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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 E06B |
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管理番号 | 1327905 |
異議申立番号 | 異議2017-700017 |
総通号数 | 210 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2017-06-30 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2017-01-11 |
確定日 | 2017-05-08 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第5951943号発明「複層ガラスパネル、障子、及び開口部装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第5951943号の請求項1ないし2、4ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第5951943号の請求項1、2、4、5、6、7に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成23年7月7日に特許出願され、平成28年6月17日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人伊澤武登(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 特許第5951943号の請求項1、2、4、5、6、7の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1、2、4、5、6、7に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」「本件発明2」などという。)。 「【請求項1】 所定の間隔を有して対向しそれぞれがガラスパネルを構成する2枚以上の板ガラスと、 前記2枚以上の板ガラス間の外周端部より内側に配置されたスペーサーと、 前記間隔のうち前記板ガラスの外周端部に充填されるパネル間シール材と、 前記板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネルと、 少なくとも2つの片を有し、そのうちの1つの片は前記板ガラスの板面に沿って、他の1つの片は前記板ガラスの端面に沿って、延びる長尺の耐熱性の補強部材と、 前記グレージングチャンネルと前記補強部材の間の空間に配置され、所定の温度で体積を膨張させて、前記2枚以上の板ガラス、前記スペーサー及び前記パネル間シール材を含めた複層ガラスと、前記補強部材の間を封止可能な封止手段と、を備え、 前記グレージングチャンネルの見付方向内側端部が、前記補強部材の前記板ガラスの板面に沿って延びる片の見付方向内側端部より、見付方向内側に配置されている、 複層ガラスパネル。 【請求項2】 前記2枚以上の板ガラスのうち少なくとも一枚は網入りガラス、又は耐熱強化ガラスであることを特徴とする請求項1に記載の複層ガラスパネル。 【請求項4】 請求項1?3のいずれか一項に記載の複層ガラスパネルと、 前記複層ガラスパネルの外周端部を挿入可能な溝部を有する框体と、を有し、 前記複層ガラスパネルの外周端部が前記框体の前記溝部に挿入されて形成されている、 障子。 【請求項5】 前記封止可能な封止手段が、所定の温度で体積を膨張させて前記2枚以上の板ガラス、 前記スペーサー及び前記パネル間シール材を含めた複層ガラスの端面と、前記補強部材及び前記框体との間を封止可能な封止手段である、請求項4記載の障子。 【請求項6】 建物開口部の縁に沿って配置される枠体と、 前記枠体により区画される枠内に配置される請求項4又は5に記載の障子と、を備える、 開口部装置。 【請求項7】 請求項1?3のいずれか一項に記載の複層ガラスパネルと、 前記複層ガラスパネルの外周端部を挿入可能な溝部を有し、建物開口部の縁に沿って該建物に取り付けられる枠体と、を有し、 前記複層ガラスパネルの外周端部が前記枠体の前記溝部に挿入されて形成されている、開口部装置。」 第3 申立された取消理由の概要 申立人は、本件発明1、2、4、5、6、7は、当業者が、本件特許の出願前に頒布された甲第1号証に記載された発明および周知技術に基づいて、容易に発明をすることができたものであり、よって本件特許は特許法第29条第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第2号の規定に該当し、取り消されるべきものである旨主張し、その理由として概ね以下のとおり主張している。 1 本件発明1について (1)甲第1号証記載の発明 甲第1号証には、以下の発明が記載されている。 「室内側の網入りガラスと室外側の耐熱ガラスと、 それらの外周端側の内面間にシリコーンゴムからなるシール材を介して介在されるスペーサと、 前記室内側の網入りガラスと前記室外側の耐熱ガラスの室内外側の外周両端と枠本体2Aおよび押縁2Bとの間に設けられるパッキン15、16と、 窓枠2の長手方向に沿って連続して設けられ、窓枠2の内周溝部10の底面10aに固定される水平片17aと、この水平片17aにおける室内側Aの一端から直角に延出する延出片17bとをもって断面L字状に形成される金属製アングル材17と、 窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に介在されて、火災時の高温加熱により発泡し、内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞する発泡性コーキング部材19、及び、金属製アングル材17の水平片17a上に配設されて、火災時の高温加熱によって発泡し、内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞する発泡性遮炎材21と、を備える 複層ガラスパネル。」 (2)本件発明1と甲第1号証記載の発明との一致点・相違点 本件発明1と甲第1号証記載の発明は、以下の点で一致している。 (一致点) 「所定の間隔を有して対向しそれぞれがガラスパネルを構成する2枚以上の板ガラスと、前記2枚以上の板ガラス間に配置されるスペーサーおよびパネル間のシール材と、 板ガラスと窓枠や窓框との隙間を埋めて水密・気密性を保つ気密材と、 少なくとも2つの片を有し、そのうちの1つの片は前記板ガラスの板面に沿って、他の1つの片は前記板ガラスの端面に沿って、延びる長尺の耐熱性の補強部材と、 前記気密材と前記補強部材の間の空間に配置され、所定の温度で体積を膨張させて、前記2枚以上の板ガラス、前記スペーサー及び前記パネル間のシール材を含めた複層ガラスと、前記補強部材の間を封止可能な封止手段と、を備える、 複層ガラスパネル。」 そして、以下の点で相違している。 (相違点1) 「スペーサ-」および「パネル間のシール材」について、本件発明1は、スペーサーは、2枚以上の板ガラス間の外周端部より内側に配置され、パネル間シール材は、板ガラスの外周端部に充填されるのに対して、甲第1号証記載の発明は、スペーサーは、2枚以上の板ガラス間の外周端部に配置され、パネル間のシール材は、2枚以上の板ガラスの内面とスペーサとの間に配置されている点。 (相違点2) 「板ガラスと窓枠や窓框との隙間を埋めて水密・気密性を保つ気密材」について、本件発明1は、板ガラスの外周端部及びパネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネルであって、封止手段はグレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置されるのに対して、甲第1号証記載の発明は、板ガラスの外周端部と枠本体2Aもしくは押縁2Bとの間に設けられるパッキン15、16であって、封止手段はパッキン15、16と補強部材との間の空間に配置される点。 (相違点3) 相違点2に関連して、本件発明1は、グレージングチャンネルの見付方向内側端部が、補強部材の板ガラスの板面に沿って延びる片の見付方向内側端部より、見付方向内側に配置されているのに対して、甲第1号証記載の発明は、気密材がグレージングチャンネルではないので、上記構成を備えていない点。 (3)各相違点についての検討 ア 相違点1について 2枚以上の板ガラス間の外周端部より内側に配置されるスペーサーと、板ガラスの外周端部に充填されるパネル間シール材とからなる積層ガラスパネルの外周端の構造は、例えば、甲第2ないし4号証に開示されているように、周知の技術である。 そして、甲第1号証記載の発明の積層ガラスパネルの外周端の構造として、上記周知の技術を採用することに何ら困難性はなく、また、本件発明1が、上記周知の技術を採用することによって、格別の効果を奏するものではない。 以上より、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、甲第1号証記載の発明に周知の技術を採用することにより、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。 イ 相違点2について 板ガラスと窓枠や窓框との隙間を埋めて水密・気密性を保つ気密材としてグレージングチャンネルを用いた枠体や框体を有する建具と、同気密材としてパッキンを用いた枠体や框体を有する建具は、共に周知であって、施工条件(例えば、工場等で建具を組み立ててしまう場合にはグレージングチャンネルによる気密材を用い、施工現場で建具を組み立てる場合には、押縁とパッキンによる気密材を用いるなど)に応じて適宜選択できる周知の技術である。 例えば、甲第5号証には、従来より、框材2に対して、グレイジングチャンネル4を介して板材5が嵌め込むこと、及び、押縁6とグレイジングビード8を介して板材5が嵌め込むことが行われていたことが開示されており、甲第6号証には、従来のガラスの取り付け構造として、サッシの框、枠等の部材にガラスをU字形のグレージングチャンネルを用いて取り付けたもの、および、ビードを介して取り付けたものが開示されている。 また、甲第7号証には、窓枠に対して、グレージングチャンネルを介して複層ガラス4が保持される窓枠、及び、押縁材6とパッキン材を介して複層ガラス4が保持される窓枠が開示されている。 ここで、グレージングチャンネルが板ガラスの外周端部及びパネル間シール材を覆うように設けられることは、グレージングチャンネルにとって当然の構成でしかない。 そして、甲第1号証には、気密材であるパッキンが押縁によって支持される実施形態が記載されているところ、上記のように、グレージングチャンネルによってガラスパネルを支持する構成と、押縁によって支持されるパッキンによってガラスパネルを支持する構成はともに周知の技術であるから、甲第1号証記載の発明における「板ガラスと窓枠や窓框との隙間を埋めて水密・気密性を保つ気密材」として、「(押縁と)パッキン」に代えて、グレージングチャンネルを採用することは当業者が容易に想到できることである。 また、甲8には、押縁を備える枠体に対してグレージングチャンネルを採用することが開示されていることから、甲第1号証記載の発明のパッキンに代えて、単にグレージングチャンネルを採用することも、当業者が容易に想到できることである。 さらに、本件発明1のグレージングチャンネルは、火災時には消失してしまうものであって、封止手段が所定の温度で体積を膨張させて2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間を封止する際に、何らかの作用を有するものではなく、封止手段がグレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置されることによって予測を超えた格別の効果を有するものでもない。 つまり、本件発明1において、気密材としてグレージングチャンネルを採用することに格別の技術的意味はなく、単に、気密材として周知の技術であるグレージングチャンネルを選択しただけであって、その選択が当業者にとって容易であることは、上述のとおりである。 以上より、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、甲第1号証記載の発明に周知の技術を採用することにより、当業者が適宜なし得たことに過ぎない。 ウ 相違点3について 甲第5ないし8号証に記載された周知のグレージングチャンネルがそうであるように、グレージングチャンネルの見付方向内側端部は、枠体(框体)の内周よりも見付方向内側に配置されるのが普通である。