訂正事項19?25は、訂正前の請求項13?19を削除するものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とし、新規事項の追加に該当せず、実質上、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでない。 よって、訂正事項19?25は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号、及び、同条第9項で準用する第126条第5、6項に適合する。 (3)一群の請求項について 訂正前の請求項1?11は、請求項1の記載を他の請求項が引用して記載した関係にあるから一群の請求項であり、訂正事項1?12はこれら一群の請求項についての訂正である。訂正前の請求項12?22は、請求項12の記載を他の請求項が引用して記載した関係にあるから一群の請求項であり、訂正事項14?25はこれら一群の請求項についての訂正である。訂正事項13は、一群の請求項である請求項1?11、12?22の全てに係る明細書の記載の訂正である。 よって、本件訂正は、特許法第120条の5第4項及び同条第9項で準用する第126条第4項に適合する。 (4)平成29年1月13日付け意見書における申立人の主張について 申立人は、本件明細書に添付された図面の【図4】においては、原料ガスの温度が130?180℃である場合の実施例1?9(訂正後の参考例)が開示されているものの、これらの実施例は、透過側全圧が300kPa?1000kPaであっても、透過側の加湿は行われておらず、透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものとなっていないため、水分維持手段が、蒸発抑制手段と、水分供給手段とをともに有することを限定した訂正事項1、15の根拠を本件明細書から見出すことはできないことを主張している(同意見書第10?11頁「(4-2)補足」参照。)。 しかしながら、本件明細書に添付された図面の【図5】等を参照すると、透過側全圧が300kPa?1000kPaの条件を満たし、加湿されたスイープガスを供給して20%RH?90%RHの条件を満たす透過側加湿とする例(実施例11?14)等も開示されていることを考慮すると、本件明細書に添付された図面の【図4】には透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものが開示されていないとしても、透過側全圧が300kPa?1000kPaであり透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものも、本件明細書に記載された事項の範囲内のものといえるから、申立人の主張は採用できない。 (5)むすび したがって、上記訂正事項はいずれも、特許法第120条の5第2項、及び、同条第9項で準用する第126条第4?6項に適合するので、訂正後の明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1-11〕、〔12-22〕について訂正することを認める。 3.特許異議の申立てについて (1)本件特許発明 本件訂正請求により訂正された請求項に係る発明は、その特許請求の範囲の請求項1、9?12、20?22に記載された次の事項により特定されるとおりのものである(以下、「本件特許発明1、9?12、20?22」という。) 「【請求項1】 ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜と、 前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段、及び前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段と、 を備え、前記透過膜の厚さが50μm?190μmである二酸化炭素分離装置。 【請求項2】?【請求項8】削除 【請求項9】 前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有する請求項1に記載の二酸化炭素分離装置。 【請求項10】 前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有する請求項1又は9に記載の二酸化炭素分離装置。 【請求項11】 前記原料ガスには、水蒸気が含まれている請求項1、9又は10に記載の二酸化炭素分離装置。 【請求項12】 ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる、厚さ50μm?190μmの透過膜を用いて、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧され、さらに前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制し、かつ、前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法。 【請求項13】?【請求項19】削除 【請求項20】 前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有する請求項12に記載の二酸化炭素分離方法。 【請求項21】 前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有する請求項12又は20に記載の二酸化炭素分離方法。 【請求項22】 前記原料ガスには、水蒸気が含まれている請求項12、20又は21に記載の二酸化炭素分離方法。」 (2)特許異議申立の理由及び証拠 本件特許異議の申立ての理由及び証拠は次のとおりである。 [理由1]訂正前の請求項1、2、6、8?13、17、19?22に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?22に係る発明の特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。 [理由2]訂正前の請求項1?3、8?14、19?22に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲第2号証に記載された発明及び甲第1、3?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?22に係る発明の特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。 [理由3]訂正前の請求項1、4、5、7?12、15、16、18?22係る発明は、甲第3号証に記載された発明であって特許法第29条第1項第3号に該当し、また、訂正前の請求項1?22に係る発明は、甲第3号証に記載された発明及び甲第1?2、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、訂正前の請求項1?22に係る発明の特許は、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである。 [理由4]訂正前の請求項1?22に係る発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから、訂正前の請求項1?22に係る発明の特許は、特許法第113条第4項に該当し、取り消すべきものである。 [理由5]本件特許明細書の発明の詳細な説明には不備があり、訂正前の請求項1?22に係る発明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、訂正前の請求項1?22に係る発明の特許は、特許法第113条第4項に該当し、取り消すべきものである。 [証拠] 甲第1号証:特開2009-195900号公報 甲第2号証:SCEJ 42nd Autumn Meeting(Kyoto,2010)第1064頁 甲第3号証:Journal of Membrane Science 286(2006)第310-321頁 甲第4号証:化学便覧 基礎編 改訂5版 II-182 (3)甲第1?4号証の記載事項 ア.甲第1号証 (摘示1-1)「【請求項1】 所定の主成分ガスに少なくとも二酸化炭素と水蒸気が含まれる原料ガスをCO_(2)促進輸送膜の原料側面に100℃以上の供給温度で供給して、前記CO_(2)促進輸送膜を透過した二酸化炭素を透過側面から取り出す二酸化炭素分離装置であって、 前記CO_(2)促進輸送膜が、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に炭酸セシウム若しくは重炭酸セシウム若しくは水酸化セシウムからなる添加剤を添加したゲル層を親水性の多孔膜に担持させて形成されることを特徴とする二酸化炭素分離装置。」 (摘示1-2)「【0086】 図5に示すように、各サンプル10は、ステンレス製の流通式ガス透過セル11(膜面積:2.88cm^(2))の原料側室12と透過側室13の間に、2枚のフッ素ゴム製ガスケットをシール材として用いて固定されている。原料ガス(CO_(2)、H_(2)、H_(2)Oからなる混合ガス)FGを、2.24×10^(-2)mol/minの流量で原料側室12に供給し、スイープガス(Arガス)SGを、8.18×10^(-4)mol/minの流量で透過側室13に供給する。原料側室12の圧力は、排気ガスの排出路の途中の冷却トラップ14の下流側に設けられた背圧調整器15で調整される。透過側室13の圧力は大気圧である。透過側室13から排出するスイープガスSG’中の水蒸気を冷却トラップ16で除去した後のガス組成をガスクロマトグラフ17で定量し、これとスイープガスSG中のArの流量よりCO_(2)及びH_(2)のパーミアンス[mol/(m^(2)・s・kPa)]を計算し、その比より、CO_(2)/H_(2)選択性を算出する。なお、冷却トラップ16とガスクロマトグラフ17の間にも背圧調整器19が設けられており、これによって透過側室13の圧力が調整される。」 (摘示1-3)「【0119】 [本発明膜の第2実施形態] 本発明膜の第2実施形態(以下、適宜「本実施形態」と称する)につき、図14?