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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 取り消して特許、登録 A47C
管理番号 1328119
審判番号 不服2016-15421  
総通号数 211 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2017-07-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2016-10-14 
確定日 2017-05-10 
事件の表示 特願2016- 25371「S字体形保持椅子」拒絶査定不服審判事件〔請求項の数(1)〕について、次のとおり審決する。 
結論 原査定を取り消す。 本願の発明は、特許すべきものとする。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成28年2月12日の出願であって、同年4月26日付けで拒絶理由が通知され、同年6月29日付けで手続補正がされ、同年7月12日付けで拒絶査定(以下、「原査定」という)がされ(同査定の謄本の送達(発送)日 同年同月19日)、これに対し、同年10月14日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正がされ、その後、当審において同年12月20日付けで拒絶理由(以下、「当審拒絶理由」という)が通知され、平成29年2月20日付けで手続補正がされたものである。

第2 本願発明

本願の請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、平成29年2月20日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される以下のものと認められる。

「【請求項1】
ユーザーの臀部及び大腿部が載置される座面部であって、平面視において自ら(座面部)の中の後記脊椎支持部よりも後方側の後臀載置領域であってユーザーの臀部の後部が載置可能な幅を有する後臀載置領域を含む座面部と、
前記座面部のユーザーから見て後方の部分から上方に延びるように配置された背凭れ部と、
前記背凭れ部に備えられ、「ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分であって、脊椎が側面視でS字形状となっているとき前方に向かって湾曲する部分」を前方向に支持する脊椎支持部と、
前記背凭れ部と前記座面部の後臀載置領域との間に形成された「ユーザーの臀部の後部が載置可能な幅と高さを有する凹部」であって、ユーザーの臀部の後部が当該凹部内に挿入されて前記後臀載置領域上に配置されることを可能とし、これにより、ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分が前記脊椎支持部により前方向に支持されることと相俟って、ユーザーに対しS字体形を保持させるように作用する凹部と、
前記背凭れ部に対して取り付け及び取り外し可能な柔軟部材であって、前記背凭れ部の凹部を塞ぐ形状を有しており、前記凹部を塞ぐように配置されたとき、ユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接されることにより、前記座面部に座っているユーザーの臀部の位置を、「当該柔軟部材が前記凹部を塞いでいないときの前記凹部の内部の位置」から、「前記凹部の外側の位置、すなわちユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接する位置」に変更させる柔軟部材と、
を備えたS字体形保持椅子。」

第3 原査定の理由について

1.原査定の理由の概要

この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1
・刊行物 1ないし3

・請求項 2
・刊行物 1、2及び4

刊行物1.特開平10-146241号公報
刊行物2.特開2001-353041号公報
刊行物3.特開2009-293662号公報
刊行物4.登録実用新案第3190627号公報

2.原査定の理由の判断

(1)引用例

ア.原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開平10-146241号公報(以下「引用例1」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている(下線は審決で付した。以下同じ。)。

(ア)「【0016】図1および図2において、1は本発明の椅子で、この椅子1は、臀部を下方から支える座部2と、腰部を背後から支える背もたれ3とを備えたものである。上記座部2の後ろには背柱6が立設され、この背柱6の上部に、前方に突き出るように湾曲した背もたれ3が設けられている。上記座部2は、背柱6の後ろに取り付けられた一種のエアシリンダ5(後述)を操作することにより、座部2の前寄りに設けられたピン21を支点にして前方下方に傾斜させることができる。この座部2の前後方向の長さは、前端が大腿部までかからないようにやや短めとする。また、上記背もたれ3は、骨盤の直ぐ上の腰部に当たる高さに設ける。」

上記の記載事項からみて、引用例1には、次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。

「臀部を下方から支える座部2と、腰部を背後から支える背もたれ3とを備え、
上記座部2の後ろには背柱6が立設され、この背柱6の上部に、前方に突き出るように湾曲した背もたれ3が設けられ、
この座部2の前後方向の長さは、前端が大腿部までかからないようにやや短めとし、
上記背もたれ3は、骨盤の直ぐ上の腰部に当たる高さに設ける
椅子1。」

