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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09K
管理番号 1327934
異議申立番号 異議2017-700112  
総通号数 210 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2017-06-30 
種別 異議の決定 
異議申立日 2017-02-07 
確定日 2017-05-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第5981839号発明「摩擦材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第5981839号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 
理由 1.手続の経緯
特許第5981839号の請求項1?3に係る特許についての出願は、平成24年12月21日に特許出願され、平成28年8月5日にその特許権の設定登録がされ、その後、その特許に対し、特許異議申立人山本哲夫(以下、単に「申立人」ということがある。)により特許異議の申立てがされたものである。

2.本件発明
特許第5981839号の請求項1?3の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
金属繊維および銅成分を含有しない摩擦材であって、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウムを10?35体積%、モース硬度7以上の研削材を3?10体積%、およびエラストマー変性フェノール樹脂を10?30体積%含有する摩擦材。
【請求項2】
前記モース硬度7以上の研削材が、安定化ジルコニア、珪酸ジルコニウム、およびアルミナからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の摩擦材。
【請求項3】
前記エラストマー変性フェノール樹脂がアクリルゴム変性フェノール樹脂およびシリコーンゴム変性フェノール樹脂の少なくともいずれか一方である、請求項1または2に記載の摩擦材。」

3.申立理由の概要
申立人は、証拠として国際公開第2008/123046号(甲第1号証、以下、単に「甲1」という。以下、同様。)、特許第5071604号公報(甲2)、特開2005-247898号公報(甲3)、特開2006-206900号公報(甲4)及び「Mitsui Chemicals America. Incのブレーキ用結合材のカタログ」(甲5)を提出し、請求項1?3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2項に該当し、取り消すべきものである旨主張している。

4.甲各号証の記載
(1)甲1について
甲1には、「チタン酸カリウム及びその製造方法並びに摩擦材及び樹脂組成物」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ア-1)「[0006] 本発明の目的は、新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有するチタン酸カリウム及びその製造方法並びに該チタン酸カリウムを含有する摩擦材及び樹脂組成物を提供することにある。」
(ア-2)「[0009] 本発明のチタン酸カリウムは、一般に、不定形の形状を有している。すなわち、繊維状や、板状や、粒状の形状ではなく、不規則な形状を有している。具体的には、不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有しているものであることが好ましい。すなわち、アメーバ状の形状や、ジグソーパズルのヒースのような形状を有しているものであることが好ましい。」
(ア-3)「[0026] 本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含むことを特徴としている。その含有量としては、1?80重量%の範囲であることが好ましい。本発明のチタン酸カリウムの含有量が1重量%未満であると、摩擦係数の安定等、摩擦調整剤としての効果を発現しにくい場合がある。80重量%を越えると、パッド成形が出来にくい場合がある。」
(ア-4)「[0027] 本発明の摩擦材は、本発明のチタン酸カリウムを摩擦調整剤として含有しているので、低温から高温域にわたって極めて安定な摩擦摩耗特性(耐摩耗性、摩擦係数等)を発揮し得る。本発明のチタン酸カリウムを含有することにより、良好な摩擦摩耗特性が得られる理由の詳細については明らかでないが、本発明のチタン酸カリウムが、上記のような特定の形状を有しているため、良好な耐摩耗性及び摩擦係数が得られるものと思われる。」
(ア-5)「[0028] 従って、本発明の摩擦材は、例えば、自動車、鉄道車両、航空機、各種産業用機器類等に用いられる制動部材用材料、例えばクラッチフェーシング用材料及びブレーキライニングやディスクパッド等のブレーキ用材料等として用いることができるものであり、制動機能の向上、安定化、耐用寿命の改善効果を得ることができる。」
(ア-6)「[0029] 結合材としては摩擦材分野において常用されるものをいずれも使用でき、例えば、フェノール樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ユリア樹脂等の熱硬化性樹脂、天然ゴム、ニトリルゴム、ブクンジェンゴム、スチレンブタジエンゴム、クロロプレンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリルゴム、ハイスチレンゴム、スチレンプロピレンジェン共重合体等のエラストマー、・・・(中略)・・・を挙げることができる。結合材は、1種を単独で使用でき、場合によっては2種以上の相溶性のあるもの同士を併用してもよい。」
(ア-7)「[0032] さらに、本発明の摩擦材は、防錆剤、潤滑剤、研削剤等の1種又は2種以上を含んでいてもよい。」
(ア-8)「[0100] (応用例1)(8チタン酸カリウム)
実施例1で得られたK_(2)Ti_(7.9)O_(16.8)のアメーバ状チタン酸カリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、2 5 MPa の圧力下にて1分間予備成形をした後、20MPa の圧力下および170℃の温度で5分間、金型による結着成形を行い、引き続き180℃で3時間熱処理した。成形物を金型から取り出し、研磨化工を施してディスクパッドA(JIS D 4411試験片)を製造した。」
(ア-9)「[0101] (応用例2)(6チタン酸カリウム)
実施例2で得られたK_(2)Ti_(6.1)O_(16.8)のアメーバ状チタン酸カリウム20部、アラミド繊維10部、フェノール樹脂20部、硫酸バリウム50部を混合し、・・・(中略)・・・ディスクパッドB(JIS D 4411試験片)を製造した。」
(ア-10)「請求の範囲
[1] K_(2)Ti_(n)O_((2n+1))(n=4.0?11.0)で表されるチタン酸カリウムであって、X線回折における最も強度の高いピーク(2θ)が11.0°?13.5゜の範囲にあり、その半価幅が0.5°以上であることを特徴とするチタン酸カリウム。
[2] 不定形の形状を有することを特徴とする請求項1に記載のチタン酸カリウム。
[3] 不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有することを特徴とする請求項1
または2に記載のチタン酸カリウム。
[4] アメーバ状の形状を有することを特徴とする請求項1?3のいずれか1項に
記載のチタン酸カリウム。
・・・(略)・・・
[11] 摩擦調整剤として、請求項1?6のいずれか1項に記載のチタン酸カリウムまたは請求項7?10のいずれか1項の方法で製造されたチタン酸カリウムを含有することを特徴とする摩擦材。」

