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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C22F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C22F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C22F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22F
管理番号 1327886
異議申立番号 異議2016-700760  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-08-23 
確定日 2017-04-11 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5869624号発明「Ni基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5869624号の明細書、特許請求の範囲及び図面を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲及び図面のとおり、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正することを認める。 特許第5869624号の請求項1?5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5869624号の請求項1?5に係る特許についての出願は、平成26年6月18日の出願であって、平成28年1月15日に特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人森山泰行(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審において同年11月9日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年1月13日に意見書の提出及び訂正の請求があり、その訂正の請求に対して異議申立人から同年2月22日付けで意見書が提出され、特許権者から同年3月27日付けで訂正請求書に対する手続補正書が提出されたものである(当該手続補正書により補正された訂正の請求を、以下、「本件訂正請求」という。)。

なお、上記訂正請求書に対する手続補正は、いずれも、訂正請求書及び添付された訂正明細書の記載のうち、願書に添付した明細書の【0007】に対する訂正事項5に関する記載について、「Ni基合金軟化材」とすべきところを「Ni基合金」としていたため、その明らかな誤記を補正するものであって、特許請求の範囲の記載について補正するものではないし、また、当該訂正事項5は、以下の第2 2(5)での検討のとおり、訂正事項1に係る訂正によって生じる請求項1の記載と、発明の詳細な説明の記載との不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、当該手続補正については、異議申立人に意見を求めなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下の訂正事項1?7のとおりである(当審注:下線は訂正箇所を示すため合議体が付与した。以下、同様である。)。
(1) 訂正事項1
請求項1に「Ni基合金を軟化させて加工性を向上させる工程を含み、
前記Ni基合金を軟化させて加工性を向上させる工程は、Ni基合金をγ´相の固溶温度以下の温度で熱間鍛造する第1の工程と、γ´相の固溶温度以下の温度から徐冷をしてNi基合金の母相であるγ相と非整合なγ´相の量を増加させて20体積%以上析出させる第2の工程と、を含むことを特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材の製造方法。」とあるのを、「γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、
次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み、
前記軟化処理工程は、前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であり、前記Ni基合金素材を前記γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程と、前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程と、を含むことを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。」に訂正する(請求項1を引用する請求項2?5も同様に訂正する。)。

ここで、上記訂正事項1は、以下の訂正事項に分けられる。
ア 訂正事項1-1
請求項1の冒頭に、「γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、」を追加するとともに、同末尾の「γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材の製造方法」を「Ni基合金軟化材の製造方法」とする。

イ 訂正事項1-2
「Ni基合金を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程を含み」を、「次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み」とする。

ウ 訂正事項1-3
訂正事項1-2で特定した「軟化処理工程」について、「前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程」であることを追加するとともに、「第1の工程」の「熱間鍛造」の温度である「γ´相の固溶温度以下の温度」を「前記γ´相の固溶温度未満の温度」とし、「第2の工程」の「徐冷」の開始温度である「γ´相の固溶温度以下の温度」を「前記γ´相の固溶温度未満の温度」とする。

エ 訂正事項1-4
「第1の工程」について、「Ni基合金」を「前記Ni基合金素材」とする。

オ 訂正事項1-5
「第2の工程」の「徐冷」を「100℃/h以下の冷却速度で」することを追加する。

カ 訂正事項1-6
「第2の工程」について、「徐冷をしてNi基合金の母相であるγ相と非整合なγ´相の量を増加させて20体積%以上析出させる」を「徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る」とする。

(2) 訂正事項2
請求項2に「前記第2の工程の徐冷開始温度が前記第1の工程における熱間鍛造の鍛造終了温度以上かつ、γ´相の固溶温度以下であることを特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材の製造方法。」とあるのを、「前記第2の工程の徐冷開始温度が前記第1の工程における熱間鍛造の鍛造終了温度以上かつ、γ´相の固溶温度未満であることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。」に訂正する(請求項2を引用する請求項3?5も同様に訂正する。)。

(3) 訂正事項3
請求項3に「特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材の製造方法。」とあるのを、「特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。」に訂正する(請求項3を引用する請求項4?5も同様に訂正する。)。

(4) 訂正事項4
請求項4に「特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材の製造方法。」とあるのを、「特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。」に訂正する(請求項4を引用する請求項5も同様に訂正する。)。

(5) 訂正事項5
願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の【0007】に「本発明に係るNi基合金軟化材(γ´相の固溶温度が1050℃以上)の製造方法は、Ni基合金を軟化させて加工性を向上させる工程を含み、該Ni基合金を軟化させて加工性を向上させる工程は、Ni基合金をγ´相の固溶温度以下の温度で熱間鍛造する第1の工程と、γ´相の固溶温度以下の温度から徐冷をしてNi基合金の母相であるγ相と非整合なγ´相の量を20体積%以上析出させる第2の工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明に係るNi基合金(γ´相の固溶温度が1050℃以上)部材の製造方法は、上記Ni基合金軟化材の製造方法によって得られたNi基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程と、該加工工程後に非整合γ´相を固溶させる溶体化処理及び、整合γ´相を再析出させる時効処理をしてNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程と、を含むことを特徴とする。」とあるのを、「本発明に係るNi基合金軟化材(γ´相の固溶温度が1050℃以上)の製造方法は、
γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、
次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み、
前記軟化処理工程は、前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であり、前記Ni基合金素材を前記γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程と、前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明に係るNi基合金(γ´相の固溶温度が1050℃以上)部材の製造方法は、上記Ni基合金軟化材の製造方法によって得られたNi基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程と、該加工工程後に非整合γ´相を固溶させる溶体化処理及び、整合γ´相を再析出させる時効処理をしてNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程と、を含むことを特徴とする。」に訂正する。

(6) 訂正事項6
本件明細書の【0014】、【0021】、【0022】、【0023】、【0025】、【0026】、【0054】及び【0055】に「γ´相の固溶温度以下」とあるのを、「γ´相の固溶温度未満」に訂正する。

(7) 訂正事項7
願書に添付した図面の図6に「γ´相の固溶温度以下」とあるのを、「γ´相の固溶温度未満」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、一群の請求項、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
ア 訂正事項1-1
訂正事項1-1は、請求項1の冒頭に「γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、」を追加するとともに、同末尾の「特徴とする、γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金軟化材の製造方法」を「特徴とするNi基合金軟化材の製造方法」とするものであって、実質的な内容を変更するものではなく、請求項の記載を全体として分かりやすく明瞭にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

イ 訂正事項1-2
訂正事項1-2は、訂正事項1-1で特定した「γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法」が、「Ni基合金を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程」を含むものであったのを、「次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と」を含む」ことに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1-2に関連する記載として、本件明細書の【0017】には、「本発明に係るNi基合金部材の製造方法は、素材であるNi基鋳造合金又は鋳造後に鍛造することで得られるNi基鍛造合金のいずれかを得るための素材準備工程(S1)と、Ni基合金素材を軟化処理してNi基合金軟化材を得る軟化処理工程(S2)と、Ni基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程(S4)と、加工工程後に溶体化処理及び時効処理してNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程(S5)とを含む。また、軟化処理工程(S2)は、第1の軟化処理工程(S21)と第2の軟化処理工程(S22)とを含む。」(当審注:下線は当審が付与した。以下同様である。)と記載されており、また、同【0018】には、「本発明において、素材準備工程(S1)を行って得られるものを「Ni基合金素材」と称し、軟化処理工程(S2)を行って得られる物を「Ni基合金軟化材」と称し」と記載されていることから、Ni基合金軟化材の製造方法が、次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程とを含んでいることは明らかである。
したがって、訂正事項1-2は、新規事項の追加に該当しない。

ウ 訂正事項1-3
訂正事項1-3による訂正のうち、訂正事項1-2で特定した「軟化処理工程」について、「前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程」であることを追加すること(以下、「訂正事項1-3A」という。)は、上記「軟化処理工程」が、「前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程」であることを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、訂正事項1-3による訂正のうち、「第1の工程」の「熱間鍛造」の温度である「γ´相の固溶温度以下の温度」を「前記γ´相の固溶温度未満の温度」とし、「第2の工程」の「徐冷」の開始温度である「γ´相の固溶温度以下の温度」を「前記γ´相の固溶温度未満の温度」とすること(以下、「訂正事項1-3B」という。)について検討する。
「第1の工程」及び「第2の工程」の処理温度について、本件明細書の【0021】?【0026】には、いずれも、「γ´相の固溶温度以下」と記載されている。なお、本件明細書の「第1の軟化処理工程」、「第2の軟化処理工程」が、上記「第1の工程」、「第2の工程」にそれぞれ対応する。
ここで、同【0015】には、「本発明は、γ´相を減少または消失させた状態で加工するのではなく、γ´相の強化機能をなくすことで加工性を向上させるものである。」と記載されていることから、上記「軟化処理工程」は、γ´相を減少または消失させることなく、γ´相の強化機能をなくすための処理工程であるといえる。
そして、同【0005】には、「γ´相の固溶温度が1050℃以上である高強度Ni基合金・・・γ´相の固溶温度が上述のように高い材料では、固溶温度以上で熱間鍛造すると、粒界移動を抑制し結晶粒の微細化に寄与するγ´相が消失するため、γ相の粒径が粗大化し、製品使用時の引張強度や疲労強度が低下する。」と記載されており、また、同【0026】には、「第2の軟化処理工程」について、「γ´相の固溶温度以上では非整合γ´相が消失してしまうからである」と記載されていることからすると、「熱間鍛造する第1の工程」及び「徐冷」をする「第2の工程」は、いずれも、γ´相を減少又は消失させないように、γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされることは明らかである。
そうすると、本件明細書の記載から、訂正前の「第1の工程」及び「第2の工程」の「γ´相の固溶温度以下の温度」は、いずれも正しくは、「γ´相の固溶温度未満の温度」であると認められる。
したがって、訂正事項1-3Bは、特許明細書との記載との関係において不合理な記載を正すものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正後の「軟化処理工程」は、「第1の工程」及び「第2の工程」を含むものであり、γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であるといえるから、訂正事項1-3Aも、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
以上から、訂正事項1-3は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

エ 訂正事項1-4
訂正事項1-4は、訂正事項1-1で特定した「NI基合金素材」と記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

オ 訂正事項1-5
訂正事項1-5は、「第2の工程」の「徐冷」について、「100℃/h以下の冷却速度で」することを限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
そして、訂正事項1-5に関連する記載として、本件明細書の【0025】には、「このとき、徐冷速度(T_(A)/t)が遅いほど非整合γ´相を成長させることが可能で、50℃/h以下が好ましく、10℃/h以下がより好ましい。100℃/hより早いと、非整合γ´相を十分に成長させられず、冷却過程で整合γ´相が析出して、本発明の効果が得られない。」と記載されており、当該記載から、徐冷速度は、100℃/h以下で行うことは明らかであるから、訂正事項1-5は、新規事項の追加に該当しない。

