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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特29条の2  H01M
管理番号 1327892
異議申立番号 異議2016-700547  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2016-06-16 
確定日 2017-04-12 
異議申立件数
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5832915号発明「リチウムイオン電池の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5832915号の特許請求の範囲を平成29年 3月16日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?5〕、〔6、7〕、〔8?12〕について、訂正することを認める。 特許第5832915号の請求項3?5、8?12に係る特許を維持する。 特許第5832915号の請求項1、2、6、7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第5832915号(以下、「本件特許」という。)は、その出願が、平成24年 1月27日(優先権主張 平成23年 2月24日、日本国)にされ、その設定の登録が、平成27年11月 6日にされたものである。
そして、本件特許の請求項1?12に係る特許に対して、平成28年 6月16日に、特許異議申立人一條淳(以下、「申立人」という。)により、特許異議の申立てがされ、同年 8月 3日付けで当審から取消理由が通知され、同年10月 6日付けで特許権者から意見書及び訂正請求書が提出され、この意見書及び訂正請求書に対して、同年12月 7日付けで申立人から意見書が提出され、平成29年 1月12日付けで当審から取消理由が通知され、同年 3月16日付けで特許権者から意見書及び訂正請求書が提出された。

第2 訂正の適否
1 訂正の内容
平成29年 3月16日付けの訂正請求書による訂正(以下、「本件訂正」という。)の請求は、本件訂正後の請求項1?2、3?5、6?7、8?12について訂正することを求めるものであり、本件訂正は、以下の訂正事項からなる。
なお、平成28年10月 6日付けの訂正請求書による訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定により取り下げられたものとみなす。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に
「 (a)金属板上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、乾燥させた前記逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」と記載され、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2に
「 請求項1記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含むことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」と記載され、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項3に
「 請求項2記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」と記載されているのを、特許請求の範囲の請求項3の記載を独立形式に改め、
「(a)金属板上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、乾燥させた前記逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備え、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」に訂正する。
(本件訂正後の請求項3の記載を引用する本件訂正後の請求項4及び5も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を削除する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項7を削除する。

(6)訂正事項6
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6に
「 (a)金属板の第1面上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの第1逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、前記金属板の前記第1面とは反対側の第2面上に電極活物質とバインダを含む第3スラリーを塗布し、続いて、前記第3スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第4スラリーを逐次塗布する工程と、
(d)前記(c)工程後、前記第3スラリーと前記第4スラリーの第2逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(e)前記(d)工程後、前記第1逐次塗布膜と前記第2逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備えることを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」と記載され、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項7に
「 請求項6記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーおよび前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーおよび前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含むことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」と記載され、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項8に
「 請求項7記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」と記載されているのを、特許請求の範囲の請求項8の記載を、独立形式に改め、
本件訂正前の請求項7に、「前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーおよび前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーおよび前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含む」と記載されているのを、
「前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記(c)工程の段階で、
前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、」と訂正し、
「(a)金属板の第1面上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの第1逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、前記金属板の前記第1面とは反対側の第2面上に電極活物質とバインダを含む第3スラリーを塗布し、続いて、前記第3スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第4スラリーを逐次塗布する工程と、
(d)前記(c)工程後、前記第3スラリーと前記第4スラリーの第2逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(e)前記(d)工程後、前記第1逐次塗布膜と前記第2逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備え、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記(c)工程の段階で、
前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。」に訂正する。
(本件訂正後の請求項8の記載を引用する本件訂正後の請求項9?12も同様に訂正する。)

(7)訂正事項7
本件訂正前の請求項9?12のそれぞれに、
「前記(c)工程後の段階で、」と記載されているのを、それぞれ、
「前記(e)工程後の段階で、」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、一群の請求項及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)一群の請求項について
訂正事項1に係る本件訂正前の請求項1は、その記載を本件訂正前の請求項2?5が引用しているから、本件訂正前の請求項1?5に対応する本件訂正後の請求項1?5は、一群の請求項である。
また、訂正事項4に係る本件訂正前の請求項6は、その記載を本件訂正前の請求項7?12が引用しているから、本件訂正前の請求項6?12に対応する本件訂正後の請求項6?12は、一群の請求項である。

(2)訂正事項1について
ア 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(3)訂正事項2について
ア 訂正事項2は、請求項2を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(4)訂正事項3について
ア 訂正事項3は、本件訂正前の請求項3が本件訂正前の請求項1及び請求項2の記載を引用する記載であったのを、本件訂正前の請求項1及び請求項2の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ また、訂正事項3が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(5)訂正事項4について
ア 訂正事項4は、請求項6を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(6)訂正事項5について
ア 訂正事項5は、請求項7を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的するものであり、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(7)訂正事項6について
ア 訂正事項6は、本件訂正前の請求項8が本件訂正前の請求項6及び請求項7の記載を引用する記載であったのを、本件訂正前の請求項6及び請求項7の記載を引用しないものとすることを目的とするものである。

イ また、訂正事項6は、本件訂正前の請求項7の
「 前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーおよび前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーおよび前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、」との記載について、「第3スラリー」及び「第4スラリー」が、それぞれ(c)工程のものであることから、「前記(a)工程の段階で」との記載が明らかな誤記であるのを、
「 前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記(c)工程の段階で、
前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、」と訂正するものであり、この訂正は、誤記の訂正を目的とするものである。

ウ また、訂正事項6が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(8)訂正事項7について
ア 本件訂正前の請求項9?12において、第1スラリーと第2スラリー、又は、第3スラリーと第4スラリーの膜の空孔率又は充填率を比較する段階について「前記(c)工程後の段階」と記載されているが、空孔率又は充填率を比較する段階は、加圧処理を施す工程後の段階、すなわち、「前記(e)工程後の段階」であるから、「前記(c)工程後の段階」との記載は、「前記(e)工程後の段階」の明らかな誤記である。

