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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08F
管理番号 1327876
異議申立番号 異議2016-700914  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-09-23 
確定日 2017-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5893117号発明「吸水性樹脂及び吸収性物品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5893117号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1?4〕について訂正することを認める。 特許第5893117号の請求項1、3、4に係る特許を維持する。 特許第5893117号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5893117号の請求項1?4に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願(以下、「本件出願」という。)は、平成26年10月31日(優先権主張 同年7月11日)にされた特許出願であって、平成28年3月4日にその特許権の設定登録がされ、同年9月23日(受理日:同月26日)に特許異議申立人株式会社日本触媒(以下、「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において同年11月28日付けの取消理由(以下、「取消理由」という。)が通知され、平成29年1月30日(受理日:同月31日)に意見書が提出されるとともに訂正の請求(以下、「本件訂正の請求」という。)がされたので、特許異議申立人に対して特許法第120条の5第5項(以下、法令名省略)に基づく通知をしたところ、同年3月15日付け(受理日:同月16日)で意見書が提出されたものである。

第2 本件訂正の請求による訂正の適否
1 訂正の内容
本件訂正の請求による訂正の内容は、次のとおりである(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「当該吸水性樹脂を用いて下記の液流れ試験を行ったとき、式(I)で表される吸収体有効指数Kが250以上であることを特徴とする吸水性樹脂。」とあるのを、「当該吸水性樹脂を用いて下記の液流れ試験を行ったとき、式(I)で表される吸収体有効指数Kが250以上であり、人口尿吸収倍率が36.0g/g以上60.0g/g以下であることを特徴とする吸水性樹脂。」に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記液流れ量が5.0g以上50.0g/g以下である」とあるのを、「前記液流れ量が5.0g以上50.0g以下である」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項3に「請求項1又は2に記載の吸水性樹脂。」とあるのを、「請求項1に記載の吸水性樹脂。」に訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項4に「請求項1乃至3のいずれかに記載の吸水性樹脂を含む吸収体を用いてなる吸収性物品。」とあるのを、「請求項1又は3に記載の吸水性樹脂を含む吸収体を用いてなる吸収性物品。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否、一群の請求項ごとか否か
(1)訂正事項1
訂正事項1は、訂正前の請求項1に係る発明において人口尿吸収倍率を限定するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
また、訂正事項1は、明細書の【請求項2】、段落【0024】等に基づくものであるから、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲を減縮することを目的とするものに該当する。
また、訂正事項2は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3
訂正事項3は、請求項3が引用する請求項1の「液流れ量(g)」の記載にあわせて、訂正前の請求項3の「50.0g/g」を「50.0g」に訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4、5
訂正事項4、5は、請求項2が削除されたことに伴い、それぞれ、請求項3、4が従属する請求項から請求項2を削除するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項4、5は、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項1?5は、訂正後の請求項1?4についての訂正を含むものであるが、訂正前の請求項2?4は訂正前の請求項1を引用するものであるから、訂正前の請求項1?4は、一群の請求項である。よって、訂正事項1?5は、一群の請求項ごとに対して請求されたものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正の請求による訂正は第120条の5第2項第1号又は第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項並びに同条第9項において準用する第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1?4について訂正することを認める。

第3 請求項に係る発明
本件特許の請求項1?4係る発明(以下、順に「本件特許発明1」?「本件特許発明4という。)は、本件訂正の請求により訂正された特許請求の範囲の請求項1?4に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
水溶性エチレン性不飽和単量体と内部架橋剤と後架橋剤との重合体架橋物である吸水性樹脂であって、
当該吸水性樹脂を用いて下記の液流れ試験を行ったとき、式(I)で表される吸収体有効指数Kが250以上であり、
人口尿吸収倍率が36.0g/g以上60.0g/g以下であることを特徴とする吸水性樹脂。
吸収体有効指数K=液流れ量(g)×人工尿吸収倍率(g/g)・・・(I)
[液流れ試験]
大きさが16cm×12cmであるアクリル板上に、大きさが16cm×12cmであり坪量が22g/m^(2)である不織布を置き、該不織布の12cm×8cmの範囲に4.8gの吸水性樹脂を均一に散布したのちに上部から不織布を置いて挟んで測定サンプルとし、その上部に、内径3cmのシリンダー状投入部を中央に有し、大きさが48cm×28cmであり質量が840gであるアクリル板を、シリンダーの中央部が測定サンプルの中央部に一致するよう置き、液温25℃の人工尿120gをシリンダー状投入部から一度に投入して、アクリル板から流れ出た人工尿を計量して液流れ量(g)とする。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記液流れ量が5.0g以上50.0g以下である請求項1に記載の吸水性樹脂。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の吸水性樹脂を含む吸収体を用いてなる吸収性物品。」