カ 訂正事項1-6
訂正事項1-6に関連する記載として、本件明細書の【0022】には、「この熱間鍛造の後に冷却すると、図2の(I)に示すように、γ相(符号4)の粒界上に非整合γ´相(符号6)が析出する。符号5で示した析出物は、第1の軟化処理工程後の冷却中にγ相粒内に析出した整合γ´相である。なお、本発明において「γ相の粒界上」とは、「隣り合うγ結晶粒の境界」を意味するものとする。」と記載されており、また、同【0025】には、「第2の軟化処理工程では、γ´相の固溶温度以下でかつ前述の第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度以上の温度(T_(3))まで昇温し、γ相中に析出した整合γ´相を固溶させることで、主にγ相と非整合γ´相からなる2相組織とし(図2(II))、その後、温度T_(2)まで徐冷を行い、非整合γ´相を成長させることで、主に徐冷終了時の温度から室温までの冷却過程で析出する整合γ´相を減少させられるため、加工性を向上させることが出来る」と記載されており、さらに、同【0027】には、「上記第2の軟化処理工程において、前述の通り非整合γ´相を増加させるほど、加工性を向上させることが可能となるので、非整合γ´相の量は20体積%以上が好ましく」と記載されていることから、第2の軟化処理工程(第2の工程)では、徐冷をすることによりNi基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を形成していることは明らかである。
そうすると、訂正事項1-6による訂正は、「徐冷をして」を「徐冷をすることにより」とすることによって、その後に続く、「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る」ことが、「徐冷」をすることによるものであることを特定して、「徐冷」をすることと、「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る」こととの関係を明瞭にするとともに、訂正前の「Ni基合金の母相であるγ相と非整合なγ´相の量を増加させて20体積%以上析出させる」ことについて、「非整合なγ´相」の析出した箇所が、「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上」であること、及び、「非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る」ものであることを明瞭にするものである。
したがって、訂正事項1-6は、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2は、訂正事項1に係る訂正によって生じる請求項1の記載と、当該請求項1を引用する請求項2の記載との不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3) 訂正事項3について
訂正事項3は、訂正事項1に係る訂正によって生じる請求項1の記載と、当該請求項1を引用する請求項3の記載との不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(4) 訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1に係る訂正によって生じる請求項1の記載と、当該請求項1を引用する請求項4の記載との不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(5) 訂正事項5について
訂正事項5は、訂正事項1に係る訂正によって生じる請求項1の記載と、発明の詳細な説明の記載との不一致を解消して、記載の整合を図るものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(6) 訂正事項6、7について
前記(1)ウで検討したように、請求項1における、訂正前の「第1の工程」及び「第2の工程」の「γ´相の固溶温度以下の温度」を、いずれも、「γ´相の固溶温度未満の温度」とすることは、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないから、訂正事項6、7についても同様に、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(7) 一群の請求項について
訂正事項1?4に係る訂正前の請求項1?5について、請求項2?5は、それぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1?5に対応する訂正後の請求項1?5は、一群の請求項である。
また、訂正事項5?7は、訂正前の請求項1?5からなる一群の請求項の全てに関係する訂正である。

(8) 異議申立人の主張について
異議申立人は、平成29年2月22日付け意見書(以下、単に「意見書」という。)において、以下のように主張している。
訂正後の請求項1の「γ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて」との記載は、少なくとも以下の3通りの解釈、すなわち、
1)γ相と非整合なγ´相のうち、γ相の結晶粒の粒界上に析出したものの結晶粒の量を増加させる(すなわち、非整合なγ´相はγ相の結晶粒の粒内にも析出しうるはずですが、これは問題にしないと解釈する)
2)γ相と非整合なγ´相はγ相の結晶粒の粒界上のみに析出しており、その結晶粒の量を増加させる(すなわち、予め、非整合なγ´相をγ相の結晶粒の粒界上に選択的に析出せしめていると解釈する)
3)γ相の結晶粒の粒界上に析出したものを「γ相と非整合なγ´相」と断定して、その結晶粒の量を増加させる(すなわち、整合か非整合かを問題にせず場所によって一義的に断定してしまう)
との解釈が可能であり、訂正後の記載を上記1)及び2)の意味に解釈するときは、いずれも、本件明細書等には開示されていないし、訂正後の記載を上記3)の意味に解釈するときには、例えば、粒内にあっても非整合と判断されるべきγ´相は、訂正前の「γ相と非整合なγ´相」には含まれるが、訂正後の「γ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相」には含まれなくなり、また、粒界上にあるγ´相は、たとえ整合と判断されるべきものであっても、訂正後の「γ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相」に含まれることとなるから、新たな定義を導入してその意味内容を本質的に変更するものといえる。
以上から、いずれの解釈を採用しても、本件訂正は、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する第126条第5項ないし第6項の規定に適合せず、認容されるべきではない。

しかし、本件明細書の【0016】、【0022】の記載によれば、「整合γ´相」は、γ相を構成する原子と整合界面を構成(格子整合)するγ´相であり、「非整合なγ´相(非整合γ´相)」は、γ相を構成する原子と非整合界面を構成(格子不整合)するγ´相であって、「整合γ´相」は、γ相の粒内のみに析出するのに対し、「非整合なγ´相(非整合γ´相)」は、γ相の粒界上のみに析出するものである。
そして、同【0023】の記載によれば、「前記Ni基合金素材を前記γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程」によって、γ相の粒界上のみにγ´相の結晶粒が析出する。そして、同【0025】の記載によれば、上記「第1の工程」の後の「第2の工程」によって、さらに、γ相の粒界上のみに非整合γ´相の結晶粒を析出させている、すなわち、非整合γ´相の結晶粒を増加させているといえる。
そうすると、訂正後の請求項1の「第2の工程」における、「γ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて」との記載は、非整合なγ´相は、γ相の結晶粒の粒界上のみに析出しており、その結晶粒の量を増加させることを意味するといえ、その解釈は、上記2)の解釈に他ならない。
したがって、訂正後の請求項1の「γ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて」との記載は、本件明細書に記載されているといえるから、異議申立人の上記主張は採用できない。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は特許法第120条の5第2項第1号、第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項、及び、同条第9項において準用する同法第126条第4項?第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項〔1?5〕について訂正を認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求により訂正された訂正請求項1?5に係る発明(以下、「本件発明1?5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1?5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、
次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み、
前記軟化処理工程は、前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であり、前記Ni基合金素材を前記γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程と、前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程と、を含むことを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のNi基合金軟化材の製造方法であって、
前記第2の工程の徐冷開始温度が前記第1の工程における熱間鍛造の鍛造終了温度以上かつ、γ´相の固溶温度未満であることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNi基合金軟化材の製造方法であって、
前記徐冷の冷却速度が50℃/h以下であることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のNi基合金軟化材の製造方法であって、
Ni基合金の組成が、質量%で、10%以上25%以下のCr、30%以下のCo、TiとNbとTaの総和が3%以上9%以下、1%以上6%以下のAl、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC、0.08%以下のZr、2.0%以下のHf及び5.0%以下のReを含有し、残部がNi及び不可避不純物からなることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のNi基合金軟化材の製造方法によって得られたNi基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程と、前記加工工程後に前記非整合γ´相を固溶させる溶体化処理及び、整合γ´相を再析出させる時効処理をしてNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程と、を含むことを特徴とするNi基合金部材の製造方法。」

2 取消理由の概要
訂正前の請求項1?5に係る特許に対して平成28年11月9日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。なお、特許異議申立書に記載された申立ての理由は、当該取消理由において全て採用している。
(1) 請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由1」という。)。
(2) 請求項1?5に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであるから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由2」という。)。
(3) 請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、請求項1?5に係る特許は、特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである。(以下、「取消理由3-1」という。)。
(4) 請求項1、2、4に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であり、請求項1、2、4に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由3-2」という。)
(5) 請求項1?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消されるべきものである(以下、「取消理由3-3」という。)。

[証拠方法]
甲第1号証:特表平5-508194号公報
甲第2号証:米国特許第5649280号明細書
甲第3号証:JOURNAL OF MATERIALS PROCESSING TECHNOLOGY,2009年,第209巻,p.1011-1017
甲第4号証:MATERIALS CHARACTERIZATION,2013年,第76巻,p.28-34
甲第5号証:MATERIALS CHARACTERIZATION,2011年,第62巻,p.760-767
甲第6号証:The SUPERALLOYS Fundamentals and Applications;Roger C.Reed,ケンブリッジ大学出版局,2008年,p.240-243
甲第7号証:金属便覧改訂6版,社団法人日本金属学会編,丸善株式会社,平成12年5月30日,p.264-267
甲第8号証:強度解析学〔II〕,阿部武治編,株式会社オーム社,昭和59年12月15日,p.25-35
甲第9号証:金属熱処理技術便覧-増補改訂版-,金属熱処理技術便覧編集委員会編,日刊工業新聞社,昭和52年3月25日,p.9,20,21,140,141
甲第10号証:マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版,株式会社日刊工業新聞社,2000年3月15日,p.1032,1358,1541,1846

3 甲号証の記載
(1) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第1号証(特表平5-508194号公報)には、「超合金鍛造プロセス及び関連する組成物」(発明の名称)に関して、次の記載がある(下線部は当審にて付与した。以下同様。)。
(1a) 「請求の範囲
1. 実質的に12重量%?20重量%のCr、10重量%?20重量%のC、2重量%?5.5重量%のMo、3重量%?7重量%のTi、1.2重量%?3.5重量%のAl、0.005重量%?0.25重量%のC、0.005重量%?0.05重量%のB、0.01重量%?0.1重量%のZr、0重量%?1重量%のTa、0重量%?4.5重量%のW、0重量%?1重量%のNb、0重量%?2.0重量%のFe、0重量%?0.3重量%のHf、0重量%?0.02重量%のY、0重量%?0.1重量%のV、0重量%?1.0重量%のRe及び残量のNiからなり、かつガンマプライム(Gamma prime)ソルバス温度を有する鋳物の材料を伴って始まり、かつ約1200°F未満の温度で微細な結晶粒度及び良好な機械的特性を有する超合金物品を製造する方法であって、
(a)約10時間から約100時間の期間に亘って前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度で前記鋳物を拡散加熱する過程と、
(b)中間の鍛造物を製造するべく前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度で拡散加熱された前記鋳物を加工する過程と、
(c)総計が少なくともおよそ0.9の真ひずみに達する、過程(b)とこの過程(c)とによって生み出されたひずみの組合せを伴って、前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で前記鍛造物を加工する過程と、
(d)過時効された顕微鏡組織を製造するべく、ガンマプライム相を溶かし、かつ再結晶させるために前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度に加熱し、かつ約100°F/時間よりも遅い速度で前記ガンマプライムソルバス温度を通過してゆっくりと前記鍛造物を冷却する過程と、
(e)前記過時効された鍛造物を、前記ガンマプライムソルバス温度より低く、しかし該ガンマプライムソルバス温度から200°F以下でない温度で更に加工する過程と、
(f)少なくともおよそ0.9の真ひずみに等しい、過程(e)及び(f)の前記加工によって生み出されたひずみの組合せを伴って、前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で前記鍛造物を回転鍛造する過程と、
(g)前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で加熱処理し、得られた加熱処理された前記鍛造物がASTM12よりも微細な結晶粒度を有するようにする過程とを有することを特徴とする超合金物品を製造する方法。」(1頁左下欄1行?右欄19行)

(1b) 「


」(2頁右下欄)

(1c) 「好適な組成物は、(名目上の組成が、19.5重量%のCr、13.5重量%のCo、4.2重量%のMo、3.0重%のTi、1.4重量%のAl、0.05重量%のC、0.007重量%のB、0.07重量%のZr、0重量%?2重量%のFe及び残量のNiである)ワスパロイ(Waspaloy)として知られる製品化された合金の派生物と見ることができる。」(3頁左上欄6?12行)

(1d) 「第1図は、本発明の方法を概略的に示すブロック図である。第1図に示されたように、この方法は、好ましくは比較的微細な結晶粒度を有する所望の組成の鋳物をもって開始する。拡散加熱の後、鋳物は、2つの主な手順またはそれらの組合せに基づいて処理される。ある手順即ち第1図の左側の枝に基づけば、ガンマプライム相の溶解が最少にされるかまたは溶解が起こらないようにするべく、鋳物は、高温度で、しかしガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で変形される。サブソルバスでの、即ちソルバス温度以下での焼きなましまたは再加熱処理は、ビレット温度を保持し、再結晶化に影響を及ぼすために用いることができ、同時ガンマプライム相の溶解を回避または最少にすることができる。」(3頁右上欄5?17行)

(1e) 「鋳造材料が、0.5の累積的真ひずみを超過する量をもって変形された後、普通の状態で存在するよりも大きい、非常に拡大されたガンマプライムの結晶粒度を生み出すように過時効処理される。その結果得られる顕微鏡組織は、“過時効された(overaged)”と呼ばれる。この過時効処理は、米国特許第4,574,015号に開示された処理と同様のもので、ガンマプライムソルバス温度を通過して、1時間におよそ100°Fまたは好ましくは50°F(最も好ましくは20°F以下)の速度で材料を冷却する過程からなる。・・・
この過時効された材料は、0.9の累積的真ひずみまたは、好ましくは1.6の累積的真ひずみを生み出すのに必要な量を超える度合いをもって更に熱間変形される。」(3頁左下欄19行?右下欄9行)