イ よって、「前記(c)工程後の段階」との記載を、「前記(e)工程後の段階」と訂正する訂正事項7は、誤記の訂正を目的とするものである。

ウ また、訂正事項7が、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでないことは明らかである。

(9)引用関係の解消の求めについて
引用関係の解消を目的とする訂正事項3は、上記のとおり認められるから、本件訂正後の請求項3?5について、本件訂正後の請求項1及び2とは別途訂正することを認める。
また、引用関係の解消を目的とする訂正事項6は、上記のとおり認められるから、本件訂正後の請求項8?12について、本件訂正後の請求項6及び7とは、別途訂正することを認める。

3 小括
したがって、本件訂正の訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書きに掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法同条第4項、同法同条第9項で準用する同法第126条第4項から第6項までの規定に適合するので、訂正後の請求項〔1、2〕、〔3?5〕、〔6、7〕、〔8?12〕について訂正を認める。

第3 本件特許発明
上記第2に記載のとおり、本件訂正は認められるので、本件特許の請求項1?12に係る発明(以下、それぞれ、「本件特許発明1」?「本件特許発明12」といい、これらを総称して「本件特許発明」という。)は、平成29年 1月12日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1?12に記載された事項により特定される以下のとおりのものであると認める。

【請求項1】(削除)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
(a)金属板上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、乾燥させた前記逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備え、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(c)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の空孔率は、前記第1スラリーによる膜の空孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(c)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の充填率は、前記第1スラリーによる膜の充填率よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
(a)金属板の第1面上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの第1逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、前記金属板の前記第1面とは反対側の第2面上に電極活物質とバインダを含む第3スラリーを塗布し、続いて、前記第3スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第4スラリーを逐次塗布する工程と、
(d)前記(c)工程後、前記第3スラリーと前記第4スラリーの第2逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(e)前記(d)工程後、前記第1逐次塗布膜と前記第2逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備え、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記(c)工程の段階で、
前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の空孔率は、前記第1スラリーによる膜の空孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項10】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第4スラリーによる膜の空孔率は、前記第3スラリーによる膜の空孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項11】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の充填率は、前記第1スラリーによる膜の充填率よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項12】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第4スラリーによる膜の充填率は、前記第3スラリーによる膜の充填率よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。

第4 申立理由、取消理由の概要
1 申立理由
申立人が、特許異議申立書において、以下の甲第1号証?甲第6号証を証拠方法として、本件訂正前の請求項1?12に係る特許に対して、申立てた理由の概要は、以下のとおりである。

(申立理由1)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項3?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1?5に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(申立理由2)
本件訂正前の請求項6、7に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であり、本件訂正前の請求項8?12に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項6?12に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(申立理由3)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前の特許出願であって、その出願の優先日後に出願公開(甲第2号証)がされた特許出願(特願2010-247252号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者が上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許に係る出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

(甲号証)
甲第1号証:国際公開第2010/050507号公報
甲第2号証:特開2012-99385号公報
甲第3号証:特開2006-48942号公報
甲第4号証:国際公開第2010/086910号
甲第5号証:寺下敬次郎ら、「リチウムイオン二次電池用負極材料の混練・分散とその評価」、粉体および粉末冶金、粉体粉末冶金協会、2002年 3月、第49巻、第3号、第228頁?第236頁
甲第6号証:特開2009-181756号公報

また、申立人は、平成28年12月 7日付けの意見書において、以下の参考資料1及び参考資料2を提示し、平成28年10月 6日付けの訂正請求書により訂正された請求項1、2、6、7に係る特許について、下記の取消理由1、及び、取消理由2が解消していない旨主張している。

(参考資料)
参考資料1:特開2006-179205号公報
参考資料2:国際公開第98/38688号

2 平成28年 8月 3日付けで通知した取消理由
本件訂正前の請求項1、2、6、7に係る特許に対して、平成28年 8月 3日付けで当審より特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(取消理由1-1)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(取消理由1-2)
本件訂正前の請求項6、7に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(取消理由1-3)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、本件特許に係る出願の優先日前の特許出願であって、その出願の優先日後に出願公開(甲第2号証)がされた特許出願(特願2010-247252号)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許に係る出願の発明者が上記特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許に係る出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。

3 平成29年 1月12日付けで通知した取消理由
平成28年10月 6日付けの訂正請求書により訂正された請求項1、2、6、7に係る特許に対して、平成29年 1月12日付けで当審より特許権者に通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。

(取消理由2-1)
本件訂正前の請求項1、2に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった参考資料1に記載された発明であるか、参考資料1に記載された発明と甲第3号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。
(取消理由2-2)
本件訂正前の請求項6、7に係る発明は、その出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回路を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるか、甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1、2に係る特許は、特許法第29条第1項又は第2項の規定に違反してされたものである。

第5 甲号証の記載事項
特許異議申立書において、証拠方法として提示された甲第1号証?甲第6号証のうち、甲第1号証、甲第3号証、甲第4号証、甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

(1)甲第1号証について
甲第1号証には、以下の事項が記載されている。

(1-ア)「発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] ところで、前記のような高容量負極材料を用いて高容量化を図った非水二次電池では、特に、正極と負極とをセパレータを介して渦巻状に巻回した巻回電極体を、角形(角筒形)の外装缶やラミネートフィルム外装体の内部に装填した電池とした場合に、充放電の繰り返しに伴って容量低下が生じたり、電池の膨れにより厚みが大きく増加したりする虞のあることが、本発明者らの検討により明らかとなった。
[0007] 本発明は前記事情に鑑みてなされたものであり、高容量で、充放電サイクル特性が良好であり、電池膨れが抑制された非水二次電池を提供する。
課題を解決するための手段
[0008] 本発明の第1の非水二次電池は、正極、負極および非水電解質を含む非水二次電池であって、前記正極は、正極集電体を含み、前記正極集電体の少なくとも片面には、Li含有遷移金属酸化物を含有する正極活物質含有層が配置され、前記負極は、負極集電体を含み、前記負極集電体の少なくとも片面には、Liと合金化が可能な元素を含む負極活物質を含有する負極活物質含有層が配置され、前記負極活物質含有層の前記負極集電体とは反対側の表面には、Liと反応しない絶縁性の材料を含有する多孔質層が配置され、前記負極集電体の0.2%耐力が、250N/mm^(2)以上であるか、または、前記負極集電体の引張強度が、300N/mm^(2)以上であることを特徴とする。
・・・
[0011] そこで、本発明では、負極活物質含有層の表面にLiと反応しない絶縁性の材料を含有する多孔質層を形成する・・・ことで、充電時の負極活物質の膨張による負極の体積変化や湾曲などの変形を抑制して、非水二次電池の高容量化を図りつつ、充放電サイクル特性を高め、更には充電時の電池膨れの低減を達成している。
発明の効果
[0012] 本発明によれば、高容量で、充放電サイクル特性が良好な非水二次電池を提供することができる。また、本発明の非水二次電池では、例えば、幅に対して厚みの小さな角形(角筒形)や扁平形の場合であっても、充電時における電池膨れを低減できる。」