図17の各図を参照して説明する。なお、本実施形態は、本発明膜の第1実施形態と比較して本発明膜及び本発明方法の一部構成が異なるのみであるため、同一の構成要素についてはその旨を記載して説明を割愛する。 ・・・ 【0121】 (実施例1) まず、PVA/PAA共重合体(例えば、住友精化製の仮称SSゲル)を1gに水20gを加えた後、室温で攪拌してゲルを溶解させる。次に、これにグルタルアルデヒドを0.008?0.0343g程度加えた後、95℃の温度条件下で15時間攪拌する。そして、これにCs_(2)CO_(3)を2.33g加えて更に室温で攪拌することでキャスト溶液を得る。即ち、実施例1では、ゲル溶解工程、グルタルアルデヒド添加工程、高温下での攪拌工程、Cs_(2)CO_(3)添加工程、室温下での攪拌工程、の順に処理を行うことでキャスト溶 液を作製する。 ・・・ 【0126】 図14は、実施例1の方法で作製されたキャスト溶液を用いて作製された本発明膜による(a)CO_(2)パーミアンスRCO_(2)、(b)H_(2)パーミアンスRH_(2)、及び(c)CO_(2)/H_(2)選択性を、原料側圧力を200kPa?600kPaの範囲の加圧状態で測定した結果を示す。なお、図13では、キャスト溶液作製の際に添加されるグルタルアルデヒドの添加量を異ならせて各データの測定を行った。即ち、グルタルアルデヒドの添加量として、(1)0.008g、(2)0.0153g、(3)0g(不添加)の3パターンで実験を行った。なお、グラフ上では、グルタルアルデヒドを「GA」と略記している(以下のグラフも同様)。 【0127】 また、実験条件としては、温度条件を160℃、原料ガスFGをCO_(2):5.0%、H_(2):45%、H_(2)O:50%の混合比率(モル%)、原料ガスFGの流量を25℃・1atm下で360cm^(3)/min、透過側の圧力を原料側の圧力から20kPa減、スイープガスSGの流量を25℃・1atm下で40cm^(3)/minとした。なお、この実験条件は、各実施例とも共通である。」(図14の掲載は省略する。) イ.甲第2号証 (摘示2-1) 「2.実験 促進輸送膜はキャスト法により作製した。水溶性高分子,CO_(2)キャリア,種々の添加剤の混合水溶液を、ガラス板上にキャストし、乾燥させることで促進輸送膜を得た。作製した膜は支持膜である疎水性PTFE多孔膜で挟み、ガス透過実験を行った。 ガス透過実験は以下の手法で行った。透過セルのフィード側にCO_(2)、N_(2)混合ガス(CO_(2):10%、N_(2):90%)と水蒸気を供給し、透過側にはスイープガス(He)を供給した。膜を透過したガスを含むスイープガスを、ガスクロマトグラフで分析し、その組成から透過性能(CO_(2)透過速度、N_(2)透過速度、CO_(2)/N_(2)選択性)を算出した。温度は110?130℃、フィード側圧力は200kPa、透過側圧力は180kPaで実験を行った。」(第1064頁左欄、Fig.1の掲載は省略する。) ウ.甲第3号証 (摘示3-1)「架橋されたポリ(ビニルアルコール)にアミンを含有しているCO_(2)選択的ポリマー膜」(第310頁の表題) (摘示3-2)「活性層は高密度であり、熱処理後の厚さは約20?80μmであった。」(第312頁右欄第30?31行) (摘示3-3)「2.3.気体透過測定 ・・・気体透過試験は、温度の正確な制御について、オーブン(・・)も内部で透過セルを用いることにより行われた。透過装置の概略図が図1に示される。・・適正量の水を、2つのVarian Proster210ポンプ(・・)を用いて2つの容器に圧送することにより、フィードガスおよびスイープガスが透過セルに入る前に、それぞれ、フィードガスおよびスイープガスの含水量を制御した。」(第312頁右欄第33?53行) (摘示3-4)「図1 気体透過装置の概略図 (以下は、図1における用語) ・N_(2) purge:N_(2)パージ ・water reservoir:貯水槽 ・water pump:水ポンプ ・feed gas:フィードガス ・mass flow meter:質量流量計 ・sweep gas:スイープガス ・oven:オーブン ・humidifier:加湿器 ・permeation cell:透過セル ・back pressure regulator:背圧調整器 ・water knockout:脱水」 (第313頁.図1の掲載は省略する。) (摘示3-5)「特段の断りがなければ、この研究において用いられる膜は、50重量%のPVA、18.3重量%のKOH、20.7重量%のAIBA-K及び11.0重量%のポリ(アリルアミン)を含有した。・・図4は、膜におけるCO_(2)輸送機構の概略図を示す。合成された膜は、輸送のために、AIBA-K及びKHCO_(3)-K_(2)CO_(3)(KOHから変換された)の両方を移動性の担体として、並びにポリ(アリルアミン)をCO_(2)固定された担体として含有した。」(第314頁左欄第4?14行) (摘示3-6)「3.4 水含量の分離性能に対する影響 この作業では、フィードガスおよびスイープガスの両方が、制御された量の水を供給された後、透過セルに入った。120℃及び150℃での膜分離性能に対する水含量の影響が、BHA微多孔テフロン支持体上で厚み?80μmの膜を用いて調査された。供給圧は2.0気圧であり、その一方で透過圧は約1.0気圧であった。 フィードガスは、20%のCO_(2)、40%のH_(2)及び40%のN_(2)からなった。図9は120℃及び150℃においてスイープ側での水含量の関数としてCO_(2)透過度を示す。スイープ側の水含量が増大するにつれ、CO_(2)透過度はほとんど線形に増大した。水含量が58%(mol)から93%(mol)に増大したとき、120℃でのCO_(2)透過度は3700バーラーから8200バーラーと同じくらい高くまで増大し、一方、150℃での透過度は920バーラーから2700バーラーまで増大した。」(第316頁左欄第15行?右欄第2行) (摘示3-7)「図9 CO_(2)透過度対スイープ側の水含量 (以下は、図9における用語) (□)T=120℃;(Δ)T=150℃;フィード水含量=41mol%;供給圧=2.0気圧 ・CO_(2) permeability(Barrers):CO_(2)透過度(バーラー) ・sweep side water content(mol%):スイープ側水含量(mol%)」 (第316頁.図9の掲載は省略する。) (摘示3-8)「図10は、120℃及び150℃においてスイープ側における水濃度の関数としてCO_(2)/H_(2)選択性を示す。CO_(2)/H_(2)選択性は、両温度において、スイープ側水含量が増大するにつれ、増大した。スイープ側水含量が93mol%であったとき、120℃及び150℃でのCO_(2)/H_(2)選択性はそれぞれ450及び270に到達した。この増大は、H_(2)の輸送が水含量の増大によっては有意に影響されなかった一方でCO_(2)透過度が上昇したことによって説明され得る。」(第316頁右欄第12?20行) (摘示3-9)「図10 CO_(2)/H_(2)選択性対スイープ側の水含量 (□)T=120℃;(Δ)T=150℃;フィード水含量=41mol%;供給圧=2.0気圧」(第316頁.図10の掲載は省略する。) (摘示3-10)「フィード側の含水量も、CO_(2)透過度及びCO_(2)/H_(2)選択性に有意な影響があった。表1は120℃における影響を示す。フィード流における水含量が増大するにつれ、CO_(2)透過度及びCO_(2)/H_(2)選択性の両方が増大した。」(第316頁右欄第21?24行) エ.甲第4号証 (摘示4-1)水の蒸気圧が110℃、115℃で、1074.6Torr、1268.0Torrであることを示す表。 (4)取消理由通知(決定の予告)について 平成28年9月1日付けで特許権者に通知した取消理由は、上記2.の訂正前の請求項1?22に係る特許に対して、甲第3号証を主引用例とする特許法第29条第1項第3号及び同条第2項の理由に基づくものである。 ア.甲第3号証に記載された発明 上記(3)ウ.に摘示した事項(摘示3-1、3、4、5?10等参照。)からみて、甲第3号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。 「架橋されたポリビニルアルコールにアミンを含有する透過膜であって、CO_(2)輸送のために、移動性の担体として、KHCO_(3)-K_(2)CO_(3)(KOHから変換された)及びポリ(アリルアミン)をCO_(2)固定された担体、を含有させた、膜厚が80μm以下であり、 二酸化炭素と水が含まれる供給ガスが供給面側に120℃の供給温度で供給され、 供給ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる二酸化炭素選択的ポリマー膜と、 透過面側に供給されるスイープガスの水分量を、58-93mol%とする加湿器と、 を備え、 20%のCO_(2)、40%のH_(2)及び40%のN_(2)からなるフィードガスが、制御された量の水を供給された後導入される、 二酸化炭素分離装置。」 イ.本件特許発明1について 本件特許発明1と引用発明とを対比する。 引用発明の「架橋されたポリビニルアルコールにアミンを含有する透過膜であって、CO_(2)輸送のために、移動性の担体として、KHCO_(3)-K_(2)CO_(3)(KOHから変換された)及びポリ(アリルアミン)をCO_(2)固定された担体、を含有させた」「二酸化炭素選択的ポリマー膜」は、本件特許発明1の「ゲル膜・・供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜」に相当する。 また、引用発明の「膜厚が80μm以下」は、本件特許発明1の「厚さが50μm?190μm」と「厚さが50μm?80μm」において重複する(なお、甲第3号証には、膜層の厚さを約「20?80μm」の範囲とすることも記載されている(摘示3-2)参照。)。 