第4 取消理由の概要
1 刊行物
甲第1号証:国際公開第2012/043821号(以下、「甲1」という。)
甲第2号証の1:実験成績証明書、作成日:平成28年7月6日、作成者:株式会社日本触媒吸水性樹脂研究所松本智嗣(以下、「甲2の1」という。)
甲第3号証:特開2005-344103号公報(以下、「甲3」という。)
甲第4号証:実験成績証明書、作成日:平成28年7月4日、作成者:株式会社日本触媒吸水性樹脂研究所松本智嗣(以下、「甲4」という。)
なお、甲1、甲2の1、甲3及び甲4は、何れも、特許異議申立人が提出した特許異議申立書に証拠として添付されたものである。
2 本件特許の請求項1?4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲1又は甲3に記載された発明であるから、第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであり、第113条第2号に該当し、本件特許の請求項1?4に係る特許は取り消すべきものである。
3 この出願は、特許請求の範囲の記載が以下の点で第36条第6項第2号の規定に適合するものではないから、第36条第6項に規定する要件を満たしていないものであり、第113条第4号に該当し、本件特許の請求項3、4に係る特許は取り消すべきものである。

第5 取消理由についての判断
1 第29条第1項第3号
(1)甲1の記載事項
ア「[0162] (4-2)吸収性物品
本発明の一形態としては、上述した吸収体を含む吸収性物品を含む。
[0163] 本発明における吸収性物品は、吸水やゲル化、保湿、止水、吸湿等を目的とした最終消費材である。当該最終消費材は、上記吸収体、液透過性を有する表面シート、液不透過性の背面シートを備えた吸収性物品であり、具体的には紙オムツ、失禁パット、生理用ナプキン等が挙げられ、特に好ましくは紙オムツである。尚、他の衛生材料にも適用することができる。
[0164] 更に本発明の吸収性物品(特に紙オムツ等の吸尿用物品)は、一度に多量の水性液を素早く吸収して拡散させることができ、更に長時間、吸水特性を維持させることができ、吸収した水性液の逆戻りもない。戻り量が少なく、ドライ感が良好のため、装着している本人や介護者の負担も軽減する。」([0162]-[0164])
イ「[0253] [製造例1]
内容積10Lのシグマ型羽根を2本有する双腕型のジャケット付きステンレス製ニーダーに蓋を付けて形成した反応器に、アクリル酸425.2g、37重量%のアクリル酸ナトリウム水溶液4499.5g、純水538.5g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)6.17g及びジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.21gを投入して反応液とした後、窒素ガス雰囲気下で20分間脱気した。
[0254] 続いて、10重量%の過硫酸ナトリウム水溶液28.3g及び0.1重量%のL-アスコルビン酸水溶液23.6gをそれぞれ別個に、上記反応液を攪拌しながら添加したところ、約25秒後に重合が開始した。そして、生成した含水ゲル状架橋重合体を解砕しながら25?95℃で重合し、重合開始から30分経過後に含水ゲル状架橋重合体を反応器から取り出した。尚、得られた含水ゲル状架橋重合体は、その径が約5mm以下に細粒化されていた。
[0255] 上記細粒化された含水ゲル状架橋重合体を、目開き300μm(50メッシュ)の金網上に広げ、170℃で65分間熱風乾燥をした後、ロールミルで粉砕し、更に目開きが850μmのJIS標準篩で分級、調合した。この一連の操作により、重量平均粒子径(D50)が458μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)が0.40である不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(1)を得た。得られた吸水性樹脂粒子(1)の無加圧下吸水倍率(CRC)は42[g/g]、水可溶分(Ext)は13重量%であった。」([0253]-[0255])
ウ「[0274] [実施例1]
表面架橋処理として、製造例1で得られた吸水性樹脂粒子(1)100重量部に、プロピレングリコール0.5重量部、1,4-ブタンジオール0.3重量部及び純水1.0重量部からなる表面架橋剤水溶液を均一に混合し、210℃で40分間加熱処理を行うことで表面架橋された吸水性樹脂(以下、「吸水性樹脂粉末」と表記する)(1)を得た。尚、当該加熱処理は、オイルバスに浸漬したステンレス製容器中で上記混合物を攪拌することで行った。得られた吸水性樹脂粉末(1)の諸性能を表2に示す。
[0275] 次いで、ポリカチオン添加処理として、上記吸水性樹脂粉末(1)100重量部に、27.5重量%(酸化アルミニウム換算で8重量%)の硫酸アルミニウム水溶液0.9重量部、60重量%の乳酸ナトリウム水溶液0.13重量部及びプロピレングリコール0.025重量部からなる混合液を添加した後、無風下、60℃で1時間乾燥した。その後、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して粒子状吸水剤(1)を得た。得られた粒子状吸水剤(1)の諸性能を表3に示す。」([0274]、[0275])
エ「[0300] [実施例11]
実施例1のポリカチオン添加処理に代えて、水不溶性微粒子(Aerosil(登録商標)200;日本アエロジル社製)0.10重量部を添加し混合した以外は、実施例1と同様の操作を行い、粒子状吸水剤(11)を得た。得られた粒子状吸水剤(11)の諸性能を表3に示す。」([0300])
オ「[0327] [比較例10]
実施例11において、水不溶性微粒子(Aerosil(登録商標)200;日本アエロジル社製)の添加量を1.0重量部に変更した以外は、実施例11と同様の操作を行い、比較粒子状吸水剤(10)を得た。得られた比較粒子状吸水剤(10)の諸性能を表3に示す。」([0327])