(1-イ)「[0050] 本発明に係る負極は、前記のような負極集電体の片面または両面に、前記の負極活物質を含む負極活物質含有層が形成された構造を有している。負極活物質含有層は、前記の負極活物質の他に、バインダや、必要に応じて使用される導電性材料(負極活物質との複合体を構成する際に使用される前記の導電性材料を含む。)などを含む負極合剤に、適当な溶媒(分散媒)を加え、十分に混練して得たペースト状やスラリー状の組成物(塗料)を前記の集電体に塗布し、乾燥などにより溶媒(分散媒)を除去して、所定の厚みおよび密度で形成することができる。」

(1-ウ)「[0062] 負極活物質含有層においては、電池の容量を高める観点から、負極活物質の含有量は、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましい。負極活物質含有層は負極活物質のみで形成してもよく、例えば前記のように、Liと合金化し得る元素単体や、Liと合金化し得る元素を含む合金で形成された薄膜を負極活物質含有層とすることもできる。そのため、負極活物質含有層における負極活物質の含有量は100質量%でもよいが、バインダも併用して負極活物質含有層を構成する場合には、バインダの使用による効果を確保する観点から、負極活物質の含有量は、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましい。」

(1-エ)「[0068] 図1に、コート層を有する負極の一例の断面模式図を示す。負極1は、Liと合金化が可能な元素を含む負極活物質を含有する負極活物質含有層3の表面に、コート層2を積層した構造を有している。図1において、4は負極集電体である。
[0069] 負極に係るコート層は、Liと反応しない絶縁性の材料を含有し、非水電解質(電解液)が通過可能な程度の細孔を備えた層(多孔質層)である。
[0070] コート層を構成するためのLiと反応しない絶縁性の材料としては、例えば、電気化学的に安定であり、電気絶縁性を有する微粒子が好ましく、このような微粒子であれば特に制限はないが、無機微粒子がより好ましい。具体的には、・・・などの無機酸化物微粒子;・・・などの無機窒化物微粒子;・・・などの難溶性のイオン結晶微粒子;・・・などの共有結合性結晶微粒子などが挙げられる。ここで、前記無機酸化物微粒子は、・・・などの鉱物資源由来物質またはこれらの人造物などの微粒子であってもよい。また、無機微粒子は、金属、SnO_(2)、スズ-インジウム酸化物(ITO)などの導電性酸化物;カーボンブラック、グラファイトなどの炭素質材料;などで例示される導電性材料の表面を、電気絶縁性を有する材料(例えば、前記の無機酸化物など)で被覆することにより電気絶縁性を持たせた粒子であってもよい。
[0071] また、Liと反応しない絶縁性の材料には、有機微粒子を用いることもできる。・・・。
[0072] 前記例示の微粒子は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記例示の微粒子の中でも、無機酸化物微粒子がより好ましく、アルミナ、シリカ、ベーマイトが更に好ましい。
・・・
[0075] また、コート層には電子伝導性の材料を含ませてもよい。電子伝導性の材料はコート層の必須成分ではないが、後述するように、負極活物質に予めLiを導入する場合には、電子伝導性の材料をコート層に含有させる。
[0076] コート層に使用可能な電子伝導性の材料としては、例えば、・・・炭素材料;金属粒子、金属繊維などの金属材料;金属酸化物;などが挙げられる。これらの中でも、Liとの反応性が低い炭素粒子や金属粒子が好ましい。
・・・
[0083] コート層を形成するにあたっては、前記のLiと反応しない絶縁性の材料を結着する目的で、バインダを用いることが好ましい。バインダとしては、例えば、負極活物質含有層用のバインダとして例示した各種材料を用いることができる。・・・。
・・・
[0086] コート層の厚みは、例えば、好ましくは1μm以上、より好ましくは2μm以上、特に好ましくは3μm以上であって、好ましくは10μm以下、より好ましくは8μm以下、特に好ましくは6μm以下である。コート層がこのような厚みであれば、負極の体積変化や湾曲などの変形をより効率的に抑制でき、電池の高容量化と、充放電サイクル特性の低下抑制や電池膨れの低減とをより良好に達成することができる。コート層の厚みが、例えば、負極活物質含有層の表面粗さに対して薄くなりすぎると、ピンホールなしに負極活物質含有層の全面を覆うことが困難となり、コート層を形成することによる効果が小さくなる虞がある。一方、コート層が厚すぎると、電池の容量低下に繋がるので、できる限り薄く形成することが好ましい。
[0087] 前記の通り、Liと反応しない絶縁性の材料として、粒径の揃った微粒子を使用することで、前記のように厚みを小さくしつつ、ピンホールなどを含まない良好な性状のコート層の形成が容易となる。
・・・
[0089] コート層は、例えば、前記のLiと反応しない絶縁性の材料や、必要に応じて使用される電子伝導性を有する材料およびバインダなどを含む混合物に、適当な溶媒(分散媒)を加えて十分に混練して得たペースト状やスラリー状の組成物(塗料)を、負極集電体の表面に形成した負極活物質含有層の表面に塗布し、乾燥などにより溶媒(分散媒)を除去して、所定の厚みで形成することができる。コート層は、前記以外の方法で形成しても構わない。例えば、負極活物質含有層形成用の組成物を集電体表面に塗布した後、この塗膜が完全に乾燥する前に、コート層形成用の組成物を塗布し、乾燥して、負極活物質含有層とコート層を同時に形成してもよい。更に、前記のような負極活物質含有層形成用の組成物と、コート層形成用の組成物とを、順次塗布する逐次方式の他、負極活物質含有層形成用の組成物の塗布と、コート層形成用の組成物との塗布を同時に行う同時塗布方式によって、負極活物質含有層とコート層を同時に形成してもよい。」