また、引用発明の「二酸化炭素と水が含まれる供給ガスが供給面側に120℃の供給温度で供給され」は、本件特許発明1の「水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され」に相当する。 また、引用発明の「透過面側に供給されるスイープガスの水分量を、58-93mol%とする加湿器」は、「水分量を58-93mol%とする」ことは「%RH」にすれば「20%RH?90%RHに加湿」することに包含される乃至重複するものと認められるから、本件特許発明1の「透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段」に相当する。 また、引用発明は、そのような水分供給手段を有することによって、透過膜の透過面側の水分が維持されることは明らかであるから、「透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段」を有するといえる。 そして、本件特許発明1は、フィードガスの水分について特定するものではないから、引用発明の「20%のCO_(2)、40%のH_(2)及び40%のN_(2)からなるフィードガスが、制御された量の水を供給された後導入される」は、本件特許発明1との相違点とはならないものである。 そうすると、両者は、 「ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜と、 前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段と、 を備え、前記透過膜の厚さが50μm?80μmである二酸化炭素分離装置。」の点で一致し、次の点で相違するといえる。 相違点1:本件特許発明1は、「前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段」を有するのに対して、引用発明は、「水が含まれる供給ガスが供給面側に120℃の供給温度で供給され」るものであって「供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃で」ないから、原料ガスの温度が130℃?180℃である条件において「透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段」を有するものでもない点。 そこで、相違点1について検討する。 (相違点1について) 二酸化炭素分離装置において、透過膜の透過面側に、実質的に水分の蒸発抑制の働きをする背圧調整器を設けることは、例えば、甲第1号証(摘示1-2等参照。【図5】の番号19の部材。)に記載されるように周知と認められるが、斯かる周知技術を考慮しても、甲第1号証の記載から、引用発明において、原料ガスの温度を130℃?180℃としたうえで「透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整すること」が、当業者が容易になし得たこととまではいえない。 また、甲第2、4号証に記載された発明を考慮しても、斯かる点を当業者が容易になし得たこととはいえない。 よって、相違点1は実質的な相違点であり、本件特許発明1は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1?2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 ウ.本件特許発明9?11について 本件特許発明9?11は、本件特許発明1を引用して記載されたものであり、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明9?11と引用発明とを対比すると、上記イ.に記載した相違点1と同様の点において相違するといえる。 そして、その相違点については、上記イ.において、相違点1について記載した理由と同様の理由によって実質的な相違点と認められるから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明9?11は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1?2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 エ.本件特許発明12 本件特許発明12に係る「二酸化炭素分離方法」の発明は、本件特許発明1に係る「二酸化炭素分離装置」を用いた方法に相当する。 これに対し、甲第3号証には、上記ア.で認定した引用発明に係る二酸化炭素分離装置によって二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法の発明も開示されるものと認められ、そのような二酸化炭素分離方法の発明と、本件特許発明12とを対比すると、上記イ.に記載した相違点1と同様の相違点が工程上あるものといえる。 そして、その相違点については、上記イ.において、相違点1について記載した理由と同様の理由によって実質的な相違点といえるから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明12は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1?2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 オ.本件特許発明20?22について 本件特許発明20?22は、本件特許発明12を引用して記載されたものであり、本件特許発明12と同様の発明特定事項を有するものであるから、本件特許発明20?22と引用発明とを対比すると、上記イ.に記載した相違点1と同様の点において相違するといえ、その相違点については、上記イ.において、相違点1について記載した理由と同様の理由によって実質的な相違点といえるから、その余の点について検討するまでもなく、本件特許発明20?22は甲第3号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1?2、4号証に記載された発明を考慮しても、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 カ.申立人の意見について 申立人は、平成29年1月13日付け意見書において、引用発明(甲第3号証に記載された発明)において、供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することは、甲第1号証に記載されるように当業者の設計事項であり、また、透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とすることは、例えば、甲第2号証に記載されているように本件出願時に当業者が適宜行っていることであるから、本件特許発明1、9?11、12、20から22は、甲第3号証と甲第1号証に記載される発明に基づいて当業者が容易になし得たこと等を主張していると認められる(同意見書第4?8頁「(3-1)訂正後の本件特許発明1」?「(3-4)訂正後の本件特許発明20?22」参照。)。 しかしながら、引用発明は、供給面側に供給される原料ガスの温度が120℃のものであるところ、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当該温度を130℃?180℃としたうえで、「透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段」を有するものとし、さらに、甲第2、4号証の技術事項を参照して、「透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上」とする、という推考の過程を経て、引用発明を本件特許発明1の構成とすることは、本件特許発明1を知らずして当業者が容易になし得たもの、とすることはできない。 よって、申立人の主張は採用できない。 キ.まとめ 以上のとおり、本件特許発明1、9?12、20?22は、甲第3号証に記載された発明ではなく、また、甲第3号証に記載された発明及び甲第1?2、4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 (5)取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 取消理由通知(決定の予告)において採用した特許異議申立理由は、[理由3](上記(4)参照。)であるので、[理由1]、[理由2]、[理由4]、[理由5]について検討する。 ア.[理由1]について (ア)甲第1号証に記載された発明 甲第1号証には、上記(3)ア.に摘示したとおりの事項が記載されており、その特許請求の範囲の【請求項1】(摘示1-1)、【0126】?【0127】(摘示1-3)等の記載事項からみて、甲第1号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲1発明」という。)。 「ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に炭酸セシウム若しくは重炭酸セシウム若しくは水酸化セシウムからなる添加剤を添加したゲル層、及び水を有し、 所定の主成分ガスに少なくとも二酸化炭素と水蒸気が含まれる原料ガスをCO_(2)促進輸送膜の原料側面に100℃以上の供給温度で供給して、 CO_(2)促進輸送膜を透過した二酸化炭素を透過側面から取り出す、 原料ガスの温度が160℃である場合に、CO_(2)促進輸送膜の透過側面が180kPa?580kPaで加圧されるように背圧を調整する、 二酸化炭素分離装置。」 (注.「180kPa?580kPa」は、【0126】の「原料側圧力を200kPa?600kPa」及び【0127】の「透過側の圧力を原料側の圧力から20kPa減」との記載に基づいて換算したもの。) (イ)検討 本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、本件特許発明が「透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有する」、「透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とする」ものであるのに対して、甲1発明はそのような水分供給手段を有さず、透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であるか不明である点で、両者は少なくとも、相違する。 