(2)甲1に記載された発明
上記(1)イ及びウからみて、甲1には実施例1として「内容積10Lのシグマ型羽根を2本有する双腕型のジャケット付きステンレス製ニーダーに蓋を付けて形成した反応器に、アクリル酸425.2g、37重量%のアクリル酸ナトリウム水溶液4499.5g、純水538.5g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)6.17g及びジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.21gを投入して反応液とした後、窒素ガス雰囲気下で20分間脱気し、続いて、10重量%の過硫酸ナトリウム水溶液28.3g及び0.1重量%のL-アスコルビン酸水溶液23.6gをそれぞれ別個に、上記反応液を攪拌しながら添加し、25秒後に重合が開始し、生成した含水ゲル状架橋重合体を解砕しながら25?95℃で重合し、重合開始から30分経過後に含水ゲル状架橋重合体を反応器から取り出し、尚、得られた含水ゲル状架橋重合体は、その径が5mm以下に細粒化されていて、上記細粒化された含水ゲル状架橋重合体を、目開き300μm(50メッシュ)の金網上に広げ、170℃で65分間熱風乾燥をした後、ロールミルで粉砕し、更に目開きが850μmのJIS標準篩で分級、調合し、この一連の操作により、重量平均粒子径(D50)が458μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)が0.40である不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(1)を得て、得られた吸水性樹脂粒子(1)の無加圧下吸水倍率(CRC)は42[g/g]、水可溶分(Ext)は13重量%であり、表面架橋処理として、当該吸水性樹脂粒子(1)100重量部に、プロピレングリコール0.5重量部、1,4-ブタンジオール0.3重量部及び純水1.0重量部からなる表面架橋剤水溶液を均一に混合し、210℃で40分間加熱処理を行うことで表面架橋された吸水性樹脂(以下、「吸水性樹脂粉末」と表記する)(1)を得て、次いで、ポリカチオン添加処理として、上記吸水性樹脂粉末(1)100重量部に、27.5重量%(酸化アルミニウム換算で8重量%)の硫酸アルミニウム水溶液0.9重量部、60重量%の乳酸ナトリウム水溶液0.13重量部及びプロピレングリコール0.025重量部からなる混合液を添加した後、無風下、60℃で1時間乾燥し、その後、目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕して得た粒子状吸水剤(1)。」(以下、「甲1実施例発明」という。)が記載されているといえる。
また、上記(1)エ及びオからみて、甲1には比較例10として「内容積10Lのシグマ型羽根を2本有する双腕型のジャケット付きステンレス製ニーダーに蓋を付けて形成した反応器に、アクリル酸425.2g、37重量%のアクリル酸ナトリウム水溶液4499.5g、純水538.5g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)6.17g及びジエチレントリアミン5酢酸3ナトリウム0.21gを投入して反応液とした後、窒素ガス雰囲気下で20分間脱気し、続いて、10重量%の過硫酸ナトリウム水溶液28.3g及び0.1重量%のL-アスコルビン酸水溶液23.6gをそれぞれ別個に、上記反応液を攪拌しながら添加し、25秒後に重合が開始し、生成した含水ゲル状架橋重合体を解砕しながら25?95℃で重合し、重合開始から30分経過後に含水ゲル状架橋重合体を反応器から取り出し、尚、得られた含水ゲル状架橋重合体は、その径が5mm以下に細粒化されていて、上記細粒化された含水ゲル状架橋重合体を、目開き300μm(50メッシュ)の金網上に広げ、170℃で65分間熱風乾燥をした後、ロールミルで粉砕し、更に目開きが850μmのJIS標準篩で分級、調合し、この一連の操作により、重量平均粒子径(D50)が458μm、粒度分布の対数標準偏差(σζ)が0.40である不定形破砕状の吸水性樹脂粒子(1)を得て、得られた吸水性樹脂粒子(1)の無加圧下吸水倍率(CRC)は42[g/g]、水可溶分(Ext)は13重量%であり、表面架橋処理として、当該吸水性樹脂粒子(1)100重量部に、プロピレングリコール0.5重量部、1,4-ブタンジオール0.3重量部及び純水1.0重量部からなる表面架橋剤水溶液を均一に混合し、210℃で40分間加熱処理を行うことで表面架橋された吸水性樹脂(以下、「吸水性樹脂粉末」と表記する)(1)を得て、次いで、上記吸水性樹脂粉末(1)100重量部に、水不溶性微粒子(Aerosil(登録商標)200;日本アエロジル社製)1.0重量部を添加し混合して得た比較粒子状吸水剤(10)。」(以下、「甲1比較例発明」という。)が記載されているといえる。