一方、甲第1号証に記載されている補強部材は、枠材や框材の内部に配置されるものである。したがって、相違点3に係る本件発明1の構成は、甲第1号証記載の発明の気密材としてグレージングチャンネルを採用することによって、当然採用される構成に過ぎない。 その点は、甲第9号証の図3(b)等に、グレージングチャンネルの見付方向内側端部が、補強部材(L字形の補強片14)の板ガラスの板面に沿って延びる片の見付方向内側端部より、見付方向内側に配置されていることからも明らかである。 なお、平成27年12月3日付け意見書記載における、上記相違点3に係る構成による効果として「グレージングチャンネルの機能が保持されるとともに、火災時等に複層ガラスパネルの端部を確実に保持することができます。」との効果も、何ら格別のものではない当然の効果でしかないし、相違点3に係る構成の効果であるか否かも明確ではない。 以上より、上記相違点3に係る本件発明1の構成は、上記イと同様の理由により、当業者が適宜なし得た設計事項に過ぎない。 2 本件発明2、4、5、6、7について 本件発明2、4、5、6、7で付加される構成は、甲第1号証に記載された発明と相違しないか、あるいは甲第1号証に記載された発明および周知技術により当業者が容易になし得たものである。 3 本件各発明の効果について パネル間のシール材から発生する可燃性ガスが発火することが問題であることは、甲第1号証(段落【0004】)に開示されているように、従来より知られている課題であって、何ら特別な課題ではない。 そして、本件各発明が、封止手段が所定の温度で体積を膨張させて、2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間を封止することによって、「パネル間シール材から発生する可燃性ガスを板ガラス間に封止することにより、可燃性ガスの発火を防止することができる。」(本件特許に係る出願の明細書の段落【0017】)のであれば、甲第1号証記載の発明に周知の技術を採用してなる積層ガラスパネルにおいても、当然本件各発明と同様の作用効果を奏することができるものである。 [証拠方法] 甲第1号証:特開2011-6874号公報 甲第2号証:特開平8-199920号公報 甲第3号証:特開平9-228748号公報 甲第4号証:特開2010-248837号公報 甲第5号証:特開平6-248848号公報 甲第6号証:実開昭62-107089号公報及び実願昭60-198434号(実開昭62-107089号)のマイクロフィルム (注;特許異議申立書の「5 証拠方法」欄には「実開昭62-107089号」と記載されているが、証拠として実開昭62-107089号公報及び実願昭60-198434号(実開昭62-107089号)のマイクロフィルムの両方が提出され、また同書の「3 申立の理由」の「(4)具体的理由」欄ではマイクロフィルムの内容を記載している。) 甲第7号証:特開2002-194160号公報 甲第8号証:実開昭51-60631号公報及び実願昭49-135265号(実開昭51-60631号)のマイクロフィルム (注;特許異議申立書の「5 証拠方法」欄には「実開昭51-60631号」と記載されているが、証拠として実開昭51-60631号公報及び実願昭49-135265号(実開昭51-60631号)のマイクロフィルムの両方が提出され、また同書の「3 申立の理由」の「(4)具体的理由」欄ではマイクロフィルムの内容を記載している。) 甲第9号証:特開2006-124952号公報 第4 当審の判断 1 各甲号証の記載事項 (1) 甲第1号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある(決定で下線を付した。)。 ア 「【請求項1】 合成樹脂製の窓枠または窓框に複層ガラスを装着してなる複層ガラス窓の防火構造において、 複層ガラスを装着する窓枠または窓框の内周溝部内に、金属製アングル材と金属製ガラス外れ止めを室内外方向に対向させて設けるとともに、この金属製アングル材と金属製ガラス外れ止め間に、複層ガラスの外周端を位置させ、かつ前記内周溝部内の底面と、複層ガラスの外周端面との間に、発泡性コーキング材を介在させ、さらに前記金属製アングル材と複層ガラス間に耐熱性テープを介在させたことを特徴とする複層ガラス窓の防火構造。 【請求項2】 発泡性コーキング材と、窓枠または窓框の内周溝部の底面との間に、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材を介在させた請求項1記載の複層ガラス窓の防火構造。」 イ 「【0004】 従来、建物のガラス窓においては、たとえばフロートガラスと網入りガラスとの2枚の板ガラスが、アルミニウム製のスペーサによる密閉空間を介して、内外に配置された複層ガラスを、窓枠(サッシ枠)に嵌殺し状態をもって取り付け、内外両ガラス間の内面とスペーサとの間にブチルゴム、および窓枠の内周と複層ガラスの外周との間にシリコーンゴムのシール材を介在させてシールすることにより、防水性を高めるようになっているが、この場合、シール材が、400℃程度で発火する炭化水素系からなるため、火災時の高熱によってシール材から発生する可燃性ガスが板ガラス間の密閉空間内に蓄積されて発火し易く、その火炎によって、シール材がさらに加熱されて発火し、この発火によって、板ガラスが局部的に加熱されて割れるという現象が見られるため、これを防止する必要がある。 そのため、シール材の内側に、難燃性または不燃性のシール材を設けることにより、防火性能を高めるようになっている(特許文献1参照)。」 ウ 「【0028】以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。・・・なお、本実施形態では、複層ガラス窓として、嵌殺し窓の窓枠に複層ガラスを装着した場合を例にして説明するが、開閉窓の窓框に複層ガラスを装着した場合にも同様に適用されるものである。 【実施例】 【0029】本発明の複層ガラス窓は、図1に示すように、建物の躯体1の開口部に組付けられた合成樹脂製の窓枠2と、この窓枠2に装着される複層ガラス3とより構成されている。 ・・・ 【0031】・・・窓枠2の内周には、複層ガラス3の外周端が嵌殺し状態をもって装着される内周溝部10が形成されている。 