• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01L
管理番号 1327916
異議申立番号 異議2017-700107  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-06 
確定日 2017-05-10 
異議申立件数
事件の表示 特許第5975589号発明「半導体装置実装用ペースト」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 特許第5975589号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第5975589号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし6に係る特許についての手続の経緯は,以下のとおりである。
平成24年 8月24日 特許出願
平成28年 7月 1日 特許査定
平成28年 7月29日 特許の設定登録
平成28年 8月23日 特許公報発行
平成29年 2月 6日 特許異議の申立て
(特許異議申立人 笠井 素子)


第2 特許異議の申立てについて

1 本件特許発明
本件の請求項1ないし6の各請求項(以下,請求項1ないし6を「本件請求項1」ないし「本件請求項6」という。)に係る発明(以下,各請求項に係る発明を,請求項1ないし6の区分に応じて,「本件特許発明1」ないし「本件特許発明6」という。)は,その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
平均粒子径が50nm以上5,000nm以下である表面処理シリカ系微粒子と樹脂とからなる半導体装置実装用ペーストであって,表面処理シリカ系微粒子の^(29)Si MAS NMRスペクトルにおいて,ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅が3ppm以上15ppm以下であることを特徴とする半導体装置実装用ペースト。
【請求項2】
前記表面処理シリカ系微粒子の含有量が固形分として30重量%以上90重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置実装用ペースト。
【請求項3】
前記樹脂が,エポキシ系樹脂,ポリイミド系樹脂,ビスマレイミド系樹脂,アクリル系樹脂,メタクリル系樹脂,シリコーン系樹脂,BTレジン,シアネート系樹脂から選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の半導体装置実装用ペースト。
【請求項4】
E型粘度計の回転数0.5rpmの時の粘度η_(1)が1Pa・s以上800Pa・s以下であることを特徴とする請求項1?3のいずれかに記載の半導体装置実装用ペ-スト。
【請求項5】
E型粘度計の回転数2.5rpmの時の粘度η_(2)が1Pa・s以上800Pa・s以下であることを特徴とする請求項4に記載の半導体装置実装用ペ-スト。
【請求項6】
前記粘度η_(1)と前記粘度η_(2)との粘度比η_(1)/η_(2)が0.001以上8以下であることを特徴とする請求項5に記載の半導体装置実装用ペ-スト。」

2 特許異議申立理由の概要
本件請求項1ないし6の各請求項に係る特許に対して,特許異議申立人が主張する特許異議申立理由の概要は,以下のとおりである。
(1)異議理由1(特許法第29条第1項第3号)
本件特許の請求項1ないし6の各請求項に係る発明は,いずれも,本願の出願日前,日本国内において頒布された刊行物である,特開2012-142439号公報(甲第1号証)に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当し,特許を受けることができないものであり,上記の各請求項に係る特許は取り消すべきものである。

(2)異議理由2(特許法第29条第2項)
本件特許の請求項1ないし6の各請求項に係る発明は,甲第1号証記載の発明において,本願の出願日前,日本国内において頒布された刊行物である,特表2010-532742号公報(甲第2号証)記載の発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たものであり,上記の各請求項に係る特許は取り消すべきものである。

3 甲号証の記載について
(1)甲第1号証
甲第1号証の記載(特許請求の範囲,【0001】及び【0002】,【0014】,【0022】,【0029】ないし【0031】,並びに【0042】ないし【0077】)より,甲第1号証には,下記の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「平均粒径が50?1000nmの範囲にある表面処理されたシリカ系微粒子と樹脂とからなる半導体実装用ペーストであって,シリカ系微粒子が次の式(1)の有機珪素化合物で表面処理されている半導体装置実装用ペースト。
R_(n)-SiX_(4-n) (1)
(但し,式中,Rは炭素数1?10の非置換または置換炭化水素基であって,互いに同一であっても異なっていてもよい。X:炭素数1?4のアルコキシ基,シラノール基,ハロゲン,水素,n:0?3の整数)」