(3)甲3の記載事項
ア「【0079】
〔吸水体〕
本発明によって得られる吸水剤は、適当な素材と組み合わせることにより、たとえば、衛生材料の吸収層として好適な吸水体とすることができる。以下、吸水体について説明する。
【0080】
吸水体とは、血液や体液、尿などを吸収する、紙おむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、医療用パッド等の衛生材料に用いられる、吸水剤とその他の素材からなる成形された組成物のことであり、用いられる素材の例としては、たとえば、セルロース繊維が挙げられる。セルロース繊維の具体例としては、木材からのメカニカルパルプ、ケミカルパルプ、セミケミカルパルプ、溶解パルプ等の木材パルプ繊維、レーヨン、アセテート等の人工セルロース繊維等を例示できる。好ましいセルロース繊維は木材パルプ繊維である。これらセルロース繊維はナイロン、ポリエステル等の合成繊維を一部含有していてもよい。本発明によって得られる吸水剤を吸水体の一部として使用する際には、吸水体中に含まれる本発明によって得られる吸水剤の質量が、好ましくは20質量%以上の範囲である。吸水体中に含まれる本発明によって得られる吸水剤の質量が、20質量%未満になると、十分な効果が得られなくなるおそれがある。
【0081】
本発明によって得られる吸水剤とセルロース繊維から吸水体を得るには、たとえば、セルロース繊維からなる紙やマットに吸水剤を散布し、必要によりこれらで挟持する方法、セルロース繊維と吸水剤を均一にブレンドする方法、など吸水体を得るための公知の手段を適宜選択できる。好ましくは、吸水剤とセルロース繊維を乾式混合した後、圧縮する方法である。この方法により、セルロース繊維からの吸水剤の脱落を著しく抑えることが可能である。圧縮は加熱下に行うことが好ましく、その温度範囲は、たとえば50?200℃である。また、吸水体を得るために、特表平9-509591号公報や特開平9-290000号公報に記載されている方法も好ましく用いられる。
【0082】
本発明によって得られる吸水剤は、吸水体に使用された場合、諸物性に優れるため、液の取り込みが早く、また、吸水体表層の液の残存量が少ない、非常に優れた吸水体が得られる。
【0083】
本発明によって得られる吸水剤は、優れた吸水特性を有しているため、種々の用途の吸水保水剤として使用できる。例えば、紙おむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、医療用パッド等の吸収物品用吸水保水剤;水苔代替、土壌改質改良剤、保水剤、農薬効力持続剤等の農園芸用保水剤;内装壁材用結露防止剤、セメント添加剤等の建築用保水剤;リリースコントロール剤、保冷剤、使い捨てカイロ、汚泥凝固剤、食品用鮮度保持剤、イオン交換カラム材料、スラッジまたはオイルの脱水剤、乾燥剤、湿度調整材料等で使用できる。また、本発明によって得られる吸水剤は、紙おむつ、生理用ナプキンなどの、糞、尿または血液の吸収用衛生材料に特に好適に用いられる。
【0084】
吸水体は、紙おむつ、生理用ナプキン、失禁パッド、医療用パッド等の衛生材料に用いられる場合、(a)着用者の体に隣接して配置される液体透過性のトップシート、(b)着用者の身体から遠くに、着用者の衣類に隣接して配置される、液体に対して不透過性のバックシート、および(c)トップシートとバックシートの間に配置された吸水体、を含んでなる構成で使用されることが好ましい。吸水体は二層以上であっても良いし、パルプ層などとともに用いても良い。」(段落【0079】?【0084】)
イ「【0116】
・・・
<ペイントシェーカーテスト>
ペイントシェーカーテスト(PS)とは、直径6cm、高さ11cmのガラス製容器に、直径6mmのガラスビーズ10g、吸水性樹脂粒子または吸水剤30gを入れてペイントシェーカー(東洋製機製作所 製品No.488)に取り付け、800cycle/min(CPM)で振盪するものであり、装置詳細は特開平9-235378号公報に開示されている。
【0117】
振盪時間を30分間としたものをペイントシェーカーテスト1、10分間としたものをペイントシェーカーテスト2とする。
【0118】
浸透後、目開き2mmのJIS標準篩でガラスビーズを除去し、ダメージを与えられた吸水性樹脂粒子または吸水剤が得られる。
【0119】
(製造例1)
シグマ型羽根を2本有する内容積10リットルのジャケット付きステンレス型双腕型ニーダーに蓋を付けて形成した反応器中で、アクリル酸505.6g、37質量%アクリル酸ナトリウム水溶液4430.8g、純水497.0g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)12.79gを溶解させて反応液とした。次にこの反応液を窒素ガス雰囲気下で、20分間脱気した。続いて、反応液に10質量%過硫酸ナトリウム水溶液29.34gおよび0.1質量%L-アスコルビン酸水溶液24.45gを攪拌しながら添加したところ、およそ1分後に重合が開始した。そして、生成したゲルを粉砕しながら、20?95℃で重合を行い、重合が開始して30分後に含水ゲル状架橋重合体を取り出した。得られた含水ゲル状架橋重合体は、その径が約5mm以下に細分化されていた。
【0120】
この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き600μmと目開き150μmのJIS標準篩で分級することにより、質量平均粒子径350μmの不定形破砕状の吸水性樹脂(1)を得た。吸水性樹脂(1)の遠心分離機保持容量(CRC)は33.0g/g、水可溶分は9.0質量%であった。
【0121】
得られた吸水性樹脂(1)100質量部に1,4-ブタンジオール0.4質量部、プロピレングリコール0.6質量部、純水3.0質量部の混合液からなる表面処理剤を均一に混合した後、混合物を200℃で30分間加熱処理した。さらに、その粒子を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕した。次に、この粒子に前記ペイントシェーカーテスト1を行った。こうして、表面が架橋された吸水性樹脂粒子(A)を得た。
【0122】
吸水性樹脂粒子(A)についての各種物性を表1に示した。
【0123】
(実施例1)
水道用液体硫酸アルミニウム27質量%溶液(浅田化学工業株式会社製)2質量部に対し、90%乳酸(株式会社武蔵野化学研究所製)0.02質量部を混合し、透明な均一溶液を得た。
【0124】
吸水性樹脂粒子(A)100質量部にこの水溶液2.02質量部を攪拌下均一に混合し、60℃で1時間乾燥させた。得られた乾燥物を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕した。次に、この粒子に前記ペイントシェーカーテスト2を行った。こうして、吸水剤(1)を得た。」(段落【0116】?【0124】)
ウ「【0132】
(実施例5)
90%乳酸の代わりに50%乳酸ナトリウム水溶液(株式会社武蔵野化学研究所製)0.02質量部を用いた以外は実施例1と同様に行った。水道用液体硫酸アルミニウム27質量%溶液と50%乳酸ナトリウム水溶液とを混合して得られた溶液(2.02質量部)は透明で均一な溶液であった。こうして、吸水剤(5)を得た。
【0133】
吸水剤(5)についての各種物性を表1に示した。
【0134】
(実施例6)
50%乳酸ナトリウム水溶液の混合量を0.4質量部に変更した以外は実施例5と同様に行った。水道用液体硫酸アルミニウム27質量%溶液と50%乳酸ナトリウム水溶液とを混合して得られた溶液(2.4質量部)は透明で均一な溶液であった。こうして、吸水剤(6)を得た。」(段落【0132】?【0134】)
エ「【0162】
(製造例2)
断熱材である発泡スチロールで覆われた、内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸185.4g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.942g(0.07モル%:対アクリル酸)、および、1.0質量%ジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム水溶液1.13gを混合した溶液(A)と、48.5質量%水酸化ナトリウム水溶液148.53gと50℃に調温したイオン交換水159.71gを混合した溶液(B)を、マグネチィックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系ですばやく加えて混合した。中和熱と溶解熱で液温が約100℃まで上昇した単量体水溶液が得られた。
【0163】
得られた単量体水溶液に3質量%の過硫酸ナトリウム水溶液4.29gを加え、数秒攪拌した後に、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000、(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注いだ。ステンレス製バット型容器は、そのサイズが底面250×250mm、上面640×640mm、高さ50mmであり、中心断面が台形で、上面が開放されていた。
【0164】
単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始した。水蒸気を発生して上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮した。この膨張収縮は約1分以内に終了し、4分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出した。
【0165】
得られた含水重合体を、ダイス径9.5mmのミートチョッパー(ROYAL MEAT CHOPPER VR400K、飯塚工業株式会社製)により粉砕し、細分化された含水重合体を得た。
【0166】
この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き850μmと目開き150μmのJIS標準篩で分級することにより、質量平均粒子径450μmの不定形破砕状の吸水性樹脂(2)を得た。吸水性樹脂(2)の遠心分離機保持容量(CRC)は36.0g/g、水可溶分は12.0質量%であった。
【0167】
得られた吸水性樹脂(2)100質量部に1,4-ブタンジオール0.4質量部、プロピレングリコール0.6質量部、純水3.0質量部の混合液からなる表面処理剤を均一に混合した後、混合物を200℃で30分間加熱処理した。さらに、その粒子を目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕した。次に、この粒子に前記ペイントシェーカーテスト1を行った。こうして、表面が架橋された吸水性樹脂粒子(B)を得た。」(段落【0162】?【0167】)
オ「【0171】
(実施例19)
実施例6において、吸水性樹脂粒子(B)を用いた以外は実施例6と同様に行った。こうして、吸水剤(19)を得た。」(段落【0171】)