(1-オ)「[0106] 本発明の非水二次電池は、前記の負極、前記の正極および前記の非水電解質を備えていればよく、その他の構成要素や構造については特に制限は無く、従来から知られている非水二次電池で採用されている各種構成要素、構造を適用することができる。」

(1-カ)「実施例
[0111] 以下、実施例に基づいて本発明を詳細に述べる。ただし、下記実施例は、本発明を制限するものではない。以下の実施例において、各種複合粒子、α-アルミナ、および黒鉛の平均粒径は、マイクロトラック社製「MICROTRAC HRA(Model:9320-X100)」を用いて、レーザー回折式粒度分布測定法により測定した体積平均値である。また、負極集電体の0.2%耐力および引張強度は、それぞれ前記の方法により測定した値である。
[0112] (実施例1)
・・・。このようにして前記混合ガスが熱分解して生じた炭素(以下「CVD炭素」ともいう。)をSiOに堆積させて被覆層を形成し、負極材料(負極活物質)を得た。
・・・
[0114] 次に、前記負極材料を用いて、負極を作製した。前記負極材料80質量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)と、黒鉛10質量%と、導電助剤としてケッチェンブラック(平均粒径0.05μm)2質量%と、バインダとしてポリアミドイミド(日立化成社製「HPC-9000-21」)8質量%と、脱水N-メチルピロリドン(NMP)とを混合して負極合剤含有スラリーを調製した。また、α-アルミナ(平均粒径1μm、d10:0.64μm、d90:1.55μmであり、粒径が0.2μm以下の粒子の割合、および粒径が2μm以上の粒子の割合が、いずれも10体積%以下)95質量%(固形分全量中の含有量。以下同じ。)と、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)5質量%と、脱水NMPとを混合してコート層形成用スラリーを調製した。
[0115] ブレードコーターを用いて、前記の負極合剤含有スラリーを下層、コート層形成用スラリーを上層として、厚みが10μmの高強度銅箔(日立電線製「HCL-02Z」、0.2%耐力270N/mm^(2)、引張強度350N/mm^(2))からなる集電体の両面に塗布し、100℃で乾燥した後、ローラープレス機により圧縮成形して、集電体の両面に、片面あたりの厚みが35μmの負極活物質含有層と5μmのコート層とを形成して積層体とした。集電体表面に負極活物質含有層とコート層とを形成した前記積層体を、真空中100℃で15時間乾燥させた。
[0116] 乾燥後の前記積層体について、更に遠赤外線ヒーターを用いて160℃で15時間熱処理を施した。・・・。
[0117] 前記積層体を幅37mmに裁断して短冊状の負極を得た。
[0118] また、正極を以下のようにして作製した。まず、正極材料(正極活物質)・・・と、導電助剤・・・と、バインダ・・・と、脱水NMPとを混合して得た正極合剤含有スラリーを、・・・アルミニウム箔からなる集電体の両面に塗布し、乾燥後プレスして、集電体の両面に、・・・正極活物質含有層を形成して積層体とした。前記積層体を幅36mmに裁断して短冊状の正極を得た。
[0119] 次に、負極、微孔性ポリエチレンフィルム製のセパレータおよび正極を、ロール状に巻回した後、端子を溶接して厚み4mm、幅34mm、高さ43mm(463443型)のアルミニウム製の正極缶に挿入し、蓋を溶接して取り付けた。その後、蓋の注液口よりEC:DEC=3:7(体積比)の溶媒に1molのLiPF_(6)を溶解させて調製した電解液(非水電解質)2.5gを容器内に注入し、密閉して角形非水二次電池を得た。」

上記(1-ア)?(1-カ)の記載事項(特に(1-カ)の記載事項)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「集電体に、負極材料(負極活物質)とバインダとを含む負極合剤含有スラリーを下層、α-アルミナとバインダとを含むコート層形成用スラリーを上層として塗布し、
100℃で乾燥し、
ローラープレス機により圧縮成形して積層体とする工程を含む、
角形非水二次電池の製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲第3号証について
甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(3-ア)「【技術分野】
【0001】
本発明は、電池用電極の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は、従来のリチウムイオン二次電池の電極板の製造装置を示す図である。図6に示す様に、従来のリチウムイオン二次電池の電極板の製造装置は、帯状金属箔からなる集電体2を送り出す送り出し機構1を備えている。この送り出し機構1から送り出された集電体2の片面に、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極又は負極活物質、及び導電補助剤、結着剤、溶媒等を含む合剤層4を塗布するための塗布装置3が設置されている。
【0003】
又、集電体2に塗布された合剤層4に含まれる揮発成分を除去するための乾燥炉5が設置されている。さらに、上記と同様に、集電体2の合剤層4が形成された反対面に合剤層7を塗布するための塗布装置6と、合剤層7の揮発成分を除去するために乾燥器8が設置されている。又、集電体2の両面に形成された合剤層4、7の空隙率が所望の値になるようにプレスするプレス装置9と、プレスされた電極板を巻き取る巻取り機構10が設置されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開平08-203502号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の製造方法による電極板では、合剤層の空隙率に厚み方向で粗密差が生じていた。図7は、従来のリチウムイオン二次電池の電極板の製造装置により製造された電極板の断面図である。図7に示す様に、従来の製造方法による電極板では、合剤層4、7内部の空隙率が大きく、合剤層4、7表面近傍の空隙率が小さくなっている。
【0005】
このように、合剤層表面近傍の空隙率が小さいために合剤層表面近傍におけるリチウムイオン伝導性が低く、又、合剤層内部の空隙率が大きいために集電性が低かった。そのため、優れた充電サイクル特性及び電池容量が得られなかった。
【0006】
又、合剤層表面近傍の空隙率が小さいために、合剤層内部への電解液の吸液性も悪くなり、電解液の注液に時間がかかり生産性が悪かった。
【0007】
上記従来の課題を考慮して、本発明の目的は、充電サイクル特性及び電池容量のより優れた、又は、生産性のより優れた電池用電極の製造方法を提供することである。」