【0032】複層ガラス3は、室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12と、それらの外周端側の内面間にシリコーンゴムからなるシール材(図示せず)を介して介在されるアルミニウム製のスペーサ13とより、密閉空間14が形成されるように接合してなる構成を有する。 なお、複層ガラス3を構成する板ガラス11,12は、室内側Aを耐熱ガラス、室外側Bを網入りガラスとしてもよいし、両者を網入りガラスまたは耐熱ガラスとするなど適宜選択しうる。 【0033】複層ガラス3における室内外側A,Bの外周両端3a,3bは、前記支持片部8Aと押縁9との間に形成した内周溝部10内に、それぞれパッキン15,16を介して、水密的に挟持されているとともに、押縁9の先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3における室外側Bの外周端3b、すなわち耐熱ガラス11の室外側Bの外周端を、室内側Aに向けて弾性的に押込むように付勢している。 【0034】窓枠2の前記内周溝部10内には、金属製アングル材17が、窓枠2を構成する部材の長手方向に沿って連続して設けられている。 この金属製アングル材17は、たとえばステンレススチールからなるとともに、窓枠2における内周溝部10の底面10aにビス等をもって固定される水平片17aと、この水平片17aにおける室内側Aの一端から前記支持片部8Aの内面に対向するように直角に延出する延出片17bとをもって断面L字状に形成されており、この延出片17bは、前記支持片部8Aの内面に当接して組み付けられるようになっている。 ・・・ 【0036】窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間には、発泡性コーキング材19が介在されている。 この発泡性コーキング材19は、たとえば発泡性シリコーンシーラント、具体的にはSE5007、SE5006(商標:東レ・ダウコーニング株式会社製)などからなり、火災時の高温加熱によって発泡し、窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞するとともに、発泡後の硬化によって、複層ガラス3の外周端面3cを支持する作用をなす。 ・・・ 【0038】窓枠2における内周溝部10の底面10aと発泡性コーキング材19との間には、発泡性黒鉛を主成分とする発泡性遮炎材21、例えばフィブロック(商標:積水化学工業株式会社製)などが、金属製アングル材17の水平片17a上に配設することにより介在されている。 この発泡性遮炎材21は、前記した発泡性コーキング材19と同様に、火災時の高温加熱によって発泡し、窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙を閉塞し、室内外間の酸素の流通を遮断し、防火機能を向上させる作用をなす。」 エ「【0051】上記した構成によれば、火災時に、複層ガラス窓が室外側Bから加熱されたときに、耐熱ガラス12が3?4分程度の間に崩落しても、発泡性コーキング材19が発泡し硬化することによって、この発泡性コーキング材19と、金属製アングル材17とでもって、室内側Aの網入りガラス11を挾持し、少なくとも20分間以上に亘って網入りガラスの崩落を防止することができる。 ・・・ 【0053】一方、複層ガラス窓が室内側から加熱されたときには、発泡性コーキング材19が発泡し硬化することによって、その硬化体と金属製アングル材17に支持された耐熱性テープ18とでもって複層ガラス3を挾持し、少なくとも20分間以上に亘って、室内側Aの網入りガラス11の崩落を防止するとともに、網入りガラス11が熱を遮ることによって、室外側Bの耐熱ガラス12の加熱を抑制して、耐熱ガラス12の破損を防止し、更に、室内側Aの火炎を、金属製アングル材17と耐熱性テープ18によって遮炎することができる。」 オ 図2は次のものである。 カ 図2をみると、金属製アングル材17の延出片17bは複層ガラス3の室内側Aの外周端3aに、水平片17aは複層ガラス3の外周端面3cに沿って配置されていることがわかる。 キ 上記アないしカより、甲第1号証には、下記発明が記載されているといえる(以下「甲1発明」という。)。 「窓枠2に複層ガラス3を装着してなる複層ガラス窓であって、 複層ガラス3は、室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12とよりなり、それらの外周端側の内面間にシール材を介して介在されるスペーサ13とより、密閉空間14が形成されるように接合してなり、 複層ガラス3における室内側A,室外側Bの外周両端3a,3bは、窓枠2の内周に形成された内周溝部10内に、それぞれパッキン15,16を介して、水密的に挟持されているとともに、押縁2Bの先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3における室外側Bの外周端3b、すなわち耐熱ガラス11の室外側Bの外周端を、室内側Aに向けて弾性的に押込むように付勢し、 窓枠2の内周溝部10内に、火災時にガラスを挾持し崩落を防止するアングル材17が、窓枠2を構成する部材の長手方向に沿って連続して設けられ、 このアングル材17は、内周溝部10の底面10aにビス等をもって固定される水平片17aと、この水平片17aにおける室内側Aの一端から直角に延出する延出片17bとをもって断面L字状に形成されており、延出片17bは複層ガラス3の室内側Aの外周端3aに、水平片17aは複層ガラス3の外周端面3cに沿っており、 内周溝部10の底面10aと、複層ガラス3の外周端面3cとの間に、火災時の高温加熱によって発泡して窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞するとともに発泡後の硬化によって複層ガラス3の外周端面3cを支持する作用をなす発泡性コーキング材19を介在させ、 発泡性コーキング材19と、内周溝部10の底面10aとの間に、火災時の高温加熱によって発泡し窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙を閉塞する発泡性遮炎材21を、アングル材17の水平片17a上に配設することにより介在させる、 複層ガラス窓。」 」 (2) 甲第2号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。 