そして、甲第3号証に、加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段」が記載され、甲第4号証を参酌すると、甲第2号証に「透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とする」例が記載されているとしても、斯かる水分供給手段や、透過膜の透過面側を飽和水蒸気圧以上とする構成を、甲1発明で採用する動機付けがあったものとは認められないし、甲第4号証を考慮してもそれらの点を当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明9?12、20?22は、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有するから、本件特許発明1と同様の点で相違し、斯かる相違点については、本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲第2?4号証に記載された発明を考慮しても、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえない。 (ウ)まとめ 以上のとおり、本件特許発明1、9?12、20?22は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証及び甲第2?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。 イ.[理由2]について (ア)甲第2号証に記載された発明 甲第2号証には、上記(3)イ.に摘示したとおりの事項が記載されており、その摘示事項(摘示2-1)等からみて、甲第2号証には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「甲2発明」という。) 「水溶性高分子、水、二酸化炭素キャリア及び種々の添加剤を有し、 110?130℃の二酸化炭素、窒素混合ガスと水蒸気がフィード側に供給され、 フィード側に供給される二酸化炭素、窒素混合ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過側へ透過させる促進輸送膜と、 二酸化炭素、窒素混合ガスの温度が110?130℃の場合、透過側の圧力を180kPaに調整する手段と、を備える 二酸化炭素分離装置。」 (当審注:180kPaは甲第4号証に掲載されたデータによって換算すると130℃での飽和水蒸気圧未満である。) (イ)検討 本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、本件特許発明が「透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有する」ものであるのに対して、甲2発明はそのような水分供給手段を有さない点で、両者は少なくとも、相違する。 そして、甲第3号証に、加湿されたスイープガスを供給することで、透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段」が記載されているとしても、斯かる水分供給手段を、甲2発明で採用する動機付けがあったものとは認められないし、甲第1、4号証を考慮してもそれらの点を当業者が容易になし得たものであるとはいえない。 そして、本件特許発明9?12、20?22は、本件特許発明1と同様の発明特定事項を有するから、本件特許発明1と同様の点で相違し、斯かる相違点については、本件特許発明1についての理由と同様の理由により、甲第2?4号証に記載された発明を考慮しても、甲1発明に基づいて当業者が容易になし得たものともいえない。 (ウ)まとめ 以上のとおり、本件特許発明1、9?12、20?22は、甲第2号証に記載された発明ではなく、また、甲第2号証及び甲第1、3?4号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。 ウ.[理由4、5]について (ア)理由4、5について 申立人は、特許異議申立書において、本件明細書の第5?6図には、二酸化炭素透過度及びガス選択性の両者の総合で決められる結果評価について、比較例と同じく「×」である例が、実施例15、16、22として含まれているから、訂正前の請求項1?22に係る発明は、その課題を解決できない例を含むので特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないこと(理由4)、及び、訂正前の請求項1?22に係る発明の一部(例えば、実施例15、16、22)は、発明の詳細な説明において、その課題を解決することができるように記載されていないので特許法第36条第4項第1号の要件を満たさないこと(理由5)を申立理由として主張している(特許異議申立書第51頁「(4-6)理由4,5」参照。)。 しかしながら、本件訂正請求によって、特許請求の範囲が減縮され(訂正事項1、2、14、15等参照)、実施例15、16、22等の実施例は、参考例であって本件特許発明の実施例ではないものとなった(訂正事項13参照)から、特許異議申立書における特許法第36条第6項第1号、及び、同条第4項第1号による申立理由は、理由のないものとなった。 (イ)平成29年1月13日付け意見書における申立人の主張について 申立人は、本件明細書に添付された図面の【図4】の実施例1?9(訂正後の参考例)は、透過側全圧が300kPa?1000kPaであっても、透過側の加湿は行われておらず、透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給する水分供給手段を有するものとなっていないため、水分維持手段が、蒸発抑制手段と、水分供給手段とをともに有することを限定した本件特許発明1?22は、特許法第36条第6項第1号の要件を満たさないことを主張している(同意見書第10?11頁「(4-2)補足」参照。)。 しかしながら、上記「2.(4)」に記載したとおり、蒸発抑制手段と、水分供給手段とをともに有する水分維持手段は、本件明細書に記載された事項の範囲内のものであって、それによって、本件特許発明の課題を解決できるものと当業者が認識できないとはいえないから、申立人の主張は採用できない。 (ウ)まとめ 以上のとおり、本件特許発明1、9?12、20?22についての特許は、特許法第36条第6項第1号、及び、同条第4項第1号に規定する要件を満たす特許出願に対してされたものである。 4.むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された理由によっては、本件請求項1、9?12、20?22に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1、9?12、20?22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない そして、本件訂正により、本件請求項2?8、13?19に係る発明の特許は存在しなくなった。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法に関する。 【背景技術】 【0002】 近年、混合ガス中の二酸化炭素を選択的に分離する技術の開発が進んでいる。例えば、地球温暖化対策として排ガス中の二酸化炭素を回収して濃縮する技術や、水蒸気改質により炭化水素を水素と一酸化炭素(CO)に改質し、さらに一酸化炭素と水蒸気を反応させて二酸化炭素と水素を生成させ、二酸化炭素を選択的に透過する膜によって二酸化炭素を分離することで水素を主成分とする燃料電池用等のガスを得る技術が開発されている。 【0003】 二酸化炭素の分離法として膜分離法が知られている。膜分離法は、分離膜で区画された2つの領域の二酸化炭素の分圧差により分離を行うものでエネルギー消費が少なく、かつ設置面積がコンパクトな点で優れている。また、システムの能力の拡縮もフィルターユニットの増減で対応可能であり、システムの拡縮性の点でも優れている。 【0004】 膜分離法に関して、下記の特許文献1においては、未架橋のビニルアルコール-アクリル酸塩共重合体水溶液を、二酸化炭素透過性支持体上へ膜状に塗布した後、加熱し、架橋させて水不溶化し、この水不溶化物に二酸化炭素キャリア(二酸化炭素と親和性を有する物質)を含む水溶液を吸収させてゲル化することにより二酸化炭素分離ゲル膜を製造することが開示されている。 