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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J |
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管理番号 | 1327902 |
異議申立番号 | 異議2016-700795 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2016-08-31 |
確定日 | 2017-04-27 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5871803号発明「表面後架橋された吸水性ポリマー粒子の後給湿方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5871803号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯 特許第5871803号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし14に係る特許についての出願(以下、「本件出願」という。)は、2010年10月5日(パリ条約による優先権主張外国庁受理、2009年10月9日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特許出願であって、平成28年1月22日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、同年8月31日(受理日:同年9月1日)に特許異議申立人、株式会社日本触媒により特許異議の申立てがされ、同年11月9日付けで請求項1ないし14に係る特許について取消理由が通知され、その指定期間内である平成29年2月8日(受理日:同年2月9日)に意見書の提出がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし14に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」ないし「本件特許発明14」という。)は、それぞれ、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1ないし14に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、 b)少なくとも1種の架橋剤、 c)少なくとも1種の開始剤、 d)任意に、a)に挙げたモノマーと共重合可能な1種又はそれ以上のエチレン系不飽和モノマー及び e)任意に、1種又はそれ以上の水溶性ポリマー を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、 乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含み、その際に i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)がミキサーによって実施され、 ii)後給湿されたポリマー粒子を空気輸送し、かつ iii)任意に、後給湿されたポリマー粒子を分級することによる 吸水性ポリマー粒子の製造方法であって、 後給湿i)と空気輸送ii)との時間間隔が1時間未満であり、かつ 後給湿i)のために使用される水の量が、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%であることを特徴とする、吸水性ポリマー粒子の製造方法。 【請求項2】 後給湿i)と空気輸送ii)との時間間隔が45分未満である、請求項1記載の方法。 【請求項3】 後給湿i)と空気輸送ii)との時間間隔が30分未満である、請求項1記載の方法。 【請求項4】 後給湿i)と空気輸送ii)との時間間隔が15分未満である、請求項1記載の方法。 【請求項5】 吸水性ポリマー粒子を、共有結合の形成により表面後架橋させる、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。 【請求項6】 表面後架橋の際に、付加的に多価金属カチオンを使用する、請求項5記載の方法。 【請求項7】 後給湿i)に供給される吸水性ポリマー粒子が、40?80℃の温度を有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。 【請求項8】 後給湿i)のために、無機粒状物質、コロイド状に溶解された無機物質、有機ポリマー、カチオン性ポリマー及び/又は多価金属カチオンの塩を含有する水溶液又は水性分散液を使用する、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。 【請求項9】 後給湿i)のために使用される水の量が、吸水性ポリマー粒子に対して5質量%である、請求項1から8までのいずれか1項記載の方法。 【請求項10】 空気輸送ii)に供給される吸水性ポリマー粒子が、40?80℃の温度を有する、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。 【請求項11】 空気輸送ii)の際の初速度が、10?18のフルード数に相当する、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。 