「【0024】【実施例】図1は本発明の一実施例についての要部断面構造を示す説明図であり、その全体は、スペーサ38によって隔置された少なくとも2枚の板ガラス35、35が対向配置されてなる複層ガラスPと、該複層ガラスPの周縁部36に被着されて装着対象部材である図2に示す枠材31との間の介装材として機能するアタッチメント11とで構成されている。 【0025】この場合における複層ガラスPについては、板ガラス材35、35の側縁部35a、35a相互間に二次封着部を形成するために充填されるシール材28の収容スペースともなる溝部37が形成されるように、前記スペーサ38を複層ガラスPの端面35bよりも内周側に後退させた位置関係のもとで配置することでその全体が形成されている。なお、前記溝部37に充填されるシール材28については、適宜のものを採用でき、耐久性や作業性に優れ、かつ、金属を腐食させることのない例えばシリコン系シーリング材などが好適に採用できる。」 (3) 甲第3号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。 「【0003】図18は前者の例であり、框72に複層ガラス71がグレージングチャンネル73により固定されている。図19は後者の例であり、框72に複層ガラス71がバックアップ材74、74でその両側面を支持され、バックアップ材74、74の外側をシール材75、75でシールしてある。」 (4) 甲第4号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。 「【0018】ガラス50は、2枚の耐熱強化ガラス51を互いに間隔を隔てて対面させて一体に形成された複層ガラスである。2枚の耐熱強化ガラス51の周端部側における対面する部位には、2枚の耐熱強化ガラス51の間隔を保持するためのスペーサー54が全周に亘って介在されている。そして、間隔を隔てて対面された2枚の耐熱強化ガラス51における、スペーサー54より外周側は、耐熱強化ガラス51の周端部とスペーサー54とによりスペーサー54側を底として外方に向かって開放された溝状をなしており、溝状をなす外周部分にシール部材としてのシール剤52が充填されている。」 (5) 甲第5号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の記載がある。 ア 「【0002】【従来技術及び発明が解決しようとする課題】一般に、この種のサツシは、四周の框材を枠組みしてサツシ枠ユニツトを形成する工程と、サツシ枠ユニツトにガラス等の板材を組付ける工程とを経て組立てられてられている。しかるに従来、板材の組付工程においては、図3(A)に示す如く、グレイジングチヤンネルが装着された板材を治具を用いてサツシ枠ユニツトの溝部に嵌め込む方法や、図3(B)に示す様に、サツシ枠ユニツトの表裏何れか一方から板材を嵌め込んだ後、板材の四周縁部を複数の押縁でそれぞれ固定する方法が採用されていたため、組付作業に特別な技術を要したり、組付工程数が多くなるという問題があり、この結果、組立てに時間がかかつてコストアツプを招来しているうえに、組立ての自動化を妨げているのが実状であつた。」 イ 図3(A)、(B)は次のものである。 (6) 甲第6号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。 「[従来の技術とその解決すべき問題点] 従来のガラス又はパネル(以下ガラスという)の取り付け構造を第4図乃至第7図によって説明する。 第4図及び第5図は、サツシの框、枠等の部材(1)にガラス(2)をU字形のグレージングチャンネル(3)を用いて取り付けたものであって、グレージングチャンネル(3)をガラス(2)の四周に巻き付けてから、サツシの各部材を組み立ててガラス(2)を取り付けるものである。 第6図は先付けビード(4)と後付けビード(5)によってガラス(2)をサツシの部材(1)に取り付けるものであって、先付けビード(4)を部材(1)にあらかじめ取り付けておき、ガラス(2)をガラス位置決めブロック(6)に当接するまで、部材(1)に挿入した後に、後付けビード(5)をガラス(2)と部材(1)の間に挿入してガラス(2)を固定するものである。 第7図は防火の関係からビードを用いることが出来ない場合に、ビードによらずシール材(7)でガラス(2)を部材(1)に固定しているものであって、ガラス(2)を部材(1)に挿入した後に、バックアップ部材(8)をガラス(2)と部材(1)の間に挿入した後、シール材(7)を注入して、ガラス(2)を固定するものである。」(明細書2頁4行から3頁11行) (4) 甲第7号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。 ア 「【0004】【発明が解決しようとする課題】本発明等は、木質感に溢れ、耐候性及び機械的物性に優れた窓枠用樹脂組成物及び成形品を提供することにある。特に好ましくは、木粉などの植物性粉末を全く含まないか、又は樹脂100重量部に対し5重量部以下の極微量の植物性粉末を含む樹脂組成物であっても、木質粉に溢れ、かつ耐候性及び寒暖の差によらず、機械的物性に優れた窓枠用樹脂組成物及び成形品を提供することにある。なお、本発明でいう窓枠とは、窓框も含めて呼称する開閉可能なもの以外にはめ殺しも含むものであり、図-1の1a,1bに示される、アルミ・樹脂複合窓枠の室内側構造部又は/及び図-2の1c,1dに示される、樹脂製窓枠の主要構造部及び図-2の5,6部に示されるような意匠材や押縁材を指す。」 イ 「【図面の簡単な説明】 【図1】アルミ・樹脂複合窓枠の一例を示す断面図 【図2】樹脂製窓枠の一例を示す断面図 【図3】本願実施例成形品の形状断面図 【符号の説明】 1a,1b,1c,1d:樹脂製窓枠材、2a,2b:アルミ性窓枠材、3:グレージングチャンネル、4:複層ガラス、5:樹脂製意匠材、6:樹脂製押縁材、7:塩化ビニル系樹脂組成物A、8:塩化ビニル系樹脂組成物B+C」 ウ 図1は次のものである。 エ 図2は次のものである。 (5) 甲第8号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第8号証には、以下の記載がある。 「図中5はたて枠1,1’または横枠2に形成したグレチヤンgの係止リツプと協同して窓ガラス4のまわりを抑止する押縁である。」