【0005】 また、下記の特許文献2においては、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体ゲル膜に炭酸セシウム若しくは重炭酸セシウム若しくは水酸化セシウムからなる添加剤を添加したゲル層を親水性の多孔膜に担持させてCO_(2)促進輸送膜を形成し、所定の主成分ガスに少なくとも二酸化炭素と水蒸気が含まれる原料ガスをCO_(2)促進輸送膜の供給側面に100℃以上の供給温度で供給して、CO_(2)促進輸送膜を透過した二酸化炭素を透過側面から取り出すようにした二酸化炭素分離装置が開示されている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特公平7-102310号公報 【特許文献2】特開2009-195900号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明は、これら公知技術よりも二酸化炭素分離性に優れた二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明の請求項1に記載の二酸化炭素分離装置は、ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜と、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段と、を備えることを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0009】 本発明の請求項2に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項1に記載の二酸化炭素分離装置において、前記水分維持手段は、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0010】 本発明の請求項3に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項2に記載の二酸化炭素分離装置において、前記蒸発抑制手段は、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0011】 本発明の請求項4に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項1に記載の二酸化炭素分離装置において、前記水分維持手段は、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0012】 本発明の請求項5に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項4に記載の二酸化炭素分離装置において、前記水分供給手段は、前記透過膜の透過面側に加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0013】 本発明の請求項6に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項2または請求項3に記載の二酸化炭素分離装置において、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃である場合、前記蒸発抑制手段は、前記透過膜の透過面側が150kPa?1500kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0014】 本発明の請求項7に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項4または請求項5に記載の二酸化炭素分離装置において、前記水分供給手段は、前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0015】 本発明の請求項8に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項1?7のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離装置において、前記透過膜の厚さは、50μm?190μmであることを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0016】 本発明の請求項9に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項1?8のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離装置において、前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0017】 本発明の請求項10に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項1?9のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離装置において、前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0018】 本発明の請求項11に記載の二酸化炭素分離装置は、請求項1?10のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離装置において、前記原料ガスには、水蒸気が含まれていることを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0019】 本発明の請求項12に記載の二酸化炭素分離方法は、ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜を用いて、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ二酸化炭素を分離することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0020】 本発明の請求項13に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項12に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0021】 本発明の請求項14に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項13に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0022】 本発明の請求項15に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項12に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜の透過面側に水分を供給することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0023】 本発明の請求項16に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項15に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜の透過面側に加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0024】 本発明の請求項17に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項13または請求項14に記載の二酸化炭素分離方法において、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃である場合、前記透過膜の透過面側が150kPa?1500kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0025】 本発明の請求項18に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項15または請求項16に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0026】 本発明の請求項19に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項12?18のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜の厚さは、50μm?190μmであることを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0027】 本発明の請求項20に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項12?19のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0028】 本発明の請求項21に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項12?20のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離方法において、前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有することを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【0029】 本発明の請求項22に記載の二酸化炭素分離方法は、請求項12?21のいずれか1項に記載の二酸化炭素分離方法において、前記原料ガスには、水蒸気が含まれていることを特徴とする。これにより、二酸化炭素分離性を向上させられる。 【発明の効果】 【0030】 本発明によれば、二酸化炭素分離性に優れた二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法が提供される。 【図面の簡単な説明】 【0031】 【図1】本発明に係る二酸化炭素分離装置の構成を示す図である。 【図2】図1の二酸化炭素促進輸送膜の付近の構成を拡大して示す図である。 【図3】本発明に係る二酸化炭素分離装置に対する比較例としての二酸化炭素分離装置の構成を示す図である。 【図4】二酸化炭素分離性についての実験結果を表として示す図である。 【図5】二酸化炭素分離性についての実験結果を表として示す図である。 【図6】二酸化炭素分離性についての実験結果を表として示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0032】 以下、本発明に係る二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法の実施形態について、添付の図面に沿って説明する。 【0033】 (二酸化炭素分離装置) 図1は、本発明に係る二酸化炭素分離装置の構成を示している。本発明に係る二酸化炭素分離装置10は、水素を主成分とする原料ガスFGに含まれる二酸化炭素を選択的に透過させる透過膜を用い、原料ガスFG中の二酸化炭素を分離する装置であり、例えば二酸化炭素メンブレンリアクターにおいて水素を主成分とする改質ガス(原料ガスFG)に含まれる二酸化炭素を分離する。 【0034】 二酸化炭素分離装置10は、透過膜の一例としての二酸化炭素促進輸送膜12を有している。