【請求項12】 吸水性ポリマー粒子の少なくとも95質量%が、少なくとも150μmの粒度を有する、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。 【請求項13】 吸水性ポリマー粒子の少なくとも95質量%が、最大でも600μmの粒度を有する、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。 【請求項14】 吸水性ポリマー粒子が少なくとも15g/gの遠心機保持容量を有する、請求項1から13までのいずれか1項記載の方法。」 第3 取消理由の概要 当審において平成28年11月9日付けで通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 特許第5871803号の請求項1ないし14に係る発明は、本件特許の出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、特許第5871803号の請求項1ないし14に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 ・本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった文献 甲第1号証:国際公開第2009/113678号 甲第2号証:岩波 理化学辞典、第4版、岩波書店、1987年10月12日、第1366ページ 甲第3号証:特表2003-511489号公報 甲第4号証:国際公開第98/49221号 甲第5号証:特開2006-297373号公報 (以下、それぞれ「甲1」ないし「甲5」と略していう。) 第4 判断 1 甲1ないし甲5の記載等 (1)甲1の記載等 ア 甲1の記載 甲1には、以下の事項が記載されている。 なお、下線は、他の号証も含め、当審で付したものである。 ・「[0013] そこで、本発明が解決しようとする課題は、物性向上に寄与し、更には生産性の改善等にも寄与しうる粒子状吸水剤の製造方法を提供することにある。 課題を解決するための手段 [0014] 本発明では、吸水性樹脂を主成分とする粒子状吸水剤の製造方法において、減圧状態が用いられる。従来、熱劣化を防止するため、減圧重合や減圧乾燥を行うことは吸水性樹脂の分野において知られていた。これに対して本発明では、従来の減圧重合や減圧乾燥とは全く異なる観点から、減圧の有効性を見いだした。即ち本発明者らは、乾燥工程よりも後の工程、即ち粉砕工程以降の工程において減圧を行うという新たな製造方法が、通液性向上等の物性向上に寄与しうることを見いだした。また、この減圧による物性向上には、種々の要因が関与していることが判明した。」(段落[0013]及び段落[0014] ) ・「[0031] 本発明では、粉砕工程以降の工程内が減圧状態とされることにより、粒子状吸水剤の物性が向上する。また、減圧に伴う排気により、除湿がなされる。この除湿により、工程内における粒子状吸水性樹脂の吸湿が抑制される。よって、粒子状吸水性樹脂同士の凝集や、粒子状吸水性樹脂の装置等への付着が抑制され、生産が安定化しうる。更に本発明では、微粉が効果的に除去されうる。その結果、本発明の製造方法により得られた粒子状吸水剤は、通液性、加圧下吸水倍率等の諸物性に優れる。また、本発明により、製造工程で発生する微粉の外部への漏れが抑制されうる。」(段落[0031]) ・「[0075] (E)通液性向上剤 通液性向上剤とは、非水溶性無機微粒子、水溶性多価金属塩、水溶性高分子、ポリアミン等の、後述する食塩水流れ誘導性(SFC)が6(×10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))以上である吸水性樹脂又は吸水剤の食塩水流れ誘導性(SFC)を10(×10^(-7)・cm^(3)・s・g^(-1))以上向上させる添加剤をいう。・・・(略)・・・これらの中でも、硫酸アルミニウム、カリウムミョウバン等の水溶性多価金属塩が、食塩水流れ誘導性(SFC)を向上させる点で好ましい。また、通液性向上剤は、吸水性樹脂表面全体により均一に添加しやすく、通液性向上剤の偏析等がない点から、水溶液であることが好ましい。通液性向上剤は、吸水性樹脂に対して、0.001?10重量%の割合で用いることが好ましく、0.01?5重量%の割合で用いることがより好ましい。」(段落[0075] ) ・「[0079] また、上記(B)及び(E)は、表面処理剤として好適に用いられうる。本願において表面処理とは、吸水性樹脂表面あるいは表面近傍の領域が、化学的あるいは物理的に修飾されていることを意味する。 ・・・(略)・・・ [0080] 特に本発明では、通液性を向上させる添加剤として多価金属塩が好ましい。多価金属塩は、添加後、混合されることが好ましい。混合する装置としては、例えば、円筒型混合機、スクリュー型混合機、スクリュー型押出機、タービュライザー、ナウター型混合機、V型混合機、リボン型混合機、双腕型ニーダー、流動式混合機、気流型混合機、回転円盤型混合機、ロールミキサー、転動式混合機、レディゲミキサーなどを挙げることができる。」(段落[0079]及び[0080] ) ・「[0191] [実施例3] 図1、図2及び図3で示される製造設備を用いて、粒子状吸水剤(150000kg)を連続製造した。