(明細書2頁7から9行) (9) 甲第9号証 本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。 ア 「【0016】図1(a)は本発明に係る框構造を有するガラス障子を簡略に示した縦断面図であり、同図(b)はその横断面図である。 【0017】同図において、符号1は上框、2は下框であり、3は縦框を示す。なお、同図(b)の縦框3は外障子4と内障子5の縦框を示している。 【0018】これらの框材1、2、3はそれぞれ屋外側の金属部(アルミニウムなど)aと屋内側の合成樹脂部(塩化ビニルなど)bとを結合してなるもので、框材の端部にはガラスの嵌合溝6が形成されている。嵌合溝6も、屋外側の溝壁8は金属部aによって、屋内側の溝壁8は合成樹脂部bによって構成されている。また、溝底9は金属部aと合成樹脂部bとの係止によって結合されている。両側の溝壁7、8の先端内側はわずかに突出して、ガラスpの縁部に取り付けられたグレージングチャンネルqが嵌合装着されるように形成されている。 【0019】ガラス用嵌合溝6の先端間の溝幅は、複層ガラスを嵌合可能な大きさになるように形成されている。また、嵌合溝6の屋内側の合成樹脂製溝壁7の先端から屋外側の溝壁8側に直角に合成樹脂製の折り取り部10が形成されている。この折り取り部10によって形成された溝幅は単層ガラス11を嵌合可能な大きさに形成されている。 【0020】上記折り取り部10は強度を上げるため中空に形成され、その基部は折り取り可能に形成されている。折り取り可能とするには、合成樹脂部bを押し出し成形する際に、側壁7と折り取り部10との間にV字溝12を形成しておけばよい。 【0021】上記構成において、図1(a)(b)の単層ガラス11用の嵌合溝6を複層ガラス用の嵌合溝6に変更するときは、上記嵌合溝6の折り取り部10を折り取って除去すればよい。これにより、図2(a)(b)に示されるように、嵌合溝6は複層ガラスを嵌合可能な溝幅になるから、複層ガラス13を嵌合装着することができる。上下框1、2には、溝底9にL字形の補強片14を固定し、合成樹脂によって形成された屋内側の溝壁7を補強するのが好ましい。」 イ 図3(b)は次のものである。 2 本件発明1について (1)対比 本件発明1と甲1発明とを対比する ア 甲1発明は「窓枠2に複層ガラス3を装着してなる複層ガラス窓」であり、すなわち「窓枠2」に装着される「複層ガラス3」を有するものである。この「窓枠2」に装着される「複層ガラス3」と、本件発明1の「複層ガラスパネル」とを対比すると、「複層ガラス」の部材である点で共通する。 イ 甲1発明の「複層ガラス3」は本件発明1の「複層ガラス」に相当し、甲1発明の「複層ガラス3」を構成している「室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12」、「スペーサ13」は、それぞれ本件発明1の「2枚以上の板ガラス」、「スペーサー」に相当する。 次に甲1発明の「シール材」については、「スペーサ13」と「室内側Aの網入りガラス11」あるいは「室外側Bの耐熱ガラス12」との間にあるもので、すなわちスペーサーとガラスの間のシール材であって、直接ガラスとガラスの間をシールするものではないが、「スペーサ13」を挟みガラス間のシールをなすシール材ではある。そして、本件発明1において「2枚以上の板ガラス」の「それぞれがガラスパネルを構成する」とされていることを考慮すると、甲1発明の「シール材」は、本件発明1の「パネル間シール材」に相当する。 また、甲1発明の「室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12」が「スペーサ13」を介在するものであるということは、本件発明1において「2枚以上の板ガラス」が「所定の間隔を有して対向」するものであることに相当する。 よって、甲1発明の「複層ガラス3は、室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12とよりなり、それらの外周端側の内面間にシール材を介して介在されるスペーサ13とより、密閉空間14が形成されるように接合」されていることと、本件発明1の「所定の間隔を有して対向しそれぞれがガラスパネルを構成する2枚以上の板ガラスと、前記2枚以上の板ガラス間の外周端部より内側に配置されたスペーサーと、前記間隔のうち前記板ガラスの外周端部に充填されるパネル間シール材」は、「所定の間隔を有して対向する2枚以上の板ガラスと、前記2枚以上の板ガラス間に配置されたスペーサー及びパネル間シール材」という点で共通する。 ウ 甲1発明の「火災時にガラスを挾持し崩落を防止するアングル材17」と、該「アングル材17」の「複層ガラス3の外周端面3cに沿って」いる「水平片17a」と、「複層ガラス3の室内側Aの外周端3aに」沿っている「延出片17b」は、それぞれ本件発明1の「耐熱性の補強部材」と、該「補強部材」の「板ガラスの端面」に沿った「片」と、「板ガラスの板面」に沿った「片」に相当する。 また、甲1発明で、「アングル材17」が「窓枠2を構成する部材の長手方向に沿って連続して設けられ」ることは、本件発明1で「補強部材」が「長尺」であることに相当する。 よって、甲1発明で「窓枠2の内周溝部10内に、火災時にガラスを挾持し崩落を防止するアングル材17が、窓枠2を構成する部材の長手方向に沿って連続して設けられ、このアングル材17は、内周溝部10の底面10aにビス等をもって固定される水平片17aと、この水平片17aにおける室内側Aの一端から直角に延出する延出片17bとをもって断面L字状に形成されており、延出片17bは複層ガラス3の室内側Aの外周端3aに、水平片17aは複層ガラス3の外周端面3cに沿って」いることは、本件発明1の「少なくとも2つの片を有し、そのうちの1つの片は前記板ガラスの板面に沿って、他の1つの片は前記板ガラスの端面に沿って、延びる長尺の耐熱性の補強部材」に相当する。 エ 甲1発明の、「火災時の高温加熱によって発泡」し「間隙を閉塞する」「発泡性コーキング材19」および「発泡性遮炎材21」は、「火災時の高温加熱」による「発泡」によって体積が膨張するものであることは明らかであるから、本件発明1の「所定の温度で体積を膨張させて」「封止可能な封止手段」に相当する。 