図2は、二酸化炭素促進輸送膜12の付近の構成を拡大して示している。 【0035】 図1および図2に示すように、二酸化炭素促進輸送膜12の供給面側としての一面側には供給室14が、透過面側としての他面側には透過室16が設けられている。供給室14の一方側には供給管18が接続されており、供給管18からは原料ガスFGが供給されるようになっている。原料ガスFGは、水蒸気改質器(図示省略)を通じて供給されるものであり、水蒸気、主成分ガスである水素および分離対象である二酸化炭素を含んでおり、その供給温度は100℃以上とされる。 【0036】 供給室14に供給された原料ガスFGは、透過室16との二酸化炭素の分圧差によって二酸化炭素が分離処理され、処理ガスFG’として供給室14の他方側に接続される排出管20を通じて供給室14から排出される。 【0037】 処理ガスFG’の流れ方向において排出管20の下流側には、冷却器22と背圧調整弁(図中に「BPR」と示す)24とが設けられている。冷却器22は、処理ガスFG’を冷却し処理ガスFG’中の水分を除去する機能を有している。背圧調整弁24は、供給室14の圧力、即ち二酸化炭素促進輸送膜12の供給面側の背圧を調整する機能を有している。 【0038】 透過室16の一方側には供給管26が接続されており、供給管26から例えばアルゴンガスなどのスイープガスSGが透過室16に供給されるようになっている。図2に示すように、スイープガスSGは二酸化炭素促進輸送膜12を透過してきた二酸化炭素を含む透過ガスPGを外部に掃き出し、透過室16における透過ガスPGの分圧を低減させ、二酸化炭素促進輸送膜12を透過する透過ガスPGの透過力を維持するためのものである。スイープガスSGは、空気やヘリウムであってもよい。 【0039】 図1に示すように、スイープガスSGの流れ方向において供給管26の上流側には、スイープガスSGが圧縮充填されているスイープガスボンベ28と加湿器30が設けられている。スイープガスSGは、開閉弁32および流量制御器(図中で「MFC」と示す)34を通って加湿器30に送られ、加湿器30で所定の湿度%RHに加湿制御された上で供給管26を通じて透過室16に供給される。 【0040】 透過室16に供給されたスイープガスSGは、二酸化炭素促進輸送膜12を透過してきた透過ガスPGを引き連れ透過室16の他方側に接続される排出管36を通じて透過室16から排出される。スイープガスSGの流れ方向において排出管36の下流側には、冷却器38と背圧調整弁(図中に「BPR」と示す)40とが設けられている。冷却器38は、スイープガスSGおよび透過ガスPGを冷却しそれらガス中の水分を除去する機能を有している。背圧調整弁40は、透過室16の圧力、即ち二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の背圧を調整する機能を有している。なお、背圧調整弁40は、排出管36と冷却器38との間に設けるようにしてもよい。 【0041】 二酸化炭素促進輸送膜12は、ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを含んで構成されている。具体的には、二酸化炭素促進輸送膜12は、支持体(図示省略)上に形成されたゲル膜に水および二酸化炭素キャリアが含有されて構成されている。なお、ゲル膜には、水および二酸化炭素キャリアの他に適宜な添加剤が含有されている。二酸化炭素促進輸送膜12を形成する組成物についての具体的な説明は後述する。 【0042】 二酸化炭素促進輸送膜12は、二酸化炭素キャリアの存在により高い二酸化炭素透過度(ガス選択性)を有している。 【0043】 二酸化炭素促進輸送膜12においては、二酸化炭素分子は二酸化炭素キャリアと反応し専ら促進輸送機構によって膜中を透過するため、膜厚を厚くしても二酸化炭素の透過性はあまり変化しない。一方、膜中で二酸化炭素キャリアと反応しない水素分子は、溶解拡散機構によって膜中を透過するため、その透過性は膜厚の厚さに反比例する。従って、一般的には二酸化炭素促進輸送膜12の膜厚を厚くすることで二酸化炭素の分離性を高めることができる。 【0044】 しかし、発明者達は、100℃以上の原料ガスFGを二酸化炭素促進輸送膜12の供給面側に供給し二酸化炭素促進輸送膜12を100℃以上の環境下で使用する場合には、膜厚を厚くすると二酸化炭素分離性が急激に低下することを知見した。また、この厚膜化による二酸化炭素分離性の低下は、厚膜において透過面側で水が蒸発し水分が維持されないことに起因することを知見した。 【0045】 そこで、本発明に係る二酸化炭素分離装置10にあっては、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の水分を維持する水分維持手段として前述の背圧調整弁40および加湿器30を備えている。即ち、背圧調整弁40により、透過室16の圧力、即ち二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の背圧を飽和水蒸気圧以上に加圧調整することで、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側での水の蒸発を抑制し、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の水分を維持するようにした。また、加湿器30により、スイープガスSGを加湿した上で透過室16に供給することで、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の水分を維持するようにした。 【0046】 なお、二酸化炭素促進輸送膜12の供給面側には水蒸気を含む原料ガスFGが供給されているため、供給面側の水分は元来的に維持される状態となっている。別言すると、原料ガスFGが100℃以上であっても水蒸気を含めることで、二酸化炭素促進輸送膜12の供給面側の水分を維持することができ、二酸化炭素分離性を維持することができる。 【0047】 図3は、本発明に係る二酸化炭素分離装置10に対する比較例としての二酸化炭素分離装置100を示している。比較例としての二酸化炭素分離装置100にあっては、透過室16の圧力、即ち二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の背圧を調整するための背圧調整弁40が備えられておらず、透過室16は大気圧と同程度の背圧とされている。また、スイープガスSGを加湿制御するための加湿器30が備えられておらず、スイープガスSGは加湿されずに透過室16に供給されている。 【0048】 本発明に係る二酸化炭素分離装置10は、比較例としての二酸化炭素分離装置100に対して、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の水分を維持する水分維持手段として背圧調整弁40および加湿器30を備えているので、二酸化炭素促進輸送膜12を厚膜化した場合であっても透過面側の水分を維持することができ、二酸化炭素分離性を向上させることができる。なお、背圧調整弁40は水分維持手段のうち蒸発維持手段として捉えることができ、加湿器30は水分維持手段のうち水分供給手段として捉えることができる。 【0049】 (二酸化炭素促進輸送膜の組成物) 以下、二酸化炭素促進輸送膜12を形成する組成物について具体的に説明する。 【0050】 -ゲル膜- ゲル膜は、二酸化炭素キャリア、水を内包した膜を形成できる架橋可能基を有する親水性ポリマー(以下、適宜、官能性ポリマーと称する)により形成される。二酸化炭素キャリアは水溶性であるため、ゲル膜の形成には、水と親和性の高いポリマーを用いることが好ましい。架橋可能基とは、架橋可能軌道氏が直接、或いは、架橋剤を介して結合して架橋構造を形成しうる官能基を指す。ゲル膜を構成する親水性ポリマーは架橋剤により形成された架橋構造を有していてもよい。 【0051】 ゲル膜形成用の官能性ポリマーは、天然高分子(多糖類系、微生物系、動物系)、半合成高分子(セルロース系、デンプン系、アルギン酸系)および合成高分子系(ビニル系、その他)であり、以下に述べるポリビニルアルコールを始めとする合成ポリマーや、植物由来のセルロース等を原料とする天然あるいは半合成ポリマーを適宜選択して使用することができる。 【0052】 官能性ポリマーのうち、天然高分子および半合成高分子について詳しく説明する。植物系多糖類としては、アラビアガム、κ-カラギーナン、ι-カラギーナン、λ-カラギーナン、グアガム(Squalon製Supercolなど)、ローカストビーンガム、ペクチン、トラガント、トウモロコシデンプン(National Starch & Chemical Co.製Purity-21など)、リン酸化デンプン(National Starch & Chemical Co.製National 78-1898など)など、微生物系多糖類としては、キサンタンガム(Kelco製Keltrol Tなど)、デキストリン(National Starch & Chemical Co.製Nadex360など)など、動物系天然高分子としては、ゼラチン(Croda製Crodyne B419など)、カゼイン、コンドロイチン硫酸ナトリウム(Croda製Cromoist CSなど)などが挙げられる。セルロース系としては、エチルセルロース(I.C.I.製Cellofas WLDなど)、カルボキシメチルセルロース(ダイセル製CMCなど)、ヒドロキシエチルセルロース(ダイセル製HECなど)、ヒドロキシプロピルセルロース(Aqualon製Klucelなど)、メチルセルロース(Henkel製Viscontranなど)、ニトロセルロース(Hercules製Isopropyl Wetなど)、カチオン化セルロース(Croda製Crodacel QMなど)などが挙げられる。デンプン系としては、リン酸化デンプン(National Starch & Chemical製National 78-1898など)、アルギン酸系としては、アルギン酸ナトリウム(Kelco製Keltoneなど)、アルギン酸プロピレングリコールなど、その他の分類として、カチオン化グアガム(Alcolac製Hi-care1000など)、ヒアルロン酸ナトリウム(Lifecare Biomedial製Hyalureなど)が挙げられる。