イ.同じく原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2001-353041号公報(以下「引用例2」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(イ)「【0004】
【課題を解決するための手段】本発明のシートバック用背当ては、中間上方部がやや凹むと共に中間下方部がやや凸状となった脊椎のS字ラインに倣った形状を有すると共に、背面部に補強リブを備え、しかも、ほぼ全面に亘って多数の開口を開設していることを特徴とする。」

(ウ)「【0009】特に、図3(B)に示すように、着座者の衣服Wが背当て2の上記開口2e内に食い込んで、該開口2eの下側部分2fに体重が懸かることになる。従って、このような多数の開口2eを有する背当て2面と着座者の背部の間に大きな摩擦が生じ、その結果、上記凹状部2a(X?Y点間)において着座者の頭部と上半身の体重を支え、胸椎Sおよび腰椎Kに掛かる体重の負担を軽減するようになっている。また、上記凸状部2b(Y?Z点間)において、上記胸椎Sが一層自然体に近いS字型となるように支えて、腰椎Kの負担を軽減し、長時間の運転にも疲労が少なくなるようにしている。」

上記の記載事項を総合すると、引用例2には、次の発明(以下、「引用発明2」という。)が記載されているものと認められる。

「中間上方部がやや凹むと共に中間下方部がやや凸状となった脊椎のS字ラインに倣った形状を有し、
凸状部2bにおいて、胸椎Sが一層自然体に近いS字型となるように支える
シートバック用背当て。」

ウ.同じく原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である特開2009-293662号公報(以下「引用例3」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(エ)「【0021】
まず図1?4に示す椅子1の実施例では、フレーム要素Fたる椅子フレーム11を例えば所定の強度が得られる金属パイプを曲成ないしは分岐状に溶接して構成する。即ち、椅子フレーム11は、前後一対の脚部12と、その間を上方でほぼ水平に連結する座板支持部13と、更に座板支持部13のやや後方から斜め上方に立ち上がるように例えば溶接接続した同様の金属丸パイプを用いた背もたれ支持部14を具えてなり、この椅子フレーム11が左右一対に組み合わされて椅子1の完成状態を得る。」

(オ)「【0023】
このようなフレーム要素Fたる椅子フレーム11と、ユーティリティ要素Uたる座板15と背もたれ板16とを一体化する連結要素Jとして、ジョイントロッド17が用いられる。」

(カ)「【0026】
このような椅子1の組み付け状態について更に説明すると、椅子フレーム11の各々は自立性はないものの、これらを対向的に立ち上げた状態でこれらの間に、座板15と、背もたれ板16とを嵌め込むようにする。」

(キ)図1及び2からは、ジョイントロッド17と座板15との間に開口がある点を看取することができる。

上記の記載事項を総合すると、引用例3には、次の発明(以下、「引用発明3」という。)が記載されているものと認められる。

「椅子フレーム11は、座板支持部13のやや後方から斜め上方に立ち上がる背もたれ支持部14を具え、
椅子フレーム11が左右一対に組み合わされ、
椅子フレーム11を対向的に立ち上げた状態でこれらの間に、座板15と、背もたれ板16とを嵌め込み、
椅子フレーム11と座板15と背もたれ板16とを一体化する連結要素Jとして、ジョイントロッド17が用いられ、
ジョイントロッド17と座板15との間に開口がある
椅子1。」