また、甲1発明で、「発泡性コーキング材19」および「発泡性遮炎材21」が「閉塞する」対象である「窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙」と、本件発明1で「封止手段」が「封止可能」な対象である「2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間」とを対比すると、甲1発明の「複層ガラス3」は本件発明1の「複層ガラス」に相当し、また甲1発明において「アングル材17は、内周溝部10の底面10aにビス等をもって固定される」ものであり、該「アングル材17」は本件発明1の「補強部材」に相当することからすれば、両者は、「2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間」である点で共通する。 よって、甲1発明の「内周溝部10の底面10aと、複層ガラス3の外周端面3cとの間に、火災時の高温加熱によって発泡して窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞するとともに発泡後の硬化によって複層ガラス3の外周端面3cを支持する作用をなす発泡性コーキング材19を介在させ、 発泡性コーキング材19と、内周溝部10の底面10aとの間に、火災時の高温加熱によって発泡し窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙を閉塞する発泡性遮炎材21を、アングル材17の水平片17a上に配設することにより介在させる」ことと、本件発明1の「グレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置され、所定の温度で体積を膨張させて、2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間を封止可能な封止手段」を備えることを対比すると、両者は、「所定の温度で体積を膨張させて、2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間を封止可能な封止手段」を備える点で共通する。 オ 前記アないしエから、本件発明1と甲1発明とは [一致点] 「所定の間隔を有して対向する2枚以上の板ガラスと、 前記2枚以上の板ガラス間に配置されるスペーサー及びパネル間シール材と、 少なくとも2つの片を有し、そのうちの1つの片は前記板ガラスの板面に沿って、他の1つの片は前記板ガラスの端面に沿って、延びる長尺の耐熱性の補強部材と、 所定の温度で体積を膨張させて、2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間を封止可能な封止手段と、を備える、 複層ガラス部材。」 の点で一致し、そして以下の点で相違する。 [相違点A] 本件発明1は、「複層ガラスパネル」であるのに対し、甲1発明は、「窓枠2」に装着される「複層ガラス3」である点。 [相違点B] 本件発明1では、「スペーサー」と「パネル間シール材」が、「スペーサー」が「2枚以上の板ガラス間の外周端部より内側に配置され」、「パネル間シール材」が「外周端部に充填される」という位置関係であるのに対し、甲1発明では、「スペーサ13」と「シール材」が、「室内側Aの網入りガラス11と室外側Bの耐熱ガラス12」の「外周端側の内面間にシール材を介して介在されるスペーサ13」という位置関係である点。 [相違点C] 本件発明1は「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」を有するのに対し、甲1発明は「複層ガラス3における室内側A,室外側Bの外周両端3a,3bは、窓枠2の内周に形成された内周溝部10内に、それぞれパッキン15,16を介して、水密的に挟持され」るものであり、また、本件発明1では「封止手段」が「グレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置され」るのに対し、甲1発明ではそのような特定はされていない点。 [相違点D] 本件発明1では「グレージングチャンネルの見付方向内側端部が、補強部材の板ガラスの板面に沿って延びる片の見付方向内側端部より、見付方向内側に配置されている」のに対し、甲1発明ではそのような特定はされていない点。 (2) 判断 まず、相違点Cについて検討する。 ア 「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」を採用する動機付けについて 甲1発明は、「発泡性コーキング材19」に関連し、「内周溝部10の底面10aと、複層ガラス3の外周端面3cとの間に、火災時の高温加熱によって発泡して窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間の間隙を閉塞するとともに発泡後の硬化によって複層ガラス3の外周端面3cを支持する作用をなす発泡性コーキング材19を介在させ、 発泡性コーキング材19と、内周溝部10の底面10aとの間に、火災時の高温加熱によって発泡し窓枠2における内周溝部10の底面10aと複層ガラス3の外周端面3cとの間に生じた間隙を閉塞する発泡性遮炎材21を、アングル材17の水平片17a上に配設することにより介在させる」という構成を有するものである。このように、甲1発明は「発泡性コーキング材19」が「内周溝部10の底面10aと、複層ガラス3の外周端面3cとの間に」「介在」し、「発泡後の硬化によって複層ガラス3の外周端面3cを支持する作用をなす」という構成であり、そこにグレージングチャンネルを配置する余地があるような構成ではなく、グレージングチャンネルではなくパッキンを前提とする構成であることは明らかである。 また、甲1発明の「パッキン15,16」による「複層ガラス3」の保持は、「複層ガラス3における室内側A,室外側Bの外周両端3a,3bは、窓枠2の内周に形成された内周溝部10内に、それぞれパッキン15,16を介して、水密的に挟持されているとともに、押縁2Bの先端に設けたパッキン16をもって、複層ガラス3における室外側Bの外周端3b、すなわち耐熱ガラス11の室外側Bの外周端を、室内側Aに向けて弾性的に押込むように付勢」するという構成、すなわち「押縁2Bの先端に設けたパッキン16」による構成であり、やはりグレージングチャンネルではなくパッキンを前提とする構成である。 