・・・(略)・・・ [0192] [表3] [0193] ・・・(略)・・・ [0194] この実施例3では、まず、モノマーとしての75モル%が中和されたアクリル酸部分ナトリウム塩と、内部架橋剤としてのポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数=9)とを含んだ水溶液が、モノマー溶液として準備された。このモノマー溶液において、モノマー濃度は、38質量%に調整された。内部架橋剤の濃度は、モノマーに対して0.06モル%となるように調整された。 [0195] 次に、このモノマー溶液を定量ポンプで連続フィードしつつ、窒素ガスを連続的に吹き込むことにより、このモノマー溶液の酸素濃度が0.5ppm以下に調整された。次に、モノマー溶液に、過硫酸ナトリウム及びL-アスコルビン酸が、モノマー1モルに対して過硫酸ナトリウム/L-アスコルビン酸の質量が0.14g/0.005gとなるようにラインミキシングで混合された。次に、その両側に堰を有する平面スチールベルトにその厚みが約25mmとなるように、モノマー溶液を供給して、水溶液重合が95℃で30分間実施されて、含水状態にある重合ゲルが得られた(重合工程)。 [0196] 次に、この重合ゲルが粉砕されて、さらにこの粉砕された重合ゲルが孔径7mmのミートチョッパーで約1mmに細分化された。これをバンド乾燥機の多孔板上に薄く拡げて載せて、180℃で30分間熱風乾燥して、重合ゲルの乾燥物としての粒子状吸水性樹脂が得られた(乾燥工程)。 [0197] 次に、この乾燥物が粉砕されて、粒子状の乾燥物が得られた。この粒子状の乾燥物の全量が、3段ロールミル(ロールギャップの構成は、上から1.0mm/0.55mm/0.42mm)に連続供給されてさらに粉砕された(粉砕工程)。上記第一粉砕装置4c1及び第二粉砕装置4c2が、この3段ロールミルとされた。 [0198] 次に、目開き850μmの金属篩網及び目開き150μmの金属篩網を有する分級装置で分級されて(分級工程)、粒子状吸水性樹脂が得られた。この粒子状吸水性樹脂の約98質量%が、その粒径が150μmから850μmである粒子状吸水性樹脂であった。なお、この粒子状吸水性樹脂の無加圧下吸水倍率(CRC)は、35g/gであった。 [0199] 次に、表面処理剤溶液が準備された。この表面処理剤溶液は、1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール及び純水からなり、粒子状吸水性樹脂100質量部に対して、1,4-ブタンジオールが0.30質量部、プロピレングリコールが0.50質量部、純水が2.70質量部となるように調整された。次に、この粒子状吸水性樹脂を高速連続混合機(タービュライザー/1000rpm)に1000kg/時間で連続供給して、上記表面処理剤溶液がスプレーで噴霧されて、この表面処理剤溶液と粒子状吸水性樹脂とが混合された。次に、この表面処理剤溶液が混合された粒子状吸水性樹脂が、200℃に調整されたパドルドライヤーで40分間加熱された(表面架橋工程)。 [0200] その後、60℃に冷却された(冷却工程)。 [0201] 冷却(冷却工程)後、目開き850μmの金属篩網及び目開き150μmの金属篩網を用いて分級されて、その粒径が150μmから850μmである製品としての粒子状吸水剤が得られた(整粒工程)。この整粒工程を行った整粒装置4hの構成は、図3で示される通りである。 [0202] 次に、この粒子状吸水剤が、包装材容器に入れられた(包装工程)。 [0203] この実施例3では、粉砕工程の開始時点から包装工程の終了時点までに要した時間T1は3時間であり、この時間T1のうち、工程中の製造対象物が減圧状態とされている時間T2は2.8時間であった(Rd値=約93%)。 [0204] ・・・(略)・・・ [0205] [実施例4] 冷却工程において、50%の硫酸アルミニウム水溶液が吸水性樹脂に対して1質量%添加された他は実施例3と同様にして、粒子状吸水剤を製造した。」(段落[0191]ないし段落[0205]) ・「[0212] [表4] 」(段落[0212] ) ・「[図1] 」([図1]) イ 甲1の記載事項 甲1の段落[0192]の表3における「粉砕工程(S4)」、「粉砕工程-分級工程の間の輸送工程(S5)」、「整粒工程(S14)」は、全て減圧であることが記載されており、段落[0203]には、「粉砕工程の開始時点から包装工程の終了時点までに要した時間T1は3時間であり、この時間T1のうち、工程中の製造対象物が減圧状態とされている時間T2は2.8時間」とある。これは、粉砕工程の開始時点から包装工程の終了時点までにおいて、減圧下で実施される上記S4、S5、S14に要する時間が2.8時間であり、それ以外の工程に要する時間は、3時間-2.8時間=0.2時間であると解される。つまり、図1中に示される「冷却工程(S12)」及び「冷却工程-整粒工程の間の輸送工程(S13)」は、多くても0.2時間であると認められる。 ウ 甲1発明 甲1の記載、特に甲1の段落[0191]、[0192]、[0194]ないし段落[0203]、段落[0205]及び図1を整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「アクリル酸部分ナトリウム塩、 内部架橋剤としてのポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数=9)とを含んだ水溶液、 過硫酸ナトリウム及びL-アスコルビン酸を混合し重合を実施することで重合ゲルを製造し、 乾燥、粉砕、分級を行い粒子状吸水性樹脂を得た後、 1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール及び純水からなる表面処理剤溶液を噴霧して表面架橋を行い、 その後、冷却工程において、50%の硫酸アルミニウム水溶液が吸水性樹脂に対して1質量%添加され、混合された後、 目開き850μmの金属篩網及び目開き150μmの金属篩網を用いて分級する整粒工程を経た、粒子状吸水剤を製造する方法において、 上記冷却工程及び冷却工程-整粒工程の間の輸送工程が、長くても0.2時間である、方法。」 (2)甲2の記載 甲2には、以下の事項が記載されている。 ・「硫酸アルミニウム [aluminium sulfate] Al_(2)(SO_(4))_(3)無水塩は無色の菱面体結晶.Alは(SO_(4)^(2-)のOで8面体状にかこまれている.溶解度は38.5g/100g水(25℃),エタノールには難溶.」(第1366ページ左欄第25行ないし第28行) (3)甲3の記載 甲3には、以下の事項が記載されている。 ・「【0007】 しかし、ヒドロゲル形成性ポリマーは、強く架橋することによって著しく脆くなり、したがってこのヒドロゲル形成性ポリマーは、膨潤されていない状態で、例えば衛生用品の製造の際に空気輸送される際に発生するような機械的力の作用下に簡単に摩耗されるかまたはむしろ破砕されうる。機械的負荷にとって必然的な摩耗によって、一面でダスト含量が発生し、他面、物理化学的生成物特性の劣化を記載することができる。」(段落【0007】) ・「【0054】 本発明によれば、少なくとも3質量%、有利に少なくとも4質量%、特に有利に少なくとも5質量%への残留湿分の上昇は、この生成物の機械的安定性を著しく向上させる。」(段落【0054】) ・「【0086】 c)b)で得られた表面後架橋されたポリマーを温度処理工程後に第3のレーディゲ実験室用ミキサー中に移し、約80℃に冷却した。約75?80℃でポリマーを使用したポリマーに対して脱イオン水4質量%で噴霧し、さらに室温に冷却した。850μm以上の望ましくない粗大含分を篩別によって分離し、生成物の破砕性率を測定した。」(段落【0086】) (4)甲4の記載 甲4には、以下の事項が記載されている。 「1. A composition comprising aqueous fluid absorbent polymer particles which have been heat-treated at temperatures greater than 170°C for more than 10 minutes, wherein the composition has been remoisturized, after the heat-treatment, with an aqueous additive solution, in the absence of an organic solvent or water-insoluble, non-swellable powder, and comprises 1 to 10 percent by weight, based on the total weight of the composition, water and wherein the composition is characterized by the ability to absorb at least 20 grams of a 0.9 weight percent aqueous saline solution under a pressure of 0.3 psi (21 ,000 dynes/cm^( 2) ), that is, a 60 minute 0.3 psi (21 ,000 dynes/cm^(2) ) AUL greater than 20 grams/gram. 2. Composition according to Claim 1 characterized in that the aqueous additive solution contains a mono- or multivalent metal salt. ・・・(略)・・・ 8. Composition according to Claim 2 characterized in that the aqueous additive solution contains a sulfate-based metal salt. 9. Composition according to Claim 8 characterized in that the aqueous additive solution contains aluminum or sodium chloride or sulfate. ・・・(略)・・・ 11. Composition according to Claim 9 characterized in that the aqueous additive solution contains aluminum sulfate.」(請求項1ないし11) ・訳文(対応するパテントファミリー(特表2001-523287号公報)を参考に当審で作成した。) 