(4)甲3に記載された発明
上記(3)イ?オからみて、甲3の実施例19には「断熱材である発泡スチロールで覆われた、内径80mm、容量1リットルのポリプロピレン製容器に、アクリル酸185.4g、ポリエチレングリコールジアクリレート(分子量523)0.942g(0.07モル%:対アクリル酸)、および、1.0質量%ジエチレントリアミン5酢酸・5ナトリウム水溶液1.13gを混合した溶液(A)と、48.5質量%水酸化ナトリウム水溶液148.53gと50℃に調温したイオン交換水159.71gを混合した溶液(B)を、マグネチィックスターラーで攪拌しながら(A)に(B)を開放系ですばやく加えて混合し、中和熱と溶解熱で液温が100℃まで上昇した単量体水溶液を得て、得られた単量体水溶液に3質量%の過硫酸ナトリウム水溶液4.29gを加え、数秒攪拌した後に、ホットプレート(NEO HOTPLATE H1-1000、(株)井内盛栄堂製)により表面温度を100℃まで加熱された、内面にテフロン(登録商標)を貼り付けた底面250×250mmのステンレス製バット型容器中に開放系で注いで、ステンレス製バット型容器は、そのサイズが底面250×250mm、上面640×640mm、高さ50mmであり、中心断面が台形で、上面が開放されていて、単量体水溶液がバットに注がれて間もなく重合は開始し、水蒸気を発生して上下左右に膨張発泡しながら重合は進行し、その後、底面よりもやや大きなサイズにまで収縮し、この膨張収縮は1分以内に終了し、4分間重合容器中に保持した後、含水重合体を取り出し、得られた含水重合体を、ダイス径9.5mmのミートチョッパー(ROYAL MEAT CHOPPER VR400K、飯塚工業株式会社製)により粉砕し、細分化された含水重合体を得て、この細分化された含水ゲル状架橋重合体を50メッシュの金網上に広げ、180℃で50分間熱風乾燥を行い、乾燥物をロールミルを用いて粉砕し、さらに目開き850μmと目開き150μmのJIS標準篩で分級することにより、質量平均粒子径450μmの不定形破砕状の吸水性樹脂(2)を得て、得られた吸水性樹脂(2)100質量部に1,4-ブタンジオール0.4質量部、プロピレングリコール0.6質量部、純水3.0質量部の混合液からなる表面処理剤を均一に混合した後、混合物を200℃で30分間加熱処理し、さらに、その粒子を目開き850μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、次に、この粒子にペイントシェーカーテスト1(直径6cm、高さ11cmのガラス製容器に、直径6mmのガラスビーズ10g、吸水性樹脂粒子または吸水剤30gを入れてペイントシェーカー(東洋製機製作所 製品No.488)に取り付け、800cycle/min(CPM)で30分間振盪した後、目開き2mmのJIS標準篩でガラスビーズを除去し、ダメージを与えられた吸水性樹脂粒子または吸水剤が得られる)を行い、こうして、表面が架橋された吸水性樹脂粒子(B)を得て、水道用液体硫酸アルミニウム27質量%溶液(浅田化学工業株式会社製)2質量部に対し、50%乳酸ナトリウム水溶液(株式会社武蔵野化学研究所製)0.4質量部を混合し、透明な均一溶液を得て、吸水性樹脂粒子(B)100質量部に当該透明な均一溶液2.4質量部を攪拌下均一に混合し、60℃で1時間乾燥させて、得られた乾燥物を目開き600μmのJIS標準篩を通過するまで解砕し、次に、この粒子にペイントシェーカーテスト2(直径6cm、高さ11cmのガラス製容器に、直径6mmのガラスビーズ10g、吸水性樹脂粒子または吸水剤30gを入れてペイントシェーカー(東洋製機製作所 製品No.488)に取り付け、800cycle/min(CPM)で10分間振盪した後、目開き2mmのJIS標準篩でガラスビーズを除去し、ダメージを与えられた吸水性樹脂粒子または吸水剤が得られる)を行い、こうして得た吸水剤(19)。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