エ.同じく原査定に係る拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である登録実用新案第3190627号公報(以下「引用例4」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ク)「【0013】
以下、図面に基づいて本考案の実施例を詳細に説明する。図1、図2に示す椅子1は、座席部2と、この座席部2を支持する4本の脚部3と、座席部2の後方端から立設された背もたれ4と、肘掛け5とを有している。座席部2は略四角形に形成され、上面には、内部にウレタンフォームやウレタンチップなどのクッション材を収納し、表面に布やレザー或いは樹脂シート等の上張で被覆されたクッション構造としている。また、背もたれ4も座席部2と同様のクッション構造としている。
【0014】
そして、背もたれ4の横幅方向の中央には、上下方向に延びる縦長の背骨回避凹所4aが形成されている。この背骨回避凹所4aは、着座者6の背骨に対応する位置に形成され、幅は背骨の幅よりも広くしている。また、背骨回避凹所4aは、上部が背もたれ4の上端に達しない寸法に短く形成され、これにより、背もたれ4の上端側が連通することから、背骨回避凹所4aによって背もたれ4を分断させることなく、椅子としての強度を確保して耐久性を保持させている。このような背骨回避凹所4aの下部は、座席部2の後部まで達している。なお、図1、図2に示す背骨回避凹所4aは、クッションを貫通するように形成し、背もたれ4の裏板(図示しない)によって裏面側を閉塞させて凹所条に形成している。」

(ケ)「【0016】
背もたれ4の横幅方向の中央に形成された縦長の背骨回避凹所4aと、座席部2の横幅方向の中央に形成された長方形の尾骨回避凹所2aには、各々凹所用クッション体7、8が着脱可能に埋設される。
【0017】
背骨回避凹所4aに埋設される凹所用クッション体7は、背骨回避凹所4aの形状、すなわち縦方向の長さ、幅、及び、深さがほぼ等しいかやや大きい寸法に形成されている。凹所用クッション体7の内部には、背もたれ4と同様に、ウレタンフォームやウレタンチップなどのクッション材が収納され、表面には布やレザー或いは樹脂シート等の上張で被覆されたクッション構造としている。そして、凹所用クッション体7は、背骨回避凹所4aに軽圧入状態で埋設することにより、凹所用クッション体7の上面が背もたれ4の表面とほぼ平坦となる。凹所用クッション体7の一端側には、埋設した凹所用クッション体7を引き抜くための取っ手部7aが取り付けられている。」

(コ)「【0020】
次に、図5により、背もたれ4の骨回避凹所4a、及び、座席部2の尾骨回避凹所2aを形成した椅子1の作用について説明する。図5に示すように、着座者6が椅子1の座席部2に深く腰掛けて、足と胴との角度θ1がほぼ直角の状態では、着座者6の背が背もたれ4に当接する。このとき、背もたれ4の横幅方向の中央に、上下方向に延びる縦長の背骨回避凹所4aが形成され、この背骨回避凹所4aが着座者6の背骨に対応する位置に形成されているので、着座者6の背骨6aが背骨回避凹所4aに入り込み、背骨6aに対する圧接が回避される。これにより、疲労感や痛み感を減少させることができる。」

(サ)「【0022】
また、着座者6が健常者等であって、背もたれ4の背骨回避凹所4a、及び、座席部2の尾骨回避凹所2aが不要な場合には、図1乃至図4に示すように、凹所用クッション体7、8を背骨回避凹所4aと尾骨回避凹所2aに各々埋設する。すなわち、図1における矢示のように、背もたれ4の背骨回避凹所4aに凹所用クッション体7を背もたれ4の表面とほぼ平坦になるまで埋設する。」