上記官能性ポリマーはいずれも、市販品を使用することができ、例えば、それぞれの化合物名に添えて( )内に記載されるメーカーより提供される商品を使用することができる。 【0053】 官能性ポリマーのうち、合成高分子について詳しく説明する。アクリル系としては、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリル酸共重合体、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミド共重合体、ポリジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート四級塩またはその共重合体など、ビニル系としては、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン共重合体、ポリビニルアルコールなど、その他としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリイソプロピルアクリルアミド、ポリメチルビニルエーテル、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ナフィオン、ポリスチレンスルホン酸又はその共重合体、ナフタレンスルホン酸縮合物塩、ポリビニルスルホン酸又はその共重合体、ポリアクリル酸又はその共重合体、アクリル酸又はその共重合体等、マレイン酸共重合体、マレイン酸モノエステル共重合体、アクリロイルメチルプロパンスルホン酸又はその共重合体、など)、ポリジメチルジアリルアンモニウムクロライドまたはその共重合体、ポリアミジンまたはその共重合体、ポリイミダゾリン、ジシアンシアミド系縮合物、エピクロルヒドリン・ジメチルアミン縮合物、ポリアクリルアミドのホフマン分解物、水溶性ポリエステルなどが使用できる。また、市販品を使用してもよく、例えば、水溶性ポリエステル(互応化学(株)製プラスコートZ-221、Z-446、Z-561、Z-450、Z-565、Z-850、Z-3308、RZ-105、RZ-570、Z-730、RZ-142:いずれも商品名)などが挙げられる。 【0054】 ゲル膜を形成する官能性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール類であることが好ましく、特に、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸共重合体が最も好ましい。 【0055】 前記官能性ポリマーの含有量は、当該ゲル膜全体の5?80質量%であることが好ましく、7.5?75質量%であることがより好ましく、10?70質量%であることがさらに好ましい。また、ゲル膜を形成する官能性ポリマーは1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。 【0056】 -架橋剤- 前記官能性ポリマーは、架橋剤を用いて形成された架橋構造を有していてもよい。このような架橋構造を有することにより、前記ゲル膜の膜強度・耐久性が向上する。 【0057】 前記架橋剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、アルデヒド化合物、紫外線架橋型化合物、脱離基含有化合物、カルボン酸化合物、ウレア化合物、有機金属化合物などが挙げられる。 【0058】 -二酸化炭素キャリア- 二酸化炭素キャリアは、二酸化炭素と親和性を有し、かつ、塩基性を示す各種の水溶性の無機物質であり、具体的には、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩及びアルカリ金属水酸化物からなる群より選ばれる化合物である。これらの物質を二酸化炭素キャリアとして選択することで、二酸化炭素分離性を向上させることができる。 【0059】 アルカリ金属炭酸塩としては、例えば、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウムなどが挙げられる。 【0060】 アルカリ金属重炭酸塩としては、例えば、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素ルビジウム、炭酸水素セシウムなどが挙げられる。 【0061】 アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムなどが挙げられる。 【0062】 これらの中でも、二酸化炭素との親和性がよいという観点から、アルカリ金属としてカリウム、ルビジウム、及びセシウムから選ばれたアルカリ金属元素を含む化合物が好ましい。さらに好ましくはカリウム、又はセシウムを含む化合物である。 【0063】 二酸化炭素キャリアの前記ゲル膜における含有量は、当該膜全体の5?95質量%であることが好ましく、7.5?92.5質量%であることがより好ましく、10?90質量%であることがさらに好ましい。含有量が前記範囲であることで、十分な二酸化炭素キャリア能が得られ、且つ、ゲル膜中において、キャリアが過剰に含まれる際に懸念される二酸化炭素キャリアが著しく局在し、性能が不安定になる現象が抑制される。 【0064】 -添加剤- ゲル膜の形成に使用される組成物には、前記官能性ポリマー、二酸化炭素キャリア及び溶媒としての水に加え、架橋剤や種々の添加剤を併用してもよい。 (反応促進添加剤) 添加剤は、二酸化炭素と二酸化炭素キャリアとの反応を促進する化合物であり、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物である。これらの物質を添加剤として加えることで、二酸化炭素分離性を向上させることができる。 【0065】 窒素含有化合物としては、例えば、グリシン、アラニン、セリン、プロリン、ヒスチジン、タウリン、ジアミノプロピオン酸などのアミノ酸類、ピリジン、ヒスチジン、ピペラジン、イミダゾール、トリアジンなどのヘテロ化合物類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミンなどのアルカノールアミン類や、クリプタンド〔2.1〕、クリプタンド〔2.2〕などの環状ポリエーテルアミン類、クリプタンド〔2.2.1〕、クリプタンド〔2.2.2〕などの双環式ポリエーテルアミン類やポルフィリン、フタロシアニン、エチレンジアミン四酢酸などを用いることができる。 【0066】 硫黄含有化合物としては、例えば、シスチン、システインなどのアミノ酸類、ポリチオフェン、ドデシルチオールなどを用いることができる。 【0067】 -支持体- 支持体は、二酸化炭素促進輸送膜12を支持するものであり、二酸化炭素透過性を有し、組成物を塗布して二酸化炭素促進輸送膜12を形成することができ、さらにこの膜を支持することができるものであれば特に限定されない。 【0068】 支持体の材質としては、紙、上質紙、コート紙、キャストコート紙、合成紙、さらに、セルロース、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリスルフォンアラミド、ポリカーボネート、金属、ガラス、セラミックスなどが好適に使用できる。より具体的にはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエーテルイミド、ポリフェニルサルファイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどの樹脂材料が好適に使用できる。これら中でもポリオレフィンおよびそのフッ化物が、経時安定性の観点から特に好ましく使用できる。 【0069】 支持体の形態としては織布、不織布、多孔質膜等を採用することができる。一般的には自己支持性が高く、空隙率が高い支持体が好適に使用できる。 【0070】 ポリフェニルサルファイド、ポリスルフォン、セルロースのメンブレンフィルター膜、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、高分子量ポリエチレンの延伸多孔膜などは空隙率が高く、二酸化炭素の拡散阻害が小さく、強度、製造適性などの観点から好ましい。この中でも特にポリテトラフルオロエチレンの延伸膜が好ましい。 【0071】 これらの支持体を単独に用いることもできるが、補強用の支持体と一体化した複合膜も好適に使用できる。 【0072】 支持体は厚すぎるとガス透過性が低下し、薄すぎると強度に難がある。そこで支持体の厚さは30?500μmが好ましく、さらには50?300μmがより好ましく、さらには50?200μmが特に好ましい。 【0073】 (二酸化炭素分離性の実験結果) 二酸化炭素分離性についての実験は、以下のように行った。 【0074】 二酸化炭素促進輸送膜12を支持体ごと直径47mmに切り取り、PTFEメンブレンフィルター(孔径0.10μm、ADVANTEC社製)で挟んで分離性試験用のサンプル透過膜(有効面積2.40cm^(2))を作製した。このサンプル透過膜の供給面側には原料ガスFGとしてCO_(2)/H_(2):10/90(容積比)のテストガスを流量100ml/分で供給し、透過面側にはスイープガスSGとしてアルゴンガスを流量100ml/分で供給した。そして、サンプル透過膜を透過してきた透過ガスをガスクロマトグラフで分析し、二酸化炭素透過度および水素透過度を得た。二酸化炭素分離性は、二酸化炭素透過度およびガス選択性で評価した。なお、ガス選択性は次式により算出した。 【0075】 ガス選択性 = 二酸化炭素透過度 / 水素透過度 【0076】 二酸化炭素分離性についての実験に用いる二酸化炭素促進輸送膜12は、以下のように製膜した。 【0077】 伊那寒天UP-37(伊那寒天社製)0.5質量%、ポリビニルアルコール-ポリアクリル酸塩共重合体(ナトリウム塩、クラレ社製、商品名:クラストマーAP20)2.5質量%、炭酸カリウム1.3質量%、グリシン1.2質量%の熱水溶液(温度:85℃以上)を調製した。