(1f) 「使用された金属に於けるガンマプライムソルバス温度が、2030°Fから2050°Fの間である・・・」(5頁左上欄1?2行)

(1g) 「・・・結果物は、更なる機械的処理及び熱処理を施された後に、高推力のガスタービンエンジンの中空シャフトとしての使用に理想的に適している。」(5頁左下欄5?8行)

(1h) 「微細な結晶の形状をした本発明の材料は、かなり広い温度範囲に亘って有用な超塑性(super plastic properties)を表し、複雑な形を形成するために、かなり低い鍛造応力(forging Stresses)で恒温または熱間ダイ鍛造されることが可能である。」(6頁左上欄8?12行)

(1i) 「

」(6頁左下欄)

(2) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第2号証(米国特許第5649280号明細書)には、「METHOD FOR CONTROLLING GRAIN SIZE IN NI-BASE SUPERALLOYS」(発明の名称)(当審訳:Ni基超合金において粒径を制御する方法)に関して、次の記載がある。
(2a) 「This invention is generally directed to a method of working a Ni-base superalloy articles, such as by forging, ・・・」(1欄5?10行)
(当審訳:本発明は概して、Ni基超合金に鍛造のごとき加工を行う方法に向けられている・・・・)

(2b) 「With respect to γ´Ni-base superalloys, isothermal forging is a term that is used to describe a well-known forging process that is done at slow strain rates (e.g. typically less than 0.01 s^(-1)) and temperatures slightly below the γ´solvus temperature (e.g. 100°F.), but above the recrystallization temperature of the particular superalloy.」(1欄46?51行)
(当審訳:γ´Ni基超合金に関して、等温鍛造は、低歪み速度(例えば、典型的には0.01s^(-1)未満)であって、γ´ソルバス温度より僅かに低い(例えば<100°F)が、その特定の超合金の再結晶温度よりは高い温度において行われる周知の鍛造プロセスを表現するのに使われる言葉である。)

(2c) 「This invention comprises forging fine-grained Ni-base superalloy preforms, such as consolidated P/M preforms, so as to impart retained strain energy into the alloy microstructure, followed by extended subsolvus annealing of the forged article at a temperature which is above the recrystallization temperature, but below the γ´solvus temperature, in order to completely recrystallize the worked article and produce a uniform, fine grain size microstructure.・・・After either the subsolvus annealing or supersolvus annealing steps, controlled cooling of the article to a temperature below γ´solvus temperature may be employed to control the distribution of the γ´.」(4欄16?32行)
(当審訳:本発明は、合金微細組織へ残留歪みエネルギーを与えるべく、固体の粉末金属母材のごとき微細粒Ni基超合金母材を鍛造し、続いて加工された物品を完全に再結晶させて均一で微細粒径のミクロ組織を生ずる目的で、再結晶温度よりは高いがγ´ソルバス温度よりは低い温度において、鍛造された物品に長時間のサブソルバス焼きなましを行うことよりなる。・・・サブソルバス焼きなましあるいはスーパーソルバス焼きなまし工程のいずれかの後に、γ´の分布を制御するべく、γ´ソルバス温度以下の温度への物品の制御冷却を行ってもよい。)

(2d) 「Table 1 illustrates a representative group of Ni-base superalloys for which the method of the present invention may be used and their compositions in weight percent.」(6欄41-44行)
(当審訳:表1は、本発明の方法を利用することができるNi基超合金の代表的な群及び組成を重量パーセントで詳述したものである。)

(2e) 「The γ´solvus temperatures for these alloys typically range from about 1900° to 2100°F.」(6欄67行?7欄1行)
(当審訳:これらの合金のγ´ソルバス温度は典型的には約1900°ないし2100°Fにわたる。)

(2f) 「

」(7欄)

(2g) 「After providing the Ni-base superalloy, the next step in the method is the step of working the superalloy at preselected working conditions to form the desired article, preferably by forging a preform into a forged article. The preselected working conditions comprise a working temperature less than the γ´solvus temperature, a strain rate greater than a predetermined strain rate, ε_(min)・・・In the case of forging, forging is done at a subsolvus temperature with respect to the Ni-base superalloy provided.」(7欄24?41行)
(当審訳:Ni基超合金を用意した後、本方法の次の工程は、所望の物品を形成するべく所定の加工条件においてかかる超合金を加工することであり、好ましくは母材を鍛造して鍛造物品にすることである。この所定の加工条件は、γ´ソルバス温度以下の加工温度と、所定の歪み速度ε_(min)より速い歪み速度とを含み・・・鍛造の場合、使用するNi基超合金に関してサブソルバス温度において鍛造が行われる。)

(2h) 「After working the superalloy, it is necessary to utilize an additional step of extended subsolvus annealing in order to promote recrystallization and produce the desired fine grain microstructure. In a preferred embodiment, the subsolvus annealing is done at a temperature above the recrystallization temperature, which is generally recognized as being between about 1900°-2000°F. for high γ´content alloys, but below the γ´solvus temperature. Preferably, the subsolvus annealing will be done at a temperature ≦100°F. below the γ´solvus. Means for subsolvus annealing are well-known.」(8欄51?60行)
(当審訳:超合金を加工した後、再結晶を促し、所望の微細粒ミクロ組織を生ぜしめるべく、長時間のサブソルバス焼きなましてある追加工程を利用することが必要である。好適な実施形態においては、かかるサブソルバス焼きなましは、高γ´含有合金では約1900°-2000°Fの間であると一般に認められている再結晶温度以上だがγ´ソルバス温度以下で行われる。好ましくは、サブソルバス焼きなましは、γソルバスより≦100°F低い温度で行われる。サブソルバス焼きなましの手段は周知である。)

(2i) 「While it is generally preferred to perform additional annealing and aging steps after subsolvus annealing to further develop the grain size, forged articles may be utilized following the extended subsolvus anneal.
If a grain size of ASTM 10-12 is the desired grain size, the forged article may be cooled following the subsolvus anneal to ambient temperatures, resulting in the precipitation of γ´. For annealing temperatures that are very near the γ´solvus, some degree of control may be exercised over the distribution of the γ´following subsolvus annealing.Applicants have determined that for cooling from supersolvus temperatures, the cooling rate should be in the range of 100°-600°F./minute so as to produce both fine γ´particles within the γ grains and γ´within the grain boundaries, as described herein. 」(9欄8?17行)
(当審訳:サブソルバス焼きなましの後に、追加的な焼きなましや時効処理の工程を行うことが概して好ましいものの、長時間のサブソルバス焼きなましの後には鍛造された物品はそのまま利用することができる。
ASTM10-12の粒径が所望の粒径である場合、鍛造された物品は、サブソルバス焼きなましに続き周囲温度にまで冷却され、結果としてγ´の析出が生じる。γ´ソルバスに非常に近い焼きなましの温度のために、サブソルバス焼きなましの後のγ´の分布に対してある程度の制御ができるだろう。ここに記載されているように、γ粒中の微細なγ´粒子と粒界におけるγ´の両方を生じるべく、スーパーソルバス温度からの冷却に対して冷却速度は100°-600°F/分の範囲であるべきであることを、出願人は明らかにした。)

(2j) 「Slower cooling rates (e.g. 100°F./minute) tend to produce fewer and coarser γ´particles within the grains, and a greater amount of γ´along the grain boundaries.」(10欄12?15行)
(当審訳:より遅い冷却速度(例えば100°F/分)は、粒内により少ない粗大なγ´粒子を、また粒界に沿ってより多量のγ´を、生ずるのに役立つ。)

(3) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第3号証(JOURNAL OF MATERIALS PROCESSING TECHNOLOGY,2009年,第209巻,p.1011-1017)には、次の記載がある。
(3a) 「RR1000 is an advanced polycrystalline nickel base alloy, the nominal composition of which is detailed in Table 1.
・・・ solution treated at a temperature 20℃ above the γ´solvus and cooled at various rates between 0.68 and 3.53℃s^(-1),・・・」(1012頁左欄10?16行)
(当審訳:PR1000は、先進的多結晶ニッケル基超合金であり、その組成式を表1に詳述する。
・・・γ´ソルバスより20℃高い温度において溶体化処理をし、・・・0.68と3.53℃s^(-1)の間の種々の速度で冷却した。)

(3b) 「

」(1012頁)
(当審訳:表1-重量%で表したPR1000組成(Hesselら、1999)
---------------------------------
Ni Cr Co Mo Al Ti Ta Hf Zr C B
---------------------------------
残部 15.0 18.5 5.0 3.0 3.6 2.0 0.5 0.06 0.027 0.015
---------------------------------)

(3c) 「Detailed SEM and TEM analysis of the grain boundaries in the work shows that the grain boundary serrations develop as a result of impingement of the grain boundary by the growing secondary γ´during slow cooling through the secondary γ´precipitation range.」(1013頁右欄4行?1014頁左欄2行)
(当審訳:本研究による粒界の詳細なSEM及びTEM分析は、粒界鋸歯の発達が、二次γ´析出範囲へ徐冷する間に成長する二次γ´が侵入することの結果であることを示している。)

(3d) 「It was found that decreases in the cooling rate resulted in an increase in both the grain boundary serration and the size and volume fraction of fan-type structures consisting of dendritic γ´formations.」(1016右欄11?14行)
(当審訳:冷却速度を下げると粒界鋸歯及び樹状γ´組織よりなる扇型組織の寸法並びに体積分率が増大することが見出された。)

(3e) 「The driving force was suggested to come from the strain energy difference between the coherent side (the matrix side of the γ´) and the incoherent side (the boundary side of the γ´).」(1016頁右欄26?29行)
(当審訳:この原動力は、整合側(γ´の地側)と非整合側(γ´の粒界側)との間の歪エネルギーの違いに由来すると示唆された。)

(3f) 「However, the present TEM examination shows that the boundary serrations after slow cooling are caused by accelerated coarsening of grain boundary γ´particles.」(1016頁右欄32?35行)
(当審訳:しかしながら、本TEM試験は、徐冷の後の粒界鋸歯が粒界γ´粒子の加速された粗大化が原因であることを示している。)

(4) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第4号証(MATERIALS CHARACTERIZATION,2013年,第76巻,p.28-34)には、次の記載がある。
(4a) 「It is well recognized that the rate of cooling from a high temperature has a significant influence on gamma prime size and morphology in nickel-based superalloys and thus on the mechanical properties. A very slow cooling rate from a high temperature usually leads to the formation of an irregular microstructure such as irregular-shaped γ´, fan-type γ-γ´structure and serrated grain boundaries.・・・In terms of the formation of irregular-shaped γ´, there is extensive evidence that the large cuboidal γ´particles form during isothermal aging, break up to form dendritic γ´or even clusters of smaller γ´during extended aging of Ni superalloys」(28頁左欄2行?右欄4行)
(当審訳:高温からの冷却速度は、ニッケル基超合金においてカンマプライムの寸法及び形態に著しい影響を有し、それゆえその機械的性質にも著しい影響を有することがよく認められている。高温からの非常な徐冷は、通常、非定形γ´、扇型γ-γ´組織及び歯状粒界のごとき非定形ミクロ組織の形成の要因である。・・・非定形γ´の形成の点では、等温時効の間に大きな立方体様γ´が生じ、長時間時効の間にこれが分解して樹状γ´ないしより小さなγ´の平坦なクラスタを生ずることの、数多くの証拠がある。)

(4b) 「The material used in this study is a high γ´volume fraction (around 50%) nickel-based superalloy RR 1000 which has a gamma prime solvus around 1170 ℃」(30頁左欄6?8行)
(当審訳:本研究において使用された材料は、高γ´体積率(約50%)ニッケル基超合金RR1000であって、そのガンマプライムソルバスは約1170℃である。)

(4c) 「These precipitates due to their big size (>1 μm) and ellipsoidal or irregular morphology are usually considered to be incoherent with the γ matrix of the contacted grains.」(33頁左欄5?8行)
(当審訳:これらの析出物は、その大きなサイズ(>1μm)及び長円形ないし非定形の形態から、接した結晶粒のγ地に対して非整合であると通常には考えられる。)