上記の記載事項を総合すると、引用例4には、次の発明(以下、「引用発明4」という。)が記載されているものと認められる。

「座席部2と、座席部2の後方端から立設された背もたれ4とを有し、
背もたれ4の横幅方向の中央には、上下方向に延びる縦長の背骨回避凹所4aが形成され、
背骨回避凹所4aの下部は、座席部2の後部まで達しており、
背骨回避凹所4aには、凹所用クッション体7が着脱可能に埋設され、
背骨回避凹所4aに埋設される凹所用クッション体7は、背骨回避凹所4aの形状、すなわち縦方向の長さ、幅、及び、深さがほぼ等しいかやや大きい寸法に形成され、
凹所用クッション体7の内部には、ウレタンフォームやウレタンチップなどのクッション材が収納されたクッション構造としており、
凹所用クッション体7は、背骨回避凹所4aに軽圧入状態で埋設することにより、凹所用クッション体7の上面が背もたれ4の表面とほぼ平坦となり、
着座者6の背骨6aが背骨回避凹所4aに入り込み、背骨6aに対する圧接が回避され、これにより、疲労感や痛み感を減少させることができ、
着座者6が背もたれ4の背骨回避凹所4aが不要な場合には、凹所用クッション体7を背骨回避凹所4aに埋設する
椅子1。」

(2)対比

本願発明と引用発明1とを対比する。

後者の「座部2」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「座面部」に相当する。後者においては、座部2の前後方向の長さは、前端が大腿部までかからないようにやや短めとしているから、「座部2」には臀部が載置され、大腿部が載置されないといえる。そうすると、両者は「ユーザーの臀部が載置される座面部」との概念で共通する。

後者の「背柱6」は座部2の後ろに立設され、「背もたれ3」は背柱6の上部に設けられるから、後者の「背柱6」及び「背もたれ3」は、前者の「座面部のユーザーから見て後方の部分から上方に延びるように配置された背凭れ部」に相当する。

後者の「背もたれ3」は、腰部を背後から支え、前方に突き出るように湾曲し、骨盤の直ぐ上の腰部に当たる高さに設けるものであるところ、人体の骨盤の直ぐ上の腰部が「脊椎中の臀部の上方部分であって、脊椎が側面視でS字形状となっているとき前方に向かって湾曲する部分」であることは明らかである。そうすると、後者の「背もたれ3」は、前者の「背凭れ部に備えられ、「ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分であって、脊椎が側面視でS字形状となっているとき前方に向かって湾曲する部分」を前方向に支持する脊椎支持部」に相当する。

したがって、両者は、

「ユーザーの臀部が載置される座面部と、
前記座面部のユーザーから見て後方の部分から上方に延びるように配置された背凭れ部と、
前記背凭れ部に備えられ、「ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分であって、脊椎が側面視でS字形状となっているとき前方に向かって湾曲する部分」を前方向に支持する脊椎支持部と、
を備えた椅子。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
前者の座面部が「ユーザーの大腿部が載置され」、「平面視において自ら(座面部)の中の後記脊椎支持部よりも後方側の後臀載置領域であってユーザーの臀部の後部が載置可能な幅を有する後臀載置領域を含む」のに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点2]
前者が、「背凭れ部と座面部の後臀載置領域との間に形成された「ユーザーの臀部の後部が載置可能な幅と高さを有する凹部」であって、ユーザーの臀部の後部が当該凹部内に挿入されて前記後臀載置領域上に配置されることを可能とし、これにより、ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分が脊椎支持部により前方向に支持されることと相俟って、ユーザーに対しS字体形を保持させるように作用する凹部」を備えるのに対して、後者はそのようなものでない点。

[相違点3]
前者が、「背凭れ部に対して取り付け及び取り外し可能な柔軟部材であって、前記背凭れ部の凹部を塞ぐ形状を有しており、前記凹部を塞ぐように配置されたとき、ユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接されることにより、座面部に座っているユーザーの臀部の位置を、「当該柔軟部材が前記凹部を塞いでいないときの前記凹部の内部の位置」から、「前記凹部の外側の位置、すなわちユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接する位置」に変更させる柔軟部材」を備えるのに対して、後者はそのようなものでない点。