「1.170℃を超える温度で10分を上回る間熱処理された水性流体吸収性ポリマー粒子を含む組成物であって、該組成物は熱処理後に有機溶剤または、水に不溶かつ膨潤不能の粉末の不在下において添加剤水溶液により再加湿されており、かつ該組成物の総重量を基準にして1ないし10重量パーセントの水を含み、さらに該組成物は0.3psi(21,000ダイン/cm^(2))の圧力下で少なくとも20グラムの0.9重量パーセント食塩水溶液を吸収する能力、すなわち20グラム/グラムを上回る60分0.3psi(21,000ダイン/cm^(2))AULを特徴とする組成物。 2.該添加剤水溶液が一価または多価金属塩を含有することを特徴とする請求項1記載の組成物。 ・・・(略)・・・ 8.該添加剤水溶液が硫酸塩系金属塩類を含有することを特徴とする請求項2記載の組成物。 9.該添加剤水溶液がアルミニウムまたはナトリウムの塩化物もしくは硫酸塩を含有することを特徴とする請求項8記載の組成物。 ・・・(略)・・・ 11.該添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを含有することを特徴とする請求項9記載の組成物。」 ・「The temperature of contacting can be any temperature at which the aqueous additive solution does not significantly react with the carboxyl moieties or the cross-links of the superabsorbent polymer or evaporate. Such temperatures are typically at least from 20°C to 100°C at ambient pressure. It should be noted that elevated temperatures, that is, those above ambient temperatures, typically improve the speed of coating of the particles.」(第11ページ第5行ないし第9行) ・訳文(特許異議申立人が作成したものを参考に当審で作成した。) 「接触温度は添加剤水溶液が高吸収性ポリマーのカルボキシル部分もしくは架橋結合と顕著に反応しないかまたは蒸発しない任以意の温度であることができる。該温度は典型的には外界圧力において少なくとも20℃から100℃である。高温すなわち外界温度を上回る温度は、典型的に粒子の被覆速度を向上させることに留意しなければならない。」 (5)甲5の記載 甲5には、以下の事項が記載されている。 ・「【0108】 本発明の吸水剤は、粒子径850μm以下の粒子が吸水剤全体に対し95質量%以上であって、150μm未満の粒子の含有率が5質量%以下、好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下に制御されたものである。粒子径300?850μmの粒子と粒子径300μm未満の粒子との質量比は、5/95以上95/5以下であればよく、より好ましくは20/80以上80/20以下、さらに好ましくは30/70以上70/30以下である。さらに、粒子径が150μm以上600μm以下である粒子が、吸水剤全体に対して90質量%以上、さらには95質量%以上、特に98質量%以上に制御されているのが好ましい。」(段落【0108】) 2 本件発明と甲1発明との対比・検討 (1)本件特許発明1について ア 対比・検討 本件特許発明1と甲1発明を対比する。 甲1発明における「アクリル酸部分ナトリウム塩、内部架橋剤としてのポリエチレングリコールジアクリレート(平均n数=9)とを含んだ水溶液、過硫酸ナトリウム及びL-アスコルビン酸を混合し重合を実施することで重合ゲルを製造」は、本件特許発明1における「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、b)少なくとも1種の架橋剤、c)少なくとも1種の開始剤」「を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造」に相当し、以下、同様に、「乾燥、粉砕、分級を行い」は「乾燥させ、粉砕し、分級し」に、「1,4-ブタンジオール、プロピレングリコール及び純水からなる表面処理剤溶液を噴霧して表面架橋を行い」は「表面後架橋する」に、「粒子状吸水剤を製造する方法」は「吸水性ポリマー粒子の製造方法」にそれぞれ、相当する。 そうすると、本件特許発明1と甲1発明は、 「a)少なくとも部分的に中和されていてよい、酸基を有する少なくとも1種のエチレン系不飽和モノマー、 b)少なくとも1種の架橋剤、 c)少なくとも1種の開始剤、 を含有するモノマー溶液又はモノマー懸濁液を重合させることによって吸水性ポリマー粒子を製造し、 乾燥させ、粉砕し、分級し、かつ表面後架橋することを含む、吸水性ポリマー粒子の製造方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1> 本件特許発明1は、「i)表面後架橋されたポリマー粒子を後給湿し、その際、後給湿i)がミキサーによって実施」され、「後給湿i)のために使用される水の量が、吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%」であるのに対して、甲1発明は、「冷却工程において、50%の硫酸アルミニウム水溶液が吸水性樹脂に対して1質量%添加され、混合」される点。 <相違点2> 本件特許発明1は、「ii)後給湿されたポリマー粒子を空気輸送」されるのに対して、甲1発明は、「輸送工程」が空気輸送であるか不明である点。 <相違点3> 本件特許発明1は、「後給湿i)と空気輸送ii)との時間間隔が1時間未満」であるのに対して、甲1発明は、「上記冷却工程及び冷却工程-整粒工程の間の輸送工程が、長くても0.2時間」である点。 事案に鑑み、以下、相違点1についてまず検討する。 甲1における「硫酸アルミニウム水溶液」は、「(E)通液性向上剤」(段落[0075])として添加されることから、後給湿を目的に添加されるものではない。しかるに、「50%の硫酸アルミニウム水溶液が吸水性樹脂に対して1質量%添加」されることは、併せて当該水溶液中に存在する水成分も吸水性樹脂に添加されることから、結果的に、吸水性樹脂は水成分を含有し、後給湿された状態を有すると考えるのが自然である。このことは、例えば、本件明細書の段落【0007】に記載の「後給湿する方法」として例示される「国際公開(WO-A1)第98/49221号」(甲4に相当する。)において、「添加剤水溶液により再加湿」(請求項1)する方法が記載され、その具体化の一つが「該添加剤水溶液が硫酸アルミニウムを含有すること」(請求項9)であることから、硫酸アルミニウム水溶液が吸水性樹脂に対して添加されることで、後給湿された状態となることが理解できる。 そして、上記硫酸アルミニウム水溶液が1質量%添加されることは、水成分が水溶液中の一成分であることを踏まえると、水成分の含有量は、吸水性樹脂に対して1質量%より少ない範囲となることは明らかである。 してみると、甲1発明の粒子状吸水剤の製造方法は、「後給湿」が明示的には記載されていないものの、粒子状吸水性樹脂が水成分を1質量%より少ない範囲で含有する工程を有し、そのことで粒子状吸水性樹脂が後吸湿された状態を有するものといえる。 その上で、甲1発明において、後給湿として添加される水成分の量を増やし、「吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%」とすることの容易想到性について検討する。 甲1では、「物性向上に寄与し、更には生産性の改善等にも寄与しうる粒子状吸水剤の製造方法」を提供することを課題とし(段落[0013])、その解決手段として「減圧状態」を用いることが記載され(段落[0014])、その結果として、「減圧に伴う排気により、除湿」され、「工程内における粒子状吸水性樹脂の吸湿が抑制」され、「粒子状吸水性樹脂同士の凝集や、粒子状吸水性樹脂の装置等への付着が抑制され、生産が安定化」することが達成されるものである(段落[0031])。つまり、甲1における粒子状吸水剤の製造方法は、減圧に伴う排気による除湿により工程内における粒子状吸水性樹脂の吸湿を抑制し、生産を安定化させることを課題とするものと理解できる。 よって、甲1発明の粒子状吸水性樹脂において「吸水性ポリマー粒子に対して少なくとも2.5質量%」とすることは、上記のとおり甲1が粒子状吸水性樹脂の吸湿を抑制することを課題としており、後給湿として添加される水成分を増やそうとする動機づけが存在するとはいえないことに鑑みると、当業者が容易に想到し得た事項であるとはいえない。 したがって、上記相違点1は当業者が容易になし得たことではない。 イ まとめ 以上のとおりであるから、相違点2及び3について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明、及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (2)本件特許発明2ないし14について 本件特許発明2ないし14は、請求項1を引用するものであるから、本件特許発明1と同様に、甲1発明及び甲2ないし甲5に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。 (3)むすび 以上のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえず、同法第113条第2号に該当しない。 第5 結語 したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし14に係る特許を取り消すことができない。 また、他に請求項1ないし14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-04-17 |
出願番号 | 特願2012-532569(P2012-532569) |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C08J)
|
最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 村松 宏紀、加賀 直人 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
山本 英一 小野寺 務 |
登録日 | 2016-01-22 |
登録番号 | 特許第5871803号(P5871803) |
権利者 | ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア |
発明の名称 | 表面後架橋された吸水性ポリマー粒子の後給湿方法 |
代理人 | 久野 琢也 |
代理人 | アインゼル・フェリックス=ラインハルト |
代理人 | 特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK |
代理人 | バーナード 正子 |