(5)本件特許発明1
ア 甲1実施例発明との対比、判断
甲1実施例発明の「アクリル酸」及び「アクリル酸ナトリウム」は、本件特許発明1の「水溶性エチレン性不飽和単量体」に相当し、甲1実施例発明の「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件特許発明1の「内部架橋剤」に相当し、甲1実施例発明の「プロピレングリコール」及び「1,4-ブタンジオール」は、本件特許発明1の「後架橋剤」に相当すると認められる。
また、甲1実施例発明の「粒子状吸水剤(1)」は、「アクリル酸」と「アクリル酸ナトリウム」と「ポリエチレングリコールジアクリレート」と「プロピレングリコール」と「1,4-ブタンジオール」との重合体架橋物であるから、本件特許発明1の「吸水性樹脂」に相当する。
本件特許発明1と甲1実施例発明とを対比すると、両者は「水溶性エチレン性不飽和単量体と内部架橋剤と後架橋剤との重合体架橋物である吸水性樹脂。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1では、吸水性樹脂を用いて液流れ試験を行ったとき、式(I):吸収体有効指数K=液流れ量(g)×人工尿吸収倍率(g/g)で表される吸収体有効指数Kが250以上であるのに対して、甲1実施例発明では、そのような特定がされていない点。
(相違点2)本件特許発明1では、人口尿吸収倍率が36.0g/g以上60.0g/g以下であるのに対して、甲1実施例発明では、そのような特定がされていない点。
事案に鑑みて始めに上記相違点2について検討すると、甲2の1の実験成績証明書によれば、甲1実施例発明の粒子状吸水剤(1)の人口尿吸収倍率は32.4g/gであると認められるので、両者はこの点において実質的に相違している。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1と甲1実施例発明は実質的に相違するものであるから、本件特許発明1は、第29条第1項第3号に該当するものではない。