(3)判断

上記相違点3について検討する。

引用発明4の「背もたれ4」は、その構造、機能、作用等からみて、本願発明の「背凭れ部」に相当する。
引用発明4の「凹所用クッション体7」は、背もたれ4の横幅方向の中央に形成された縦長の背骨回避凹所4aに着脱可能に埋設されるから、背もたれ4に対して取り付け及び取り外し可能である。また、凹所用クッション体7の内部には、ウレタンフォームやウレタンチップなどのクッション材が収納されたクッション構造としているのだから、柔軟部材であるといえる。また、背骨回避凹所4aの形状、すなわち縦方向の長さ、幅、及び、深さがほぼ等しいかやや大きい寸法に形成され、背骨回避凹所4aに軽圧入状態で埋設することにより、上面が背もたれ4の表面とほぼ平坦となるから、背骨回避凹所4aを塞ぐ形状をしているといえる。
そうすると、本願発明と引用発明4とは、背凭れ部に対して取り付け及び取り外し可能な柔軟部材であって、前記背凭れ部の凹部を塞ぐ形状を有する柔軟部材を備えた椅子との概念で共通する。
しかしながら、引用発明4の「凹所用クッション体7」(「柔軟部材」)は、着座者6の背骨6aが背骨回避凹所4aに入り込み、背骨6aに対する圧接が回避され、これにより、疲労感や痛み感を減少させることができる一方、着座者6が、背もたれ4の背骨回避凹所4aが不要な場合には、凹所用クッション体7を背骨回避凹所4aに埋設するのであって、凹所用クッション体7の着脱により身体の部位の位置を変更させるものではない。
そうすると、引用発明4は、柔軟部材が凹部を塞ぐように配置されたとき、座面部に座っているユーザーの臀部の位置を、「当該柔軟部材が前記凹部を塞いでいないときの前記凹部の内部の位置」から、「前記凹部の外側の位置、すなわちユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接する位置」に変更させるものではないから、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を備えるものではない。

また、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そして、本願発明は、上記相違点3に係る本願発明の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「前記下側クッション部13bを前記上側クッション部13aの下側に配置することにより、前記凹部A’が塞がれた状態(図3(a)に示す状態)とし、従来と同様の形態のソファーとして利用することもできるので、ユーザーにとって利便性が高まるメリットがある。」(段落【0017】。ここでいう「下側クッション部13b」は、本願発明の「柔軟部材」に対応する。)という作用効果を奏するものである。

また、引用発明2及び3は、それぞれ上記(1)のイ.及びウ.の通りであって、そもそも柔軟部材を備えるものではない。

したがって、本願発明は、当業者が引用発明1ないし4に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ

以上のとおりであるから、本願については、原査定の拒絶理由を検討してもその理由によって拒絶すべきものとすることはできない。

第4 当審拒絶理由について

1.当審拒絶理由の概要

当審拒絶理由の概要は以下のとおりである。

理由A.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。



・請求項 1
・刊行物 A

理由B.この出願の下記の請求項に係る発明は、その出願前日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。



・請求項 1
・刊行物 A

・請求項 2
・刊行物 A及びB

刊行物A.実願昭50-31871号(実開昭51-112707号)のマイクロフィルム
刊行物B.登録実用新案第3190627号公報(原査定に係る拒絶理由で引用された刊行物4と同じ文献)

2.当審拒絶理由の判断

(1)引用例

ア.当審拒絶理由で引用された、本願の出願日前に頒布された刊行物である実願昭50-31871号(実開昭51-112707号)のマイクロフィルム(以下「引用例A」という。)には、図面とともに以下の事項が記載されている。

(ア)「即ち本考案のヘルスチエアは浅い凹状の背受部(1)及び高い凸状の腰椎受部(2)とからなる背もたれ(3)と該背もたれの腰椎受部(2)の下方に設けられた坐部(4)とから構成されるものである。本考案のヘルスチエアは腰椎の中心部を腰椎受部で支え、脊椎を軽S字型に保持するので、その材質は軟質ウレタンフオーム等の柔軟な素材で造つても効果はなく、材質的には硬質ウレタンフオーム、半硬質ウレタンフオーム、ポリスチレンフオーム等の硬質又は半硬質の発泡体の他、未発泡硬質合成樹脂や鋼材、木材等が適している。又脊椎を軽S字型に保つためには、背もたれ(3)の腰椎受部(2)の直下に臀部を収納する凹状の臀部受部(5)を設けるのが好ましい。」(第3ページ第19行?第4ページ第11行)