(5) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第5号証(MATERIALS CHARACTERIZATION,2011年,第62巻,p.760-767)には、次の記載がある。
(5a) 「RR1000 is a γ´strengthened Ni-base superalloy produced by powder metallurgy, followed by forging, sub-solvus solution treatment, and aging.」(761頁左欄26?29行)
(当審訳:PR1000は、粉末冶金と、それに続く鍛造、サブソルバス溶体化処理、及び時効により製造されたγ´強化Ni基超合金である。)

(5b) 「As shown in Fig. 2-a, the microstructure of RR1000 shows three size ranges of γ´: the incoherent primary γ´(1-2μm), secondary γ´(150-300nm), and tertiary γ´(<100nm). The coarse primary γ´(?1-3μm) usually remains undissolved along the γ-grain boundaries during the sub-solvus heat treatment, and thus helps in grain size control.」(762頁左欄20行?右欄4行)
(当審訳:図2-aに示すように、PR1000のミクロ組織は3つの寸法範囲のγ´を示す:非整合一次γ´(1-2μm)、二次γ´(150-300nm)、及び三次γ´(<100nm)である。粗大な一次γ´(?1-3μm)は、サブソルバス熱処理の間、通常、γ粒界に溶解せずに残り、それゆえ結晶粒サイズの制御を助ける。ところが他の低ソルバスγ´粒子は溶解し、結果的にサブソルバス溶体化処理からの冷却中に再析出して、残りの2つの寸法範囲(二次及び三次γ´)を形成する。)

(6) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第6号証(The SUPERALLOYS Fundamentals and Applications;Roger C.Reed,ケンブリッジ大学出版局,2008年,p.240-243)には、次の記載がある。
(6a) 「For most turbine disc alloys, the γ´solvus lies between 1050℃ and 1200℃, the exact value being dependent upon the chemical composition. If the solutioning heat-treatment temperature is sub-solvus, the undissolved, or primary, γ´precipitates have a grain-pinning effect which restricts γ-grain growth;・・・In addition to the primary γ´, intragranular secondary and tertiary γ´particles are present within the γ grains, typically at particle diameters of ?100nm and ?50nm, respectively. This bimodal distribution occurs because of the interplay between the kinetics of γ´particle nucleation, growth and coarsening, which occurs during isothermal solutioning and ageing heat treatments; the cooling rate is also important since the equilibrium fraction of γ´is rarely attained during these, so that further γ´nucleation and growth occurs during cooling. During the ageing heat treatment, which is typically carried out at around 700 ℃ for several hours, an age-hardening response is observed, as in many precipitation-hardened systems.」(240頁16行?241頁1行)
(当審訳:多くのタービンディスク合金において、γ´ソルバスは1050℃と1200℃の間にあり、その正確な値は化学組成に依存する。溶体化処理温度がサブソルバスである場合には、溶解しなかった、あるいは一次の、γ´析出物は、γ結晶粒成長を帰省する結晶粒ピンニング効果を有する。・・・一次γ´に加えて、粒内二次及び三次γ´粒子がγ粒子中に存在し、典型的にはそれぞれ?100nm及び?50nmである。この双峰的分布は、等温溶体化及び時効熱処理によって生じるγ´粒子の核生成、成長及び粗大化の動力学的相互作用のために生ずる。これらの間にγ´が平衡分率に達することはまれにしかないので、冷却の間にさらなるγ´核生成と成長を生ぜしめるべく、冷却速度もまた重要である。典型的には700℃で数時間行われる時効熱処理の間に、多くの析出硬化系と同じく、時効硬化反応が観察される。)

(7) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第7号証(金属便覧改訂6版,社団法人日本金属学会編,丸善株式会社,平成12年5月30日,p.264-267)には、次の記載がある。
(7a) 「組織の定量法には次の三つの方法がある.
(1)面積分析法(areal analysis) この方法は,組織中の目的の相の断面積を測定して,その相の大きさや体積比を求める方法である.
(2)線分法(lineal analysis) 組織中に引かれたテストラインを使って,これと交わる第2相粒子の数や交線の長さを定量する方法が線分法である.この方法はもっともよく使われる方法であり,自動測定ではブラウン管の走査線がテストラインとして使われる.
(3)点算法(point counting) これは,図3・123のようなグリッドの交点を使って組織の定量を行う方法であり,第2相粒子の体積比の定量にしばしば用いられる.
これらの方法によって定量を行うに当っては,測定法に起因する誤差に十分注意しなければならない^(25,26)).」(264頁左欄12行?右欄5行)

(7b) 「第2相粒子の寸法は,図3・125のように,(a)断面積,(b)直径,(c)テストラインによる切片長のいずれかによって定量される.断面上での寸法がそのまま使われることもあるが,実際の粒子の寸法の定量は二次元的測定量を三次元の寸法に換算することによってなされる.表3・15は,種々の形態の第2相粒子の寸法の定量に使われる関係式を示したものである.これらの関係式は,いずれも粒子寸法が一定である場合に成り立つものであり,粒子寸法分布がある場合には,より複雑な解析を行わなければならない^(30)).」(265頁右欄4?13行)

(8) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第8号証(強度解析学〔II〕,阿部武治編,株式会社オーム社,昭和59年12月15日,p.25-35)には、次の記載がある。
(8a) 「二次元の分布から三次元の分布への換算式の導出にあたっては、粒子の形態を仮定しなければならない.」(33頁6?7行)

(9) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第9号証(金属熱処理技術便覧-増補改訂版-,金属熱処理技術便覧編集委員会編,日刊工業新聞社,昭和52年3月25日,p.9,20,21,140,141)には、次の記載がある。
(9a) 「時効化(Aging): 時効化とは鉄鋼の性質や状態の変化を安定させたり,逆に促進させたりするために行う熱処理をいうのである.時効を常温で行うものを自然時効,加熱によって行うものを人工時効または高温時効という.焼戻しは一種の人工時効とも考えられる.」(9頁左欄24?30行)

(9b) 「徐冷(Slow cooling): 徐冷とは高温度より徐々に冷却する操作をいう.」(9頁右欄23?24行)

(9c) 「焼なまし(Annealing): 焼なましまたは焼鈍とは鉄または鋼の軟化,結晶組織の調整または内部応力の除去のため,適当な温度に加熱した後、ゆっくり冷却する操作をいう.」(20頁右欄30?33行)

(9d) 「焼戻し(Tempering): 焼戻しとは焼入れした鋼の靱性を増し、またはかたさを減ずるため,変態点以下適当な温度に加熱した後,冷却する操作をいう.」(21頁左欄下から3行?右欄1行)

(9e) 「1・4 焼なまし
(i)目 的……軟化」(141頁26?27行)

(10) 本件特許に係る出願の出願日前に頒布された刊行物である甲第10号証(マグローヒル科学技術用語大辞典改訂第3版,株式会社日刊工業新聞社,2000年3月15日,p.1032,1358,1541,1846)には、次の記載がある。
(10a) 「ソルバス solvus 〔物化〕相図あるいは平衡図において,固相の種々の成分の固体溶解温度を表す点の軌跡.」(1032頁右欄50?51行)

(10b) 「熱間成形 hot forming 〔冶金〕金属の再結晶化温度以上で行う成形操作.」(1058頁右欄36?37行)

(10c) 「ファーレンハイト目盛 Fahrenheit scale 〔熱力〕ヤードポンド単位系で用いられる温度目盛り.華氏(ファーレンハイト,Fahrenheit,°F)温度は,摂氏(セルジウス,Celsius,℃)温度の9/5に32を加えた数に当たる.」(1541頁左欄48?51行)

(10d) 「焼なまし anneal, temper 〔工学〕金属,合金,ガラスを軟化したり,冷間加工性を賦与する目的で熱処理し,冷却することにより、内部応力を除去し、材質を耐脆性にすること.」(1846頁左欄12?15行)

4 判断
(1) 取消理由1(特許法第36条第4項第1号)について
異議申立人は、意見書の4頁2行?5頁14行において、特許異議申立書3(4)ウ-1で、非整合なγ´相の量を20体積%以上析出させるには、その前提として、
1) γ相中に析出したγ´相のうち、γ相と整合なものと非整合なものとを分別し、
2) 分別された非整合なγ´相の体積分率を定量することが必要であり、その上で、
2) かかる体積分率を20体積%以上にせしめる特定の手段をNi基合金に適用することが必要と認められると主張したのに対し、特許権者が提出した平成29年1月13日付け意見書による説明によっても、γ相中に析出したγ´相のうち、γ相と整合なものと非整合なものとを分別する方法は明らかではなく、したがって、本件発明は、当業者が実施をすることができる程度の明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されたものではない旨主張している。

そこで検討するに、上記1)については、本件訂正後の明細書(以下、「本件訂正明細書」という。)には、以下の記載がある。
「【0022】
(S21:第1の軟化処理工程)
図2は図1の軟化処理工程の温度プロファイル及び材料組織を模式的に示す図である。上述したように、第1の軟化処理工程では、Ni基合金素材を、γ´相の固溶未満の温度(T_(1))で熱間鍛造する。この熱間鍛造の後に冷却すると、図2の(I)に示すように、γ相(符号4)の粒界上に非整合γ´相(符号6)が析出する。符号5で示した析出物は、第1の軟化処理工程後の冷却中にγ相粒内に析出した整合γ´相である。なお、本発明において「γ相の粒界上」とは、「隣り合うγ結晶粒の境界」を意味するものとする。」
「【0056】
・・・非整合γ´相量は、鋳造後や熱間鍛造後または軟化処理後に組織観察を行うことで非整合γ´相の含有割合を決定した。具体的には、電子顕微鏡で得られた観察写真から非整合γ´相の面積比を算出し、この面積比を体積比に換算することによって非整合γ´相の含有割合を算出した。」
「【図2】


上記【0022】、【0056】及び【図2】の記載によれば、本件発明の「整合γ´相」は、γ相粒内に析出するものであり、一方、「非整合γ´相」は、γ相の粒界上、すなわち、隣り合うγ結晶粒の境界に析出するものであり、電子顕微鏡で得られた観察写真から、「整合γ´相」と「非整合γ´相」とを分別することは、当業者であれば容易に行うことができるものと認められる。

上記2)については、非整合γ´相の体積分率の測定方法について、本件訂正明細書の上記【0056】には、「非整合γ´相量は、鋳造後や熱間鍛造後または軟化処理後に組織観察を行うことで非整合γ´相の含有割合を決定した。具体的には、電子顕微鏡で得られた観察写真から非整合γ´相の面積比を算出し、この面積比を体積比に換算することによって非整合γ´相の含有割合を算出した。」と記載されている。
そして、特許権者は、平成29年1月13日付け意見書の6頁1?6行において、「体積分率の定量においても、通常の画像処理等において当業者が容易に行うことができるものである。本件特許発明においては、画像解析ソフト(メーカー:National Institutes of Health、製品名:Image J)を用いて、上記SEM観察で得られた画像から整合γ´相及び非整合γ´相を分別し、非整合γ´相をトレースする。そして、トレースされた非整合γ´相の面積分率を算出し、得られた値を体積分率に換算することで、非整合γ´相の体積分率を定量している。」と主張している。
そうすると、非整合γ´相の体積分率を定量することは、当業者であれば容易に行うことができるものと認められる。

上記3)については、本件訂正明細書には、以下の記載がある。
「【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、実施例1?9では、いずれの供試材も軟化処理工程後の非整合γ´相の量が20体積%を超え、かつ硬さも400Hv以下を満たし、950℃の熱間鍛造が問題なく行えたことから、加工性の向上を確認できた。
・・・
【0060】
さらに、実施例1及び2又は、実施例3及び4を比較すると、700℃における平衡γ´相の平衡析出量が同程度かつ軟化処理第2の工程における徐冷温度域が同じ条件では、徐冷速度をより遅くするほど非整合γ´相量が増加し、硬さを低下することができる。これは、非整合γ´相をより大きく成長させることで、主に徐冷終了時温度から室温まで冷却する間に析出する整合γ´相の量を減少できたためと考えられる。これに対して、比較例8では第1の軟化処理工程後に非整合γ´相を析出させ、第2の軟化処理工程を施しているが、徐冷速度が速く、非整合γ´相が成長しなかったため、本発明の効果を十分に得ることが出来なかった。」