(2)甲2について
甲2には、「ノンアスベスト摩擦材組成物、これを用いた摩擦材及び摩擦部材」(発明の名称)について、次の記載がある。
(イ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有するノンアスベスト摩擦材組成物であって、該摩擦材組成物中の銅の含有量が銅元素として0.5質量%以下であり、銅及び銅合金以外の金属の含有量が0.5質量%以下であり、結合材としてアクリルエラストマー分散フェノール樹脂を7?15質量%含有し、及び、無機充填材としてCa(OH)_(2)及び/又はCaOを合計で1?5質量%含有するノンアスベスト摩擦材組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のノンアスベスト摩擦材組成物を成形してなる摩擦材。」
(イ-2)「【0003】
摩擦材には、・・・(略)・・・、このノンアスベスト摩擦材には銅や銅合金などが多量に使用されている。
しかし、銅や銅合金を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖、及び海洋などの汚染の原因となる可能性が示唆されているため、使用を抑制する動きが高まっている。」
(イ-3)「【0016】
本発明のノンアスベスト摩擦材祖成物中の上記結合材の含有量は、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂を含め、5?20質量%であることが好ましく、5?15質量%であることがより好ましく、7?15質量%であることが更に好ましい。結合材の含有量を5?20質量%の範囲とすることで、摩擦材の強度低下をより抑制でき、また、摩擦材の気孔率が減少し、弾性率が高くなることによる鳴きなどの音振性能悪化をより抑制できる。」
(イ-4)「【0030】
(その他の材料)
また、本発明のノンアスベスト摩擦材組成物には、前記の結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材以外に、必要に応じてその他の材料を配合することができる。」
(イ-5)「【0039】
評価結果を表1に示す。
なお、表1における、各構成成分の詳細は以下の通りである。
(結合材)
アクリルエラストマー分散フェノール樹脂:三井化学(株)製(商品名:スRN-2830MB、アクリルエラストマー量:30質量部)」