(イ)第2図からは、坐部(4)に臀部及び大腿部が載置される点、坐部(4)が腰椎受部(2)よりも後方まで延び、腰椎受部(2)よりも後方の部分に臀部が載置される点、及び、背もたれ(3)が坐部(4)の後方の部分から上方に延びる点を看取することができる。

上記の記載事項を総合すると、引用例Aには、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されているものと認められる。

「浅い凹状の背受部(1)及び高い凸状の腰椎受部(2)とからなる背もたれ(3)と該背もたれの腰椎受部(2)の下方に設けられた坐部(4)とから構成され、
腰椎の中心部を腰椎受部で支え、脊椎を軽S字型に保持し、
脊椎を軽S字型に保つために、背もたれ(3)の腰椎受部(2)の直下に臀部を収納する凹状の臀部受部(5)を設け、
坐部(4)に臀部及び大腿部が載置され、
坐部(4)が腰椎受部(2)よりも後方まで延び、腰椎受部(2)よりも後方の部分に臀部が載置され、
背もたれ(3)が坐部(4)の後方の部分から上方に延びる
ヘルスチエア。」

イ.当審拒絶理由で引用された刊行物Bは、原査定に係る拒絶理由で引用された刊行物4と同じ文献であって、上記第3の2.(1)(エ)に示した引用発明4が記載されている。

(2)対比

本願発明と引用発明Aとを対比する。

後者の「ヘルスチエア」は、脊髄を軽S字型に保持するから、前者の「S字体形保持椅子」に相当する。また、後者の「坐部(4)」は、その構造、機能、作用等からみて、前者の「座面部」に相当し、同様に「背もたれ(3)」は「背凭れ部」に相当する。

後者の「坐部(4)」に「臀部及び大腿部が載置され」る点は、前者の「座面部」に「ユーザーの臀部及び大腿部が載置される」点に相当する。

後者の「坐部(4)」は腰椎受部(2)よりも後方まで延びているところ、当該腰椎受部(2)よりも後方の部分は、前者の「平面視において自ら(座面部)の中の後記脊椎支持部よりも後方側の後臀載置領域」に相当する。また、この後方の部分は、臀部が載置されるのだから、「ユーザーの臀部の後部が載置可能な幅を有する」ことは明らかである。

後者の「背もたれ(3)」が「坐部(4)の後方の部分から上方に延びる」点は、前者の「背凭れ部」が「座面部のユーザーから見て後方の部分から上方に延びるように配置された」点に相当する。

後者の「腰椎受部(2)」は、背もたれ(3)の一部であって、腰椎の中心部を支え、脊椎を軽S字型に保持するものである。また、腰椎が脊椎中の臀部の上方部分であって、前方に向かって湾曲していることは自明である。そうすると、後者の「腰椎受部(2)」は、前者の「背凭れ部に備えられ、「ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分であって、脊椎が側面視でS字形状となっているとき前方に向かって湾曲する部分」を前方向に支持する脊椎支持部」に相当し、また、「腰椎受部(2)」によって「ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分が」「前方向に支持される」ものであるといえる。

後者の「臀部受部(5)」は、背もたれ(3)の腰椎受部(2)の直下に設けられ、臀部を収納する凹状のものであり、脊椎を軽S字型に保つために設けられるものであるから、上述の「後臀載置領域」についての検討も踏まえると、前者の「背凭れ部と前記座面部の後臀載置領域との間に形成された「ユーザーの臀部の後部が載置可能な幅と高さを有する凹部」」であって、「ユーザーの臀部の後部が当該凹部内に挿入されて前記後臀載置領域上に配置されることを可能とし、これにより、ユーザーに対しS字体形を保持させるように作用する凹部」に相当する。