上記【0057】の【表3】、【0058】、【0060】の記載によれば、第2の軟化処理工程において、非整合γ´相を20体積%以上析出させることができる条件(実施例1?9)と、非整合γ´相を20体積%以上析出させることができない条件(比較例8)として、それぞれ、第2の軟化処理工程の徐冷開始温度、徐冷終了温度、徐冷速度が記載されているから、本件訂正明細書には、非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上とするための具体的な手段が記載されているといえる。

以上から、本件訂正明細書には、本件発明1の「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上と」することについて、当業者がその実施をすることが程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

(2) 取消理由2(特許法第36条第6項第2号)について
異議申立人は、意見書の3頁16?26行において、訂正後の請求項1に記載された「前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程」には、
1)「前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をする」
2)「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上とする」
との2つの部分が認められるところ、2)が1)に記載された事項を更に限定する事項であるのか、あるいは2)が1)により必然的に達成される結果を確認的に記載したにすぎないのか、いずれに解釈すべきか明らかでないので、かかる記載は不明確であるから、訂正後の請求項1は、特許法第36条第6項第2号に適合しない旨主張している。

しかし、上記1)の工程は、「徐冷をする」ではなく、「徐冷をすることにより」であり、訂正後の請求項1には、その後に続けて、「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る」と記載されているところ、前記第2 2(1)カで検討したように、訂正前の「徐冷をして」を、「徐冷をすることにより」と訂正することは、その後に続く、「前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る」ことが、「徐冷」をすることによるものであることを特定して、「徐冷」をすることと、「非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上析出させる」こととの関係を明瞭にするものであり、このことは、本件訂正明細書の【0022】、【0025】及び【0027】の記載とも整合する。
したがって、訂正後の上記請求項1の記載は不明確であるとはいえないから、異議申立人の上記主張は採用できない。

(3) 取消理由3-1(特許法第29条第1項第3号)について
ア 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証の前記(1a)には、「実質的に12重量%?20重量%のCr、10重量%?20重量%のC、2重量%?5.5重量%のMo、3重量%?7重量%のTi、1.2重量%?3.5重量%のAl、0.005重量%?0.25重量%のC、0.005重量%?0.05重量%のB、0.01重量%?0.1重量%のZr、0重量%?1重量%のTa、0重量%?4.5重量%のW、0重量%?1重量%のNb、0重量%?2.0重量%のFe、0重量%?0.3重量%のHf、0重量%?0.02重量%のY、0重量%?0.1重量%のV、0重量%?1.0重量%のRe及び残量のNiからなり、かつガンマプライム(Gamma prime)ソルバス温度を有する鋳物の材料を伴って始まり、かつ約1200°F未満の温度で微細な結晶粒度及び良好な機械的特性を有する超合金物品を製造する方法であって、
(a)約10時間から約100時間の期間に亘って前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度で前記鋳物を拡散加熱する過程と、
(b)中間の鍛造物を製造するべく前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度で拡散加熱された前記鋳物を加工する過程と、
(c)総計が少なくともおよそ0.9の真ひずみに達する、過程(b)とこの過程(c)とによって生み出されたひずみの組合せを伴って、前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で前記鍛造物を加工する過程と、
(d)過時効された顕微鏡組織を製造するべく、ガンマプライム相を溶かし、かつ再結晶させるために前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度に加熱し、かつ約100°F/時間よりも遅い速度で前記ガンマプライムソルバス温度を通過してゆっくりと前記鍛造物を冷却する過程と、
(e)前記過時効された鍛造物を、前記ガンマプライムソルバス温度より低く、しかし該ガンマプライムソルバス温度から200°F以下でない温度で更に加工する過程と、
(f)少なくともおよそ0.9の真ひずみに等しい、過程(e)及び(f)の前記加工によって生み出されたひずみの組合せを伴って、前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で前記鍛造物を回転鍛造する過程と、
(g)前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で加熱処理し、得られた加熱処理された前記鍛造物がASTM12よりも微細な結晶粒度を有するようにする過程とを有することを特徴とする超合金物品を製造する方法。」が記載されている。
ここで、甲第1号証の前記(1b)の組成範囲(重量パーセント)において、Coの広い範囲が10-20、Cの広い範囲が0.005-0.25であることからすると、上記(1a)の記載における下線部の「10重量%?20重量%のC」は、「10重量%?20重量%のCo」の誤記であるといえる。
したがって、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「実質的に12重量%?20重量%のCr、10重量%?20重量%のCo、2重量%?5.5重量%のMo、3重量%?7重量%のTi、1.2重量%?3.5重量%のAl、0.005重量%?0.25重量%のC、0.005重量%?0.05重量%のB、0.01重量%?0.1重量%のZr、0重量%?1重量%のTa、0重量%?4.5重量%のW、0重量%?1重量%のNb、0重量%?2.0重量%のFe、0重量%?0.3重量%のHf、0重量%?0.02重量%のY、0重量%?0.1重量%のV、0重量%?1.0重量%のRe及び残量のNiからなり、かつガンマプライム(Gamma prime)ソルバス温度を有する鋳物の材料を伴って始まり、かつ約1200°F未満の温度で微細な結晶粒度及び良好な機械的特性を有する超合金物品を製造する方法であって、
(a)約10時間から約100時間の期間に亘って前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度で前記鋳物を拡散加熱する過程と、
(b)中間の鍛造物を製造するべく前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度で拡散加熱された前記鋳物を加工する過程と、
(c)総計が少なくともおよそ0.9の真ひずみに達する、過程(b)とこの過程(c)とによって生み出されたひずみの組合せを伴って、前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で前記鍛造物を加工する過程と、
(d)過時効された顕微鏡組織を製造するべく、ガンマプライム相を溶かし、かつ再結晶させるために前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度に加熱し、かつ約100°F/時間よりも遅い速度で前記ガンマプライムソルバス温度を通過してゆっくりと前記鍛造物を冷却する過程と、
(e)前記過時効された鍛造物を、前記ガンマプライムソルバス温度より低く、しかし該ガンマプライムソルバス温度から200°F以下でない温度で更に加工する過程と、
(f)少なくともおよそ0.9の真ひずみに等しい、過程(e)及び(f)の前記加工によって生み出されたひずみの組合せを伴って、前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で前記鍛造物を回転鍛造する過程と、
(g)前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも低い温度で加熱処理し、得られた加熱処理された前記鍛造物がASTM12よりも微細な結晶粒度を有するようにする過程とを有することを特徴とする超合金物品を製造する方法。」(以下、「甲1発明」という。)

イ 本件発明1と甲1発明との対比・判断
本件発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の「実質的に12重量%?20重量%のCr、10重量%?20重量%のCo、2重量%?5.5重量%のMo、3重量%?7重量%のTi、1.2重量%?3.5重量%のAl、0.005重量%?0.25重量%のC、0.005重量%?0.05重量%のB、0.01重量%?0.1重量%のZr、0重量%?1重量%のTa、0重量%?4.5重量%のW、0重量%?1重量%のNb、0重量%?2.0重量%のFe、0重量%?0.3重量%のHf、0重量%?0.02重量%のY、0重量%?0.1重量%のV、0重量%?1.0重量%のRe及び残量のNiからなり、かつガンマプライム(Gamma prime)ソルバス温度を有する鋳物」は、本件発明1の「Ni基合金」に相当し、甲第10号証の前記(10a)の記載によれば、甲1発明の「ガンマプライムソルバス温度」は、本件発明1の「γ´相の固溶温度」に相当する。
また、甲第10号証の前記(10c)の「華氏(ファーレンハイト,Fahrenheit,°F)温度は、摂氏(セルジウス、Celsius,℃)温度の9/5に32を加えた数に当たる。」との記載から、甲1発明の「約100°F/時間」を摂氏(セルジウス)表記に換算すると、「約56℃/時間」である。
そうすると、甲1発明の「(d)過時効された顕微鏡組織を製造するべく、ガンマプライム相を溶かし、かつ再結晶させるために前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度に加熱し、かつ約100°F/時間よりも遅い速度で前記ガンマプライムソルバス温度を通過してゆっくりと前記鍛造物を冷却する過程」(以下、「過程(d)」という。)は、γ´相の固溶温度よりも高い温度から、約56℃/時間よりも遅い速度で、γ´相の固溶温度を通過して徐冷する過程であるといえるのに対し、本件発明1の「第2の工程」は、「前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をする」ものであって、両者は、徐冷の開始温度が異なるから、甲1発明の過程(d)は、本件発明1の「第2の工程」に相当しない。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、徐冷の開始温度について、本件発明1は、「前記γ´相の固溶温度未満の温度」であるのに対し、甲1発明は、「前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度」である点で少なくとも相違する(以下、「相違点1」という。)。
そして、上記相違点1が実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明であるとはいえない。

ウ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2?5は、いずれも、甲1発明であるとはいえない。

エ 小括
以上から、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(4) 取消理由3-2(特許法第29条第1項第3号)について
ア 甲第2号証に記載された発明
甲第2号証の前記(2d)?(2j)の記載によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「γ´ソルバス温度が約1900°ないし2100°FのNi基超合金を用意する工程と、
前記Ni基超合金にサブソルバス温度において鍛造を行う工程と、
γ´ソルバス温度以下で、サブソルバス焼きなましを行い、その後、冷却温度100°F/分で冷却する工程とを含むNi基超合金の製造方法。」(以下、「甲2発明」という。)

イ 本件発明1と甲2発明との対比・判断
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「γ´ソルバス温度」、「Ni基超合金」は、それぞれ、本件発明1の「γ´相の固溶温度」、「Ni基合金」に相当する。
しかし、甲第10号証の前記(10c)の「華氏(ファーレンハイト,Fahrenheit,°F)温度は、摂氏(セルジウス、Celsius,℃)温度の9/5に32を加えた数に当たる。」との記載から、甲2発明の「100°F/分」を摂氏(セルジウス)表記に換算すると、「約56℃/分」(約3360℃/時間)である。
そうすると、甲2発明の「γ´ソルバス温度以下で、サブソルバス焼きなましを行い、その後、冷却温度100°F/分で冷却する工程」と、本件発明1の「前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をする・・・第2の工程」とは、γ´相の固溶温度未満の温度から冷却する点で共通するものの、冷却速度について、本件発明1は、「100℃/h以下」であるのに対し、甲2発明は、「100°F/分」(約3360°/時間)である点で相違する。
したがって、本件発明1と甲2発明とは、γ´相の固溶温度未満の温度から冷却する冷却速度について、本件発明1は、「100℃/h以下」であるのに対し、甲2発明は、「100°F/分」(約3360°/時間)である点で少なくとも相違する(以下、「相違点2」という。)。
そして、上記相違点2が実質的な相違点であることは明らかである。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明であるとはいえない。

ウ 本件発明2、4について
本件発明2、4は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記イで検討したのと同様の理由により、本件発明2、4は、いずれも、甲2発明であるとはいえない。

エ 小括
以上から、本件発明1、2、4は、甲第2号証に記載された発明ではない。

(5) 取消理由3-3(特許法第29条第2項)について
ア 本件発明1について
前記(3)イで検討したように、本件発明1と甲1発明とは、相違点1、すなわち、徐冷の開始温度について、本件発明1は、「前記γ´相の固溶温度未満の温度」であるのに対し、甲1発明は、「前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度」である点で少なくとも相違しているところ、この相違点1に関し、異議申立人は、意見書の10頁2?17行において、γ´相の固溶温度以上に加熱することなく過時効処理をする点を、あえて相違点とみなしても、数ミクロン程度の粗大なγ´粒子がサブソルバス熱処理により残り、これが鍛造性を高めることは周知であり(甲第5号証の762頁右欄1?4行)、かかる当業者に周知な知識に基づき、20体積%以上の粗大なγ´粒子を残すことにより材料の鍛造性を高める目的で、甲1発明においてγ´相の固溶温度以上に加熱する工程を省き、あるいはかかる工程をγ´相の固溶温度未満の温度に加熱する工程に置き換えることは、当業者にとり容易に想到し得たことにすぎない旨主張している。