(3-イ)「【0017】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1における、本発明の電池用電極の製造装置の一例であるリチウムイオン二次電池用電極の製造装置を模式的に示した図である。
【0018】
図1に示す様に、本実施の形態1におけるリチウムイオン二次電池用電極の製造装置は、帯状金属箔からなる集電体22を送り出すための送り出し機構21を備えている。この送り出し機構21から送り出された集電体22の片面に、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極又は負極活物質、導電補助剤、結着剤、及び溶媒等を含む合剤層24を塗布するための塗布装置23が設置されている。この合剤層24上に被覆層26を塗布するための塗布装置25が設置されている。又、合剤層24と被覆層26に含まれる揮発成分を除去するための乾燥炉27が設置されている。
【0019】
さらに、上記と同様に、集電体22の合剤層24が形成された反対面に合剤層29を塗布するための塗布装置28と、被覆層31を途布するための塗布装置30と、乾燥炉32が設置されている。又、集電体2の両面に形成された合剤層4、7及び被覆層26、31の空隙率が所望の値になるようにプレスするプレス装置33と、このプレス装置33によってプレスされた電極板を巻き取るための巻き取り機構34が設置されている。尚、帯状の集電体22は、送り出し機構21から巻き取り機構34まで繋がっており、各装置によって処理を施されながら移動する。又、乾燥炉27、32、塗布装置23、25、28、30が設置されている箇所等には、集電体22を移動させるための回転機構等が設置されている。
・・・
【0023】
無機フィラー、溶媒、結着剤、各種添加剤からなるものをディゾルバーにて攪拌し、混合物を作成する。この混合物とビーズ11を攪拌子13にて攪拌することで、無機フィラー12の凝集物をビーズ11にて除去でき、無機フィラーを高分散化することが出来る。そして、無機フィラー、溶媒、結着剤、各種添加剤からなる混合物をビーズミルより取り出し、被覆層用塗料が作成される。
【0024】
次に、上記構成の本実施の形態1におけるリチウムイオン二次電池用電極の製造装置の動作を述べるとともに、本発明の電池用電極の製造方法の一実施の形態について同時に述べる。
【0025】
図1において、送り出し機構21から送り出された帯状金属箔からなる集電体22の表面に、塗布装置23によって、合剤層24を形成する(本発明の合剤層形成工程の一例に相当する。)。次に、塗布装置25によって、合剤層24の上に上記ビーズミルにて作成された塗料を塗布することにより、被覆層26を形成する(本発明の被覆層形成工程の一例に相当する。)。次に、乾燥炉27において、合剤層24および被覆層26に含まれる揮発成分を除去する(第4の本発明の揮発成分除去工程の一例に相当する。)。
【0026】
続いて、同様にして、集電体22の合剤層24および被覆層26が形成された面の反対側の面にも、塗布装置28によって、合剤層29を形成する。その後、塗布装置30によって、合剤層29の上に被覆層31を形成し、乾燥炉32によって、合剤層29および被覆層31に含まれる揮発成分を除去する。
【0027】
以上の様にして、集電体22の両面に形成された合剤層24、29および被覆層26、31を、プレス装置33によって、合剤層の空隙率が所望の値となるようにプレスする(本発明のプレス工程の一例に相当する。)。
【0028】
上記製造方法によって、リチウムイオン二次電池用の正極又は負極板を製造することが出来る。尚、作製された電池用電極については、後述する実施例1?3、及び比較例1にて詳しく説明する。
【0029】
尚、集電体22としては、一般に、正極板においてアルミニウム箔、負極板において銅箔が用いられているが、本発明においては、良好な導電性を有するものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ニッケル等の他の金属箔や、PET等の高分子フィルムの表面に金属を蒸着したものや、導電性高分子フィルム等を用いても良い。
【0030】
又、合剤層24、29は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極または負極活物質、および導電助剤、結着剤、溶媒等からなる。
・・・
【0036】
また、これらの活物質、結着剤、導電助剤、溶媒の他に、分散剤、界面活性剤、レオロジー調整剤等の各種添加物を必要に応じて用いても良い。
【0037】
又、被覆層26、31を構成する材料は、塗布・乾燥・プレス後において、層を構成する材料内、または、層内の空隙中をリチウムイオンが移動できるものであればよく、本発明においては、特に、限定されるものではない。本発明の無機フィラーとして、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の無機物粒子を用いることが出来る。また、・・・等の有機物粒子、および前記無機物粒子と前記有機物粒子の混合物、結着剤、溶媒、各種添加剤等を用いることができる。ここで、本発明のバインダー溶液としては、上述した合剤層中に含まれる結着剤及び溶媒と同様なものを用いることが出来る。又、各種添加剤としても同様に、合剤層中のものと同様のものを用いることが出来る。
・・・
【0045】
ただし、合剤層および被覆層の両層を揮発成分が含まれる構成にするとともに、揮発成分が含まれた合剤層上に被覆層を形成することが望ましい。これにより、二層の界面における材料の分布状態がより理想的なものとなるため、充放電サイクル特性および電池容量について、より高い効果が得られるとともに、二層間の密着性が高くなるため、各層の剥離や滑落等の不良が生じにくくなる。」