(3)甲3について
甲3には、「摩擦材」(発明の名称)について、次の記載がある。
(ウ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材と、結合剤と、摩擦調整剤とを主成分とし、かつ前記摩擦調整剤の一つとしてアブレーシブが含まれている摩擦材であって、
前記アブレーシブが、造粒された状態にて含まれていることを特徴とする摩擦材。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦材であって、
アブレーシブは、モース硬度が7以上でかつ粒径が0.1μm以上10μm以下の粉体を造粒して、粒径が50mm以上1mm以下の造粒体にされた状態にて含まれていることを特徴とする摩擦材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の摩擦材であって、
造粒されたアブレーシブが摩擦材全体の1体積%以上30体積%以下含まれていることを特徴とする摩擦材。」
(ウ-2)「【0009】
結合剤としては、例えばフェノール樹脂、イミド樹脂、ゴム変性フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、NBR、ニトリルゴム、アクリルゴムなどが使用される。そして結合剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組合せて使用することもできる。
また結合剤の添加量は、摩擦材全体の5?30体積%であることが好ましい。」
(ウ-3)「【0011】
また本形態では、摩擦調整剤の一つとして無機充填剤のアブレーシブが必ず含まれる形態になっている。そして含有されるアブレーシブは、造粒された状態にて含まれている。
造粒前のアブレーシブは、モース硬度が7以上で10未満の粉体である。例えば、珪酸ジルコニウム(モース硬度7.5)、酸化ジルコニウム(モース硬度7.5)、炭化珪素(モース硬度9)、シリカ(モース硬度7)及びアルミナ(モース硬度9)からなる粉体である。
そして粉体の粒径は、ロータなどの相手材への攻撃性を小さくするために小さい粒径であることが好ましく、例えば0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。
そしてアブレーシブの粉体は、一種を単独で用いることもできるが、二種以上を組合せて用いることもできる。なおモース硬度は、ダイヤモンドを10とした場合の測定法による硬度である。」
(ウ-4)「【0018】
(実施例)
以下に、本発明の具体的な実施例1?3と、それらを比較するための比較例1?3について説明する。
・・・(略)・・・
実施例2に係る摩擦材は、炭化珪素のアブレーシブの造粒体を5体積%含んでいる。そして造粒体は、粒径5μmの炭化珪素の粉体を粒径300μmに造粒したものである。」

(4)甲4について
甲4には、「摩擦材及びその製造方法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(エ-1)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材繊維と、結合材と、充填材とからなる摩擦材であって、安定化ジルコニア単結晶と比較して99.93?99.95%の大きさの格子定数を有する安定化ジルコニアを含むことを特徴とする摩擦材。」
(エ-2)「【0003】
一般的に、摩擦材は複合材料によって構成されている。即ち、ガラス繊維、アラミド繊維等の基材繊維、黒鉛、二硫化モリブデン等の充填材、フェノール樹脂等の結合材などを複合化した材料より構成されている。
また、充填材としては、前記黒鉛、二硫化モリブデン等の潤滑材の他、有機ダスト、金属粉末、無機配合材など摩擦調整材が使用されている。他の充填材として、摩擦材の摩擦係数を確保するための所謂、研削材としてアルミナ等のモース硬さが7以上の材料が使用されている。」
(エ-3)「【0004】
前記研削材の他に、摩擦材の摩擦係数を顕著に向上させる研削材として、単斜晶のジルコニアがあり、例えば、特許文献1には、0.5?10体積%の酸化ジルコニウム粉末を含有しているブレーキライニング用摩擦材組成物が開示され、特許文献2には充填剤の少なくとも1種に酸化ジルコニウムを含ませた非石綿系摩擦材が開示されている。さらに、高温での摩擦特性を向上させる研削材として、安定化ジルコニアがあり、例えば、特許文献3には、酸化ジルコニウムを含有する摩擦材において、前記酸化ジルコニウムが、カルシア(CaO)、イットリア(Y_(2)O_(3))及びマグネシア(MgO)のうち1種で安定化された安定化酸化ジルコニウムであるものが、また特許文献4には、全組成物中にモース硬度が7以上で、平均粒径が0.2?70μmの部分安定化又は安定化酸化ジルコニウムを1?20重量%含有してなる摩擦材組成物が開示されている。前者には、安定化ジルコニアの使用により、単斜晶のジルコニアを使用することで引き起こされる摩耗量の増加を防ぐことができることが開示され、後者では、グー音と呼ばれる異音を防止できることが開示されている。いずれも、単斜晶のジルコニアが高温(800?1200℃)で単斜晶から正方晶へ転移することに起因する問題を、高温で相転移がなく立方晶を維持する安定化ジルコニアを使用する事により解決している。」
(エ-4)「【0023】
安定化ジルコニアの格子定数を安定化ジルコニア単結晶の格子定数に対して99.95?99.97%の大きさにするには、種々の方法があるが、例えば粉砕が挙げられる。一般に、結晶は粉砕等の過程において、歪みが入り、格子定数が小さくなることが知られている。安定化ジルコニアも粉砕により格子定数を小さくすることができる。なお、上記以外の方法であっても、格子定数が安定化ジルコニア単結晶に比べて99.95?99.97%に出来る方法であれば本発明に使用できる。安定化ジルコニアの粒子形状は、実施例に示したように本発明の目的とする摩擦特性、すなわち初期の摩擦係数の安定性には、安定化ジルコニウム粒径、形状に依存しないことが判明している。しかしながら、他の摩擦特性、例えば耐摩耗性や、本発明の目的である初期の摩擦係数の安定性だけでなく、その後の平均摩擦係数も考慮すると、平均粒径は数μm?数10μm、形状は表面積/体積のできるだけ大きい鋭角状のものが好ましい。」
(エ-5)「【0026】
研削成分以外の成分は従来と同様でもよく、結合材としては、例えばフェノール樹脂又はメラミン樹脂をベースとした樹脂、或いはそれらの変性品が使用できる。」