しかし、甲1発明の過程(d)は、「過時効された顕微鏡組織を製造するべく、ガンマプライム相を溶かし、かつ再結晶させるために前記鍛造物を前記ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度に加熱」するものであるから、「ガンマプライム相を溶か」すために、「ガンマプライムソルバス温度よりも高い温度に加熱」することが必須の工程であるといえる。
そうすると、甲1発明の過程(d)において、ガンマプライム相を溶かさないようにすること、すなわち、ガンマプライムソルバス温度未満の温度で加熱することに動機付けがあるとはいえない。
また、この動機付けの欠如は、異議申立人が提出したいずれの証拠の記載事項によっても補うことはできない。
したがって、異議申立人が主張するように、数ミクロン程度の粗大なγ´粒子がサブソルバス熱処理により残り、これが鍛造性を高めることが周知であったとしても、本件発明1は、甲1発明及び甲第2号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

イ 本件発明2?5について
本件発明2?5は、いずれも、本件発明1の全ての発明特定事項を有しているから、前記アで検討したのと同様の理由により、甲1発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易になし得るものとはいえない。

ウ 小括
以上から、本件発明1?5は、甲第1号証に記載された発明、甲第2号証に記載された事項及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由によっては、請求項1?5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
Ni基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ni基合金の製造方法に係り、特に、Ni基合金部材の製造過程における優れた加工性と、Ni基合金部材の優れた高温強度を両立させたNi基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法と、この製造方法を用いて製造したNi基合金、Ni基合金部材、鍛造用Ni基合金素材、Ni基合金部品、Ni基合金構造物、ボイラーチューブ、燃焼器ライナー、ガスタービン動翼及びガスタービンディスクに関する。
【背景技術】
【0002】
燃焼温度の高温化によるガスタービンの高効率化を目指して、タービン部品の耐熱温度の向上が求められている。このためガスタービン部品には、高温強度に優れる材料として、Ni基合金がタービンディスクや動静翼、さらには燃焼器まで幅広く用いられている。Ni基合金は、W,Mo,Co等の固溶強化元素添加による固溶強化や、Al,Ti,Nb,Ta等の析出強化元素添加による析出強化により、高い高温強度を実現している。析出強化型のNi基合金では、析出強化相であるγ´相(L1_(2)構造)の格子が母相のγ相(FCC構造)の格子と連続性を持って析出し、整合界面を形成することで強化に寄与する。従って、高温強度を向上させるには、γ´相の量を増加させれば良いが、γ´相の量が多いほど加工性が悪化する。このため、高強度材ほど大型鍛造品の作製が困難であったり、鍛造時の欠陥発生率上昇等により、鍛造が出来ないという問題がある。
【0003】
Ni基合金の高温強度と熱間鍛造性とを両立させる技術として、特許文献1(特開2011‐52308号公報)に記載のものがある。特許文献1には、質量基準でC:0.001?0.1%、Cr:12?23%、Co:15?25%、Al:3.5?5.0%、Mo:4?12%、W:0.1?7.0%を含み、Ti、Ta及びNbの含有量の総和が質量基準で0.5%以下であり、式(1)(Ps=-7×(C量)-0.1×(Mo量)+0.5×(Al量))で表されるパラメータPsが0.6?1.6であることを特徴とするNi基合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011‐052308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
γ´相の固溶温度が1050℃以上である高強度Ni基合金の熱間鍛造は、通常1000?1250℃の範囲で行われる。これは、加工温度をγ´相の固溶温度付近またはそれ以上まで上げることで、強化因子であるγ´相の析出量を減らし、変形抵抗を減少させるためである。しかしながら、固溶温度付近またはそれ以上の温度で鍛造する場合、鍛造温度が被加工材の融点と近くなるため、部分溶融等により加工割れが生じやすい。加えて、γ´相の固溶温度が上述のように高い材料では、固溶温度以上で熱間鍛造すると、粒界移動を抑制し結晶粒の微細化に寄与するγ´相が消失するため、γ相の粒径が粗大化し、製品使用時の引張強度や疲労強度が低下する。
【0006】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、γ´相を多量に含有する析出強化型のNi基合金部材の製造過程における優れた加工性及びNi基合金部材の優れた高温強度を両立させた、Ni基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るNi基合金軟化材(γ´相の固溶温度が1050℃以上)の製造方法は、
γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、
次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み、
前記軟化処理工程は、前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であり、前記Ni基合金素材を前記γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程と、前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程と、を含むことを特徴とする。
また、本発明に係るNi基合金(γ´相の固溶温度が1050℃以上)部材の製造方法は、上記Ni基合金軟化材の製造方法によって得られたNi基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程と、該加工工程後に非整合γ´相を固溶させる溶体化処理及び、整合γ´相を再析出させる時効処理をしてNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、固溶温度が1050℃以上である高強度Ni基合金において、軟化処理工程後に非整合γ´相を20体積%以上含有することで加工性を大幅に向上することができ、かつ製品使用時には従来材と同等以上の優れた高温強度を実現可能なNi基合金軟化材及びNi基合金部材を提供することができる。
【0009】
また、本発明に係るNi基合金軟化材の製造方法を用いて製造されたNi基合金軟化材又はNi基合金部材の製造方法を用いて製造されたNi基合金部材を用いることで、様々な形状を有するNi合金部材、Ni基合金部品及びNi基合金構造物を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係るNi基合金部材の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。
【図2】図1の軟化処理工程の温度プロファイル及び結晶組織を模式的に示す図である。
【図3A】γ相とγ´相の整合界面を示す模式図である。
【図3B】γ相とγ´相の非整合界面を示す模式図である。
【図4】図1の溶体化‐時効処理工程の温度プロファイル及び結晶組織を模式的に示す図である。
【図5A】本発明に係るNi基合金の製造方法を用いて製造された鍛造用Ni基合金素材の一例を示す模式図である。
【図5B】本発明に係るNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金製薄板の一例を示す模式図である。
【図5C】本発明に係るNi基合金部材の製造方法により製造されたNi基合金部材を摩擦撹拌接合して得られたNi基合金構造物の一例を示す模式図である。
【図5D】本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とするボイラーチューブの一例を示す模式図である。
【図5E】本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とする燃焼器ライナーの一例を示す模式図である。
【図5F】本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とするガスタービン動翼の一例を示す模式図である。
【図5G】本発明に係るNi基合金構造物を用いたことを特徴とするガスタービンディスクの一例を示す模式図である。
【図6】本発明に係るNi基合金部材の製造方法の基本思想を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係る実施形態について、詳細に説明する。ただし、本発明はここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、要旨を変更しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
【0012】
[本発明の基本思想]
本発明者らは、上記目的を達成することが可能なNi基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法について、鋭意検討を行った。その結果、母相であるγ相に対して非整合に析出したγ´相(以下、非整合γ´相と称する)は強化に寄与しないことに着目し、鍛造時には非整合γ´相の量を増加させることで、γ相に対して整合に析出したγ´相(以下、整合γ´相と称する)の析出量を減少させると同時に、主にγ相と非整合γ´相とからなる微細な二相組織とすることで、鍛造時の加工性を大幅に向上させることができることを見出した。さらに、この状態で所望の形状に加工を行った後に、溶体化‐時効処理を行うことによって、非整合γ´相を減少させ整合γ´相を再度析出させることで、製品使用時の優れた高温強度を実現できることを見出した。本発明は、該知見に基づくものである。
【0013】
以下に、本発明の基本思想についてより詳細に説明する。図6は本発明に係るNi基合金部材の製造方法の基本思想を説明する模式図である。図6では本発明に係るNi基合金部材の製造工程について、材料組織に着目して説明する。
【0014】
図6の(I)に示すように、鋳造工程後又は鍛造工程後のNi基合金は、母相であるγ相と、γ相に対して整合に析出した整合γ´相とを含む。このNi基合金に対して、γ´相の固溶温度未満かつγ相の再結晶が迅速に進む温度以上の温度で熱間鍛造し、(II)に示すように非整合γ´相を析出させる(第1の軟化処理工程)。次に、γ´相の固溶温度未満でかつ上記熱間鍛造の完了温度以上の温度から徐冷し、(III)に示すように非整合γ´相を成長させ、非整合γ´相の量を増加させる(第2の軟化処理工程)。このとき、非整合γ´相は強化に寄与せず、また主にγ相と非整合γ´相からなる微細な二相組織を形成しているため靱性も高いことから、非常に加工しやすい状態(軟化状態)となっている。この軟化状態で、γ´相の固溶温度未満の温度でNi基合金を所望の形状に成形する加工工程を行う。上記加工工程後、溶体化処理を行うことで非整合γ´相を再固溶させ、その後時効処理を行うことで(IV)に示すように整合γ´相を析出させる(溶体化‐時効処理工程)。このとき、強化に寄与する整合γ´相が多量に析出しているため、高強度状態となっている。
【0015】
上述したように、本発明は、γ´相を減少または消失させた状態で加工するのではなく、γ´相の強化機能をなくすことで加工性を向上させるものである。上記製造工程によれば、加工時には材料を軟化させて加工性を大幅に向上することができ、使用時(製品完成時)には従来と同等以上の高温強度を有するNi基合金部材を得ることができるNi基合金軟化材及びNi基合金部材を得ることができる。
【0016】
なお、本発明における「整合γ´相」及び「非整合γ´相」について説明する。図3Aはγ相とγ´相の整合界面を示す模式図であり、図3Bはγ相とγ´相の非整合界面を示す模式図である。図3Aに示すように、γ相を構成する原子7とγ´相を構成する原子8とが整合界面9を構成(格子整合)する場合、このγ´相を「整合γ´相」と称する。また、図3Bに示すように、γ相を構成する原子7とγ´相を構成する原子8とが非整合界面10を構成(格子不整合)する場合、このγ´相を「非整合γ´相」と称する。
【0017】
[Ni基合金部材の製造方法]
次に、本発明に係るNi基合金の製造工程について説明する。図1は本発明に係るNi基合金部材の製造方法の一実施形態を示すフロー図である。図1に示すように、本発明に係るNi基合金部材の製造方法は、素材であるNi基鋳造合金又は鋳造後に鍛造することで得られるNi基鍛造合金のいずれかを得るための素材準備工程(S1)と、Ni基合金素材を軟化処理してNi基合金軟化材を得る軟化処理工程(S2)と、Ni基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程(S4)と、加工工程後に溶体化処理及び時効処理してNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程(S5)とを含む。また、軟化処理工程(S2)は、第1の軟化処理工程(S21)と第2の軟化処理工程(S22)とを含む。さらに、加工工程(S4)は、最終形状にするまでに、軟化処理工程(S2)および複数の塑性加工法を繰り返し含んで良く、最終加工のみに限定するものではない。
【0018】