(3-ウ)「【0060】
以下、本発明の電池用電極の製造方法及び製造装置について、実施例において更に詳しく説明する。・・・。
【0061】
(実施例1)
正極合剤として、・・・を用いた。又、正極集電体として、・・・アルミニウム箔を用いた。
【0062】
また、正極板と負極板の被覆層には同じものを用いた。一次粒子径0.2μmのシリカ40wt%、ポリテトラフルオロエチレン10wt%、N-メチル-2-ピロリドン50wt%からなるものをディゾルバーにて攪拌し、混合物を作成した。これらの混合物を・・・ビーズミルにより分散し、被覆層用塗料を得た。
【0063】
実施の形態1において説明したリチウムイオン二次電池用電極の製造装置によって、電極板を作製した。始めに、集電体22の片面に、・・・、正極合剤24を・・・に塗布した。次に、乾燥前の正極合剤層上に、・・・、被覆層用塗料を・・・塗布することで被覆層26を形成した。この後、合剤層24および被覆層26を100℃の熱風乾燥炉27で乾燥させた。同様にして、アルミニウム箔の反対側の面にも、合剤層29および被覆層31を形成した。このようにして、アルミニウム箔の両面に合剤層24、29および被覆層26、31が形成された正極板を、プレス装置33によって、・・・プレスした。
【0064】
又、上記正極板と同様の工程で負極板も作製した。・・・負極合剤を、負極集電体である・・・銅箔の片面に、・・・塗布した。続いて乾燥前の負極合剤層上に、・・・、正極板と同様の被覆層用塗料を・・・塗布することで、被覆層を形成した。この後、合剤層および被覆層を100℃の熱風乾燥炉で乾燥させた。同様にして、銅箔の反対の面にも、合剤層および被覆層を形成した。このようにして、銅箔の両面に合剤層および被覆層が形成された負極板を、プレス装置によって、・・・プレスした。
【0065】
以上のように正極板50および負極板51を作製する。そして、図4に示す様に、・・・ポリエチレン製セパレータ52を正極板50と負極板51の間に挟み、正極板50又は負極板51のどちらか一方に、更にセパレータ52を積層する。これら正極板50、負極板51、及びセパレータ52を捲回した発電要素を、円筒形ステンレスケースに挿入し、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合液にLiPF_(6)を添加した電解液を注液して、円筒形リチウムイオン二次電池を組み立てた。
【0066】
(実施例2)
・・・。
・・・
【0069】
本実施例2において作製された円筒形リチウムイオン二次電池は、その正極において合剤層24、29上に被覆層26、31が塗布されずにプレスを行って作製された点が、実施例1と異なっている。
【0070】
(実施例3)
・・・。
・・・
【0073】
・・・。本実施例2(当審注:「実施例3」の誤記と認める。)の電極板は、実施例1と異なり、合剤層の揮発成分除去の前に被覆層を塗布せずに、先ず合剤層のみの揮発成分の除去を行い、その後被覆層を塗布し、被覆層の揮発成分の除去を行っている。
【0074】
(比較例1)
・・・従来の製造装置を用いて、以下の工程で比較例1の円筒形リチウムイオン二次電池を作製した。
・・・
【0077】
以上のようにして、作製した正極板および負極板の間に、実施例1と同じセパレータを挟み込み、捲回した発電要素を、円筒形ステンレスケースに挿入し、実施例1と同じ電解液を注液して、円筒形リチウムイオン二次電池を組み立てた。本比較例1の電極板は、実施例1と異なり、正極、負極共に被覆層を有しておらず、合剤層に直接プレスを行う、従来の製造方法で作製されたものである。
【0078】
以上のようにして作製した実施例1?3及び比較例1の4種類の電極板及び電池の特性評価及び電池組立時の電解液の注液所要時間の測定を行った。以下の表1は、電極板の評価結果である、合剤層の上部と下部における空隙率と、合剤層及び被覆層の厚みの結果を正極及び負極板ともに示している。尚、合剤層の空隙率は、合剤層の重量、膜厚を測定することによって求めた。
【0079】
【表1】



(3-エ)「【図1】



上記(3-ア)?(3-エ)の記載事項によれば、甲第3号証には、以下の発明が記載されているといえる。

「送り出し機構21から送り出された帯状金属箔からなる集電体22の表面に、塗布装置23によって、合剤層24を形成し、
次に、塗布装置25によって、合剤層24の上に塗料を塗布することにより、被覆層26を形成し、
乾燥炉27において、合剤層24および被覆層26に含まれる揮発成分を除去し、
続いて、同様にして、集電体22の合剤層24および被覆層26が形成された面の反対側の面にも、塗布装置28によって、合剤層29を形成し、
その後、塗布装置30によって、合剤層29の上に被覆層31を形成し、
乾燥炉32によって、合剤層29および被覆層31に含まれる揮発成分を除去し、
以上の様にして、集電体22の両面に形成された合剤層24、29および被覆層26、31を、プレス装置33によって、合剤層の空隙率が所望の値となるようにプレスし、
合剤層24、29は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極または負極活物質、および導電助剤、結着剤、溶媒等からなり、
被覆層26、31を構成する材料は、無機フィラー、溶媒、結着剤、各種添加剤からなり、無機フィラーとして、例えば、アルミナ、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等の無機物粒子を用いることが出来る、
リチウムイオン二次電池用の正極又は負極板の製造方法。」(以下、「甲3発明」という。)