(5)甲5について
甲5の3?4頁には、NAOブレーキパッド用の結合剤として、アクリルゴム変性フェノール樹脂(MILEX RN)、シリコ一ンゴム変性フェノール樹脂(MILEX RS)が記載されている。

5.甲1に記載された発明(甲1発明)の認定
(1)(ア-2)の[0009]から、甲1には、不規則な方向に複数の突起が延びる形状のチタン酸カリウムが記載されていることがわかる。
(2)(ア-3)の[0026]から、甲1には、該チタン酸カリウムを1?80重量%含有する摩擦材が記載されていることがわかる。
(3)(ア-8)の[0100]、(ア-9)の[0101]から、該摩擦材は、金属繊維および銅成分を含有しないことがわかる。
(4)(ア-7)の[0032]から、該摩擦材は、研削剤を含んでいてもよいことがわかる。
(5)(ア-6)の[0029]から、該摩擦材は、結合材としては摩擦材分野において常用されるものをいずれも使用できることがわかる。
(6)以上のことから、甲1には、
「金属繊維および銅成分を含有しない摩擦材であって、
不規則な方向に複数の突起が延びる形状を有するチタン酸カリウムを1?80重量%含有し、
研削材及び結合材を含有する摩擦材。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

6.対比・判断
(1)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明の「金属繊維および銅成分を含有しない」構成は、本件特許発明1の「金属繊維および銅成分を含有しない」に相当する。
イ 甲1発明のチタン酸カリウムの「不規則な方向に複数の突起が延びる形状」は、本件特許発明1の「複数の凸部形状を有する形状」に相当する。
ウ 本件特許発明1の「エラストマー変性フェノール樹脂」は、本件特許明細書の【0031】の「結合材」に関する記載からみて、結合材として用いられたものであるから、甲1発明の「研削材及び結合材を含有する」構成は、本件特許発明1の「モース硬度7以上の研削材を3?10体積%、およびエラストマー変性フェノール樹脂を10?30体積%含有する」構成と、研削材、および結合剤を含有する点で共通する。
エ そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、
「金属繊維および銅成分を含有しない摩擦材であって、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウム、研削材、および結合材を含有する摩擦材。」である点で一致し、次の相違点1?で相違する

(相違点1)
チタン酸カリウムの配合量について、本件特許発明1は、10?35体積%であるのに対し、甲1発明は、1?80重量%である点。
(相違点2)
研削材の硬度と配合量について、本件特許発明1は、モース硬度7以上であって、配合量が3?10体積%であるのに対し、甲1発明の研削材の硬度と配合量は不明な点。
(相違点3)
結合剤の成分と配合量について、本件特許発明1は、成分がエラストマー変性フェノール樹脂であって、配合量が10?30体積%であるのに対し、甲1発明の結合剤の成分と配合量は不明な点。

(2)相違点についての検討
事案に鑑み、まず、相違点2、3について検討する。
(相違点2について)
甲3の、摩擦材における摩擦調整剤としてモース硬度が7以上のアブレーシブを用いること、含有量を1体積%?30体積%とすることが記載され、甲4には、摩擦材の摩擦係数を確保するための研削材としてアルミナ等のモース硬さが7以上の材料が使用されていることが記載されており、甲3、4から、摩擦材に配合される摩擦調整剤としての研削材は、必要に応じて所望のものを選択するものであることがいえたとしても、甲1発明において、どのような硬度の研削材をどの程度配合すれば、摩擦材としての機能が向上するのかは、明らかではない。
また、甲1発明の目的は、「新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有するチタン酸カリウム及びその製造方法並びに該チタン酸カリウムを含有する摩擦材及び樹脂組成物を提供することにある」((ア-1)の[0006])のであるから、特定の特性を有する研削材を含有させることは想定されていない。
そうすると、甲1発明に、甲3、甲4に記載された研削材を採用する、動機付けは見出すことができない。