その熱水溶液を、PETフィルム(東レ社製T60、100μm厚)にRtoR方式で塗布し、冷却、乾燥して製膜した。冷却温度を8℃に設定した冷却部でゲル膜とした後、乾燥後、巻き取った後、乾燥膜上にもう二度塗布・乾燥工程を行った。そして、120℃で熱架橋を施し均一な膜厚の二酸化炭素促進輸送膜12を得た。なお、二酸化炭素促進輸送膜12の膜厚は、塗布・乾燥工程を行う回数を増減したり、PETフィルムから剥離したものを重ねたりすることで調整した。 【0078】 図4?図6に二酸化炭素分離性についての実験結果を表として示す。但し、実施例1?10、15、16、20?22は参考例である。表中の「温度」は、サンプル透過膜に供給されるテストガスの温度を示す。「供給側全圧」は、サンプル透過膜の供給面側に供給されるテストガスの圧力を示す。「供給側加湿」は、サンプル透過膜の供給面側に供給されるテストガスの相対湿度を示す。「透過側全圧」は、サンプル透過膜の透過面側に供給されるアルゴンガスの圧力を示す。「透過側加湿」は、サンプル透過膜の透過面側に供給されるアルゴンガスの相対湿度を示す。「乾燥厚み」は、二酸化炭素促進輸送膜の乾燥時の厚みを示し、サンプル透過膜の厚みから支持体の厚みを差し引いた厚さである。「二酸化炭素透過度」および「ガス選択性」は、その数値が高いほど二酸化炭素分離性が良好であることを示す。「結果評価」は、二酸化炭素透過度およびガス選択性の両者の総合で決められ、◎は優、○は良、△は可、×は不良であることを示す。なお、◎、○、△、×の結果評価は、表ごとにおいて相対的に決定したものである。 【0079】 図4の表に示す実験結果は、透過側全圧を変化させた場合のものを示している。なお、サンプル透過膜に供給されるテストガスの温度(および供給側全圧)も種々変化させている。図示の如く、テストガスの温度が130℃?180℃である場合(および供給側全圧が300kPa?2000kPaである場合)、透過側全圧は150kPa?1500kPaが好ましく、300kPa?1000kPaがより好ましい。 【0080】 従って、図1に示す二酸化炭素分離装置10において、原料ガスFGの温度が130℃?180℃ある場合(および供給側全圧が300kPa?2000kPaである場合)、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側が150kPa?1500kPaで加圧されるように背圧を調整することで、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の水分が維持され、二酸化炭素分離性が良好となる。 【0081】 図5の表に示す実験結果は、透過側加湿を変化させた場合のものを示している。図示の如く、透過側加湿は20%RH?90%RHが好ましく、20%RH?60%RHがより好ましい。 【0082】 従って、図1に示す二酸化炭素分離装置10において、透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスSGを供給することで、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の水分が維持され、二酸化炭素分離性が良好となる。 【0083】 図6の表に示す実験結果は、乾燥厚みを変化させた場合のものを示している。図示の如く、乾燥厚みは50μm?190μmが好ましく、50μm?125μmがより好ましい。 【0084】 従って、図1に示す二酸化炭素分離装置10において、二酸化炭素促進輸送膜12の厚さを50μm?190μmに設定することで、二酸化炭素分離性が良好となる。これは、二酸化炭素促進輸送膜12の膜圧をある程度厚くすることで、溶解拡散機構によって膜中を透過する水素分子の透過性が低下するためである。 【0085】 なお、上記の二酸化炭素分離装置10においては、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側での水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段として、背圧調整弁40を採用し、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の背圧を加圧調整することで二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側での水の蒸発を抑制するように構成したが、それ以外にも、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側の温度を低下させることで二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側での水の蒸発を抑制するようにしてもよい。 【0086】 また、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側に水分を供給する水分供給手段として、加湿器30を採用し、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側に供給されるスイープガスSGを加湿することで二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側に水分を供給するように構成したが、それ以外にも、二酸化炭素促進輸送膜12の透過面側に直接的に水蒸気あるいは水滴を供給するように構成してもよい。 【符号の説明】 【0087】 10 二酸化炭素分離装置 12 二酸化炭素促進輸送膜 14 供給室 16 透過室 30 加湿器(水分維持手段の一例、水分供給手段の一例) 40 背圧調整弁(水分維持手段の一例、蒸発抑制手段の一例) FG 原料ガス FG’ 処理ガス PG 透過ガス SG スイープガス (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる透過膜と、 前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上であり、かつ、前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制する蒸発抑制手段、及び前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給する水分供給手段を有することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持する水分維持手段と、 を備え、前記透過膜の厚さが50μm?190μmである二酸化炭素分離装置。 【請求項2】 (削除) 【請求項3】 (削除) 【請求項4】 (削除) 【請求項5】 (削除) 【請求項6】 (削除) 【請求項7】 (削除) 【請求項8】 (削除) 【請求項9】 前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有する請求項1に記載の二酸化炭素分離装置。 【請求項10】 前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有する請求項1又は9に記載の二酸化炭素分離装置。 【請求項11】 前記原料ガスには、水蒸気が含まれている請求項1、9又は10に記載の二酸化炭素分離装置。 【請求項12】 ゲル膜、水および二酸化炭素キャリアを有し、100℃以上の原料ガスが供給面側に供給され、前記供給面側に供給される原料ガスに含まれる二酸化炭素を選択的に透過面側へ透過させる、厚さ50μm?190μmの透過膜を用いて、前記透過膜の透過面側が飽和水蒸気圧以上で加圧され、さらに前記供給面側に供給される原料ガスの温度が130℃?180℃であって前記透過膜の透過面側が300kPa?1000kPaで加圧されるように背圧を調整することで、前記透過膜の透過面側の水の蒸発を抑制し、かつ、前記透過膜の透過面側に20%RH?90%RHに加湿されたスイープガスを供給することで、前記透過膜の透過面側に水分を供給することで、前記透過膜の透過面側の水分を維持しつつ二酸化炭素を分離する二酸化炭素分離方法。 【請求項13】 (削除) 【請求項14】 (削除) 【請求項15】 (削除) 【請求項16】 (削除) 【請求項17】 (削除) 【請求項18】 (削除) 【請求項19】 (削除) 【請求項20】 前記透過膜は、前記二酸化炭素キャリアとして、アルカリ金属炭酸塩あるいはアルカリ金属重炭酸塩あるいはアルカリ金属水酸化物を有する請求項12に記載の二酸化炭素分離方法。 【請求項21】 前記透過膜は、さらに添加剤として、窒素含有化合物あるいは硫黄含有化合物を有する請求項12又は20に記載の二酸化炭素分離方法。 【請求項22】 前記原料ガスには、水蒸気が含まれている請求項12、20又は21に記載の二酸化炭素分離方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2017-03-21 |
出願番号 | 特願2011-163383(P2011-163383) |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(B01D)
P 1 651・ 121- YAA (B01D) P 1 651・ 536- YAA (B01D) P 1 651・ 113- YAA (B01D) |
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 目代 博茂 |
特許庁審判長 |
大橋 賢一 |
特許庁審判官 |
新居田 知生 中澤 登 |
登録日 | 2015-05-01 |
登録番号 | 特許第5738704号(P5738704) |
権利者 | 富士フイルム株式会社 |
発明の名称 | 二酸化炭素分離装置および二酸化炭素分離方法 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 福田 浩志 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 中島 淳 |
代理人 | 加藤 和詳 |
代理人 | 特許業務法人深見特許事務所 |
代理人 | 加藤 和詳 |