なお、本発明において、素材準備工程(S1)を行って得られるものを「Ni基合金素材」と称し、軟化処理工程(S2)を行って得られる物を「Ni基合金軟化材」と称し、溶体化‐時効処理工程(S5)を行って得られるものを「Ni基合金部材」と称する。また、Ni基合金軟化材を、摩擦撹拌接合等を用いて接合した後に、溶体化‐時効処理工程(S5)を行って得られるものを「Ni基合金構造物(Ni基合金溶接構造物)」と称する。また、本発明において、「Ni基合金」は、上記「Ni基合金素材」及び「Ni基合金軟化材」を含み、「Ni基合金軟化材」に対して、加工工程(S4)を1回又は複数回施したものも含むものとする。
【0019】
以下、上記S1?S5の工程について詳細に説明する。
【0020】
(S1:素材準備工程)
Ni基合金の素材準備方法については特に限定はなく、従前の方法を用いることができる。具体的には、既製の鋳造後の合金や鍛造後の合金を用いて、次に説明する軟化処理工程以降の工程を行う。なお、Ni基合金素材の組成としては、γ´相の固溶温度が1050℃以上のものを用いる。この根拠については、追って詳述する。
【0021】
(S2:軟化処理工程)
加工工程時の加工性を向上させる本発明のNi基合金軟化材の製造方法は、γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の軟化処理工程(S21)と、第1の軟化処理工程後のNi基合金をγ´相の固溶温度以下かつ上記熱間鍛造完了温度以上の温度から徐冷して非整合γ´相を増加させる第2の工程(S22)とを含む。
【0022】
(S21:第1の軟化処理工程)
図2は図1の軟化処理工程の温度プロファイル及び材料組織を模式的に示す図である。上述したように、第1の軟化処理工程では、Ni基合金素材を、γ´相の固溶温度未満の温度(T_(1))で熱間鍛造する。この熱間鍛造の後に冷却すると、図2の(I)に示すように、γ相(符号4)の粒界上に非整合γ´相(符号6)が析出する。符号5で示した析出物は、第1の軟化処理工程後の冷却中にγ相粒内に析出した整合γ´相である。なお、本発明において「γ相の粒界上」とは、「隣り合うγ結晶粒の境界」を意味するものとする。
【0023】
前述の通り、析出強化型のNi基合金の強化機構は、γ相とγ´相が整合界面(図3Aの符号9)を形成することで強化に寄与するというもので、非整合界面(図3Bの符号10)は強化に寄与しない。すなわち、非整合γ´相の量を増加させ、整合γ´相の量を減少させることで、加工工程時に優れた加工性を確保することが可能となる。従って、本発明の効果を得るためには、第1の軟化処理工程での熱間鍛造により非整合γ´相を析出させることが必須であることから、γ´相の固溶温度未満で、かつγ相の再結晶が迅速に進む温度以上での熱間鍛造加工が実施可能なNi基合金でなければならない。従って、本発明に係るNi基合金素材のγ´相の固溶温度は、1050℃以上が最も好ましい。γ´相の固溶温度が1000?1050℃でも本発明の効果は得られるが、1000℃以下では非整合γ´相が析出しにくく、950℃以下では非整合γ´相を析出させることができないため、本発明の効果は得られない。さらに、γ´相の固溶温度がNi基合金素材の融点に近づくと、部分溶融等により加工中に割れが生じるため、γ´相の固溶温度は1250℃未満が望ましい。
【0024】
第1の軟化処理工程での鍛造温度T_(1)は、前述の通りγ相の再結晶が迅速に進む温度以上である必要がある。より具体的には、1000℃以上が好ましく、1050℃以上がより好ましい。T_(1)が950℃未満では、非整合γ´相を析出させることができなく、本発明の効果は得られない。なお、T_(1)の上限温度については、前述の通りγ´相の固溶温度以下である。
【0025】
(S22:第2の軟化処理工程)
第2の軟化処理工程では、γ´相の固溶温度未満でかつ前述の第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度以上の温度(T_(3))まで昇温し、γ相中に析出した整合γ´相を固溶させることで、主にγ相と非整合γ´相からなる2相組織とし(図2(II))、その後、温度T_(2)まで徐冷を行い、非整合γ´相を成長させることで、主に徐冷終了時の温度から室温までの冷却過程で析出する整合γ´相を減少させられるため、加工性を向上させることが出来る(図2(III))。このとき、徐冷速度(T_(A)/t)が遅いほど非整合γ´相を成長させることが可能で、50℃/h以下が好ましく、10℃/h以下がより好ましい。100℃/hより早いと、非整合γ´相を十分に成長させられず、冷却過程で整合γ´相が析出して、本発明の効果が得られない。ここで熱間鍛造完了温度とは、鍛造の最終段階で被鍛造材を保持した温度を示す。
【0026】
第2の軟化処理工程の徐冷開始温度T_(3)は、主にγ相と非整合γ´相からなる2相組織とするために、γ´相の固溶温度未満でかつ前記第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度以上の温度で行うことが好ましい。これは、第1の軟化処理工程の鍛造温度T_(1)より低い場合、γ相粒内に整合γ´相が残存するからであり、γ´相の固溶温度以上では非整合γ´相が消失してしまうからである。ただし、徐冷開始温度T_(3)が前述した第1の軟化処理工程における熱間鍛造完了温度より100℃低くても本発明の効果は得られる。
【0027】
上記第2の軟化処理工程において、前述の通り非整合γ´相を増加させるほど、加工性を向上させることが可能となるので、非整合γ´相の量は20体積%以上が好ましく、より好ましくは30体積%以上である。ここで、非整合γ´相の含有量の割合(体積%)は、母相と他の析出物を含む合金全体に対する割合(絶対量)である。本発明の効果を得るための非整合γ´相の量について、析出可能なγ´相の全総量に対して非整合γ´相の割合をどこまで増加させられかの相対量で決定するというもので、好ましくは全γ´相量の50体積%以上であり、より好ましくは全γ´相量の60体積%以上である。また、上記徐冷終了時の温度(T_(2))は、非整合γ´相が上記の量析出する温度まで下げる必要があり、好ましくは1000℃以下で、より好ましくは900℃以下である。また、徐冷終了温度T_(2)から室温までの冷却方法は、冷却中の整合γ´相の析出を抑えるために冷却速度は速いほど良く、空冷が好ましい。より好ましくは水冷である。
【0028】
良好な加工性を得るためには、室温におけるビッカース硬さ(Hv)は400以下が好ましく、より好ましくは370以下であり、900℃における0.2%耐力は300MPa以下が好ましく、250MPa以下がより好ましく、200MPaが最も好ましい。
【0029】
上記第2の軟化処理工程を行うことで、第2の軟化処理工程後に得られるNi基合金軟化材は、室温におけるビッカース硬さ(Hv)が400以下であり、900℃における0.2%耐力の値は300MPa以下のものを得ることができる。上述した軟化処理工程により、熱間加工時に問題となる加工温度下限を引き下げることができ、後述する加工工程において、γ´相の固溶温度より100℃以上低い温度で加工可能となる。
【0030】
図2では、第1の軟化処理工程後に冷却し、第2の軟化処理工程を行っているが、第1の軟化処理工程後に冷却せず、第2の軟化処理工程を行ってもよい。
【0031】
(S4:加工工程)
上記した軟化処理工程で軟化状態となったNi基軟化材について、加工を行う。このときの加工方法については、特に限定は無く、鍛造加工のみならず、他の塑性加工法や接合方法にも適用可能であり、上記軟化処理と組み合わせることで繰り返し加工を行うことができる。具体的には、プレス加工、圧延加工、引抜き加工、押出し加工、切削加工および摩擦攪拌接合等が適用できる。さらに、上述した軟化処理工程と塑性加工法等を組み合わせることで、本発明に係る高強度Ni基合金を用いたボイラーチューブや燃焼器ライナー、さらにはガスタービン動翼やディスク等の火力発電プラント用部材の提供も可能となる。本発明で提供できるNi基合金部材又はNi基合金構造物の具体例については、追って詳述する。
【0032】
(S5:溶体化‐時効処理工程)
図4は図1の溶体化‐時効処理工程の温度プロファイル及び材料組織を模式的に示す図である。所定形状に加工を施した後、非整合γ´相を固溶させ整合γ´相を再析出させる溶体化時効処理を施すことで、高温強度を回復させることが可能で、整合γ´相を700℃において30体積%以上析出させることが望ましい。
【0033】
本発明において溶体化処理及び時効処理の条件については特に限定は無く、一般的に用いられている条件を適用することができる。
【0034】
(Ni基合金部材の組成)
次に、本発明に係るNi基合金素材の組成について説明する。
【0035】
本発明に係るNi基合金素材は、質量%で、10%以上25%以下のCr、0%以上30%以下のCo、TiとNbとTaの総和が3%以上9%以下、1%以上6%以下のAl、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC、0.08%以下のZr、2.0%以下のHf及び5.0%以下のReを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものが好ましい。
【0036】
より好ましい形態の1つは、質量%で、12.5%以上14.5%以下のCr、24%以上26%以下のCo、5.5%以上7%以下のTi、1.5%以上3%以下のAl、3.5%以下のMo、2%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC及び0.08%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものである。
【0037】
また、その他のより好ましい形態の1つは、質量%で、15%以上17%以下のCr、14%以上16%以下のCo、4%以上6%以下のTi、1.5%以上3.5%以下のAl、0.5%以下のFe、4%以下のMo、2%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC及び0.08%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものである。
【0038】
また、その他のより好ましい形態の1つは、質量%で15%以上17%以下のCr、7.5%以上9.5%以下のCo、2.5%以上4.5%以下のTi、NbとTaの総和が0.5%以上2.5%以下、1.5%以上3.5%以下のAl、3%以上5%以下のFe、4%以下のMo、4%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC及び0.08%以下のZrを含有し、残部がNi及び不可避不純物であるものである。
【0039】
以下に、添加元素の量比及び選択の根拠を示す。
【0040】
Crは、耐酸化性や高温耐食性を向上させる元素である。高温部材へ適用するためには、少なくとも10質量%以上の添加は必須である。しかし、過剰な添加は有害相の生成を助長するため、25質量%以下とする。
【0041】
Coは、添加により母相を強化する効果がある固溶強化元素である。さらに、γ´相の固溶温度を下げる効果もあり、高温延性を向上する。過剰な添加は有害相の生成を助長するため、30質量%以下とする。
【0042】
Alは、析出強化相であるγ´相を形成させる必須の元素である。また、耐酸化性を向上させる効果もある。目的とするγ´相の析出量により、添加量の調整がなされるが、過剰な添加はγ´相の固溶温度を上昇させることから加工性を悪化させる。従って、1質量%以上6質量%以下とする。
【0043】
Ti、Nb及びTaもAl同様にγ´相を安定化させる重要な元素である。ただし、過剰な添加は有害相を含む他の金属間化合物の形成を引き起こしたり、γ´相の固溶温度を上昇することによる加工性の悪化を招く。従って、Ti、Nb及びTaの総和が3質量%以上9質量%以下とする。
【0044】
Feは、CoやNiといった高価な元素と置き換えることが可能で、合金のコストを低減する。しかし、過剰な添加は有害相の生成を助長するため、10質量%以下とする。
【0045】
Mo及びWは、マトリックス中に固溶し、マトリックスを強化する重要な元素である。ただし、これらは密度が大きな元素であるため、過剰な添加をすると密度の増加を引き起こす。また、延性も低下するため加工性も悪化する。従って、Moは10質量%以下、Wは8質量%以下とする。
【0046】
C,B,Zrは、結晶粒界を強化し、高温延性やクリープ強度を向上するのに有効な元素である。ただし、過剰な添加は加工性を悪化させるため、Cは0.1質量%以下、Bは0.03質量%以下、Zrは0.08質量%以下とする。
【0047】
Hfは、耐酸化性を向上させるのに有効な元素である。ただし、過剰な添加は有害相の生成を助長するため、Hfは、2.0%以下が好ましい。
【0048】
Reは、マトリックス中に固溶し、マトリックスを強化する元素である。さらに、耐食性を向上させる効果もある。ただし、過剰な添加は有害相の生成を助長する。また、Reは高価な元素であるため、添加量の増加は合金のコスト増加を伴う。従って、Reは5.0質量%以下が好ましい。
【0049】
[実施例]
以下に、本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0050】
[熱間加工性の評価]
表1に供試材の組成を示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示した組成のNi基合金素材について、異なる製造条件のもとで供試材を作製し、各供試材について加工性の評価および高温強度の評価を行った。各供試材の製作においては、真空誘導加熱溶解法にて10kgずつ溶解し、均質化処理を施した後に、1150?1250℃で熱間鍛造することでφ15mmの丸棒を作製し、上述した第1の軟化処理工程及び第2の軟化処理工程を施した。第1の軟化処理工程の条件を表2に示す。また、γ´相の固溶温度及び第1の軟化処理工程後のγ´相の存在の有無を評価した。γ´相の固溶温度は、熱力学計算に基づいたシミュレーションによって算出した。また、γ´相の存在の有無は、供試材について電子顕微鏡による組織観察を行うことで評価した。結果を表2に併記する。
【0053】
【表2】