(2)甲第2号証
甲第2号証の記載(特許請求の範囲,【0001】ないし【0003】,【0012】,【0018】,【0027】ないし【0029】,【0032】,【0056】ないし【0060】,並びに図1)より,甲第2号証には,下記の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「粒子径が0.06?4.0μm程度の範囲内に分布し,
コロイドシリカ,脱イオン水及び2-プロパノールからなる混合物を攪拌し,これにオクチルトリエトキシシランを添加して混合し,これをスプレー乾燥して粉末を得て,これをジェットミルにより粉砕することにより製造され,^(29)Si MAS NMRスペクトルにおいて,ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅が3ppm以上15ppm以下の範囲内である,表面処理された金属酸化物粒子。」

(3)甲第3号証
本願の出願日前,日本国内において頒布された刊行物である,特開平11-281598号公報(甲第3号証)の記載(【0011】及び【0012】)より,甲第3号証には,下記の事項が記載されていると認められる。
「RSiO_(3/2)(R:CH_(3)-,C_(2)H_(5)-,C_(2)H_(3)-,C_(6)H_(5)-等)で表面処理されたシリカの^(29)Si MAS NMRスペクトルは,-50?-80ppmで検出され,R^(1)R^(2)SiO_(2/2)(R^(1),R^(2):H-,OH-,CH_(3)-,C_(2)H_(5)-,C_(2)H_(3)-,C_(6)H_(5)-等)で表面処理されたシリカの^(29)Si MAS NMRスペクトルは,-15?-50ppmで検出されること。」

(4)甲第4号証
本願の出願日前,日本国内において頒布された刊行物である,日本化学会編「第4版 実験化学講座5 NMR」(平成3年12月5日,丸善株式会社発行)226ないし235頁(甲第4号証)の記載(229頁9行ないし230頁24行)より,甲第4号証には,下記の事項が記載されていると認められる。
「^(29)Si核のNMR測定において,MAS法を用いると等方的な化学シフト値が容易に得られ,化学シフト値からはSi原子の近傍の構造に関する情報が得られること,及び各Si核が少しずつ違った化学シフト値を示すことにより,スペクトルの線幅は広がり,結晶性の試料であれば0.1?3ppmの線幅であるが,アモルファス試料になると10?20ppmの線幅を示すようになること。」

(5)甲第5号証
本願の出願日前,日本国内において頒布された刊行物である,阿久津秀雄,嶋田一夫,鈴木榮一郎,西村善文編著「分光法シリーズ 第3巻 NMR分光法」(2016年4月22日,株式会社講談社発行)263ないし283頁(甲第5号証)の記載(264頁17行ないし21行)より,甲第5号証には,下記の事項が記載されていると認められる。
「固体NMRでは,幅広い吸収線幅をもつスペクトルが得られること。」