イ 甲1比較例発明との対比、判断
甲1比較例発明の「アクリル酸」及び「アクリル酸ナトリウム」は、本件特許発明1の「水溶性エチレン性不飽和単量体」に相当し、甲1比較例発明の「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、本件特許発明1の「内部架橋剤」に相当し、甲1比較例発明の「プロピレングリコール」及び「1,4-ブタンジオール」は、本件特許発明1の「後架橋剤」に相当すると認められる。
また、甲1比較例発明の「比較粒子状吸水剤(10)」は、「アクリル酸」と「アクリル酸ナトリウム」と「ポリエチレングリコールジアクリレート」と「プロピレングリコール」と「1,4-ブタンジオール」との重合体架橋物であるから、本件特許発明1の「吸水性樹脂」に相当する。
本件特許発明1と甲1比較例発明とを対比すると、両者は「水溶性エチレン性不飽和単量体と内部架橋剤と後架橋剤との重合体架橋物である吸水性樹脂。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1では、吸水性樹脂を用いて液流れ試験を行ったとき、式(I):吸収体有効指数K=液流れ量(g)×人工尿吸収倍率(g/g)で表される吸収体有効指数Kが250以上であるのに対して、甲1比較例発明では、そのような特定がされていない点。
(相違点2)本件特許発明1では、人口尿吸収倍率が36.0g/g以上60.0g/g以下であるのに対して、甲1比較例発明では、そのような特定がされていない点。
事案に鑑みて始めに上記相違点2について検討すると、甲2の1の実験成績証明書によれば、甲1比較例発明の比較粒子状吸水剤(10)の人口尿吸収倍率は34.1g/gであると認められるので、両者はこの点において実質的に相違している。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1と甲1比較例発明は実質的に相違するものであるから、本件特許発明1は、第29条第1項第3号に該当するものではない。