また、本件特許明細書の【0042】に「実施例1の摩擦材Aと比較例6の摩擦材Qを比較すると、モース硬度が7未満の研削材(酸化鉄:Fe_(3)O_(4))を単体で用いると、安定した摩擦特性が得られず、耐摩耗性や相手材攻撃性も芳しくないものとなることが分かる。研削材に用いる材料は安定化ジルコニア、ケイ酸ジルコニウム、アルミナなどの、モース硬度が7以上の材料を含むことが必要であることが分かった。」と記載されるように、研削材のモース硬度を特定のものとすることで、安定した摩擦特性が得られ、耐摩耗性や相手材攻撃性が良好のものとなるといえることから、本件特許発明1は、上記相違点2に係る研削材を採用したことにより、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

以上のことから、本件特許発明1の上記相違点2に係る発明特定事項は、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

(相違点3について)
結合材として、甲2には、アクリルエラストマー分散フェノール樹脂が示され、甲3には、ゴム変性フェノール樹脂が例示されており、摩擦材の製造にあたり結合材の含有量の最適範囲を求めることは当業者が通常行うことだとしても、甲1発明において、どのような組成の結合材を、どの程度配合すれば、摩擦材としての機能が向上するのかは、明らかではない。
また、甲1発明の目的は、「新規な形状を有し、摩擦材における優れた耐摩耗性や、樹脂組成物における優れた補強性能を有するチタン酸カリウム及びその製造方法並びに該チタン酸カリウムを含有する摩擦材及び樹脂組成物を提供することにある」((ア-1)の[0006])のであるから、特定の組成を有する結合材を含有させることは想定されていない。
そうすると、甲1発明に、甲2、甲3に記載された結合材を採用する、動機付けは見出すことができない。

また、本件特許明細書の【0041】に「銅成分および金属繊維を含まない摩擦材として、結合材をストレートフェノール樹脂ではなくアクリルゴム変性フェノール樹脂やシリコーンゴム変性フェノール樹脂などのエラストマー変性フェノール樹脂を用いることによって、基準となる従来の摩擦材Mと同等の性能を有する摩擦材を得られることが分かった。しかしながら、結合材を変化させただけでは、安定した摩擦特性や、優れた耐摩耗性や相手材攻撃性は得られない(比較例5:摩擦材Pおよび比較例6:摩擦材Q)。
そこで実施例1の摩擦材Aと比較例5の摩擦材Pを比較すると、充填材中に含まれるチタン酸カリウムを板状ではなく、複数の凸部形状を有するチタン酸カリウムを用いることで、摩擦特性や耐摩耗性、相手材攻撃性に優れた摩擦材が得られるようになる。」と記載されるように、本件特許発明1では、特定の組成の結合材を複数の凸部形状を有するチタン酸カリウムと共に用いることで、摩擦特性や耐摩耗性、相手材攻撃性を良好としたものであるから、本件特許発明1は、単に、結合材に、エラストマー変性フェノール樹脂を用いただけのものとはいえず、上記相違点3に係る結合材を採用したことにより、格別顕著な作用効果を奏するものと認められる。

以上のことから、本件特許発明1の上記相違点3に係る発明特定事項は、当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。

(まとめ)
上記相違点1について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1?甲5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、ということはできない。

(3)本件特許発明2?3は、本件特許発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件特許発明1と同様な理由から、甲1?甲5に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない、ということはできない。

7.むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1?3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1?3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2017-05-08 
出願番号 特願2012-280239(P2012-280239)
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C09K)
最終処分 維持  
前審関与審査官 上條 のぶよ  
特許庁審判長 冨士 良宏
特許庁審判官 川端 修
日比野 隆治
登録日 2016-08-05 
登録番号 特許第5981839号(P5981839)
権利者 曙ブレーキ工業株式会社
発明の名称 摩擦材  
代理人 本多 弘徳  
代理人 濱田 百合子  
代理人 特許業務法人栄光特許事務所  
代理人 市川 利光  

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