4 特許異議申立理由の検討
(1)異議理由1について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点は,それぞれ,以下のとおりと認められる。
(ア)一致点
「平均粒子径が50nm以上5,000nm以下である表面処理シリカ系微粒子と樹脂とからなる半導体装置実装用ペースト。」
(イ)相違点
本件特許発明1は,「表面処理シリカ系微粒子の^(29)Si MAS NMRスペクトルにおいて,ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅が3ppm以上15ppm以下である」のに対し,甲第1号証には,甲1発明が上記の構成を備えていることは記載されていない点。
イ 判断
以下,甲第1号証の記載より,甲1発明は,上記相違点に係る構成を実質的に備えていると認められるか否かについて検討する。
本件特許明細書には,「本発明者らは,前記課題について鋭意検討した結果,シリカ微粒子の水/アルコール混合溶媒分散液に所定量のシランカップリング剤を添加し,ついで,減圧下,流動状態下,乾燥(溶媒除去)すると,得られるシリカ微粒子粉末は流動性に優れ,これを有機樹脂に分散させた際に容易に再分散し,高濃度でも低粘度の樹脂ペーストが得られることを見出して本発明を完成するに至った。」(【0012】)と記載され,そして,シリカ系微粒子の水および/または有機溶媒分散液に,下記式(1)で表される有機珪素化合物を添加することで,流動性,分散性等に優れた表面処理シリカ微粒子粉末を得ること(【0036】及び【0037】)が記載されていると認められる。
R_(n)-SiX_(4-n) (1)
(但し,式中,Rは炭素数1?10の非置換または置換炭化水素基であって,互いに同一であっても異なっていてもよい。X:炭素数1?4のアルコキシ基,水酸基,ハロゲン,水素,n:1?3の整数)
さらに,本件特許明細書には,本件特許発明1における「ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅」について,「主ピークにおける半値幅が3ppm未満の場合は,従来の分散液中で有機珪素化合物(シランカップリング剤)を加水分解して改質した表面処理シリカ系微粒子と大きく異なるところが無く,得られる粉末が強く凝集していたり,安息角が高く流動性が不充分であり,有機樹脂への分散性が不充分となる場合があり,また,得られるペーストの粘度が高くなり,微細な間隙にアンダ-フィル材としてのペーストの充填が困難となる場合があり,微細なダイアタッチ封止加工が求められているが,これらへの対応が困難となる場合がある」こと,及び「主ピークにおける半値幅が15ppmを超えるものは,後述する表面処理シリカ系微粒子の製造方法によっても得ることが困難である」こと(【0030】)がそれぞれ記載されている。
他方,甲第1号証には,上記3(1)のとおりの甲1発明が記載されていると認められ,また,発明の目的として「粒子径が小さく,流動性に優れ,樹脂への分散性に優れたシリカ系微粒子と樹脂とからなる半導体装置実装用ペ-ストを提供すること」(【0014】)が記載されている。
しかし,甲第1号証には,甲1発明における有機珪素化合物によるシリカ系微粒子の表面処理について,「つぎに,前記シリカ系微粒子が,下記式(1)で表される有機珪素化合物で表面処理されていることが好ましい。」(【0029】)と必須の処理ではない旨記載されており,また,実施例の記載(【0042】ないし【0077】)でも,シリカゾルを限外濾過膜処理,及びイオン交換処理した後,乾燥して得られたシリカ系微粒子を,有機珪素化合物による表面処理を行うことなく,樹脂と混合して得られた半導体実装用ペーストによって,上記の目的が達成されることが記載されているだけである。
そして,甲第1号証には,有機珪素化合物によるシリカ系微粒子の表面処理を,本件特許発明1と同様の有機珪素化合物を用いて行い得ることが記載されているにとどまり,当該表面処理の具体的な内容は記載されていないし,また,当該表面処理により,^(29)Si MAS NMRスペクトルにおける「ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅」がどの程度となり,その結果,シリカ系微粒子の分散性や流動性がどのように変化するかについても記載されていない。
さらに,甲第1号証に記載の有機珪素化合物を用いてシリカ系微粒子の表面処理を行った場合に,有機珪素化合物の添加量や表面処理時の諸条件(温度等)とは無関係に,^(29)Si MAS NMRスペクトルにおける「ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅」が,常に「3ppm以上15ppm以下」となるとは認められないから,当該技術分野における技術常識を参酌しても,甲第1号証における,有機珪素化合物によるシリカ系微粒子の表面処理を,本件特許発明1と同様の有機珪素化合物を用いて行い得る旨の記載から,「表面処理シリカ系微粒子の^(29)Si MAS NMRスペクトルにおいて,ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅が,3ppm以上15ppm以下である」ことが記載されているに等しいとはいえない。
そうすると,甲第1号証の記載からは,甲1発明において,本件特許発明1と同一の方法によりシリカ系微粒子の表面処理が行われているとは認められず,甲1発明が上記相違点に係る構成を実質的に備えているとは認められないから,本件特許発明1は,甲1発明と同一とはいえない。
そして,本件特許発明1の構成を備える本件特許発明2ないし6も,甲1発明と同一とはいえない。
以上より,本件特許発明1ないし6は,いずれも,甲第1号証記載の発明とは認められず,特許法第29条第1項第3号に掲げる発明に該当しない。
ウ 異議申立人の主張について
異議申立人は,「甲1微粒子は,本件微粒子と同一の有機珪素化合物により同一の方法によって表面処理されているし,技術常識からみてもシリカ系微粒子上に結合したシラノール基も同一の特性を有するといえるので,「^(29)Si MAS NMRスペクトルにおいて,ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅が,3ppm以上15ppm以下」を有すると理解される」旨,主張する。
しかし,上記イのとおり,甲1発明において,本件特許発明1と同一の方法(製造条件)によりシリカ系微粒子の表面処理が行われているとは認められないから,異議申立人の上記の主張を採用することはできない。
エ 小括
したがって,異議理由1に理由はない。