ウ 甲3発明との対比、判断
甲3発明の「アクリル酸」、「ポリエチレングリコールジアクリレート」は、それぞれ、本件特許発明1の「水溶性エチレン性不飽和単量体」、「内部架橋剤」に相当し、甲3発明の「1,4-ブタンジオール」及び「プロピレングリコール」は、本件特許発明1の「後架橋剤」に相当すると認められる。
また、甲3発明の「吸水剤(19)」は、「アクリル酸」と「ポリエチレングリコールジアクリレート」と「1,4-ブタンジオール」と「プロピレングリコール」との重合体架橋物であるから、本件特許発明1の「吸水性樹脂」に相当する。
本件特許発明1と甲3発明とを対比すると、両者は「水溶性エチレン性不飽和単量体と内部架橋剤と後架橋剤との重合体架橋物である吸水性樹脂。」の点で一致し、以下の点で相違する。
(相違点1)本件特許発明1では、吸水性樹脂を用いて液流れ試験を行ったとき、式(I):吸収体有効指数K=液流れ量(g)×人工尿吸収倍率(g/g)で表される吸収体有効指数Kが250以上であるのに対して、甲3発明では、そのような特定がされていない点。
(相違点2)本件特許発明1では、人口尿吸収倍率が36.0g/g以上60.0g/g以下であるのに対して、甲3発明では、そのような特定がされていない点。
事案に鑑みて始めに上記相違点2について検討すると、甲4の実験成績証明書によれば、甲3発明の吸水剤(19)の人口尿吸収倍率は30.0g/gであると認められるので、両者はこの点において実質的に相違している。
よって、相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1と甲3発明は実質的に相違するものであるから、本件特許発明1は、第29条第1項第3号に該当するものではない。

(6)本件特許発明3、4
本件特許の訂正後の請求項1を直接的又は間接的に引用する訂正後の請求項3、4に係る本件特許発明3、4は、本件特許発明1と同様に、甲1又は甲3に記載された発明ではなく、第29条第1項第3号に該当するものではない。

2 第36条第6項第2号
・請求項3、4
請求項1の「液流れ試験」の記載からみて、液流れ量の単位は「g」であるから、請求項3の「前記液流れ量が5.0g以上50.0g以下である」との記載は明瞭である。
また、当該請求項3を引用する請求項4の記載も明瞭である。
したがって、特許請求の範囲の記載は、第36条第6項第2号の規定に適合するものである。

第6 結語
上記第5のとおり、本件特許の請求項1、3、4に係る発明は、その出願前日本国内または外国において頒布された甲1又は甲3に記載された発明ではなく、第29条第1項第3号に該当せず、取消理由(第29条第1項第3号)によっては、請求項1、3、4に係る特許を取り消すことはできない。
また、本件出願は、特許請求の範囲の記載が第36条第6項第2号の規定に適合するものであるから、取消理由(第36条第6項第2号)によっては、本件特許の請求項3、4に係る特許を取り消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項1、3、4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
そして、請求項2に係る特許は、本件訂正の請求による訂正により削除されたため、請求項2に対してする特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。

よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性エチレン性不飽和単量体と内部架橋剤と後架橋剤との重合体架橋物である吸水性樹脂であって、
当該吸水性樹脂を用いて下記の液流れ試験を行ったとき、式(I)で表される吸収体有効指数Kが250以上であり、
人工尿吸収倍率が36.0g/g以上60.0g/g以下であることを特徴とする吸水性樹脂。
吸収体有効指数K=液流れ量(g)×人工尿吸収倍率(g/g) ・・・(I)
[液流れ試験]
大きさが16cm×12cmであるアクリル板上に、大きさが16cm×12cmであり坪量が22g/m^(2)である不織布を置き、該不織布の12cm×8cmの範囲に4.8gの吸水性樹脂を均一に散布したのちに上部から不織布を置いて挟んで測定サンプルとし、その上部に、内径3cmのシリンダー状投入部を中央に有し、大きさが48cm×28cmであり質量が840gであるアクリル板を、シリンダーの中央部が測定サンプルの中央部に一致するよう置き、液温25℃の人工尿120gをシリンダー状投入部から一度に投入して、アクリル板から流れ出た人工尿を計量して液流れ量(g)とする。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記液流れ量が5.0g以上50.0g以下である請求項1に記載の吸水性樹脂。
【請求項4】
請求項1又は3に記載の吸水性樹脂を含む吸収体を用いてなる吸収性物品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-30 
出願番号 特願2014-223722(P2014-223722)
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (C08F)
P 1 651・ 113- YAA (C08F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 久保田 英樹  
特許庁審判長 小野寺 務
特許庁審判官 前田 寛之
守安 智
登録日 2016-03-04 
登録番号 特許第5893117号(P5893117)
権利者 住友精化株式会社
発明の名称 吸水性樹脂及び吸収性物品  
代理人 関口 正夫  
代理人 関口 正夫  
代理人 仲野 孝雅  
代理人 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK  
代理人 鎌田 久男  
代理人 仲野 孝雅  
代理人 鎌田 久男  

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