このような甲1発明にパッキンに代えてグレージングチャンネルを採用する動機はなく、また甲第1号証すべてを見ても、グレージングチャンネルを採用することは記載も示唆もされていない。 よって、甲第5ないし9号証に記載されているようにグレージングチャンネルが当業者にとり周知技術であったとしても、当業者にとり、甲1発明の「パッキン15,16」に代えて「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」を採用する動機はない。 イ 「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」を採用した場合の構成について さらに、仮に甲1発明に「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」を採用した場合、該「グレージングチャンネル」が、「発泡性コーキング材19」(あるいは「発泡性遮炎材21」)「グレージングチャンネル」と「アングル材17」の間の空間に配置されるような位置に置かれるという構成(本件発明1における「封止手段」が「グレージングチャンネルと前記補強部材の間の空間に配置される」構成に相当。)を当業者が容易に着想し得るものかどうか検討する。 甲第1号証には「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」の採用に関して記載がなく、また甲第2ないし9号証にも、「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」と「所定の温度で体積を膨張させて・・・封止可能な封止手段」、さらに「長尺の耐熱性の補強部材」との位置関係について教示する記載はない。 また他に「封止手段」が「グレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置され」る構成が周知慣用技術である根拠もなく、さらに、甲1発明において「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」を採用すれば必然的に「発泡性コーキング材19」あるいは「発泡性遮炎材21」が「グレージングチャンネル」と「アングル材17」の間の空間に配置されるという根拠もない。 以上のように、当業者が容易に着想し得る理由はない。 ウ 申立人の主張について 「封止手段」が「グレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置され」ることについて、申立人は、上記第3の1(3)イに記載したように、「さらに、本件発明1のグレージングチャンネルは、火災時には消失してしまうものであって、封止手段が所定の温度で体積を膨張させて2枚以上の板ガラス、スペーサー及びパネル間シール材を含めた複層ガラスと、補強部材の間を封止する際に、何らかの作用を有するものではなく、封止手段がグレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置されることによって予測を超えた格別の効果を有するものでもない。 つまり、本件発明1において、気密材としてグレージングチャンネルを採用することに格別の技術的意味はなく、単に、気密材として周知の技術であるグレージングチャンネルを選択しただけであって、その選択が当業者にとって容易であることは、上述のとおりである。」 との主張をしている。 しかし、上記イで説示したように、「封止手段がグレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置される」という配置かどうか以前に、そもそも「板ガラスの外周端部及び前記パネル間シール材を覆うように設けられるグレージングチャンネル」と「所定の温度で体積を膨張させて・・・封止可能な封止手段」、さらに「長尺の耐熱性の補強部材」との位置関係について教示する開示自体、甲第1号証、あるいは甲第2ないし9号証に記載がないところ、「封止手段がグレージングチャンネルと補強部材の間の空間に配置」されることを単なる設計変更とはいえず、当業者が相違点Cに係る本件発明1の構成に容易に到達する論理付けができるものではない。 したがって、申立人の上記主張によっても、当業者が相違点Cに係る本件発明1の構成を容易に想到できるとはいえない。 エ 相違点Cのまとめ 以上のように、相違点Cに係る本件発明1の構成を得ることは、当業者が容易に想到できることではない。 オ 本件発明1のまとめ 以上のように、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は当業者が甲第1号証記載の発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 3 本件発明2、4、5、6、7について 本件発明2、4、5、6、7は、本件発明1を更に減縮したものであるから、上記本件発明1についての判断と同様の理由により、当業者が甲第1号証記載の発明および周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものではない。 第5 むすび したがって、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、請求項1、2、4、5、6、7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に請求項1、2、4、5、6、7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2017-04-21 |
出願番号 | 特願2011-151200(P2011-151200) |
審決分類 |
P
1
652・
121-
Y
(E06B)
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最終処分 | 維持 |
前審関与審査官 | 仲野 一秀 |
特許庁審判長 |
井上 博之 |
特許庁審判官 |
前川 慎喜 小野 忠悦 |
登録日 | 2016-06-17 |
登録番号 | 特許第5951943号(P5951943) |
権利者 | 株式会社LIXIL |
発明の名称 | 複層ガラスパネル、障子、及び開口部装置 |
代理人 | 星野 寛明 |
代理人 | 岩池 満 |
代理人 | 芝 哲央 |
代理人 | 正林 真之 |