(2)異議理由2について
ア 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点は,それぞれ,上記(1)アの(ア)及び(イ)のとおりである。
イ 判断
上記3(2)のとおり,甲第2号証には,甲2発明が記載されていると認められる。
そして,甲第2号証には,技術分野として「いくつかの疎水性金属酸化物粒子は,トナー用組成物における使用に望ましい物理的性質を有」すること(【0001】)が記載され,発明が解決しようとする課題として,「特にトナー粒子の電荷を変更するのに有用な粒子」に対する要望は残っているものの,「このような粒子のすべてが,いくつかの用途に要求される電荷調節特性を与えるというわけではない」こと(【0003】)が記載され,また,「疎水性金属酸化物粒子」の用途について,「疎水性金属酸化物粒子は,トナー組成物,アンチブロッキング剤,接着調節剤,ポリマー添加剤(たとえば,エラストマーおよびシリコーンゴムのようなゴム用),耐摩耗被覆および膜,つや消し被覆および膜,レオロジー調節剤(たとえば,エポキシまたは液体ポリマー用),および機械的/光学的調節剤(たとえば,複合体およびプラスチックス用)を含む(これらに限定されない),多くの異なる用途に使用され得る」こと(【0032】)も記載されている。
しかし,甲第2号証には,「粒子径が0.06?4.0μm程度の範囲内に分布し,コロイドシリカ,脱イオン水及び2-プロパノールからなる混合物を攪拌し,これにオクリツトリエトキシシランを添加して混合し,これをスプレー乾燥して粉末を得て,これをジェットミルにより粉砕することにより製造され,^(29)Si MAS NMRスペクトルにおいて,ケミカルシフトが-30ppm以下-80ppm以上で検出される主ピークの半値幅が3ppm以上15ppm以下の範囲内である,表面処理された金属酸化物粒子」を樹脂と混合した場合の流動性や樹脂への分散性については,記載も示唆もされていない。
すなわち,甲第1号証の記載によれば,甲1発明の目的は,「粒子径が小さく,流動性に優れ,樹脂への分散性に優れたシリカ系微粒子と樹脂とからなる半導体装置実装用ペ-ストを提供すること」(【0014】)であるところ,甲2発明は,上記のとおり,トナー用組成物における使用に望ましい電荷調節特性を与えることを目的としたものと認められ,接着調節剤として使用され得ることが記載されていても,樹脂と混合した場合の流動性や樹脂への分散性については,記載も示唆もされていない。
そうすると,甲2発明を,目的及び用途が異なる甲1発明に適用することに,動機付けがあるということはできないから,甲1発明において,本件特許発明1との相違点に係る構成とすることを,甲2発明に基づいて,当業者が容易に想到し得たということはできない。
以上より,本件特許発明1は,甲第1号証及び甲第2号証にそれぞれ記載の発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたとはいえず,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものとは認められない。
そして,同様の理由により,本件特許発明1の構成を備える本件特許発明2ないし6も,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないものとは認められない。
ウ 小括
したがって,異議理由2に理由はない。

(3)小括
上記(1)及び(2)より,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし6の各請求項に係る特許を,異議理由1及び2によって取り消すことはできない。


第3 結言

以上のとおりであるから,本件特許の請求項1ないし6の各請求項に係る特許は,特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては,取り消すことができない。
また,他に,本件特許の上記各請求項に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって,結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-04-25 
出願番号 特願2012-185020(P2012-185020)
審決分類 P 1 651・ 113- Y (H01L)
P 1 651・ 121- Y (H01L)
最終処分 維持  
前審関与審査官 工藤 一光  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 加藤 浩一
河口 雅英
登録日 2016-07-29 
登録番号 特許第5975589号(P5975589)
権利者 日揮触媒化成株式会社
発明の名称 半導体装置実装用ペースト  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