(3)甲第4号証について
甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(4-ア)「[0058] 図9は、本実施形態における正極4の正極合剤層4Bを模式的に示す断面図である。図10は、本実施形態における正極活物質の粒径の度数分布曲線を模式的に示すグラフ図である。
[0059] 図9に示すように、正極合剤層4Bには、粒径の異なる正極活物質が含まれており、相対的に大径な正極活物質PALが高密度に充填されることにより形成される隙間S内に相対的に小径な正極活物質PASが充填されている。これにより、正極合剤層4Bにおける正極活物質の充填密度を従来よりも高くすることができる。・・・。よって、非水電解質二次電池の高容量化を図るという昨今の要求を満たすことができる。
[0060] 正極合剤層4Bに含まれた正極活物質の粒径の度数分布曲線を測定すると、図10に示すように、その度数分布曲線には2以上のピークが存在している(なお、図10では、煩雑になるのを避けるためにピーク数を3つとしているが、ピーク数は3つに限定されない。)。ピークにおける粒径のうち最小の粒径(r_(min))と最大の粒径(r_(max))との差が大きければ、・・・、図9に示す隙間S内における相対的に小径な正極活物質PA_(S)の充填量が多くなるので、正極合剤層4Bにおける正極活物質の充填密度を従来よりも高くすることができる。
[0061] また、ピークにおける粒径のうち最小の粒径(r_(min))と最大の粒径(r_(max))との差が大きければ、圧延時の圧力を従来よりも高くしなくても正極合剤層4Bにおける正極活物質の充填密度を高くすることができる。・・・。以下では、粒径の度数分布曲線に1つのピークしか存在しない正極活物質を用いて正極を作製した場合と比較しながら、本実施形態における正極4を説明する。
[0062] 図11(a)?(c)は、粒径の度数分布曲線にピークが一つしか存在しない正極活物質PAを用いて正極を作製したときに圧延により正極活物質PAの配置が変化する様子を模式的に示した断面図であり、図12(a)及び(b)は、本実施形態における正極活物質を用いて正極を作製したときに圧延により正極活物質の配置が変化する様子を模式的に示した断面図である。
[0063] 粒径の度数分布曲線にピークが一つしか存在しない正極活物質PAを用いて正極を作製すると、正極活物質PAは、圧延前では正極集電体44Aの表面上にランダムに存在しているが(図11(a))、圧延により正極集電体44Aの表面上に高密度に配置される(図11(b))。つまり、正極合剤層における正極活物質PAの充填密度は、正極集電体44Aの表面上に正極活物質PAを最も高密度に充填させたときの密度で決まる。よって、正極合剤層における正極活物質PAの充填密度を図11(b)に示す場合よりもさらに高くするためには、圧延時の圧力を高くして正極活物質PAを粉々の正極活物質PA’とすることになる(図11(c))。
[0064] さらに、粒径の度数分布曲線に複数のピークが存在していてもピークにおける粒径のうち最小の粒径(r_(min))と最大の粒径(r_(max))との差がそれほど大きくなければ、粒径の度数分布曲線に1つのピークしか存在しない正極活物質PAを用いて正極を作製した場合と同様の結果が導かれる。
[0065] 一方、粒径の度数分布曲線に複数のピークが存在し、且つ、ピークにおける粒径のうち最小の粒径(r_(min))と最大の粒径(r_(max))との差が大きい正極活物質を用いて正極を作製すると(つまり、本実施形態における正極活物質を用いて正極を作製すると)、圧延前では、相対的に大径な正極活物質PALも相対的に小径な正極活物質PASも正極集電体4Aの表面上にランダムに存在しているが(図12(a))、圧延により、相対的に大径な正極活物質PALが正極集電体4Aの表面上で高密度に配置され、相対的に大径な正極活物質PALが高密度に配置されて形成された隙間S内に相対的に小径な正極活物質PASが充填される(図12(b))。つまり、この場合には、相対的に大径な正極活物質PAL及び相対的に小径な正極活物質PASを粉々に砕くことなく、正極合剤層における正極活物質の充填密度を正極集電体4Aの表面上に相対的に大径な正極活物質PALを最も高密度に充填させたときの密度よりも高くすることができる。」

(4-イ)「[図9]



(4-ウ)「[図10]



(4-エ)「[図11]



(4-オ)「[図12]



(4)甲第5号証について
甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

(5-ア)「3.3 塗膜密度と黒鉛の粒径および粒度分布
分級した黒鉛あるいはそれらの混合物を用いて作成した塗膜の塗膜密度をFig.10に示す.・・・.また混合物の塗膜密度は,微粉2と粗粉1の混合物を採用すれば最も大きい値が得られることがわかった.・・・.
混合物を用いたペースト中の黒鉛の粒度分布をFig.11に示す.微粉1と粗粉2の混合物は二極性の粒度分布を示している.この結果より,粗粉2の空隙に微粉1が充填すると考えられ,塗膜密度が単体よりも大きくなったと解釈された.これに対して,最大の塗膜密度を示した微粉2と粗粉1の混合物の粒度分布はシャープである.つまり,塗膜密度は二極性よりもシャープな粒度分布を持つ混合物を採用した方が,大きい値を示すことがわかった.」(第232頁右欄第8行?第233頁左欄下から第5行)

(5-イ)「



(5-ウ)「



第6 当審の判断
1 当審から通知した取消理由について
本件訂正により、請求項1、2、6、7は削除され、本件訂正後の本件特許発明3?5及び8?12は、いずれも、当審から通知した取消理由1-1?1-3及び取消理由2-1、2-2の対象となっていない本件訂正前の請求項3及び8の全ての発明特定事項を含むものであるから、当審から通知した取消理由によっては、本件特許発明3?5及び8?12に係る特許を取り消すことができない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
本件訂正前の請求項3?5及び8?12に係る特許に対して、申立人が申立てた理由は、本件訂正前の請求項3?5に係る発明は、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである、及び、本件訂正前の請求項8?12に係る発明は、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項3?5及び8?12に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるというものである。
そこで、この理由について検討する。

(1)本件特許発明3について
ア 本件特許発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

相違点1-1:本件特許発明3が「前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さい」ことを特定しているのに対し、甲1発明はこのことが特定されていない点

イ そこで、この相違点1-1について検討する。

ウ 相違点1-1に係る本件特許発明3の発明特定事項の技術的意義は、本件特許明細書(【0099】?【0109】)の記載によれば、ウェットオンウェット方式では、正極活物質PAS上にセラミック粉体CRSが形成された状態で加圧処理を施すため、必然的に、正極活物質PASだけでなく、セラミック粉体CRSにも加圧処理が施されてしまい、この結果、セラミック粉体CRSから構成されるセパレータの空孔率の低下を招き、これによって、セパレータのイオン透過性が低下してしまう問題点が顕在化する(【0103】)という問題に対して、セパレータを構成するセラミック粉体の粒径ばらつきを、正極活物質の粒径ばらつきよりも小さくなるように構成することにより、正極活物質とセラミック粉体に対して一括加圧処理を施す場合であっても、正極活物質の高密度化を図りながら、セパレータの空孔率を充分に確保し、加圧処理に起因したセパレータの空孔率の低下というウェットオンウェット方式に特有の課題を解決して、リチウムイオン電池の性能向上も図ることができる(【0108】)ものといえる。