表2において、第1の軟化処理工程の温度T_(1)(熱間鍛造温度)については、上記の供試材作製における熱間鍛造時に大きな割れが発生した場合は後段の軟化処理工程を行わずに「-」と表記し、第1の軟化処理工程の熱間鍛造を実施していない場合は「実施せず」と表記し、熱間鍛造後に割れが確認されなかった場合は熱間鍛造時の温度を表記している。
【0054】
表2に示すように、比較例1及び2は、供試材作製における熱間鍛造時に大きな割れが発生した。熱間鍛造後の組織観察により、非整合γ´相の存在が確認できたので、本発明の効果を得ることができるが、最も望ましくはγ´相の固溶温度は1250℃以下である。比較例3は、供試材作製直後の状態であり軟化処理第1の工程における熱間鍛造は施していないが、供試材作製時の熱間鍛造温度がγ´相の固溶温度未満であったため、非整合γ´相が存在している。また、比較例4は、γ´相の固溶温度以上で熱間鍛造を実施しているため、鍛造終了後に非整合γ´相が析出しなかった。これに対して、比較例5ではγ´相の固溶温度以上で熱間鍛造を実施しているが、鍛造中の温度低下により非整合γ´相が析出した。比較例6、8及び実施例1?9は、いずれの供試材においてもγ´相の固溶温度未満で熱間鍛造を実施しているため、軟化処理第1の工程終了後にγ相の粒界上に非整合γ´相の存在を確認できた。比較例7では、γ´相の固溶温度未満で熱間鍛造を実施しているが、γ相の再結晶が迅速に進む温度(1000℃以上)よりも低い温度で鍛造しているため、非整合γ´相が析出しなかった。
【0055】
以上の結果から、非整合γ´相を析出させるための第1の軟化処理工程での鍛造温度T_(1)は、γ´相の固溶温度未満でかつγ相の再結晶が迅速に進む温度以上が好ましいことが示された。より、具体的には、1000℃以上での鍛造が好ましく、950℃以下では非整合γ´相を析出させることができない。従って、γ´相の固溶温度は再結晶が迅速に進む温度以上である必要があり、1050℃以上が好ましい。
【0056】
次に、供試材をそれぞれの第1の軟化処理工程の熱間鍛造温度T_(1)から、徐冷終了温度T_(2)まで冷却速度T_(A)(℃/h)で徐冷後に、水冷により室温まで冷却後した。第2の軟化処理工程の条件を表3に示す。また、冷却後の室温における非整合γ´相量及びビッカース硬さを評価した。非整合γ´相量は、鋳造後や熱間鍛造後または軟化処理後に組織観察を行うことで非整合γ´相の含有割合を決定した。具体的には、電子顕微鏡で得られた観察写真から非整合γ´相の面積比を算出し、この面積比を体積比に換算することによって非整合γ´相の含有割合を算出した。さらに、軟化処理後の熱間加工性を評価するために、各供試材を950℃において熱間鍛造を行い、問題が無かったものは「○」、軽微な割れが発生したものは「△」、大きな割れが発生し鍛造が困難だったものは「×」と評価した。
【0057】
【表3】

【0058】
表3に示すように、実施例1?9では、いずれの供試材も軟化処理工程後の非整合γ´相の量が20体積%を超え、かつ硬さも400Hv以下を満たし、950℃の熱間鍛造が問題なく行えたことから、加工性の向上を確認できた。
【0059】
これに対して、非整合γ´相の量が20体積%未満で硬さが400Hvより大きい比較例3?6では、いずれも鍛造中または鍛造後に割れを確認した。比較例5及び6では、軟化処理工程後に非整合γ´相が存在しているが、鍛造時の整合γ´相の析出量を抑制するのに十分な量ではなかった。比較例7では、非整合γ´相は析出していないが、硬さが400Hvより小さく、950℃での熱間鍛造が行えている。しかし、比較例7のγ´相の固溶温度は950℃より低く、かつ熱力学計算に基づいたシミュレーションによって算出した700℃におけるγ´相の平衡析出量(熱力学的な平衡状態において安定なγ´相の析出量)は22体積%と、本発明のターゲットとなる高強度Ni基合金にはあてはまらない。従って、本発明の効果を十分に得るためには、軟化処理工程後の非整合γ´相の量は20体積%以上必要であることが確認された。
【0060】
さらに、実施例1及び2又は、実施例3及び4を比較すると、700℃における平衡γ´相の平衡析出量が同程度かつ軟化処理第2の工程における徐冷温度域が同じ条件では、徐冷速度をより遅くするほど非整合γ´相量が増加し、硬さを低下することができる。これは、非整合γ´相をより大きく成長させることで、主に徐冷終了時温度から室温まで冷却する間に析出する整合γ´相の量を減少できたためと考えられる。これに対して、比較例8では第1の軟化処理工程後に非整合γ´相を析出させ、第2の軟化処理工程を施しているが、徐冷速度が速く、非整合γ´相が成長しなかったため、本発明の効果を十分に得ることが出来なかった。
【0061】
以上の結果から、軟化処理第2の工程の徐冷速度は50℃/hより遅くすることが好ましく、より好ましくは10℃/h以下であり、100℃/hより早いと本発明の効果が得られないことが示された。
【0062】
実施例1?9では、いずれも900℃における0.2%耐力が250MPa以下であり、一例として実施例7では900℃における0.2%耐力が200MPaであり、非常に優れた熱間加工性を示した。
【0063】
従って、Ni基合金の熱間鍛造前に本発明を適用することで、鍛造温度を従来の鍛造温度より100℃以上低くでき、熱間鍛造を容易に行うことが可能となる。なお、上述した優れた熱間鍛造性を見れば、本発明に係る軟化処理したNi基合金の加工工程は、熱間鍛造に限定されるものではなく、プレス加工、圧延加工、引抜き加工、押出し加工及び切削加工等であっても、優れた加工性を示すことは言うまでもない。
【0064】
実施例1?9では、950℃における熱間鍛造後に溶体化時効処理を施すことで、いずれも図4(III)に示すような非整合γ´相がほぼ消失し、かつ整合γ´相が多く析出した組織を有しており、700℃における整合γ´相の量が30体積%以上を含有しており、一例として実施例7では、500℃における引張強さ1518MPaと、従来の高強度Ni基合金と同等の強度を示した。
【0065】
以上の結果から、本発明に係るNi基合金部材の製造方法を適用することで、難加工性である高強度Ni基合金の熱間加工性を大幅に向上できることが示された。
【実施例2】
【0066】
本発明に係るNi基合金部材の製造方法を用いて作製したNi基合金部材の例を以下に示す。
【0067】
図5Aは本発明に係るNi基合金の製造方法を用いて製造された鍛造用Ni基合金素材の一例を示す模式図である。この鍛造用Ni基合金素材は、上述した軟化処理工程S2後に得られる。従来は、高強度Ni基鋳造合金から構造物まで成形するには、強化相であるγ´相の量を減少させ強度を低下させるために、1000?1250℃の高い温度域において最終加工まで行う必要があった。本発明に係るNi基合金の製造方法を用いて作製された鍛造用Ni基合金素材11とすることで、加工時に極めて高い成形性を示すことが可能となる。
【0068】
上記鍛造用Ni基合金素材11を用いることで、図5Bに示すような高強度Ni基合金を用いた薄板12(厚さ3mm以下)を冷間または熱間圧延により製造することが可能となる。
【0069】
また、摩擦攪拌接合において、加工中の部材の温度は900℃程度まで上昇することから、本発明を適用することで加工温度における0.2%耐力を300MPa以下にできることから、摩擦攪拌接合も可能となる。これにより、図5Cに示すような、摩擦攪拌接合により接合されたNi基合金構造物を得ることが可能となる。
【0070】
また、また、加工性の高い本発明に係るNi基合金を用いることで、容易に図5Dに示すようなボイラーチューブ15を製造することが可能となる。
【0071】
また、前述した薄板12は容易に曲げ加工が可能となることから、摩擦攪拌接合を組み合わせることで、図5Eに示すような、より信頼性に優れ、耐用温度を向上させた燃焼器ライナー16を製造することが可能となる。
【0072】
また、上記鍛造用Ni基合金素材11を用いることで、容易に型鍛造を行うことが可能であることから、切削加工を組み合わせることで、図5Fに示すような高温強度に優れたガスタービン動翼17の製造が可能となる。また、これらのガスタービン部材を適用した高効率火力発電プラントを実現することが可能となる。
【0073】
また、上記鍛造用Ni基合金素材11を用いることで、容易に図5Gに示すようなガスタービンディスク18を製造することが可能となる。
【0074】
以上、説明したように、本発明によれば、γ´相を多量に含有する析出強化型のNi基合金部材の製造過程における優れた加工性及びNi基合金部材の優れた高温強度を両立させたNi基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法を提供できることが証明された。また、本発明に係るNi基合金軟化材の製造方法を用いることにより、様々な形状を有するNi基合金部材、Ni基合金部品及びNi基合金構造物を簡便に製造可能であることが証明された。
【0075】
なお、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、本発明は、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。例えば、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0076】
4…γ相、5…整合γ´相、6…非整合γ´相、7…γ相を構成する原子、8…γ´相を構成する原子、9…γ相とγ´相との整合界面、10…γ相とγ´相との非整合界面、11…本発明を用いて製造された鍛造用Ni基合金素材、12…本発明を用いて製造された薄板、13…摩擦攪拌接合のツール、14…摩擦攪拌接合による接合部、15…本発明を用いて製造されたボイラーチューブ、16…本発明を用いて製造された燃焼器ライナー、17…本発明を用いて製造されたガスタービン後段動翼、18…本発明を用いて製造されたガスタービンディスク。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ´相の固溶温度が1050℃以上であるNi基合金からなるNi基合金軟化材の製造方法であって、
次の工程で軟化処理を実施するためのNi基合金素材を準備する素材準備工程と、
前記Ni基合金素材を軟化させて加工性を向上させる軟化処理工程と、を含み、
前記軟化処理工程は、前記γ´相の固溶温度未満の温度領域でなされる工程であり、前記Ni基合金素材を前記γ´相の固溶温度未満の温度で熱間鍛造する第1の工程と、前記γ´相の固溶温度未満の温度から100℃/h以下の冷却速度で徐冷をすることにより前記Ni基合金の母相であるγ相の結晶粒の粒界上に析出した非整合なγ´相の結晶粒の量を増加させて20体積%以上としたNi基合金軟化材を得る第2の工程と、を含むことを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載のNi基合金軟化材の製造方法であって、
前記第2の工程の徐冷開始温度が前記第1の工程における熱間鍛造の鍛造終了温度以上かつ、γ´相の固溶温度未満であることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のNi基合金軟化材の製造方法であって、
前記徐冷の冷却速度が50℃/h以下であることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のNi基合金軟化材の製造方法であって、
Ni基合金の組成が、質量%で、10%以上25%以下のCr、30%以下のCo、TiとNbとTaの総和が3%以上9%以下、1%以上6%以下のAl、10%以下のFe、10%以下のMo、8%以下のW、0.03%以下のB、0.1%以下のC、0.08%以下のZr、2.0%以下のHf及び5.0%以下のReを含有し、残部がNi及び不可避不純物からなることを特徴とするNi基合金軟化材の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載のNi基合金軟化材の製造方法によって得られたNi基合金軟化材を所望の形状に加工する加工工程と、前記加工工程後に前記非整合γ´相を固溶させる溶体化処理及び、整合γ´相を再析出させる時効処理をしてNi基合金部材を得る溶体化‐時効処理工程と、を含むことを特徴とするNi基合金部材の製造方法。
【図面】













 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-04-03 
出願番号 特願2014-125399(P2014-125399)
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C22F)
P 1 651・ 113- YAA (C22F)
P 1 651・ 537- YAA (C22F)
P 1 651・ 536- YAA (C22F)
最終処分 維持  
前審関与審査官 蛭田 敦  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 河野 一夫
河本 充雄
登録日 2016-01-15 
登録番号 特許第5869624号(P5869624)
権利者 三菱日立パワーシステムズ株式会社
発明の名称 Ni基合金軟化材及びNi基合金部材の製造方法  
代理人 ポレール特許業務法人  
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