したがって、両者は、

「ユーザーの臀部及び大腿部が載置される座面部であって、平面視において自ら(座面部)の中の後記脊椎支持部よりも後方側の後臀載置領域であってユーザーの臀部の後部が載置可能な幅を有する後臀載置領域を含む座面部と、
前記座面部のユーザーから見て後方の部分から上方に延びるように配置された背凭れ部と、
前記背凭れ部に備えられ、「ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分であって、脊椎が側面視でS字形状となっているとき前方に向かって湾曲する部分」を前方向に支持する脊椎支持部と、
前記背凭れ部と前記座面部の後臀載置領域との間に形成された「ユーザーの臀部の後部が載置可能な幅と高さを有する凹部」であって、ユーザーの臀部の後部が当該凹部内に挿入されて前記後臀載置領域上に配置されることを可能とし、これにより、ユーザーの脊椎中の臀部の上方部分が前記脊椎支持部により前方向に支持されることと相俟って、ユーザーに対しS字体形を保持させるように作用する凹部と、
を備えたS字体形保持椅子。」

の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点A]
前者が、「背凭れ部に対して取り付け及び取り外し可能な柔軟部材であって、前記背凭れ部の凹部を塞ぐ形状を有しており、前記凹部を塞ぐように配置されたとき、ユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接されることにより、座面部に座っているユーザーの臀部の位置を、「当該柔軟部材が前記凹部を塞いでいないときの前記凹部の内部の位置」から、「前記凹部の外側の位置、すなわちユーザーの臀部が当該柔軟部材の前方部分に当接する位置」に変更させる柔軟部材」を備えるのに対して、後者はそのようなものでない点。

(3)判断

ア.理由1について

本願発明と引用発明Aとは、上記相違点Aにおいて相違するから、本願発明は引用例Aに記載された発明であるとはいえない。

イ.理由2について

上記相違点Aは第3の2.(2)の相違点3と同様である。また、刊行物Bは原査定に係る拒絶理由の刊行物4と同じ文献であって、第3の2.(1)(エ)に示した引用発明4が記載されている。そして、相違点3については第3の2.(3)のとおりであるから、刊行物Bに記載された発明は相違点Aに係る本願発明の発明特定事項を備えるものではない。

また、上記相違点Aに係る本願発明の発明特定事項が、当業者にとって設計事項であるとする根拠もない。

そうすると、引用発明Aに刊行物Bに記載された発明を適用したとしても、上記相違点Aに係る本願発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到できたことではない。

そして、本願発明は、上記相違点Aに係る本願発明の発明特定事項を具備することにより、本願明細書に記載の「前記下側クッション部13bを前記上側クッション部13aの下側に配置することにより、前記凹部A’が塞がれた状態(図3(a)に示す状態)とし、従来と同様の形態のソファーとして利用することもできるので、ユーザーにとって利便性が高まるメリットがある。」(段落【0017】。ここでいう「下側クッション部13b」は、本願発明の「柔軟部材」に対応する。)という作用効果を奏するものである。

したがって、本願発明は、当業者が引用発明A及び刊行物Bに記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたとはいえない。

(4)まとめ

上記(1)ないし(3)で検討したとおりであるから、もはや、当審拒絶理由によっては、本願を拒絶することはできない。

第5 むすび

以上のとおり、当審拒絶理由、及び、原査定の理由によっては、本願を拒絶することはできない。

また、他に本願を拒絶すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2017-04-10 
出願番号 特願2016-25371(P2016-25371)
審決分類 P 1 8・ 121- WY (A47C)
最終処分 成立  
前審関与審査官 井出 和水  
特許庁審判長 黒瀬 雅一
特許庁審判官 藤本 義仁
森次 顕
登録日 2017-05-26 
登録番号 特許第6146937号(P6146937)
発明の名称 S字体形保持椅子  
代理人 鯨田 雅信  

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