エ 一方、甲第4号証には、前記(4-ア)?(4-オ)によれば、正極活物質層に、粒径の異なる正極活物質が含まれ、相対的に大径な正極活物質PALが高密度に充填されることにより形成される隙間S内に相対的に小径な正極活物質PASが充填されることにより、正極合剤層における正極活物質の充填密度を高くすることが記載されている。

オ また、甲第5号証には、前記(5-ア)?(5-ウ)の記載によれば、分級した黒鉛の微粉と粗粉の混合物を採用することにより、塗膜密度が、大きい値を得られることが記載されており、また、塗膜密度は、混合物を用いたペースト中の黒鉛の粒度分布が、二極性の粒度分布より、シャープな粒度分布を持つ混合物を採用した方が、大きい値を示すことが記載されている。

カ しかしながら、甲第4号証及び甲第5号証のいずれの文献にも、正極活物質の粒径のばらつきを大きくすることが記載されているものの、電極活物質の粒径ばらつきを、セラミック粒子の粒径ばらつきに比して大きくすることについては、記載も示唆もされていないし、これにより、正極活物質とセラミック粉体に対して一括加圧処理を施す場合であっても、正極活物質の高密度化を図りながら、セパレータの空孔率を充分に確保するという効果についても、記載されておらず、出願時の技術水準から当業者が予測できたものでもない。

キ さらに、甲第2号証、甲第6号証のいずれにも、前記セラミック粒子の粒径ばらつきを、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さくすることは、記載も示唆もされておらず、その効果についても、いずれの文献にも記載されておらず、出願時の技術水準から当業者が予測できたものでもない。また、参考資料1及び参考資料2をみても、これらのことが、技術常識であるともいえない。

ク してみると、甲1発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が、相違点1-1に係る本件特許発明3の発明特定事項を容易に想到することができたものとはいえない。

ケ したがって、本件特許発明3は、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件特許発明4、5について
ア 本件特許発明4及び5は、いずれも、本件特許発明3のすべての発明特定事項を有するものであるから、上記(1)で検討した、本件特許発明3についての理由と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)本件特許発明8について
ア 本件特許発明8と甲3発明とを対比すると、両者は、少なくとも以下の点で相違する。

相違点2-1:本件特許発明8が「前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さい」ことを特定しているのに対し、甲3発明はこのことが特定されていない点

イ ここで、この相違点2-1は、前記(1)の相違点1-1と同様の相違点であるから、前記(1)で検討した理由と同様の理由により、甲3発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が、相違点2-1に係る本件特許発明8の発明特定事項を容易に想到することができたものとはいえない。

ウ したがって、本件特許発明8は、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件特許発明9?12について
ア 本件特許発明9?12は、いずれも、本件特許発明8のすべての発明特定事項を有するものであるから、上記(3)で検討した、本件特許発明8についての理由と同様の理由により、甲第3号証に記載された発明と甲第4号証?甲第6号証の記載事項とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、請求項3?5、8?12に係る特許を取り消すことはできず、また、他に請求項3?5、8?12に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
また、本件特許の請求項1、2、6及び7に係る特許は、訂正により削除されたため、本件特許の請求項1、2、6及び7に係る特許に対して、申立人がした特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
(a)金属板上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、乾燥させた前記逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備え、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(c)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の空孔率は、前記第1スラリーによる膜の空孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項5】
請求項3記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(c)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の充填率は、前記第1スラリーによる膜の充填率よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項6】
(削除)
【請求項7】
(削除)
【請求項8】
(a)金属板の第1面上に電極活物質とバインダを含む第1スラリーを塗布し、続いて、前記第1スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第2スラリーを逐次塗布する工程と、
(b)前記(a)工程後、前記第1スラリーと前記第2スラリーの第1逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(c)前記(b)工程後、前記金属板の前記第1面とは反対側の第2面上に電極活物質とバインダを含む第3スラリーを塗布し、続いて、前記第3スラリー上に絶縁物質とバインダを含む第4スラリーを逐次塗布する工程と、
(d)前記(c)工程後、前記第3スラリーと前記第4スラリーの第2逐次塗布膜を乾燥させる工程と、
(e)前記(d)工程後、前記第1逐次塗布膜と前記第2逐次塗布膜に対して、加圧処理を施す工程と、を備え、
前記(a)工程の段階で、
前記第1スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第2スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記(c)工程の段階で、
前記第3スラリーは、前記電極活物質を分散させた溶剤を含み、
前記第4スラリーは、セラミック粒子と、前記セラミック粒子を分散させた溶剤と、を含み、
前記セラミック粒子の粒径ばらつきは、前記電極活物質の粒径ばらつきよりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項9】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の空孔率は、前記第1スラリーによる膜の空孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項10】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第4スラリーによる膜の空孔率は、前記第3スラリーによる膜の空孔率よりも大きいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項11】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第2スラリーによる膜の充填率は、前記第1スラリーによる膜の充填率よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
【請求項12】
請求項8記載のリチウムイオン電池の製造方法であって、
前記(e)工程後の段階で、
前記第4スラリーによる膜の充填率は、前記第3スラリーによる膜の充填率よりも小さいことを特徴とするリチウムイオン電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2017-03-31 
出願番号 特願2012-15358(P2012-15358)
審決分類 P 1 651・ 16- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 維持  
前審関与審査官 小森 重樹  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 板谷 一弘
富永 泰規
登録日 2015-11-06 
登録番号 特許第5832915号(P5832915)
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 リチウムイオン電池の製造方法  
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所  
代理人 特許業務法人筒井国際特許事務所  
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